(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
二次電池は携帯電話やノートパソコン等のモバイル端末から、電気自動車まで幅広く普及しており、充放電を行い繰り返し使用されている。従来の二次電池は、ニッケル・カドミウム電池やリチウムイオン電池があり、基本的な構造は、充電機能を有する層を電極で挟んでいる。ニッケル・カドミウム電池は、正極に水酸化ニッケル、負極に水酸化カドミウムを使った電池であり、リチウムイオン電池は、プラス極にリチウムを含む酸化物、マイナス極に黒鉛を使った電池である(特許文献1等参照)。
【0003】
これに対して、本願発明者らは、簡単な構成により低コスト化及び安定な動作が可能な全固体型の半導体電池(以下量子電池という。)を提案している(PCT/JP2010−067643)。本量子電池は、紫外線照射による金属酸化物の光励起構造変化を利用して、バンドギャップ中に新たなエネルギー準位を形成し、この中間エネルギー準位に電子を捕獲することにより充電を行う動作原理に基づく。
【0004】
本量子電池は、絶縁物でコーティングされた金属酸化物を充電層としているが、この充電層を製造する際に加熱による焼成工程があり、基材と電極の熱膨張係数が異なるために電極にクラックが発生する場合がある。
【0005】
基材と電極の熱膨張係数が異なるために発生する問題は、一般の半導体集積回路や太陽電池用においても同様であり、従来から様々な提案がされている。
【0006】
例えば、基材と電極の熱膨張係数の差を緩和するために、絶縁層上に応力緩和層を設け、光電変換素子を構成する層の剥離を抑制した光電変換素子、薄膜太陽電池が提案されている。金属基材とAl基材とが積層されて一体化された金属基板、および金属基板のAl基材の表面に形成された電気絶縁層を備える絶縁層付基板に対して、電気絶縁層上に形成された応力緩和層を設け、応力緩和層上に形成された下部電極と、下部電極上に形成され、化合物半導体層から構成される光電変換層と、光電変換層上に形成された上部電極とを有する構造としている(特許文献2参照)。
【0007】
応力緩和用接続媒体を利用した例としては、さらに。ランドグリッドアレイ型パッケージと熱膨張係数が異なるプリント配線基板を高い信頼性で接合する例がある。アレイ状の端子電極を有するランドグリッドアレイ型半導体パッケージと、アレイ状の端子電極と同一配置の電極を有するプリント配線基板とを、ランドグリッドアレイ型パッケージのアレイ形電極に接続される第1接続パッドとプリント配線基板上の電極に接続される第2接続パッドとを備え可撓性を有する応力緩和用接続媒体を介して電気的に接続している。応力緩和用接続媒体は、可撓性シートであり、電極接続用の貫通穴を具備し、さらに可撓性シートの所定の部分に切り欠きをいれている(特許文献3参照)。
【0008】
応力緩和用スリットを利用した例としては、表面実装型セラミック基板に適用した例がある。セラミック基板本体と配線基板との熱膨張率差に起因して、外部接続用電極と配線基板の導体パターンとの間に介在する接合部にクラックが発生するのを防止することができ、且つ、セラミック基板本体に生じる引っ張り応力に起因してセラミック基板本体にクラックが発生するのを防止する。表面実装型セラミック基板は、セラミック基板本体において外部接続用電極が設けられた部位と放熱用導体部が設けられた部位との間に接合部の応力緩和用のスリットが形成されている。セラミック基板本体の引っ張り応力が集中する部位は、厚み寸法を外部接続用電極が設けられた部位の厚み寸法よりも大きくしてある(特許文献4参照)。
【0009】
また、半導体チップを回路基板及びガラス基板上にフェースダウンボンディングし、電気的、機械的に接続を行う場合に、半田バンプ溶融後の半田及び、導電性接着剤には、回路基板、ガラス基板と半導体チップの熱膨張係数の違いにより、熱応力が半田バンプ溶融後の半田及び導電性接着剤に集中し、回路基板と半田、ガラス基板と導電性接着剤間で剥離を起こす。このため、特開2000−260811号公報では、半導体チップの裏面に、スリットを多数設けることで、回路基板、ガラス基板の反りに半導体チップが習うようにして、半田バンプ溶融後の半田、ガラス基板と導電性接着剤に発生する熱膨張差により生じる内在応力を緩和させている(特許文献5参照)。
【0010】
さらに特開1998−223698号公報では、Tape−BGAタイプの半導体装置において、TABテープ補強板と実装基板の熱膨張の差異により発生する応力を緩和,分散するために、スリットを設けた補強板が提案されている。ポリイミド等の耐熱絶縁性樹脂フィルム上に信号配線が形成され、この信号配線の先端部が半導体素子の電極と電気的に接続された後に、半導体素子搭載用開口部が穿設された補強板が耐熱絶縁性樹脂フィルム表面に固定され、更に信号配線の外部接続部に半田ボールが搭載されて形成されるTape−BGAタイプの半導体素子において、補強板の開口部に沿ってスリット部が穿設されている(特許文献6参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、簡単な構成により大容量の二次電池を実現するために、導電性の第1電極と、絶縁性物質で覆われたn型金属酸化物半導体を光励起構造変化させることによりバンドギャップ中にエネルギー準位を形成して電子を捕獲する充電層と、p型半導体層と、導電性の第2電極とを積層して構成される二次電池である量子電池を対象としている。
【0013】
この量子電池においては、ガラス板上に絶縁性の樹脂であるポリイミドフィルムを積層した基板を用い、充電層とp型半導体層とを電極で両側から挟んだ積層構造となっており、電極材料として金属材料を使用している。このような積層構造では、量子電池の製造時における焼成工程での加熱により、ポリイミドフィルムと電極との熱膨張係数が異なるために、電極にクラックが発生する問題がある。
【0014】
ポリイミドフィルムの物性値である熱膨張係数を小さくすることは、高コストの材料を使用しなければならず、一方従来から提案されている技術である応力緩和層を設けることは、材料の選択が困難であることの他、構造的にも積層数が増加してコスト増の原因となる。また、半導体チップの裏面にスリットを入れることや、スリットが設けられた補強板等の従来技術は適用できない。例えば電極にスリットを入れて応力緩和を図ったとしても、量子電池は電極に対向した面での充電層が機能するため、スリットの部分は充電層としての機能を果たさず、性能を低下させてしまう問題がある。
【0015】
本発明は、熱膨張係数の異なる絶縁性の樹脂と金属電極を積層する場合に、製造工程における加熱により金属電極に発生するクラックを防止する電極構造を提供するとともに、この電極構造を適用してクラックの発生を防止した半導体機能素子、特に充電機能を有する量子電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、半導体回路用の絶縁性樹脂からなる基板に積層される電極であって、その電極構造は、基板との熱膨張係数の違いから生ずる製造工程でのクラック発生を防止するため、一部を切り欠いて形成したスリットを備えた主電極と、主電極のスリットを覆う補助電極とから構成されていることを特徴とする半導体回路用電極である。絶縁性樹脂は加熱により膨張し、中心部から離れるに従い変位が大きく、このため、積層される電極にも、中心部から離れるほど大きな応力が加わることになる。このため、主電極には複数のスリットが配設され、主電極面の中心から遠ざかるに従いスリット間隔が狭くすることが好ましい。
【0017】
主電極のスリットは、主電極の中心部から同心円状に複数形成されていること、又は、主電極の中心部を囲うように矩形状に複数形成する。また、主電極及び補助電極に複数配設されたスリットにより分割された電極部は、さらに複数の電極に再分割する再分割スリットが配設され、電極パターンを小さな面にして応力の分散を図ってもよい。
【0018】
この場合に、主電極に配設される再分割スリットと、補助電極配設される再分割スリットは、重ならない位置に配設する。また、再分割スリットが、主電極及び補助電極に配設されているスリットと重なる部分は、分割スリットを配設しないようにして、スリット及び再分割スリットによる空隙部が存在しないようにすることができる。
【0019】
補助電極のスリットは、主電極のスリットと同一のパターンをずらして配設することができ、また、主電極のスリットと同一のパターンを回転させて配設してもよい。この場合の主電極のスリットは、電極を矩形に分割するメッシュ状であり、また、電極を円形に分割するスリットであってもよい。さらに、スリットにより分割された矩形又は円形の分割電極は、電極の中心から離れた位置にある分割電極を、中心部にある分割電極よりも小さくすることにより、より大きな応力に対応可能となる。
【0020】
この場合においても、主電極のスリットと前記補助電極のスリットが重なる部分は、スリットを設けず、スリットによる空隙部の存在をなくすことができる。
【0021】
本発明は、基板と電極との熱膨張係数の違いから生ずる製造工程での電極でのクラック発生を防止するための電極構造を提供するが、製造工程での加熱が原因であり、金属材料を使用した電極は、加熱により酸化して劣化する。このため、主電極と補助電極は、酸化を防止する不動態特性を有する金属材料とする。また、加熱による金属電極の酸化を防止するため、不動態特性を有する金属層を積層し、空気中の酸素が触れないようにしてもよい。
【0022】
不動態層として使用できる金属材料は、少なくともクロム、ニッケル、チタン、モリブデンのいずれか1種、又は、クロム、ニッケル、チタン、モリブデンのいずれか1種が含まれる合金である。
【0023】
本発明による半導体回路用電極を使用して、この電極から供給される電気的エネルギーにより機能する機能層を基板上に積層することにより、加熱工程を必要とする半導体機能素子へ適用が可能である。特に機能層が電気的エネルギーを充電する二次電池としての半導体機能素子は、機能層全体を電極で覆わなければならず、広い面積に渡って電極でのクラックの発生を防止する必要があるため、スリット電極の適用は効果的である。
【0024】
機能層には、絶縁性の被膜がされ、紫外線照射されて光励起構造変化を生じさせたn型金属酸化物半導体からなる充電層と、p型金属酸化物半導体層とで構成する。この場合には、製造工程でn型金属酸化物半導体を焼成する工程があり、スリット電極を使用することで、焼成工程での加熱が原因となって、電極に発生するクラックを防止することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明による、スリットを入れた電極構造によれば、電極と基板の熱膨張係数が異なる材料を使用する半導体機能素子を製造する場合に、製造工程での加熱による電極と基板の膨張率の違いを電極のスリットで吸収できるため、電極面でのクラックの発生を防止できる。
【0026】
特に機能層に充電機能を有する二次電池は、充電層面全体に電極を積層するため、広い面積の電極が必要であり、電極でのクラックが発生し易くなる。この場合においても、本発明による半導体回路用電極は効果が大きく、変位をスリットにより吸収することでクラックの発生を防止できる。
【0027】
さらに、電極の材料を、不動態特性を有する金属材料とすることにより、製造工程での加熱が原因となる金属電極の酸化による電極剥離の問題を防ぎ、また経年変化による電極の酸化を抑止することで、劣化や剥離を防止し、長期に渡り繰り返し充放電可能な安定した量子電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
半導体回路用の絶縁性樹脂からなる基板に積層される電極は一般に金属材料を使用しており、絶縁性の樹脂等を使用する基板との熱膨張係数の違いが大きい。このため、電極上に積層して形成される機能層の製造時に、高温に加熱する積層技術を用いる場合は、熱膨張係数の違い電極にクラックが発生する場合がある。本発明は、電極のクラック発生を防止するために、電極にスリットを形成して熱膨張係数の違いによる変位を吸収する。特に二次電池は、充電層全面に電極をベタパターンで形成しなければならず、このような機能層の面積が広い場合は効果が顕著である。
【0030】
図1は、半導体機能素子としての全固体型二次電池であり、エネルギーギャップ中に中間バンドを有する量子電池の断面図を示している。
【0031】
図1において、量子電池10は、基板11に、第1電極12が積層されている。この第1電極12は、スリット20を設けた主電極13と、主電極のスリット20を覆う電極で構成される補助電極15の二重積層構造としている。以下、スリット20を設けた主電極13と、主電極のスリット20を覆う電極で構成される補助電極15の二重積層構造の電極を、スリット電極と呼ぶこととする。また、スリットは、細い溝状の空隙だけでなく、電極を残す空隙を形成する形状を広い意味でスリットと呼ぶ。
【0032】
スリット電極は、機能層17を形成する際に、高温加熱する製造工程でのクラック発生防止を目的としているが、高温加熱すると電極に金属製の材料を使用している場合、例えば銅、銅合金、ニッケル、アルミ、亜鉛又はスズ等を使用している場合は、酸化により電極材料の劣化も発生する。このために、
図1に示したように、スリット電極を挟んで不動態層19を設けている。
【0033】
不動態とは、金属の電気化学列が卑(活性)な位置にあるにも関わらず、極めて遅い速度で腐食する金属の状態をいい、金属材料の耐食性の根底となっている性質である。わずかなアノード電流によって大きく分極する金属が、電気化学的にかなり貴(非活性)な金属の挙動に近づくことで不動態化する。
【0034】
この場合、腐食生成物としての酸化皮膜が保護性を有するようになり耐食性が付与されることになる。不動態特性を有する金属材料としては、クロム、ニッケル、チタン、モリブデン等があり、あるいはこれらクロム、ニッケル、チタン、モリブデン等が少なくとも1種含まれた合金であってもよい。
【0035】
第1電極12には、機能層17が積層される。本実施例での量子電池の場合は、機能層17として充電層14とp型金属酸化物半導体層16が積層される。さらに、第2電極18と不動態層19が積層され、量子電池として機能する。
【0036】
第2電極18は、第1電極12と同様の金属材料が使用されるが、高温で加熱される機能層17の製造工程の後で形成されるため、加熱での酸化は生じない。しかしながら、大気環境下に放置しておくと長期的に大気中の酸素と反応して酸化することにより劣化する。
【0037】
例えば、第2電極として銅を使用した場合は、酸化第一銅の皮膜が形成され、湿度が高ければ塩基性炭酸銅が形成される。さらに、空気中にある硫黄酸化物により酸化され、硫化銅や硫酸銅が形成することもある。劣化が著しい場合には剥がれが生じ、長期的な信頼性を損ない、製品寿命を短くする大きな要因となる。このため、第2電極18にも酸化防止用の不動態層19を設けている。
【0038】
図2は、量子電池10の充電層14を説明する図である。
図2において充電層14は、絶縁性被膜22としてシリコーンを、n型金属酸化物半導体21として二酸化チタンを使用しており、微粒化した二酸化チタンをシリコーンで覆い、充電層14に充填された構造となっている。二酸化チタンに紫外線照射して光励起構造変化を生じさせることにより、エネルギーを蓄えることができる機能を有している。
【0039】
充電層14に使用されるn型金属酸化物半導体21の材料としては、二酸化チタン、酸化第二スズ、酸化亜鉛があり、金属の脂肪族酸塩を分解することにより製造する。このため、金属の脂肪族酸塩としては、酸化性雰囲気下での燃焼によって金属酸化物に変化しうるものが使用される。金属電極として不動態特性を有する材料を使用することで、燃焼による酸化を防止できる。
【0040】
絶縁被膜22には、シリコーンの他、無機絶縁物として鉱油、酸化マグネシウム(MgO)、二酸化ケイ素(SiO
2)を使用してもよく、絶縁性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂などの熱硬化性樹脂でもよい。
【0041】
充電層14では、紫外線照射された物質が光励起構造変化によって新たなエネルギー準位を形成している。光励起構造変化とは、光の照射により励起された物質の格子間距離が変化する現象であり、非晶質の金属酸化物であるn型金属酸化物半導体21が光励起構造変化を生ずる性質を有している。充電層14において、n型金属酸化物半導体21として二酸化チタン、絶縁皮膜の材料としてシリコーンを使用した場合について、光励起構造変化による新たなエネルギー準位の形成状態を、バンド図を用いて以下に説明する。
【0042】
図3(A),(B)は、第1電極12としての金属の銅30とn型金属酸化物半導体21としての二酸化チタン32の間に絶縁被膜22としてのシリコーン34が存在する場合に、光励起構造変化により新たなエネルギー準位44の形成状態を説明するバンド図である。光励起構造変化現象により、n型金属酸化物半導体21のバンドギャップ内に新たなエネルギー準位44が形成される。伝導帯36には、シリコーン34による絶縁層により障壁が存在する。
【0043】
図3(A)は、二酸化チタン32と銅30の間にシリコーン34による絶縁層を有する場合に、紫外線38を照射した状態である。
【0044】
絶縁被膜された二酸化チタン32に紫外線38が照射されると、二酸化チタン32の価電子帯40にある電子42が、伝導帯36に励起される。銅30との界面付近では、この電子42がある確率でシリコーン34の絶縁層を通り抜けて一時的に銅30に移動する。二酸化チタン32の光励起構造変化は、電子42の不在中に起こり、価電子帯40の電子42が抜けた部位の原子間距離が変化する。このときのエネルギー準位44は、フェルミレベル46内のバンドギャップに移動している。
【0045】
図3(B)は、紫外線38が照射されている間に上述した現象が繰り返し起こり、バンドギャップ内に多数のエネルギー準位44が形成された状態である。しかし、これらエネルギー準位44に捕らえられるべき電子42は紫外線38により励起されて銅30に移動している。こうして生じた電子不在のバンドギャップ内のエネルギー準位44は、紫外線照射を終えた後も残存する。
【0046】
絶縁層としてのシリコーン34の役割は銅30と二酸化チタン32との間に障壁を作り、励起された電子42をトンネル効果により通過させ、電子不在のバンドギャップ内のエネルギー準位44を形成することである。銅30に移動した電子42は、シリコーン34周辺の帯電電位により銅30に留まる。
【0047】
図4は、シリコーン34で覆われた二酸化チタン32が、紫外線照射により光励起構造変化が生じて、電子42が銅30に移動した状態を、模式的に表現した図である。電子42は、シリコーン34による障壁をトンネリング効果により通過して銅30に移動し、シリコーン34の電位により生ずる弱い捕獲力で残留している。
【0048】
二次電池としては、さらに充電層14に重ねてp型金属酸化物半導体層16を積層してブロッキング層を形成し、その上に第2電極18を設けている。このような構造によるに二次電池の原理については、
図5のバンド図で説明する。
【0049】
図5(A)は、第1電極12を構成する銅30と第2電極18を構成すると銅48に挟まれて、充電層14でのシリコーン34と二酸化チタン32と、p型金属酸化物半導体層16として機能する酸化ニッケル50で構成される量子電池10に対して、第2電極18を構成する銅48にマイナス電圧を印加し、第1電極12を構成する銅30を接地して0Vとした場合のバンド図である。
【0050】
バンドギャップ内にエネルギー準位44をもつ二酸化チタン32は、バイアス電界(−)を印加すると、銅30の電子42がシリコーン34による障壁を通過(トンネリング)して二酸化チタン32に移動する。移動した電子42は、酸化ニッケル50により銅48への更なる移動がブロックされるから、二酸化チタン32のバンドギャップ間に存在するエネルギー準位44に捕獲されることになり、それによってエネルギーが蓄えられる。即ち、充電状態であり、充電層14に電子42が充満した状態となる。この状態は、バイアス電界の印加を解除しても維持されるから、二次電池としての機能を有することになる。
【0051】
図5(B)は、負荷(図示せず。)を銅30と銅48に接続して、放電する場合のバンド図である。バンドギャップに捕獲されていた電子42は、伝導帯36の自由電子となる。この自由電子は銅30に移動し、負荷に流れる。この現象がエネルギーの出力状態であり、放電状態である。そして、最終的にはバンドギャップ内のエネルギー準位44に電子42のない状態となり、エネルギーが全て使用される。
【0052】
以上説明したように、二酸化チタンのバンドギャップに形成されたエネルギー準位、即ち、中間バンドに、外部から電圧を印加することにより電界を形成して電子を充満させ、電極に負荷を接続することで、電子を放出してエネルギーを取り出し、電池としての機能を果たす。この現象を繰り返し行うことで、二次電池として使用できる。
【0053】
量子電池10の製造は、ガラス板に約4μmの厚さのポリイミドフィルムを積層した基板11を使用する。通常の平板形状の第1電極12は、この基板11に、不動態特性を有するクロムを50nmと、銅を300nm、さらにクロム50nm積層する。各層の形成方法としてはスパッタリング、イオンプレーティング、電子ビーム蒸着、真空蒸着、化学蒸着等の気相成膜法を挙げることができる。また、金属電極は電解メッキ法、無電解メッキ法等により形成することができる。
【0054】
次に充電層14は、微粒化した二酸化チタン32をシリコーン液に混ぜ、第1電極12上に、スピンコートして1000nm以上の薄層を形成し、その後、約300℃で焼成する。この段階で充電層14に紫外線を照射して、二酸化チタン32を光励起構造変化させ、新たな中間バンドを形成する。
【0055】
その後、さらにp型金属酸化物半導体層16としての酸化ニッケルを150nm積層し、第2電極18として銅を300nm、不動態層19としてクロムを50nm積層することにより量子電池10が製造される。
【0056】
この量子電池の製造において、焼成工程での加熱が第1電極のクラック発生原因となる。熱による線膨張係数は、ガラスが9.9ppm/℃、ポリイミドが46ppm/℃、クロムが6.2ppm/℃、銅が16.6ppm/℃である。クロムや銅に比べて、ポリイミドの線膨張係数は極めて大きな値である。
【0057】
図6は、充電層14の焼成工程時に、加熱によりクラックが発生する状態を説明する模式図である。
図6において、ガラス板54にポリイミド層56が形成され、不動態層としてクロム層58が銅層60を挟んで積層され、さらに、充電層14がスピンコートされている。この状態で高温状態に加熱すると、ポリイミド層56と金属電極(クロム層58と銅層60)は、
図6に示した矢印の方向に熱膨張する。ポリイミドの線膨張係数は、クロムや銅に対して極めて大きく、このため、金属電極に大きな引張力が加わることになり、限界を超えるとクラックが発生する。それに伴い、充電層14にもクラックが発生する。
【0058】
図7は、クラックの発生状態を観察するため、ガラス板54に、4μmの厚さのポリイミド層56、50nmの厚さのクロム層を両側から挟んだ300nmの厚さの銅層からなる金属電極62を積層した試料である。この試料を加熱炉で300℃に熱した後、室温まで冷却して取り出した。
【0059】
図8は、試料における金属電極62の表面状態64である。
図8から明らかなように、多くのクラックが発生している。クラックは、電極面の全面に発生していた。
【0060】
このクラックの発生は、2つの重ね合わされた材料において、大きく異なる熱膨張の差により引張力が生じて、応力に耐えきれなくなった金属電極が裂けるためである。
【0061】
そこで、異なる熱膨張によりどの様な変位及び応力が発生すかを、有限要素法による解析から検討することとした。
【0062】
図9は、解析モデルを示している。解析モデルは、ポリイミド層56と銅層60から構成され、XY軸方向の長さが15mmの矩形型積層板である。この解析モデルは線形粘弾性モデルとし、マクスウェルモデルを適用して熱膨張係数を考慮して、熱変形とミーゼス応力を計算する。
【0063】
解析において積層板は、面内方向において等方性かつ均一であり、面に垂直な方向の応力は発生せず、積層板は拘束を受けていないものとし,一様な温度分布が与えられて反りを生ずるものとする。各層のひずみは独立に考え、それぞれの界面が連続であるとして全体の反りを求める。
【0064】
各層において発生する歪は、熱歪、板の面内方向力による歪、板のモーメントによる歪である。また、等方性および無拘束の条件であるため,曲率はxy平面内の全ての方向について等しくなる。
図10に示すように、積層板の中心からコーナーまでの距離をDとし,このライン上の断面を
図11のように考えると、曲率半径R、積層板の先端の傾きをθで表し、θが微少の場合は、D=D’として最大たわみδが得られる。
【0065】
有限要素法の解析は、株式会社メカニカルデザインの「粘弾性積層板の熱反り簡易評価プログラム」を使用した。ポアソン比は、ポリイミドが0.30、銅が0.34とし、線膨張係数は、ポリイミドが46ppm/℃、銅が16.6ppm/℃とした。厚さは、ポリイミドが4μm、銅が300nmとした。
【0066】
図12は、温度は300℃とした場合の解析結果を示している。解析で重要となるのは、変位とミーゼス応力の分布状態であり、Z軸方向の変位は中心点を0として最大変位∂で規格化し、ミーゼス応力も最大値で規格化した。また、XY軸方向の長さも規格化して示している。
【0067】
解析結果では、変位は矩形状の積層板中心点から同心円状の分布であり、中心点から離れるほど急激に大きな変位となっている。それに伴いミーゼス応力も、矩形状の積層板中心点から離れるに従い急激に大きな値となっている。
【0068】
図13は、
図12に示した解析結果を基に、電極の応力を分散する効果的なスリットの位置を示している。応力は積層板の中心から離れるに従い、急激に大きな値となっていくため、中心部からのスリットの位置を
図13に示したように、d1、d2、d3、d4とすると、d1>d2>d3>d4とすることが効果的であることが分かる。スリットにより分割された電極は、引張強さが、電極が耐えうる耐力以下となるように分割される。
【0069】
スリットにより分割された電極は、主電極と呼ぶこととする。主電極のスリットにより生じた空隙部では、充電層は充電層として機能しないため、主電極でのスリットをカバーする補助電極を設け、電極全面に空隙部が生じないようにしている。この主電極と補助電極を組み合わせたのがスリット電極である。スリット電極では、引張強さが耐力以下となるようにスリットを形成すればよく、様々なパターンが考えられ、以下に説明する。
【0070】
図14は、主電極に円形スリットパターンを設けた例である。主電極70の設けた円形スリットパターンのスリット幅は、10〜100μm程度でよく、これよりも広いスリット幅でもよい。スリットの幅に限定は無く、スリットにより電極が分離していればよい。円形スリット72は、矩形状の電極の中心点から同心円で形成され、中心点から遠くなるに従い、円形スリット72の間隔を狭くしている。
【0071】
図15は、
図14に示した円形スリットパターンのスリット部を覆うための補助電極における円形スリットパターンである。
図14(A)は、スリット幅を広くして、主電極70のスリット部を覆うに足りる電極部だけを残した円形スリット76を設けた補助電極74である。
図14(B)は、主電極70のスリットと重ならない位置に、主電極と同様の円形スリット76を設けた例である。
【0072】
図16は、
図14に示した円形スリット72を設けた主電極70に、
図15で示した補助電極74を積層したスリット電極である。
図16(A)は、
図15(A)の補助電極74を積層したスリット電極78であり、
図16(B)は、
図15(B)の補助電極74を積層したスリット電極80である。この様に、補助電極74のパターンは、主電極70のスリット部が補助電極74により覆われていればよいが、補助電極74もポリイミドの熱膨張により応力を受けるから、スリットは必ず必要となる。
【0073】
図17は、
図14及び15で示した円形スリット72,76により分割された電極を、さらに分割して、電極への応力を分散させている。
図17(A)は、主電極70のスリットパターンを示している。再分割スリット82は、主電極の中心部を通る縦方向と横方向のスリットであり、補助電極の円形スリット76と重なる部分は、スリットを無くしてブリッジ84を設けている。
図17(B)は、補助電極74のスリットパターンを示している。再分割スリット86は、補助電極74の対角線方向のスリットであり、主電極の円形スリット72と重なる部分は、スリットを無くしてブリッジ88を設けている。
【0074】
図18は、再分割スリット82を設けた主電極70と,再分割スリット86を設けた補助電極74を重ね合わせて作製したスリット電極90である。再分割スリット82,86により分割された電極は、ブリッジ84,88を設けることにより、お互いに重ねわせても、電極が充電層全体を覆い、空隙となる部分を無くすことができる。
【0075】
主電極のスリットによる分割パターンは円形に限らず様々な形状が考えられるが、一例として
図19に矩形スリット92を、
図20には、
図19で示した矩形スリット92の角部を円状とした矩形スリット94を示している。角部を円状とすることにより、同一の電極パターン中での応力の集中を緩和するためである。その他、多角形や楕円形状のスリットパターン等が考えられ、形状の限定は受けない。
【0076】
これまで、解析結果を基に電極面の中心部からの応力に対して、電極をスリットで分離する構造について説明してきたが、補助電極は主電極のスリットの形成によって生じる空隙部を覆う考え方でスリット形状を設けていた。しかしながら、この場合には、電極の製造工程において、主電極と補助電極の2つのスリットパターンを形成するために、それぞれ異なったマスクパターンを用意する必要があり、コストが高くなる要因となる。
【0077】
このため、主電極と補助電極のスリットパターンを同一とすれば、同じマスクパターンを利用することにより、コストを抑えることができる。さらに、同一の成膜技術、例えば、スパッタ法、蒸着法、スクリーン印刷法等により電極を形成すれば、コスト的により一層の効果が得られる。
【0078】
図21は、主電極と補助電極に対して同一のスリットを形成するための矩形メッシュスリット電極パターンA96である。電極は、メッシュ状の矩形メッシュスリット98により、矩形状に分割され、分割電極100が配置されている構造となる。この分割電極100のどの領域においても、引張強さが耐力以下であれば、電極でのクラックの発生は抑えられる。
【0079】
図22は、
図21に示した矩形メッシュスリット電極パターンA96により、主電極と補助電極のスリットを形成し、スリット電極を製作する説明図である。
図22(A)は、同一の矩形メッシュスリット電極パターンA96−1,96−2により、主電極と補助電極のスリット位置をずらして重ね合わせた状態を示している。
図22(B)は、
図22(A)で説明した同一の矩形メッシュスリット電極パターンA96−1,96−2をスリットが重ならない位置にずらして、主電極と補助電極を作製した矩形メッシュスリット電極102である。
【0080】
図23は、補助電極のスリットを、主電極の矩形メッシュスリット電極パターンA96と同一のマスクで形成する場合に、マスクを回転させて補助電極のスリットを形成した説明図である。補助電極では、矩形メッシュスリット電極パターンA96−2は、45度回転させている。
図23(B)は、
図23(A)説明した同一の矩形メッシュスリット電極パターンAを、電極の中心部で回転させて作製した矩形メッシュスリット電極104である。
【0081】
図24は、メッシュ状のスリットパターンにおいて、中心部近辺で分割された電極を大きくし、周辺部の分割された電極を小さくした矩形メッシュスリット電極パターンB106である。
図24で示したように、矩形メッシュスリット108での電極分割は、同一の電極形状とする必要はなく、強い応力の発生する電極の周辺部ほど小さくすることができる。
【0082】
図25は、
図24に示した矩形メッシュスリット電極パターンB106で主電極と補助電極のスリットを形成し、スリット電極を製作した図である。
図25(A)は、同一の矩形メッシュスリット電極パターンB106−1,106−2により、主電極と補助電極のスリット位置をずらして重ね合わせた図を示している。
図25(B)は、
図25(A)で説明した同一の矩形メッシュスリット電極パターンA106−1,106−2をスリットが重ならない位置にずらして、主電極と補助電極を作製した矩形メッシュスリット電極112である。
【0083】
図26は、電極を円形状に分割し、応力の分散を図った円形メッシュスリット電極パターン114を示している。円形メッシュスリット116により、電極を円形の分割電極118とし、応力が強い角部を無くしている。このため、より効果的に、クラックの発生を防止することができる。
【0084】
図27は、
図26で示した円形メッシュスリット電極パターン114をずらして、主電極と補助電極を作製する場合の説明図である。
図27(A)は、主電極と補助電極に対して、同一形状の円形メッシュスリット電極パターン114−1,114−2をずらして配置した図である。円電極スリットパターン106は、スリット部の面積が広く、重ね合わせたときの空隙部を最小とするためには、円形の電極の半径分だけずらす。
図27(B)は、
図27(A)で説明したように、円形メッシュスリット電極パターン114−1,114−2をずらして主電極と補助電極を作製した円形メッシュスリット電極120である。
【0085】
電極を分割するスリットパターンについて、
図21,24,26で説明したが、いずれも分割された電極はそれぞれ分離し、主電極と補助電極の分割電極形成に同一のパターンを使用しているため、主電極と補助電極のスリットが重なる位置で、電極が形成されない空隙部を生じている。この電極の空隙部を無くすためには、あらかじめパターンをずらす位置を決めておき、スリットが重なる部分に、分割電極を連結するブリッジを設けることにより実現できる。
【0086】
図28は、ブリッジ付矩形メッシュスリット電極パターンを示している。ブリッジ付矩形メッシュスリット124により形成した。ブリッジ付矩形メッシュスリット電極パターン122は、
図21で示した矩形メッシュスリット電極パターンA96に対して、分割された電極を横方向に連結する連結ブリッジ126を設けている。このため、分割電極128は独立した電極とはならないが、連結ブリッジ126の幅は狭く、クラックの発生に対しては影響が少ない。
【0087】
図29は、ブリッジ付矩形メッシュスリット電極パターン122を用いて、主電極と補助電極のパターンずらして作製する場合の説明図である。
図29(A)は、ブリッジ付矩形メッシュスリット電極パターン122−1により主電極を作製し、同一形状のブリッジ付矩形メッシュスリット電極パターン122−2をずらして補助電極を作製する重ねあわせの位置関係を示している。主電極用のブリッジ付矩形メッシュスリット電極パターン122−1に対して、ブリッジ付矩形メッシュスリット電極パターン122−2を、電極に空隙部が発生しない位置に、連結ブリッジ126を利用して重ね合わせている。
【0088】
図29(B)は、ブリッジ付矩形メッシュスリット電極パターン122により主電極と補助電極を作製したブリッジ付矩形メッシュスリット電極130である。電極での空隙部がなく、充電層全体を利用した充電が可能である。
【0089】
図30は、ブリッジ付円形メッシュスリット電極パターンを示している。ブリッジ付円形メッシュスリット134により形成されたブリッジ付円形メッシュスリット電極パターン132は、
図26で示した円形メッシュスリット電極パターン114に対して、分割された円形の電極を横方向に連結する連結ブリッジ136を設けている。分割電極138が円形の場合は、円形メッシュスリット電極パターン114ずらす位置は、形状的に半径分と決まっているから、連結ブリッジ136を設ける位置も、自ずと円形の電極の中心を結ぶ位置となる。この場合も、連結ブリッジ136の幅は狭く、クラックの発生に対しては影響が少ない。
【0090】
図31は、ブリッジ付円形メッシュスリット電極パターン132を用いて、主電極と補助電極のパターンずらして作製する場合の説明図である。
図30(A)は、ブリッジ付円形メッシュスリット電極パターン132−1により主電極を作製し、同一形状のブリッジ付矩形メッシュスリット電極パターン132−2をずらして補助電極を作製する重ねあわせの位置関係を示している。主電極用のブリッジ付円形メッシュスリット電極パターン132−1に対して、補助電極用のブリッジ付矩形メッシュスリット電極パターン132−2を、電極に空隙部が発生しない位置に、連結ブリッジ126を利用して重ね合わせている。
【0091】
図31(B)は、ブリッジ付円形メッシュスリット電極パターン122により主電極と補助電極を作製したブリッジ付円形メッシュスリット電極140である。電極での空隙部がなく、充電層全体を利用した充電が可能である。
【0092】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に、上記の実施形態による限定は受けない。