(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
2−(4−アミノフェニル)−5(6)アミノベンズイミダゾール(DAPBI)、p−フェニレンジアミン、およびテレフタロイルジクロライドの残基を含むポリマーの製造方法であって、
a)DAPBIおよび二塩酸p−フェニレンジアミンを有機溶媒と無機塩とを含む溶媒系に溶解した溶液を形成する工程;
b)前記溶液を30℃以下の温度に冷却する工程;
c)前記DAPBIおよび前記二塩酸p−フェニレンジアミンの全量に対して化学量論量のテレフタロイルジクロライドを前記溶液に添加する工程;および
d)前記工程c)の溶液を撹拌してポリマーを生成する工程;
を含む方法。
【背景技術】
【0002】
5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンズイミダゾール(DAPBI)、p−フェニレンジアミン(PPD)およびテレフタロイルジクロライド(TClまたはT、一般にテレフタロイルクロライドとも称される)から得られる繊維が当該技術分野で公知である。このような共重合体は、ロシアで、例えば、Armos(登録商標)およびRusar(登録商標)の商標名で製造されている高強度繊維の主成分である。ロシア特許出願第2,045,586号明細書を参照されたい。
【0003】
DAPBIを使用する際の問題の1つは、NMP/CaCl
2溶媒系に対するその溶解度が非常に低いことである。溶媒系中のポリマーの濃度が比較的高い(即ち、溶媒系中のポリマーが4%重量パーセントを超える)共重合体溶液からDAPBI/p−フェニレンジアミン(PPD)共重合体を製造するために、通常、まず、DAPBIと溶媒系の混合物を約70℃以上の温度に加熱することにより、DAPBIを溶媒系に十分に溶解した後、PPDを添加する。PPDは溶媒に容易に溶解する。しかし、その後、TClとの重合を開始する前に、ジアミンを溶液に混合した混合物を比較的低温(即ち、約5℃)に冷却しなければならない。この冷却工程でDAPBIが析出して、重合が「不均一」になり、PPDは溶液中に残存し、DAPBIは固体状態のままとなる。このような溶液中のPPDは、TClを添加するとTClと選択的に反応するのに対し、DAPBIは不溶状態であるため、PPDが多いブロックと、DAPBIが多いブロックとを有する非常に不均一なブロックポリマーが生成すると考えられる。
【0004】
DAPBIを使用する際の別の問題は、DAPBIの2つのアミンの反応性と位置要因が非常に異なることである。下記の構造式の右側に示されているアミン(アゾールアミン)は、構造式の左側のアミン(ベンジルアミン)より反応性が一桁高い。
【化1】
そのため、NMP/CaCl
2溶媒系中で従来の重合法により製造されるDAPBI/PPD共重合体は、モノマー成分の位置を制御できない傾向がある。DAPBI/PPD共重合体から比較的高強度の繊維を製造する要因は、ポリマー鎖に沿ったコモノマーの配列であると考えられる。特に、PPDおよびDAPBIコモノマーの分布の制御は、硫酸溶液中における結晶溶媒和物の形成を防止するのに役立ち、且つ共重合体から製造された繊維の熱処理中のポリマー鎖の配列を促進し、その結果、より優れた機械的特性を有する繊維が得られると考えられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
幾つかの態様では、本発明は、2−(4−アミノフェニル)−5(6)アミノベンズイミダゾール(DAPBI)、p−フェニレンジアミン、およびテレフタロイルジクロライドの残基を含むポリマーの製造方法であって、(a)DAPBIおよび二塩酸p−フェニレンジアミン(PPD.2HCl)を有機溶媒と無機塩とを含む溶媒系に溶解した溶液を形成する工程;(b)溶液を30℃以下の温度に冷却する工程;(c)DAPBIと二塩酸塩p−フェニレンジアミンの全量に対して化学量論量のテレフタロイルジクロライドを溶液に添加する工程;および(d)工程c)の溶液を撹拌してポリマーを生成する工程;を含む方法に関する。
【0006】
幾つかの実施形態では、有機溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)またはジメチルアセトアミド(DMAC)である。好適な無機塩としては、LiClおよびCaCl
2が挙げられる。1つの好ましい実施形態では、溶媒系はNMP/CaCl
2である。特定の実施形態では、NMP/CaCl
2溶媒のCaCl
2重量パーセントは、1〜10%の範囲である。
【0007】
幾つかの方法では、工程a)で、溶液は、DAPBIと二塩酸p−フェニレンジアミンを溶媒系に入れて加熱することにより形成される。テレフタロイルジクロライドは、段階的に添加しても、または一段階で添加してもよい。
【0008】
幾つかの反応では、DAPBI対フェニレンジアミンのモル比は0.25〜4.0の範囲であってもよい。特定の反応では、工程(a)のDAPBIである溶液の量は、0.3〜9.0重量%の範囲である。工程(a)のp−フェニレンジアミンジクロライドである溶液の量は、0.2〜10.0重量%の範囲であってもよい。
【0009】
幾つかの実施形態では、ポリマーを単離することができる。ポリマーは、1つ以上の洗浄工程、中和工程、またはその両方で処理することができる。幾つかの実施形態では、ポリマーを粉砕することができる。洗浄工程および/または中和工程は、ポリマーの粉砕前に行ってもまたは粉砕後に行ってもよい。
【0010】
幾つかの態様では、本発明はさらに、硫酸を含む溶媒にポリマーを溶解し、繊維の紡糸に好適な溶液を形成する工程に関する。溶解されるポリマーとしては、洗浄および/または中和されたものであってもまたは洗浄および/または中和されなかったものであってもよい単離ポリマー、ならびに粉砕されたものであってもまたは粉砕されなかったものであってもよいポリマーが挙げられる。
【0011】
別の態様では、本発明は、2−(4−アミノフェニル)−5(6)アミノベンズイミダゾール(DAPBI)、p−フェニレンジアミン(または二塩酸p−フェニレンジアミン)、およびテレフタロイルジクロライドの残基を含むポリマーであって、IPCピークブロック比(サンプル/DAPBI−T単独重合体の溶出時間比)が1.43〜1.47、好ましくは1.44〜1.46であり、固有粘度が2dl/gより大きいポリマーに関する。特定の実施形態では、ポリマーの固有粘度は4dl/g以上である。
【発明の効果】
【0012】
前述の要約、ならびに以下の発明を実施するための形態は、添付の図面と共に読むことによりさらによく理解される。本発明を説明するために、図面に本発明の例示的実施形態を示しているが;本発明は、開示される特定の方法、組成物、およびデバイスに限定されるものではない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
幾つかの態様では、本発明は、2−(4−アミノフェニル)−5(6)アミノベンズイミダゾール(DAPBI)、p−フェニレンジアミン、およびテレフタロイルジクロライドの残基を含むポリマーの製造方法であって、(a)DAPBIおよび二塩酸p−フェニレンジアミン(PPD.2HCl)を有機溶媒と無機塩とを含む溶媒系に溶解した溶液を形成する工程;(b)溶液を30℃以下の温度に冷却する工程;(c)DAPBIと二塩酸塩p−フェニレンジアミンの全量に対して化学量論量のテレフタロイルジクロライドを溶液に添加する工程;および(d)工程c)の溶液を撹拌してポリマーを生成する工程;を含む方法に関する。
【0015】
本発明で、DAPBIをNMP/CaCl
2に溶解した熱溶液中にPPDではなくPPD.2HClを使用すると、約5℃に冷却した時、溶解したDAPBIは析出せず、得られた冷却ジアミン溶液は均一な溶液となった。PPDではなくPPD.2HClを使用すると、溶液の色は「青色」になり、理論に拘泥することを望むものではないが、これは、下記に示すように、PPD.2HClからHClを受容することによりDAPBIの超共役、非局在化電子構造が選択的に形成されることを反映するものと考えられる。換言すれば、青色は、平面状のDAPBI.HClの結果であると考えられる。
【化2】
平面構造はDAPBIの単結合の周りの回転を制限し、鎖の剛直性を高めるのに役立つ。次いで、このDAPBIとPPDとの均一溶液をTClと重合させ、高固有ポリマー(high inherent polymer)を得る。
【0016】
幾つかの実施形態では、TClと溶媒との副反応が起こらないようにするため、系が耐え得る最低温度(溶媒の凝固点など)に、溶媒もしくはジアミン含有溶媒を冷却する、または反応混合物を冷却する。場合により、溶媒または溶媒混合物を10℃以下、好ましくは5℃以下に冷却することが有用である。ポリマーの製造に有用な容器、ならびにポリマーの製造に有用な温度および他の条件としては、例えば、Kwolekらに付与された米国特許第3,063,966号明細書;Kwolekに付与された米国特許第3,600,350号明細書;中川らに付与された米国特許第4,018,735号明細書;およびJungらに付与された米国特許第5,646,234号明細書などの特許に開示されている詳細が挙げられる。
【0017】
幾つかの実施形態では、有機溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)またはジメチルアセトアミド(DMAC)である。好適な無機塩としては、LiClおよびCaCl
2が挙げられる。1つの好ましい実施形態では、溶媒系はNMP/CaCl
2である。特定の実施形態では、NMP/CaCl
2溶媒のCaCl
2重量パーセントは1〜10%の範囲である。NMPに対するCaCl
2の溶解度は約8%であることに留意されたい。このようなものとして8%超のCaCl
2を使用する場合、溶媒系中に不溶のCaCl
2が幾らか存在する。溶媒および塩は、販売元から入手し、必要に応じて、当業者に公知の方法で精製することができる。
【0018】
特定の反応では、工程(a)のDAPBIである溶液の量は、0.3〜9.0重量%の範囲である。工程(a)のp−フェニレンジアミンジクロライドである溶液の量は、0.2〜10.0重量%の範囲であってもよい。
【0019】
幾つかの実施形態では、ポリマーを単離することができる。処理および貯蔵を助けるために、単離されたポリマーを所望の粒度に粉砕することができる。ポリマーを1つ以上の洗浄工程、中和工程、またはその両方で処理することができる。これらの洗浄工程および/または中和工程は、ポリマーの粉砕前に行ってもまたは粉砕後に行ってもよい。反応混合物の撹拌、洗浄工程および中和工程、ならびにポリマーの粉砕に使用するのに好適な装置は当業者に公知である。
【0020】
ポリマーの分子量は、通常、1つ以上の希薄溶液粘度測定値により監視され、それに相関する。従って、通常、希薄溶液の相対粘度(「V
rel」または「η
rel」または「n
rel」)と固有粘度(「V
inh」または「η
inh」または「n
inh」)の測定値が、ポリマー分子量の監視に使用される。希薄ポリマー溶液の相対粘度と固有粘度には、次式の関係があり
V
inh=ln(V
rel)/C
式中、lnは自然対数関数であり、Cはポリマー溶液の濃度である。V
relは、無名数の比であり、従ってV
inhは、通常、グラム当たりのデシリットル(「dl/g」)として、濃度の逆数の単位で表される。
【0021】
ポリマーの中和は、1つ以上の工程でポリマーを塩基と接触させることにより行うことができる。好適な塩基としては、NaOH;KOH;Na
2CO
3;NaHCO
3;NH
4OH;Ca(OH)
2;K
2CO
3;KHCO
3;またはトリアルキルアミン、好ましくはトリブチルアミン;他のアミン;またはこれらの混合物が挙げられる。一実施形態では、塩基は水溶性である。幾つかの好ましい実施例では、中和溶液は塩基の水溶液である。
【0022】
ポリマーは、中和工程と独立して、または中和工程の前および/または中和工程の後に、水で洗浄することもできる。
【0023】
幾つかの態様では、本発明はさらに、硫酸を含む溶媒にポリマーを溶解し、繊維の紡糸に好適な溶液(「紡糸原液」とも称される)を形成する工程に関する。溶解されるポリマーとしては、洗浄および/または中和されたものであってもまたは洗浄および/または中和されなかったものであってもよい単離ポリマー、ならびに粉砕されたものであってもまたは粉砕されなかったものであってもよいポリマーが挙げられる。任意の好適な溶媒を使用してポリマーを溶解することができるが、幾つかの実施形態では、溶媒はN−メチル−2−ピロリドン(NMP)またはジメチルアセトアミド(DMAC)と無機塩とを含み、繊維の紡糸に好適な溶液を形成する。当業者に公知の従来の方法により、溶解したポリマーを繊維に紡糸することができる。
【0024】
多くの方法を使用して、本明細書に記載の共重合体を含有する紡糸原液をドープフィラメントに紡糸することができるが;湿式紡糸および「エアギャップ」紡糸が最もよく知られている。これらの紡糸法用の紡糸口金と浴の一般的な配置は当該技術分野で周知であり、米国特許第3,227,793号明細書;米国特許第3,414,645号明細書;米国特許第3,767,756号明細書;および米国特許第5,667,743号明細書の図は、このような高強度ポリマーの紡糸法を説明している。「エアギャップ」紡糸では、通常、まず紡糸口金で空気などの気体中に繊維を押し出し、それはフィラメントの形成に好ましい方法である。
【0025】
本明細書で使用する場合、フィラメントおよび繊維という用語は、互換的に使用される。
【0026】
繊維を1つ以上の洗浄浴または洗浄キャビネットと接触させることができる。洗浄は、繊維を浴に浸漬することにより達成されても、または繊維に水溶液を噴霧することにより達成されてもよい。洗浄キャビネットは、通常、1本以上のロールを収容する密閉キャビネットを含み、糸は、キャビネットから出る前に何回もロールの周囲、およびロール間を走行する。糸がロールの周囲を走行する時、それに少なくとも1つの洗浄液が噴霧される。洗浄液は、キャビネットの底部で連続的に回収され、それから排液される。
【0027】
洗浄液の温度は、好ましくは30℃より高い。洗浄液は蒸気の形態(スチーム)で塗布することもできるが、より好都合には液体の形態で使用される。好ましくは、多数の洗浄浴または洗浄キャビネットを使用する。いずれか1つの洗浄浴または洗浄キャビネット中での糸の滞留時間は、糸中の所望の残留硫酸の量に依存することになる。連続法では、好ましい複数の洗浄浴および/または洗浄キャビネット中における全洗浄工程の所要時間は、好ましくは約10分以下、より好ましくは約5秒以下である。幾つかの実施形態では、全洗浄工程の所要時間は20秒以上であり;幾つかの実施形態では、全洗浄工程は400秒以内に達成される。バッチ法では、全洗浄工程の所要時間は、12〜24時間以上もの、時間のオーダーであってもよい。
【0028】
必要に応じて、糸中の酸(硫酸溶媒など)の中和は、浴またはキャビネット中で行うことができる。幾つかの実施形態では、中和浴または中和キャビネットが、1つ以上の洗浄浴または洗浄キャビネットの後に続いてもよい。洗浄は、繊維を浴に浸漬することにより達成されても、または繊維に水溶液を噴霧することにより達成されてもよい。中和は、1つの浴もしくはキャビネット中で行っても、または複数の浴もしくはキャビネット中で行ってもよい。幾つかの実施形態では、硫酸不純物の中和に好ましい塩基としては、NaOH;KOH;Na
2CO
3;NaHCO
3;NH
4OH;Ca(OH)
2;K
2CO
3;KHCO
3;またはトリアルキルアミン、好ましくはトリブチルアミン;他のアミン;またはこれらの混合物が挙げられる。一実施形態では、塩基は水溶性である。幾つかの好ましい実施例では、中和溶液は、1リットル当たり塩基0.01〜1.25モル、好ましくは1リットル当たり塩基0.01〜0.5モルを含有する水溶液である。カチオンの量は、塩基への暴露時間および温度、ならびに洗浄方法にも依存する。幾つかの好ましい実施形態では、塩基はNaOHまたはCa(OH)
2である。
【0029】
繊維を塩基で処理した後、本方法は、水を含有する洗浄溶液または酸と糸を接触させて、過剰の塩基を全部または実質的に全部除去する工程を含んでもよい。この洗浄溶液は、1つ以上の洗浄浴または洗浄キャビネット中で塗布することができる。
【0030】
洗浄および中和の後、繊維または糸を乾燥機で乾燥させて、水および他の液体を除去することができる。1つ以上の乾燥機を使用することができる。特定の実施形態では、乾燥機は、繊維の乾燥に熱風を使用するオーブンであってもよい。他の実施形態では、熱ロールを使用して繊維を加熱することができる。繊維の含水率が繊維の20重量パーセント以下になるまで、繊維を乾燥機で約20℃以上、約100℃未満の温度に加熱する。幾つかの実施形態では、繊維を85℃以下に加熱する。幾つかの実施形態では、繊維の含水率が繊維の14重量パーセント以下になるまで、繊維をそれらの条件で加熱する。本発明者らは、低温乾燥が繊維強度を改善するのに好ましい方法であることを発見した。特に、本発明者らは、未乾燥糸に施される最初の加熱工程(即ち、熱ロール、オーブン内のような加熱雰囲気等)を、工業規模で高強度繊維を乾燥するのに使用される連続法では通常使用しない穏やかな温度で行うと、最も優れた繊維強度特性が達成されることを見出した。共重合体繊維はPPD−T単独重合体より水に対する親和性が高く;この親和性は乾燥中のポリマーからの水の拡散速度を低下させ、その結果、大きい熱駆動力を生じさせ乾燥時間を短縮するために一般的に使用される典型的な高い乾燥温度に未乾燥糸を直接暴露すると、繊維に修復不可能な損傷が生じ、その結果、繊維強度が低下すると考えられる。幾つかの実施形態では、この最初の乾燥ステップにおいて繊維は少なくとも約30℃に加熱され;幾つかの実施形態では、この最初の乾燥ステップにおいて繊維は少なくとも約40℃に加熱される。
【0031】
乾燥機滞留時間は10分未満であり、好ましくは180秒未満である。乾燥機は窒素雰囲気または他の非反応性雰囲気を備えてもよい。乾燥工程は、通常、大気圧で行われるが、必要に応じて、減圧下で工程を行うことができる。一実施形態では、フィラメントを少なくとも0.1gpdの張力下で、好ましくは2gpd以上の張力下で乾燥させる。
【0032】
本発明はまた、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)またはジメチルアセトアミド(DMAC)と無機塩とに溶解することができる、2−(4−アミノフェニル)−5(6)アミノベンズイミダゾール(DAPBI)、p−フェニレンジアミン(PPD)(または二塩酸p−フェニレンジアミン(PPD.2HCl))、およびテレフタロイルジクロライドの残基を含むポリマー粉末にも関する。従来の方法で製造されたポリマーは、単離されると、NMPまたはDMAcと無機塩との溶媒系に再溶解することができず、紡糸溶液を得るために硫酸などの溶媒を必要とすることに留意されたい。幾つかの実施形態では、ポリマー粉末の固有粘度は2dl/gより大きい。幾つかの好ましい実施形態では、ポリマーの固有粘度は4dl/g以上である。
【0033】
幾つかの実施形態では、以下に詳述するIPC試験の説明に記載の条件で行った場合、ポリマーは、IPCピークブロック比(サンプル/DAPBI−T単独重合体の溶出時間比)が1.43〜1.47、好ましくは1.44〜1.46であることを特徴とする。
【0034】
定義
本明細書で使用する場合、化学種の「残基」という用語は、特定の反応式中の化学種から得られる生成物またはその後の配合物もしくは化学製品である部分を指し、その部分が実際にその化学種から得られるかどうかは関係ない。従って、p−フェニレンジアミン(または、二塩酸p−フェニレンジアミン)の残基を含む共重合体は、式:
【化3】
の単位を1個以上有する共重合体を指す。同様に、DAPBIの残基を含む共重合体は、構造:
【化4】
の単位を1個以上含有する。テレフタロイルジクロライドの残基を有する共重合体は、構造:
【化5】
の単位を1個以上含有する。破線は結合位置を示す。
【0035】
「ポリマー」という用語は、本明細書で使用する場合、同じ種類であるかまたは異なる種類であるかにかかわらず、モノマーの重合により製造されたポリマー化合物を意味する。「共重合体」(2種類の異なるモノマーから製造されたポリマーを指す)という用語、「三元共重合体」(3種類の異なるモノマーから製造されたポリマーを指す)という用語、および四元共重合体(4種類の異なるモノマーから製造されたポリマーを指す)という用語は、ポリマーの定義に含まれる。
【0036】
「粉末」という用語は、ポリマーに言及する場合、繊維またはパルプのような繊維性も、フィブリドのようなフィルム状の繊維性も有していない共重合体の粒子を意味する。個々の粒子は、フィブリル非含有の傾向があり、不規則な形状を有し、有効粒子径840マイクロメートル以下である。例として米国特許第5,474,842号明細書および米国特許第5,811,042号明細書がある。
【0037】
本明細書で使用する場合、「化学量論量」は、第2の成分の反応性基全部と反応するのに理論的に必要な成分の量を意味する。例えば、「化学量論量」は、アミン成分(二塩酸p−フェニレンジアミンおよびDAPBI)のアミン基の実質的に全部と反応するのに必要なテレフタル酸ジクロリドのモル数を指す。「化学量論量」という用語は、通常、理論量の10%以内の範囲の量を指すものと当業者に理解される。例えば、重合反応に使用されるテレフタル酸ジクロリドの化学量論量は、p−フェニレンジアミンおよびDPABIのアミン基全部と反応するのに理論的に必要なテレフタル酸の量の90〜110%とすることができる。
【0038】
「繊維」とは、長さ対その長さに垂直な断面積を横切る幅の比が大きい、比較的柔軟で巨視的に均質な物体を指す。好ましい実施形態では、繊維は、検査すると、断面が実質的に中実であり、繊維中の欠陥と見なされるであろう不規則な空隙または開放領域がほとんどない。
【0039】
「有機溶媒」という用語は、本明細書では、一成分の有機溶媒または2種類以上の有機溶媒の混合物を含むものと理解される。幾つかの実施形態では、有機溶媒は、ジメチルホルマアイド、ジメチルアセトアミド(DMAC)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、またはジメチルスルホキシドである。幾つかの好ましい実施形態では、有機溶媒は、N−メチル−2−ピロリドンまたはジメチルアセトアミドである。
【0040】
「無機塩」という用語は、単一の無機塩または2種類以上の無機塩の混合物を指す。幾つかの実施形態では、無機塩は溶媒に十分可溶であり、溶媒中で原子番号を有するハロゲン原子のイオンを遊離する。幾つかの実施形態では、好ましい無機塩は、KCl、ZnCl
2、LiClまたはCaCl
2である。特定の好ましい実施形態では、無機塩は、LiClまたはCaCl
2である。
【0041】
「未乾燥(never−dried)」とは、繊維の含水率が繊維の少なくとも75重量パーセントであることを意味する。
【0042】
添付の特許請求の範囲を含む本明細書で使用する場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は複数形を含み、特定の数値の言及は、特記しない限り、少なくともその特定の値を含むものとする。値の範囲を示す場合、別の実施形態は、ある特定の値からおよび/または他の特定の値までの範囲を含む。同様に、値が「約」という先行詞の使用により近似値として示される場合、特定の値は別の実施形態を構成するものと理解されるであろう。範囲は全て両端値を含み、組み合わせ可能である。任意の構成成分中にまたは任意の式中に任意の変数が2回以上出現する場合、各出現におけるその定義は、他のどの出現におけるその定義とも独立している。置換基および/または変数の組み合わせは、このような組み合わせの結果、安定な化合物が得られる場合のみ許容できる。
【0043】
試験方法
固有粘度は、ポリマーが濃度96重量%の濃硫酸にポリマー濃度(C)0.5g/dlおよび温度25℃で溶解している溶液を使用して測定することができる。次いで、固有粘度をln(t
poly/t
solv)/C(式中、t
polyはポリマー溶液の滴下時間であり、t
solvは純粋な溶媒の滴下時間である)として算出する。
【0044】
相互作用ポリマークロマトグラフィー(IPC)法を使用してp−アラミド共重合体の微細構造を解析した。クロマトグラフ分離は、Waters Technologies(Milford,MA,USA)製の60℃のカラムヒーターを備えたAlliance 2695(商標)Separation Moduleで行った。このモジュールは、カラム出口までの遅延量(lag volume)0.6ml、オンライン溶媒脱気および2mlバイアルから自動サンプル注入式の低圧クウォータナリグラジエントポンプシステムを提供する。波長320nmのWaters UV/Vis 487(商標)光度計をオンライン検出器として使用した。使用した移動相の2つの成分は、水(成分A)、および4%塩化リチウム(LiCl)含有N,N’−ジメチルホルムアミド(DMAc)(成分B)であった。流量0.5ml/分でB70%からB100%までの20分の直線勾配を分離に使用した。Waters製のSilica NovaPak(商標)150×3.9mm、孔径60Aを固定相として使用した。各サンプルを、120℃の4%LiCl含有DMAcに、12時間中速で撹拌しながら濃度0.2mg/mlとなるように溶解し、10ml注入ループを使用して注入した。
【0045】
データ取得および整理に、Waters製のEmpower(商標)バージョン2ソフトウェアモジュールを使用した。次いで、対照のDAPBI−T単独重合体および評価される共重合体を含むデータセットを実行することにより、IPCピークブロック比(peak block ratio)を求める。図は、単独重合体および評価される共重合体のピークの典型例であり、垂直矢印はピーク値を示す。次いで、次式:
IPCピークブロック比=共重合体のピークまでの分/単独重合体のピークまでの分
によりIPCピークブロック比を算出する。
【0046】
以下の実施例で本発明を説明するが、それらは本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0047】
NMP、DMAC、LiCl、CaCl
2、DAPBI、PPDおよびTClは、販売元から入手した。
【0048】
実施例1
バスケット攪拌機、窒素入口/出口を備えた1リットルの反応釜に、NMP/CaCl
2プレミックス(8.3重量%(塩の重量/塩と溶媒の全重量))83.71グラム、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)161.65 グラム、DAPBI(5(6)−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンズイミダゾール)12.282グラム(0.055モル)、PPD.2HCl(二塩酸p−フェニレンジアミン)4.250グラム(0.023モル)を添加し、室温で撹拌した。PPDを添加する場合と異なり、固体材料は全て、室温で撹拌して30分以内に完全に溶解した。透明な溶液は、薄青みがかった色を示した。氷水浴中で撹拌することにより、反応混合物を10℃未満に冷却した。この時点で、TCl、5.560グラム(0.027モル)を全部一度に添加し、窒素下で5分間撹拌した。氷水浴を取り除き、2回目のTCl、10.325グラムを全部一度に添加し、低速で30秒間撹拌した後、撹拌速度を最大に増加した。溶液は非常に粘度が高くなり、ゲル化し、最後にゴム状の物質になった。このゴム状の物質は時間と共に硬化し、破壊してサイズが不揃いの小さい塊になった。混合物をさらに30分間撹拌した。得られたポリマーをWaring(登録商標)Blenderに移して、小粒子に粉砕し、数回洗浄し、溶媒(NMP/CaCl
2)およびPPD.2HClと重合反応の両方により生じたHClを除去した。次いで、ポリマーを炭酸水素ナトリウムで中和し、最後に水で数回洗浄して、中性のポリマーを得た。ポリマーをトレイに移し入れ、窒素をスイープガスとして用いた120℃の真空オーブンで終夜乾燥した。硫酸に溶解し、試験方法に準拠して測定することにより測定したポリマー固有粘度は7.36dl/gであった。
【0049】
比較例
この実施例は、DAPBIとPPDの両方を溶媒に溶解した溶液にTClを添加する従来の方法による、NMP/CaCl
2溶媒中でのDAPBI/PPD−T共重合体の製造について説明する。
【0050】
バスケット攪拌機および窒素入口/出口を備えた1リットルの反応釜に、NMP/CaCl
2プレミックス(8.3重量%(塩の重量/塩と溶媒の全重量))83.71グラム、NMP163.32グラム、およびPPD2.538グラム[0.023モル]を添加した。PPDが全部、溶媒に完全に溶解するまで混合物を室温で撹拌した。次いで、DAPBI12.282グラム(0.055モル)を添加し、室温でさらに15分間撹拌した。上記実施例と異なり、溶液は、不溶のDAPBIのため乳白色に見えた。溶液は、完全に溶解したPPDと、部分的に溶解したDAPBIとの混合物、即ち、不均一系であった。氷水浴に入れることにより混合物を10℃未満に冷却し、15分間撹拌した。TCl、5.573グラム(0.027モル)を添加し、5分間撹拌した。氷水浴を取り除き、TClの第2部、10.351グラムを全部一度に添加し、撹拌した。溶液は、非常に粘度が高くなり、4分以内にゲル化し、さらに25分間撹拌し続けた。高粘度のポリマー塊をWaring(登録商標)ブレンダーに移して、小粒子に粉砕し、数回洗浄し、溶媒(NMP/CaCl
2)および反応により生じた過剰のHClを除去した。次いで、ポリマーを炭酸水素ナトリウムで中和し、最後に水で数回洗浄して、中性のポリマーを得た。ポリマーをトレイに移し入れ、窒素をスイープガスとして用いた120℃の真空オーブンで終夜乾燥した。硫酸に溶解し、試験方法に準拠して測定することにより測定したポリマー固有粘度は5.47dl/gであった。
【0051】
IPC値の測定
前述の試験方法で、実施例1および比較例のポリマーのIPCピークブロック比を求めた。結果を下記に示す。
【0052】
【表1】
次に、本発明の好ましい態様を示す。
1. 2−(4−アミノフェニル)−5(6)アミノベンズイミダゾール(DAPBI)、p−フェニレンジアミン、およびテレフタロイルジクロライドの残基を含むポリマーの製造方法であって、
a)DAPBIおよび二塩酸p−フェニレンジアミンを有機溶媒と無機塩とを含む溶媒系に溶解した溶液を形成する工程;
b)前記溶液を30℃以下の温度に冷却する工程;
c)前記DAPBIおよび前記二塩酸p−フェニレンジアミンの全量に対して化学量論量のテレフタロイルジクロライドを前記溶液に添加する工程;および
d)前記工程c)の溶液を撹拌してポリマーを生成する工程;
を含む方法。
2. 前記有機溶媒がN−メチル−2−ピロリドン(NMP)またはジメチルアセトアミド(DMAC)である、上記1に記載の方法。
3. 前記無機塩がLiClまたはCaCl2である、上記1または2に記載の方法。
4. 前記溶媒系がNMP/CaCl2である、上記1〜3のいずれか一に記載の方法。
5. 前記ポリマーを前記溶媒系から単離する工程をさらに含む、上記1〜4のいずれか一に記載の方法。
6. 工程a)で前記溶液が、DAPBIおよび二塩酸p−フェニレンジアミンを前記溶媒系に入れて加熱することにより形成される、上記1〜5のいずれか一に記載の方法。
7. テレフタロイルジクロライドを段階的に添加する、上記1〜6のいずれか一に記載の方法。
8. テレフタロイルジクロライドを一段階で添加する、上記1〜7のいずれか一に記載の方法。
9. 前記ポリマーを粉砕する工程をさらに含む、上記5に記載の方法。
10. 前記ポリマーを1つ以上の洗浄工程、中和工程、またはその両方で処理することをさらに含む、上記5に記載の方法。
11. 前記ポリマーを1つ以上の洗浄工程、中和工程、またはその両方で処理することをさらに含む、上記9に記載の方法。
12. 硫酸を含む溶媒に前記ポリマーを溶解し、繊維の紡糸に好適な溶液を形成する工程をさらに含む、上記10に記載の方法。
13. 硫酸を含む溶媒に前記ポリマーを溶解し、繊維の紡糸に好適な溶液を形成する工程をさらに含む、上記11に記載の方法。
14. DAPBIおよびフェニレンジアミンが0.25〜4の範囲のモル比で存在する、上記1〜13のいずれか一に記載の方法。
15. NMP/CaCl2のCaCl2重量パーセントが1〜10%の範囲である、上記4に記載の方法。
16. 前記工程(a)の溶液の形成に使用されるDAPBIの量が0.3〜9.0重量%の範囲である、上記1〜15のいずれか一に記載の方法。
17. 前記工程(a)の溶液の形成に使用されるp−フェニレンジアミンジクロライドの量が0.2〜10.0重量%の範囲である、上記1〜16のいずれか一に記載の方法。
18. 前記溶液が10℃以下の温度に冷却される、上記1〜17のいずれか一に記載の方法。