【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、スタビライザのバーに対するブシュの孔部の接着面(内周面)での面圧について以下のように検討した。
【0010】
従来では、ブシュとブラケットの寸法関係について、ブシュの孔部の接着面での面圧を確保するために、ブラケットのU字形部(凹部)と孔部の中心部同士を結ぶ方向(車体の上下方向に対応)では、締め代を設けていたが、ブラケットの凹部と孔部の中心部同士を結ぶ方向に垂直な方向(車体の左右方向に対応)では、ブシュのブラケットへの組付作業性を確保するために、締め代を設けていなかった。
【0011】
たとえば
図3(A),(B)に示すブシュ30およびブラケット40を用いた場合、図の上下方向(車体の上下方向に対応)について、ブラケット40のU字形部41の開口部の左右方向長さをA、ブラケット40のU字形部41の内周面の上端から下端までの長さをBに設定した場合、ブシュ30の左右方向長さをA、ブシュ30の上下方向長さを(B+α)に設定し、上下方向にのみ締め代αを設けていた。なお、ブシュ30は、たとえば左右対称な形状をなし、孔部30Aの円形は、たとえば扇形部32を含む円形と同心である。
【0012】
上記寸法関係を有する場合のブシュ30の孔部30Aの接着面での面圧について調べた結果を
図4に示す。なお、
図4の角度θは、
図3(A)に示すように孔部30Aの上端位置を基準とした時計回り方向の角度であって、0°と360°は孔部30Aの上端位置を示す。たとえば
図3(A),4から判るように、孔部30Aでは、角度θが0°の部分(上端部)および180°の部分(下端部)において面圧が最高値を示し、角度θが約110°の部分(右斜め下部)および約250°の部分(左斜め下部)において面圧が最低値を示し、大きな面圧差が生じた。たとえば
図4に示す従来例では、面圧差が70%程度となった。
【0013】
このように大きな面圧差が生じた原因としては、ブシュ30における孔部30Aの中心に対して肉厚の大きな部分(右斜め下部および左斜め下部)が、ブラケット40におけるU字形部41とフランジ部42との境界部の湾曲部の方(
図3(A)の矢印方向)へ流動するためであると考えられる。なお、面圧差の定義は、(接着面の最高面圧部の面圧(最高面圧)−接着面の最低面圧部の面圧(最低面圧))/(接着面の面圧の平均値)である。
【0014】
そこで本発明者は、ブシュの孔部の接着面において
図4に示すような大きな面圧差の発生を抑制するために、以下のような第1発明〜第4発明を完成するに至った。
【0015】
第1発明のスタビライザ用ブシュは、スタビライザのバーが挿入される孔部を有するとともに、ブラケットの凹部に収容
可能に構成されてバーが孔部に接着されるスタビライザ用ブシュであって、孔部は、第1弧部および第2弧部を有し、第1弧部と前記第2弧部の中心同士は離間し、第2弧部の曲率半径は、第1弧部の曲率半径よりも小さく設定され、
前記凹部に収容された状態で、第1弧部は、ブラケットの凹部の開口部側とは反対側に位置し、第2弧部は、ブラケットの凹部の開口部側に位置
し、第1弧部と第2弧部の中心同士の間隔の前記バーの外径に対する割合は2〜7%に設定されていることを特徴とする。
【0016】
なお、第1発明では、弧部は、たとえば円弧状あるいは略円弧状をなす円弧部、あるいは、たとえば楕円弧状あるいは略楕円弧状をなす楕円弧部である。この場合、弧部の中心は、円弧部の場合にはその円弧部を含む円形の中心、楕円弧部の場合にはその楕円弧部を含む楕円形の中心である。曲率半径は次のように定義している。たとえばブラケット凹部の凹方向を上側方向に設定した場合、第1弧部は上側に位置し、第2弧部は下側に位置する。この場合、第1弧部の曲率半径は、第1弧部の曲線の最上部における曲率半径、第2弧部の曲率半径は、第2弧部の曲線の最下部における曲率半径である。
【0017】
第1発明では、ブシュの孔部の形状に改良を加えている。孔部の形状について、上記のように孔部の右斜め下部および左斜め下部おいて面圧が最低となることを防止するために、孔部の形状をたとえば楕円形に設定し、左右方向(ブラケット凹部の凹方向に垂直な方向)の孔の長さを小さく設定することが考えられる。しかしながら、この場合、面圧差を十分に低く設定することが困難である。
【0018】
そこで、第1発明では、孔部おいて、接着時に用いるブラケットの凹部の開口部反対側に第1弧部を形成するとともに、凹部の開口部側に第2弧部を形成している。第1弧部を上側に位置させるとともに第2弧部を下側に位置させた場合、孔部において、
図3(A)に示す従来例での面圧が最低となる右斜め下部および左斜め下部に対応する部分に、曲率半径が小さく設定された第2弧部が位置するから、その部分での孔部の左右方向長さが短くなる。これにより、従来例の孔部の低面圧部に対応する部分の面圧を十分に高めることができる。
【0019】
しかも、この場合、第1円弧部と第2円弧部の中心同士を離間させており、その中心同士の間隔を適宜設定することにより、
図3(A)に示す従来例の孔部の高面圧部に対応する部分の面圧(上下方向の面圧)を適宜調整することができるから、ブシュの孔部の接着面において面圧差を十分に低く設定することができる。このようにスタビライザのバーへのブシュの接着において、ブシュの孔部の接着面での面圧の均一化を図ることができるから、必要な接着強度を得ることができる。第1発明は、下記第2発明と比較して、剛体部を設ける必要がないから、コスト削減を図ることができる。
【0020】
第1発明のスタビライザ用ブシュは、種々の構成を用いることができる。たとえば第1弧部および第2弧部は楕円弧部であり、孔部は卵形をなす態様を用いることができる。
【0021】
第2発明のスタビライザ用ブシュは、スタビライザのバーが挿入される孔部を有するとともに、ブラケットの凹部に収容
可能に構成されてバーが孔部に接着されるスタビライザ用ブシュであって、剛体部を有し、孔部は楕円形をなし、
前記凹部に収容された状態で、剛体部は、凹部の開口部側に配置され、楕円形の長軸は、ブラケットの凹部の凹方向に平行な方向に位置することを特徴とする。
【0022】
第2発明では、ブシュの一部を剛体化するとともに、ブシュの孔部の形状に改良を加えている。具体的には、接着時に用いられるブラケットの凹部の開口側の部分に剛体部が設けられているから、
図3(A)に示す従来例のような孔部の右斜め下方向および左斜め下方向へのブシュの弾性材料の流動を抑制することができる。しかも、孔部の楕円形の長軸は、ブラケットの凹部の凹方向に平行な方向(たとえば上下方向)に位置しているから、楕円形の短軸は、その方向の垂直方向(たとえば締め代を設けることが困難な左右方向)に位置することができ、その孔部の左右方向長さをスタビライザのバーの外径に対して小さく設定することができる。
【0023】
したがって、楕円形の長径および短径を適宜設定することにより、
図3(A)に示す従来例の孔部の低面圧部に対応する部分の面圧を十分に高めることができ、ブシュの孔部の接着面において面圧差を十分に低く設定することができる。このようにスタビライザのバーへのブシュの接着において、ブシュの孔部の接着面での面圧の均一化を図ることができるから、必要な接着強度を得ることができる。
【0024】
第2発明のスタビライザ用ブシュは、種々の構成を用いることができる。たとえば、バーの外径に対する孔部の楕円形の長径の割合は92〜98%に設定され、バーの外径に対する孔部の楕円形の短径の割合は80〜90%に設定されている態様を用いることができる。
【0025】
第3発明
は、接着用工具を用いてスタビライザ用ブシュの孔部へスタビライザのバーを接着する接着方法において、前記接着用工具は、ブシュを収容する凹部を有するブシュ収容部と、ブシュ収容部の凹部の開口部を閉塞するプレート部とを備え、ブシュ収容部では、凹部の凹方向に垂直な方向に締め代が設けられ、プレート部は、ブシュ収容部の凹部の開口部から
開口方向に突出するブシュを押圧する押圧部を有し、押圧部は、ブシュ収容部の凹部の凹方向に突出して、ブシュの両端部を凹方向に向かって押し込む凸部を有
し、スタビライザのバーが孔部に挿入されたブシュをブシュ収容部の凹部に収容し、ブシュが収容された凹部の開口部をプレート部により閉塞し、ブシュ収容部の凹部の開口部から開口方向に突出するブシュをプレート部の押圧部により押圧し、押圧部の凸部によりブシュの両端部を凹方向に向かって押し込むことを特徴とする。
【0026】
第3発明では、ブシュ改良を加える代わりに、ブラケットに対応する接着用工具に改良を加えている。具体的には、接着用工具は、ブシュを収容する凹部を有するブシュ収容部を備え、押圧部を有するプレート部によって、その凹部の開口部を閉塞する。この場合、ブシュ収容部では、その凹部の凹方向に垂直な方向(たとえば左右方向)に締め代を設けているから、ブシュの外周側面部は、ブシュ収容部によりブシュの左右方向中央部に向かって押圧され、孔部の接着面(内周面)は、スタビライザのバーの外周面を左右方向中央部に向かって押圧することができる。しかも、プレート部の押圧部の凸部は、ブシュ収容部の凹部の凹方向(上側方向)に突出して、ブシュの両端部を凹方向(上側方向)に向かって押し込むから、
図3(A)に示す従来例のような孔部の右斜め下方向および左斜め下方向へのブシュの弾性材料の流動を抑制することができる。
【0027】
したがって、ブシュ収容部の左右方向に設けた締め代、および、ブシュ収容部の凹部内部への押圧部の凸部の突出量を適宜設定することにより、従来例の孔部の高面圧部に対応する部分の面圧(上下方向の面圧)を適宜調整することができるとともに、従来例の孔部の低面圧部に対応する部分の面圧を十分に高めることができ、その結果、ブシュの孔部の接着面において面圧差を十分に低く設定することができる。このように接着用工具を用いたスタビライザのバーへのブシュの接着において、ブシュの孔部の接着面での面圧の均一化を図ることができるから、必要な接着強度を得ることができる。この場合、
図3(A)に示す従来例のブシュをそのままの形状で用いることができる。