特許第5987839号(P5987839)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5987839非円形の断面形状を備えるガラス繊維及びそれを用いる繊維強化樹脂成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5987839
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】非円形の断面形状を備えるガラス繊維及びそれを用いる繊維強化樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   C03C 13/00 20060101AFI20160825BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   C03C13/00
   B29C45/00
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-548248(P2013-548248)
(86)(22)【出願日】2012年12月4日
(86)【国際出願番号】JP2012081402
(87)【国際公開番号】WO2013084895
(87)【国際公開日】20130613
【審査請求日】2015年9月29日
(31)【優先権主張番号】特願2011-267374(P2011-267374)
(32)【優先日】2011年12月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野中 貴史
(72)【発明者】
【氏名】相澤 恒史
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−062109(JP,A)
【文献】 特開2003−171143(JP,A)
【文献】 特開2010−094896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 − 14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量に対しSiOの含有量が57.0〜63.0質量%、Alの含有量が19.0〜23.0質量%、MgOの含有量が10.0〜15.0質量%、CaOの含有量が6.5〜11.0質量%、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが0.8〜2.0の範囲にある組成を備えることを特徴とする非円形の断面形状を備えるガラス繊維。
【請求項2】
請求項1記載の非円形の断面形状を備えるガラス繊維において、該断面形状は扁平形状であることを特徴とする非円形の断面形状を備えるガラス繊維。
【請求項3】
請求項2記載の非円形の断面形状を備えるガラス繊維において、前記扁平形状は、楕円形、長円形、繭形からなる群から選択される1つの形状であることを特徴とする非円形の断面形状を備えるガラス繊維。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の非円形の断面形状を備えるガラス繊維において、前記ガラス繊維と同一組成を備える溶融ガラスは、温度を低下させたときに最初に析出する結晶がコーディエライトの単独結晶又はコーディエライトとアノーサイトとの混合結晶であることを特徴とする非円形の断面形状を備えるガラス繊維。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の非円形の断面形状を備えるガラス繊維において、前記ガラス繊維と同一組成を備える溶融ガラスは、1000ポイズ温度と液相温度との差である作業温度範囲が50℃以上であり、さらに液相温度に対応する粘度である液相粘度が3000ポイズ以上であることを特徴とする非円形の断面形状を備えるガラス繊維。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の非円形の断面形状を備えるガラス繊維において、前記ガラス繊維は、その強度が4.0GPa以上であり、その弾性率が85GPa以上であることを特徴とする非円形の断面形状を備えるガラス繊維。
【請求項7】
全量に対しSiOの含有量が57.0〜63.0質量%、Alの含有量が19.0〜23.0質量%、MgOの含有量が10.0〜15.0質量%、CaOの含有量が6.5〜11.0質量%、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが0.8〜2.0の範囲にある組成を備え、非円形の断面形状を備えるガラス繊維と熱可塑性樹脂とを含むことを特徴とする繊維強化樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非円形の断面形状を備えるガラス繊維及びそれを用いる繊維強化樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非円形の断面形状を備えるガラス繊維が提案されている(例えば、特許文献1参照)。尚、本願では、円周の全ての部分が中心点から等距離にある形状を真円とし、該真円と異なる形状を非円形と定義する。前記非円形は、例えば、扁平形状、星形、十字形、多角形、ドーナッツ形状等の形状を含むものとする。また、前記扁平形状は、例えば、楕円形、長円形、繭形等の形状を含むものとする。
【0003】
前記非円形の断面形状を備えるガラス繊維は、熱可塑性樹脂と混合溶融し射出成形して繊維強化樹脂成形体を形成することにより、該繊維強化樹脂成形体の機械的強度、寸法精度、反り等を改善することができるとされている。前記繊維強化樹脂成形体の機械的強度が改善される理由としては、前記非円形の断面形状を備えるガラス繊維は、断面形状が真円であるガラス繊維に比較して、前記熱可塑性樹脂との接触面積が大きくなることが挙げられる。また、前記繊維強化樹脂成形体の寸法精度、反り等が改善される理由としては、前記非円形の断面形状を備えるガラス繊維は、該繊維強化樹脂成形体を形成する際に、断面形状が真円であるガラス繊維に比較して、成形体平面方向への配向性がよく、2次元に配向しやすいことが挙げられる。
【0004】
前記非円形の断面形状を備えるガラス繊維は、一般にEガラスにより形成されているが、該Eガラスからなるガラス繊維は十分な強度及び弾性率を得ることができない場合がある。そこで、前記非円形の断面形状を備えるガラス繊維に十分な強度及び弾性率を付与することが望まれる。
【0005】
前記Eガラスからなるガラス繊維より優れた強度を備えるガラス繊維としてSガラスからなるガラス繊維が知られている。前記Sガラスからなるガラス繊維は、全量に対しSiOの含有量が約65質量%、Alの含有量が約25質量%、MgOの含有量が約10質量%である組成を備えている。しかし、前記Sガラスは、その原料となるガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスから紡糸してガラス繊維を得るときに、該溶融ガラスの1000ポイズ温度と液相温度との差が小さいという問題がある。
【0006】
前記「1000ポイズ温度」とは、溶融ガラスの粘度が1000ポイズとなる温度であり、「液相温度」とは、該溶融ガラスの温度を低下させたときに最初に結晶が析出する温度である。一般的にガラス繊維を製造する際に適正な粘度は1000ポイズ以下であるといわれており、前記紡糸は、1000ポイズ温度と液相温度との間の温度範囲(作業温度範囲)が広いほど安定して紡糸することができるため、作業温度範囲は紡糸性を確保する目安として用いられている。
【0007】
溶融ガラスの1000ポイズ温度と液相温度との差が小さいと、該溶融ガラスが紡糸後に冷却されてガラス繊維となる過程で、僅かな温度低下の影響下においても結晶化(失透)しやすく、ガラス繊維が切断する等の問題が発生しやすくなる。前記Sガラスは、作業温度範囲が狭いことから、その原料となるガラス組成物を溶融して溶融ガラスとしたときに、該溶融ガラスから、非円形の断面形状を備えるガラス繊維を安定に紡糸することが難しい。なお、「失透」とは、前記溶融ガラスの温度を低下させたときに結晶が析出する現象である。
【0008】
そこで、前記Sガラスの原料となるガラス組成物の組成を改良し、SiO、Al、MgOと共にCaOを含むようにしたガラス組成物が提案されている。前記ガラス組成物として、例えば、1000ポイズ温度を下げて粘性を低下させることにより、比較的低い温度で作業温度範囲を保ちながら容易に紡糸できるようにしたガラス組成物が知られている(特許文献2参照)。また、前記ガラス組成物として、1000ポイズ温度と液相温度との差の大きなガラス組成物が知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−45390号公報
【特許文献2】特公昭62−001337号公報
【特許文献3】特表2009−514773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、SiO、Al、MgOと共にCaOを含む特許文献2記載のガラス組成物は、溶融して溶融ガラスとしたときに失透しやすい傾向があり、安定に紡糸することが難しい。また、特許文献3記載のガラス組成物は、溶融して溶融ガラスとしたときに該溶融ガラスの1000ポイズ温度が高いために大量生産が難しい。従って、前記従来のガラス組成物からは、非円形の断面形状を備え、優れた強度及び弾性率を備えるガラス繊維を得ることが難しいという不都合がある。
【0011】
本発明は、かかる不都合を解消して、非円形の断面形状を備え、優れた強度及び弾性率を備えるガラス繊維を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明の目的は、前記非円形の断面形状を備えるガラス繊維を用いる繊維強化樹脂成形体を提供することにもある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる目的を達成するために、本発明の非円形の断面形状を備えるガラス繊維は、全量に対しSiOの含有量が57.0〜63.0質量%、Alの含有量が19.0〜23.0質量%、MgOの含有量が10.0〜15.0質量%、CaOの含有量が6.5〜11.0質量%、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが0.8〜2.0の範囲にある組成を備えることを特徴とする。
【0014】
発明の非円形の断面形状を備えるガラス繊維は、前記組成を備えるので、優れた強度及び弾性率を得ることができる。
【0015】
前記ガラス繊維は、全量に対しSiOの含有量が57.0質量%未満ではガラス繊維として十分な機械的強度を得ることができず、63.0質量%を超えると、該ガラス繊維と同一組成を備える溶融ガラスの1000ポイズ温度及び液相温度が高くなる。
【0016】
また、前記ガラス繊維は、全量に対しAlの含有量が19.0質量%未満では十分な弾性率を得ることができず、23.0質量%を超えると、前記溶融ガラスの液相温度が高くなる。
【0017】
また、前記ガラス繊維は、全量に対しMgOの含有量が10.0質量%未満では十分な弾性率を得ることができず、15.0質量%を超えると、前記溶融ガラスの液相温度が高くなる。
【0018】
また、前記ガラス繊維は、全量に対しCaOの含有量が6.5質量%未満では前記ガラス組成物の液相温度が高くなり、11.0質量%を超えると、前記溶融ガラスの1000ポイズ温度及び液相温度が高くなる。
【0019】
さらに、前記ガラス繊維は、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが0.8未満では十分な弾性率を得ることができず、2.0を超えると、前記溶融ガラスの液相温度が高くなる。
【0020】
本発明の前記非円形の断面形状を備えるガラス繊維において、前記断面形状は、例えば扁平形状である。前記扁平形状としては、楕円形、長円形、繭形からなる群から選択される1つの形状を挙げることができる。
【0021】
また、前記溶融ガラスを紡糸する際に、失透しやすいとガラス繊維の切断等の問題が発生する。しかし、本発明において、前記溶融ガラスは、温度を低下させたときに最初に析出する結晶(失透初相)がコーディエライトの単独結晶又はコーディエライトとアノーサイトとの混合結晶となる。失透初相の種類によって、結晶の析出や気泡の発生等に影響を与えることが知られているが、前記溶融ガラスは、失透初相が前記以外の他の結晶である場合に比較して、液相温度において結晶が析出し難くなる。従って、前記ガラス繊維の原料となるガラス組成物を溶融して得られた溶融ガラスを紡糸するときに、ガラス繊維が切断する等の支障の発生を抑制することができ、安定した紡糸を行うことができる。
【0022】
また、本発明において、前記溶融ガラスは、その粘度が1000ポイズとなる温度である1000ポイズ温度と、その温度を低下させたときに最初に結晶が析出する温度である液相温度との間の温度範囲である作業温度範囲が50℃以上であり、さらに液相温度に対応する粘度(液相粘度)が3000ポイズ以上であることにより、前記ガラス繊維の断面形状を非円形とすることができる。
【0023】
断面形状が非円形のガラス繊維を作成することは、断面形状が円形のガラス繊維を作成するよりも紡糸温度の温度範囲の設定条件が厳しい。断面形状を非円形とするためには、1000ポイズ以上の高粘度で紡糸する必要がある。前記溶融ガラスの紡糸の際の粘度が1000ポイズ未満の場合、紡糸されたガラス繊維が表面張力により丸まり、その断面形状を非円形とすることができないことがある。したがって、断面形状を非円形とするためには、一般的に1000ポイズ以上という高い粘度で紡糸する必要がある。この条件を満たし、紡糸するための作業温度範囲を確保するためには、少なくとも液相粘度が3000ポイズ以上であることを必要とする。安定して紡糸を行うためには、液相粘度は好ましくは4000ポイズ以上であり、より好ましくは5000ポイズ以上である。
【0024】
また、1000ポイズ温度と液相温度との差である作業温度範囲が50℃以上であることも必要とされる。作業温度範囲が狭いと、溶融ガラスが失透してガラス繊維が切断する等、紡糸の際に支障が発生する虞がある。
【0026】
本発明のガラス繊維の原料となるガラス組成物を溶融した溶融ガラスは、上述の非円形の断面形状を備えるガラス繊維を紡糸するための温度条件を備えている。したがって、安定して非円形の断面形状を備えるガラス繊維を紡糸することができる。
【0027】
また、本発明において、前記ガラス繊維は、その強度が4.0GPa以上であり、その弾性率が85GPa以上であることが好ましい。本発明の非円形の断面形状を備えるガラス繊維は、その強度が4.0GPa以上であり、弾性率が85GPa以上であることにより、繊維強化樹脂成形体を構成する用途に好適に用いることができる。
【0028】
また、本発明の繊維強化樹脂成形体は、前記非円形の断面形状を備えるガラス繊維と熱可塑性樹脂とを含むことを特徴とする。本発明の繊維強化樹脂成形体は、前記非円形の断面形状を備えるガラス繊維を含むので、機械的強度、寸法精度、反り等が改善され、優れた強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】ガラス繊維の種類による繊維強化樹脂成形体の強度を比較する図
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0031】
本実施形態の非円形の断面形状を備えるガラス繊維は、ガラス繊維の原料となるガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスから紡糸することにより得られる。本実施形態の非円形の断面形状を備えるガラス繊維は、該断面形状が扁平形状であってもよく、星形、十字形、多角形、三葉形、四葉形、H形、U形、V形、ドーナッツ形状等の形状であってもよい。前記扁平形状としては、例えば、楕円形、長円形、繭形等のいずれかの形状を挙げることができる。
【0032】
本実施形態の非円形の断面形状を備えるガラス繊維は、全量に対しSiOの含有量が57.0〜63.0質量%、Alの含有量が19.0〜23.0質量%、MgOの含有量が10.0〜15.0質量%、CaOの含有量が6.5〜11.0質量%、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが0.8〜2.0の範囲にある組成を備えている。
【0033】
前記ガラス繊維は、全量に対しSiOの含有量が57.0質量%未満ではガラス繊維として十分な機械的強度を得ることができず、63.0質量%を超えると、前記ガラス繊維と同一組成を備える溶融ガラスの1000ポイズ温度及び液相温度が高くなる。前記SiOの含有量は、前記ガラス繊維の原料となるガラス組成物から得られた溶融ガラスの組成物の1000ポイズ温度を1350℃以下にするために、前記ガラス繊維の全量に対し、57.0〜62.0質量%の範囲にあることが好ましく、57.0〜61.0質量%の範囲にあることがより好ましい。
【0034】
また、前記ガラス繊維は、全量に対しAlの含有量が19.0質量%未満では十分な弾性率を得ることができず、23.0質量%を超えると、前記溶融ガラスの液相温度が高くなる。前記Alの含有量は、前記ガラス繊維において優れた弾性率を得ると共に、前記溶融ガラスの液相温度を低くして作業温度範囲を広くするために、該ガラス繊維の全量に対し、19.5〜22.0質量%の範囲にあることが好ましく、20.0〜21.0質量%の範囲にあることがより好ましい。
【0035】
また、前記ガラス繊維は、全量に対しAlの含有量が19.0〜23.0質量%の範囲にあり、特に20.0質量%の近傍であることにより、前記溶融ガラスにおける前記失透初相をコーディエライトの単独結晶又はコーディエライトとアノーサイトとの混合結晶とすることができる。前記Alの含有量が前記ガラス繊維の全量に対し、19.0質量%未満では、前記溶融ガラスにおける前記失透初相をコーディエライトの単独結晶又はコーディエライトとアノーサイトとの混合結晶とすることができないことがある。そこで、前記ガラス繊維は、前記溶融ガラスにおける前記失透初相をコーディエライトの単独結晶又はコーディエライトとアノーサイトとの混合結晶とするために、前記Alの含有量が前記ガラス繊維の全量に対し、19.0質量%〜22.0質量%近傍の範囲にあることが好ましい。
【0036】
また、SiOの含有量/Alの含有量が重量比で2.6〜3.3であることが好ましい。このような範囲にすれば、ガラス繊維はその製造時における作業温度範囲が広いものとなり、また十分な弾性率を有するようになるからである。さらに、SiOの含有量/Alの含有量が重量比で2.7〜3.2であることがより好ましい。SiOの含有量/Alの重量比が、3.2以下であると高い弾性率を有するガラス繊維が得られるからである。また、当該重量比が2.7以上であると、液相温度を低くするとともに、失透現象を抑制することが可能となる。
【0037】
また、前記ガラス繊維は、全量に対しMgOの含有量が10.0質量%未満では十分な弾性率を得ることができず、15.0質量%を超えると、前記溶融ガラスの液相温度が高くなる。前記MgOの含有量は、前記ガラス繊維において優れた弾性率を得ると共に、前記溶融ガラスの液相温度を低くして作業温度範囲を広くするために、該ガラス繊維の全量に対し、11.0〜14.0質量%の範囲にあることが好ましく、11.5〜13.0質量%の範囲にあることがより好ましい。
【0038】
また、前記ガラス繊維は、全量に対しCaOの含有量が6.5質量%未満では前記溶融ガラスの液相温度が高くなり、11.0質量%を超えると該溶融ガラスの1000ポイズ温度及び液相温度が高くなる。前記CaOの含有量は、前記溶融ガラスの1000ポイズ温度及び液相温度を低くして作業温度範囲を広くするために、該ガラス繊維の全量に対し、6.5〜10.5質量%の範囲にあることが好ましく、7.0〜10.0質量%の範囲にあることがより好ましい。
【0039】
さらに、前記ガラス繊維は、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが0.8未満では十分な弾性率を得ることができず、2.0を超えると前記溶融ガラスの液相温度が高くなる。前記CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOは、前記ガラス繊維において優れた弾性率を得ると共に、前記溶融ガラスの液相温度を低くして作業温度範囲を広くするために、1.0〜1.8の範囲にあることが好ましい。
【0040】
前記ガラス繊維は、基本的組成としてSiOとAlとMgOとCaOとを前述の範囲の含有量で含むが、各成分の原料中に含まれる等の原因により不可避的に混入する他の成分を含んでいてもよい。前記他の成分としては、NaO等のアルカリ金属酸化物、Fe、TiO、ZrO、MoO、Cr等を挙げることができる。前記他の成分の含有量は、前記ガラス繊維の全量に対し、1.0質量%未満であることが好ましく、0.5質量%未満であることがより好ましく、0.2質量%未満であることがさらに好ましい。
【0041】
前記ガラス繊維は、SiOとAlとMgOとCaOとの合計含有量が99.0質量%以上で、他の不純物成分の含有量が相対的に少ないことによって、十分な弾性率を得ることができる。また、その原料となるガラス組成物から得られた溶融ガラスからガラス繊維を製造する際に十分な作業温度範囲を確保することができる。
【0042】
また、SiOとAlとMgOとCaOとの合計含有量が99.5質量%以上であると、前記ガラス繊維においてより優れた弾性率を得ることができる。さらに、前記ガラス繊維の原料となるガラス組成物から得られた溶融ガラスにおいて十分な作業温度範囲を確保するために、該ガラス繊維の全量に対し、99.8質量%以上の範囲にあることがより好ましい。
【0043】
前記ガラス繊維は、原料であるガラス組成物及び該ガラス組成物を溶融して得られる溶融ガラスと同等の組成を有する。
【0044】
前記ガラス繊維の原料となるガラス組成物としては、ガラスカレット又はガラスバッチを用いることができる。また、前記溶融ガラスは、前記ガラスカレットを再溶融するか、前記ガラスバッチを直接溶融する方法により得ることができる。前記溶融ガラスは、具体的には前記1000ポイズ温度と前記液相温度との差である作業温度範囲が50℃以上である。さらに該液相温度に対応する粘度(液相粘度)が3000ポイズ以上であり、紡糸安定性のうえから、好ましくは4000ポイズ以上であり、より好ましくは5000ポイズ以上である。
【0045】
前記非円形の断面形状を備えるガラス繊維は、前記溶融ガラスからそれ自体公知の方法により製造することができる。前記公知の方法によれば、前記溶融ガラスを数十〜数千個のブッシングと称される白金合金ノズルから引き出して紡糸し、高速で巻き取ることにより、ガラス繊維を得る。
【0046】
ここで、前記溶融ガラスは、低温にすると粘度を高くすることができるが、目的の高粘性域が液相温度より低いと、失透してガラス繊維が切断する等の支障が発生する虞がある。しかし、本実施形態の前記溶融ガラスは前記ガラス繊維と同一組成を備えており、作業温度範囲が広く、失透初相がコーディエライトの単独結晶又はコーディエライトとアノーサイトとの混合結晶であって結晶化速度が小さい。そこで、前記溶融ガラスは、失透することなく安定に紡糸することができ、前記非円形の断面形状を備えるガラス繊維を得ることができる。
【0047】
溶融ガラスが表面張力によって丸まろうとするのを防ぎ、非円形の断面形状を有するガラス繊維を紡糸するためには、1000ポイズ以上の高粘性で紡糸する必要がある。1000ポイズ以上の高粘性領域で紡糸することから、溶融ガラスを低温にする必要があり、ガラスが失透する可能性がある。そこで、少なくとも液相粘度が3000ポイズ以上であれば、ノズルから溶融ガラスを引き出す際にも、ガラスが失透することなく、非円形の断面形状を有するガラス繊維を紡糸することが可能となる。
【0048】
このように、非円形の断面形状を備えるガラス繊維を紡糸することは、円形の断面形状のガラス繊維を紡糸するよりも、ガラス組成の選択、及び紡糸する温度範囲の選定をより厳密に行う必要がある。
【0049】
前記のようにして紡糸された前記非円形の断面形状を備えるガラス繊維は、その強度が4.0GPa以上であり、その弾性率が85GPa以上となっている。
【0050】
本実施形態の前記非円形の断面形状を備えるガラス繊維は、前記のように優れた強度及び弾性率を備えている。そこで、本実施形態の前記非円形の断面形状を備えるガラス繊維は、例えば、熱可塑性樹脂と混合溶融して射出成形することにより、機械的強度、寸法精度、反り等が改善され、優れた強度及び弾性率を備える繊維強化樹脂成形体を得ることができる。
【0051】
前記非円形の断面形状を備えるガラス繊維は、前記繊維強化樹脂成形体の基材とするために、その断面積を真円に換算したときの繊維径が3〜30μmの範囲であることが好ましい。また、前記非円形の断面形状を備えるガラス繊維は、前記繊維強化樹脂成形体の基材とするために、該断面形状における長径及び短径を測定したときに、長径/短径の比で表されるガラス変形比が2〜10の範囲にあることが好ましい。
【0052】
前記熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂、メタクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、液晶ポリマー(LCP)樹脂、フッ素樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリサルフォン(PSF)樹脂、ポリエーテルサルフォン(PES)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂等を挙げることができる。
【0053】
また、前記熱可塑性樹脂に代えて、熱硬化性樹脂を用いてもよく、該熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等を挙げることができる。前記熱可塑性樹脂又は前記熱硬化性樹脂は、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0054】
また、射出成形に代えて、スタンピング成形法、インフュージョン法、ハンドレイアップ法、スプレイアップ法、レジントランスファーモールディング(RTM)法、シートモールディングコンパウンド(SMC)法、バルクモールディングコンパウンド(BMC)法、プルトルージョン法、フィラメントワインディング法等の公知の成形法を用いることもできる。
【0055】
前記成形法においては、本実施形態の前記非円形の断面形状を備えるガラス繊維を単独で用いてもよく、本実施形態の前記非円形の断面形状を備えるガラス繊維と同一組成で真円状の断面形状を備えるガラス繊維、公知の市販のガラス繊維、カーボン繊維、有機繊維、セラミックス繊維等の1種以上と組み合わせて用いてもよい。
【0056】
また、本実施形態の前記非円形の断面形状を備えるガラス繊維は、ガラス繊維織布、組布、編布、不織布、マット、三軸組布、四軸組布、チョップドストランド、ロービング、パウダー等の各種複合材料用のガラス繊維強化基材を製造する材料として用いることもできる。
【0057】
本実施形態の繊維強化樹脂成形体は、優れた機械的強度や寸法精度を要求される部品、部材等の用途に好適に用いることができる。前記部品、部材等として、例えば、車両外装部材、車両内装部材、車両エンジン周り部材、電子機器ハウジング、電子部品、高圧タンク等を挙げることができる。
【0058】
前記車両外装部材としては、ドアミラー、サンルーフ周り部材等を挙げることができ、前記車両内装部材としてはコンソールボックス等を、車両エンジン周り部材としてはエンジンカバー等をそれぞれ挙げることができる。また、前記電子機器ハウジングとしては、携帯電話筐体、パーソナルコンピュータ筐体、デジタルカメラのレンズ筒体、ゲーム機筐体等を挙げることができる。また、前記電子部品としては、各種コネクタ等を挙げることができる。
【0059】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。
【実施例】
【0060】
〔実施例1〕
本実施例では、まず、全量に対しSiOの含有量が60.2質量%、Alの含有量が20.1質量%、MgOの含有量が10.1質量%、CaOの含有量が9.5質量%、Feの含有量が0.1質量%となるようにガラス原料を調合し、ガラス組成物を得た。前記ガラス組成物は、SiOとAlとMgOとCaOとの合計含有量が99.9質量%であり、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが1.1である。前記ガラス組成物の組成を表1に示す。
【0061】
次に、前記ガラス組成物と同一組成を備えるガラス粉砕物を白金ボート中に収容し、1000〜1500℃の温度勾配を設けた管状電気炉で加熱し、結晶の析出が始まった温度を液相温度とした。
【0062】
次に、前記ガラス組成物を白金ルツボ中で溶融し、溶融ガラスの温度を変化させながら、回転式B型粘度計を用いて連続的に粘度を測定し、粘度が1000ポイズのときに対応する温度を1000ポイズ温度とした。また、前記液相温度に対応する粘度を液相粘度とした。尚、粘度は、JIS Z8803−1991に準じて測定した。前記1000ポイズ温度、液相温度及び液相粘度を表2に示す。
【0063】
次に、前記ガラス組成物を前記1000ポイズ温度以上の温度に加熱して溶融した後、前記液相温度より100〜300℃低い温度で6時間放置した。そして、前記ガラス組成物の表面及び内部に発現した結晶の様子を観察し、耐失透性をA,B,Cの3段階で評価した。Aは結晶が析出していないことを示し、Bは表面の一部に結晶が析出していることを示し、Cは、表面及び内部に結晶が析出していることを示す。
【0064】
次に、前記液相温度の測定に用いた試料において析出した結晶初相部を粉砕し、X線回折装置で分析し、失透初相の結晶種を同定した。耐失透性の評価及び失透初相の結晶種を表2に示す。
【0065】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸して、扁平で長円形の断面形状を備えるガラス繊維を得た。尚、得られたガラス繊維は、前記ガラス組成物と同一組成を有しており、その断面積を真円に換算したときの繊維径が15μmであった。
【0066】
次に、前記ガラス繊維のモノフィラメントを試料として引張試験を行い、該ガラス繊維の強度及び弾性率を算出した。
【0067】
次に、前記ガラス繊維のモノフィラメントを試料として、該モノフィラメントの断面における長径及び短径を測定し、長径/短径の比をガラス変形比とした。前記ガラス繊維の断面形状、ガラス変形比、強度、弾性率を表2に示す。
【0068】
次に、前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を集束して得られたガラス繊維束(ストランド)を3mmの長さに切断してチョップドストランドを作製した。次に、得られたチョップドストランドをポリアミド樹脂(ポリアミド66)と溶融混練し、押出成形法によりガラス含有量30質量%の繊維強化樹脂ペレットを作製した。次に、得られた繊維強化樹脂ペレットを用い、射出成形法により80mm×10mm×4mmの大きさを備える板状の繊維強化樹脂成形体を作製し、引張試験により該繊維強化樹脂成形体の強度を算出した。結果を表2に示す。
【0069】
〔実施例2〕
本実施例では、まず、全量に対しSiOの含有量が59.2質量%、Alの含有量が20.1質量%、MgOの含有量が12.6質量%、CaOの含有量が8.0質量%、Feの含有量が0.1質量%となるようにガラス原料を調合し、ガラス組成物を得た。前記ガラス組成物は、SiOとAlとMgOとCaOとの合計含有量が99.9質量%であり、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが1.6である。本実施例で得られた前記ガラス組成物の組成を表1に示す。
【0070】
次に、本実施例で得られた前記ガラス組成物を用いた以外は実施例1と全く同一にして、液相温度及び液相粘度を求めると共に、耐失透性を評価し、失透初相の結晶種を同定した。結果を表2に示す。
【0071】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸して、長円形の断面形状を備えるガラス繊維を得た。尚、得られたガラス繊維は、前記ガラス組成物と同一組成を有しており、その断面積を真円に換算したときの繊維径が15μmであった。次に、本実施例で得られた前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、該ガラス繊維の強度、弾性率、ガラス変形比を算出した。結果を表2に示す。
【0072】
次に、本実施例で得られた前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、繊維強化樹脂成形体を作製し、引張試験により該繊維強化樹脂成形体の強度を算出した。結果を表2に示す。
【0073】
〔実施例3〕
本実施例では、まず、全量に対しSiOの含有量が58.2質量%、Alの含有量が20.7質量%、MgOの含有量が12.0質量%、CaOの含有量が9.0質量%、Feの含有量が0.1質量%となるようにガラス原料を調合し、ガラス組成物を得た。前記ガラス組成物は、SiOとAlとMgOとCaOとの合計含有量が99.9質量%であり、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが1.3である。本実施例で得られた前記ガラス組成物の組成を表1に示す。
【0074】
次に、本実施例で得られた前記ガラス組成物を用いた以外は実施例1と全く同一にして、液相温度及び液相粘度を求めると共に、耐失透性を評価し、失透初相の結晶種を同定した。結果を表2に示す。
【0075】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸して、長円形の断面形状を備えるガラス繊維を得た。尚、得られたガラス繊維は、前記ガラス組成物と同一組成を有しており、その断面積を真円に換算したときの繊維径が15μmであった。次に、本実施例で得られた前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、該ガラス繊維の強度、弾性率、ガラス変形比を算出した。結果を表2に示す。
【0076】
次に、本実施例で得られた前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、繊維強化樹脂成形体を作製し、引張試験により該繊維強化樹脂成形体の強度を算出した。結果を表2に示す。
【0077】
〔実施例4〕
本実施例では、まず、全量に対しSiOの含有量が61.4質量%、Alの含有量が19.0質量%、MgOの含有量が12.9質量%、CaOの含有量が6.5質量%、Feの含有量が0.1質量%、NaOの含有量が0.1%となるようにガラス原料を調合し、ガラス組成物を得た。前記ガラス組成物は、SiOとAlとMgOとCaOとの合計含有量が99.8質量%であり、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが2.0である。本実施例で得られた前記ガラス組成物の組成を表1に示す。
【0078】
次に、本実施例で得られた前記ガラス組成物を用いた以外は実施例1と全く同一にして、液相温度及び液相粘度を求めると共に、耐失透性を評価し、失透初相の結晶種を同定した。結果を表2に示す。
【0079】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸して、長円形の断面形状を備えるガラス繊維を得た。尚、得られたガラス繊維は、前記ガラス組成物と同一組成を有しており、その断面積を真円に換算したときの繊維径が15μmであった。次に、本実施例で得られた前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、該ガラス繊維の強度、弾性率、ガラス変形比を算出した。結果を表2に示す。
【0080】
〔実施例5〕
本実施例では、まず、全量に対しSiOの含有量が58.0質量%、Alの含有量が21.9質量%、MgOの含有量が10.0質量%、CaOの含有量が10.0質量%、Feの含有量が0.1質量%となるようにガラス原料を調合し、ガラス組成物を得た。前記ガラス組成物は、SiOとAlとMgOとCaOとの合計含有量が99.9質量%であり、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが1.0である。本実施例で得られた前記ガラス組成物の組成を表1に示す。
【0081】
次に、本実施例で得られた前記ガラス組成物を用いた以外は実施例1と全く同一にして、液相温度及び液相粘度を求めると共に、耐失透性を評価し、失透初相の結晶種を同定した。結果を表2に示す。
【0082】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸して、長円形の断面形状を備えるガラス繊維を得た。尚、得られたガラス繊維は、前記ガラス組成物と同一組成を有しており、その断面積を真円に換算したときの繊維径が15μmであった。次に、本実施例で得られた前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、該ガラス繊維の強度、弾性率、ガラス変形比を算出した。結果を表2に示す。
【0083】
〔実施例6〕
本実施例では、まず、全量に対しSiOの含有量が57.0質量%、Alの含有量が20.0質量%、MgOの含有量が12.0質量%、CaOの含有量が10.9質量%、Feの含有量が0.1質量%となるようにガラス原料を調合し、ガラス組成物を得た。前記ガラス組成物は、SiOとAlとMgOとCaOとの合計含有量が99.9質量%であり、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが1.1である。本実施例で得られた前記ガラス組成物の組成を表1に示す。
【0084】
次に、本実施例で得られた前記ガラス組成物を用いた以外は実施例1と全く同一にして、液相温度及び液相粘度を求めると共に、耐失透性を評価し、失透初相の結晶種を同定した。結果を表2に示す。
【0085】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸して、長円形の断面形状を備えるガラス繊維を得た。尚、得られたガラス繊維は、前記ガラス組成物と同一組成を有しており、その断面積を真円に換算したときの繊維径が15μmであった。次に、本実施例で得られた前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、該ガラス繊維の強度、弾性率、ガラス変形比を算出した。結果を表2に示す。
【0086】
次に、本実施例で得られた前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、繊維強化樹脂成形体を作製し、引張試験により該繊維強化樹脂成形体の強度を算出した。結果を表2に示す。
【0087】
〔比較例1〕
本比較例では、いわゆるSガラス(SiO;64〜66%、Al;24〜26%、MgO;9〜11%)を用いた以外は実施例1と全く同一にして、液相温度及び液相粘度を求めると共に、耐失透性を評価し、失透初相の結晶種を同定した。結果を表2に示す。
【0088】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸したところ、溶融ガラス中に失透が発生し、紡糸切断が多発したため、長円形の断面形状を備えるガラス繊維を得ることができなかった。失透を発生させないように溶融ガラスの温度を上げて紡糸したところ、白金合金ノズルから引き出されたガラス繊維が表面張力により丸まることを防止できず、前記ガラス繊維は略真円形の断面形状を備えていた。尚、得られたガラス繊維は、前記ガラス組成物と同一組成を有しており、その繊維径は15μmであった。
【0089】
また、本比較例で得られたガラス繊維は、前述のように略真円形の断面形状を備えているので、ガラス変形比、ガラス繊維の強度及び弾性率、繊維強化樹脂成形体の強度は算出していない。結果を表2に示す。
【0090】
〔比較例2〕
本比較例では、いわゆるEガラス(SiOの含有量が52.0〜56.0質量%、Alの含有量が12.0〜16.0質量%、MgOの含有量が0〜6質量%、CaOの含有量が16〜25質量%、NaOの含有量が0〜0.8質量%、Bの含有量が5.0〜10.0質量%)を用いた以外は実施例1と全く同一にして、液相温度及び液相粘度を求めると共に、耐失透性を評価し、失透初相の結晶種を同定した。結果を表2に示す。
【0091】
次に、本比較例で得られた前記ガラス組成物を用いた以外は実施例1と全く同一にして、液相温度及び液相粘度を求めると共に、耐失透性を評価し、失透初相の結晶種を同定した。結果を表2に示す。
【0092】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸して、長円形の断面形状を備えるガラス繊維を得た。尚、得られたガラス繊維は、前記ガラス組成物と同一組成を有しており、その断面積を真円に換算したときの繊維径が15μmであった。次に、本比較例で得られた前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、該ガラス繊維の強度、弾性率、ガラス変形比を算出した。結果を表2に示す。
【0093】
次に、本比較例で得られた前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、繊維強化樹脂成形体を作製し、引張試験により該繊維強化樹脂成形体の強度を算出した。結果を表2に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
耐失透性:Aは結晶が析出していないことを示し、Bは表面の一部に結晶が析出していることを示し、Cは、表面及び内部に結晶が析出していることを示す。
失透初相:cor…コーディエライト、ano…アノーサイト、mul…ムライト、
cri…クリストバライト
ガラス繊維の断面形状は、非円形の断面形状を製造できたものを○としている。ここでは実際に長円を作成し、変形比についての測定を行っている。比較例1のガラスに関しては、非円形の断面形状のガラス繊維を製造できないこことから、ガラス繊維としての性質である強度等、及び成形体強度は測定できない。
表中、「N.D.」は試験を実施しなかったことを示し、「―」は得られた繊維の形状に起因して測定を実施することができなかったことを示す。
【0097】

表2から、実施例1〜6の長円形の断面形状を備えるガラス繊維は、4.0GPa以上の強度と85GPa以上の弾性率とを備え、優れた強度及び弾性率を備えることが明らかである。また、実施例1〜6の繊維強化樹脂成形体は、前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を用いて製造されることにより、優れた強度を備えていることが明らかである。
【0098】
これに対して、比較例1は、ガラス繊維の組成においてCaOを含まないために液相粘度が低く、非円形の断面形状を備えるガラス繊維を得ることができない。
【0099】
また、比較例2は、ガラス繊維の組成において、Al及びMgOの含有量が本発明の下限未満であるので、長円形の断面形状を備えるガラス繊維の強度及び弾性率が実施例1〜6の長円形の断面形状を備えるガラス繊維より低い。また、比較例2の繊維強化樹脂成形体は、その強度も実施例1〜6の繊維強化樹脂成形体より低い。
【0100】
さらに、本発明のガラス繊維を用いて繊維強化樹脂成形体を作成した場合、高強度ガラスであるSガラスと同程度の引張強度を実現できることを示す。図1に、本発明のガラス繊維(1、2)、Eガラスよりなるガラス繊維(3、4)、Sガラス繊維(5)を用いて、上記と同様に成形体を作成し、引張強度を測定した結果を示す。
【0101】
実施例1のガラス組成によって製造された、円形(図1、1)、長円(図1、2)のガラス繊維、Eガラス組成によって製造された、円形(図1、3)、長円(図1、4)、高強度ガラスであるSガラス組成によって製造された円形(図1、5)のガラス繊維を用いて、実施例1と同様にして繊維強化樹脂成形体を製造し、引張試験を行った。
【0102】
Eガラス組成のガラス繊維と比較して、本発明のガラス繊維を用いた場合には、成形体強度が増加していることが確認できる。本発明のガラス繊維を用いた場合には、断面形状が円形のガラス繊維(図1、1)であっても、Eガラス繊維の長円(図1、4)を用いた場合に比べ、僅かであるが強度が増加していることが明らかとなった。
【0103】
さらに、本発明のガラス組成を用いた非円形の断面形状のガラス繊維によって、成形体を製造した場合には(図1、2)、高強度ガラスであるSガラスと同程度の成形体強度(図1、5)を実現することができる。非円形の断面形状とすることによって、円形の断面形状のガラス繊維に比べ、熱可塑性樹脂との接触面積が広くなり成形体を製造したときの強度が増すからである。ここでは、非円形断面形状が長円のガラス繊維を用いたが、接触面積はガラス繊維の断面形状により変えることができるため、さらに表面積を調節し成形体強度を増すことも可能である。
【0104】
本発明の非円形断面形状のガラス繊維を用いることによって、成形品の高強度化を達成することができる。その結果、強度はそのままに、薄肉成形品や微細成形品を製造することができるため、成形品の軽量化を図ることが可能となる。
図1