(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5988239
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】蛍光測定用基板
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20160825BHJP
【FI】
G01N21/64 G
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-102994(P2012-102994)
(22)【出願日】2012年4月27日
(65)【公開番号】特開2013-231639(P2013-231639A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2015年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】501061319
【氏名又は名称】学校法人 東洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(72)【発明者】
【氏名】竹井 弘之
(72)【発明者】
【氏名】川上 拓
【審査官】
伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−096189(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/095927(WO,A1)
【文献】
特開2012−063293(JP,A)
【文献】
特開2006−349463(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62−21/65
G01N 21/41
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に吸着された誘電体からなる複数の微粒子と、前記複数の微粒子を埋包するように前記基板の表面から前記微粒子表面にかけて連続的に前記基板上に形成された金属層とを備え、前記金属層の一部は複数の突起部を有するとともに、前記複数の微粒子は粒径30nm〜1000nmであり、前記基板表面から前記金属層の平坦部までの前記金属層の膜厚は、前記粒径の100%以上で1000%までの厚さであることを特徴とする蛍光測定用基板。
【請求項2】
前記複数の微粒子は、ポリスチレンを含むポリマー、シリカ、酸化チタンのいずれかから構成されていることを特徴とする請求項1に記載の蛍光測定用基板。
【請求項3】
前記基板は、ガラス、シリコン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル樹脂のいずれかの材料で構成していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の蛍光測定用基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光分析等に用いられる蛍光測定用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光ラベルを用いた分析方法は、臨床検査の分野を始めとして多岐に渡る分野において利用されている。微量サンプル中の低濃度検体を蛍光色素で標識して測定するために、光源の高輝度化、検出装置の高感度化が進められている。また、高い量子収率の蛍光色素の選択、複数の色素分子から構成されるクラスター標識の利用、高性能カットオフフィルターによる励起光の除去等の試みがなされている。
【0003】
また、別の方法としては、近接場を用いた表面増強蛍光法がある。近接場中では光強度が増すことから蛍光色素の励起に効果的である。
【0004】
図8は、従来の蛍光色素の励起方法を示す。
図8(a)は、全反射型蛍光励起法を示す。プリズム31表面に対して凸面側からガラス内部を通して励起光32を全面反射条件下で照射することにより、プリズム表面に光がしみ出す。このしみ出したエバネッセント光33により近接場が形成される。
【0005】
図8(b)は、表面プラズモン蛍光励起法を示す。厚さ50nm程度の銀もしくは金の薄膜34が形成された高屈折率ガラス40の表面に対して、高屈折率ガラス40の凸面側から励起光32をプラズモン共鳴励起条件で照射する。すると、薄膜34の表面に伝搬型表面プラズモン35が発生し、近接場が形成される。
図8(a)の全反射型蛍光励起法と比較して、表面プラズモン蛍光励起法はより強力な近接場が形成されることから、有効であるとされている。
【0006】
また、プラズモン共鳴に関連する方法としては、局在表面プラズモン共鳴現象を用いる方法が挙げられる。
図8(c)は、局在表面プラズモン共鳴現象を用いた蛍光測定方法を示す。ガラス基板30上に形成されたサイズが100nm程度の金属ナノ構造体36に光を照射すると、入射光強度に対して数十倍以上強い電場を有する近接場が発生する。近接場中で蛍光色素を測定すると、蛍光強度が数十倍から百倍程度増強する。
【0007】
金属ナノ構造体の作製方法としては、非特許文献1に示されるように、銀表面を酸により腐食させる方法がある。また、非特許文献2に示されるように、金、銀のコロイドを基板の上に固定化する方法、非特許文献3に示されるように、電子線描画装置でナノサイズの金属パターンを形成する方法がある。
【0008】
また、局在表面プラズモン共鳴現象を用いた別の蛍光測定方法を、
図8(d)に示す。ガラス基板30上に固相化されたシリカ、ポリスチレン等の単分散のナノ粒子37の上に金、銀の金属層38を真空蒸着もしくはスパッタにより堆積するといった方法がある(特許文献1、非特許文献4参照)。なお、39は、金属層38の形成時に基板30上に堆積した金属層である。この場合、孤立した半球状のナノ粒子37上に形成された金属層38が、表面増強蛍光に有効であることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−96189号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】P.J. Tarcha et al., Applied Spectroscopy, 53, 43-48, 1999
【非特許文献2】M. Kawasaki and S. Mine, Journal of Physical Chemistry B, 109, 17254-17261, 2005
【非特許文献3】K. Alan et al., Journal of Fluorescence, 17, 7-13, 2007
【非特許文献4】Yamaguchi, T.Kaya, M.Aoyama, H.Takei, Analyst, 134, 776-783, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、上記従来の技術では、表面増強蛍光が確認されているが、いずれの場合でも増強率は数十倍程度であり、増強率が不十分である。
【0012】
さらに、構造的に以下のような、問題点を有する。
図8(a)では、プリズムのガラス界面からしみ出すエバネッセント光33を利用しているため、光学系を厳密に構築する必要があり、また、プリズムには、屈折率が高い特殊なガラスを要することから、小型、かつ低コストのシステム構築には適していない。
図8(b)の表面プラズモン蛍光励起法では、表面プラズモン共鳴は、共鳴条件の満たされた角度で光が入射したときだけ発生するので、光学系を非常に厳密に構築する必要があり、やはり、小型かつ低コストのシステム構築には適していない。
【0013】
一方、
図8(c)や(d)のように、局在表面プラズモン共鳴現象を用いる方法は、励起光の照射条件が厳密でなく、貴金属ナノ粒子に吸着した被検体を任意の方向から励起し、任意の方向から検出すれば良いため、光学系には厳密さが求められない利点がある。
【0014】
また、非特許文献4に示されるように、
図8(d)の方法では、基板の材質及び面の平坦性、および微粒子の材質にはさほど影響を受けないことから、安価な量産に適した材料を選択することができるという利点もある。
【0015】
しかし、局在表面プラズモン共鳴現象を利用する
図8(c)や(d)の場合は、各金属ナノ粒子は、相互に接触することなく、孤立していなくてはならず、構造が脆弱である。他の物体と極僅かに接触するだけで、剥がれや損傷を受けてしまう欠点を有する。
【0016】
本発明は、上述した課題を解決するために創案されたものであり、蛍光分析に十分な表面増強率を有し、かつ強固な構造を有する蛍光測定用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明の蛍光測定用基板は、基板上に吸着された
誘電体からなる複数の微粒子と、前記複数の微粒子を埋包するように
前記基板の表面から前記微粒子表面にかけて連続的に前記基板上に形成された金属層とを備え、前記金属層の一部は複数の突起部を有する
とともに、前記複数の微粒子は粒径30nm〜1000nmであり、前記基板表面から前記金属層の平坦部までの前記金属層の膜厚は、前記粒径の100%以上で1000%までの厚さであることを主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、複数の微粒子を内包するように、金属層を連続的に形成しているので、伝播型表面プラズモン共鳴よる表面増強効果を得ることができる。また、連続的に形成された金属層は突起部を複数有しているので、局在型プラズモン共鳴による表面増強効果を得ることができる。このように、伝播型表面プラズモン共鳴とよる表面増強効果と局在型プラズモン共鳴よる表面増強効果の相乗効果により、微量サンプル中の低濃度検体を測定する場合であっても、十分な信号強度を得ることができる。
【0019】
また、金属層は複数の微粒子を埋包するように連続的に基板上に形成されているので、この金属層により、各微粒子が基板上に強固に固定され、強靭な構造の蛍光測定用基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の蛍光測定用基板の構造を示す断面図である。
【
図2】本発明の蛍光測定用基板の作製方法を示す図である。
【
図3】蛍光測定用基板の金属層の膜厚と蛍光強度との関係を示す図である。
【
図4】蛍光測定用基板の金属層の膜厚と蛍光強度との関係を示す図である。
【
図5】本発明の蛍光測定用基板からの信号強度とガラス基板上からの信号強度の比較を示す図である。
【
図6】微粒子の粒径以上に金属層を堆積した場合でも、微粒子が完全に埋もれて金属層が平坦にならないことを示す走査型電子顕微鏡写真による図である。
【
図7】基板から剥離された金属層が付着した微粒子の走査型電子顕微鏡写真による図である。
【
図8】全反射型励起蛍光測定法、伝播型表面プラズモン励起蛍光測定法、局在型表面プラズモン共鳴測定法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。構造に関する図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0022】
本発明では、伝播型表面プラズモン共鳴と局在型表面プラズモン共鳴のカップリングを可能とする構造を用いることにより、増強率の増大および構造の強靭性の向上を図った。この蛍光測定用基板の構成を
図1に示す。
【0023】
蛍光測定用基板は、
図1(a)に示されるように、基板1の表面上に金属層3が所定の厚みを持って形成されている。金属層3の表面は凹凸が形成されており、突起部4が複数形成されている。
【0024】
図1(a)の金属層3の内部は、
図1(b)に示すようになっている。基板1の表面には、複数の微粒子2が吸着されて固相化されており、この微粒子2をすべて覆うように、基板1の表面上に金属層3が堆積される。このため、金属層3は、微粒子2をすべて埋包(内包)するように形成されるが、微粒子2が基板1に吸着したときの配置による凹凸が、そのまま堆積した金属層3の突起部4として現れる。
【0025】
また、後述するが、金属層3の膜厚が微粒子2の粒径以上、例えば数倍であっても微粒子2上に堆積された金属層3は、平坦にはならず、
図1のように突起部4が形成され、凹凸が形成される。ここで、金属層3の膜厚又は蒸着厚さという場合は、
図1(b)のhで示されるように、基板1の表面から堆積された金属層3の基板1端部における平坦面までの高さに相当する。また、金属層3の膜厚又は蒸着厚さhは、
図1(b)に示すように、微粒子2の頂点から突起部4の頂点までの高さにも相当する。
【0026】
図1のように、金属層3を微粒子2を覆うように連続的に形成することにより、この連続薄膜の表面に伝播型プラズモン共鳴を発生させることができる。一方、微粒子2をすべて覆うように金属層3を堆積することにより、金属層3からなる連続薄膜に凹凸が形成される。この凹凸の突起部4が、局在表面プラズモンの励起に寄与し、局在型表面プラズモン共鳴を発生させることができる。これにより、伝播型表面プラズモン共鳴と局在型表面プラズモン共鳴のカップリングを実現できる。
【0027】
ここで、基板1としては、ガラス、石英、シリコン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル等の樹脂平板基板が適しているが、紙、金属でも良い。また、防水処理が施された木材、皮、角、貝殻などの生物由来の材質でも構わない。さらに、巨視的に見て、平坦な基板ではなくとも良く、線維状もしくは球状の形状を有していていても構わない。
【0028】
また、基板1上の固相面に吸着させる微粒子2としては、シリカ、ポリスチレン、酸化チタン等の誘電体からなるナノ粒子が用いられる。微粒子2に誘電体を用いることで、より高い表面増強効果が期待できる。
【0029】
金属層3には、金、銀、白金、アルミ、銅等を用いることができるが、材料としては金、銀、白金等の貴金属が望ましい。
【0030】
次に、
図2は、
図1の蛍光測定用基板の作製方法を示す。
図2(a)のように、シリカもしくはポリスチレン等の誘電体による微粒子2を基板1の固相面に単層で吸着させ、
図2(b)のように、真空蒸着もしくはスパッタリングにより金属3Aを微粒子1に堆積する。金属は、微粒子1上に帽子のように堆積する貴金属3Aと、基板1上に堆積する貴金属3Bとが発生する。
【0031】
図2(b)から、さらに時間をかけて金属を堆積させると、
図2(c)のように、金属3Aは、微粒子2の中心よりも下側まで付着し、金属3Bの厚みも大きくなる。そして、最終的には、
図2(d)に示されるように、各微粒子2上に堆積された金属3Aと基板上に堆積された金属3Bは相互に接続して、連続した金属層3となる。このように、金属層3は、各微粒子2を完全に内包した状態で、基板1上に堆積され、金属層3の表面には凹凸が形成される。金属層3の表面の凹凸は、微粒子2による凹凸の形状に対応した形で現れる。
【0032】
次に、
図1の蛍光測定用基板作製の実施例を示す。実施例では、基板1としてガラス基板を、微粒子2としてシリカナノ粒子を用い、ガラス基板上にシリカナノ粒子を吸着させる方法を説明する。
【0033】
まずガラス基板表面の水酸基を利用したシランカップリング処理を行う。アミノプロピルトリエトキシシラン(重量比0.1〜1%)の水溶液を用意し、ガラス基板を5秒から5分間浸漬する。
【0034】
ガラス基板表面の処理終了後には、シリカナノ粒子(重量比0.1〜5%)を表面に滴下する。無塵条件下にて、10秒〜5分間静置する。次に、過剰量のシリカナノ粒子を除去するために、精製水にて十分に洗浄し、基板を乾燥する。すると、ガラス基板上にシリカナノ粒子が単層で吸着された構造が得られる。
【0035】
次に、シリカナノ粒子表面に金属を堆積する方法として、真空蒸着法を用いた方法により説明する。金属としては、貴金属の銀が最も望ましいが、金、銅、白金を用いても良い。ガラス基板を真空蒸着装置内部に設置し、チャンバーの真空引きを行う。10
−3パスカルの真空度を達成後、毎秒1Å〜10Åの割合で蒸着を開始する。ガラス基板表面から銀薄膜の端部における平坦部までの蒸着厚は、シリカナノ粒子の粒径に対して、30%〜1000%とする。これにより、蛍光測定用基板が得られる。
【0036】
以上のように形成された蛍光測定用基板は
図1のような構成となるので、表面増強蛍光法に用いることにより、伝播型表面プラズモン共鳴と局在型表面プラズモン共鳴のカップリングを実現でき、最も重要な効果として、増強率の向上が図れる。他方、貴金属が各微粒子間の隙間にも堆積され、かつ連続した貴金属層となり、各微粒子を埋め込むように基板上に形成されるので、強固な構造の蛍光測定用基板が構成される。
【0037】
図3は、微粒子2として粒径100nmのシリカ微粒子を用い、これに金属層3としてさまざまな厚さの銀を蒸着し、1mMのローダミン6Gを滴下してから、波長520nmの励起光で蛍光を観察した結果を示す。縦軸に蛍光強度を横軸に蒸着厚(nm)を示す。ここでの蒸着厚さとは、
図1の高さhに相当する膜厚である。
【0038】
ところで、特許文献1では、文献中の
図4〜
図8に示されているように、15nm以下の厚さの銀薄膜を形成した際に、増強率が最適化されることが示されている。ここでの膜厚は、微粒子上に形成された帽子状の銀薄膜の厚みを示しており、本発明における堆積厚さhではない。
【0039】
一方、
図3に示されるように、蒸着により、膜厚hが30nm〜50nm程度に銀薄膜を形成した蛍光測定用基板は、確かに表面増強蛍光法に有効である。特に、30nm程度の膜厚により、微粒子2の全体が連続的に形成された金属層3により覆われ、埋包されることになるので、表面増強の効果が大きくなる。微粒子の粒径が100nmであるから、微粒子粒径の30%の金属層膜厚により、微粒子が埋包される。
【0040】
また、蒸着厚を80nm以上に増大させることにより、増強効果がさらに増幅されることが
図3よりわかる。蒸着厚が80nm〜90nmで蛍光強度が若干小さくなった後に、蒸着厚が100nm以上になると、蛍光強度が加速度的に増加している。膜厚1000nm程度まで、蛍光強度が高くなっており、特に膜厚300nm〜900nmの範囲では、蛍光強度は高い。
図3より、金属層厚さが1000nmでも蛍光強度が強く効果があることから、微粒子の粒径100nmの10倍(1000%)に相当する膜厚まで形成しても良いことがわかる。
【0041】
図4は、微粒子2として粒径50nmと150nmのシリカ微粒子を各々用いた。それぞれぞれの粒径のシリカ微粒子に、金属層3としてさまざまな厚さの銀を蒸着し、1mMのローダミン6Gを滴下してから、波長520nmの励起光で蛍光を観察した結果を示す。縦軸に蛍光強度を横軸に蒸着厚(nm)を示す。ここでの蒸着厚さとは、
図3と同様、
図1の高さhに相当する膜厚である。また、斜線の棒グラフの方が粒径50nmを、白抜きの棒グラフの方が粒径150nmを示す。
【0042】
図4に示されるように、膜厚30nm以上の銀薄膜を形成した蛍光測定用基板は、蛍光強度が強くなっており、確かに表面増強蛍光法に有効である。粒子径50nmの場合は金属層厚さ15nm程度から、粒子径150nmの場合は金属層厚さ45nm程度から、微粒子2の全体が連続的に形成された金属層3により覆われ、埋包されることになり、表面増強の効果が大きくなる。図示はしていないが、それぞれの粒子径の微粒子に対して、上記の金属層厚さから蛍光強度が高くなる傾向がある。また、粒径に対する金属層厚さの割合は、それぞれ30%となっており、微粒子粒径の30%の金属層膜厚により、微粒子が埋包されることになる。
【0043】
また、
図4より、金属層厚さが500nmでも蛍光強度が強く効果があることから、微粒子の粒径50nmについては、その粒径の10倍(1000%)に相当する膜厚まで形成しても良いことがわかる。これは、粒径150nmの場合についても同様、その粒径の10倍に相当する膜厚まで形成しても良い。
【0044】
次に、本発明の蛍光測定用基板が、表面上に何も形成されていないガラス基板のみと比較して、蛍光信号強度が増加する様子を
図5に示す。
図5(a)は、色素濃度(ローダミン6G)が1mMの場合を、
図5(b)は色素濃度(ローダミン6G)が10μMの場合を示す。銀薄膜の膜厚は、300nmに形成した。ガラス基板のみの場合と比較して、蛍光強度が大きく増加しており、
図5(a)の場合では数十倍、
図5(b)の場合では数倍に増加している。
【0045】
また、蒸着厚hが微粒子2の粒径以上であっても、微粒子2が存在する領域で金属層3が平坦にならないことを
図6に示す。
図6の(a)、(b)、(c)は、それぞれ、膜厚hが100nm、500nm、1000nmの銀薄膜を粒径100nmのシリカナノ粒子に蒸着することにより得られた画像を示す。これらの画像からわかるように、膜厚hが大きくなっても、金属層3は平坦にならず、シリカナノ粒子による凹凸が失われないことがわかる。
【0046】
本発明における構造をより明確に示すために、基板から剥離された微粒子について、ナノ構造の走査型電子顕微鏡写真を
図7に示す。
図7(a)と(b)は、それぞれ蒸着厚さが500nm、1000nmの場合である。連続した金属薄膜と微粒子が一体化したままの形式で、剥離されていることが分かる。従来の相互に接触せずに孤立した金属ナノ粒子の場合と比較して、本発明の蛍光測定用基板は、強靭であり損傷され難い構造であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の分光用基板は、環境モニタリング、品質管理、臨床検査等に適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 基板
2 微粒子
3 金属層
3A 金属
3B 金属