特許第5987727号(P5987727)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5987727薬剤添加量制御方法および薬剤添加量制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5987727
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】薬剤添加量制御方法および薬剤添加量制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 21/00 20060101AFI20160825BHJP
【FI】
   G05D21/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-34923(P2013-34923)
(22)【出願日】2013年2月25日
(65)【公開番号】特開2014-164517(P2014-164517A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 江梨
(72)【発明者】
【氏名】藤原 茂樹
【審査官】 稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−106224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が流通する反応ゾーンの入口部において、前記液体に添加する薬剤の添加量を、前記液体の流通経路上の目標地点における前記薬剤の残留濃度が目標濃度以上となるよう制御する方法であって、(1)前記反応ゾーンが完全混合型であり、該反応ゾーンにおいて前記薬剤の消費がないと仮定した場合に、前記薬剤を前記目標濃度以上の任意の濃度Aで添加したときの、前記目標地点における前記薬剤の残留濃度の経時変化を演算する残留濃度演算工程と、(2)前記薬剤を前記濃度Aで実際に添加したときの、前記目標地点における前記薬剤の残留濃度の経時変化を測定する残留濃度測定工程と、(3)前記残留濃度測定工程において測定された前記薬剤の残留濃度が、前記目標濃度に到達したあるいは到達したと推測される時点に対応する時点における、前記残留濃度演算工程での残留濃度演算値を求め、該残留濃度演算値を添加濃度指令値として、この添加濃度指令値と反応ゾーンを流れる液体の流量とに基づき前記薬剤の添加量を決定する薬剤添加量決定工程とを有し、前記目標地点の薬剤の残留濃度測定値が定常となっても残留濃度が目標濃度に到達しない場合、前記残留濃度演算工程、前記残留濃度測定工程、および前記薬剤添加量決定工程を、添加する薬剤の濃度を当初の濃度Aよりも高濃度として繰り返すことを特徴とする薬剤添加量制御方法。
【請求項2】
液体が流通する反応ゾーンの入口部において、前記液体に添加する薬剤の添加量を、前記液体の流通経路上の目標地点における前記薬剤の残留濃度が目標濃度以上となるよう制御する装置であって、(1)前記反応ゾーンが完全混合型であり、該反応ゾーンにおいて前記薬剤の消費がないと仮定した場合に、前記薬剤を前記目標濃度以上の任意の濃度Aで添加したときの、前記目標地点における前記薬剤の残留濃度の経時変化を演算する残留濃度演算手段と、(2)前記薬剤を前記濃度Aで実際に添加したときの、前記目標地点における前記薬剤の残留濃度の経時変化を測定する残留濃度測定手段と、(3)前記残留濃度測定手段によって測定された前記薬剤の残留濃度が、前記目標濃度に到達したあるいは到達したと推測される時点に対応する時点における、前記残留濃度演算手段による残留濃度演算値を求め、該残留濃度演算値を添加濃度指令値として、この添加濃度指令値と反応ゾーンを流れる液体の流量とに基づき前記薬剤の添加量を制御する薬剤添加量制御手段とを有し、前記目標地点の薬剤の残留濃度測定値が定常となっても残留濃度が目標濃度に到達しない場合、前記残留濃度演算手段、前記残留濃度測定手段、および前記薬剤添加量制御手段を用いる制御を、添加する薬剤の濃度を当初の濃度Aよりも高濃度として繰り返すことを特徴とする薬剤添加量制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤添加量制御方法および薬剤添加量制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薬剤の添加量を制御する技術がある。例えば、特許文献1には、薬液供給装置から所定量の次亜塩素酸ナトリウムが供給されたライン中の液体をサンプリングし、サンプリングした試料における次亜塩素酸ナトリウム濃度の減衰を測定し、該測定データに基づいて薬液供給装置からラインへ供給する次亜塩素酸ナトリウムの供給量を調節することを含むバラスト水の制御方法、並びに、その制御方法を用いたバラスト水処理システムの技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−106224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
薬剤の添加量の制御について、なお改良の余地がある。例えば、薬剤の添加量を適量に調節するために要する時間を短縮できることが望まれている。
【0005】
本発明の目的は、薬剤の添加量を適量に調節するために要する時間を短縮することができる薬剤添加量制御方法および薬剤添加量制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の薬剤添加量制御方法は、液体が流通する反応ゾーンの入口部において、前記液体に添加する薬剤の添加量を、前記液体の流通経路上の目標地点における前記薬剤の残留濃度が目標濃度以上となるよう制御する方法であって、(1)前記反応ゾーンが完全混合型であり、該反応ゾーンにおいて前記薬剤の消費がないと仮定した場合に、前記薬剤を前記目標濃度以上の任意の濃度Aで添加したときの、前記目標地点における前記薬剤の残留濃度の経時変化を演算する残留濃度演算工程と、(2)前記薬剤を前記濃度Aで実際に添加したときの、前記目標地点における前記薬剤の残留濃度の経時変化を測定する残留濃度測定工程と、(3)前記残留濃度測定工程において測定された前記薬剤の残留濃度が、前記目標濃度に到達したあるいは到達したと推測される時点に対応する時点における、前記残留濃度演算工程での残留濃度演算値を求め、該残留濃度演算値を添加濃度指令値として、この添加濃度指令値と反応ゾーンを流れる液体の流量とに基づき前記薬剤の添加量を決定する薬剤添加量決定工程とを有し、前記目標地点の薬剤の残留濃度測定値が定常となっても残留濃度が目標濃度に到達しない場合、前記残留濃度演算工程、前記残留濃度測定工程、および前記薬剤添加量決定工程を、添加する薬剤の濃度を当初の濃度Aよりも高濃度として繰り返すことを特徴とする。
【0007】
本発明の薬剤添加量制御装置は、液体が流通する反応ゾーンの入口部において、前記液体に添加する薬剤の添加量を、前記液体の流通経路上の目標地点における前記薬剤の残留濃度が目標濃度以上となるよう制御する装置であって、(1)前記反応ゾーンが完全混合型であり、該反応ゾーンにおいて前記薬剤の消費がないと仮定した場合に、前記薬剤を前記目標濃度以上の任意の濃度Aで添加したときの、前記目標地点における前記薬剤の残留濃度の経時変化を演算する残留濃度演算手段と、(2)前記薬剤を前記濃度Aで実際に添加したときの、前記目標地点における前記薬剤の残留濃度の経時変化を測定する残留濃度測定手段と、(3)前記残留濃度測定手段によって測定された前記薬剤の残留濃度が、前記目標濃度に到達したあるいは到達したと推測される時点に対応する時点における、前記残留濃度演算手段による残留濃度演算値を求め、該残留濃度演算値を添加濃度指令値として、この添加濃度指令値と反応ゾーンを流れる液体の流量とに基づき前記薬剤の添加量を制御する薬剤添加量制御手段とを有し、前記目標地点の薬剤の残留濃度測定値が定常となっても残留濃度が目標濃度に到達しない場合、前記残留濃度演算手段、前記残留濃度測定手段、および前記薬剤添加量制御手段を用いる制御を、添加する薬剤の濃度を当初の濃度Aよりも高濃度として繰り返すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る薬剤添加量制御方法は、液体が流通する反応ゾーンの入口部において、液体に添加する薬剤の添加量を、液体の流通経路上の目標地点における薬剤の残留濃度が目標濃度以上となるよう制御する方法であって、(1)反応ゾーンが完全混合型であり、該反応ゾーンにおいて薬剤の消費がないと仮定した場合に、薬剤を目標濃度以上の任意の濃度Aで添加したときの、目標地点における薬剤の残留濃度の経時変化を演算する残留濃度演算工程と、(2)薬剤を濃度Aで実際に添加したときの、目標地点における薬剤の残留濃度の経時変化を測定する残留濃度測定工程と、(3)残留濃度測定工程において測定された薬剤の残留濃度が、目標濃度に到達したあるいは到達したと推測される時点に対応する時点における、残留濃度演算工程での残留濃度演算値を求め、該演算値に基づき薬剤の添加量を決定する薬剤添加量決定工程とを有する。本発明に係る薬剤添加量制御方法によれば、薬剤の添加量を適量に調節するために要する時間を短縮することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態の制御に係るフローチャートである。
図2図2は、実施形態に係るシェールガス随伴水処理システムの概要図である。
図3図3は、反応ゾーンの模式図である。
図4図4は、入口部の濃度推移を示す図である。
図5図5は、出口部の濃度推移を示す図である。
図6図6は、実施形態の薬剤添加量決定方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態に係る薬剤添加量制御方法および薬剤添加量制御装置につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0011】
[実施形態]
図1から図6を参照して、実施形態について説明する。本実施形態は、薬剤添加量制御方法および薬剤添加量制御装置に関する。図1は、本発明の実施形態の制御に係るフローチャート、図2は、実施形態に係るシェールガス随伴水処理システムの概要図、図3は、反応ゾーンの模式図、図4は、入口部の濃度推移を示す図、図5は、出口部の濃度推移を示す図、図6は、実施形態の薬剤添加量決定方法の説明図である。
【0012】
図2に示すシェールガス随伴水処理システム100は、シェールガス生産用の坑井に圧入するフラクチャリング流体の処理システムである。シェールガスの生産にあたっては、坑井からフラクチャリング流体を圧入し、シェールガスを含む頁岩層を破砕する。頁岩層から放出された天然ガスは、フラクチャリング流体と共に坑井を介して排出される。坑井から回収されたフラクチャリング流体からは、気液分離により天然ガスが回収される。
【0013】
シェールガス随伴水処理システム100は、供給路1と、薬剤注入口2と、薬剤タンク3と、排出路4と、薬剤供給パイプ5と、薬剤供給量制御機構6と、残留濃度演算手段10と、残留濃度測定手段11と、薬剤添加量制御手段12とを含んで構成されている。供給路1は、坑井21にフラクチャリング流体を導く流通経路である。供給路1には、薬剤注入口2が形成されている。薬剤注入口2は、薬剤供給パイプ5を介して薬剤タンク3と連通している。薬剤タンク3は、薬剤を貯留するタンクである。本実施形態では、薬剤タンク3内にグルタルアルデヒドが貯留されている。薬剤タンク3内のグルタルアルデヒドは、薬剤供給パイプ5を介して薬剤注入口2から供給路1内のフラクチャリング流体に添加される。薬剤供給パイプ5には、薬剤供給量制御機構6が設けられている。薬剤供給量制御機構6は、流量制御弁や薬剤供給ポンプ等を含んで構成されている。
【0014】
供給路1のフラクチャリング流体は、ポンプ等によって坑井21に圧流され、頁岩層22を破砕する。破砕された頁岩層22から排出されるシェールガスは、坑井21内をフラクチャリング流体と共に流通し、排出路4を介して排出される。排出路4は、坑井21内のフラクチャリング流体およびシェールガスを排出する流通経路である。排出路4は、フラクチャリング流体を排出する液体排出路4Aとシェールガス等の気体を排出する気体排出路4Bとに分岐している。坑井21から排出されるフラクチャリング流体とシェールガスとの混合流体は、気液分離され、フラクチャリング流体は液体排出路4Aに、シェールガスは気体排出路4Bにそれぞれ送り込まれる。
【0015】
フラクチャリング流体には、殺菌剤や腐食防止剤等の薬剤が添加される。本実施形態のシェールガス随伴水処理システム100では、フラクチャリング流体に対して、グルタルアルデヒドが添加される。薬剤がその効果を適度に発揮できるように、フラクチャリング流体における薬剤の濃度を適切に調節できることが望ましい。例えば、坑井21から流出するフラクチャリング流体における薬剤の残留濃度を目標濃度に制御できることが望ましい。
【0016】
反応ゾーンから流出する液体における薬剤の残留濃度を制御する場合、反応ゾーンの入口部において薬剤を添加し、反応ゾーンの出口部の残留濃度を検出して薬剤の添加量を調節することが考えられる。従来は、例えば、反応ゾーンの入口部において薬剤の添加を開始すると共に反応ゾーンの出口部の残留濃度の推移を測定し、残留濃度が定常となったときの残留濃度に基づいて、薬剤の添加量を調節する添加量制御方法が行われていた。しかしながら、この制御方法では、残留濃度が定常状態となるまで待たなければならず、添加量の調節に多くの時間を要するという問題があった。
【0017】
本実施形態に係る薬剤添加量制御方法は、液体が流通する反応ゾーン20の入口部20Aにおいて、液体に添加する薬剤の添加量を、液体の流通経路上の目標地点における薬剤の残留濃度が目標濃度以上となるように制御する方法である。
【0018】
本実施形態に係る薬剤添加量制御方法は、以下に詳しく説明するように、(1)薬剤の消費がないと仮定して、目標濃度以上の濃度Aで薬剤を添加したときの反応ゾーンにおける薬剤の残留濃度の経時変化(図6の未消費残留濃度Dc)を演算する残留濃度演算工程と、(2)薬剤を実際に添加したときの残留濃度の経時変化(図6の残留濃度測定値Dr)を測定する残留濃度測定工程と、(3)残留濃度測定工程で測定された薬剤の残留濃度が目標濃度(図6の残留濃度目標値Dt)に到達したあるいは到達したと推測される時点(図6の時刻t1)における残留濃度演算工程での残留濃度演算値を求め、この残留濃度演算値を添加濃度指令値(図6の添加濃度指令値Din)として、この添加濃度指令値Dinと反応ゾーンを流れる液体の流量とに基づき、薬剤の添加量を決定する薬剤添加量決定工程とを有する。本実施形態に係る薬剤添加量制御方法によれば、薬剤の添加量を適量に調節するために要する時間の短縮を図ることができる。
【0019】
また、本実施形態に係る薬剤添加量制御装置1−1は、図2に示すように、薬剤の消費がないと仮定して、目標濃度以上の濃度Aで薬剤を添加したときの反応ゾーン20における薬剤の残留濃度の経時変化を演算する残留濃度演算手段10と、薬剤を実際に添加したときの残留濃度の経時変化(図6の残留濃度測定値Dr)を測定する残留濃度測定手段11と、残留濃度測定手段によって測定された薬剤の残留濃度が目標濃度(図6の残留濃度目標値Dt)に到達した時点(図6の時刻t1)に基づいて薬剤の添加量を制御する薬剤添加量制御手段12とを有する。本実施形態に係る薬剤添加量制御装置1−1によれば、薬剤の添加量を適量に調節するために要する時間の短縮を図ることができる。
【0020】
薬剤添加量制御装置1−1は、液体が流通する反応ゾーン20の入口部20Aにおいて、液体に添加する薬剤の添加量を、液体の流通経路上の目標地点における薬剤の残留濃度が目標濃度以上となるように制御する装置である。薬剤添加量制御装置1−1は、残留濃度演算手段10と、残留濃度測定手段11と、薬剤添加量制御手段12とを含んで構成されている。
【0021】
本実施形態の反応ゾーン20は、供給路1と、坑井21と、頁岩層22と、排出路4とを含んで構成されている。供給路1は反応ゾーン20の入口部20Aに相当し、排出路4は反応ゾーン20の出口部20Bに相当する。
【0022】
残留濃度測定手段11は、出口部20Bにおけるフラクチャリング流体の薬剤濃度を測定する。残留濃度測定手段11は、薬剤を濃度Aで実際に添加したときの、目標地点における薬剤の残留濃度の経時変化を測定することができる。本実施形態の残留濃度測定手段11は、吸光光度計であり、出口部20Bにおけるフラクチャリング流体の吸光光度(E280)を連続的に測定する。残留濃度測定手段11によって測定された吸光光度は、例えば残留濃度演算手段10によってグルタルアルデヒドの濃度に換算される。
【0023】
残留濃度演算手段10は、反応ゾーン20が完全混合型であり、かつ反応ゾーン20において薬剤の消費がないと仮定した場合の目標地点における薬剤の残留濃度の任意の時点における値および残留濃度の経時変化を演算する機能を有する。より具体的には、残留濃度演算手段10は、薬剤を目標濃度以上の任意の濃度Aでフラクチャリング流体に添加したときの、目標地点における残留濃度の任意時点の値および経時変化を演算する。
【0024】
図3には、反応ゾーン20が模式的に示されている。反応ゾーン20には、入口部20Aから一定濃度Coinの薬剤を含むフラクチャリング流体が流入する。反応ゾーン20が薬剤を含まないフラクチャリング流体で満たされた状態から、時刻t=0に一定濃度Coinの薬剤を含むフラクチャリング流体の流入が開始する。反応ゾーン20が完全混合型であると仮定すると、出口部20Bでの薬剤の残留濃度の経時変化を示す流出濃度関数F(t)は、下記[数1]で表される。
【数1】
ここで、tは、薬剤注入開始からの経過時間、τは、入口部20Aから出口部20Bまでの薬剤の滞留時間であり、下記式(1)で表される。
τ=(反応ゾーン20の体積)/(フラクチャリング流体の流量)…(1)
【0025】
図4は、入口部20Aの薬剤濃度の推移を示す図、図5は、出口部20Bの薬剤濃度の推移を示す図である。図4に示すように、時刻t=0に薬剤を含むフラクチャリング流体の流入が開始すると、入口部20Aで検出される濃度は、一定濃度Coinで推移する。図5の未消費残留濃度Dcは、上記[数1]によって算出された濃度であり、他成分との反応や熱によって薬剤が消費されないと仮定した場合の出口部20Bの薬剤濃度である。実際には、汚濁成分や熱との反応によって、フラクチャリング流体の薬剤濃度は低下する。図5に示す残留濃度測定値Drは、残留濃度測定手段11によって測定される出口部20Bの薬剤濃度の一例である。
【0026】
残留濃度測定手段11は、薬剤を濃度Aで実際に添加したときの、目標地点における薬剤の残留濃度の経時変化を測定する。本実施形態では、出口部20Bが目標地点である。残留濃度測定手段11は、所定の間隔で残留濃度を測定し測定結果を示す信号を残留濃度演算手段10に出力する。残留濃度演算手段10は、残留濃度測定手段11によって測定された残留濃度が、出口部20Bにおける目標濃度に到達した時点あるいは到達したと推測される時点を検出する。残留濃度演算手段10は、測定された残留濃度が、目標濃度と一致する場合、当該残留濃度が測定された時点を目標濃度に到達した時点として検出する。
【0027】
また、残留濃度演算手段10は、測定された残留濃度が、目標濃度を超過した場合、残留濃度が目標濃度に到達したと推測される時点を算出する。残留濃度演算手段10は、例えば、補間により残留濃度が目標濃度に到達した時点を推測してもよく、残留濃度の測定結果から残留濃度の推移を示す関数を決定し、当該関数に基づいて残留濃度が目標濃度に到達した時点を推測してもよい。
【0028】
薬剤添加量制御手段12は、残留濃度測定手段11によって測定された薬剤の残留濃度が、目標濃度に到達したあるいは到達したと推測される時点に対応する時点における、残留濃度演算手段10による残留濃度演算値を求め、該演算値に基づき薬剤の添加量を制御する。以下に説明するように、薬剤添加量制御手段12は、残留濃度が目標濃度に到達したあるいは到達したと推測される時点(以下、単に「目標到達時点t1」と称する。)から添加濃度指令値Dinを決定する。
【0029】
図6には、坑井21の体積が20,000[m3]、フラクチャリング流体の出口部20Bにおける流量が10,000[m3/日]、残留濃度目標値Dtが5[mg/L]、濃度Aが10[mg/L]の条件で決定される添加濃度指令値Dinの一例が示されている。目標到達時点t1は、測定された残留濃度が残留濃度目標値Dt(5[mg/L])に到達したあるいは到達したと推測される時点である。図6では、グルタルアルデヒドの添加および残留濃度の測定を開始してから1.4日後に残留濃度が目標濃度に到達している。
【0030】
図6によれば、目標到達時点t1に対応する時点における未消費残留濃度Dcの値(8.6[mg/L])が、当該対応する時点における残留濃度演算手段10による残留濃度演算値である。つまり、反応ゾーン20でグルタルアルデヒドの消費がないとすれば、1.4日後の出口部20Bにおける薬剤の残留濃度は8.6[mg/L]であると推測される。これより、入口部20Aで反応ゾーン20に8.6[mg/L]のグルタルアルデヒドを注入すれば、出口部20Bのグルタルアルデヒドの濃度が目標濃度の5[mg/L]になると推定できる。本実施形態では、目標到達時点t1の残留濃度演算値が、添加濃度指令値Dinとされる。薬剤添加量制御手段12は、添加濃度指令値Dinを実現するように、薬剤供給量制御機構6によってフラクチャリング流体に対する薬剤の添加量を制御する。
【0031】
本実施形態に係る薬剤添加量制御装置1−1は、目標到達時点t1に基づいて薬剤の添加量を制御する。これにより、測定される残留濃度が定常状態となったことを確認した時刻t2以降において薬剤の添加量を調節するよりも早いタイミングで薬剤の添加量を調節することができる。よって、薬剤の添加量を速やかに適切な添加量に調節することができる。
【0032】
図1を参照して、本実施形態に係る薬剤添加量制御方法について説明する。図1に示す制御フローは、フラクチャリング流体に対する薬剤の添加量を調節するときに実行されるものであり、例えば、フラクチャリング流体の圧入を開始するときに実行されてもよく、所定の間隔で実行されてもよく、残留濃度測定値Drと残留濃度目標値Dtとの差異に基づいて実行されてもよい。
【0033】
まず、ステップS10では、配管への坑水流入が開始される。フラクチャリング流体を圧送するポンプが駆動されて、供給路1を介して坑井21にフラクチャリング流体の圧送が開始される。フラクチャリング流体の供給開始や停止、供給量の制御は、例えば、図示しない流体供給量制御手段によってなされてもよく、薬剤添加量制御手段12によってなされてもよい。本実施形態では、フラクチャリング流体が一定の流量で坑井21に圧入される。ステップS10が実行されると、ステップS20に進む。
【0034】
ステップS20では、薬剤添加量制御手段12により、入口部20Aにおいてグルタルアルデヒドの注入が開始される。薬剤添加量制御手段12は、薬剤供給量制御機構6に対して、フラクチャリング流体に対するグルタルアルデヒドの注入を指令する。薬剤添加量制御手段12は、薬剤供給量制御機構6に対して、フラクチャリング流体中のグルタルアルデヒド濃度を濃度A[mg/L]とするように、薬剤添加量の指令値を出力する。
【0035】
濃度Aは、フラクチャリング流体に対するグルタルアルデヒドの添加量を決定する際に反応ゾーン20に流入させる流体の初期添加濃度であり、残留濃度目標値Dt以上の任意の濃度とすることができる。本実施形態では、残留濃度目標値Dtが5mg/Lであるのに対して、濃度Aは10mg/Lに設定されている。濃度Aは、残留濃度目標値Dtに対する倍率で定められてもよく、残留濃度目標値Dtに対する差分で定められてもよい。例えば、濃度Aは、残留濃度目標値Dtに対して2倍の濃度として定められてもよく、残留濃度目標値Dtに対して所定の濃度(一例として5[mg/L])だけ大きな濃度として定められてもよい。ステップS20が実行されると、ステップS30に進む。
【0036】
ステップS30では、残留濃度測定手段11による出口部20Bの吸光光度の測定が開始される。残留濃度測定手段11は、薬剤添加量制御手段12によってグルタルアルデヒドの注入が開始されると、フラクチャリング流体の吸光光度の測定を開始する。残留濃度測定手段11は、吸光光度(E280)の測定を連続的に実行し、測定結果を示す信号を残留濃度演算手段10に対して出力する。ステップS30は、薬剤を濃度Aで実際に添加したときの、目標地点における薬剤の残留濃度の経時変化を測定する残留濃度測定工程に対応している。ステップS30が実行されると、ステップS40に進む。
【0037】
ステップS40では、残留濃度演算手段10により、出口部20Bの残留濃度が残留濃度目標値Dtに到達したか否かが判定される。残留濃度測定手段11によって測定された吸光光度から換算されたグルタルアルデヒドの残留濃度が、残留濃度目標値Dt以上である場合、ステップS40で肯定判定がなされる。ステップS40の判定の結果、出口部20Bにおけるグルタルアルデヒドの残留濃度が残留濃度目標値Dtに到達したと判定された場合(ステップS40−Y)にはステップS50に進み、そうでない場合(ステップS40−N)にはステップS40の判定が繰り返される。
【0038】
ステップS50では、残留濃度演算手段10により、目標到達時点t1等の演算がなされる。残留濃度演算手段10は、出口部20Bの残留濃度が残留濃度目標値Dtに到達した時点を演算する。ステップS40において肯定判定を行ったときの吸光光度から換算されたグルタルアルデヒドの残留濃度が、残留濃度目標値Dtと等しい場合、当該吸光光度を測定した時点が残留濃度が残留濃度目標値Dtに到達した時点とされる。一方、ステップS40において肯定判定を行ったときの吸光光度から換算されたグルタルアルデヒドの残留濃度が、残留濃度目標値Dtを超えている場合、当該吸光光度を測定した時点よりも前の時点において残留濃度が残留濃度目標値Dtに到達したと推測される。この場合、それまでに測定された残留濃度の推移に基づいて、残留濃度が残留濃度目標値Dtに到達したと推測される時点が決定される。
【0039】
また、残留濃度演算手段10は、反応ゾーン20が完全混合型であり、反応ゾーン20において薬剤の消費がないと仮定した場合に、薬剤を濃度Aで添加したときの、出口部20Bにおける薬剤の残留濃度の経時変化を演算する。すなわち、本実施形態では、ステップS50において残留濃度演算工程が実行される。残留濃度演算手段10によって演算された残留濃度の経時変化は、薬剤添加量制御手段12に出力される。ステップS50が実行されると、ステップS60に進む。
【0040】
ステップS60では、薬剤添加量制御手段12によって、最適注入濃度が決定される。薬剤添加量制御手段12は、ステップS40において測定された薬剤の残留濃度が、残留濃度目標値Dtに到達したあるいは到達したと推測される時点に対応する時点における、残留濃度演算工程での残留濃度演算値を求める。図6を参照して説明すると、残留濃度測定値Drが残留濃度目標値Dtに到達したあるいは到達したと推測される時点が、目標到達時点t1である。目標到達時点t1に対応する時点における未消費残留濃度Dcの値が、添加濃度指令値Dinとなる。薬剤添加量制御手段12は、添加濃度指令値Dinに基づき薬剤の添加量を決定する。すなわち、本実施形態では、ステップS60において、薬剤添加量決定工程が実行される。
【0041】
薬剤添加量制御手段12は、例えば、供給路1を流れるフラクチャリング流体の流量Q[L/sec]と、添加濃度指令値Din[mg/L]とに基づいて、単位時間あたりの薬剤の添加量W[mg/sec]を下記式(2)により決定する。
W=DinQ…(2)
【0042】
薬剤添加量制御手段12は、薬剤注入口2からフラクチャリング流体に対して注入する薬剤の添加量を決定された添加量Wとするように、薬剤供給量制御機構6を制御する。ステップS60が実行されると、本制御フローは終了する。
【0043】
本実施形態に係る薬剤添加量制御方法によれば、薬剤を濃度Aで添加した場合に目標地点の薬剤の残留濃度が目標濃度に到達した時点で薬剤添加量を決定することが可能となる。これにより、薬剤の残留濃度が定常となる前に適切な薬剤添加量を決定することができる。よって、本実施形態の薬剤添加量制御方法によれば、薬剤の添加量を適量に調節するために要する時間を短縮することができる。
【0044】
また、本実施形態に係る薬剤添加量制御装置1−1によれば、薬剤を濃度Aで添加した場合に目標地点の薬剤の残留濃度が目標濃度に到達した時点で薬剤の添加量を調節することができる。これにより、薬剤の残留濃度が定常となる前に適切な薬剤添加量に制御することができる。よって、本実施形態の薬剤添加量制御装置1−1によれば、薬剤の残留濃度を残留濃度目標値Dtとするための薬剤添加量の制御に要する時間を短縮することができる。
【0045】
なお、添加濃度指令値Dinを決定する際の薬剤の濃度Aに上限が設けられてもよい。例えば、出口部20Bから排出される液体における薬剤の残留濃度に許容される上限が定められている場合、濃度Aは、当該上限の濃度以下とされることが望ましい。
【0046】
残留濃度演算工程と残留濃度測定工程の実行順序は、例示したものには限定されない。本実施形態では、残留濃度測定工程(ステップS30)が残留濃度演算工程(ステップS50)よりも先に実行されたが、これに代えて、残留濃度演算工程が残留濃度測定工程よりも先に実行されてもよい。また、残留濃度測定工程と残留濃度演算工程が並行して実行されてもよい。
【0047】
[実施形態の第1変形例]
上記実施形態では、残留濃度演算手段10は、目標地点における薬剤の残留濃度の経時変化を演算したが、これに代えて、任意の時点での目標地点における薬剤の残留濃度を演算するようにしてもよい。例えば、残留濃度演算手段10は、目標到達時点t1が与えられると、目標到達時点t1における目標地点の薬剤の残留濃度を演算するものであってもよい。
【0048】
[実施形態の第2変形例]
上記実施形態では、残留濃度測定手段11が、フラクチャリング流体の吸光光度に基づいてグルタルアルデヒドの残留濃度を測定したが、残留濃度の測定方法はこれには限定されない。残留濃度測定手段11は、他の方法により薬剤の残留濃度を測定するものであってもよい。
【0049】
上記実施形態では、添加される薬剤がグルタルアルデヒドであったが、これには限定されない。また、上記実施形態では、薬剤添加量制御方法および薬剤添加量制御装置1−1がシェールガス随伴水処理システム100のフラクチャリング流体に対する薬剤添加量を制御したが、これには限定されない。薬剤添加量制御方法および薬剤添加量制御装置1−1は、例えば、浄水場において上水に対する塩素等の薬剤の添加量を制御するものであってもよく、バラスト水に対する塩素等の薬剤の添加量を制御するものであってもよい。
【0050】
[実施形態の第3変形例]
上記実施形態の方法(図1)において、出口部20Bの薬剤の残留濃度が残留濃度目標値Dtに到達しない場合が考えられる。測定される出口部20Bの薬剤の残留濃度が定常となっても残留濃度が目標濃度に到達しない場合、フラクチャリング流体に対する薬剤の添加および残留濃度の測定をはじめからやり直すようにしてもよい。この場合、薬剤の添加を停止すると共にフラクチャリング流体の圧入を継続し、反応ゾーン20内のフラクチャリング流体を薬剤が添加されていない流体で置き換えた後に、再度フラクチャリング流体に対する薬剤の添加および残留濃度の測定を開始する。このときに反応ゾーン20に流入させるフラクチャリング流体の薬剤の濃度Aは、前回の濃度Aよりも高濃度とされる。濃度Aの増分は、前回の定常となった残留濃度と目標濃度との差分に応じて定めることが好ましい。
【0051】
上記の実施形態および変形例に開示された内容は、適宜組み合わせて実行することができる。
【符号の説明】
【0052】
1−1 薬剤添加量制御装置
1 供給路
2 薬剤注入口
3 薬剤タンク
4 排出路
5 薬剤供給パイプ
6 薬剤供給量制御機構
10 残留濃度演算手段
11 残留濃度測定手段
12 薬剤添加量制御手段
20 反応ゾーン
20A 入口部
20B 出口部
21 坑井
22 頁岩層
100 シェールガス随伴水処理システム
Dc 未消費残留濃度
Din 添加濃度指令値
Dr 残留濃度測定値
Dt 残留濃度目標値
t1 目標到達時点
図1
図2
図3
図4
図5
図6