(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5988650
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】自動変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/02 20060101AFI20160825BHJP
F16H 61/10 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
F16H61/02
F16H61/10
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-77137(P2012-77137)
(22)【出願日】2012年3月29日
(65)【公開番号】特開2013-204780(P2013-204780A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2015年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】金中 克行
(72)【発明者】
【氏名】澤田 幸秀
【審査官】
上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−193720(JP,A)
【文献】
特開2005−219530(JP,A)
【文献】
特開平04−337158(JP,A)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、変速時に変速クラッチの断接切換を行う自動変速機の制御装置であって、
スロットル開度及び回転数から内燃機関が車両を駆動している駆動状態、内燃機関が車両を駆動していない被駆動状態、及び前記駆動状態及び前記被駆動状態の境界付近にあるあいまい領域にあるかを判定し、
当該あいまい領域にある場合、トルクコンバータの入力側及び出力側が係合していない状態での前記入力側及び前記出力側の速度比から、前記駆動状態及び前記被駆動状態を判定して前記変速クラッチの断接切換を行うものであり、
駆動状態では係合解除される変速クラッチを被駆動状態に比べて遅いスピードで係合解除し、被駆動状態では係合される変速クラッチを駆動状態に比べて遅いスピードで係合する自動変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される変速を行うための自動変速機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動変速機を搭載した車両において、スロットルバルブの開度すなわちスロットル開度及び内燃機関の回転数から、内燃機関が車両を駆動している駆動状態と、内燃機関が車両を駆動していない被駆動状態とを判定した上で、自動変速機による変速の態様を異ならせるようにしている。そのなかでも、車両の個体差、経年変化やエアコンディショナ等の補機の作動をも加味しておく目的で、スロットル開度及び回転数との関係が駆動状態か被駆動状態かの境界付近にある場合は、強制的に駆動状態と判断して自動変速機の制御を行う技術が開示されている。例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また他方、自動変速機に接続しているトルクコンバータの出力側と入力側の回転速度の比を演算し、速度比が1以下の場合は、駆動状態、速度比が1よりも大きい場合は被駆動状態と判定する技術も開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら上記特許文献1のものでは実際には被駆動状態にある状態でも強制的に駆動状態として制御を行う場合もあるため、応答性の高い制御とは言えない。他方特許文献2に記載のものでは、トルクコンバータが係合している状態では速度比は常に1であるため、トルクコンバータが係合していない状態でしか駆動状態、被駆動状態の判定ができないため、運転状態によっては制御の遅れが生じてしまう場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−154438号公報
【特許文献2】特開平3−265756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述したような課題に着目したものであり、運転状態に拘わらず望ましい変速を実現する自動変速機の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0008】
すなわち本発明に係る自動変速機の制御装置は、車両に搭載され、変速時に変速クラッチの断接切換を行うものであって、スロットル開度及び回転数から内燃機関が車両を駆動している駆動状態、内燃機関が車両を駆動していない被駆動状態、及び前記駆動状態及び前記被駆動状態の境界付近にあるあいまい領域にあるかを判定し、当該あいまい領域にある場合、トルクコンバータの入力側及び出力側が係合していない状態での前記入力側及び前記出力側の速度比から、前記駆動状態及び前記被駆動状態を判定して前記変速クラッチの断接切換を行う
ものであり、駆動状態では係合解除される変速クラッチを被駆動状態に比べて遅いスピードで係合解除し、被駆動状態では係合される変速クラッチを駆動状態に比べて遅いスピードで係合することを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、あいまい領域にある場合であってもトルクコンバータの入力側及び出力側の速度比から内燃機関が車両を駆動しているか否かを直接正確に判定することができる。またあいまい領域ではない場合は運転中常に駆動状態、被駆動状態を判別しながら自動変速機の制御を行い得る。その結果、運転状態に拘わらず常に望ましい変速操作を行うことができ、ドライバビリティを有効に向上させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、運転状態に拘わらず望ましい変速を実現する自動変速機の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。
【0013】
本実施形態における内燃機関は、火花点火式ガソリンエンジンであり、複数の気筒1(
図1には、そのうち一つを図示している)を具備している。各気筒1の吸気ポート近傍には、燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部に、点火プラグ12を取り付けてある。点火プラグ12は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。点火コイルは、半導体スイッチング素子であるイグナイタとともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
【0014】
吸気を供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配置している。
【0015】
排気を排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配置している。
【0016】
図2に、車両が備える駆動系の例を示す。この駆動系は、トルクコンバータ7及び遊星歯車機構を利用した本発明の変速機たる自動変速機8を備えてなる。
【0017】
内燃機関が出力する回転トルクは、内燃機関のクランク軸からトルクコンバータ7の入力側のポンプインペラ71に入力され、出力側のタービンランナ72に伝達される。タービンランナ72の回転は、自動変速機8の入力軸800に伝達された後適宜駆動方向、変速比が調整された後、プライマリーリダクションドライブギヤ814を介してプライマリーリダクションドリブンギヤ815の回転軸である出力軸815a伝達され、さらに出力ギア101に伝達される。出力ギア101は、デファレンシャル装置のリングギア102と噛合し、デファレンシャル装置を介して車軸103及び駆動輪(図示せず)を回転させる。
【0018】
トルクコンバータ7は、ロックアップ機構を備える。ロックアップ機構は、この分野では既知のもので、トルクコンバータ7の入力側と出力側とを相対回動不能に締結するロックアップクラッチ73と、ロックアップクラッチ73を断接切換駆動するための作動液圧(油圧)を制御するロックアップソレノイドバルブ(図示せず)とを要素とする。ロックアップソレノイドバルブは、制御信号を受けてその開度を変化させる流量制御弁である。
【0019】
一般的に、ロックアップ機構は、自動変速機8による変速比の変更を伴わない状況において、トルクコンバータ7の入力側と出力側とを締結する。ロックアップ時、ロックアップクラッチ73はトルクコンバータカバー74に押し付けられ、トルクコンバータカバー74と一体となって回転する。ロックアップ時、トルクコンバータ7の入力側(のドライブプレート)に入力された機関のトルクは、トルクコンバータカバー74からロックアップクラッチ73を経由してトルクコンバータ7の出力側、ひいては自動変速機8に直接伝達される。ロックアップ時、トルクコンバータ7の出力側回転数の入力側回転数に対する比である速度比は1となる。
【0020】
翻って、非ロックアップ時には、ロックアップクラッチ73がトルクコンバータカバー74から離反する。非ロックアップ時、トルクコンバータ7の入力側に入力された機関のトルクは、トルクコンバータカバー74からポンプインペラ71、タービン72へと伝わり、自動変速機8に伝達される。非ロックアップ時、トルクコンバータ7の速度比は後述の通り、1とは限らすに種々の異なる値をとる。
【0021】
図3に内部構造を示す自動変速機8は遊星歯車機構を利用してなるものであり、変速クラッチに該当するリバースクラッチ801、フォワードクラッチ802、リヤクラッチ803、ワンウェイクラッチ804、2&4ブレーキ805及び1&リバースブレーキ806を、同図下側の表の通り、各ドライブレンジにおける各ギヤ位置に応じて適宜係合・係合解除させる。これにより各種ギヤであるリヤプラネタリーサンギヤ808、プラネタリーキャリア809、フロントプラネタリーサンギヤ810、プラネタリーリングギヤ813、プラネタリーショートピニオン811、プラネタリーロングピニオン812、プラネタリーリングギヤ813を適宜噛合させる。その結果、入力軸800から場合によっては中間シャフト807を経て、プライマリーリダクションドライブギヤ814を介してプライマリーリダクションドリブンギヤ815の回転軸である出力軸815aへと動力を伝達する。斯かる動力は勿論、各ギヤ位置に応じて所定の変速比及び何れかの回転方向にて伝達される。
【0022】
本実施形態に係る制御装置たるECU0は、CPU、RAM、ROM、I/Oインタフェース等を包有してなるマイクロコンピュータシステムである。制御用のプログラムは予めROMに格納されており、その実行の際にROMからRAMに読み込まれ、CPUで解読される。
【0023】
そしてこのECU0は、内燃機関側で検出されたクランク軸の回転数に係る回転数信号a、内燃機関内で検出される図示しない電子スロットルバルブ32の開度に係る開度信号b、図示しないアクセルペダルの踏込量に係るアクセル信号c、そしてトルクコンバータ7の出力側の回転数に係るタービン回転数信号dが少なくとも入力される。他方このECU0はエンジン1を適宜制御するための出力信号eを出力する他、
図2及び
図3に示すようにロックアップクラッチ73を操作するためのロックアップ信号fと、自動変速機8に変速を適宜行わせるための変速信号gとを出力するようにしている。
【0024】
本実施形態では、自動変速機8に変速を行わせる際の各変速クラッチ801〜806を断接切換えする早さ等の態様を油圧の制御によって、内燃機関が車両を駆動している駆動状態たるパワーON状態と内燃機関が車両を駆動していない被駆動状態であるパワーOFF状態とで切換えるようにしている。具体的には、パワーON状態では係合解除される変速クラッチは回転数の吹き上がりを抑えるべくパワーOFF状態に比べて遅いスピードで係合解除される。翻ってパワーOFF状態では、回転数を持ち上げるべく係合される変速クラッチはパワーON状態に比べて遅いスピードで係合するようにしている。
【0025】
本実施形態では、
図4に示すように、まず電子スロットルバルブ32の開度すなわちスロットル開度と回転数とによってパワーON状態かパワーOFF状態にあるのかを判定するようにしている。
【0026】
そして本実施形態では、
図4に示すようにスロットル開度と回転数との関係が同図に境界線として示される理想線R近傍のあいまい領域Pにあるとき、非ロックアップ時のトルクコンバータ7の速度比によってパワーON状態かパワーOFF状態にあるのかを判定する。すなわちあいまい領域Pにあるとき、トルクコンバータ7の速度比が1以下である場合はパワーON状態と判定する。他方、あいまい領域Pであり且つトルクコンバータ7の速度比が1よりも大きいときは、パワーOFF状態と判定する。ここで、「あいまい領域P」とは具体的には、同図に示す理想線Rからスロットル開度又は回転数が一定の値だけ乖離した領域をパワーON状態、パワーOFF状態とそれぞれ設定した場合において、パワーON状態及びパワーOFF状態に介在した理想線Rを含んだ領域のことである。そして上記の「一定の値」とは、実験等による適合によって得られた所定値であっても、車体製造時や調整時においてドライバビリティを担保すべく設定された車体毎に異なった値であっても良い。
【0027】
以上のような構成とすることにより、本実施形態に係る自動変速機8の制御装置たるECU0は、スロットル開度と回転数との関係があいまい領域Pにある場合であってもトルクコンバータ7の入力側及び出力側の速度比から内燃機関が車両を駆動しているパワーON状態か、或いはパワーOFF状態にあるのかを直接正確に判定することができる。またあいまい領域Pではない場合は運転中常にスロットル開度と回転数とからパワーON状態、パワーOFF状態を判別しながら自動変速機8の制御を行い得る。その結果、運転状態に拘わらず常に望ましい変速操作を行うことができ、ドライバビリティを有効に向上させることができる。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0029】
例えば、上記実施形態では回転数やスロットル開度に拘わらず駆動状態、被駆動状態を判別するためのトルクコンバータの入力側、出力側の速度比を1を基準として判定する態様を開示したが、勿論、回転数やスロットル開度、その他の運転領域や補機の使用等を加味して基準となる前記速度比を適宜変更するようにしたものであってもよい。またトルクコンバータの前記速度比が算出されてから変速機を制御する際に制御遅れを発生させないための別異の制御を加えたり、制御遅れが見込まれる場合のみ前記速度比からの制御を行わないようにしてもよい。また自動変速機や内燃機関の具体的な態様、変速クラッチを断接切換えするための油圧の具体的な制御といった詳細な態様は上記実施形態のものに限定されることはなく、既存のものを含め、種々の態様のものを適用することができる。
【0030】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は車両に搭載される変速を行うための自動変速機の制御装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0032】
0…自動変速機の制御装置(ECU)
7…トルクコンバータ
8…自動変速機
801…変速クラッチ(リバースクラッチ)
802…変速クラッチ(フォワードクラッチ)
803…変速クラッチ(リヤクラッチ)
804…変速クラッチ(ワンウェイクラッチ)
805…変速クラッチ(2&4ブレーキ)
806…変速クラッチ(1&リバースブレーキ)