(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記裁断する工程において、第1シート体よりも第2シート体が小さくなるよう裁断し、上記多層構造体を形成する工程において、上記第2シート体の導電エラストマー層が上記第1シート体の誘電エラストマー層からはみ出さないように積層される請求項10に記載のトランスデューサ用可撓性シートの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、柔軟性及び安定性に優れるトランスデューサ用可撓性シート、並びにトランスデューサ用可撓性シートの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた発明は、
弾性基材及び導電性フィラーを有する導電エラストマー層と、上記導電エラストマー層の一方の面に積層され弾性基材を有する誘電エラストマー層とを備え、
上記導電エラストマー層の弾性基材及び上記誘電エラストマー層の弾性基材が軟化剤を含有し、
上記導電エラストマー層の弾性基材における軟化剤含有割合(a)と上記誘電エラストマー層の弾性基材における軟化剤含有割合(b)との差が10質量%以下であるトランスデューサ用可撓性シートである。
【0009】
当該トランスデューサ用可撓性シートは、上記構成を有することで、柔軟性及び安定性に優れる。当該トランスデューサ用可撓性シートが上記構成を有することで上記効果を奏する理由としては、上記導電エラストマー層の弾性基材及び誘電エラストマー層の弾性基材が軟化剤を含有することで柔軟性が向上すること、上記導電エラストマー層の弾性基材における軟化剤含有割合(a)と上記誘電エラストマー層の弾性基材における軟化剤含有割合(b)との差が10質量%以下であることで、軟化剤が導電エラストマー層と誘電エラストマー層との間を移行してそれぞれの物性が変化することを抑制でき、安定性に優れること等が考えられる。
【0010】
当該トランスデューサ用可撓性シートは、
上記導電エラストマー層の他方の面に積層される他の誘電エラストマー層をさらに備え、
上記他の誘電エラストマー層は、軟化剤を含有する弾性基材を有し、
上記他の誘電エラストマー層の弾性基材における軟化剤含有割合(b’)と上記軟化剤含有割合(a)との差が10質量%以下であることが好ましい。
【0011】
当該トランスデューサ用可撓性シートが上記構成を有することで、複数の当該トランスデューサ用可撓性シートを、交差して重ねあわせ、交互に蛇腹状に折り畳むことでトランスデューサ素子を得ることができる。具体的には、例えば一対の当該トランスデューサ用可撓性シートを、略直角に交差して重ねあわせ、交互に蛇腹状に折り畳むことでトランスデューサ素子を得ることができる。また、導電エラストマー層の他方の面に積層される他の誘電エラストマー層の弾性基材における軟化剤含有割合(b’)と上記軟化剤含有割合(a)との差が10質量%以下であることで、軟化剤が導電エラストマー層と他の誘電エラストマー層との間を移行しにくい。
【0012】
当該トランスデューサ用可撓性シートは、
上記誘電エラストマー層の一方の面に積層される他の導電エラストマー層をさらに備え、
上記他の導電エラストマー層は、軟化剤を含有する弾性基材及び導電性フィラーを有し、
上記他の導電エラストマー層の弾性基材における軟化剤含有割合(a’)と上記軟化剤含有割合(b)との差が10質量%以下であることが好ましい。
【0013】
当該トランスデューサ用可撓性シートが上記構成を有することで、誘電エラストマー層の両面にそれぞれ導電エラストマー層が積層された構造となるので、この両面の導電エラストマー層を電極として用いることで、トランスデューサ素子として好適に用いることができる。また、誘電エラストマー層の一方の面に積層される他の導電エラストマー層の弾性基材における軟化剤含有割合(a’)と上記軟化剤含有割合(b)との差が10質量%以下であることで、軟化剤が他の導電エラストマー層と誘電エラストマー層との間を移行しにくい。
【0014】
上記軟化剤含有割合(a)は、30質量%以上80質量%以下であり、上記軟化剤含有割合(b)は、30質量%以上80質量%以下であることが好ましい。上記構成とすることで、当該トランスデューサ用可撓性シートの柔軟性をより向上させることができる。導電エラストマー層の弾性基材及び/又は誘電エラストマー層の弾性基材における軟化剤含有割合が80質量%を超えると、エラストマー層を成型することが難しくなり、また、エラストマー層の絶縁性が低下してトランスデューサとしての機能が低下するおそれがある。一方、導電エラストマー層の弾性基材及び/又は誘電エラストマー層の弾性基材における軟化剤の含有割合が30質量%未満であると、エラストマー層の弾性率が高くなり、変形量が小さくなるので、トランスデューサとしての機能が低下するおそれがある。
【0015】
上記誘電エラストマー層は誘電性フィラーを含有することが好ましい。これにより、上記誘電エラストマー層の誘電率をより高めることができる。
【0016】
上記導電性フィラーはカーボンナノチューブであることが好ましい。導電エラストマー層がカーボンナノチューブを含有することで、上記導電エラストマー層の電気抵抗をより低下させ、導電性を向上させることができ、また、変形を繰り返しても導電性の低下を抑制することができる。
【0017】
本発明のトランスデューサ用可撓性シートの製造方法は、
一の離型フィルムに、軟化剤含有割合が30質量%以上80質量%以下の弾性基材を有する誘電エラストマー層を積層することで、第1シート体を形成する工程、
他の離型フィルムに、軟化剤含有割合が30質量%以上80質量%以下かつ上記誘電エラストマー層の軟化剤含有割合との差が10質量%以下の弾性基材及び導電性フィラーを有する導電エラストマー層を積層することで、第2シート体を形成する工程、及び
上記第1シート体と上記第2シート体とを、誘電エラストマー層と導電エラストマー層との対向状態で積層することで多層構造体を形成する工程
を有する。
【0018】
当該トランスデューサ用可撓性シートの製造方法によれば、従来の誘電エラストマー層に溶媒に溶解された導電エラストマー層形成材料を塗工する方法に比べて、誘電エラストマー層の弾性基材中の軟化剤が溶媒に溶け出すことがなく、容易且つ確実に当該トランスデューサ用可撓性シートを製造することができる。また、このように製造された当該トランスデューサ用可撓性シートは、導電エラストマー層の弾性基材における軟化剤含有割合と誘電エラストマー層の弾性基材における軟化剤含有割合との差が10質量%以下であるため、軟化剤が導電エラストマー層と誘電エラストマー層との間を移行しにくい。
【0019】
当該トランスデューサ用可撓性シートの製造方法は、
上記第1シート体を形成する工程において、複数枚の第1シート体を形成し、
上記多層構造体から第2シート体の離型フィルムを剥離する工程、及び
上記多層構造体から第2シート体の離型フィルムが剥離された積層体に、他の第1シート体を、誘電エラストマー層と導電エラストマー層との対向状態で積層する工程
をさらに有することが好ましい。
【0020】
これにより、導電エラストマー層の両面に誘電エラストマー層が積層されたトランスデューサ用可撓性シートを製造することができる。このようにして製造された複数のトランスデューサ用可撓性シートを、交差して重ねあわせ、交互に蛇腹状に折り畳むことでトランスデューサ素子を得ることができる。
【0021】
当該トランスデューサ用可撓性シートの製造方法は、
上記第2シート体を形成する工程において、複数枚の第2シート体を形成し、
上記多層構造体から第1シート体の離型フィルムを剥離する工程、及び
上記多層構造体から第1シート体の離型フィルムが剥離された積層体に、他の第2シート体を、導電エラストマー層と誘電エラストマー層との対向状態で積層する工程
をさらに有することが好ましい。
【0022】
これにより、誘電エラストマー層の両面に導電エラストマー層が積層されたトランスデューサ用可撓性シートを製造することができる。このようにして製造されたトランスデューサ用可撓性シートは誘電エラストマー層の両面の導電エラストマー層を電極として用いることで、トランスデューサ素子として好適に用いることができる。
【0023】
当該トランスデューサ用可撓性シートの製造方法は、上記多層構造体を形成する工程の前に、上記第2シート体を所定形状に裁断する工程をさらに有することが好ましい。これにより、導電エラストマー層を所望の大きさとした後に、この導電エラストマー層と誘電エラストマー層とを積層することができる。
【0024】
また、上記裁断する工程において、第1シート体よりも第2シート体が小さくなるよう裁断し、上記多層構造体を形成する工程において、上記第2シート体の導電エラストマー層が上記第1シート体の誘電エラストマー層からはみ出さないように積層されることが好ましい。このように上記第2シート体の導電エラストマー層が上記第1シート体の誘電エラストマー層からはみ出さないように積層されることで、導電エラストマー層が短絡を起きるのを抑制することができる。
【0025】
ここで、「一方」とは、トランスデューサ用可撓性シート全体に対する所定方向をいい、「他方」とは、それと反対方向をいう。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明のトランスデューサ用可撓性シートは、軟化剤が導電エラストマー層と誘電エラストマー層の間を移行することを抑制することでそれぞれの物性が変化したり形態が変化したりすることを抑制でき、柔軟性及び安定性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について、図面を参酌しつつ説明する。
【0029】
[第一実施形態]
<トランスデューサ用可撓性シート1>
当該トランスデューサ用可撓性シート1は、帯状のシート体からなり、導電性フィラー及び弾性基材を有する導電エラストマー層12と、この導電エラストマー層12の表面側(一方側)及び裏面側(他方側)に積層される一対の誘電エラストマー層11とを備えている。表裏一対の誘電エラストマー層11は同一構成を有している。
【0030】
上記導電エラストマー層12の弾性基材及び誘電エラストマー層11の弾性基材が軟化剤を含有し、導電エラストマー層12の弾性基材における軟化剤含有割合と誘電エラストマー層の弾性基材における軟化剤含有割合との差が10質量%以下である。このような構成とすることで、当該トランスデューサ用可撓性シート1は、柔軟性及び安定性に優れる。また、この差は5質量%以下であることがより好ましい。当該トランスデューサ用可撓性シート1が上記構成を有することで上記効果を奏する理由としては、導電エラストマー層12の弾性基材及び誘電エラストマー層11の弾性基材が軟化剤を含有することで柔軟性が向上すること、導電エラストマー層12の弾性基材における軟化剤含有割合と誘電エラストマー層11の弾性基材における軟化剤含有割合との差が10質量%以下であることで、軟化剤が導電エラストマー層12と誘電エラストマー層11の間を移行してそれぞれの物性が変化したり形態が変化したりすることを抑制でき、安定性に優れること等が考えられる。
【0031】
当該トランスデューサ用可撓性シート1は、平均厚みが10μm以上300μm以下であることが好ましく、50μm以上180μm以下であることがより好ましい。また、当該トランスデューサ用可撓性シート1の幅(短手方向の長さ)は、用いられるトランスデューサの用途等に応じて適宜設計変更可能であり、例えば1cmとすることが可能である。さらに、当該トランスデューサ用可撓性シート1の長さ(長手方向の長さ)は、用いられるトランスデューサの用途等により適宜設計変更可能であるが、例えば50cmとすることが可能である。
【0032】
(誘電エラストマー層11)
上記誘電エラストマー層11は、軟化剤を含有する弾性基材を有し、弾性変形可能な層である。この誘電エラストマー層11の弾性基材を構成するエラストマーとしては、天然ゴム、ポリイソブチレンゴム、イソプレンゴム、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、シリコンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。これらのうち、高い絶縁強度、低い吸湿性を有するゴムが好ましく、さらに軟化剤を多量に(例えば30質量%以上)含有させることを考慮すると、極性が低いゴム(例えば天然ゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリイソブチレンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、シリコンゴム)がより好ましい。なお、極性の大小は、例えばSP値(溶解度パラメータ)により判断することができ、SP値が8.5以下であると極性が低いと判断してよい。
【0033】
上記軟化剤は、誘電エラストマー層11の弾性率を低下する等の目的で含有される。上記軟化剤としては、いわゆるプロセスオイル、ゴム伸展油等が挙げられるが、精製された絶縁性オイルが好ましく用いられ、パラフィン系オイルやナフテン系オイルがより好ましい。シリコンゴムを誘電エラストマー層11の弾性基材に用いる場合は、絶縁性オイルとしてシリコンオイルを用いることもできる。
【0034】
誘電エラストマー層11の弾性基材を構成するゴムとしては、ゴム伸展油を含む油展タイプの共役ジエン系ゴムと、ゴム成分のみからなる非油展タイプのゴムが存在し、いずれのタイプのものも使用可能である。但し、油展タイプのゴムのゴム伸展油の誘電エラストマー層11の弾性基材における含有量は、軟化剤の含有量として扱う。
【0035】
誘電エラストマー層11の弾性基材における軟化剤含有割合としては、30質量%以上80質量%以下であることが好ましい。軟化剤含有割合が30質量%未満では、誘電エラストマー層11の柔軟性が不十分となるおそれがある。一方、軟化剤含有割合が80質量%を超えると、誘電エラストマー層11の絶縁強度が著しく低下するおそれがある。
【0036】
誘電エラストマー層11は、誘電率を高めるため、誘電性フィラーを誘電エラストマー層中に分散して含有することが好ましい。誘電性フィラーとしては、例えばチタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸ストロンチウム等の高誘電性無機フィラー、誘電性ポリマー微粒子等の高誘電性ポリマー微粒子等が挙げられる。これらのうち、高誘電性無機フィラーが好ましく、チタン酸バリウムがより好ましい。誘電性ポリマー微粒子としては、特に限定されないが、ポリアクリロニトリル等の高誘電性ポリマー微粒子が好ましい。さらに、誘電エラストマー層11の弾性基材は、誘電エラストマー層中における誘電性フィラーの分散性を向上させるため、従来公知のカップリング剤や分散安定剤を含有してもよい。
【0037】
また、誘電エラストマー層11の弾性基材は、その他必要に応じて従来公知の架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤等のエラストマー又は軟化剤と相溶又は反応する他の添加剤を含有してもよい。
【0038】
一対の誘電エラストマー層11は、他の誘電エラストマー層11と略同一厚みで形成されている。なお、略同一厚みとは、一方の誘電エラストマー層11の平均厚みに対する他方の誘電エラストマー層11の平均厚みの比が0.95以上1.05以下であることを意味する。
【0039】
この誘電エラストマー層11の平均厚みは、10μm以上100μm以下であることが好ましく、30μm以上80μm以下であることがより好ましい。上記下限値未満であると、誘電エラストマー層11が薄くなりすぎ、誘電エラストマー層11が絶縁破壊するおそれが生じる。一方、上記上限値を超えると、導電エラストマー層同士間が離間し過ぎ、静電容量が小さくなるおそれがある。
【0040】
また、誘電エラストマー層11は、他の誘電エラストマー層11と略同一幅で形成されている。なお、略同一幅とは、一方の誘電エラストマー層11の幅に対する他方の誘電エラストマー層11の幅の比が0.95以上1.05以下であることを意味する。この誘電エラストマー層11の幅は、用いられるトランスデューサの用途等に応じて適宜設計変更可能であり、例えば1cmとすることが可能である。
【0041】
また、誘電エラストマー層11は、圧縮弾性率が、0.1MPa以上1.5MPa以下であることが好ましく、0.3MPa以上0.7MPa以下であることがより好ましい。上記下限値未満であると誘電エラストマー層11が軟らか過ぎ、圧縮変形ひずみが大きくなり過ぎるおそれがある。一方、上記上限値を超えると、誘電エラストマー層11が硬すぎ、層厚方向に圧縮し難いおそれがある。上記圧縮弾性率は、JIS−K6254の低変形圧縮試験に準拠して、10%歪を与えた場合の圧縮弾性率である。
【0042】
また、誘電エラストマー層11に対する誘電性フィラーの含有割合としては、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましい。誘電性フィラーの含有割合が上記上限値を超えると、誘電エラストマー層が硬くなり変形しにくくなるおそれがある。
【0043】
(導電エラストマー層12)
導電エラストマー層12は、上記誘電エラストマー層11の伸縮に追従可能な伸縮性を有する構成とすることが好ましい。この導電エラストマー層は、導電性フィラー及び弾性基材を有する。ここで、導電エラストマー層の弾性基材を構成するエラストマーとしては、誘電エラストマー層11と接着可能なものが好適に用いられ、誘電エラストマー層11の弾性基材を構成するエラストマーと同様なものを用いることが好ましく、誘電エラストマー層の弾性基材を構成するエラストマーと同じエラストマーから構成されることがより好ましい。また、この導電エラストマー層12の弾性基材を構成するエラストマーとしては、上述の誘電エラストマー層11の弾性基材を構成するエラストマーと同様、極性が低いことが好ましく、SP値が8.5以下であることが好ましい。なお、この導電エラストマー層12の弾性基材を構成するエラストマーのSP値と上述の誘電エラストマー層11を構成するエラストマーのSP値との差は、1.0以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましい。
【0044】
上記導電性フィラーとしては、種々のものが採用可能であり、例えば導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブ(単層カーボンナノチューブ又は多層カーボンナノチューブ)、導電性金属フィラー等を採用可能である。これらのうち、少量で電気抵抗を低下することができ導電エラストマー層12の弾性率を上昇させにくいカーボンナノチューブが好ましい。
【0045】
導電エラストマー層12に対する導電性フィラーの含有割合としては、0.5質量%以上10質量%以下が好ましく、1質量%以上5質量%以下がより好ましい。導電性フィラーの含有割合を上記範囲とすることで、効果的に導電エラストマー層12の電気抵抗を低下することができる。
【0046】
導電エラストマー層12の弾性基材における軟化剤含有割合としては、30質量%以上80質量%以下であることが好ましい。導電エラストマー層12の弾性基材における軟化剤含有割合を上記範囲とすることで、上記誘電エラストマー層11に追従可能な伸縮性を効果的に発揮することができる。
【0047】
導電エラストマー層12は、誘電エラストマー層11よりも薄く設けられていることが好ましい。導電エラストマー層12の平均厚み(1層)としては、1μm以上90μm以下であることが好ましく、1μm以上50μm以下であることがより好ましい。ここで、導電エラストマー層12の平均厚みは、誘電エラストマー層11の平均厚みの0.03倍以上0.4倍以下であることが好ましく、0.05倍以上0.2倍以下であることがより好ましい。
【0048】
また、導電エラストマー層12は、圧縮弾性率が1.5MPa以下であることが好ましく、0.7MPa以下であることがより好ましい。上記上限値を超えると、導電エラストマー層12が硬すぎ、誘電エラストマー層11に追従できなくなるおそれがある。
【0049】
また、導電エラストマー層12は、誘電エラストマー層11からはみ出さないように積層されている。つまり、導電エラストマー層12は、誘電エラストマー層11よりも幅狭に形成されて、誘電エラストマー層11は、導電エラストマー層12よりも外側に延出した袖部13を有している。これにより、導電エラストマー層12の端面での短絡等を防止している。ここで、この袖部13の幅は、誘電エラストマー層11の平均厚みに対して、3倍以上50倍以下が好ましく、5倍以上10倍以下がより好ましい。上記下限値未満であると短絡防止効果が十分に得られないおそれがある。一方、上記上限値を超えると、変形特性を抑制するおそれがある。
【0050】
<利点>
上記導電エラストマー層12の弾性基材及び誘電エラストマー層11の弾性基材が軟化剤を含有し、導電エラストマー層12の弾性基材における軟化剤含有割合と誘電エラストマー層の弾性基材における軟化剤含有割合との差が10質量%以下であることで、当該トランスデューサ用可撓性シート1は、柔軟性及び安定性に優れる。
【0051】
<トランスデューサ素子>
上記構成からなる当該トランスデューサ用可撓性シートによって、
図2及び
図3に示すようなトランスデューサ素子100を得ることができる。
【0052】
このトランスデューサ素子100は、複数の帯状の当該トランスデューサ用可撓性シート1が導電エラストマー層12同士の間に誘電エラストマー層11が配設されるよう折り畳まれている。具体的には、一対の当該トランスデューサ用可撓性シート1が、略直角に交差して重ねあわされ、交互に蛇腹状に折り畳まれている。この一対の当該トランスデューサ用可撓性シート1は、同一構成のものを使用している。なお、一対の当該トランスデューサ用可撓性シート1は、10層以上10000層以下で重畳されていることが好ましく30層以上1000層以下で重畳されていることがより好ましく、50層以上100層以下で重畳されていることがさらに好ましい。上記下限値未満であると、圧縮時に当該トランスデューサ用可撓性シート1が平面方向に伸長しにくいおそれがある。上記上限値を超えると、当該トランスデューサ用可撓性シート1の長さが長くなり過ぎ、当該トランスデューサ用可撓性シート1に欠陥を生ずるおそれがある。
【0053】
[第二実施形態]
<トランスデューサ用可撓性シート2>
当該トランスデューサ用可撓性シート2は、
図4に示すように誘電エラストマー層21と、この誘電エラストマー層21の表面側及び裏面側に積層される導電エラストマー層22とを備えている。すなわち、一の導電エラストマー層22と、この一方の面に積層される誘電エラストマー層21と、この誘電エラストマー層21の一方の面に積層される他の導電エラストマー層22とを備えている。なお、表裏の導電エラストマー層22は同一構成を有している。また、本実施形態のトランスデューサ用可撓性シート2は、円盤状の誘電エラストマー層の表裏面に平面視ドーナツ状の導電エラストマー層が同心状に積層される構成とすることも可能である。
【0054】
上記導電エラストマー層22及び誘電エラストマー層21は、第一実施形態と同様に、それぞれ軟化剤を含有する弾性基材を有し、導電エラストマー層22の弾性基材における軟化剤含有割合と誘電エラストマー層21の弾性基材における軟化剤含有割合との差が10質量%以下である。このようにすることで、当該トランスデューサ用可撓性シート2は、柔軟性及び安定性に優れる。また、この差は5質量%以下であることがより好ましい。なお、第二実施形態の導電エラストマー層22及び誘電エラストマー層21は、第一実施形態の導電エラストマー層12及び誘電エラストマー層11と略同様の構成を採用できるため、詳細な説明は省略する。
【0055】
当該トランスデューサ用可撓性シート2の平均厚みが20μm以上400μm以下であることが好ましく、50μm以上200μm以下であることがより好ましい。また、導電エラストマー層22の平均厚み(1層)は、1μm以上100μm以下であることが好ましく、1μm以上50μm以下であることがより好ましい。誘電エラストマー層21は、平均厚みが20μm以上200μm以下であることが好ましく、50μm以上100μm以下であることがより好ましい。
【0056】
また、当該トランスデューサ用可撓性シート2(誘電エラストマー層21)の大きさ(直径)は、用いられるトランスデューサの用途等に応じて適宜設計変更可能である。袖部13の幅は、誘電エラストマー層21の平均厚みに対して、3倍以上が好ましく、5倍以上がより好ましい。上記下限値未満であると短絡防止効果が十分に得られないおそれがある。
【0057】
<利点>
当該トランスデューサ用可撓性シート2は、両面の導電エラストマー層22を電極として用いることで、トランスデューサ素子として好適に用いることができる。また導電エラストマー層22の弾性基材及び誘電エラストマー層21の弾性基材が軟化剤を含有し、導電エラストマー層22の弾性基材における軟化剤含有割合と誘電エラストマー層21の弾性基材における軟化剤含有割合との差が10質量%以下であることで、当該トランスデューサ用可撓性シート2は、柔軟性及び安定性に優れる。
【0058】
<トランスデューサ用可撓性シート1の製造方法>
次に、本発明のトランスデューサ用可撓性シートの製造方法の一実施形態として、第一実施形態のトランスデューサ用可撓性シート1を製造する方法を
図5を参酌しつつ説明する。
【0059】
本実施形態のトランスデューサ用可撓性シートの製造方法は、
一の離型フィルム33に、軟化剤含有割合が30質量%以上80質量%以下の弾性基材を有する誘電エラストマー層11を積層することで、第1シート体31を形成する工程(以下、「工程(1)」とも称する)、
他の離型フィルム43に、軟化剤含有割合が30質量%以上80質量%以下かつ上記誘電エラストマー層11の軟化剤含有割合との差が10質量%以下の弾性基材及び導電性フィラーを有する導電エラストマー層12を積層することで、第2シート体41を形成する工程(以下、「工程(2)」とも称する)、及び
上記第1シート体31と上記第2シート体41とを、誘電エラストマー層11と導電エラストマー層12との対向状態で積層することで多層構造体を形成する工程(以下、「工程(3)」とも称する)
を有する。
【0060】
当該トランスデューサ用可撓性シートの製造方法は、さらに
上記第1シート体31を形成する工程において、複数枚の第1シート体31を形成し、
上記多層構造体から第2シート体41の離型フィルム43を剥離する工程(以下、「工程(4)」とも称する)、及び
上記多層構造体から第2シート体41の離型フィルム43が剥離された積層体に、他の第1シート体31を、誘電エラストマー層11と導電エラストマー層12との対向状態で積層する工程(以下、「工程(5)」とも称する)
を有する。
【0061】
本発明のトランスデューサ用可撓性シート1の製造方法は、上記工程(3)の前に、
上記第2シート体41を所定形状に裁断する工程(以下「工程(3a)」とも称する)
をさらに有することが好ましい。
【0063】
[工程(1)]
本工程では、一の離型フィルム33に、軟化剤含有割合が30質量%以上80質量%以下の弾性基材を有する誘電エラストマー層11を積層することで、第1シート体31を形成する。
【0064】
離型フィルム33としては、特に限定されないが、離型処理が施されたプラスチックフィルム以外にも、フッ素系樹脂フィルム、表面に離型処理が施された紙、不織布、金箔等が挙げられる。離型フィルムとしては、シリコーン処理がなされたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが好ましい。離型フィルムの厚さとしては、特に限定されないが70μm以上100μm以下の厚さのものが好適に用いられる。
【0065】
まず、エラストマー、軟化剤、誘電性フィラー及び必要に応じて加えられる架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤等の添加剤を含有する誘電エラストマー組成物を作成する。次に上記誘電エラストマー組成物をトルエン等の溶媒に溶解し、これを塗工液として、上記離型フィルム上にコーティングし、続いて溶媒を乾燥させ加熱架橋することで第1シート体31を形成することができる。あるいは、本加熱して架橋する代わりに、必要に応じて半架橋又は加熱しないことも可能である。また、誘電エラストマー層11の形成は、押出し成形法等によって形成することも可能である。誘電エラストマー層11は、10μm以上300μm以下の平均厚みで形成される。
【0066】
なお、トランスデューサ用可撓性シート1の製造においては、この工程(1)において、複数枚の第1シート体31を形成する。
【0067】
[工程(2)]
本工程では、他の離型フィルム43に、軟化剤含有割合が30質量%以上80質量%以下かつ上記誘電エラストマー層の軟化剤含有割合との差が10質量%以下の弾性基材及び導電性フィラーを有する導電エラストマー層12を積層することで、第2シート体41を形成する。
【0068】
まず、導電エラストマー組成物を作成する。導電エラストマー組成物は、エラストマー、軟化剤、導電性フィラー及び必要に応じて高分子分散剤等を含有する。この導電エラストマー組成物をトルエン等の溶媒に溶解し、これを塗工液として、上記他の離型フィルム上にロールコータやグラビアコータを用いてコーティングされる。このコーティングは、全面コーティングされてもよいし、幅方向断面から見てストライプ状又はパターン状にコーティングされてもよい。コーティング後、溶媒を乾燥させ、必要に応じて加熱架橋することにより第2シート体41を形成する。あるいは、本加熱して架橋する代わりに、必要に応じて半架橋又は加熱しないことも可能である。導電エラストマー層12は、1μm以上90μm以下の平均厚みで形成される。
【0069】
[工程(3a)]
本工程では、上記第2シート体41を所定形状に裁断する。導電エラストマー層12が離型フィルムに全面コーティングされている場合には、裁断後の第2シート体41は第1シート体31よりも小さくすれば、第2シート体41の導電エラストマー層12を上記第1シート体31の誘電エラストマー層11からはみ出さないように積層することが可能となる。裁断方法としては特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。
【0070】
また、必要に応じて第1シート体31も所定形状に裁断することもできる。
【0071】
[工程(3)]
本工程では、第1シート体31と第2シート体41とを、誘電エラストマー層11と導電エラストマー層12との対向状態で積層することで多層構造体を形成する。
【0072】
誘電エラストマー層11の弾性基材及び導電エラストマー層12の弾性基材が共に軟化剤をある程度多く含有している場合は、誘電エラストマー層11と導電エラストマー層12との間には粘着性があるので、各層のエラストマーが完全に架橋されていても、加圧のみで誘電エラストマー層11と導電エラストマー層12とは密着し一体化される。
【0073】
誘電エラストマー層11と導電エラストマー層12と間の密着が不十分な場合には、加熱して加圧することで密着性を高めることもできる。この場合、第1シート体31を形成する工程(1)の加熱架橋の際、又は第2シート体41を形成する工程(2)の加熱架橋の際、又は上記両方の工程における加熱架橋の際に加熱温度を低くしたり加熱時間を短縮することで、各エラストマーの架橋度を低くしておき、その後工程(3)において加熱して架橋を進行させれば、より確実に誘電エラストマー層11と導電エラストマー層12とを密着させることが可能となる。
【0074】
[工程(4)及び工程(5)]
工程(4)において、上記多層構造体から第2シート体41の離型フィルム43を剥離し、工程(5)において、上記多層構造体から第2シート体41の離型フィルム43が剥離された積層体に、他の第1シート体31を、誘電エラストマー層11と導電エラストマー層12との対向状態で積層する。
【0075】
上記工程(5)における積層方法についての説明は、上記工程(3)と同様であるので説明を省略する。
【0076】
<利点>
当該トランスデューサ用可撓性シート1の製造方法によれば、従来の誘電エラストマー層に溶媒に溶解された導電エラストマー層形成材料を塗工する方法に比べ、誘電エラストマー層の弾性基材中の軟化剤が溶媒に溶け出すことがなく、製造工程における誘電エラストマー層と導電エラストマー層との間での軟化剤の移行やブリードに起因する物性変化が少なく、容易且つ確実に当該トランスデューサ用可撓性シートを製造することができる。
【0077】
また、当該トランスデューサ用可撓性シート1の製造方法は、第1シート体31よりも第2シート体41が小さくなるよう裁断されることで、導電エラストマー層12の短絡を効果的に防止することができる。
【0078】
<他の実施形態>
なお、本発明は上記実施態様の他、種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。
【0079】
つまり、上記実施形態においては、トランスデューサ用可撓性シート1及び2として三層構造のものについて説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、本発明に係るトランスデューサ用可撓性シートとして、誘電エラストマー層11と導電エラストマー層12との二層構造のトランスデューサ用可撓性シートを用いることも可能である。
【0080】
また、上記実施形態においては、トランスデューサ用可撓性シート1の一対の誘電エラストマー層11が同一厚みのものについて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、一対の誘電エラストマー層11の厚みが異なるものも本発明に係るトランスデューサ用可撓性シート1の意図する範囲内である。
【0081】
さらに、当該トランスデューサ用可撓性シートとして四層以上の構造を有するものを採用することも可能である。
【0082】
また、上記実施形態においては、トランスデューサ用可撓性シート1の一対の誘電エラストマー層が同一構成のものについて説明したが、表裏の誘電エラストマー層が異なる構成のトランスデューサ用可撓性シートを用いることも適宜設計変更可能である。
【0083】
さらに、上記実施形態においては、トランスデューサ用可撓性シート1の誘電エラストマー層11の弾性基材と導電エラストマー層12の弾性基材とが同じエラストマーから構成されるものについて説明したが、異なるエラストマーから構成されてもよい。
【0084】
また、上記実施形態においては、第一実施形態のトランスデューサ用可撓性シート1の製造方法についてのみ説明したが、略同様の方法によって第二実施形態のトランスデューサ用可撓性シート2を製造することができる。つまり、上記工程(1)、工程(2)及び工程(3)を行った後に、得られた多層構造体から第1シート体31の離型フィルム33を剥離し、上記多層構造体から第1シート体31の離型フィルム33が剥離された積層体に、他の第2シート体41を、誘電エラストマー層21と導電エラストマー層22との対向状態で積層することによって、第二実施形態のトランスデューサ用可撓性シート2を製造することができる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例によって当該発明をさらに具体的に説明するが、当該発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
トランスデューサ用可撓性シート51として、
図7(A)〜(C)に示すように導電エラストマー層53の一方の面に誘電エラストマー層52が積層された2層構造のものを用い、表1に示す組成(ゴム種、膜厚、各成分の含有割合)の各トランスデューサ用可撓性シートの試験片を作製した。各試験片の幅は10mm、長さは50mmとした。EPDM(エチレン−プロピレンゴム)としては、市販品を用いた。誘電エラストマー層には誘電性フィラーとしてチタン酸バリウムを添加した。導電エラストマー層には、導電性フィラーとして多層カーボンナノチューブ(VGCF(登録商標)、昭和電工製)を添加した。
【0087】
作製した各トランスデューサ用可撓性シートの試験片を用い、オイル(軟化剤)移行反り試験を実施した。
【0088】
<オイル(軟化剤)移行反り試験>
図7(A)に示すように、各試験片の長手方向の一端を剛性フレーム54で固定して吊り下げ、50℃で5時間以上放置してオイル移行を進行させた。オイルの移行にともない、
図7(B)又は(C)に示すように試験片に反りが生じる場合があるので、
図7(B)又は
図7(C)の最短幅Wを測定した。最短幅Wの初期幅(10mm)に対する減少が5%未満であったものを「○」、5%以上12%未満のものを「△」、12%以上のものを「×」と評価した。結果を表1に合わせて示す。なお、表中の「向き」の項目において、「誘→導」とは、誘電エラストマー層から導電エラストマー層に軟化剤が移行し、誘電エラストマー層は収縮して導電エラストマー層が膨潤する方向に反ることを示す。逆に、「誘←導」とは、導電エラストマー層から誘電エラストマー層に軟化剤が移行し、導電エラストマー層は収縮して誘電エラストマー層が膨潤する方向に反ることを示す。
【0089】
【表1】
【0090】
表1の結果から明らかなように、初期幅に対する変化が12%以下となったのは、導電エラストマー層の弾性基材における軟化剤含有割合と誘電エラストマー層の弾性基材における軟化剤含有割合との差が、略10質量%以下のときであることが分かった。従って、本発明のトランスデューサ用可撓性シートは、導電エラストマー層の弾性基材における軟化剤含有割合と誘電エラストマー層の弾性基材における軟化剤含有割合との差が10質量%以下であることで、それぞれの物性が変化したり形態が変化したりすることを抑制でき、安定性に優れることが分かった。