(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記リバースレバーの揺動端部に、前記リバースアイドルギヤを前記噛合位置へ摺動させたときに前記鍔部との干渉を避けるための切欠部が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の手動変速機。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車用の手動変速機は、クラッチを介してエンジンの出力軸に連結されたプライマリシャフトと、このプライマリシャフトに平行に配置され、差動装置を介して駆動輪に連結されたセカンダリシャフトとを有する。これら両軸間には、変速段毎にギヤ列が設けられ、運転者によるチェンジレバーの操作により、所望の変速段に対応する1つのギヤ列のみが動力伝達状態となるように構成されている。
【0003】
この種の手動変速機において、通常、前進変速段用のギヤ列には常時噛合い式のギヤ列が採用される。常時噛合い式のギヤ列では、プライマリシャフト又はセカンダリシャフトの一方に固定された固定ギヤと、他方のシャフトに遊嵌された遊転ギヤとが常時噛み合っており、車両走行中に所定の変速段への変速が行われるときは、この変速段のギヤ列における前記遊転ギヤとシャフトの回転が同期装置によって同期されることで、このギヤ列での動力伝達状態が円滑に実現される。
【0004】
一方、手動変速機のリバース用のギヤ列には、一般的に、選択摺動式のギヤ列が採用される。選択摺動式のリバース用ギヤ列は、プライマリシャフトに固定されたリバースプライマリギヤと、セカンダリシャフトに固定されたリバースセカンダリギヤと、リバースシャフト上に軸方向に摺動可能に支持されたリバースアイドルギヤとで構成される。チェンジレバーにより後退段へのシフト操作が行われると、リバースアイドルギヤは、軸方向に摺動してリバースプライマリギヤとリバースセカンダリギヤとに噛み合い、これにより、後退段での動力伝達状態が実現される。通常、後退段へのシフト操作は停車状態で行われるため、前進変速段のような同期装置を用いなくても、リバース用ギヤ列における上記の噛合いが可能になる。また、この選択摺動式を採用した場合、同期装置を省略することができるため、コストを低減することができる。
【0005】
ところが、リバース用ギヤ列に選択摺動式のギヤ列を採用した場合において、前進走行状態から停車した直後に後退段へのシフト操作が行われたときに、ギヤ鳴りと呼ばれる騒音が発生することがある。これは、クラッチを切断して停車する際、クラッチの切断直後はプライマリシャフトが慣性で回転し続けており、プライマリシャフトと共に回転しているリバースプライマリギヤにリバースアイドルギヤを噛み合わせようとするときに、両ギヤの歯が干渉するためである。なお、セカンダリシャフトは、駆動輪に常時駆動連結されているため、停車状態には駆動輪と共に停止している。
【0006】
この問題に対処するために、例えば特許文献1に開示されているような所謂プレボーク機構が採用されることがある。
【0007】
このプレボーク機構では、後退段へのシフト操作の前期に、所定の前進変速段用の同期装置を利用して、プライマリシャフトの慣性による回転を制動する。具体的には、後退段へのシフト操作に連動させてプライマリシャフト上で前記同期装置のスリーブを軸方向に移動させることで、回転停止中のプライマリギヤにプライマリシャフトを同期させ、これにより、プライマリシャフトに制動力を作用させる。
【0008】
続いて、後退段へのシフト操作の後期には、前記同期装置による制動作用によりプライマリシャフトの慣性による回転が停止するタイミングで、前記同期装置のスリーブを中立位置へ戻して該同期装置の作動を解除し、これにより、前進変速段での動力伝達状態を解除する。その後に、リバースアイドルギヤをリバースプライマリギヤとリバースセカンダリギヤとに噛み合わせる。このとき、リバースプライマリギヤとリバースセカンダリギヤはいずれも回転が停止しているため、両ギヤに対するリバースアイドルギヤの噛み合いが円滑に行われ、ギヤ鳴りを防止することが可能となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図9及び
図10を参照しながら、特許文献1に開示されたリバースアイドルギヤ及びその周辺構造について具体的に説明する。
【0011】
図9に示すように、リバースアイドルギヤ237は、軸方向一端部に設けられたギヤ部232と、軸方向他端部に設けられたフランジ状の鍔部234と、軸方向においてギヤ部232と鍔部234との間に形成された係合凹溝部236とを備えている。この係合凹溝部236にはリバースレバー246が係合されている。リバースレバー246は、リバースシャフト230に直角な方向に延びる軸(図示せず)周りに揺動可能に配設されており、このリバースレバー246の先端部が、前記係合凹溝部236にほぼ隙間の無い状態で係合されている。
【0012】
リバースアイドルギヤ237が中立位置にあるときに、チェンジレバー(図示せず)により後退段へのシフト操作が行われると、これに連動してリバースレバー246が図中反時計回り方向に揺動し、このリバースレバー246の揺動開始とほぼ同時にリバースアイドルギヤ237がリバースシャフト230に沿って摺動し始める。このリバースアイドルギヤ237の摺動期間の前期には、上記のように所定の前進変速段用の同期装置が作動し、これにより、プライマリシャフト(図示せず)の慣性による回転に制動力が作用する。
【0013】
図10の実線で示されるリバースアイドルギヤ237の摺動期間の中期には、プライマリシャフトの回転が停止する。その後、
図10において二点鎖線で示されるように、リバースアイドルギヤ237は、さらに摺動が進んで噛合位置に達すると、回転停止中のリバースプライマリギヤ217とリバースセカンダリギヤ(図示せず)とに円滑に噛み合うようになっている。
【0014】
しかしながら、特許文献1の技術では、後退段へのシフト操作と略同時にリバースアイドルギヤ237が摺動し始めるため、後退段へのシフト操作が開始されてからリバース用ギヤ列が動力伝達状態となるまでの略全期間に亘って、リバースアイドルギヤ237が摺動し続けることになる。そのため、リバースアイドルギヤ237の摺動に長いストロークが必要となることから、リバースシャフト230が長くなり、リバースアイドルギヤ周辺構造をコンパクトに構成することが困難になる問題がある。
【0015】
そこで、リバースレバー246とリバースアイドルギヤ237の係合凹溝部236との隙間を拡大して、後退段へのシフト操作の開始後におけるリバースアイドルギヤ237の摺動開始のタイミングを遅らせることも考えられるが、この場合、リバース用ギヤ列での動力伝達状態において、リバースアイドルギヤ237が軸方向にがたつきやすくなることから、噛合い不良による歯面の摩耗や騒音が発生する懸念がある。
【0016】
そこで、本発明は、選択摺動式のリバース用ギヤ列を用いた手動変速機において、リバースアイドルギヤ周辺構造のコンパクト化と、リバースアイドルギヤの噛合い不良の抑制との両立を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記課題を解決するため、本発明に係る手動変速機は、次のように構成したことを特徴とする。
【0018】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、
エンジンにクラッチを介して連結されるプライマリシャフトと、
該プライマリシャフトに平行に配置され、差動装置を介して駆動輪に連結されるセカンダリシャフトと、
前記プライマリシャフトと前記セカンダリシャフトとの間に配設された複数の前進段ギヤ列と、
これらの前進段ギヤ列を前記プライマリシャフトと前記セカンダリシャフトとの間で選択的に動力伝達状態とする同期装置と、
前記プライマリシャフト上に固定されたリバースプライマリギヤと、前記セカンダリシャフト上に固定されたリバースセカンダリギヤと、前記プライマリシャフトと前記セカンダリシャフトとに平行なリバースシャフト上に摺動可能に配設され、前記リバースシャフト上の中立位置から前記リバースプライマリギヤ及び前記リバースセカンダリギヤとの噛合位置へ摺動することにより後退段での動力伝達状態を実現するリバースアイドルギヤと、で構成されたリバース用ギヤ列と、
チェンジレバーのリバース位置へのシフト操作に連動して揺動することで、前記リバースアイドルギヤを前記中立位置から前記噛合位置へ摺動させ、且つ、その揺動期間の前半にいずれかの前進段ギヤ列を動力伝達状態とする方向に前記同期装置を作動させるリバースレバーと、を備えた手動変速機であって、
前記リバースアイドルギヤは、前記リバースプライマリギヤと前記リバースセカンダリギヤとに噛合可能なように軸方向一端部に設けられたギヤ部と、軸方向他端部にフランジ状に設けられた鍔部と、前記リバースレバーの揺動端部が係合するように軸方向において前記ギヤ部と前記鍔部との間に形成された凹溝部と、を備え、
前記リバースレバーの揺動端部の鍔部側の面部に、前記リバースアイドルギヤを前記噛合位置へ摺動させたときに前記凹溝部における鍔部側の内側面に最も近接する突起が設けられ、
前記リバースレバーは、前記揺動の開始時には、前記凹溝部におけるギヤ部側の内側面と前記揺動端部との間に軸方向に所定量の間隙が形成され、且つ、前記リバースアイドルギヤを前記噛合位置へ摺動させたときには、前記凹溝部
におけるギヤ部側の内側面と前記揺動端部との間の軸方向の間隙と、前記凹溝部における鍔部側の内側面と前記突起との間の軸方向の間隙との和が前記所定量よりも小さくなるように配設されていることを特徴とする。
【0019】
なお、ここでいう「固定」とは、リバースプライマリギヤがプライマリシャフトに対して、及び/又は、リバースセカンダリギヤがセカンダリシャフトに対して、少なくとも回転方向に固定されていることを意味し、軸方向には固定されていない場合も含まれるものとする。
【0020】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、
前記リバースレバーの揺動端部の鍔部側の面部に、前記揺動の開始時に前記凹溝部における鍔部側の内側面に最も近接する初期近接部が設けられ、
前記突起は、前記リバースレバーの揺動端部の長さ方向における前記初期近接部よりも基部側の部位から軸方向の前記鍔部側に突出するように形成されていることを特徴とする。
【0021】
さらに、請求項3に記載の発明は、前記請求項1又は請求項2に記載の発明において、
前記リバースレバーの揺動端部に、前記リバースアイドルギヤを前記噛合位置へ摺動させたときに前記鍔部との干渉を避けるための切欠部が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
まず、請求項1に記載の発明によれば、リバース位置へのシフト操作に連動したリバースレバーの揺動が開始されるとき、リバースアイドルギヤの凹溝部におけるギヤ部側の内側面とリバースレバーの揺動端部との間に所定量の間隙が形成されているため、リバースレバーの揺動が開始されてから所定時間遅れたタイミングで、リバースアイドルギヤを軸方向に摺動させ始めることができる。これにより、上記従来技術のようにリバースアイドルギヤの摺動ストロークを延長しなくても、リバースレバーの揺動に連動するいずれかの前進段用同期装置の作動によりプライマリシャフトの慣性による回転がほぼ停止した後で、且つ、この同期装置の作動が解除した後のタイミングで、リバースアイドルギヤをリバースプライマリギヤとリバースセカンダリギヤとに円滑に噛み合わせることができる。そのため、この発明によれば、選択摺動式リバース用ギヤ列の円滑な噛み合いを実現しつつ、上記のようにリバースアイドルギヤの摺動ストロークの延長が抑制されることで、リバースアイドルギヤ周辺構造のコンパクト化を図ることができる。
【0023】
また、この発明によれば、リバースアイドルギヤが噛合位置まで摺動したとき、
リバースレバーの揺動端部は、その鍔部側の面部に設けられた突起において、リバースアイドルギヤの凹溝部における鍔部側の内側面に最も近接する。このとき、凹溝部
におけるギヤ部側の内側面とリバースレバーの揺動端部との間の軸方向の間隙と、凹溝部における鍔部側の内側面と前記突起との間の軸方向の間隙との和が、揺動開始時の間隙量よりも小さくなるため、リバース用ギヤ列での動力伝達状態において、リバースアイドルギヤの軸方向のがたつきがリバースレバーの揺動端部により抑制される。そのため、リバース用ギヤ列での噛合い不良、ひいては、該ギヤ列における歯面の摩耗や騒音を抑制することができる。
【0024】
さらに、請求項2に記載の発明によれば、リバースレバーの揺動端部の鍔部側の面部において、揺動開始時にリバースアイドルギヤの凹溝部における鍔部側の内側面に
最も近接する初期近接部とは別の部位に、リバースアイドルギヤを噛合位置へ摺動させたときに凹溝部における鍔部側の内側面に
最も近接する突起が設けられているため、リバースレバーの揺動によりリバースアイドルギヤを噛合位置へ摺動させたときに、リバースレバーの揺動端部が揺動開始時に比べて傾斜した状態となっても、前記凹溝部内における揺動端部の軸方向鍔部側の間隙を小さく維持することができる。よって、リバース用ギヤ列での動力伝達状態におけるリバースアイドルギヤの軸方向のがたつきを効果的に抑制することができる。
【0025】
さらにまた、請求項3に記載の発明によれば、リバースレバーの揺動端部に、リバースアイドルギヤを噛合位置へ摺動させたときにその鍔部との干渉を避けるための切欠部が設けられているため、リバースレバーの揺動端部がリバースアイドルギヤに干渉することなく該ギヤを円滑に摺動させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0028】
図1に示すように、本実施形態に係る手動変速機1は、前進6速、後退1速の変速機であって、クラッチ4を介してエンジン2の出力軸3に連結されたプライマリシャフト10と、該プライマリシャフト10に平行に配置されたセカンダリシャフト20とを有する。
【0029】
セカンダリシャフト20は、差動装置70を介して駆動輪(図示せず)に連結されている。具体的には、セカンダリシャフト20のエンジン側の端部に出力ギヤ28が設けられており、この出力ギヤ28が差動装置70の入力ギヤ71に噛み合っている。これにより、セカンダリシャフト20の回転が差動装置70を介して左右の車軸72,73に伝達され、さらに、各車軸72,73に連結された前記駆動輪に伝達されるようになっている。
【0030】
プライマリシャフト10とセカンダリシャフト20との間には、エンジン側から順に、1速用ギヤ列G1、リバース用ギヤ列GR、2速用ギヤ列G2、5速用ギヤ列G5、6速用ギヤ列G6、3速用ギヤ列G3、4速用ギヤ列G4が配設されている。
【0031】
1速用ギヤ列G1及び2速用ギヤ列G2は、それぞれ、プライマリシャフト10に固定されたプライマリギヤ11,12と、セカンダリシャフト20に遊嵌合されたセカンダリギヤ21,22とで構成されている。また、3〜6速用の各ギヤ列G3〜G6は、プライマリシャフト10に遊嵌合されたプライマリギヤ13〜16と、セカンダリシャフト20に固定されたセカンダリギヤ23〜26とで構成されている。
【0032】
セカンダリシャフト20上における1速用セカンダリギヤ21と2速用セカンダリギヤ22との間には1−2速用同期装置40が配設されている。また、プライマリシャフト10上における3速用プライマリギヤ13と4速用プライマリギヤ14との間、同じくプライマリシャフト10上における5速用プライマリギヤ15と6速用プライマリギヤ16との間には、それぞれ、3−4速用同期装置50、5−6速用同期装置60が配設されている。
【0033】
チェンジレバー(図示せず)により前進段でのシフト操作が行われると、上記の同期装置40,50,60のうち、シフト操作された変速段に対応する1つの同期装置のみが作動し、これにより、上記の前進段ギヤ列G1〜G6のうち、シフト操作された変速段のギヤ列のみが選択的にプライマリシャフト10とセカンダリシャフト20との間で動力伝達状態となる。例えば、チェンジレバーにより1速または2速へのシフト操作が行われると、これに連動して、1−2速用同期装置40のスリーブ41がセカンダリシャフト20上をエンジン側または反エンジン側へスライドし、スライドされた側の遊嵌合ギヤ(21又は22)がセカンダリシャフト20に固定され、シフト操作された変速段のギヤ列(G1又はG2)が動力伝達状態となる。また、チェンジレバーにより3〜6速のいずれかへのシフト操作が行われると、これに連動して、3−4速用同期装置50のスリーブ51又は5−6速用同期装置60のスリーブ61がプライマリシャフト10上をエンジン側または反エンジン側へスライドし、スライドされた側の遊嵌合ギヤ(13、14、15又は16)がプライマリシャフト10に固定され、シフト操作された変速段のギヤ列(G3、G4、G5又はG6)が動力伝達状態となる。
【0034】
一方、リバース用ギヤ列GRは、選択摺動式のギヤ列であり、プライマリシャフト10に固定されたリバースプライマリギヤ17と、セカンダリシャフト20に固定されたリバースセカンダリギヤ27と、プライマリシャフト10及びセカンダリシャフト20に平行なリバースシャフト30に軸方向に摺動可能に嵌合されたリバースアイドルギヤ37とで構成されている。
【0035】
なお、リバースセカンダリギヤ27は、セカンダリシャフト20に直接固定されておらず、1−2速用同期装置40のスリーブ41に設けられている。このスリーブ41は、同期装置40において、セカンダリシャフト20に固設されたハブ42にスプライン嵌合している。そのため、厳密に言えば、スリーブ41に設けられたリバースセカンダリギヤ27は、セカンダリシャフト20に対して回転方向には固定されているが、軸方向には移動可能となっている。
【0036】
チェンジレバーがリバース位置にシフト操作されると、これに連動して、リバースアイドルギヤ37が軸方向反エンジン側へ摺動して、リバースプライマリギヤ17とリバースセカンダリギヤ27とに噛み合い、これにより、リバース用ギヤ列GRが動力伝達状態となる。リバースアイドルギヤ37及びその周辺構造の具体的な構成については後に説明する。
【0037】
次に、
図2及び
図3を参照しながら、手動変速機1の変速操作機構90について説明する。
図2は、変速操作機構90の主要部を軸方向反エンジン側から見た図であり、
図3は、
図2のA−A線矢視図である。
【0038】
図2及び
図3に示すように、変速操作機構90は、プライマリシャフト10に平行なコントロールロッド100を有する。コントロールロッド100は、軸周りに回動可能、且つ、軸方向移動が規制された状態でミッションケース80に支持されている。このようにコントロールロッド100の軸方向移動が規制されていることにより、コントロールロッド100を収納する部分においてミッションケース80を軸方向にコンパクトに構成することが可能になっている。
【0039】
コントロールロッド100には、シフトフィンガ102が軸方向移動及び回動可能に嵌合されており、このシフトフィンガ102には、その周方向の一部から径方向外側に延びるフィンガ部103が設けられている。
【0040】
また、コントロールロッド100にはインターロックスリーブ104が固設されている。このインターロックスリーブ104にはインターロック規制部(図示せず)が設けられ、該規制部がコントロールロッド100と一体回転することにより、該規制部を介して前記シフトフィンガ102がコントロールロッド100の回動に連動して回動するようになっている。また、インターロックスリーブ104の軸方向エンジン側の端部にはセレクトプレート105が固定されている。さらに、インターロックスリーブ104の外周部には、後述のプレボーク機構の一部を構成するレバープッシュ部106が径方向外側へ突設されている。
【0041】
コントロールロッド100の上方には、チェンジレバーのセレクト操作に連動して回動するセレクトレバーシャフト110が配設されている。セレクトレバーシャフト110は、ミッションケース80を貫通してコントロールロッド100に略直角な方向、例えば上下方向に延びるように配設されている。セレクトレバーシャフト110の下端部には、前記セレクトプレート105に係合されたセレクトレバー108が固定されている。
【0042】
コントロールロッド100の下方には、1−2速用シフトエンド121が固定された1−2速用シフトロッド(図示せず)、3−4速用シフトエンド122が固定された3−4速用シフトロッド112、及び、5−6速用シフトエンド123が固定された5−6速用シフトロッド113が、それぞれコントロールロッド100に平行に配設されている。各シフトロッドは、軸方向にスライド可能にミッションケース80に支持されている。また、本実施形態では、3−4速用シフトロッド112にリバース用シフトエンド120がスプライン嵌合されており、これにより、3−4速用シフトロッド112がリバース用シフトロッドとして兼用されている。
【0043】
各シフトエンド120,121,122,123の先端部は、シフトフィンガ102の周囲に周方向に並んで配設されており、シフトフィンガ102のフィンガ部103に選択的に係合されるようになっている。
【0044】
チェンジレバーがセレクト操作されると、これに連動して、セレクトレバーシャフト110と共にセレクトレバー108が軸周りに回動する。このとき、
図2及び
図4に示すように、セレクトレバー108に係合したセレクトプレート105は、コントロールロッド100と共に軸周りに回動する。これにより、シフトフィンガ102は、コントロールロッド100の回動に連動して回動し、シフトフィンガ102のフィンガ部103は、チェンジレバーのセレクト位置に応じたシフトエンド120〜123に係合する。
【0045】
また、チェンジレバーがシフト操作されると、これに連動して、シフトフィンガ102がコントロールロッド100上を軸方向移動するようになっている。
【0046】
いずれかの前進段のセレクト位置でシフト操作が行われる場合、シフトフィンガ102のフィンガ部103が係合したシフトエンド121〜123を介して、該シフトエンド121〜123が設けられたシフトロッドが軸方向移動する。このとき、該シフトロッドの軸方向移動に連動して、同期装置40,50,60のスリーブ41,51,61が軸方向移動することで、シフト操作された前進段ギヤ列G1〜G6での動力伝達状態が実現される。
【0047】
例えば、5速へのシフト操作が行われると、
図6に示すように、5−6速用シフトロッド113と共に、このシフトロッド113に固定された5−6速用シフトフォーク128と、このシフトフォーク128に係合された同期装置60のスリーブ61とが軸方向エンジン側にスライドし、このスリーブ61のスライドにより、シンクロナイザリング63が5速プライマリギヤ15側に設けられたコーン面64に押し付けられる。これにより、このプライマリギヤ15の回転が、シンクロナイザリング63、スリーブ61及びハブ62を介してプライマリシャフト10の回転と同期する。プライマリギヤ15側へのスリーブ61のスライドが更に進み、スリーブ61が、ハブ62と、プライマリギヤ15に固着されたシンクロギヤ65とに跨って噛み合うと、プライマリギヤ15がプライマリシャフト10に結合される。
【0048】
5速以外の前進段へのシフト操作が行われた場合も、同様の動作により、当該前進段ギヤ列での動力伝達状態が実現される。
【0049】
一方、リバースセレクト状態でシフト操作が行われる場合について、
図4〜
図6を参照しながら説明する。この場合、リバース用シフトロッド(3−4速用シフトロッド)112は軸方向移動せず、該ロッド112上をリバース用シフトエンド120が軸方向移動する。このリバース用シフトエンド120にはリバースアーム130が固定されており、このリバースアーム130の先端部にリバースレバー136が係合している。リバース用シフトエンド130と共にリバースアーム130が軸方向移動すると、これに連動してリバースレバー136が揺動し、これにより、リバースレバー136の揺動端部140に係合したリバースアイドルギヤ37が、リバースシャフト30上の中立位置からリバースプライマリギヤ17とリバースセカンダリギヤ27との噛合位置へ摺動し、後退段での動力伝達状態が実現されるようになっている。
【0050】
図3に示すように、リバースアイドルギヤ37は、リバースプライマリギヤ17とリバースセカンダリギヤ27とに噛合可能なように軸方向一端部に設けられたギヤ部32と、軸方向他端部にフランジ状に設けられた鍔部34と、リバースレバー136の揺動端部140が係合するように軸方向においてギヤ部32と鍔部34との間に形成された凹溝部36と、を備えている。
【0051】
また、リバースレバー136は、
図2及び
図3に示すように、リバースシャフト30に略垂直な略水平方向に沿って配置された支軸134に回転可能に支持されている。この支軸134は、リバースレバー136の挿通穴137(
図7参照)に挿通されており、ブラケット(図示せず)を介してミッションケース80に支持されている。
【0052】
図7に示すように、リバースレバー136の揺動端部140は、挿通穴137の周縁部から下方に延びるように形成されている。この揺動端部140の先端部におけるギヤ部側の面部151には、リバースアイドルギヤ37を摺動させるときに凹溝部36におけるギヤ部側の内側面に押し当てられる押し当て部153が設けられている。
【0053】
一方、揺動端部140における鍔部側の面部152には、後退段へのシフト操作開始時、すなわち、リバースレバー136の揺動開始時に凹溝部36における鍔部側の内側面に近接する初期近接部154と、リバースアイドルギヤ37を噛合位置へ摺動させたときに凹溝部36における鍔部側の内側面に近接する突起155とが設けられている。この突起155は、揺動端部140の長さ方向における初期近接部154よりも基部側の部位から軸方向エンジン側に突出するように形成されている。また、揺動端部140には、リバースアイドルギヤ37を噛合位置へ摺動させたときに鍔部34との干渉を避けるための切欠部156が設けられている。この切欠部156は、揺動端部140における鍔部側の面部152と、前記支軸134の軸方向におけるリバースアイドルギヤ側の面部150とのコーナー部に、該コーナー部の長さ方向に沿って形成されている。
【0054】
リバースレバー136の上端部には、前記リバースアーム130の先端に形成された平面視コ字形の凹部に係合される係合突部138が設けられている。また、リバースレバー136には、ミッションケース80に固定されたリバーススイッチ158に接触可能に設けられたスイッチ接触アーム部142が設けられている。このスイッチ接触アーム部142は、リバースレバー136の揺動によりリバースアイドルギヤ37が噛合位置まで摺動したときにリバーススイッチ158(
図2、
図3等参照)に接触し、これにより、リバースシフト状態であることが検出されるようになっている。さらに、リバースレバー136には、後述のプレボークピン162の回動を規制する規制部144が、前記支軸134の軸方向の一方の側へ突出するように形成されている。
【0055】
次に、本実施形態で採用されるプレボーク機構について説明する。このプレボーク機構は、後退段へのシフト操作開始時に慣性によりプライマリシャフト10と共に回転しているリバースプライマリギヤ17に対してリバースアイドルギヤ37を円滑に噛み合わせるために、後退段へのシフト操作の前半、すなわち、このシフト操作によって生じるリバースレバー136の揺動期間の前半に、該リバースレバー136の揺動を利用して、5速用ギヤ列G5を動力伝達状態とする方向に5−6速用同期装置60を作動させることで、プライマリシャフト10の慣性による回転を制動するものである。
【0056】
この機能を果たすために、前記プレボーク機構は、
図2及び
図3に示すように、支軸134に回動可能に設けられたプレボークピン162と、5−6速用シフトロッド113に取り付けられたプレボークレバー180と、インターロックスリーブ104に設けられた前記レバープッシュ部106とを備えている。
【0057】
プレボークピン162は、プレボークピン162とリバースレバー136との間に介装されたつる巻きばね(図示せず)により支軸134周りにおける
図3の時計回り方向に付勢された状態で、支軸134に回動可能に取り付けられている。このプレボークピン162には、リバースレバー136が支軸134周りに
図3の反時計回り方向に揺動したときに該リバースレバー136の前記規制部144に押し当てられる押し当てアーム部164が設けられている。これにより、プレボークピン162は、リバースレバー136と共に支軸134周りに回動可能となっている。
【0058】
プレボークレバー180は、5−6速用シフトロッド113に対して回動自在に、且つ、軸方向の移動が規制された状態で取り付けられている。
図2に示すように、プレボークレバー180は、シフトロッド113から径方向外側へ略水平に延びるように設けられており、このプレボークレバー180の先端部に、上方へ突出する突出部182が設けられている。また、プレボークレバー180は、無負荷の状態において前記水平状態が維持されるようにシフトロッド113周りにおける図中時計回り方向に付勢された状態で該シフトロッド113に取り付けられている。さらに、プレボークレバー180の下面には凹部184が設けられており、
図6に示すように、この凹部184に、下向きの突起部186が設けられている。
【0059】
図3に示すように、プレボークレバー180の軸方向エンジン側の面には、ミッションケース80の内面から軸方向反エンジン側へ進退可能に突出する押し当てピン170の先端が押し当てられている。この押し当てピン170は、ミッションケース80の壁内に設けられたコイルばね172により軸方向反エンジン側へ付勢されている。
【0060】
図2及び
図3に示すように、セレクト位置が中立状態であるとき、プレボークレバー180は、プレボークピン162及びインターロックスリーブ104の前記レバープッシュ部106のいずれにも係合しないように配置される。
【0061】
これに対して、
図4及び
図5に示すように、シフトフィンガ102が軸周りに
図4の反時計回り方向にリバースセレクト位置まで回動すると、シフトフィンガ102と共に回動するインターロックスリーブ104のレバープッシュ部106が、プレボークレバー180の突出部182を押し下げる。これにより、プレボークレバー180が
図4の反時計回り方向に回動して、
図5に示すように、プレボークレバー180の下面に設けられた前記突起部186が下方へ移動されて、プレボークピン162の上端部に係合する。
【0062】
このリバースセレクト状態でリバースシフト操作が行われると、
図6に示すように、リバースアーム130がリバース用シフトエンド120と共にエンジン側へ軸方向移動し、リバースアーム130の先端に係合したリバースレバー136が支軸134周りに図中反時計回り方向に揺動する。このとき、リバースレバー136と共に支軸134周りに回動するプレボークピン162に係合したプレボークレバー180は、プレボークピン162の回動により軸方向エンジン側へ押し込まれ、このプレボークピン162と共に5−6速用シフトロッド113がエンジン側へ軸方向移動する。このとき、シフトロッド113は、シフトフォーク128を介して、5−6速用同期装置60のスリーブ61をエンジン側へ軸方向移動させてシンクロナイザリング63に嵌合させる。これにより、シンクロナイザリング63が5速プライマリギヤ15側に設けられたコーン面64に押し付けられ、プライマリギヤ15の回転とプライマリシャフト10の回転とが同期する。
【0063】
停車状態で後退段へのシフト操作が行われるとき、プライマリギヤ15の回転は停止しているため、この回転停止中のプライマリギヤ15との同期により、慣性により回転しているプライマリシャフト10に制動力が作用する。
【0064】
リバースレバー136の前記揺動が更に進んで、リバースレバー136と共に回動するプレボークピン162の上端部が下方へ移動し、プレボークピン162とプレボークレバー180との係合が解除されると、プレボークレバー180は押し当てピン170の付勢力により反エンジン側へ軸方向に押し込まれ、これにより、5−6速用シフトロッド113は元の軸方向位置まで反エンジン側へ軸方向移動する。これにより、同期装置60のスリーブ61は反エンジン側へ軸方向移動して中立位置に戻され、同期装置60の作動が解除される。
【0065】
この同期装置60の作動解除により5速での動力伝達状態が確実に解除された後、リバースアイドルギヤ37が噛合位置に到達するようになっている。このとき、リバースプライマリギヤ17とリバースセカンダリギヤ27はいずれも回転が停止しているため、両ギヤ17,27に対するリバースアイドルギヤ37の噛み合いが円滑に行われ、ギヤ鳴りを防止することが可能となっている。
【0066】
このようなリバース用ギヤ列GRでの円滑な噛み合いを確実に実現するためには、後退段へのシフト操作が開始されてからリバースアイドルギヤ37が噛合位置へ摺動するまでの間に、プレボーク機構によってプライマリシャフト10の慣性による回転を停止させ、且つ、プレボーク機構による同期装置60の作動を確実に解除させる必要がある。上述の従来技術では、リバースアイドルギヤ37の摺動ストロークを長くすることで、後退段へのシフト操作が開始されてからリバースアイドルギヤ37が噛合位置へ摺動するまでの時間を所要時間確保しているが、摺動ストロークを長くすると、リバースアイドルギヤ37の周辺構造のコンパクト化が阻害される。そこで、本実施形態に係る手動変速機1では、選択摺動式のリバース用ギヤ列GRでの円滑な噛み合いを以下の構成によって実現している。
【0067】
まず、
図5に示すように、後退段へのシフト操作開始時、すなわち、このシフト操作によって生じるリバースレバー136の揺動開始時において、該リバースレバー136の揺動端部140は略鉛直方向に沿って配置されている。
【0068】
また、このとき、リバースレバー136は、その揺動端部140と、リバースアイドルギヤ37の凹溝部36におけるギヤ部側の内側面との間に軸方向に所定量Dの間隙が形成されるように配設されている。この間隙が確保されていることにより、後退段へのシフト操作が開始された時点、すなわち、リバースレバー136の揺動が開始された時点では、リバースレバー136によりリバースアイドルギヤ37が摺動されることはない。
【0069】
さらに、リバースレバー136の揺動開始時において、リバースアイドルギヤ37の凹溝部36における鍔部側の内側面に対しては、リバースレバー136の揺動端部140における前記初期近接部154(
図7及び
図8参照)が近接して配置されている。
【0070】
リバースレバー136の揺動が開始されると、これに連動して、上述したプレボーク機構により5−6速用同期装置60が作動し、プライマリシャフト10の慣性による回転に制動力が作用する。
【0071】
その後、リバースレバー136の揺動が進み、その揺動端部140の前記押し当て部153が、リバースアイドルギヤ37の凹溝部36におけるギヤ部側の内側面に押し当てられると、リバースアイドルギヤ37が摺動し始める。このように、本実施形態では、後退段へのシフト操作が開始されてから所定時間遅れたタイミングで、リバースアイドルギヤ37が摺動し始めるように構成されており、これにより、リバースアイドルギヤ37が噛合位置に到達するタイミングを遅らせている。このリバースアイドルギヤ37が噛合位置に到達するタイミングは、プレボーク機構によってプライマリシャフト10の慣性による回転がほぼ停止した後で、且つ、プレボーク機構による同期装置60の作動が確実に解除された後のタイミングとなるように構成されており、これにより、上記従来技術と同様、円滑にリバース用ギヤ列GRを動力伝達状態にすることができる。そして、本実施形態の構成によれば、上記従来技術に比べてリバースアイドルギヤ37の摺動ストロークの延長を抑制することができるため、リバースアイドルギヤ37の周辺構造のコンパクト化を図ることができる。
【0072】
リバースレバー136の揺動が更に進み、
図8に示すように、リバースアイドルギヤ37が噛合位置まで摺動したとき、リバースレバー136の揺動端部140は、鉛直方向下側に向かって反エンジン側へ傾斜した方向へ延びるような傾斜状態で配置される。このとき、リバースレバー136の揺動端部140における前記初期近接部154は、凹溝部36における鍔部側の内側面に対して揺動開始時に比べて遠ざかるように配置され、この初期近接部154に代わって、前記突起155の先端部が、凹溝部36における鍔部側の内側面に最も近接するように配置される。
【0073】
一方、このとき、リバースアイドルギヤ37の凹溝部36におけるギヤ部側の内側面に対しては、揺動端部140における前記押し当て部153が近接して配置されている。
【0074】
このように、リバースアイドルギヤ37が噛合位置に達した状態では、凹溝部36内における揺動端部140の軸方向両側の間隙の和が極めて小さくなり、少なくとも揺動開始時の前記所定量Dよりも小さくなる。そのため、リバース用ギヤ列GRでの動力伝達状態において、リバースアイドルギヤ37の軸方向のがたつきがリバースレバー136の揺動端部140により抑制される。そのため、リバース用ギヤ列GRでの噛合い不良、ひいては、該ギヤ列GRにおける歯面の摩耗や騒音を抑制することができる。
【0075】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0076】
例えば、上述の実施形態では、リバースレバー136の揺動に連動して、5速用ギヤ列G5を動力伝達状態とする方向に5−6速用同期装置60を作動させる構成について説明したが、本発明では、6速用ギヤ列G6を動力伝達状態とする方向に同期装置60を作動させたり、別の前進段ギヤ列を動力伝達状態とする方向に別の同期装置を作動させたりしてもよい。