特許第5988430号(P5988430)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5988430立方晶窒化ホウ素焼結体およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5988430
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】立方晶窒化ホウ素焼結体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/583 20060101AFI20160825BHJP
   C04B 35/626 20060101ALI20160825BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20160825BHJP
   C22C 29/16 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   C04B35/58 103J
   C04B35/58 103R
   B23B27/14 B
   C22C29/16 A
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-237019(P2012-237019)
(22)【出願日】2012年10月26日
(65)【公開番号】特開2014-84268(P2014-84268A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年6月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徂徠 義章
(72)【発明者】
【氏名】岡村 克己
(72)【発明者】
【氏名】深谷 朋弘
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−182242(JP,A)
【文献】 特開昭61−168569(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/066381(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/056758(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/053375(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/105710(WO,A1)
【文献】 特開昭58−061255(JP,A)
【文献】 特表平11−505770(JP,A)
【文献】 特表平11−505483(JP,A)
【文献】 特開2010−235369(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/144502(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/583
B23B 27/14
C04B 35/626
C22C 29/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化ホウ素と結合材と金属の触媒元素とを備える立方晶窒化ホウ素焼結体であって、
前記立方晶窒化ホウ素の含有率が50体積%以上85体積%以下であり、
前記触媒元素の含有率が0.5質量%以上5質量%以下であり、
前記結合材は、周期律表第4a族元素、第5a族元素、第6a族元素の窒化物、炭化物、ホウ化物、酸化物およびこれらの固溶体からなる群の中から選択された少なくとも1種と、アルミニウムと、の化合物を含み、
前記触媒元素は、コバルトおよびクロムを含み、
前記立方晶窒化ホウ素焼結体の組織の8μm×8μmの領域を走査型透過電子顕微鏡で観察して得られた画像を4行4列の部分領域に分割する線分上で組成分析を行って、前記線分上の任意の測定点における窒素の検出ピーク値とホウ素の検出ピーク値との合計値を算出し、
前記合計値が、前記合計値の全測定点における最大値の半分以下である測定点を結合部測定点と決定し、
前記結合部測定点の総数に対する、前記結合部測定点のうち前記触媒元素が検出されなかった測定点数の比率が30%以下である、立方晶窒化ホウ素焼結体。
【請求項2】
前記立方晶窒化ホウ素の含有率が70体積%以上80体積%以下であって、抗折力が125kgf/mm2越えである、請求項1に記載の立方晶窒化ホウ素焼結体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の立方晶窒化ホウ素焼結体の製造方法であって、
立方晶窒化ホウ素の粉末を準備する工程と、
前記粉末の表面に前記触媒元素を付着させて、触媒付粉末を作製する工程と、
前記触媒付粉末と前記結合材とを混合する工程と、
前記触媒付粉末と前記結合材との混合物を焼結する工程とを備える、立方晶窒化ホウ素焼結体の製造方法。
【請求項4】
前記触媒付粉末を作製する工程は、前記粉末の表面を物理蒸着法によって前記触媒元素を含む膜で被覆する工程を含む、請求項に記載の立方晶窒化ホウ素焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立方晶窒化ホウ素焼結体およびその製造方法に関し、特に結合材および触媒を含む立方晶窒化ホウ素焼結体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
立方晶窒化ホウ素(以下、「cBN」と称する)焼結体は、ダイヤモンドに次ぐ硬度を有し、鉄系材料と反応しないという特徴があるため、従来より鉄系材料の切削工具として用いられている。(たとえば、特開2011−207690号公報)
cBN粒子(粉末)を単独で直接焼結することは非常に困難であるため、一般に切削工具として用いられているcBN焼結体は、TiCやTiNなどのセラミックスをバインダとして用いてcBNの粉末を超高圧下で焼結して製造されている。
【0003】
さらに、従来のcBN焼結体は、耐欠損性の向上を目的として、コバルト(Co)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)およびモリブデン(Mo)からなる群から選択される少なくとも1種が触媒元素として含まれている場合がある。このとき、触媒元素は、cBN焼結体の靭性を向上させて耐欠損性を向上させる目的で加えられるが、金属元素であるため、延性を有している。しかし、その延性によって、触媒元素をcBN粉末とともに粉砕混合するのは困難であった。
【0004】
そこで、従来のcBN焼結体は、炭化物や窒化物といった化合物の状態の触媒元素を用いることによって、粉末状の触媒元素を準備し、該触媒元素の粉末とcBN粉末との混合物を焼結することによって作製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−207690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のcBN焼結体において、上述のように触媒元素は粉末としてcBN粉末と混合(以下、「粉末混合」ともいう)されるため、得られたcBN焼結体において触媒元素が均一に分散していない場合があった。また、触媒元素はcBNと比べて硬度が低く、多量に用いると耐摩耗性を悪化させる原因になることが知られている。そのため、耐摩耗性等の観点から、触媒元素の添加量を低く抑える必要がある場合において、触媒元素によるcBN焼結体の耐欠損性向上効果を十分得ることができなかった。
【0007】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたものである。本発明の主たる目的は、触媒元素の添加量を低く抑えながら、耐欠損性を向上することができる立方晶窒化ホウ素焼結体およびその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の立方晶窒化ホウ素焼結体は、立方晶窒化ホウ素と結合材と金属の触媒元素とを備える立方晶窒化ホウ素焼結体であって、立方晶窒化ホウ素の含有率が50体積%以上85体積%以下であり、触媒元素の含有率が0.5質量%以上5質量%以下である。また、結合材は、周期律表第4a族元素、第5a族元素、第6a族元素の窒化物、炭化物、ホウ化物、酸化物およびこれらの固溶体からなる群の中から選択された少なくとも1種と、アルミニウムと、の化合物を含む。また、触媒元素は、コバルトおよびクロムを含む。また、上記立方晶窒化ホウ素焼結体の組織の8μm×8μmの領域を走査型透過電子顕微鏡で観察して得られた画像を4行4列の部分領域に分割する線分上で組成分析を行って、線分上の任意の測定点における窒素の検出ピーク値とホウ素の検出ピーク値との合計値を算出し、該合計値が、合計値の全測定点における最大値の半分以下である測定点を結合部測定点と決定し、結合部測定点の総数に対する、結合部測定点のうち触媒元素が検出されなかった測定点数の比率が30%以下である。
【0009】
これにより、立方晶窒化ホウ素焼結体において、結合材中に触媒元素を分散させることができるため、立方晶窒化ホウ素焼結体の耐欠損性を向上することができる。
【0012】
上記立方晶窒化ホウ素焼結体の抗折力は、立方晶窒化ホウ素の含有率が70体積%以上80体積%以下であるとき、125kgf/mm2越えとすることができる。
【0013】
本発明に係る立方晶窒化ホウ素焼結体の製造方法は、立方晶窒化ホウ素焼結体の製造方法であって、立方晶窒化ホウ素の粉末を準備する工程と、粉末の表面に触媒元素を付着させて、触媒付粉末を作製する工程と、触媒付粉末と結合材とを混合する工程と、触媒付粉末と結合材との混合物を焼結する工程とを備える。
【0014】
これにより、結合材中に触媒元素が分散し、耐欠損性の優れた立方晶窒化ホウ素焼結体を作製できる。
【0015】
上記触媒付粉末を作製する工程は、粉末の表面を物理蒸着法によって触媒元素を含む膜で被覆する工程を含んでもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、触媒元素の添加量を低く抑えながら、耐欠損性を向上することができる立方晶窒化ホウ素焼結体およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施の形態に係るcBN焼結体において、結合材中の触媒元素の分散を評価する方法を説明するための図である。
図2】本実施の形態に係るcBN焼結体の製造方法のフローを示す図である。
図3】本発明の実施例1における実験1の試験方法を説明するための図である。
図4】本発明の実施例2における実施例試料の組織像である。
図5図4の線V上を組成分析したときの特性図である。
図6】本発明の実施例2における比較例試料の組織像である。
図7図6の線VII上を組成分析したときの特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施の形態に係るcBN焼結体は、cBNと、結合材と、CoおよびCrからなる触媒元素とを備える。cBN焼結体におけるcBNの含有率は、80体積%である。また、結合材は、周期律表第4a族元素、第5a族元素、第6a族元素の窒化物、炭化物、ホウ化物、酸化物およびこれらの固溶体からなる群の中から選択された少なくとも1種と、アルミニウム化合物とを含む。本実施の形態に係るcBN焼結体において、結合材はTi、NおよびAlからなる。本実施の形態に係るcBN焼結体における結合材の含有率は、20体積%であり、CoおよびCrからなる触媒元素の含有率は、合計で3質量%である。
【0019】
このとき、本実施の形態に係るcBN焼結体において、CoおよびCrは、結合材中で分散している。つまり、cBN結晶粒同士はTi、NおよびAlからなる結合材を介して結合しており、CoおよびCrは該結合材中において、局在せずに分散して存在している。
【0020】
これについては、本実施の形態に係る立方晶窒化ホウ素焼結体の組織を走査型透過電子顕微鏡で観察して得られた画像において線分析を行うことにより確認することができる。図1を参照して、具体的には、立方晶窒化ホウ素焼結体の8μm×8μmの領域を走査型透過電子顕微鏡で観察して得られた画像を4行4列の部分領域に分割する(16等分割する)線分上でEDX等の組成分析を行う。得られたスペクトルにおいて、窒素(N)の検出ピーク値とホウ素(B)の検出ピーク値との合計値が、合計値の全測定点における最大値の半分以下である測定点を結合部測定点と決定する。つまり、Nの検出ピーク値とBの検出ピーク値との合計値が、その全測定点中の最大値に対して半分より大きい領域をcBNが存在するcBN測定点と決定し、その全測定点中の最大値に対して半分以下である領域をTi、NおよびAlからなる結合材が配置された結合部測定点と決定する。
【0021】
このとき、本実施の形態に係る立方晶窒化ホウ素焼結体は、結合部測定点と決定された測定点の総数に対する、CoおよびCrのいずれもが検出されなかった測定点数の比率が30%以下である。後述する実施例において、CoCrをRFスパッタリングPVD法により被覆したcBN粉末と結合材粉末(TiNとAlとを混合した粉末)とを混合、焼結して得られたcBN含有率80体積%かつCoとCrの合計含有率3質量%のcBN焼結体は、上記比率が23.6%であった。一方、後述する比較例において、cBN粉末と結合材粉末と触媒元素の粉末とを混合し、焼結して得られたcBN含有率80体積%かつCoとCrの合計含有率3質量%のcBN焼結体は、上記比率が38.4%であった。このように、実施例のcBN焼結体における触媒元素は比較例と比べて、結合材中により均一に分散している。
【0022】
つまり、本実施の形態に係るcBN焼結体は触媒元素であるCoおよびCrが結合材中に分散しているため、該cBN焼結体中のcBNは、CoおよびCrとより広い領域で接触することができる。一方、従来のcBN焼結体は、粉末混合により触媒元素が粉末としてcBNに添加されて作製されるため、cBN焼結体の結合材中において触媒元素が偏在する。そのため、従来のcBN焼結体では、触媒元素の含有率を増大させなければ、cBNと触媒元素とを十分に接触させることはできなかった。
【0023】
このように、本実施の形態に係るcBN焼結体は、cBNと触媒元素とを広い領域で均一に接触させることができるので、触媒元素の添加量を5質量%以下に抑えなから、触媒元素による効果として耐欠損性を向上することができる。
【0024】
本実施の形態に係るcBN焼結体は、上述のように、触媒元素CoおよびCrが結合材中により均一に分散しているため、後述の実施例より、触媒元素の含有率が1.5質量%および5質量%のときに抗折力が115kgf/mm2以上であることが確認できた。特に、後述する実施例より、cBNの含有率が70体積%以上80体積%以下であるcBN焼結体は、触媒元素の含有率が0.5質量%および5質量%のときに抗折力が125kgf/mm2を越えることが確認できた。
【0025】
本実施の形態に係るcBN焼結体は、上記抗折力に加え、靭性も優れている。本願発明者は、靭性の評価としてcBN焼結体を用いた工具によって、JIS G4404に規定する鋼種SKD11−6V、硬度HRC64、直径100mm×長さ300mm、表面上において軸方向にV溝が6本設けられた被削材を、切削速度100m/min、送り量0.2mm/rev、切り込み0.15mmという条件で断続切削したときに、cBN焼結体が欠損するまでの時間を評価した。後述の実施例より、本実施の形態に係るcBN焼結体は、触媒元素を同程度含有した従来のcBN焼結体と比較して、欠損するまでの時間が5%以上長い。つまり、本実施の形態に係るcBN焼結体は、従来のcBN焼結体と比較して、抗折力と靭性に優れており、耐欠損性に優れている。
【0026】
次に、図2を参照して、本実施の形態に係るcBN焼結体の製造方法について説明する。本実施の形態に係るcBN焼結体の製造方法は、cBNの粉末を準備する工程(S01)と、cBN粉末の表面に触媒元素を付着させて、触媒付粉末を作製する工程(S02)と、触媒付cBN粉末と結合材とを混合する工程(S03)と、触媒付cBN粉末と結合材との混合物を焼結する工程(S04)とを備える。
【0027】
まず、工程(S01)では、平均粒径が0.5μm以上5.0μm以下程度のcBN粉末を準備する。
【0028】
次に、工程(S02)において、先の工程(S01)で準備したcBN粉末の表面に、触媒元素であるCoおよびCrをRFスパッタリングPVD法によって付着させる。具体的には、CoとCrが組成比1:1で合金化した固体金属材料(ターゲット)を用いて、CoCr(50:50)で被覆されたcBN粉末を作製する。スパッタリングPVDによる成膜条件は、スパッタリング時間と被覆量との検量線に基づき、所定の被覆量となるように決定すればよい。本実施の形態では、cBN焼結体においてCoおよびCrの含有率が3質量%となるような条件で、CoおよびCrはcBN粉末の表面に成膜される。
【0029】
次に、工程(S03)にて、先の工程(S02)にて作製した、CoCr(50:50)で被覆されたcBN粉末と結合材とを混合する。このとき、結合材は、TiNとAlの混合粉末を真空中において温度1200℃で30分間熱処理することによって得られた化合物を、遊星ボールミルを用いて粉砕、混合した粉末として準備する。触媒付cBN粉末と結合材粉末との配合率は、作製するcBN焼結体にいて所定のcBN含有率となるように決められるが、本実施の形態では、cBN含有率が80体積%となるように配合する。触媒付cBN粉末および結合材粉末を配合した後、内壁がテフロン(登録商標)製のポットとSi34製ボールとを用いた遊星ボールミルにより、これらを均一に混合する。さらに、混合された触媒付cBN粉末および結合材粉末は、真空炉において、温度900℃で20分間保持されることにより、脱ガスされる。
【0030】
次に、工程(S04)にて、先の工程(S03)にて得られたCoCr(50:50)で被覆されたcBN粉末および結合材粉末の混合粉末をMo製カプセルに充填後、超高圧装置を用いて圧力5.8GPa、温度1400℃で20分間保持して、焼結する。これにより、本実施の形態に係るcBN焼結体を作製することができる。
【0031】
以上のように、本実施の形態に係るcBN焼結体は、表面を触媒元素で被覆したcBN粉末と結合材と混合し、焼結することにより作製される。これにより、cBN焼結体において、触媒元素は結合材中に分散して含まれることができる。この結果、本実施の形態に係るcBN焼結体は、添加された触媒元素のうちcBNと接触する触媒元素の割合が高いため、触媒元素の含有率が5質量%以下と低いにも関わらず、優れた耐欠損性を有することができる。
【0032】
本実施の形態のcBN焼結体はcBNの含有率が80体積%であったが、これに限られるものではなく、50体積%以上85体積%以下の範囲で任意に決めることができる。後述する実施例より、cBNの含有率を60体積%以上90体積%以下としたcBN焼結体は、抗折力および靭性ともに従来の粉末混合により作製されたcBN焼結体よりも優れていた。しかし、cBN含有率が50体積%以上であっても、同様の特性を有するcBN焼結体を得ることができると考えられる。
【0033】
また、本実施の形態に係るcBN焼結体は、触媒元素として、CoおよびCrを含んでいるが、これに限られるものではない。触媒元素として、Co、Cr、Ni、Moからなる群から選択される少なくとも1つの元素からなってもよい。このようにしても、該触媒元素が添加されたcBN焼結体は、優れた耐欠損性を有することができる。
【0034】
さらに、本実施の形態に係るcBN焼結体において、触媒元素は3質量%添加されているが、これに限られるものではない。cBN焼結体中に含まれる触媒元素は、0.5質量%以上5質量%以下であれば任意の添加量としてもよい。後述する実施例より、CoおよびCrが合計で1.5質量%添加されたcBN焼結体、および5質量%添加されたcBN焼結体は、靭性および抗折力が従来のcBN焼結体よりも優れていることを確認できた。触媒元素の添加量が0.5質量%以上5質量%以下であれば、同様の特性を有する立方晶窒化ホウ素複合多結晶体を得ることができると考えられる。
【0035】
また、本実施の形態に係るcBN焼結体において、結合材はTiNとAlとの混合粉末から準備されたが、これに限られるものでない。上述のように、結合材は、周期律表第4a族元素、第5a族元素、第6a族元素の窒化物、炭化物、ホウ化物、酸化物およびこれらの固溶体からなる群の中から選択された少なくとも1種と、アルミニウム化合物とを含むセラミックス系結合材であれば、任意の組成とすることができる。例えば、Ti(CN)とAlとの混合粉末から準備されてもよい。
【0036】
また、本実施の形態に係るcBN焼結体の製造方法において、工程(S02)で触媒元素をcBN粉末の表面に被覆する方法は、スパッタリングPVD法を用いたが、これに限られるものではない。例えば、めっき法等を用いてもよい。このようにしても、cBN粉末の表面に触媒元素を被覆することができる。
【0037】
また、本実施の形態に係るcBN焼結体の製造方法において、工程(S04)での超高圧装置を用いた焼結条件は、上述した条件に限られるものではない。cBNが焼結可能な条件であれば、任意の条件を選択することができる。
【0038】
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0039】
本発明の実施の形態に係るcBN焼結体として、cBN焼結体中のcBN含有率が60体積%〜90体積%であって、触媒元素(CrCo)の含有率が1.5質量%および5質量%である14種のcBN焼結体を作製し、その抗折力および靭性を評価した。
【0040】
(実施例試料)
まず、本実施の形態に係るcBN焼結体の製造方法に従って、工程(S01)で平均粒径が1.2μm程度のcBN粉末を準備し、工程(S02)において該cBN粉末の表面をスパッタリングPVD法によりCoCr(50:50)で被覆した。このとき、cBN焼結体においてCoCrが合計で1.5質量%および5質量%となるように2通りのスパッタリング条件で成膜を行い、2通りの触媒付cBN粉末を作製した。工程(S03)において、上述のようにTiNとAlとの混合物を熱処理して得られた化合物を粉砕混合し結合材粉末を作製し、該結合材粉末と2通りの触媒付cBN粉末とを混合し、混合物を作製した。このとき、cBN焼結体においてcBN含有率が60体積%、65体積%、70体積%、75体積%、80体積%、85体積%、90体積%となるように配合した。つまり、工程(S03)では14通りの混合物を作製した。該14通りの混合物を工程(S04)において、圧力5.8GPa、温度1400℃で20分間保持して焼結し、14通りのcBN焼結体を作製した。
【0041】
(比較例試料)
まず、平均粒径が1.2μm程度のcBN粉末と、触媒元素として、平均粒径が0.5μmのCoとCrの炭化物粉末を1:1の重量比で準備した。結合材はTiNとAlとの混合物を熱処理して得られた化合物を粉砕混合して得られた粉末として準備し、cBN粉末と触媒元素粉末と結合材粉末との混合物を、実施例試料と同様の配合率で14通り作製し、これらを圧力5.8GPa、温度1400℃で20分間保持して焼結し、14通りのcBN焼結体を作製した。金属元素は、延性や展性を有するため、現在の技術ではナノレベルに粉砕することは非常に困難である。そのため、炭化物、窒化物、炭窒化物、酸化物などの化合物にすることで延性や展性をなくし、微粉砕することによって、結合材中に添加する方法が用いられている。しかし、化合物では触媒機能を有しない。そのため、本発明は、上述のようなcBN粉末を金属の触媒元素で被覆する被覆法を用いている。金属元素を微粉砕することができれば、得られた微粒金属をcBN粉末に添加し、混合することで本発明と同等の効果を得ることができる。
【0042】
なお、実施例試料および比較例試料のcBN焼結体における触媒元素の含有率は、ICP法により測定した。
【0043】
(実験1)
図3を参照して、実験1として、実施例評価試料と比較例評価試料の抗折力を評価した。具体的には、cBN焼結体を長さ6mm、幅3mm、厚み0.5mmの四角形状の試験片10とし、該試験片10を、間隔Lを4mmとして配置された2支柱11上に配置した。この支柱11間の中央の一点に負荷Nを加え、cBN焼結体の試験片10が折損したときの負荷Nを抗折力として測定した。なお、支柱11は直径2mmとした。測定結果を表1に示す。
【0044】
(実験1結果)
【0045】
【表1】
【0046】
表1を参照して、実施例試料は、cBN含有率が60体積%〜90体積%の範囲において、抗折力が115kgf/mm2以上であった。また、実施例試料は、cBN含有率が同程度であって、触媒元素を同程度添加した比較例試料と比べて、高い抗折力を示すことが確認できた。さらに、触媒元素を1.5質量%添加した実施例試料は、cBN含有率が同程度であって触媒元素を5質量%添加した比較例試料と比べても、抗折力が高かった。また、cBN含有率が70体積%以上80体積%以下であれば、抗折力は125kgf/mm2を越えており、比較例試料と比較して、特に高い抗折力を有することが確認できた。
【0047】
(実験2)
実験2として、実施例評価試料と比較例評価試料の靭性を評価した。具体的には、cBN焼結体を用いた工具を用いて、鋼種SKD11−6V、硬度HRC64、直径100mm×長さ300mm、表面上において軸方向にV溝が6本設けられた被削材を、切削速度100m/min、送り量0.2mm/rev、切り込み0.15mmという条件で断続切削し、cBN焼結体が欠損するまでの時間を評価した。測定結果を表2に示す。
【0048】
(実験2結果)
【0049】
【表2】
【0050】
表2を参照して、実施例試料は、欠損するまでの時間が1.5分以上であった。また、実施例試料は、cBN含有率が同程度であって、触媒元素を同程度添加した比較例試料と比べて、欠損に至るまでの時間が5%以上長く、靭性が優れていることが確認できた。さらに、触媒元素を1.5質量%添加した実施例試料は、cBN含有率が同程度であって触媒元素を5質量%添加した比較例試料と比べても、欠損に至るまでの時間が長く、靭性が優れていることが確認できた。
【0051】
以上実験1および実験2の結果から、本発明に係る実施例試料は、cBN含有率が同程度である比較例試料と比べて、触媒元素の含有率が5質量%以下と低い場合でも、優れた抗折力および靭性を有することを確認できた。
【実施例2】
【0052】
走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて、本発明の実施の形態に係るcBN焼結体における結合材および触媒元素のばらつきの程度を観察した。さらに、cBN焼結体の8μm×8μmの領域の画像を取得し、当該画像を4行4列の部分領域に分割する線分上で組成分析を行い、結合材中における触媒元素の分散の程度を評価した。
【0053】
(実施例試料)
上述した実施例1における実施例試料のうち、cBN含有率80体積%、触媒元素(Co、Cr)1.5質量%のcBN焼結体を、実施例2の実施例試料とした。
【0054】
(比較例試料)
まず、平均粒径が1.2μm程度のcBN粉末と、触媒元素として、平均粒径が0.5μmのNiとMoの炭化物粉末を1:1の重量比で準備した。結合材はTiNとAlとの混合物を熱処理して得られた化合物を粉砕混合して得られた粉末として準備した。cBN焼結体におけるcBN含有率が80体積%、NiおよびMoの含有率が1.5質量%となるように、cBN粉末と触媒元素粉末と結合材粉末との混合物を作製した。該混合物を圧力5.8GPa、温度1400℃で20分間保持して焼結し、cBN焼結体を作製した。
【0055】
(実験3)
まず、上述のように、STEMによりcBN焼結体中の結合材および触媒元素のばらつきの程度を観察した。さらに、STEMにより、cBN焼結体の8μm×8μmの領域の画像を取得し、当該画像を4行4列の部分領域に分割する各線分上でEDXによる組成分析を行い、結合材中における触媒元素の分散の程度を評価した。なお、組成分析は、日本電子製 JEM−2100Fを用いて、ビームスポットサイズを0.4nmとして行った。組成分析の結果に基づいた結合材中における触媒元素の分散評価は、以下の方法で行った。
【0056】
まず、全測定点中におけるBの検出ピーク値(ピーク強度)とNの検出ピーク値の合計値の最大値を求め、Bの検出ピークとNの検出ピークの合計値が当該最大値の半分以下である測定点を結合部測定点と決定し、その測定点の総数を求めた。
【0057】
次に、結合部測定点において、触媒元素の検出ピーク値が0であり、触媒元素が検出されなかった測定点の総数を求め、結合部測定点の総数に対する比率を算出した。つまり、当該比率が小さいほど、結合材中に触媒元素が分散している。本実施例において、実施例試料および比較例試料には、触媒元素としてCoとCrがそれぞれ2種添加されているが、触媒元素が2種同時に検出されなかった測定点を、触媒元素が検出されなかった測定点としてその総数を求めた。これは、CoとCr(またはNiとMo)はcBNに対して異なる作用効果を奏するため、CoとCr(またはNiとMo)がそれぞれ同時に作用することで優れた耐欠損性を得ることができるためである。具体的には、CoはcBNにおけるBに作用し、CrはcBNにおけるNに作用すると考えられる。
【0058】
なお、STEM観察および組成分析は日本電子製 JEM−2100Fを用いて行った。
【0059】
(実験3結果)
図4図6に、それぞれ実施例試料と比較例試料の8μm×8μmの領域をSTEM高角度散乱暗視野(HAADF)法で観察したときの像を示す。また、図4図6中に示す一の線分上で組成分析して得られたスペクトルを、それぞれ図5図7に示す。図4および図6はHAADF像のため、cBNを構成するBやCは暗く、触媒元素や結合材を構成するCo、Cr、Ti等は明るく観察されている。これは図5図7に示すスペクトルとも一致していた。これにより、実施例試料は、比較例試料と比べて結合材および触媒元素がcBNの周囲により均一に分散していることが確認できた。
【0060】
さらに、図4図6に示す像を4行4列の部分領域に分割する各線分上でEDXによる組成分析を行い算出した上記比率は、実施例試料が23.6%であったのに対し、比較例試料は38.4%であった。
【0061】
以上実験3の結果から、本発明に係る実施例試料は、触媒元素が同程度添加された比較例試料と比べて、触媒元素が結合材中に分散していることが確認できた。
【0062】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行ったが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲のすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0063】
10 試験片、11 支柱。
図2
図3
図5
図7
図1
図4
図6