特許第5988488号(P5988488)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5988488スタビライザ用ブシュ、接着用治具、および、接着方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5988488
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】スタビライザ用ブシュ、接着用治具、および、接着方法
(51)【国際特許分類】
   B60G 21/055 20060101AFI20160825BHJP
   F16F 15/08 20060101ALI20160825BHJP
   F16F 1/36 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   B60G21/055
   F16F15/08 K
   F16F1/36
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-236596(P2012-236596)
(22)【出願日】2012年10月26日
(65)【公開番号】特開2014-84061(P2014-84061A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年6月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】黒田 茂
(72)【発明者】
【氏名】大村 修司
【審査官】 佐々木 智洋
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭60−008118(JP,U)
【文献】 特開2004−138134(JP,A)
【文献】 特開2008−018932(JP,A)
【文献】 特開2011−168102(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 21/055
F16F 1/36
F16F 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタビライザのバーが挿入される孔部を有するとともに、ブラケットの凹部に収容可能に構成されて前記バーが前記孔部に接着されるスタビライザ用ブシュにおいて、
前記孔部は、第1弧部および第2弧部を有し、
前記第1弧部と前記第2弧部の中心同士は離間し、
前記第2弧部の曲率半径は、前記第1弧部の曲率半径よりも小さく設定され
前記第1弧部は、前記ブラケットの前記凹部の開口部側とは反対側に位置し、前記第2弧部は、前記ブラケットの前記凹部の開口部側に位置し、前記第1弧部と前記第2弧部の中心同士の間隔の前記バーの外径に対する割合は2〜7%に設定されていることを特徴とするスタビライザ用ブシュ。
【請求項2】
前記第1弧部および前記第2弧部は楕円弧部であり、前記孔部は卵形をなすことを特徴とする請求項に記載のスタビライザ用ブシュ。
【請求項3】
スタビライザのバーが挿入される孔部を有するとともに、ブラケットの凹部に収容可能に構成されて前記バーが前記孔部に接着されるスタビライザ用ブシュにおいて、
剛体部を有し、
前記孔部は楕円形をなし
前記剛体部は、前記凹部の開口部側に配置され、前記楕円形の長軸は、前記ブラケットの前記凹部の凹方向に平行な方向に位置することを特徴とするスタビライザ用ブシュ。
【請求項4】
前記バーの外径に対する前記孔部の前記楕円形の長径の割合は92〜98%に設定され、前記バーの外径に対する前記孔部の前記楕円形の短径の割合は80〜90%に設定されていることを特徴とする請求項に記載のスタビライザ用ブシュ。
【請求項5】
接着用工具を用いてスタビライザ用ブシュの孔部へスタビライザのバーを接着する接着方法において、
前記接着用工具は、
前記ブシュを収容する凹部を有するブシュ収容部と、
前記ブシュ収容部の前記凹部の開口部を閉塞するプレート部とを備え、
前記ブシュ収容部では、前記凹部の凹方向に垂直な方向に締め代が設けられ、
前記プレート部は、前記ブシュ収容部の前記凹部の前記開口部から開口方向に突出する前記ブシュを押圧する押圧部を有し、
前記押圧部は、前記ブシュ収容部の凹部の凹方向に突出して、前記ブシュの両端部を前記凹方向に向かって押し込む凸部を有し、
前記スタビライザの前記バーが前記孔部に挿入された前記ブシュを前記ブシュ収容部の前記凹部に収容し、
前記ブシュが収容された前記凹部の前記開口部を前記プレート部により閉塞し、
前記ブシュ収容部の前記凹部の前記開口部から開口方向に突出する前記ブシュを前記プレート部の前記押圧部により押圧し、前記押圧部の前記凸部により前記ブシュの両端部を前記凹方向に向かって押し込むことを特徴とする接着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用スタビライザのバーに取り付けられるスタビライザ用ブシュ、そのブシュのバーへの接着工程で用いられる接着用治具、および、その接着用治具を用いた接着方法に係り、特に、バーに対するブシュの接着強度の向上技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に使用されるスタビライザは、車両のロール剛性を確保するための装置である。図1は、車両の懸架装置に連結されたスタビライザの構成を表す斜視図である。スタビライザ10は、たとえばトーション部21、アーム部22、および、肩部23を有して略コ字形状をなすバー20を備えている。
【0003】
スタビライザ10のバー20では、トーション部21がゴム製のブシュ30(スタビライザ用ブシュ)を介して車体(図示略)に取り付けられ、アーム部22の先端部がスタビリンク2を介して懸架装置1に連結されている(たとえば特許文献1)。ブシュ30は、ブラケット40により車体に固定されている。このようなスタビライザ10では、バー20のねじり反力を利用して車両の姿勢を安定させている。なお、懸架装置1の左右の車軸部1Aにはタイヤ(図示略)が取り付けられる。
【0004】
ブシュ30は、たとえば図2に示すように外周部断面が直線状をなす矩形部31と外周部断面が円弧形状をなす扇形部32とを備えている。ブシュ30の中央部には孔部30Aが形成され、孔部30Aにはスタビライザ10のバー20が挿入される。孔部30Aは、たとえば円形をなしている。ブラケット40は、たとえば図2に示すように断面がU字形をなすU字形部41(凹部)と、U字形部41の両端部から左右方向外側に向かって延在するフランジ部42とを備えている。U字形部41は、たとえばブシュ30の扇形部32の外周部および矩形部31の外周側面部を覆うようにしてブシュ30を収容し、フランジ部42は、たとえばプレート等の車体側固定部材51にボルト等の締結手段52により固定される。この場合、車体側固定部材51は、U字形部41の開口部から露出する矩形部31の底部と接触するようにして配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−270315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ブシュ30としては、通常、バーのトーション部の軸方向に沿って相対的に移動することが可能なすべりブシュが使用されている。ところが、すべりブシュは、バーのトーション部に対して相対的に移動するため、トーション部以外の部品と干渉する虞があった。また、すべりブシュとバーのトーション部との間の隙間に泥水が浸入する虞があった。このため、異音が発生する虞があった。また、すべりブシュとトーション部との相対的位置関係がずれるため、車両用スタビライザの性能が不安定となり、操縦安定性・乗り心地等に悪影響を与える虞がある等の問題があった。そこで、上記問題を解決するために、接着剤によりトーション部にブシュを固定することが提案されている。
【0007】
しかしながら、図2に示すブシュ30の形状では、孔部30Aに挿入されるバー20のトーション部21の周方向において、ブシュ30のボリュームが不均一である。このため、ブラケット40を介してブシュ30を車体側固定部材51に取り付ける際、バー20の外周面に対するブシュ30の孔部30Aの接着面(内周面)の面圧が不均一となるとなる虞がある。その結果、ブシュ30では、孔部30Aの接着面の低面圧部において接着力が不十分となり、必要な接着強度を得ることができない。
【0008】
したがって、本発明は、スタビライザのバーへのブシュの接着において、ブシュの孔部の接着面での面圧の均一化を図ることにより、必要な接着強度を得ることができる技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、スタビライザのバーに対するブシュの孔部の接着面(内周面)での面圧について以下のように検討した。
【0010】
従来では、ブシュとブラケットの寸法関係について、ブシュの孔部の接着面での面圧を確保するために、ブラケットのU字形部(凹部)と孔部の中心部同士を結ぶ方向(車体の上下方向に対応)では、締め代を設けていたが、ブラケットの凹部と孔部の中心部同士を結ぶ方向に垂直な方向(車体の左右方向に対応)では、ブシュのブラケットへの組付作業性を確保するために、締め代を設けていなかった。
【0011】
たとえば図3(A),(B)に示すブシュ30およびブラケット40を用いた場合、図の上下方向(車体の上下方向に対応)について、ブラケット40のU字形部41の開口部の左右方向長さをA、ブラケット40のU字形部41の内周面の上端から下端までの長さをBに設定した場合、ブシュ30の左右方向長さをA、ブシュ30の上下方向長さを(B+α)に設定し、上下方向にのみ締め代αを設けていた。なお、ブシュ30は、たとえば左右対称な形状をなし、孔部30Aの円形は、たとえば扇形部32を含む円形と同心である。
【0012】
上記寸法関係を有する場合のブシュ30の孔部30Aの接着面での面圧について調べた結果を図4に示す。なお、図4の角度θは、図3(A)に示すように孔部30Aの上端位置を基準とした時計回り方向の角度であって、0°と360°は孔部30Aの上端位置を示す。たとえば図3(A),4から判るように、孔部30Aでは、角度θが0°の部分(上端部)および180°の部分(下端部)において面圧が最高値を示し、角度θが約110°の部分(右斜め下部)および約250°の部分(左斜め下部)において面圧が最低値を示し、大きな面圧差が生じた。たとえば図4に示す従来例では、面圧差が70%程度となった。
【0013】
このように大きな面圧差が生じた原因としては、ブシュ30における孔部30Aの中心に対して肉厚の大きな部分(右斜め下部および左斜め下部)が、ブラケット40におけるU字形部41とフランジ部42との境界部の湾曲部の方(図3(A)の矢印方向)へ流動するためであると考えられる。なお、面圧差の定義は、(接着面の最高面圧部の面圧(最高面圧)−接着面の最低面圧部の面圧(最低面圧))/(接着面の面圧の平均値)である。
【0014】
そこで本発明者は、ブシュの孔部の接着面において図4に示すような大きな面圧差の発生を抑制するために、以下のような第1発明〜第4発明を完成するに至った。
【0015】
第1発明のスタビライザ用ブシュは、スタビライザのバーが挿入される孔部を有するとともに、ブラケットの凹部に収容可能に構成されてバーが孔部に接着されるスタビライザ用ブシュであって、孔部は、第1弧部および第2弧部を有し、第1弧部と前記第2弧部の中心同士は離間し、第2弧部の曲率半径は、第1弧部の曲率半径よりも小さく設定され、前記凹部に収容された状態で、第1弧部は、ブラケットの凹部の開口部側とは反対側に位置し、第2弧部は、ブラケットの凹部の開口部側に位置し、第1弧部と第2弧部の中心同士の間隔の前記バーの外径に対する割合は2〜7%に設定されていることを特徴とする。
【0016】
なお、第1発明では、弧部は、たとえば円弧状あるいは略円弧状をなす円弧部、あるいは、たとえば楕円弧状あるいは略楕円弧状をなす楕円弧部である。この場合、弧部の中心は、円弧部の場合にはその円弧部を含む円形の中心、楕円弧部の場合にはその楕円弧部を含む楕円形の中心である。曲率半径は次のように定義している。たとえばブラケット凹部の凹方向を上側方向に設定した場合、第1弧部は上側に位置し、第2弧部は下側に位置する。この場合、第1弧部の曲率半径は、第1弧部の曲線の最上部における曲率半径、第2弧部の曲率半径は、第2弧部の曲線の最下部における曲率半径である。
【0017】
第1発明では、ブシュの孔部の形状に改良を加えている。孔部の形状について、上記のように孔部の右斜め下部および左斜め下部おいて面圧が最低となることを防止するために、孔部の形状をたとえば楕円形に設定し、左右方向(ブラケット凹部の凹方向に垂直な方向)の孔の長さを小さく設定することが考えられる。しかしながら、この場合、面圧差を十分に低く設定することが困難である。
【0018】
そこで、第1発明では、孔部おいて、接着時に用いるブラケットの凹部の開口部反対側に第1弧部を形成するとともに、凹部の開口部側に第2弧部を形成している。第1弧部を上側に位置させるとともに第2弧部を下側に位置させた場合、孔部において、図3(A)に示す従来例での面圧が最低となる右斜め下部および左斜め下部に対応する部分に、曲率半径が小さく設定された第2弧部が位置するから、その部分での孔部の左右方向長さが短くなる。これにより、従来例の孔部の低面圧部に対応する部分の面圧を十分に高めることができる。
【0019】
しかも、この場合、第1円弧部と第2円弧部の中心同士を離間させており、その中心同士の間隔を適宜設定することにより、図3(A)に示す従来例の孔部の高面圧部に対応する部分の面圧(上下方向の面圧)を適宜調整することができるから、ブシュの孔部の接着面において面圧差を十分に低く設定することができる。このようにスタビライザのバーへのブシュの接着において、ブシュの孔部の接着面での面圧の均一化を図ることができるから、必要な接着強度を得ることができる。第1発明は、下記第2発明と比較して、剛体部を設ける必要がないから、コスト削減を図ることができる。
【0020】
第1発明のスタビライザ用ブシュは、種々の構成を用いることができる。たとえば第1弧部および第2弧部は楕円弧部であり、孔部は卵形をなす態様を用いることができる。
【0021】
第2発明のスタビライザ用ブシュは、スタビライザのバーが挿入される孔部を有するとともに、ブラケットの凹部に収容可能に構成されてバーが孔部に接着されるスタビライザ用ブシュであって、剛体部を有し、孔部は楕円形をなし、前記凹部に収容された状態で、剛体部は、凹部の開口部側に配置され、楕円形の長軸は、ブラケットの凹部の凹方向に平行な方向に位置することを特徴とする。
【0022】
第2発明では、ブシュの一部を剛体化するとともに、ブシュの孔部の形状に改良を加えている。具体的には、接着時に用いられるブラケットの凹部の開口側の部分に剛体部が設けられているから、図3(A)に示す従来例のような孔部の右斜め下方向および左斜め下方向へのブシュの弾性材料の流動を抑制することができる。しかも、孔部の楕円形の長軸は、ブラケットの凹部の凹方向に平行な方向(たとえば上下方向)に位置しているから、楕円形の短軸は、その方向の垂直方向(たとえば締め代を設けることが困難な左右方向)に位置することができ、その孔部の左右方向長さをスタビライザのバーの外径に対して小さく設定することができる。
【0023】
したがって、楕円形の長径および短径を適宜設定することにより、図3(A)に示す従来例の孔部の低面圧部に対応する部分の面圧を十分に高めることができ、ブシュの孔部の接着面において面圧差を十分に低く設定することができる。このようにスタビライザのバーへのブシュの接着において、ブシュの孔部の接着面での面圧の均一化を図ることができるから、必要な接着強度を得ることができる。
【0024】
第2発明のスタビライザ用ブシュは、種々の構成を用いることができる。たとえば、バーの外径に対する孔部の楕円形の長径の割合は92〜98%に設定され、バーの外径に対する孔部の楕円形の短径の割合は80〜90%に設定されている態様を用いることができる。
【0025】
第3発明は、接着用工具を用いてスタビライザ用ブシュの孔部へスタビライザのバーを接着する接着方法において、前記接着用工具は、ブシュを収容する凹部を有するブシュ収容部と、ブシュ収容部の凹部の開口部を閉塞するプレート部とを備え、ブシュ収容部では、凹部の凹方向に垂直な方向に締め代が設けられ、プレート部は、ブシュ収容部の凹部の開口部から開口方向に突出するブシュを押圧する押圧部を有し、押圧部は、ブシュ収容部の凹部の凹方向に突出して、ブシュの両端部を凹方向に向かって押し込む凸部を有し、スタビライザのバーが孔部に挿入されたブシュをブシュ収容部の凹部に収容し、ブシュが収容された凹部の開口部をプレート部により閉塞し、ブシュ収容部の凹部の開口部から開口方向に突出するブシュをプレート部の押圧部により押圧し、押圧部の凸部によりブシュの両端部を凹方向に向かって押し込むことを特徴とする。
【0026】
第3発明では、ブシュ改良を加える代わりに、ブラケットに対応する接着用工具に改良を加えている。具体的には、接着用工具は、ブシュを収容する凹部を有するブシュ収容部を備え、押圧部を有するプレート部によって、その凹部の開口部を閉塞する。この場合、ブシュ収容部では、その凹部の凹方向に垂直な方向(たとえば左右方向)に締め代を設けているから、ブシュの外周側面部は、ブシュ収容部によりブシュの左右方向中央部に向かって押圧され、孔部の接着面(内周面)は、スタビライザのバーの外周面を左右方向中央部に向かって押圧することができる。しかも、プレート部の押圧部の凸部は、ブシュ収容部の凹部の凹方向(上側方向)に突出して、ブシュの両端部を凹方向(上側方向)に向かって押し込むから、図3(A)に示す従来例のような孔部の右斜め下方向および左斜め下方向へのブシュの弾性材料の流動を抑制することができる。
【0027】
したがって、ブシュ収容部の左右方向に設けた締め代、および、ブシュ収容部の凹部内部への押圧部の凸部の突出量を適宜設定することにより、従来例の孔部の高面圧部に対応する部分の面圧(上下方向の面圧)を適宜調整することができるとともに、従来例の孔部の低面圧部に対応する部分の面圧を十分に高めることができ、その結果、ブシュの孔部の接着面において面圧差を十分に低く設定することができる。このように接着用工具を用いたスタビライザのバーへのブシュの接着において、ブシュの孔部の接着面での面圧の均一化を図ることができるから、必要な接着強度を得ることができる。この場合、図3(A)に示す従来例のブシュをそのままの形状で用いることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、スタビライザのバーへのブシュの接着において、ブシュの孔部の内周面の面圧の均一化を図ることにより、必要な接着強度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】車両の懸架装置に連結されたスタビライザの構成を表す斜視図である。
図2】ブラケットが装着された従来のスタビライザ用ブシュの構成を表す断面図である。
図3】(A)は、上下方向に締め代を設けた従来のスタビライザ用ブシュの構成を表す断面図、(B)は、従来のブラケットの構成を表す断面図である。
図4図3に示すスタビライザ用ブシュの孔部の接着面(内周面)の面圧分布を表すグラフである。
図5】本発明(第1発明)に係る第1実施形態のスタビライザ用ブシュの構成を表す断面図である。
図6】本発明(第1発明)に係る第1実施形態のスタビライザ用ブシュの好適例の構成を表す断面図である。
図7】本発明(第1発明)に係る第1実施形態のスタビライザ用ブシュの孔部の接着面(内周面)の面圧分布を表すグラフである。
図8】本発明(第1発明)に係る第1実施形態のスタビライザ用ブシュでの第1弧部と第2弧部の中心同士の間隔(オフセット量)と接着面の面圧差との関係を表すグラフである。
図9】(A),(B)は、本発明(第2発明)に係る第2実施形態のスタビライザ用ブシュの構成を表す断面図である。
図10】本発明(第2発明)に係る第2実施形態のスタビライザ用ブシュの孔部の接着面(内周面)の面圧分布を表すグラフである。
図11】本発明(第3,4発明)に係る第3実施形態の接着用工具の構成を表し、スタビライザ用ブシュを収容した状態の接着用工具を表す断面図である。
図12】本発明(第3,4発明)に係る第3実施形態の接着用工具が装着されたスタビライザ用ブシュの孔部の接着面(内周面)の面圧分布を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の第1〜3実施形態について図面を参照して説明する。なお、第1,2実施形態のブシュ(スタビライザ用ブシュ)は、たとえば図1〜3に示すブシュ30の代わりに、スタビライザ10のトーション部21に装着されるものである。第1〜3実施形態では、図1〜3と同様の構成を有する部材や部位には同符号を付し、その説明を省略する。図5,6,9の中心Oは、たとえば図3(A)に示すブシュ30の中心Oと同じ位置に設定されている。図7,10,12の角度θは、各実施形態の孔部の上端位置を基準とした時計回り方向の角度であって、0°と360°は孔部の上端位置を示す。なお、図7,8,10,12のグラフの面圧(接着面の各角度位置での面圧)および面圧差(接着面の面圧差)は、孔部にバーが挿入されたブシュがブラケットあるいは接着用工具に収容された状態でのデータである。
【0032】
(1)第1実施形態
図5,6は、本発明(第1発明)に係る第1実施形態のブシュの構成を表す断面図である。ブシュ100は、図3(A)に示すブシュ30とは、孔部の形状が異なる以外は、同様の構成を有している。具体的には、ブシュ100は、たとえばゴム等の弾性材料からなり、ブシュ100では、たとえば左右方向長さA、上下方向長さ(B+α)、および、外周部の形状は図3(A)に示すブシュ30のものと同様である。
【0033】
ブシュ100の孔部100Aは、上側に形成された第1弧部101と、下側に形成された第2弧部102とを有する。第1弧部101および第2弧部102は、たとえば円弧状あるいは略円弧状をなす円弧部、あるいは、たとえば楕円弧状あるいは略楕円弧状をなす楕円弧部である。第2弧部102は、たとえば楕円弧部であることが好適である。この場合、左右方向に楕円弧部の短軸が位置していることが好適である。
【0034】
なお、孔部100Aの形状は、第1弧部101と第2弧部102の共通接線で接続された形状としてもよい。弧部101,102の中心O1,O2は、円弧部の場合には円弧部を含む円形の中心、楕円弧部の場合には楕円弧部を含む楕円形の中心である。第1弧部101の曲率半径r1は、第1弧部101の曲線の最上点における曲率半径、第2弧部102の曲率半径は、第2弧部102の曲線の最下点における曲率半径である。
【0035】
たとえば図5に示す孔部100Aでは、第1弧部101および第2弧部102が円弧部である。第1弧部101と第2弧部102との間の部分では、たとえば第1弧部101と第2弧部102の共通接線で接続されている。たとえば図6に示す孔部100Aでは、第1弧部101および第2弧部102が楕円弧部である。この場合、孔部100Aは卵形をなすことが好適である。
【0036】
孔部100Aでは、第1弧部101の中心O1および第2弧部102の中心O2は、たとえばブシュ100の左右方向の中心を通る中心線上に位置し、上下方向において互いに離間している。第2弧部102の曲率半径r2は、第1弧部101の曲率半径r1よりも小さく設定されている。
【0037】
スタビライザ10のバー20の孔部100Aへの接着工程について説明する。まず、たとえばバー20のトーション部21におけるブシュ100の接着予定箇所に接着剤を塗る。次いで、たとえばブシュ100の孔部100Aにバー20を挿入して、ブシュ100をトーション部21での接着予定箇所に位置させる。
【0038】
続いて、孔部100Aにトーション部21が挿入されたブシュ100を、ブラケット40のU字形部41に収容する。この場合、第1弧部101は、U字形部41(凹部)の開口部側とは反対側に位置し、第2弧部102は、U字形部41の開口部側に位置する。次いで、ブラケット40のU字形部41の開口部を閉塞するようにしてプレート(図示略)を設け、そのプレートをブラケット40のフランジ部42に固定する。次いで、たとえばブラケット40に収容されたブシュ100を接着剤キュア装置内に配置し、接着剤を硬化させる。これにより、ブシュ100の孔部100Aにバー20のトーション部21が接着される。
【0039】
第1実施形態では、孔部100Aおいて、接着時に用いるブラケット40のU字形部41の開口部反対側に第1弧部101を形成するとともに、U字形部41の開口部側に第2弧部102を形成している。このような孔部100Aにおいて、図3(A)に示す従来例での面圧が最低となる右斜め下部および左斜め下部に対応する部分に、曲率半径r2が小さく設定された第2弧部102が位置するから、その部分での孔部100Aの左右方向長さが短くなる。これにより、従来例の孔部の低面圧部に対応する部分(第2弧部102)の面圧を十分に高めることができる。しかも、この場合、第1円弧部101と第2円弧部102との中心O1,O2同士を離間させており、その中心O1,O2同士の間隔tを適宜設定することにより、図3(A)に示す従来例の孔部の高面圧部に対応する部分の面圧(上下方向の面圧)を適宜調整することができるから、ブシュ100の孔部100Aの接着面において面圧差を十分に低く設定することができる。
【0040】
具体的には、図7に示すように、第1実施形態の実施例(第1発明例)のブシュでは、角度θが約110°程度および約250°の部分において面圧が非常に低下した従来例とは異なり、面圧差の発生を効果的に抑制することができる。
【0041】
このようにスタビライザ10のバー20へのブシュ100の接着において、ブシュ100の孔部100Aの接着面での面圧の均一化を図ることができるから、必要な接着強度を得ることができる。第1実施形態は、下記第2実施形態と比較して、剛体部202を設ける必要がないから、コスト削減を図ることができる。
【0042】
特に、たとえば中心O1,O2同士の間隔tとブシュの孔部の接着面(内周面)での面圧差との関係は図8に示すものとなるから、上記面圧差を所定値以下とするためには上記間隔tを所定範囲内に設定することが好適である。たとえばバー20の外径Rに対する中心O1,O2同士の間隔tの割合(t/R)を2〜7%に設定することにより、ブシュの孔部の接着面(内周面)での面圧差を30%以下に設定することができる。
【0043】
(2)第2実施形態
図9(A),(B)は、本発明(第2発明)に係る第2実施形態のブシュの構成を表す断面図である。ブシュ200は、たとえばゴム等の弾性材料からなる弾性体部201と、弾性体部201よりも高い剛性を有する剛体部202を有している。剛体部202は、たとえば金属部品や樹脂部品からなる。ブシュ200の孔部200Aは楕円形をなしている。楕円形の長軸は、たとえば上下方向に位置し、楕円形の短軸はたとえば左右方向に位置している。剛体部202は、孔部200Aの中心部Oよりも下側に設けられている。
【0044】
たとえば図9(A)のブシュ200では、剛体部202が、上面が断面半円形をなす凹部を有しており、弾性体部201が断面円形(たとえば断面真円形あるいは断面真円形)をなし、その円形の上半分がブシュ200の外周部の一部を構成し、その円形の下半分は、剛体部202の凹部に嵌合している。たとえば図9(B)のブシュ200では、剛体部202が左右で分割された形状をなしている。ブシュ200では、たとえば左右方向長さA、上下方向長さ(B+α)、および、外周部の形状は図3(A)に示すブシュ30と同様である。
【0045】
スタビライザ10のバー20の孔部200Aへの接着工程は、第1実施形態の接着工程と同様な手順で行う。この場合、ブラケット40のU字形部41へのブシュ200の収容では、ブシュ200の剛体部202が、U字形部41の開口部側に配置され、孔部200Aの楕円形の長軸が、ブラケットのU字形部41の凹方向に平行な方向(上下方向)に位置する。
【0046】
第2実施形態では、接着時に用いられるブラケット40のU字形部41の開口側の部分に剛体部202が設けられているから、図3(A)に示す従来例のような孔部の右斜め下方向および左斜め下方向へのブシュの弾性材料の流動を抑制することができる。しかも、孔部200Aの楕円形の長軸は、U字形部41の凹方向に平行な方向(上下方向)に位置しているから、楕円形の短軸は、その方向の垂直方向(たとえば締め代を設けることが困難な左右方向)に位置することができ、その孔部200Aの左右方向長さをスタビライザ10のバー20の外径Rに対して小さく設定することができる。
【0047】
したがって、楕円形の長径および短径を適宜設定することにより、従来例の孔部の低面圧部に対応する部分の面圧を十分に高めることができ、ブシュ200の孔部200Aの接着面において面圧差を十分に低く設定することができる。具体的には、図10に示すように、第2実施形態の実施例(第2発明例)のブシュでは、角度θが約110°程度および約250°の部分において面圧が非常に低下した従来例のブシュとは異なり、たとえば面圧差が30%以下(図10の例では17%)となり、面圧差の発生を効果的に抑制することができる。このようにスタビライザ10のバー20へのブシュ200の接着において、ブシュ200の孔部200Aの接着面での面圧の均一化を図ることができるから、必要な接着強度を得ることができる。
【0048】
特に、バー20の外径Rに対する孔部200Aの楕円形の長径D1の割合(D1/R)を92〜98%に設定し、バー20の外径Rに対する孔部200Aの楕円形の短径D2の割合(D2/R)を80〜90%に設定することにより、孔部200Aの接着面(内周面)での面圧差を30%以下に設定することができる。
【0049】
(3)第3実施形態
図11は、本発明(第3,4発明)に係る第3実施形態の接着用工具の構成を表し、スタビライザ用ブシュを収容した状態の接着用工具を表す断面図である。接着用工具300は、ブシュ収容部301およびプレート部302を備えている。ブシュ収容部301は、ブラケット40に対応する形状をなし、左右方向(ブシュ収容部301の凹部の凹方向に直交する方向)に締め代βが設けられている以外は、ブラケット40と同様な形状を有する。
【0050】
ブシュ収容部301は、断面U字形をなす凹部を有しており、たとえば図3(A)に示すブシュ30を収容する。ブシュ収容部301の凹部の両端部には、たとえば左右方向外側に向かって延在するフランジ部が形成されている。プレート部302は、ブシュ収容部301の凹部の開口部から露出するブシュ30の底部を押圧する押圧部303を有する。押圧部303の両端部には、上側に突出する凸部303Aが形成されている。ブシュ収容部301の凹部内部への凸部303Aの突出量γは、適宜設定することができる。このような押圧部303の上面部の断面形状は、たとえば両端部が突出して中央部が窪んだ円弧形である。
【0051】
スタビライザ10のバー20の孔部30Aへの接着工程は、第1実施形態の接着工程と同様な手順で行うが、ブラケット40の代わりに接着用工具300を用いる点のみが異なる。接着用工具300へのブシュ30の組付作業では、まず、スタビライザ10のバー20が孔部30Aに挿入されたブシュ30を、ブシュ収容部301の凹部に収容する。次いで、ブシュ30が収容されたブシュ収容部301の凹部の開口部をプレート部302により閉塞する。この場合、ブシュ収容部301の凹部の開口部から露出するブシュ30を、プレート部302の押圧部303により押圧し、押圧部303の凸部303Aによりブシュ30の底部両端部を、ブシュ収容部301の凹部内部に向かって押し込む。
【0052】
第3実施形態では、接着用工具300のブシュ収容部301では、その凹部の凹方向に直交する方向(たとえば左右方向)に締め代βを設けているから、ブシュ30の外周側面部はブシュ収容部301によりブシュ30の左右方向中央部に向かって押圧され、孔部30Aの接着面(内周面)は、スタビライザ10のバー20の外周面を左右方向中央部に向かって押圧することができる。しかも、プレート部302の押圧部303の凸部303Aは、ブシュ収容部301の凹部内部に突出して、ブシュ30の底部両端部を凹部の凹方向(上側)に向かって押し込むから、図3(A)に示す従来例のような孔部の右斜め下方向および左斜め下方向へのブシュの弾性材料の流動を抑制することができる。
【0053】
したがって、ブシュ収容部301の左右方向に設けた締め代β、および、ブシュ収容部301の凹部内部への押圧部303の凸部303Aの突出量γを適宜設定することにより、従来例の孔部の高面圧部に対応する部分の面圧(上下方向の面圧)を適宜調整することができるとともに、従来例の孔部の低面圧部に対応する部分の面圧を十分に高めることができ、ブシュ30の孔部30Aの接着面において面圧差を十分に低く設定することができる。
【0054】
具体的には、図12に示すように、締め代βおよび突出量γを適宜設定した第3実施形態の実施例(第3発明例)のブシュでは、締め代βのみを設定した比較例のブシュとは異なり、面圧差の発生を効果的に抑制することができ、たとえば面圧差を30%以下に設定することができる。
【0055】
このように接着用工具300を用いたスタビライザ10のバー20へのブシュ30の接着において、ブシュ30の孔部30Aの接着面での面圧の均一化を図ることができるから、必要な接着強度を得ることができる。この場合、図3(A)に示す従来例のブシュ30をそのままの形状で用いることができる。
【0056】
特に、左右方向長さAに対する締め代βの割合を0〜20%に設定し、内径側のコトロールも合わせ、孔部30Aの接着面(内周面)での面圧差を30%以下に設定することができる。
【符号の説明】
【0057】
100,200…ブシュ(スタビライザ用ブシュ)、100A,200A…孔部、101…第1弧部、102…第2弧部、201…弾性体部、202…剛体部、300…接着用工具、301…ブシュ収容部、302…プレート部、303…押圧部、303A…凸部、O1,O2…中心(弧部の中心)、r1,r2…曲率半径、t…中心同士の間隔(オフセット量)、α…締め代(上下方向の締め代)、β…締め代(左右方向の締め代)、γ…突出量(凸部の突出量)、10…スタビライザ、20…バー、21…トーション部、30…ブシュ、30A…孔部、40…ブラケット、41…U字形部(凹部)、42…フランジ部、O…中心(孔部の中心)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12