(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5988655
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】イオン発生装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01T 19/04 20060101AFI20160825BHJP
H01T 23/00 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
H01T19/04
H01T23/00
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-85483(P2012-85483)
(22)【出願日】2012年4月4日
(65)【公開番号】特開2013-218785(P2013-218785A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2015年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100562
【氏名又は名称】アール・ビー・コントロールズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106105
【弁理士】
【氏名又は名称】打揚 洋次
(72)【発明者】
【氏名】門 健太
【審査官】
出野 智之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−123917(JP,A)
【文献】
特開2011−086533(JP,A)
【文献】
特開2006−222045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 19/04
H01T 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方に向かって開口する有底のケーシング内に高電圧を発生させる電源部を収納し、その電源部の1対の出力電極の内の一方を針状電極に接続し、他方を上方に向かって突出させて針状電極を囲繞する環状電極に接続し、針状電極と環状電極との間に放電させてイオンを発生するイオン発生装置であって、針状電極と上記環状電極とが共に露出する位置までケーシング内に充填された樹脂を有するものにおいて、上記環状電極の内側に位置して針状電極を囲繞する筒状体を、筒状体の下端の全周が上記充填された樹脂に埋没して樹脂によって筒状体が固定されるようにしたことを特徴とするイオン発生装置。
【請求項2】
上記ケーシングの開口に取り付けられる板状の蓋体を設け、この蓋体に形成した貫通孔の周縁に上記筒状体を蓋体に一体に形成し、筒状体を介して蓋体を固定したことを特徴とする請求項1に記載のイオン発生装置。
【請求項3】
上記蓋体の裏側に筒状体を囲繞する環状壁を、上記充填された樹脂の表面に接触しない高さで形成したことを特徴とする請求項2に記載のイオン発生装置。
【請求項4】
上記環状壁を形成した位置に、上記蓋体の表面側から環状壁の肉厚内に達する環状の溝を、上記貫通孔を囲繞するように形成したことを特徴とする請求項3に記載したイオン発生装置。
【請求項5】
上記請求項2から請求項4のいずれかに記載されたイオン発生装置を製造する方法であって、ケーシング内に樹脂を注入した状態で上記蓋体をケーシングの開口に取り付け、樹脂が硬化する前にケーシングを所定角度傾け、蓋体とケーシングとの境界部分に樹脂を接触させた後、ケーシングを元の姿勢に戻し、その状態で樹脂を硬化させることを特徴とするイオン発生装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針状電極とその針電極を囲繞する環状電極との間で放電させ、イオンを発生させるイオン発生装置、およびそのイオン発生装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のイオン発生装置としては、上方に開口する有底のケーシング内に昇圧トランスを含む電源部を収納し、外部から給電される低電圧の直流電力をその電源部で高電圧の交流電力に昇圧し、対向する1対の放電電極間に印加して放電させるものが知られている。このものでは、昇圧された高電圧の交流電力は針状電極とその針状電極を囲繞する環状電極に供給され、両電極間で放電させてイオンを発生させている。
【0003】
電源部は外部雰囲気の湿度などから隔絶して安定した動作を担保する必要があるため、電源部をケーシング内に収納した状態でケーシング内にウレタン樹脂などの液状の樹脂が流し込まれ、電源部が樹脂中に完全に埋没した状態で樹脂を硬化させる、樹脂モールド処理が施されている。なお、上記針状電極の少なくとも先端部分や環状電極はモールドせず空気中に露出させておくため、モールドした樹脂の表面から、針状電極や環状電極への給電端子が露出することになる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−266139号公報(段落0064,
図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のイオン発生装置では、例えば空気中の湿度が高くなっても、電源部は樹脂でモールドされているので、動作が不安定になるようなことはないが、モールドした樹脂の表面に水分が付着すると、樹脂から露出している針状電極と環状電極への給電端子との間で沿面放電による短絡が生じ、放電電極まで電力が供給されなくなりイオンが発生しない状態になるという不具合が生じる。
【0006】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、針状電極と環状電極への給電端子との間で短絡が生じにくいイオン発生装置とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明によるイオン発生装置は、上方に向かって開口する有底のケーシング内に高電圧を発生させる電源部を収納し、その電源部の1対の出力電極の内の一方を針状電極に接続し、他方を上方に向かって突出させて針状電極を囲繞する環状電極に接続し、針状電極と環状電極との間に放電させてイオンを発生するイオン発生装置であって、針状電極と上記
環状電極とが共に露出する位置までケーシング内に
充填された樹脂を
有するものにおいて、上記環状電極の内側に位置して針状電極を囲繞する筒状体を、筒状体の下端の全周が上記
充填された樹脂に埋没して樹脂によって筒状体が固定されるようにしたことを特徴とする。
【0008】
上記充填した樹脂で
固定したままの状態では、針状電極と上記
環状電極との間の沿面距離は樹脂表面上の直線距離となり、最短距離となる。そのため短絡が生じやすい。ところが上記筒状体で針状電極を囲繞すると、針状電極と上記
環状電極との間の沿面距離は、筒状体の内面に沿って樹脂の表面から上端までの距離と筒状体の外面に沿って上端から樹脂の表面までの距離が加わり、沿面距離が延長される。
【0009】
上記ケーシングの開口に取り付けられる板状の蓋体を設け、この蓋体に形成した貫通孔の周縁に上記筒状体を蓋体に一体に形成し、筒状体を介して蓋体を固定すれば、針状電極側からの沿面距離は、筒状体の内面に沿って樹脂の表面から上端までの距離に加えて蓋体の表面に沿った距離が加わるので、沿面距離を更に延長させることができる。
【0010】
そして、沿面距離を更に延長するためには、例えば、上記蓋体の裏側に筒状体を囲繞する環状壁を、上記
充填された樹脂の表面に接触しない高さで形成することが考えられる。これにより蓋体の裏側に沿った放電経路は環状壁を一旦越えなければ筒状体の外面に沿って樹脂の表面に到達できない。
【0011】
そして更に、上記環状壁を形成した位置に、上記蓋体の表面側から環状壁の肉厚内に達する環状の溝を、上記貫通孔を囲繞するように形成すれば、放電経路は溝に一旦入って更に溝の内壁を上らなければならないので沿面距離が更に延長されることになる。
【0012】
なお、蓋体は筒状体を介してのみで固定されるとケーシングに対する保持強度が低い場合が生じるが、ケーシング内に樹脂を注入した状態で上記蓋体をケーシングの開口に取り付け、樹脂が硬化する前にケーシングを所定角度傾け、蓋体とケーシングとの境界部分に樹脂を接触させた後、ケーシングを元の姿勢に戻し、その状態で樹脂を硬化させれば、樹脂で蓋体とケーシングとを直接固定することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上の説明から明らかなように、本発明は、針状電極と上記他方の電極との間の沿面距離を延長することができるので、両者間での短絡を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1を参照して、1は図において上方に開口するケーシングであり、その開口には板状の蓋体2が取り付けられている。また、ケーシング1の内部には電源部5が収納されている。51は電源部5を構成する部品の一つである昇圧トランスであり、外部から供給される低電圧の直流電力を所定の周波数の交流電力に変換し、この昇圧トランス51で所定の高電圧まで昇圧して交流電力を発生させる。その高電圧の交流電力は針状電極3と、その針状電極3を囲繞するように配置されている環状電極4とに印加され、両放電電極間で生じるコロナ放電によってイオンを発生させるように構成されている。本発明では、針状電極3を囲繞する筒状体6を蓋体2の裏面に設けたことを特徴とする。
【0016】
上述の構成を更に詳述すると、
図2を参照して、昇圧トランス51には1対の入力端子50と、1対の出力端子51a,51bが設けられている。外部から供給される低電圧の直流電力は電源基板52に入力され、この電源基板52によって低電圧の交流電力に変換される。変換された交流電力は昇圧トランス51の入力端子50に入力される。そして、昇圧トランス51で高電圧の交流電力に昇圧され、出力端子51a,51bから出力される。一方の出力端子51aは環状電極4が設けられている電極基板41に接続され、出力端子51aと環状電極4とが電気的に接続される。
【0017】
他方の出力端子51bは針状電極3が保持されている電極基板31に接続され、電極基板31に実装されている図示しないダイオードを介して出力端子51bと針状電極3とが接続される。なお、検査用端子32は針状電極3と同電位になるように接続されており、蓋体2の検査穴22を介して検査用のプローブが接続されるものである。蓋体2の21は針状電極3の先端が外部に触れないようにするためのガードである。
【0018】
図3を参照して、蓋体2の裏面には2本の針状電極3および検査用端子32を覆う筒状体6が蓋体2と一体に設けられている。この筒状体6の下端は
図4に示すように、ケーシング1内に樹脂(例えばウレタン樹脂)を充填した際に樹脂の表面RSに埋没する長さに設定されている。従って、樹脂が硬化すると、蓋体2は樹脂に対して3つの筒状体6を介して固定されることになる。
【0019】
但し、蓋体2をこれら3点のみで固定すると、蓋体2とケーシング1との合わせ部に隙間が生じるなどして蓋体2の保持強度を十分に確保することができない。そこで、樹脂をケーシング1内に充填した後、樹脂が硬化する前に、
図5に示すようにケーシング1を揺動させることとした。蓋体2とケーシング1との合わせ部Aに樹脂の表面RSが接触する角度までケーシング1を左右に揺動させる。すると、樹脂は合わせ部Aに付着する。その後ケーシング1を元の状態に戻すと樹脂は重力によってケーシング1内を下方に流れるが、合わせ部Aに付着した樹脂は少量ながら合わせ部Aに残留する。その状態で樹脂を硬化させれば樹脂が接着剤として機能して、合わせ部Aにおいて蓋体2をケーシング1に対して接着させることになる。これにより蓋体2の保持強度を十分に確保することができる。
【0020】
以上説明した構成を模式的に
図6(a)に示すと、筒状体6がなければ針状電極3と出力端子51aとの沿面距離が短いため、樹脂の表面RSに沿って沿面放電による短絡が発生するおそれがあるが、筒状体6によって両者の沿面距離が大幅に延長されることになる。すなわち、両者間で沿面放電が生じるためには、針状電極3から筒状体6の内面に沿って蓋体2の表面に出て、その後蓋体2の裏側に回った後、筒状体6の外面に沿って樹脂表面RSまで下り、更に樹脂表面RSに沿わなければ沿面放電は発生しなくなる。このように、筒状体6を追加するだけで沿面距離が大幅に延長されるので、針状電極3と出力端子51aとの間で短絡が発生することが防止される。
【0021】
なお、沿面距離を更に延長するため、同図(b)に示すように、筒状体6を囲繞する環状壁61を設けてもよい。但しこの環状壁61の下端は樹脂の表面RSに接触しない高さに設定する必要がある。この環状壁61を設けると、蓋体2の裏面から筒状体6の外面に向かって沿面放電が生じようとしても、一旦環状壁61を越えなければならないので、沿面距離が更に延長されることになる。
【0022】
そして、更に沿面距離を伸ばすため、同図(c)に示すように、環状壁61を形成した位置に、蓋体2の表面側から環状壁61の肉厚内に達する環状溝62を形成してもよい。これにより環状溝62の深さの2倍の距離分、沿面距離が延長される。
【0023】
なお、本発明は上記した形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えてもかまわない。例えば、筒状体を蓋体に一体に設けずに単独で設けて、蓋体を省略することも考えられる。筒状体を単独で設けた場合であっても、筒状体の高さの2倍の距離だけ沿面距離を延長することができるので、沿面放電の発生の可能性を低下させることができる。
【符号の説明】
【0024】
1 ケーシング
2 蓋体
3 針状電極
4 環状電極
5 電源部
6 筒状体
61 環状壁
62 環状溝
RS 樹脂の表面