特許第5987692号(P5987692)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電気株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5987692-蓄電デバイス 図000004
  • 特許5987692-蓄電デバイス 図000005
  • 特許5987692-蓄電デバイス 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5987692
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20160825BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20160825BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20160825BHJP
   H01G 11/68 20130101ALI20160825BHJP
   H01G 11/70 20130101ALI20160825BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20160825BHJP
【FI】
   H01M4/66 A
   H01M10/0568
   H01M10/052
   H01G11/68
   H01G11/70
   H01G11/62
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-551837(P2012-551837)
(86)(22)【出願日】2011年12月27日
(86)【国際出願番号】JP2011080150
(87)【国際公開番号】WO2012093616
(87)【国際公開日】20120712
【審査請求日】2014年11月12日
(31)【優先権主張番号】特願2011-2199(P2011-2199)
(32)【優先日】2011年1月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】松本 和明
(72)【発明者】
【氏名】井上 和彦
(72)【発明者】
【氏名】野口 健宏
【審査官】 山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−141058(JP,A)
【文献】 特開2009−199934(JP,A)
【文献】 特開平06−231754(JP,A)
【文献】 特開2008−004535(JP,A)
【文献】 特開2010−021075(JP,A)
【文献】 特開2009−259634(JP,A)
【文献】 特開2010−135316(JP,A)
【文献】 特開2009−038017(JP,A)
【文献】 特開2010−118258(JP,A)
【文献】 特開2004−165097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/66
H01G 11/68
H01G 11/70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体上に正極活物質層を有する正極、負極集電体上に負極活物質層を有する負極、セパレータ、及び電解液を有する蓄電デバイスであって、活物質層が積層される部分を除いた正極集電体若しくは活物質層が積層される部分を除いた負極集電体、又はこれらの両方が、表面に腐食抑制膜を有し、該腐食抑制膜がフッ化リチウムを含有し、厚さが50nm以上であることを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項2】
前記腐食抑制膜が蒸着膜であることを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
正極集電体若しくは負極集電体、又はこれらの両方が、アルミニウム、ニッケル、クロム、ステンレス、銅、銀、及びこれらの金属のいずれかを含む合金から選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
前記電解液が、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド及びトリフルオロメタンスルホン酸リチウムのリチウム塩から選ばれる1種又は2種を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項5】
前記電解液が、リチウム塩を0.01mol/L以上、3mol/L以下の範囲溶解していることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項6】
正極集電体上に正極活物質層を有する正極、負極集電体上に負極活物質層を有する負極、セパレータ、及び電解液を有する蓄電デバイスの製造方法であって、活物質層が積層される部分を除いた正極集電体若しくは活物質層が積層される部分を除いた負極集電体、又はこれらの両方上に、リチウム塩を蒸着して、厚さが50nm以上のフッ化リチウムを含有する腐食抑制膜を形成することを特徴とする蓄電デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電容量が低下するのを抑制し、安全性の高い蓄電デバイスやその製造方法、詳しくは、リチウムイオン二次電池等の二次電池の蓄電デバイスやその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車や燃料電池車等の車両や、ノート型パソコン、携帯電話等のモバイル機器の急速な市場拡大に伴い、これらに搭載される二次電池、電気二重層キャパシタやハイブリッドキャパシタ等の電気化学キャパシタ等の蓄電デバイスに、高エネルギー密度化が求められ、更に、安全性が高いこと等の信頼性が要請されている。
【0003】
この種の蓄電デバイスは、正極及び負極と、これらの電極間に介在されるセパレータと、電極及びセパレータを収容し、これらを浸漬するように電解液が満たされているセル槽とを有する。蓄電デバイスにおいて、電気二重層及び/又は酸化還元反応により蓄電されるエネルギーが放電されることが反復され、充放電が繰り返して行われる。
【0004】
このような蓄電デバイスの正極及び負極には、それぞれ活物質を含む活物質層と、この活物質から電気エネルギーを取り出すために、活物質層の層面に接触するように集電体が設けられている。活物質層は、活物質を含む塗布液を調製し、これを集電体となる金属箔等に塗布したり、あるいは、活物質を結着剤と共に加圧、圧延して得られるシートを電極形状に切断し、集電体となる金属箔に圧着して形成されているが、蓄電デバイス内で活物質層が積層されていない部分の集電体は、電解液に晒されることになり、電解質との反応が進行し腐食が生じ、これと共に、蓄電エネルギー容量の低下を引き起こすことが明らかにされている。
【0005】
このため、集電体には、電解質との反応を抑制する材質のものが採用され、例えば、二次電池においては、フッ化リン酸リチウム(LiPF)等を電解質として含有する電解液に対し、充電時に正極電位が4.0V以上になっても反応が抑制されるアルミニウム等が用いられている。
【0006】
しかしながら、電解液の電解質として、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(以下、LiTFSIともいう。)や、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(以下、LiTFSともいう。)を用いた場合、これらの電解質はフッ化リン酸リチウムに比べて、有機溶媒に対する溶解度が高く、熱安定性に優れ、反復される充放電においてフッ化水素の発生が抑制されるという利点を有するものの、充電時に正極電位が4.0V以上になると集電体のアルミニウムと反応を生じることが報告されており(非特許文献1)、これらの物質を電解質として実用するのには問題があった。
【0007】
二次電池の電解液の溶質として、上記LiTFS等を用いることを可能とするため、AlF被膜が表面に形成されたアルミニウム成形体を集電体として用い、LiTFS等と集電体との反応を抑制した非水系電解液二次電池(特許文献1)が報告されている。
【0008】
しかしながら、アルミニウム集電体のAlFの被膜では、電極電位が高くなると、集電体とLiTFSとの反応を充分に抑制できず、集電体の腐食が進み、電池容量の低下の抑制効果が充分に得られない傾向がある。
【0009】
本発明者らは、既に、LiTFSを1.5mol/L以上含む電解液を有し、電解液の不燃化を図り、安全性に優れる二次電池を開発している。この二次電池は安全性の高いものであるが、LiTFSを高濃度含有するものであり、電解質の濃度が低い電解液を用いても、集電体の腐食を抑制でき、集電体と電解質の選択範囲の拡大を可能とする蓄電デバイスが要請されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−231754
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Journal of Power Sources 68 (1997) 320-325
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、電解液に含まれる電解質と集電体との反応を抑制し、集電体の腐食や、電解液の劣化を抑制することができ、エネルギー容量の低減を抑制し、高電位で、安定性、耐久性に優れ、信頼性が高い蓄電デバイスやその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、正極集電体上に正極活物質層を有する正極、負極集電体上に負極活物質層を有する負極、セパレータ、及び電解液を有する蓄電デバイスであって、活物質層が積層される部分を除いた正極集電体若しくは活物質層が積層される部分を除いた負極集電体、又はこれらの両方が、表面に腐食抑制膜を有し、該腐食抑制膜がフッ化リチウムを含有し、厚さが50nm以上であることを特徴とする蓄電デバイスに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の蓄電デバイスは、電解液に含まれる電解質と集電体との反応を抑制し、集電体の腐食や、電解液の劣化を抑制することができ、エネルギー容量の低減を抑制し、高電位で、安定性、耐久性に優れ、信頼性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の蓄電デバイスの一例の二次電池の構成を示す分解構成図である。
図2】本発明の蓄電デバイスの一例の二次電池の放電特性を示す図である。
図3】本発明の蓄電デバイスの一例の電気二重層キャパシタを示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の蓄電デバイスは、正極集電体上に正極活物質層を有する正極、負極集電体上に負極活物質層を有する負極、セパレータ、及び電解液を有する蓄電デバイスであって、活物質層が積層される部分を除いた正極集電体若しくは活物質層が積層される部分を除いた負極集電体、又はこれらの両方が、表面に腐食抑制膜を有し、該腐食抑制膜がフッ化リチウムを含有し、厚さが50nm以上であることを特徴とする。
【0017】
本発明の蓄電デバイスを適用した一実施態様として、二次電池を例にとって、説明する。
【0018】
[正極]
正極は、正極活物質層と、これを積層する正極集電体とを有する。
【0019】
正極活物質層は、正極活物質を含有するものであればよく、正極活物質が正極用結着剤によって結着されてなることが好ましい。
【0020】
正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な物質を用いることができる。具体的には、以下のものを挙げることができる。例えば、LiMnO、LiMn(0<x<2)、LiMn1.5Ni0.5(0<x<2)等の層状の結晶構造を有するマンガン酸リチウムや、スピネル結晶構造を有するマンガン酸リチウム;LiCoO、LiNiO又はこれらの遷移金属の一部をAl、Fe、P、Ti、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、Laのいずれか、あるいは2種以上で置換したもの;LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の特定の遷移金属が半数を超えないリチウム遷移金属酸化物;これらのリチウム遷移金属酸化物において化学量論組成よりもLiを過剰に含有するもの等が挙げられる。特に、LiαNiβCoγAlδ(1≦α≦2、β+γ+δ=1、β≧0.7、γ≦0.2)又はLiαNiβCoγMnδ(1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.6、γ≦0.2)が好ましい。正極活物質は、一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
正極用結着剤としては、少量で正極活物質を結着でき、電解液に対して安定性を有し、電池内で上記正極活物質を一体化して保持できるものが好ましい。具体的には以下のものを挙げることができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリル酸等を挙げることができる。これらのうち、汎用性や低コストの観点から、ポリフッ化ビニリデンが好ましい。使用する正極用結着剤の量は、トレードオフの関係にある「十分な結着力」と「高エネルギー化」の観点から、正極活物質100質量部に対して、2〜15質量部が好ましい。
【0022】
上記正極活物質層には、集電体と正極活物質の導電性を高くするため、インピーダンスを低下させ得る導電補助材を含有していてもよい。導電補助材としては、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質微粒子を用いることができる。
【0023】
上記正極活物質を含む正極活物質層の厚さは、140〜180μmであることが好ましい。正極活物質層の厚さが上記範囲であれば、電池内での占有容積が過大となるのを抑制すると伴に、エネルギー密度の高い電池とすることができる。
【0024】
正極活物質層の厚さは、触針式膜厚計による測定値を採用することができる。或いは、蒸着により形成する場合は、蒸着装置内部に配置した水晶振動子の重量変化から求めた値を採用することができる。以下、各層の厚さは同様の測定による測定値を採用することができる。
【0025】
上記正極活物質層を固定する正極集電体は、電子伝導性に優れ、電池内で安定して存在し、正極活物質との密着性が高く、体積が小さく、密度が高い材質から選択されることが好ましい。かかる材質として、アルミニウム、ニッケル、クロム、ステンレス、銅、銀、及び、これらの金属のいずれかを含む合金から選ばれる1種又は2種以上が好ましい。その形状としては、箔、平板状、メッシュ状が挙げられる。
【0026】
正極集電体の厚さは、目安として10〜30μmを挙げることができる。正極集電体の厚さが上記範囲であれば、電池内での占有容積が過大となるのを抑制することができる。
【0027】
このような正極集電体は、厚さが50nm以上の腐食抑制膜を有することが好ましい。ここで、腐食抑制膜は、正極集電体若しくは後述する負極集電体、又はこれらの両方に設けられるものであるが、正極集電体に設けられることが好ましい。腐食抑制膜は、予め形成されたものであり、空気中に放置することにより表面に形成される酸化膜や、電池内の充放電に伴い形成される所謂、不動態皮膜は含まない。つまり、集電体表面に、蒸着、コート、スパッタ等の物理的、電気化学的手法によって形成した膜である。
【0028】
腐食抑制膜は、正極集電体の表面の全体に亘って設けてもよいが、正極活物質層を積層する部分を除いた部分に設けてもよい。即ち、正極活物質層は、腐食抑制膜を有しない正極集電体上に積層しても、また、腐食抑制膜を介して正極集電体上に積層してもよい。更に、腐食抑制膜は正極活物質層上に設けてもよいが、電解液との界面抵抗の上昇により、正極活物質層のリチウムイオンの吸蔵、放出を阻害しないことが好ましい。
【0029】
上記腐食抑制膜の厚さは、50nm以上であり、好ましくは、80nm以上、更に好ましくは、100nm以上である。また、腐食抑制膜の厚さは、正極活物質層の厚さと同等程度までとすることもできるが、5μm以下であることが好ましく、より好ましくは、1μm以下である。腐食抑制膜の厚さが、上記範囲であれば、正極集電体と電解液中の電解質との反応を抑制することができ、製造効率の低下を抑制することができる。上記空気中に放置することにより形成される酸化膜や、電池の充放電に伴い集電体上に形成される不動態皮膜は、その厚さが、10nm以下であることが多いが、10nm以下の厚さでは、電解質と集電体との反応を充分に抑制することは困難である。また、腐食抑制膜を正極集電体の全面に設ける場合は、正極活物質層を積層する部分と、これを積層しない部分で、その厚さを変更することもできる。
【0030】
上記腐食抑制膜は、フッ化リチウムを含有するものであり、炭酸リチウム等のリチウム化合物を含むことが、電解液に含まれる電解質等との反応を抑制する効果が高く、好ましい。
【0031】
上記腐食抑制膜の形成方法は、蒸着、スパッタ法、スピンコート法等により形成することができる。これらのうち、操作手順が簡単な蒸着が好ましい。集電体表面に腐食抑制膜を形成するのは、集電体に正極活物質層を形成する前後を問わない。具体的には、集電体表面の全面に亘って腐食抑制膜を形成した後、正極活物質層を形成してもよいが、集電体表面に正極活物質層を積層した後、腐食抑制膜を形成してもよい。
【0032】
また、腐食抑制膜を正極活物質層が積層されない正極集電体上に設ける場合は、正極集電体上に正極活物質層を形成した後に、正極活物質層をマスキングして、上述の方 法で腐食抑制膜を形成することが好ましい。あるいは、正極集電体上の正極活物質層を積層する部分をマスキングして腐食抑制膜を形成し、その後、腐食抑制膜を形成した部分をマスキングして正極活物質層を形成してもよい。
【0033】
上記正極は、正極活物質及び結着剤を、必要に応じて、導電補助材や、溶媒等を添加して、混合して得られる混合物を塗布液として、正極集電体上にドクターブレード法、ダイコーター法等により塗布したり、あるいは、混合物を圧着、圧延し、正極活物質層の形状に打ち抜き、正極集電体に圧着させて形成することができる。また、上記正極集電体上にCVD法、スパッタリング法で正極活物質層を成膜する方法や、予め正極活物質層を形成した後に、スパッタリング法等により正極集電体を成膜して形成することもできる。
【0034】
[負極]
負極は、負極活物質層と、これを積層する負極集電体とを有する。
【0035】
負極活物質層は、負極活物質を含有するものであればよく、負極活物質が負極用結着剤によって負極集電体に結着されてなることが好ましい。
【0036】
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な物質を用いることができる。具体的には、以下のものを挙げることができる。例えば、カーボンや黒鉛等の炭素材料、Al、Fe、P、Ti、Si、Pb、Sn、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Zn、La等の金属、これらの金属を含む、合金、又は酸化物等の化合物を用いることができる。これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよく、更に、1種又は2種以上の他の金属、若しくは非金属を含んでもよい。具体的には、スズ又はシリコンの酸化物や炭化物を挙げることができる。
【0037】
負極用結着剤としては、少量で負極活物質を結着でき、電解液に対して安定性を有し、電池内で上記負極活物質を一体化して保持できるものできるものが好ましく、具体的には、正極用結着剤として例示したものと同様のものを挙げることができ、ポリフッ化ビニリデンを用いることが好ましいことも同様である。使用する負極用結着剤の量は、トレードオフの関係にある十分な結着力と高エネルギー化の観点から、負極活物質100質量部に対して、5〜25質量部が好ましい。
【0038】
上記負極活物質層には、集電体と負極活物質の導電性を高くするため、導電補助材を含有させることができ、用いる導電補助材としては、正極活物質層に用いる導電補助材と同様のものを用いることができる。
【0039】
上記負極活物質を含む負極活物質層の厚さは、100〜140μmであることが好ましい。負極活物質層の厚さが上記範囲であれば、電池内での占有容積が過大となるのを抑制すると伴に、エネルギー密度の高い電池とすることができる。
【0040】
上記負極活物質層を固定する負極集電体は、電子伝導性に優れ、電池内で安定して存在し、負極活物質との密着性が高く、体積が小さく、密度が高い材質から選択されることが好ましい。かかる材質として、正極集電体と同様の材質を挙げることができ、その形状も正極集電体と同様の形状を挙げられる。
【0041】
負極集電体の厚さは、目安として8〜10μmを挙げることができる。負極集電体の厚さが上記範囲であれば、電池内での占有容積が過大となるのを抑制することができる。
【0042】
このような負極集電体は、正極集電体と同様に、厚さが50nm以上の腐食抑制膜を有するものとできる。負極集電体に形成する腐食抑制膜も、予め形成されたものであり、空気中に放置することにより表面に形成される酸化膜や、電池の充放電に伴い形成される不動態皮膜は含まない。負極集電体に形成する腐食抑制膜も、負極集電体の表面の全面に亘って設けてもよいが、負極活物質層を積層する部分を除いた部分に設けてもよい。即ち、負極活物質層は、腐食抑制膜を有しない負極集電体上に積層しても、また、腐食抑制膜を介して負極集電体上に積層してもよい。更に、腐食抑制膜は負極活物質層上に設けてもよいが、電解液との界面抵抗の上昇により、負極活物質層のリチウムイオンの吸蔵、放出を阻害しないことが好ましい。
【0043】
負極集電体に設ける腐食抑制膜も、正極集電体に設ける腐食抑制膜と同様の厚さ、即ち、50nm以上であり、好ましくは、80nm以上、更に好ましくは、100nm以上である。また、腐食抑制膜の厚さは、負極活物質層の厚さと同等程度までとすることもできるが、5μm以下であることが好ましく、より好ましくは、1μm以下であり、正極集電体に設ける腐食抑制膜と同様の組成を有するものを挙げることができ、同様方法で形成することができる。
【0044】
上記負極の製造方法は、上記正極の製造方法と同様に、負極活物質を含む塗布液を負極集電体上に塗布する方法、負極活物質を含み負極活物質層の形状に形成したものを負極集電体に圧着する方法、負極集電体上に負極活物質層を成膜する方法、予め形成した負極活物質層に、負極集電体を成膜して形成することもできる。
【0045】
[電解液]
電解液は、正極及び負極を浸漬して配置され、正極及び負極間の荷電体の移動を可能とするものであり、有機溶媒に電解質を溶解したものを用いる。有機溶媒としては、具体的には、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、エチレンサルファイト(ES)、プロパンサルトン(PS)、ブタンスルトン(BS)、Dioxathiolane-2,2-dioxide(DD)、スルホレン、3−メチルスルホレン、スルホラン(SL)、無水コハク酸(SUCAH)、無水プロピオン酸、無水酢酸、無水マレイン酸、ジアリルカーボネート(DAC)、ジフェニルジサルファイド(DPS)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、クロロエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメトキシエタン(DME)、ジメトキシメタン(DMM)、ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、メチルプロピルエーテル、エチルプロピルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルブチルエーテル、ジエチルエーテル、フェニルメチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、1,4−ジオキサン(DIOX)、1,3−ジオキソラン(DOL)、アセトニトリル、プロピオンニトリル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類等を挙げることができる。また、電解液の難燃効果を高めるために、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸トリオクチル、リン酸トリフェニル、Rv1-O-Rv2(Rv1,Rv2はそれぞれアルキル基又はフッ素アルキル基)構造をもつフッ素化エーテル、イオン液体、ホスファゼン等を混合させてもよい。これらの有機溶媒は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
これらのうち、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等が、特に好ましい。
【0047】
電解液に含まれる電解質の支持塩としては、具体的に、LiPF、LiI、LiBr、LiCl、LiAsF、LiAlCl、LiClO、LiBF、LiSbF、LiCFSO(略称:LiTFS)、LiCSO、LiN(FSO、LiN(CSO(略称:LiTFSI)、LiN(CSO(略称:LiBETI)、LiN(CFSO)(CSO)、LiN(CFSO)(CSO)、5員環や6員環を有するLiN(CFSO(CF)、LiN(CFSO(CF、LiPFの少なくとも一つのフッ素原子をフッ化アルキル基で置換したLiPF(CF)、LiPF(C)、LiPF(C)、LiPF(CF、LiPF(CF)(C)、LiPF(CF等のリチウム塩が挙げられる。
【0048】
また、電解質として、化学式(1)で表されるスルホニル化合物も用いることができる。
【0049】
【化1】
化学式(1)中、R、R、Rは、独立してハロゲン原子、又はフッ化アルキル基を示す。式(1)で表されるスルホニル化合物として、具体的には、LiC(CFSO、LiC(CSOを挙げることができる。
【0050】
上記リチウム塩やスルホニル化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、特に、トリフルオロメタンスルオン酸リチウム(LiTFS)や、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)を適用した電解液を用いた場合、4.5V(vsLi/Li)等の高電位においても、集電体に対する高い腐食抑制効果が得られる。
【0051】
有機溶媒中の電解質濃度としては、0.01mol/L以上、3mol/L以下であることが好ましく、より好ましくは、0.5mol/L以上、1.5mol/L以下である。電解質濃度がこの範囲であると、安全性の向上を図ることができ、信頼性が高く、環境負荷の軽減に寄与する電池を得ることができる。
【0052】
[セパレータ]
セパレータは、正極及び負極の接触を抑制し、荷電体の透過を阻害せず、電解液に対して耐久性を有するものであれば、いずれであってもよい。具体的な材質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系微多孔膜、セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフッカビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等を採用することができる。これらは、多孔質フィルム、織物、不織布等として用いることができる。
【0053】
セパレータの厚さは、例えば、20〜30μm等とすることが、電池内での占有容積が過大となるのを抑制することができる。
【0054】
[外装体]
外装体としては、上記正極及び負極、セパレータ、電解液を安定して保持可能な強度を有し、これらの物質に対して電気化学的に安定で、水密性を有するものが好ましい。具体的には、例えば、積層ラミネート型の二次電池の場合、外装体としては、アルミニウム、シリカをコーティングしたポリプロピレン、ポリエチレン等のラミネートフィルムを用いることができる。
【0055】
上記二次電池の形状は、円筒型、扁平捲回角型、積層角型、コイン型、扁平捲回ラミネート型、及び積層ラミネート型のいずれでもよい。
【0056】
上記二次電池の一例として、図1の分解構成図に示すコイン型二次電池を挙げることができる。図1に示すコイン型二次電池10は、負極活物質層4が負極集電体3に積層された負極と、正極活物質層6が正極集電体7に積層された正極とが、これらの接触を回避するセパレータ5を挟持して配置され、絶縁パッキン2を介して、図示しない電解液に満たされた外装体1内に収容されたものである。
【0057】
上記二次電池においては、腐食抑制膜を形成した集電体の腐食が抑制され、高エネルギー容量の電池に用いても、エネルギー容量の低下が抑制される。正極活物質が積層されていない部分のアルミニウム製の正極集電体上に、膜厚200nmのLiF膜を形成して得られた作用極、参照極、対極にリチウム金属を用い、1mol/LのLiTFSI又はLiTFSをEC:DECを3:7で含む有機溶媒に溶解した電解液を用いた三極セルを、3.0から4.3V(vsLi/Li+)までスイープさせたところ、それぞれ、図2に示すように、4.3V電圧印加時でも、電流値の急激な上昇が観察されない。これに対し、フッ化リチウム膜を形成しない集電体を用い、1mol/LのLiTFSIを含む電解液を用いた場合、4.0V(vsLi/Li+)付近に電流値に急激な上昇が観察される。このことから、この電流値の急激な上昇は、表面にフッ化リチウム膜を有さないアルミニウムがLiTFSIと反応したことに起因すると考えられ、アルミニウム集電体のフッ化リチウム膜は、集電体とLiTFSIとの反応を抑制することが分かる。
【0058】
本発明の蓄電デバイスを適用した一実施態様として、電気二重層キャパシタを挙げることができる。
【0059】
上記電気二重層キャパシタの一例として、図3の構成図に示す電気二重層キャパシタを挙げることができる。図3に示す電気二重層キャパシタ100は、電極12及び13の間に、セパレータ14を介在させ、缶15及びキャップ16からなる外装体内に、図示しない電解液と共に収納する。缶15及びキャップ16は、それぞれ電極12及び13に対して集電体として機能する。缶15及びキャップ16の内壁面に、電極液内に含まれる溶媒や電解質に対する反応を抑制する腐食抑制膜(図示せず)を有する。
【0060】
電極12、13は酸化リチウム等、リチウム化合物を混合した活性炭と、カーボンブラック等の導電剤、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、カルボキシメチルセルロース等をバインダーとして混合して形成したものを挙げることができる。セパレータは上記二次電池に用いるセパレータと同様の材質で形成することができ、セルロース等を好適に用いることができる。
【0061】
集電体を構成する缶15とそのキャップ16も、二次電池と同様のものを用いることができるが、ステンレス鋼等を用いることが好ましい。集電体上の腐食抑制膜としては、フッ化リチウム膜等を適用することができ、空気中に放置されることにより形成される酸化膜や、キャパシタ内の電気化学反応により形成されたものではなく、蒸着、塗布等で形成したものである。その厚さは、50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、5μm以下、より好ましくは1μm以下である。
【0062】
また、電解液も、上記二次電池と同様の有機溶媒と電解質を含有するものを用いることができ、具体的には、プロピレンカーボネートにLiTFSI 、LiTFS、LiPF6等を1mol/L濃度で溶解したものを用いることができる。
【0063】
このような電気二重層キャパシタは、集電体と電解液に含まれる電解質との反応が抑制され、エネルギー容量の低下を抑制し、安全性に優れたものである。
【実施例】
【0064】
以下に、本発明の蓄電デバイスを詳細に説明する。
[実施例1]
[正極の作製]
正極活物質として、リチウムマンガン複合酸化物(LiMn)系材料に、導電剤としてVGCF(昭和電工(株)製)を混合し、これをN−メチルピロリドン(NMP)に分散させてスラリーとした。正極集電体としてのアルミニウム箔に、スラリーを塗布し、乾燥し、直径12mmの電極を調製した。
【0065】
蒸着装置を用いて、正極活物質層を形成したアルミニウム集電体を蒸着装置内にセットし、正極活物質層上に金属箔を配置してマスクした。装置内を真空に保って、フッ化リチウムを充填したルツボを加熱し、集電体のマスクをしなかった表面上に、フッ化リチウムを成膜した。蒸着装置内部に配置した水晶振動子の重量変化から、成膜を終了し、膜厚100nmのフッ化リチウム膜を得た。正極活物質層が積層されていない部分がフッ化リチウムの腐食抑制膜で被覆された集電体を有する正極を得た。
【0066】
[負極の作製]
負極活物質として、黒鉛系材料をN−メチルピロリドン(NMP)に分散させてスラリーとした。負極集電体としての銅箔に、スラリーを塗布し、乾燥し、直径12mmの電極を作製した。
【0067】
[電解液の調製]
ドライルーム中で、有機溶媒EC:DEC(30:70)に、1mol/LのLiTFSIを溶解した電解液を作製した。
【0068】
[コイン型二次電池の作製]
得られた正極を、集電体作用を有するステンレスのコインセル受型上に置き、多孔質のポリエチレンフィルムからなるセパレータ4を挟んで得られた負極と重ね合わせ電極積層体を得た。得られた電極積層体に、上記の方法で得られた電解液を注入し、真空含浸させた。十分に含浸させて電極及びセパレータの空隙を電解液で埋めた後、絶縁パッキンと、集電体作用を有するコインセル受型とを重ね合わせ、専用のかしめ機で外側をステンレス外装で覆って一体化させて、図1に示すコイン型二次電池を作製した。得られたコイン型リチウム二次電池を用いて、以下の方法により初回放電容量を測定した。結果を表1に示す。
【0069】
[初回放電容量]
作製したコイン型のリチウム二次電池に、0.073mAの電流で、上限電位は4.2V、下限電位は3.0Vで初回放電を行った。放電量の測定値から正極活物質の単位質量当りに換算し、初回放電容量を求めた。
【0070】
[実施例2]
正極のアルミニウム集電体に形成したフッ化リチウム膜の膜厚を、200nmに変更した以外は、実施例1と同様にコイン型リチウム二次電池を作製し、初回放電容量を求めた。結果を表1に示す。
【0071】
[実施例3]
正極のアルミニウム集電体に形成したフッ化リチウム膜の膜厚を、500nmに変更した以外は、実施例1と同様にコイン型リチウム二次電池を作製し、初回放電容量を求めた。結果を表1に示す。
【0072】
[実施例4]
LiTFSIに変えてLiPFを溶解した電解液を用いた以外は、実施例1と同様にコイン型リチウム二次電池を作製し、初回放電容量を求めた。結果を表1に示す。
【0073】
[比較例1]
正極のアルミニウム集電体にフッ化リチウム膜を形成しなかった以外は、実施例1と同様にコイン型リチウム二次電池を作製し、初回放電容量を求めた。結果を表1に示す。
【0074】
[比較例2]
正極のアルミニウム集電体にフッ化リチウム膜を形成せず、LiTFSIに変えてLiPFを溶解した電解液を用いた以外は、実施例1と同様にコイン型リチウム二次電池を作製し、初回放電容量を求めた。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
また、支持塩としてLiPFを用いた場合も、フッ化リチウム膜を有するアルミニウム集電体を用いることにより、初回の放電容量が向上する(実施例4、比較例2)。これは、LiTFSIを用いた場合と同様に、フッ化リチウム膜がLiPFとアルミニウム集電体の反応を抑制することによると考えられる。
【0077】
本発明により、集電体に形成した腐食抑制膜が、電圧印加時に集電体と電解液に含まれる電解質との反応を抑制することから、電解質を含有する電解液や、集電体の選択の幅を広げることができ、蓄電デバイスの設計条件の緩和を図ることができる。
【0078】
本発明は、特願2011−2199の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した総ての事項をその内容として含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、電源を必要とするあらゆる産業分野、並びに電気的エネルギーの輸送、貯蔵および供給に関する産業分野にて利用することができる。具体的には、携帯電話、ノートパソコン等のモバイル機器の電源;電気自動車、ハイブリッドカー、電動バイク、電動アシスト自転車等の電動車両、電車や衛星や潜水艦等の移動・輸送用媒体の電源;UPS等のバックアップ電源;太陽光発電、風力発電等で発電した電力を貯める蓄電設備;等に利用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 外装体
3 負極集電体
4 負極活物質層
5 セパレータ
6 正極活物質層
7 正極集電体
10 コイン型二次電池
図1
図2
図3