(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
締結部品に対する締付力が所定値に達したときにトグル機構が動作するとともに、前記締結部品又は該締結部品と螺合する被締結部品の少なくとも一方にスタンプによって自動的にマーキングを行うマーキングトルクレンチであって、
前記締結部品の回転軸方向の両側を開放した状態で該締結部品の側面と係合する係合凹部が形成された前側のヘッド部材と、前記係合凹部の後方で前記ヘッド部材に連結軸を介して連結された後側のレンチ本体とを有し、前記締結部品に対して前記レンチ本体から入力される締付力が所定値に達したときに、前記トグル機構が動作して前記レンチ本体が前記ヘッド部材に対して前記連結軸を中心として傾動するトルクレンチと、
前記ヘッド部材から突出して前記連結軸と略平行に延びる駆動ピンと、
前記係合凹部の後方近傍の前端開口と前記係合凹部から離間した後端開口との間で前後方向に直線状に延びるマーキング部材挿通孔を有し、前記駆動ピンとの干渉を回避した状態で前記レンチ本体に支持されるベース部材と、
前記マーキング部材挿通孔の前記後端開口側に収容された状態で該マーキング部材挿通孔に対して前後方向にスライド移動自在に支持される従動側磁石と、
前記従動側磁石の前後方向のスライド移動範囲を前進位置と該前進位置よりも後方の後退位置との間に規制する規制手段と、
前記前端開口から挿入されて前記マーキング部材挿通孔に前後方向にスライド移動自在に支持される棒状体であり、前記マーキング部材挿通孔を挿通した状態で、前端部にインクを保持するスタンプ先端を有するとともに、後端部に磁性体を有し、前記従動側磁石の磁力によって該従動側磁石に前記磁性体が着脱自在に保持されるマーキング部材と、
前記従動側磁石と前記ベース部材との間に設けられ、前記従動側磁石を前記後退位置へ付勢する付勢手段と、
前記連結軸と略平行に延びるピボット軸を中心として前記レンチ本体に対して回転自在に支持される支持部と、駆動側磁石が固定された磁石固定部と、前記駆動ピンが挿通する駆動ピン挿通孔とを一体的に有し、前記レンチ本体に対する前記ピボット軸を中心とした回転位置が前記駆動ピンと前記駆動ピン挿通孔との係合によって規定されるリンクアームと、を備え、
前記従動側磁石の後面は、前記駆動側磁石の前面と同極であり、
前記駆動ピンと前記駆動ピン挿通孔との係合は、前記トグル機構が動作しない初期状態では、前記駆動側磁石の前面が前記従動側磁石の後面からずれた初期位置に前記リンクアームの回転位置を規定し、前記トグル機構が動作して前記レンチ本体が前記ヘッド部材に対して傾動すると、前記駆動側磁石の前面が前記後退位置の前記従動側磁石の後面に後方から正対する作動位置へ前記リンクアームを前記初期位置から回転させる
ことを特徴とするマーキングトルクレンチ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の実施形態1及び特許文献2の構造は、第1及び第2の横リンクと縦リンクとブッシュとリンク戻しバネとが必要であり、部品点数が多く、構造の複雑化及びコストの上昇を招く。
【0008】
また、特許文献1の実施形態2の構造は、トグル機構が開放された際のリンクアームの初期位置への復帰を巻きバネの付勢力によって行っているため、巻きバネの付勢力が低下すると、リンクアームが初期位置へ復帰せず、インクカートリッジが前進したまま後退しない可能性が生じる。
【0009】
また、特許文献1及び特許文献2の構造は、インクカートリッジの交換を行う場合、インクカートリッジの肩部の前方にスタンプ押し戻しバネが配置されているので、インクカートリッジを後方へ引き抜く。インクカートリッジを後方へ引き抜くと、スタンプ部がスタンプホルダ内を通過するので、スタンプホルダ内や他の部品にインクが付着し易く、トルクレンチが汚れたり、付着して固まったインクがトルクレンチの動作不良を招いたりするおそれがある。このため、周囲の部品等に注意をしながら交換作業をする必要がある。
【0010】
そこで、本発明は、部品点数の増大を抑制した簡単な構造であり、トグル機構が開放された際にインクカートリッジを確実に後退位置に戻すことができ、且つインクカートリッジの着脱の際の作業性を向上させることが可能なマーキングトルクレンチの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、締結部品に対する締付力が所定値に達したときにトグル機構が動作するとともに、締結部品又は締結部品と螺合する被締結部品の少なくとも一方にスタンプによって自動的にマーキングを行うマーキングトルクレンチであって、
トルクレンチと、駆動ピンと、ベース部材と、従動側磁石と、規制手段と、マーキング部材(インクカートリッジ)と、付勢手段と、リンクアームとを備える。
【0012】
トルクレンチは、締結部品の回転軸方向の両側を開放した状態で締結部品の側面と係合する係合凹部が形成された前側のヘッド部材と、係合凹部の後方でヘッド部材に連結軸を介して連結された後側のレンチ本体とを有する。締結部品に対してレンチ本体から入力される締付力が所定値に達したとき、トグル機構が動作し、レンチ本体がヘッド部材に対して連結軸を中心として傾動する。駆動ピンは、ヘッド部材から突出して連結軸と略平行に延びる。ベース部材は、駆動ピンとの干渉を回避した状態でレンチ本体に支持される。ベース部材は、係合凹部の後方近傍の前端開口と係合凹部から離間した後端開口との間で前後方向に直線状に延びるマーキング部材挿通孔を有する。
【0013】
従動側磁石は、マーキング部材挿通孔の後端開口側に収容された状態でマーキング部材挿通孔に対して前後方向にスライド移動自在に支持される。規制手段は、従動側磁石の前後方向のスライド移動範囲を前進位置と前進位置よりも後方の後退位置との間に規制する。マーキング部材は、前端開口から挿入されてマーキング部材挿通孔に前後方向にスライド移動自在に支持される棒状体である。マーキング部材は、マーキング部材挿通孔を挿通した状態で、前端部にインクを保持するスタンプ先端を有するとともに、後端部に磁性体を有する。マーキング部材は、従動側磁石の磁力によって従動側磁石に磁性体が着脱自在に保持される。付勢手段は、従動側磁石とベース部材との間に設けられ、従動側磁石を後退位置へ付勢する。
【0014】
リンクアームは、支持部と磁石固定部と駆動ピン挿通孔とを一体的に有する。支持部は、連結軸と略平行に延びるピボット軸を中心としてレンチ本体に対して回転自在に支持される。磁石固定部は、駆動側磁石が固定される。駆動ピン挿通孔は、駆動ピンが挿通する。レンチ本体に対するピボット軸を中心とした回転位置は、駆動ピンと駆動ピン挿通孔との係合によって規定される。従動側磁石の後面は、駆動側磁石の前面と同極である。
【0015】
駆動ピンと駆動ピン挿通孔との係合は、トグル機構が動作しない初期状態では、駆動側磁石の前面が従動側磁石の後面からずれた初期位置にリンクアームの回転位置を規定し、トグル機構が動作してレンチ本体がヘッド部材に対して傾動すると、駆動側磁石の前面が後退位置の従動側磁石の後面に後方から正対する作動位置へリンクアームを初期位置から回転させる。
【0016】
上記構成では、トグル機構が動作しない非締め付け操作時の初期状態では、駆動ピンと駆動ピン挿通孔との係合は、ベース部材に対するリンクアームの回転位置を初期位置に規定し、駆動側磁石の前面は、従動側磁石の後面からずれた位置に待避し、従動側磁石及びマーキング部材は、付勢手段の付勢力によって後退位置に保持される。
【0017】
ヘッド部材の係合凹部に締結部品を係合し、締結部品の回転軸を中心としてレンチ本体を回転し、締結部品に対してレンチ本体から入力される締付力が所定値に達すると、トグル機構が動作し、レンチ本体がヘッド部材に対して連結軸を中心として傾動する。レンチ本体がヘッド部材に対して傾動すると、駆動ピンと駆動ピン挿通孔との係合は、リンクアームを初期位置から作動位置へ回転させ、駆動側磁石の前面は、後退位置の従動側磁石の後面に後方から正対する。従動側磁石の後面と駆動側磁石の前面とは同極であるため、両者間に反発力が発生し、従動側磁石が付勢手段の付勢力に抗して前進する。マーキング部材の磁性体が従動側磁石の磁力によって従動側磁石に保持されるので、マーキング部材は、スタンプ先端が締結部品又は被締結部品と当接する前進位置まで付勢手段の付勢力に抗して前進し、マーキングを施す。
【0018】
締結部品の締め付けが終了し、トグル機構が開放され、レンチ本体がヘッド部材に対して傾動前の位置(初期状態)に戻ると、駆動ピンと駆動ピン挿通孔との係合は、リンクアームを作動位置から初期位置に戻し、マーキング部材は、付勢手段の付勢力によって前進位置から後退位置へ後退する。
【0019】
上記のように、トグル機構が動作した際にヘッド部材及びレンチ本体に対して可動する部材としてリンクアームのみを設ければよいので、構造が簡単であり、部品点数の増大及びコストの上昇を抑えることができる。
【0020】
また、トグル機構が開放された際に、駆動ピンと駆動ピン挿通孔との係合によってリンクアームが作動位置から初期位置に復帰するので、マーキング部材を前進位置から確実に後退させることができる。
【0021】
マーキング部材をマーキングトルクレンチから取り外す場合、レンチ本体側を押さえた状態で、マーキング部材の前端部を持ってマーキング部材を前方へ引張る。マーキング部材が従動側磁石の磁力により保持されているので、マーキング部材は、従動側磁石と共に前方へ移動する。従動側磁石がマーキング部材挿通孔に収容され、規制手段が従動側磁石の前方へのスライド移動範囲を前進位置に規制するので、従動側磁石の磁力よりも強い力で引張ると、前方へのスライド移動範囲が規制された従動側磁石からマーキング部材の磁性体が外れる。マーキング部材が前端開口からマーキング部材挿通孔に挿入されるので、マーキング部材をさらに前方へ引張ることにより、マーキング部材がベース部材の前端開口から前方へ抜けてマーキングトルクレンチから外れる。
【0022】
マーキング部材をマーキングトルクレンチに装着する場合、マーキング部材を磁性体側からマーキング部材挿通孔の前端開口へ挿入する。マーキング部材の磁性体は、従動側磁石の磁力によって従動側磁石に保持される。これにより、マーキング部材がマーキングトルクレンチに装着される。
【0023】
上記のように、マーキング部材をマーキングトルクレンチから取り外す際には、マーキング部材を前方へ引き抜くので、スタンプ先端がマーキングトルクレンチの他の部分(マーキング部材挿通孔の内周面等)に触れ難い。また、マーキング部材をマーキングトルクレンチに装着する際には、マーキング部材の磁性体側からベース部材の前端開口へ挿入するので、スタンプ先端がマーキングトルクレンチの他の部分に触れ難い。このように、マーキング部材の着脱の作業の際に、スタンプ先端がマーキング部材挿通孔の内側を通過しないので、スタンプ先端のインクがマーキングトルクレンチに付着し難く、マーキングトルクレンチが汚れることを防止することができる。また、マーキングトルクレンチに付着して固まったインクによるマーキングトルクレンチの動作不良を防止することができる。
【0024】
また、マーキング部材の着脱の作業において、例えば、カバーを取り外す等、他の部品を操作する必要が無く、マーキング部材の着脱の作業が煩雑にならない。
【0025】
従って、部品点数の増大を抑制した簡単な構造のマーキングトルクレンチを得ることができる。また、トグル機構が開放された際にインクカートリッジを確実に後退位置に戻すことができる。また、インクカートリッジの着脱の際の作業性を向上させることができる。
【0026】
また、上記マーキング部材挿通孔は、前進したマーキング部材のスタンプ先端が係合凹部に達するように、連結軸の直交面に対して傾斜してもよい。
【0027】
上記構成では、締結部品の開放面側に突出部分(例えば締結部品から一体的に突出する部分や締結部品と螺合する非締結部品(例えばスタッドボルトの軸)など)が存在しない場合であっても、マーキングを確実に行うことができる。
【0028】
また、上記マーキングトルクレンチは、ヒンジ機構と保持手段とを備えてもよい。ヒンジ機構は、前端開口がヘッド部材の係合凹部の後方近傍に配置される使用位置と、前端開口がヘッド部材から離間した交換位置との間を傾動可能にベース部材をレンチ本体に連結する。保持手段は、ベース部材側とレンチ本体側との間に設けられ、ベース部材の交換位置への傾動を許容した状態でベース部材を使用位置に保持する。
【0029】
上記構成では、マーキング部材を交換する際に、ヘッド部材の係合凹部の形状がマーキング部材に干渉し易い形状であっても、ベース部材の前端開口がヒンジ機構の軸を中心としてヘッド部材から離間した交換位置に傾動可能なので、マーキング部材と係合凹部との干渉を防ぐことができ、マーキング部材の着脱の際の作業性を向上させることができる。
【0030】
また、上記マーキング部材は、スタンプ先端から磁性体までの長さが変更可能であってもよい。
【0031】
上記構成では、マーキング部材のスタンプ先端から磁性体までの長さを変更することができるので、例えば、ベース部材を前後方向に移動させる機構などをトルクレンチに設けることなく、簡易な構造でマーキング時のスタンプ先端の位置を前後方向に調整することができ、スタンプ先端の位置を締結部材等に良好にマーキングできる位置に設定することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、部品点数の増大を抑制した簡単な構造のマーキングトルクレンチを得ることができる。また、トグル機構が開放された際にインクカートリッジを確実に後退位置に戻すことができる。また、インクカートリッジの着脱の際の作業性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において、マーキングトルクレンチの長手方向のうち、締結部品と係合する側を前方とし、作業者が回転操作する側を後方として説明する。また、上下方向は、
図1(b)の上下方向である。
【0035】
本実施形態のマーキングトルクレンチ(マーキング機能付きスパナ型トルクレンチ)1は、ボルト(締結部品)100に対する締付力(締付トルク)が所定値(所定トルク)に達したときにトグル機構4が動作するとともに、ボルト100の開放端面(頂面)にスタンプによって自動的にマーキングを行うものである。
【0036】
図1〜
図3に示すように、マーキングトルクレンチ1は、トルクレンチ10と、駆動ピン11と、ベース基板21と、ベース部材20と、スタンプ押し戻しバネ(付勢手段)12と、スライド部材22と、ストッパー(規制手段)37と、マーキング部材19と、リンクアーム40と、カバー23とを備える。
【0037】
トルクレンチ10は、前側のヘッド部材3と後側のレンチ本体2とを備える。ヘッド部材3は板形状である。レンチ本体2は、筒形状の前側部分と、締結作業を行う作業者によって把持される後側部分(把持部16)とを一体的に有する。
【0038】
ヘッド部材3の前端には、ボルト100の回転軸方向の両側(上下方向の両側)を開放した状態でボルト100の頭部側面と係合する係合凹部3aが形成され、レンチ本体2とヘッド部材3とは、係合凹部3aの後方で連結軸13を介して相対回転自在に連結されている。係合凹部3aにボルト100を係合して締め付ける際に、連結軸13はボルト100の回転軸と略平行となる。レンチ本体2の前端部とヘッド部材3とには、連結軸13が挿通される連結孔14,15(
図4及び
図5参照)がそれぞれ形成されている。なお、連結軸13は、レンチ本体2およびヘッド部材3のうち、いずれか一方に一体的に設けられていてもよい。
【0039】
ヘッド部材3の後部は、レンチ本体2の前部内側に挿入されている。ヘッド部材3の後端部は、レンチ本体2に設けたトグル機構4の一方側に連結され、トグル機構4の他方側はレンチ本体2側に連結されている。トグル機構4は、ボルト100に対してレンチ本体2から入力される締付力が所定値に達したとき(規定トルク締め付け時)に、トグル動作によってレンチ本体2側とヘッド部材3側の固定状態を解除する。これにより、ヘッド部材3は、レンチ本体2に加わる締付力に追従して回転せず、レンチ本体2に対して連結軸13を中心として所定角度で傾動(首振り動作)する。なお、トグル機構4の構成は特定のものに限定をされるものではなく、公知の様々な構成を用いることができる。
【0040】
駆動ピン11は、連結軸13の後方でヘッド部材3の上面から上方へ突出し、連結軸13と略平行に延びる。レンチ本体2と後述するベース基板21とには、駆動ピン11を挿通する駆動ピン貫通孔17,18(
図5及び
図7参照)が形成されている。駆動ピン貫通孔17,18は、後述する駆動ピン挿通孔43とは異なり、トグル機構4が動作してレンチ本体2がヘッド部材3に対して傾動する際に、駆動ピン11と干渉しない大きさ及び形状に設定されている。なお、駆動ピン11は、連結軸13の後方に配置されなくてもよく、例えば、連結軸13がレンチ本体2の内部に挿入されたヘッド部材3の後端部に配置される場合には、連結軸13よりも前方に駆動ピン11が配置されてよい。
【0041】
ベース基板21は、複数(本実施形態では8個)のボルト挿通孔31と、駆動ピン11と干渉しない大きさ及び形状の駆動ピン貫通孔18と、後述するガイド部材30が固定されるボルト孔25と、後述するカバー23が固定される側面のボルト孔28(
図3参照)と、後述するピボット軸44とを有し、略矩形板状に形成される(
図7参照)。ベース基板21は、ベース基板21の後側の4つのボルト挿通孔31を挿通してレンチ本体2のボルト孔32(
図5参照)に螺合する複数のネジ33(
図2参照)によって、レンチ本体2の上面に締結固定される。
【0042】
ベース部材20は、筒形状のベース本体20aと、ベース本体20aの後端部から突出する板状の後フランジ20bと、ベース本体20aの下端部から突出する板状の下フランジ20cとを一体的に有する(
図6参照)。ベース部材20は、下フランジ20cのボルト挿通孔24を挿通し、さらにベース基板21の前側の4つのボルト挿通孔31を挿通してレンチ本体2のボルト孔32(
図5参照)に螺合する複数のネジ26によってベース基板21と共にレンチ本体2の前端部に締結固定される。ベース部材20の後端部は、ベース基板21の駆動ピン貫通孔18を挿通する駆動ピン11よりも前方に配置され、ベース部材20は駆動ピン11と干渉しない(
図2参照)。ベース本体20aは、ヘッド部材3の係合凹部3aの後方近傍に配置される前端開口34aと係合凹部3aから離間した後端開口34bとの間で、前後方向に直線状に延びるマーキング部材挿通孔34を有する(
図6参照)。マーキング部材挿通孔34は、前端開口34aから直線状に延びる前部よりも後部が太径であり、前部と後部との間に段差部(規制手段)35が形成されている(
図3参照)。
【0043】
スタンプ押し戻しバネ12は、コイルバネであり、外径がマーキング部材挿通孔34の後部の太径部分7の内径よりも僅かに小さく、内径がマーキング部材挿通孔34の前部の細径部分8の内径よりも僅かに大きく、前後方向の長さが太径部分7の前後方向の長さの略半分の長さよりも僅かに長く形成され、マーキング部材挿通孔34の太径部分7に挿入される。スタンプ押し戻しバネ12の前端は、段差部35に後方から当接し、スタンプ押し戻しバネ12の後端は、後述するスライド部材22のスリーブ36の前端に前方から当接する。
【0044】
スライド部材22は、マーキング部材挿通孔34の後端開口34b側に収容された状態でマーキング部材挿通孔34にスライド移動自在に支持される円筒状のスリーブ36と、スリーブ36の内周面に固定される円柱状の従動側磁石9とを有する。スリーブ36の外径は、マーキング部材挿通孔34の太径部分7の内径よりも僅かに小さく、スリーブ36の内径は、マーキング部材挿通孔34の前部の細径部分8の内径と(前端開口34a)と略同じ大きさであり、スリーブ36の前後方向の長さは、マーキング部材挿通孔34の太径部分7の前後方向の長さの略半分の長さよりも僅かに長い。従動側磁石9の外径は、スリーブ36の内径よりも僅かに小さく、従動側磁石9の前後方向の長さは、スリーブ36の前後方向の長さよりも短い。従動側磁石9の後端がスリーブ36の後端よりも僅かに後方に突出した状態で、従動側磁石9がスリーブ36の内側に挿入されてスリーブ36の後端部に固定される。スライド部材22は、マーキング部材挿通孔34の太径部分7に挿入されたスタンプ押し戻しバネ12の後方に挿入される。すなわち、従動側磁石9は、マーキング部材挿通孔34の後端開口34b側に収容された状態でマーキング部材挿通孔34にスライド移動自在に支持される。スタンプ押し戻しバネ12は、ベース部材20と従動側磁石9との間にスリーブ36と共に設けられ、前方への従動側磁石9のスライド移動範囲は、段差部35に当接するスタンプ押し戻しバネ12が最も収縮した位置(前進位置)に規制される。なお、従動側磁石9は、スリーブ36を介してマーキング部材挿通孔34にスライド移動自在に支持されたが、スリーブ36を介さなくてもよい。
【0045】
ストッパー37は、矩形板状に形成され、スライド部材22がマーキング部材挿通孔34の後部に挿入された後に、ベース部材20の後端開口34b側のボルト孔38(
図6参照)にネジ39により固定される(
図2及び
図3参照)。ストッパー37は、マーキング部材挿通孔34の外径よりも小さな円形開口46を有する非磁性体であって、円形開口46は、マーキング部材挿通孔34と略同軸に配置される。自然長のスタンプ押し戻しバネ12とスリーブ36とが前後方向に連続する状態では、双方を合わせた前後方向の全長がマーキング部材挿通孔34の太径部分7の前後方向の長さよりも長いので、スタンプ押し戻しバネ12を収縮させながらスリーブ36をマーキング部材挿通孔34の太径部分7に挿入し、ベース部材20にストッパー37を固定する。スタンプ押し戻しバネ12の付勢力により後方へ付勢されるスライド部材22の後端は、後端開口34b側のストッパー37に当接する。すなわち、ストッパー37は、スタンプ押し戻しバネ12の付勢力により後方へ付勢される従動側磁石9の後方へのスライド移動範囲をマーキング部材挿通孔34の後端開口34bのストッパー37に当接する位置(後退位置)に規制する。さらに、スライド部材22が前進すると、スタンプ押し戻しバネ12が収縮してスライド部材22を後方へ付勢し、従動側磁石9を後退位置へ付勢する。
【0046】
マーキング部材19は、インクカートリッジ6と長さ調整ネジ(磁性体)5とを有し、マーキング部材挿通孔34の前端開口34aよりも僅かに細径の棒状体である。マーキング部材19は、マーキング部材挿通孔34に前端開口34aから挿入され、マーキング部材挿通孔34の細径部分8とスタンプ押し戻しバネ12の内部とを挿通した状態でスライド部材22の前方に配置されてマーキング部材挿通孔34に前後方向にスライド移動自在に支持される(
図3参照)。インクカートリッジ6は、スタンプ部(スタンプ先端)6aとカートリッジ本体6bとを有する。スタンプ部6aは、マーキング部材挿通孔34を挿通した状態のカートリッジ本体6bの前端部に配置され、カートリッジ本体6bから前方へ延びて前端開口34aから前方へ露出し、カートリッジ本体6bから供給されるインクを保持する。スタンプ部6aは、カートリッジ本体6bよりも細径であり、スタンプ部6aの前端部分を除く中間部分は、インクの付着を防止するためのシート材によって覆われている。マーキング部材挿通孔34を挿通した状態のインクカートリッジ6の後端部には、インクカートリッジ6の後端から前方へ延びるボルト孔47が形成され、ボルト孔47の内周面には雌ネジ(図示省略)が形成される。長さ調整ネジ5は、インクカートリッジ6のボルト孔47に螺合する鉄製の雄ネジであり、後方の従動側磁石9の磁力によって従動側磁石9に着脱自在に保持される。スタンプ部6aから長さ調整ネジ5までのマーキング部材19の長さは、長さ調整ネジ5を締めたり緩めたりすることにより変更可能である。なお、本実施形態では、磁性体として鉄製の長さ調整ネジ5を用いて説明したが、インクカートリッジ6の後端に固定された長さ調整機能を有さない磁性体であってよい。また、長さ調整ネジ5の材料は、鉄に限られず、磁石に吸着すればよく、例えば、コバルトやニッケルなどであってよい。或いは、従動側磁石9の前面と異極の後面を有する磁石であってもよい。
【0047】
また、マーキング部材挿通孔34は、前進したスタンプ部6aの前端が係合凹部3aの上面に達するように、連結軸13の直交面に対して傾斜(傾斜角度θ)している。
【0048】
また、段差部35の位置は、スタンプ押し戻しバネ12の付勢力に抗して前進したマーキング部材19のスタンプ部6aがボルト100の上面と当接する位置に設定されている。
【0049】
リンクアーム40は、前後方向に延びる平板状のアーム本体48と、アーム本体48の前端から上方に曲折して延びる平板状の立上り部49とを有し、側面視略L形状に形成される(
図3参照)。リンクアーム40は、アーム本体48の後端部の支持部41と、立上り部49の上端部の磁石固定部42と、アーム本体48の前後方向の略中央部の駆動ピン挿通孔43とを一体的に有する。支持部41には、円形開口50が形成される。駆動ピン11の後方に配置されてベース基板21の後端から連結軸13と略平行に上方へ延びるピボット軸44を円形開口50の内側に挿通させ、円形開口50から上方に突出するピボット軸44の上部にC型スナップリング51を嵌め、支持部41がベース基板21に回転自在に支持される(
図2参照)。ベース基板21は、レンチ本体2に固定されるので、支持部41は、ピボット軸44を中心としてレンチ本体2に対して回転自在に支持される。磁石固定部42には、前面を着磁面とする駆動側磁石45が固定される。この駆動側磁石45の前面は、従動側磁石9の後面と同極である。駆動ピン挿通孔43は、アーム本体48の前後方向の略中央部に形成され、駆動ピン挿通孔43を駆動ピン11が挿通する。アーム本体48の前端と駆動ピン挿通孔43との間のアーム本体48の上方には、アーム本体48の上面と駆動ピン11と立上り部49とに干渉しない状態で、アーム本体48が延びる方向と交叉する方向に板状のガイド部材30が延びている。ガイド部材30は、平板状の天板部52と、天板部52の両端から曲折して下方へ延びる1対の縦板部53と、1対の縦板部53のそれぞれの下端から互いに離間する方向へ延びる1対のフランジ部54とを一体的に有する(
図2参照)。1対のフランジ部54は、ベース基板21のボルト孔25にネジ27によって固定され、天板部52の下面がアーム本体48の上面に対向する。ガイド部材30は、リンクアーム40の上方への移動を規制し、支持部41に掛かる負担を抑制し、支持部41の破損を防止する。レンチ本体2に対するピボット軸44を中心としたリンクアーム40の回転位置は、駆動ピン11と駆動ピン挿通孔43との係合(駆動ピン11の外周と駆動ピン挿通孔43の内周縁との当接)によって規定される。換言すると、駆動ピン挿通孔43の大きさ及び形状は、駆動ピン11と係合してリンクアーム40を所望の回転位置に規定するように設定されている。なお、ピボット軸44を駆動ピン11の前方に配置してもよい。
【0050】
カバー23は、カバー23のボルト挿通孔(図示省略)を挿通してベース基板21のボルト孔28(
図7参照)に螺合する複数のネジ29(
図1(b)参照)によって、ベース基板21の側面に締結固定される。カバー23は、ベース基板21の後部に配置されるリンクアーム40の上方、側方、及び後方を覆う状態で、ベース部材20の後端部からベース基板21の後方まで延びる。
【0051】
駆動ピン11と駆動ピン挿通孔43との係合は、トグル機構4が動作しない初期状態では、駆動側磁石45の前面が従動側磁石9の後面からずれた初期位置(
図8(a)参照)にリンクアーム40の回転位置を規定し、トグル機構4が動作してレンチ本体2がヘッド部材3に対して傾動すると、駆動側磁石45の前面が後退位置の従動側磁石9の後面に後方から正対する作動位置(
図8(b)参照)へリンクアーム40を初期位置から回転させる。
【0052】
上記のように構成されたマーキングトルクレンチ1では、トグル機構4が動作しない非締め付け操作時の初期状態において、駆動ピン11と駆動ピン挿通孔43との係合は、レンチ本体2に対するリンクアーム40の回転位置を初期位置(
図8(a)参照)に規定し、駆動側磁石45の前面は、従動側磁石9の後面からずれた位置に待避し、スライド部材22及びマーキング部材19は、スタンプ押し戻しバネ12の付勢力によって後退位置に保持される。
【0053】
ヘッド部材3の係合凹部3aにボルト100を係合し、ボルト100の回転軸を中心としてレンチ本体2を回転し、ボルト100に対してレンチ本体2から入力される締付力が所定値に達すると、トグル機構4が動作し、レンチ本体2がヘッド部材3に対して連結軸13を中心として傾動する。駆動ピン11はヘッド部材3から突出し、駆動ピン挿通孔43はレンチ本体2側のリンクアーム40に形成されているため、レンチ本体2がヘッド部材3に対して傾動すると、駆動ピン11と駆動ピン挿通孔43との係合により、リンクアーム40が初期位置から作動位置(
図8(b)参照)へ回転し、駆動側磁石45の前面は、後退位置の従動側磁石9の後面に後方から正対する。従動側磁石9の後面と駆動側磁石45の前面とは同極であるため、両者間に反発力が発生し、スライド部材22がスタンプ押し戻しバネ12の付勢力に抗して前進する。マーキング部材19の鉄製の長さ調整ネジ5が従動側磁石9の磁力によって従動側磁石9に吸着し、マーキング部材19がスライド部材22に保持されるので、マーキング部材19は、スタンプ部6aがボルト100の上面と当接する前進位置までスタンプ押し戻しバネ12の付勢力に抗して前進し、マーキングを施す。
【0054】
ボルト100の締め付けが終了し、トグル機構4が開放され、レンチ本体2がヘッド部材3に対して傾動前の位置(初期状態)に戻ると、駆動ピン11と駆動ピン挿通孔43との係合により、リンクアーム40が作動位置から初期位置へ戻り、スライド部材22と共にマーキング部材19は、スタンプ押し戻しバネ12の付勢力によって前進位置から後退位置へ後退する。
【0055】
作業者がマーキングトルクレンチ1に装着された状態(
図9(a)参照)のマーキング部材19をマーキングトルクレンチ1から取り外す場合、レンチ本体2側を押さえた状態で、ベース部材20の前端開口34aから前方へ露出しているスタンプ部6bやカートリッジ本体6aを手で掴み前方へ引張る。マーキング部材19がスライド部材22の従動側磁石9の磁力により保持されているので、マーキング部材19は、スライド部材22と共にスタンプ押し戻しバネ12を収縮させながら前方へ移動する。スライド部材22の前方へのスライド移動範囲が前進位置に規制されるので、従動側磁石9の引力よりも強い力で引張ると、前方へのスライド移動範囲が規制された従動側磁石9からマーキング部材19の長さ調整ネジ5が外れる。マーキング部材19が前端開口34aよりも細径で形成されるので、さらに前方へ引張ることによりマーキング部材19がベース部材20のマーキング部材挿通孔34から前方へ抜けてマーキングトルクレンチ1から外れる。
【0056】
作業者がマーキング部材19をマーキングトルクレンチ1に装着する場合、マーキング部材19を長さ調整ネジ5側からマーキング部材挿通孔34の前端開口34aへ挿入する。マーキング部材19は、マーキング部材挿通孔34の細径部分8を挿通し、マーキング部材挿通孔34の太径部分7に挿入されたスタンプ押し戻しバネ12の内側を挿通し、さらにスライド部材22のスリーブ36の内側を挿通する。長さ調整ネジ5が鉄製なので、スリーブ36の後端部に固定された従動側磁石9の磁力により、長さ調整ネジ5が従動側磁石9の前面に吸着し、マーキング部材19がスライド部材22の従動側磁石9に保持される。これにより、マーキング部材19がマーキングトルクレンチ1に装着される。
【0057】
このように、本実施形態のマーキングトルクレンチ1によれば、トグル機構4が動作した際にヘッド部材3及びレンチ本体2に対して可動する部材としてリンクアーム40のみを設ければよいので、構造が簡単であり、部品点数の増大及びコストの上昇を抑えることができる。
【0058】
また、トグル機構4が開放された際に、駆動ピン11と駆動ピン挿通孔43との係合によってリンクアーム40が作動位置から初期位置に復帰するので、マーキング部材19を前進位置から確実に後退させることができる。
【0059】
また、マーキング部材19をマーキングトルクレンチ1から取り外す際には、マーキング部材19を前方へ引き抜くので、ベース部材20の前端開口34aから前方へ露出しているスタンプ部6bがマーキングトルクレンチ1の他の部分(マーキング部材挿通孔34の内周面等)に触れ難い。また、マーキング部材19をマーキングトルクレンチ1に装着する際には、マーキング部材19の長さ調整ネジ5側からベース部材20の前端開口34aへ挿入するので、スタンプ部6bがマーキングトルクレンチ1の他の部分に触れ難い。このように、マーキング部材の着脱の作業の際に、スタンプ部6bがマーキング部材挿通孔の内側を通過しないので、スタンプ部6bのインクがマーキングトルクレンチ1に付着し難く、マーキングトルクレンチ1が汚れることを防止することができる。また、マーキングトルクレンチ1に付着して固まったインクによるマーキングトルクレンチ1の動作不良を防止することができる。
【0060】
また、マーキング部材19の着脱の作業において、例えば、カバーを取り外す等、他の部品を操作する必要が無く、マーキング部材19の着脱の作業が煩雑にならない。
【0061】
また、マーキング部材19の長さ調整ネジ5が鉄製なので、例えば、マーキング部材19を従動側磁石9に連動させるためにマーキング部材19の後端部に磁石を設けた場合に比べて、マーキング部材19の着脱の作業の際、マーキング部材19が作業者の周囲の磁性材部品や電気部品に与える影響を抑えることができ、マーキング部材19の着脱の際の作業性をさらに向上させることができる。
【0062】
また、マーキング部材挿通孔34は、前進したスタンプ部6aの前端が係合凹部3aの上面に達するように、連結軸13の直交面に対して傾斜(傾斜角度θ)しているので、ボルト(締結部品)100の開放面側に突出部分(例えば締結部品から一体的に突出する部分や締結部品と螺合する非締結部品(例えばスタッドボルトの軸)など)が存在しない場合であっても、マーキングを確実に行うことができる。
【0063】
また、長さ調整ネジ5は、インクカートリッジ6のボルト孔47に螺合する鉄製の雄ネジであり、締めたり緩めたりすることにより、スタンプ部6aから長さ調整ネジ5までのマーキング部材19の長さを変更することができるので、例えば、ベース部材20を前後方向に移動させる機構などをトルクレンチ10に設けることなく、簡易な構造でマーキング時のスタンプ部6aの位置を前後方向に調整することができ、スタンプ部6aの位置をボルト100に良好にマーキングできる位置に設定することができる。
【0064】
次に、本発明の第2実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態に係るマーキングトルクレンチ70は、第1実施形態のベース部材をレンチ本体に傾動可能に連結したものであり、第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0065】
図10に示すように、マーキングトルクレンチ70は、ヘッド部材74とブラケット(ヒンジ機構)71とベース部材72とコイルスプリング(保持手段)73とを備える。
【0066】
ヘッド部材74は、連結孔15の前方で斜め前下方へ曲折して延びる中間部75を有し、中間部75の前端には、ボルト100(図示省略)の回転軸方向の両側を開放した状態でボルト100の頭部側面と係合するリング状の係合凹部74aが形成される。
【0067】
ブラケット71は、板状部材で形成され、上方に開口する前面視略U字状であって、ベース基板21の上面に固定される。ブラケット71の両側方で上方へ延びる1対の脚部76の上端部には、軸孔77がそれぞれ形成される。
【0068】
ベース部材72は、マーキング部材挿通孔34とストッパー37とを有する(図示省略)。ベース部材72の後端部は、ブラケット71の1対の脚部76の間に挟まれた位置に配置される。ベース部材72及びベース部材72のマーキング部材挿通孔34が前下方へ傾斜した状態で、ベース部材72の後端部の上部が脚部76の軸孔77を挿通する軸(ヒンジ機構)78を介してブラケット71に支持される。これにより、ベース部材72は、軸78とブラケット71とベース基板21とを介してレンチ本体2に傾動可能に連結される。前下方へ傾斜したベース部材72の後面は、ベース基板21の前端と当接し、前下方へ傾斜したベース部材72の前端開口34aは、ヘッド部材74の係合凹部74aの後方近傍の位置(使用位置)に配置される。使用位置のベース部材72を上方へ持ち上げると、軸78を中心としてベース部材72の前端開口34aが上方へ傾動し、ベース部材72の前端開口34aは、ヘッド部材74から離間した位置(交換位置)に配置される。交換位置では、前端開口34aと同径で、且つマーキング部材挿通孔34と同軸で前端開口34aから前方へ直線状に延びる領域にヘッド部材74の係合凹部74aが干渉しない。
【0069】
コイルスプリング73は、前後方向に伸縮する状態でベース基板21の上方に配置される。コイルスプリング73の前端は、ベース部材72(ベース部材20側)の後面のうちベース基板21の前端と当接する箇所よりも上方に固定される。コイルスプリング73の後端は、コイルスプリング73が自然長よりも少し伸びた状態で、ベース基板21(レンチ本体2側)の上面のうちベース基板21の前端から後方へ離間した位置に固定される。自然長よりも少し伸びた状態のコイルスプリング73は、ベース部材72の後面をベース基板21の前端に当接させて、ベース部材72の前端開口34aを使用位置に保持する。また、コイルスプリング73の強さは、ベース部材72を使用位置から交換位置に傾動可能な強さに設定される。すなわちコイルスプリング73は、ベース部材72の交換位置への傾動を許容した状態でベース部材72を使用位置に保持する。なお、本実施形態では、保持手段としてコイルスプリング73を用いて説明したが、これに限定されるものではなく、板バネや磁石などであってよい。例えば、
図11に示すように、ベース部材72が磁性体である場合には、ベース部材72の後面と当接するベース基板21の前端に基板側磁石79が固定され、基板側磁石79が磁力によってベース部材72の交換位置への傾動を許容した状態でベース部材72を使用位置に保持してもよい。また、ベース部材72が非磁性体である場合には、ベース部材72の後面のうちベース基板21の前端の基板側磁石79と当接する箇所にベース側磁石(図示省略)を設けてもよい。この場合、基板側磁石79の前面とベース側磁石の後面とは、異極である。
【0070】
上記のように構成されたマーキングトルクレンチ70では、マーキング部材19をマーキングトルクレンチ70から取り外す場合、作業者は、使用位置のベース部材72を手で持ち上げ、ベース部材72を軸78を中心として上方へ傾動させ、ベース部材72を交換位置に配置する。交換位置のベース部材72の前端開口34aがヘッド部材74の係合凹部74aから離間しているので、マーキング部材19のスタンプ部6a等も同様にヘッド部材74の係合凹部74aから離間する。作業者は、マーキング部材19のスタンプ部6aやカートリッジ本体6bを手で掴み前方へ引張り、マーキングトルクレンチ70からマーキング部材19を取り外す。マーキング部材19をマーキングトルクレンチ70に装着する場合、交換位置のベース部材72のマーキング部材挿通孔34へ前端開口34aからマーキング部材19を挿入し、マーキング部材19をマーキングトルクレンチ70に装着する。交換位置のベース部材72を持ち上げていた手を放すと、コイルスプリング73によりベース部材72が軸78を中心として使用位置に向かって傾動し、コイルスプリング73によりベース部材72が使用位置に保持される。
【0071】
このように、本実施形態のマーキングトルクレンチ70によれば、マーキング部材19を交換する際に、ヘッド部材74の係合凹部74aの形状がマーキング部材19に干渉し易い形状(本実施形態ではリング形状)であっても、ベース部材72の前端開口34aをヘッド部材74の係合凹部74aから離間した交換位置に配置することができるので、マーキング部材19と係合凹部74aとの干渉を防ぐことができ、マーキング部材19の着脱の際の作業性を向上させることができる。
【0072】
なお、本実施形態では、ベース部材72及びマーキング部材挿通孔34が前下方へ傾斜した状態でブラケット71に支持されたが、傾斜することなくレンチ本体2に沿った方向に延びてもよい。
【0073】
また、ベース部材72が傾動する方向は、上下方向に限られず、例えば、上下方向に延びる軸に支持されて側方に向かって傾動してもよい。
【0074】
以上、本発明について、上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明は上記実施形態の内容に限定をされるものではなく、当然に本発明を逸脱しない範囲では適宜の変更が可能である。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【0075】
例えば、締結部品がナットの場合、マーキングの対象もナットである。また、ナットをスタッドボルト101(
図1(b)に二点差線で示す)に締め付ける場合、マーキングの対象はスタッドボルト101(締結部品に螺合する被締結部品)であってもよい。ヘッド部材3の係合凹部3aの形状は、締結部品の回転軸方向の両側を開放した状態で締結部品の側面と係合可能であればよく、上記実施形態に限定されない。