特許第5988263号(P5988263)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5988263複数の被内包リポソームを内包するリポソーム及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5988263
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】複数の被内包リポソームを内包するリポソーム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 13/02 20060101AFI20160825BHJP
   A61K 8/14 20060101ALI20160825BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20160825BHJP
   A61K 47/44 20060101ALI20160825BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALI20160825BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20160825BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20160825BHJP
【FI】
   B01J13/02
   A61K8/14
   A61K9/127
   A61K47/44
   A61Q1/00
   A61Q19/00
   A23L33/10
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-204134(P2012-204134)
(22)【出願日】2012年9月18日
(65)【公開番号】特開2014-58469(P2014-58469A)
(43)【公開日】2014年4月3日
【審査請求日】2015年8月4日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(73)【特許権者】
【識別番号】399091120
【氏名又は名称】株式会社ピカソ美化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】市川 正敏
(72)【発明者】
【氏名】吉川 研一
(72)【発明者】
【氏名】石崎 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】中部屋 恵造
【審査官】 岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−236946(JP,A)
【文献】 特開平08−059503(JP,A)
【文献】 特開2009−255019(JP,A)
【文献】 特開2003−119120(JP,A)
【文献】 特開2012−102043(JP,A)
【文献】 特開2012−092084(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/091054(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/146386(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 13/02
A23L 33/10
A61K 8/14
A61K 9/127
A61K 47/44
A61Q 1/00
A61Q 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の被内包リポソームを内包するリポソームの製造方法であって、
水相に接するかたちで油相を配置した水/油界面に、第1脂質膜を形成する第1工程、
該被内包リポソームを含有した水溶液を第2脂質膜に内包させ、該被内包リポソームを複数含む液滴を作成する第2工程、
前記液滴を前記油相に導入し、前記液滴を水相に移行させるとともに、内層脂質膜となる前記第2脂質膜の外側を前記第1脂質膜で覆い、単層の脂質二重膜である外層脂質膜を形成する第3工程、
を備えることを特徴とするリポソームの製造方法。
【請求項2】
前記被内包リポソームの製造が、下記第1’工程〜第3’工程を備える請求項1に記載のリポソームの製造方法。
水相に接するかたちで油相を配置した水/油界面に、第1’脂質膜を形成する第1’工程、
水性溶液を第2’脂質膜に内包させた液滴を作成する第2’工程、及び
前記液滴を前記油相に導入し、前記液滴を水相に移行させるとともに、内層脂質膜となる前記第2’脂質膜の外側を前記第1’脂質膜で覆い、単層の脂質二重膜である外層脂質膜を形成する第3’工程
【請求項3】
前記被内包リポソームの粒径が10〜100nmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のリポソームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の被内包リポソームを内包するリポソーム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、化粧品分野では、美白、保湿、抗酸化効果を有する有効成分を肌へ届ける手段として有効成分をリポソームに内包させることがよく行われている。リポソームとは、主にリン脂質から成る脂質二重層あるいは多重層であり、細胞膜に類似した構造を有している。化粧品及び医薬品等、有効成分のカプセル化は、水溶性薬物の場合はリポソームの内水相に取り込まれるか、脂溶性薬物の場合は脂質層に組み込まれることが多い。
【0003】
リポソームの製法としては、種々の方法が知られている。例えば、(1)脂質を有機溶媒に溶解し、溶媒を減圧除去して薄膜を形成した後、緩衝液等の水溶液を加えて振とう膨潤させ、さらに機械的撹拌手段により薄膜をはがすことで調製する方法、(2)脂質をエーテル又はエタノール等の有機溶媒に溶解し、緩衝液等の水溶液中に注入した後、溶媒を除去することにより調製する方法、さらに、機械的な方法として、(3)超音波処理による方法(特許文献1)、(4)高圧ホモジナイザーや高速回転分散機による方法(特許文献2)、(5)ポリカーボネイト製メンブランフィルターを用いた高圧ろ過による方法、(6)水相の上部に脂質を溶解させた油相を用意し、油相に液滴を導入し、遠心分離による力で液滴を水相に引きずり込む方法等が知られている。そのほかに、(7)脂質をエタノール等の水と相溶する有機溶媒に溶解した後、透析膜を介して水と置換する方法(特許文献3)等が挙げられる。
【0004】
従来のリポソームは、安定性にも問題があっため、化粧水、乳液等の耐久性や保存方法に問題があった。このため、リポソームの安定性を改良する方法として、リン脂質への水素添加度を調節することによりリポソームのpH安定性が向上し、経時安定性へとつながることや、リポソーム膜構成成分や膜構成物質であるリン脂質を規定する等の方法で安定性を改善したものが報告されている(特許文献4、5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−41869号公報
【特許文献2】特開平11−139961号公報
【特許文献3】特開平01−224042号公報
【特許文献4】特開昭63−096193号公報
【特許文献5】特開2006−124378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記改善によっても、比較的小さいサイズのリポソーム(数百nm〜数μm程度)は依然として凝集や破裂を起こしやすく安定性が良くない、といった問題は解決されていなかった。特に、リポソームを化粧料に配合するにあたっては、リポソーム自体がさまざまな有効成分に対し不安定であるため、多数の化合物が共存する化粧料への配合が困難であったり、有効成分を封入する場合の条件が限定されること、さらには長期の安定性に欠ける等の多くの問題点を有し、その使用は制限されていたのが実状である。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑み、経時安定性、薬品安定性に優れたリポソーム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、リポソームが形状的に不安定となりやすいものを、さらに大きなリポソーム内に内包させることにより、微小なリポソームを安定化できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0009】
(1)複数の被内包リポソームを内包するリポソームの製造方法であって、水相に接するかたちで油相を配置した水/油界面に、第1脂質膜を形成する第1工程、該被内包リポソームを含有した水溶液を第2脂質膜に内包させ、該被内包リポソームを複数含む液滴を作成する第2工程、液滴を油相に導入し、この液滴を水相に移行させるとともに、内層脂質膜となる第2脂質膜の外側を第1脂質膜で覆い外層脂質膜を形成する第3工程、を備えることを特徴とするリポソームの製造方法。
(2)被内包リポソームの粒径が10μm以下であることを特徴とする(1)に記載のリポソームの製造方法。
(3)複数の被内包リポソームを内包することを特徴とするリポソーム。
(4)被内包リポソームの粒径が10μm以下であることを特徴とする(3)に記載のリポソーム。
(5)(3)又は(4)のリポソームを含有することを特徴とする化粧料、医薬品又は食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、経時安定性に優れたリポソーム及びその製造方法を提供することができ、これを利用して化粧料や医薬品を製造した際に耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】蛍光顕微鏡により観察した水溶性蛍光色素溶液を含有する本発明のリポソームを示す図である。
図2】本発明のリポソーム及び比較例のリポソームにおける経時安定性を蛍光顕微鏡により比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0013】
本発明のリポソームの製造方法は、水相に接するかたちで油相を配置した水/油界面に、第1脂質膜を形成する第1工程、該被内包リポソームを含有した水溶液を第2脂質膜に内包させ、該被内包リポソームを複数含む液滴を作成する第2工程、液滴を油相に導入し、液滴を水相に移行させるとともに、内層脂質膜となる第2脂質膜の外側を第1脂質膜で覆い外層脂質膜を形成する第3工程、を備えることを要する。このようにして作製したリポソームは、複数の被内包リポソームを内包する。
【0014】
本発明で使用する被内包リポソームの製造方法は、例えば、上記したような従来公知のものが特に制限なく使用できる。そして、この被内包リポソーム内に、美白、保湿、抗酸化効果や各種医療効果等を有する有効成分を含有させることができる。例えば、水溶性のコラーゲン、プラセンタエキス、エラスチン、絹タンパク質等のタンパク質、ビタミン類、DNAあるいはRNA等の核酸類、酵素等が使用できるが、これらに限定されるものではない。特に、熱的に不安定な物質(易熱変性物質)の未変性のものも十分に利用できる。
【0015】
コラーゲンは、真皮、靱帯、腱、骨、軟骨等を構成するタンパク質のひとつで、多細胞動物の細胞外基質(細胞外マトリクス)の主成分である。従来、牛、豚等由来のものが主であったが、魚由来、くらげ由来等のコラーゲンも最近増えてきた。どの動物から採ったかで、その変性温度が変わり、例えば、牛では40℃、豚では40℃、ヨシキリザメでは29℃、ピンクサーモンでは19℃である。
【0016】
プラセンタエキスは、哺乳動物の胎盤抽出物で上皮成長因子(EGF)等の成長因子を含んでおり、従来より、美白効果を期待して、化粧料用として広く使われてきた。使用される哺乳動物の正常分娩胎盤は、ブタ、ウシ、ウマ、ヒト又はヒツジ等の哺乳動物から取得するが、好ましくはヒト又はブタの正常分娩胎盤がよい。ブタのプラセンタは、その分子構造が、ヒトの分子構造に最も近いから有効である。
【0017】
エラスチンは、靭帯や動脈等の伸縮性や弾力性を有する組織に存在するタンパク質である。また、皮膚の弾性に関与する成分としてコラーゲンとともに真皮結合組織に僅かではあるが存在しており、加齢や紫外線による皮膚中のエラスチンの減少や変性は、皮膚のシワやタルミの一因である。そのため、エラスチンは化粧品や健康食品分野を中心に、現在多くの製品に適用されている。一方、エラスチンは、通常、生体内においては、3次元の網目構造の不溶性のタンパク質として存在しているため、酸又はアルカリで加水分解したり、酵素で処理することによって、水溶性エラスチンが得られることは広く知られている。
【0018】
絹糸昆虫が産生する家蚕繭や野蚕繭等から、抽出手段により得られる絹タンパク質を健康増進のための飲食品に利用するほかに、化粧料成分として利用することが試みられてきている。絹タンパク質は細胞生育性、抗酸化性、抗菌性、アルコール消化性、抗血液凝固性等、多様な機能を有することが明らかにされた。絹タンパク質は、成分の分子形状により、球状タンパク質(アルブミン、カゼイン、グロブリン、ゼラチン、核・糖・色素・リンタンパク質)と硬タンパク質(フィブロイン、セリシン、ケラチン、コラーゲン、エラスチン)に分類される。しかし、それらの機能が絹タンパクのどのような部位又は構造に起因するかについてはまだすべて明らかになってはいないが、例えば、絹フィブロインの特定の部位のペプチド鎖に細胞生育促進機能があることが知られており、また、セリシンは、しっとり感(保湿性)があり、抗酸化作用(美白効果)も有する化粧料として用いられる。
【0019】
ビタミン類としては、水溶性ビタミンの、ナイアシン、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンC及びビオチン等が使用できる。ビタミンCは代表的な化粧品成分の一つで皮膚表面の色素細胞のメラミン合成を阻害する作用や、しわと関係の深いコラーゲンの合成を助ける役割を持っている。
【0020】
酵素としては、化粧料に使用されるさまざまな酵素が、特に限定されることなく使用できる。例えば、活性酸素除去酵素(スーパーオキシドディスムターゼ:SOD)、ペルオキシターゼ、チオレドキシンリダクターゼ等が使用できる。
【0021】
これら有効成分の変性温度としては、広い温度範囲のものが利用できる、10〜80℃の範囲のものであれば問題なく利用できる。変性温度は高ければ高いものを使用するほど安定性という面では好ましい。
【0022】
比較的低温で、熱により構造の一部又は全体が変化してしまう易熱変性物質を有効成分として被内包リポソームに内包させる場合は、特に、熱的、機械的なストレスを受けにくい製造方法を採用することが有効である。
【0023】
例えば、水相上に油相を配置するとともに、油水界面に被内包リポソーム用の外層脂質膜となる脂質単分子膜を形成しておき、続いて、油相中に、被内包リポソーム用の内層脂質膜で覆われた、易熱変性物質を含有する水性溶液液滴を導入し、液滴を構成する水性溶液と水相を構成する水性溶液に比重差を付与することで、重力により液滴を水相中に移行させ、内層脂質膜の外側に外層脂質膜を形成するとよい。
【0024】
この重力による液滴の水相中への移行は、非常に穏やかな条件下で行われるので、リポソームの形成時に発熱を伴わないため、易熱変性物質が変性することがなく、また、力学的ストレス等も加わることがないので、形成されたリポソームが破壊されることもない。この方法によれば、比較的変性温度の低い有効成分まで、リポソーム化することが可能であり、室温付近のもの、例えば、10〜50℃、あるいは、30〜40℃のものまでも使用することもできる。
【0025】
被内包リポソームの粒径としては、特に限定はないが、10nm〜10μmのものが使用できる。特に、通常安定性が不十分とされる、10nm〜500nm、さらには10nm〜100nm程度の微小なものも使用することができる。
【0026】
本発明の複数の被内包リポソームを内包したリポソームの製造方法においては、まず、水相と油相の間の油水界面に形成する。この脂質単分子膜(第1脂質膜)は、油相中に各種リン脂質等の脂質成分を添加することにより容易に形成することが可能である。油相中に添加された脂質成分は、各脂質分子の疎水基部分が油相側になり、親水基部分が水相側になるように油水界面において整列し、全ての脂質分子が一定方向を向いた脂質単分子膜が油水界面に形成される。
【0027】
続いて、上記油相中に、内層脂質膜で覆われたW/O液滴を導入する。このW/O液滴は、被内包リポソームを含有し、液滴の周囲が内層脂質膜(第2脂質膜)に覆われたものである。内層脂質膜は、親水基部分が液滴を構成する内側を向き、疎水基部分が外側に向くように各脂質分子が整列した単分子膜として形成される。
【0028】
油相中にW/O液滴を導入すると、重力によってW/O液滴は沈んでいき、油水界面に到達する。油相を構成する油性溶液に比べて液滴を構成する水性溶液の方が重いからである。ただし、W/O液滴と水相はいずれも水性溶液により構成されているので、例えばW/O液滴の液滴を構成する水性溶液と水相を構成する水性溶液が同じである場合、W/O液滴はそれ以上降下することができず、水相中に移行させることができない。そこで、本発明においては、W/O液滴の液滴を構成する水性溶液と水相を構成する水性溶液に比重差、すなわち、重力によってW/O液滴が水相中に移行するにようになすのがよい。W/O液滴が油水界面を通過する際に、周囲に脂質単分子膜(第1脂質膜)を巻き込む形になり、当該脂質単分子膜が外層脂質膜となって脂質2分子膜を備えたリポソームが形成される。比重差は、被内包リポソームを含有させることにより生じるが、W/O液滴の液滴を構成する水性溶液に易熱変性物質やその他水溶性の物質をさらに加えても構わない。
【0029】
加えて、上記被内包リポソームをリポソームに内包する一連の工程を二回以上繰り返し、複数の被内包リポソームを内包したリポソームをさらに内包したリポソームを作成することも可能である。複数回これを繰り返すことにより、リポソームの包含される物質の安定性をより高めることができる。
【0030】
被内包リポソームを内包するリポソームの粒径としては、特に限定されないが、被内包リポソームより大きな粒径、例えば比較的安定性が高いとされる、500nm〜100μmのものが使用できる。
【0031】
被内包リポソーム及びこれを内包するリポソームの脂質膜を構成する脂質膜成分には、少なくともリン脂質、糖脂質、ステロール類、グリコール類、カチオン性脂質、ポリエチレングリコール(PEG)基を有する脂質(例えばPEG−リン脂質)等が含まれる。なかでも、リン脂質及び/又は糖脂質が好ましく使用される。
【0032】
使用できるリン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホシファチジン酸、ホスファチジルグリセリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、ジセチルホスフェート、リゾホスファチジルコリン(リゾレシチン)、卵黄レシチン、大豆レシチン又はこれらの水素添加リン脂質等が特に限定されることなく使用できる。
【0033】
上記リン脂質は1種又は2種以上を併用することも可能である。また、内層脂質膜と外層脂質膜の組成が異なる非対称性脂質2分子膜を備え、当該非対称性脂質2分子膜の膜面内に特定の脂質が偏在したミクロドメイン構造を形成するようにしてもよい。
【0034】
糖脂質としては、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド硫酸エステル等のグリセロ脂質、ガラクトシルセラミド、ガラクトシルセラミド硫酸エステル、ラクトシルセラミド、ガングリオシドG7、ガングリオシドG6、ガングリオシドG4等のスフィンゴ糖脂質等を挙げることができる。
【0035】
リポソーム膜の構成成分として、上記脂質の他に必要に応じて他の物質を加えることもできる。例えば、脂質膜安定化剤として作用するステロール類、例えばコレステロール、ジヒドロコレステロール、コレステロールエステル、フィトステロール、シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、コレスタノール、又はラノステロール等が挙げられる。また1−O−ステロールグルコシド,1−O−ステロールマルトシド又は1−O−ステロールガラクトシドといったステロール誘導体もリポソームの安定化に効果があることが知られている。これらの中で、特にコレステロールが好ましい。
【0036】
ステロール類の使用量として、リン脂質(PEG-リン脂質を含まず)/ステロール類のモル比が100/60〜100/90、好ましくは100/70〜100/85である。このモル比は、PEG-リン脂質を除くリン脂質量を基準としている。モル比が100/60未満であると混合脂質の分散性を向上させるステロール類による安定化が充分に発揮されない。
【0037】
上記ステロール類の他にリポソーム膜の構成成分として、グリコール類を加えてもよい。リポソームを作製する際に、リン脂質等ともにグリコール類を添加すると、リポソーム内での水溶性化合物の保持効率が上昇する。グリコール類として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール等が挙げられる。グリコール類の使用量として、脂質全質量に対して0.01〜20質量%、好ましくは0.5〜10質量%の割合が望ましい。
【0038】
本発明のリポソームは、目的とする対象器官に、目的とする薬効を有す有効成分を到達させるドラッグデリバリーシステム(DDS)に広く適用可能である。目的に応じ、経口あるいは血管を通じて、本発明のリポソームを含む薬剤を人体に投入できる。また、皮膚外用剤としては、美白、肌質改善、そばかす改善、肌の若返り、肌の引き締めを目的とした、化粧水、乳液、クリーム、パック剤、ピーリング剤等の化粧品だけでなく、毛髪用洗浄剤、浴用剤等の医薬部外品、薬品等の医薬品、健康の保持増進に役立つ健康食品等の食品のいずれにも好適に使用することができる。
【0039】
さらに、上記の方法によれば、被内包リポソームにおける内層液及び成分、被内包リポソームを内包させるリポソームにおける内層液、成分及び被内包リポソームの種類、並びに各リポソームにおける脂質膜の種類等を任意に選択することができる。これにより、成分の種類、性質等による特性を考慮し、所望の効果を狙って成分、構造等を調整しつつ被内包リポソームを内包するリポソームを製造することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0041】
(使用試薬)
リン脂質:レシチン
水溶性蛍光色素溶液:水性蛍光ペン(ゼブラ社製)の蛍光インクを適当な濃度で水に溶解させたもの
油相物質:ミネラルオイル
【0042】
(W/O液滴の作製)
リン脂質(レシチン)を、濃度が7.5mg/mLとなるようにミネラルオイル溶媒に溶解した。マイクロチューブ容器に、リン脂質溶液を1000mg、水溶性蛍光色素溶液を50mgで混合した。この混合液を、室温で30分間超音波処理をおこなった。
【0043】
(被内包リポソームの作製)
サンプル瓶に、水相となる精製水を4000mg入れ、その上に濃度が7.5mg/mLのリン脂質を含むオイル相1000mgをのせた。このリン脂質は外層脂質膜となる。さらに、オイル相に作製したW/O液滴を添加した。W/O液滴が重力によりオイル相から水相まで油水界面を介して自発的に移行することで、脂質2分子膜が形成されたリポソームを作製した。
【0044】
作製したリポソームの粒度分布を測定したところ(NanoSight LM10−HSB、ナノサイト社製)、60nmを中心として200nmにわたる粒度分布をとる小さいサイズのリポソームであった。
【0045】
(被内包リポソームを内包するW/O液滴の作製)
リン脂質(レシチン)を、濃度が7.5mg/mLとなるようにミネラルオイル溶媒に溶解した。続いて、マイクロチューブ容器に、リン脂質溶液を1000mg、前述で作製した被内包リポソームを含んだ水相を取り出し50mg添加した。さらに、この混合液をボルテックスミキサーで撹拌した。
【0046】
(被内包リポソームを内包するリポソームの作製)
サンプル瓶に、水相となる精製水を4000mg入れ、その上に濃度が7.5mg/mLのリン脂質を含むオイル相1000mgをのせた。オイル相に作製した被内包リポソームを含んだW/O液滴を添加した。W/O液滴が重力によりオイル相から水相まで油水界面を介して自発的に移行することで、被内包リポソームを内包するリポソームを作製した。
【0047】
前述で作製した水相から、被内包リポソームを内包するリポソームを取り出した。水相を、蛍光顕微鏡で観察し、写真撮影を行った(図1)。
【0048】
図1には、ひとつのリポソーム中に、蛍光を発している複数の球状部分が存在することが観察できる。このことから、リポソームの中に、水溶性蛍光色素溶液を含有する多数の被内包リポソームが含まれていることが確認できた。
【0049】
さらに、上記の被内包リポソームを内包するリポソームの安定性について検討した。
具体的には、作製した被内包リポソームを内包するリポソームと、被内包リポソーム単体との、40℃、2ヶ月保存後の経時安定性を比較した。
【0050】
その結果の蛍光顕微鏡写真を、図2に示す。被内包リポソームを内包するリポソームでは被内包リポソームが凝集せず、外層のリポソーム内にて独立し、分散して存在していることが分かる。一方、比較の被内包リポソーム単体では、作製当初は分散して存在していたが、2ヶ月後には凝集していることが分かる。
【0051】
以上より、被内包リポソームを内包するリポソームでは、内包される被内包リポソームの凝集を抑制することができ、安定化させられることが確認できた。さらに、外層のリポソーム同士の凝集も観測されず、非常に安定であることが確認できた。
図1
図2