(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の一実施形態に係る光電変換装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
<光電変換装置の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る光電変換装置の一例を示す斜視図であり、
図2はその断面図である。また、
図3は
図1の光電変換装置を上面側から見た透視図である。光電変換装置11は、基板1上に複数の光電変換セル10が並べられて互いに電気的に接続されている。なお、
図1〜3においては図示の都合上、2つの光電変換セル10のみを示しているが、実際の光電変換装置11においては、図面左右方向、あるいはさらにこれに垂直な方向に、多数の光電変換セル10が平面的に(二次元的に)配設されていてもよい。
【0013】
図1〜3において、基板1上に複数の下部電極層2が間隙P1を介して平面配置されている。隣接する下部電極層2のうち、一方の下部電極層2a(以下、第1の下部電極層2aともいう)上から他方の下部電極層2b(以下、第2の下部電極層2bともいう)上にかけて、第1の半導体層3および第1の半導体層3とは異なる導電型の第2の半導体層4が設けられている。そして、第2の下部電極層2b上において、接続導体7が第2の下部電極層2bと第2の半導体層4とを電気的に接続するように設けられている。これら、下部電極層2(第1の下部電極層2aおよび第2の下部電極層2b)、第1の半導体層3、第2の半導体層4および接続導体7を少なくとも含むことによって、1つの光電変換セル10が構成される。そして、隣接する光電変換セル10同士が第2の下部電極層2bによって電気的に接続されており、このような構成によって、隣接する光電変換セル10同士が直列接続された光電変換装置11となる。
【0014】
なお、本実施形態における光電変換装置11は、第1の半導体層3に対して第2の半導体層4側から光が入射されるものを想定しているが、これに限定されず、基板1側から光が入射されるものであってもよい。
【0015】
基板1は、光電変換セル10を支持するためのものである。基板1に用いられる材料としては、例えば、ガラス、セラミックス、樹脂および金属等が挙げられる。基板1としては、例えば、厚さ1〜3mm程度の青板ガラス(ソーダライムガラス)を用いることができる。
【0016】
下部電極層2(第1の下部電極層2aおよび第2の下部電極層2b)は、基板1上に設けられた、Mo、Al、TiまたはAu等の導電体である。下部電極層2は、スパッタリング法または蒸着法などの公知の薄膜形成手法を用いて、0.2μm〜1μm程度の厚みに形成される。
【0017】
第1の下部電極層2aおよび第2の下部電極層2bは間隙P1を介して配置されている。そして、第1の下部電極層2aおよび第2の下部電極層2bの少なくとも一方の間隙P1側の端部に段差部Dが設けられている。すなわち、段差部Dによって、第1の下部電極層2aと第2の下部電極層2bとの間隔が下側で狭く、上側で広くなっている。このように段差部Dが設けられることにより、第1の下部電極層2aと第2の下部電極層2bとの間におけるリーク電流が、段差部Dが無い場合に比べて低減する。一方、光電変換に寄与する部位の面積は段差部Dが無い場合と変わらない。以上の結果、リーク電流を抑制しつつ第1の下部電極層2aと第2の下部電極層2bとの間隔を縮めて光電変換に寄与する部位の面積を広げることができ、光電変換装置11の光電変換効率が向上することとなる。
【0018】
第1の下部電極層2aおよび第2の下部電極層2bの下側同士の間隔(間隙P1における狭い部位の間隔)は、例えば、10〜200μmとされ得る。また、第1の下部電極層2aおよび第2の下部電極層2bの上側同士の間隔(間隙P1における広い部位の間隔)は、例えば、上記下側同士の間隔の1.5〜3.0倍とされ得る。また、段差部Dを有する下部電極層2の下側(間隙P1側に突出した部位)の厚みは、下部電極層2全体の厚みの1/5〜1/2倍とされ得る。
【0019】
また、段差部Dは間隙P1を介して対向する第1の下部電極層2aおよび第2の下部電極層2bのいずれか一方にあればよいが、リーク電流をより低減するという観点からは、両方にあってもよい。
【0020】
段差部Dは
図1、2に示されるように上面が基板1の上面にほぼ平行になっていると、上方から第1の半導体層3を透過して下部電極層2の表面に入射する光を良好に上方に反射させることができる。これにより、光電変換装置11の光電変換効率がさらに向上する。
【0021】
第1の半導体層3は第1導電型の半導体層である。本実施形態では、第1の半導体層3は、例えば1μm〜3μm程度の厚みを有するp型半導体層を想定しているが、これに限定されない。第1の半導体層3の材料としては特に限定されず、金属カルコゲナイドや非晶質シリコン等が用いられ得る。比較的高い光電変換効率を有するという観点で、例えば、I−III−VI族化合物、I−II−IV−VI族化合物およびII−VI族化合物等の金属カルコゲナイドが第1の半導体層3の材料として用いられてもよい。
【0022】
I−III−VI族化合物とは、I−B族元素(11族元素ともいう)とIII−B族元素(13族元素ともいう)とVI-B族元素(16族元素ともいう)との化合物である。I−III−VI族化合物としては、例えば、CuInSe
2(二セレン化銅インジウム、CISともいう)、Cu(In,Ga)Se
2(二セレン化銅インジウム・ガリウム、CIGSともいう)、Cu(In,Ga)(Se,S)
2(二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム、CIGSSともいう)等が挙げられる。あるいは、第1の半導体層3は、薄膜の二セレン・イオウ化銅インジウム・ガリウム層を表面層として有する二セレン化銅インジウム・ガリウム等の多元化合物半導体薄膜にて構成されていてもよい。I−III−VI族化合物は光吸収係数が比較的高く、第1の半導体層3が薄くても良好な光電変換効率が得られる。
【0023】
I−II−IV−VI族化合物とは、I−B族元素とII−B族元素(12族元素ともいう)とIV−B族元素(14族元素ともいう)とVI−B族元素との化合物半導体である。I−II−IV−VI族化合物としては、例えば、Cu
2ZnSnS
4(CZTSともいう)、Cu
2ZnSnS
4−xSe
x(CZTSSeともいう。なお、xは0より大きく4より小さい数である。)、およびCu
2ZnSnSe
4(CZTSeともいう)等が挙げられる。
【0024】
II−VI族化合物とは、II−B族元素とVI−B族元素との化合物半導体である。II−VI族化合物としてはCdTe等が挙げられる。
【0025】
第2の半導体層4は、第1の半導体層3とは異なる第2導電型を有する半導体層である。第1の半導体層3および第2の半導体層4が電気的に接続されることにより、電荷を良好に取り出すことが可能な光電変換層が形成される。例えば、第1の半導体層3がp型であれば、第2の半導体層4はn型である。第1の半導体層3がn型で、第2の半導体層4がp型であってもよい。なお、第1の半導体層3と第2の半導体層4との間に高抵抗のバッファ層が介在していてもよい。また、光吸収層としての第1の半導体層3と、第2の半導体層4とは逆の構成であってもよく、下部電極層2上に第2の半導体層4および第1の半導体層3が順に積層されていてもよい。
【0026】
第2の半導体層4は、第1の半導体層3とは異なる材料が第1の半導体層3上に積層されたものであってもよく、あるいは第1の半導体層3の表面部が他の元素のドーピングによって改質されたものであってもよい。
【0027】
第2の半導体層4としては、CdS、ZnS、ZnO、In
2S
3、In
2Se
3、In(OH,S)、(Zn,In)(Se,OH)、および(Zn,Mg)O等が挙げられる。この場合、第2の半導体層4は、例えばケミカルバスデポジション(CBD)法やスパッタリング法等で10〜200nmの厚みで形成される。なお、In(OH,S)とは、InとOHとSとを主に含む化合物をいう。(Zn,In)(Se,OH)は、ZnとInとSeとOHとを主に含む化合物をいう。(Zn,Mg)Oは、ZnとMgとOとを主に含む化合物をいう。
【0028】
図1、
図2のように、第2の半導体層4上にさらに上部電極層5が設けられていてもよい。上部電極層5は、第2の半導体層4よりも抵抗率の低い層であり、第1の半導体層3および第2の半導体層4で生じた電荷を良好に取り出すことが可能となる。光電変換効率をより高めるという観点からは、上部電極層5の抵抗率が1Ω・cm未満でシート抵抗が50Ω/□以下であってもよい。
【0029】
上部電極層5は、例えばITO、ZnO等の0.05〜3μmの透明導電膜である。透光性および導電性を高めるため、上部電極層5は第2の半導体層4と同じ導電型の半導体で構成されてもよい。上部電極層5は、スパッタリング法、蒸着法または化学的気相成長(CVD)法等で形成され得る。
【0030】
また、
図1〜3に示すように、上部電極層5上にさらに集電電極8が形成されていてもよい。集電電極8は、第1の半導体層3および第2の半導体層4で生じた電荷をさらに良好に取り出すためのものである。集電電極8は、例えば、
図1〜3に示すように、光電変換セル10の一端から接続導体7にかけて線状に形成されている。これにより、第1の半導体層3および第4の半導体層4で生じた電流が上部電極層5を介して集電電極8に集電され、接続導体7を介して隣接する光電変換セル10に良好に導電される。
【0031】
集電電極8は、第1の半導体層3への光透過率を高めるとともに良好な導電性を有するという観点から、50〜400μmの幅を有していてもよい。また、集電電極8は、枝分かれした複数の分岐部を有していてもよい。
【0032】
集電電極8は、例えば、Ag等の金属粉を樹脂バインダー等に分散させた金属ペーストがパターン状に印刷され、これが硬化されることによって形成される。
【0033】
図1、
図2において、接続導体7は、第1の半導体層3、第2の半導体層4および第2の電極層5を貫通する溝内に設けられた導体である。接続導体7は、金属や導電ペースト等が用いられ得る。
図1、
図2においては、集電電極8を延伸して接続導体7が形成されているが、これに限定されない。例えば、上部電極層5が延伸したものであってもよい。
【0034】
<光電変換装置の製造方法>
次に、光電変換装置11の製造プロセスについて説明する。
図4(a)〜(d)および
図5(e)〜(g)は、光電変換装置11の製造途中の様子を示す断面図である。なお、
図4および
図5で示される断面図は、
図2で示される断面に対応する部分の製造途中の様子を示す。
【0035】
まず、
図4(a)で示されるように、洗浄された基板1の略全面に、スパッタリング法などが用いられて、Moなどからなる第1の金属皮膜M1が成膜される。
図4(a)は第1の金属皮膜M1が形成された後の状態を示す図である。
【0036】
第1の金属皮膜M1が形成された後、第1の金属皮膜M1の一部が除去されて第1の間隙P0が形成される。第1の間隙P0は、レーザースクライブ加工やサンドブラスト加工等によって形成されてもよい。なお、レーザースクライブ加工は、YAGレーザーその他のレーザー光が走査されつつ形成対象位置に照射されることで溝が形成される加工をいう。また、サンドブラスト加工は、無機粒子等の研磨材が吹き付けられることで溝が形成される加工をいう。
図4(b)は、第1の間隙P0が形成された後の状態を示す図である。
【0037】
第1の間隙P0が形成された後、第1の金属皮膜M1上および第1の間隙P0内の略全面に、スパッタリング法などが用いられて、第2の金属皮膜M2が成膜される。第2の金属皮膜M2は第1の金属皮膜M1と同じ材料であってもよく、異なる材料であってもよい。ここで第2の金属皮膜M2の上面は、第1の金属皮膜M1の部位と間隙P0の部位とで高低差があるため、第1の間隙P0に対応する位置に段差部Dとなる窪みが形成される。
図4(c)は第2の金属皮膜M2が形成された後の状態を示す図である。
【0038】
第2の金属皮膜M2が形成された後、第1の間隙P0内における第2の金属皮膜M2(第2の金属皮膜M2の窪んだ部位)の一部が、レーザースクライブ加工等によって除去されて第2の間隙P1が形成される。これにより、
図4(d)に示されるように、互いに間隙P1(第2の間隙P1)を介して並べられた第1の下部電極層2aおよび第2の下部電極層2bが形成されたことになる。この第1の下部電極層2aおよび第2の下部電極層2bは、ともに間隙P1側の端部に段差部Dが設けられている。以上のような第1の金属皮膜M1、第1の間隙P0、第2の金属皮膜M2および第2の間隙P1を順に形成することによって段差Dが形成される方法であれば、光電変換装置11の量産において、下部電極層2の厚みばらつきが少なくなり、安定した特性を有する光電変換装置11が得られる。
【0039】
間隙P1が形成された後、下部電極層2上および間隙P1内に第1の半導体層3がスパッタリング法や塗布法等によって形成される。
図5(e)は、第1の半導体層3が形成された後の状態を示す図である。
【0040】
第1の半導体層3が形成された後、第1の半導体層3の上に、第2の半導体層4および上部電極層5が、CBD法やスパッタリング法等で順次形成される。
図5(f)は、第2の半導体層4および上部電極層5が形成された後の状態を示す図である。
【0041】
第2の半導体層4および上部電極層5が形成された後、第2の下部電極層2b上の間隙P1からずれた位置における第1の半導体層3〜上部電極層5が、例えばメカニカルスクライブ加工等によって除去され、第1の半導体層3中に第2の下部電極層2bが露出した接続導体用溝P2が形成される。
図5(g)は接続導体用溝P2が形成された後の状態を示す図である。なお、メカニカルスクライブ加工は、例えば、40μm〜50μm程度のスクライブ幅のスクライブ針やドリルを用いたスクライビングによって、第1の半導体層3〜上部電極層5が下部電極層2から除去される加工をいう。
【0042】
接続導体用溝P2が形成された後、上部電極層5上および接続導体用溝P2内に、例えば、Agなどの金属粉を樹脂バインダーなどに分散させた導電ペーストをパターン状に印
刷し、これを加熱硬化することで、集電電極8および接続導体7が形成される。
図5(h)は、集電電極8および接続導体7が形成された後の状態を示す図である。
【0043】
最後に接続導体用溝部P2からずれた位置で、第1の半導体層3〜集電電極8をメカニカルスクライブ加工により除去することで、複数の光電変換セル10に分割され、
図1および
図2で示された光電変換装置11が得られたことになる。
【0044】
<光電変換装置の他の例>
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が施されることは何等差し支えない。
【0045】
例えば、
図6に示すように、下部電極層23(下部電極層23は、隣接する第1の下部電極層23aおよび第2の下部電極層23bを有している)が、低抵抗層21と、この低抵抗層21の上面を覆う、MoおよびWのうちの少なくとも1種を主として含む被覆層22との積層体であってもよい。
【0046】
なお、
図6において、
図1および
図2に示される光電変換装置11と同じ構成のものには同じ符号が付されている。
図6における光電変換装置101は、下部電極層23が段差部Dを有している点で光電変換装置11と同様であるが、この下部電極層23が低抵抗層21と被覆層22との積層体である点が光電変換装置11と異なっている。
図6では、このような下部電極層23を具備する光電変換セル100が基板1上に複数個設けられて光電変換装置101が構成されている。
【0047】
このような構成により、低抵抗層21で電気伝導度を高めることができるとともに、被覆層22が第1の半導体層3との密着性および電気的な接続を良好にすることができる。その結果、光電変換装置101の光電変換効率をさらに高めることができる。
【0048】
低抵抗層21としては、電気抵抗率が、例えば、被覆層22の電気抵抗率より低いものを用いることができる。このような低抵抗層21の材料としては、銀(Ag)や銅(Cu)、金(Au)、アルミニウム(Al)等の金属、これらの金属の合金、あるいは、これらの金属の少なくとも1種と他の金属との合金であってもよい。低抵抗層21は、例えばスパッタリング法または蒸着法などの公知の薄膜形成手法を用いて、例えば0.05〜1μm程度の厚みに形成される。安価で加工性が良いという観点から、低抵抗層21はAlを主として含んでいてもよい。なお、Alを主として含むとは、Alの濃度が70原子%以上であることをいう。
【0049】
被覆層22は、MoおよびWのうちの少なくも1種を主として含んでいる。これにより、第1の半導体層3との良好な密着性を有するとともに、第1の半導体層3との良好なオーミックコンタクトを形成することができる。特に、第1の半導体層3がCIGSやCZTS等の金属カルコゲナイドを主として含む場合は、被覆層22の表面にMoまたはWのカルコゲナイドが形成され、電気的な接続がより良好になるとともに、接続導体用溝P2の加工も容易になる。低抵抗層21は、例えばスパッタリング法または蒸着法などの公知の薄膜形成手法を用いて、例えば0.05〜1μm程度の厚みに形成される。
【0050】
このような下部電極層23は、上述した光電変換装置11の製造方法における、
図4(a)〜(d)の下部電極層2の作製方法を用いて作製することができる。つまり、この
図4(a)〜(d)において、第1の金属皮膜M1が低抵抗層21の材料で作製され、第2の金属皮膜M2が被覆層22の材料で作製されることによって、
図6で示される下部電極層23が作製され得る。