【実施例】
【0020】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1のクラッシュボックス10は、サイドメンバー12Rとバンパービーム14の右端部との間に配設されて使用されるもので、本発明の車両用衝撃吸収部材に相当する。
図1のバンパービーム14は、車両の右側半分を示す平面図で、左側半分は中心線を挟んで対称的に構成される。クラッシュボックス10は、基本断面形状が
図2に示すように扁平な八角形の閉断面の筒形状を成している本体部22と、その本体部22の軸方向(軸心aの方向)の両端部にそれぞれ一体的に溶接固定された一対の取付プレート24、26とを備えており、本体部22の軸心aが車両の前後方向と略平行となる姿勢でサイドメンバー12Rとバンパービーム14との間に配設され、取付プレート24、26を介して図示しないボルト等によりそれ等のサイドメンバー12R、バンパービーム14に一体的に固定される。
図1は、クラッシュボックス10の配設態様を示す概略平面図である。また、
図2は、クラッシュボックス10の軸方向と直角な断面形状を示す図で、
図1におけるII−II矢視部分の断面図である。
【0021】
上記本体部22の軸方向の両端縁のうちサイドメンバー12R側すなわち取付プレート24側の端縁は、本体部22の軸心に対して直角で、取付プレート24もその端縁の全周に亘って密着するように軸心aに対して略直角に設けられており、サイドメンバー12Rの前端面に密着するように固設される。一方、バンパービーム14側すなわち取付プレート26側の端縁は、バンパービーム14の形状に対応して、バンパービーム14の端部に向かうに従って車体側へ後退するように、本体部22の軸心aに対して直角な方向から傾斜させられているとともに、取付プレート26もその端縁の全周に亘って密着するように本体部22の軸心aに対して傾斜するように設けられており、バンパービーム14に密着するように固設されている。そして、車両前方から衝撃が加えられて圧縮荷重を受けると、軸方向に蛇腹状に圧壊させられ、この時の変形で衝撃エネルギーを吸収し、サイドメンバー12R等の車両の構造部材に加えられる衝撃を緩和する。
【0022】
上記本体部22は、
図2に示すように、軸心aに対して直角な断面が、凹溝部32、33に隣接する2つの辺を直線で補間して得られる左右両側の一対の長辺を有する長手形状、すなわち上下に長い長方形の4つの角部に平面取りを施した八角形状を基本形状としており、全体として8の字形状乃至瓢箪形状の断面形状を成している。すなわち、その基本形状の長辺を構成している略垂直で互いに平行な一対の幅広側壁30、31と、その幅広側壁30、31の上下の両端からそれぞれ内側へ斜めに傾斜するように設けられた4箇所の傾斜側壁34、35と、基本形状の短辺を構成するように長手方向(長軸A方向)の両端に長手方向と直角に設けられて傾斜側壁34、35と接続している略水平で互いに平行な一対の幅狭側壁36、37とを備えている。そして、幅広側壁30、31の幅方向の中央部分、すなわち
図2における上下方向の中央の略水平な短軸B部分には、長軸Aに対して対称的にそれぞれ筒形状の内側へV字状に凹む一対の凹溝部32、33が、軸心aと平行に筒形状の本体部22の軸方向の全長に亘って設けられている。長軸Aは、長手状断面の長手方向の中心線、すなわち上下両端の幅狭側壁36、37の中点を通る軸で、短軸Bは、長手状断面の幅方向の中心線、すなわち左右両側の長辺の中点を通る軸である。また、軸心aは、これ等の長軸Aと短軸Bとの交点である。上記幅広側壁30、31は、車幅方向に隔てた左右両側の一対の側壁に相当する。
【0023】
上記一対の幅狭側壁36、37の上下方向の外側には、それぞれ筒形状の本体部22の軸方向の全長に亘ってそれぞれ一対の翼状フランジ38、39が一体に設けられている。この翼状フランジ38、39は、
図2に示す本体部22の軸直角断面において、幅狭側壁36、37の左右の両端部分から上下方向の外側へ僅かに突き出すとともに、幅狭側壁36、37と平行に互いに反対方向へ延び出すように設けられている。これらの翼状フランジ38、39の両端(外端)までの幅寸法(間隔)は、筒形状の車幅方向の外側面すなわち幅広側壁30、31の外面までの幅寸法(間隔)と略同じ寸法とされている。
【0024】
本体部22にはまた、筒形状の内部であって前記凹溝部32、33を挟んで上下に隔てた部分に、左右の幅広側壁30、31を連結するように一対の平板状の隔壁40、42が設けられている。これ等の隔壁40、42は、本体部22の軸方向において軸心aと平行で、且つ本体部22の軸方向の全長に亘って設けられている。また、
図2に示す本体部22の軸直角断面において、凹溝部32、33によって上下に分断された幅広側壁30、31の各々の中点を通る中間軸C、Dと長軸Aとの交点b、cを通るように設けられているとともに、車幅方向の車両内側(
図2における左方向)へ向かうに従って相互の間隔が狭くなるように、上側の隔壁40は下方へ傾斜させられ、下側の隔壁42は上方へ傾斜させられている。隔壁40、42の水平方向(中間軸C、D)に対する傾斜角度θの絶対値〔θ〕は互いに等しく、水平方向に対して対称的に傾斜させられており、隔壁40、42が短軸Bを挟んで対称的に設けられているとともに、その傾斜角度θは0°<〔θ〕≦20°の範囲内で定められている。また、傾斜角度θの絶対値〔θ〕は、幅広側壁30、31に連結できる最大角度αの絶対値〔α〕以下で、両端部が何れも幅広側壁30、31に連結されるようになっている。本実施例では最大角度αの絶対値〔α〕が20°で、傾斜角度θの絶対値〔θ〕は10°である。
【0025】
このような本体部22は、本実施例ではアルミニウム合金の押出し成形加工により一体に構成されており、前記翼状フランジ38、39や隔壁40、42と共に略一定の板厚寸法で一体成形されている。そして、このように構成されたクラッシュボックス10は、一対の幅広側壁30、31が車幅方向の両側に位置し、長軸Aが車両の上下方向と略平行になる姿勢で、前記サイドメンバー12Rとバンパービーム14との間に配設されて使用される。
【0026】
このようなクラッシュボックス10によれば、一対の平板状の隔壁40、42が、車幅方向の両側の幅広側壁30、31を連結するように凹溝部32、33を挟んで上下に隔てて設けられているとともに、その一対の隔壁40、42は車幅方向の車両内側へ向かうに従って相互の間隔が狭くなるように傾斜させられているため、車両の斜め外側から加えられる衝撃荷重に対する耐横倒れ性能が向上する。これにより、車両の斜め横方向から衝撃荷重が加えられてモーメント荷重M(
図4参照)が生じる場合でも、その一対の隔壁40、42の存在で横倒れが抑制されて優れた衝撃吸収性能が安定して得られるようになる。特に、本実施例では一対の幅狭側壁36、37にそれぞれ翼状フランジ38、39が一体に設けられているため、斜め横方向からの衝撃荷重に対する耐横倒れ性能が一層向上し、優れた衝撃吸収性能が一層安定して得られる。
【0027】
また、凹溝部32、33を挟んで上下に隔てて一対の隔壁40、42が設けられ、その隔壁40、42の両端部がそれぞれ幅広側壁30、31に一体に連結されるため、凹溝部32、33による蛇腹状の圧壊特性を損なうことなく耐横倒れ性能を向上させることができ、優れた衝撃吸収性能が一層安定して得られる。
【0028】
また、本実施例のクラッシュボックス10はアルミニウム合金の押出し成形加工によって一体に成形されるが、一対の隔壁40、42は、それぞれ本体部22の軸心aと平行に設けられているとともに、水平方向に対する傾斜角度θの絶対値〔θ〕が何れも0°<〔θ〕≦20°の範囲内であるため、押出し成形性を確保しつつ耐横倒れ性能を向上させることができる。
【0029】
また、一対の隔壁40、42が水平方向に対して対称的に傾斜させられ、短軸Bを挟んで対称的に設けられているため、一対の隔壁40、42に略均等にモーメント荷重M等が作用するようになり、耐横倒れ性能を適切に向上させることができる。
【0030】
ここで、
図4は、
図3の衝突バリア50によるオフセット衝突試験で、傾斜した衝突面52により荷重Fが斜めに作用してクラッシュボックス10に車両の内側へ向かう内向き(
図4における左まわり)のモーメント荷重Mが発生する場合で、車両の幅方向に延びる翼状フランジ38、39に加えて一対の隔壁40、42が設けられることにより、モーメント荷重Mによる横倒れが効果的に抑制される。
【0031】
また、
図5〜
図9は、
図3のオフセット衝突試験においてバリア角度γ=0°、β1、β2、β3、およびβ4(0°<β1<β2<β3<β4)の場合について、車速V1=16km/hの条件でオフセット衝突試験を行って圧壊過程をFEM解析によりシミュレートして得られた圧縮ストロークに対する軸圧壊荷重(実線)および吸収エネルギー(破線)の変化特性を、本発明品(隔壁有り)および従来品(隔壁無し)について比較して示した図である。また、
図10は、バリア角度γ=β1、β2、β3、およびβ4の場合について、上記シミュレーション結果に基づいて本発明品および従来品の変形状態を一定の時間間隔で9段階で示した図である。このシミュレーション結果から、バリア角度γ=β2までは、本発明品、従来品共に横倒れしないが、バリア角度γがβ3以上になると耐横倒れ性能の性能差が明確に現れる。すなわち、バリア角度γ=β3では従来品のみに横倒れが発生し、
図8における圧縮ストロークST1で横倒れが開始した。
図10の従来品(左欄)におけるバリア角度γ=β3の欄の第6段階は、この横倒れ開始時である。バリア角度γ=β4では本発明品、従来品共に横倒れが発生するが、従来品は
図9の圧縮ストロークST1で横倒れが開始するのに対し、本発明品は圧縮ストロークST1よりも大きい圧縮ストロークST2で横倒れが開始し、従来品よりも優れた耐横倒れ性能が得られることが分かる。
図10のバリア角度γ=β4の従来品の欄の第5段階が横倒れ開始時で、本発明品の欄の第6段階が横倒れ開始時である。なお、
図5〜
図9の吸収エネルギー(破線)の変化特性から明らかなように、本発明品は一対の隔壁40、42の存在による断面増加で、何れのバリア角度においても圧縮ストロークの全域で従来品よりも優れた衝撃吸収性能が安定して得られる。
【0032】
なお、前記実施例のクラッシュボックス10は、一対の隔壁40、42が水平方向に対して対称的に傾斜させられ、短軸Bを挟んで対称的に設けられていたが、例えば
図11のクラッシュボックス60のように、一対の隔壁62、64を水平方向に対して非対称に設けることも可能である。この実施例では、上側の隔壁62の傾斜角度θの絶対値〔θ〕は最大角度αの絶対値〔α〕(=20°)と同じであるのに対し、下側の隔壁64の傾斜角度θの絶対値〔θ〕は最大角度αの絶対値〔α〕よりも小さく、〔θ〕=10°である。
【0033】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。