特許第5988259号(P5988259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5988259
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】導電性走査型プローブ顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   G01Q 60/12 20100101AFI20160825BHJP
   G01Q 60/40 20100101ALI20160825BHJP
【FI】
   G01Q60/12
   G01Q60/40
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-54173(P2012-54173)
(22)【出願日】2012年3月12日
(65)【公開番号】特開2013-186106(P2013-186106A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2015年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508296738
【氏名又は名称】富士電機機器制御株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125450
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 広明
(74)【代理人】
【識別番号】100130960
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 正之
(72)【発明者】
【氏名】井上 慧
(72)【発明者】
【氏名】寺西 秀明
【審査官】 後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/013371(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0127926(US,A1)
【文献】 特開平08−062229(JP,A)
【文献】 特開平11−258249(JP,A)
【文献】 特開2000−284025(JP,A)
【文献】 特開平03−114126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01Q 10/00−90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象である試料片を載置するための試料ステージと、
該試料片の表面の少なくともある位置に接触または近接させるための先端部を有する導電性探針と、
前記試料片および該導電性探針のいずれかまたは双方に電気的に接続され、前記表面において、前記先端部と前記試料片との間に電流を流すための電流生成部と、
前記試料片および前記導電性探針のいずれかまたは双方に電気的に接続され、前記先端部と前記試料片との間に生じる電圧値を測定して測定電圧値を得て、該測定電圧値を示す信号を出力する電圧測定部と、
受信した該信号の示す測定電圧値を基準下限電圧値と比較することにより前記電流生成部の電流出力動作を制御する動作制御部であって、前記信号の示す測定電圧値が基準下限電圧値を下回らなかったと判定したとき前記電流生成部に電流出力動作を継続させ、前記信号の示す測定電圧値が前記基準下限電圧値を下回ったと判定したとき前記電流生成部に電流出力動作を停止させる、動作制御部と
を備えてなる
導電性走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
前記動作制御部は、前記電流生成部に、ある一定の電流値、またはある範囲に含まれる電流値の連続的または間欠的な電流出力動作を継続させ、前記測定電圧値が前記基準下限電圧値を下回ったと判定したとき電流出力動作を停止させるものである
請求項1に記載の導電性走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
前記試料ステージおよび前記導電性探針のいずれかまたは両方に機械的に係合しており、前記試験片の前記表面に対する前記先端部の位置座標を定めるための駆動機構
をさらに備えており、
前記動作制御部は該駆動機構を制御するものであり、
前記動作制御部は、前記位置座標を第1の座標とするよう前記駆動機構を動作させて、該第1の座標において前記電流生成部に前記電流出力動作を実行させ、前記測定電圧値が前記基準下限電圧値を下回ったと判定したことに応じて、前記電流生成部に前記電流出力動作を停止させ、そして、前記位置座標を前記第1の座標とは異なる第2の座標とするよう前記駆動機構を動作させるものである
請求項2に記載の導電性走査型プローブ顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性走査型プローブ顕微鏡に関する。さらに詳細には本発明は、被測定試料の電圧−電流特性を測定する導電性走査型プローブ顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細い針の先端部により被測定試料(以下単に「試料」という)の表面を走査しながら、表面の情報を画像化する走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope、以下「SPM」という)が開発されている。走査型プローブ顕微鏡では様々な測定モードが利用されており、最も代表的なものの一つが原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope、「AFM」)である。AFMにおいては、カンチレバーなどとも呼ばれる探針を試料表面に一定の力により押さえつけながらその探針を走査させることにより測定が行なわれる。特に、導電性材料により被覆したり導電性材料により作製された探針と試料との間に電圧を印加することにより、電圧に対する電流値の特性つまり電圧−電流特性を測定できる手法が、コンダクティブAFMである。コンダクティブAFMの概略図を図1に示す。コンダクティブAFMなどの導電性の探針を採用するSPMを、導電性走査型プローブ顕微鏡とも呼ぶ。コンダクティブAFM700は、概して、試料ステージ704、導電性探針706、電圧生成部708、保護抵抗710、電流測定部712、そして、動作制御部720を備えている。試料ステージ704は、測定対象である試料片702を載置するために利用される。導電性探針706は、試料片の表面702aの少なくともある位置に接触または近接させるための先端部706Tを有している。
【0003】
コンダクティブAFM700では、AFMによる原子間力の平面分布である形状像を取得しうることに加え、導電性探針706と、導電性探針706が接触している試料片702の表面702aとの間に流れる極微小の電流測定値を各平面位置の測定点にて取得することより、各測定点の上記電圧−電流特性を計測することができる。このため、コンダクティブAFM700は、例えば試料ステージ702が導電性の材質により作製され、電流の値の平面分布を電流像として描くこともできる。通常、コンダクティブAFM700において測定対象とされるのは、半導体や導電性の低い試料、酸化膜などの絶縁膜である。
【0004】
特許文献1(特開平4−361110号公報)には、試料、探針の間に印加するバイアス電圧をバイアス電圧制御回路により高周波として変化させる手法が開示されている。また、特許文献2(特開平7−066250号公報)には、導電性プロ−ブとシリコン酸化膜の表面とを接触させた後、接触帯電量の経時変化を測定する原子間力顕微鏡が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−361110号公報、例えば要約
【特許文献2】特開平7−066250号公報、例えば要約
【特許文献3】特開2002−296168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図1に示したようなコンダクティブAFMにより電圧−電流特性を測定したり形状像を取得する場合、探針の先端部の径(探針径)や形状、伝導性を測定工程の期間にわたり正しく健全に維持することは、測定精度を確保するために必要である。
【0007】
ここで、一般に、半導体、導電性の低い試料、酸化膜などの絶縁膜といった膜といった測定対象の試料において電圧−電流特性を測定すると、低電圧側には電流が殆ど流れない領域があらわれ、ある電圧を越えると電流値が急激に増大する、という特性が得られる。その際、電流が流れ始める電圧や電圧−電流特性は一片の試料片においても面内分布を示す。図2に、試料片702として絶縁膜が形成された表面702aを対象にして従来のコンダクティブAFM700により取得した電圧−電流特性の模式的グラフを示す。図2(a)は、一片の試料片702の絶縁膜において、電流が流れ始める電圧が高い測定点(曲線C1)と、電流が流れ始める電圧が低い測定点(曲線C2)の電圧−電流特性の模式図を示すものである。電圧−電流特性は、通常、電圧の絶対値を増大させながら電流値が測定される。図2(b)は、探針の金属被膜が無くなったり、探針が損傷または破壊されたりした場合に測定される電圧−電流特性(曲線C0)の模式図を示す。図2(a)と図2(b)の縦横軸は同一スケールにより描いたものである。
【0008】
曲線C1およびC2に示すように、電圧−電流特性は、予め決定された電圧印加範囲が、例えば0〜Vmax(V)の範囲にて測定される。そして試料片702のある測定点の電圧−電流特性において電流値が急激に増大した場合において、その電流が図1に示したコンダクティブAFM700の電流測定部712に含まれる検出アンプの測定範囲の上限を超える電圧の範囲では、その上限値が出力される。例えば曲線C1のようにある電圧Vから電流が流れはじめると、ごくわずかな電圧範囲で有効な電流値が測定され、電圧Vよりわずかに高い電圧Vになると電流の測定上限値Imaxになって飽和する。その後、電圧の上限値Vmaxまでその電流の上限値Imaxが計測値として出力される。
【0009】
ところが、試料片702と導電性探針706との間の現実の電流値は、計測値である電流値Imaxよりも遙かに大きい。このため、先端部706T近傍の微小な領域に集中する電流が導電性探針706の健全性に悪影響を及ぼしてしまう。この悪影響の原因を本願の発明者が検討したところ、探針706の先端部706Tと表面702aとの間の等価的な抵抗成分に大きな電流が流れることにより生じる発熱(ジュール熱)が原因であることを見出した。この電流はナノアンペア程度またはそれ以下の微小な電流である。しかし、探針706の先端部706Tという局所的な領域を流れる電流であることから、探針の先端部を被覆したり先端部をなしている金属を溶融させることさえある。その結果、探針706の先端部706Tは導電性を失い、精密に形成された形状を保てなくなる。探針の金属被膜が剥れたり、探針自身を激しく損傷したり、もしくは破損してしまうことを、以下「探針の損傷」という。そこまでの激しい変化を生じない場合であっても、先端部706Tへの電流が過大であれば、探針の耐久性が低下してしまう(「探針の劣化」)。探針の劣化は、曲線C1のように、検出アンプの測定範囲の上限を超えるような測定する限り問題となる。曲線C2のように、より低い電圧Vで電流が流れはじめる試料片または測定点では、電圧Vになって測定される電流値が飽和していても、曲線C1よりもさらに大きな電流が流れることがある。そうなれば、即座に探針の損傷が生じかねない。そして、探針が損傷すると、探針の導電性が失われ、図2(b)の曲線C0に示したように電圧−電流特性を測定することができなくなる。その場合には、探針の損傷は激しいものであるため、形状像も測定することができない。探針の劣化や損傷が生じると、探針の交換や再調整が必要なり、精密に作製された高価な探針や、労力の無駄のために、電圧−電流特性の測定作業に大きな支障となっている。
【0010】
さらに、曲線C1と曲線C2の特性のように大幅に異なる電圧−電流特性が一片の試料片702の面内に共存している場合には、別の問題も生じる。コンダクティブAFM700を利用する場合、一般的には、試料の形状を測定したのち、任意の点に対して電圧を印加し電流特性を取得する方法、もしくは測定対象となる面を機械的にスキャンさせて形状測定と同時に電流特性を取得するマッピング法が採用される。従来のマッピンク法においては、面的な広がりのある試料の面を走査するために、まず、指定した電圧または電圧範囲を試料表面の一点に印加し、その測定点の電流特性を得る。次いで、測定点を次の点に移動させる、というステップを繰り返す。
【0011】
図3に従来のコンダクティブAFMを利用し取得した絶縁膜の電圧−電流特性マッピングの模式図を示す。矢印と破線は、探針の走査を示している。マッピング法の場合には探針走査と同時に一点ごとに電圧を印加して、電圧−電流特性を測定している。黒丸により示すのは図2(a)における例えば曲線C1に類似の特性を示す測定点であり、電圧−電流特性を異常なく取得することができている。そしてX印の測定点にて曲線C2のような特性、つまり、電流の流れやすい特性となったとする。このような測定点の部分を以下、「脆弱部」という。そして白丸により示すのは図2(b)に示した曲線C0のような測定値が得られる測定点である。このような測定点では、その走査において電圧−電流特性を取得することができなくなる。このように、上記のマッピング法の走査において、一度X印の点において、過大な電流が探針に流れて探針706が破損すると、その後の各測定点において正常に測定することができなくなる。また、探針706が破損せずに電圧−電流特性が測定されたとしても、探針706が劣化してしまえば信頼のおける測定とは言いがたい。
【0012】
特に問題となるのは、走査を伴う測定において曲線C2の測定点のような脆弱部を測定すると、探針706の損傷に直結することに加え、脆弱部に遭遇してはじめて脆弱部の存在に気づくことができることである。測定したい電圧−電流特性を測定する際に探針706の損傷を防止しようとすると、事前に電圧−電流特性を得ていなくてはならないという矛盾があるのである。また、仮に曲線C2のような脆弱部が存在することを予測し得たとしても、曲線C2に合わせて電圧範囲を決定するだけでは、曲線C1のような測定点では電圧−電流特性として測定目的を十分に達成することができない。曲線C2に合わせた電圧範囲では、曲線C1の測定点において電流が流れはじめる前に測定が終了するためである。さらに、探針706が劣化した場合には、探針706が劣化していることそれ自体に気づくことも難しいというのが実情である。
【0013】
なお、特許文献3(特開2002−296168号公報)には、コンタクトモードで試料1の凹凸像およびカンチレバーの電流像の測定時には、バイアス電圧切替回路から低バイアス電圧が試料に加えられ、試料や探針等の損傷が防止されることが開示される(例えば、特許文献3、要約)。しかし、特許文献3のようにバイアス電圧を切り替えるだけで探針の損傷が防止できるのは、試料の電圧−電流特性がある程度予測できる場合に限られる。
【0014】
本発明は、上記課題の少なくともいくつかを解決することを課題とする。本発明は、事前に特性を予測しにくい試料を測定対象とする場合であっても、上述したような探針の損傷を防止し劣化を抑制することにより、電圧−電流特性の測定作業の実用性を高めた導電性走査型プローブ顕微鏡を実現することに貢献する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を吟味した結果、本願の発明者らは、上記各問題が、電圧−電流特性を測定する際に測定の範囲を電圧範囲により決定していることに起因しているものと考えた。特に、測定対象となる試料の特性によっては、電流が急激に増大しはじめる電圧はそれ自体が測定されるべき特性であって予測が困難である。それにも関わらず、電圧範囲を予め指定した上で電圧−電流特性を測定する限り上記各問題の回避は難しい。
【0016】
そして測定手順を吟味した結果、本願の発明者は、過剰な電流が流れる前に流れる電流を検知して電圧印加や電圧の増大をストップさせれば、探針の損傷や劣化を抑止しつつ目的とする測定を実行しうるとの結論に至った。
【0017】
すなわち、本発明のある態様においては、測定対象である試料片を載置するための試料ステージと、該試料片の表面の少なくともある位置に接触または近接させるための先端部を有する導電性探針と、前記試料片および該導電性探針のいずれかまたは双方に電気的に接続され、前記先端部と前記試料片との間に電圧を印加するための電圧生成部と、前記試料片および前記導電性探針のいずれかまたは双方に電気的に接続され、前記先端部と前記試料片との間を流れる電流値を測定して測定電流値を得て、該測定電流値を示す信号を出力する電流測定部と、受信した該信号の示す測定電流値を基準上限電流値と比較することにより前記電圧生成部の電圧出力動作を制御する動作制御部であって、前記信号の示す測定電流値が前記基準上限電流値を超えなかったと判定したとき前記電圧生成部に電圧出力動作を継続させ、前記信号の示す測定電流値が前記基準上限電流値を超えたと判定したとき前記電圧生成部に電圧出力動作を停止させる、動作制御部とを備えてなる導電性走査型プローブ顕微鏡が提供される。
【0018】
また、本発明のある態様においては、測定対象である試料片を載置するための試料ステージと、該試料片の表面の少なくともある位置に接触または近接させるための先端部を有する導電性探針と、前記試料片および該導電性探針のいずれかまたは双方に電気的に接続され、前記先端部と前記試料片との間に電圧を印加するための電圧生成部と、前記試料片および前記導電性探針のいずれかまたは双方に電気的に接続され、前記先端部と前記試料片との間を流れる電流値を測定して測定電流値を得て、該測定電流値を示す信号を出力する電流測定部と、受信した該信号の示す測定電流値を基準上限電流値と比較することにより前記電圧生成部の出力電圧値を制御する動作制御部であって、前記信号の示す測定電流値が前記基準上限電流値を超えなかったと判定したとき前記電圧生成部による電圧出力動作を当該判定の直前の出力電圧値から更新した出力電圧値により継続させ、前記信号の示す測定電流値が前記基準上限電流値を超えたと判定したとき当該判定の直前の出力電圧値を更新せずにそのまま前記電圧生成部に出力させる、動作制御部とを備えてなる導電性走査型プローブ顕微鏡が提供される。
【0019】
本発明の上記態様において基準上限電流値とは、例えばユーザーが設定するなどの方法によって予め決定されている電流値であって、その電流値を基準として、電圧生成部の動作を停止させたり、出力電圧の更新をさせないようにするように動作を切り替えるための判定基準となる電流値である。このような基準上限電流値は、ある程度の余裕を見込んで設定されるため、その値を超えたからといって、即座に探針が損傷したり劣化する、というようなものとは限らない。つまり基準上限電流値は、典型的には、探針の損傷はもとより、探針の劣化をもたらさないように余裕が見込まれたものとすることができる。また、測定の目的によっては、探針の損傷を防止する事のみを主眼に、ある程度探針の劣化を許容する値に設定することも上記態様の基準上限電流値を設定する態様の一つである。
【0020】
さらに、動作制御部は、例えば制御用コンピュータなどのように、演算装置と記憶装置とを利用してプログラムに基づいて制御のための情報処理の機能として実現される。
【0021】
上記各態様において留意すべきは、測定電流値が基準上限電流値を「超えなかったと判定したとき」とは、測定電流値が基準上限電流値を「超えなかったとき」と類似しているものの同一でなはない点である。具体的には、測定電流値が基準上限電流値を超えなかったと動作制御部が「判定した」ときとは、実際に測定電流値が基準上限電流値を超えなかったことのほか、測定電流値が基準上限電流値を超える事象が生じていても、超えなかったと動作制御部が判定したときを含んでいる。この事情は、「測定電流値が基準上限電流値を超えたと判定したとき」についても同様である。また、継続とは、途切れなく連続出力しているときは、同様に途切れることなく出力し続けることをいう。ただし、出力と停止という断続的動作を繰り返すような動作により測定が継続される場合には、その断続的動作の繰り返しを引き続き実行し続けることを、継続しているものとする。
【0022】
さらに、本発明のある態様においては、測定対象である試料片を載置するための試料ステージと、該試料片の表面の少なくともある位置に接触または近接させるための先端部を有する導電性探針と、前記試料片および該導電性探針のいずれかまたは双方に電気的に接続され、前記表面において、前記先端部と前記試料片との間に電流を流すための電流生成部と、前記試料片および前記導電性探針のいずれかまたは双方に電気的に接続され、前記先端部と前記試料片との間に生じる電圧値を測定して測定電圧値を得て、該測定電圧値を示す信号を出力する電圧測定部と、受信した該信号の示す測定電圧値を基準下限電圧値と比較することにより前記電流生成部の電流出力動作を制御する動作制御部であって、前記信号の示す測定電圧値が基準下限電圧値を下回らなかったと判定したとき前記電流生成部に電流出力動作を継続させ、前記信号の示す測定電圧値が前記基準上限電流値を超えたと判定したとき前記電圧生成部に電流出力動作を停止させる、動作制御部とを備えてなる導電性走査型プローブ顕微鏡が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明のいずれかの態様の導電性走査型プローブ顕微鏡においては、探針の損傷、探針の劣化の防止と電圧−電流特性の測定とを両立させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】導電性走査型プローブ顕微鏡の1種であるコンダクティブAFMの概略図である。
図2】従来のコンダクティブAFMにより試料である絶縁膜から取得した電圧−電流特性の模式的グラフである。
図3】従来のコンダクティブAFMで取得した絶縁膜の電圧-電流特性マッピングの模式図である。
図4】本発明のある実施形態における導電性プローブ顕微鏡の構成を示すブロック図である。
図5】本発明のある実施形態における導電性SPMの一例の動作を示すフローチャートである。
図6】本発明のある実施形態における導電性SPMが走査して測定する表面の各測定点の様子を示す模式平面図である。
図7】本発明のある実施形態における本実施形態の導電性SPMの一例の動作を示すフローチャートである。
図8】本発明のある実施形態における導電性SPMが動作を切り替えて電圧−電流特性を測定する様子を示すグラフである。
図9】本発明のある実施形態における導電性SPMにより、試験片のある測定点において、時間の経過にあわせて測定が進行する様子を示すグラフである。
図10】本発明のある実施形態におけるコンピュータにより導電性SPMの動作を制御する場合において、ユーザーに提示される画面表示および電圧調整受付部の構成例を示す説明図である。
図11】本発明の実施形態における時間の経過に応じて試験片と先端部の間の電気抵抗が低下する様子を、測定経過時間を横軸にとって示したグラフである。
図12】本発明の別の実施形態における本発明の第2実施形態における導電性SPMの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る導電性走査型プローブ顕微鏡の実施形態を図面に基づいて説明する。当該説明に際し特に言及がない限り、全図にわたり共通する部分または要素には共通する参照符号が付されている。また、図中、各実施形態の要素のそれぞれは、必ずしも互いの縮尺比を保って示されてはいない。
【0026】
[1 第1実施形態]
[1−1 構成]
図4は、本実施形態の導電性プローブ顕微鏡1000(「導電性SPM1000」という)の構成を示すブロック図である。導電性SPM1000は、概して、試料ステージ104、導電性探針106、電圧生成部108、電流測定部112、そして、動作制御部120を備えている。試料ステージ104は、測定対象である試料片102を載置するために利用される。導電性探針106は、試料片の表面102aの少なくともある位置に接触または近接させるための先端部106Tを有している。電圧生成部108は、試料片102および導電性探針106のいずれかまたは双方に電気的に接続され、先端部106Tと試料片102との間に出力電圧値VOUTを印加する。このような電気的接続を可能とするために、試料ステージ104は、例えば導電性材料により作製される。電流測定部112は、試料片102および導電性探針106のいずれかまたは双方に電気的に接続され、先端部106Tと試料片102との間を流れる電流値を測定して測定電流値Iを得て、その測定電流値Iを示す信号SIを出力する。なお、電流測定部112に対する過剰な電流を制限するための保護抵抗110が測定回路に含まれている。ただし、保護抵抗110は、電流測定部112に不測の過大な電流値が流れることを防止する程度の低い抵抗値のものであり、探針の損傷や劣化を防止することには寄与しない。本実施形態の説明において、電圧生成部108の出力電圧値VOUTの極性(正負)には特に限定はない。以下の説明においては、出力電圧値VOUTを正負のいずれかに限定しても一般性が失われないため正に限定して説明する。極性を反転させた場合においても同様に実施することが可能である。
【0027】
動作制御部120は、受信した信号SIの示す測定電流値Iを基準上限電流値Iと比較することにより電圧生成部108の電圧出力動作の継続または停止を制御する。例えば、電圧生成部108に備わる開閉器108Sの状態を切り替えることなどによって動作制御部120により制御される。また、動作制御部120は、信号SIの示す測定電流値Iが基準上限電流値Iを超えなかったと判定したとき電圧生成部108に電圧出力動作を継続させる。これに対し、信号SIの示す測定電流値Iが基準上限電流値Iを超えたと判定したとき、動作制御部120は電圧生成部108に電圧出力動作を停止させる。
【0028】
導電性SPM1000の動作制御部120は、電圧生成部108の出力電圧値VOUTの更新または維持を制御するようにも動作する。その動作において動作制御部120は、信号SIの示す測定電流値Iが基準上限電流値Iを超えなかったと判定したとき当該判定の直前の出力電圧値から更新した出力電圧値により電圧生成部108による電圧出力動作を継続させる。これに対し、信号の示す測定電流値Iが基準上限電流値Iを超えたと判定したとき、動作制御部120は、当該判定の直前の出力電圧値を更新せずにそのまま維持して電圧生成部108に出力させる。
【0029】
また、基準上限電流値Iは、電圧生成部108の電圧出力動作を制御するための値と電圧生成部108の出力電圧値の更新を制御するための値との二種類を準備しておいて、電圧出力動作の継続/停止を制御する場合と、出力電圧値の更新/維持を制御する場合とで別々の基準上限電流値Iを利用することもできる。
【0030】
導電性SPM1000は、典型的には駆動機構130を備えている。駆動機構130は、試料ステージ104、導電性探針106のいずれかまたは両方に機械的に係合し、試験片102の表面102aに対する先端部106Tの位置座標を定めるものである。この場合、駆動機構130は、動作制御部120により制御される。動作制御部120は、典型的には、まず、上記位置座標を第1の座標とするよう駆動機構130を動作させて、第1の座標において電圧生成部108に出力電圧値の更新を伴う電圧出力動作を実行させる。測定電流値Iが基準上限電流値Iを超えたと判定した場合、電圧生成部108の電圧出力動作は、動作制御部120により停止される。その後、動作制御部120は、上記位置座標を第1の座標とは異なる第2の座標とするよう駆動機構130を動作させる。なお、駆動機構130は特段限定されない。例えばピエゾ素子を利用し微動駆動が可能な機構や、ステッピングモータにより駆動される直動ステージなどの粗動駆動が可能な機構を利用することができる。
【0031】
[1−2 動作の詳細]
続けて、本実施形態の導電性SPM1000により実施される動作の詳細について主として図5図11を参照して説明する。
【0032】
[1−2−1 基本動作]
図5は、本実施形態の導電性SPM1000の一例の動作を示すフローチャートである。また、図6は、導電性SPM1000が走査して測定する表面102aの各測定点の様子を示す模式平面図である。動作制御部120(図4)は、典型的な動作態様において、信号SIと測定電流値Iとの比較を含む判定した結果に基づき、上述した電圧生成部108の電圧出力動作の継続/停止や出力電圧値の更新/維持と、駆動機構130により測定点の移動を伴う動作とを連係させるよう動作する。
【0033】
図5に示すように、導電性SPM1000の動作では、まず、初期化として、出力電圧値VOUTを初期値の電圧とし、探針の位置座標を測定開始座標に移動させる(S102)。次に、出力電圧値VOUTを増分ΔVだけ増大させる(S104)。その後、試料を流れる電流を測定電流値Iとして測定する(S106)。その測定電流値Iは、基準上限電流値Iを超えるかどうかが判定され、基準上限電流値Iを超えないと判定した場合には、再び出力電圧値VOUTを増分ΔVだけ増大させる処理S104に戻る(S108、Noの分岐)。これに対し、測定電流値Iが基準上限電流値Iを超えたと判定した場合には(S108、Yesの分岐)、例えば電圧出力動作を停止して、出力電圧値VOUTを初期の電圧値に戻すとともに、探針の位置座標を次の測定点の座標に移動させる(S110)。そして、探針の位置座標が測定終了座標に達しているかどうかが判定され、達していない場合には移動後の測定点により再び出力電圧値VOUTを増分ΔVだけ増大させる処理S104に戻り、達した場合には測定を終了する(S114)。
【0034】
図6に示すように、導電性SPM1000においては、表面102aのすべての測定点において、電圧−電流特性マッピングを実行することが可能であり、表面102aのうち設定した領域を走査する処理を実行することが可能となる。また、このような走査を行なう際、基準上限電流値Iを適切に設定することにより、導電性探針106の損傷が防止されるばかりか導電性探針106の劣化も抑制することが可能となる。
【0035】
このように、動作制御部120は、信号の示す測定電流値Iが基準上限電流値Iを超えなかったと判定し電圧生成部108による電圧出力動作を継続させる際に、当該判定の直前の出力電圧値と同極性であって絶対値のより大きい電圧を新たな出力電圧値VOUTとして電圧生成部108に出力させるように動作する。
【0036】
[1−2−2 電流による電圧増分の切替]
導電性SPM1000は、測定電流値Iを利用した電圧生成部108の電圧出力動作や出力電圧値VOUTの更新に加えて、電圧生成部108の動作、特に電圧生成部108からの出力電圧値VOUTの更新における電圧の増分を測定電流値Iに応じて切り替えるよう動作することができる。この際基準となるのは、切替基準電流値Iである。切替基準電流値Iとは、例えばユーザーが設定するなどの方法によって予め決定されている電流値であって、その電流値を基準として、電圧生成部の電圧を増大させる動作を切り替えるために利用される電流値である。なお、切替基準電流値Iは基準上限電流値Iよりも小さい値に設定される。
【0037】
図7は、本実施形態の導電性SPM1000の一例の動作を示すフローチャートである。また、図8は、導電性SPM1000が動作を切り替えて電圧−電流特性を測定する様子を示すグラフである。図7に示すように、切替えを伴う導電性SPM1000の動作では、まず、初期化として出力電圧値VOUTを初期値の電圧とし、探針の位置座標を測定開始座標に移動させる(S202)。次に、出力電圧値VOUTを第1の増分ΔVだけ増大させる(S204)。その増大後の出力電圧VOUTが、電圧生成部108の出力可能な電圧上限値以下であるかどうかが判定され(S206)、出力電圧VOUTが当該電圧上限値以下であるなら(S206、Yesの分岐)、試料を流れる電流を測定電流値Iとして測定する(S208)。出力電圧VOUTが、電圧生成部108の出力可能な電圧上限値を超える場合にはその測定点の測定を終える(S206、Noの分岐)。次に、測定電流値Iが切替基準電流値Iを超えるかどうかが判定され、切替基準電流値Iを超えないと判定した場合(S210、Noの分岐)には、再び出力電圧値VOUTを第1の増分ΔVだけ増大させる処理S204に戻る。これに対し、測定電流値Iが切替基準電流値Iを超えたと判定した場合(S210、Yesの分岐)、今度は、第1の増分ΔVとは異なる第2の増分ΔVだけ出力電圧値VOUTが増大される(S214)。次いで、増大後の出力電圧VOUTが、電圧生成部108の出力可能な電圧上限値以下であるかどうかが再度判定され(S216)、出力電圧VOUTが当該電圧上限値以下であるなら(S216、Yesの分岐)、試料を流れる電流を測定電流値Iとして測定する(S218)。出力電圧VOUTが、電圧生成部108の出力可能な電圧上限値を超える場合にはその測定点の測定を終える(S216、Noの分岐)。測定電流値Iとして測定する処理S218に続けて、測定電流値Iが切替基準電流値Iを超えるかどうかが判定される(S220)。この判定により測定電流値Iが基準上限電流値Iを超えないと判定した場合(S220、Noの分岐)には、再び出力電圧値VOUTを第2の増分ΔVだけ増大させる処理S214に戻る。これに対し、測定電流値Iが基準上限電流値Iを超えたと判定した場合(S220、Yesの分岐)、例えば電圧出力動作を停止して、出力電圧値VOUTを初期の電圧値に戻すとともに、探針の位置を次の測定点の座標に移動させる(S222)。そして、探針の座標が測定終了座標に達しているかどうかが判定され(S224)、達していない場合には移動後の測定点により再び出力電圧値VOUTを第1の増分ΔVだけ増大させる処理S204に戻り、達した場合には測定を終了する(S226)。
【0038】
この動作を、図8に示すグラフにて説明すれば、測定電流値Iが0から切替基準電流値Iまでの間は第1の増分ΔVにより、また、測定電流値Iが切替基準電流値Iを超え基準上限電流値Iまでは第2の増分ΔVの増分により、それぞれ電圧−電流特性が測定される。これは、例えば試料片における絶縁膜を測定対象とする場合において、電流が殆ど流れない電圧領域と、電流がある程度流れはじめた電圧領域において、異なる電圧増分によって測定されることを意味している。図8のグラフは、第1の増分ΔVを第2の増分ΔVにくらべて大きく設定した場合を説明するためのものである。
【0039】
通常、電圧−電流特性の測定において興味があるのは電圧に対する電流の変化が顕著な領域である。このため、単位時間あたりに測定される測定点の数つまり測定処理効率の観点から望ましいのは、図8に示したように、電圧−電流特性の変化が少ない電圧領域においては大きな増分により電圧を変化させ、変化が大きい領域のみにて細かな増分により測定することである。この動作の切替えの基準を電圧に求めることは、その電圧の設定が困難であるために難しかった。本実施形態の導電性SPM1000のように切替えのために測定電流値Iに基づいて、切替基準電流値Iに対する測定電流値Iの大小関係を利用すれば、個々の試料片の性質や試料片内の個々の測定点の性質に応じた適切な電圧範囲の区別が容易となる。その結果、高い測定処理効率を実現することができる。なお、上記典型例においては、第1の増分ΔVを第2の増分ΔVにくらべて大きく設定した場合を説明したが、測定者の関心や測定目的に応じて、第1の増分ΔVと第2の増分ΔVとの値は別々に、または互いに関連づけて、任意の大小関係に指定することができる。
【0040】
このように、本実施形態の動作制御部120は、基準上限電流値Iより小さい電流値である切替基準電流値Iを測定電流値Iが超えなかったと判定したときに、当該判定の直前の出力電圧から第1の増分だけ絶対値を増大させた新たな出力電圧を電圧生成部108に出力させ、測定電流値Iが切替基準電流値Iを超えたと判定したときに、第1の増分とは異なる第2の増分だけ当該判定の直前の出力電圧から絶対値を増大させた新たな出力電圧を電圧生成部108に出力させるものである。
【0041】
[1−2−3 異常な測定値への対応]
本実施形態の導電性SPM1000には、実用性を高めるために様々な工夫がなされる。その一つが、異常な電流測定値の影響による不測の動作を防止する工夫である。実際に導電性SPM1000を利用して電流の精密な測定を実行すると、電流のノイズや誤測定などの原因によって、測定電流値Iとして不自然な値が得られることがある。その不自然な値に応じて上述した動作制御部120を上記説明通りに動作させると、場合によっては測定の処理効率を低下さることもある。そこで、本実施形態においては、測定履歴を利用した判定をおこなうことにより、異常な測定値の影響を軽減することは好適な工夫の一つである。具体的には、動作制御部120は、基準上限電流値Iを超えた測定電流値Iが得られた測定回数または測定時間が、停止基準測定回数または停止基準測定時間を超えたときにはじめて「測定電流値Iが基準上限電流値Iを超えた」と判定するように動作する。このような動作のために、動作制御部120には、予め停止基準測定回数または停止基準測定時間が与えられている。
【0042】
図9は、導電性SPM1000により、試験片102のある測定点において、時間の経過にあわせて測定が進行する様子を示すグラフである。各図の横軸は、当該測定点における測定の開始時を原点にとった測定時間である。図9(a)は測定時間に対して測定電流値Iの変化の様子を、また図9(b)は測定時間に対して電圧生成部108による出力電圧値VOUTの変化の様子を示すグラフである。測定開始から時間tが経過した時点に測定電流値Iが何らかの原因のために不自然な値を示したとする。動作制御部120が、測定履歴とは無関係に各時点における測定電流値のみを判定に用いる場合には、その不自然な値である測定電流値Iが基準上限電流値Iを超えたという判定にしたがって、動作制御部120が開閉器108Sを開いて電圧出力動作を停止する。この場合には、その測定点のための測定を停止してしまうことがある(図5、S108、Noの分岐)。このような場合には再度測定が必要となるため、測定効率の低下を招く。また、動作制御部120が電圧生成部108の出力電圧値VOUTの更新を停止する場合にも、電圧の更新が少なくとも更新1回分妨げられるため、同様に測定効率が低下する。
【0043】
これらに対して、動作制御部120が測定電流値Iの過去の履歴を加味し判定動作する場合には、予め与えた停止基準測定回数または停止基準測定時間の範囲における異常な値による中断処理を受けることなく測定が進行する。図9は、停止基準測定時間としてウインドウ時間Δtを設定した場合の動作を示している。この場合の典型的な動作においては、時間t=tにおいて基準上限電流値Iを超える電流値が測定されても、時間t=t+Δtとなるまで動作制御部120は、測定電流値Iが基準上限電流値Iを超えたかどうかの判定結果を出さない。そして、時間t=t+Δtの時点になってから判定結果を決定する。具体的には、その時点からΔtだけ遡る過去の期間t=t〜t+Δtを通じて測定電流値Iが基準上限電流値Iを超えていない図9に示したような場合には、測定電流値Iが基準上限電流値Iを超えたとは判定しない。そのため動作制御部120は、基準上限電流値Iを超えないとの判定結果に従って、出力電圧値VOUTを上昇させてゆく。さらに動作制御部120は測定電流値Iが基準上限電流値Iを超えたタイミングである時間t=tを過ぎても出力電圧値VOUTを上昇させてゆく。そして、時間t=t+Δtとなった時点になると、時間t=t〜t+Δtの間に測定電流値Iが基準上限電流値Iを超えたと判定する。これに応じて、この時間t=t+Δtのタイミングにおいて導電性SPM1000の処理が停止する。なお、このような履歴に基づく判定をすると、時間t=t〜t+Δtの間に実際の電流の値がある程度上昇する可能性がある。例えば、図9には、測定電流値Iが基準上限電流値IからΔIだけ上昇するように示している。このような電流の増大が生じたとしても、導電性探針106の劣化や損傷を未然に防ぐことは十分に可能である。ΔIが生じうることを考慮して基準上限電流値Iを予め設定すればよいからである。
【0044】
以上のようなウインドウ時間Δtを利用する動作制御部120は追加の要素や機能(いずれも図示しない)を有している。典型的には、時間ウインドウΔtの期間の値を保持する時間ウインドウ記憶部や、測定電流値Iが基準上限電流値Iを超えたイベントが生じた時間のタイムスタンプを保持するタイムスタンプ記憶部、上記イベント後に測定電流値Iが基準上限電流値Iを超え続けていることを示す状態フラグ、といった記憶部の構成が利用される。
【0045】
[1―2−4 ユーザー操作]
本実施形態の導電性SPM1000は、ユーザーによる操作を受け付けて動作する場合においても、測定電流値Iと基準上限電流値Iとに基づく動作制御を利用することができる。図10は、コンピュータ(図示しない)により導電性SPM1000の動作を制御する場合において、ユーザーに提示される画面表示および電圧調整受付部の構成例を示す説明図である。導電性SPM1000を用いて未知試料を測定する場合など、実際の測定作業においては、例えば上記基準上限電流値Iや基準下限電圧値Vを決定するために、未知試料の特性を簡便に測定したいというニーズがある。このような測定を実行する際にユーザーに電圧生成部108の出力電圧値VOUTを自由に設定させると、導電性探針106の劣化や損傷が起りかねない。
【0046】
本実施形態の導電性SPM1000の場合には、動作制御部120の制御によって、このような導電性探針106の劣化や損傷を防止することも可能となる。図10(a)はユーザーからの電圧調整を受け付ける画面表示300を示している。ユーザーは、例えばグラフ表示310により示される電圧−電流特性を目視確認しながら、電圧生成部108による出力電圧値VOUTを調整する。この調整のために、マウスやキーボードを通じて電圧の上昇および下降の命令を受け付けるためのボタン表示322、324(以下、総称して「ボタン表示320」という)が画面に表示されている。図10(b)は、物理的なダイアル40による電圧調整受付部の構成を図示している。ダイアル40の回転を停止させている間、電圧生成部108の出力電圧値は一定の値に保たれる。ダイアル40を例えば時計回りに回すと出力電圧値が上昇し、逆に回せば低下する。したがって、ボタン表示320やダイアル40は、出力電圧値VOUTを指定する指定電圧に関連する入力をユーザーから受け付ける入力受付部として機能する。その機能を実現するため、ボタン表示320やダイアル40によって調整される指定電圧は、動作制御部120による電圧生成部108の出力電圧値VOUTに反映される。
【0047】
このようなユーザーからの操作を受け付けながら、その操作に応じて電圧生成部108の出力電圧値VOUTを調整する構成において、動作制御部120は、電圧生成部108の出力電圧値VOUTを実際に出力する際に、ユーザーにより指定された指定電圧のままの出力電圧値VOUTとするかどうかを、基準上限電流値Iを利用して判断する。典型例としては、動作制御部120は、信号SIによる測定電流値Iが基準上限電流値Iを超えなかったと判定したときのみ、電圧生成部108に入力受付部への入力の示す指定電圧を出力電圧値VOUTとして出力させ、電圧出力動作を継続させる。
【0048】
信号SIによる測定電流値Iが基準上限電流値Iを超えたと動作制御部120が判定した場合の制御動作は、本実施形態では二通り考えることができる。一つは、動作制御部120が電圧生成部108による電圧出力動作を停止させる制御動作である。もう一つは、動作制御部120は電圧生成部108による電圧出力動作を継続するが、出力電圧値VOUTを指定電圧に合わせて更新せず、例えば動作制御部120による判定直前の値のまま維持する、という制御動作である。
【0049】
いずれの場合であっても、動作制御部120がこのように制御を行なうことにより、未知試料についての知見を得ようとするユーザーの電圧指定操作に対応しつつ、導電性探針106の損傷や劣化を効果的に抑止する測定が可能となる。
【0050】
[1−2−5 継続電圧印加測定]
本実施形態の導電性SPM1000は、時間の経過に伴って性質が変化する試料を測定するためにも有用である。図11は、時間の経過に伴って試験片102と先端部106Tの間の電気抵抗が低下する様子を、測定経過時間を横軸にとって示したグラフである。図11(a)は、試験片102と先端部106Tの間の電圧を一定に保った条件や、当該電圧をある範囲に含まれるようにしながら測定する条件(以下「電圧一定の条件」と呼ぶ)により、試験片102と先端部106Tの電流が時間経過とともに増大する様子を示している。これに対して図11(b)は、試験片102と先端部106Tの間の電流一定の条件や、当該電流をある範囲に含まれるようにしながら測定する条件(以下「電流一定の条件」と呼ぶ)により測定し、試験片102と先端部106Tの電圧差が低下していく様子を示している。以下、図11(a)を本実施形態に関連して説明し、図11(b)については、第2実施形態にて説明する。
【0051】
図11(a)に示した電圧一定の条件においては、本実施形態の導電性SPM1000により、動作制御部120により測定電流値Iを基準上限電流値Iと比較して動作を制御すれば、導電性探針106の損傷や劣化を抑止できる。そのためには、動作制御部120が、電流測定部112に、ある一定の電圧値、またはある範囲に含まれる電圧値の連続的または間欠的な電圧出力動作を継続させる。そして、測定電流値Iが基準上限電流値Iを超えたと判定したとき、動作制御部120は電流測定部112に電圧出力動作を停止させる。例えば、図11(a)の測定開始後、試験片102と先端部106Tの間の電気抵抗値の低下が進むと、ある時間から急激に測定電流値Iが増大する。このような挙動が生じるのは、試験片102の表面の材質の性質が例えば注入される電荷の影響により変質する場合があるためである。すると、急激に増大した電流値は時間tにおいて基準上限電流値Iを超える。仮にこのまま測定を続けると、導電性探針106の劣化や甚だしくは損傷が生じ、その後に例えば別の測定点による測定が実行できない。また、導電性探針106の劣化や甚だしくは損傷が生じないまでも、測定処理時間もいたずらに増大する。これに対し、本実施形態の動作制御部120のように基準上限電流値Iにより電流測定部112による電圧出力を停止させれば、導電性探針106の劣化や損傷も防止され、また測定処理の迅速化も達成される。
【0052】
[2 第2実施形態]
本発明では第1実施形態とは異なる構成により探針の劣化や損傷を抑制し、測定処理の迅速化を達成することも可能である。図12は、本発明の第2実施形態における導電性プローブ顕微鏡2000(導電性SPM2000)の構成を示すブロック図である。導電性SPM2000において、第1実施形態にて説明した導電性SPM1000同様の要素には同様の符号を付してその説明を省略する。
【0053】
[2−1 構成]
導電性SPM2000は、概して、試料ステージ104、導電性探針106に加え、電流生成部208、電圧測定部212、動作制御部220を備えている。電流生成部208は、試料片102および導電性探針106のいずれかまたは双方に電気的に接続され、表面102aにおいて、先端部106Tと試験片102との間に電流を流すように動作する。その電流の値をIOUTと記す。また、電圧測定部212は、試料片102および導電性探針106のいずれかまたは双方に電気的に接続されている。電圧測定部212は、先端部106Tと試験片102との間に生じる電圧値を測定して測定電圧値Vを得て、測定電圧値Vを示す信号SVを出力する
【0054】
動作制御部220は、受信した信号SVの示す測定電圧値Vを基準下限電圧値Vと比較することにより電流生成部208の出力電流IOUTによる電流出力動作を、例えば開閉器208Sの状態を切り替えることなどによって制御する。動作制御部220は、信号SVの示す測定電圧値Vが基準下限電圧値Vを下回らなかったと判定したとき電流生成部208に電流出力動作を継続させる。その一方、信号VSの示す測定電圧値Vが基準下限電圧値Vを下回ったと判定したときには、動作制御部220は、電流生成部208に電流出力動作を停止させる。
【0055】
[2−2 動作]
本実施形態の導電性SPM2000は、導電性SPM1000と同様の駆動機構130を備えている。駆動機構130は動作制御部220により制御される。この際、動作制御部220は、位置座標を第1の座標とするよう駆動機構130を動作させて、第1の座標において電流生成部208に出力電流IOUTによる電流出力動作を実行させる。そして、測定電圧値Vが基準下限電圧値Vを下回ったと判定したことに応じて、動作制御部220は、電流生成部208に電流出力動作を停止させる。その後、動作制御部220は、位置座標を第1の座標とは異なる第2の座標とするよう駆動機構130を動作させる。
【0056】
[2−2−1 継続電流印加測定]
導電性SPM2000は、図11(b)に示した電流一定の条件を満たしながら、または当該電流をある範囲に含まれるようにしながら継続的に測定電圧値Vを測定する。図11(b)に示した電流一定の条件においては、本実施形態の導電性SPM2000により、動作制御部220を利用して測定電圧値Vを基準下限電圧値Vと比較して動作を制御すれば、導電性探針106の損傷や劣化を抑止できる。そのためには、動作制御部220が、電圧測定部212に、ある一定の電流値、またはある範囲に含まれる電流値である出力電流IOUTの連続的または間欠的な電流出力動作を継続させる。そして、測定電圧値Vが基準下限電圧値Vを下回ったと判定したとき、動作制御部220は電圧測定部212に電流出力動作を停止させる。例えば、図11(b)の測定開始後、試験片102と先端部106Tの間の電気抵抗値の低下が進むと、ある時間から急激に測定電圧値Vが低下する。急激に低下した測定電圧値Vは、時間tに基準下限電圧値Vを下回る。本実施形態の動作制御部220のように基準下限電圧値Vを利用して電圧測定部212による電流出力動作を停止させれば、導電性探針106の劣化や損傷も無く、また測定処理の迅速化も達成される。
【0057】
[3 変形例]
[3−1 変形例]
以上の第1および第2実施形態として示した導電性SPM1000および2000は、既存の導電性走査プローブ顕微鏡の動作方法としても実施することができる。すなわち、既存の導電性走査プローブ顕微鏡を第1実施形態の導電性SPM1000として機能させるような動作方法としても実施することが可能である。これを導電性SPM1000の構成要素により説明すれば、試料ステージ104、導電性探針106、電圧生成部108および電流測定部112を有する導電性走査プローブ顕微鏡の動作方法であって、受信した電流測定部112からの信号SIの示す測定電流値Iを基準上限電流値Iと比較することにより電圧生成部108の電圧出力動作を動作制御部により制御する。この際の制御は、信号SIの示す測定電流値Iが基準上限電流値Iを超えなかったと判定したとき電圧生成部108に電圧出力動作を継続させる。また、信号SIの示す測定電流値Iが基準上限電流値Iを超えたと判定したとき電圧生成部108に電圧出力動作を停止させる。
【0058】
また、既存の導電性走査プローブ顕微鏡を第2実施形態の導電性SPM2000として機能させるような動作方法としても実施することが可能である。これを導電性SPM2000の構成要素により説明すれば、試料ステージ104、導電性探針106、電流生成部208および電圧測定部212を有する導電性走査プローブ顕微鏡の動作方法であって、受信した電圧測定部212からの信号SVの示す測定電圧値Vを基準下限電圧値Vと比較することにより電流生成部208の電流出力動作を動作制御部により制御する。この際の制御は、信号SVの示す測定電圧値Vが基準下限電圧値Vを下回らなかったと判定したとき電流生成部208に電流出力動作を継続させる。また、信号SVの示す測定電圧値Vが基準上限電流値Vを超えたと判定したとき電流生成部208に電流出力動作を停止させる。
【0059】
このような動作方法において、動作制御部としては、演算装置と記憶装置を有しているコンピュータを利用することができる。したがって上記動作方法は、コンピュータプログラムとしても実装することが可能である。
【0060】
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。上述の各実施形態は、発明を説明するために記載されたものであり、むしろ、本出願の発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきものである。また、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、測定される試料の電気的特性を測定する評価装置として利用される。
【符号の説明】
【0062】
1000 導電性プローブ顕微鏡(導電性SPM)
102 試料片
102a 表面
104 試料ステージ
106 導電性探針
106T 先端部
108 電圧生成部
108S 開閉器
112 電流測定部
120 動作制御部
130 駆動機構
300 画面表示
310 グラフ表示
320、322、324 ボタン表示
40 ダイアル
2000 導電性プローブ顕微鏡(導電性SPM)
208 電流生成部
208S 開閉器
212 電圧測定部
220 動作制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12