(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜4のいずれかに記載の前駆体繊維シートを、最高温度1300〜3000℃の範囲内で加熱し、天然パルプおよび加熱処理することで炭化する樹脂を結着炭化物に転換する多孔質炭素シートの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の多孔質炭素シートについて、図を用いて説明する。なお、本発明はこれらの図に示された構成に何ら制限されるものではない。
【0015】
図1は、本発明の一形態に係る多孔質炭素シートの表面を撮像した電子顕微鏡写真(倍率200倍)である。炭素短繊維2およびパルプ炭化物3が樹脂炭化物4によって結着されている多孔質炭素シート1とから構成される。
【0016】
図2は、本発明の一形態に係る多孔質炭素シートを用いた膜電極接合体の概略断面図である。多孔質炭素シート1は、炭素短繊維2およびパルプ炭化物3が樹脂炭化物4によって結着されて構成されている。また、
図2では、多孔質炭素シート1は触媒層側に、炭素質粒子を含む微多孔質層5を有している。以下、各構成要素について、説明する。
【0017】
多孔質炭素シートは、セパレータから供給されるガスを触媒層へと拡散するための高いガス拡散性、電気化学反応に伴って生成する水をセパレータへ排出するための高い排水性、発生した電流を取り出すための高い導電性を有することが必要である。このため、多孔質炭素シートは、導電性を有し、平均細孔径が10〜100μmであることが好ましい。
【0018】
多孔質炭素シートとしては、より具体的には、例えば、炭素繊維織物または、炭素繊維抄紙体などの炭素繊維不織布をそのまま用いてもよい。本発明では、電解質膜の厚み方向の寸法変化を吸収する特性、すなわち「ばね性」に優れることから、炭素繊維抄紙体において、そこに含まれる炭素短繊維を炭化物で結着してなる基材、すなわち「カーボンペーパー」を用いる。カーボンペーパーは、炭素繊維抄紙体に、加熱処理することで炭化する樹脂(以下、易炭化樹脂ともいう)を含ませ、前駆体繊維シートとなした後、易炭化樹脂を炭化により炭化物に転換したものである。
【0019】
前駆体繊維シートは、多孔質炭素シートの前駆体となるものである。本発明の前駆体繊維シートは、平均長さが3〜10mmである炭素短繊維、灰分率が0.15質量%以下の天然パルプ、および加熱することで炭化する樹脂を含む。そして、本発明の多孔質炭素シートは、その前駆体繊維シートを炭化処理することで得られる。
【0020】
炭素短繊維とは、不連続(短繊維)状態の炭素繊維である。炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(以下、PANと略記する。)系、ピッチ系、レーヨン系、気相成長系などの炭素繊維が挙げられる。なかでも、機械強度に優れることから、PAN系、ピッチ系炭素繊維が本発明において好ましく用いられる。
【0021】
前駆体繊維シートにおいて、炭素短繊維は、単繊維の平均直径が3〜20μmの範囲内であることが好ましく、5〜10μmの範囲内であることがより好ましい。平均直径が3μm以上であると、得られる多孔質炭素シートにおいて、細孔径が大きくなり排水性が向上し、フラッディングを抑制することができる。一方、平均直径が20μm以下であると、得られる多孔質炭素シートにおいて、水蒸気拡散性が小さくなり、ドライアップを抑制することができる。また、異なる平均直径を有する2種類以上の炭素短繊維を用いると、得られる多孔質炭素シートの表面平滑性を向上できるために好ましい。
【0022】
ここで、炭素短繊維における単繊維の平均直径は、走査型電子顕微鏡などの顕微鏡で、炭素繊維を1,000倍以上に拡大して写真撮影を行い、無作為に異なる30本の単繊維を選び、その直径を計測し、その平均値を求めたものである。走査型電子顕微鏡としては、(株)日立製作所製S−4800、あるいはその同等品を用いることができる。
【0023】
前駆体繊維シートに用いる炭素繊維は不連続なもの、すなわち炭素短繊維である。具体的には、後述する天然パルプとの混抄の際の炭素短繊維の分散性を確保するために、炭素短繊維の平均長さは3〜10mmの範囲内である必要がある。なかでも、4〜9mmの範囲内にあることが好ましい。平均長さが3mm以上であると、得られる多孔質炭素シートが機械強度、導電性に優れたものとなる。一方、平均長さが10mm以下であると、後述する天然パルプとの混抄の際の炭素短繊維の分散性が優れ、後述するような単位面積1m
2あたりの炭素短繊維束による外観欠点数を1以下に抑えることができる。斯かる平均長さを有する炭素短繊維は、連続した炭素繊維を所望の長さにカットする方法などにより得られる。
【0024】
ここで、炭素短繊維の平均長さは、走査型電子顕微鏡などの顕微鏡で、炭素短繊維を50倍以上に拡大して写真撮影を行い、無作為に異なる30本の単繊維を選び、その長さを計測し、その平均値を求めたものである。走査型電子顕微鏡としては、(株)日立製作所製S−4800、あるいはその同等品を用いることができる。なお、炭素短繊維における単繊維の平均直径や平均長さは、通常、原料となる炭素短繊維についてその炭素短繊維を直接観察して測定される。前駆体繊維シートや多孔質炭素シートを観察して測定しても良い。
【0025】
多孔質炭素シートを機械強度に優れ、排水性が優れたものとするには、前駆体繊維シート、特に炭素繊維抄紙体に、天然パルプを含むことが重要である。天然パルプの含有量は、炭素短繊維100質量部に対して5〜100質量部であることが好ましく、20〜80質量部がより好ましく、30〜60質量部がさらに好ましい。天然パルプの含有量が少なすぎる場合、得られる多孔質炭素シートにおいて炭素短繊維を結着するパルプ炭化物が減少し、機械強度が低下することがある。天然パルプの含有量が多すぎる場合、得られる多孔質炭素シートにおいてパルプ炭化物が網目状に発達しすぎて発電反応に必要な水素と酸素、発電反応で生成する水の物質移動を阻害し、特に高加湿条件での発電性能が低下することがある。
【0026】
なお、木材や草などの天然に存在する材料を原料として得られたパルプであれば、それが酸性溶液やアルカリ性溶液などで処理されていたとしても、本発明における天然パルプに含まれるものとする。
【0027】
天然パルプとしては、木材パルプ、バガスパルプ、ワラパルプ、ケナフパルプ、竹パルプ、麻パルプ、コットンリンターパルプなどを用いることができる。天然パルプとしては木材パルプであることが好ましい。
【0028】
ここで、多孔質炭素シートの穴、異物、焦げによる外観欠点を少なくするために、上記天然パルプは、灰分率が0.15質量%以下である必要がある。なかでも、0.13質量%以下であることが好ましく、さらに0.1質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
灰分とは天然パルプに含まれる金属イオン等の無機成分を示し、灰分率は、JIS P 8251:2003「紙、板紙及びパルプ−灰分試験方法−900℃燃焼法」に準じて測定することができる。
【0030】
天然パルプ中の灰分はある程度含んでいた方が抄紙体に弾力性を持たせ、ハンドリング性を改善することが予想される。斯かる観点から、天然パルプ中の灰分率は皆無であるよりも、0.03質量%以上であることが好ましい。
【0031】
灰分率が0.15質量%以下である天然パルプは、一般的な天然パルプを酸性溶液で処理することで得られる。
【0032】
天然パルプを酸性溶液で処理する際の酸性溶液中の酸としては、蟻酸、蓚酸、酢酸等の有機酸、硫酸、亜硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸のいずれでもよく、特に限定されるものではない。好ましくは比較的安価な硫酸、亜硫酸、塩酸等が使用され、さらに好ましくは亜硫酸が使用される。また、溶液は通常、水溶液である。少なくとも亜硫酸を含む溶液を用いて処理された天然パルプは、いわゆるサルファイトパルプと呼ばれ、灰分率が非常に少ないため好適に使用できる。
【0033】
また、通常、パルプと酸の混合液のpH調整と粘度低下抑制のために、天然パルプを処理するために用いる酸性溶液には、亜硫酸塩が添加される。つまり天然パルプを処理するために用いる酸性溶液は、亜硫酸に加えて亜硫酸塩を含むことが好ましい。そして亜硫酸塩について、かかる塩の金属はリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属およびマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属が挙げられる。亜硫酸塩は1種類単独で使用されたもの、2種類以上使用されたものでも構わないが、好適には比較的安価な亜硫酸カルシウムが使用される。さらに好適には工程でスケールトラブルを生じにくい亜硫酸マグネシウムが使用される。そして酸性溶液で処理する際の通常の処理条件は、pHが1〜3、温度が125〜150℃、時間が5〜24時間である。
【0034】
燃料電池内部での物質移動を阻害しないためには、サルファイトパルプの中でもフィブリル化が進んでいない木材パルプが原料のものを用いることが好ましい。中でもビスコースレーヨンの原料としても用いられている広葉樹サルファイトパルプ(LDPT)がより好ましい。
【0035】
本発明の前駆体繊維シートは、得られる多孔質炭素シートにおいて結着炭化物を形成させるため、後述するような易炭化樹脂を含んでいる必要がある。その含有量は、炭素短繊維100質量部に対して、30〜400質量部であることが好ましく、50〜300質量部であることがより好ましい。易炭化樹脂の含有量が30質量部以上であると、得られる多孔質炭素シートが機械強度、導電性、熱伝導性の優れたものとなり好ましい。一方、易炭化樹脂の含有量が400質量部以下であると、得られる多孔質炭素シートがガス拡散性に優れたものとなり好ましい。
【0036】
本発明において、多孔質炭素シートには、炭素質粒子を含むことが好ましい。そのためには、前駆体繊維シート、特に易炭化樹脂に、炭素質粒子を含ませておく。炭素質粒子としては、後述する微多孔質で用いるものと同様のものが例示できる。炭素質粒子を含むことにより、多孔質炭素シート自体の導電性が向上する。炭素質粒子の平均粒子径は0.01〜10μmであることが好ましく、1〜8μmがより好ましく、3〜6μmがさらに好ましい。また、炭素質粒子は、黒鉛またはカーボンブラックの粉末であることが好ましく、黒鉛粉末であることがさらに好ましい。炭素質粒子の平均粒子径は、動的光散乱測定を行い、求めた粒径分布の数平均から求めることができる。
【0037】
上記のような前駆体繊維シートを炭化処理することにより、本発明の多孔質炭素シートが得られる。
【0038】
本発明の多孔質炭素シートは、炭素短繊維が結着炭化物により結着されている。結着炭化物は、炭素短繊維を結着している、炭素短繊維以外の炭素材料であり、易炭化樹脂が炭化された樹脂炭化物や、天然パルプが炭化されたパルプ炭化物を含む。結着炭化物比率Rが30〜60%であることが好ましく、32〜58%であることがより好ましく、35〜56%であることがさらに好ましい。結着炭化物比率Rが30%未満の場合、多孔質炭素シートの引張強度や導電性が低下することがある。結着炭化物比率が60%を超える場合、炭素短繊維を結着する樹脂炭化物が炭素短繊維の間に水かき状に広がり過ぎて発電反応に必要な水素と酸素、発電反応で生成する水の物質移動を阻害し、特に高加湿条件での発電性能が低下することがある。
【0039】
多孔質炭素シートの結着炭化物比率Rとは、多孔質炭素シートにおいて炭素短繊維以外の炭素材料が占める比率であり、次の(I)式によって算出できる。
【0040】
R(%)=[(A−B)/A]×100 (I)
ただし、A:多孔質炭素シートの目付(g/m
2)
B:炭素短繊維の目付(g/m
2)
ここで、炭素短繊維の目付は、多孔質炭素シートの場合と同様にして測定できる。易炭化樹脂を含浸する前の炭素繊維抄紙体を用いて測定する場合には、それを大気中にて400℃で8時間加熱し、炭素短繊維を残してそれ以外のバインダー、パルプなどを熱分解させたものを用いる。
【0041】
本発明において、多孔質炭素シートの平均厚みは60〜300μm、好ましくは70〜250μm、より好ましくは80〜200μmである。且つ、多孔質炭素シートの嵩密度が0.2〜0.4g/cm
3、好ましくは0.22〜0.38g/cm
3、より好ましくは0.24〜0.36g/cm
3である。多孔質炭素シートの平均厚みが60μm以上であることで、機械強度が高くなりハンドリングが容易となる。多孔質炭素シートの平均厚みと嵩密度は燃料電池のサイズや運転条件によって適宜選択する。電解質膜の保湿が必要な燃料電池の場合には、厚みが厚く、嵩密度が高い方が好ましい。ガス拡散性と排水性が必要な燃料電池の場合には、厚みが薄く、嵩密度が低い方が好ましい。多孔質炭素シートの平均厚みや嵩密度が前記した範囲になるよう、前駆体繊維シートにおいて、炭素短繊維の目付、炭素短繊維に対する易炭化樹脂の配合量などを調整する。
【0042】
なお、多孔質炭素シートの平均厚みは、多孔質炭素シートを面圧0.15MPaで加圧した際の厚みで示される。具体的には、無作為に異なる20箇所以上を選び、それぞれの箇所について、測定子の断面が直径5mmの円形であるマイクロメーターを用いて、シートの厚み方向に0.15MPaの面圧を付与して個別の厚みを測定し、測定した個別の厚みを平均することにより得ることができる。
【0043】
また、多孔質炭素シートの嵩密度は、電子天秤を用いてシートから切り出した10cm×10cm角10枚を秤量し平均することにより求めた多孔質炭素シートの目付(単位面積当たりの質量)を、前記した多孔質炭素シートの平均厚みで除して求めることができる。
【0044】
本発明の多孔質炭素シートは、引張強度が15〜50MPaであることが好ましく、16MPa以上であることがより好ましく、17MPa以上であることがさらに好ましい。引張強度が15MPa未満の場合、多孔質炭素シートの製造、撥水加工、微多孔質層の塗工の際のハンドリング性が低下したりすることがある。引張強度は、大きいほどより好ましいが、嵩密度が0.2〜0.4g/cm
3程度の場合には、通常、50MPa程度が限界である。
【0045】
多孔質炭素シートの引張強度は、JIS P 8113:2006「紙及び板紙−引張特性の試験方法−第2部:定速伸張法」に規定される方法に準拠して行う。このとき、試験片の幅は15mm、長さは100mm、掴み間隔は60mmとする。引張速度は2mm/分とする。なお、多孔質炭素シートが異方性を有している場合には、縦方向と横方向について各10回の試験を行い、それらの平均を多孔質炭素シートの引張強度とする。
【0046】
本発明の多孔質炭素シートは、単位面積1m
2あたりの、炭素短繊維束による外観欠点数が1.0以下であり、かつ穴、異物、および焦げによる外観欠点数の合計が0.5以下であることが好ましい。炭素短繊維束による外観欠点は、部分的に電解質膜を圧迫して耐久性を低下させることがある。
【0047】
多孔質炭素シートにおける炭素短繊維束による外観欠点とは、炭素短繊維が複数本集合して固まりのようになっている部分で、透過光を通すと周囲の部分より光を遮るため目視で判別可能である。
【0048】
多孔質炭素シートにおける外観欠点には、炭素短繊維束による外観欠点以外に、多孔質炭素シートに存在する穴、異物、および焦げによる外観欠点がある。穴は、不純物等が消失した際に生じたものである。穴が多く存在する多孔質炭素シートは、部分的に電解質膜に圧力がかからず、電解質膜が水を吸収する際の膨張、乾燥する際の収縮時に耐久性を低下させたり、部分的に電解質が乾燥しやすくなる。異物は、不純物等が焼成時に焼き飛ばずに残留したものである。異物が多く存在する多孔質炭素シートは、拡散性を阻害することがある。焦げは、不純物等が炭化して炭素短繊維間に残留したものである。焦げが多く存在する多孔質炭素シートは、拡散性を阻害することがある。そのため外観欠点は検査により除去することが必要であり、それらの外観欠点は少ない方が収率改善や検査工数削減の観点から好ましい。
【0049】
外観欠点とされるサイズは運転条件や電解質膜等の耐久性にもよる。一般的に炭素短繊維束の場合は、多孔質炭素シートの表面部分よりも凸になっている部分であり、目視で束が視認できる部分を指し、通常、指の腹で多孔質炭素シートの表面に接触した際に凸の触感がある。一方、穴は、多孔質炭素シートを貫通している部分を指し、穴の最も長径の部分が0.5mm以上のものを指す。異物と焦げは、最も長径の部分が1.5mm以上のものを指す。
【0050】
炭素短繊維束、穴、異物、および焦げによる外観欠点数は、例えば反射光および透過光で多孔質炭素シートを目視で観察することでカウントできる。外観欠点検査装置のように、ロールを搬送しながら目視や画像処理で判別しながら検査する方法を用いてもよい。なお、以下、外観欠点数を、単に欠点数ということもある。
【0051】
本発明において、前駆体繊維シートは通常、炭素短繊維を含む炭素繊維抄紙体に、易炭化樹脂が含浸されてなる。なかでも、前駆体繊維シートにおける炭素短繊維の目付、炭素短繊維に対する易炭化樹脂の配合量を制御することが、本発明に適合した多孔質炭素シートとする上で有効である。ここで、前駆体繊維シートにおける炭素短繊維の目付を小さくすることにより低嵩密度の多孔質炭素シートが得られる。前駆体繊維シートにおける炭素短繊維の目付を大きくすることにより高嵩密度の多孔質炭素シートが得られる。また、炭素短繊維に対する易炭化樹脂の配合量を小さくすることにより低嵩密度の多孔質炭素シートが得られる。炭素短繊維に対する易炭化樹脂の配合量を大きくすることにより高嵩密度の多孔質炭素シートが得られる。また、同程度の炭素短繊維の目付であっても、前駆体繊維シートの厚みを大きくすることにより低嵩密度の基材が得られる。前駆体繊維シートの厚みを小さくすることにより高嵩密度の多孔質炭素シートが得られる。斯かる嵩密度を有する多孔質炭素シートは、後述する製法において、前駆体繊維シートにおける炭素短繊維の目付、炭素短繊維に対する易炭化樹脂の配合量、および、多孔質炭素シートの厚みを制御することにより得られる。
【0052】
本発明において、多孔質炭素シートは、撥水性樹脂を含んでいることが好ましい。撥水性樹脂は特に限定されないが、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレンとパーフルオロプロピルビニルエーテルの共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体(ETFE)などのフッ素樹脂が挙げられる。撥水性樹脂の付与量は、撥水性樹脂を付与する前の多孔質炭素シート100質量部に対して1〜50質量部であることが好ましく、3〜40質量部であることがより好ましい。撥水性樹脂の付与量が1質量部以上であると、多孔質炭素シートが排水性により優れたものとなり、50質量部以下であると、多孔質炭素シートが導電性により優れたものとなる。
【0053】
ここで、撥水性樹脂が、多孔質炭素シートの中で、後述の微多孔質層側に偏在して配置されていると、触媒層側からセパレータ側への排水性を低下させることなく高価な撥水性樹脂の配合量を最小限に留めることができるため好ましい。撥水性樹脂が、多孔質炭素シートの中で偏在しているかどうかを確認するためには、多孔質炭素シートを走査型電子顕微鏡などの顕微鏡で400倍程度に拡大して、エネルギー分散型X線分析装置、あるいは電子線マイクロアナライザーなどで断面方向のフッ素の濃度分布を分析すればよい。
【0054】
本発明において、多孔質炭素シートの細孔径が20〜80μmの範囲内であることが好ましく、25〜75μmの範囲内であることがより好ましく、30〜70μmの範囲内であることがさらに好ましい。細孔径が20μm以上であると、排水性が向上し、フラッディングを抑制することができる。細孔径が80μm以下であると、導電性が高く、高温、低温のいずれにおいても発電性能が向上する。
【0055】
ここで、多孔質炭素シートの細孔径は、水銀圧入法により、測定圧力6kPa〜414MPa(細孔径30nm〜400μm)の範囲で測定して得られる細孔径分布のピーク径を求めたものである。なお、複数のピークが現れる場合は、最も高いピークのピーク径を採用する。測定装置としては、(株)島津製作所製オートポア9520、あるいはその同等品を用いることができる。
【0056】
本発明において、多孔質炭素シートは、炭素質粒子を含む微多孔質層が形成されてなることが好ましい。微多孔質層には通常、炭素質粒子が全体量に対する質量分率で5〜95質量%含まれる。
【0057】
微多孔質層を形成する場合、微多孔質層は、多孔質炭素シートの片表面のみ、および/または内部に染み込んだ状態、および/または両表面に配置されていればよい。ガス拡散層は、セパレータから供給されるガスを触媒へと拡散するための高いガス拡散性、電気化学反応に伴って生成する水をセパレータへ排出するための高い排水性、発生した電流を取り出すための高い導電性を有することを必要とする。加えて電解質膜への水分の逆拡散を促進する機能を有することが必要であるので、微多孔質層は導電性を有し、平均細孔径が10〜100nmの多孔質体であることが好ましい。より具体的には、例えば、炭素質粒子と撥水性樹脂を混合して形成されるものであることが好ましい。
【0058】
炭素質粒子としては、黒鉛、カーボンブラック、グラフェンの他、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維などのカーボンナノファイバー、炭素繊維ミルドファイバーなどが挙げられる。なかでもカーボンブラックであることが好ましい。炭素質粒子の粒子経は10〜200nmであることがより好ましい。
【0059】
なお、炭素質粒子の粒子径は、透過型電子顕微鏡により求めた粒子径をいう。測定倍率は50万倍で透過型電子顕微鏡による観察を行い、その画面に存在する100個の粒子径の外径を測定しその平均値を粒状炭素の粒子径とする。ここで外径とは、粒子の最大の径(つまり粒子の長径であり、粒子中の最も長い径を示す)を表す。透過型電子顕微鏡としては、日本電子(株)製JEM−4000EX、あるいはその同等品を用いることができる。
【0060】
炭素質粒子とは、炭素原子比率が80%以上であり、一次粒子径3〜500nm程度の炭素の微粒子をさす。炭素原子比率が80%以上である炭素質粒子を用いると、微多孔質層の導電性と耐腐食性がより向上する。一方、一次粒子径が500nm以下である炭素質粒子を用いると、単位質量あたりの粒子密度の増加、ストラクチャーの発達により微多孔質層の導電性、機械特性がより向上する。
【0061】
カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなどが挙げられる。なかでも導電性が高く、不純物の含有が少ないアセチレンブラックを用いることが好ましい。
【0062】
微多孔質層は、導電性を向上させるためにカーボンナノファイバーを含むことも好ましい。カーボンナノファイバーを含むことで微多孔質層の空孔率が大きくなり、導電性も良好となる。カーボンナノファイバーの繊維直径は1〜1,000nmであることが好ましく、10〜500nmであることがより好ましい。繊維直径が1nm未満であるカーボンナノファイバーを用いると、微多孔質層の空孔率が小さくなり、期待するほど排水性が向上しないことがある。また、繊維直径が1,000nmを超えるカーボンナノファイバーを用いると、微多孔質層の平滑性が低下し、また接触抵抗が増加することがある。
【0063】
カーボンナノファイバーとは、炭素原子比率が90%以上であり、アスペクト比が10以上のものを指す。カーボンナノファイバーは炭素原子比率が90%以上であり、アスペクト比が10以上であるので、それを用いると、微多孔質層の導電性、機械特性がより向上する。
【0064】
なお、カーボンナノファイバーのアスペクト比は、透過型電子顕微鏡により求めた繊維直径と繊維長さとの比をいう。測定倍率は50万倍で透過型電子顕微鏡による観察を行い、その画面に存在する100個の繊維直径および長さを測定し、平均繊維長さを平均繊維直径で除してアスペクト比を算出する。透過型電子顕微鏡としては、日本電子(株)製JEM−4000EX、あるいはその同等品を用いることができる。
【0065】
カーボンナノファイバーとしては、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノコイル、カップ積層型カーボンナノチューブ、竹状カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維、グラファイトナノファイバーが挙げられる。中でも、アスペクト比が大きく、導電性、機械特性が優れることから、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維を用いることが好ましい。気相成長炭素繊維とは気相中の炭素を触媒により成長させたものであり、平均直径が5〜200nm、平均繊維長さが1〜20μmの範囲のものが好適に用いられる。
【0066】
微多孔質層には、排水性を向上するため、上記カーボンブラックやカーボンナノファイバーのような炭素質粒子に加えて撥水性樹脂を組み合わせて用いることができる。ここで、撥水性樹脂としては、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレンとパーフルオロプロピルビニルエーテルの共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体(ETFE)などのフッ素樹脂が挙げられる。ここで、フッ素樹脂とは、その構造中にフッ素原子を含む撥水性を有する樹脂のことをいう。
【0067】
微多孔質層に撥水性樹脂を配合する場合、その配合量は、微多孔質層の炭素質粒子100質量部に対して1〜70質量部であることが好ましく、5〜60質量部であることがより好ましい。撥水性樹脂の配合量が1質量部以上であると、微多孔質層が排水性と機械強度により優れたものとなる。撥水性樹脂の配合量が70質量部以下であると、微多孔質層の導電性がより優れたものとなる。微多孔質層を構成する炭素質粒子としては、例えばアセチレンブラックなどの炭素質粒子とカーボンナノファイバーを混合したものでも良い。
【0068】
微多孔質層の平均厚みは、10〜55μmの範囲内であることが好ましく、15〜50μmであることがより好ましく、さらには20〜45μmの範囲内であることがより好ましい。微多孔質層の平均厚みが10μm以上であると多孔質炭素シートの炭素短繊維が電解質膜へ突き刺さることを防止することができる。微多孔質層の平均厚みが55μm以下であると、微多孔質層の電気抵抗を小さくでき、さらに微多孔質層の表面クラックの存在頻度を、1mm四方に1箇所以下にできるため好ましい。
【0069】
ここで、微多孔質層の平均厚みは、微多孔質層を含む多孔質炭素シートの平均厚みから、予め測定しておいた、微多孔質層を形成する前の多孔質炭素シートの平均厚みを差し引くことで求めることができる。
【0070】
なお、多微孔質層の表面クラック数は、光学顕微鏡などの顕微鏡で、微多孔質層の表面において無作為に異なる5箇所を選び、50〜100倍程度で拡大して写真撮影を行い、任意の1mm四方のエリアに存在する独立したクラック数をカウントし、それぞれの画像でのクラック数の平均値を計算した値で表される。光学顕微鏡としては、(株)キーエンス製デジタルマイクロスコープ、あるいはその同等品を用いることができる。
【0071】
微多孔質層の空孔率は、50〜85%であることが好ましく、60〜80%であることがより好ましい。空孔率が50%以上であることにより、ガス拡散層からの排水性やガス拡散性が高まり、空孔率が85%以下であることにより、微多孔質層が機械強度の優れたものとなる。
【0072】
なお、微多孔質層の空孔率は、走査型電子顕微鏡などの顕微鏡で、微多孔質層のシート面に直交する断面から無作為に異なる5箇所を選び、20,000倍程度で拡大して写真撮影を行い、画像処理により二値化し、二値化した画像を用いて個別の空孔率を計測し、それぞれの画像での個別の空孔率の平均値を計算することで求めることができる。画像処理については、例えば下記のような方法で行うことができる。
・処理領域の面積(縦画素数×横画素数)を計算し、全面積とする。
・画像を9画素平均(縦画素数3×横画素数3)し、画素単位のノイズを除去した画像1とする。
・画像1のうち、空孔以外の部分が検出される任意の平均輝度値以上の輝度を持つ領域(微多孔質層断面)を抽出し、画像2とする。
・画像2のうち、面積100画素以上の島のみを残し、画像3とする。
・画像3を半径2.5画素の円形クロージング処理し(小さな穴を埋める)、画像4とする。画像4を写した一例を
図3に示す。
・画像4 (=空孔でない部分)の面積を求める。
全面積から画像4の面積を引いた空孔の面積を全面積で割り、個別の空孔率を算出する。
【0073】
このようにして5箇所で個別の空孔率を求め、その平均値を計算し、空孔率とする。なお、走査型電子顕微鏡としては、(株)日立製作所製S−4800、あるいはその同等品、画像処理ソフトとしては、MVTec社製“HALCON(登録商標)”9.0、あるいはその同等品を用いることができる。
【0074】
次に、本発明の多孔質炭素シート、およびその前駆体繊維シートを得るに好適な製造方法について、具体的に説明する。
【0075】
<炭素繊維抄紙体>
炭素短繊維を含む炭素繊維抄紙体を得るためには、炭素短繊維を液中に分散させて製造する湿式抄紙法や、空気中に分散させて製造する乾式抄紙法などが用いられる。なかでも、薄肉の炭素繊維抄紙体が得られる湿式の抄紙法が好ましく用いられる。
【0076】
機械強度を上げるために、炭素短繊維に前述した天然パルプを混合して抄紙することが重要である。炭素繊維抄紙体に含まれる天然パルプの含有量は、炭素短繊維100質量部に対して5〜100質量部であることが好ましく、20〜80質量部がより好ましく、30〜60質量部がさらに好ましい。天然パルプの含有量が5質量部未満の場合、得られる多孔質炭素シートにおいて炭素短繊維を結着するパルプ炭化物が減少し、機械強度が低下することがある。天然パルプの含有量が100質量部を超える場合、得られる多孔質炭素シートにおいてパルプ炭化物が網目状に発達しすぎて発電反応に必要な水素と酸素、発電反応で生成する水の物質移動を阻害し、特に高加湿条件での発電性能が低下することがある。
【0077】
炭素繊維抄紙体は、面内の導電性、熱伝導性を等方的に保つという目的で、炭素短繊維が二次元平面内にランダムに分散したシート状であることが好ましい。
【0078】
炭素繊維抄紙体における細孔径分布は、炭素短繊維の含有率や分散状態に影響を受けるものの、概ね20〜100μm程度の大きさに形成することができる。
【0079】
炭素繊維抄紙体は、炭素短繊維の目付が10〜50g/m
2の範囲内にあることが好ましく、20〜40g/m
2の範囲内にあることがより好ましい。炭素短繊維の目付が10g/m
2以上であると、得られる多孔質炭素シートが機械強度の優れたものとなる。炭素短繊維の目付が50g/m
2以下であると、得られる多孔質炭素シートがガス拡散性と排水性により優れたものとなる。なお、炭素繊維抄紙体を複数枚張り合わせる場合は、張り合わせ後において炭素短繊維の目付が上記の範囲内にあることが好ましい。
【0080】
ここで、炭素繊維抄紙体における炭素短繊維の目付は、10cm四方に切り取った炭素繊維抄紙体を、窒素雰囲気下、温度450℃の電気炉内に15分間保持し、残瑳の質量を炭素繊維抄紙体の面積(0.01m
2)で除して求めることができる。
【0081】
<前駆体繊維シートの製造方法>
炭素繊維抄紙体に、加熱処理することで炭化する樹脂、いわゆる易炭化樹脂を含浸して前駆体繊維シートを作製する。炭素繊維抄紙体に易炭化樹脂を含浸する方法として、易炭化樹脂を含む溶液中に炭素繊維抄紙体を浸漬する方法、易炭化樹脂を含む溶液を炭素繊維抄紙体に塗工する方法、易炭化樹脂からなるフィルムを炭素繊維抄紙体に重ねて転写する方法などが用いられる。なかでも、生産性が優れることから、易炭化樹脂を含む溶液中に抄紙体を浸漬する方法が好ましく用いられる。
【0082】
ここで易炭化樹脂は、焼成時に炭化して導電性の炭化物となる。それにより、焼成後に、炭素短繊維が炭化物で結着された構造をとることができる。易炭化樹脂には、溶媒などを必要に応じて添加してもよい。易炭化樹脂は、熱硬化性樹脂などの樹脂であり、さらに、必要に応じて炭素系フィラー、界面活性剤などを添加してもよい。また、易炭化樹脂の炭化収率が40質量%以上であることが好ましい。炭化収率が40質量%以上であると、多孔質炭素シートが機械強度、導電性、熱伝導性の優れたものとなり好ましい。炭化収率は高ければ高い方がよいが、現在の技術水準では一般的に70質量%以下である。
【0083】
易炭化樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。なかでも、炭化収率が高いことから、フェノール樹脂が好ましく用いられる。また、易炭化樹脂に必要に応じて添加する添加物としては、多孔質炭素シートの機械強度、導電性、熱伝導性を向上する目的で、上記の炭素質粒子に代表される炭素系フィラーを含むことができる。ここで、炭素系フィラーとしては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、炭素繊維のミルドファイバー、黒鉛などを用いることができる。
【0084】
易炭化樹脂は、そのまま使用して含浸することもできる。必要に応じて、炭素繊維抄紙体への含浸性を高める目的で、易炭化樹脂を各種溶媒に溶解または分散して含浸してもよい。ここで、溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトンなどを用いることができる。
【0085】
炭素短繊維100質量部に対して、易炭化樹脂を30〜400質量部含浸することが好ましく、50〜300質量部含浸することがより好ましい。易炭化樹脂の含浸量が30質量部以上であると、得られる多孔質炭素シートが機械強度、導電性、熱伝導性の優れたものとなり好ましい。一方、易炭化樹脂の含浸量が400質量部以下であると、得られる多孔質炭素シートがガス拡散性に優れたものとなり好ましい。
【0086】
さらに、本発明の前駆体繊維シートの製造方法は、平均長さが3〜10mmの炭素短繊維、灰分率が0.15質量%以下の天然パルプ、および加熱処理することで炭化する樹脂を含むことを特徴とする。上記した理由により酸性溶液で処理することで前記天然パルプを得る工程を有するとよい。この工程における前記酸性溶液は、少なくとも亜硫酸を含むことが好ましく、亜硫酸に加えて亜硫酸塩を含むことがより好ましい。
【0087】
<張り合わせ、熱処理>
前駆体繊維シートを形成した後、炭化処理を行うに先立って、前駆体繊維シートの張り合わせや、熱処理を行うことができる。多孔質炭素シートを所定の厚みにする目的で、複数枚の前駆体繊維シートを張り合わせることができる。この場合、同一の性状を有する前駆体繊維シートを複数枚張り合わせることもできる。異なる性状を有する前駆体繊維シートを複数枚張り合わせることもできる。具体的には、炭素短繊維の平均直径、平均長さ、天然パルプ種、炭素繊維抄紙体の炭素短繊維の目付、天然パルプ目付、易炭化樹脂の含浸量などが異なる複数枚の前駆体繊維シートを張り合わせることもできる。
【0088】
易炭化樹脂を増粘、部分的に架橋する目的で、前駆体繊維シートを熱処理することができる。熱処理する方法としては、熱風を吹き付ける方法、プレス装置などの熱板に挟んで加熱する方法、連続ベルトに挟んで加熱する方法などを用いることができる。また、必要に応じて熱処理後の厚みを調整、および均一にする目的で熱処理と同時に加圧することもできる。
【0089】
<炭化処理>
前記のようにして得られた前駆体繊維シートを、必要に応じて張り合わせ、熱処理などを施した後、最高温度1,300〜3,000℃の範囲内で加熱し、天然パルプおよび易炭化樹脂を結着炭化物に転換する、いわゆる炭化工程に導く。炭化工程では、炭化するために、不活性雰囲気下で加熱処理、いわゆる焼成を行う。斯かる焼成は、バッチ式の加熱炉を用いることもできるし、連続式の加熱炉を用いることもできる。また、不活性雰囲気は、加熱炉内に窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスを流すことにより得ることができる。
【0090】
焼成の最高温度は1,300〜3,000℃の範囲内であり、1,700〜2,850℃の範囲内であることが好ましく、1,900〜2,700℃の範囲内であることがより好ましい。最高温度が1,300℃以上であると、易炭化樹脂の炭化が進み、多孔質炭素シートが導電性、熱伝導性の優れたものとなり好ましい。一方、最高温度が3,000℃以下であると、加熱炉の運転コストが低くなるために好ましい。このように、前駆体繊維シートを炭化処理することにより、多孔質炭素シートが得られる。
【0091】
<撥水加工>
本発明において、排水性を向上する目的で、多孔質炭素シートに撥水加工を施しても良い。撥水加工は、多孔質炭素シートに撥水性樹脂を付与することにより行うことができる。撥水性樹脂を付与する方法として、撥水性樹脂を含む分散液中に多孔質炭素シートを浸漬する方法、撥水性樹脂を含む分散液を多孔質炭素シートに塗工する方法、撥水性樹脂からなるフィルムを多孔質炭素シートに重ねて転写する方法などが用いられる。なかでも、生産性が優れることから、撥水性樹脂を含む分散液中に多孔質炭素シートを浸漬する方法が好ましく用いられる。
【0092】
<撥水加工の乾燥>
撥水加工の乾燥は、80〜200℃の温度で撥水性樹脂を含む分散液を乾かすことが好ましい。
【0093】
<微多孔質層>
本発明において、多孔質炭素シートに微多孔質層を形成しても良い。微多孔質層は、多孔質炭素シートの片表面または両表面に、炭素質粒子を水や有機溶媒などの分散媒に分散した炭素質粒子分散液を塗工することによって形成する。炭素質粒子分散液には、通常、上述した撥水加工で用いたのと同様の撥水性樹脂を混合する。塗工方法は、ダイコーター塗工、キスコーター塗工、スクリーン印刷、ロータリースクリーン印刷、スプレー噴霧、凹版印刷、グラビア印刷、バー塗工、ブレード塗工などが使用できる。多孔質炭素シートの表面粗さによらず塗工量を精度良く制御できるダイコーター塗工を使用することが好ましい。
【0094】
なお、分散液には、界面活性剤などの分散助剤を含んでもよい。また、分散液に用いる分散媒としては水が好ましく、分散助剤にはノニオン性の界面活性剤を用いるのがより好ましい。
【0095】
<微多孔質層の乾燥>
微多孔質層が形成された多孔質炭素シートは、次工程に投入する前に、80〜200℃の温度で加熱して微多孔質層内に含まれる分散媒を除去する(乾燥する)ことが好ましい。
【0096】
<焼結>
微多孔質層が形成された多孔質炭素シートは、必要に応じて、マッフル炉や焼成炉または高温型の乾燥機に投入、あるいは通過させ、300〜380℃にて1〜30分間加熱して焼結する。焼結により、撥水性樹脂を用いた場合にはそれが溶融し、炭素質粒子同士のバインダーとなって微多孔質層が形成される。
【0097】
以上例示した塗工方法はあくまでも例示のためであり、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0098】
次に、本発明の多孔質炭素シートを含むガス拡散層(撥水処理、および微多孔質層を含む場合を例示)を用いた膜電極接合体(MEA)および燃料電池について、
図2を用いて説明する。
【0099】
本発明において、前記した多孔質炭素シートをガス拡散層として用いて、両面に触媒層6を有する固体高分子電解質膜7の少なくとも片面に接合することで膜電極接合体を構成することができる。その際、触媒層6側に微多孔質層5を配置する、つまり微多孔質層5が触媒層6と接するように膜電極接合体を構成することが好ましい。
【0100】
斯かる膜電極接合体の両側にセパレータ(図示せず)を有することで燃料電池を構成する。通常、斯かる膜電極接合体の両側にガスケットを介してセパレータで挟んだものを複数個積層することによって固体高分子型燃料電池を構成する。触媒層6は、固体高分子電解質と触媒担持炭素を含む層からなる。触媒としては、通常、白金が用いられる。アノード側に一酸化炭素を含む改質ガスが供給される燃料電池にあっては、アノード側の触媒としては白金およびルテニウムを用いるのが好ましい。固体高分子電解質は、プロトン伝導性、耐酸化性、耐熱性の高い、パーフルオロスルホン酸系の高分子材料を用いるのが好ましい。斯かる燃料電池ユニットや燃料電池の構成自体は、よく知られているところである。
【実施例】
【0101】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。実施例で用いた各種特性の測定方法を次に示した。
【0102】
<パルプ中の灰分率の測定>
試料をJIS P 8203:2010(ISO638:2008)「紙、板紙及びパルプ−絶乾率の測定方法−乾燥機による方法」に準じて、105℃±2℃での絶乾試料を調整した。
【0103】
前記絶乾試料を用い、JIS P 8251:2003「紙、板紙及びパルプ−灰分試験方法−900℃燃焼法」に準じて、燃焼温度900℃±25℃での灰分測定を行った。灰分率は絶乾試料に対しての値であり、繰り返し数2(n=2)の平均値として求めた。
【0104】
<多孔質炭素シートの平均厚み測定>
多孔質炭素シート(微多孔質層が形成された多孔質炭素シートを含む)の平均厚みは、次のようにして求めた。すなわち、測定すべきシート状の検体から、無作為に異なる20箇所を選び、それぞれの箇所について、測定子断面が直径5mmの円形である(株)ニコン製 マイクロメーター MF−501を用いて、面圧0.15MPaで加圧した状態で個別の厚みを測定し、測定した個別の厚みを平均することにより求めた。
【0105】
<微多孔質層の平均厚みの測定>
微多孔質層の平均厚みは、微多孔質層を含む多孔質炭素シートの平均厚みから、予め測定しておいた、微多孔質層を形成する前の多孔質炭素シートの平均厚みを差し引くことで求めた。
【0106】
<多孔質炭素シートの嵩密度測定>
多孔質炭素シートの嵩密度は、電子天秤を用いて秤量した多孔質炭素シートの目付(単位面積当たりの質量)を、多孔質炭素シートの平均厚みで除して求めた。
【0107】
<多孔質炭素シートの引張強度測定>
多孔質炭素シートの引張強度は、JIS P 8113:2006に規定される方法に準拠して行った。試験片の幅は15mm、長さは100mm、掴み間隔は60mmとした。引張速度は2mm/分とした。なお、多孔質炭素シートが異方性を有しているため、縦方向と横方向について各10回の試験を行い、それらの平均を多孔質炭素シートの引張強度とした。
【0108】
<多孔質炭素シートにおける外観欠点数>
多孔質炭素シートにおける外観欠点(炭素短繊維束、穴、異物、および焦げ)の数は、搬送装置付属の外観欠点検査装置を用いて、ロールを搬送しながら目視で検査した。搬送装置付属の外観欠点検査装置とは、多孔質炭素シートの両面に光を当て、連続的に反射光、および透過光により外観欠点を目視観察できるようにした装置を指す。
【0109】
<固体高分子型燃料電池の発電性能評価>
白金担持炭素(田中貴金属工業(株)製、白金担持量:50質量%)1.00g、精製水 1.00g、“Nafion(登録商標)”溶液(Aldrich社製 “Nafion(登録商標)”5.0質量%)8.00g、イソプロピルアルコール(ナカライテスク社製)18.00gを順に加えることにより、触媒液を作成した。
【0110】
次に7cm×7cmにカットした “ナフロン(登録商標)”PTFEテープ“TOMBO(登録商標)”No.9001(ニチアス(株)製)に、触媒液をスプレーで塗工し、室温で乾燥させ、白金量が0.3mg/cm
2の触媒層付きPTFEシートを作製した。続いて、10cm×10cmにカットした固体高分子電解質膜“Nafion(登録商標)”NRE−211cs(DuPont社製)を2枚の触媒層付きPTFEシートで挟み、平板プレス装置で5MPaに加圧しながら130℃で熱プレスし、固体高分子電解質膜に触媒層を転写した。プレス後、PTFEシートを剥がし、触媒層付き固体高分子電解質膜を作製した。
【0111】
次に、触媒層付き固体高分子電解質膜を、7cm×7cmにカットした2枚の多孔質炭素シート(ガス拡散層)で挟み、平板プレス装置で3MPaに加圧しながら130℃で熱プレスし膜電極接合体を作製した。なお、ガス拡散層は微多孔質層を有する場合には、微多孔質層を有する面が触媒層側と接するように配置した。
【0112】
得られた膜電極接合体を燃料電池評価用単セルに組み込み、電流密度を変化させた際の電圧を測定した。ここで、セパレータとしては、溝幅1.5mm、溝深さ1.0mm、リブ幅1.1mmの一本流路のサーペンタイン型のものを用いた。また、アノード側には210kPaに加圧した水素を、カソード側には140kPaに加圧した空気を供給し、評価を行った。なお、水素、空気はともに70℃に設定した加湿ポットにより加湿を行った。また、水素、空気中の酸素の利用率はそれぞれ80%、67%とした。
【0113】
まず、運転温度を65℃に保持し、電流密度を2.2A/cm
2にセットした場合の、出力電圧を測定し、低温性能(耐フラッディング性)の指標として用いた。
【0114】
次に、電流密度を1.2A/cm
2にセットし、運転温度を80℃から、5分保持、5分かけて2℃上昇を繰り返しながら出力電圧を測定し、発電可能な限界温度を求め、高温性能(耐ドライアップ性)の指標として用いた。
【0115】
(実施例1)
<炭素繊維抄紙体製造工程>
東レ(株)製ポリアクリロニトリル系炭素繊維“トレカ (登録商標) ”T300−6K(平均単繊維径:7μm、単繊維数:6,000本)を6mmの長さにカットし、日本製紙ケミカル社製広葉樹サルファイトパルプ(LDPT:亜硫酸と亜硫酸塩の混合液で処理された天然パルプ)と共に、水を抄造媒体として連続的に抄造し、さらにポリビニルアルコールの10質量%水溶液に浸漬し、乾燥する抄紙工程を経て、ロール状に巻き取って、炭素短繊維の目付が15.7g/m
2の長尺の炭素繊維抄紙体を得た。炭素短繊維100質量部に対して、添加したパルプの量は50質量部、ポリビニルアルコールの付着量は35質量部に相当する。
【0116】
<樹脂含浸工程>
鱗片状黒鉛(平均粒径5μm)、フェノール樹脂、およびメタノールを1:9:50の質量比で混合した分散液を用意した。上記炭素繊維抄紙体に、炭素短繊維100質量部に対してフェノール樹脂が104質量部である樹脂含浸量になるように、上記分散液を連続的に含浸し、90℃の温度で樹脂含浸工程を経た後、前駆体繊維シートを得た。フェノール樹脂には、レゾール型フェノール樹脂と、ノボラック型フェノール樹脂を1:1の質量比で混合した樹脂を用いた。
【0117】
<熱処理工程>
平板プレス装置に上下の熱板が互いに平行となるようセットし、熱板温度170℃、面圧0.8MPaで、プレスの開閉を繰り返しながら上下から離型紙で挟み込んだ前駆体繊維シートを間欠的に搬送しつつ、同じ箇所がのべ6分間加熱加圧されるよう処理した。また、熱板の有効加圧長LPは1200mmで、間欠的に搬送する際の前駆体繊維シートの送り量LFを100mmとし、LF/LP=0.08とした。すなわち、30秒の加熱加圧、型開き、前駆体繊維シートの送り(100mm)、を繰り返すことによって熱処理を行い、ロール状に巻き取った。
【0118】
<炭化工程>
熱処理をした前駆体繊維シートを窒素ガス雰囲気に保たれた、最高温度が2400℃の加熱炉に導入し、加熱炉内を連続的に走行させながら、約500℃/分(650℃までは400℃/分、650℃を超える温度では550℃/分)の昇温速度で焼成する炭化工程を経た後、ロール状に巻き取って多孔質炭素シートを得た。炭化工程を経て、厚み100μm、目付24g/m
2、嵩密度0.24g/cm
3の、多孔質炭素シートを得た。
【0119】
この多孔質炭素シートの1m
2当たりの、炭素短繊維束による欠点数は0.09個であり、その他の外観欠点による欠点数の合計は0.21個(穴による欠点数は0.14個、異物による欠点数は0個、焦げによる欠点数は0.07個)で、良好な結果であった。
【0120】
<撥水処理工程>
次に多孔質炭素シート95質量部に対し、5質量部のPTFE樹脂を付与し、100℃で加熱して乾燥させ、撥水処理基材を得た。
【0121】
<微多孔質層形成工程>
微多孔質層を形成するための分散液は、炭素質粒子としてアセチレンブラックを使用し、その他の材料としてPTFE樹脂ディスパージョン、界面活性剤、精製水を用い、配合比を炭素質粒子/PTFE樹脂=75質量部/25質量部、固形分が22質量%となるように調整したものを用いた。
【0122】
分散液はダイコーターを用いて多孔質炭素シートに塗工し、120℃で加熱乾燥させ、塗工シートを得た。加熱乾燥させた塗工シートを380℃で加熱して、片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを作製した。微多孔質層の平均厚み(μm)は40μm、目付は20g/m
2であった。得られた片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを用いて、固体高分子型燃料電池の発電性能評価を行った。
【0123】
得られた多孔質炭素シートおよび片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートの特性を、用いた前駆体繊維シートの特性および炭化処理条件とともに表1に示す。
【0124】
(実施例2)
炭素繊維抄紙体に用いる炭素短繊維を、同様の炭素繊維を9mmの長さにカットした炭素短繊維に変更した以外は、実施例1と同様にして多孔質炭素シートを得た。
【0125】
この多孔質炭素シートの1m
2当たりの、炭素短繊維束による欠点数は0.95個であり、その他の外観欠点による欠点数の合計は0.17個(穴による欠点数は0.11個、異物による欠点数は0個、焦げによる欠点数は0.06個)で、良好な結果であった。
【0126】
得られた多孔質炭素シートを用いて、実施例1と同様の撥水処理工程および微多孔質層形成工程を通して、片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを得た。得られた片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを用いて、固体高分子型燃料電池の発電性能評価を行った。
【0127】
得られた多孔質炭素シートおよび片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートの特性を、用いた前駆体繊維シートの特性および炭化処理条件とともに表1に示す。
【0128】
(実施例3)
樹脂含浸工程において、用いる分散液を、鱗片状黒鉛(平均粒径5μm)、フェノール樹脂、およびメタノールを2:8:50の質量比で混合した分散液に変更し、樹脂含浸量を、炭素短繊維100質量部に対してフェノール樹脂が170質量部であるように変更した以外は、実施例1と同様にしてロール状前駆体繊維シートを得た。斯かるロール状前駆体繊維シートを2本準備し、次の熱処理工程で、上記2本のロール状前駆体繊維シートから前駆体繊維シートを巻き出して重ね合わせて熱処理した以外は、実施例1と同様に熱処理工程および炭化工程を通して、厚み190μm、目付66.6g/m
2、嵩密度0.35g/cm
3の、多孔質炭素シートを得た。
【0129】
この多孔質炭素シートの1m
2当たりの、炭素短繊維束による欠点数は0.14個であり、その他の外観欠点による欠点数の合計は0.29個(穴による欠点数は0.23個、異物による欠点数は0個、焦げによる欠点数は0.06個)で、良好な結果であった。
【0130】
得られた多孔質炭素シートを用いて、実施例1と同様の撥水処理工程および微多孔質層形成工程を通して、片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを得た。得られた片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを用いて、固体高分子型燃料電池の発電性能評価を行った。
【0131】
得られた多孔質炭素シートおよび片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートの特性を、用いた前駆体繊維シートの特性および炭化処理条件とともに表1に示す。
【0132】
(実施例4)
炭素繊維抄紙体に用いる炭素短繊維を、同様の炭素繊維を9mmの長さにカットした炭素短繊維に変更した以外は、実施例3と同様にして多孔質炭素シートを得た。
【0133】
この多孔質炭素シートの1m
2当たりの、炭素短繊維束による欠点数は0.14個であり、その他の外観欠点による欠点数の合計は0.27個(穴による欠点数は0.20個、異物による欠点数は0個、焦げによる欠点数は0.07個)で、良好な結果であった。
【0134】
得られた多孔質炭素シートを用いて、実施例1と同様の撥水処理工程および微多孔質層形成工程を通して、片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを得た。得られた片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを用いて、固体高分子型燃料電池の発電性能評価を行った。
【0135】
得られた多孔質炭素シートおよび片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートの特性を、用いた前駆体繊維シートの特性および炭化処理条件とともに表1に示す。
(実施例5)
樹脂含浸工程において、樹脂含浸量を、炭素短繊維100質量部に対してフェノール樹脂が310質量部であるように変更した以外は実施例3と同様にして、厚み190μm、目付85.5g/m
2、嵩密度0.45g/cm
3の、多孔質炭素シートを得た。
【0136】
この多孔質炭素シートの1m
2当たりの、炭素短繊維束による欠点数は0.11個であり、その他の外観欠点による欠点数の合計は0.26個(穴による欠点数は0.2個、異物による欠点数は0個、焦げによる欠点数は0.06個)であった。
【0137】
得られた多孔質炭素シートを用いて、実施例1と同様の撥水処理工程および微多孔質層形成工程を通して、片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを得た。得られた片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを用いて、固体高分子型燃料電池の発電性能評価を行った。
【0138】
得られた多孔質炭素シートおよび片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートの特性を、用いた前駆体繊維シートの特性および炭化処理条件とともに表1に示す。
【0139】
(比較例1)
炭素繊維抄紙体に用いるパルプを木材パルプであるアラバマ社製LBKP(晒クラフトパルプ)に変更した以外は、実施例1と同様にして多孔質炭素シートを得た。
【0140】
この多孔質炭素シートの1m
2当たりの、炭素短繊維束による欠点数は0.11個であり、その他の外観欠点による欠点数の合計は1.53個(穴による欠点数は1.07個、異物による欠点数は0.16個、焦げによる欠点数は0.30個)で、パルプ中の灰分率が高いため、穴、異物、焦げによる欠点数の合計が多くなった。
【0141】
得られた多孔質炭素シートを用いて、実施例1と同様の撥水処理工程および微多孔質層形成工程を通して、片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを得た。得られた片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを用いて、固体高分子型燃料電池の発電性能評価を行った。
【0142】
得られた多孔質炭素シートおよび片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートの特性を、用いた前駆体繊維シートの特性および炭化処理条件とともに表2に示す。
【0143】
(比較例2)
炭素繊維抄紙体に用いる炭素短繊維を、同様の炭素繊維を12mmの長さにカットした炭素短繊維に変更した以外は、比較例1と同様にして多孔質炭素シートを得た。
【0144】
この多孔質炭素シートの1m
2当たりの、炭素短繊維束による欠点数は1.64個であり、その他の外観欠点による欠点数の合計は1.45個(穴による欠点数は0.95個、異物による欠点数は0.18個、焦げによる欠点数は0.32個)で、パルプ中の灰分率が高いため、穴、異物、焦げによる欠点数の合計が多くなった。
【0145】
得られた多孔質炭素シートを用いて、実施例1と同様の撥水処理工程および微多孔質層形成工程を通して、片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを得た。得られた片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを用いて、固体高分子型燃料電池の発電性能評価を行った。
【0146】
得られた多孔質炭素シートおよび片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートの特性を、用いた前駆体繊維シートの特性および炭化処理条件とともに表2に示す。
【0147】
(比較例3)
炭素繊維抄紙体に用いる炭素短繊維を、同様の炭素繊維を12mmの長さにカットした炭素短繊維に変更した以外は、実施例1と同様にして多孔質炭素シートを得た。
【0148】
この多孔質炭素シートの1m
2当たりの、炭素短繊維束による欠点数は1.82個であり、その他の外観欠点による欠点数の合計は0.18個(穴による欠点数は0.11個、異物による欠点数は0個、焦げによる欠点数は0.07個)で、炭素短繊維の平均長さが12mmと長いため、抄紙工程での分散が悪くなり炭素短繊維束による欠点数が多くなった。
【0149】
得られた多孔質炭素シートを用いて、実施例1と同様の撥水処理工程および微多孔質層形成工程を通して、片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを得た。得られた片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを用いて、固体高分子型燃料電池の発電性能評価を行った。
【0150】
得られた多孔質炭素シートおよび片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートの特性を、用いた前駆体繊維シートの特性および炭化処理条件とともに表2に示す。
【0151】
(比較例4)
炭素繊維抄紙体に用いるパルプを木材パルプであるアラバマ社製LBKP(晒クラフトパルプ)に変更し、炭素繊維抄紙体に用いる炭素短繊維を、同様の炭素繊維を12mmの長さにカットした炭素短繊維に変更した以外は、実施例3と同様にして多孔質炭素シートを得た。
【0152】
この多孔質炭素シートの1m
2当たりの、炭素短繊維束による欠点数は1.80個であり、その他の外観欠点による欠点数の合計は1.11個(穴による欠点数は0.63個、異物による欠点数は0.17個、焦げによる欠点数は0.31個)で、炭素短繊維の平均長さが12mmと長いため、抄紙工程での分散が悪くなり炭素短繊維束による欠点数が多くなった。さらにパルプ中の灰分率が高いため、穴、異物、焦げによる欠点数の合計が多くなった。
【0153】
得られた多孔質炭素シートを用いて、実施例1と同様の撥水処理工程および微多孔質層形成工程を通して、片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを得た。得られた片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを用いて、固体高分子型燃料電池の発電性能評価を行った。
【0154】
得られた多孔質炭素シートおよび片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートの特性を、用いた前駆体繊維シートの特性および炭化処理条件とともに表2に示す。
【0155】
(比較例5)
炭素繊維抄紙体に用いるパルプを合成パルプの三井化学(株)製ポリエチレン(PE)パルプSWP EST−8に変更し、樹脂含浸工程では、樹脂含浸量を、炭素短繊維100質量部に対してフェノール樹脂が108質量部であるように変更した以外は実施例1と同様にして、厚み100μm、目付24g/m
2、嵩密度0.24g/cm
3の、多孔質炭素シートを得た。
【0156】
この多孔質炭素シートの1m
2当たりの、炭素短繊維束による欠点数は1.14個であり、その他の外観欠点による欠点数の合計は0.05個(穴による欠点数は0.05個、異物による欠点数は0個、焦げによる欠点数は0個)であった。パルプがフィブリル化されているため、抄紙工程での分散が非常に悪くなり、それに伴い炭素短繊維束による欠点数も非常に多くなった。
【0157】
得られた多孔質炭素シートを用いて、実施例1と同様の撥水処理工程および微多孔質層形成工程を通して、片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを得た。得られた片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを用いて、固体高分子型燃料電池の発電性能評価を行った。
【0158】
得られた多孔質炭素シートおよび片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートの特性を、用いた前駆体繊維シートの特性および炭化処理条件とともに表2に示す。
【0159】
(比較例6)
炭素繊維抄紙体に用いる炭素短繊維を、同様の炭素繊維を12mmの長さにカットした炭素短繊維に変更した以外は、比較例5と同様にして、厚み100μm、目付24g/m
2、嵩密度0.24g/cm
3の、多孔質炭素シートを得た。
【0160】
この多孔質炭素シートの1m
2当たりの、炭素短繊維束による欠点数は2.27個であり、その他の外観欠点による欠点数の合計は0.05個(穴による欠点数は0.05個、異物による欠点数は0個、焦げによる欠点数は0個)であった。炭素短繊維の平均長さが12mmと長く、さらにパルプがフィブリル化されているため、抄紙工程での分散が非常に悪くなり、それに伴い炭素短繊維束による欠点数も非常に多くなった。
【0161】
得られた多孔質炭素シートを用いて、実施例1と同様の撥水処理工程および微多孔質層形成工程を通して、片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを得た。得られた片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを用いて、固体高分子型燃料電池の発電性能評価を行った。
【0162】
得られた多孔質炭素シートおよび片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートの特性を、用いた前駆体繊維シートの特性および炭化処理条件とともに表2に示す。
【0163】
(比較例7)
炭素繊維抄紙体にパルプを混抄せず、樹脂含浸工程では、樹脂含浸量を、炭素短繊維100質量部に対してフェノール樹脂が109質量部である樹脂含浸量になるように変更した以外は実施例1と同様にして、厚み100μm、目付24g/m
2、嵩密度0.24g/cm
3の、多孔質炭素シートを得た。
【0164】
この多孔質炭素シートの1m
2当たりの、炭素短繊維束による欠点数は0.02個であり、その他の外観欠点による欠点数の合計は0.05個(穴による欠点数は0.05個、異物による欠点数は0個、焦げによる欠点数は0個)で、良好な結果であった。
【0165】
得られた多孔質炭素シートを用いて、実施例1と同様の撥水処理工程および微多孔質層形成工程を通して、片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを得た。得られた片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを用いて、固体高分子型燃料電池の発電性能評価を行った。
【0166】
得られた多孔質炭素シートおよび片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートの特性を、用いた前駆体繊維シートの特性および炭化処理条件とともに表2に示す。表2に記載のように、パルプを混抄しない場合は、低嵩密度にすると引張強度が低く、ハンドリング性の低下が懸念される。
【0167】
(比較例8)
炭素繊維抄紙体に用いる炭素短繊維を、同様の炭素繊維を12mmの長さにカットした炭素短繊維に変更した以外は、比較例7と同様にして、厚み100μm、目付24g/m
2、嵩密度0.24g/cm
3の、多孔質炭素シートを得た。
【0168】
この多孔質炭素シートの1m
2当たりの、炭素短繊維束による欠点数は0.05個であり、その他の外観欠点による欠点数の合計は0.02個(穴による欠点数は0.02個、異物による欠点数は0個、焦げによる欠点数は0個)で、良好な結果であった。
【0169】
得られた多孔質炭素シートを用いて、実施例1と同様の撥水処理工程および微多孔質層形成工程を通して、片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを得た。得られた片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートを用いて、固体高分子型燃料電池の発電性能評価を行った。
【0170】
得られた多孔質炭素シートおよび片表面に微多孔質層を有する多孔質炭素シートの特性を、用いた前駆体繊維シートの特性および炭化処理条件とともに表2に示す。表2に記載のように、パルプを混抄しない場合は、低嵩密度にすると引張強度が低く、ハンドリング性の低下が懸念される。
【0171】
表1に実施例1〜5の構成および評価結果をまとめた。表2に比較例1〜8の構成および評価結果をまとめた。
【0172】
【表1】
【0173】
【表2】
本発明はガス拡散性と排水性を高めるために、多孔質炭素シートの嵩密度を下げた場合でも、機械強度が高く、さらに外観欠点が少ない多孔質炭素シートおよびそれを得るための前駆体繊維シートを提供する。本発明は平均長さが3〜10mmである炭素短繊維、灰分率が0.15質量%以下の天然パルプ、および加熱処理することで炭化する樹脂を含む前駆体繊維シート、およびそれを炭化処理してなる多孔質炭素シートである。