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特許5988212トリアシルグリセロール高生産性藻類の作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5988212
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】トリアシルグリセロール高生産性藻類の作製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/13 20060101AFI20160825BHJP
   C12P 7/20 20060101ALI20160825BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20160825BHJP
【FI】
   C12N1/13
   C12P7/20ZNA
   !C12N15/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-219981(P2012-219981)
(22)【出願日】2012年10月2日
(65)【公開番号】特開2014-68638(P2014-68638A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年6月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(72)【発明者】
【氏名】岩井 雅子
(72)【発明者】
【氏名】太田 啓之
(72)【発明者】
【氏名】下嶋 美恵
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−512977(JP,A)
【文献】 特開2000−078977(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/156520(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/049816(WO,A1)
【文献】 Phytochemistry, 2006, vol.67, pp.696-701
【文献】 生物工学, 2011, vol.90, no.7, pp.392-395
【文献】 J Biol Chem, 2012 May, vol.287, no.19, pp.15811-15825
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラミドモナス・レインハーディに属する藻類に、クラミドモナス・レインハーディに属する藻類由来のSQD2プロモーターを付加したトリアシルグリセロール合成酵素遺伝子を導入することを特徴とするトリアシルグリセロール生産性藻類の作製方法。
【請求項2】
トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子が、DGAT2遺伝子であることを特徴とする請求項1に記載のトリアシルグリセロール生産性藻類の作製方法。
【請求項3】
トリアシルグリセロール合成酵素遺伝子が、DGTT4遺伝子であることを特徴とする請求項1に記載のトリアシルグリセロール生産性藻類の作製方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法によって作製されたトリアシルグリセロール生産性藻類。
【請求項5】
請求項4に記載のトリアシルグリセロール生産性藻類をリン欠乏条件下で培養し、藻類細胞中にトリアシルグリセロールを蓄積させ、蓄積したトリアシルグリセロールを採取することを特徴とするトリアシルグリセロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアシルグリセロール(以下、「TAG」という)高生産性藻類の作製方法、及びその方法によって作製された藻類、並びに前記藻類を用いたTAGの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クラミドモナス・レインハーディ(Chlamydomonas reinhardtii、以下「C. reinhardtii」という場合がある。)などの藻類にTAG合成酵素遺伝子を導入し、それにより細胞中にTAG蓄積させることは従来から行われてきた(特許文献1、非特許文献1)。
【0003】
例えば、非特許文献1には、C. reinhardtiiに、強発現プロモーターであるpsaDを付加したDGAT2遺伝子を導入し、これを窒素又は硫黄欠乏条件下で培養し、TAGを細胞中に蓄積させる方法が記載されている。特許文献1にも、非特許文献1と同様に、psaDを付加したDGAT2遺伝子を導入したC. reinhardtiiが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO 2011/156520
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M. La Russa et al., J. Biotechnol. 2012 Apr 20.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したようにTAG合成酵素遺伝子を藻類に導入することにより、細胞中にTAGを蓄積させる方法は既に知られているが、それらの方法では十分な量のTAGを蓄積させることができなかった。例えば、非特許文献1には、窒素欠乏、硫黄欠乏のいずれの条件においても、DGAT2遺伝子導入株と野生株との間にTAGの蓄積量に統計的に意味のある差異はなかったと記載されている(Fig. 5など)。
【0007】
本発明は、このような背景の下、藻類の細胞中にTAGを効率的に蓄積させる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、まず、従来の方法において十分な量のTAGが蓄積しないのはプロモーターに原因があるのではないかと考えた。即ち、TAGは栄養欠乏時に蓄積されるが、栄養欠乏時には、psaDのような強発現プロモーターは十分機能していないのではないかと考えた。そこで、強発現プロモーターに代えて、栄養欠乏応答プロモーターを使用するという発想を得た。
【0009】
また、本発明者は、窒素欠乏条件とリン欠乏条件におけるTAGの蓄積量とTAGの脂肪酸組成を調べた。その結果、1)増殖の盛んな細胞を植え継いだ場合、窒素欠乏条件よりリン欠乏条件の方がTAGの蓄積量が多いこと、2)窒素欠乏条件では、葉緑体の膜脂質由来の脂肪酸を含むTAGが多く、新しく合成された脂肪酸は少ないこと、3)窒素欠乏、リン欠乏のいずれの条件でも細胞の増殖は阻害されるが、リン欠乏条件では、窒素欠乏条件ほど、細胞の増殖は阻害されないことなどがわかった。これらの知見から、TAG高生産性藻類としては、窒素欠乏応答性のものよりも、リン欠乏応答性のものの方が好ましいという発想を得た。
【0010】
更に、本発明者は、リン欠乏応答プロモーターとしては、C. reinhardtiiのSQD2a遺伝子のプロモーターが好適であり、TAG合成酵素遺伝子としては、C. reinhardtiiのDGTT4遺伝子が好適であるという知見も得た。
【0011】
本発明は、以上の知見及び発想に基づき完成されたものである。
【0012】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(7)を提供する。
(1)藻類に、リン欠乏応答プロモーターを付加したTAG合成酵素遺伝子を導入することを特徴とするTAG高生産性藻類の作製方法。
(2)リン欠乏応答プロモーターが、SQD2遺伝子のプロモーターであることを特徴とする(1)に記載のTAG高生産性藻類の作製方法。
(3)TAG合成酵素遺伝子が、DGAT2遺伝子であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のTAG高生産性藻類の作製方法。
(4)TAG合成酵素遺伝子が、DGTT4遺伝子であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のTAG高生産性藻類の作製方法。
(5)藻類が、クラミドモナス属、ナンノクロロプシス属、シュードコリシスチス属、フェオダクチラム属、オステレオコックス属、シアニディオシゾン属、クレブソルミディウム属、クロロキブス属、スピロギラ属、カラ属、コレオケーテ属、又はクロレラ属に属する藻類であることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載のTAG高生産性藻類の作製方法。
(6)(1)乃至(5)のいずれかに記載の方法によって作製されたTAG高生産性藻類。
(7)(6)に記載のTAG高生産性藻類をリン欠乏条件下で培養し、藻類細胞中にTAGを蓄積させ、蓄積したTAGを採取することを特徴とするTAGの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高生産性藻類は、例えば、以下のような効果を有する。
(1)従来知られている藻類よりも、多くのTAGを蓄積する。
(2)TAG合成酵素遺伝子はリン欠乏応答プロモーターの制御下にあるので、通常培養時にこの遺伝子は発現しない。このため、TAG蓄積のタイミングをコントロールすることができる。
(3)通常条件に比べて増殖効率は低下するものの、リン欠乏条件下でもある程度の細胞増殖は可能なので、細胞を増殖させながら、TAGを蓄積させることも可能である。
(4)蓄積されるTAG中の脂肪酸は、既に合成されている脂質(葉緑体の脂質など)に由来するものではなく、新たに合成されたものなので、有用な特殊脂肪酸の生産にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】培養液1 L当たりのTAG[mg]量を示す図。
図2】TAGの脂肪酸組成を示す図。
図3】半定量PCRによる発現量を比較した図。
図4】SQD2のN末端領域を比較した図。枠で囲んであるのがC. reinhardtiiのSQD2aであり、矢印が開始メチオニンである。
図5】DGAT2のN末端領域を比較した図。枠で囲んであるのがC. reinhardtiiのDGTT1であり、矢印が開始メチオニンである。
図6】TAG生産系強化のためのコンストラクトを示す図。
図7】半定量PCRによる各遺伝子の発現量を比較した図(1)。
図8】半定量PCRによる各遺伝子の発現量を比較した図(2)。
図9】半定量PCRによる各遺伝子の発現量を比較した図(3)。
図10】HygR-pDGTT1-DGTT2〜4各変異株の培養液1 L当たりのTAG[mg] 量を示す図。
図11】HygR-pSQD2a-DGTT2〜4各変異株の培養液1 L当たりのTAG[mg] 量を示す図。
図12】培養液1L当たりのTAG[mg] 量を示す図。
図13】細胞当たりのTAG[pg] 量を示す図。
図14】TAG脂肪酸組成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明のTAG高生産性藻類の作製方法は、藻類に、リン欠乏応答プロモーターを付加したTAG合成酵素遺伝子を導入することを特徴とするものである。
【0017】
リン欠乏応答プロモーターとしては、例えば、SQD2遺伝子のプロモーターを使用することができる。SQD2はスルホキノボシルジアシルグリセロール(SQDG)の合成に関与する酵素であり、この酵素やそれをコードする遺伝子については、多くの論文において報告されており(例えば、 Yu B, Xu C, Benning C., Proc Natl Acad Sci U S A. 2002 Apr;99(8):5732-7.)、また、この酵素のアミノ酸配列もデータベース上で公表されているので(例えば、C. reinhardtiiのSQD2(SQD2a)のアミノ酸配列はGenBank Accession No. XP_001689662に記載されている。)、当業者はSQD2遺伝子がどのようなものであるか理解することができる。SQD2遺伝子のプロモーターとしては、C. reinhardtiiのSQD2a遺伝子のプロモーターを使用することができ、その配列は配列番号1に示すとおりである。
【0018】
SQD2遺伝子のプロモーターの塩基配列としては、配列番号1に示す塩基配列、又は配列番号1に示す塩基配列と高い同一性を示す塩基配列であって、プロモーター活性を維持している塩基配列などを例示できる。ここでいう「高い同一性」とは、通常90%以上の同一性、好ましくは95以上の同一性、より好ましくは97%以上の同一性、更に好ましくは99%以上の同一性を意味する。なお、本明細書における「同一性」の値は、当業者に公知の相同性検索プログラムを用いて算出することができる。例えば、NCBIの相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)においてデフォルト(初期設定)のパラメーターを用いることにより、算出することができる。
【0019】
また、SQD2遺伝子のプロモーターの塩基配列は、配列番号1に示す塩基配列において1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列であって、プロモーター活性を維持している塩基配列であってもよい。ここでいう「1若しくは数個」とは、通常は、1〜10個であり、好ましくは、1〜5個であり、より好ましくは1〜3個であり、更に好ましくは1個である。また、「欠失、置換若しくは付加」には、人為的な変異のほか、個体差、種や属の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutantやvariant)も含まれる。
【0020】
TAG合成酵素遺伝子としては、例えば、DGAT2遺伝子を使用することができる。DGAT2はジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼの一種であり、この酵素やそれをコードする遺伝子については、多くの論文において報告されているので(例えば、Jay M. Shockey et al., The Plant Cell, Vol. 18 September 2006, 2294-2313、Miller et al., Plant Physiology, vol.154 2010, 1737-1752)、当業者はDGAT2遺伝子がどのようなものであるか理解することができる。
【0021】
DGAT2遺伝子としては、例えば、DGTT4遺伝子を使用することができる。DGTT4は、C. reinhardtiiに含まれるDGAT2ファミリーに属するタンパク質であり、このタンパク質やそれをコードする遺伝子については、多くの論文において報告されているので(例えば、Boyle et al. The Journal of biological chemistry, 287 (2012), pp. 15811-15825、 Chen JE and Smith AG, J Biotechnol. 2012 Jun 29)、当業者はDGTT4遺伝子がどのようなものであるか理解することができる。DGTT4のアミノ酸配列及びそれをコードする遺伝子の塩基配列は、それぞれ配列番号3及び配列番号2に示すとおりである。本発明におけるDGTT4遺伝子には、C. reinhardtiiのDGTT4遺伝子(Cre03.g205050)だけでなく、他の生物におけるこの遺伝子に相当する遺伝子(ホモログなど)も含まれる。このようなC. reinhardtii以外の生物におけるDGTT4遺伝子の具体例としては、Volvox carteri f. nagariensisのDGAT2 (JGI protein ID77655)遺伝子、Ostreococcus tauriのDGAT2 (JGI protein ID 21937)遺伝子などを挙げることができる。
【0022】
DGTT4遺伝子の塩基配列としては、配列番号2に示す塩基配列を例示できる。また、DGTT4遺伝子の塩基配列は、配列番号2に示す塩基配列と高い同一性を示す塩基配列であって、活性(ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ活性など)のあるタンパク質をコードしている塩基配列であってもよい。ここでいう「高い同一性」とは、通常90%以上の同一性、好ましくは95以上の同一性、より好ましくは97%以上の同一性、更に好ましくは99%以上の同一性を意味する。
【0023】
また、DGTT4遺伝子の塩基配列は、配列番号3に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、活性(ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ活性など)のあるタンパク質をコードするものであってもよい。ここでいう「1若しくは数個」とは、通常は、1〜10個であり、好ましくは、1〜5個であり、より好ましくは1〜3個であり、更に好ましくは1個である。また、「欠失、置換若しくは付加」には、人為的な変異のほか、個体差、種や属の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutantやvariant)も含まれる。
【0024】
TAG合成酵素遺伝子等の導入対象とする藻類は特に限定されず、例えば、クラミドモナス(Chlamydomonas)属、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)属、シュードコリシスチス(Pseudochoricystis)属、フェオダクチラム(Phaeodactylum)属、オステレオコックス(Ostreococcus)属、シアニディオシゾン(Cyanidioschyzon)属、クレブソルミディウム(Klebsormidium)属、クロロキブス(Chlorokybus)属、スピロギラ(Spirogyra)属、カラ(Chara)属、コレオケーテ(Coleochaete)属、又はクロレラ(Chlorella)属に属する藻類などを用いることができる。クラミドモナス属の藻類としては、クラミドモナス・レインハーディ(Chlamydomonas reinhardtii)などを例示でき、ナンノクロロプシス属の藻類としては、ナンノクロロプシス・オクラタ (Nannochloropsis oculata)、ナンノクロロプシス・サリナ(Nannochloropsis salina)、ナンノクロロプシス・ ガディタナ(Nannochloropsis gaditana)などを例示でき、シュードコリシスチス属の藻類としては、シュードコリシスチス・エリプソイディア(Pseudochoricystis ellipsoidea)などを例示でき、フェオダクチラム(Phaeodactylum)属の藻類としてはフェオダクチラム・トリコルヌーツム(Phaeodactylum tricornutum)を例示でき、オステレオコックス属の藻類としてはオステレオコックス・タウリ(Ostreococcus tauri)を例示でき、シアニディオシゾン属の藻類としてはシアニディオシゾン・メロラ(Cyanidioschyzon merolae)を例示でき、クレブソルミディウム属の藻類としてはクレブソルミディウム・フラチダム(Klebsormidium flaccidum)を例示でき、カラ属の藻類としては、カラ・フラギリス(Chara fragilis)を例示でき、コレオケーテ属の藻類としては、コレオケーテ・スクタータ(Coleochaete scutata)を例示でき、クロレラ属の藻類としては、クロレラ・ブルガリス(Chlorella vulgaris)などを例示できる。
【0025】
TAG合成酵素遺伝子にリン欠乏応答プロモーターを付加する操作やこれを藻類に導入する操作などは常法に従って行うことができる。
【0026】
上述した方法によって作製されたTAG高生産性藻類の培養は、TAG蓄積時にリン欠乏条件下で培養すること以外、通常の藻類の培養と同様に行うことができる。例えば、藻類として、C. reinhardtiiを培養する場合、培地としては、TAP培地などを用いることができ、培養温度は2325℃程度とすることができ、培養時の光強度は1040μE/m2/secとすることができる。
【0027】
TAG高生産性藻類にTAGを蓄積させる場合は、リン欠乏条件下で培養する。リン欠乏条件下での培養は、増殖時に用いていた培地からリン成分(例えば、K2HPO4、KH2PO4など)を除くか、あるいは33μM以下にした培地を用いることにより行えばよい。通常、813日程度の培養で細胞中に十分な量のTAGが蓄積される。
【0028】
TAGを蓄積した細胞からTAGの採取は常法に従って行うことができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
〔実験材料〕
C. reinhardtii の野生株2種(C9株 CC-408 mt-、及びCW15株 CC-400 cw15 mt+)を使用した。両株ともChlamydomonas Center (http://chlamycollection.org/)から入手することができる。
【0030】
実験に使用した遺伝子の遺伝子名とprotein ID(JGI Chlamydomonas reinhardtii 4.0)は、以下の通りである。
【0031】
【表1】
【0032】
〔実験操作〕
(1)培養条件
Na2EDTA ・ 2H2O 5 g, ZnSO4 ・ 7H2O 2.2 g, H3BO3 1.14 g, MnCl2 ・ 4H2O 506 mg, FeSO4 ・ 7H2O 499 mg, CoCl2 ・ 6H2O 161 mg, CuSO4・ 5H2O 157 mg, ( NH4 )6Mo7O24 ・ 4H2O 110 mg, KOH 1.6gをイオン交換水 1Lへ溶解し、 Hutner’s trace elementsとして4℃に保存しておいた。
【0033】
NH4Cl 400 mg , CaCl2 ・ 2H2O 51 mg, MgSO4 ・ 7H2O 100 mg, K2HPO4 119 mg, KH2PO4 60.3 mg, Hutner’s trace elements 10 mL, 酢酸 1 mL, Tris ( hydroxymethyl ) aminomethane 2.42 gをイオン交換水 998 mLへ溶解し、オートクレーブ滅菌してから液体TAP培地として使用した。プレート培地として使用する場合はINA Agar 12 gをオートクレーブ前に添加した。
【0034】
TAP培地を通常培養の培地として使用し、2030 μE/m2/sec, 23℃で旋回培養した。リン欠乏培地ではTAP培地から K2HPO4, KH2PO4をのぞき、窒素欠乏培地では NH4Clをのぞいた。
(2)脂質抽出
培養液100〜450 mLを800×g, 5分間遠心して、培養細胞を沈殿させ、イオン交換水1 mLに懸濁した後、-80℃ に保存した。
【0035】
凍結細胞を解凍し、クロロホルム 1 mL, メタノール 2 mLを添加し、10分おきに懸濁しながら1時間室温に置いた。800 g, 5分間スイングローターで遠心し、上清 4 mLを回収した。沈殿に1%(W/V)KCl 0.8 mL, クロロホルム 1 mL, メタノール 2 mLを添加し、懸濁した後、800×g, 5分間スイングローターで遠心し、上清 3.8 mLを先ほどの上清とあわせて回収した。上清 7.8 mLにクロロホルム 2 mL, 1%(W/V)KCl 1.2 mLを添加し、懸濁した後、800×g, 5分間スイングローターで遠心し、下層の脂質抽出液を回収した。脂質抽出液を乾燥させ、60 mg/mLになるようにクロロホルム:メタノール=2:1に溶解した後、-20℃ に保存した。
(3)脂質分析
脂質抽出液 50 μLを薄層シリカプレートにスポットし、ヘキサン:ジエチルエーテル:酢酸=160:40:4の展開液で45分間展開した。0.001%プリムリンを用いて、UV照射下でTAGを確認した。TAGがのっている部分のシリカを削り取り、1mM ペンタデカン酸 100 μL, 5% 塩酸/メタノールを500 μLを添加し、懸濁した後、85℃, 1時間静置した。ヘキサン 500 μLを添加し、懸濁した後、800×g, 5分間スイングローターで遠心し、上層のメチルエステル化した脂肪酸を回収した。下層に再びヘキサン500 μLを添加し、懸濁した後、800×g, 5分間スイングローターで遠心し、上層を回収した。メチルエステル化した脂肪酸を乾燥させた後、ヘキサン60 μLに溶解し、ガスクロマトグラフィサンプルとした。ガスクロマトグラフィはSHIMADZU GC-2014にHR-SS-10 (0.25 φ x 0.25 m) (SHINWA CHEMICAL INDUSTRIES, LTD.)を取り付けて行った。
(4)RNA抽出
凍結細胞に3倍量以上のRNA抽出液と3倍量以上の酸性フェノールを加え、凍ったまま超音波破砕(超音波15秒、氷冷30秒)を4回行った。20000×g,5分間, 4℃で遠心し、上清400〜500 μLを回収した。上清に酸性フェノール 300 μL, クロロホルム 300 μLを添加し、懸濁した後、140k rpm,5分間, 4℃で遠心し、上清400〜500 μLを回収し、この操作を5回繰り返した。上清の1/10倍量の3 M 酢酸ナトリウム、1倍量のイソプロパノールを添加し、懸濁した後、20000×g,5分間, 4℃で遠心した。沈殿物に70% エタノール 1 mL加え、20000×g,5分間, 4℃で遠心し、この操作を2回繰り返した後、沈殿物を乾燥させた。乾燥した沈殿を滅菌イオン交換水 400 μLに溶解した後、1 μg/μL以上の濃度の核酸であることを確認した。核酸 40 μLに10×DNase I Buffer 5 μL, DNase I 0.5 μL, 滅菌イオン交換水 4.5 μLを加え、37℃, 30分間静置した。酸性フェノール 50 μL, クロロホルム 50 μLを添加し、懸濁した後、20000×g,10分間, 4℃で遠心し、上清 35 μLを回収した。上清の1/10倍量の3 M 酢酸ナトリウム、1倍量のイソプロパノールを添加し、懸濁した後、20000×g,10分間, 4℃で遠心した。沈殿物に70% エタノール 150 μL加え、20000×g,10分間, 4℃で遠心し、この操作を2回繰り返した後、沈殿物を乾燥させた。乾燥した沈殿を滅菌イオン交換水 50 μLに溶解した後、1 μg/μL以上の濃度のRNAであることを確認した。
(5)cDNAの調製
RNA 1 μgに10 mM dNTP 0.5 μL, 100 mM oligo dT18 0.25 μL, RNase free water 3.65 μLを添加し、65℃, 5分間処理した後、氷上に静置した。さらに5xcDNA Synthesis Buffer 2 μL, 0.1 M DTT 0.5 μL, RNase OUT 0.5μL, Thermo Script RT 0.5 μL, RNase free water 0.5 μLを添加し、50℃, 40分間, 60℃, 20分間, 85℃, 5分間 処理した。得られたcDNAは-20℃ に保管した。
(6)半定量PCR法
LA PCR x10 buffer 1.5 μL, 2.5 mM dNTP 1.2 μL, MgCl2 1.05 μL, LA Taq 0.075 μL, 5 M ベタイン 1.5 μL, DMSO 0.45 μL, 10 μM primer_F 1.5 μL, 10 μM primer_R 1.5 μL, cDNA 0.2 μL, 滅菌イオン交換水 6.1 μLを懸濁し、PCR反応に用いた。PCR反応条件は以下の2stepで行った。
step1:94℃ 3分間
step2:94℃ 30秒間, 54℃ 30秒間, 72℃ 1分間を1834サイクル
プライマーは以下のものを使用した。
DGAT1_F TGGTGGAATGCGGCTACGGT(配列番号4)
DGAT1_R TCTGTTGAGCTTCTTGCGCA(配列番号5)
DGTT1_F CTATAAGCCAAGCATGGGTG(配列番号6)
DGTT1_R GCGCCTCTGTGGCAAATGCC(配列番号7)
DGTT2_F TGGCTATGTTGACGCTCTTC(配列番号8)
DGTT2_R TCTCTGCGATGCCTCCCACG(配列番号9)
DGTT3_F AGACGGAAGCAGATGGCAGG(配列番号10)
DGTT3_R GACAAAGATGTAGCGCTTGT(配列番号11)
DGTT4_F TTCAAGGAGTGCTGTATGAG(配列番号12)
DGTT4_R GTCAGCTGCAGCGGCGTGAA(配列番号13)
DGTT5_F AGCCCGCACGGCGCCTTCCC(配列番号14)
DGTT5_R TGACGTGTACATCTCCGCAATGC(配列番号15)
UGP3_F CATGAACGTGGTGCAGGAG(配列番号16)
UGP3_R GGTTGGAGACCAGGAAGGTG(配列番号17)
SQD2a_F GGTGCAGGTGTGGAAGAAGG(配列番号18)
SQD2a_R CGTGATGATGTCGGGGATG(配列番号19)
(7)プロモーター配列の獲得
C9株のゲノムを鋳型にPCR反応を行い、プロモーター領域pSQD2a, pDGTT1を得た。得られた約1kbの配列をpMD20-T vector(TAKARA)またはpZErO-2(Invitrogen)へ導入した。
【0036】
2x GC Buffer II 5 μL, 2.5 mM dNTP 1.6 μL, C9株のゲノム 1 μL, LA Taq 0.05 μL, 10 μM primer_F 1 μL, 10 μM primer_R 1 μL, 滅菌イオン交換水 1.35 μLを懸濁し、PCR反応に用いた。
【0037】
PCR反応条件は以下の3stepで行った。
step1 94℃ 2分間
step2 94℃ 45秒間, 55℃ 30秒間, 71℃ 1分30秒間を40サイクル
step3 71℃ 5分間
【0038】
プライマーは以下のものを使用した。
DGTT1_F2 AGCAGCCACACGTAGTTGTC(配列番号20)
DGTT1_R2 CACGAGCTCTAGTTGGTTCA(配列番号21)
SQD2a_F2 CGGGATAGTTGTAGCTGTAG(配列番号22)
SQD2a_R2 CGAAGAGTTGAGGTGTGTGTTC(配列番号23)
(8)DGTT2〜4遺伝子の配列の獲得
リン欠乏時のcDNAを鋳型にPCR反応を行い、 DGTT2〜4遺伝子の全長を得た。得られた約1kbの配列をpMD20-T vector(TAKARA)またはpZErO-2(Invitrogen)へ導入した。PCR反応液の組成は半定量PCR法と同様のものとした。
【0039】
PCR反応条件は以下の3stepで行った。
step1 94℃ 3分間
step2 94℃ 30秒間, 54℃ 30秒間, 72℃ 1分間を41サイクル
step3 72℃ 3分間
プライマーは以下のものを使用した。
DGTT2_F2 ATGGCGATTGATAAAGCACC(配列番号24)
DGTT2_R2 TCAGCTGATGACCAGCGGTC(配列番号25)
DGTT3_F2 ATGGCAGGTGGAAAGTCAAACG(配列番号26)
DGTT3_R2 CTACTCGATGGACAGCGGGC(配列番号27)
DGTT4_F2 ATGCCGCTCGCAAAGCTGCG(配列番号28)
DGTT4_R2 CTACATTATGACCAGCTCCTC(配列番号29)
(9)C. reinhardtii形質転換法
TAP培地で1〜3×106 cells/mlになるまで培養したCW15株 50mLに 10%(v/v) Tween 20を50 μL添加して撹拌した。4℃, 800×g, 5分間スイングローターで遠心し、細胞を沈殿させた。上清をのぞいた後、終濃度1×108 cells/mlになるように、氷冷した40mM Sucrose/TAPに懸濁した。濃縮細胞 50 μLに0.1 mg/ml コンストラクトDNA 2 μL, キャリアssDNA(Salmon Sperm)1 μLを添加した。細胞懸濁液をエレクトロポレーション用キュベット(1 mm幅)に入れ、2000V/cm, 時定数 5 msecで1回電圧をかけた。40mM Sucrose/TAP 1 mLをキュベットへ添加し、細胞を懸濁した後、1.5 mLチューブへ移した。10〜20 μE/m2/sec, 23℃で静置した。24時間後、800× g, 5分間遠心し、細胞を沈殿させた。上清をのぞいた後、20%(w/v) コーンスターチ/40mM Sucrose/TAP 0.5 mLを添加し、10 μg/μL ハイグロマイシンを添加したTAPプレートに蒔いた。20〜30 μE/m2/sec, 23℃で静置し、生えて来たコロニーを形質転換株として新しいハイグロマイシン入りTAPプレートへ植えついだ。
【0040】
〔実験結果〕
(1)TAG/膜脂質合成系の制御検討
モデル藻類C. reinhardtiiでの脂質蓄積に関する知見として、窒素欠乏条件下で脂質が蓄積すること、脂質の中では貯蔵脂質であるTAGが蓄積すること、飽和脂肪酸の割合が増えることが報告されている(BMC Biotechnol. 2011; 11: 7.)。
【0041】
一方で本発明者らがこれまで高等植物で着目してきたリン欠乏条件下での脂質蓄積については詳細な知見は無い。そこで、窒素欠乏とリン欠乏条件下でのTAG蓄積量の比較を行った。
(2)栄養欠乏条件下でのTAG蓄積量の比較
増殖が停止しているstationary phase、増殖が盛んなlogarithmic phase、窒素欠乏条件、リン欠乏条件の比較を行った。
【0042】
logarithmic phase で窒素欠乏条件へ植え継いだ場合、油脂であるTAGの蓄積量が少なく、TAGを得るためには改良が必要であることがわかった。リン欠乏条件へ植え継いだ場合、増殖が窒素欠乏条件下ほど阻害されないこと、C16:4, C18:3などの多価不飽和脂肪酸の割合が減り、相対的に新規合成脂肪酸の割合は増えること、TAG蓄積量が多いことから、TAGの脂肪酸組成を膜脂質に含まれる脂肪酸から大きく改変するのに向いていることを見つけた(図1図2)。
(3)脂質合成鍵遺伝子の探索
Diacylglycerol acyltransferase (DGAT)はTAG生合成の最終ステップを触媒する酵素である。DGATは動物、植物に広く存在する酵素であり、DGAT1, DGAT2の2種類が報告されている。
【0043】
C. reinhardtiiでのDGATについて、公開データベース(JGI Chlamydomonas reinhardtii v4.0)を探索した結果、DGAT1が1種類、DGAT2が5種類(DGTT1-5)存在することがわかった。これらのうちDGTT1についてはN欠乏条件下でmRNA量の変化がみられること、DGTT2およびDGTT3については窒素欠乏条件下でmRNA量の変化が少ないことが報告されている(Plant physiol. 2010, Vol.154, 1737-1752)。
【0044】
C. reinhardtiiのC9株を1×10cells/mLになるようにTAP培地250mLへ植え継ぎ、 logarithmic phase(5〜6×10cells/mL)で細胞を遠心回収し、リン欠乏培地または窒素欠乏培地で洗浄した後、1×10cells/mLになるようにリン欠乏培地または窒素欠乏培地250mLへ植え継いだ。新規脂肪酸由来のTAGが蓄積され始める条件である植え継ぎ後5日目に培養液 1 mLから細胞を遠心機で回収し、-80℃に保管した後、RNAを抽出した。RNAから逆転写反応によりcDNAを得た。cDNAを鋳型にPCRで半定量的に各遺伝子発現を調べた。PCRの結果、DGAT1、DGTT1-4が発現していることが確認できた。DGTT5については発現が確認できなかった(図3)。
【0045】
C. reinhardtiiではDGAT1,DGAT2が発現していることが確認できたので、DGAT1またはDGAT2の上流に栄養欠乏条件になったときのみ強発現を誘導するプロモーターをつけ、小胞体膜で働くDGATを増やし、小胞体でのTAG蓄積を促進する方法を開発することにした。
(4)制御プロモーター探索
脂質合成鍵遺伝子の探索の時と同様にcDNAを作製し、各遺伝子発現量を比較した(図3)。比較した遺伝子はTAG生合成に関わる因子であるDGAT1およびDGAT2、本発明者らが以前に発見したSQDG生合成に関わる因子であるUGP3(Okazaki et al Plant Cell 2009)およびSQD2である。
【0046】
図3よりSQD2a,UGP3,DGTT1は栄養欠乏条件で発現上昇が確認された。このうち、SQD2aはリン欠乏条件で特異的に発現上昇が見られ、DGTT1は窒素欠乏、リン欠乏の両方の条件で発現上昇が見られた。DGAT1, DGTT2-4では顕著な発現上昇は確認されなかった。そこでSQD2aとDGTT1のプロモーター領域を制御プロモーターの候補とした。
(5)候補プロモーター(pSQD2a、pDGTT1)による鍵遺伝子制御
SQD2a、DGTT1は公開データベースでは開始コドンが決定できなかったので、cDNAをDNAシークエンスし、開始コドンを決定した。
【0047】
開始コドンを決定したので、そこから約1kb上流までをプロモーター領域pSQD2a、pDGTT1とした。
【0048】
C. reinhardtiiのゲノムを鋳型として、プロモーター領域pSQD2a, pDGTT1をPCRにより増幅した。またC. reinhardtiiのリン欠乏時のcDNAからDGTT2〜4遺伝子の配列を得た。pSQD2a, pDGTT1をDGTT2〜4遺伝子上流に接続し、pSQD2a-DGTT2〜4, pDGTT1-DGTT2〜4とした。変異株選抜用にハイグロマイシン遺伝子耐性遺伝子(HygR)を上流に接続し、HygR-pSQD2a-DGTT2〜4, HygR-pDGTT1-DGTT2〜4を得た(図6)。
(6)プロモーター(pSQD2a、pDGTT1)とDGAT遺伝子によるTAG増産
これらのコンストラクトをC. reinhardtiiへ形質転換し、ハイグロマイシンで選抜後、各変異株を2030株得た。変異株をリン欠乏条件におき半定量PCRにより各遺伝子の発現上昇が確認された株をさらに選抜した(図7図8図9)。
【0049】
各変異株から3株(図7図8図9で枠で囲んだ株)について、TAP培地, リン欠乏培地 各250 mLで培養し、TAG蓄積量を調べた(図10図11)。
【0050】
図10図11より、HygR-pSQD2a-DGTT4#18,#19においてのみリン欠乏条件下でコントロール株よりも多くのTAG蓄積がみられた。#15はコントロール株と同程度のTAG蓄積しかみられなかったので、図79で#18,#19と同等の遺伝子発現がみられていた#21を候補株として、再度TAG蓄積を確認した(図12図13)。
【0051】
図12図13よりリン欠乏条件下でHygR-pSQD2a-DGTT4株はコントロール株に比べて2〜3倍のTAGが蓄積していることを発見した。これはこれまでに報告のある藻類での強発現プロモーターを付加した油脂合成遺伝子導入による手法の45倍の蓄積であった。本手法は、植物よりもバイオマスの大きい、藻類におけるバイオディーゼル生産や有用脂質生産を実現するために、極めて有用性の高い手法である。
【0052】
さらに、リン欠乏条件下でHygR-pSQD2a-DGTT4株とコントロール株のTAGの脂肪酸組成は図14に示したように、図2と同様にC16:4, C18:3などの多価不飽和脂肪酸の割合が減り、相対的に新規合成脂肪酸の割合は増えていた。このことからTAGの脂肪酸組成を膜脂質に含まれる脂肪酸から大きく改変するのに向いていると考えられる。
【0053】
今回の発明で使用したリン欠乏応答プロモーターpSQD2は通常培養時には発現を誘導しないので、油脂蓄積のタイミングをコントロールすることができる。リン欠乏条件下で細胞増殖させながら、油脂蓄積を行わせることができるので、新規脂肪酸合成に適している。これは有用な特殊脂肪酸を蓄積させるにも有効な方法である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、TAG生産に関連する各種産業分野において利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]