特許第5988794号(P5988794)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5988794
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】銅合金板材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/00 20060101AFI20160825BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20160825BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20160825BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20160825BHJP
   H01B 5/02 20060101ALI20160825BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20160825BHJP
【FI】
   C22C9/00
   C22F1/08 B
   C22F1/08 Q
   H01B1/02 A
   H01B13/00 501Z
   H01B5/02 Z
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630C
   !C22F1/00 650A
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 661Z
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694A
   !C22F1/00 694B
   !C22F1/00 604
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-202292(P2012-202292)
(22)【出願日】2012年9月14日
(65)【公開番号】特開2014-55341(P2014-55341A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2015年7月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】506365131
【氏名又は名称】DOWAメタルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107548
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 浩一
(72)【発明者】
【氏名】宮原 良輔
(72)【発明者】
【氏名】木村 崇
(72)【発明者】
【氏名】菅原 章
【審査官】 静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−174142(JP,A)
【文献】 特開2010−229438(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/026610(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/021245(WO,A1)
【文献】 特開2010−095749(JP,A)
【文献】 特開平10−053825(JP,A)
【文献】 特開平02−111829(JP,A)
【文献】 特開平11−172350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00−9/10
C22F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.5〜3.0質量%のFeと、0.01〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有し、導電率が60%IACS以上、ビッカース硬さHVが150以上であり、500℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVが140以上であることを特徴とする、銅合金板材。
【請求項2】
粒径1μm以上のFe−P粒子の密度が30個/mm以下であることを特徴とする、請求項に記載の銅合金板材。
【請求項3】
磁化が1.0〜4.0emu/gであることを特徴とする、請求項またはに記載の銅合金板材。
【請求項4】
前記銅合金板材が、0.2質量%以下のSn、0.15質量%以下のMgおよび0.3質量%以下のZnからなる群から選ばれる1種以上の元素をさらに含む組成を有することを特徴とする、請求項乃至のいずれかに記載の銅合金板材。
【請求項5】
前記銅合金板材が、Ni、Ca、Al、Si、Cr、Mn、Zr、Ag、Cd、Be、Ti、Co、S、Au、Pt、Pb、BiおよびSbからなる群から選ばれる1種以上の元素を合計0.4質量%以下の範囲でさらに含む組成を有することを特徴とする、請求項乃至のいずれかに記載の銅合金板材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅合金板材およびその製造方法に関し、特に、リードフレームなどに使用するCu−Fe−P系銅合金板材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リードフレームなどの電気電子部品に使用される材料は、高強度で、導電性および耐熱性に優れていることが要求され、このような材料として、C1940合金などのCu−Fe−P系銅合金が使用されている。
【0003】
近年、リードフレームなどを使用する半導体装置の大容量化、小型化および高機能化に伴い、リードフレームなどに使用される材料には、さらに高い強度および導電率を有することが要求されている。また、リードフレームは、一般にスタンピング加工(プレス打ち抜き加工)によって多数のピンを有する形状に加工され、スタンピング加工時の歪を除去するために高温で加熱処理されるので、耐熱性に優れていることが要求されている。特に、リードフレームなどに使用される材料では、生産性を向上させるために、さらに高温で短時間加熱処理する場合が増加する傾向にあるため、500℃以上の高温の加熱処理に対する耐熱性が要求されている。
【0004】
しかし、Cu−Fe−P系銅合金板材では、導電率と強度と耐熱性の間にはトレードオフの関係があるため、これらを同時に向上させるのは容易ではない。すなわち、Cu−Fe−P系銅合金板材では、導電率、強度および耐熱性は、Fe析出物(少量のFe−P)の量や大きさに依存する。Fe析出物の大きさ(直径)は均一ではなく、一般に数nmから数μmの範囲内に分布している。また、Fe析出物は、大きさによって種類が異なり、数nmのFe析出物は主にγFe粒子、数十〜数百nmのFe析出物は主にαFe粒子、1μm以上のFe析出物は主にFe−P粒子である。また、導電率は、Fe析出物の大きさによらず、ほぼ析出物の量のみに依存し、Fe析出物の量が多いほど高くなる。一方、強度と耐熱性は、整合のγFe粒子の量が多いほど高くなり、非整合のαFe粒子とFe−P粒子の影響は小さい。また、粗大なFe−P粒子付近で再結晶の起点になり易く、耐熱性が著しく低下する可能性がある。
【0005】
したがって、Cu−Fe−P系銅合金板材では、導電率と強度と耐熱性を同時に向上させるために、多量のγFe粒子を生成させることが必要である。しかし、Cu−Fe−P系銅合金板材では、より高強度(例えば、硬さHV160以上)にするためには、析出物(γFe粒子の量と大きさ)を制御するだけではなく、転位強化(すなわち、時効処理後の仕上げ圧延による加工硬化)を行うことが必要である。しかし、転位強化を行うと、仕上げ圧延中に一部のγFe粒子が転位により切断され、再固溶することにより、導電率が著しく低下することが知られている。
【0006】
そのため、Cu−Fe−P系銅合金に、時効処理前に溶体化処理と中間の冷間圧延を行って、強度と耐熱性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、Cu−Fe−P系銅合金に、熱間加工後で冷間加工前に高温時効処理と低温時効処理の2段階時効処理を行って、高い強度を損なうことなく、導電性と耐熱性を向上させることが提案されている(例えば、特許文献2および3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−241873号公報(段落番号0007)
【特許文献2】特開平10−324935号公報(段落番号0014)
【特許文献3】特開2011−174142号公報(段落番号0015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の方法のように、時効処理前に溶体化処理を行うと、析出物をより微細に制御することができるが、時効処理後の仕上げ圧延による導電率の低下を防止することができなくなる。また、一定の仕上げ圧延率を確保するためには、溶体化処理後の板材を比較的厚くする必要があり、一般的な連続溶体化装置では対応できない(専用の厚板溶体化設備が必要である)ので、現在Cu−Fe−P系銅合金の製造では、一般に溶体化処理を行っていない。
【0009】
また、特許文献2や特許文献3の方法のように、熱間加工後で冷間加工前に高温時効処理と低温時効処理の2段階時効処理を行うと、一般に不均一に析出する(粒界や変形帯などで優先的に析出する)ため、γFe粒子とαFe粒子の密度の良好なバランスを得るのが困難になる。また、鋳造時に析出したFe−P粒子が残っているため、十分な耐熱性を得ることができない。
【0010】
このように、従来のCu−Fe−P系銅合金の製造方法では、導電率と強度と耐熱性の間のトレードオフ関係を十分に解消できないため、現存のC1940合金などの銅合金は一部の用途で対応できなくなる場合もある。
【0011】
したがって、本発明は、このような従来の問題点に鑑み、高い強度で、導電性および耐熱性に優れたCu−Fe−P系銅合金板材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、1.5〜3.0質量%のFeと、0.01〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金の原料を溶融して鋳造した鋳塊を1020〜1080℃まで加熱して2時間以上保持した後、1080〜750℃の温度域で圧延率60%以上、600〜450℃の温度域で圧延率30%以上になるように1080〜450℃で熱間圧延を行い、次いで、圧延率0〜80%で冷間圧延を行い、次いで、520〜600℃で30分〜6時間の高温時効処理を行った後に400〜500℃で3〜20時間の低温時効処理を行うことにより、高い強度で、導電性および耐熱性に優れたCu−Fe−P系銅合金板材およびその製造方法を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明による銅合金板材は、1.5〜3.0質量%のFeと、0.01〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金の原料を溶融して鋳造した鋳塊を1020〜1080℃まで加熱して2時間以上保持した後、1080〜750℃の温度域で圧延率60%以上、600〜450℃の温度域で圧延率30%以上になるように1080〜450℃で熱間圧延を行い、次いで、圧延率0〜80%で冷間圧延を行い、次いで、520〜600℃で30分〜6時間の高温時効処理を行った後に400〜500℃で3〜20時間の低温時効処理を行うことを特徴とする。
【0014】
この銅合金板材の製造方法において、低温時効処理を行った後に圧延率70%以上で仕上げ冷間圧延を行うのが好ましく、この仕上げ冷間圧延を行った後に250〜600℃で低温焼鈍を行うのが好ましい。また、銅合金の原料が、0.2質量%以下のSn、0.15質量%以下のMgおよび0.3質量%以下のZnからなる群から選ばれる1種以上の元素をさらに含む組成を有してもよい。さらに、銅合金の原料が、Ni、Ca、Al、Si、Cr、Mn、Zr、Ag、Cd、Be、Ti、Co、S、Au、Pt、Pb、BiおよびSbからなる群から選ばれる1種以上の元素を合計0.4質量%以下の範囲でさらに含む組成を有してもよい。
【0015】
また、本発明による銅合金板材は、1.5〜3.0質量%のFeと、0.01〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有し、導電率が60%IACS以上、ビッカース硬さHVが150以上であり、500℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVが140以上であることを特徴とする。
【0016】
この銅合金板材において、粒径1μm以上のFe−P粒子の密度が30個/mm以下であるのが好ましく、磁化が1.0〜4.0emu/gであるのが好ましい。また、銅合金板材が、0.2質量%以下のSn、0.15質量%以下のMgおよび0.3質量%以下のZnからなる群から選ばれる1種以上の元素をさらに含む組成を有してもよい。さらに、銅合金板材が、Ni、Ca、Al、Si、Cr、Mn、Zr、Ag、Cd、Be、Ti、Co、S、Au、Pt、Pb、BiおよびSbからなる群から選ばれる1種以上の元素を合計0.4質量%以下の範囲でさらに含む組成を有してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高い強度で、導電性および耐熱性に優れたCu−Fe−P系銅合金板材を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による銅合金板材の製造方法の実施の形態では、1.5〜3.0質量%のFeと、0.01〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金の原料を溶融して鋳造した鋳塊を1020〜1080℃まで加熱して2時間以上保持した後、1080〜750℃の温度域で圧延率(加工度)60%以上、600〜450℃の温度域で圧延率(加工度)30%以上になるように1080〜450℃で熱間圧延を行い、次いで、圧延率0〜80%で冷間圧延を行い、次いで、520〜600℃で30分〜6時間の高温時効処理を行った後に(連続して)400〜500℃で3〜20時間の低温時効処理を行う(高温時効処理と低温時効処理の2階段時効処理を行う)。
【0019】
Feは、銅合金板材の強度を向上させる作用を有するが、その含有量が1.5質量%未満では強度の向上が不十分であり、3.0質量%を超えると導電率が低下するので、Fe含有量は1.5〜3.0質量%であるのが好ましく、1.8〜2.5質量%であるのがさらに好ましい。
【0020】
Pは、溶湯の脱酸作用を有するとともに、Feと化合物を形成して析出することによって導電率および強度を向上させる作用を有するが、その含有量が0.01質量%未満ではこれらの作用が不十分であり、0.2質量%を超えるとこれらの作用が飽和して、逆に析出物が粗大化し易いので、P含有量は0.01〜0.2質量%であるのが好ましく、0.015〜0.15質量%であるのがさらに好ましい。
【0021】
また、銅合金の原料が、0.2質量%以下のSn、0.15質量%以下のMgおよび0.3質量%以下のZnからなる群から選ばれる1種以上の元素をさらに含む組成を有してもよい。Snは、銅合金板材の耐熱性を向上させる作用を有するが、その含有量が0.2質量%を超えると導電率が低下するので、Snの含有量は0.2質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以下であるのがさらに好ましい。Mgは、銅合金板材の耐熱性を向上させる作用を有し、また、その添加による導電率の低下が比較的小さいが、その含有量が0.15質量%を超えると、生産性が低下するので、Mgの含有量は0.15質量%以下であるのが好ましく、0.1質量%以下であるのがさらに好ましい。Znは、Pと同様に溶湯の脱酸作用を有するが、その含有量が0.3質量%を超えると脱酸作用が飽和して導電率も低下するので、Zn含有量は0.3質量%以下であるのが好ましく、0.2質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0022】
なお、銅合金板材の原料として、電子材料のスクラップなどを使用する場合には、スクラップ中に混入した元素が原料中に不可避的に混入する可能性がある。また、多数の種類の銅合金を製造する場合、それぞれの銅合金の原料を同一の溶解炉で溶解すると、僅かではあるが、前の銅合金の成分が原料中に混入する場合がある。このような不可避不純物として、例えば、Ni、Ca、Al、Si、Cr、Mn、Zr、Ag、Cd、Be、Ti、Co、S、Au、Pt、Pb、Bi、Sbなどを、それぞれ0.1質量%以下、合計0.4質量%以下の範囲で含んでもよい。
【0023】
本発明による銅合金板材の製造方法の実施の形態によって、銅合金の原料を溶融して鋳造する鋳塊は、通常の銅合金の連続鋳造法または半連続鋳造法により製造することができる。
【0024】
この鋳塊の熱間圧延は、加熱炉によって1020〜1080℃程度まで加熱して2時間以上保持した後に行う。この熱間圧延の前の加熱は、鋳造中に生じる偏析や晶出物を低減させる効果に加えて、耐熱性の低下の要因となるFe−P粒子を固溶させる効果がある。
【0025】
なお、Cu−Fe−P系銅合金は、熱間圧延中に析出するため、比較的(動的)再結晶が生じ難い。そのため、この熱間圧延中では、1080〜750℃の高温域で強圧延を行うことにより、Cu−Fe−P系銅合金の析出を抑制して、動的再結晶を発生させることができる。この1080〜750℃の温度域の熱間圧延では、圧延率が60%以上であるのが好ましく、65%以上であるのがさらに好ましく、70%以上であるのがさらに好ましい。続いて、600〜450℃の温度域で圧延率30%以上の熱間圧延を行うことによって、銅マトリックス中に微細なFeまたはFe−P系化合物が析出すると考えられる。なお、600〜450℃の低温域の熱間圧延では、金属間化合物が動的に析出することにより、析出物の生成と微細化が起こるという効果があり、その後の時効焼鈍処理によってγFe粒子とαFe粒子の密度のバランスを調整することができる。
【0026】
この熱間圧延後に行う冷間圧延では、圧延率0〜80%とする。この段階の圧延率が80%を超えると、最終の仕上げ圧延の圧延率を確保することができなくなる可能性がある。また、生産性を向上させるために、この段階における冷間圧延を省略してもよい。なお、この圧延率が0%である場合は、この冷間圧延を行わずに直接時効処理を行うことを意味する。
【0027】
冷間圧延後の時効処理は、固溶元素を析出させるために行う。通常の時効処理では、時効温度が比較的低い(例えば450℃)と、析出速度が遅く、所望の導電率を確保する析出量を得るために必要な時効処理時間が数十時間になり、また、析出物の粒径が小さく、その後の仕上げ圧延中に転位により切断して再固溶し易く、最終的な導電率が低下してしまう。一方、時効温度が比較的高い(例えば600℃)と、析出速度が速く、析出物も粗大化し易いため、γFe粒子とαFe粒子の密度のバランスの調整が困難になる。また、時効処理温度が中間の温度(例えば550℃)でも、一般に不均一に析出する(粒界や変形帯などで優先的に析出する)ため、γFe粒子とαFe粒子の密度の良好なバランスを得るのが困難になる。
【0028】
時効処理は、520〜600℃で30分〜6時間の高温時効処理と400〜500℃で3〜20時間の低温時効処理の2階段で行う。熱間圧延後の板材には、動的析出により、微細で均一な析出粒子があるが、520〜600℃で30分〜6時間の高温時効処理を行うことにより、動的析出した微細な析出物が比較的短時間でαFe粒子に成長する。この高温時効処理の温度が低過ぎたり、時間が短過ぎると、αFe粒子の密度が不十分であり、温度が高過ぎたり、時間が長過ぎると、Fe−P粒子の密度が増加してしまう。その後の400〜500℃で3〜20時間の低温時効処理では、γFe粒子の密度が増加するが、高温時効処理で生じるαFe粒子は過度に成長しない。この低温時効処理の温度が低過ぎたり、時間が短過ぎると、γFe粒子の密度が不十分になり、温度が高過ぎたり、時間が長過ぎると、αFe粒子が粗大化してしまう。
【0029】
この高温時効処理と低温時効処理の2段階の時効処理は、焼鈍炉の温度を調整することによって行うことができるが、設備的に温度の調整が難しい場合には、それぞれの温度の焼鈍炉で行ってもよい。
【0030】
この時効処理後の板材を所望の板厚にするために、仕上げ冷間圧延を行うのが好ましい。一般に、板材の圧延率(加工度)が高くなるにつれて、強度が高くなるが、導電率および耐熱性が低下すると考えられる。しかし、本実施の形態の銅合金板材の製造方法によって製造される銅合金板材は、仕上げ冷間圧延の圧延率(加工度)70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上であっても、優れた耐熱性を有する。また、要求される強度および板厚によっては、仕上げ冷間圧延後に(好ましくは250〜600℃、さらに好ましくは350〜500℃で)低温焼鈍を行う必要がある。この低温焼鈍は、歪取り焼鈍であり、また、仕上げ冷間圧延によって低下した導電率を部分的に回復することができる。
【0031】
本発明による銅合金板材の実施の形態は、1.5〜3.0質量%のFeと、0.01〜0.2質量%のPを含み、残部がCuおよび不可避不純物である組成を有し、導電率が60%IACS以上、ビッカース硬さHVが150以上であり、500℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVが140以上である。この銅合金板材において、粒径1μm以上のFe−P粒子の密度が30個/mm以下であるのが好ましく、磁化が1.0〜4.0emu/gであるのが好ましい。
【0032】
上述したように、Cu−Fe−P系銅合金板材中のFe析出物は、大きさによって種類が異なり、数nmのFe析出物は主にγFe粒子、数十〜数百nmのFe析出物は主にαFe粒子、1μm以上のFe析出物は主にFe−P粒子である。
【0033】
γFe粒子は、転位と粒界の移動のピンニング効果があり、その密度が多いほど、板材の強度と耐熱性が優れている。αFe粒子は、板材の強度と耐熱性を向上させる効果がある(但し、γFe粒子より効果が小さい)。特に、時効処理後に生じるγFe粒子は、その後に板材の強度を向上させるための仕上げ圧延中に、転位により切断されて再固溶し、板材の導電率が低下し易くなる。そのため、一定の転位により切断され難いαFe粒子が必要である。αFe粒子の密度が低過ぎると、板材の導電率の低下を抑制する効果が不十分であり、αFe粒子の密度が高過ぎると、必然的にγFe粒子の密度が低下してしまう。
【0034】
γFe粒子とαFe粒子の粒子径は非常に小さく、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察する必要があるが、TEMによる観察は局所的であり、板材全体を評価するのは困難である。また、粒子径のみでγFe粒子とαFe粒子を区別することは困難であるため、TEMによる観察に代わる測定方法が必要になる。
【0035】
本発明者らは、αFe粒子が強磁性であることに着目し、板材の磁化と導電率を測定することにより、γFe粒子とαFe粒子の割合を求めたが、磁化が好ましくは1.0〜4.0emu/g、さらに好ましくは1.5〜3.5emu/gになるγFe粒子とαFe粒子の割合にすれば、高い強度で、導電性および耐熱性に優れたCu−Fe−P系銅合金板材を製造することができることがわかった。
【0036】
また、粒径が1μm以上の粗大なFe−P粒子は、強度と耐熱性を向上させる効果がほとんどなく、その密度が低いほど、相対的にγFe粒子やαFe粒子の密度が増大する。したがって、粒径が1μm以上の粗大なFe−P粒子の密度が30個/mm以下であるのが好ましく、20個/mm以下であるのがさらに好ましい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明による銅合金板材およびその製造方法の実施例について詳細に説明する。
【0038】
[実施例1]
表1に示す化学成分の銅合金(2.33質量%のFeと、0.022質量%のPと、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金)を高周波溶解炉で溶解し、厚さ30mm×幅50mm×長さ150mmの鋳塊を作製した。
【0039】
【表1】
【0040】
この鋳塊を加熱炉で1050℃まで加熱して3時間保持した後、750℃以上の温度域において圧延率67%で熱間圧延を6パス行って板厚10mmの圧延材を得た。なお、この熱間圧延のパス間で温度が低下するのを防止するために、950℃の加熱炉に2分間保持した。続いて、600℃の加熱炉に2分間保持した後、600〜450℃の温度域において圧延率40%で熱間圧延を2パス行って板厚6mmの圧延材を得た。
【0041】
次に、得られた熱間圧延材に、焼鈍炉によって高温時効焼鈍を600℃で6時間行った後に低温時効焼鈍を450℃で4時間行った。
【0042】
次に、これらの高温および低温の2段階の時効焼鈍後の圧延材の表面と裏面を研磨し、板厚が0.127mmになるまで仕上げ冷間圧延(圧延率98%)を行った後、425℃の焼鈍炉内に1分間保持する低温焼鈍を行って板厚0.127mmの銅合金板材を作製した。
【0043】
これらの製造条件を表2および表3に示す。
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
得られた銅合金板材について、Fe−P粒子の密度、磁化、導電率および硬さを求めるとともに、耐熱性の評価を行った。
【0047】
Fe−P粒子の密度は、SEM−EDX(走査型電子顕微鏡(SEM)として日立ハイテクフィールディング株式会社製のS−3000、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)として株式会社堀場製作所製のEMAX−7000を使用した装置)を用いて、加速電圧20kV、倍率500倍(観察視野180μm×260μm)として銅合金板材上の任意の20箇所を観察し、粒径1μm以上の析出物の個数を数えて、析出物の密度(単位面積当たりの個数)を求めた。なお、析出物がFe−P粒子であることは、EDXを用いて分析することによって確認した。その結果、Fe−P粒子の密度は14個/mmであった。
【0048】
磁化は、銅合金板材を8mm角に切断し、試料振動型磁力計(VSM)を用いて、印加磁界5kOe、振動周波数80Hzの条件で、銅合金板材の圧延方向に磁場がかかるように測定した。その結果、磁化は3.3emu/gであった。
【0049】
導電率は、JIS H0505の導電率測定方法に従って測定した。その結果、導電率は64.2%IACSであった。
【0050】
硬さは、JIS Z2244に準拠して、試験荷重500gfとしてビッカース硬さHVを測定した。その結果、ビッカース硬さHVは154であった。
【0051】
耐熱性は、銅合金板材を500℃に加熱された(大気)炉内で30分間保持し、炉から取り出して室温まで空冷した後、ビッカース硬さHVを測定することによって評価した。その結果、500℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVは146であった。
【0052】
これらの結果を表4に示す。
【0053】
【表4】
【0054】
[実施例2〜7]
表1に示す化学成分の銅合金(実施例2では、2.05質量%のFeと、0.034質量%のPと、0.04質量%のSnと、0.067質量%のZnと、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金、実施例3では、1.68質量%のFeと、0.071質量%のPと、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金、実施例4では、2.48質量%のFeと、0.018質量%のPと、0.05質量%のMgと、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金、実施例5では、2.41質量%のFeと、0.028質量%のPと、0.254質量%のZnと、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金、実施例6では、1.93質量%のFeと、0.048質量%のPと、0.073質量%のSnと、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金、実施例7では、2.32質量%のFeと、0.032質量%のPと、0.097質量%のNiと、0.005質量%のMnと、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金)から鋳塊を作製し、高温時効焼鈍を600℃で4時間、低温時効焼鈍を450℃で8時間(実施例2)、高温時効焼鈍を600℃で1時間、低温時効焼鈍を450℃で12時間(実施例3)、高温時効焼鈍を550℃で6時間、低温時効焼鈍を420℃で4時間(実施例4)、高温時効焼鈍を550℃で4時間、低温時効焼鈍を420℃で8時間(実施例5)、高温時効焼鈍を550℃で1時間、低温時効焼鈍を450℃で12時間(実施例6)、高温時効焼鈍を600℃で6時間、低温時効焼鈍を450℃で4時間(実施例7)行った以外は、実施例1と同様の方法により、銅合金板材を作製した。これらの製造条件を表2および表3に示す。
【0055】
得られた銅合金板材について、実施例1と同様の方法により、Fe−P粒子の密度、磁化、導電率および硬さを求めるとともに、耐熱性の評価を行った。その結果、Fe−P粒子の密度は、それぞれ8個/mm(実施例2)、18個/mm(実施例3)、13個/mm(実施例4)、9個/mm(実施例5)、16個/mm(実施例6)、10個/mm(実施例7)であった。また、磁化は、それぞれ2.9emu/g(実施例2)、3.4emu/g(実施例3)、2.2emu/g(実施例4)、2.7emu/g(実施例5)、2.1emu/g(実施例6)、3.1emu/g(実施例7)であった。また、導電率は、それぞれ62.1%IACS(実施例2)、67.9%IACS(実施例3)、65.1%IACS(実施例4)、62.8%IACS(実施例5)、66.1%IACS(実施例6)、63.2%IACS(実施例7)であった。また、ビッカース硬さHVは、それぞれ164(実施例2)、151(実施例3)、162(実施例4)、150(実施例5)、154(実施例6)、172(実施例7)であった。さらに、銅合金板材を500℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVは、それぞれ157(実施例2)、142(実施例3)、158(実施例4)、145(実施例5)、150(実施例6)、165(実施例7)であった。これらの結果を表4に示す。
【0056】
[実施例8〜10]
表1に示す化学成分の銅合金(実施例8では、2.15質量%のFeと、0.026質量%のPと、0.054質量%のCoと、0.030質量%のSiと、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金、実施例9では、2.24質量%のFeと、0.024質量%のPと、0.045質量%のTiと、0.009質量%のAlと、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金、実施例10では、2.06質量%のFeと、0.016質量%のPと、0.006質量%のCrと、0.005質量%のZrと、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金)から鋳塊を作製し、熱間圧延と時効焼鈍の間に圧延率75%で冷間圧延を行い、仕上げ冷間圧延の圧延率92%とした以外は、実施例1と同様の方法により、銅合金板材を作製した。これらの製造条件を表2および表3に示す。
【0057】
得られた銅合金板材について、実施例1と同様の方法により、Fe−P粒子の密度、磁化、導電率および硬さを求めるとともに、耐熱性の評価を行った。その結果、Fe−P粒子の密度は、それぞれ15個/mm(実施例8)、10個/mm(実施例9)、19個/mm(実施例10)であった。また、磁化は、それぞれ3.5emu/g(実施例8)、2.5emu/g(実施例9)、1.7emu/g(実施例10)であった。また、導電率は、それぞれ66.9%IACS(実施例8)、64.2%IACS(実施例9)、63.8%IACS(実施例10)であった。また、ビッカース硬さHVは、それぞれ174(実施例8)、168(実施例9)、171(実施例10)であった。さらに、銅合金板材を500℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVは、それぞれ162(実施例8)、163(実施例9)、167(実施例10)であった。これらの結果を表4に示す。
【0058】
[実施例11〜12]
表1に示す化学成分の銅合金(実施例11では、2.34質量%のFeと、0.019質量%のPと、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金、実施例12では、2.40質量%のFeと、0.030質量%のPと、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金)から鋳塊を作製し、実施例11では熱間圧延の際の加熱温度を1050℃に代えて1080℃、750℃以上の温度域の圧延率を60%、600〜450℃の温度域の圧延率を50%とし、実施例12では熱間圧延の際の加熱温度を1050℃に代えて1020℃、750℃以上の温度域の圧延率を70%、600〜450℃の温度域の圧延率を33%とした以外は、実施例1と同様の方法により、銅合金板材を作製した。これらの製造条件を表2および表3に示す。
【0059】
得られた銅合金板材について、実施例1と同様の方法により、Fe−P粒子の密度、磁化、導電率および硬さを求めるとともに、耐熱性の評価を行った。その結果、Fe−P粒子の密度は、それぞれ7個/mm(実施例11)、16個/mm(実施例12)であった。また、磁化は、それぞれ2.8emu/g(実施例11)、1.9emu/g(実施例12)であった。また、導電率は、それぞれ65.4%IACS(実施例11)、63.3%IACS(実施例12)であった。また、ビッカース硬さHVは、それぞれ165(実施例11)、169(実施例12)であった。さらに、銅合金板材を500℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVは、それぞれ160(実施例11)、165(実施例12)であった。これらの結果を表4に示す。
【0060】
[比較例1]
熱間圧延の際の加熱温度を1050℃に代えて950℃とした以外は、実施例1と同様の方法により、銅合金板材を作製した。これらの製造条件を表2および表3に示す。
【0061】
得られた銅合金板材について、実施例1と同様の方法により、Fe−P粒子の密度、磁化、導電率および硬さを求めるとともに、耐熱性の評価を行った。その結果、Fe−P粒子の密度は63個/mm、磁化は3.3emu/g、導電率は63.8%IACS、ビッカース硬さHVは152、銅合金板材を500℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVは108であった。これらの結果を表4に示す。
【0062】
[比較例2]
熱間圧延の際の加熱温度を1050℃に代えて950℃とし、(実施例4と同様に)高温時効焼鈍を550℃で6時間、低温時効焼鈍を420℃で4時間行った以外は、実施例1と同様の方法により、銅合金板材を作製した。これらの製造条件を表2および表3に示す。
【0063】
得られた銅合金板材について、実施例1と同様の方法により、Fe−P粒子の密度、磁化、導電率および硬さを求めるとともに、耐熱性の評価を行った。その結果、Fe−P粒子の密度は91個/mm、磁化は3.0emu/g、導電率は65.1%IACS、ビッカース硬さHVは157、銅合金板材を500℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVは91であった。これらの結果を表4に示す。
【0064】
[比較例3〜5]
高温時効焼鈍と低温時効焼鈍の2段階の時効処理に代えて、それぞれ600℃で10時間(比較例3)、450℃で24時間(比較例4)、550℃で14時間(比較例5)の等温時効を行った以外は、実施例1と同様の方法により、銅合金板材を作製した。これらの製造条件を表2および表3に示す。
【0065】
得られた銅合金板材について、実施例1と同様の方法により、Fe−P粒子の密度、磁化、導電率および硬さを求めるとともに、耐熱性の評価を行った。その結果、Fe−P粒子の密度は、それぞれ20個/mm(比較例3)、14個/mm(比較例4)、10個/mm(比較例5)であった。また、磁化は、それぞれ4.7emu/g(比較例3)、0.9emu/g(比較例4)、4.1emu/g(比較例5)であった。また、導電率は、それぞれ64.7%IACS(比較例3)、45.4%IACS(比較例4)、63.1%IACS(比較例5)であった。また、ビッカース硬さHVは、それぞれ119(比較例3)、159(比較例4)、158(比較例5)であった。さらに、銅合金板材を500℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVは、それぞれ98(比較例3)、146(比較例4)、134(比較例5)であった。これらの結果を表4に示す。
【0066】
[比較例6〜7]
比較例6では、750℃以上の温度域の圧延率を40%、600〜450℃の温度域の圧延率を44%、仕上げ冷間圧延の圧延率を99%とし、比較例7では、600〜450℃の温度域の熱間圧延を行わず、仕上げ冷間圧延の圧延率を99%とした以外は、実施例1と同様の方法により、銅合金板材を作製した。これらの製造条件を表2および表3に示す。
【0067】
得られた銅合金板材について、実施例1と同様の方法により、Fe−P粒子の密度、磁化、導電率および硬さを求めるとともに、耐熱性の評価を行った。その結果、Fe−P粒子の密度は、それぞれ18個/mm(比較例6)、12個/mm(比較例7)であった。また、磁化は、それぞれ4.2emu/g(比較例6)、1.2emu/g(比較例7)であった。また、導電率は、それぞれ65.6%IACS(比較例6)、48.6%IACS(比較例7)であった。また、ビッカース硬さHVは、それぞれ142(比較例6)、177(比較例7)であった。さらに、銅合金板材を500℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVは、それぞれ113(比較例6)、146(比較例7)であった。これらの結果を表4に示す。
【0068】
[比較例8〜9]
表1に示す化学成分の銅合金(比較例8では、3.48質量%のFeと、0.051質量%のPと、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金、比較例9では、1.21質量%のFeと、0.044質量%のPと、残部がCuおよび不可避不純物からなる銅合金)から鋳塊を作製した以外は、実施例1と同様の方法により、銅合金板材を作製した。これらの製造条件を表2および表3に示す。
【0069】
得られた銅合金板材について、実施例1と同様の方法により、Fe−P粒子の密度、磁化、導電率および硬さを求めるとともに、耐熱性の評価を行った。その結果、Fe−P粒子の密度は、それぞれ128個/mm(比較例8)、16個/mm(比較例9)であった。また、磁化は、それぞれ2.6emu/g(比較例8)、3.5emu/g(比較例9)であった。また、導電率は、それぞれ46.9%IACS(比較例8)、61.9%IACS(比較例9)であった。また、ビッカース硬さHVは、それぞれ157(比較例8)、136(比較例9)であった。さらに、銅合金板材を500℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVは、それぞれ124(比較例8)、104(比較例9)であった。これらの結果を表4に示す。
【0070】
[比較例10]
熱間圧延の際の加熱温度を1050℃に代えて950℃とし、熱間圧延と時効焼鈍の間に、圧延率75%で冷間圧延を行った後に900℃で3分間溶体化処理を行って300℃以下になるまで50℃/分以上の冷却速度で水冷し、高温時効焼鈍を600℃で2時間、低温時効焼鈍を450℃で2時間行い、仕上げ冷間圧延の圧延率92%とした以外は、実施例1と同様の方法により、銅合金板材を作製した。これらの製造条件を表2および表3に示す。
【0071】
得られた銅合金板材について、実施例1と同様の方法により、Fe−P粒子の密度、磁化、導電率および硬さを求めるとともに、耐熱性の評価を行った。その結果、Fe−P粒子の密度は79個/mm、磁化は3.0emu/g、導電率は47.2%IACS、ビッカース硬さHVは172、銅合金板材を500℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVは151であった。これらの結果を表4に示す。
【0072】
[比較例11]
熱間圧延の際の加熱温度を1050℃に代えて950℃とし、熱間圧延と時効焼鈍の間に圧延率80%で冷間圧延を行い、高温時効焼鈍を600℃で23時間、低温時効焼鈍を500℃で23時間行い、仕上げ冷間圧延の圧延率89%とした以外は、実施例1と同様の方法により、銅合金板材を作製した。これらの製造条件を表2および表3に示す。
【0073】
得られた銅合金板材について、実施例1と同様の方法により、Fe−P粒子の密度、磁化、導電率および硬さを求めるとともに、耐熱性の評価を行った。その結果、Fe−P粒子の密度は106個/mm、磁化は4.6emu/g、導電率は69.0%IACS、ビッカース硬さHVは167、銅合金板材を500℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVは101であった。これらの結果を表4に示す。
【0074】
表4に示すように、実施例1〜10の銅合金板材はいずれも、導電率が60%IACS以上、ビッカース硬さHVが150以上、500℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVが140以上であった。
【0075】
一方、比較例1および2の銅合金板材では、熱間圧延時の加熱温度が低過ぎて、Fe−P粒子が固溶できず、Fe−P粒子の密度が高過ぎるため、500℃で30分間保持した後のビッカース硬さHVが低くなり、耐熱性が低下していた。
【0076】
比較例3の銅合金板材では、600℃と高い温度で長時間等温時効を行ったため、磁化が大きくなり(γFe粒子の密度が低くなって、αFe粒子とFe−P粒子の密度が高くなり)、導電率は高かったが、強度が低下し、耐熱性が低下していた。比較例4の銅合金板材では、450℃と低い温度で長時間等温時効を行ったため、磁化が小さくなり(時効後にγFe粒子の密度は高くなるものの、仕上げ圧延後に再固溶し)、導電率が低下していた。比較例5の銅合金板材では、550℃と中間の温度で長時間等温時効を行ったため、磁化が僅かに大きくなり(γFe粒子とαFe粒子のバランスが良好でなく)、耐熱性が低下していた。
【0077】
比較例6の銅合金板材では、1080〜750℃の温度域の熱間圧延率が40%と低過ぎたため、十分に再結晶することなく、Fe−P粒子が析出して、硬さと耐熱性のいずれも低かった。比較例7の銅合金板材では、600℃〜450℃の温度域で熱間圧延を行わなかったため、磁化が小さくなり(高温時効中のαFe粒子の生成量が少なくなり)、強度と耐熱性は良好であったが、導電率が低下していた。
【0078】
比較例8の銅合金板材では、Fe含有量が多過ぎたため、固溶量が高く、熱間圧延中に一部のFeが固溶できず、Fe−P粒子のままで最後まで残っており、導電率と耐熱性のいずれも低下していた。一方、比較例9の銅合金板材では、Fe量が少な過ぎて、硬さと耐熱性が低下していた。
【0079】
比較例10の銅合金板材では、熱間圧延と時効焼鈍の間で溶体化処理を行ったため、Fe−P粒子の密度が高過ぎて、導電率が低下していた。比較例11の銅合金板材では、時効処理時間が長過ぎたため、Fe−P粒子の密度が高く、磁化が大きくなり、耐熱性が低下していた。