(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水底に設置された水底部材に対して略平行状態で倒れる倒伏位置と、前記水底部材に対して略垂直状態で起き上がる起立位置とに揺動可能であって、倒伏位置において、押し波方向の波力を受ける一端部と引き波方向の波力を受ける他端部とがそれぞれ前記水底部材よりも上方に設定され、この各端部から前記水底部材に接触する下面との間が、側面視で下向き略円弧状若しくは略台形状に形成されている扉体と、
押し波方向の前記水底部材に一端が連結され、他端が前記扉体の他端部付近に連結されて、前記扉体の他端部を揺動可能に支持する第1の固定ベルトと、
引き波方向の前記水底部材に一端が連結され、他端が前記扉体の一端部付近に連結されて、前記扉体の一端部を揺動可能に支持する第2の固定ベルトと、
前記扉体を押し波方向の波力に抗して起立位置に保持する第1の引き留めベルトと、
前記扉体を引き波方向の波力に抗して起立位置に保持する第2の引き留めベルトとを備えた揺動式防波堤において、
前記引き留めベルトは、合成繊維材若しくはスチール材で補強された可撓性のゴム製でなり、
第1の引き留めベルトは、押し波方向の水底部材のクランプ部材に一端が連結され、他端が扉体の一端部のクランプ部材に連結され、
第2の引き留めベルトは、引き波方向の水底部材のクランプ部材に一端が連結され、他端が扉体の他端部のクランプ部材に連結され、
前記引き留めベルトは、一端と他端の折り返し部分の中空部に固定軸が貫通状態で挿通されて軸形状端部に形成され、
前記各クランプ部材は、前記水底部材または扉体に固定されるベース板にフラット部の一端がヒンジ軸で揺動自在に連結され、このフラット部の他端に形成されて、前記引き留めベルトの一端または他端の軸形状端部を前記ベース板との間に押さえ込む押さえ込み部を少なくとも有するクランプ部を備え、
前記クランプ部の押さえ込み部または前記ベース板に、前記引き留めベルトの軸形状端部の窪み部に嵌まり込む突起部が形成され、
前記クランプ部材のフラット部には、前記ベース板と対面した状態で、フラット部をベース板に固定するためのボルト・ナットが設けられていることを特徴とする揺動式防波堤。
前記クランプ部材のフラット部とクランプ部の外面に跨って、水上のクレーンのフックを引っ掛けるフック孔が形成されたブラケットが固定されていることを特徴とする請求項1に記載の揺動式防波堤。
前記引き留めベルトの軸形状端部の固定軸の両端部には、軸直交方向の切り込み部が形成され、この固定軸の両端部に対応する前記クランプ部の端部には、前記引き留めベルトの軸形状端部に上方から嵌まり込むときに、前記切り込み部に係合する抜け止め板が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の揺動式防波堤。
前記水底部材のクランプ部材は、前記水底部材の傾斜面に、前記扉体が起立した時の前記引き留めベルトの傾斜角度と略等しい角度で向き合うように設置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の揺動式防波堤。
前記扉体のクランプ部材は、前記扉体の上面に、この扉体の端部の曲面部で前記引き留めベルトを折り返すように設置されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の揺動式防波堤。
前記扉体のクランプ部材は、前記扉体の上面に、この扉体の端部の凹部内の曲面部で前記引き留めベルトを折り返すように設置されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の揺動式防波堤。
【背景技術】
【0002】
従来、津波の進行を阻止しようとする地点の海底に軸水平に揺動できる揺動支持部(ヒンジ)を持つ基礎を設ける。そして、この基礎上の揺動支持部と組み合わせることで機能する揺動支持部(ヒンジ)を備える止水板(扉体)を揺動支持部のある側を陸地側として配置してなる津波防波堤がある(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1の津波防波堤は、平常時には止水板が海底付近に倒伏し、津波到来時には、津波の波力で止水板が自動的に起立するようになっている。
【0004】
しかし、止水板を揺動支持部(ヒンジ)で起伏自在に支持しているから、ヒンジ構造が複雑で、部品点数も多くなるという問題がある。
【0005】
また、津波水流が倒伏時の止水板下方に流入しやすくするために、止水板展開始動用基礎側突起で、止水板の仰角を保持する必要がある。この基礎側突起を省略するために、止水板の下面に隙間を形成して、津波水流を止水板下方に流入しやすくする技術が開示されているが、その構造上、押し波方向だけにしか対応できないという問題がある。
【0006】
さらに、止水板の起立時の安定をはかるために、ワイヤーロープ、鎖やリンクを用いた止水板起立姿勢保持機構を設けているが、ワイヤーロープにかかる荷重を軽減させるために、ワイヤーロープの本数に相当する緩衝器を設ける必要があるという問題がある。
【0007】
ここで、ワイヤーロープは、起立時、止水板の波受け面に設ける端点と海底に設ける端点とを結ぶものではあるが、止水板の起立時には、強大な津波の波力を直に受ける部分であることから、各端点の連結構造は、現実的にはきわめて強固なものでなければならない。しかも、ワイヤーロープは腐食や擦傷が生じるので、定期的に新品と交換する必要があるから、強固な連結構造を維持しながら、水中での潜水士による交換作業が容易なものでなければならない。
【0008】
前記のような問題を解消するために、本出願人は、扉体(ゲート)のヒンジ金具等を不要にして(ヒンジレス式)、部品点数が少ない簡単な支持構造とするとともに、押し波にも引き波にも対応可能な揺動式防波堤(起伏式防波装置)を提案した(特許文献2)。
【0009】
かかる揺動式防波堤は、
図21(a)(b)に示すように、略水平なフラット面である水底面2に対して略平行状態で倒れる倒伏位置Dと、水底面2に対して略垂直状態で起き上がる起立位置U1〔
図22(a)(b)参照〕,U2〔
図23(a)(b)参照〕とに揺動可能である扉体1を備えている。この扉体1は、
図22(a)(b)を参照すれば、例えば横幅W1は約60m程度、起立時の高さH1は約20m程度の巨大な構造体であり、水深が約10〜15m程度の海底に設置される。
【0010】
この扉体1は、押し波方向aの波力を受ける一端部1aと引き波方向bの波力を受ける他端部1bとがそれぞれ水底面2よりも上方に設定され、この各端部1a,1bから水底面2に接触する下面1dとの間が、側面視で下向き略円弧状若しくは略台形状に形成されている。なお、各図では、上面1cも側面視で上向き略円弧状若しくは略台形状に形成されている(側面視で木の葉状)。
【0011】
また、押し波方向aの水底面2に一端4aが連結され、他端4bが扉体1の他端部1b付近に連結されて、扉体1の他端部1bを揺動可能に支持する第1の固定ベルト4が設けられている。
【0012】
さらに、引き波方向bの水底面2に一端5aが連結され、他端5bが扉体1の一端部1a付近に連結されて、扉体1の一端部1aを揺動可能に支持する第2の固定ベルト5が設けられている。
【0013】
また、扉体1を押し波方向aの波力に抗して起立位置U1に保持する第1の引き留めベルト6と、扉体1を引き波方向bの波力に抗して起立位置U2に保持する第2の引き留めベルト7とが設けられている。
【0014】
ここで、扉体1の横幅W1が約60m程度、高さT1が約20m程度であるとすれば、各引き留めベルト6(7)は、長さが約40m程度、幅が約3m程度、厚さが約12〜15cm程度、1本当たりの重量が約1t(トン)程度である。そして、津波のような強大な波力を受けると、引き留めベルト6(7)の長さは、約1〜3m程度は伸びるものと推測されている。
【0015】
この揺動式防波堤によれば、扉体1(ゲート)は、
図21(a)(b)の平常時には水底面2の倒伏位置D(水底面に対して例えば約0度。以下同様。)に倒れているから、船舶の航行等に影響を与えない。
【0016】
そして、津波、高潮、副振動等で押し波が発生すると、
図22(a)(b)のように、押し波方向aの波力が扉体1の一端部1aと水底面2との間の隙間(仰角)f〔
図21(b)参照〕に流入することで、扉体1の一端部1aには上向き、他端部1bには下向きの偶力が発生する。
【0017】
このとき、扉体1の下面1dが略円弧状であるから、扉体1は、二点鎖線の倒伏位置Dから支点と重心が徐々に他端部1b方向に移動することで、下面1dが水底面2を転動しながら所定の起立角度(例えば約30度)まで自然に起き上がるようになる。そして、支点と重心が他端部1bに移動すると、この他端部1bは第1の固定ベルト4に連結されているから、扉体1は他端部1bを中心に回転するようになる(矢印Q参照)。つまり、扉体1は、倒伏位置Dから所定角度まで転動した後に、起立位置(例えば約90度)U1まで回転するようになる。また、扉体1は、第1の引き留めベルト6で押し波方向aの波力に抗して起立位置U1に保持されるようになる。この結果、押し波は、起立位置U1の扉体11で抑制されるようになる。
【0018】
一方、押し波が終わり、ついで引き波が発生すると、
図23(a)(b)のように、扉体1は水底面2の倒伏位置Dに倒れる。そして、引き波方向bの波力が扉体1の他端部1bと水底面2との間の隙間(仰角)fに流入することで、扉体1の他端部1bには上向き、一端部1aには下向きの偶力が発生する。
【0019】
このとき、扉体1の下面1dが略円弧状であるから、扉体1は、二点鎖線の倒伏位置Dから支点と重心が徐々に一端部1a方向に移動することで、下面1dが水底面2を転動しながら所定の起立角度(例えば約30度)まで自然に起き上がるようになる。そして、支点と重心が一端部1aに移動すると、この一端部1aは第2の固定ベルト5に連結されているから、扉体1は一端部1aを中心に回転するようになる(矢印R参照)。つまり、扉体1は、倒伏位置Dから所定角度まで転動した後に、起立位置(例えば約90度)U2まで回転するようになる。また、扉体1は、第2の引き留めベルト7で引き波方向bの波力に抗して起立位置U2に保持されるようになる。この結果、引き波は、起立位置U2の扉体1で抑制されるようになる。
【0020】
このような揺動式防波堤を港湾の固定防波堤で仕切られた出入口(水路)に設置すれば、津波等の押し波で港湾内の潮位が急激に上がるのを抑制でき、津波等の引き波で港湾内の潮位が急激に下がるのを抑制できるようになる等の効果を奏することができる。
【0021】
なお、特許文献2のような巨大な揺動式防波堤とは異なるが、
図24に示すように、水路40の底部40aで、上流側の起立位置Uと下流側の倒伏位置Dとの間で回動可能にクランプされた扉体41と、この扉体41の下流側に設置された袋体42とが設けられて、流体の供給による袋体42の膨張で扉体41が起立方向に回動されるとともに、流体の排出による袋体42の収縮で扉体41が倒伏方向に回動されるようになった起伏ゲートがある(特許文献3)。
【0022】
このような起伏ゲートでは、扉体41の横幅は約1〜50m程度であるが(10mを越える場合は、横幅が約10m程度の扉体を、必要な横幅分だけ並べて連結している。)、起立時の高さは約1.5m程度のものであり、上流側の水位を一定に制御するためのものであるから、津波のような強大な波力を受けることは想定されていない。
【0023】
この起伏ゲートにおいても、引き留めベルト43が設けられているが、袋体42の膨張で起立方向に回動する扉体41を最大起立位置に規制するだけのものである。
【0024】
したがって、引き留めベルト43は、扉体41側に固定される一端43aと水路40側に固定される他端43bのいずれもが、押さえ用フラットバー44で押さえながら、一端43aと他端43bのボルト貫通用穴を介して扉体41にねじ込まれるボルト45で固定されるようになっている。
【0025】
この場合、引き留めベルト43の一端43aと他端43bにボルト貫通用穴を明けるために強度は低下するが、扉体41を最大起立位置に規制するだけであるから、実用上の問題はない。
【0026】
また、扉体41は、可撓性膜46aとクランプ46bと止め具46cとアンカーボルト46dとを介して水路40の底部40aに固定されており、可撓性膜46aが変形することにより、水路40の上流側の起立位置Uと下流側の倒伏位置Dとの間で回動可能に構成されている。
【0027】
この場合、可撓性膜46aは、水路40の底部40aにクランプ46bとアンカーボルト46dで固定する構造を採用しているが、扉体41は、横幅が約10m程度、高さが約1.5m程度のものである。そのため、津波のような強大な波力を受けることは想定されていないことから、可撓性膜46aの端部はクランプ46bで水路40の底部40aに押し付けるだけの簡易な連結構造である。また、可撓性膜46aとクランプ46bの重量はそれぞれ数Kg程度であり、水深も約1.5m程度であるから、定期交換時における水中での交換作業も、さほどの問題はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
ここで、特許文献2のような揺動式防波堤において、扉体1の端部1a,1bと水底面2とをそれぞれ連結する引き留めベルト6(7)の両端の連結構造は、強大な津波の波力を直に受けても充分に耐え得るように、強固な連結構造としながらも、定期交換時には、水深が10〜15m程度の水中での潜水士による交換作業が容易に行えるようにしたという要望があった。
【0030】
本発明は、前記要望に応えるためになされたもので、扉体の端部と水底面とをそれぞれ連結する引き留めベルトの両端を強固な連結構造としながらも、定期交換時には、水深が10〜15m程度の水中での潜水士による交換作業が容易に行えるように工夫した揺動式防波堤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0031】
前記課題を解決するために、本発明は、水底に設置された水底部材に対して略平行状態で倒れる倒伏位置と、前記水底部材に対して略垂直状態で起き上がる起立位置とに揺動可能であって、倒伏位置において、押し波方向の波力を受ける一端部と引き波方向の波力を受ける他端部とがそれぞれ前記水底部材よりも上方に設定され、この各端部から前記水底部材に接触する下面との間が、側面視で下向き略円弧状若しくは略台形状に形成されている扉体と、押し波方向の前記水底部材に一端が連結され、他端が前記扉体の他端部付近に連結されて、前記扉体の他端部を揺動可能に支持する第1の固定ベルトと、引き波方向の前記水底部材に一端が連結され、他端が前記扉体の一端部付近に連結されて、前記扉体の一端部を揺動可能に支持する第2の固定ベルトと、前記扉体を押し波方向の波力に抗して起立位置に保持する第1の引き留めベルトと、前記扉体を引き波方向の波力に抗して起立位置に保持する第2の引き留めベルトとを備えた揺動式防波堤において、前記引き留めベルトは、合成繊維材若しくはスチール材で補強された可撓性のゴム製でなり、第1の引き留めベルトは、押し波方向の水底部材のクランプ部材に一端が連結され、他端が扉体の一端部のクランプ部材に連結され、第2の引き留めベルトは、引き波方向の水底部材のクランプ部材に一端が連結され、他端が扉体の他端部のクランプ部材に連結され、前記引き留めベルトは、一端と他端の折り返し部分の中空部に固定軸が貫通状態で挿通されて軸形状端部に形成され、前記各クランプ部材は、前記水底部材または扉体に固定されるベース板にフラット部の一端がヒンジ軸で揺動自在に連結され、このフラット部の他端に形成されて、前記引き留めベルトの一端または他端の軸形状端部を前記ベース板との間に押さえ込む押さえ込み部を少なくとも有するクランプ部を備え、前記クランプ部の押さえ込み部または前記ベース板に、前記引き留めベルトの軸形状端部の窪み部に嵌まり込む突起部が形成され、前記クランプ部材のフラット部には、前記ベース板と対面した状態で、フラット部をベース板に固定するためのボルト・ナットが設けられていることを特徴とする揺動式防波堤を提供するものである。
【0032】
請求項2のように、前記クランプ部材のフラット部とクランプ部の外面に跨って、水上のクレーンのフックを引っ掛けるフック孔が形成されたブラケットが固定されている構成とすることができる。
【0033】
請求項3のように、前記クランプ部材は、前記引き留めベルトの幅方向に複数に分割されて設けられている構成とすることができる。
【0034】
請求項4のように、前記引き留めベルトの軸形状端部の固定軸の両端部には、軸直交方向の切り込み部が形成され、この固定軸の両端部に対応する前記クランプ部の端部には、前記引き留めベルトの軸形状端部に上方から嵌まり込むときに、前記切り込み部に係合する抜け止め板が設けられている構成とすることができる。
【0036】
請求項
5のように、前
記水底部材のクランプ部材は、前記水底部材の上面に、前記引き留めベルトの折り返し軸部材を介して設置されている構成とすることができる。
請求項6のように、前記水底部材のクランプ部材は、前記水底部材の傾斜面に、前記扉体が起立した時の前記引き留めベルトの傾斜角度と略等しい角度で向き合うように設置されている構成とすることができる。
【0037】
請求項7のように、前記扉体のクランプ部材は、前記扉体の上面に、この扉体の端部の曲面部で前記引き留めベルトを折り返すように設置されている構成とすることができる。
【0038】
請求項8のように、前記扉体のクランプ部材は、前記扉体の上面に、この扉体の端部の凹部内の曲面部で前記引き留めベルトを折り返すように設置されている構成とすることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、扉体は、平常時には水底部材の倒伏位置に倒れているから、船舶の航行等に影響を与えない。
【0040】
そして、津波、高潮、副振動等で押し波が発生すると、扉体は、押し波の波力で起立位置まで回転して、第1の引き留めベルトで押し波方向の波力に抗して起立位置に保持される結果、押し波は、起立位置の扉体で抑制されるようになる。
【0041】
一方、押し波が終わり、ついで引き波が発生すると、扉体は、引き波の波力で起立位置まで回転して、第2の引き留めベルトで引き波方向の波力に抗して起立位置に保持される結果、引き波は、起立位置の扉体で抑制されるようになる。
【0042】
このように揺動式防波堤を港湾の防波堤で仕切られた出入口(水路)に設置すれば、押し波で港湾内の潮位が急激に上がるのを抑制でき、引き波で港湾内の潮位が急激に下がるのを抑制できる等の効果を奏することができる。
【0043】
ここで、引き留めベルトは、合成繊維材若しくはスチール材で補強されたゴム製でなり、第1の引き留めベルトは、押し波方向の水底部材のクランプ部材に一端を連結し、他端を扉体の一端部のクランプ部材に連結している。第2の引き留めベルトは、引き波方向の水底部材のクランプ部材に一端を連結し、他端を扉体の他端部のクランプ部材に連結している。また、引き留めベルトの一端と他端の折り返し部分の中空部に固定軸を貫通状態で挿通して軸形状端部に形成している。
【0044】
そして、クランプ部材は、水底部材または扉体に固定されるベース板と、ベース板にフラット部をヒンジ軸で揺動自在に連結し、他端に引き留めベルトの一端または他端の軸形状端部をベース板との間に押さえ込む押さえ込み部を少なくとも有するクランプ部とで構成し、クランプ部材のフラット部は、ベース板と対面した状態で、ベース板にボルト・ナットで固定されるようになる。
【0045】
したがって、水底部材側のクランプ部材のクランプ部を開方向に揺動させ、ベース板上に引き留めベルトの一端の軸形状端部を載せた後に、クランプ部を閉方向に揺動させて、クランプ部の押さえ込み部で軸形状端部をベース板との間に押さえ込み、フラット部をベース板と対面させた状態で、フラット部をベース板にボルト・ナットで固定することができる。
【0046】
同様に、扉体側のクランプ部材のクランプ部を開方向に揺動させ、ベース板上に引き留めベルトの他端の軸形状端部を載せた後に、クランプ部を閉方向に揺動させて、クランプ部の押さえ込み部で軸形状端部をベース板との間に押さえ込み、フラット部をベース板と対面させた状態で、フラット部をベース板にボルト・ナットで固定することができる。
【0047】
このように、引き留めベルトの両端は、クランプ部材によって、強大な津波の波力を直に受けても充分に耐え得るように、強固な連結構造とすることができる。特に、クランプ部の押さえ込み部の突起部またはベース板の突起部を、引き留めベルトの軸形状端部の窪み部に嵌まり込ませるようにしているから、引き留めベルトに作用する強大な津波の波力を軸形状端部の全体で均等に受けることができるので、引き留めベルトに、引用文献3のようなボルト貫通穴を明けてボルトで固定すれば強度は低下するが、このようなおそれもなくなる。
【0048】
また、引き留めベルトは、
図1を参照すれば、扉体11の横幅W1が約60m程度、高さH1が約20m程度であるとすれば、長さが約40m程度、幅が約3m程度、厚さが約12〜15cm程度、1本当たりの重量が約1t(トン)程度である。
【0049】
このようなサイズおよび重量の引き留めベルトの定期交換時には、水底部材と扉体のいずれのクランプ部材も、フラット部をベース板に固定しているボルト・ナットを外し、クランプ部を開方向に揺動させれば、ベース板上から古い引き留めベルトの軸形状端部を取り除き、新品の引き留めベルトの軸形状端部に載せ代えた後に、クランプ部を閉方向に揺動させて、クランプ部の押さえ込み部で軸形状端部をベース板との間に押さえ込み、フラット部をベース板と対面させた状態で、フラット部をベース板にボルト・ナットで固定することができる。
【0050】
このように、ボルト・ナットのねじ込み・外し作業、クランプ部の開閉作業、引き留めベルトの軸形状端部の載せ代え作業だけで引き留めベルトの交換ができるから、水深が10〜15m程度の水中での潜水士による交換作業が容易に行えるようになる。
【0051】
また、引き留めベルトは、合成繊維材若しくはスチール材で補強されたゴム製であるから、津波のような強大な波力を受けると、その長さは、約1〜3m程度は伸びるから、特許文献1の止水板起立姿勢保持機構であるワイヤーロープでは必要な緩衝器を設ける必要がなくなる。しかも、鋼製のワイヤーロープやチェーンと異なり、海水中に長期間に亘って浸漬されていても錆びるおそれがない。
【0052】
請求項2によれば、引き留めベルトの強固な連結構造を採用したクランプ部材のクランプ部は、引き留めベルトの幅方向に複数、例えば5個に分割されていても、1個当たり、例えば約1t(トン)程度の重量があり、潜水士が手作業で開閉操作することはできない。そこで、水上の船舶に搭載したクレーンのフックをフック孔に引っ掛けることで、クレーンを用いてクランプ部を簡単に開閉操作することができる。
【0053】
請求項3によれば、クランプ部材を引き留めベルトの幅方向に複数、例えば5個に分割して設けることで、1個当たりの重量を、例えば約1t(トン)程度にすることができ、水上の船舶に搭載した小型のクレーンを用いてクランプ部を開閉操作することができる。
【0054】
請求項4によれば、引き留めベルトの軸形状端部の固定軸の両端部に、軸直交方向の切り込み部を形成し、クランプ部材のクランプ部に、引き留めベルトの軸形状端部に上方から嵌まり込むときに、切り込み部に係合する抜け止め板を設けているから、引き留めベルトの固定軸が折り返し部分の中空部から軸方向に抜け外れなくなり、引き留めベルトの端がクランプ部材から不用意に脱落する不具合を未然に防止することができる。
【0056】
請求項
5によれば、水底部材のクランプ部材を、水底部材の上面に設置する場合、引き留めベルトの折り返し軸部材を設けることで、引き留めベルトを無理なく折り返すことができる。また、クランプ部材と折り返し軸部材とに引き留めベルトの引き留め力が分散されるので、クランプ部材の耐久性が向上するようになる。
請求項6によれば、水底部材のクランプ部材を、扉体が起立した時の引き留めベルトの傾斜角度と略等しい角度で向き合うように、水底部材の傾斜面に設置することで、クランプ部材を水底部材に固定するボルト等には、引き留めベルトの引き留め力に伴う剪断力が作用するようになる。したがって、引き抜き力ではないので、ボルト等の耐久性が向上するようになる。
【0057】
請求項7によれば、扉体のクランプ部材を、扉体の上面に設置する場合、この扉体の端部の曲面部で引き留めベルトを折り返すようにしたから、扉体の端部の曲面部で引き留めベルトの引き留め力が分散されるので、扉体の耐久性が向上するようになる。
【0058】
請求項8によれば、扉体のクランプ部材を、扉体の上面に設置する場合、この扉体の端部の凹部の曲面部で引き留めベルトを折り返すようにしたから、扉体の端部の凹部の曲面部で引き留めベルトの引き留め力が分散されるので、扉体の耐久性が向上するようになる。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、特許文献2の
図21〜
図23と同一構成・作用の箇所は、同一番号を付して詳細な説明を省略する。
【0061】
図1〜
図3および
図4〜
図6は、本発明にかかる揺動式防波堤である。
図1(a)は平常時(押し波や引き波の無い時)の平面図、
図1(b)は側面図、
図4は
図1(b)に対応する平常時の斜視図である。
【0062】
図2(a)は押し波時の平面図、
図2(b)は側面図、
図5は
図2(b)に対応する押し波時の斜視図である。
【0063】
図3(a)は引き波時の平面図、同(b)は側面図、
図6は
図3(b)に対応する引き波時の斜視図である。
【0064】
図1および
図4のように、扉体11は、港湾の固定防波堤30で仕切られた出入口(水路)31や河川の河口等の水底33に設置された水底部材12の上部に設置されている。
【0065】
扉体11は、
図7を参照すれば、平面視では、出入口31等の幅方向に延在する略長方形状である。出入口31等の幅が広い場合には、
図4〜
図6に示したように、その幅をカバーできるように、仕切り板14(
図3、
図4参照)を介して横並び状で複数台(本例では3台)が配列されることになる。扉体11は、実際には、例えば、1台の横幅W1が約60m、高さT1が約20m、後述する略円弧状の最大厚さJ1が約1.2mである。
【0066】
扉体11は、水底部材12に対して略平行状態で倒れる倒伏位置D〔
図1(b)参照〕と、水底部材12に対して略垂直状態で起き上がる起立位置U1,U2〔
図2(b)、
図3(b)参照〕とに揺動可能となっている。
【0067】
扉体11は、平常時の倒伏位置Dにおいて、押し波方向aの波力を受ける一端部11aと、引き波方向bの波力を受ける他端部11bとが、それぞれ水底部材12よりも上方に設定されている。そして、少なくとも各端部11a,11bから水底部材12に接触する下面11dとの間が、側面視で略円弧状に形成されている。具体的には、一端部11aと他端部11bとの間の下面11dが側面視で下向き略円弧状に形成され、上面11cがフラット状に形成されている(略三日月形状)。
【0068】
扉体11は、ステンレス鋼板等の上下面11c,11dと両側面11e,11fとを組み合わせて溶接することで中空状に形成され、この中空部内に適量の液体が充填されている。これにより、扉体11に浮力が生じないので、水底部材12の上部に倒伏位置Dで設置することが可能となる。なお、液体に代えて固体(鉄塊等)を充填することも可能である。
【0069】
水底部材12は、
図7を参照すれば、ステンレス鋼板等の上面12aと、これを支持する柱部や梁部となる鋼材等を組み合わせて溶接することで、ユニット化された状態で水底33に設置されている。具体的には、
図4のように、水底部材12は、水底33に形成した凹部33aの底に設置され、この水底部材12の上部に設置した扉体11は、倒伏位置Dの扉体11の上面11cが水底33よりも上方に大きく突出しないように設定して、船舶34の航行等に支障が生じないようにしている。
【0070】
水底部材12における扉体11の下面11dに対向する上面12aは、側面視で上向き略円弧状に形成されている。この略円弧状の最大厚さJ2は、扉体11の下面11dと同様に、約1.2mである。
【0071】
すなわち、
図1(b)に示した水平面Kに対して、扉体11の下面11dと水底部材12の上面12aとは、略線対称で下向きと上向きの略円弧状に形成されていることになる。
【0072】
これにより、扉体11の各端部11a,11bの下面11dと水底部材12の上面12aとの間に、扉体11の一端部(若しくは他端部11b)11aと水平面Kとの間の波力が流入するための隙間(仰角)fに加えて、この水平面Kと水底部材12の上面12aとの間にも、波力が流入するための隙間(仰角)fが自然に形成されるようになる。
【0073】
扉体11に対しては、複数本(本例では幅方向に所定の間隔を隔てて2本)の可撓性の第1の固定ベルト4が設けられている。この第1の固定ベルト4は、押し波方向aの水底部材12に一端4aが連結され、扉体11の下面11dに沿って延在して、他端4bが扉体11の他端部11bに連結されている。なお、第1の固定ベルト4の水底部材12と扉体11に対する連結構造は、固定ベルト4を、後述する引き留めベルト6(7)と同構造とすれば、引き留めベルト6(7)と同じクランプ部材15(後述)とすることができる。
【0074】
第1の固定ベルト4は、扉体11の他端部11bを揺動可能に支持するようになる。第1の固定ベルト4は、扉体11が倒伏位置Dから右方向に転動した後に右回転Q〔
図2(b)参照〕し、水底部材12に接する他端部11bを支点として、押し波方向aの起立位置U1に起き上がる程度の長さとする。
【0075】
各第1の固定ベルト4と同じ位置(幅方向にずらせることも可。)に、可撓性の第1の引き留めベルト6が設けられている。この第1の引き留めベルト6は、押し波方向aの水底部材12に一端6aが連結され、押し波方向aと反対方向にループ状で延在して、他端6bが扉体11の一端部11aに連結されている。なお、第1の引き留めベルト6の一端6aと他端6bの連結構造は、後で詳細に説明する。
【0076】
第1の引き留めベルト6は、扉体11が倒伏位置Dから右方向に転動した後に右回転Qし、第1の固定ベルト4で押し波方向aの起立位置U1に起き上がった時、扉体11を押し波方向aの波力に抗して起立位置U1に保持する程度の長さとする。
【0077】
なお、第1の固定ベルト4の一端4aと第1の引き留めベルト6の一端6aとを水底部材12に連結しているが、水底33に設置したアンカーブロックに連結することも可能できる。次述する第2の固定ベルト5の一端5aと第2の引き留めベルト7の一端7aも同様である。
【0078】
扉体11に対しては、第1の固定ベルト4と重ならないように、複数本(本例では幅方向に所定の間隔を隔てて2本)の可撓性の第2の固定ベルト5が設けられ、この第2の固定ベルト5は、引き波方向bの水底部材12に一端5aが連結され、扉体11の下面11dに沿って延在して、他端5bが扉体11の一端部11aに連結されている。なお、第2の固定ベルト5の水底部材12と扉体11に対する連結構造は、固定ベルト5を、後述する引き留めベルト6(7)と同構造とすれば、引き留めベルト6(7)と同じクランプ部材15(後述)とすることができる。
【0079】
第2の固定ベルト5は、扉体11の一端部11aを揺動可能に支持するようになる。第2の固定ベルト5は、扉体11が倒伏位置Dから左方向に転動した後に左回転R〔
図3(b)参照〕し、水底部材12に接する一端部11aを支点として、引き波方向bの起立位置U2に起き上がる程度の長さとする。
【0080】
各第2の固定ベルト5と同じ位置(幅方向にずらせることも可。)に、可撓性の第2の引き留めベルト7が設けられている。この第2の引き留めベルト7は、引き波方向bの水底部材12に一端7aが連結され、引き波方向bと反対方向にループ状で延在して、他端7bが扉体11の他端部11bに連結されている。なお、第2の引き留めベルト7の一端7aと他端7bの連結構造は、後で詳細に説明する。
【0081】
第2の引き留めベルト7は、扉体11が倒伏位置Dから左方向に転動した後に左回転R〔
図3(b)参照〕し、第2の固定ベルト5で引き波方向bの起立位置U2に起き上がった時、扉体11を引き波方向bの波力に抗して起立位置U2に保持する程度の長さとする。
【0082】
各ベルト4〜7は、合成繊維材若しくはスチール材で補強された可撓性のゴム製である。具体的には、
図11(a)(b)を参照すれば、引き留めベルト6(7)は、一面となるテンション層6cと他面となる耐カット層6dとが積層されたものである。
【0083】
テンション層6cは、ゴム層内に複数本の合成繊維コードが幅方向に配列され、長さ方向に延在させて構成され、複数層の積層体であり、長さ方向の引張力を受け持つものである。具体的には、テンション層6cは、例えば約3.3mm厚のテンション層6cを15〜25層で積層したもので、全厚さは約60mmである。
【0084】
耐カット層6dは、ゴム層内に複数本のスチールコードが長さ方向に配列され、幅方向に延在させて構成され、テンション層6cの保護を受け持つものである。具体的には、耐カット層6dは、例えば約30mm厚の耐カット層6dを2層で積層したもので、全厚さは約60mmである。本例では、テンション層6cの全厚さが約60mm、耐カット層6dの2層の全厚さが約60mmで、合計約120mm(約12cm)の総厚さとしている。耐カット層6dは、隣り合う層のスチールコードが10〜30度のバイアス角度で相互にクロスするバイアス構造である。
【0085】
引き留めベルト6のテンション層6cは、エンドレス(ループ)状に形成されて、一端6aと他端6bとの間は、2枚重ねで接合され、一端6aと他端6bの折り返し部分の中空部に固定軸16が貫通状態で挿通されて、側面視で円形状の軸形状端部6eに形成されている。
【0086】
前述の実施形態では、第1の引き留めベルト6と第2の引き留めベルト7の各2本を最小限に用いているが、各引き留めベルト6,7には強大な津波の波力が作用するから、状況によっては、各引き留めベルト6,7を3〜6本程度に増加させることも可能である。
【0087】
図8(a)は、押し波a時に起立した扉体11の平面図、同(b)は(a)の陸側から見た正面図である。
図8(a)(b)の例では、各引き留めベルト6,7を4本に増加させている。なお、各固定ベルト4,5も4本に増加させている。
【0088】
次に、各引き留めベルト6,7の連結構造を説明する。各引き留めベルト6,7の連結構造は同じであることから、以下では引き留めベルト6の連結構造のみを説明する。
【0089】
図9は、引き留めベルト6の連結構造の第1クランプ部材15A’を採用した扉体11であり、(a)は押し波時の起立位置U1の側面図、(b)は引き波時の起立位置U2の側面図、(c)は倒伏位置Dの側面図である。
【0090】
図10は、引き留めベルト6の連結構造の第2クランプ部材15Bを採用した扉体11であり、(a)は押し波時の起立位置U1の側面図、(b)は引き波時の起立位置U2の側面図、(c)は倒伏位置Dの側面図である。
【0091】
なお、
図9および
図10では、押し波時の扉体11の起立位置U1は、約90度であるが、引き波時の扉体11の起立位置U2は、約45度に設定してあるために、引き波方向の引き留めベルト7は、押し波方向の引き留めベルト6よりも全長が短くなっている。
【0092】
第1クランプ部材15Aと第2クランプ部材15Bは、基本構造は共通しているから、先ず、
図11の第2クランプ部材15Bを説明する。
図11(a)はクランプ部15cが開時の斜視図、(b)はクランプ部15cが開時の側面図である。
図12は第2クランプ部材15Bであり、(a)はクランプ部15cが開時の正面図、(b)はクランプ部15cが開時の平面図である。
【0093】
図13は第2クランプ部材15Bであり、(a)はクランプ部15cが閉時の斜視図、(b)はクランプ部15cが閉時の側面図、(c)は(b)の要部拡大断面図である。
図14は第2クランプ部材15Bであり、(a)はクランプ部15cが閉時の正面図、(b)はクランプ部15cが閉時の平面図である。
【0094】
水底部材12のベースとなる基礎コンクリート17内に埋設される補強構築体19(
図15参照)の上部に、クランプ部材15Bのベース板18が複数本のアンカーボルト・ナット22(
図15参照)で固定されている。このベース板18は、引き留めベルト6よりもやや広幅の横長長方形状に形成されている。なお、補強構築体19の高さは、約3mである。
【0095】
第2クランプ部材15Bは、ベース板18にフラット部15aの一端がヒンジ軸15bで揺動自在に連結され、このフラット部15aの他端に形成されて、引き留めベルト6の一端6aの軸形状端部6eをベース板18との間に押さえ込む押さえ込み部15pを有するクランプ部15cを備えている。このクランプ部15cの押さえ込み部15pに、引き留めベルト6の軸形状端部6eの窪み部6fに上方から嵌まり込む突起部15gが形成されている。
【0096】
具体的には、ベース板18の長さ方向に一定の間隔を隔てて複数個(本例では6個)のヒンジ金具15dが配置され、各ヒンジ金具15dはベース板18に固定されている。
【0097】
そして、隣り合うヒンジ金具15dの間に、複数個(本例では5個)のクランプ部材15のフラット部15aの一端がそれぞれ嵌め合わされ、各ヒンジ金具15dと各フラット部15aの一端の貫通孔(不図示)とにヒンジ軸15bを一連に貫通させている。
【0098】
これにより、引き留めベルト6の幅方向に複数個に分割された各第2クランプ部材15Bは、
図11の開位置と
図13の閉位置とに、独立して開閉操作することができる。
【0099】
各第2クランプ部材15Bのフラット部15aは、ベース板18と対面した状態、つまりクランプ部15cの閉位置で、ベース板18に複数(本例では2個)のボルト・ナット20(
図13参照)で固定されるようになる。
【0100】
クランプ部15cが閉位置では、
図13(c)のように、クランプ部15cの押さえ込み部15pが引き留めベルト6の軸形状端部6eをベース板18との間に押さえ込み、突起部15gが軸形状端部6eの窪み部6fに上方から嵌まり込むことで、軸形状端部6eの略上半分を固定軸16とともに抱き込むようになる。同時に、突起部15gの丸めた下端で引き留めベルト6のテンション層6cがベース板18に強く押さえ付けられるようになる。これにより、引き留めベルト6の一端6aがクランプ部15cから抜け外れるおそれがなくなる。また、突起部15gの下端を丸めているから、押さえ付けられた引き留めベルト6の一端6a、特にテンション層6cが傷付くおそれがない。
【0101】
各第2クランプ部材15Bのフラット部15aとクランプ部15cの外面に跨って、2個のボルト・ナット20の間に位置に、水上のクレーンのフックを引っ掛けるフック孔15eが形成されたブラケット15fが固定されている。
【0102】
引き留めベルト6の軸形状端部6eの固定軸16の両端部には、軸直交方向の切り込み部16aが形成され、この固定軸16の両端部に対応するクランプ部15cの端面には、
図13のように、引き留めベルト6の軸形状端部6eに上方から嵌まり込むときに、切り込み部16aに係合する抜け止め板15hがボルト15jで固定されている。
【0103】
次に、
図15、
図16の第1クランプ部材15Aを説明する。
図15(a)はクランプ部15cが閉時の平面図、(b)は(a)の側面図である。
図16は
図15(a)の要部拡大図である。
【0104】
第2クランプ部材15Bと相違するのは、クランプ部15cの押さえ込み部15pに突起部15gが形成されておらず、ベース板18に、引き留めベルト6の軸形状端部6eの窪み部6fに下方から嵌まり込む突起部18bが形成されている点である。
【0105】
図17、
図18も第1クランプ部材15Aである。
図17(a)はクランプ部15cが閉時の平面図、(b)は(a)の側面図である。
図18は
図17(a)の要部拡大図である。
【0106】
図17および
図18では、ベース板18の一側に第1クランプ部材15Aが固定され、ベース板18の他側に、引き留めベルト6の折り返し軸部材23が左右のブラケット24で固定されている。
図17および
図18のタイプは、折り返し軸付き第1クランプ部材15A’として区別する。
【0107】
ここで、水底部材12のベースとなる基礎コンクリート17および扉体11に、各クランプ部材15A,15Bを設置する構造を具体的に説明する。
【0108】
図9の実施形態では、基礎コンクリート17側に、折り返し軸付き第1クランプ部材15A’を用いる。押し波a側に、折り返し軸部材23を押し波a側として、折り返し軸付き第1クランプ部材15A’のベース板18の補強構築体19を基礎コンクリート17内に埋設する。
【0109】
また、引き波b側に、折り返し軸部材23を引き波b側として、折り返し軸付き第1クランプ部材15A’のベース板18の補強構築体19を基礎コンクリート17内に埋設する。
【0110】
そして、押し波a側の引き留めベルト6は、
図18のように、耐カット層6dが押し波a側を向くようにして、折り返し軸部材23でUターンさせた後、一端6aの軸形状端部6eを第1クランプ部材15A’に連結する。
【0111】
同様に、引き波b側の引き留めベルト7も、耐カット層6dが引き波b側を向くようにして、折り返し軸部材23でUターンさせた後、一端7aの軸形状端部を第1クランプ部材15A’に連結する。
【0112】
また、扉体11側には、第2クランプ部材15Bを用いる。
図20(a)(b)に示すように、扉体11の一端部11a(他端部11bも同様)を円弧状の曲面部11gに形成する。具体的には円形鋼管を取付ける。この鋼管の直径は、例えば、約500mm程度である。
【0113】
また、第2クランプ部材15Bは、扉体11の上面11cの一端部11aの近傍で、第2クランプ部材15Bが一端部11aを向くようにして、ベース板18を扉体11の内部の補強フレーム25にボルト・ナット20を利用して固定する。
【0114】
そして、耐カット層6dが押し波a側を向くようにして、扉体11の一端部11aの曲面部11gで引き留めベルト6を逆U字状に折り返した後、一端6aの軸形状端部6eを第2クランプ部材15Bに連結する。
【0115】
なお、
図20(c)に示すように、扉体11の一端部11aと他端部11bに凹部11hを形成し、この凹部11h内の曲面部11gで引き留めベルト6(7)を逆U字状に折り返すようにすることもできる。
【0116】
図10の実施形態では、基礎コンクリート17側には、第2クランプ部材15Bを用いる。
図19(a)(b)のように、補強構築体19の上部は、側面視で斜めに傾斜させ、この傾斜上部に第2クランプ部材15Bのベース板18を固定する。この傾斜面は、扉体11が起立した時の引き留めベルト6の傾斜角度と略等しい角度で向き合うように設置されている。
【0117】
押し波a側に、傾斜上端を扉体11側として、ベース板18の補強構築体19を基礎コンクリート17内に埋設する。
【0118】
また、引き波b側に、傾斜上端を扉体11側として、ベース板18の補強構築体19を基礎コンクリート17内に埋設する。
【0119】
そして、押し波a側の引き留めベルト6は、
図19のように、耐カット層6dが押し波a側を向くようにして、一端6aの軸形状端部6eを第2クランプ部材15Bに連結する。
【0120】
同様に、引き波b側の引き留めベルト7も、耐カット層6dが引き波b側を向くようにして、一端7aの軸形状端部を第2クランプ部材15Bに連結する。
【0121】
また、扉体11側には、第2クランプ部材15Bを用いて、引き留めベルト6(7)の他端6b(7b)の軸形状端部を第2クランプ部材15Bに連結することは、
図9の実施形態と同様である。
【0122】
図9および
図10の実施形態において、第1の固定ベルト4と第2の固定ベルト5は、引き留めベルト6(7)と同構造としている。そして、第1の固定ベルト4の一端4aと第2の固定ベルト5の一端5aは、第2クランプ部材15Bで基礎コンクリート17に固定し、第1の固定ベルト4の他端4bと第2の固定ベルト5の他端5bは、第2クランプ部材15Bで扉体11に固定している。この場合、耐カット層6dが上側を向くようにしている。
【0123】
前記のように構成した揺動式防波堤であれば、扉体11は、
図1または
図4のように、平常時には水底部材12の倒伏位置D(水底部材12に対して例えば約0度。以下同様)に倒れているから、船舶34の航行等に影響を与えない。この平常時の波の流れでは、扉体11は僅かに揺れ動く程度である。
【0124】
そして、
図2または
図5のように、津波、高潮、副振動等で押し波が発生すると、扉体11は、押し波の波力で起立位置U1まで回転して、第1の引き留めベルト6で押し波方向aの波力に抗して起立位置U1に保持される結果、押し波は、起立位置U1の扉体11で抑制されるようになる。
【0125】
一方、
図3または
図6のように、押し波が終わり、ついで引き波が発生すると、扉体11は、引き波の波力で起立位置U2まで回転して、第2の引き留めベルト7で引き波方向bの波力に抗して起立位置U2に保持される結果、引き波は、起立位置U2の扉体11で抑制されるようになる。
【0126】
このように、揺動式防波堤を港湾の固定防波堤30で仕切られた出入口(水路)31に設置すれば、押し波で港湾内の潮位が急激に上がるのを抑制でき、引き波で港湾内の潮位が急激に下がるのを抑制できるようになる。
【0127】
ここで、引き留めベルト6(7)は、合成繊維材若しくはスチール材で補強されたゴム製の可撓性引き留めベルトでなり、第1の引き留めベルト6は、押し波方向aの水底部材12のベースとなる基礎コンクリート17に固定の第1(第2)クランプ部材15A,15A’(15B)に一端6aを連結し、他端6bを扉体11の一端部11aの第2クランプ部材15Bに連結している。第2の引き留めベルト7は、引き波方向bの水底部材12のベースとなる基礎コンクリート17に固定の第1(第2)クランプ部材15A,15A’(15B)に一端7aを連結し、他端7bを扉体11の他端部11bの第2クランプ部材15Bに連結している。また、引き留めベルト6(7)の一端6a(7a)と他端6b(7b)は、折り返し部分の中空部に固定軸16を貫通状態で挿通して軸形状端部6e(7e)に形成している。
【0128】
そして、各クランプ部材15A,15A’,15Bは、水底部材12のベースとなる基礎コンクリート17または扉体11に固定されるベース板18と、ベース板18にフラット部15aをヒンジ軸15bで揺動自在に連結し、他端に引き留めベルト6(7)の一端6a.7aまたは他端7a,7bの軸形状端部6e(7e)をベース板18との間に押さえ込む押さえ込み部18pを有するクランプ部15cとで構成し、クランプ部材15のフラット部15aは、ベース板18と対面した状態で、ベース板18にボルト20で固定されるようになる。
【0129】
したがって、水底部材12側のクランプ部材15のクランプ部15cを開方向に揺動させ、ベース板18上に引き留めベルト6(7)の一端6a(7a)の軸形状端部6e(7e)を載せた後に、クランプ部15cを閉方向に揺動させて、クランプ部15cの押さえ込み部15pで引き留めベルト6の軸形状端部6eをベース板18との間に押さえ込み、フラット部15aをベース板18と対面させた状態で、フラット部15aをベース板18にボルト20で固定することができる。
【0130】
同様に、扉体11側のクランプ部材15のクランプ部15cを開方向に揺動させ、ベース板11上に引き留めベルト6(7)の他端6b(7b)の軸形状端部6e(7e)を載せた後に、クランプ部15cを閉方向に揺動させて、クランプ部15cの押さえ込み部15pで引き留めベルト6の軸形状端部6eをベース板18との間に押さえ込み、フラット部15aをベース板18と対面させた状態で、フラット部15aをベース板18にボルト20で固定することができる。
【0131】
このように、引き留めベルト6(7)の両端6a(7a),6b(7b)は、各クランプ部材15,15A’,15Bによって、強大な津波の波力を直に受けても充分に耐え得るように、強固な連結構造とすることができる。
【0132】
特に、第1クランプ部材15A,15A’では、引き留めベルト6(7)の軸形状端部6e(7e)の窪み部6fに、ベース板18の突起部18bを下方から嵌まり込むようにしている。また、第2クランプ部材15Bでは、引き留めベルト6(7)の軸形状端部6e(7e)の窪み部6fに、クランプ部15cの突起部15gを上方から嵌まり込ませるようにしている。したがって、引き留めベルト6(7)に作用する強大な津波の波力を軸形状端部6e(7e)と突起部18b,15gの全体で均等に受けることができるので、引き留めベルト6(7)に、引用文献3のようなボルト貫通穴を明けてボルトで固定すれば強度は低下するが、このようなおそれもなくなる。
【0133】
また、引き留めベルト6(7)は、
図1を参照すれば、扉体11の横幅W1が約60m程度、高さH1が約20m程度であるとすれば、長さが約40m程度、幅が約3m程度、厚さが約12〜15cm程度、1本当たりの重量が約1t(トン)程度である。
【0134】
このようなサイズおよび重量の引き留めベルト6(7)の定期交換時には、水底部材側12と扉体11側のいずれのクランプ部材15A,15A’,15Bも、フラット部15aをベース板18に固定しているボルト・ナット20を外し、クランプ部15cを開方向に揺動させれば、ベース板18上から古い引き留めベルト6(7)の軸形状端部6e(7e)を取り除き、新品の引き留めベルト6(7)の軸形状端部6e(7e)に載せ代えた後に、クランプ部15cを閉方向に揺動させて、クランプ部15cの押さえ込み部15pで引き留めベルト6の軸形状端部6eをベース板18との間に押さえ込み、フラット部15aをベース板18と対面させた状態で、フラット部15aをベース板18にボルト・ナット20で固定することができる。
【0135】
このように、ボルト・ナット20のねじ込み・抜き外し作業、クランプ部15cの開閉作業、引き留めベルト6(7)の軸形状端部6e(7e)の載せ代え作業だけで引き留めベルト6(7)の交換ができるから、水深が10〜15m程度の水中での潜水士による交換作業が容易に行えるようになる。
【0136】
また、引き留めベルト6(7)は、合成繊維材若しくはスチール材で補強されたゴム製であるから、津波のような強大な波力を受けると、その長さは、1〜3m程度は伸びるから、特許文献1の止水板起立姿勢保持機構であるワイヤーロープでは必要な緩衝器を設ける必要がなくなる。しかも、鋼製のワイヤーロープやチェーンと異なり、海水中に長期間に亘って浸漬されていても錆びるおそれがない。
【0137】
一方、クランプ部材15A,15Bのフラット部15aとクランプ部15cの外面に跨って、水上のクレーンのフックを引っ掛けるフック孔15eを形成したブラケット15fを固定している。
【0138】
すなわち、引き留めベルト6(7)の強固な連結構造を採用したクランプ部材15A,15A’,15Bのクランプ部15cは、引き留めベルト6(7)の幅方向に複数、例えば5個に分割されていても、1個当たり、例えば約1t(トン)程度の重量があり、潜水士が手作業で開閉操作することはできない。そこで、水上の船舶に搭載したクレーンのフックをフック孔15eに引っ掛けることで、クレーンを用いてクランプ部15cを簡単に開閉操作することができる。
【0139】
また、クランプ部材15A,15A’,15Bを引き留めベルト6(7)の幅方向に複数、例えば5個に分割して設けることで、1個当たりの重量を、例えば約1t(トン)程度にすることができ、水上の船舶に搭載した小型のクレーンを用いてクランプ部15cを開閉操作することができる。
【0140】
さらに、引き留めベルト6(7)の軸形状端部6e(7e)の固定軸16の両端部に、軸直交方向の切り込み部16aを形成し、クランプ部材15A,15A’,15Bのクランプ部15cに、引き留めベルト6(7)の軸形状端部6e(7e)に上方から嵌まり込むときに、切り込み部16aに係合する抜け止め部15hを設けているから、引き留めベルト6(7)の固定軸16が折り返し部分の中空部から軸方向に抜け外れなくなり、引き留めベルト6(7)の端が各クランプ部材15A,15A’,15Bから不用意に脱落する不具合を未然に防止することができる。
【0141】
一方、水底部材12側の第2クランプ部材15Bを、扉体11が起立した時の引き留めベルト6(7)の傾斜角度θと略等しい角度で向き合うように、水底部材12のベースとなる基礎コンクリート17に設置することで、クランプ部材15Bを水底部材12に固定するアンカーボルト22等には、引き留めベルト6(7)の引き留め力に伴う剪断力が作用するようになる。したがって、引き抜き力ではないので、アンカーボルト22等の耐久性が向上するようになる。
【0142】
また、水底部材12の第1クランプ部材15A’を、水底部材12のベースとなる基礎コンクリート17に設置する場合、引き留めベルト6(7)の折り返し軸部材23を設けることで、引き留めベルト6(7)を無理なく折り返すことができる。また、第1クランプ部材15A’と折り返し軸部材23とに引き留めベルト6(7)の引き留め力が分散されるので、第1クランプ部材15A’の耐久性が向上するようになる。
【0143】
さらに、扉体11の第2クランプ部材15Bを、扉体11の上面11cに設置する場合、この扉体11の端部11a,11bの曲面部11gで引き留めベルト6(7)を折り返すようにしたから、扉体11の端部11a,11bの曲面部11gで引き留めベルト6(7)の引き留め力が分散されるので、扉体11の耐久性が向上するようになる。
【0144】
扉体11の第2クランプ部材15Bを、扉体11の上面11cに設置する場合、この扉体11の端部11a,11bの凹部11hの曲面部11gで引き留めベルト6(7)を折り返すようにしたから、扉体11の端部11a,11bの凹部11hの曲面部11gで引き留めベルト6(7)の引き留め力が分散されるので、扉体11の耐久性が向上するようになる。