(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記判別部は、前記速度の分布として、自転車にとって走行困難となる低速度帯に含まれる速度の占める割合を用い、この割合が閾値未満である場合に、移動手段が自転車であると判別する請求項1〜3のいずれか一項に記載の移動手段判別装置。
前記判別部によって複数のトリップそれぞれの移動手段が判別されると、一つのトリップの移動手段がその前後のトリップの移動手段と異なる場合に、当該一つのトリップの移動手段を、当該前後のトリップの移動手段と同じにする補正処理を行う補正部を、更に備えている請求項1又は3に記載の移動手段判別装置。
前記補正部は、前記一つのトリップの移動手段が自動車であると判別され、前記前後のトリップの移動手段が歩行であると判別された場合において、当該一つのトリップにおける前記携帯端末の速度が所定の値よりも大きい場合、前記補正処理を中止する請求項6又は7に記載の移動手段判別装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のように、携帯端末から送信されたプローブ情報に基づいて、サーバ装置が、例えば、道路の渋滞情報のような自動車向けの交通情報を正確に生成するためには、自動車に乗って移動している所持者の携帯端末から送信されたプローブ情報を収集する必要がある。
【0006】
しかし、所持者は、携帯端末を、自動車に搭載して道路情報システム用の装置として利用する以外に、所持して歩行、所持して自転車に乗って移動、又は、所持して電車に乗って移動することもありえる。したがって、携帯端末から送信されたプローブ情報に基づいて、自動車向けの交通情報を正確に生成するためには、そのプローブ情報の送信元である携帯端末(所持者)が、どのような移動手段により移動したか判別する必要がある。
【0007】
そこで、携帯端末を所持する所持者が、自動車及び電車に乗っている場合、一般的に、移動する際の平均速度は歩行及び自転車の場合よりも大きくなるため、サーバ装置は、現在位置の情報と時刻情報とを含むプローブ情報から、携帯端末が移動する際の平均速度を演算により求め、この平均速度に基づいて移動手段を判別することが可能となる。
【0008】
しかし、例えば、交通量が多く渋滞している道路では、自動車の速度が遅くなり、平均速度が、歩行の場合の平均速度と同程度になることがある。したがって、このような渋滞している道路を走行する自動車に、携帯端末を所持する所持者が乗っている状態で、この携帯端末からプローブ情報が無線送信されている場合、サーバ装置は、このプローブ情報に基づいて平均速度を算出し、この平均速度に基づいて移動手段を判別すると、移動手段が歩行であると誤って判別してしまうおそれがある。
【0009】
つまり、前記のように平均速度に基づいて移動手段を判別すると、誤りが発生する場合がある。そこで、本発明の目的は、移動手段の判別誤りを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の移動手段判別装置は、移動する携帯端末が送信した端末情報から所定時間毎の当該携帯端末の速度を示す速度情報を取得する取得部と、前記携帯端末を所持する所持者がどのような移動手段を用いて移動したか判別する判別部とを備え、前記携帯端末の発進又は停止から次の停止又は次の発進までが一つのトリップとされ、前記判別部は、前記トリップ毎に取得された前記速度情報が示す速度の分布を判別基準として、当該トリップにおける移動手段を判別することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、トリップ毎に取得された速度情報が示す速度の分布を判別基準として、携帯端末を所持する所持者が各トリップをどのような移動手段を用いて移動したかを判別するので、従来のように移動手段の判別に平均速度を用いることで歩行と自動車とが混同するというような、移動手段の判別誤りの発生を低減することが可能となる。
【0012】
(2)また、前記判別部は、前記速度の分布として、歩行者の平均歩行速度帯に含まれる速度の占める割合を用い、この割合が閾値以上である場合に、移動手段が歩行であると判別するのが好ましい。
この場合、一つのトリップ内に含まれる複数の速度情報が示す速度の中で、平均歩行速度帯に含まれる速度の占める割合が高い場合、このトリップの移動手段は歩行であると判別することが可能となる。これに対して、平均歩行速度帯に含まれる速度の占める割合が低い場合、このトリップの移動手段は歩行以外(自動車)であると判別することが可能となる。このため、移動手段が、自転車であるか、渋滞している道路を走行することにより低速で走行している自動車であるかの判別が可能となる。なお、前記平均歩行速度帯とは、例えば、時速3.5km〜時速5.5kmである。
【0013】
(3)また、前記判別部は、前記速度の分布として、自転車にとって走行困難となる低速度帯に含まれる速度の占める割合を用い、この割合が閾値未満である場合に、移動手段が自転車であると判別するのが好ましい。
この場合、一つのトリップ内に含まれる複数の速度情報が示す速度の中で、自転車にとって走行困難となる低速度帯に含まれる速度の占める割合が低い場合、このトリップの移動手段は自転車であると判別することが可能となる。これに対して、低速度帯に含まれる速度情報の占める割合が高い場合、このトリップの移動手段は自転車以外(自動車)であると判別することが可能となる。このため、移動手段が、自転車であるか、渋滞している道路を走行することにより比較的低速で走行している自動車であるかの判別が可能となる。なお、自転車にとって走行困難となる低速度帯とは、例えば、時速0km〜時速4.5kmである。
【0014】
(4)ここで、一般的に、電車は、巡行状態(定速状態)に達するまでに加速する時間帯が長く、自動車は、巡行状態(定速状態)に達するまでに加速する時間帯が短いことから、加速している時間帯の相違に着目して、電車と自動車とを判別することが考えられる。このために、各トリップを、加速領域(加速フェイズ)、巡行領域(巡行フェイズ)、減速領域(減速フェイズ)に区分し、加速領域(加速している時間帯)の特徴を抽出して、移動手段(電車であるのか、自動車であるのか)を判別することが考えられる。
しかし、携帯端末のGPS機能に基づいて取得した位置情報から、その携帯端末の速度変化を、速度−時刻の座標系に示した場合、加速領域を適格に判定するのは困難な場合がある。加速している時間帯の相違に着目して移動手段を判別する場合、この加速領域の判定が異なると、その判別に誤りが発生することもある。
以上より、前記のような領域を区分することなく、移動手段の判別が可能となる技術的手段を備えた移動手段判別装置とするのが望ましい。
【0015】
そこで、前記取得部は、更に、前記携帯端末の加速度を示す加速度情報を取得可能であり、前記判別部は、更に、各トリップ内を所定速度帯で移動する前記携帯端末の前記加速度情報が示す加速度の分布を判別基準として、当該トリップにおける移動手段を判別するのが好ましい。
自動車と電車とでは重量(車両重量)に大きな差があり、自動車は電車に比べて物理的に加速度(加減速度)が大きくなる。そこで、巡行状態となるまでの過渡的な所定速度帯(例えば、時速20km〜40km)で移動する携帯端末の加速度情報が示す加速度の分布を、判別基準とすることにより、移動手段が自動車であるか電車であるかの混同が生じにくくなり、判別誤りの発生を低減することが可能となる。このように、各トリップを領域に分けることなく、移動手段の判別が可能となる。
【0016】
(5)また、前記(4)の移動手段判別装置において、前記判別部は、各トリップ内を前記所定速度帯で移動した前記携帯端末の前記加速度情報のうち、第1閾値以上の加速度を示す加速度情報の占める割合が、第2閾値以上である場合に、自動車であると判別し、第2閾値未満である場合に、電車であると判別するのが好ましい。
この場合、移動手段が、自動車であるか、電車であるかの判別が可能となる。
【0017】
(6)また、前記取得部は、更に、前記携帯端末の加速度を示す加速度情報、及び、当該加速度の正負が変化する変曲点を取得可能であり、前記判別部は、更に、前記携帯端末が移動した各トリップ内の前記変曲点に基づいて、当該トリップにおける移動手段を判別するのが好ましい。
自動車を運転するドライバは、前を走行する自動車との間隔を気にして、加速と減速を繰り返しながら、走行する傾向にある。これに対して、電車は、巡行状態となると、大きな加速(減速)をすることなく比較的一定速度で走行する。そこで、加速度の変曲点に着目して移動手段を判別することで、移動手段が、自動車であるか電車であるかの混同が生じにくくなり、判別誤りの発生を低減することが可能となる。このため、各トリップを領域に分けることなく、移動手段の判別が可能となる。
【0018】
(7)また、前記移動手段判別装置は、前記判別部によって複数のトリップそれぞれの移動手段が判別されると、一つのトリップの移動手段がその前後のトリップの移動手段と異なる場合に、当該一つのトリップの移動手段を、当該前後のトリップの移動手段と同じにする補正処理を行う補正部を、更に備えているのが好ましい。
判別部によって複数のトリップそれぞれの移動手段が判別されるが、この判別に誤りがあったとしても、その補正を行うことが可能となる。
【0019】
(8)また、前記(7)の移動手段判別装置において、前記補正部は、前記一つのトリップの時間が所定時間よりも短いことを条件に、前記補正処理を行うのが好ましい。
この場合、前記一つのトリップの移動手段の判別に誤りが生じている可能性が高く、これを補正することが可能となる。
(9)また、前記(7)又は(8)の移動手段判別装置において、前記補正部は、前記一つのトリップの移動手段が自動車であると判別され、前記前後のトリップの移動手段が歩行であると判別された場合において、当該一つのトリップにおける前記携帯端末の速度が所定の値よりも大きい場合、前記補正処理を中止するのが好ましい。
この場合、一つのトリップにおける携帯端末の速度が大きいことから、この一つのトリップの移動手段は、やはり自動車であると判別するのが妥当であり、補正部による補正処理を中止することができる。
【0020】
(10)また、本発明は、携帯端末を所持する所持者がどのような移動手段を用いて移動したか判別する移動手段判別装置として、コンピュータを機能させるコンピュータプログラムであって、前記携帯端末の発進又は停止から次の停止又は次の発進までが一つのトリップとされ、前記移動手段判別装置は、前記携帯端末が送信した端末情報から所定時間毎の当該携帯端末の速度を示す速度情報を取得し、前記トリップ毎に取得された前記速度情報が示す速度の分布を判別基準として、当該トリップにおける移動手段を判別することを特徴とする。
本発明によれば、前記(1)に記載の移動手段判別装置と同様の作用効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、トリップ毎に取得された速度情報が示す速度の分布を判別基準として、携帯端末を所持する所持者が各トリップをどのような移動手段を用いて移動したかを判別するので、移動手段の判別誤りの発生を低減することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
〔1. 道路情報システムについて〕
図1は、本発明の移動手段判別装置1を含む道路情報システムの概略構成図である。この道路情報システムには、無線通信機能を有する携帯端末7、この携帯端末7から無線送信された送信信号を受信する無線通信装置3(無線基地局)、及び、無線通信装置3を通じて前記送信信号を収集するサーバ装置10が含まれる。
【0024】
携帯端末7は、所持者(ユーザ)が所持する例えばスマートフォン(携帯電話)やタブレット端末からなる。携帯端末7は、各種の情報を無線により送受信する送受信部5と、無線通信及び各種の情報処理のための制御を行う制御部6と、現在位置の情報を取得する位置取得部4とを備えている。位置取得部4は、例えばGPS信号を受信する受信部と、受信したGPS信号から現在位置を取得する測位部とを有する。
【0025】
位置取得部4は所定の周期で現在位置を取得する。現在位置が取得されると、制御部6は、この現在位置を示す位置情報と、その現在位置における時刻の情報(時刻情報)とを端末情報(プローブ情報)iとして生成する。そして、この端末情報iが送受信部5から無線送信される。本実施形態では、端末情報iの生成周期と端末情報iの送信周期とは同じであり、例えば1秒周期とすることができる。なお、端末情報iの生成周期と送信周期とは異なっていてもよく、この場合、複数の端末情報iがまとめられて送信される。
この端末情報iには、携帯端末7の識別情報も含まれており、この端末情報iを取得したサーバ装置10(処理部13)は、携帯端末7を識別することができる。
【0026】
携帯端末7は所持者によって所持されるが、この所持者は、各地の道路(歩道)等を歩行する以外に、自動車に乗ったり、電車に乗ったり、自転車に乗ったりして移動する。
所持者は、自動車に乗った場合に、携帯端末7を自動車の車載装置として活用することができる。この場合、携帯端末7は、自動車の位置情報と時刻情報とを含む端末情報iを生成し無線送信する。この生成・送信の処理は繰り返し行われる。
【0027】
所持者が、自転車及び電車に乗った場合も、歩行する場合及び自動車に乗っている場合と同様に、所持する携帯端末7により位置情報と時刻情報とを含む端末情報iが生成され無線送信される。この生成・送信の処理は繰り返し行われる。
【0028】
無線通信装置3は、道路の各所や建物等に設置された無線基地局からなり、各地を移動する携帯端末7から送信された端末情報iを受信し、サーバ装置10へ転送する。
【0029】
サーバ装置10は、サーバコンピュータからなり、コンピュータプログラム及び各種情報を記憶するハードディスク等の記憶装置からなる記憶部11と、無線通信装置3と通信を行うための通信インタフェースからなる送受信部12と、情報処理を行う処理装置からなる処理部13とを備えている。
無線通信装置3から送信された端末情報iを送受信部12が受信すると、その端末情報iは送受信部12から処理部13へ与えられる。処理部13は、この端末情報iを用いて、後に説明するが、その端末情報iの送信元である携帯端末7を所持する所持者が、以下に説明する各トリップを、どのような移動手段(歩行、自転車、自動車、電車)を用いて移動したか判別する処理(移動手段判別処理)を行う。
【0030】
サーバ装置10は、様々な機能を奏する機能部を複数有しており、これら機能部のうちの一つが、前記移動手段判別処理を行う移動手段判別装置1である。つまり、サーバ装置10が有する処理部13は、CPU及び内部メモリ等を有するコンピュータからなり、このサーバ装置10を移動手段判別装置1として機能させるためのコンピュータプログラムが、記憶部11にインストールされている。この移動手段判別装置1が備えている各機能(後述の取得部21、判別部22及び補正部23)は、前記コンピュータプログラムが処理部13によって実行されることで発揮される。
【0031】
〔2. 移動手段判別装置1について〕
〔2.1 処理部13の各機能について〕
図2(A)は、携帯端末7が移動した道路を含む地図を示す説明図である。地点Aで停止していた携帯端末7が、地点Aを発進して移動を続け、地点Bで停止したとする。
【0032】
前記のとおり、携帯端末7によって、所定時間毎(本実施形態では1秒毎)に送信された端末情報iそれぞれには、その携帯端末7の位置情報と時刻情報とが含まれている。なお、前記所定時間は、一定時間ではなく変更される時間であってもよい。
このため、取得部21は、ある携帯端末7から送信された端末情報iに含まれている位置情報及び時刻情報から、その携帯端末7の道路地図上における所定時間毎の位置(軌跡点)を示す軌跡点情報を取得することができ、また、この携帯端末7についての連続する複数の位置(複数の軌跡点)から、その携帯端末7の移動軌跡を取得することができる。
図2(A)の地図中(道路上)の各ドットが軌跡点である。
【0033】
さらに、取得部21は、位置情報と時刻情報とを含む端末情報iを取得すると、所定時間毎(1秒毎)の携帯端末7の位置情報を得ることができることから、この端末情報iに基づいて、所定時間毎(1秒毎)の携帯端末7の速度を示す速度情報を演算により求めて取得することができる。さらに、取得部21は、この速度情報が示す速度を用いて、所定時間毎(1秒毎)の携帯端末7の加速度を示す加速度情報を演算により求めて取得することができる。
【0034】
以上より、取得部21は、端末情報iに基づいて、軌跡点毎の、位置情報、速度情報及び加速度情報を取得することができ、軌跡点毎に、これら情報は相互に対応付けられて記憶部11に記憶される。
そして、取得部21は、これら取得した情報に基づいて、携帯端末7の速度の時間変化を示す関係情報(
図2(B)参照)を求めることができる。
図2(B)に示すグラフは、速度の時間変化が連続した線により表現されているが、実際は、所定時間毎(本実施形態では1秒毎)の速度を示す離散的な情報である。
【0035】
なお、前記説明では、携帯端末7の位置情報から速度情報が算出される場合を説明したが、これ以外に、携帯端末7が自身の速度を示す速度情報を求め、この速度情報を端末情報iに含めて送信する場合があり、この場合、取得部21は、この端末情報iに含まれている速度情報をそのまま取得する。
また、携帯端末7が自身の加速度を示す加速度情報を求め、この加速度情報を端末情報iに含めて送信する場合があり、この場合、取得部21は、この端末情報iに含まれている加速度情報をそのまま取得する。
【0036】
また、取得部21は、同一位置を示す位置情報を所定回数について連続して取得すると、携帯端末7の状態は「停止」であると判定することができる。また、この「停止」から、位置情報の示す位置が変化すると、携帯端末7の状態は「発進」であると判定することができる。そして、位置情報の示す位置が変化を続けると、携帯端末7の状態は「移動中」であると判定することができる。さらに、「移動中」から、同一位置を示す位置情報を所定回数について連続して取得すると、「停止」と判定することができる。このように、取得部21は、端末情報iに基づいて、携帯端末7の停止、発進及び移動を判定することができる。
【0037】
図2(A)(B)の場合、取得部21は、携帯端末7が地点Aで発進(時刻t1)し、地点Bで停止(時刻(t4)したことを判定することができる。そして、この発進(地点A、時刻t1)から次の停止(地点B,時刻t4)までを一つのトリップとして設定する処理を行う。取得部21は、同様にして、その後についても、発進と停止とを判定し、複数のトリップを設定することができる。
【0038】
これにより、携帯端末7が、発進と停止とを繰り返しながら、出発地から目的地に移動すると、
図12に示すように、出発地Psから目的地Peまでの間に複数のトリップが得られ、取得部21は、時刻順に各トリップを設定することができる。そして、各トリップには、トリップ番号(トリップID)が付与される。
図12の場合、時刻順に、トリップID=1〜6である。
【0039】
以上より、携帯端末7が所定時間毎に(1秒毎に)端末情報iを送信し続けることにより、取得部21は、トリップを判定することができる。また、取得部21は、各トリップに含まれている複数の軌跡点毎の位置情報、速度情報、加速度情報を取得し、これら情報は軌跡点毎に対応付けられて記憶部11に蓄積される。
また、取得部21は、各トリップに含まれる速度情報に基づいて、各トリップを携帯端末7が移動した際の平均速度を算出することができる。
【0040】
取得部21は、更に、携帯端末7の加速度を示す加速度情報の他に、加速度の正負が変化する変曲点を取得する。つまり、ある時刻(tj)の端末情報iから加速度(加速度情報)が求められ、所定時間後(1秒後)の時刻(tj+1)の端末情報iから加速度(加速度情報)が求められた際に、これら時刻(tj)と時刻(tj+1)との間で、加速度の正負が変化している場合、取得部21は、時刻(tj)における軌跡点を、加速度の正負が変化する変曲点とみなす処理を行う。
以上、取得部21が取得した情報は、トリップ毎にトリップ番号と対応付けられて記憶部11に蓄積される。
【0041】
そして、判別部22は、トリップ毎に取得された複数の軌跡点それぞれにおける速度情報が示す速度の分布を判別基準として、各トリップにおける移動手段を判別する処理を行う。
また、補正部23は、判別部22によって複数のトリップそれぞれの移動手段が判別されると、判別されたトリップ毎の移動手段を照査し補正する処理を行う。
これら判別部22及び補正部23による具体的な処理内容については、後に説明する。
【0042】
〔2.2 判別部22による判別処理ついて〕
〔2.2.1 自動車−歩行の判別〕
取得部21により、あるトリップにおいて、携帯端末7の速度の時間変化を示す情報として、
図3(A)に示す情報が取得されたとする。
図3(A)は、携帯端末7を所持する所持者が歩行している際に取得されたものである。1トリップ内での最高速度は時速5.5kmであるが、この1トリップにおける平均速度を計算すると、時速5kmになったとする。
【0043】
また、取得部21により、あるトリップにおいて、携帯端末7の速度の時間変化を示す情報として、
図3(B)に示す情報が取得されたとする。
図3(B)は、携帯端末7を所持する所持者が自動車に乗っている際に取得されたものである。しかし、この自動車は、渋滞する道路を走行しており、1トリップ内での最高速度は時速10kmであり、この1トリップにおける平均速度を計算すると、時速5kmになったとする。
【0044】
このように、交通量が多く渋滞している道路では、自動車の速度が遅くなり、平均速度が、歩行の場合の平均速度と同程度になることがある。したがって、このように渋滞している道路を走行する自動車に、携帯端末7を所持する所持者が乗って、この携帯端末7から端末情報iが無線送信されている場合、この端末情報iに基づいて平均速度を算出し、仮に、この平均速度に基づいて移動手段を判別すると、移動手段が歩行であると誤って判別されてしまうおそれがある。
【0045】
しかし、本実施形態に係る判別部22は、判別基準として平均速度を用いず、トリップ毎に取得された複数の軌跡点それぞれにおける速度情報が示す速度の分布(度数分布)を判別基準として、そのトリップにおける移動手段を判別する処理を行う。
【0046】
具体的に説明すると、判別部22は、1トリップに含まれる複数の軌跡点における複数の速度情報が示す速度を統計処理し、これら速度を、速度毎に(速度帯毎に)区分する。つまり、速度分布を求める。
図4(A)は、
図3(A)の1トリップに含まれる速度情報についての統計処理の結果であり、
図4(B)は、
図3(B)の1トリップに含まれる速度情報についての統計処理の結果である。なお、
図3(A)(B)に示すグラフは、速度の時間変化が連続する線により表現されているが、実際は、所定時間毎(1秒毎)の速度を示す離散的な情報である。
【0047】
ここで、携帯端末7が、歩行する所持者によって所持されている場合(
図3(A)の場合)、一般的に歩行者は、時速3.5km〜時速5.5kmの平均歩行速度帯で歩行することから、歩行者の速度分布は、
図4(A)に示すように、平均歩行速度(例えば時速4.5km)の周囲に狭く散布した分布となる。
これに対して、携帯端末7が、渋滞により低速で走行している自動車に搭載されている場合(
図3(B)の場合)、その自動車は1トリップ中を加速と減速とを頻繁に繰り返していることから、自動車の速度分布は、
図4(B)に示すように、0〜最高速度(時速10km)までの範囲に広がって散布した分布となる。
【0048】
そこで、判別部22は、1トリップに含まれる複数の軌跡点における複数の速度情報(速度)についての度数分布を求め、この度数分布から、歩行者の平均歩行速度帯(時速3.5km〜時速5.5km)に含まれる速度情報(速度)の度数を求める。
そして、1トリップ内に含まれる複数の軌跡点における複数の速度情報の度数の合計に対して、平均歩行速度帯(時速3.5km〜時速5.5km)に含まれる速度情報の度数の割合が、閾値(20%)以上である場合に、移動手段が歩行であると判別し、この閾値(20%)未満である場合に、移動手段が自動車であると判別する。なお、前記閾値は変更可能であり、例えば10〜30%の値とすることができる。
【0049】
以上のように、判別部22は、1トリップ内の、速度の分布として、歩行者の平均歩行速度帯(時速3.5km〜時速5.5km)に含まれる速度の占める割合を用い、この割合を判別基準として、移動手段が自動車であるのか歩行であるのかを判別している。
そして、1トリップ内に含まれる複数の軌跡点における複数の速度情報が示す速度の中で、平均歩行速度帯に含まれる速度の占める割合が高い場合、このトリップの移動手段は歩行であると判別することが可能となり、平均歩行速度帯に含まれる速度の占める割合が低い場合、このトリップの移動手段は歩行以外(自動車)であると判別することが可能となる。
つまり、1トリップ内に含まれる、所定時間毎(1秒毎)の速度情報が示す速度のばらつきが小さく、しかも、この速度の分布が平均歩行速度(4.5km/h)の周囲に狭く散布している場合、移動手段が歩行であると判別され、ばらつきが大きい場合、移動手段が自動車であると判別される。
【0050】
以上のように、本実施形態の移動手段判別装置1によれば、1トリップに含まれる複数の軌跡点それぞれにおける速度情報が示す速度の分布(平均歩行速度帯に含まれる速度の占める割合)を判別基準として、携帯端末7を所持する所持者が各トリップをどのような移動手段を用いて移動したかを判別することから、従来のように移動手段の判別に平均速度を用いることで歩行と自動車とが混同するというような、移動手段の判別誤りの発生を低減することが可能となる。
【0051】
〔2.2.2 自動車−自転車の判別〕
前記の自動車−歩行の判別処理と同様に、携帯端末7の速度の時間変化を示す情報として、携帯端末7を所持する所持者が自動車に乗っている際に取得された場合と、携帯端末7を所持する所持者が自転車(二輪の自転車)に乗っている際に取得された場合とで、それぞれ取得されたとする。
そして、判別部22は、1トリップに含まれる複数の軌跡点における複数の速度情報が示す速度を統計処理し、これら速度を、速度毎に(速度帯毎に)区分する。つまり、速度分布を求める。
図5(A)は、携帯端末7を所持する所持者が自動車に乗っている場合であり、
図5(B)は、携帯端末7を所持する所持者が自転車(二輪の自転車)に乗っている場合の統計処理の結果である。
【0052】
ここで、一般的に、時速0km〜時速4.5kmの低速度帯で自転車を走行させることは困難である。つまり、このような低速度帯では自転車は倒れてしまい、走行不能となる。これに対して、自動車は、特に、道路が渋滞している場合、このような低速度帯でも走行することは頻繁に起こりえる。
【0053】
そこで、判別部22は、1トリップに含まれる複数の軌跡点における速度情報(この速度情報が示す速度)について度数分布を求め、この度数分布から、自転車にとって走行困難となる低速度帯(時速0km〜時速4.5km)に含まれる速度情報の度数を求める。
そして、この低速度帯(時速0km〜時速4.5km)に含まれる速度情報の度数が、閾値(10%)未満である場合に、移動手段が自動車であると判別し、この閾値(10%)以上である場合に、移動手段が自動車であると判別する。なお、前記閾値は変更可能であり、例えば5〜20%の値とすることができる。
【0054】
このように、判別部22は、1トリップ内の、速度の分布として、自転車にとって走行困難となる低速度帯(時速0km〜時速4.5km)に含まれる速度の割合を用い、この割合を判別基準として、移動手段が自動車であるのか自転車であるのかを判別する。
そして、1トリップ内に含まれる複数の軌跡点それぞれにおける速度情報が示す速度の中で、低速度帯に含まれる速度の占める割合が低い場合、このトリップの移動手段は自転車であると判別することが可能となり、低速度帯に含まれる速度の占める割合が高い場合、このトリップの移動手段は自転車以外(自動車)であると判別することが可能となる。
【0055】
なお、
図5(B)において、実線、一点鎖線及び破線それぞれは、異なる所持者による情報であるが、所持者が異なっても前記のような低速度帯では自転車を走行し続けない。
【0056】
〔2.2.3 自動車−電車の判別(その1)〕
前記の判別処理の場合と同様の処理を取得部21が行うことにより、あるトリップにおいて、
図6に示す携帯端末7の速度の時間変化を示す情報が取得されたとする。なお、この情報は、携帯端末7を所持する所持者が自動車に乗っている場合の情報である。
【0057】
前記のとおり、記憶部11には、各トリップに含まれる複数の軌跡点それぞれにおける位置情報、速度情報、加速度情報が、トリップ毎に(トリップ番号と対応付けられて)記憶部11に蓄積されている。このため、取得部21は、携帯端末7が移動したトリップ内の複数の速度情報から、所定速度帯に含まれる速度情報と、この速度情報と対応付けられている加速度情報とを、記憶部11から抽出して取得することができる。
本実施形態では、前記所定速度帯は、時速20km〜時速40kmの速度帯であり、取得部21は、速度情報が示す速度が、時速20km〜時速40kmの速度帯に含まれる速度情報と、この速度情報に対応する加速度情報を抽出する。
図6の長円で囲む範囲の速度情報が、抽出される速度情報である。
【0058】
そして、判別部22は、1トリップ内を前記所定速度帯(時速20km〜時速40km)で移動した携帯端末7から求めた、複数の軌跡点それぞれにおける加速度情報の中から、次の<条件1>を満たす加速度情報の占める割合を求める。
<条件1>第1閾値以上の加速度を示す加速度情報
【0059】
本実施形態では、第1閾値は1m/秒
2である。また、本実施形態では、絶対値がこの第1閾値以上の加速度を示す加速度情報の示す割合が求められる。
つまり、判別部22は、1トリップ内を時速20km〜時速40kmで移動した携帯端末7の加速度情報のうち、絶対値が1m/秒
2以上の加速度を示す加速度情報の占める割合を求める。
そして、判別部22は、この割合が、第2閾値以上である場合に、自動車であると判別し、第2閾値未満である場合に、電車であると判別する。本実施形態では、第2閾値は40%である。
【0060】
さらに、本実施形態では、前記「加速度情報の占める割合」は、時間に関する割合としている。このため、判別部22は、1トリップ内を前記所定速度帯(時速20km〜時速40km)で移動した携帯端末7が、第1閾値(1m/秒
2)以上の加速度で走行した時間(Δαt)を求める。さらに、判別部22は、1トリップ内を前記所定速度帯(時速20km〜時速40km)で携帯端末7が移動した時間(
図6のΔt1とΔt2)の全体を求める。
そして、判別部22は、前記割合として、第1閾値以上の加速度で走行した時間(Δαt)と、時速20km〜時速40kmで携帯端末7が移動した時間(
図6のΔt1とΔt2)との比(Δαt/(Δt1+Δt2)=ε)を求める。
この比(ε)が、第2閾値(40%)以上である場合に、自動車であると判別し、第2閾値(40%)未満である場合に、電車であると判別する。
【0061】
なお、前記第1閾値は変更可能であり、例えば、0.5m/秒
2〜1.5m/秒
2とすることができる。また、この第2閾値は変更可能であり、例えば、30%〜50%とすることができる。
【0062】
ここで、
図7は、1トリップ内を前記所定速度帯(時速20km〜時速40km)で移動した携帯端末7の加速度情報に関する前記割合(比ε)をグラフ化した説明図であり、この
図7は、携帯端末7が自動車に搭載されている場合を示している。
これに対して、
図8は、1トリップ内を前記所定速度帯(時速20km〜時速40km)で移動した携帯端末7の加速度情報に関する前記割合(比ε)をグラフ化した説明図であり、この
図8は、携帯端末7を所持する所持者が電車に乗っている場合を示している。
なお、
図7と
図8それぞれは、複数のトリップについて前記割合(比ε)が重ねて表示されたものである。
【0063】
ここで、自動車と電車とでは重量(車両重量)に大きな差があり、特に巡行状態(定速状態)となるまでの過渡的な速度帯(時速20km〜40km)では、自動車は電車に比べて物理的に加速度(加減速度)が大きくなる。
また、一般的に、自動車を運転するドライバは、巡行状態(定速状態)となるまでの過渡的な速度帯(時速20km〜40km)では、前を走行する自動車との間隔を気にして、比較的強い加速と減速を繰り返しながら、例えば平均的に時速60kmで走行する巡行状態となるまで加速する傾向にある。この「強い加速と減速」が、本実施形態では、加速度(絶対値)が第1閾値(1m/秒
2)以上となる加速と減速を意味している。
これに対して、電車は、巡行状態(定速状態)となるまでの過渡的な速度帯(時速20km〜40km)では、比較的一定の加速度で加速する。つまり、電車は、自動車の場合よりも「弱い加速(減速)」となり、この「弱い加速(減速)」が、本実施形態では、加速度が第1閾値(1m/秒
2)未満となる加速(減速)を意味している。
【0064】
そこで、巡行状態となるまでの過渡的な速度帯(時速20km〜40km)に含まれる速度で移動する携帯端末7の、複数の軌跡点それぞれにおける加速度情報の分布(加速度の分布)を判別基準とすることにより、移動手段が自動車であるか電車であるかの判別が可能となる。つまり、前記のとおり、判別部22は、1トリップ内の、所定速度帯(時速20km〜時速40km)で移動した携帯端末7の複数の軌跡点それぞれにおける加速度情報の分布を判別基準として、このトリップにおける移動手段を判別している。
【0065】
なお、
図7(自動車)と
図8(電車)とを比較すると、
図7の場合、加速度が−2m/秒
2〜−1m/秒
2の領域及び1m/秒
2〜2m/秒
2の領域に含まれるデータの数が多く、その値が大きいことから、絶対値が第1閾値(1m/秒
2)以上となる加速度が多く分布していると言え、この場合、移動手段が自動車であると判別される。
なお、前記実施形態では、加速度の絶対値を用いて正の加速度と負の加速度との双方を対象としているが、いずれか一方のみであってもよい。
【0066】
そして、この判別処理によれば、自動車と電車との判別に関して、各トリップを加速領域などのフェイズに分ける必要がない。
すなわち、一般的に、電車は、巡行状態(定速状態)に達するまでに加速する時間帯が長く、自動車は、巡行状態(定速状態)に達するまでに加速する時間帯が短いことから、加速している時間帯の相違に着目して、電車と自動車とを判別することが考えられる。このために、各トリップを、加速領域(加速フェイズ)、巡行領域(巡行フェイズ)、減速領域(減速フェイズ)に区分し、加速領域(加速している時間帯)の特徴を抽出して、移動手段(電車であるのか、自動車であるのか)を判別することが考えられる。
しかし、携帯端末7のGPS機能に基づいて取得した位置情報から、その携帯端末の速度変化を求め、速度−時刻の座標系に示した場合、
図9に示すようなデータとなり、加速領域、巡行領域、減速領域を適格に判定するのは困難な場合がある。つまり、加速領域を、
図9の時刻t1〜t2までと判定する場合、時刻t1〜t3でと判定する場合、時刻t1〜t4までと判定する場合とがあり得る。加速している時間帯の相違に着目して電車と自動車とを判別する場合、この加速領域の判定が異なると、その判別に誤りが発生することもある。
しかし、本実施形態にかかる判別処理によれば、自動車と電車との判別に関して、各トリップを、加速領域(加速フェイズ)、巡行領域(巡行フェイズ)、減速領域(減速フェイズ)等のように領域(フェイズ)に分けなくても、前記のとおり、移動手段の判別が可能となり、判別の誤りを低減することができる。
【0067】
〔2.2.4 自動車−電車の判別(その2)〕
図10は、一つのトリップにおける携帯端末7の速度の時間変化を示す説明図である。なお、この
図10に示す情報は、携帯端末7を所持する所持者が自動車に乗っている場合の情報である。
自動車を運転するドライバは、例えば平均的に時速50km〜時速60kmで走行する巡行状態では、前を走行する自動車との間隔を気にしたり、車線変更を行ったり、見通しの悪い道路を走行する等の外乱の影響により、加速と減速を繰り返しながら走行する傾向にある。このため、
図10に示すように、一旦、時速50km〜時速60kmまで速度を上げた後においても、時速20km〜40kmの速度帯まで速度が落ち、さらに加速することもある(
図10の時刻ta、tb付近)。
【0068】
ここで、前記〔2.2.3 自動車−電車の判別(その1)〕のように、判別部22が、1トリップ内を所定速度帯(時速20km〜時速40km)で移動した携帯端末7が、第1閾値(1m/秒
2)以上の加速度で走行した時間(Δαt)を求め、さらに、この1トリップ内を時速20km〜時速40kmで携帯端末7が移動した時間(
図6のΔt1とΔt2)を求め、これらの比(Δαt/(Δt1+Δt2)=ε)に基づいて、自動車と電車とを判別する場合、
図10のような、時刻ta、tb付近の情報はノイズとなってしまう。
つまり、
図10は、移動手段が自動車であるにも関わらず、時刻ta、tb付近の情報により、前記(Δt1+Δt2)の値が大きくなることで、移動手段が電車であると誤って判別されるおそれがある。
【0069】
そこで、自動車と電車の別の判別処理として、自動車の場合、加速度の正負の入れ替わりが多いことから、加速度の符号の変化を判別基準とすることができる。
前記のとおり、取得部21は、加速度の正負が変化する変曲点を取得可能である。つまり、取得部21により、ある時刻(tj)の端末情報iから加速度(加速度情報)が求められ、所定時間後(1秒後)の時刻(tj+1)の端末情報iから加速度(加速度情報)が求められた際に、これら加速度の正負が反転している場合、時刻(tj)における軌跡点を、加速度の正負が変化する変曲点とみなす処理が行われる。
ただし、時刻(tj+1)の加速度と、時刻(tj)の加速度との差(加加速度)の絶対値が1m/秒
2以上になる場合、時刻(tj)における軌跡点を、変曲点とはみなさない処理が行われる。これは加加速度(単位時間あたりの加速度の差)の絶対値が1m/秒
2以上で大きい場合、位置取得部4におけるGPS測位のノイズによって変曲点が発生していると考えられ、このようなノイズによる変曲点を、走行中の加速度変化とみなさないためである。
図11は、
図10の一部を示す説明図である。
図11に示すように、本実施形態では5つの変曲点h1〜h5が取得される。
【0070】
そして、判別部22は、これら変曲点h1〜h5を取得すると、各変曲点の時刻から、次の軌跡点までの時刻までの時間(Δth)、つまり、各変曲点の時刻から、所定時間後(1秒後)の軌跡点が得られる時刻(tj+1)までの時間(Δth)を求める。
図11に示す変曲点h1の場合、時刻t1から時刻t2までの時間(Δth=1秒)を求める。変曲点が複数存在する場合、それぞれにおいて前記時間(Δth)を求め、これらを合計(ΣΔth)する。
図5の場合、Δthはそれぞれ1秒であることから、合計(ΣΔth)は5秒となる。
【0071】
さらに、判別部22は、取得した複数の軌跡点それぞれにおける速度情報が示す速度が、時速5km以上であり、かつ、取得した軌跡点それぞれにおける加速度情報が示す加速度の絶対値が、0.005m/秒
2以上であって0.3m/秒
2未満の時間帯(ΔT)を求める。
そして、判別部22は、前記合計(ΣΔth)と、前記時間帯(ΔT)との比(σ)を求め、この比(σ)と閾値とを比較し、移動手段が電車であるか自動車であるかの判断を行う。つまり、変曲率を示す前記比(σ)が、閾値以上である場合、移動手段が自動車であると判別し、閾値未満である場合、移動手段が電車であると判別する。なお、この閾値は、例えば、20%〜30%までの間の値とすることができる。
【0072】
このように、判別部22は、1トリップ内の、加速度の正負が変化する変曲点に基づいて、このトリップにおける移動手段を判別する。特に本実施形態では、変曲点を含む時間を示す指標(比σ)を判別基準としている。
【0073】
この判別処理によれば、移動手段が自動車であるか電車であるかについての判別誤りの発生を低減することができる。すなわち、自動車を運転するドライバは、巡行状態になっても、前を走行する自動車との間隔等を気にして、加速と減速を繰り返しながら走行する傾向にある。これに対して、電車は、巡行状態となると、大きな加速(減速)をすることなく比較的一定速度で加速する。そこで、前記のとおり、加速度の変曲点に着目して移動手段を判別することで、移動手段が、自動車であるか電車であるかの混同が生じにくくなり、判別誤りの発生を低減することが可能となる。さらに、前記〔2.2.4 自動車−電車の判別(その1)〕の場合と同様に、各トリップを領域(フェイズ)に分けることなく、移動手段の判別が可能となる。
【0074】
〔2.3 補正部23について〕
以上の判別部22が行う判断処理により、複数のトリップそれぞれについての移動手段が判別される。
図12は、複数のトリップ(ID=1〜6)と、各トリップについて判断された移動手段を示している。このように、複数のトリップそれぞれの移動手段が判別されると、補正部23は、次の補正処理を行う。
【0075】
すなわち、補正部23は、一つのトリップの移動手段が、その前後のトリップの移動手段と異なる場合、この一つのトリップの移動手段を、前後のトリップの移動手段と同じに揃える。ただし、この補正処理は、次の<条件2>と<条件3>の双方を満たす場合にのみ実行される。
<条件2>変更の対象となる一つのトリップの時間が所定時間(閾値)よりも短いこと。なお、前記所定時間(閾値)は、例えば75秒〜150秒の間の値である。
<条件3>変更の対象となる一つのトリップの平均速度が、その前後にあるトリップの移動手段の速度の上限値以下である。移動手段が歩行の場合、例えば、前記上限値は時速9kmである。
【0076】
図12の場合、ID=3のトリップの移動手段が「自動車」であると判断されているのに対して、その前後であるID=2とID=4のトリップの移動手段が「歩行」であると判断されている。そこで、補正部23は、ID=3のトリップの移動手段を「自動車」から「歩行」へ補正する。なお、ここでは、前記<条件2>と<条件3>の双方が満たされている。
【0077】
このように、ID=3のトリップにおいて、<条件2>と<条件3>の双方が満たされている場合、このID=3のトリップの移動手段の判別に誤りが生じている可能性が高く、これを補正する。以上より、判別部22によって複数のトリップそれぞれの移動手段が判別されるが、この判別に誤りがあったとしても、その補正を行うことが可能となる。
【0078】
なお、
図13に示すように、一つのトリップ(ID=3)の移動手段が「自動車」であると判別され、その前後のトリップ(ID=2,4)の移動手段が「歩行」であると判別された場合において、この一つのトリップにおける携帯端末7の速度(平均速度)が所定の値(閾値)よりも大きい場合、補正部23は、前記の補正処理を中止する。
なお、前記所定の値(閾値)は、例えば時速20km〜時速30kmの間の値である。
【0079】
この場合、ID=3のトリップにおける携帯端末7の速度が大きいことから、このトリップの移動手段は、やはり「自動車」であると判別するのが妥当であり、補正部23による補正処理を中止する。
【0080】
〔3. 移動手段判別方法について〕
以上のように構成された移動手段判別装置1によって行われる移動手段判別方法について説明する。
移動手段判別装置1は、携帯端末7から送信される端末情報iを受信すると、この端末情報iに含まれている位置情報及び時刻情報から、その携帯端末7の軌跡点を求める。さらに、各軌跡点における位置情報、速度情報及び加速度情報等も求められる。
【0081】
移動手段判別装置1は、取得したこれら情報に基づいて、移動する携帯端末7の発進から次の停止までを一つのトリップとして定め、
図12に示すように、出発地Psから目的地Peまでの間に、複数のトリップを設定する。
そして、移動手段判別装置1(判別部22)は、各トリップを携帯端末7がどのような移動手段により移動したかの判別を行う。この判別は、出発地Psから目的地Peに向かって順番に行われる。なお、以下に説明する判別処理(
図14に示す処理)は、特に記載しない限り、判別部22によって行われる。
【0082】
各トリップに関して、そのトリップの平均速度が求められる(
図14のステップS1)。この平均速度が、自動車が一般道路を走行する一般的な速度の範囲(時速25km〜時速40kmの範囲)である場合、そのトリップにおける移動手段は、「自動車」であると判別される。
【0083】
その他の場合として、平均速度が、前記範囲の下限値(時速25km)よりも小さい場合、第1の処理(ステップS2)として前記〔2.2.1 自動車−歩行の判別〕及び前記〔2.2.2 自動車−自転車の判別〕が行われる。つまり、1トリップに含まれる複数の軌跡点それぞれにおける速度情報が示す速度の分布を判別基準として、そのトリップにおける移動手段を判別する。
【0084】
具体的には、そのトリップに含まれる複数の軌跡点における複数の速度情報のうち、平均歩行速度帯(時速3.5km〜時速5.5km)に含まれる速度の占める割合が、閾値(全体の20%)以上である場合に、移動手段が「歩行」であると判別され、この閾値(全体の20%)未満である場合に、移動手段が「自動車」であると判別される。
また、そのトリップに含まれる複数の軌跡点における複数の速度情報のうち、低速度帯(時速0km〜時速4.5km)に含まれる速度の占める割合が、閾値(全体の10%)未満である場合に、移動手段が「自転車」であると判別され、この閾値(全体の10%)以上である場合に、移動手段が「自動車」であると判別される。
【0085】
さらに、
図14のステップS1において、その他の場合として、平均速度が前記範囲の上限値(時速40km)よりも大きい場合、前記第1の処理(ステップS2)とは別に、第2の処理(ステップS3)として、前記〔2.2.4 自動車−電車の判別(その2)〕が行われる。つまり、そのトリップ内の、加速度の正負が変化する変曲点に基づいて、このトリップにおける移動手段を判別する。
具体的には、そのトリップにおける変曲率を示す比(σ)が、閾値(例えば、20%〜30%までの間の値)以上である場合、移動手段が「自動車」であると判別される。また、この閾値未満である場合、移動手段が自動車以外であると判別される。
【0086】
本実施形態では、このように移動手段が自動車以外であると判別されると、さらに、前記〔2.2.3 自動車−電車の判別(その1)〕が行われる(ステップS4)。つまり、1トリップ内の、所定速度帯(20〜40km/時間)で移動した携帯端末7の複数の軌跡点それぞれにおける加速度の分布を判別基準として、このトリップにおける移動手段が判別される。
具体的には、そのトリップ内を時速20km〜時速40kmで移動した携帯端末7の加速度情報のうち、絶対値が1m/秒
2以上の加速度を示す加速度情報の占める割合を求める。そして、この割合が、第2閾値(40%)以上である場合に、「自動車」であると判別され、第2閾値(40%)未満である場合に、「電車」であると判別される。
【0087】
以上のように、判別部22が複数のトリップそれぞれについて携帯端末7の移動手段を判別すると、補正部23は、一つのトリップの移動手段と、その前後のトリップの移動手段とを比較し、異なる場合に、所定の条件にしたがって、一つのトリップの移動手段を、前後のトリップの移動手段と同じにする補正処理が行われる(ステップS5)。
例えば、
図12に示すように、一つのトリップ(ID3)の移動手段が自動車であると判別され、その前後のトリップ(ID2とID4)の移動手段が歩行であると判別された場合、その一つのトリップ(ID3)の時間が所定時間(例えば100秒)よりも短いことを条件に、その一つのトリップ(ID3)の移動手段を、前後のトリップ(ID2とID4)の移動手段と同じ(歩行)にする補正処理を行う。
ただし、一つのトリップ(ID3)における携帯端末7の速度(平均速度)が所定の値(時速20km〜時速30km)よりも大きい場合、この補正処理は行われない。
【0088】
以上より、本実施形態の移動手段判別装置1によれば、各トリップにおける携帯端末7の移動手段を判別することができる。しかも、その判別誤りの発生を低減することが可能となる。
そして、トリップ毎に、位置情報、速度情報及び加速度情報等が取得されている。このため、処理部13は、移動手段が自動車であると判断されたトリップに含まれる軌跡点の各情報を収集することで、自動車用の提供情報(例えば、渋滞情報)を生成することができる。そして、この情報を、各地を走行している自動車や、前記トリップに該当する道路を走行する自動車に、提供する(無線送信する)ことが可能となる。
【0089】
なお、このように自動車用の提供情報のみならず、本実施形態の移動手段判別装置1によれば、各トリップにおける携帯端末7の移動手段を判別することができることから、処理部13は、各移動手段用の提供情報を、移動手段毎に収集した情報を基に、生成することができ、そして、この提供情報を提供することが可能となる。例えば、移動手段が歩行であると判断されたトリップにおける軌跡点の各情報を収集し、歩行用の提供情報を生成し、歩行している所持者が所持する携帯端末7に、その提供情報を提供することが可能となる。
【0090】
なお、前記実施形態では、携帯端末7の発進(
図2(B)の地点A、時刻t1)から次の停止(
図2(B)の地点B、時刻t4)までを、一つのトリップとして定めているが、これ以外にも、一つのトリップを、発進から(停止を経て)次の発進までにより定義してもよく、又は、停止から(次の発進を経て)次の停止までにより定義してもよい。
なお、今回開示した実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0091】
〔付記〕
また、移動手段判別装置1は、判別部22による判別処理に関して、前記〔2.2.3 自動車−電車の判別(その1)〕を行うように構成することができる。
すなわち、この移動手段判別装置は、次のとおりである。
移動手段判別装置は、移動する携帯端末が送信した端末情報から所定時間毎の当該携帯端末の速度を示す速度情報を取得する取得部と、前記携帯端末を所持する所持者がどのような移動手段を用いて移動したか判別する判別部と、を備え、
前記携帯端末の発進又は停止から次の停止又は次の発進までが一つのトリップとされ、
前記判別部は、各トリップ内を所定速度帯で移動した前記携帯端末の前記加速度情報が示す加速度の分布を判別基準として、当該トリップにおける移動手段を判別する。
【0092】
また、移動手段判別装置は、判別部22による判別処理に関して、前記〔2.2.4 自動車−電車の判別(その2)〕を行うように構成することができる。
すなわち、この移動手段判別装置は、次のとおりである。
移動手段判別装置は、移動する携帯端末が送信した端末情報から当該携帯端末の加速度を示す加速度情報、及び、当該加速度の正負が変化する変曲点を取得する取得部と、前記携帯端末を所持する所持者がどのような移動手段を用いて移動したか判別する判別部と、を備え、
前記携帯端末の発進又は停止から次の停止又は次の発進までが一つのトリップとされ、
前記判別部は、各トリップ内の前記変曲点に基づいて、当該トリップにおける移動手段を判別する。