特許第5988032号(P5988032)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5988032
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】淡水製造装置およびその運転方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20060101AFI20160825BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20160825BHJP
   C02F 1/04 20060101ALI20160825BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   C02F1/44 G
   B01D61/00 500
   C02F1/04 G
   B01D61/58
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-249270(P2012-249270)
(22)【出願日】2012年11月13日
(65)【公開番号】特開2014-97444(P2014-97444A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2015年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085109
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 政浩
(72)【発明者】
【氏名】植竹 規人
(72)【発明者】
【氏名】渕上 浩司
(72)【発明者】
【氏名】功刀 亮
(72)【発明者】
【氏名】水上 剛志
【審査官】 宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−539584(JP,A)
【文献】 特表2011−525147(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/133661(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/129530(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00−71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒が水である液体と、所定量の溶質を水に溶解した誘導溶液とを半透膜を介して接触させ、前記液体中の水を前記半透膜を通して前記誘導溶液に移動させる順浸透手段と、前記手段により得られる、水で希釈された希釈誘導溶液から前記溶質を含む固体あるいは濃縮液体あるいは気体と淡水とを分離するとともに、前記溶質を含む固体あるいは濃縮液体あるいは気体を用いて前記誘導溶液を再生する再生手段と、前記再生手段から得られる淡水の回収手段とを有する淡水製造装置であって、前記順浸透手段が、並列に連結された複数の膜モジュールあるいは膜モジュール列からなり、かつ、直列にした場合に前列となる膜モジュールあるいは膜モジュール列の希釈誘導溶液流出口と、後列となる膜モジュールあるいは膜モジュール列の誘導溶液流入口とを連結する配管および開閉弁を少なくとも1組有し、前記配管および開閉弁によって前記並列に連結された複数の膜モジュールあるいは膜モジュール列を並列から直列に変えることを特徴とする淡水製造装置。
【請求項2】
前記溶質がアンモニアと二酸化炭素の塩であり、再生手段が希釈誘導溶液を蒸留する蒸留塔と、前記蒸留塔の塔頂部から得られる二酸化炭素、アンモニア、水蒸気からなるガスを冷却し、前記誘導溶液を再生する冷却再生手段である請求項1に記載の淡水製造装置。
【請求項3】
前記並列に連結された複数の膜モジュールあるいは膜モジュール列が、全て前記配管および開閉弁で連結されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の淡水製造装置。
【請求項4】
請求項1、請求項2又は3に記載の淡水製造装置において、前記順浸透手段から流出する希釈誘導溶液の溶質濃度測定手段を設け、該溶質濃度測定手段により測定された前記希釈誘導溶液の溶質濃度が所定値を超えた場合に、直列にした場合の前列の膜モジュールあるいは膜モジュール列の希釈誘導溶液流出口と、後列の膜モジュールあるいは膜モジュール列の誘導溶液流入口とが配管と開閉弁で連結された少なくとも1組の膜モジュールあるいは膜モジュール列における前記開閉弁を開放し、誘導溶液の流路を直列化することを特徴とする淡水製造装置の運転方法。
【請求項5】
溶質がアンモニアと二酸化炭素の塩である請求項4に記載の淡水製造装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば海水から半透膜を用いて淡水を製造する装置とその運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
海水を半透膜を用いて淡水化する方法は種々知られているが、海水に浸透圧以上の圧力を加えて水を強制的に透過させる逆浸透法が主に開発されてきた。この方法は高圧に加圧する必要があるため、設備費および運転費にコストがかかるという問題点がある。一方、半透膜を介して海水より高濃度の塩溶液を存在させれば、加圧せずとも浸透圧で水をこの塩溶液に移動させることができる。そして、この塩溶液として揮発性ガスを溶解させた溶液を用いれば、この塩溶液を蒸留することにより揮発性ガスを蒸発、分離させて浄水を得ることができる。この方法として、揮発性ガスとしてアンモニアと二酸化炭素の組合せを用いた方法が既に開発されている(特許文献1、2)。
【0003】
特許文献1の方法は、半透膜を介して海水と反対側にアンモニアと二酸化炭素を溶解して得られる塩溶液を流して、海水中の水を半透膜を通過させて該塩溶液に移動させ、得られた希釈塩溶液を蒸留塔に送って水を得るとともにアンモニアと二酸化炭素と水を含む混合ガスを分離し、この混合ガスを半透膜の元の部屋に返送する方法である。
【0004】
特許文献2の方法は、半透膜を介して海水と反対側にアンモニアと二酸化炭素を溶解して得られる塩溶液を流して、海水中の水を半透膜を通過させて該塩溶液に移動させ、得られた希釈塩溶液をイオン交換膜や蒸留塔等を用いてアンモニウムイオンと炭酸イオンを個別に分離して浄水を得、分離したアンモニウムイオンと炭酸イオンを溶解して半透膜の元の部屋に戻す方法である。
【0005】
一方、逆浸透法で海水を淡水化する技術において、両端近傍の外周面に複数の流通口を有する筒状のベッセルであって、一端側の前記複数の流通口のうち少なくとも2個が他端の対応する流通口と筒外周方向の実質的に同一の位置に設けられているものが開示されている(特許文献3)。各筒状ベッセルは、半透膜の分離エレメントを内装しており、該筒状ベッセルの両端近傍の外周面にそれぞれ複数個の流通口を設け、この筒状ベッセルを複数設置して単位構造体としている。この発明は、筒状ベッセルを現地で枠組みする作業やマニホルドを連結する作業が煩雑でコストがかかっていたという問題を解決するべくなされたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0145568A1号明細書
【特許文献2】特開2011−83663号公報
【特許文献3】特開平9−99224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1にあるように、薄まった炭酸アンモニウムを含む水溶液の全量と、蒸留塔から分離して出てきた二酸化炭素、アンモニア、水からなるガスの全量とを混合することは、蒸留塔に入る水を取り出すための炭酸アンモニウムを含む水溶液中の、二酸化炭素とアンモニアの濃度が上昇することにつながり、これらの濃度が上昇すると水を取り出すためのエネルギーがより多く必要になる。
【0008】
また、特許文献2にあるように、薄まった炭酸アンモニウムを含む水溶液の一部を、ガス状に分離したものと混合する(図4)ことは、薄まった炭酸アンモニウムを含む水溶液の全量を蒸留することで多くの水を取り出せるのに対して水の取り出し量が減り、かつ、その水溶液の一部を循環させる動力が掛かり、またその水溶液の一部を循環させるための配管が必要となり、構造が複雑になる。
【0009】
そのため、薄まった炭酸アンモニウムを含む水溶液を全量蒸留塔に送入し、蒸留に必要なエネルギーを削減し、また、より多くの水を取り出すとともに、動力や配管を削減して構造を簡易にすることが必要であった。
【0010】
本発明者は、これを解決する手段として下記の方法と装置を開発し、これを特願2011−238284号として特許出願した。
(1)溶媒が水である液体と、所定量のアンモニアと二酸化炭素を水に溶解した誘導溶液とを半透膜を介して接触させ、前記液体中の水を前記半透膜を通して誘導溶液に移動させる浸透工程と、前記工程で得られる、水で希釈された希釈誘導溶液を所定の温度に調整した後、蒸留塔に送入し、塔頂部から二酸化炭素、アンモニア、水蒸気からなるガスを得るとともに、塔底部から浄水を得る蒸留工程と、前記ガスを冷却し、前記誘導溶液を再生する冷却再生工程とを有する浄水製造方法。
(2)溶媒が水である液体と、所定量のアンモニアと二酸化炭素を水に溶解した誘導溶液とを半透膜を介して接触させ、前記液体中の水を前記半透膜を通して前記誘導溶液に移動させる浸透手段と、前記手段で得られる、水で希釈された希釈誘導溶液全量を所定の温度に調整する希釈誘導溶液温度調整手段と、前記温度調整手段で所定の温度に調整された希釈誘導溶液を蒸留する蒸留塔と、前記蒸留等の塔頂部から得られる二酸化炭素、アンモニア、水蒸気からなるガスを冷却し、誘導溶液を再生する冷却再生手段と、前記蒸留塔の塔底部から得られる二酸化炭素とアンモニアをほとんど含まない浄水の回収手段とを有する浄水製造装置。
【0011】
上記発明は、薄まった炭酸アンモニウムを含む水溶液から蒸留、分離された、二酸化炭素、アンモニア、水からなるガスをそのまま冷却することにより水溶液状態にし、再利用することを特徴としている。
【0012】
ところで、本発明者らが先に開発した上記の淡水化技術を、特許文献3と同様の膜モジュール装置に適用した場合、被処理液である淡水化対象液の流速と誘導溶液の流速には、その構造により定まる適正な範囲があり、それを超えて大きくしても、透過水量の増加、即ち誘導溶液の希釈率を増加させることはできず、却って低下してしまうことがわかった。誘導溶液の希釈率が下がると、蒸留塔に流入する希釈誘導溶液の溶質濃度が上昇するため、例えば、低濃度向けの蒸留塔と比較し、建設コストや加熱に使用する熱量が増大する。
【0013】
また、運転時間の経過とともにファウリング等により膜の性能が劣化し、透過水の水量が減ると、希釈誘導溶液の溶質濃度が上昇して前述と同じ問題が起こる。膜の透過水量を増やし、誘導溶液の希釈率を上げる方法としては、誘導溶液の流速を増大させる方法があるが、流速の増加率に対し、透過水の増加率が小さいため、単純に流速を増やすだけでは、却って溶質濃度を高めることになる。そして、最悪の場合には、淡水に残存する溶質の濃度が高くなって飲料水として使用できなくなる。
【0014】
本発明の目的は、これらの問題点を解決して、淡水の製造を効率よく続けられる淡水製造装置とその運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するべくなされたものであり、並列に接続された複数の膜モジュールあるいは膜モジュール列のうちの任意の膜モジュール間あるいは膜モジュール列間に、一方の希釈誘導溶液流出口と他方の誘導溶液流入口を結ぶ配管と開閉弁を配設して当該膜モジュールあるいは膜モジュール列間の誘導溶液の流れを直列化して、一列当りの誘導溶液の接する膜面積を増加できるようにし、それによって、透過水量を増し誘導溶液の溶質濃度を高めないようにしたのである。このような装置においては、例えば、順浸透手段の半透膜装置から流出する希釈誘導溶液の溶質濃度測定手段を設け、測定された溶質濃度が所定値を超えた場合に、膜モジュール間あるいは膜モジュール列間の誘導溶液の流れを直列化して膜面積を増すことによって目的を達成することができる。
【0016】
すなわち、本発明は、溶媒が水である液体と、所定量の溶質を水に溶解した誘導溶液とを半透膜を介して接触させ、前記液体中の水を前記半透膜を通して前記誘導溶液に移動させる順浸透手段と、前記手段により得られる、水で希釈された希釈誘導溶液から前記溶質を含む固体あるいは濃縮液体あるいは気体と淡水とを分離するとともに、前記溶質を含む固体あるいは濃縮液体あるいは気体を用いて前記誘導溶液を再生する再生手段と、前記再生手段から得られる淡水の回収手段とを有する淡水製造装置であって、前記順浸透手段が、並列に連結された複数の膜モジュールあるいは膜モジュール列からなり、かつ、直列にした場合に前列となる膜モジュールあるいは膜モジュール列の希釈誘導溶液流出口と、後列となる膜モジュールあるいは膜モジュール列の誘導溶液流入口とを連結する配管および開閉弁を少なくとも1組有し、前記配管および開閉弁によって前記並列に連結された複数の膜モジュールあるいは膜モジュール列を並列から直列に変えることを特徴とする淡水製造装置と、
前記溶質がアンモニアと二酸化炭素の塩であり、再生手段が希釈誘導溶液を蒸留する蒸留塔と、前記蒸留塔の塔頂部から得られる二酸化炭素、アンモニア、水蒸気からなるガスを冷却し、前記誘導溶液を再生する冷却再生手段である上記に記載の淡水製造装置と、
前記並列に連結された複数の膜モジュールあるいは膜モジュール列が、全て前記配管および開閉弁で連結されていることを特徴とする上記に記載の淡水製造装置と、
上記に記載の淡水製造装置において、前記順浸透手段から流出する希釈誘導溶液の溶質濃度測定手段を設け、該溶質濃度測定手段により測定された前記希釈誘導溶液の溶質濃度が所定値を超えた場合に、直列にした場合の前列の膜モジュールあるいは膜モジュール列の希釈誘導溶液流出口と、後列の膜モジュールあるいは膜モジュール列の誘導溶液流入口とが配管と開閉弁で連結された少なくとも1組の膜モジュールあるいは膜モジュール列における前記開閉弁を開放し、誘導溶液の流路を直列化することを特徴とする淡水製造装置の運転方法と、
溶質がアンモニアと二酸化炭素の塩である上記に記載の淡水製造装置の運転方法に関するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、誘導溶液の接する膜面積を増加させた列においては、淡水化対象液の流量あるいは、誘導溶液の流量を大きくせずに高い希釈率の希釈誘導溶液を得ることができ、また、希釈率を変えずに淡水化対象液流量あるいは誘導溶液量を増加させることができる。これにより、蒸留の負荷を高めることなく、所望の淡水化対象液流速、誘導溶液流速で運転でき、流速により増大する膜を透過する水量を増やすことが可能となるため、低コストな正浸透水処理システムが提供可能となる。また、モジュール群に設置した開閉弁を操作することで、モジュールに流入する流量の増加と誘導溶液が流れるモジュールの直列数の増加、すなわち透過膜面積の増加を同時に行うことで、例えば、蒸留塔流入液の塩濃度を高めることなく透過水量を増やすことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の装置の構成の一例を示す図である。
図2】その順浸透手段で使用される半透膜に2基の膜モジュールを用い、開閉弁に2つの2方弁を使用した例を示す図である。
図3図2において2つの2方弁の代わりに1つの3方弁を用いた例を示す図である。
図4】その順浸透手段で使用される半透膜に3基の膜モジュールを直列に接続した膜モジュール列を3列組合せて構成し、これを並列運転している状態を示す図である。
図5】上記の3列の膜モジュール列の誘導溶液の流れを直列運転に切換えた状態を示す図である。
図6】順浸透手段で使用される半透膜に4基の膜モジュールを並列に接続して運転させる初期状態を示す図である。
図7】その膜透過水量の低下した状態を示す図である。
図8】その誘導溶液の流れを直列運転に切換えた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明で淡水を得るのに使用される液体(淡水化対象液)は溶媒が水であればよいが、例示すれば、海水、湖沼水、河川水、工場廃水などである。
【0020】
順浸透手段
順浸透手段は、淡水化対象液と誘導溶液とを半透膜を介して接触させ、浸透圧の差によって淡水化対象液中の水をこの半透膜を通して誘導溶液に移動させる手段であり、半透膜装置を用いる。
【0021】
誘導溶液は、溶質が炭酸アンモニウムに限らず硫酸マグネシウムやミョウバン等の塩類、アルコール、グルコースや界面活性剤などの有機物でも良い。
【0022】
例として、炭酸アンモニウムの場合を説明する。所定量のアンモニアと二酸化炭素を水に溶解して生成する炭酸アンモニウム水溶液である。所定量とは、淡水化対象液中の水を半透膜を通過させて誘導溶液まで移動させることができる濃度にする量であり、淡水化対象液の塩濃度である。濃度の上限は、アンモニアと二酸化炭素の塩、すなわち、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、アンモニウムカルバメート等が半透膜面や、蒸留塔内で析出しないように定められ、これは実験で求めることができる。半透膜面や蒸留塔内に析出物が生じたか否かの確認方法の一つとして長時間運転をして安定稼動可能かどうかで判断する方法がある。アンモニアと二酸化炭素のモル比は1.5〜3程度である。このモル比も半透膜面や蒸留塔内でアンモニアと二酸化炭素の塩が析出しないよう配慮する。
【0023】
誘導溶液の再生手段は溶質に応じて適切にすれば良く、揮発性物質なら蒸留、塩類や有機物ならROや低圧RO膜、または温度変化による不溶化とろ過の組み合わせでも良い。
【0024】
例として、炭酸アンモニウムの場合の蒸留再生を説明する。
【0025】
半透膜は水を選択的に透過できるものがよく、市販のもの、特に順浸透膜を好ましく使用できる。材質は特に制限されないが、例示すれば、酢酸セルロース系、ポリアミド系、ポリエチレンイミン系、ポリスルホン系、ポリベンゾイミダゾール系のものなどを挙げることができる。半透膜の形態も特に制限されず、平膜、管状膜、中空糸などいずれであってもよい。
【0026】
この半透膜を装着する装置は通常は円筒形あるいは箱形の容器内に半透膜を設置して、この半透膜で仕切られた一方の室に淡水化対象液を流し、他方の室に誘導溶液を流せるものであり、公知の膜モジュールを用いることができ、市販品を用いることができる。膜モジュールは、容器内に半透膜を収容し、半透膜で仕切られたいずれの室も流体の入口と出口を有するものであり、本発明では、一方の室には淡水化対象液流入口と濃縮淡水化対象液流出口が、他方の室には誘導溶液流入口と希釈誘導溶液流出口が設けられる。膜モジュールは1基を容器内に収容したもののほか、複数(例えば2〜8基程度、多くは2〜4基程度)を直列に接続した膜モジュール列からなるものもある。
【0027】
本発明の順浸透手段には、複数の膜モジュールあるいは膜モジュール列を並列に連結したものを用い、直列にした場合に前列となる膜モジュールあるいは膜モジュール列の希釈誘導溶液流出口と、後列となるの膜モジュールあるいは膜モジュール列の誘導溶液流入口とを連結する配管および開閉弁を少なくとも1組有することを特徴としている。この配管および開閉弁は膜モジュールあるいは膜モジュール列間の接続を誘導溶液の流れに関して並列から直列に変えるものである。
【0028】
並列に連結される膜モジュールあるいは膜モジュール列の数は2以上であるが、通常2〜64基程度、一般に2〜36基程度のモジュール群を構成し、淡水を製造する規模に応じてそれらモジュール群を複数群、並列に並べてある。配管はこれらを並列から直列に変えるものであり、少なくとも2基を直列にできればよいが、任意のモジュールあるいはモジュール列を直列に変えられるよう、全てに配管および開閉弁を設けることが好ましい。開閉弁は2方弁の外、3方弁等であってもよい。並列から直列に変える目的は膜面積の増加であり、膜の透過水量が減少した場合の外、希釈率を高める場合にも利用できる。
【0029】
本発明の順浸透手段の最も簡単な構成を図2図3に示す。
【0030】
図2の順浸透手段は2つの膜モジュール1a、1bからなり、淡水化対象液供給管は途中で分岐してそれぞれの膜モジュール1a、1bの淡水化対象液流入口2に接続されている。各膜モジュール1a、1bの濃縮淡水化対象液流出口3には濃縮淡水化対象液排出管が接続され、この管は途中で連結されて1つになっている。誘導溶液供給管は途中で分岐してそれぞれの膜モジュール1a、1bの誘導溶液流入口6に接続されている。膜モジュール1bへの誘導溶液供給管には開閉弁vが取付けられている。各膜モジュール1a、1bの希釈誘導溶液流出口7には希釈誘導溶液排出管が接続され、この管は途中で連結されて1つになっている。そして、膜モジュール1aの希釈誘導溶液流出口7に接続された配管に途中で分岐され、分岐した配管のいずれも開閉弁v、vが取付けられている。分岐した配管の一方はもう1つの膜モジュール1bの誘導溶液流入口6と開閉弁vの間に接続されている。
【0031】
この順浸透手段において、淡水化対象液はその供給管で分流されてそれぞれの膜モジュール1a、1bに入る。そこで、淡水化対象液中の水が半透膜4を通って反対側の室に入り、その結果濃縮された濃縮淡水化対象液は、それぞれの膜モジュール1a、1bの濃縮淡水化対象液流出口3を出て、濃縮淡水化対象液排出管から排出される。
【0032】
一方、誘導溶液については、まず弁v、vを開に弁vを閉にしておくと、2つの膜モジュール1a、1bは並列運転され、誘導溶液は誘導溶液供給管から誘導溶液流入口6を通ってそれぞれの膜モジュール1a、1bに入る。そこで、半透膜4を通過した水で希釈されて希釈誘導溶液流出口7を通って希釈誘導溶液排出管から排出される。
【0033】
次に、弁v、vを閉に、弁vを開にすると、2つの膜モジュール1a、1bは直列運転され、膜モジュール1aの希釈誘導溶液流出口7を出た希釈誘導溶液は希釈誘導溶液排出管が弁vで閉になっているので、弁vが開になっている配管pを通って膜モジュール1bの誘導溶液流入口6から膜モジュール1bに入る。そして、膜モジュール1bの希釈誘導溶液流出口7を通って希釈誘導溶液排出管から排出される。
【0034】
本発明において、直列にした場合に前列となる膜モジュールあるいは膜モジュール列の希釈誘導溶液流出口と、後列となる膜モジュールあるいは膜モジュール列の誘導溶液流出口とを連結する配管および開閉弁とは、一の膜モジュールあるいは膜モジュール列の希釈誘導溶液流出口と他の一の膜モジュールあるいは膜モジュール列の誘導溶液流入口を連結する配管と、該配管に設けられた開閉弁と、当該一の膜モジュールあるいは膜モジュール列の希釈誘導溶液流出口と他の一の膜モジュールあるいは膜モジュール列の希釈誘導溶液流出口を連結する配管に設けられた開閉弁と、当該他の一の膜モジュールあるいは膜モジュール列の誘導溶液流入口へ連結された配管に設けられた開閉弁である。
【0035】
この順浸透手段においては、配管pと開閉弁v、v、vが、直列にした場合に前列となる膜モジュールあるいは膜モジュール列の希釈誘導溶液流出口と、後列となる膜モジュールあるいは膜モジュール列の誘導溶液流入口とを連結する配管および開閉弁となる。
【0036】
図3の順浸透手段は開閉弁v、vの代わりに3方開閉弁v4を用いた外は図2と同じである。
【0037】
淡水化対象液を流す室の入口は淡水化対象液溜(これは海や河川そのものであってもよく、タンク等であってもよい。)に配管接続される。出口側は通常は淡水化対象液溜に配管接続される。両配管を結ぶ循環ラインを設けて、淡水化対象液を循環させることもできる。
【0038】
誘導溶液を流す室の入口は冷却再生手段に配管接続され、出口は必要により設けられる希釈誘導溶液温度調節手段に配管接続され、これによって誘導溶液の循環ラインが形成される。
【0039】
なお、本発明においては、高濃度の誘導溶液を使用するので、塩の析出による配管の詰まりが生ずる可能性があり、これを防止するために、冷却再生手段の出口配管に希釈誘導溶液を通水するための希釈誘導溶液通水手段を設けることが好ましい。
【0040】
希釈誘導溶液温度調節手段
希釈誘導溶液温度調節手段は、半透膜装置で淡水化対象液から水を抽出して希釈された誘導溶液を所定の温度に調整する手段であり、これは加熱によって行われる。加熱手段は問わないが、系内で発生する熱を有効利用する点で熱交換器を用いるのがよい。熱源としては蒸留塔の塔頂部から得られるガスや塔底部から得られる淡水などの熱を利用することができる。
【0041】
希釈誘導溶液に対して調整を行う所定の温度とはアンモニアと二酸化炭素の塩が析出しない温度であり、これは実験によって求めることができる。この温度調整は、通常は加熱によって行われる。この加温は、蒸留塔の塔頂から排出される前記ガスと熱交換してその温度を利用して行うことができ、あるいは、蒸留塔の塔底から排出される淡水と熱交換してその温度を利用することもできる。その両者を併用することもでき、あるいは別の熱源を利用することもできる。
【0042】
希釈誘導溶液温度調節手段は、蒸留塔に配管接続される。
【0043】
蒸留塔
蒸留塔は公知のものを用いればよく、棚段方式、充填方式等いずれのものであってもよい。蒸留塔下部には加熱器を設け、下部の淡水を熱することにより発生する蒸気を上部から落下してくる希釈誘導溶液と接触させて熱交換させる。加熱器にはリボイラーや熱交換等を用いることができる。加熱器の熱源は問わないが、発電所のタービンから出てくる復水前の蒸気や、排熱から回収される熱水などを用いることができる。熱源の温度が100℃以上の場合には常圧で蒸留を行えるが、それより低い場合は減圧する必要がある。
【0044】
冷却再生手段
蒸留塔の塔頂から、希釈誘導溶液温度調節手段を経由して塔頂ガス冷却再生手段に配管接続し、塔頂部から得られる二酸化炭素、アンモニア、水蒸気からなるガスを冷却して水溶液状態にする。冷却手段は問わないが、熱交換器を用いることができる。冷却する熱源としては、特に限定されないが、河川水、海水、空気などを用いることができる。
【0045】
誘導溶液の貯留タンク
誘導溶液の貯留タンクは、冷却再生手段で再生された誘導溶液の受槽であり、かつ予め作製しておいた誘導溶液の貯槽を兼ねることができる。
【0046】
淡水の回収手段
淡水の回収手段は、蒸留塔の塔底部に溜った二酸化炭素とアンモニアをほとんど含まない淡水を塔底部から引き抜く手段であり、通常はポンプが用いられる。蒸留塔と淡水の貯留タンクに高低差がかなりあり、蒸留塔内が減圧にされていない場合は自然流出を利用することもできる。また、塔底部から抜き出された淡水が若干のアンモニアや二酸化炭素を含んでいる場合には、用途に応じて適宜水処理を実施する。
【0047】
淡水の貯留タンク
淡水の貯留タンクは、蒸留塔の塔底部から抜き出された淡水の貯槽である。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
本発明を適用した淡水製造装置の一例の構成を図1に示す。
【0049】
図1において、1は膜モジュールであり、その容器内部には半透膜4が収容されている。溶媒が水である液体の例である海水は淡水化対象液流入口(Feed入口)2から容器左側の室に入り、そこで、誘導溶液との浸透圧差で水5は半透膜を通って右側の室に移動し、それによって濃縮された海水は左側の室の濃縮淡水化対象液流出口(Feed出口)3から排出される。誘導溶液は誘導溶液流入口(Draw入口)6右側の室に入り、半透膜4を通ってきた水で希釈された希釈誘導溶液は希釈誘導溶液流出口(Draw出口)7から右側の室を出る。
【0050】
室から出た希釈誘導溶液は、熱交換器16で熱交換して昇熱され、蒸留塔11に入る。
【0051】
蒸留塔11内では、この希釈誘導溶液が蒸留されて、二酸化炭素、アンモニア、水蒸気からなるガスが塔頂部から排出される。このガスは前記熱交換器13で熱交換して冷却され、次の熱交換器14でさらに冷却媒体と熱交換されて誘導溶液に戻り、ポンプ15を通って右側の室にリサイクルされる。
【0052】
一方、塔底部からは二酸化炭素とアンモニアを実質的に含まない淡水12が排出され、冷却器16を通って系外に出される。
【0053】
上記装置の膜モジュール1に、図4に示すように3期の膜モジュールを直列に接続した3列の膜モジュール列1A、1B、1Cを用いた。各列の3基の膜モジュールはそれぞれ最初の2基の膜モジュールのFeed出口がそれぞれ次の膜モジュールのFeed入口に、Draw出口が次の膜モジュールのDraw入口に接続され、全体として直列に接続されている。そして、Feed入口には各膜モジュール列1A、1B、1Cの図面左端の膜モジュールにそれぞれ、設けられ、各膜モジュール列1A、1B、1Cの図面右端の膜モジュールからのFeed出口3は一つにまとめられて全体のFeed出口に接続されている。全体のDraw入口からは配管が3本に枝分れして、それぞれ各膜モジュール列1A、1B、1CのDraw入口6(図面右端の膜モジュールのDraw入口)に配管接続されている。そして、膜モジュール列1Bと1Cへの配管にはそれぞれ開閉弁v、vが設けられている。各膜モジュール列1A、1B、1CのDraw出口7(図面左端の膜モジュールのDraw出口)からの配管は一つにまとめられて全体のDraw出口に接続されており、その膜モジュール列1Aと1Bを結ぶ配管と膜モジュール列1Bと1Cを結ぶ配管にはそれぞれ開閉弁v、vが設けられている。そして、開閉弁vと膜モジュール列1BのDraw入口との間の配管は、途中で枝分れしてこの分岐配管pは膜モジュール列1AのDraw出口7と開閉弁vの間の配管に開閉弁v10を介して接続され、開閉弁vと膜モジュール列1AのDraw入口6との間の配管も途中で枝分れしてその分岐配管pは膜モジュール列1dのDraw出口7と開閉弁v9の間の配管に開閉弁v11を介して接続されている。
【0054】
まず、この淡水製造装置を、図4に示すように、各膜モジュール列1A、1B、1Cを並列で運転した。その際、開閉弁v、v、v、vは開、v10、v11は閉になっている。
【0055】
淡水化対象液には海水を用いた。誘導溶液には3mol/Lの炭酸アンモニウム水溶液を用いた。半透膜には酢酸セルロース系を用いた。
【0056】
各膜モジュール列1A、1B、1Cにm、いずれもFeed入口2から海水を1L/minで供給したところ、各膜モジュール列1A、1B、1CのFeed出口3からいずれも濃縮海水が0.5L/minで流出し、全体のFeed出口からの流出量は1.5L/minになった。一方、誘導溶液はDraw入口から3L/minで供給すると、各膜モジュール列1A、1B、1Cをそれぞれ1L/minで供給され、Draw出口7から1.5L/min、全体のDraw出口から4.5L/minで流出した。
【0057】
次に、図5に示すように、開閉弁v、v、v、vを閉に、v10、v11を開にして膜モジュール列1A、1B、1Cの誘導溶液側を直列に接続して運転を行った。その結果、海水の供給量と流出量は同じであったが、誘導溶液は全体で供給量1L/minに対し、全体のDraw出口からの流出量は2.5L/minになった。従って、並列運転時の誘導溶液の希釈率が1.5倍であったのに対し、誘導溶液側を直列運転に変えることにより希釈率は2.5倍になった。
【0058】
(実施例2)
次に、図1の膜モジュール1として、図6に示すように、4基の膜モジュール1c、1d、1e、1fを用いた。
【0059】
全体のFeed入口からは、それぞれの膜モジュール1c、1d、1e、1fのFeed入口2に配管接続され、各膜モジュール1c、1d、1e、1fのFeed出口3からは配管が1つにまとめられて全体のFeed出口に接続されている。誘導溶液に関しても、全体のDraw入口から配管が枝分れして、それぞれの膜モジュール1c、1d、1e、1fのDraw入口6に接続されており、膜モジュール1dと1fのDraw入口手前にはそれぞれ開閉弁v12、v13が設けられている。膜モジュール1c、1d、1e、1fのDraw出口7側の配管は1つにまとめられて全体のDraw出口に接続されており、膜モジュール1c、1d、1e、1fのDraw出口7への接続配管にはそれぞれ開閉弁v14、v15、v16が設けられている。そして、膜モジュール1c、1d、1eのDraw出口7と開閉弁v14、v15、v16との間の配管p、p、pはそれぞれ途中で枝分れして、それぞれの開閉弁v17、v18、v19を介して膜モジュール1d、1e、1fのDraw入口6側の配管に接続されている。そのうち、膜モジュール1d、1fについては開閉弁v12、v13と膜モジュール1d、1fのDraw入口6の間に接続されている。
【0060】
まず、この淡水製造装置を、図6に示すように、各膜モジュール1c、1d、1e、1fを並列で運転した。その際、開閉弁v12、v13、v14、v15、v16は開に、開閉弁v17、v18、v19は閉になっている。
【0061】
Feed入口からの海水供給量は4L/minであり、これを各膜モジュール1c、1d、1e、1fにそれぞれ1L/minで供給され、各膜モジュール1c、1d、1e、1fのFeed出口3からは濃縮海水がそれぞれ0.5L/min、全体のFeed出口からは2L/minで流出した。一方、誘導溶液はDraw入口から2mol/Lの濃度で2L/minで供給され、各膜モジュール1c、1d、1e、1fにそれぞれ0.5L/minで供給されて、それぞれDraw出口7から1L/min、全体のDraw出口から1mol/Lの濃度で4L/minで流出した。
【0062】
運転を続けたところ、図7に示すように、膜の透過水量が低下し、各膜モジュールのFeed入口の供給量が4L/minのままであったが、各膜モジュール1c、1d、1e、1fのFeed出口3からの濃縮海水はそれぞれ0.75L/min、全体のFeed出口からは3L/minになった。そして、誘導溶液は、相変らずDraw入口から2mol/Lの濃度で2L/minで供給されたがそれぞれの膜モジュール1c、1d、1e、1fのDraw出口7からは0.75L/min、全体のDraw出口からは1.3mol/Lの濃度で、3L/minで流出した。
【0063】
そこで、図8に示すように、開閉弁v12、v13、v14、v16、v18を閉に、開閉弁v15、v17、v19を開にして、膜モジュール1cと1d、1eと1fの誘導溶液側をそれぞれ直列に接続して運転を行った。その結果、海水供給量4L/minに対し濃縮海水の流出量は2.4L/minに減少し、誘導溶液は2mol/Lの濃度で2L/minの供給量で流出量が、1.1mol/Lの濃度で3.6L/minに改善された。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明により、海水等の淡水化対象液から安定して確実に淡水を得ることができるので、本発明は海水等から淡水を得る方法と装置に広く適用できる。
【符号の説明】
【0065】
1 膜モジュール
1A、1B、1C 膜モジュール列
1a、1b、1c、1d、1e、1f 膜モジュール
2 淡水化対象液流入口(Feed入口)
3 濃縮淡水化対象液流出口(Feed出口)
4 半透膜
5 半透膜を通過して移動する水
6 誘導溶液流入口(Draw入口)
7 希釈誘導溶液流出口(Draw出口)
10 蒸留塔の塔頂部から出てくる二酸化炭素、アンモニア、水からなるガス
11 蒸留塔
12 淡水
13 熱交換器
14 熱交換器
15 ポンプ
16 冷却器
〜v19 開閉弁
cv〜cv 逆流防止弁
〜p 配管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8