【実施例】
【0018】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面は車両の車体構造を示すが、以下の実施例においては、車両の車体構造をフロント側に適用した車両の前部車体構造について説明する。
図1は車両の前部車体構造を示す平面図、
図2は
図1から冷却ユニットを取外した状態の斜視図、
図3は
図2の平面図である。なお、図中、矢印Fは車両の前方を示す。
図1〜
図3において、エンジンルーム1の左右両サイドにおいて車両の前後方向に延びるフロントサイドフレーム2,2を設けている。
【0019】
このフロントサイドフレーム2は、車両の前後方向に延びる閉断面を備えた車体強度部材であって、該フロントサイドフレーム2の前端部は、車両正面視で中空十文字形状に形成されている。
フロントサイドフレーム2の前端には、該フロントサイドフレーム2側のブラケット3とクラッシュカン側のブラケット4とを介してクラッシュカン5を取付けている。
【0020】
このクラッシュカン5は、インナパネルとアウタパネルとの2部材を組合せて、フロントサイドフレーム2前端部の中空十文字形状と対応するように、正面視で中空十文字形状に形成されている。
左右のクラッシュカン5,5の前端部相互間には、車幅方向に延びるバンパレイン6を横架すると共に、バンパレイン6のエンジンルーム1側における左右のクラッシュカン5,5の車幅方向内側近傍には、冷却ユニット取付けブラケット7,7を連結固定し、左右一対の冷却ユニット取付けブラケット7,7を用いて、エンジンルーム1の前方、詳しくは、該エンジンルーム1に搭載されるエンジンまたはパワートレインの前方に冷却ユニット8を取付けている。
【0021】
図1に示すように、バンパレイン6の車幅方向中間部と冷却ユニット8の車幅方向中間部との間には隙間9が形成されている。なお、上述の冷却ユニット8は、ラジエータ、クーリングファン、ファンカウリング等を備えている。
【0022】
図4の(a)は
図3のA−A線矢視断面図、
図4の(b)は
図3のB−B線矢視断面図であって、
図4に示すように、上述のバンパレイン6は、断面ハット形状のパネル部材としてのバンパビーム10と、略平板状のパネル部材としてのクロージングプレート11とを有し、バンパビーム10にクロージングプレート11を接合固定して、車幅方向に延びる閉断面12を形成し、クロージングプレートが反車室側(つまり車両前側)となるように配置されている。
要するに、上述のバンパレイン6はバンパビーム10とクロージングプレート11とを含む閉断面部材から形成されたものである。
【0023】
図4に示すように、上述のバンパビーム10は、上下方向に互いに間隔を隔てて対向する上面部13と下面部14と、上述の上面部13と下面部14との一方の端部(つまり車室側の端部)を上下方向につなぐ縦壁部15と、上述の上面部13と下面部14との他方の端部(つまり反車室側の端部)から上下方向外側に延びるフランジ部16,17と、を有する断面ハット形状に形成されている。
そして、上述のバンパビーム10の上記上面部13と上記下面部14とには、それぞれ段差部18,19が形成されている。ここで、上述の上面部13に形成された段差部18は前高後低状の後ろ下がりに形成されており、上述の下面部14に形成された段差部19は前低後高状の後ろ上がりに形成されている。
【0024】
また、
図4に示すように、上述の上面部13は、段差部18よりも縦壁部15側の上面部13Bと、段差部18よりも反縦壁部側の上面部13Aとを有し、同様に下面部14は、段差部19よりも縦壁部15側の下面部14Bと、段差部19よりも反縦壁部側の下面部14Aとを有する。
上述の縦壁部側の上面部13Bおよび下面部14Bの水平方向HORに対する角度θ2が、上述の反縦壁部側の上面部13Aおよび下面部14Aの水平方向HORに対する角度θ1よりも大きく設定されている。つまりθ2>θ1の関係式が成立するように形成されている。
換言すれば、反縦壁部側の上下両面部13A,14Aの水平方向HORに対する角度θ1は、縦壁部側の上下両面部13B,14Bの水平方向HORに対する角度θ2よりも小さく設定されている。
【0025】
この実施例では、上記角度θ1を0〜15°とし、クロージングプレート11に対する反縦壁部側の上下両面部13B,14Bの成す角を可及的直角に近づけることで、クロージングプレート11の座屈防止を図るように構成している。
また、上記角度θ2を5°以上に設定し、バンパビーム10を、金型を用いてプレス加工する場合、金型の奥側に位置する縦壁部側の上下両面部13B,14Bの角度を可及的大きくして、金型との摩擦を小さくし、以て、金型の摩耗を防止すべく構成している。
【0026】
この実施例では、
図4の(a)、(b)に示すように反縦壁部側の上面部13Aと下面部14Aとは非平行に形成されており、また、縦壁部側の上面部13Bと下面部14Bも非平行に形成されている。
さらに、
図4に示すように、上述の上側のフランジ部16の上端部には、該フランジ部16上端部から車室側に延びるフランジ延設部20が一体形成されており、同様に、下側のフランジ部17の下端部には、該フランジ部17下端部から車室側に延びるフランジ延設部21が一体形成されていて、これにより、上下の各段差部18,19からフランジ延設部20,21にかけて略コ字形状をそれぞれ一体形成し、以て、衝突荷重に対する曲げ強度の向上を図るように構成している。
【0027】
ここで、上記各要素16,13A間、13A,18間、18,13B間、13B,15間、並びに、17,14A間、14A,19間、19,14B間、14B,15間は、直角ではなく全てアール形状部で一体連接しており、バンパビーム10に座屈の切っ掛け部位が形成されないように構成している。
しかも、
図3,
図4に示すように、上述の段差部18,19のクロージングプレート11からの距離hは、バンパレイン6の車幅方向中央部において最大で、車幅方向中央部から車幅方向外側に遠ざかるに従って漸減するように構成されている。
【0028】
図4に示すように、バンパレイン6の前後方向長さをH、段差部18,19のクロージングプレート11からの距離をhとした時、バンパレイン6の車幅方向中央部におけるh/Hの値を0.2〜0.5、好ましくは、0.3〜0.45に設定している。
また、バンパレイン6に対して冷却ユニット取付けブラケット7およびクラッシュカン5が設けられる該バンパレイン6の車幅方向端部においては、
図3に示すように、段差部18,19を形成しない構造と成している。
【0029】
特に、クラッシュカン5の配置部位におけるバンパレイン6の端部には段差部18,19を有さない構造とすることで、充分な溶接代を確保することができる。すなわち、バンパビーム10とクラッシュカン5とは溶接固定されるが、この部分のバンパビーム10に段差が存在すると、クラッシュカンには段差に対する逃げ部を設ける必要があり、充分な溶接代を確保することが困難となる。
上述のh/Hの設定範囲は試行錯誤の繰返しにより諸種の実験を重ねた結果から導き出されたもので、以下、この点について
図5,
図6を参照して説明する。
【0030】
図5は横軸にh/Hの値をとり、縦軸にh/H=0.4の曲げ強度および重量を「1.0」とした場合の曲げ強度比、重量比をとった特性図である。また、
図6は
図5の内容を数値化して示す説明図である。
実験に際してはh/H=0.0、h/H=0.1、h/H=0.2、h/H=0.3、h/H=0.4、h/H=0.5、h/H=0.6、h/H=0.7、h/H=1.0のそれぞれのバンパレインを形成し、これら各バンパレインの重量実測値からh/H=0.4を「1.0」とした場合の重量比を求めると共に、各バンパレインの曲げ強度実測値からh/H=0.4を「1.0」とした場合の曲げ強度比を求めたものである。
【0031】
曲げ強度については、h/Hが0.2〜0.5の範囲(好ましくは、0.3〜0.45の範囲)で充分高い値となり、h/H=0.4の時に曲げ強度が最大となった。
質量については、h/H=0.4を境界として段差部18,19が縦壁部15側に近づく程(後側寄りになる程)、重くなり、逆に、段差部18,19が反縦壁部側に移行する程(前側寄りになる程)、軽くなることが判明した。
【0032】
つまり、バンパレイン6の車幅方向中央部におけるh/Hの値が0.2よりも過小な場合には、軽量となる反面で、曲げ強度が低下し、h/Hの値が0.5よりも過大な場合には、重量が大となると共に、曲げ強度も低下する。
よって、h/Hの値を0.2〜0.5の範囲内、好ましくは、0.3〜0.45の範囲内に設定することで、バンパレイン6の軽量化と、高い曲げ強度の確保との両立を図ることができた。
【0033】
図7は
図3の矢印C−C線部位の断面図で、実線で示す本実施例品と、仮想線で示す比較例品αとに対して、バンパレイン6からクラッシュカン5への荷重伝達性を比較したものである。
本実施例品においては矢印C−C線部位のh/Hの値を「0」とし、比較例品αにおいてはh/Hの値を「1」として、これら両者に同一条件でバリアを衝突させた場合の断面変形を
図7の(b)に示す。
【0034】
図7の(b)において実線と仮想線との比較から明らかなように、実線で示すh/H=0の本実施例品では、断面変形が小さくクラッシュカン5へ荷重が伝達しやすい。一方、仮想線で示すh/H=1の比較例品では、断面変形が大きくクラッシュカン5へ荷重が伝達しにくい。
つまり、バンパレイン6とクラッシュカン5との結合面部(縦壁部15参照)は、閉断面12の形状が台形状となり、バンパレイン断面が小さいh/H=0の本実施例品の方が、縦壁部15の上下幅W1が比較例品(h/H=1)の上下幅W2(比較例品では、閉断面12の形状が略方形状となる)に対して小さく、結合面部の剛性が高くなるので、クラッシュカン5へ荷重伝達しやすくなる。
【0035】
このことは、上面部13、下面部14の角度が主として角度θ1で形成されるよう段差部18,19を車室寄り(後寄り)に形成する構造に対して、上面部13、下面部14の角度が主として角度θ2で形成されるよう段差部18,19を反車室寄り(前寄り)に形成する構造の方が、バンパレイン6からクラッシュカン5への荷重伝達性が良好であることを意味している。
換言すれば、縦壁部15の上下幅W2,W1を短くしたほうが、バンパレイン6からクラッシュカン5への荷重伝達性が向上する。
上述の段差部18,19のクロージングプレート11からの距離hが、バンパレイン6の車幅方向中央部において最大で、車幅方向中央部から車幅方向外側に遠ざかるに従って漸減する構造は、フロント側の車体構造に適用した本実施例においては、バンパレイン6の車幅方向中央部から車幅方向外側に遠ざかるに従って段差部18,19が次第に前寄りに形成されることを意味しており、これにより、バンパレイン6からクラッシュカン5への荷重伝達性が良好となる。
【0036】
図8は、衝突時にクラッシュカンに伝達される荷重の変化を示す特性図であって、本実施例品(h/H=0)の特性を実線Xで示し、比較例品(h/H=1)の特性を仮想線Yで示す。
図8は、横軸に時間をとり、縦軸には、衝突時にクラッシュカンに伝達される荷重をとっている。
図8から明らかなように、クラッシュカン5の潰れ始め時点toにおいて、h/H=1の比較例品(仮想線Y参照)に対して、h/H=0の本実施例品(実線X参照)の方が、クラッシュカン5に伝達する荷重が△Lだけ大きく、衝突荷重伝達性能に優れていることがわかる。
【0037】
ところで、段差部18,19のクロージングプレート11からの距離hが、バンパレイン6の車幅方向中央部において最大で、車幅方向中央部から車幅方向外側に遠ざかるに従って漸減する構造とした場合、遠ざかる部位の曲げ強度は車幅方向中央部に対して低下するが(
図5,
図6参照)、この点については問題がないことを、
図9を参照して説明する。
【0038】
図9は横軸に車両左側のクラッシュカン5の中心部からの車幅方向の距離をとり、縦軸には、バンパレイン6中央に発生するモーメントを「1.0」とした場合の荷重負荷位置に発生するモーメントの比をとった曲げモーメント分布図である。
ここで、左側クラッシュカン5の中心部(車幅方向の中心部)および右側クラッシュカン5の中心部(車幅方向の中心部)はバンパレイン6の左右の支持点であり、バンパレイン中央は該支持点から最も遠い位置にあり、
図9の横軸においてバンパレイン中央から左右方向にずれる程、左右の支持点に近づくことを意味する。
【0039】
バンパレイン中央に荷重入力した場合に、バンパレイン6に発生する曲げモーメントは、
図9に示す如く最大となる曲線を描く。バンパレイン6の車幅方向の強度分布を
図9に示す曲線に近い分布とすることで、すなわち、曲げ強度が最大となるh/H=0.4を車幅方向中央部に配置し、その両側の部位については、h/Hを漸次「0.0」に近づけることで、バンパレイン6の耐荷重が略一定となり、荷重負荷位置に関係なく、略一定の反力を発生させることができる。
よって、段差部18,19のクロージングプレート11からの距離hが、バンパレイン6の車幅方向中央部において最大で、車幅方向中央部から車幅方向外側に遠ざかるに従って漸減する構造を採用し、遠ざかる部位の曲げ強度が車幅方向中央部に対して低下しても、何等問題はない。
【0040】
このように、上記実施例の車両の車体構造は、互いに間隔を隔てて対向する上面部13と下面部14と、上記上面部13と下面部14の一方の端部をつなぐ縦壁部15と、上記上面部13と下面部14の他方の端部から上下方向外側に延びるフランジ部16,17と、を有する断面ハット形状のパネル部材(バンパビーム10参照)に、略平板状のパネル部材(クロージングプレート11参照)を接合して車幅方向に延びる閉断面12を形成し、上記略平板状のパネル部材(クロージングプレート11参照)が反車室側となるよう配置した閉断面部材から成るバンパレイン6を備えた車両の車体構造であって、上記断面ハット形状のパネル部材(バンパビーム10参照)の上記上面部13と上記下面部14とに段差部18,19を有し、該段差部18,19の略平板状のパネル部材(クロージングプレート11参照)からの距離hは、上記バンパレイン6の車幅方向中央部において最大で、車幅方向中央部から車幅方向外側に遠ざかるに従って漸減するように構成されたものである(
図3,
図4参照)。
【0041】
この構成によれば、段差部18,19の略平板状のパネル部材(クロージングプレート11参照)からの距離hを、バンパレイン6の車幅方向中央部において最大で、車幅方向中央部から車幅方向外側に遠ざかるに従って漸減するように構成したので、軽衝突時の曲げ負荷が最大となる車幅方向中央部は、段差部18,19を曲げ強度が最大となる位置とし、車幅方向中央部に対比して軽衝突時の曲げ負荷が小さくなるその左右では、段差部18,19を反車室側とすることで、バンパレイン6を軽量な構造とすることができ、これにより曲げ強度の確保と軽量化との両立を図ることができるうえ、バンパレイン6からクラッシュカン5への荷重伝達性についても有利となる。
【0042】
ここで、上記実施例の車両の車体構造をフロント側に適用した場合には、軽量でありながら、曲げ強度を向上させることができるので、軽衝突時において冷却ユニット8の破損を防止することができる。
また、バンパレイン6断面の前後方向長さをH、段差部18,19の略平板状のパネル部材(クロージングプレート11参照)からの距離をhとした時、バンパレイン6の車幅方向中央部におけるh/Hの値を0.2〜0.5に設定したものである(
図5,6参照)。
【0043】
この構成によれば、より一層高い曲げ強度を確保することができる。
因に、h/Hの値が0.2よりも過小な場合には、重量は軽くなる反面で曲げ強度が低下し、h/Hの値が0.5よりも過大な場合には、重量が大となると共に、曲げ強度が低下する。
よって、h/Hの値を0.2〜0.5の範囲内(好ましくは、0.3〜0.45の範囲内)に設定することで、バンパレイン6の軽量化を図りつつ、より一層高い曲げ強度を確保することができるものである。
さらに、上記上面部13は縦壁部側上面部13Bと反縦壁部側上面部13Aとを有し、上記下面部14は縦壁部側下面部14Bと反縦壁部側下面部14Aとを有し、上記縦壁部側の上下両側部13B,14Bの水平方向HORに対する角度θ2が、上記反縦壁部側の上下両面部13A,14Aの水平方向HORに対する角度θ1より大きく設定されたものである(
図4参照)。
上述の縦壁部側および反縦壁部側の13B,13A上面部の水平方向HORに対する角度θ2、θ1は、俯角を意味し、縦壁部側および反縦壁部側の下面部14B,14Aの水平方向HORに対する角度θ2,θ1は、仰角を意味する。
【0044】
この構成によれば、反縦壁部側の上下両面部13A,14Aの水平方向に対する角度θ1が相対的に小さいので、略平板状のパネル部材(クロージングプレート11参照)の座屈防止を図ることができ、また、縦壁部側の上下両面部13B,14Bの水平方向HORに対する角度θ2が相対的に大きいので、断面ハット形状のパネル部材(バンパビーム10)を、金型を用いてプレス加工する場合、金型の奥側に位置する各部13B,14B縦壁部側の角度θ2が大きく、金型との摩擦を小さくして、金型の摩耗を防止することができる。
ここで、反縦壁部側の上下両面部13A,14Aの水平方向HORに対する角度θ1は0〜15°が望ましく、縦壁部側の上下両面部13B,14Bの水平方向HORに対する角度θ2は5°以上が望ましい。
加えて、上記フランジ部16,17の端部に、該フランジ部16,17端部から車室側に延びるフランジ延設部20,21が形成されたものである(
図4参照)。
【0045】
この構成によれば、上述の段差部18,19からフランジ延設部20,21にかけて略コ字形状が形成されることになり、これにより、衝突荷重に対する曲げ強度をさらに向上させることができる。
【0046】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明の断面ハット形状のパネル部材は、実施例のバンパビーム10に対応し、
以下同様に、
略平板状のパネル部材は、クロージングプレート11に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
例えば、上記実施例においては、車両の車体構造をフロント側に適用したが、本発明の車両の車体構造は、リヤ側に適用してもよい。