【実施例】
【0060】
〔実施例1〕
本実施例では、まず、全量に対しSiO
2の含有量が60.2質量%、Al
2O
3の含有量が20.1質量%、MgOの含有量が10.1質量%、CaOの含有量が9.5質量%、Fe
2O
3の含有量が0.1質量%となるようにガラス原料を調合し、ガラス組成物を得た。前記ガラス組成物は、SiO
2とAl
2O
3とMgOとCaOとの合計含有量が99.9質量%であり、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが1.1である。前記ガラス組成物の組成を表1に示す。
【0061】
次に、前記ガラス組成物と同一組成を備えるガラス粉砕物を白金ボート中に収容し、1000〜1500℃の温度勾配を設けた管状電気炉で加熱し、結晶の析出が始まった温度を液相温度とした。
【0062】
次に、前記ガラス組成物を白金ルツボ中で溶融し、溶融ガラスの温度を変化させながら、回転式B型粘度計を用いて連続的に粘度を測定し、粘度が1000ポイズのときに対応する温度を1000ポイズ温度とした。また、前記液相温度に対応する粘度を液相粘度とした。尚、粘度は、JIS Z8803−1991に準じて測定した。前記1000ポイズ温度、液相温度及び液相粘度を表2に示す。
【0063】
次に、前記ガラス組成物を前記1000ポイズ温度以上の温度に加熱して溶融した後、前記液相温度より100〜300℃低い温度で6時間放置した。そして、前記ガラス組成物の表面及び内部に発現した結晶の様子を観察し、耐失透性をA,B,Cの3段階で評価した。Aは結晶が析出していないことを示し、Bは表面の一部に結晶が析出していることを示し、Cは、表面及び内部に結晶が析出していることを示す。
【0064】
次に、前記液相温度の測定に用いた試料において析出した結晶初相部を粉砕し、X線回折装置で分析し、失透初相の結晶種を同定した。耐失透性の評価及び失透初相の結晶種を表2に示す。
【0065】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸して、扁平で長円形の断面形状を備えるガラス繊維を得た。尚、得られたガラス繊維は、前記ガラス組成物と同一組成を有しており、その断面積を真円に換算したときの繊維径が15μmであった。
【0066】
次に、前記ガラス繊維のモノフィラメントを試料として引張試験を行い、該ガラス繊維の強度及び弾性率を算出した。
【0067】
次に、前記ガラス繊維のモノフィラメントを試料として、該モノフィラメントの断面における長径及び短径を測定し、長径/短径の比をガラス変形比とした。前記ガラス繊維の断面形状、ガラス変形比、強度、弾性率を表2に示す。
【0068】
次に、前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を集束して得られたガラス繊維束(ストランド)を3mmの長さに切断してチョップドストランドを作製した。次に、得られたチョップドストランドをポリアミド樹脂(ポリアミド66)と溶融混練し、押出成形法によりガラス含有量30質量%の繊維強化樹脂ペレットを作製した。次に、得られた繊維強化樹脂ペレットを用い、射出成形法により80mm×10mm×4mmの大きさを備える板状の繊維強化樹脂成形体を作製し、引張試験により該繊維強化樹脂成形体の強度を算出した。結果を表2に示す。
【0069】
〔実施例2〕
本実施例では、まず、全量に対しSiO
2の含有量が59.2質量%、Al
2O
3の含有量が20.1質量%、MgOの含有量が12.6質量%、CaOの含有量が8.0質量%、Fe
2O
3の含有量が0.1質量%となるようにガラス原料を調合し、ガラス組成物を得た。前記ガラス組成物は、SiO
2とAl
2O
3とMgOとCaOとの合計含有量が99.9質量%であり、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが1.6である。本実施例で得られた前記ガラス組成物の組成を表1に示す。
【0070】
次に、本実施例で得られた前記ガラス組成物を用いた以外は実施例1と全く同一にして、液相温度及び液相粘度を求めると共に、耐失透性を評価し、失透初相の結晶種を同定した。結果を表2に示す。
【0071】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸して、長円形の断面形状を備えるガラス繊維を得た。尚、得られたガラス繊維は、前記ガラス組成物と同一組成を有しており、その断面積を真円に換算したときの繊維径が15μmであった。次に、本実施例で得られた前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、該ガラス繊維の強度、弾性率、ガラス変形比を算出した。結果を表2に示す。
【0072】
次に、本実施例で得られた前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、繊維強化樹脂成形体を作製し、引張試験により該繊維強化樹脂成形体の強度を算出した。結果を表2に示す。
【0073】
〔実施例3〕
本実施例では、まず、全量に対しSiO
2の含有量が58.2質量%、Al
2O
3の含有量が20.7質量%、MgOの含有量が12.0質量%、CaOの含有量が9.0質量%、Fe
2O
3の含有量が0.1質量%となるようにガラス原料を調合し、ガラス組成物を得た。前記ガラス組成物は、SiO
2とAl
2O
3とMgOとCaOとの合計含有量が99.9質量%であり、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが1.3である。本実施例で得られた前記ガラス組成物の組成を表1に示す。
【0074】
次に、本実施例で得られた前記ガラス組成物を用いた以外は実施例1と全く同一にして、液相温度及び液相粘度を求めると共に、耐失透性を評価し、失透初相の結晶種を同定した。結果を表2に示す。
【0075】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸して、長円形の断面形状を備えるガラス繊維を得た。尚、得られたガラス繊維は、前記ガラス組成物と同一組成を有しており、その断面積を真円に換算したときの繊維径が15μmであった。次に、本実施例で得られた前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、該ガラス繊維の強度、弾性率、ガラス変形比を算出した。結果を表2に示す。
【0076】
次に、本実施例で得られた前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、繊維強化樹脂成形体を作製し、引張試験により該繊維強化樹脂成形体の強度を算出した。結果を表2に示す。
【0077】
〔実施例4〕
本実施例では、まず、全量に対しSiO
2の含有量が61.4質量%、Al
2O
3の含有量が19.0質量%、MgOの含有量が12.9質量%、CaOの含有量が6.5質量%、Fe
2O
3の含有量が0.1質量%、Na
2Oの含有量が0.1%となるようにガラス原料を調合し、ガラス組成物を得た。前記ガラス組成物は、SiO
2とAl
2O
3とMgOとCaOとの合計含有量が99.8質量%であり、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが2.0である。本実施例で得られた前記ガラス組成物の組成を表1に示す。
【0078】
次に、本実施例で得られた前記ガラス組成物を用いた以外は実施例1と全く同一にして、液相温度及び液相粘度を求めると共に、耐失透性を評価し、失透初相の結晶種を同定した。結果を表2に示す。
【0079】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸して、長円形の断面形状を備えるガラス繊維を得た。尚、得られたガラス繊維は、前記ガラス組成物と同一組成を有しており、その断面積を真円に換算したときの繊維径が15μmであった。次に、本実施例で得られた前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、該ガラス繊維の強度、弾性率、ガラス変形比を算出した。結果を表2に示す。
【0080】
〔実施例5〕
本実施例では、まず、全量に対しSiO
2の含有量が58.0質量%、Al
2O
3の含有量が21.9質量%、MgOの含有量が10.0質量%、CaOの含有量が10.0質量%、Fe
2O
3の含有量が0.1質量%となるようにガラス原料を調合し、ガラス組成物を得た。前記ガラス組成物は、SiO
2とAl
2O
3とMgOとCaOとの合計含有量が99.9質量%であり、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが1.0である。本実施例で得られた前記ガラス組成物の組成を表1に示す。
【0081】
次に、本実施例で得られた前記ガラス組成物を用いた以外は実施例1と全く同一にして、液相温度及び液相粘度を求めると共に、耐失透性を評価し、失透初相の結晶種を同定した。結果を表2に示す。
【0082】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸して、長円形の断面形状を備えるガラス繊維を得た。尚、得られたガラス繊維は、前記ガラス組成物と同一組成を有しており、その断面積を真円に換算したときの繊維径が15μmであった。次に、本実施例で得られた前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、該ガラス繊維の強度、弾性率、ガラス変形比を算出した。結果を表2に示す。
【0083】
〔実施例6〕
本実施例では、まず、全量に対しSiO
2の含有量が57.0質量%、Al
2O
3の含有量が20.0質量%、MgOの含有量が12.0質量%、CaOの含有量が10.9質量%、Fe
2O
3の含有量が0.1質量%となるようにガラス原料を調合し、ガラス組成物を得た。前記ガラス組成物は、SiO
2とAl
2O
3とMgOとCaOとの合計含有量が99.9質量%であり、CaOの含有量に対するMgOの含有量の比MgO/CaOが1.1である。本実施例で得られた前記ガラス組成物の組成を表1に示す。
【0084】
次に、本実施例で得られた前記ガラス組成物を用いた以外は実施例1と全く同一にして、液相温度及び液相粘度を求めると共に、耐失透性を評価し、失透初相の結晶種を同定した。結果を表2に示す。
【0085】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸して、長円形の断面形状を備えるガラス繊維を得た。尚、得られたガラス繊維は、前記ガラス組成物と同一組成を有しており、その断面積を真円に換算したときの繊維径が15μmであった。次に、本実施例で得られた前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、該ガラス繊維の強度、弾性率、ガラス変形比を算出した。結果を表2に示す。
【0086】
次に、本実施例で得られた前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、繊維強化樹脂成形体を作製し、引張試験により該繊維強化樹脂成形体の強度を算出した。結果を表2に示す。
【0087】
〔比較例1〕
本比較例では、いわゆるSガラス(SiO
2;64〜66%、Al
2O
3;24〜26%、MgO;9〜11%)を用いた以外は実施例1と全く同一にして、液相温度及び液相粘度を求めると共に、耐失透性を評価し、失透初相の結晶種を同定した。結果を表2に示す。
【0088】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸したところ、溶融ガラス中に失透が発生し、紡糸切断が多発したため、長円形の断面形状を備えるガラス繊維を得ることができなかった。失透を発生させないように溶融ガラスの温度を上げて紡糸したところ、白金合金ノズルから引き出されたガラス繊維が表面張力により丸まることを防止できず、前記ガラス繊維は略真円形の断面形状を備えていた。尚、得られたガラス繊維は、前記ガラス組成物と同一組成を有しており、その繊維径は15μmであった。
【0089】
また、本比較例で得られたガラス繊維は、前述のように略真円形の断面形状を備えているので、ガラス変形比、ガラス繊維の強度及び弾性率、繊維強化樹脂成形体の強度は算出していない。結果を表2に示す。
【0090】
〔比較例2〕
本比較例では、いわゆるEガラス(SiO
2の含有量が52.0〜56.0質量%、Al
2O
3の含有量が12.0〜16.0質量%、MgOの含有量が0〜6質量%、CaOの含有量が16〜25質量%、Na
2Oの含有量が0〜0.8質量%、B
2O
3の含有量が5.0〜10.0質量%)を用いた以外は実施例1と全く同一にして、液相温度及び液相粘度を求めると共に、耐失透性を評価し、失透初相の結晶種を同定した。結果を表2に示す。
【0091】
次に、本比較例で得られた前記ガラス組成物を用いた以外は実施例1と全く同一にして、液相温度及び液相粘度を求めると共に、耐失透性を評価し、失透初相の結晶種を同定した。結果を表2に示す。
【0092】
次に、前記ガラス組成物を溶融して溶融ガラスとし、該溶融ガラスを紡糸して、長円形の断面形状を備えるガラス繊維を得た。尚、得られたガラス繊維は、前記ガラス組成物と同一組成を有しており、その断面積を真円に換算したときの繊維径が15μmであった。次に、本比較例で得られた前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、該ガラス繊維の強度、弾性率、ガラス変形比を算出した。結果を表2に示す。
【0093】
次に、本比較例で得られた前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を用いた以外は実施例1と全く同一にして、繊維強化樹脂成形体を作製し、引張試験により該繊維強化樹脂成形体の強度を算出した。結果を表2に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
耐失透性:Aは結晶が析出していないことを示し、Bは表面の一部に結晶が析出していることを示し、Cは、表面及び内部に結晶が析出していることを示す。
失透初相:cor…コーディエライト、ano…アノーサイト、mul…ムライト、
cri…クリストバライト
ガラス繊維の断面形状は、非円形の断面形状を製造できたものを○としている。ここでは実際に長円を作成し、変形比についての測定を行っている。比較例1のガラスに関しては、非円形の断面形状のガラス繊維を製造できないこことから、ガラス繊維としての性質である強度等、及び成形体強度は測定できない。
表中、「N.D.」は試験を実施しなかったことを示し、「―」は得られた繊維の形状に起因して測定を実施することができなかったことを示す。
【0097】
表2から、実施例1〜6の長円形の断面形状を備えるガラス繊維は、4.0GPa以上の強度と85GPa以上の弾性率とを備え、優れた強度及び弾性率を備えることが明らかである。また、実施例1〜6の繊維強化樹脂成形体は、前記長円形の断面形状を備えるガラス繊維を用いて製造されることにより、優れた強度を備えていることが明らかである。
【0098】
これに対して、比較例1は、ガラス繊維の組成においてCaOを含まないために液相粘度が低く、非円形の断面形状を備えるガラス繊維を得ることができない。
【0099】
また、比較例2は、ガラス繊維の組成において、Al
2O
3及びMgOの含有量が本発明の下限未満であるので、長円形の断面形状を備えるガラス繊維の強度及び弾性率が実施例1〜6の長円形の断面形状を備えるガラス繊維より低い。また、比較例2の繊維強化樹脂成形体は、その強度も実施例1〜6の繊維強化樹脂成形体より低い。
【0100】
さらに、本発明のガラス繊維を用いて繊維強化樹脂成形体を作成した場合、高強度ガラスであるSガラスと同程度の引張強度を実現できることを示す。
図1に、本発明のガラス繊維(1、2)、Eガラスよりなるガラス繊維(3、4)、Sガラス繊維(5)を用いて、上記と同様に成形体を作成し、引張強度を測定した結果を示す。
【0101】
実施例1のガラス組成によって製造された、円形(
図1、1)、長円(
図1、2)のガラス繊維、Eガラス組成によって製造された、円形(
図1、3)、長円(
図1、4)、高強度ガラスであるSガラス組成によって製造された円形(
図1、5)のガラス繊維を用いて、実施例1と同様にして繊維強化樹脂成形体を製造し、引張試験を行った。
【0102】
Eガラス組成のガラス繊維と比較して、本発明のガラス繊維を用いた場合には、成形体強度が増加していることが確認できる。本発明のガラス繊維を用いた場合には、断面形状が円形のガラス繊維(
図1、1)であっても、Eガラス繊維の長円(
図1、4)を用いた場合に比べ、僅かであるが強度が増加していることが明らかとなった。
【0103】
さらに、本発明のガラス組成を用いた非円形の断面形状のガラス繊維によって、成形体を製造した場合には(
図1、2)、高強度ガラスであるSガラスと同程度の成形体強度(
図1、5)を実現することができる。非円形の断面形状とすることによって、円形の断面形状のガラス繊維に比べ、熱可塑性樹脂との接触面積が広くなり成形体を製造したときの強度が増すからである。ここでは、非円形断面形状が長円のガラス繊維を用いたが、接触面積はガラス繊維の断面形状により変えることができるため、さらに表面積を調節し成形体強度を増すことも可能である。
【0104】
本発明の非円形断面形状のガラス繊維を用いることによって、成形品の高強度化を達成することができる。その結果、強度はそのままに、薄肉成形品や微細成形品を製造することができるため、成形品の軽量化を図ることが可能となる。