(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
比較的規模の大きな鉱山においては、ディスパッチシステムと呼ばれる稼働機械の運行管理システムが用いられている。この運行管理システムでは、稼働機械から稼働情報や機体情報が無線通信システムを介しサーバに送信され、それらの情報を示す管理画面が表示されており、この管理画面を管理者(ディスパッチャ)が監視する。そして、管理者は、稼働機械の故障停止などを知ると、無線通話によって稼働機械の運転員に詳細な状況を確認するとともに、鉱山内にいる保守員に指示して保守を行わせる。すなわち、従来は、実際に機械が故障停止してから対応する場合が多かった。
【0006】
そこで、上述した状態基準保守を導入すれば、機械が故障停止する前に機械の状態異常を知ることが可能である。しかし、管理者は、機械の状態異常を知った場合に、機械をすぐに止めて予防保守(故障発生前の保守)を実施したほうがよいか、若しくは定期保守のタイミングまで待ったほうがよいかを判断しなければならない。このような判断は、故障発生までの時間的猶予だけでなく、保守コストも考慮する必要がある。何故なら、予防保守のために機械を止めると、生産効率の低下に伴う損害コストが生じるからである。
【0007】
本発明は、上記事柄に鑑みてなされたものであり、その目的は、稼働機械の保守タイミングを判断する支援を行うことができる稼働機械の保守管理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、稼働機械から離れた位置に設けられ、前記稼働機械のセンサデータを収集する稼働機械の保守管理装置において、前記稼働機械のセンサデータに対し異常が発生したか否かを診断する状態異常診断部と、前記状態異常診断部で異常が発生したと診断された場合に、故障が発生するまでの第1猶予期間、又は/及び故障が発生することなく予防保守を延期可能な第2猶予期間を推定する猶予期間推定部と、前記第1猶予期間が経過して故障が発生した場合にかかる故障保守コスト、又は/及び故障が発生することなく前記第2猶予期間が経過した場合にかかる予防保守コストを推定する保守コスト推定部と、前記第1猶予期間と前記故障保守コストの組合せ、又は/及び前記第2猶予期間と前記予防保守コストの組合せを表示する画面表示部とを備える。
【0009】
このような本発明においては、稼働機械のセンサデータに対し異常が発生したと診断した場合に、猶予期間と保守コストを推定して表示する。
【0010】
具体的には、例えば、故障が発生するまでの第1猶予期間と、この第1猶予期間が経過して故障が発生した場合にかかる故障保守コストを推定して、それらの組合せを表示する。これにより、管理者は、故障発生までの時間的猶予から、保守タイミングを判断することができる。また、故障発生までの時間的猶予だけでなく、故障保守コストも考慮して、保守タイミングを判断することができる。すなわち、例えば、故障保守コストが高いようであれば、故障が発生しないように予防保守を早めに行ったほうがよいと判断することが可能である。また、例えば、故障保守コストが低いようであれば、予防保守のために機械を停止して生産効率が低下するのを避けるために、予防保守を遅らせてもよいと判断することが可能である。
【0011】
また、例えば、故障が発生することなく予防保守を延期可能な第2猶予期間と、故障が発生することなく第2猶予期間が経過した場合にかかる予防保守コストを推定して、それらの組合せを表示する。これにより、管理者は、予防保守を延期可能な時間的猶予から、保守タイミングを判断することができる。また、予防保守を延期可能な時間的猶予だけでなく、予防保守コストも考慮して、保守タイミングを判断することができる。すなわち、例えば、予防保守のタイミングを遅らせると予防保守コストが高くなるようであれば、予防保守を早い段階で行ったほうがよいと判断することが可能である。
【0012】
以上のようにして本発明においては、稼働機械の保守タイミングを判断する支援を行うことができる。
【0013】
(2)上記(1)において、好ましくは、故障の発生時間、故障の発生前のセンサデータ、及び故障の予兆である異常の種別をそれぞれ含む複数の故障事例データを予め記憶する事例データ記憶部と、前記状態異常診断部で異常が発生したと診断された場合に、その異常の種別を含む故障事例データを抽出する事例データ抽出部とを備え、前記猶予期間推定部は、前記事例データ抽出部で抽出された各故障事例データに含まれる過去の故障の発生前のセンサデータに対し、前記状態異常診断部で用いられた現在の異常の発生時間におけるセンサデータを照合することによって、過去の異常の発生時間を取得し、この過去の異常の発生時間とこれに対応する過去の故障の発生時間との差分を、現在の異常の発生時間を起点とした第1猶予期間として演算する。
【0014】
(3)上記(1)において、好ましくは、故障の発生時間、故障の予兆である異常の種別、及び異常の発生時間をそれぞれ含む複数の故障事例データを予め記憶する事例データ記憶部と、前記状態異常診断部で異常が発生したと診断された場合に、その異常の種別を含む故障事例データを抽出する事例データ抽出部とを備え、前記猶予期間推定部は、前記事例データ抽出部で抽出された各故障事例データに含まれる過去の異常の発生時間と過去の故障の発生時間との差分を、現在の異常の発生時間を起点とした第1猶予期間として演算する。
【0015】
(4)上記(2)又は(3)において、好ましくは、前記猶予期間推定部は、現在の異常の発生後から現時点まで時間が経過したとき、
現在の異常の発生時間と現時点との差分を演算し、現在の異常の発生時間を起点とした前記第1猶予期間
から前記差分を減算することにより、現時点を起点とした第1猶予期間を演算する。
【0016】
(5)上記(2)〜(4)のいずれか1つにおいて、好ましくは、前記事例データ記憶部で記憶された各故障事例データは、故障保守コストに関する情報
として、部品コスト及び作業コストを含むか、若しくは部品コストを含まず作業コストを含み、前記保守コスト推定部は、前記事例データ抽出部で抽出された各故障事例データに含まれる故障保守コストに関する情報
を、故障事例データ毎に積算して前記故障保守コストを
演算し、前記画面表示部は、前記事例データ抽出部で抽出された各故障事例データに基づいて得られた前記第1猶予期間と前記故障保守コストの組合せを表示する。
【0017】
(6)上記(1)〜(5)のいずれか1つにおいて、好ましくは、予防保守の実施時間、予防保守の実施前のセンサデータ、及び予防保守の起因である異常の種別をそれぞれ含む複数の予防保守事例データを予め記憶する事例データ記憶部と、前記状態異常診断部で異常が発生したと診断された場合に、その異常の種別を含む予防保守事例データを抽出する事例データ抽出部とを備え、前記猶予期間推定部は、前記事例データ抽出部で抽出された各予防保守事例データに含まれる過去の予防保守の実施前のセンサデータに対し、前記状態異常診断部で用いられた現在の異常の発生時間におけるセンサデータを照合することによって、過去の異常の発生時間を取得し、この過去の異常の発生時間とこれに対応する過去の予防保守の実施時間との差分を、現在の異常の発生時間を起点とした第2猶予期間として演算する。
【0018】
(7)上記(1)〜(5)のいずれか1つにおいて、好ましくは、予防保守の実施時間、予防保守の起因である異常の種別、及び異常の発生時間をそれぞれ含む複数の予防保守事例データを予め記憶する事例データ記憶部と、前記
状態異常診断部で異常が発生したと診断された場合に、その異常の種別を含む予防保守事例データを抽出する事例データ抽出部とを備え、前記猶予期間推定部は、前記事例データ抽出部で抽出された各予防保守事例データに含まれる過去の異常の発生時間と過去の予防保守の実施時間との差分を、現在の異常の発生時間を起点とした第2猶予期間として演算する。
【0019】
(8)上記(6)又は(7)において、好ましくは、前記猶予期間推定部は、現在の異常の発生後から現時点まで時間が経過したとき、
現在の異常の発生時間と現時点との差分を演算し、現在の異常の発生時間を起点とした前記第2猶予期間
から前記差分を減算することにより、現時点を起点とした第2猶予期間を演算する。
【0020】
(9)上記(1)〜(8)のいずれか1つにおいて、好ましくは、前記事例データ記憶部で記憶された各予防保守事例データは、予防保守コストに関する情報
として、部品コスト及び作業コストを含むか、若しくは部品コストを含まず作業コストを含み、前記保守コスト推定部は、前記事例データ抽出部で抽出された各予防保守事例データに含まれる予防保守コストに関する情報
を、予防保守事例データ毎に積算して前記予防保守コストを
演算し、前記画面表示部は、前記事例データ抽出部で抽出された各予防保守事例データに基づいて得られた前記第2猶予期間と前記予防保守コストの組合せを表示する。
【0021】
(10)上記(5)又は(9)において、好ましくは、前記事例データ抽出部で抽出された各故障事例データに基づいて得られた前記第1猶予期間と前記故障保守コストの組合せ、又は/及び前記事例データ抽出部で抽出された各予防保守事例データに基づいて得られた前記第2猶予期間と前記予防保守コストの組合せを、猶予期間及び保守コストをそれぞれ座標軸とした座標系で示すリスクマップを作成するリスクマップ作成部を備え、前記画面表示部は、前記リスクマップを表示する。
【0022】
(11)上記(10)において、好ましくは、前記リスクマップ作成部は、前記座標系を複数の領域に区画して、各領域に分類された前記第1猶予期間と前記故障保守コストの組合せの件数、又は/及び前記第2猶予期間と前記予防保守コストの組合せの件数を示すリスクマップを作成する。
【0023】
(12)上記(10)又は(11)において、好ましくは、前記画面表示部は、前記リスクマップ上に定期保守のタイミングを示す。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、稼働機械の保守タイミングを判断する支援を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の適用対象である運行管理システムの構成を表す概略図である。
【
図2】本発明の適用対象である運行管理システムの構成とともに情報の流れを表す概略図である。
【
図3】本発明の一実施形態における保守管理装置の機能的構成を表すブロック図である。
【
図4】本発明の一実施形態における診断基準データを表す図である。
【
図5】本発明の一実施形態におけるセンサデータのタイムチャートであり、閾値判定方法で取得した現在の異常の発生時間を示す。
【
図6】本発明の一実施形態における現在のセンサデータのタイムチャートであり、K平均方法で取得した現在の異常の発生時間を示す。
【
図7】本発明の一実施形態における事例データベースの構成を表すブロック図である。
【
図8】本発明の一実施形態における事例管理データテーブルを表す図である。
【
図9】本発明の一実施形態における故障事例データの一部である事例センサデータを表す図である。
【
図10】本発明の一実施形態における予防保守事例データの一部である事例センサデータを表す図である。
【
図11】本発明の一実施形態における保守作業データテーブルを表す図である。
【
図12】本発明の一実施形態におけるコストデータテーブルを表す図である。
【
図13】本発明の一実施形態における故障事例データに基づいた第1猶予期間の推定方法を説明するための図である。
【
図14】本発明の一実施形態における予防保守事例データに基づいた第2猶予期間の推定方法を説明するための図である。
【
図15】本発明の一実施形態における各故障事例データに基づいて得られた第1猶予期間と故障保守コストの組合せの具体例を表す図である。
【
図16】本発明の一実施形態における各予防保守事例データに基づいて得られた第2猶予期間と予防保守コストの組合せの具体例を表す図である。
【
図17】本発明の一実施形態における画面表示部で表示されたリスクマップ画面を表す図である。
【
図18】本発明の第1の変形例における画面表示部で表示されたリスクマップ画面の遷移状態を表す図である。
【
図19】本発明の第2の変形例における画面表示部で表示されたリスクマップ画面を表す図である。
【
図20】本発明の第3の変形例における画面表示部で表示されたリスクマップ画面を表す図である。
【
図21】本発明の第4の変形例における保守管理装置の機能的構成を表すブロック図である。
【
図22】本発明の第5の変形例における画面表示部で表示されたリスクマップ画面を表す図である。
【
図23】本発明の第6の変形例におけるリスクマップ画面上の定期タイミングの変更を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
図1は、本発明の適用対象である運行管理システムの構成を表す概略図である。
図2は、本発明の適用対象である運行管理システムの構成とともに情報の流れを表す概略図である。
【0028】
これら
図1及び
図2で示すように、鉱山の採石場ではショベル1Aやダンプ1B等の稼働機械(作業機械)1が使用されおり、それら稼働機械1を管理する運行管理システムが用いられている。この運行管理システムでは、採石場の近傍若しくは遠隔の管理事務所2に、保守管理装置3が設置されている。稼働機械1には、GPS衛星4を利用して自機の位置を取得する位置取得装置(図示せず)と、各種センサ(図示せず)が備えられている。そして、各稼働機械1の稼働情報(詳細には、位置、稼働時間、及び各種センサのデータ等)や機体情報(詳細には、機種及び号機など)が無線通信システム(詳細には、例えば、稼働機械1側の無線通信装置、中継局5、及び管理事務所2側の無線通信装置など)を介して保守管理装置3に送信されるようになっている。保守管理装置3は、各稼働機械1から収集した情報を示す管理画面(図示せず)を表示しており、この管理画面を管理者6(ディスパッチャ)が監視する。そして、管理者6は、管理画面で示された情報から判断して稼働機械1の運転員7に運転指示を出すとともに、保守員8に保守指示を出す。保守員8は、この保守指示に応じて稼働機械1の保守作業を行う。なお、保守員8は、保守管理装置3からの情報を受信して表示する携帯端末(図示せず)を保持し、この携帯端末で表示された情報から判断して保守作業を行うようにしてもよい。
【0029】
保守管理装置3は、各稼働機械1から収集した各種センサのデータに対し異常が発生したか否かを診断するとともに、異常が発生したと判定した場合に状態異常情報(詳細は後述)を表示するようになっている。さらに、各状態異常情報に対応して猶予期間と保守コストを推定して表示するようになっている。詳細には、例えば、故障が発生するまでの第1猶予期間と、この第1猶予期間が経過して故障が発生した場合にかかる故障保守コストとを推定して、それらの組合せを表示する。また、故障が発生することなく予防保守を延期可能な第2猶予期間と、故障が発生することなく第2猶予期間が経過した場合にかかる予防保守コストを推定して、それらの組合せを表示する。以降、詳細を説明する。
【0030】
図3は、本実施形態における保守管理装置3の機能的構成を表すブロック図である。
【0031】
この
図3で示すように、保守管理装置3は、稼働情報入力部9、診断基準データ記憶部10、状態異常診断部11、事例データ記憶部12、事例データ抽出部13、猶予期間推定部14、保守コスト推定部15、リスクマップ作成部16、及び画面表示部17を備えている。
【0032】
稼働情報入力部9は、各稼働機械1から収集されて機体情報と関連付けられた稼働情報(詳細には、稼働機械1の位置、稼働時間、及びセンサデータ等)を入力している。そして、機体情報と関連付けられた稼働情報の一部を画面表示部17に出力して表示させるとともに、機体情報と関連付けられたセンサデータを状態異常診断部11に出力するようになっている。
【0033】
診断基準データ記憶部10は、診断基準データ18(
図4参照)を予め記憶しており、状態異常診断部11は、この診断基準データ18に基づき、稼働情報入力部9から入力したセンサデータに対し異常(故障の予兆)が発生したか否か(言い換えれば、稼働機械1の運転に支障をきたさない程度の状態異常が発生したか否か)を診断するようになっている。診断基準データ18は、データ項目として、異常の種別、診断方式、センサの種別、及び基準データを有しており、
図4中各行の診断基準レコードが1つの診断処理を示している。そして、異常の種別毎に1つ又は複数の診断基準レコードが予め用意されており、いずれの診断基準レコードに基づいた診断処理を行うかが予め選択設定されている。
【0034】
診断処理の具体例について説明する。例えば
図4で示す診断基準レコード19aに基づいた診断処理を行う場合(言い換えれば、閾値判定法で診断する場合)は、稼働情報入力部9から入力したセンサAのデータを用い、基準データthaを閾値として用いる。そして、センサAのデータが閾値thaに達したか否かを判定することにより、異常S1が発生したか否かを診断する。そして、例えば
図5で示すように、センサAのデータが閾値thaに達した時間t0を、異常S1の発生時間(詳細には、発生日時、又は稼働時間を基準にした発生時間)として取得する。
【0035】
また、例えば
図4で示す診断基準レコード19bに基づいた診断処理を行う場合(言い換えれば、K平均法で診断する場合)は、稼働情報入力部9から入力したセンサAのデータ、センサBのデータ、及びセンサCのデータを用いる。K平均法(K-menas法)は、多変量データを教示なしで分類するデータ分類手法であり、それぞれの入力データを多変量空間における点とみなし、その各点のユークリッド距離の近さを基準としてデータのクラスタ(塊)を見つける方法である。ここでは、センサAのデータ、センサBのデータ、及びセンサCのデータを多変量データとして扱い、正常時の時系列データから生成されるデータのクラスタが予め取得されて、detafile0として予め記憶されている。そして、稼働情報入力部9から入力したセンサAのデータ、センサBのデータ、及びセンサCのデータは、前述した正常時のデータのクラスタに含まれないか否か、若しくはクラスタからの空間距離が大きいか否かを判定することにより(言い換えれば、正常時のデータから逸脱しているか否かを判断することにより)、異常S1が発生したか否かを診断する。そして、例えば
図6で示すように、センサAのデータ、センサBのデータ、及びセンサCのデータが正常時のデータのクラスタに含まれないか、若しくはクラスタからの空間距離が大きくなった時間t1を、異常S1の発生時間(詳細には、発生日時、又は稼働時間を基準にした発生時間)として取得する。
【0036】
状態異常診断部11は、異常が発生したと診断した場合に、状態異常情報(詳細には、例えば異常の種別及び異常の発生時間)を、機体情報と関連付けて、画面表示部17に出力する。これに応じて、画面表示部17は、各状態異常情報を示す状態異常画面(図示せず)を表示する。また、状態異常診断部11は、異常が発生したと診断した場合に、異常の種別、異常の発生時間、及び異常の発生時間におけるセンサデータを、機体情報と関連付けて、事例データ抽出部13に出力するようになっている。具体的には、例えば上述した診断基準レコード19bに基づいた診断処理によって異常が発生したと診断した場合、異常の種別「S1」、異常の発生時間「t1」、並びに異常の発生時間t1におけるセンサAのデータ「Va1」、センサBのデータ「Vb1」、及びセンサCのデータ「Vc1」を、機体情報と関連付けて、事例データ抽出部13に出力する。
【0037】
事例データ記憶部12は、例えば
図7で示すような事例データベース20を構築しており、複数の事例データ(詳細には、故障が発生して故障保守を実施した事例に関する故障事例データや、故障が発生する前に予防保守を実施した事例に関する予防保守事例データ)を予め記憶している。事例データベース20は、事例管理データテーブル21、事例センサデータテーブル22、保守作業データテーブル23、及びコストデータテーブル24で構成され、それらが互いに関連付けられている。
【0038】
事例管理データテーブル21(
図8参照)は、データ項目として、事例番号、異常の種別、保守の種別、予防保守の実施時間、故障の発生時間、及び保守作業番号を有しており、
図8中各行の事例管理レコードが各事例データの一部を構成している。詳細には、保守種別が「故障」であって故障の発生時間を含む事例管理レコードは、故障事例データ(言い換えれば、故障保守事例データ)の一部を構成し、保守種別が「予防」であって予防保守の実施時間を含む事例管理レコードは、予防保守事例データの一部を構成している。
【0039】
事例センサデータテーブル22は、各事例管理レコードに関連付けられた(言い換えれば、各事例管理レコードの事例番号が付与された)事例センサデータを格納している。詳細には、保守種別が「故障」であって故障の発生時間を含む事例管理レコードに対しては、故障の発生時間(例えばtz1)より以前のセンサデータ(
図9参照)を格納しており、これが故障事例データの一部を構成している。また、保守種別が「予防」であって予防保守の実施時間を含む事例管理レコードに対しては、予防保守の実施時間(例えばty1)より以前のセンサデータ(
図10参照)を格納しており、これが予防保守事例データの一部を構成している。
【0040】
保守作業データテーブル23(
図11参照)は、データ項目として、保守作業番号、保守内容、及び保守部位番号を有している。そして、保守作業データテーブル23の保守作業番号は、事例管理データテーブル21の保守作業番号と関連付けられており、
図11中各行の保守作業レコードは、各事例データの一部を構成している。
【0041】
コストデータテーブル24(
図12参照)は、データ項目として、保守部位番号、部品コスト、作業コスト、及び作業時間を有している。そして、コストデータテーブル24の保守部位番号は、保守作業データテーブル
23の保守部位番号と関連付けられている。保守作業には、部品交換を伴う場合と、部品交換を伴わない場合がある。そのため、
図12中各行のコストレコードは、部品コスト及び作業コストを含むものと、部品コストを含まず作業コストを含むものが存在している。
【0042】
なお、保守種別が「故障」である事例管理レコードに関連付けられた保守作業レコード及びコストレコードは、故障保守コストに関する情報であって故障事例データの一部を構成している。また、保守種別が「予防」である事例管理レコードに関連付けられた保守作業レコード及びコストレコードは、予防保守コストに関する情報であって予防保守事例データの一部を構成している。
【0043】
事例データ抽出部13は、状態異常診断部11で異常が発生したと診断された場合に、その異常の種別を含む事例データを抽出するようになっている。詳しく説明すると、状態異常診断部11から入力した異常の種別(例えばS1)を参照し、同じ異常の種別を含む事例管理レコードを事例管理データテーブル21から抽出する。そして、抽出した事例管理レコードを、状態異常診断部11から入力した異常の発生時間、異常の発生時間におけるセンサデータ、及び機体情報と関連付けて、猶予期間推定部14に出力する。また、抽出した事例管理レコードを、状態異常診断部11から入力した異常の発生時間及び機体情報と関連付けて、保守コスト推定部15に出力する。
【0044】
猶予期間推定部14は、事例データ抽出部13から入力した各事例管理レコードに対応して猶予期間を演算する。例えば事例データ抽出部13から入力した事例管理レコードの保守種別が「故障」である場合は、故障が発生するまでの第1猶予期間を演算する。具体的に、
図8で示す事例管理レコード25aとともに、異常の発生時間「t1」、異常の発生時間t1におけるセンサAのデータ「Va1」、センサBのデータ「Vb1」、及びセンサCのデータ「Vc1」を事例データ抽出部13から入力した場合を例にとって説明する。まず、事例センサデータテーブル22において、事例管理レコード25aに関連付けられて故障の発生時間tz1より以前の、センサAのデータ、センサBのデータ、及びセンサCのデータを検索する(
図9参照)。そして、検索した過去のセンサAのデータ、センサBのデータ、及びセンサCのデータに対し、現在の異常の発生時間t1におけるセンサAのデータVa1、センサBのデータVb1、及びセンサCのデータVc1を照合する。詳細には、上述したK平均法と同様に多変量空間における空間距離を演算し、この空間距離が近いセンサデータ(Vaxi,Vbxi,Vcxi)を探索する。これにより、
図13で示すように、過去の異常の発生時間txiを取得する。そして、過去の異常の発生時間txiとこれに対応する過去の故障の発生時間tz1との差分を演算することにより、現在の異常の発生時間を起点とした第1猶予期間(言い換えれば、余寿命)を演算する。そして、演算した第1猶予期間を、対応する事例管理レコード25a(及び、異常の発生時間、機体情報)と関連付けて、リスクマップ作成部16に出力するようになっている。
【0045】
一方、例えば事例データ抽出部13から入力した事例管理レコードの保守種別が「予防」である場合は、故障が発生することなく予防保守を延期可能な第2猶予期間を演算する。具体的に、例えば
図8で示す事例管理レコード25bとともに、異常の発生時間「t1」、異常の発生時間t1におけるセンサAのデータ「Va1」、センサBのデータ「Vb1」、及びセンサCのデータ「Vc1」を入力した場合を例にとって説明する。まず、事例センサデータテーブル22において、事例管理レコード25bに関連付けられて予防保守の実施時間ty1より以前の、センサAのデータ、センサBのデータ、及びセンサCのデータを検索する(
図10参照)。そして、検索した過去のセンサAのデータ、センサBのデータ、及びセンサCのデータに対し、現在の異常の発生時間t1におけるセンサAのデータVa1、センサBのデータVb1、及びセンサCのデータVc1を照合することにより、
図14で示すように、過去の異常の発生時間twiを取得する。そして、過去の異常の発生時間twiとこれに対応する過去の予防保守の実施時間ty1との差分を演算することにより、現在の異常の発生時間を起点とした第2猶予期間を演算する。そして、演算した第2猶予期間を、対応する事例管理レコード25b(及び、異常の発生時間、機体情報)と関連付けて、リスクマップ作成部16に出力するようになっている。
【0046】
保守コスト推定部15は、事例データ抽出部13から入力した各事例管理レコードに対応して保守コストを演算する。すなわち、保守種別が「故障」である事例管理レコード(言い換えれば、故障事例データ)に対応して故障保守コストを演算し、保守種別が「予防」である事例管理レコード(言い換えれば、予防保守事例データ)に対応して予防保守コストを演算する。詳しく説明すると、まず、事例管理レコードの保守作業番号(例えば「M1」)を参照し、保守作業データテーブル23において、同じ保守作業番号を含む保守作業レコードを検索する。そして、検索した保守作業レコードの保守部位番号(例えば「P01」及び「P02」)を参照し、コストデータテーブル24において、同じ保守部位番号を含むコストレコードを検索する。そして、検索したコストレコードの部品コスト(例えば「PC01」及び「PC02」)及び作業コスト(例えば「WC01」及び「WC01」)を積算して、保守コストを演算する。そして、演算した保守コストを、対応する事例管理レコード(及び、異常の発生時間、機体情報)と関連付けて、リスクマップ作成部16に出力する。
【0047】
リスクマップ作成部16は、事例管理レコード(及び、異常の発生時間、機体情報)と関連付けられた第1猶予期間又は第2猶予期間を猶予期間推定部14から入力し、事例管理レコード(及び、異常の発生時間、機体情報)と関連付けられた故障保守コスト又は予防保守コストを保守コスト推定部15から入力する。そして、例えば
図15で示すように、事例管理レコード(及び、異常の発生時間、機体情報)が共通する第1猶予期間と故障保守コストの組合せを作成し、事例管理レコードの異常種別に応じてグループに分類する。また、例えば
図16で示すように、事例管理レコード(及び、異常の発生時間、機体情報)が共通する第2猶予期間と予防保守コストの組合せを作成し、事例管理レコードの異常種別に応じてグループに分類する。そして、異常の種別毎にリスクマップ26(
図17参照)を作成し、このリスクマップ26を画面表示部17に出力して画面表示させるようになっている。
【0048】
リスクマップ26は、各事例データに基づいて得られた猶予期間と保守コストの組合せを、猶予期間及び保守コストをそれぞれ座標軸とした二次元座標系で示すものである。本実施形態では、各故障事例データに基づいて得られた第1猶予期間と故障保守コストの組合せ(
図17中×印参照)と、各予防保守事例データに基づいて得られた第2猶予期間と予防保守コストの組合せ(
図17中△印参照)は、同一の座標系で識別可能にプロットされている。
【0049】
また、本実施形態では、猶予期間を複数のレベル(範囲)に区分し、保守コストを複数のレベル(範囲)に区分し、座標系の全体を複数のリスクゾーン(領域)に区分し、それらリスクゾーンが色調等により識別可能に示されている。具体的には、例えば
図17で示すように、猶予期間(RL)を、小レベル(RL<α)、中レベル(α≦RL<β)、大レベル(β≦RL)に区分している。保守コスト(MC)を、小レベル(MC<γ)、中レベル(γ≦MC<δ)、大レベル(δ≦MC)に区分している。そして、座標系の全体を、大リスクゾーン(RL<α又はδ≦MCの条件を満たす領域)、中リスクゾーン(α≦RL<βかつMC<δ、又はβ≦RLかつγ≦MC<δの条件を満たす領域)、小リスクゾーン(β≦RLかつMC<γの条件を満たす領域)に区分している。
【0050】
次に、本実施形態の動作及び作用効果を説明する。
【0051】
保守管理装置3は、各稼働機械1から収集したセンサデータに対し異常が発生したか否かを診断し、異常が発生したと診断した場合に、状態異常情報(詳細には、例えば異常の種別及び異常の発生時間)を機体情報と関連付けて示す状態異常画面を表示する。これにより、管理者は、稼働機械1の状態異常を知ることができる。
【0052】
その後、保守管理装置3は、同じ異常の種別を含む故障事例データ又は予防保守事例データを抽出する。例えば故障事例データを抽出した場合は、故障事例データに基づき、故障が発生するまでの第1猶予期間と、この第1猶予期間が経過して故障が発生した場合にかかる故障保守コストを推定する。また、例えば予防保守事例データを抽出した場合は、予防保守事例データに基づき、故障が発生することなく予防保守を延期可能な第2猶予期間と、故障が発生することなく第2猶予期間が経過した場合にかかる予防保守コストを推定する。そして、第1猶予期間と故障保守コストの組合せ又は/及び第2猶予期間と予防保守コストの組合せを示すリスクマップを作成する。そして、管理者がキーボードやマウス等の操作部を操作して、状態異常画面上の状態異常情報(及び機体情報)が選択されるとともにリスクマップの表示が指示されると、対応するリスクマップを示すリスクマップ画面を表示する。
【0053】
これにより、例えばリスクマップで第1猶予期間と故障保守コストの組合せが表示された場合に、管理者は、過去の実績に基づいた故障発生までの時間的猶予から、保守タイミングを判断することができる。また、故障発生までの時間的猶予だけでなく、故障保守コストも考慮して、保守タイミングを判断することができる。すなわち、例えば、故障保守コストが高いようであれば、故障が発生しないように予防保守を早めに行ったほうがよいと判断することが可能である。また、例えば、故障保守コストが低いようであれば、予防保守のために機械を停止して生産効率が低下するのを避けるために、予防保守を遅らせてもよいと判断することが可能である。
【0054】
また、例えばリスクマップで第2猶予時間と予防保守コストの組合せが表示された場合に、管理者は、過去の実績に基づいた予防保守を延期可能な時間的猶予(言い換えれば、故障が発生しない時間的猶予)から、保守タイミングを判断することができる。また、予防保守を延期可能な時間的猶予だけでなく、予防保守コストも考慮して、保守タイミングを判断することができる。すなわち、例えば、予防保守のタイミングを遅らせると予防保守コストが高くなるようであれば、予防保守を早い段階で行ったほうがよいと判断することが可能である。
【0055】
具体例として、前述の
図17で示すリスクマップ画面を説明する。このリスクマップ画面では、3件の第1猶予期間と故障保守コストの組合せ(RL_1,MC_1)、(RL_2,MC_2)、(RL_3,MC_3)が大リスクゾーンに属するように示されている。組合せ(RL_1,MC_1)は、第1猶予期間が中レベルにあり(α≦RL_1<β)、故障保守コストが大レベルにある(δ≦MC_1)。組合せ(RL_2,MC_2)、(RL_3,MC_3)は、第1猶予期間が大レベルにあり(β≦RL_2,β≦RL_3)、故障保守コストが大レベルにある(δ≦MC_2,δ≦MC_3)。また、2件の第2猶予期間と予防保守コストの組合せ(RL_4,MC_4)、(RL_5,MC_5)が中リスクゾーンに属するように示されており、それらは第2猶予期間が中レベルにあり(α≦RL_4<β,α≦RL_5<β)、予防保守コストが中レベルにある(γ≦MC_4<δ,γ≦MC_5<δ)。また、4件の第2猶予期間と予防保守コストの組合せ(RL_6,MC_6)、(RL_7,MC_7),(RL_8,MC_8)、(RL_9,MC_9)が大リスクゾーンに属するように示されている。組合せ(RL_6,MC_6)は、第2猶予期間が小レベルにあり(RL_6<α)、予防保守コストが小レベルにある(MC_6<γ)。組合せ(RL_7,MC_7)は、第2猶予期間が小レベルにあり(RL_7<α)、予防保守コストが中レベルにある(γ≦MC_7<δ)。組合せ(RL_8,MC_8)は、第2猶予期間が中レベルにあり(α≦RL_8<β)、予防保守コストが大レベルにある(δ≦MC_8)。組合せ(RL_9,MC_9)は、第2猶予期間が大レベルにあり(β≦RL_9)、予防保守コストが大レベルにある(δ≦MC_9)。
【0056】
そのため、管理者は、例えば、猶予期間と保守コストの組合せ(RL_1,MC_1)、(RL_4,MC_4)、(RL_5,MC_5)、(RL_8,MC_8)に着目して、保守タイミングを、猶予期間RL_4、RL_5、又はRL_8に対応するタイミング若しくはそれ以前のタイミングがよいと判断することが可能である。また、例えば、猶予期間と保守コストの組合せ(RL_6,MC_6)、(RL_7,MC_7)、(RL_8,MC_8)に着目して、予防保守のタイミングを遅らせると予防保守コストが高くなるため、予防保守を早い段階で行ったほうがよいと判断することが可能である。
【0057】
以上のようにして、本実施形態においては、稼働機械1の保守タイミングを判断する支援を行うことができる。したがって、管理者の負担を軽減することができる。
【0058】
なお、上記一実施形態においては、猶予期間推定部14は、現在の異常の発生時間を起点とした猶予期間を演算し、リスクマップ作成部16は、現在の異常の発生時間を起点とした猶予期間と保守コストの組合せを示すリスクマップ26を作成して画面表示部17に表示させる場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。すなわち、例えば、猶予期間推定部14は、現在の異常の発生後から現時点(詳細には、現在の日時、又は稼働情報入力部9から入力した現在の稼働時間)まで時間が経過したとき、現在の異常の発生時間と現時点との差分を演算し、現在の異常の発生時間を起点とした猶予期間からその差分を減算することにより、現時点を起点とした猶予期間を演算してもよい。そして、リスクマップ作成部16は、現時点を起点とした猶予期間と保守コストの組合せを示すリスクマップ26を作成して画面表示部17に表示させてもよい。すなわち、リスクマップ26は、時間の経過とともに、
図17で示す状態から
図18で示す状態に遷移する(すなわち、表示データが左側に移動する)。この場合、管理者は、中リスクゾーンに属する事例の数が減少して大リスクゾーンに属する事例の数が増加していることから、予防保守を実施すべきタイミングが近づいていると判断することが可能である。
【0059】
また、上記一実施形態においては、リスクマップ作成部16は、
図17で示すように、猶予期間と保守コストの組合せを二次元座標系でプロットして示すリスクマップ26を作成し、これを画面表示部17に表示させる場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。すなわち、リスクマップ作成部16は、例えば
図19で示すように、座標系を、第1の領域(RL<αかつMC<γ)、第2の領域(RL<αかつγ≦MC<δ)、第3の領域(RL<αかつδ≦MC)、第4の領域(α≦RL<βかつMC<γ)、第5の領域(α≦RL<βかつγ≦MC<δ)、第6の領域(α≦RL<βかつδ≦MC)、第7の領(β≦RLかつMC<γ)域、第8の領域(β≦RLかつγ≦MC<δ)、及び第9の領域(β≦RLかつδ≦MC)に区画して、各領域に分類された猶予期間と保守コストの組合せの件数を示すリスクマップ26Aを作成し、これを画面表示部17に表示させてもよい。なお、
図19では、第1猶予期間と故障保守コストの組合せの件数を括弧外で示し、第2猶予期間と予防保守コストの組合せの件数を括弧内で示している。また、第1〜第3、第6、及び第9の領域は大リスクゾーンに相当し、第4、第5、及び第8の領域は中リスクゾーンに相当し、第7の領域は小リスクゾーンに相当する。そのため、各領域は、上記一実施形態と同様、リスクゾーンに応じて色調等により識別可能に示している。このような変形例においても、上記一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0060】
また、上記一実施形態においては、リスクマップ26は、
図17で示すように、折れ線状の境界線を用いて大リスクゾーン、中リスクゾーン、及び小リスクゾーンに区分した場合を例にとって説明したが、これに代えて、円弧状の境界線を用いて大リスクゾーン、中リスクゾーン、及び小リスクゾーンに区分してもよい。具体的には、例えば
図20で示すリスクマップ26Bのように、第1の円弧(詳細には、猶予期間の最大値MAX、保守コストの最小値値MINを中心とし、猶予期間の軸の半径(MAX−β)、保守コストの軸の半径(γ−MIN)とした円弧)を境界として猶予期間が大きく保守コストが小さい領域を、小リスクゾーンとし、第2の円弧(詳細には、猶予期間の最大値MAX、保守コストの最小値値MINを中心とし、猶予期間の軸の半径(MAX−α)、保守コストの軸の半径(δ−MIN)とした円弧)を境界として猶予期間が小さく保守コストが大きい領域を、大リスクゾーンとし、第1の円弧と第2の円弧との間の領域を、中リスクゾーンに区分してもよい。このような変形例においても、上記一実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0061】
また、上記一実施形態及び変形例においては、特に説明しなかったが、保守管理装置3は、
図21で示すように、定期保守情報記憶部27を備えてもよい。この定期保守情報記憶部27は、定期保守情報として、メーカの推奨値として予め設定されるか若しくは運用者によって予め設定された定期保守の間隔や、各稼働機械1における前回の定期保守の実施時間などを記憶している。そのため、定期保守情報に基づいて次回以降の定期保守タイミングを演算可能としている。そこで、一変形例として、リスクマップ作成部16は、次回の定期保守タイミングに対応するように上記αを設定変更し、次々回の定期保守タイミングに対応するように上記βを設定変更してリスクマップ26(又は26A,26B)を作成し、これを画面表示部17に表示させてもよい。すなわち、定期保守のタイミングに合わせるようにリスクゾーンを変更することにより、リスクマップ26(又は26A,26B)上に定期保守のタイミングを示してもよい。この場合、管理者は、定期保守のタイミングを参考にしながら、予防保守のタイミングを判断することが可能である。具体的には、例えば
図17で示すリスクマップ画面によれば、次回の定期保守のタイミング(α)に合わせて予防保守を実施する場合、高い確率で故障の発生を防ぐことができ、次々回の定期保守のタイミング(β)に合わせて予防保守を実施する場合、その予防保守の実施前に故障が発生する可能性があると判断することができる。また、次回の定期保守のタイミング(α)に合わせて予防保守を実施する場合よりも、次々回の定期保守のタイミング(β)に合わせて予防保守を実施する場合のほうが、予防保守コストが高くなると判断することができる。
【0062】
また、他の変形例として、画面表示部17は、
図22で示すように、リスクマップ26B上に、定期保守タイミングを示すタイミング線PM1,PM2を表示してもよい。この場合も、上記同様、管理者は、定期保守のタイミングを参考にしながら、予防保守のタイミングを判断することが可能である。具体的には、次回の定期保守のタイミング(PM1)に合わせて予防保守を実施する場合、高い確率で故障の発生を防ぐことができ、次々回の定期保守のタイミング(PM2)に合わせて予防保守を実施する場合、その予防保守の実施前に故障が発生する可能性があると判断することができる。また、次回の定期保守のタイミング(PM1)に合わせて予防保守を実施する場合よりも、次々回の定期保守のタイミング(PM2)に合わせて予防保守を実施する場合のほうが、予防保守コストが高くなると判断することができる。
【0063】
さらに、管理者がキーボードやマウス等の操作部を操作して、リスクマップ26B上のタイミング線を、猶予期間の軸方向に移動可能としてもよい(
図23参照)。そして、タイミング線の変更に対応して定期保守の間隔を演算するとともに、演算した定期保守の間隔を定期保守情報記憶部27に出力して書換えさせてもよい。すなわち、リスクマップ画面を用いて、定期保守のタイミングや間隔を設定変更可能としてもよい。
【0064】
また、上記一実施形態及び変形例においては、第1猶予期間と故障保守コストの組合せと、第2猶予期間と予防保守コストの組合せは、同一のリスクマップ26(又は26A,26B)で示された場合を例にとって説明したが、これに代えて、別々のリスクマップ(言い換えれば、別々の座標系)で表示されてもよい。この場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0065】
また、上記一実施形態及び変形例においては、事例データ記憶部12は、故障事例データ及び予防保守事例データを予め記憶した場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0066】
すなわち、例えば、事例データ記憶部12は、故障事例データのみを予め記憶してもよい。この場合、事例データ抽出部13は、状態異常診断部11で異常が発生したと診断された場合に、その異常の種別を含む故障事例データを抽出する。猶予期間推定部14は、抽出された各故障事例データに基づいて第1猶予期間を演算し、保守コスト推定部15は、抽出された各故障事例データに基づいて故障保守コストを演算する。リスクマップ作成部16は、各故障事例データに基づいて得られた第1猶予期間と故障保守コストの組合せを示すリスクマップを作成して画面表示部17に表示させる。この場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0067】
あるいは、例えば、事例データ記憶部12は、予防保守事例データのみを予め記憶してもよい。この場合、事例データ抽出部13は、状態異常診断部11で異常が発生したと診断された場合に、その異常の種別を含む予防保守事例データを抽出する。猶予期間推定部14は、各予防保守事例データに基づいて第2猶予期間を演算し
、保守コスト推定部15は、抽出された各予防保守事例データに基づいて予防保守コストを演算する。リスクマップ作成部16は、各予防保守事例データに基づいて得られた第2猶予期間と予防保守コストの組合せを示すリスクマップを作成して画面表示部17に表示させる。この場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0068】
また、上記一実施形態及び変形例においては、リスクマップ作成部16を備え、このリスクマップ
作成部16で作成されたリスクマップ26(又は26A,26B)を表示する場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。すなわち、例えば、リスクマップ作成部16に代えて、前述の
図15又は
図16で示すようなリストを(好ましくは、猶予期間と保守コストの組合せがいずれのリスクゾーンに属するかの情報を付加して)作成するリスト作成部(図示せず)を備え、このリスト作成部で作成されたリストを画面表示部17に表示させてもよい。このような変形例においても、稼働機械1の保守タイミングを判断する支援を行うことができる。
【0069】
また、上記一実施形態及び変形例においては、事例データ記憶部12で予め記憶された事例データは、事例センサデータ(詳細には、過去の故障の発生前のセンサデータ又は過去の予防保守の実施前のセンサデータ)を含み、猶予期間推定部14は、事例センサデータに対し現在の異常の発生時間におけるセンサデータを照合することにより、過去の異常の発生時間を演算する場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。すなわち、例えば、事例データは、事例センサデータに代えて、異常の発生時間を含んでいてもよい。このような変形例においても、上記同様の効果を得ることができる。
【0070】
また、上記一実施形態及び変形例においては、事例データ記憶
部12で予め記憶された事例データは、保守コストに関する情報として、保守作業レコード及びコストレコードを含み、保守コスト推定部は、保守作業レコード及びコストレコードに基づいて保守コストを演算する場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。すなわち、例えば、事例データは、予め演算された保守コストを含んでいてもよい。このような変形例においても、上記同様の効果を得ることができる。