(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記造粒工程が、公称目開きが5.6mmの篩を全通し、かつ公称目開きが2mmの篩に留まる割合が75質量%以上である造粒物を得る工程である、請求項1に記載のりん酸肥料の製造方法。
さらに、前記焼成物から、公称目開きが4mmの篩を全通し、かつ公称目開きが2mmの篩に留まる部分を篩分けして得る整粒工程(d)を含む、請求項1または2に記載のりん酸肥料の製造方法。
前記下水汚泥および/またはその由来物が、下水汚泥、脱水汚泥、乾燥汚泥、炭化汚泥、下水汚泥焼却灰、および下水汚泥溶融スラグから選ばれる少なくとも1種以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のりん酸肥料の製造方法。
前記カルシウム源が、石灰石、けい酸カルシウム、生コンスラッジ、および畜粉燃焼灰から選ばれる少なくとも1種以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のりん酸肥料の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来、我が国は、天然資源として、りんが産出されないため、ほぼ全量を輸入に頼っていた。しかし、近年、天然のりん資源は世界的にも枯渇しつつあり、りんの価格が高騰しているため、りんの確保は難しくなっている。そこで、りん酸肥料の製造分野では、天然のりん資源を補完または代替するものとして、りんを多量に含む下水汚泥やその由来物が考えられている。ここで、該由来物とは、例えば、下水汚泥を処理して得られる脱水汚泥、乾燥汚泥、および炭化汚泥などが挙げられる。
ところで、我が国において、該由来物は、現在合計で約900万トン/年と大量に発生し、この減容化のために通常は焼却されているが、焼却後に残る焼却灰でも約30万トン/年にも達する。そして、近年、この焼却灰の埋め立てに使う最終処分場はひっ迫しており、焼却灰の処理が更なる課題となっている。
したがって、肥料の原料として、下水汚泥および/またはその由来物(以下「下水汚泥等」という。)を活用する技術は、天然りん資源の節約のほか、下水汚泥等の最終処分という社会的要請に応える手段として極めて重要である。
【0003】
現在、下水汚泥焼却灰を原料とするりん肥料の一つに、熔成汚泥灰複合肥料がある。該肥料は、下水汚泥焼却灰に、肥料または肥料原料を混合して溶融したものである。しかし、該肥料は溶融法で製造されるため、溶融工程においてエネルギー消費が大きく、また、連続生産ができず生産効率が低いという問題がある。
また、特許文献1には、汚泥焼却灰に対し、20〜50質量%の硫酸カルシウムを添加した肥料が提案されている。しかし、該肥料は焼却灰を単に混合したもので、焼却灰に含まれるりんは溶解性が低いため、りん酸のく溶率は低く、りんが肥料の成分として有効に利用されているとはいい難い。
特許文献2には、下水等を浄化する際に発生するスラリー状汚泥を、濃縮、脱水し、脱水した汚泥を溶融し、次いで冷却固化するか、または前記脱水汚泥を焼却し、その焼却灰を溶融し、次いで冷却固化するなどして、溶成リン肥(汚泥溶融固化体)を製造する方法が提案されている。
また、特許文献3には、下水等を浄化する際に発生するスラリー状汚泥を、濃縮、脱水し、脱水した汚泥を脱硫剤(CaO等)の存在下で焼却して生じる焼却灰を原料に用い、前記原料にMgO等を添加し、酸化雰囲気で1350℃以上で熔融した後、冷却固化して、肥料(熔融固化体)を製造する方法が提案されている。
しかし、特許文献2および3のいずれの製造方法も、溶融法を用いるため溶融によるエネルギーの消費量が多く、また、連続生産ができないため生産効率が低いという課題があるが、前記文献のいずれも、省エネルギーや生産性向上の手段について何ら記載されていない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、前記のとおり、(a)混合工程、(b)造粒工程、および(c)焼成工程を必須の工程として含み、さらに、(d)整粒工程を任意の工程として含むりん酸肥料の製造方法である。
以下、各工程に分けて説明する。なお、%は特に示さない限り質量%である。
【0012】
(a)混合工程
該工程は、りん酸肥料中のCaOの含有率が35〜60%となるように、下水汚泥等とカルシウム源を混合して混合原料を得るもので、本発明における必須の工程である。一般に、下水汚泥等はカルシウムの含有率が低いため、カルシウム源を混合してりん酸肥料中のカルシウムを補う必要がある。そして、該カルシウムの含有率が前記範囲内にあれば、該肥料中のりん酸のく溶率、およびけい酸の可溶率が高くなる。
ここで、りん酸のく溶率はりん酸肥料中のりん酸濃度に対するく溶性りん酸濃度の質量比(%)であり、けい酸の可溶率は該肥料中のけい酸濃度に対する可溶性けい酸濃度の質量比(%)である。そして、く溶性りん酸濃度は肥料分析法(農林水産省農業環境技術研究所法)に規定されているバナドモリブデン酸アンモニウム法により、また、可溶性けい酸濃度は同法に規定されている過塩素酸法により、測定することができる。
【0013】
下水汚泥等やカルシウム源を添加する手順として、下水汚泥等に対してカルシウム源を添加するほか、反対に、カルシウム源に対して下水汚泥等を添加してもよい。また、該添加の作業は、肥料の製造工場において行うほかに、下水処理場において実施されている流入水処理、または下水汚泥の濃縮、混合、消化、脱水、乾燥、および焼却等の各工程の前後において行ってもよい。含水率が高い下水汚泥とカルシウム源との混合は、比較的容易に行え、また均質に混合された混合原料が得られるため、混合工程が簡略でき、製造におけるエネルギー効率や生産効率が向上する。
下水汚泥等やカルシウム源が固体の場合は、混合し易い粒度になるように、必要に応じてボールミル、ローラミル、またはロッドミル等で粉砕する。
【0014】
また、各原料を調合する方法としては、例えば、各原料の一部を電気炉等で焼成した後、該焼成灰中の酸化物を定量し、該定量値と所定の配合に基づき、各原料を混合する方法が挙げられる。該酸化物の定量は、蛍光X線装置を用いてファンダメンタルパラメーター法により行うことができる。焼成前の混合原料の化学組成は、焼成後のりん酸肥料の化学組成と同一となる場合が多く、CaOの含有率が前記範囲のりん酸肥料を得るには、通常、CaOの含有率が該範囲を満たす混合原料を用いれば足る。ただし、正確を期すために、該原料の一部を電気炉等で焼成して、該原料中と該焼成物中のCaOの含有率の相関を事前に把握しておき、該相関に基づき、原料の混合割合を、目的とするりん酸肥料中のCaOの含有率になるように修正することが好ましい。
【0015】
(b)造粒工程
該工程は、前記混合原料を造粒(成型も含む。)して造粒物を得るもので、本発明における必須の工程である。該造粒物は、公称目開きが5.6mmの篩を全通し、かつ公称目開きが2mmの篩に留まる割合が75%以上のものが好ましい。該造粒物の焼成は、粉体の焼成に比べ品質が安定した肥料を製造できるとともに肥料の製造を安定的に行うことができ、肥料製造においてエネルギー効率や製造効率を高めることができる。造粒装置として、例えば、パン型ペレタイザー、パン型ミキサー、撹拌造粒機、ブリケットマシン、ロールプレス、押し出し成型機等が挙げられるが、特に、利便性や生産効率に優れる点で、パン型ペレタイザーが好適である。
なお、ここでいう造粒物とは球状物に限定されず、不定形の粒状物も含む。また、前記造粒工程および後記整粒工程において用いる篩は、JIS Z 8801−1(2006)「ふるい網の目開き及び線径」に規定する篩である。
混合原料中の含水率は内割で10〜50%が好ましく、10〜40%がより好ましく、20〜30%がさらに好ましい。該値が前記範囲にあれば、造粒に十分な塑性が得られるとともに、装置への付着や凝集による大塊の発生が抑制できる。
含水率は、原料を乾燥して調合した後に水分を添加して調整するか、または水分を含む原料を調合した後に乾燥して調整してもよい。
下水汚泥等の含水率が過剰で、乾燥したカルシウム源の添加を行なっても、造粒装置への付着トラブルが発生し良好な造粒物が得られない場合などは、下水汚泥等、または混合原料をあらかじめ乾燥することが望ましい。
なお、造粒の際に、ベントナイト、セメント、固化材、および増粘剤等の賦形剤を添加したり、肥料の用途に応じてカリ等のその他の肥料成分を添加してもよい。
造粒物の絶乾密度(絶乾状態にある個々の造粒物の質量を、該造粒物の容積で除した値の平均値)は、好ましくは1.15g/cm
3以上、より好ましくは1.2g/cm
3以上、さらに好ましくは1.3g/cm
3以上である。該値が1.15g/cm
3以上であれば、りん酸のく溶率およびけい酸の可溶率が高いりん酸肥料が得られる。
【0016】
(c)焼成工程
該工程は、前記造粒物を焼成炉を用いて焼成するもので、本発明における必須の工程である。
該焼成温度は1150〜1350℃であり、1200〜1300℃が好ましい。1150〜1350℃の範囲内で焼成したりん酸肥料は、りん酸のく溶率とけい酸の可溶率が高い。また、焼成時間は10〜60分が好ましく、20〜40分がより好ましい。該時間が10分未満では焼成が不十分であり、60分を超えると生産効率が低下する。
また、焼成炉としてロータリーキルンや電気炉等が挙げられる。これらのうち、ロータリーキルンが連続生産に適するため好ましい。
また、混合原料に重金属が比較的多く含まれる場合は、前記焼成工程において、高温揮発法、塩化揮発法、塩素バイパス法、および還元焼成法から選ばれる少なくとも1つ以上の重金属除去方法を併用することが好ましい。
ここで、高温揮発法とは、高温で焼成することにより混合原料に含まれる沸点の低い重金属を揮発させて除去する方法である。
塩化揮発法とは、混合原料に含まれている鉛、亜鉛等の重金属を、沸点の低い塩化物の形で揮発させて除去する方法である。具体的には、該方法は、混合原料を調製する際に塩化カルシウム等の塩素源も混合し、該混合原料を焼成炉を用いて焼成し、生成した重金属の塩化物を揮発させて除去する方法である。なお、原料自体に重金属が揮発するのに十分な塩素が含まれている場合は、塩素源を混合しなくてもよい。
【0017】
塩素バイパス法とは、混合原料中に含まれている塩素源とアルカリ源が高温の焼成炉中で揮発して濃縮するという性質を利用した方法である。具体的には、該方法は、混合原料中の塩素が揮発した状態で含まれる燃焼ガスの一部を、焼成炉の排ガスの流路から抽気し冷却して、生成する塩素や重金属を含むダストを分離し除去する方法である。前記塩素源またはアルカリ源に過不足がある場合は、外部から塩素源またはアルカリ源を添加して調整してもよい。
還元焼成法とは、混合原料中の重金属を還元して、沸点の低い金属の形で揮発させて除去する方法である。具体的には、該方法は、重金属を含む混合原料を還元雰囲気下で、および/または還元剤を添加して、焼成炉を用いて焼成して重金属を還元し、この還元した重金属を揮発させて除去する方法である。なお、造粒物は外部との通気が絶たれることによりその内部が還元雰囲気になり、酸素が存在する状態で焼成しても重金属が揮発する場合がある。また、造粒物の内部は下水汚泥等に含まれる有機物の燃焼により、自ずと還元状態になり重金属の還元揮発が促進される。
【0018】
(d)整粒工程
該工程は、前記焼成物から、公称目開きが4mmの篩を全通し、かつ公称目開きが2mmの篩に留まる部分を篩分けして得る工程である。該工程は、農用地へ施肥する際の粉塵の発生を抑制して肥料の取り扱いを容易にするためや、肥料効果を十分に発揮させるために、肥料の粒度を調整する必要がある場合に、必要に応じて選択される任意の工程である。
また、該工程において、肥料の用途に応じて、適宜、けい酸やりん酸の成分を追加したり、窒素、カリ、マグネシウム等のその他の肥料成分を、新たに添加してもよい。
また、前記整粒工程において整粒して得た焼成物の平均硬度は1.0kgf以上が好ましく、3.0kgf以上がより好ましい。該値が1.0kgf以上であれば、焼成物の崩壊による粉塵の発生が抑えられるため肥料の収率が向上し、肥料の取り扱いが容易になり、また肥料効果も高い。
【0019】
次に、本発明で用いる原料である下水汚泥等とカルシウム源等について詳述する。
(i)下水汚泥等(下水汚泥および/またはその由来物)
下水汚泥等として、下水汚泥、脱水汚泥、乾燥汚泥、炭化汚泥、下水汚泥焼却灰、および下水汚泥溶融スラグ等から選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。
このうち、前記下水汚泥は、下水処理場において下水や排水等の汚水を処理する過程で、汚水から沈殿や濾過等により分離して得た有機物や無機物を含む泥状物である。下水汚泥には、該泥状物を嫌気性条件下で微生物処理(消化)して得られる消化汚泥も含む。また、一般に、下水処理場において、汚水は最初沈澱池に導かれ、汚水中の土砂や固形物を沈澱させて一次分離した後、曝気設備において曝気され、さらに最終沈澱池に導かれるが、前記下水汚泥の分離は、それぞれの沈殿池にある汚泥を沈澱させて濾過等することにより行われる。
【0020】
前記脱水汚泥は、下水汚泥を遠心分離等により脱水して得られる、含水率が70〜90%程度の汚泥である。脱水汚泥は、下水汚泥の一種として下水汚泥に含める場合もあるが、本発明では、脱水汚泥を下水汚泥とは別物として扱う。
前記乾燥汚泥は、前記下水汚泥または脱水汚泥を、天日干しまたは乾燥機により乾燥して得られる、含水率が概ね50%以下の汚泥である。
また、前記炭化汚泥は、下水汚泥、脱水汚泥または乾燥汚泥を加熱して、これらに含まれる有機物の一部または全部を炭化物としたものである。該加熱温度は、一般に、低酸素状態において200〜800℃である。炭化汚泥は、原料のほかに、りん酸肥料の製造(焼成工程)において燃料の一部にもなるため、その分、焼成に要するエネルギーを節約することができる。
下水汚泥焼却灰は、脱水汚泥等を焼却して得られる残渣である。該焼却灰の化学組成(単位は%)は、一例を示せば、SiO
2;28、P
2O
5;25、Al
2O
3;15、CaO;11、Fe
2O
3;7、Cr;0.02、Ni;0.02、Pb;0.009、As;0.001、Cd;0.001等である。一般に、該焼却灰は、りん鉱石と比べSiO
2が多いことが特徴である。
また、下水汚泥溶融スラグは、下水汚泥焼却灰を1350℃以上で溶融して得られる残渣である。
【0021】
(ii)カルシウム源
カルシウム源は、りん酸肥料中のCaOの含有率が、前記範囲内になるように調整するために用いられる。カルシウム源として、例えば、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、りん酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、石灰石、生石灰、消石灰、セメント、鉄鋼スラグ、石膏、生コンスラッジ(その乾燥物も含む。)、および鶏糞等の畜産糞やその由来物などから選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。これらの中でも、炭酸カルシウムや石灰石は、入手が容易でカルシウムの含有率が高いため好ましい。また、鶏糞およびその由来物は、カルシウムのほか、りんやカリの含有率が高いため、下水汚泥等と混合しても、混合原料中のりんの含有率を高く維持できるほか、肥料の他の重要成分であるカリをりん酸肥料に加えることができるため好ましい。ここで、鶏糞の由来物として、例えば、発酵鶏糞、乾燥鶏糞、炭化鶏糞、鶏糞焼却灰、および、鶏糞溶融スラグから選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。
【0022】
(iii)シリカ源、マグネシウム源
一般に、下水汚泥等はSiO
2を多く含むため、通常、シリカ源を添加する場合は少ないが、SiO
2の含有率が少ない場合は、適宜、けい石やけい酸カルシウム等のシリカ源を添加する。また、りん酸肥料に苦土成分を補填する場合は、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシア、およびドロマイト等から選ばれる少なくとも1種以上のマグネシウム源を添加することができる。
【0023】
次に、本発明の製造方法により得られるりん酸肥料の化学成分について説明する。
該りん酸肥料(焼成物)のCaOの含有率は35〜60%であり、好ましくは38〜55%であり、より好ましくは40〜52%である。該含有率が35〜60%の範囲であれば、該肥料中のりん酸のく溶率やけい酸の可溶率は高くなる。
なお、原料やりん酸肥料中の酸化物の定量は、蛍光X線装置を用いてファンダメンタルパラメーター法により行うことができる。
該肥料は、三角線図上で示すと、(A)CaOとP
2O
5とを除く酸化物、(B)CaO、および(C)P
2O
5の質量比が、
図1に示す三角線図の、
点(ア)〔(A)/(B)/(C)=49/41/10〕、
点(イ)〔(A)/(B)/(C)=41/50/9〕、
点(ウ)〔(A)/(B)/(C)=28/50/22〕、および、
点(エ)〔(A)/(B)/(C)=34/40/26〕
で囲まれる範囲内にあるものが好ましい。前記質量比が前記範囲内にあるりん酸肥料は、りん酸のく溶率、およびけい酸の可溶率がともに高い。
なお、前記(A)、(B)および(C)の合計は100である。また、前記「囲まれる範囲内」には、境界線上も含まれる。
前記(A)の酸化物として、例えば、SiO
2、Al
2O
3、MgO、Fe
2O
3、Na
2O、およびK
2Oなどが挙げられる。また、(A)の酸化物の含有率(質量比の値)は下記式により与えられる。
(A)の酸化物の含有率(%)=100−CaOの含有率(%)−P
2O
5の含有率(%)
【0024】
本発明の製造方法により得られるりん酸肥料は、好ましくは、SiO
2/Al
2O
3のモル比が2.5以上である。該モル比が2.5以上であれば焼成がより容易になる。
また、該りん酸肥料は、さらに好ましくは、前記(A)、(B)および(C)の酸化物の質量比が前記範囲内にあって、かつ、りん酸肥料中のCaO/P
2O
5が質量比で、2.3以下または4.0以上である。前記質量比がこれらの範囲内にあればりん酸のく溶性がより高まる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
1.りん酸肥料の製造
表1の化学組成(蛍光X線ファンダメンタルパラメーター法で測定)を有する下水汚泥焼却灰と、カルシウム源として石灰石粉末(325メッシュ品、宇部マテリアルズ社製)を、表2に示す配合に従い計量した後、バッチ式混合機(ハイスピーダー SM−150型、太平洋工機社製)を用いて混合して混合原料(粉体Aと粉体B)を調製した。
次に、小型のパン型ペレタイザーを用いてスプレーで加水しながら該原料を造粒し、公称目開きが5.6mmの篩を全通しかつ公称目開きが2mmの篩に留まる割合が80%のペレットAと、公称目開きが5.6mmの篩を全通しかつ公称目開きが2mmの篩に留まる割合が90%のペレットBを調整した。
さらに、前記ペレットA、ペレットB、粉体A、および粉体Bを、内径370mm、長さ3200mmのロータリーキルンを用いて、キルン内の平均滞留時間40分、キルン回転数1.15rpm、原料送量速度30kg−dry/h、および表2に示す温度で焼成してペレットA、ペレットB、粉体A、および粉体Bの焼成物(りん酸肥料)を製造した。
次に、前記焼成物を振動ふるいにかけて、公称目開きが4mmの篩を通過し、かつ公称目開きが2mmの篩に留まる、整粒した焼成物を得た。
キルンに投入した原料(ペレットおよび粉体)の質量に対する、キルン出口から排出された焼成物の質量の割合(整粒前の焼成物の収率)および前記整粒した焼成物の質量の割合(整粒した焼成物の収率)を表2に示す。
【0026】
2.く溶性りん酸濃度等および硬度の測定
りん酸肥料中のく溶性りん酸濃度は、肥料分析法(農林水産省農業環境技術研究所法)に規定されているバナドモリブデン酸アンモニウム法により、可溶性けい酸濃度は同法に規定されている過塩素酸法により測定した。また、これらの測定値から、りん酸のく溶率およびけい酸の可溶率を算出した。
また、整粒した焼成物の中から5個を無作為に選び、それらの硬度(圧壊強度)を木屋式硬度計を用いて測定し、その平均値を求めた。
これらの結果を表2に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
3.表2に示す結果について
(1)収率
整粒前の焼成物の収率は、比較例1では75%であるのに対し実施例1では81%であり、比較例2では74%であるのに対し実施例2では83%であり、いずれも実施例の方が高い。
また、整粒した焼成物の収率は、比較例1では12%であるのに対し実施例1では50%であり、比較例2では11%であるのに対し実施例2では55%であり、いずれも実施例の方が約5倍も高い。
したがって、粉体よりも造粒物を焼成した方がりん酸肥料の収率は格段に向上する。
(2)硬度
焼成物の硬度は、実施例1と実施例2ではそれぞれ3.3kgfと1.9kgfでありいずれも1kgfを超えている。
したがって、本発明のりん酸肥料は、崩壊し難く粉塵の発生が少ないため取り扱いが容易である。
(3)りん酸のく溶率等
りん酸のく溶率、およびけい酸の可溶率は、比較例1ではそれぞれ95.0%および79.0%であるのに対し、実施例1ではそれぞれ97.8%および88.9%であり、また、比較例2ではそれぞれ92.3%および73.7%であるのに対し、実施例2ではそれぞれ98.9%および89.3%であるから、いずれも実施例の方が高い。
したがって、混合原料の造粒物を焼成して得たりん酸肥料は、混合原料の粉体を焼成して得たりん酸肥料と比べ、りん酸のく溶率およびけい酸の可溶率のいずれも向上する。
【0030】
以上の結果から、本発明の製造方法は、りん酸のく溶率およびけい酸の可溶率が高いりん酸肥料を、高い収率で得ることができるほか、天然のりん資源の節約や製造時の省エネルギーに寄与する。また、焼成炉がロータリーキルンであれば、りん酸肥料の連続生産が可能で生産効率が向上する。