(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような、従来の注入口付アンカーピンでは、注入口から挿入した打込み工具により拡張コーンを打ち込むようにしているが、拡張コーンを打ち込むと、拡張コーンと拡開部の内周面との摩擦により、アンカー本体にも打ち込みの衝撃が加わることになる。ところで、フランジ部がザグリ穴内で浮いてしまわないように、且つ穿孔工具の目減り(ビットの目減り)を考慮して、挿入した注入口付アンカーピンの先端と挿填穴の穴底との間に、3〜10mm程度のクリアランスが設けられる。このため、拡張コーンの打込みに際し、アンカー本体も間接的に打ち込まれ、フランジ部を介して、挿填穴の周囲に打込み衝撃が加わることになる。
したがって、この打込み衝撃により、ザグリ穴を中心にタイルにひび割れが生じ(モルタル仕上げの場合には、モルタルに割れが生じ)、施工不良となる問題があった。また、張付けモルタルが薄い場合(例えば、コンクリート直張り工法)では、打込み衝撃により、モルタルが破壊される問題や、「浮き」が閉じてしまって「浮き」に接着剤を注入することができなくなる問題があった。
【0006】
本発明は、拡張コーンの打込みに際し、仕上げ材の破損や「浮き」が閉じてしまうことのない注入口付アンカーピン、これを用いたピンニング工法およびネットバリヤー工法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の注入口付アンカーピンは、仕上げ材を貫通してコンクリート躯体に穿孔した挿填穴にアンカリングされる注入口付アンカーピンであって、先端側に拡開部を有し、挿填穴にアンカリングされる筒状アンカーと、筒状アンカーに打ち込まれ、拡開部を押し広げる拡張コーンと、拡開部の内周面に添設された拡張カラーと、を備え、拡開部は、打ち込んだ拡張コーンにより
押し広げられた拡張カラーを介して押し広げられることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、拡張コーンの打込み初期において、拡張コーンと拡張カラーとの摩擦により、拡張カラーが挿填穴の穴底に突き当たる。さらに、拡張コーンの打込みが進むと、拡張コーンが喰い込んで拡張カラーが拡開し、同時に拡張カラーから拡開力を受けて拡開部が拡開する。拡開した拡開部は、挿填穴の内周面に圧接されてアンカリングが為される。
このように、拡開部が拡開するときには、拡張カラーが挿填穴の穴底に突き当っているため、拡張コーンが打ち込まれても筒状アンカーが前進することがない。すなわち、拡張コーンの打込みに際しその打込み衝撃は、拡張カラーを介して挿填穴の穴底に吸収されるため、筒状アンカーに作用することがない。したがって、仕上げ材が破損し、或いは仕上げ材に生じた「浮き」が閉じてしまうことがない。また、拡開部は、拡張カラーにより、広がり難い基部側に拡開力を受けて広がるため、挿填穴に対し拡開部全体が圧接されグリップ力を発揮する。したがって、引抜き強度を高め得ることができる。
【0009】
この場合、拡張カラーの先端部が、筒状アンカーの先端から突出していることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、注入口付アンカーピンを挿填穴に装填した段階で、すなわち拡張コーンの打込み作業を開始する前に、拡張カラーを挿填穴の穴底に突き当てておくことができる。したがって、穿孔された挿填穴の深さ精度が甘くても、注入口付アンカーピンを適切にアンカリングすることができる。
【0011】
また、拡張カラーは、拡張コーン側から切り込んだ複数のスリット部を有していることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、複数のスリット部で区画された拡張カラーにおける拡張コーン側の各部を放射状に拡開させることができる。したがって、拡張カラーにより拡開される拡開部を適切に拡開させることができ、アンカリングを安定させることができる。
【0013】
さらに、拡張カラーは、軸方向において拡開部より長い寸法に形成されていることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、挿填穴に突き当てた拡張カラーを介して拡開部を適切に拡開させることができ、アンカリングを安定させることができる。
【0015】
本発明のピンニング工法は、上記した注入口付アンカーピンを用いて、仕上げ材およびコンクリート躯体から成る壁体を補修するピンニング工法であって、壁体の要補修箇所に対し、仕上げ材を貫通してコンクリート躯体に前記挿填穴を穿孔する穿孔工程と、穿孔した挿填穴に、注入口付アンカーピンを挿填する挿填工程と、挿填した注入口付アンカーピンの拡張コーンを打ち込むアンカリング工程と、注入口付アンカーピンを介して、挿填穴に接着剤を注入する接着剤注入工程と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、アンカリング工程における拡張コーンの打ち込みに際し、拡張カラーの作用により、仕上げ材が破損し、或いは仕上げ材に生じた「浮き」が閉じてしまうことのない。したがって、仕上げ材の破損を防止することができると共に、仕上げ材等に生じた「浮き」に接着剤を確実に注入することができる。
【0017】
この場合、穿孔工程と挿填工程との間に、挿填穴の穴底部に拡径部を形成する拡径工程を、更に備えることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、拡開した拡開部は、拡径部の内周壁に圧接される。すなわち、注入口付アンカーピンは、拡径部にアンカリングされることになる。したがって、注入口付アンカーピンの引抜き強度を格段に高めることができる。
【0019】
本発明のネットバリヤー工法は、上記した注入口付アンカーピンを用いて、装飾材、張付け材およびコンクリート躯体から成る壁体を補修するネットバリヤー工法であって、壁体に対し、装飾材および張付け材を貫通してコンクリート躯体に複数の挿填穴を穿孔する穿孔工程と、壁体の表面に、下地調整剤を塗布する調整剤塗布工程と、下地調整剤上に、ネット張付け剤を介してネットを張り付けるネット張り工程と、各挿填穴に対し、注入口付アンカーピンを打ち込むと共に注入口から接着剤を注入して、ネットを押さえるネット固定工程と、ネット上に張付け材を介して新たに装飾材を張る装飾材張り工程と、を備えたことを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、挿填穴に打ち込んだ注入口付アンカーピンにより、ネットを押え得るだけでなく、注入口付アンカーピンを介して、コンクリート躯体に装飾材および張付け材をアンカリングすることができる。したがって、新たに設ける装飾材(および張付け材)の下地を強固なものとすることができ、地震等による下地の脱落に伴う、新装飾材の脱落を有効に防止することができる。
【0021】
この場合、穿孔工程と調整剤塗布工程との間に、挿填穴の穴底部に拡径部を形成する拡径工程を、更に備えることが好ましい。
【0022】
この構成によれば、拡開した拡開部は、拡径部の内周壁に圧接される。すなわち、注入口付アンカーピンは、拡径部にアンカリングされることになる。したがって、注入口付アンカーピンの引抜き強度を格段に高めることができ、新たに設ける装飾材(および張付け材)の下地を、強固なものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して、本発明の一実施形態に係る注入口付アンカーピン、これを用いたピンニング工法およびネットバリヤー工法について説明する。このピンニング工法は、いわゆる注入口付アンカーピンニング工法であり、既設建物の外壁や吹き抜け・ホールの内壁等の壁体に生じた浮き部(「浮き」)を補修するものである。実施形態のものは、外壁の要補修箇所(浮き部)に穿孔した挿填穴に、仕上げ材を押さえるように注入口付アンカーピンを打ち込むと共に接着剤を注入して、外壁の補修を行うようにしている。
【0025】
一方、ネットバリヤー工法は、浮き部やクラックが生じた既設の外壁(壁体)に、ネットを介して仕上げ材を新たに張り付けるものであり、仕上げ材の張り付けに先立って、外壁に穿孔した複数の挿填穴に、ネットを押さえるように注入口付アンカーピンを打ち込むようにしている。
【0026】
図1は、実施形態に係るピンニング工法の施工状態を表した断面図であり、
図2は、実施形態に係るネットバリヤー工法の施工状態を表した断面図である。両図に示すように、既設の外壁1は、例えばコンクリート躯体2と仕上げ材3とから成り、仕上げ材3は、下地モルタル4、張付けモルタル5および装飾材であるタイル6により構成されている。この場合、装飾材は石材等であってもよいし、モルタルは、張付けモルタル5のみ或いは3層以上であってもよい。
【0027】
ここでは、コンクリート躯体2と下地モルタル4との間に第1浮き部7が、また張付けモルタル5とタイル6との間に第2浮き部8が生じているものとする。そして、外壁1には、これを補修すべく、タイル6、張付けモルタル5および下地モルタル4を貫通し、且つコンクリート躯体2を所定の深さまで穿孔した挿填穴10が形成される。
【0028】
ピンニング工法では、穿孔した挿填穴10に対し、注入口付アンカーピン20を打ち込むと共に、接着剤Rを注入することにより、外壁1の補修が行われる(詳細は、後述する)。なお、ピンニング工法用の挿填穴10には、注入口付アンカーピン20を目立たないよう埋没させるべく、その開口部(タイル6)にザグリ穴11が形成されている。
【0029】
ネットバリヤー工法では、外壁1の壁面にネット13を張り、このネット13を押さえるように挿填穴10に注入口付アンカーピン20を打ち込んで、新たに張る新タイル14のための下地を作る(詳細は、後述する)。なお、両工法において、挿填穴10は、仕上げ材3を貫通してコンクリート躯体2に対し、20〜30mm程度の深さに穿孔される。
【0030】
図3は、これらピンニング工法およびネットバリヤー工法に用いる注入口付アンカーピンの構造図であり、
図4は、拡張コーンおよび拡張カラーの斜視図である。
図1ないし
図4に示すように、注入口付アンカーピン20は、先端側に拡開部22を有し、挿填穴10にアンカリングされる筒状アンカー21と、筒状アンカー21に打ち込まれ、拡開部22を押し広げる拡張コーン23と、拡開部22と拡張コーン23との間に介設された拡張カラー24と、を備えている。筒状アンカー21を挿填穴10に挿入した状態で、拡張コーン23を打ち込むことにより、拡張カラー24を介して拡開部22を押し広げられ、注入口付アンカーピン20が挿填穴10にアンカリングされる。
【0031】
筒状アンカー21は、薄肉筒状の本体筒状部26と、本体筒状部26の基端に連なる鍔部27と、本体筒状部26の先端に連なる拡開部22とを有し、ステンレス等で一体に形成されている。拡開部22は、軸方向に複数の絞り部を有して凹凸形状に形成され、拡開状態で、挿填穴10の内周壁に圧接される。本体筒状部26と拡開部22とは同径に形成され、挿填穴10より1〜2mm程度細径に形成されている。なお、拡開部22は、外周面にローレット加工を施した形態であってもよいし、本体筒状部26をそのままストレートに延長した形態であってもよい。
【0032】
鍔部27は、タイル6に形成されたザグリ穴11に嵌合する部分であり、ザグリ穴11と略同径に形成されている。ザグリ穴11は、タイル6の厚みの1/2程度の深さに形成され、鍔部27は、ザグリ穴11の穴底に着座して、タイル6に埋め込まれる(詳細は、後述する)。なお、接着剤Rを注入するときに、ザグリ穴11と鍔部27との間から接着剤Rが漏れ出ないように、鍔部27の外周面に、ゴムや塩ビ製等のシール部材を設けておくことが好ましい。
【0033】
また、筒状アンカー21には、拡開部22の先端から本体筒状部26の一部先端側まで切り込んだ2つの割スリット28と、本体筒状部26に形成した2つの連通スリット29とが設けられている。2つの割スリット28は、周方向において180°点対称位置に配設され、拡開部22の径方向外側への拡開を許容する。同様に、2つの連通スリット29は、周方向において180°点対称位置に配設され、注入口21aから供給された接着剤Rを、挿填穴10を介して第1浮き部7および第2浮き部8に導く。
【0034】
なお、割スリット28および連通スリット29の数は任意である。また、筒状アンカー21は、割スリット28および連通スリット29の部分を境に2つ割り構造とし、溶接等により一体に形成するようにしてもよい。すなわち、プレス成形により、半割り構造の筒状アンカー21を形成し、これを突合せ溶接して一体に形成するものであってもよい。
【0035】
拡張コーン23は、ステンレス等により、先細りのテーパー形状に形成されている。拡張コーン23の先端部は、拡張カラー24の基端部に嵌め込まれており、この状態で、拡張コーン23および拡張カラー24は、拡開部22に装着されている。拡張コーン23を打ち込むと拡張カラー24が拡開し、拡張カラー24が拡開することにより拡開部22が拡開するようになっている(
図6(a)参照)。なお、本実施形態では、注入口付アンカーピン20の内部において、拡張コーン23の先端部を拡張カラー24に嵌め込んだ状態としているが、必ずしも嵌め込んでおく必要はない。但し、かかる場合には、拡張コーン23の先端部を面取り形状としておくことが好ましい。
【0036】
拡張カラー24は、ステンレス等により円筒状に形成され、拡張コーン23側から切り込んだ複数のスリット部31を有している。実施形態のものは、周方向に等間隔に4つのスリット部31を有しており、各スリット部31は基端側から全長の略2/3の位置まで延びている。また、拡張カラー24は、軸方向において拡開部22より長い寸法に形成され、その先端部を拡開部22(筒状アンカー21)の先端から突出させた状態で、拡開部22に嵌合するように装着されている。なお、任意の1のスリット部31を拡張カラー24の先端まで延長し、拡張カラー24の持つばね力を利用して拡開部22に嵌合装着するようにしてもよい。
【0037】
拡張コーン23は、拡張カラー24に嵌め込んで或いはこの状態で弱く接着して、拡張カラー24に装着されていることが好ましい。また、拡張カラー24は、拡開部22に嵌め込んで或いはこの状態で弱く接着して、拡開部22に装着されていることが好ましい。もちろん、注入口付アンカーピン20を挿填穴10に挿入する直前に、拡張コーン23および拡張カラー24を装着してもよい。
【0038】
一方、挿填穴10は、挿入した注入口付アンカーピン20の鍔部27がザグリ穴11の穴底に着座するように、また後述するダイヤモンドコアビット42の目減りを考慮し、穴底と筒状アンカー21の先端との間にクリアランスが生ずる深さに穿孔されている。したがって、注入口付アンカーピン20を挿填穴10に挿入すると、筒状アンカー21の先端から突出している拡張カラー24が、挿填穴10の穴底に突き当たるようになっている。
【0039】
具体的には、注入口付アンカーピン20を挿填穴10に挿入した後、鍔部27を軽く叩いてザグリ穴11の穴底に着座させると、拡張カラー24が、挿填穴10の穴底に突き当たると共に僅かに基部側にスライドして穴底への当接状態を維持する(
図5(c)参照)。もっとも、上記のクリアランスが大きい場合には、拡張コーン23の打込み初期において、拡張カラー24は先端側にスライドして穴底に突き当たる。
【0040】
このように構成された注入口付アンカーピン20は、ピンニング工法およびネットバリヤー工法に共通して用いられるが、
図1に示すように、ピンニング工法に用いられる注入口付アンカーピン20には、更に化粧キャップ33が設けられている。化粧キャップ33は、挿填穴10の開口部(ザグリ穴11)と同径に形成した円板状のキャップ本体34と、筒状アンカー21(注入口21a)に嵌合する嵌合装着部35と、で一体に形成されている。
【0041】
そして、キャップ本体34の表面には、タイル6と同色の焼付け塗装が施されている。嵌合装着部35を注入口21aに嵌合するようにして化粧キャップ33を装着すると、キャップ本体34がザグリ穴11に嵌合し、且つキャップ本体34の表面とタイル6の表面とが面一となる。これにより、化粧キャップ33は、タイル6と同化し目立ち難いものとなる。
【0042】
一方、
図2に示すように、ネットバリヤー工法に用いられる注入口付アンカーピン20は、後述するように鍔部27に座金状の押え板65を添設するか、鍔部27を大きく形成し(大径)、押え板65を兼ねる構造としてもよい。
【0043】
ここで、
図5および
図6を参照して、注入口付アンカーピン20を用いたピンニング工法について説明する。このピンニング工法は、外壁1の要補修箇所に挿填穴10を穿孔する穿孔工程(
図5(a))と、挿填穴10の穴底部に拡径部15を形成する拡径工程(
図5(b))と、挿填穴10に注入口付アンカーピン20を挿填する挿填工程(
図5(c))と、拡張コーン23を打ち込むアンカリング工程(
図6(a))と、注入口21aを介して、挿填穴10に接着剤Rを注入する接着剤注入工程(
図6(b))と、化粧キャップ33を装着するキャッピング工程(
図6(c))と、を備えている。なお、穿孔工程に先立って、外壁1を打鍵して挿填穴10の穿孔位置(浮き部)を探知し、該当箇所のタイル6の中心位置にマーキングを行っておく。
【0044】
図5(a)の穿孔工程では、穿孔装置41を用いて挿填穴10を穿孔する。穿孔装置41は、電動ドリル(図示省略)に、補助ビット43付きのダイヤモンドコアビット42を装着して構成されている。ダイヤモンドコアビット42をタイル6のマーキング箇所に宛がい、電動ドリルによりダイヤモンドコアビット42を回転させて穿孔を行う。穿孔は、タイル6に対し直角に、且つ仕上げ材3を貫通してコンクリート躯体2を所定の深さに達するように行う。ダイヤモンドコアビット42により、所定の深さとなるように挿填穴10を穿孔すると、同時に補助ビット43により、タイル6に所定の深さのザグリ穴11が穿孔される。なお、このダイヤモンドコアビット42では、シャンク部44を介して切刃部45に冷却液を供給するようにしている。
【0045】
図5(b)の拡径工程では、拡径装置50を用いて挿填穴10の穴底部に拡径部15を形成する。拡径装置50は、電動ドリル(図示省略)に、拡径用ドリルビット46を装着して構成されている。拡径用ドリルビット46は、例えば切刃部47と、切刃部47を径方向に移動自在に保持する切刃保持部48と、切刃保持部48を支持するシャンク部49とから成り、遠心力により切刃部47が偏心回転するようになっている。拡径用ドリルビット46を、穴底に突き当てるようにして挿填穴10に挿入し、電動ドリルにより拡径用ドリルビット46を回転させる。これにより、切刃部47が偏心回転し、挿填穴10が研削されて拡径部15が形成される。なお、この拡径用ドリルビット46でも、シャンク部49を介して切刃部47に冷却液が供給されるようになっている。そして、洗浄液により、挿填穴10の洗浄も行われる。
【0046】
図5(c)の挿填工程では、注入口付アンカーピン20を、その鍔部27がザグリ穴11の穴底に着座するように挿填穴10に挿入する。この場合、注入口付アンカーピン20を軽く叩き入れるようにしてもよい。注入口付アンカーピン20が挿填穴10に挿入されると、拡張カラー24が挿填穴10の穴底に突き当たった状態となる。
【0047】
図6(a)のアンカリング工程では、打込み工具51を注入口21aから注入口付アンカーピン20に差し込み、拡張コーン23を打ち込む。拡張コーン23を打ち込んでゆくと、拡張カラー24が基端側から拡開してゆき、同時に拡張カラー24から拡開力を受けた拡開部22が外方に拡開する。これにより、拡開部22が拡径部15に喰い込むようにして、注入口付アンカーピン20が挿填穴10にアンカリングされる。
【0048】
図6(b)の接着剤注入工程では、手動式の樹脂注入器52を用い、その注入ノズル53を注入口21aから注入口付アンカーピン20に差し込み、ポンピングを行う。このポンピングにより、注入ノズル53から吐出された接着剤R(エポキシ樹脂)は、注入口付アンカーピン20の2つ連通スリット29から挿填穴10内に流れ、さらに第1浮き部7および第2浮き部8に充填される。そして、注入ノズル53を引き抜くときに、化粧キャップ33のために、注入口21a廻りに接着剤Rを付着させておく。
【0049】
図6(c)のキャッピング工程では、嵌合装着部35を注入口付アンカーピン20の注入口21aに嵌合させると共に、キャップ本体34をザグリ穴11に嵌合させるようにして、化粧キャップ33の装着を行う。その際、化粧キャップ33は、キャップ本体34の表面とタイル6の表面とが面一となるように押し込む。
【0050】
このようにして、ピンニング工法は実施されるが、拡径工程を省略することも可能である。また、接着剤注入工程を、挿填工程の直前に行うようにしてもよい。さらに、キャッピング工程において、化粧キャップ33に代えて、ザグリ穴11をパテ埋めしてもよい。かかる場合には、パテをタイル6と同色に着色すると共に盛り上げるように塗着し、硬化後、残余のパテ(盛り上がり部分)をカッターでそぎ取るようにする。
【0051】
次に、
図7および
図8を参照して、注入口付アンカーピン20を用いたネットバリヤー工法について説明する。このネットバリヤー工法は、外壁1に複数の挿填穴10を穿孔する穿孔工程と、挿填穴10の穴底部に拡径部15を形成する拡径工程と、外壁1の表面に下地調整剤61を塗布する調整剤塗布工程と、下地調整剤61上に、ネット張付け剤62を介してネット13を張り付けるネット張り工程と、各挿填穴10に対し、注入口付アンカーピン20を打ち込むと共に注入口21aから接着剤Rを注入して、ネット13を押さえるネット固定工程と、ネット13上に張付けモルタル5を介して新タイル14を張るタイル張り工程(装飾材張り工程)と、を備えている。なお、穿孔工程に先立って、壁面(タイル面)の点検および清掃を行っておく。
【0052】
穿孔工程および拡径工程では、上記のピンニング工法と同様に、複数の挿填穴10を穿孔すると共に各挿填穴10に拡径部15を形成する。但し、この場合には、壁面の全域において、縦横所定の配置ピッチで複数の挿填穴10(拡径部15を含む)を形成する(
図7(a)参照)。
【0053】
調整剤塗布工程では、壁面の全域に下地調整剤61を塗り付け、その後、刷毛引きを行う(
図7(b)参照)。
ネット張り工程では、硬化した下地調整剤61の上にネット張付け剤62を塗り付け、これにネット13をローラー64で毛羽立たせながら張り付ける(
図7(c)参照)。
【0054】
ネット固定工程では、押え板65を装着した注入口付アンカーピン20を、ピンニング工法の挿填工程およびアンカリング工程と同様に、挿填穴10に挿入し、その後、拡張コーン23を打ち込む(
図8(a)参照)。さらに、ピンニング工法の接着剤注入工程と同様に、注入口21aを介して、挿填穴10に接着剤Rを注入する(
図8(b)参照)。注入口付アンカーピン20を挿填穴10に挿入すると、拡張カラー24が挿填穴10の穴底に突き当たる。続いて、拡張コーン23を打ち込むと、拡張カラー24を介して拡開部22が拡開しアンカリングが行われる。さらに、注入口21aから接着剤Rを注入することにより、第1浮き部7および第2浮き部8に接着剤が充填される。
【0055】
タイル張り工程では、硬化したネット張付け剤62およびネット13の上に、通常の方法で新タイル14をタイル張りする(
図8(c)参照)。すなわち、ネット13上に張付けモルタル5を塗り付け、その上に新タイル14をタイル張りする。
【0056】
このようにして、ネットバリヤー工法は実施されるが、この場合も拡径工程を省略することが可能である。また、接着剤Rの注入をネット固定工程の直前、すなわち挿填穴10に注入口付アンカーピン20を挿入する直前、に行うようにしてもよい。
【0057】
次に、
図9を参照して、拡張カラー24の変形例について説明する。
図9(a)の第1変形例に係る拡張カラー24では、上記の複数のスリット部31に代えて、外周面に複数の薄肉部37が形成されている。各薄肉部37は、軸方向において拡張カラー24の基端から先端まで直線状に延在しており、プレスや研削により形成されている。拡張カラー24に拡張コーン23を打ち込むと、拡張カラー24は、薄肉部37が基端側から破断し外側に拡開する。
【0058】
図9(b)の第2変形例に係る拡張カラー24では、各スリット部31が「V」字状に切り込むように形成されている。また、拡張カラー24の先端側には、4つ(複数)の切欠き部38が形成されている。4つのスリット部31と4つの切欠き部38とは、周方向において交互に位置するように形成されている。このような構成では、拡張カラー24を簡単に拡開する構造とすることができる。したがって、従来と同様の打込み力で、拡開部22を拡開させることができる。
【0059】
以上のように、本実施形態の注入口付アンカーピン20によれば、拡開部22と拡張コーン23との間に拡張カラー24を介設するようにしているため、拡張カラー24が挿填穴10の穴底に突き当たった状態で、拡張コーン23の打ち込みが行われる。このため、拡張コーン23の打込みに際し、打込み衝撃が拡張カラー24を介して挿填穴10の穴底に吸収され、筒状アンカー21に作用することがない。したがって、タイル6や張付けモルタル5等の破損を防止することができると共に、第1浮き部7や第2浮き部8が閉じてしまうのを防止することができる。これにより、ピンニング工法およびネットバリヤー工法において、その施工不良を有効に防止することができる。
【0060】
また、拡開部22は、拡張カラー24により、広がり難い基部側に拡開力を受けて広がるため、挿填穴10に対し拡開部22全体が圧接されグリップ力を発揮する。したがって、注入口付アンカーピン20の引抜き強度を高め得ることができる。しかも、上記のピンニング工法およびネットバリヤー工法では、拡開した拡開部22が、挿填穴10の拡径部15に圧接係止されるため、注入口付アンカーピン20の引抜き強度を格段に高めることができる。
【0061】
なお、本発明の注入口付アンカーピン20は、実施形態のようなタイル6仕上げの外壁1の他、単にコンクリート躯体2をモルタル仕上げとした外壁1にも適用可能である。