(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5988852
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】タイヤのマッド性能評価試験方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20160825BHJP
【FI】
G01M17/02 B
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-266218(P2012-266218)
(22)【出願日】2012年12月5日
(65)【公開番号】特開2014-112047(P2014-112047A)
(43)【公開日】2014年6月19日
【審査請求日】2015年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107940
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 憲吾
(74)【代理人】
【識別番号】100120938
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 教郎
(74)【代理人】
【識別番号】100122806
【弁理士】
【氏名又は名称】室橋 克義
(74)【代理人】
【識別番号】100168192
【弁理士】
【氏名又は名称】笠川 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100174311
【弁理士】
【氏名又は名称】染矢 啓
(74)【代理人】
【識別番号】100182523
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 由賀里
(72)【発明者】
【氏名】飯野 泰之
【審査官】
萩田 裕介
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−130801(JP,A)
【文献】
特開2012−215550(JP,A)
【文献】
特開2001−055014(JP,A)
【文献】
特開平07−266808(JP,A)
【文献】
特開2012−166757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/02
E01C 1/00 − 17/00
B60C 11/00 − 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのマッド性能評価試験コースであって、
その上面が傾斜している下地層と、この下地層の上面に敷き詰められたマッド層とを備えており、
上記下地層が、軟弱地盤改良剤が混合されることによって硬化した土から形成された部分を有しており、
上記マッド層の平均深さが、3cm以上50cm以下にされているタイヤのマッド性能評価試験コース。
【請求項2】
上記マッド層の上面である斜面の最大傾斜線であるフォールラインの斜度が、このフォールラインの水平方向距離に対する、この水平方向距離の両端の高度差の比率を100分率で表したものであって、2%以上8%以下である請求項1に記載のタイヤのマッド性能評価試験コース。
【請求項3】
上記マッド層は、その上面の20cm上方から、直径8cm及び重さ2.2kgの鋼球を落下させたとき、この鋼球がマッド層に4cm以上8cm以下の深さまで食い込む硬さにされている請求項1又は2に記載のタイヤのマッド性能評価試験コース。
【請求項4】
上記下地層の軟弱地盤改良剤と土との混合比率が、体積比で1:1であり、この下地層の厚さが、30cm以上である請求項1から3のいずれかに記載のタイヤのマッド性能評価試験コース。
【請求項5】
タイヤのマッド性能評価試験方法であって、
供試タイヤが装着された試験車両が、請求項1から4のいずれかに記載の傾斜した試験コースを、下方から上方へ走行する走行ステップと、
上記試験車両が走行ルートの一定区間を走行するのに要する時間を測定する時間測定ステップと、
この所要時間から、上記供試タイヤの縦グリップ性能を評価する評価ステップとを含む、タイヤのマッド性能評価試験方法。
【請求項6】
上記走行ステップにおいて、上記時間が測定される走行距離が8m以上である請求項5記載のタイヤのマッド性能評価試験方法。
【請求項7】
上記走行ステップにおいて、試験車両の変速ギアのギア比が一定にされ、アクセル操作量が一定にされ、試験車両の走行ルートが、直線ルートであり且つ試験コースのフォールラインに対して10°以上45°以下の角度傾斜している請求項5又は6に記載のタイヤのマッド性能評価試験方法。
【請求項8】
試験車両の変速ギアが第1速に設定され、エンジンの回転数が2000rpm以上5000rpm以下に維持されている請求項7に記載のタイヤのマッド性能評価試験方法。
【請求項9】
上記評価ステップにおいて、
上記時間測定ステップにおいて測定された時間に基づいて、供試タイヤの縦グリップ性能を評価してランク付けし、
上記試験コースを、供試タイヤが装着された試験車両を走行させるドライバーが、供試タイヤの縦グリップ性能を官能によって評価してランク付けし、
供試タイヤの、上記測定時間に基づいた縦グリップ性能のランクと、上記ドライバーの官能による縦グリップ性能のランクとから、両評価の相関性を評価する請求項5から8のいずれかに記載のタイヤのマッド性能評価試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤのマッド(泥濘)性能評価試験コース、及び、この試験コースを用いて行うタイヤのマッド性能評価試験の方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、泥濘地におけるタイヤの走行性能を評価するための試験を行うコース、及び、この試験コースを用いて行うタイヤのマッド性能を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤのマッド性能の評価としては、従来、泥濘路面上に実車を走行させた上で、ドライバーが官能によって評価する方法が採用されている。しかしながら、官能評価は定量的な評価ではない。また、試験時の天候の違いにより、泥濘の硬さ等の路面状況が変化する場合がある。これに起因して官能評価の結果にバラツキが生じる。
【0003】
一方で、タイヤのマッド性能を定量的に評価する方法も用いられている。例えば、泥濘路面上の所定区間を、所定の走行条件で実車を走行させ、要した時間を測定している。また、試験車両を、ロードセル等の牽引力測定具を介してワイヤーロープ等によって柱、壁等に繋いだ状態で、発進加速する。この状態で、上記牽引力測定具によって試験車両の牽引力を測定している。
【0004】
しかしながら、上記定量的な評価方法にあっても、車両の走行コース及び走行条件を含めた試験環境が変化しないように規定する等の取り組みが見られない。さらに、かかる定量的な評価方法は、前述のドライバーの官能評価との間に相関性は見られない。
【0005】
タイヤのマッド性能の評価試験方法に関しては、特開2003−315236号公報、特開2012−179966号公報、特開2012−215550号公報等に開示された技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−315236号公報
【特許文献2】特開2012−179966号公報
【特許文献3】特開2012−215550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであり、試験環境の変化が抑制されるように構成され、試験条件の再現が容易であり且つ官能評価との相関もとりやすい、タイヤのマッド性能評価試験コースの提供、及び、この試験コースを用いて行うタイヤのマッド性能を定量的に評価する試験方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るタイヤのマッド性能評価試験コースは、
その上面が傾斜している下地層と、この下地層の上面に敷き詰められたマッド層とを備えており、
上記下地層が、軟弱地盤改良剤が混合されることによって硬化した土から形成された部分を有しており、
上記マッド層の平均深さが、3cm以上50cm以下にされている。
【0009】
好ましくは、上記マッド層の上面である斜面の最大傾斜線であるフォールラインの斜度が、このフォールラインの水平方向距離に対する、この水平方向距離の両端の高度差の比率を100分率で表したものであって、2%以上8%以下である。
【0010】
好ましくは、上記マッド層は、その上面の20cm上方から、直径8cm及び重さ2.2kgの鋼球を落下させたとき、この鋼球がマッド層に4cm以上8cm以下の深さまで食い込む硬さにされている。
【0011】
好ましくは、上記下地層の軟弱地盤改良剤と土との混合比率が、体積比で1:1であり、この下地層の厚さが、30cm以上である。
【0012】
本発明に係るタイヤのマッド性能評価試験方法は、
供試タイヤが装着された試験車両が、前述したいずれかの傾斜した試験コースを、下方から上方へ走行する走行ステップと、
上記試験車両が走行ルートの一定区間を走行するのに要する時間を測定する時間測定ステップと、
この所要時間から、上記供試タイヤの縦グリップ性能を評価する評価ステップとを含んでいる。
【0013】
好ましくは、上記走行ステップにおいて、上記時間が測定される走行距離が8m以上である。
【0014】
好ましくは、上記走行ステップにおいて、試験車両の変速ギアのギア比が一定にされ、アクセル操作量が一定にされ、試験車両の走行ルートが、直線ルートであり且つ試験コースのフォールラインに対して10°以上45°以下の角度傾斜している。
【0015】
好ましくは、試験車両の変速ギアが第1速に設定され、エンジンの回転数が2000rpm以上5000rpm以下に維持されている。
【0016】
好ましくは、上記評価ステップにおいて、
上記時間測定ステップにおいて測定された時間に基づいて、供試タイヤの縦グリップ性能を評価してランク付けし、
上記試験コースを、供試タイヤが装着された試験車両を走行させるドライバーが、供試タイヤの縦グリップ性能を官能によって評価してランク付けし、
供試タイヤの、上記測定時間に基づいた縦グリップ性能のランクと、上記ドライバーの官能による縦グリップ性能のランクとから、両評価の相関性を評価する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、試験条件の再現が容易であり、試験環境の変化が抑制される。また、官能評価との相関性をとり易い定量的評価が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態である試験コースを示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1の試験コースの試験路面を走行する供試タイヤの状態を示す、一部断面側面図である。
【
図3】
図3は、試験路面の一部を構成するマッドの特性の測定方法を説明する一部断面側面図である。
【
図4】
図4は、試験路面を走行する試験車両を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0020】
[試験コース]
図1及び
図2に示される試験コース2は、タイヤのマッド性能を評価するために使用される試験コースである。この試験コース2は傾斜している。すなわち、試験コース2の上面である試験路面4は斜面にされている。
図2中の一点鎖線は水平面を示す。この試験路面4は凹凸の少ない平面にされている。試験コース2は、下地層6と、この下地層6の上面に敷き詰められたマッド層8とを備えている。後述するように、試験車両Mは、この試験路面4を、その下部から上部に向けて登坂するように走行する。試験車両Mの駆動輪には、供試タイヤTが装着されている。この試験車両Mが登坂することにより、供試タイヤTには重力による負荷が加わる。この負荷により、検知される供試タイヤT間のマッド性能の差が顕著になるので好ましい。
【0021】
上記試験路面4の斜度θは、2%以上8%以下にされるのが好ましい。上記斜度θは、試験コース2のフォールラインFLの下端と上端との水平方向離間距離Yに対する、この下端と上端との高度差Zの比を、100分率で示すものと定義されている。すなわち、θ = (Z/Y)×100%である。ここでいうフォールラインとは、斜面の傾斜が最大になる2地点を結んだ直線であり、最大傾斜線とも呼ぶ。
【0022】
この斜度θが、2%未満であれば、重力による供試タイヤ(以下、単にタイヤとも言う)Tに対する負荷が軽減されすぎ、複数の供試タイヤ間のマッド性能の差を検知するのが難しくなるおそれがある。また、雨天時等に試験コース2の水はけが悪くなり、試験の実施が可能な状態に戻るまでの時間が長くなる。一方、試験コース2の斜度が8%を超えると、供試タイヤTに対する負荷が大きすぎ、タイヤのマッド性能の差を検知するのが難しくなる。さらに、車両Mの登坂が難しくなり、試験を実施することができなくなるおそれがある。かかる観点から、斜度θは、3%以上5%以下がさらに好ましい。
【0023】
下地層は、土のみから構成されると軟弱となる。軟弱な下地層の試験コースは、試験路面が変化しやすい。そこで、上記下地層6は、土と軟弱地盤改良剤との混合物から構成されている。軟弱地盤改良剤としては、石灰系の土質固化剤が使用されている。この石灰系固化剤としては、例えば、小野田ケミコ社製のケミコ(登録商標)が採用可能である。土と石灰系固化剤との混合比率は、体積比で1:1が望ましい。軟弱地盤改良剤として、石灰系固化剤以外のものが使用される場合には、当該軟弱地盤改良剤に推奨されている混合比率とするのがよい。また、必ずしも軟弱地盤改良剤を使用することには限定されない。例えば、セメント系固化剤等も使用可能である。
【0024】
上記下地層6の厚さは30cm以上であるが好ましい。下地層6の厚さが30cm未満であると、試験路面4を整備する車両の重量に耐えることができないおそれがある。この場合、重機によって試験コース2の整備を行うことができない。下地層6の表面は、凹凸及びうねりが小さく、平坦であるのが好ましい。下地層6は、試験コース2の全体にわたって敷設されているのが好ましい。
【0025】
下地層6の上面に敷設された上記マッド層8の材料はとくに限定されない。本実施形態におけるマッドは、土砂と水とを含んでいる。マッド層8における土砂と水との混合は均一にされるのが望ましい。マッドの物性、特に硬さは路面全体にわたって均一であるのが好ましい。マッドの硬さは、例えば、マッドの上に落下した鋼球の食い込み(めり込み)量によって規定することができる。
【0026】
図3を参照しつつ、マッドの硬さの測定方法が以下に説明される。上記鋼球12の一例として、直径が8cm、重量が2.2kgの鋼球が挙げられる。鋼球12は、均一に且つ平坦に敷き詰められたマッド14の表面より高さHの上方から落下させられる。本実施形態では、この高さHは20cmである。このときの、マッド14への鋼球12の食い込み深さDが、4cm以上8cm以下であるのが好ましい。
【0027】
食い込み深さDが4cm未満である場合、これはマッドの水分量が少なすぎることを意味している。マッドの水分量が少なすぎると、もはやそれをマッドとは呼べなくなる。マッド性能を評価することができなくなる。食い込み深さDが8cmを超える場合、これはマッド層8の水分量が多すぎることを意味している。水分量が多すぎると、試験車両Mの車重のみによって供試タイヤTが下地層6に接してしまうおそれがある。この場合、供試タイヤTのマッド性能の評価が困難となる。
【0028】
マッドの硬さの測定方法は、上記鋼球12の落下によるものには限定されない。他の公知の方法を採用することも可能である。例えば、単管式ポータブルコーン試験機によって得られる地盤のコーン指数は、地盤の強さを表す上で、上記鋼球落下方式による結果と相関性を得ることは可能である。
【0029】
上記の物性を有するマッド層8の平均深さ(平均厚さ)は、3cm以上50cm以下であるのが好ましい。局所的にも、マッド層8の深さは1cm以上であるのが好ましい。マッド層8の平均深さが3cm未満であると、タイヤTが下地層6に接地するようになり、適正なマッド評価をすることができないおそれがある。一方、マッド層8の平均深さが50cmを超えると、タイヤTがマッド層8に深く埋まってしまい、走行が困難になるおそれがある。この場合、試験を続行することができなくなる。かかる観点からは、マッド層8の平均深さは、5cm以上25cm以下であるのがさらに好ましい。
【0030】
以上説明された特性を有する試験コース2は、タイヤTの試験環境の変化が抑制されうる。この試験コース2は、タイヤTの試験条件を再現するのが容易である。この試験コース2を使用したタイヤのマッド性能評価試験の方法が、以下に説明される。
【0031】
[走行試験]
このタイヤのマッド性能の評価試験は、供試タイヤTが装着された試験車両Mが、上記試験コース2を走行することによって行われる。試験車両Mとして、本実施形態では4輪駆動車が用いられている。4輪ともに同一仕様の供試タイヤTが装着される。試験車両は4輪駆動車には限定されない。この評価試験では、マッド路面における供試タイヤTの縦グリップ性能(前後グリップ性能)が、定量的に評価されうる。また、この評価試験においては、供試タイヤTの縦グリップ性能についての、定量的な評価と試験車両Mのドライバーによる官能評価との相関性を得ることが容易である。この相関性を得るために、官能評価試験も、定量評価試験が行われる上記試験コース2において行われてもよい。官能評価試験においても、上記試験コース2が用いられることにより、タイヤTの試験環境の変化が抑制されうる。
【0032】
上記定量評価では、試験車両Mが上記試験コース2上の一定区間Lを走行するタイムが測定される。このタイムが短いほど、当該供試タイヤTの縦グリップ性能が優れていると評価される。各供試タイヤTについて、要した上記タイムに基づいて複数段階のいずれかにランク付けされる。これが定量評価方法である。この試験において、試験車両Mは、試験コース2上を斜めに登坂する。
【0033】
図1に示されるように、試験車両Mの走行ルートRは直線状にされている。試験車両Mの走行のスタート地点は走行ルートRの傾斜の下端であり、ゴール地点は走行ルートRの傾斜の上端とされている。試験路面4上において、走行ルートRは、フォールラインFLに対して傾斜している。
【0034】
図4には、試験路面4上においてフォールラインFLに対して傾斜した走行ルートRに沿って走行する試験車両Mが示されている。このように、試験車両MがフォールラインFLに対して傾斜した方向に登坂することにより、通常は、後輪が傾斜下方にわずかにずれる。この後輪のズレにより、後輪のわだち(走行ライン)RWは、前輪のわだちFWからわずか下方にずれた部位に形成され、前輪のわだちFWと一致することが免れうる。すなわち、後輪は、マッド層8が剥がれている可能性のある前輪のわだちFWとの一致を、自動的に避けて走行しうる。後輪の供試タイヤTについても、前輪の供試タイヤTと同様に、適切な試験が実行され、適正な評価がなされうる。
【0035】
試験路面4上において、走行ルートRがフォールラインFLに対してなす角度αは、10°以上45°以下とされるのが好ましい。上記角度αが45°を超えると、直線的に登坂することが容易ではなくなり、ハンドルの操作角度も大きくなるおそれがある。この場合、供試タイヤTの横方向の動的特性が大きく影響してしまうため、縦グリップ性能を評価することが困難となるおそれがある。一方、走行ルートRのフォールラインFLに対してなす角度αが10°未満であると、後輪のわだちRWが前輪のわだちFWとほぼ一致する状態となる。その結果、後輪は、マッド層8の薄くなった部分を走行することとなり、下地層6と接触しやすくなる。この場合、後輪のタイヤTのマッド性能の評価が難しくなるおそれがある。かかる観点から、走行ルートRは、フォールラインFLに対して25°以上35°以下をなすのがさらに好ましい。
【0036】
試験車両Mの上記走行ルートR上の走行距離L、すなわち、前述したタイム測定のための一定区間Lは、8m以上15m以下とされるのが好ましい。走行距離Lが8m未満であると、供試タイヤT間の上記タイムの差が小さすぎ、マッド性能の評価精度が低くなるおそれがある。一方、走行距離Lが15mを超えると、広い試験コースが必要となる。かかる観点から、走行距離Lは、9m以上11m以下が特に好ましい。
【0037】
上記走行ルートRの下端において、試験車両Mは、静止状態(0km/h)から試験走行を開始する(加速する)のが好ましい。試験車両Mの初速(試験開始時の速度)を0km/hと規定することにより、供試タイヤT間で、初速の不一致が防止される。これにより、各供試タイヤTについて、安定した測定条件を設定することが可能になる。
【0038】
試験車両Mの試験走行が開始されると、ドライバーはハンドル操舵はしない。すなわち、ハンドルは固定される。ハンドル操舵がなされると、正確な縦グリップ性能を評価することができなくなるおそれがあるからである。アクセルの操作量は一定とする。エンジンの回転数は、2000rpm以上5000rpm以下とするのが好ましい。エンジンの回転数が上記下限値を下回ると、試験車両Mが試験コース2を登坂することが困難となるおそれがある。一方、エンジンの回転数が上記上限値を超えると、エンジンに対する負荷が高くなりすぎ、エンジン周辺に故障が発生するおそれがある。この場合、試験を続行することが困難になる。
【0039】
試験車両Mの変速ギアは、固定されるのが好ましい。変速ギアは、第1速(ファーストギア、ローギアともいう)に固定され、他のギア比には変更されないのが好ましい。変速ギアをセカンドギアにすると、トルク不足によって車両が登坂することが困難となるおそれがある。変速ギアをドライブギアにすると、同じくトルク不足となるおそれがあり、さらに、ギアを固定することができず、安定したテストを実施することができないおそれがある。
【0040】
以上説明された試験方法の実行により、タイヤTのマッド路面における縦グリップ性能が定量的に評価されうる。また、以上説明された走行ルートRの傾斜角度α、走行ルートR上の走行距離L、静止状態からの走行開始、ハンドル操作、アクセル操作量、変速ギア等の走行条件の再現は容易である。従って、この試験方法によれば、複数回の試験の繰り返しによっても、試験結果のバラツキは少なく且つ高精度なものとなりうる。この精度の確認は、同一仕様の供試タイヤTについて、複数回の走行を行ってそれぞれのタイムを比較することにより可能となる。このことは、後述する実施例により明らかである。
【0041】
[定量評価と官能評価との相関性]
タイヤTの縦グリップ性能の官能評価は、以上に説明された試験を行うことによっても可能である。この場合、官能評価試験は、前述した走行ルートRの傾斜角度α、走行ルートR上の走行距離L、静止状態からの走行開始、ハンドル操作、アクセル操作量、変速ギア等の走行条件に従って行われる。ただし、この官能評価試験では、試験車両Mが上記試験コース2上の一定区間Lを走行するタイムを測定する必要はない。官能評価では、試験車両Mのドライバーが、タイヤTがスリップしているときの前後Gを、官能により、各供試タイヤTについて複数段階にランク付けする。これがタイヤの縦グリップの官能評価である。
【0042】
前述したとおり、定量評価試験では、供試タイヤTは、試験車両Mが試験コース2上の一定区間Lを走行するのに要したタイムに基づいて複数段階のいずれかにランク付けされる。上記官能評価試験においても、供試タイヤTは、その前後Gを、ドライバーの官能によって複数段階のいずれかにランク付けされる。同一仕様の供試タイヤTについて、上記官能評価によるランクと上記定量評価によるランクとを対比することにより、両評価間の相関性が評価されうる。これは、以下の実施例により明らかである。以上の説明は、官能評価と定量評価との相関性評価の一例である。従って、この方法には限定されない。
【実施例】
【0043】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0044】
[実施例1]
実施例1として、前述した試験コース2を用いて行うタイヤのマッド性能の定量評価試験が実施された。同一の試験コース2において、タイヤのマッド性能の官能評価試験も実施された。試験コース2は、表1に示されるとおり、その下地層6が土と軟弱地盤改良剤(石灰系固化剤)との混合物からなる。試験路面4は傾斜している。マッド層8の深さは5cmである。マッド層8のマッドの物性(硬さ)は、前述した鋼球12の落下により、マッド14への食い込み量が4cm以上8cm以下の範囲であった。4輪駆動の試験車両Mの4輪ともに同一仕様の供試タイヤTが装着された。試験車両Mの走行は、上記試験路面4をフォールラインFLから傾斜した方向に登坂するものである。試験車両Mの変速ギアは第1速に固定され、アクセル操作量も一定量に固定された。試験車両Mは、停止状態(0km/h)から走行を開始した。以上のごとく、試験条件は、全て前述した好ましい範囲内にあったので、○印で示されている。試験走行距離Lは10mである。試験車両Mは、供試タイヤTを変更せずに、5回走行した。定量評価のために、各走行における試験走行距離L(10m)を走行するのに要したタイムが測定された。定量評価された項目は、同一条件で5回繰り返された走行のタイムのバラツキ(精度)である。また、この定量評価と官能評価との相関性も評価された。これらの評価は指数によって表1に示されている。数値が大きいほど好ましい。
【0045】
[実施例2]
実施例2として、試験コース2を用いて行うタイヤのマッド性能の定量評価試験が実施された。同一の試験コース2において、タイヤのマッド性能の官能評価試験も実施された。表1に示されるとおり、マッドの物性を除く試験コースの構成、及び、走行条件におけるスタート状態については、実施例1と同一である。また、走行距離L及び走行回数は実施例1と同じである。その他の項目は、前述した好ましい条件を充足していないので、×印で示されている。すなわち、マッドの物性は、食い込み量が8cmを超えて軟弱である。試験車両Mの走行は、フォールラインFLに沿っている。変速ギアは、D(ドライブ)レンジである。アクセル操作量は、最も早く走行するようにドライバーが変化させた。試験の繰り返しによる結果の精度評価、及び、定量評価と官能評価との相関評価は、表1に示されるとおりである。
【0046】
[実施例3]
実施例3として、試験コース2を用いて行うタイヤのマッド性能の定量評価試験が実施された。同一の試験コース2において、タイヤのマッド性能の官能評価試験も実施された。表1に示されるとおり、試験コースの構成、及び、走行条件におけるスタート状態については、実施例1と同一である。また、走行距離L及び走行回数は実施例1と同じである。その他の項目は、前述した好ましい条件を充足していないので、×印で示されている。すなわち、試験車両Mの走行は、フォールラインFLに沿っている。変速ギアは、Dレンジである。アクセル操作量は、最も早く走行するようにドライバーが変化させた。試験の繰り返しによる結果の精度評価、及び、定量評価と官能評価との相関評価は、表1に示されるとおりである。
【0047】
[実施例4]
実施例4として、試験コース2を用いて行うタイヤのマッド性能の定量評価試験が実施された。同一の試験コース2において、タイヤのマッド性能の官能評価試験も実施された。表1に示されるとおり、試験コースの構成、並びに、走行条件におけるフォールラインから傾斜したルートの登坂、及び、スタート状態については、実施例1と同一である。また、走行距離L及び走行回数は実施例1と同じである。その他の項目は、前述した好ましい条件を充足していないので、×印で示されている。すなわち、試験車両Mの変速ギアは、Dレンジである。アクセル操作量は、最も早く走行するようにドライバーが変化させた。試験の繰り返しによる結果の精度評価、及び、定量評価と官能評価との相関評価は、表1に示されるとおりである。
【0048】
[実施例5]
実施例5として、試験コース2を用いて行うタイヤのマッド性能の定量評価試験が実施された。同一の試験コース2において、タイヤのマッド性能の官能評価試験も実施された。表1に示されるとおり、試験コースの構成、及び、アクセル操作量を除く走行条件については、実施例1と同一である。また、走行距離L及び走行回数は実施例1と同じである。その他の項目は、前述した好ましい条件を充足していないので、×印で示されている。すなわち、アクセル操作量は、最も早く走行するようにドライバーが変化させた。試験の繰り返しによる結果の精度評価、及び、定量評価と官能評価との相関評価は、表1に示されるとおりである。
【0049】
[比較例1]
比較例1として、上記試験コース2を用いずに、タイヤのマッド性能の定量評価試験が実施された。同一のコースにおいて、タイヤのマッド性能の官能評価試験も実施された。表1に記載のとおり、試験コースの構成及び走行条件の全てが、好ましい条件を充足していない。全ての項目が、×印で示されている。このコースの下地層は、石灰系固化剤が混合されていない土から形成されている。試験路面は傾斜しておらず、略水平である。マッド層の平均深さは2cm以下であり、0cmの部分も存在した。マッドの物性は、食い込み量が8cmを超えて軟弱である。試験車両Mの走行ルートは略水平である。試験車両Mの試験走行開始時の速度が0kmを超えて10km/h以下の範囲であった。変速ギアは、Dレンジである。アクセル操作量は、最も早く走行するようにドライバーが変化させた。走行距離L及び走行回数は実施例1と同じである。試験の繰り返しによる結果の精度評価、及び、定量評価と官能評価との相関評価は、表1に示されるとおりである。
【0050】
[比較例2]
比較例2として、上記試験コース2を用いずに、タイヤのマッド性能の定量評価試験が実施された。同一のコースにおいて、タイヤのマッド性能の官能評価試験も実施された。表1に記載のとおり、試験コースの下地層、及び、走行条件のスタート状態については、実施例1と同一である。その他の項目は、前述した好ましい条件を充足していないので、×印で示されている。このコースの試験路面は傾斜しておらず、略水平である。マッド層の平均深さは2cm以下であり、0cmの部分も存在した。マッドの物性は、食い込み量が8cmを超えて軟弱である。試験車両Mの走行ルートは略水平である。試験車両Mの試験走行開始時の速度が0kmを超えて10km/h以下の範囲であった。変速ギアは、Dレンジである。アクセル操作量は、最も早く走行するようにドライバーが変化させた。走行距離L及び走行回数は実施例1と同じである。試験の繰り返しによる結果の精度評価、及び、定量評価と官能評価との相関評価は、表1に示されるとおりである。
【0051】
[比較例3]
比較例3として、上記試験コース2を用いずに、タイヤのマッド性能の定量評価試験が実施された。同一のコースにおいて、タイヤのマッド性能の官能評価試験も実施された。表1に記載のとおり、下地層及び試験路面の傾斜、並びに、走行条件のスタート状態については、実施例1と同一である。その他の項目は、前述した好ましい条件を充足していないので、×印で示されている。このコースのマッド層の平均深さは2cm以下であり、0cmの部分も存在した。マッドの物性は、食い込み量が8cmを超えて軟弱である。試験車両Mの走行は、フォールラインFLに沿っている。試験車両Mの試験走行開始時の速度が0kmを超えて10km/h以下の範囲であった。変速ギアは、Dレンジである。アクセル操作量は、最も早く走行するようにドライバーが変化させた。走行距離L及び走行回数は実施例1と同じである。試験の繰り返しによる結果の精度評価、及び、定量評価と官能評価との相関評価は、表1に示されるとおりである。
【0052】
【表1】
【0053】
[試験結果の評価]
定量評価試験の精度に関しては、5回の繰り返し走行の結果、各走行に要したタイムのバラツキが、指数によって示されている。指数は、バラツキのない100を最高点として、5点単位で付与されている。縦グリップ性能についての定量評価と官能評価との相関性に関しては、前述のとおり、同一仕様のタイヤについての定量評価ランクと官能評価ランクとの対比によって行われた。評価指数は、ランクが完全に一致する100を最高点として、10点単位で付与されている。表1に示された評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上説明された試験コース及び試験方法は、タイヤの開発、そのためのテスト結果の評価等に適用されうる。
【符号の説明】
【0055】
2・・・試験コース
4・・・試験路面
6・・・下地層
8・・・マッド層
12・・・鋼球
14・・・マッド
FL・・・フォールライン
FW・・・前輪のわだち
RW・・・後輪のわだち
M・・・試験車両
R・・・走行ルート
T・・・タイヤ
α・・・フォールラインに対する走行ルートの傾斜角度
θ・・・試験路面の斜度