(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ロボットの使用環境の変化により、ロボットの稼働率が上げられる傾向にあり、これに伴い減速機についても高速化が要求されている。偏心揺動型歯車装置では、使用時にキャリア内の温度が外筒の温度よりも高くなる。このため、使用時には揺動歯車が熱膨張するが、この熱膨張により、揺動歯車の外歯と外筒の内歯との間のすき間が狭くなり、揺動歯車の歯面の面圧が高くなり、その結果、揺動歯車の寿命を低下させるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、前記従来技術を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、揺動歯車の歯面の面圧が高くなることを抑制することにより、揺動歯車の寿命が短くなることを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するため、本発明は、第1の部材と第2の部材との間で所定の回転数比で回転数を変換して駆動力を伝達する歯車装置であって、偏心部と、
炭素含有量が0.7〜1.0%の鉄系材料で構成され、前記偏心部が挿入される挿通孔を有すると共に歯部を有する揺動歯車と、前記第1の部材及び前記第2の部材の一方に取り付け可能に構成される第1筒部と、前記第1の部材及び前記第2の部材の他方に取り付け可能に構成される第2筒部と、を備え、前記第1筒部は、前記揺動歯車の材質よりも線膨張係数の大きな
、炭素含有量が0.2%以下の鉄系材料で構成されるとともに、前記揺動歯車の前記歯部と噛み合う内歯を有しており、前記第2筒部は、前記揺動歯車を保持した状態で前記第1筒部の径方向内側に配置され、前記第1筒部と前記第2筒部とは、前記偏心部の回転に伴う前記揺動歯車の揺動によって同心状に互いに相対的に回転可能である偏心揺動型歯車装置である。
【0007】
本発明では、揺動歯車を構成する素材の線膨張係数が、第1筒部を構成する素材の線膨張係数よりも小さい。したがって、偏心揺動型歯車装置の使用時に第1筒部、第2筒部及び揺動歯車が昇温したときに、第1筒部が揺動歯車よりも膨張する。このため、第1筒部の内歯と揺動歯車の歯部との間のすき間、すなわち、第1筒部の内周面と揺動歯車との間のすき間が使用前の状態よりも狭くなることがない。したがって、揺動歯車が昇温して膨張したとしても、揺動歯車の歯面の面圧が高くなることを抑制することができ、揺動歯車の寿命が短くなることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、揺動歯車の歯面の面圧が上昇することを抑制することができるため、揺動歯車の寿命が短くなることを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る偏心揺動型歯車装置について図面を参照して詳細に説明する。本実施形態の偏心揺動型歯車装置(以下、歯車装置と称する)1は、例えばロボットの旋回胴や腕関節等の旋回部、各種工作機械の旋回部等に減速機として適用されるものである。この歯車装置1は、例えば、80rpm〜200rpmの回転数で使用される。
【0014】
本実施形態に係る歯車装置1は、入力軸8を回転させることによってクランク軸10を回転させ、クランク軸10の偏心部10a,10bに連動して揺動歯車14,16を揺動回転させることにより、入力回転から減速した出力回転を得るように構成されている。
【0015】
図1及び2に示すように、歯車装置1は、第1筒部の一例である外筒2と、第2筒部の一例であるキャリア4と、入力軸8と、複数(例えば3つ)のクランク軸10と、第1揺動歯車14と、第2揺動歯車16と、複数(例えば3つ)の伝達歯車20とを備えている。
【0016】
外筒2は、歯車装置1の外面を構成するものであり、略円筒形状を有している。外筒2の内周面には、多数のピン溝2bが形成されている。各ピン溝2bは、外筒2の軸方向に延びるように配置され、軸方向に直交する断面において半円形の断面形状を有している。これらのピン溝2bは、外筒2の内周面に周方向に等間隔で並んでいる。
【0017】
外筒2は、多数の内歯ピン3を有している。各内歯ピン3は、ピン溝2bにそれぞれ取り付けられている。具体的に、各内歯ピン3は、対応するピン溝2bにそれぞれ嵌め込まれており、外筒2の軸方向に延びる姿勢で配置されている。これにより、多数の内歯ピン3は、外筒2の周方向に沿って等間隔で並んでいる。これらの内歯ピン3には、第1揺動歯車14の第1外歯14a及び第2揺動歯車16の第2外歯16aが噛み合う。
【0018】
キャリア4は、外筒2と同軸上に配置された状態でその外筒2内に収容されている。キャリア4は、外筒2に対して同じ軸回りに相対回転する。具体的に、キャリア4は、外筒2の径方向内側に配置されており、この状態で、軸方向に互いに離間して設けられた一対の主軸受6によって外筒2に対して相対回転可能に支持されている。
【0019】
キャリア4は、基板部4aと複数(例えば3つ)のシャフト部4cとを有する基部と、端板部4bと、を備えている。
【0020】
基板部4aは、外筒2内において軸方向の一端部近傍に配置されている。この基板部4aの径方向中央部には円形の貫通孔4dが設けられている。貫通孔4dの周囲には、複数(例えば3つ)のクランク軸取付孔4e(以下、単に取付孔4eという)が周方向に等間隔で設けられている。
【0021】
端板部4bは、基板部4aに対して軸方向に離間して設けられており、外筒2内において軸方向の他端部近傍に配置されている。端板部4bの径方向中央部には貫通孔4fが設けられている。貫通孔4fの周囲には、複数(例えば3つ)のクランク軸取付孔4g(以下、単に取付孔4gという)が基板部4aの複数の取付孔4eと対応する位置に設けられている。外筒2内には、端板部4b及び基板部4aの互いに対向する双方の内面と、外筒2の内周面とで囲まれた閉空間が形成されている。
【0022】
3つのシャフト部4cは、基板部4aと一体的に設けられており、基板部4aの一主面(内側面)から端板部4b側へ直線的に延びている。この3つのシャフト部4cは、周方向に等間隔で配設されている(
図2参照)。各シャフト部4cは、ボルト4hによって端板部4bに締結されている(
図1参照)。これにより、基板部4a、シャフト部4c及び端板部4bが一体化されている。
【0023】
入力軸8は、図略の駆動モータの駆動力が入力される入力部として機能するものである。入力軸8は、端板部4bの貫通孔4f及び基板部4aの貫通孔4dに挿入されている。入力軸8は、その軸心が外筒2及びキャリア4の軸心と一致するように配置されており、軸回りに回転する。入力軸8の先端部の外周面には入力ギア8aが設けられている。
【0024】
3つのクランク軸10は、外筒2内において入力軸8の周囲に等間隔で配置されている(
図2参照)。各クランク軸10は、一対のクランク軸受12a,12bによりキャリア4に対して軸回りに回転可能に支持されている(
図1参照)。具体的に、各クランク軸10の軸方向の一端から所定長さだけ軸方向内側の部分に第1クランク軸受12aが取り付けられており、この第1クランク軸受12aは、基板部4aの取付孔4eに装着されている。一方、各クランク軸10の軸方向の他端部に第2クランク軸受12bが取り付けられており、この第2クランク軸受12bは、端板部4bの取付孔4gに装着されている。これにより、クランク軸10は、基板部4a及び端板部4bに回転可能に支持されている。
【0025】
各クランク軸10は、軸本体12cと、この軸本体12cに一体的に形成された偏心部10a,10bとを有する。第1偏心部10aと第2偏心部10bは、両クランク軸受12a,12bによって支持された部分の間に軸方向に並んで配置されている。第1偏心部10aと第2偏心部10bは、それぞれ円柱形状を有しており、いずれも軸本体12cの軸心に対して偏心した状態で軸本体12cから径方向外側に張り出している。第1偏心部10aと第2偏心部10bは、それぞれ軸心から所定の偏心量で偏心しており、互いに所定角度の位相差を有するように配置されている。
【0026】
クランク軸10の一端部、すなわち、基板部4aの取付孔4e内に取り付けられる部分の軸方向外側の部位には、伝達歯車20が取り付けられる被嵌合部10cが設けられている。
【0027】
第1揺動歯車14は、外筒2内の前記閉空間に配設されているとともに各クランク軸10の第1偏心部10aに第1ころ軸受18aを介して取り付けられている。第1揺動歯車14は、各クランク軸10が回転して第1偏心部10aが偏心回転すると、この偏心回転に連動して内歯ピン3に噛み合いながら揺動回転する。
【0028】
第1揺動歯車14は、外筒2の内径よりも少し小さい大きさを有している。第1揺動歯車14は、第1外歯14aと、中央部貫通孔14bと、複数(例えば3つ)の第1偏心部挿通孔14cと、複数(例えば3つ)のシャフト部挿通孔14dとを有している。第1外歯14aは、揺動歯車14の周方向全体に亘って滑らかに連続する波形状を有している。
【0029】
中央部貫通孔14bは、第1揺動歯車14の径方向中央部に設けられている。中央部貫通孔14bには、入力軸8が遊びを持った状態で挿通されている。
【0030】
3つの第1偏心部挿通孔14cは、第1揺動歯車14において中央部貫通孔14bの周囲に周方向に等間隔で設けられている。各第1偏心部挿通孔14cには、第1ころ軸受18aが介装された状態で各クランク軸10の第1偏心部10aがそれぞれ挿通されている。
【0031】
3つのシャフト部挿通孔14dは、第1揺動歯車14において中央部貫通孔14bの周りに周方向に等間隔で設けられている。各シャフト部挿通孔14dは、周方向において、3つの第1偏心部挿通孔14c間の位置にそれぞれ配設されている。各シャフト部挿通孔14dには、対応するシャフト部4cが遊びを持った状態で挿通されている。
【0032】
第2揺動歯車16は、外筒2内の前記閉空間に配設されているとともに各クランク軸10の第2偏心部10bに第2ころ軸受18bを介して取り付けられている。第1揺動歯車14と第2揺動歯車16は、第1偏心部10aと第2偏心部10bの配置に対応して軸方向に並んで設けられている。第2揺動歯車16は、各クランク軸10が回転して第2偏心部10bが偏心回転すると、この偏心回転に連動して内歯ピン3に噛み合いながら揺動回転する。
【0033】
第2揺動歯車16は、外筒2の内径よりも少し小さい大きさを有しており、第1揺動歯車14と同様の構成となっている。すなわち、第2揺動歯車16は、第2外歯16a、中央部貫通孔16b、複数(例えば3つ)の第2偏心部挿通孔16c及び複数(例えば3つ)のシャフト部挿通孔16dを有している。これらは、第1揺動歯車14の第1外歯14a、中央部貫通孔14b、複数の第1偏心部挿通孔14c及び複数のシャフト部挿通孔14dと同様の構造を有している。各第2偏心部挿通孔16cには、第2ころ軸受18bが介装された状態でクランク軸10の第2偏心部10bが挿通されている。
【0034】
各伝達歯車20は、入力ギア8aの回転を対応するクランク軸10に伝達するものである。各伝達歯車20は、対応するクランク軸10の軸本体12cにおける一端部に設けられた被嵌合部10cにそれぞれ外嵌されている。各伝達歯車20は、クランク軸10の回転軸と同じ軸回りにこのクランク軸10と一体的に回転する。各伝達歯車20は、入力ギア8aと噛み合う外歯20aを有している。
【0035】
ここで、
参考例に係る外筒2及び揺動歯車14,16を構成する素材について説明する。
【0036】
外筒2は、第1揺動歯車14及び第2揺動歯車16の材質よりも線膨張係数の大きな材質で構成されている。具体的には、外筒2は、アルミニウム合金製であり、外筒2を構成する素材の線膨張係数は、20.0〜23.5μ/Kとなっている。これに対し、揺動歯車14,16は、鉄系材料で構成されている。例えば、揺動歯車14,16は、炭素含有量が0.7〜1.0%の鋼製(高炭素鋼製)、あるいは炭素含有量が0.2%以下の鋼製(低炭素鋼製)としてもよく、この場合、揺動歯車14,16を構成する素材の線膨張係数は、10.8〜11.0μ/K、あるいは11.6〜11.7μ/Kとなる。さらに、これらの鉄系素材を焼入れ硬化させると、炭素含有量0.2%以下の場合に、線膨張係数は13.6μ/Kとなり、また炭素含有量0.7〜1.0%の場合に、線膨張係数は12.0〜12.5μ/Kとなる。なお、内歯ピン3についても、揺動歯車14,16と同じ素材で形成されていてもよい。
【0037】
以上説明したように、本実施形態の歯車装置1では、揺動歯車14,16を構成する素材の線膨張係数が、外筒2を構成する素材の線膨張係数よりも小さい。したがって、歯車装置1の使用時に外筒2、キャリア4及び揺動歯車14,16が昇温したときに、外筒2が揺動歯車14,16よりも膨張する。このため、外筒2の内歯ピン3と揺動歯車14,16の外歯14a,16aとの間のすき間、すなわち、外筒2の内周面と揺動歯車14,16との間のすき間が使用前の状態よりも狭くなることがない。したがって、揺動歯車14,16が昇温して膨張したとしても、揺動歯車14,16の歯面の面圧が高くなることを抑制することができ、揺動歯車14,16の寿命が短くなることを抑制することができる。
【0039】
なお、本発明は、前記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。例えば、前記実施形態では、2つの揺動歯車14,16が設けられた構成としたが、これに限られるものではない。例えば、1つの揺動歯車が設けられる構成、又は3つ以上の揺動歯車が設けられる構成であってもよい。
【0040】
前記実施形態では、入力軸8がキャリア4の中央部に配設され、複数のクランク軸10が入力軸8の周囲に配設される構成としたがこれに限られるものではない。例えば、クランク軸10がキャリア4の中央部に配設されたセンタークランク式としてもよい。この場合、入力軸8がクランク軸10に取り付けられた伝達歯車20に噛み合うように設けられれば、入力軸8はどの位置に配設されていてもよい。
【0041】
前記実施形態では、
参考例としての外筒2がアルミニウム合金製である場合を例示した
。これに対し、実施形態では、外筒2及び揺動歯車14,16が何れも鉄系材料で構成されてい
る。ただし、この場合でも、外筒2が、揺動歯車14,16の材質よりも大きな線膨張係数の材質で構成されている必要がある。
すなわち、外筒2を、炭素含有量が0.2%以下の鋼製(低炭素鋼製)で且つ焼入れ硬化されたものとすれば、線膨張係数が13.6μ/Kとなる。この場合、揺動歯車14,16が、炭素含有量が0.7〜1.0%の鋼製(高炭素鋼製)とすることができ、この場合において、揺動歯車14,16を構成する素材を焼入れ硬化させたときの線膨張係数は、12.3〜12.4μ/Kとなる。この場合において、内歯ピン3は、揺動歯車14,16と同じ素材で形成されていてもよい。