【文献】
Tianhua Zhang 他,A white-light source operated polymer-based micromachined Fabry-Perot chemo/biosensor,Proceedings of the 2009 4th IEEE International Conference on Nano/Micro Engineered and Molecular Sys,2009年 1月 5日,pp.181-184
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、前記膜部または分子固定膜もしくは抗体固定膜の表面の一部または全部に積層された金属膜を備えることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の物理・化学センサ。
前記中空部は、少なくとも前記膜部の側において気密的または水密的に遮断されて形成されていることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の物理・化学センサ。
請求項1ないし11のいずれかに記載の物理・化学センサを使用するセンサアレイであって、前記物理・化学センサを同一基板上に複数形成してなることを特徴とするセンサアレイ。
同一基板上に複数の前記物理・化学センサおよび前記参照センサを1次元的または2次元的に整列してなるセンサアレイを形成する請求項15ないし18のいずれかに記載の物理・化学現象センシングデバイスであって、
前記物理・化学センサにより検出される信号を処理する処理回路を備えたことを特徴とする物理・化学現象センシングデバイス。
さらに、前記センサアレイを形成する物理・化学センサおよび参照センサのうちいずれかに対し選択的に信号を入力する選択回路を備えていることを特徴とする請求項19に記載の物理・化学現象センシングデバイス。
前記受光素子の受光面に、第1の金属膜構成材料を堆積して第1の金属膜を生成する第1の金属膜生成工程をさらに含み、前記犠牲層生成工程は、前記第1の金属膜構成材料の表面に犠牲層を生成する工程であることを特徴とする請求項21に記載の物理・化学センサの製造方法。
前記分子固定膜生成工程は、前記犠牲層除去工程により犠牲層をエッチングした後またはエッチング予定領域封止工程によりエッチング予定領域を被覆した後に、前記の膜部構成材料の表面に分子固定膜を生成する工程であることを特徴とする請求項21または22に記載の物理・化学センサの製造方法。
請求項21ないし24のいずれかに記載の物理・化学センサの製造方法において、さらに、前記膜部構成材料または分子固定材料の表面の一部または全部に第2の金属膜構成材料を堆積して第2の金属膜を生成する第2の金属膜生成工程を含むことを特徴とする物理・化学センサの製造方法。
前記分子固定材料を積層する工程は、前記膜部構成材料または第2の金属膜構成材料の表面に生体高分子固定材料を積層する生体高分子固定膜生成工程であることを特徴とする請求項21ないし26のいずれかに記載の物理・化学センサの製造方法。
前記分子固定材料を積層する工程は、前記膜部構成材料または第2の金属膜構成材料の表面に抗体固定材料を積層する抗体固定膜生成工程であることを特徴とする請求項21ないし26のいずれかに記載の物理・化学センサの製造方法。
同一基板上に作製された複数の受光素子を検出センサ用および参照センサ用の二種類に区分し、検出センサ用の受光素子の受光面に、エッチング可能材料を堆積して犠牲層を生成する犠牲層生成工程と、
前記犠牲層の表面および前記参照センサ用の受光素子の受光面を除く領域に、保護層を積層する保護層生成工程と、
前記犠牲層の表面のうち、エッチング予定領域を除く膜部構成領域、および、前記参照センサ用の受光素子の受光面に、膜部構成材料を堆積して膜部を生成する膜部生成工程と、
前記膜部構成材料の表面に分子固定材料を積層する分子固定膜生成工程と、
前記エッチング予定領域を介して犠牲層をエッチングする犠牲層除去工程と、
前記エッチング予定領域を被覆するエッチング予定領域封止工程とを含むことを特徴とする物理・化学現象センシングデバイスの製造方法。
前記検出センサ用の受光素子の受光面に、第1の金属膜構成材料を堆積して第1の金属膜を生成する第1の金属膜生成工程をさらに含み、前記犠牲層生成工程は、検出センサ用の受光素子の受光面に堆積した前記第1の金属膜構成材料の表面に犠牲層を生成する工程であることを特徴とする請求項32に記載の物理・化学現象センシングデバイスの製造方法。
前記分子固定膜生成工程は、前記犠牲層除去工程により犠牲層をエッチングした後またはエッチング予定領域封止工程によりエッチング予定領域を被覆した後に、前記の膜部構成材料の表面に分子固定膜を生成する工程であることを特徴とする請求項32または33に記載の物理・化学現象センシングデバイスの製造方法。
請求項32ないし35のいずれかに記載の物理・化学現象センシングデバイスの製造方法において、さらに、前記検出センサ用の受光素子に生成させた前記膜部または分子固定膜の表面の一部または全部に第2の金属膜構成材料を堆積して第2の金属膜を生成する第2の金属膜生成工程を含むことを特徴とする物理・化学現象センシングデバイスの製造方法。
前記分子固定材料を積層する工程は、前記膜部構成材料または第2の金属膜構成材料の表面に生体高分子固定材料を積層する生体高分子固定膜生成工程であることを特徴とする請求項32ないし37のいずれかに記載の物理・化学現象センシングデバイスの製造方法。
前記分子固定材料を積層する工程は、前記膜部構成材料または第2の金属膜構成材料の表面に抗体固定材料を積層する抗体固定膜生成工程であることを特徴とする請求項32ないし37のいずれかに記載の物理・化学現象センシングデバイスの製造方法。
さらに、前記参照センサ用の受光素子の受光面に堆積または積層した前記膜部構成材料および分子固定材料を除去する工程を含むことを特徴とする請求項32ないし39のいずれかに記載の物理・化学現象センシングデバイスの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記に示した従来技術のうち、QCMは、水晶振動子の作製が必要となることから、これをアレイ化して複数の生体分子を検出させることが難しく、また、SPRセンサやカンチレバーの曲がり状態を光学的に検出するセンサのように、光学的な読み取り方式を採用するセンサにあっては、光の反射角度を精密に調整しなければ、反射光の検出結果に誤りを生ずるおそれがあり、アライメントが煩雑となるという問題点があるとともに、アレイ化に難があった。これに対し、ピエゾ抵抗を用いたカンチレバー型センサや容量変化を検出するセンサは、半導体チップ上で電気的な生体分子の有無を検出することができるため、装置の小型化およびアレイ化が可能である。
【0007】
しかしながら、上記ピエゾ抵抗を用いるカンチレバー型センサは、カンチレバーの機械的な撓みをピエゾ素子による抵抗値の変化として認識するものであるところ、カンチレバーの撓み量から抵抗値変化量への変換効率が小さかった。また、カンチレバーの材料がシリコン製であるため、ヤング率が高い(130〜160GPa)ことから、理論的な検出限界は、比較的大きいサイズ(直径500〜1000μm)で作製したデバイスであっても、表面応力に換算すると0.1mN/m程度となり、生体分子に起因する微小な分子間力の検出に必要かつ十分な撓み量を得ることができないという問題点を有していた。さらに、効率的にカンチレバーの曲げを発生させるためには、表面側のみに生体分子を付着させることとなるが、その際、裏面側に生体分子を付着させないために、ブロッキング材を固定するなどの処理が必要であり、作製工程が煩雑とならざるを得なかった。
【0008】
なお、容量変化を検出するセンサは、容量値の変化分が非常に小さく(数fF)高感度な測定に不向きであり、高感度測定を可能にするためには、今後の研究を待たなければならない状況である。また、上記諸点については、タンパク質以外の物質を検出する際も同様であり、特定物質を感度よく検出することができるセンサおよびセンシングデバイスが切望されていた。
【0009】
本発明は、上記諸点にかんがみてなされたものであって、その目的とするところは、微小な表面応力の変化を検出することができ、小型化・アレイ化を可能にする物理・化学センサおよび物理・化学現象センシングデバイスならびにこれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、物理・化学センサにかかる本発明は、受光素子の受光面の表面に、中空部を形成しつつ該受光面に対向して設けられた膜部を備え、前記膜部は、光透過性および可撓性を有し、前記受光面の表面とでファブリペロー共振器を形成するとともに、少なくとも外側表面に物質固定能を有している膜部であることを特徴とするものである。
【0011】
上記構成によれば、受光素子の受光面と膜部との間にファブリペロー共振器が形成されることから、膜部の撓み状態に応じて異なる波長の光が共振することとなり、特定の波長に対する透過率が変化するため、その特定波長の透過光強度の変化を光電流として測定することにより、膜部の撓み状態を検出することができる。上記膜部の撓み状態は、膜部の外側表面に例えば分子が固定することにより、その分子間力によって膜部の表面応力が変化し、膜部が撓むこととなるから、その変化量を把握することによって、分子の固定状態を把握することができる。
【0012】
なお、固定能とは、分子その他の物質を吸着または結合等により膜部表面に固定できる性質を有していることを意味し、当該固定の形態を問うものではない。また、このような物質固定能を享有させるべく貴金属(例えば、金など)が膜部の外側表面に存在する場合には、当該貴金属によってハーフミラーが形成され得るものである。
【0013】
また、物理・化学センサにかかる本発明は、受光素子の受光面の表面に中空部を形成しつつ、該受光面に対向して設けられた膜部と、前記膜部の表面に積層され、気体または液体に含まれる分子を固定する分子固定膜とを備え、前記膜部は、光透過性および可撓性を有し、前記受光面の表面とともにファブリペロー共振器を形成する膜部であることを特徴とするものである。
【0014】
上記構成によれば、前記発明と同様に、ファブリペロー共振器により膜部の撓み状態を検出することができる。特に、分子固定膜は膜部の外側表面にのみ設けられていることから、固定されるべき分子は膜部の表面において分子間力を発揮して所定方向に撓むこととなる。また、分子固定膜が特定の分子のみを固定するものである場合には、気体または液体に含まれる当該分子の存在を検知することができ、上記分子に対するセンサとして機能することとなる。
【0015】
また、前記分子固定膜を有する物理・化学センサにかかる発明において、前記分子固定膜が、特定のガスに含まれる分子を固定する分子固定膜である構成とすることができる。
【0016】
上記構成によれば、ガスに含まれる分子を膜部の表面に固定させることができることから、当該分子の固定を把握することにより、ガスの存在を検知することができ、従って、ガスセンサとして使用することが可能となる。特に、可燃性ガス(例えば、水素ガスなど)、環境に影響を与えるガス(例えば、二酸化炭素や二酸化窒素など)、または、爆薬に含まれるガス(TNTやRDXなど)のように、検知が必要なガスを検知することのできるガスセンサとして使用することができる。
【0017】
さらに、前記分子固定膜を有する物理・化学センサにかかる発明において、前記分子固定膜が、生体高分子を固定する生体高分子固定膜である構成とすることができる。
【0018】
上記構成によれば、膜部の表面に積層される生体高分子固定膜が、アミノ酸、核酸、多糖類などを含む生体を構成する高分子(例えば、抗体、デオキシリボ核酸(DNA)やリボ核酸(RNA)など)を膜部表面に固定することができる。従って、体液中に含まれるこれらの高分子の存在を検知することができる。
【0019】
また、前記分子固定膜を有する物理・化学センサにかかる発明において、前記分子固定膜が、抗体を固定する抗体固定膜である構成とすることができる。
【0020】
上記構成によれば、膜部の表面に抗体を固定することができ、この抗体に結合する特定のタンパク質(抗原)が前記抗体に結合したことを検知することが可能となり、従って、抗原センサまたはタンパク質センサとして使用することができる。この場合、予め特定のタンパク質(抗原)と結合するプローブ分子(抗体)を膜部表面の抗体固定膜に固定しておくことにより、当該プローブ分子(抗体)に特定のタンパク質(抗原)が結合したことによる分子間力に変化を把握することができる。従って、予め抗体を固定した状態における透過光の強度と、その後の透過光の強度を比較することにより、膜部表面に固定される抗体に結合する物質の存在を検出することが可能となる。
【0021】
さらに、分子固定膜を抗体固定膜とする物理・化学センサにかかる本発明において、前記抗体固定膜が、アミノ基を有する材料で構成された抗体固定膜である構成とすることができる。
【0022】
上記構成によれば、膜部表面に積層される抗体固定膜に、アミノ基に電気的に結合する抗体(プローブ分子)を固定させることができる。また、特定のタンパク質に結合するプローブ分子(抗体)を当該抗体固定膜に固定させることにより、当該特定のタンパク質の有無を検出することができる。
【0023】
また、前記抗体固定膜がアミノ基を有する材料で構成された物理・化学センサにかかる本発明は、上記発明における膜部がパリレンCまたはパリレンNで構成され、前記抗体固定膜がパリレンAMで構成されてなることを特徴とするものである。ここで、パリレンとは、パラキシリレン系ポリマーの総称であり、ベンゼン環がCH
2を介して繋がっている構造のものである。そして、パリレンNは、上記構造のものを意味し、パリレンCは、ベンゼン環の一つがClに置換したもの、パリレンAは、側鎖にアミノ基を有するもの、パリレンAMは、側鎖にメチル基−アミノ基が直列に結合したものである。
【0024】
上記構成によれば、膜部および抗体固定膜の光透過率を高くすることができるとともに、膜部のヤング率を小さくすることができることから、受光素子に入射する光を十分に利用しつつ、膜部に対する僅かな表面応力によって膜部の撓みを生じさせることができる。また、パリレンAおよびパリレンAMは、側鎖にアミノ基を有することから、アミノ基と結合する抗体(プローブ分子)を表面に固定することができる。
【0025】
上記発明において、さらに、前記膜部または分子固定膜もしくは抗体固定膜の表面の一部または全部に積層された金属膜を備える構成とすることができる。ここで、膜部の表面に金属膜を積層する構成には、膜部の外側表面に他の膜が積層されていない状態と、分子固定膜または抗体固定膜が積層される状態とを含み、分子固定膜または抗体固定膜が積層される状態では、当該膜部と分子固定膜または抗体固定膜との間に金属膜が積層される構成となる。
【0026】
上記構成の場合には、膜部等の表面に積層された金属膜がハーフミラーとして機能することから、膜部を透過した光の反射率を向上させることができる。その結果、受光素子と膜部との間で形成されるファブリペロー共振器の内部(中空部内)で干渉する波長(干渉波長)の選択性を向上させ、干渉波長の半値幅(半値半幅)を狭くすることができる。そして、干渉波長の半値幅(半値半幅)を狭くすることにより、膜部の撓みによる特定波長の光の透過率が急峻な変化を起こすこととなり、トランスデューサとしての信号伝達効率を向上させ得ることとなる。なお、金属膜は、膜部等の表面全体に積層してもよいが、一部にのみ積層し、膜部に対して照射する光を所定範囲(金属膜が形成される範囲)に限定することによるものとしてもよい。
【0027】
また、上記構成においては、さらに、前記受光素子の受光面に積層された金属膜を備えるように構成することができる。
【0028】
この場合には、受光素子の受光面に金属膜によるハーフミラーが形成されることとなる。そして、膜部に金属材料が使用され、または膜部の側にも金属膜が積層されることによってハーフミラーが形成されると、受光素子の受光面および膜部において、膜部を透過した光の反射率が向上することとなることから、ファブリペロー共振器内(中空部内)における干渉波長の選択性が一層向上することとなる。これにより干渉波長の半値幅はさらに狭くなることから、信号伝達効率をさらに向上させることができる。
【0029】
なお、上記における金属膜の形成においては、当該金属膜を金、銀または銅により形成される構成とすることができる。金、銀または銅は、比較的吸光係数が低いことから、これらにより金属膜を形成することにより、高い透過率および反射率を有するハーフミラーを構成することができ、半値幅の狭い透過光を適度な強度により受光素子側へ出力させることができる。
【0030】
前記物理・化学センサにおいて使用する受光素子は、光を電気的に変換できるものであればよく、代表的にはフォトダイオード、フォトトランジスタ、フォトICなどがある。これらを受光素子として使用する場合には、半導体基板上に作製することが容易であり、安価なセンサを得ることができる。
【0031】
また、受光素子の受光面と膜部との間に形成される中空部が、少なくとも膜部側において気密的または水密的に遮断された状態としてもよい。気密的に遮断するとは、気体の通過を遮断できる状態を意味し、水密的に遮断するとは、液体の通過を遮断できる状態を意味する。検知すべき対象物が気体または液体のいずれかにより、気密的か水密的かを選択すればよい。このように、少なくとも膜部側において、中空部が、周囲から気密的または水密的に遮断されていることにより、気体または液体が中空部内に流入することがなく、気体または液体に含まれる特定の物質が膜部の表面にのみ固定することとなる。そして、この物質が固定されることによって、当該物質の存在を検知することができるのである。
【0032】
前記各発明の物理・化学センサを使用するセンサアレイとしては、前記物理・化学センサを同一基板上に複数形成してなることを特徴とするものである。
【0033】
上記構成によれば、複数の種類の物質(分子)を同時に検知することが可能となる。例えば、異なる種類の抗体を予め膜部表面に固定させることにより、当該異なる抗体との間でのみ結合する特定のタンパク質(抗原)の存在を同時に検出することが可能となる。なお、このようなセンサアレイは、半導体プロセスによって同一基板上の複数の受光素子を作製し、さらに、半導体プロセス技術により膜部を形成することによって、物理・化学センサのアレイ化を実現することができる。
【0034】
上記構成のセンサアレイは、処理回路を備えた基板上に形成することができる。処理回路は、MOSFETなどによるソースフォロア回路とすることができ、個々のセンサにおいて検出した電流変化を電圧にして出力させることができる。また、選択回路を設けることにより、複数のセンサについて、個別の検出値を取得することができる。
【0035】
物理・化学現象センシングデバイスにかかる本発明は、前述のいずれかに記載された物理・化学センサを使用する物理・化学現象センシングデバイスであって、前記物理・化学センサと、参照センサとを備え、前記参照センサは、前記物理・化学センサに使用される受光素子と同種の受光素子を使用し、その受光面の表面を露出してなる構成とした参照センサであることを特徴とするものである。ここで、受光素子の受光面を露出するとは、物理・化学センサに使用される受光素子に形成される膜部等を構成するために積層される各種材料が設けられていない状態(当然に中空部が形成されていない状態)のほか、受光素子(例えば、フォトダイオード)の作製時にイオン注入の保護膜として成膜されるシリコン酸化膜や、物理・化学センサを作製する際に使用するエッチングガス(二フッ化キセノンガスなど)から保護するために成膜されるシリコン酸化膜などを除去し、受光面の表面に積層されるものが存在しない状態をも意味するものである。
【0036】
上記のような構成であれば、参照センサにはファブリペロー共振器が形成されていないことから、この参照センサに対して、物理・化学センサ(以下、検出センサと称する場合がある)に供給される物質と同じものを供給したとしても、参照センサが検出する透過光は、検出センサのような光の透過特性が変化しないこととなる。ただし、供給される物質そのものの性質として、光の透過率を減少させることがある場合、例えば、血液などのように色素を有する物質が供給される場合には、当該参照センサにおける受光素子によって検出される光量は減少することとなる。その結果、参照センサは、供給された物質(例えば、血液などのように色素を有する物質)の固有の光透過率による透過光の変化を検出することが可能となるのである。従って、検出センサにおける透過光との比較により、検出センサによって検出される透過光の変化が膜部の撓みによるものであるか、または、供給された物質固有の光透過率によるものであるかを判断することができることとなる。また、双方の影響により透過光が変化する場合においても、膜部の撓みによる変化の程度を算出することが可能となる。
【0037】
また、物理・化学現象センシングデバイスにかかる本発明は、前述のいずれかに記載された物理・化学センサを使用する物理・化学現象センシングデバイスであって、前記物理・化学センサと、参照センサとを備え、前記参照センサは、前記物理・化学センサに使用される受光素子と同種の受光素子の受光面の表面に、前記物理・化学センサに使用される膜部と同種の膜部を、中空部を形成することなく設けられた参照センサであることを特徴とするものである。
【0038】
上記のような構成においても、参照センサには、中空部が設けられていないことから、当該参照センサの膜部等に特定の物質(例えば分子など)が固定された場合であっても、膜部が撓むことがなく光の透過特性が変化しないこととなる。また、膜部等に供給される物質そのものの性質として、光の透過率を減少させることがある場合には、当該物質が膜部等に固定されると否とにかかわらず、当該参照センサにおける受光素子によって検出される光量は減少し、供給される物質固有の光透過率による透過光の変化を検出することができることとなる。そこで、上記構成のセンシングデバイスにおいても、前記検出センサにより検出される光透過率の変化と、参照センサにより検出される光透過率の変化とを対比することにより、光透過率の変化が物質そのものの性質(色素等)によるものであるか、または、膜部等に物質が固定されたことによるものであるかを判断することかできる。また、両センサがともに光透過率の変化を検出した場合においては、その光透過率の変化量を比較することにより、膜部等に物質が固定されたことによる光透過率の変化の程度を検出することができる。
【0039】
上記構成の物理・化学現象センシングデバイスにおいて、前記物理・化学センサおよび前記参照センサを、同一基板上に形成される構成とすることができる。
【0040】
上記構成によれば、単一の基板に検出センサと参照センサを配置できることから、同一の物質を同時に両センサに供給することができ、必然的に同じ検査条件による検出値を比較することができる。なお、両センサが同一基板上に設けられることから、膜部を同時に設けることによって、両センサは同様の肉厚による膜部が形成されることとなり、検査条件のみならず膜部の形成条件をも同じ状態とすることができる。そして、上記検出センサおよび参照センサは、それぞれ単数に限定されるものではなく、必要に応じて、双方またはいずれか一方のセンサを複数に設ける構成としてもよい。この場合、検査センサの膜部表面が有する分子固定能の性質に応じて異なる物質(分子)を、参照センサと比較しつつ測定することができる。
【0041】
なお、検出センサおよび参照センサの双方またはいずれか一方を同一基板上に複数設ける構成の場合には、当該基板に処理回路を設け、さらに選択回路を設けた構成としてもよい。この場合、選択回路は、複数のセンサから特定のセンサの検出値を出力させることができ、処理回路として、例えば、MOSFETによるソースフォロア回路を使用することにより、受光素子により検出した電流を電圧に変換させることができる。
【0042】
また、検出センサおよび参照センサに使用する受光素子は、光を電気的に変換できるものであればよいが、例えは、フォトダイオード、フォトトランジスタ、フォトICなどが半導体基板上に作製されたものを使用すれば、安価なセンシングデバイスを得ることができる。
【0043】
物理・化学センサの製造方法にかかる本発明は、受光素子の受光面に、エッチング可能材料を堆積して犠牲層を生成する犠牲層生成工程と、前記犠牲層の表面を除く領域に保護層を積層する保護層生成工程と、前記犠牲層の表面のうち、エッチング予定領域を除く膜部構成領域に膜部構成材料を堆積して膜部を生成する膜部生成工程と、前記エッチング予定領域を介して犠牲層をエッチングする犠牲層除去工程と、前記エッチング予定領域を被覆するエッチング予定領域封止工程とを含むことを特徴とするものである。なお、受光素子は、予め作製された状態のものが使用され、例えば、半導体作製プロセスにより作製されたフォトダイオード、フォトトランジスタ、フォトICなどがある。
【0044】
上記構成により、犠牲層の表面に生成された膜部は、当該犠牲層が除去されることによって、受光素子の受光面と膜部との間に中空部を形成することができ、この中空部の存在により受光素子の表面にファブリペロー共振器を設けることができる。さらに、前記犠牲層を除去するために使用したエッチング予定領域を被覆することにより、前記中空部は、少なくとも膜部の側において、気密的または水密的に密封することも可能となり、この中空部に検査ガスまたは検査液もしくは洗浄液の流入を防止することができる。なお、膜部構成材料として物質固定能を有する材料を使用することにより、膜部の外側表面に物質(分子等)を固定することが可能となり、固定された物質(分子等)の分子間力による表面応力を膜部に作用させることができることとなる。そして、前記各工程として半導体作製プロセス技術を用いることにより、半導体作製工程において製造することが可能となる。
【0045】
また、物理・化学センサの製造方法にかかる本発明は、前記受光素子の受光面に、第1の金属膜構成材料を堆積して第1の金属膜を生成する第1の金属膜生成工程をさらに含み、前記犠牲層生成工程は、前記第1の金属膜構成材料の表面に犠牲層を生成する工程であることを特徴とするものである。
【0046】
上記構成の場合には、受光素子の受光面に第1の金属膜を生成することができ、この第1の金属膜により当該受光面にハーフミラーを形成することができるものである。そして、前記発明における膜部構成材料が金属材料である場合には、当該膜部は、物質固定能を有する可動膜であると同時にハーフミラーとしても機能することとなることから、当該膜部を透過した光の反射効率を向上させるファブリペロー共振器を構成させることができる。
【0047】
上記構成の第1の金属膜生成工程は、金属膜構成材料をスパッタ法または蒸着法により第1の金属膜構成材料を堆積するものとすることができる。このような構成の場合には、高い透過率および反射率のハーフミラーを受光素子の受光面に形成することができる。
【0048】
また、物理・化学センサの製造方法にかかる本発明は、さらに、前記膜部構成材料の表面に分子固定材料を積層する分子固定膜生成工程を含むことを特徴とするものである。
【0049】
上記構成によれば、膜部を形成する材料としては分子固定能を有しないものを使用することができ、かつ、固定すべき分子の種類に応じて当該分子を固定し得る分子固定膜を膜部の表面に設けることができる。従って、当該分子を膜部表面に固定することが可能なセンサを製造することができる。特に、分子固定材料を膜部の表面のみならずエッチング予定領域を被覆した部分にも同時に積層させることにより、中空部の膜部側においては、必要に応じて気密状態または水密状態を向上させることができる。
【0050】
上記構成の製造方法にかかる発明においては、さらに、前記膜部構成材料または分子固定材料の表面の一部または全部に第2の金属膜構成材料を堆積して第2の金属膜を生成する第2の金属膜生成工程を含む構成としてもよい。
【0051】
このような構成においては、膜部生成工程により生成される膜部、または分子固定膜生成工程により生成される分子固定膜の表面に、第2の金属膜によるハーフミラーを形成することができ、膜部を透過した光の反射率を向上させるセンサを製造することができる。
【0052】
上記構成の場合、第2の金属膜生成工程が、金属膜構成材料をスパッタ法または蒸着法により前記第2の金属膜構成材料を堆積するものとすることにより、前述の第1の金属膜構成材料を堆積させたときと同様に、高い透過率および反射率のハーフミラーを形成することができる。
【0053】
上記発明における前記分子固定材料を積層する工程が、前記膜部構成材料または第2の金属膜構成材料の表面に生体高分子固定材料を積層する生体高分子固定膜生成工程である構成とすることができる。
【0054】
上記構成によれば、膜部または第2の金属膜の表面に生体高分子を固定させることができるセンサを製造することが可能となる。すなわち、抗体、DNAまたはRNAなどを膜部表面に固定することが可能となり、体液から特定の生体高分子を検出するためのセンサを製造することができる。
【0055】
さらに、上記発明における前記分子固定材料を積層する工程が、前記膜部構成材料または第2の金属膜構成材料の表面に抗体固定材料を積層する抗体固定膜生成工程である構成とすることができる。
【0056】
上記構成によれば、膜部または第2の金属膜の表面に特定抗体を固定させることが可能なセンサを製造することができる。このとき、抗体固定膜生成工程により生成された抗体固定膜に固定される抗体には、さらに、特定のタンパク質(抗原)が結合することが可能となり、そのタンパク質(抗原)の存在を検出するタンパク質センサを製造することができるのである。
【0057】
また、物理・化学センサの製造方法にかかる本発明は、上記発明における膜部構成材料を堆積する工程が、パリレンNまたはパリレンCを蒸着させる工程であることを特徴とするものである。
【0058】
上記構成によれば、蒸着時における原料ダイマの量を調整することにより、ポリパラキシリレンのモノマーガス供給量を制御でき、凝集後にポリマー膜となる際のパリレンNまたはパリレンCの膜厚を調整することが可能となり、所望の膜厚を容易に形成することができる。
【0059】
さらに、物理・化学センサの製造方法にかかる本発明は、上記発明における分子固定材料を積層する工程が、パリレンAまたはパリレンAMを蒸着させる工程であることを特徴とするものである。
【0060】
上記構成によれば、膜部生成工程により生成された膜部の表面にアミノ基を固定できる抗体固定膜を積層させることができる。
【0061】
物理・化学現象センシングデバイスの製造方法にかかる本発明は、同一基板上に作製された複数の受光素子を検出センサ用および参照センサ用の二種類に区分し、検出センサ用の受光素子の受光面に、エッチング可能材料を堆積して犠牲層を生成する犠牲層生成工程と、前記犠牲層の表面および前記参照センサ用の受光素子の受光面を除く領域に、保護層を積層する保護層生成工程と、前記犠牲層の表面のうち、エッチング予定領域を除く膜部構成領域、および、前記参照センサ用の受光素子の受光面に、膜部構成材料を堆積して膜部を生成する膜部生成工程と、前記エッチング予定領域を介して犠牲層をエッチングする犠牲層除去工程と、前記エッチング予定領域を被覆するエッチング予定領域封止工程とを含むことを特徴とするものである。なお、受光素子としては、半導体作製プロセスによりフォトダイオード等が同一基板上に複数作製されたものを使用することができる。
【0062】
上記構成によれば、検出センサ用の受光素子の表面には、前述のように、中空部を介して膜部が形成されるのに対し、参照センサは中空部が形成されることなく膜部が形成されることとなる。しかも、上記中空部の有無を除けば、その他の構成は、検出センサ用および参照センサ用のいずれも同様の構成となることから、検出用のセンサと参照用のセンサを備えたセンシングデバイスを製造することができ、物理・化学現象を比較可能に検出し得る装置を提供することができる。
【0063】
なお、上記構成の発明において、検出センサ用の受光素子には、ハーフミラーを形成するための第1または第2の金属膜生成工程を含むこと、分子固定膜生成工程を含むこと、分子固定膜生成工程が生体高分子固定膜生成工程であること、膜部生成または抗体固定膜生成工程に特定の材料を使用することとすることができる。この場合、前述の物理・化学センサの製造工程における場合と同様に、それぞれの作用を有することとなる。また、検出センサ用の受光素子にファブリペロー共振器を形成するための膜部構成材料等の積層に伴って、同様の膜部構成材料等が、参照センサ用の受光素子の受光面にも積層されることとなるが、参照センサ用の受光素子についてのみ、これら膜部構成材料等をエッチング等によって除去する工程を含めることができる。このような工程を含めることにより、参照センサ用の受光素子についてのみ受光面を露出させた状態としたセンシングデバイスを製造することができる。
【発明の効果】
【0064】
物理・化学センサにかかる本発明によれば、受光素子の表面側に形成した膜部の撓み状態によって、膜部に固定した物質(分子等)による分子間力の変化を測定することができる。これにより、膜部に物質が固定されたか否かを検知することが可能となる。特に、生体分子の付着による分子間力の変化を測定することができることから、予め特定のプローブ分子(抗体)を膜部表面に固定し、検査対象物の供給の前後における特定波長の光の強度を測定することによって、特定のタンパク質(抗原)の存在を検出することができる。さらに、上記において、受光素子の作製に続けて、半導体作製プロセス技術を用いることにより、小型に作製できるとともに、アレイ化も可能である。
【0065】
また、物質(プローブ分子その他の分子)の付着による分子間力の測定は、膜部の撓み状態の変化によるものであるが、この膜部の撓み状態の変化は、ファブリペロー共振器を透過する特定波長の光の強度によって、判断することができる。従って、上記分子間力の測定のために、複雑な光学的アライメントを必要とせず、チップ上において電気的に測定することができる。
【0066】
さらに、シリコン以外の柔軟な材料により膜部を形成することにより、分子間力に起因する機械的な撓みを効率的に測定することができる。そして、パリレンを使用する場合、理論的には1μN/m以下の表面応力を検出することができる。これは、従来のピエゾ抵抗型センサの1/100の表面応力の変化を検出することができることを意味するものである。
【0067】
また、金属膜によりハーフミラーを形成してなる物理・化学センサによれば、膜部を透過した光がファブリペロー共振器内(中空部内)において十分に反射させることができ、干渉する光の波長の半値幅を狭くすることができることから、膜部の撓みによる変位に対して透過率が急峻な変化を生じることとなり、受光素子を介して得られる信号伝達効率を向上させることができる。特に、透明でない体液等について測定する場合には、光の透過率が減少することとなるが、このような条件下においても、干渉波長の半値幅を狭くすることにより、信号伝達効率を向上させ得るものである。
【0068】
物理・化学現象センシングデバイスにかかる本発明によれば、検出センサによる光透過率の変化と、参照センサによる光透過率の変化を測定することにより、検出センサによって検出された光透過率の減少が、特定物質の固定に伴うものであるか否かを判断できることとなる。また、両センサの比較によって、特定物質の固定の程度を測定することも可能であり、濃度の計算に使用できる数値を得ることができる。
【0069】
また、血液等の透明でない体液から特定のタンパク質等を検出する場合においても、光透過率の変化が、血液そのものによって光透過率が減少したのか、特定のタンパク質等を固定したことによるのかを判別することが可能となる。従って、本発明の物理・化学現象センシングデバイスを使用することにより、僅かな特定物質の存在を検出することが可能となり得る。
【0070】
他方、物理・化学センサの製造方法にかかる本発明によれば、受光素子の作製に続けて半導体作製プロセスによって製造することができることから、非常に微細なセンサを製造することが可能となる。また、受光素子の受光面と膜部との間の中空部は、エッチング予定領域の被覆により周囲から遮断されることとなるから、その後の処理を容易にすることができる。特に、アレイ化した際のチップの処理をバッチで行うことも可能となる。
【0071】
また、物理・化学現象センシングデバイスの製造方法にかかる本発明によれば、検査センサを作製する過程において、同時に参照センサを作製することができることから、検査センサと参照センサとが、同一材料を同一条件(同一膜厚等)によって作製されることとなる。当然に同一基板上においてバッチで作製できることから、迅速かつ容易に作製することができる。そして、このようにして作製されたセンシングデバイスは、単一基板上に形成されていることから、検査用チップとして使用することも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0073】
本発明の詳細を説明するため、以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、受光素子としては、フォトダイオードを例示し、本発明の実施形態を説明するが、フォトダイオードに限定する趣旨ではない。
【0074】
〔物理・化学センサにかかる発明の第1の実施形態〕
図1は、物理・化学センサにかかる本発明の第1の実施形態を示す図である。この
図1(a)に示すように、フォトダイオード1の受光面が形成されている領域1aに対向して膜部2が設けられており、この受光領域1aと膜部2との間に中空部3が形成され、ファブリペロー共振器が構成されている。膜部2は、物質(分子等)を固定できる材料で形成され、少なくとも外側表面4aにおいて、膜部2の外方に存在する物質を固定できるように構成されている。また、膜部2は、作製過程において、開口する部分が存在しているが、この開口部分は被覆され、中空部3は周囲と遮断された状態となっている。なお、中空部3の遮断は、膜部2の側から物質(分子等)が容易に中空部3の内部に侵入しない程度の状態であり、この遮断状態を気密的にすることにより、中空部3の内部に気体が流入することがなく、膜部2が物質(分子等)を固定できる材料で構成した場合においても、膜部2の内側表面に物質が固定されることはない。また、当該遮断状態が水密的であれば、液体が中空部3の内部に流入することはなく、固定された物質を除去する場合などにおいて、液体を使用することも可能となる。同時に、液体に含まれる分子等が膜部2の内側表面に固定されることもない。なお、フォトダイオード1には、電極5,6が設けられ、バイアス電圧が印加されている。
【0075】
本実施形態では、膜部2を比較的柔軟な材料で構成することにより、膜部2が機械的に撓むことができるようにしている。従って、この機械的撓みにより、受光領域1aと膜部2との距離が変化することによって、ファブリペロー共振器による共振する光の波長は異なることとなる。これを特定の波長の光に着目すれば、膜部2が撓んでいない状態における光の強度と、膜部2が撓んだ状態における光の強度は異なることとなり、特定の波長の光の強度を観察することによって、膜部2の撓み状態を検出することが可能となるのである。このような柔軟な材料として、また、物質を固定する性質を有するものとして、パリレンAまたはパリレンAMがある。これらのポリキシリレン系ポリマーは、光透過率が高く、ヤング率も低いことから、ファブリペロー共振器を形成しつつ、表面応力によって容易に変形させることが可能となる。また、パリレンAは側鎖にアミノ基を有しており、アミノ基と結合するタンパク質等の分子を固定させることができ、パリレンAMは、側鎖にメチル基−アミノ基の直列に結合しており、これもまたアミノ基と結合する分子を固定することができるものである。なお、膜部2はこれらのポリキシリレン系ポリマーに限定するものではなく、光透過性および可撓性を有する材料から適宜選択することができる。
【0076】
上記のような膜部2は、その材料そのものが物質(分子等)を固定するものでなくとも、膜部2の外側表面4aの全面または部分的に、物質(分子等)の固定能を有する材料が堆積等された構成でもよい。すなわち、貴金属(金、白金、パラジウム等)を堆積することにより、タンパク質以外の物質を膜部2の表面4aに吸着(または結合)させることが可能となる。この場合、貴金属の堆積量を僅かにすることによって、膜部2のヤング率の増大、および、光の透過率の減少を抑えることができる。
【0077】
また、膜部2に物質(分子等)の固定能を有する材料として金などを使用する場合には、当該膜部2をハーフミラーとして機能させることも可能である。すなわち、金や銀は、吸光係数が低いことから、これらの材料を使用して成膜してなる膜部2は、中空部3の内部における光の反射率を向上させることなり、当該中空部3の内部において干渉する波長の半値幅を狭くすることとなるのである。
【0078】
本実施形態は、上記のような構成であるから、
図1(b)に示すように、膜部2の外部表面に物質(分子等)Aが固定することによって、その分子間力により膜部2が撓むこととなるのである(図は抗体Aを代表例として示している)。このように、膜部2が撓むことにより、膜部2の外方からフォトダイオードの受光面に向かって、所定波長の光を照射することにより、当該特定波長光の透過状態を電気的に解析することができる。すなわち、例えば、単波長のレーザ光を発生させる光源により、例えば、波長600nmの赤色レーザ光を照射することにより、その光の透過率(フォトダイオードの受光率)の変化を観察することで、膜部2の撓み状態を把握することができる。このように、膜部2が撓んでいるか否かを把握することにより、物質(分子等)の存在を確認し、また、その撓み状態の程度により固定した物質(分子等)の量を把握することができるのである。なお、前記レーザ光の波長の特定は、膜部2が撓むことに伴う透過率の変化が顕著となるものを選択することが好ましい。なぜなら、ファブリペロー共振器を形成する膜部2の肉厚および中空部3の間隙の各寸法が異なることにより、膜部2の撓んだ状態における特定波長の光の透過率が異なることとなるからである。
【0079】
また、パラジウム等の水素分子を吸着する材料を膜部2の表面4aに堆積する場合には、水素ガスセンサとして機能し、膜部2をパリレンA等で構成することにより、タンパク質センサとして機能することとなる。さらに、金等の貴金属を堆積することにより、二酸化炭素や二酸化窒素等の環境負荷型のガス、または、TNTやRDX等の爆薬使用型のガスについてもセンシングすることが可能となる。
【0080】
〔物理・化学センサにかかる発明の第2の実施形態〕
次に、物理・化学センサにかかる第2の実施形態について説明する。
図2は、本実施形態を示す図である。この
図2(a)に示すように、本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、フォトダイオード1の受光面1aには、これに対向して膜部2が設けられ、かつ、中間に中空部3が形成されて、ファブリペロー共振器が構成されている。本実施形態では、膜部2の表面に分子固定膜4が積層された構成である。従って、膜部2と分子固定膜4とを異なる材料で形成することができるものである。そこで、膜部2としては、パリレンNまたはパリレンCがある。この種のポリキシリレン系ポリマーは、光透過率が高く、ヤング率も低いことから、ファブリペロー共振器を形成しつつ、表面応力によって容易に変形させることが可能となる。
【0081】
また、分子固定膜4としては、種々の材料を堆積させることによって、所望の分子を固定させることが可能である。そこで、水素ガスを検知する場合には、水素分子を固定できる材料により分子固定膜4を形成するのである。これにより、水素センサとして機能することとなる。分子固定膜4に使用する材料のヤング率が大きい場合には、薄膜化することにより、膜部2を含む全体のヤング率が大きくなることを抑制できる。
【0082】
なお、分子固定膜4が、金などを使用する場合には、当該分子固定膜4をハーフミラーとして機能させることも可能である。すなわち、膜部2には比較的ヤング率の低い材料を使用することにより、分子固定膜4を比較的ヤング率の高い材料を使用しても両者の積層体が表面応力による変化を可能にし、かつ、金は、吸光係数が低いことから、中空部3の内部における光の反射率を向上させることが可能となるのである。この場合、膜部2に積層される分子固定膜4の膜厚を調整することにより、表面応力による膜部2の変形の程度、ならびに、入射される光の透過率および中空部3における反射率の程度を調整することができる。
【0083】
さらに、分子固定膜4として、例えば、生体高分子(例えば、抗体等のタンパク質やDNAなど)を固定できる材料により構成すれば、分子固定膜4を生体高分子膜とすることができる。特に、抗体を固定できる材料により構成する場合には、分子固定膜4を抗体固定膜とすることができる。この抗体固定膜4としては、パリレンAまたはパリレンAMを使用することができる。パリレンAおよびパリレンAMは側鎖にアミノ基を有することから、アミノ基と電気的に結合できる抗体Aを固定させることが可能となるためである。ここで、本実施形態では、抗体Aの固定状態を検出することを目的とするのではなく、この抗体Aに特異吸着する特殊なタンパク質を検知するものである。すなわち、予め抗体Aが固定した状態における膜部2の撓み状態を基準とし(図では敢えて撓んでいない状態を示す)、その後、この抗体に特異吸着する特定のタンパク質が存在するかどうかを検出するのである。アミノ基と電気的に結合できる抗体Aは比較的多く、これらと特異吸着するタンパク質の有無を判定する際に使用できる。従って、抗体固定膜4は、パリレンAおよびパリレンAMに限定するものではなく、それ以外の材料(貴金属による薄膜等)であっても抗体Aを固定できる性質を有する材料であれば使用可能である。
【0084】
このような材料で構成された抗体固定膜4に抗体Aを固定することにより、
図2(b)に示すように、抗体Aに特定のタンパク質(抗原)Pを特異吸着させることができる。そして、抗体Aに抗原Pが特異吸着することにより分子間力が変化し、膜部2を機械的に撓ませることとなるのである。なお、抗体Aもタンパク質の一種であることから、抗体Aが固定されていない状態よりも、抗体Aが固定された状態では、分子間力によって僅かに撓むことが予想される。しかし、抗体Aに特定のタンパク質(抗原)Pが特異吸着することにより、分子間力が強く作用し、膜部2の撓みが著しくなるのである。そこで、抗体Aを固定した状態における光の強度(膜部2の撓み状態)との比較によって、特定のタンパク質(抗原)Pの特異吸着の有無を判断することが可能となる。
【0085】
本実施形態は、上記のような構成であるから、第1の実施形態と同様に、光源Lによりフォトダイオードの受光面に向かって、特定波長の光(例えば、波長600nmの赤色光)を照射することにより、当該特定波長光の透過状態を電気的に解析することができる。そして、その光の透過率の変化を観察することにより、膜部2の撓み状態を把握することができ、このときの撓み状態によって、抗体固定膜4の表面に固定した抗体Aに特定のタンパク質Pが結合したか否かを判断することができる。
【0086】
そして、膜部2をヤング率の小さなパリレンで構成することにより、僅かな表面応力の変化による撓みを発生させることが可能となり、少ない特定タンパク質をも検出することが可能となる。
【0087】
このように、少ない量の特定のタンパク質を検出することができれば、例えば、人の血液等の体液から、ガン患者のみが有する特異タンパク質(抗原)の有無を検査する際、微量の特異タンパク質を検出することができ、早期治療に貢献することができる。なお、上記構成の中空部3は、周辺との遮断の状態が水密的となっており、検査液または洗浄液が侵入しないようになっており、使用中および使用後においてもファブリペロー共振器としての機能に影響がないものとなっている。
【0088】
〔物理・化学センサアレイの実施形態〕
上記物理・化学センサは、1個単独のものについてのみ説明したが、同一基板上に複数のフォトダイオード1を形成し、その各フォトダイオード1に対して、中空部3を形成しつつ膜部2を設けることにより、複数のセンサを有するセンサアレイとすることができる。そこで、センサアレイの実施形態を次のとおり例示する。
【0089】
図3は、センサアレイの一例を示す図である。Xはセンサエリアを示し、Yは処理回路エリアを示す。本実施形態では、単一の(同一の)半導体基板Bに4個の物理・化学センサX1,X2,X3,X4が形成されている。これらのセンサX1〜X4は、前述した物理・化学センサにかかる発明の第1または第2の実施形態が使用されている。また、各センサX1〜X4に接続されるように、基板Bには処理回路Y1,Y2,Y3,Y4が形成されており、各センサX1〜X4の検出値を処理(検知)されるものである。処理回路Y1〜Y4としては、例えば、MOSFETによるものであり、センサX1〜X4がMOSFETのゲート電極に接続され、光電流の発生が検出されるようになっている。なお、半導体基板Bに、n型基板を使用する場合、受光素子としてのフォトダイオードには、n型フォトダイオードを形成し、同時に、同じ基板Bにn型MOSFETを形成することができる。
【0090】
このような構成の場合、同時に他種類の物質の存在を検出することが可能となる。例えば、上述したように、センサの膜部に抗体を固定させ、これと特異吸着する抗体の存在を検査する場合には、異なる種類の抗体を個別に予め膜部2に固定させておくことにより、一度に複数のこれらと特異吸着する抗原を見付けることが可能となる。従って、検査期間を短縮し、体液採取も少ない回数となり、医療現場において有用である。
【0091】
〔物理・化学現象センシングデバイスにかかる発明の第1の実施形態〕
次に、物理・化学現象センシングデバイスにかかる発明の実施形態について説明する。物理・化学現象センシングデバイスは、前述の物理・化学センサを使用するものであって、ファブリペロー共振器を構成させた上記物理・化学センサ(検出センサ)と、ファブリペロー共振器を構成しない参照センサとで構成されている。
図4はその第1の実施形態を示す図である。この図に示すように、本実施形態は、同一の基板Bに、検出センサ100と、参照センサ200とが作製されている。検出センサ100は、前述の第1の実施形態と同様に、フォトダイオード101の受光領域101aに対して、中空部103を形成しつつ膜部102が設けられ、ファブリペロー共振器が構成されている。他方、参照センサ200は、膜部2がフォトダイオード201の受光領域201aとの間に中空部を形成せずに積層された状態で設けられているのである。この参照センサ200に形成される膜部202は、検出センサ100と同種の材料により構成され、検出センサ100の膜部102と同様に、参照センサ200の膜部202の外部表面204aにおいて特定に物質を固定できるようになっている。なお、図中のPMは、検出センサ100に中空部103を形成する際に使用するエッチングガスからフォトダイオードを保護するための保護膜であり、通常は、熱酸化により形成されるものである(後述の製造方法にかかる実施形態参照)。
【0092】
そこで、
図5に示すように、上記構成の検出センサ100および参照センサ200に特定の物質(分子等)Aが固定される場合、検出センサ100では、上述のように、分子間力により膜部102が撓むこととなり、中空部103の間隔が変化することとなる。これに対し、参照センサ200は、上記のような中空部を有していないために、そのような変化がない。仮に、膜部202が撓むような応力が作用するとしても、中空部が構成されていないために、膜部202は容易に撓むことができず、結果として、光の透過特性が変化することがないのである。
【0093】
なお、上記膜部102,202には、分子固定能を有するパリレンA、パリレンAMのほか、貴金属を堆積したものとすることができ、また、両センサ100,200には、電極105,106,205,206が形成され、フォトダイオード101,201の受光率を電気的に解析できるようになっている。両センサ100,200に対する光の照射は、同じ光源が使用され、同一波長の光の透過率を比較することができる。なお、図中の光源Lは、両センサ100,200に対して個別の光源Lを使用するように示しているが、これは、各センサ100,200にそれぞれ光を照射することを意味するものである。従って、図示のように、異なる光源により同一波長・同一光量の光源を個別に照射してもよいが、単一の光源によって同じ光を照射することができる。
【0094】
本実施形態は、上記のような構成であるから、本実施形態を構成する参照センサ200は、光源Lにより照射される光の透過率を検出することができるものの、特定の物質が膜部202の表面に固定した場合であっても、膜部202が撓まず、物質の固定を原因として、光の透過率が変化することはない。しかしながら、当該物質の検出のために供給される気体または液体が不透明または色彩を有するものである場合には、当該供給された気体または液体の透光性の程度に応じて、光の透過率が減少することとなる。そこで、検出センサ100と、参照センサ200の双方に、同じ気体または液体を供給し、そのときの光の透過率の変化を検出することにより、検出センサ100によって検出された光透過率の減少が、特定物質の固定によるものか、供給された気体または液体の透光性によるものかを検知することができる。さらに、その透過率の減少の程度を検出することにより、現実に物質が固定したことにより膜部102が撓む程度を算出することが可能となる。従って、検出センサ100において光の透過率が減少した量と、参照センサ200における光の透過率の減少量とを比較し、その差分をもって物質の存在量として、当該物質の存在を検出することができるのである。
【0095】
〔物理・化学現象センシングデバイスにかかる発明の第2の実施形態〕
さらに、物理・化学現象センシングデバイスの第2の実施形態を説明する。
図6は、本実施形態を示す図である。この図に示すように、本実施形態は、検出センサ300の構成を、前述の物理・化学センサにかかる第2の実施形態(
図2参照)のように、膜部302の表面に分子固定膜304を積層したものである。これに伴って、参照センサ400についても、膜部402の表面に分子固定膜404が積層されている。このように、膜部302,402の表面に分子固定膜304,404を積層することにより、当該分子固定膜304,404の材質を適宜選択することにより、検出センサ300を水素、生体高分子または抗体等を検出するためのセンサに構成することができる。そして、参照センサ400も同種の構成とすることにより、検出センサ300により検出される光透過率の変化のうち、物質が固定されたことを原因とする変化の有無および程度を検出することができることとなる。
【0096】
上記のような構成により、例えば、人の体液や血液等のように、光の透過率が減少しそうな液体中に含まれる特異タンパク質(抗原)を検知することができる。すなわち、検出センサ300および参照センサ400の双方の分子固定膜304,404に、それぞれ抗体を固定しておき、両者に対して人の体液または血液等を供給することによって、両センサ300,400における光の透過率が変化するとしても、当該抗体に特異吸着する抗原が存在する場合は、検出センサ300により検出される光の透過率の変化が、参照センサ400により検出される光の透過率の変化よりも大きくなり、この両者の比較によって抗原の存在および程度を検知することができるのである。
【0097】
なお、上述の両実施形態において、参照センサ200,400の受光面201a,401aについては、露出させる状態に構成してなる形態としてもよい。すなわち、物理・化学現象センシングデバイスにかかる発明の第1の実施形態(
図4)および第2の実施形態(
図6)では、参照センサ200,400の受光面201a,401aに保護膜PMが形成され、さらにその表面に、膜部202,402および分子固定膜404(第2の実施形態のみ)が積層された構成となっているが、これらをエッチング等により除去する構成としてもよい。
【0098】
〔物理・化学現象センシングデバイスにかかる実施形態の変形例〕
図7は、第2の実施形態(
図6)において、参照センサ400の受光面401aに積層させる保護膜PM、膜部402および分子固定膜404を除去したものを示す。この図に示すように、参照センサ400の受光面401aには光源Lから照射された光を遮るものが存在しないものであり、当該光を十分に受光し得る。そして、検出センサ300に供給される気体または液体と同じものが参照センサ400に供給されるとき、当該液体等が透明な場合には、その光量が減少することがなく受光することとなり、これに対して、液体等が不透明または着色されたものである場合には、受光する光量が減少することとなり、その変化を顕著に検出することが可能となるのである。このことは、図示しないが、第1の実施形態(
図4)における保護膜PMおよび膜部202を除去した場合も同様である。
【0099】
図8は、物理・化学現象センシングデバイスの他の変形例を示す電気的ブロック図である。図中のXはセンサ(検出センサまたは参照センサ)を示し、Yは処理回路を示し、Zは選択回路を示す。センサXは、それぞれ縦横4×4の合計16個(X1,・・・,X16)が同一基板上に形成され、これらに個別に接続される処理回路Yも合計16個(Y1,・・・Y16)形成されている。選択回路Zは、デコーダおよびセレクタで構成され、デコーダは基板上のHライン(横方向)について選択し、セレクタは基板上のVライン(縦方向)について選択するものである。入力信号(電圧)は、デコーダおよびセレクタによって16個のセンサXのうちの1個(例えば、X1)を選択して入力され、各センサXにおける光電流値が検出される。
【0100】
また、個々のセンサXについて、1個ずつ接続される処理回路Yは、MOSFETによるソースフォロア回路が形成されており、センサXから出力される電流がゲート電極に入力され、光電流の発生が検出されるとともに、出力値は電圧として得られるようになっている。この出力値は、オシロスコープ等によって検出することにより、光電流の大きさを検出することができるものである。
【0101】
このように、複数のセンサXをアレイ化することにより、同時に異なる物質(分子)の検出を可能にすることができる。また、検出センサと参照センサとをHライン(横方向)またはVライン(縦方向)のいずれかに、または双方に、配置することにより、検出センサによる光電流の変化と、参照センサによる光電流の変化とを同時に検出することができる。この場合、血液などの光透過率が減少し得る物質について、特定物質(分子)の吸着による光透過率の変化を上記比較により明確に検出することが可能となる。
【0102】
〔物理・化学センサの製造方法にかかる発明の第1の実施形態〕
次に、前記物理・化学センサの製造方法について説明する。
図9および
図10は、製造方法にかかる第1の実施形態を示す図である。まず、所定の半導体プロセスにより、フォトダイオード1を作製する。このフォトダイオード1の表面は、保護のためにシリコン酸化膜が形成されていることから、このシリコン酸化膜はそのまま残存させてもよいが、これをエッチングにより除去した構成でもよい。その後、フォトダイオード1の表面に保護膜PMを形成する(
図9(a))。この保護膜PMは、熱酸化によりシリコン酸化膜を形成するものであるが、前記半導体プロセス時に形成されるシリコン酸化膜よりも厚肉の状態に形成されるものである。従って、半導体プロセスによって形成されるシリコン酸化膜に積層させる場合であっても、当該シリコン酸化膜を除去した後に所定の肉厚のシリコン酸化膜を形成させる場合であってもよい。なお、この保護膜PMは、後の工程である犠牲層除去工程におけるエッチングガスからフォトダイオード1を保護するものである。
【0103】
この状態から、第1の工程として、フォトダイオード1の受光面(受光領域)1aに犠牲層7を設ける工程(犠牲層生成工程)を行う。犠牲層7に使用される材料は後工程においてエッチング除去され得るエッチング可能材料とし、例えば、ポリシリコンを使用する。ポリシリコンを使用する場合は、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により、前記シリコン酸化膜の全面にポリシリコンを堆積し、フォトリソグラフィ技術によりパターニングされ、必要とする範囲のポリシリコンを残して、他のポリシリコンを除去している(
図9(b))。このとき、犠牲層7のほかに、犠牲層7の周辺部に複数の積層部8が形成され、犠牲層7と、その近傍に設けられる積層部8との間には、適宜な間隙が形成されている。この間隙は、後工程の膜部生成工程において、膜部の形成とともに膜部構成材料が堆積できるようになっており、当該間隙内に堆積する膜部構成材料と生成される膜部が一体的に構成されるようにしている。
【0104】
次に、犠牲層7の表面部を除く範囲にシリコン酸化膜9を積層する(保護層生成工程)。このシリコン酸化膜9は、後工程によるエッチングの際にエッチングガスから保護するための保護層として機能させるものである。犠牲層7の表面を除く領域の全体にシリコン酸化膜を積層するため、犠牲層7の周辺(側面)にもシリコン酸化膜が付着することとなる(
図9(c))。このとき、フォトダイオード1を構成するp型領域およびn+型領域に電極5,6を設けるため、当該部分のシリコン酸化膜をバッファードフッ酸液等によりエッチングして除去し、その部分にアルミニウムを配線しておくことも可能である(
図9(d))。
【0105】
引き続き、犠牲層7の一部を残し、その全面および周辺のシリコン酸化膜の表面に膜部構成材料を堆積する(膜部生成工程)。膜部構成材料としては、パリレンAまたはパリレンAMを使用することができる。この場合、パリレンを蒸着法により全面に蒸着した後、所定領域を残し、一部分(エッチング予定領域21,22)のパリレンを除去している。このパリレンの除去についても、フォトリソグラフィ技術により、酵素プラズマによるパターニングの後、不要なパリレンを除去している(
図10(a))。なお、上記のパリレンの蒸着において、膜厚を調整するために、原料ダイマの量を調整している。原料ダイマの量を調整することにより、ポリパラキシリレンのモノマーガス供給量を制御でき、凝集後にポリマー膜となる際の膜厚を調整できるからである。この工程により、犠牲層7の表面に適宜な肉厚の膜部2が形成される。
【0106】
次に、膜部2の表面から犠牲層7をエッチングにより除去する(犠牲層除去工程)。このとき、上述のとおり、犠牲層7の一部にパリレンが蒸着されていない部分(エッチング予定領域21,22)を形成していることから、当該部分を介して犠牲層7を除去するのである(
図10(b))。なお、上記犠牲層7のエッチングは、ドライエッチングにより、エッチングガスを犠牲層7に作用させることによるものである。
【0107】
さらに、エッチング予定領域21,22を被覆する(エッチング予定領域封止工程)。ここでは、フィルムレジストラミネートを使用し、エッチング予定領域をラミネートするのである。なお、ラミネート部分がエッチング予定領域に限定されるように、ラミネート後にフォトリソグラフィ技術により、不要な部分を除去している(
図10(c))。このように、エッチング予定領域を被覆することにより、前工程でエッチングにより除去された犠牲層7の部分が封止される(封止の程度により気密的または水密的に密閉される)こととなる。
【0108】
上記工程により、物理・化学センサを構成することができる。つまり、上述のように、膜部生成工程においては、パリレンAまたはパリレンAMを使用することにより、構成された膜部2は、光透過性および可撓性を有し、かつ、表面において分子固定能を有しているからである。
【0109】
なお、上記工程に続き、膜部2の表面に分子固定材料を積層してもよい(分子固定膜生成工程)。例えば、膜部生成工程において、分子固定能を有しない材料(例えば、パリレンNまたはパリレンC)により膜部2を形成した場合には、その表面に分子固定能を有する材料(例えば、パリレンAまたはパリレンAM)を積層するのである(
図10(d))。このとき、分子固定材料として生体高分子固定材料を積層することにより、生体高分子固定膜を形成することができ(生体高分子固定膜生成工程)、特に、抗体固定材料を積層することにより、抗体固定膜を形成することができる(抗体固定膜生成工程)。本実施形態では、側鎖にアミノ基を有するパリレンAMを蒸着して膜部2の表面に積層している。これにより、抗体固定膜4が膜部2の表面に積層される構造とすることができるのである(
図10(d))。なお、分子固定膜(抗体固定膜)4は、膜部2の表面に限定されず、その周辺に広く蒸着させてもよい。特に、エッチング予定領域21,22を被覆した被覆部23,24を含めることにより、エッチング予定領域21,22と被覆部23,24との間に、僅かな間隙を残存させないようにすることができる。つまり、中空部3の気密性または水密性を必要に応じて向上させることができるのである。
【0110】
〔物理・化学センサの製造方法にかかる発明の第2・第3の実施形態〕
物理・化学センサの製造方法にかかる前記第1の実施形態においては、分子固定膜精製工程を最終工程としたが、この分子固定膜生成工程を最終工程とせず、センサ製造過程の途中に行うことも可能である。すなわち、製造方法にかかる第2の実施形態は、
図11に示すように、膜部生成工程(
図11(a))の終了後に、分子固定材料を積層する形態である(
図11(b))。この場合においても、その後の工程において犠牲層をエッチングする(
図11(c))こととなるから、分子固定膜4には、エッチング予定領域21,22の分子固定膜を除去している。そして、最後に、膜部2および分子固定膜4におけるエッチング予定領域21,22を被覆するのである(
図11(d))。また、第3の実施形態は、
図12に示すように、犠牲層除去工程(
図12(b))の後に、分子固定膜4を積層する形態である(
図12(c))。この場合、分子固定材料が中空部3の内部に堆積しそうであるが、犠牲層を小さくする場合、または、分子固定膜4が薄膜である場合には、ファブリペロー共振器としての機能に影響を与えることなく、膜部2の表面に分子固定膜4を積層し得るものである。
【0111】
また、物理・化学センサアレイを製造する場合は、前記工程を同時に複数実施することにより、物理・化学センサをアレイ化することができる。さらに、処理回路を同時に形成することも可能である。そこで、
図13は、物理・化学センサと処理回路とを同時に作製する場合の一例を示す。この図はセンサ形成工程の一部を省略している。図示されているように、基板Bには、フォトダイオードが形成される領域1と、MOSFETが形成されるべき領域M1とが区分され、MOSFETが形成されるべき領域M1には、予めソース領域Sおよびドレイン領域Dに不純物がドープされている。例えば、半導体基板Bをp型のシリコン基板を使用する場合、ソースおよびドレイン領域にn+をドープしてn型のMOSFETを作製するのである。そこで、まず、ゲート領域には、電極としてポリシリコンM8を予め積層するのである(
図13(a)参照)。
【0112】
次に、フォトダイオードの領域1に犠牲層7が積層されるとともに、保護層として酸化シリコン膜9が積層され(
図13(b)参照)、さらに、フォトダイオード側に電極5,6を設ける際に、MOSFET側にも電極M5,M6が設けられるのである(
図13(c)参照)。なお、フォトダイオードのn+型領域の電極6と、MOSFETの電極M5を連続して形成することにより、両電極を接続した状態に設けることができる。
【0113】
上記に続いて、犠牲層7の一部(すなわちエッチング予定領域21,22)を残し、その全面および周辺の酸化シリコン膜9の表面にパリレンCなどの膜部構成材料を堆積させて膜部2を形成するのである(
図13(d)参照)。そして、犠牲層7をエッチングによって除去した後、エッチング予定領域21,22を封止し、さらに、分子固定材料を堆積して分子固定膜4を積層するのである(
図13(e)参照)。上記のような構成により、単一基板上に物理・化学センサと、MOSFETを同時に作製することができるのである。なお、上述の分子固定膜4は、既に説明したとおり、膜部2に分子固定能を有する場合には積層を省略することができる。
【0114】
物理・化学センサの製造方法にかかる発明の実施形態は、上記のとおりであることから、フォトダイオード1の表面に中空部3を形成しつつ膜部2を形成することができる。この膜部2は、パリレンを蒸着して構成していることから、光の透過率が高く、可撓性を有することとなる。また、分子固定膜(抗体固定膜)4を積層する構成においても、パリレンAまたはパリレンAMを使用することにより、光透過性および可撓性を有する状態とすることができる。また、金等の貴金属を積層する場合においても、これを薄膜化することにより、光の透過性を確保し、また、膜部の可撓性を維持させるように構成することができる。
【0115】
〔物理・化学現象センシングデバイスの製造方法にかかる発明の実施形態〕
次に、物理・化学現象センシングデバイスの製造方法について説明する。
図14および
図15は、センシングデバイスの製造方法にかかる実施形態を示す図である。これらの図に示すように、製造方法の基本的な工程は、物理・化学センサの製造方法にかかる第1の実施形態と同様であり、物理・化学センサの作製と同時進行で、参照センサを作製することにより、センシングデバイスを製造するものである。
【0116】
すなわち、単一の基板Bに複数(例えば2つ)のフォトダイオード101,201を作製し(
図14(a))、検出センサ用および参照センサ用に区分して、検出センサ用のフォトダイオード101を使用する検出センサと、参照センサ用のフォトダイオード201を使用する参照センサとの二種類のセンサを同一基板Bに作製するのである。検出センサは、前記物理・化学センサを製造する工程によって作製され、その概略は、フォトダイオード101の表面に保護膜を形成し(
図14(a))、その後、犠牲層生成工程(
図14(b))と、保護層生成工程(
図14(c))と、膜部生成工程(
図15(a))と、犠牲層除去工程(
図15(b))と、エッチング予定領域封止工程(
図15(c))とを含む各工程によって処理される。
【0117】
そこで、上記各工程に沿って、参照センサの作製方法を説明する。まず、半導体プロセスによって作製されたフォトダイオード101,201の表面に対して、シリコン酸化膜を形成して保護膜PMを設ける(
図14(a))。この保護膜PMは、後工程の犠牲層除去工程時におけるエッチングガスからフォトダイオード101を保護するためである。犠牲層生成工程では、検出センサ用のフォトダイオード101の受光面にのみ犠牲層107を形成するものであり、参照センサ用のフォトダイオード201の受光面には犠牲層が形成されないものである(
図14(b))。犠牲層107にはポリシリコンが使用され、全面にポリシリコンを堆積した後、不要な領域のポリシリコンを除去する工程は前述と同様である。なお、この犠牲層の形成と同時に複数の積層部108,208が形成され、犠牲層107の近傍に設けられる積層部108は、当該犠牲層107との間に膜部形成材料が堆積できる間隙を形成するように設けられている。
【0118】
保護層生成工程では、上記犠牲層生成工程で形成された犠牲層107の表面と、参照センサ用フォトダイオード201の受光面とを除いた領域に、シリコン酸化膜を積層して保護層109,209を形成するものである(
図14(c))。参照センサ用のフォトダイオード201の受光面にシリコン酸化膜を積層しないのは、後工程において検出センサ用のフォトダイオード101の犠牲層207を除去した後に形成される中空部を除き、両センサに積層される膜厚を同じ条件とするためである。なお、上記保護層生成工程の後に、電極形成領域に電極105,106,205,206を設ける(
図14(d))。電極を設ける場合は、電極形成領域のシリコン酸化膜をエッチングによって除去し、アルミニウムを配線するものである。
【0119】
膜部生成工程は、検出センサ用のフォトダイオード101の受光面に形成した犠牲層107の一部121,122を残し、全体に膜部構成材料を堆積させて、膜部102,202を形成するものである(
図15(a))。膜部構成材料が堆積されない部分は、エッチング予定領域として機能させるためのものであり、膜部構成材料を堆積後に除去することにより形成している。このときの膜部構成材料としては、パリレンAまたはパリレンAMを使用し、蒸着法により堆積することができる。なお、蒸着においては、前述のとおり、原料ダイマの量が調整され、膜部を任意の肉厚に形成するものであるが、検出センサ用のフォトダイオード101および参照センサ用のフォトダイオード201の双方に対して同時に同じ原料ガスが供給されることにより、両者において、凝集後に形成されるポリマー膜の膜厚を同様にすることができるものである。この工程により、参照用のセンサは完成し、残る工程により検出用のセンサを製造することとなるものである。
【0120】
犠牲層除去工程は、上記エッチング予定領域121,122を介してエッチングガスを犠牲層107に作用させて、当該犠牲層107を除去する工程である(
図15(b))。これにより、検出センサ用のフォトダイオード101の受光面と膜部102の間に中空部103を形成するものである。また、エッチング予定領域封止工程は、上記エッチング予定領域121,122に対して、フィルムレジストラミネートによって被覆部123,124を設けるものである(
図15(c))。これにより、検出用のセンサを完成させることができる。
【0121】
上記のようにして、同一基板Bに検出用のセンサと参照用のセンサとを同時に作製することによってセンシングデバイスが製造されるものである。なお、膜部102,202の表面に分子固定膜104,204を積層する場合は、上記のように完成したセンシングデバイスの表面に、さらに、分子固定能を有する材料を積層する工程(分子固定膜生成工程)を行うことができる(
図15(d))。このとき、検出用のセンサと参照用のセンサとを同一条件とするため、双方の膜部102,202に対して、同時に分子固定能を有する材料を積層させるのである。そして、分子固定能を有する材料としてパリレンAまたはパリレンAMを蒸着させるときは、双方の膜部102,202に対して、同じ原料ガスを同時に供給することにより、分子固定膜104,204の膜厚を同様に形成することができる。
【0122】
〔物理・化学現象センシングデバイスの製造方法にかかる実施形態の変形例〕
物理・化学現象センシングデバイスの製造方法においても分子固定膜生成工程を最終工程としないことができる。
図16は、犠牲層除去工程前に分子固定膜を生成する場合の製造方法を示し、
図17は、犠牲層除去工程後に分子固定膜を生成する場合の製造方法を示している。これらの図に示すように、分子固定膜生成工程において、検出用のセンサ側の膜部102に分子固定膜104を積層させる際には、同時に参照用のセンサ側の膜部202にも分子固定膜204を積層するのである(
図16(b)および
図17(c)参照)。このように両者について同時に成膜することによって、完成後の検出用および参照用の両センサは、中空部の存否のみが相違し、他の条件を同様にすることができるのである。そして、この場合の最後の工程としては、エッチング予定領域121,122を被覆して被覆部123,124を設けるエッチング予定領域封止工程とするのである(
図16(d)および
図17(d)参照)。
【0123】
なお、上述のように参照用のセンサ側に積層した膜部202および分子固定膜204をエッチング等により除去する工程を含めるものであってもよく、さらに、その後、保護膜PMを除去する工程を含めることとしてもよい。このような工程を含めることにより、参照センサ用のフォトダイオード201の受光面を露出させることができるのである。また、検出用および参照用のセンサに加えてMOSFET等の処理回路を同時に作製してもよい。この場合、
図13において図示したように、各センサの作製過程において適宜電極などを形成することによって、同時に作製することができるものである。
【0124】
〔その他の変形例〕
図18(a)は、物理・化学センサの変形例を示す図である。この図に示す変形例は、上述の物理・化学センサにかかる実施形態において、さらに、フォトダイオード1の受光面1aの表面にハーフミラー(第1の金属膜)10aを形成し、さらに、膜部2の表面にもハーフミラー(第2の金属膜)10bを形成するものである。このように、受光面1aの側および膜部2の側にハーフミラーを形成し、当該ハーフミラーによって中空部3を挟むことによって、当該中空部3における反射率が向上することとなる。従って、中空部3の内部における光の干渉の半値幅が狭くなることにより、膜部2の変位に対し、フォトダイオード側への光の透過率の変化が極端な状態となり、特定物質(分子等)の固定状態の測定を正確に行うことができることとなり得るものである。なお、この場合の膜部2の側のハーフミラー10bは物質(分子等)の固定能を有する材料を使用することにより、その表面において特定物質を固定し、その分子間力による膜部2の表面応力の変化を得ることができることとなる。また、前述したように、物理・化学センサにおいて、物質(分子等)の固定能を有する材料として金を使用する場合には、膜部2をハーフミラー(第2の金属膜)10bとして機能させることが可能である。この場合には、フォトダイオード1の受光面1aの側のみにハーフミラー10aを形成することにより、同種の効果を得ることが可能となる。
【0125】
また、
図18(b)に示すように、膜部2の表面にのみハーフミラー(第2の金属膜)10bを形成した形態もあり得る。このような形態においても、膜部2を透過した光が膜部2の表面に設けたハーフミラー10bによって反射される得ることとなるから、中空部3bにおける反射率を向上させることができる。従って、ハーフミラー10bを設けない形態に比較すれば、上記形態においても、中空部3の内部における光の干渉の半値幅が狭くなり、膜部2の変位に対し、フォトダイオード側への光の透過率の変化を顕著にし、より正確に特定物質(分子等)の固定状態の測定を可能し得るものである。なお、この形態において、膜部2が物質(分子等)の固定能を有する場合(少なくとも膜部2の表面が固定能を有する場合)であって、金などの貴金属を使用する場合には、膜部2とハーフミラー(第2の金属膜)10bが一体的に形成される状態となり得るものである。
【0126】
さらに、
図19(a)は、上記の変形例(
図18(a)参照)の一部をさらに変形したものを示す図である。この図に示すように、この変形例は、膜部2と分子固定膜4との中間にハーフミラー(第2の金属膜)10bを形成するものである。これは、分子固定膜4により固定させるべき物質(分子等)が貴金属(金または銀など)に固定しない場合において、膜部2の側にハーフミラー10bを形成し、分子固定膜4による特定物質の固定能を発揮させるように構成したものである。このように、膜部2と分子固定膜4との間にハーフミラー10bを形成することにより、分子固定膜4による十分な分子固定能を有しつつ、上記と同様に中空部3の内部における光の反射率を向上させることができるのである。この変形例において、膜部2の側に形成されるハーフミラー10bは、金、銀または銅等の金属材料を成膜することによって形成される金属膜によるものであり、当該金属膜を薄膜化することにより、好適な光の透過率および反射率を得ることが可能となる。この場合、ハーフミラー10bの膜厚によって光の透過率を調整することとなる。
【0127】
上記のような変形例においても、膜部2の側にのみハーフミラー(第2の金属膜)10bを形成した構成とすることも可能である。
図19(b)にその一例を示す。この図に示す形態は、膜部2と分子固定膜4の中間にハーフミラー(第2の金属膜)10bを積層したものである。このように、膜部2の側にのみハーフミラー10bを形成する場合であっても、膜部2を透過した光が中空部3の内部における反射率が向上することから、中空部3の内部における光の干渉の半値幅を一層狭くすることができるのである。
【0128】
なお、上述した変形例において、フォトダイオード1の受光面1aの表面にハーフミラー(第1の金属膜)10aを形成する場合(
図19(a)参照)、エッチングガスから受光面1aを保護する目的で積層した保護膜PMの表面に、当該ハーフミラー10aを形成する形態を図示しているが、この保護膜PMを設けない構成としてもよい。
【0129】
すなわち、
図20(a)に示すように、保護膜PMを設けずに、または保護膜PMを除去した後に、フォトダイオード1の受光面1aにハーフミラー(第1の金属膜)10aを形成するのである。このような構成においては、ハーフミラーとして成膜した第1の金属膜10bが、エッチングガスに対する保護膜として機能させることができるとともに、複数の層が積層されることによる光の透過特性の変化を抑えることができるのである。
【0130】
また、さらなる変更例として、膜部2に積層される分子固定膜4の表面にハーフミラー(第2の金属膜)10bを形成することも可能である。この場合には、分子固定膜4の全体(膜部2に積層される範囲の全体)にハーフミラー10bを形成するのではなく、分子固定膜4の一部(膜部2に積層される分子固定膜4のほぼ中央の適宜範囲)にハーフミラー10bを形成するのである。この状態を
図20(b)に示す。図示のように、膜部2に積層される分子固定膜4の中央付近にハーフミラー10bを設ける構成の場合には、分子固定膜4に固定され得る分子は、ハーフミラー10bを除く範囲において固定されることとなる。そして、分子が固定された場合に膜部2が撓む状態は、ハーフミラー10bを設けない場合に比較して大きく異ならないものとすることができるのである。すなわち、当該膜部2が撓む場合には、その周辺が大きく変形することとなるが、中央付近の変形量が小さいことから、この中央付近の金属膜(ハーフミラー10b)が仮に変形しないことがあるとしても、膜部2の撓み状態が大きく異なることはないのである。なお、図に示すように、分子固定膜4の一部にハーフミラー10bを形成する場合には、入射する光のスポットサイズを絞ることにより、ハーフミラー10bが形成されている範囲で光の反射率を向上させることができるものである。
【0131】
なお、フォトダイオード1の受光面1aの側にハーフミラー(第1の金属膜)10aを形成するための製造工程としては、犠牲層7(
図9)を生成する前工程として金属膜構成材料をスパッタ法または蒸着法により、フォトダイオード1の受光面1aの表面(または保護膜PMの表面)に金属膜を形成する方法がある。このとき、受光面1aに保護膜PMを設けない構成(
図20(a)および(b)参照)とする場合には、所定の半導体プロセスにより作製されたフォトダイオード1の表面のシリコン酸化膜を除去した後に、第1の金属膜10aを積層することとなる。また、膜部2の側にハーフミラー(第2の金属膜)10bを形成する場合は、上述のような膜部形成工程または分子固定膜生成工程の後に、第2の金属膜を生成する第2の金属膜生成工程を実施することによることができる。
【0132】
また、上記に代えて、貼り合わせ技術によってハーフミラー10aを有する物理・化学センサを製造する方法がある。この概略を
図21に示す。
図21(a)に示すように、フォトダイオード1には、犠牲層を設けずに、中空部が形成されるべき領域の周囲に境界部31を設け、当該領域に凹部30を形成し、他方、必要に応じてハーフミラー10bおよび分子固定膜4が積層された膜部2を形成しておき、この膜部2を境界部31に貼り合わせるのである。
【0133】
このような貼り合わせの結果、
図21(b)に示すように、ファブリペロー共振器が構成されることとなる。また、フォトダイオード1に形成した凹部30は、境界部31と膜部2によって包囲され、前述の中空部3と同様の構成となる。このような製造方法によれば、犠牲層7のエッチング工程を省略することができることから、当該犠牲層7をエッチングする際に、エッチングガスによって金属膜10aに不純物が混入すること(コンタミネーション)を防ぐことができる。なお、犠牲層7をエッチングする方法においても、金属膜10aの表面に透明な保護膜を積層するなどによれば、コンタミネーションは防止し得るものである。
【0134】
図22は、物理・化学現象センシングデバイスの変形例を示す図である。これらは、上述した物理・化学センサの変形例を使用するものであり、いずれも検出センサ300の受光面301aの側にハーフミラー(第1の金属膜)310aが形成されたものであって、
図22(a)は、膜部302の表面にハーフミラー(第2の金属膜)310bを形成した形態であり、
図22(b)は、膜部302と分子固定膜304との中間にハーフミラー310bを形成した形態であり、
図22(c)は、分子固定膜304の表面の一部にハーフミラー310bを形成した形態である。これらの図に示されているように、検出センサ300にのみハーフミラー310a,310bを形成するものである。このように、検出センサ300にハーフミラー310a,310bが形成されることにより、検出センサ300における中空部303における反射率が向上し、特定物質(分子等)の固定状態を高感度に検出できることとなるのである。他方、参照センサ400はハーフミラーを形成していないので、光の透過特性を変更することなく、透過光の状態を把握することができる。
【0135】
なお、
図22の変形例には、検出センサ300の受光面301aにハーフミラー310aを形成したものだけを例示しているが、膜部302の側にのみハーフミラー310bを形成した形態もあり得る。また、参照センサ400の受光面401aには、保護膜PMおよび膜部402を積層したもの(
図22(a)参照)、ならびに、これらに分子固定膜304を積層したもの(
図22(b),(c)参照)を例示したが、参照センサ400は、前述のように各膜を除去し、受光面401aを露出した状態(
図7参照)とした形態もあり得る。これらは、検査すべき特定物質(分子等)の種類や量に応じて適宜選択すればよい。
【0136】
上記のような物理・化学現象センシングデバイスの変形例(
図22)を製造する場合には、前述した製造方法の実施形態における検出用センサのフォトダイオードの製造過程において、金属膜の生成工程を行うことによることができる。すなわち、犠牲層生成工程により犠牲層が設けられる前工程として、第1の金属膜を生成する第1の金属膜生成工程を実施することにより、第1の金属膜が積層され、また、膜部形成工程または分子固定膜生成工程の後に、第2の金属膜を生成する第2の金属膜生成工程を実施することにより、第2の金属膜が積層されることとなる。そして、このような製造方法に代えて、検出センサ300については、上記のように、貼り合わせ技術によって製造する方法がある。
【0137】
上記のような第1および/または第2の金属膜生成工程では、ハーフミラーに適する金属がスパッタ法または蒸着法により堆積して成膜されるものであり、使用する金属材料としては、金、銀または銅を使用することができる。また、成膜される金属膜の膜厚は、光の透過率および反射率を考慮して決定されることとなるが、30nm程度の薄膜状態により、適度な反射効率を得ることができる。
【0138】
本願における各発明の実施形態および変形例は以上のとおりであるが、これらは一例であってこれらに限定されるものではない。特に、膜部2または分子固定膜4を形成する材料は、パリレンに限定されるものではなく、さらに、前掲の貴金属に限定されるものでもない。要するに、光透過性および可撓性を有する材料であれば、前掲の材料以外のものを使用できることはいうまでもない。この場合、堆積法またはスパッタ法もしくは蒸着法により、犠牲層7の表面に積層できるものであることが好ましい。
【実施例】
【0139】
次に、物理・化学センサの具体的な実施例について説明する。
【0140】
〔実施例1〕
前記物理・化学センサの製造方法にかかる発明の第1の実施形態に基づき、物理・化学センサを作製した。本実施例では、最後の工程として、分子固定膜生成工程を設け、タンパク質を検出するためのタンパク質センサを作製している。また、犠牲層7としてポリシリコンを使用し、肉厚300nmの膜状に形成した。さらに、その表面に直径150μmのパリレンNによる膜部2を形成し、エッチング予定領域としては、膜部2の周辺部に4箇所設けた。膜部2の肉厚を350nmとした。ドライエッチングにより犠牲層7をエッチングにより除去した。なお、抗体固定膜としては、パリレンAMを蒸着法により積層した。
【0141】
上記により作製したタンパク質センサの表面の状態を
図23(a)に示し、断面のSEM写真を
図23(b)に示す。
図23(a)において「Etching hole」とあるのは、エッチング予定領域21,22を意味し、「Resist」とあるのは、被覆部23,24を示す。また、
図23(b)において「Air gap」とあるのは中空部3を示し、「Parylene−N」とあるのは、パリレンNで形成した膜部2を意味する。この図から明らかなとおり、センサ中央には膜部2が形成されており、また、フォトダイオードの表面と膜部との間に適宜距離を有した中空部が形成されていることは判明した。
【0142】
そこで、このように作製されるタンパク質センサについて、中空部3の空間距離(フォトダイオード側の表面から膜部2までの距離)の変化、すなわち、膜部2が撓むことにより上記空間距離が変化した場合について光の強度変化について、膜部2に分子固定膜4を積層したファブリペロー共振器の透過率をシミュレーションした。この結果を
図24(a)に示す。なお、このときの膜部2の肉厚は800nmとしており、図中「x」は空間距離の変化量を示す。この図に示すように、同じ波長の光であっても、空間距離が変化することによってフォトダイオードに到達する光の強度が変化するのである。また、特に、波長600nmの光に限定して、理想的な膜厚における空間距離の変化に対する光の強度をシミュレーションした。その結果を
図24(b)に示す。この図に示すように、特定波長(600nm)の光の強度は、空間距離によって変化するものである。また、フォトダイオードにより発生する電流値を分子間力に換算すると、
図24(c)に示すようにダイオード電流の変化に応じて表面応力の変化を計ることができる。なお、
図24(c)中の「t」は膜部2の膜厚を示す。
【0143】
上記から、膜部2を介して特定波長の光をフォトダイオードに照射する場合、膜部2が撓むことによりフォトダイオードに到達する特定波長の光の強度は変化し、その変化により、当然にダイオード電流も変化することから、そのダイオード電流の変化を膜部2の肉厚を考慮しつつ膜部2の表面応力に換算可能であり、その表面応力の変化は、すなわち、膜部2に付着したタンパク質の分子間力の変化である。従って、特定波長の強度をフォトダイオードで検出することにより、膜部2の撓み量(空間距離の変化量)を把握し、分子間力に換算し得るのである。
【0144】
〔実験例1〕
次に、上記実施例に記載の製造方法により作製したタンパク質センサを使用し、膜部2の撓み状態の検出について実験した。実験方法は、抗体固定膜4の表面に何も固定しない状態、生理食塩水で洗浄した状態、および、抗体固定膜4にウシ血清アルブミン(Bovine Serum Albumin:BSA)抗体を固定した状態の3形態について、フォトダイオードへ逆バイアス電圧を印加した時の光電流値の変化を測定した。具体的には、センサ表面を生理食塩水(リン酸緩衝生理食塩水、Phosphate Buffered Saline:PBS)で洗浄した後、BSA抗体を滴下し、37°Cの環境下で乾燥させ、再度PBSで洗浄した後乾燥させた。このとき、抗体固定膜4としてはパリレンAMを使用していることから、BSA抗体はパリレンAMのアミノ基と電気的に結合し、抗体固定膜4に固定されることとなる。なお、念のために、蛍光修飾したBSA抗体を使用し蛍光顕微鏡で確認したところ、BSA抗体が存在することを確認することができた。
【0145】
そこで、BSA抗体の滴下前と、BSA抗体の滴下後のセンサ表面を光学顕微鏡で観察したところ、BSA抗体を滴下する前は青色であった表面が、BAS抗体を滴下したのちは赤色に変化した。また、特定波長(600nm)の光を照射する1nWの光源を用いた場合のフォトダイオードの光電流について測定したところ、BSA抗体の滴下前後で変化があった。その測定値を
図25に示す。なお、図中「Nothing」は初期状態、「PBS」は生理食塩水で洗浄した状態、「PBS+anti−BSA」は生理食塩水での洗浄後にBSA抗体を滴下した状態を、それぞれ意味するものである。この図に示すように、生理食塩水による洗浄前、洗浄後では、光電流に変化はなかったが、BSA抗体の滴下後は、約23.7nAの電流変化が見られた。従って、BSA抗体による分子間力の変化をフォトダイオードによる光電流の変化として測定することができることが判明した。
【0146】
なお、上記実験例では、BSA抗体をセンサに滴下した時の前後の状態を観察したが、このBSA抗体にBSAが結合した場合も同様に膜部2の変化を測定することができる。つまり、抗体および抗原はタンパク質の一種であり、特定のタンパク質が膜部2の表面(詳細には抗体固定膜4の表面)に固定されることにより、分子間力が作用して膜部2の表面応力が変化するのであるから、この抗体に抗原が結合すれば、さらに、分子間力が強く作用することとなるから、同様の現象が発生するのである。また、上記により、人体から採取した体液を使用して、特定の疾患に罹患しているか否かを判断する際に利用できることが判明した。
【0147】
〔実施例2〕
次に、物理・化学現象センシングデバイスの具体的な実施例について説明する。前記物理・化学現象センシングデバイスにかかる発明の第1の実施形態に基づき、センシングデバイスを作製した。本実施例においても、最後の工程として、分子固定膜生成工程を設け、検出用のセンサはタンパク質を検出するためのタンパク質センサを作製している。検出用のセンサを作製するための犠牲層にはポリシリコンを使用し、肉厚300nmの膜状に形成し、その表面に直径200μmのパリレンCによる膜部を形成した。エッチング予定領域としては、膜部の周辺部の4箇所に微細な孔を複数形成した。膜部の肉厚は360nmとし、ドライエッチングにより犠牲層を除去した。なお、抗体固定膜としては、パリレンAMを蒸着法により積層した。参照用のセンサは、検出用のセンサと同様に、膜厚360nmのパリレンCを成膜し、その後パリレンAMを積層した。
図26は、パリレンCを成膜した後(エッチング予定領域を被覆する前)の状態を光学顕微鏡により撮影した写真である。図中「MEMS Protein Sensor」とあるのは、タンパク質を検出するための検出用センサを示す。また、「Released parylene−C membrane」および「Fixed parylene」とあるのは、いずれもパリレンCを蒸着して成膜した部分であり、「Etching holes」とあるのは、微細に形成した複数のエッチング予定領域であり、「Al」は電極である。この図に示されているように、検出用のセンサが形成される領域と、参照用のセンサが形成される領域とが、同一基板上に並列に設けられており、その後、エッチング予定領域を被覆し、パリレンAMを蒸着することにより前述のセンシングデバイスが形成され得るものである。
【0148】
〔実験例2〕
次に、上記実施例で示した物理・化学現象センシングデバイスを使用し、参照用のセンサについての光透過率の変化を実験した。実験方法は、抗体固定膜の表面に何も固定しない状態、および、抗体固定膜にBSA抗体を固定した状態の2形態(両形態は検出用のセンサに使用した場合と同じ)について、フォトダイオードへ逆バイアス電圧を印加した時の光電流値の変化を測定した。また、特定波長(780nm)の光を照射する400μW/cm
2の出力の光源を用いた場合のフォトダイオードの暗電流および光電流についてBSA抗体の滴下前後の値を測定した。この測定結果を
図27に示す。なお、図中「Nothing」は初期状態、「PBS+anti−BSA」は生理食塩水での洗浄後にBSA抗体を滴下した状態を、それぞれ意味するものである。また、この図中の「Darkcurrent」は暗電流を、「Photocurrent」は光電流を示すが、暗電流および光電流のグラフは、BSA抗体滴下の前後の状態が重ねて表示されている。
【0149】
この図に示される実験結果から明らかなとおり、参照用のセンサでは、暗電流および光電流は、BSA抗体滴下の前後で変化しなかった(図中のグラフは重なっている)。これは、BSA抗体の滴下により、膜部にBSA抗体(タンパク質)が固定された状態においても、光の透過率が変化しないことを示すものである。従って、不透明な気体または液体が滴下され、参照用のセンサによる測定値が変化する場合には、当該差分が不透明な気体または液体による光透過率の変化と判断することができるものである。
【0150】
〔実施例3〕
さらに、検査用センサおよび参照センサを複数整列してなるセンサアレイと、さらに、ソースフォロア回路、デコーダおよびセレクタを単一基板上に形成してなるチップを作製した。
図28は、その表面の状態を光学顕微鏡により撮影した写真である。なお、図中「MEMS protein sensor」とした領域は、タンパク質を検出するための検出用センサを4列に各3個整列させたアレイ部を示し、「Reference photo detector」とした領域は、参照センサを4列に各1個整列させたアレイ部を示す。この図に示すように、5mm×5mmの単一基板の表面には、縦横4×4個の合計16個のセンサを整列して作製されている。また、そのセンサのうち4個(各縦列の1個)を参照センサとすることができた。そして、1個のデコーダと4個のセレクタにより選択回路が形成され、個々のセンサの出力値がソースフォロア回路を経て出力されるように作製されている。このように微細なチップによって、複数の物質(分子)の吸着を同時に検出することが可能となり、参照センサによる光透過率の変化についても参照することが可能となった。
【0151】
〔解析例1〕
次に、ハーフミラーを形成した場合の物理・化学センサにおける光の透過率の変化について解析した。解析に使用したセンサは、
図18(b)に示す形態であり、膜部2の表面に金属膜10bを成膜し、光の透過率を測定した。なお、この解析例では、フォトダイオードの受光面側には金属膜を設けないものとし、受光膜表面のシリコン酸化膜の膜厚を400nm、中空層を500nmとし、膜部(パリレンC)を500nmとしたものであり、当該膜部の表面に膜厚を変化させながらアルミニウムを積層する場合と、銀を積層する場合とについて透過光を測定した。この解析結果を
図29に示す。
【0152】
この図に示されるように、アルミニウムを成膜した形態(
図29(a)参照)では、光の干渉波長の半値幅は狭くなることが判明したが、10nmの膜厚で積層した場合であっても透過光が極端に減少している結果となった。これに対し、銀を積層した形態(
図29(b)参照)では、いずれも干渉波長の半値幅が狭くなっており、また、膜厚が大きくなるにつれて透過光の強度は減少しているが、10nm〜40nmの範囲において、十分に検出可能な結果となった。
【0153】
〔解析例2〕
さらに、上記解析例1の結果に付加して膜部2の撓みについて解析した。この解析では、同様の構成のセンサについて、ハーフミラー(金属膜)として銀を30nmの膜厚で積層した場合の膜部の撓み(変位)と光の透過率の状態を測定した。その結果を
図30(a)に示す。なお、参考のために、
図30(b)には、ハーフミラー(金属膜)を設けていないセンサについて、同様の測定結果を示している。
【0154】
上記結果から明らかなとおり、ハーフミラー(金属膜)を形成したセンサの場合には、膜部の変位に対する透過率の変化が顕著であった。これは、中空部内(ファブリペロー共振器内)における光の反射率が向上したことによるものと判断される。
【0155】
〔解析例3〕
最後に、ハーフミラー(金属膜)を膜部の表面のみに形成した場合(上記解析例1の形態)と、フォトダイオード側にも形成した場合(
図18(a)に示す形態)との透過率について解析した。なお、いずれのハーフミラー(金属層)についても、銀を使用した場合と、金を使用した場合とで解析を行った。また、光源の波長は780nmとし、各金属層の膜厚については10nmごとに変化させ、形成されていないもの(図中0nm)から40nmまでについて行った。その結果を
図31に示す。図の横軸はハーフミラーの膜厚を示し、縦軸は膜部が50nmに変位したときの透過率の変化を示している。なお、図中「Ag」とあるのは、銀によるハーフミラーを膜部側にのみ設けた場合を意味し、「Ag/Ag」とはるのは、膜部側およびフォトダイオード側の双方に銀のハーフミラーを設けた場合を意味する。また、「Au」とあるのは、膜部側にのみ金のハーフミラーを設けた場合を意味し、「Au/Au」とはるのは、膜部側およびフォトダイオード側の双方に金のハーフミラーを設けた場合を意味する。
【0156】
この図に示されているように、銀のみならず金を使用した場合においても光の透過率は、20nm以上の膜厚に形成することにより、光の透過率は向上することが判明した。さらに、膜部側にのみハーフミラーを設ける場合に比較して、フォトダイオード側にもハーフミラーを設けた場合が、大きく透過率が向上することが判明した。また、上記のような金および銀の解析結果からも判断できるように、ハーフミラーとして使用される金属材料は、透光性および光反射率が適度なもの、すなわち吸光係数の低いものを選択すればよく、銅なども使用でき得るものである。
【0157】
以上のとおりであるから、本願は下記の発明を開示するものである。
〔物理化学センサについて〕
(1)受光素子の受光面の表面に、中空部を形成しつつ該受光面に対向して設けられた膜部を備え、前記膜部は、光透過性および可撓性を有し、前記受光面の表面とでファブリペロー共振器を形成するとともに、少なくとも外側表面に物質固定能を有している膜部であることを特徴とする物理・化学センサ。
(2)受光素子の受光面の表面に中空部を形成しつつ、該受光面に対向して設けられた膜部と、前記膜部の外側表面に積層され、気体または液体に含まれる分子を固定する分子固定膜とを備え、前記膜部は、光透過性および可撓性を有し、前記受光面の表面とともにファブリペロー共振器を形成する膜部であることを特徴とする物理・化学センサ。
(3)前記分子固定膜は、特定のガスに含まれる分子を固定する分子固定膜であることを特徴とする上記(2)に記載の物理・化学センサ。
(4)前記分子固定膜は、生体高分子を固定する生体高分子固定膜であることを特徴とする上記(2)に記載の物理・化学センサ。
(5)前記分子固定膜は、抗体を固定する抗体固定膜であることを特徴とする上記(2)に記載の物理・化学センサ。
(6)前記抗体固定膜は、アミノ基を有する材料で構成された抗体固定膜であることを特徴とする上記(5)に記載の物理・化学センサ。
(7)前記膜部がパリレンCまたはパリレンNで構成され、前記抗体固定膜がパリレンAMで構成されてなることを特徴とする上記(6)に記載の物理・化学センサ。
(8)上記(1)〜(7)において、さらに、前記膜部または分子固定膜もしくは抗体固定膜の表面の一部または全部に積層された金属膜を備えることを特徴とする物理・化学センサ。
(9)上記(1)〜(6)において、さらに、前記受光素子の受光面に積層された金属膜を備えることを特徴とする物理・化学センサ。
(10)前記受光素子がフォトダイオードであることを特徴とする上記(1)〜(9)のいずれかに記載の物理・化学センサ。
(11)前記中空部は、少なくとも前記膜部の側において気密的または水密的に遮断されて形成されていることを特徴とする上記(1)〜(10)のいずれかに記載の物理・化学センサ。
【0158】
〔センサアレイについて〕
(12)上記(1)〜(11)のいずれかに記載の物理・化学センサを使用するセンサアレイであって、前記物理・化学センサを同一基板上に複数形成してなることを特徴とするセンサアレイ。
(13)上記(12)において、さらに、前記基板は、前記物理・化学センサにより検出される信号を処理する処理回路を備えていることを特徴とするセンサアレイ。
(14)上記(13)において、さらに、前記基板は、複数の前記物理・化学センサに対し選択的に信号を入力する選択回路を備えていることを特徴とするセンサアレイ。
【0159】
〔物理・化学現象センシングデバイスについて〕
(15)上記(1)〜(11)のいずれかに記載の物理・化学センサを使用する物理・化学現象センシングデバイスであって、前記物理・化学センサと、参照センサとを備え、前記参照センサは、前記物理・化学センサに使用される受光素子と同種の受光素子を使用し、その受光面を露出してなる構成とした参照センサであることを特徴とする物理・化学現象センシングデバイス。
(16)上記(1)〜(11)のいずれかに記載の物理・化学センサを使用する物理・化学現象センシングデバイスであって、前記物理・化学センサと、参照センサとを備え、前記参照センサは、前記物理・化学センサに使用される受光素子と同種の受光素子の受光面の表面に、前記物理・化学センサに使用される膜部と同種の膜部を、中空部を形成することなく設けられた参照センサであることを特徴とする物理・化学現象センシングデバイス。
(17)前記物理・化学センサおよび前記参照センサは、同一基板上に形成されていることを特徴とする上記(15)または(16)に記載の物理・化学現象センシングデバイス。
(18)前記受光素子がフォトダイオードであることを特徴とする上記(15)〜(17)のいずれかに記載の物理・化学現象センシングデバイス。
(19)同一基板上に複数の前記物理・化学センサおよび前記参照センサを1次元的または2次元的に整列してなるセンサアレイを形成する上記(15)〜(18)のいずれかに記載の物理・化学現象センシングデバイスであって、前記物理・化学センサにより検出される信号を処理する処理回路を備えたことを特徴とする物理・化学現象センシングデバイス。
(20)上記(19)において、さらに、前記センサアレイを形成する物理・化学センサおよび参照センサのうちいずれかに対し選択的に信号を入力する選択回路を備えていることを特徴とする物理・化学センシングデバイス。
【0160】
〔物理・化学センサの製造方法について〕
(21)受光素子の受光面に、エッチング可能材料を堆積して犠牲層を生成する犠牲層生成工程と、前記犠牲層の表面を除く領域に保護層を積層する保護層生成工程と、前記犠牲層の表面のうち、エッチング予定領域を除く膜部構成領域に膜部構成材料を堆積して膜部を生成する膜部生成工程と、前記エッチング予定領域を介して犠牲層をエッチングする犠牲層除去工程と、前記エッチング予定領域を被覆するエッチング予定領域封止工程と
を含むことを特徴とする物理・化学センサの製造方法。
(22)前記受光素子の受光面に、第1の金属膜構成材料を堆積して第1の金属膜を生成する第1の金属膜生成工程をさらに含み、前記犠牲層生成工程は、前記第1の金属膜構成材料の表面に犠牲層を生成する工程であることを特徴とする上記(14)に記載の物理・化学センサの製造方法。
(23)前記第1の金属膜生成工程は、金属膜構成材料をスパッタ法または蒸着法により前記第1の金属膜構成材料を堆積するものであることを特徴とする上記(15)に記載の物理・化学センサの製造方法。
(24)上記(21)に記載の物理・化学センサの製造方法において、さらに、前記膜部構成材料の表面に分子固定材料を積層する分子固定膜生成工程を含むことを特徴とする物理・化学センサの製造方法。
(25)上記(21)〜(24)のいずれかに記載の物理・化学センサの製造方法において、さらに、前記膜部構成材料または分子固定材料の表面の一部または全部に第2の金属膜構成材料を堆積して第2の金属膜を生成する第2の金属膜生成工程を含むことを特徴とする物理・化学センサの製造方法。
(26)前記第2の金属膜生成工程は、金属膜構成材料をスパッタ法または蒸着法により前記第2の金属膜構成材料を堆積するものであることを特徴とする上記(25)に記載の物理・化学センサの製造方法。
(27)前記分子固定材料を積層する工程は、前記膜部構成材料または第2の金属膜構成材料の表面に生体高分子固定材料を積層する生体高分子固定膜生成工程であることを特徴とする上記(24)〜(26)のいずれかに記載の物理・化学センサの製造方法。
(28)前記分子固定材料を積層する工程は、前記膜部構成材料または第2の金属膜構成材料の表面に抗体固定材料を積層する抗体固定膜生成工程であることを特徴とする上記(24)〜(26)のいずれかに記載の物理・化学センサの製造方法。
(29)前記膜部構成材料を堆積する工程は、パリレンNまたはパリレンCを蒸着させる工程であることを特徴とする上記(28)に記載の物理・化学センサの製造方法。
(30)前記分子固定膜生成工程は、パリレンAまたはパリレンAMを蒸着させる工程であることを特徴とする上記(28)または(29)に記載の物理・化学センサの製造方法。
(31)前記受光素子は、半導体作製プロセスにより作製されたフォトダイオードであることを特徴とする上記(21)〜(30)のいずれかに記載の物理・化学センサの製造方法。
【0161】
〔物理・化学現象センシングデバイスの製造方法について〕
(32) 同一基板上に作製された複数の受光素子を検出センサ用および参照センサ用の二種類に区分し、検出センサ用の受光素子の受光面に、エッチング可能材料を堆積して犠牲層を生成する犠牲層生成工程と、前記犠牲層の表面および前記参照センサ用の受光素子の受光面を除く領域に、保護層を積層する保護層生成工程と、前記犠牲層の表面のうち、エッチング予定領域を除く膜部構成領域、および、前記参照センサ用の受光素子の受光面に、膜部構成材料を堆積して膜部を生成する膜部生成工程と、前記エッチング予定領域を介して犠牲層をエッチングする犠牲層除去工程と、前記エッチング予定領域を被覆するエッチング予定領域封止工程とを含むことを特徴とする物理・化学現象センシングデバイスの製造方法。
(33) 前記検出センサ用の受光素子の受光面に、第1の金属膜構成材料を堆積して第1の金属膜を生成する第1の金属膜生成工程をさらに含み、前記犠牲層生成工程は、検出センサ用の受光素子の受光面に堆積した前記第1の金属膜構成材料の表面に犠牲層を生成する工程であることを特徴とする上記(32)に記載の物理・化学現象センシングデバイスの製造方法。
(34) 前記第1の金属膜生成工程は、金属膜構成材料をスパッタ法または蒸着法により前記第1の金属膜構成材料を堆積するものであることを特徴とする上記(33)に記載の物理・化学現象センシングデバイスの製造方法。
(35) 上記(32)に記載の物理・化学現象センシングデバイスの製造方法において、さらに、前記膜部構成材料の表面に分子固定材料を積層する分子固定膜生成工程を含むことを特徴とする物理・化学現象センシングデバイスの製造方法。
(36) 上記(32)〜(35)のいずれかに記載の物理・化学現象センシングデバイスの製造方法において、さらに、前記検出センサ用の受光素子に生成させた前記膜部または分子固定膜の表面の一部または全部に第2の金属膜構成材料を堆積して第2の金属膜を生成する第2の金属膜生成工程を含むことを特徴とする物理・化学現象センシングデバイスの製造方法。
(37) 前記第2の金属膜生成工程は、金属膜構成材料をスパッタ法または蒸着法により前記第2の金属膜構成材料を堆積するものであることを特徴とする上記(36)に記載の物理・化学現象センシングデバイスの製造方法。
(38) 前記分子固定材料を積層する工程は、前記膜部構成材料または第2の金属膜生成材料の表面に生体高分子固定材料を積層する生体高分子固定膜生成工程であることを特徴とする上記(35)〜(37)のいずれかに記載の物理・化学現象センシングデバイスの製造方法。
(39) 前記分子固定材料を積層する工程は、前記膜部構成材料または第2の金属膜生成材料の表面に抗体固定材料を積層する抗体固定膜生成工程であることを特徴とする上記(35)〜(37)のいずれかに記載の物理・化学現象センシングデバイスの製造方法。
(40) 上記(35)〜(39)のいずれかに記載の物理・化学現象センシングデバイスの製造方法において、さらに、前記参照センサ用の受光素子の受光面に堆積または積層した前記膜部構成材料および分子固定材料を除去する工程を含むことを特徴とする物理・化学現象センシングデバイスの製造方法。
(41) 前記膜部構成材料を堆積する工程は、パリレンNまたはパリレンCを蒸着させる工程であることを特徴とする上記(39)または(40)に記載の物理・化学現象センシングデバイスの製造方法。
(42) 前記分子固定膜生成工程は、パリレンAまたはパリレンAMを蒸着させる工程であることを特徴とする上記(39)〜(41)のいずれかに記載の物理・化学現象センシングデバイスの製造方法。
(43) 前記受光素子は、半導体作製プロセスにより作製されたフォトダイオードであることを特徴とする上記(32)〜(42)のいずれかに記載の物理・化学現象センシングデバイスの製造方法。