【実施例】
【0042】
ニトリル化合物を含有する上述の電解液を用いれば、Li
4Ti
5O
12を電極活物質として動作させることができる。以下、具体化した実施例について詳細に述べる。
チタン酸リチウムLi
4Ti
5O
12は、石原産業製のXA-106を使用した。特性を表3に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
<電極材ペレットの製造>
上記Li
4Ti
5O
12の粉末と、アセチレンブラックと、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とを80:25:5の割合(重量比)で秤取り、乳鉢で混合した後、ホットプレス法によって円盤状の電極材ペレットを成形した。
【0045】
−評 価−
(CV測定)
上記のようにして作製した実施例の負極について、以下の条件によりサイクリックボルタンメトリーの測定を行った。
電解液はエチレンカーボネート(EC):ジメチルカーボネート(DMC):セバコニトリル=25::25:50の混合有機溶媒にNaPF
6を0.5mol/Lの濃度となるように溶解させたものを用いた。この電解液に、上記のようにして製造した円盤状の電極材ペレットを浸漬し、対極及び参照極としてNa金属を浸漬した。電位の掃引速度は5mV/秒とし、ナトリウム参照電極に対して0.4〜2.0V(リチウム参照電極換算で0.7〜2.3V)の範囲で電位掃引を行った。
【0046】
その結果、
図4に示すように、ナトリウム参照電極に対して0.4〜2.0Vの間で明確な酸化/還元電流が流れ、円盤状の電極材ペレットに含まれるLi
4Ti
5O
12は、電極活物質として充放電が可能であることが分かった。また、その酸化還元電位は、ナトリウム参照電極に対して0.9V(対リチウム参照電極で1.2V)付近に現れており、この電位はLi
4Ti
5O
12のリチウムイオンが脱離する電位(対リチウム参照電極で1.55V)よりも低いことから、ナトリウムイオン電池の電極活物質として充分動作可能であることが分かった。また、この電位はナトリウム金属の析出する電位である0.3V(対リチウム参照電極)よりも高いため、このLi
4Ti
5O
12を負極活物質として用いた場合、充電反応時にナトリウムの析出を防ぐことができ、安全性に優れたナトリウムイオン電池を構成することができる。
【0047】
<ナトリウムイオン電池の実施例>
前述のようにして作製した円盤状の電極材ペレット及びこれと同じ形状に金属ナトリウム板を打ち抜いたナトリウムペレットを用意し、電池容器としてステンレス製コインセル(SUS316L製 2032型)を用いてコイン型電池を作製した。すなわち、
図5に示すように、SUS316Lからなる有底円筒状の電極缶11と、SUS316Lからなる有底円筒状で扁平状の電極キャップ12とを用意した。
【0048】
ついで、
図6に示すように、電極缶11内に、SUS316Lからなるスペーサ13、ナトリウムペレット14及びセパレータ15を充填する。一方、電極キャップ12内に、SUS316Lからなる波座金16、SUS316Lからなるスペーサ17及び電極材ペレット18を充填する。そして、電極缶11内にニトリル化合物含有電解液を入れた後、絶縁ガスケット19を介して電極キャップ12を載置してかしめて密封してナトリウムイオン電池とする。ここで、ニトリル化合物含有電解液は下記の組成の電解液とした。
エチレンカーボネート:ジメチルカーボネート:セバコニトリル=25:25:50の混合溶媒にNaPF
6を0.5mol/Lとなるように溶解した溶液である。
【0049】
−評 価−
(充放電特性測定)
以上のように構成されたナトリウムイオン電池について、定電流における充放電特性を測定した。放電速度は0.05Cとし、放電電気量と負極電位との関係を求めた。その結果、
図7に示すように、充放電が充分可能であることが分かった。
【0050】
実施例のナトリウムイオン電池は、正極活物質をLi
4Ti
5O
12とし、負極活物質をナトリウム金属としているが、ナトリウム金属の替わりに5V(vs リチウム参照電極)程度で動作する正極(例えば4.8VのNaCoPO4等)を用いれば、Li
4Ti
5O
12は負極活物質として働き、その起電力も大きくなる(例えばNaCoPO
4の場合には4.8−1.2=3.6V)。その他、ナトリウムイオン電池用の正極活物質としては、NaNi
0.5Fe
0.5O
2やNaNi
0.5Ti
0.5O
2やNaFePO
4等を用いることもできる(
図8〜
図10参照。出典 セミナー資料「技術情報協会 リチウム2次電池における高容量化・安全性向上と材料トレンド」)
【0051】
<ナトリウムイオン電池>
この発明はナトリウムイオン電池に適用される。
ここに、ナトリウムイオン電池は電解液、正極、負極、セパレータ及びケースを備えてなる。
【0052】
(電解液)
電解液はNa塩(電解質)と有機溶媒とを含んでいる。
Na塩には、従来からNaイオン電池用のNa塩として知られているものを用いることができる。例えば、例えば、NaClO
4、NaPF
6、NaBF
4、NaCF
3SO
3、NaN(CF
3SO
2)
2、NaN(FSO
2)
2、NaN(C
2F
5SO
2)
2、NaC(CF
3SO
2)
3等が挙げられる。溶媒及び溶質の混合比は特に限定されず、目的に応じて適宜設定される。
また、各種添加剤(例えば、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、エチレンサルファイト)を0.1−3%程度入れることも好ましい。これにより、負極側で耐食性皮膜が形成され、耐食性が向上する。
【0053】
有機溶媒もNaイオン電池に用いられる一般的なものを採用できる。かかる有機溶媒とし環状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル及び鎖状炭酸エステルの中から選ばれる1種、又は2種以上が好ましい。更に好ましくは、環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルとを併用する。具体的には、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを併用することが特に好ましい。両者の配合割合は特に限定されない。環状カルボン酸エステルとしはγ−ブチロラクトンやプロピレンカーボネートを用いることができる。
鎖状カーボネートは、ジメチルカーボネートのほかに、ジエチルカーボネートやエチルメチルカーボネートを使用することができる。
更にはニトリル化合物を有機溶媒として用いることができる。ここで、ニトリル化合物としては、鎖式飽和炭化水素化合物の両末端にニトリル基が結合した鎖式飽和炭化水素ジニトリル化合物、鎖式エーテル化合物の末端の少なくとも一つにニトリル基が結合した鎖式エーテルニトリル化合物及びシアノ酢酸エステルのうち少なくとも一つのニトリル化合物を挙げることができる。
【0054】
鎖式飽和炭化水素化合物の両末端にニトリル基が結合した鎖式飽和炭化水素ジニトリル化合物としては、例えば、スクシノニトリルNC(CH
2)
2CN、グルタロニトリルNC(CH
2)
3CN、アジポニトリルNC(CH
2)
4CN、セバコニトリルNC(CH
2)
8CN、ドデカンジニトリルNC(CH
2)
10CNなどのような直鎖状のジニトリル化合物の他、2−メチルグルタロニトリルNCCH(CH
3)CH
2CH
2CN等のように分枝を有していても良い。これらの鎖式飽和炭化水素ジニトリル化合物は、炭素数は特に限定されないが、7〜20であることが好ましい。更に好ましくは10〜12である。
【0055】
鎖式エーテル化合物の末端の少なくとも一つにニトリル基が結合した鎖式エーテルニトリル化合物としては、オキシジプロピオニトリルNCCH
2CH
2−O−CH
2CH
2CNや、3−メトキシプロピオニトリルCH
3−O−CH
2CH
2CN等が挙げられる。これらの鎖式エーテルニトリル化合物は、炭素数は特に限定されないが、20以下であることが好ましい。
シアノ酢酸エステルとしてはシアノ酢酸メチル、シアノ酢酸エチル、シアノ酢酸プロピル、シアノ酢酸ブチル等が挙げられる。これらのシアノ酢酸エステルは、炭素数は特に限定されないが、20以下であることが好ましい。
【0056】
これらニトリル化合物は電解液において電位窓を特に正方向に広げる作用を奏する。
電位窓を広げる作用の観点からジニトリル化合物が好ましい。中でも、セバコニトリルの採用が更に好ましい。
ただし、ニトリル化合物は粘度が高いので、上述の鎖状炭酸エステル、環状炭酸エステル及び/又は環状カルボン酸エステルと併用することが好ましい。更に好ましくはニトリル化合物と鎖状炭酸エステル及び環状炭酸エステルとを併用する。鎖状炭酸エステルとしてはジメチルカーボネートを採用することができ、環状炭酸エステルとしてはエチレンカーボネートを採用することができる。
この場合、有機溶媒全体に占めるニトリル化合物の配合割合は1〜90容量%とすることが好ましい。更に好ましくは15〜70容量%であり、更に更に好ましくは、30〜50容量%である。
【0057】
Na塩の濃度は0.01mol/L以上であって、飽和状態よりも低い濃度とする。Na塩の濃度が0.01mol/L未満であると、Naイオンによるイオン伝導が小さくなり、電解液の電気抵抗が高くなるので好ましくない。他方、飽和状態を超えると、温度等の環境変化によって溶解しているNa塩が析出するので好ましくない。
【0058】
(正極)
正極は正極活物質と集電体とを備える。
正極活物質とは「二次電池の正極として充放電によって可逆的に酸化−還元を繰り返すことのできる物質」をいう。また、ナトリウムイオン電池の正極活物質としては、ナトリウムイオンを可逆的にインターカレート−デインターカレートできる物質であることが要求される。
このような正極活物質としては、特開2009−129741号公報に記載されているNaFeO
2、NaNiO
2、NaCoO
2、NaMnO
2、NaFe
1−xM
1xO
2、NaNi
1−xM
1xO
2、NaCo
1−xM
1xO
2、NaMn
1−xM
1xO
2(ただし、M
1は3価金属からなる群より選ばれる1種以上の元素であり、0≦x<0.5である。)で示される化合物等が挙げられる。これらのなかでも、主に鉄とナトリウムとを含有する複合酸化物であって、六方晶の結晶構造からなる複合酸化物を正極活物質として用いることにより、高い放電電圧を得ることができ、エネルギー密度の高い二次電池を得ることができる。
【0059】
上記正極活物質として、さらに好ましくは、主に鉄とナトリウムとを含有する複合酸化物であって、六方晶の結晶構造を有し、かつ該複合酸化物のX線回折分析において、面間隔2.20オングストロームのピークの強度を面間隔5.36オングストロームのピークの強度で除した値が2以下である複合酸化物である。またナトリウム化合物と鉄化合物とを含有する金属化合物混合物を、400℃以上900℃以下の温度範囲で加熱するにあたり、温度上昇中の100℃未満の温度範囲においては雰囲気を不活性雰囲気として加熱することが好ましい。
また、これらの化合物うちの遷移金属原子を他の金属原子でドープしたものでもよい。ドーパントとしては酸化還元反応において電気化学的な特性を変化させられるものであれば特に限定されるものではない。
【0060】
(集電体)
集電体とは正極活物質を担持する導電性の基板である。
正極の集電体の成形材料は、充電時において安定であることが要求される。特に、酸化還元電位の高いオリビン型結晶構造を有するリン酸塩系の正極活物質を用いるときには、Al、Ti,Ni,SUS304、SUS316,SUS316L等の耐食性に優れた導電性金属材料を用いることが好ましい。
また、AlやTi等の導電金属材料へ導電性DLC(ダイヤモンドライクカーボン)を周知の方法で被覆したものを集電体として用いることもできる。ここで、導電性ダイヤモンドライクカーボンとは、ダイヤモンド結合(炭素同士のSP
3混成軌道結合)とグラファイト結合(炭素同士のSP
2混成軌道結合)の両方の結合が混在しているアモルファス構造をとるカーボンのうち、導電性が1000Ωcm以下のものをいう。ただし、アモルファス構造以外に、部分的にグラファイト構造からなる結晶構造(すなわちSP
2混成軌道結合からなる六方晶系結晶構造)からなる相を有し、これにより導電性が発揮されるものも含まれる。グラファイトとダイヤモンドの中間の性質を有するダイヤモンドライクカーボンは、成膜時にダイヤモンドライクカーボンを構成する炭素原子のSP
2混成軌道結合とSP
3混成軌道結合の比率を調整することで、導電性を調節することができる。
勿論、上記耐食性導電性金属材料を導電性DLCで被覆してもよい。
集電体の形状及び構造は、正極活物質や電池の構造に応じて、任意に設計可能である。
【0061】
(正極の前処理)
ナトリウムイオン電池用正極は、ナトリウムイオン電池に組み込む前に、ニトリル化合物を1容量%以上含む有機溶媒中にナトリウム塩が溶解した前処理用電解液中に正電極を浸漬する浸漬処理工程を行い、さらに電極に正電圧を付与する正電圧処理工程を行なうこともできる。こうして前処理された電極は、ニトリル化合物を全く含まない電解液や、ニトリル化合物の添加量の少ない電解液を用いたナトリウムイオン電池に用いても、電位窓が広く、高い電位においても電解液を分解し難くなる。このような広い電位窓の電極となる理由は、電極上に窒素を成分として含む耐食性の皮膜が形成されるためであると推測される。
【0062】
(負極)
負極は負極活物質と集電体とを備える。
負極活物質とは「二次電池の負極として充放電によってナトリウムイオンが出入りするとともに可逆的に酸化−還元を繰り返すことのできる物質」であり、本発明においてはLi
4Ti
5O
12を用いる。
【0063】
集電体は汎用的な導電性金属材料、Cu、Al、Ni、Ti、SUS304、SUS316、SUS316L等で形成することができるが、電解液中のNa塩に応じて適宜選択する必要がある。
【0064】
(正極用電子伝導部材)
正極活物質には導電性の小さいものがある。従って、正極活物質と集電体との間に導電性の電子伝導部材を介在させて、両者の間に十分な電子伝導パスを確保することが好ましい。
ここで電子伝導部材は正極活物質と集電体との間に電子伝導パスを形成できればその形態は特に限定されるものではなく、例えばアセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト粉、ダイヤモンドライクカーボン、グラッシーカーボン等の導電性粉体(導電助剤)を用いることができる。ダイヤモンドライクカーボン及びグラッシーカーボンは、カーボンブラックやグラファイトよりもはるかに広い電位窓を有しており、高電位を付与した場合の耐食性に優れているため、好適に用いることができる。また、これらの導電助剤に電気化学反応の金属粒子が担持されていることも好ましい。金属としては、例えばPt、Ru、Rh、Pd、Ag、Ir、Au、Ni、Cu等が挙げられる。これらは、単独で用いても良いし、これらの合金であっても良い。
電子伝導材料として、正極活物質を被覆する導電性皮膜(DLC膜等)、正極活物質を埋入させた導電性薄膜(金の薄膜等)を用いることができる。
特に、正極活物質それ自身の及び/又はその表面皮膜の導電性が小さいため、これを集電体へ単に担持させてなるものではナトリウムイオン電池の正極として機能しない場合には、正極活物質の性能評価のために、これを金等の導電薄膜へハンマー等で物理的に打ち込み、電池の正極を形成することができる。
【0065】
(負極用電子伝導部材)
正極用電子伝導部材と同様な物を用いることができる。
【0066】
(セパレータ)
セパレータは電解液中へ浸漬され、正極と負極とを分離し両者の短絡を防ぐとともに、Naイオンの通過を許容する。
かかるセパレータには、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂から成る多孔質フィルムが挙げられる。
【0067】
(ケース)
ケースは電解液に対する耐食性を有する材質で形成される。その形状は、電池の目的用途に応じて任意に設計できる。
ケースが集電体を兼ねる場合や集電体に電気的に結合される場合は、各電極の集電体形成材料と同一若しくは同種の材料で形成される。
【0068】
この発明は、上記発明の実施形態の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。