特許第5988925号(P5988925)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 伊藤ハム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5988925-煮豚の製造方法およびその製造装置 図000002
  • 特許5988925-煮豚の製造方法およびその製造装置 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5988925
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】煮豚の製造方法およびその製造装置
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/00 20160101AFI20160825BHJP
【FI】
   A23L13/00 Z
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-130597(P2013-130597)
(22)【出願日】2013年6月21日
(65)【公開番号】特開2015-2718(P2015-2718A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2015年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000118497
【氏名又は名称】伊藤ハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100160668
【弁理士】
【氏名又は名称】美馬 保彦
(72)【発明者】
【氏名】三浦 清司
【審査官】 川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 NHK「きょうの料理」ポケットシリーズ<カラー版>29 自炊する人のやさしい料理,1980年,67ページ
【文献】 NHK「きょうの料理大百科」,1994年,187ページ
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
煮豚の原料となる豚肉塊をボイルする第1のボイル工程と、
該第1のボイル工程によりボイルされた豚肉塊に冷却水をシャワーリングすることにより前記豚肉塊を冷却する第1のシャワー冷却工程と、
該第1のシャワー冷却工程後の豚肉塊を、前記第1のボイル工程の加熱温度よりも高い温度でボイルする第2のボイル工程と、
を少なくとも含むことを特徴する煮豚の製造方法。
【請求項2】
前記第2のボイル工程後の豚肉塊に冷却水をシャワーリングすることにより前記豚肉塊を冷却する第2のシャワー冷却工程と、
該第2のシャワー冷却工程後の豚肉塊を、加熱された調味液に浸漬して、該調味液で豚肉塊を煮込む煮込み工程と、をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の煮豚の製造方法。
【請求項3】
前記煮込み工程後の豚肉塊を冷凍冷却する冷凍冷却工程をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の煮豚の製造方法。
【請求項4】
前記冷凍冷却工程は、前記煮込み工程後の豚肉塊を冷凍冷却する第1の冷凍冷却工程と、
該第1の冷凍冷却工程後の豚肉塊を、第1の冷凍冷却工程よりもさらに低い温度で冷凍冷却する第2の冷凍冷却工程と、を含むことを特徴とする請求項3に記載の煮豚の製造方法。
【請求項5】
豚肉塊を搬送部で搬送しながら前記豚肉塊から煮豚を製造する煮豚の製造装置であって、
煮豚の原料となる豚肉塊をボイルする第1のボイル槽と、
該第1のボイル槽から搬送された豚肉塊に冷却水をシャワーリングする第1のシャワー冷却部と、
該第1のシャワー冷却部から搬送された豚肉塊を、前記第1のボイル槽内の加熱温度よりも高い温度でボイルする第2のボイル槽と、を少なくとも備えることを特徴する煮豚の製造装置。
【請求項6】
前記第2のボイル槽から搬送された豚肉塊に冷却水をシャワーリングする第2のシャワー冷却部と、
該第2のシャワー冷却部から搬送された豚肉塊を、加熱された調味液に浸漬して、該調味液で豚肉塊を煮込む煮込み槽と、をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の煮豚の製造装置。
【請求項7】
前記煮込み槽から搬送された豚肉塊を冷凍冷却する冷凍冷却部をさらに備えることを特徴とする請求項6に記載の煮豚の製造装置。
【請求項8】
前記冷凍冷却部は、前記煮込み槽から搬送された豚肉塊を冷却する第1の冷凍冷却部と、
該第1の冷凍冷却部から搬送された豚肉塊を、前記第1の冷凍冷却部の冷却温度よりもさらに低い温度で冷却する第2の冷凍冷却部と、をさらに備えることを特徴とする請求項7に記載の煮豚の製造装置。
【請求項9】
前記第1のボイル槽、前記第2ボイル槽、および前記煮込み槽の内には、前記搬送部が配置されており、該搬送部には、槽内の豚肉塊を係止して搬送するために、豚肉塊の搬送方向に沿って移動する複数の突出部が設けられていることを特徴とする請求項〜8のいずれかに記載の煮豚の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豚肉塊から煮豚を好適に製造することができる煮豚の製造方法およびその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
煮豚の食肉加工品は、ラーメンやチャーハンの具となる場合もあれば、単独でおつまみとして食される食材でもある。料理のレシピ等には煮豚の作り方は掲載されているが、通常、豚肉の塊をフライパンで焼いて、その肉塊をボイル(湯煮)し、さらに醤油を添加して沸騰させ、味の調整をした後、放置して冷やすというのが一般的なレシピである。このような煮豚を工場スケールで大量生産するとなると、設備、人員の投入が必要になってくる。
【0003】
これまで煮豚の製造方法としては、豚肉塊をボイル後、蛋白分解酵素を失活させた白醤油、淡口醤油を原料肉に注入することで、醤油の風味を内部まで浸透させ、肉臭を矯正する方法が提案されている(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平6−28543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した製造方法(作り方)で、豚肉塊をボイルする際には、一度のボイルで豚肉塊の中心まで加熱をするため、豚肉塊の表面の肉繊維が縮んでしまい、豚肉塊へのダメージが大きい。これにより、ボイル後の豚肉塊を醤油等の調味液を単に浸漬した場合には、その内部にまで調味液が染み込み難くなるばかりでなく、豚肉本来が持つしっとりとした食感(ジューシーな食感)を得ることができない場合が多い。
【0006】
本発明はこのような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、豚肉塊をボイルする場合であっても、その内部にまで調味液が浸透し、豚肉本来が持つしっとりとした食感(ジューシーな食感)を得ることができる煮豚の製造方法およびその製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るに煮豚の製造方法は、煮豚の原料となる豚肉塊をボイルする第1のボイル工程と、該第1のボイル工程によりボイルされた豚肉塊に冷却水をシャワーリングすることにより前記豚肉塊を冷却する第1のシャワー冷却工程と、該第1のシャワー冷却工程後の豚肉塊を、前記第1のボイル工程の加熱温度よりも高い温度でボイルする第2のボイル工程と、を少なくとも含むことを特徴する。
【0008】
本発明によれば、第1のボイル工程において、第2のボイル工程の加熱温度よりも低い温度で豚肉塊をボイルするので、豚肉塊の表面の肉繊維の縮みを低減して、豚肉塊を加熱処理することができる。
【0009】
次に、第1のシャワー冷却工程において、ボイルされた豚肉塊に冷却水をシャワーリングすることにより前記豚肉塊を冷却する。これにより、ボイル後の豚肉塊の表面部分と中心部分との温度差を縮め、豚肉塊の表面の肉繊維を締めて、豚肉塊内の肉汁を表面から逃がさないようにする。これにより、しっとりとした食感(ジューシーな食感)の煮豚を得ることができる。
【0010】
その後、第2のボイル工程では、第1のシャワー冷却工程後の豚肉塊を、第1のボイル工程の加熱温度よりも高い温度でボイルするが、第1のシャワー冷却工程で、一端、豚肉塊の表面の肉繊維を締めて、豚肉塊内の肉汁を表面から逃がさないようにすることで、煮豚のしっとりとした食感(ジューシーな食感)を維持しつつ、豚肉塊の内部まで迅速に加熱することができる。これにより、煮豚の製造時の歩留まりを向上させることができる。
【0011】
また、第1のボイル工程により豚肉塊の肉温が上昇し、中心部分と表面部分の肉温に相当な差ができるが、第1のシャワー冷却工程で、冷却水をシャワーリングすることにより、豚肉塊の表面部分が冷却され温度が低下し、中心部分との温度差が縮まる。これにより、第2のボイル工程での肉温(中心部分と表面部分)の差の拡大を防ぎ、煮豚をとろっとした肉質にすることができる。
【0012】
さらに、1回のボイルのみで豚肉塊をボイルした場合には、一度に豚肉塊の中心まで加熱すると、豚肉塊の表面の肉繊維が縮み、内部にまで調味液が浸透し難いが、本発明では、豚肉塊のボイルを複数回に分けて行うので、豚肉塊の表面の肉繊維の縮みが低減され、ボイルされた豚肉塊の内部にまで調味液を浸透することができる。
【0013】
このようにボイルされた豚肉塊に味付けを行う場合には、以下の工程を行うことがより好ましい。すなわち、より好ましい態様としては、第2のボイル工程後の豚肉塊に冷却水をシャワーリングすることにより前記豚肉塊を冷却する第2のシャワー冷却工程と、該第2のシャワー冷却工程後の豚肉塊を加熱された調味液に浸漬して、該調味液で豚肉塊を煮込む煮込み工程とをさらに含む。
【0014】
この態様によれば、第2のボイル工程後の豚肉塊に冷却水をシャワーリングすることにより、ボイル後の豚肉塊の表面及び内部の温度バラツキを低減しながら豚肉塊を冷却することができる。そして、第2のシャワー冷却工程後の冷却された豚肉塊を、加熱された調味液に浸漬してこれを煮込むことで、煮豚のしっとりとした食感(ジューシーな食感)を保ったまま、調味液を豚肉塊の内部にまで浸透させることができる。また、加熱した調味液で豚肉塊を煮込んでいるため、煮込み後の豚肉塊の表面部分(表層)の水分が蒸発し調味液は豚肉塊の内部に浸透されやすくなる。
【0015】
さらに、調味液で煮込まれた豚肉塊に対して以下の工程を行うことがより好ましい。すなわち、より好ましい態様としては、前記煮込み工程後の豚肉塊を冷凍冷却する冷凍冷却工程をさらに含む。
【0016】
この態様によれば、煮込み工程後の豚肉塊を冷凍冷却する、すなわち、煮込み工程後の豚肉塊を0℃未満の(氷点下の)温度雰囲気で冷却することで、豚肉塊の表面から内部に向かって豚肉塊が冷却され、これと同時に、豚肉塊の表面部分に浸透した調味液が、表面部分よりも温度の高い豚肉塊の内部に浸透し易くなる。
【0017】
より好ましい態様としては、前記冷凍冷却工程は、前記煮込み工程後の豚肉塊を冷却する第1の冷凍冷却工程と、該第1の冷凍冷却工程後の豚肉塊を、第1の冷凍冷却工程よりもさらに低い温度で冷却する第2の冷凍冷却工程と、を含む。
【0018】
この態様によれば、第1の冷凍冷却工程において、第2の冷凍冷却工程よりも高い温度で煮込み工程後の豚肉塊を冷却するので、豚肉塊の表面部分から内部に向かって、調味液が浸透する速度に応じて、豚肉塊の表面から内部に向かって豚肉塊を冷凍冷却することができる。さらに、第2の冷凍冷却を行うことにより、豚肉塊の内部まで均一に冷却することができる。
【0019】
本願では、本発明として上述した煮豚を製造する方法を好適に行うための煮豚の製造装置も開示する。本発明に係る煮豚の製造装置は、豚肉塊を搬送部で搬送しながら前記豚肉塊から煮豚を製造する煮豚の製造装置であって、煮豚の原料となる豚肉塊をボイルする第1のボイル槽と、該第1のボイル槽から搬送された豚肉塊に冷却水をシャワーリングする第1のシャワー冷却部と、該第1のシャワー冷却部から搬送された豚肉塊を、前記第1のボイル槽内の加熱温度よりも高い温度でボイルする第2のボイル槽と、を少なくとも備えることを特徴する。
【0020】
本発明によれば、第1のボイル槽で、第2ボイル槽の加熱温度よりも低い温度で豚肉塊をボイルすることで、豚肉塊の表面の肉繊維の縮みを低減して、豚肉塊を加熱処理することができる。
【0021】
第1のボイル槽でボイルされた豚肉塊は搬送部により搬送され、搬送された豚肉塊に対して第1のシャワー冷却部で冷却水をシャワーリングすることにより豚肉塊を冷却する。これにより、ボイル後の豚肉塊の表面の温度と中心部分の温度とのバラツキを低減し、豚肉塊の表面の肉繊維を締めて、豚肉塊内の肉汁を表面から逃がさないようにする。これにより、しっとりとした食感(ジューシーな食感)の煮豚を得ることができる。
【0022】
その後、第1のシャワー冷却部で冷却された豚肉塊は搬送部により搬送され、第2のボイル槽では、搬送された豚肉塊を、第1のボイル槽の加熱温度よりも高い温度でボイルすることができる。第1のシャワー冷却部で、一端、豚肉塊の表面の肉繊維を締めて、豚肉塊内の肉汁を表面から逃がさないようにすることで、煮豚のしっとりとした食感(ジューシーな食感)を維持しつつ、豚肉塊の内部まで迅速に加熱することができる。これにより、煮豚の製造時の歩留まりを向上させることができる。
【0023】
また、第1のボイル槽で豚肉塊の肉温が上昇し、中心部分と表面部分の肉温に相当な差ができるが、第1のシャワー冷却部で、冷却水をシャワーリングすることにより、豚肉塊の表面部分が冷却され温度が低下し、中心部分との温度差が縮まる。そして、第2のボイル槽での肉温(中心部分と表面部分)の差の拡大を防ぎ、煮豚をとろっとした肉質にすることができる。
【0024】
さらに、1回のボイルのみで豚肉塊をボイルした場合には、一度に豚肉塊の中心まで加熱すると、豚肉塊の表面の肉繊維が縮み、内部にまで調味液が浸透し難いが、本発明では、豚肉塊のボイルを複数のボイル槽を用いて複数回に分けて行うため、豚肉塊の表面の肉繊維の縮みが低減され、ボイルされた豚肉塊の内部にまで調味液を浸透させることができる。
【0025】
より好ましい態様としては、前記第2のボイル槽から搬送された豚肉塊に冷却水をシャワーリングする第2のシャワー冷却部と、該第2のシャワー冷却部から搬送された豚肉塊を、加熱された調味液に浸漬し、前記調味液で豚肉塊を煮込む煮込み槽と、をさらに備える。
【0026】
この態様によれば、第2のボイル槽から搬送部により搬送された豚肉塊に、第2のシャワー冷却部で冷却水をシャワーリングすることにより、ボイル後の豚肉塊の表面及び内部の温度バラツキを低減しながら豚肉塊を冷却することができる。そして、第2のシャワー冷却部から搬送部で搬送された豚肉塊を、煮込み槽内の加熱された調味液に浸漬して煮込むので、煮豚のしっとりとした食感(ジューシーな食感)を保ったまま、調味液を豚肉塊の内部にまで浸透させることができる。また、加熱した調味液に豚肉塊を浸漬さて煮込むので、煮込んだ後の豚肉塊の表面部分(表層)の水分が蒸発し調味液は豚肉塊の内部に浸透されやすくなる。
【0027】
さらに好ましい態様としては前記煮込み槽から搬送された豚肉塊を冷凍冷却する冷凍冷却部をさらに備える。
【0028】
この態様によれば、煮込み槽から搬送部により搬送された豚肉塊を、冷凍冷却部内で冷凍冷却する。すなわち、冷凍冷却部内で豚肉塊を0℃未満の(氷点下の)温度雰囲気で冷却する。これにより、冷凍冷却部内で、豚肉塊の表面から内部に向かって豚肉塊が冷却され、これと同時に、豚肉塊の表面部分に浸透した調味液が、表面部分よりも温度の高い豚肉塊の内部に浸透し易くなる。
【0029】
より好ましい態様としては、前記冷凍冷却部は、前記煮込み槽から搬送された豚肉塊を冷却する第1の冷凍冷却部と、該第1の冷凍冷却部から搬送された豚肉塊を、前記第1の冷凍冷却部の冷却温度よりもさらに低い温度で冷凍冷却する第2の冷凍冷却部と、をさらに備える。
【0030】
この態様によれば、煮込み槽から前記搬送された豚肉塊を、第1の冷凍冷却部内で第2の冷凍冷却部内よりも高い温度で煮込み工程後の豚肉塊を冷却するので、豚肉塊の表面部分から内部に向かって、調味液が浸透する速度に応じて、豚肉塊の表面から内部に向かって豚肉塊を冷凍冷却することができる。さらに、第2の冷凍冷却部で豚肉塊の冷却を行うことにより、豚肉塊の内部まで均一に冷却することができる。
【0031】
さらに、好ましい態様としては、前記第1のボイル槽、前記第2ボイル槽、および前記煮込み槽の内には、前記搬送部が配置されており、該搬送部には、槽内の豚肉塊を係止して豚肉塊を搬送するために、搬送方向に沿って移動する複数の突出部が設けられている。
【0032】
この態様によれば、豚肉塊の搬送方向に沿って移動する複数の突出部を設けることにより、突出部が槽内の豚肉塊を係止して、これを搬送することができる。これにより、槽内に投入された順に、滞留させることなく豚肉塊を搬送させることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明により得られた煮豚は、その内部にまで調味液が浸透し、豚肉本来が持つしっとりとした食感(ジューシーな食感)となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明に係る煮豚の製造装置を説明するための図。
図2図1に示す製造装置を用いた煮豚の製造工程を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る煮豚の製造装置を説明するための図である。
図1に示すように、本実施形態に係る豚肉塊から煮豚を好適に製造することができる煮豚の製造装置1である。製造装置1に備えられた後述する搬送部(コンベア)25,35,…85で豚肉塊を搬送しながら、豚肉塊Pから煮豚を製造一連の処理工程を行う。
【0036】
具体的には、製造装置1は、第1のボイル槽2、第1のシャワー冷却部3、第2のボイル槽4、第2のシャワー冷却部5、煮込み槽6、放冷部7、および冷凍冷却部8を備えている。
【0037】
第1のボイル槽2は、煮豚の原料となる豚肉塊Pを1次ボイルする槽であり、槽本体21には、ボイル用の湯(加熱水)W1が収容されている。なお、湯W1および後述する湯W2の成分は、水を主成分としていればよく、その他の成分が添加されていてもよい。さらに、槽本体21には、所定の温度範囲となるように湯W1を加熱する加熱部22が配置されており、加熱部22で、後述するように、豚肉塊Pの熱収縮を最小限にすべく、湯W1の水温を制御する。
【0038】
さらに、槽本体21には、原料投入口(図示せず)から第1のボイル槽2に投入された煮豚の原料となる豚肉塊Pを第1のボイル槽2の内部で搬送するための搬送部25が配置されており、この搬送部25は、次工程となる第1のシャワー冷却部3に豚肉塊Pが搬送可能なように配置されている。
【0039】
搬送部25には、槽内の豚肉塊を係止して豚肉塊を搬送するように、豚肉塊Pの搬送方向に沿って移動する複数のパドル(突出部)21aが設けられている。複数のパドル21aは、搬送方向に沿ってかつ幅方向(紙面に対して垂直方向)に等間隔に配置されている。パドル21aは、搬送部25の表面から板状に突出したものであり、搬送部25の駆動とともに移動するものである。具体的には、投入された豚肉塊Pが、パドル21aの移動とともに搬送部25の下方を通過するように、搬送部25は駆動している。
【0040】
このようなパドル21aを設けることにより、第1のボイル槽2内に投入された順に、豚肉塊Pは槽本体21の下方において安定して湯W1に浸漬しながら、搬送部35により第1のボイル槽2からボイルされた豚肉塊Pを搬送させることができる。これにより、第1のボイル槽2に豚肉塊Pを滞留させることなく、豚肉塊ごとのボイル時間を一定とし、煮豚の品質のぶれを抑制することができる。
【0041】
第1のシャワー冷却部3は、第1のボイル槽2から搬送された豚肉塊Pに冷却水をシャワーリングするものである。第1のシャワー冷却部3には、搬送部35により第1のボイル槽2から引き上げられて搬送された豚肉塊Pを、第2のボイル槽4に搬送する搬送部35が設けられており、搬送部35の上方には、豚肉塊Pに冷却水をシャワーリングする冷却ヘッダー管31が搬送方向に沿って複数配置されている。このように第1のシャワー冷却部3を設けることにより、冷却ヘッダー管31から冷却水を豚肉塊Pに向かってシャワーリングし、豚肉塊P表面の冷却及びその表面部分に付着した灰汁を洗い流すことができる。
【0042】
さらに、第1のシャワー冷却部3の冷却ヘッダー管31から放出された冷却水は、第1のボイル槽2に流れ込むように構成されている。具体的には、第1のシャワー冷却部3は、搬送部35のうち、ボイルされた豚肉塊Pを引き上げる搬送部の上方に配置されている。このようにボイル槽2に流れ込む冷却水とボイル槽2の水量により変化する自動給水(図示せず)の働きにより、第1のボイル槽2の湯がオーバーフローすることで、第1のボイル槽2の灰汁を槽本体21から排出することができる。
【0043】
第2のボイル槽4は、第1のボイル槽2内の加熱温度よりも高い温度で豚肉塊Pを2次ボイルする槽であり、槽本体41には、ボイル用の水(加熱水)W2が収容されている。さらに、槽本体41には、所定の温度範囲となるように湯W2を加熱する加熱部42が配置されており、加熱部42で、第1のボイル槽2の水温よりも高い温度に湯W2の水温を制御する。また、豚肉塊Pのボイルが進み肉温の上昇とともに浮力により、豚肉塊Pが湯面より出ないように天板(図示せず)で押さえこみながら槽内を搬送するように構成されている。
【0044】
さらに、槽本体41には、第1のシャワー冷却部3から搬送された煮豚の原料となる豚肉塊Pを第2のボイル槽4の内部で搬送するための搬送部45が配置されており、この搬送部45は、次工程となる第2のシャワー冷却部5に豚肉塊Pが搬送可能なように配置されている。
【0045】
搬送部45には、搬送方向に沿って豚肉塊Pを搬送するための複数のパドル(突出部)41aが、搬送方向に沿ってかつ幅方向(紙面に対して垂直方向)に等間隔に配置されている点は、第1のボイル槽2のものと同じであるので同様の効果が期待でき、詳細な説明は省略する。
【0046】
第2のシャワー冷却部5は、第2のボイル槽4から搬送部55Aで搬送された豚肉塊Pに冷却水をシャワーリングするものである。第2のシャワー冷却部5には、第1のシャワー冷却部3と同様に、豚肉塊Pに冷却水をシャワーリングする冷却ヘッダー管51が搬送方向に沿って複数配置されている。第2のシャワー冷却部5は、搬送部55Aのうち、ボイルされた豚肉塊Pを引き上げる搬送部の上方に配置され、これにより、第2のシャワー冷却部5の冷却ヘッダー管51から放出された冷却水は、第2のボイル槽4に流れ込むことができる。また、第1の冷却部3と同様に第2のボイル槽4の湯がオーバーフローすることで灰汁を槽本体41から排出することができる。シャワーリングされた豚肉塊Pは、煮込み搬送部55Bを通じて煮込み槽6に搬送される。
【0047】
煮込み槽6は、第2のシャワー冷却部5から搬送された豚肉塊Pを、加熱された調味液W3に浸漬させて豚肉塊Pを調味液W3で煮込む槽である。調味液W3は、醤油等の豚肉塊Pに味付けをするための液であり、槽本体61に収容されており、調味液W3の品質を確保するために、ブリックスと塩分値の範囲を決めてコントロールしている。また、塩分により浮力が増すため、豚肉塊Pが調味液面より出ないように天板(図示せず)で押さえ込みながら槽内を搬送されるように構成されている。
【0048】
さらに、加熱により溶出した脂肪分は槽本体61からオーバーフローにより取り込まれるサブタンク68が配置されている。具体的には、槽本体61の保持すべき調味液の液面近傍に、槽本体61の上部から調味液W3(脂肪分を含む)がサブタンク68に排出されるように、サブタンク68に連通する排出管68aが接続されている。一方、サブタンク68内にも調味液が収容されており、サブタンク68の下方から付属の循環ポンプ68bにより供給管68cを介して、槽本体61へ調味液W3が供給されるように、供給管68cが接続されている。
【0049】
このような結果、サブタンク68から供給管68cを介して槽本体61に供給された調味液W3により、槽本体61に収容された調味液W3がオーバーフローし、排出管68aを介してサブタンク68に流れ込む。この結果、槽本体61内の調味液W3と分離した脂肪分のみを、槽本体61内から除去し、煮込み槽6に収容されている調味液W3の濃度を薄まりにくくすることができる。
【0050】
槽本体61およびサブタンク68は、塩分に強いステンレスで作製されている。さらに、槽本体61には、所定の温度範囲となるように調味液W3を加熱する加熱部62が配置されており、加熱部62で調味液W3の温度を制御する。これにより、調味液W3を任意の温度に加熱して、豚肉塊Pを加熱した調味液W3に浸漬し、これを煮込むことができる。
【0051】
さらに、槽本体61には、第2のシャワー冷却部5から搬送された煮豚の原料となる豚肉塊Pを煮込み槽6の内部で搬送するための搬送部65が配置されており、この搬送部65は、次工程となる放冷部7に豚肉塊Pが搬送可能なように配置されている。
【0052】
搬送部65には、搬送方向に沿って豚肉塊Pを搬送するための複数のパドル(突出部)61aが、搬送方向に沿ってかつ幅方向(紙面に対して垂直方向)に等間隔に配置されている点は、第1のボイル槽2および第2のボイル槽4のものと同じであるので、詳細な説明は省略する。
【0053】
放冷部7は、煮込み槽6において調味液W3で煮込まれた豚肉塊Pを放冷するためのものであり、放冷部7には、豚肉塊Pを放冷するための搬送部75が設けられている。搬送部75は、次工程となる冷凍冷却部8に豚肉塊Pが搬送可能なように配置されている。
【0054】
冷凍冷却部8は、煮込み槽6から放冷部7を経て、搬送された豚肉塊Pを冷凍冷却するものである。冷凍冷却部8は、室内を0℃未満の(氷点下の)温度雰囲気となるように温度制御された冷凍冷却室81を有している。冷凍冷却室81は、豚肉塊を冷却する第1の冷凍冷却部83と、第1の冷凍冷却部83から搬送部85により搬送された豚肉塊Pを、第1の冷凍冷却部83の冷却温度よりもさらに低い温度で冷却する第2の冷凍冷却部84とからなる。
【0055】
このように構成された製造装置1により、豚肉塊から煮豚を好適に製造する。図2は、図1に示す製造装置を用いた煮豚の製造工程を示した図である。
【0056】
図2に示すように、まずステップ1で、煮豚の原料となる豚肉塊をボイルする(第1ボイル工程)。具体的には、第1のボイル槽2で、第2のボイル槽4の加熱温度よりも低い温度で豚肉塊Pをボイルする。これにより、豚肉塊Pの表面の肉繊維の縮みを低減して、豚肉塊Pを加熱処理することができる。このような効果を期待することができる加熱温度および加熱時間は、83℃〜96℃(例えば90℃)、25分〜35分(例えば30分)である。ここで、加熱温度が83℃未満または加熱時間が25分未満である場合、もしくは、加熱温度が96℃超えるまたは加熱時間35分超える場合には、煮豚の食感に多少影響が出る。
【0057】
次に、ステップ2で、第1のボイル工程によりボイルされた豚肉塊に冷却水をシャワーリングすることにより豚肉塊を冷却する(第1のシャワー冷却工程)。具体的には、第1のボイル槽2でボイルされた豚肉塊Pを搬送部35により搬送し、搬送された豚肉塊Pに対して第1のシャワー冷却部3で冷却水をシャワーリングすることにより豚肉塊Pを冷却する。これにより、ボイル後の豚肉塊Pの表面及び内部の温度バラツキを低減し、豚肉塊Pの表面の肉繊維を締めて、豚肉塊内の肉汁を表面から逃がさないようにする。これにより、しっとりとした食感(ジューシーな食感)の煮豚を得ることができる。本工程において、好ましい冷却水の温度は、15〜25℃(例えば16℃)程度であり、冷却水をシャワーリングする時間は、20〜40秒(例えば25秒)程度である。
【0058】
次に、ステップ3で、第1のシャワー冷却工程後の豚肉塊Pを、第1のボイル工程の加熱温度よりも高い温度でボイルする(第2のボイル工程)。具体的には、第1のシャワー冷却部3で冷却された豚肉塊Pは搬送部45により搬送され、第2のボイル槽4では、搬送された豚肉塊Pを、第1のボイル槽2の加熱温度よりも高い温度でボイルすることができる。
【0059】
第1のシャワー冷却部3で、一端、豚肉塊Pの表面の肉繊維を締めて、豚肉塊内の肉汁を表面から逃がさないようにすることにより、煮豚のしっとりとした食感(ジューシーな食感)を維持しつつ、豚肉塊Pの内部まで迅速に加熱することができる。これにより、煮豚の製造時の歩留まりを向上させることができる。
【0060】
このような効果を期待することができる加熱温度および加熱時間は、第1ボイル工程よりも高い温度となる95℃以上(例えば100℃)、第1ボイル工程よりも長い時間となる35分〜45分(例えば40分)である。ここで、加熱温度が95℃未満または加熱時間が35分未満である場合、もしくは、加熱時間45分超える場合には、煮豚の食感に多少影響が出る。
【0061】
また、ステップ1からステップ3により、第1のボイル槽2で豚肉塊Pの肉温が上昇し、中心部分と表面部分の肉温に相当な差が出来るが、第1のシャワー冷却部3で、冷却水をシャワーリングすることにより、豚肉塊Pの表面部分が冷却され温度が低下し、中心部分との温度差が縮まる。そして、第2のボイル槽4での肉温(中心部分と表面部分)の差の拡大を防ぎ、煮豚をとろっとした肉質にすることができる。
【0062】
さらに、1回のボイルのみで豚肉塊をボイルした場合には、一度に豚肉塊の中心まで加熱すると、豚肉塊の表面の肉繊維が縮み、内部にまで調味液が浸透し難いが、本実施形態では、豚肉塊Pのボイルを複数回に分けて行うので、豚肉塊Pの表面の肉繊維の縮みが低減され、ボイルされた豚肉塊Pの内部にまで、後述する煮込み工程において、調味液W3を浸透することができる。
【0063】
次に、ステップ4で、第2のボイル工程後の豚肉塊に冷却水をシャワーリングすることにより豚肉塊Pを冷却する(第2のシャワー冷却工程)。第2のボイル槽4から搬送部55により搬送された豚肉塊Pに、第2のシャワー冷却部5で冷却水をシャワーリングすることにより、ボイル後の豚肉塊Pの表面及び内部の温度バラツキを低減しながら豚肉塊Pを冷却することができる。本工程において、好ましい冷却水の温度は、15〜25℃(例えば16℃)程度であり、冷却水をシャワーリングする時間は、20〜40秒(例えば25秒)程度である。
【0064】
次に、ステップ5で、第2のシャワー冷却工程後の豚肉塊Pを、加熱された調味液W3に浸漬し、調味液で豚肉塊を煮込む(煮込み工程)。具体的には、第2のシャワー冷却部5から搬送部65で搬送された豚肉塊Pを、煮込み槽6内の加熱された調味液W3に浸漬して、これを煮込む。これにより、第2のシャワー冷却部5で加熱された肉温を冷却水で低下させているので、調味液W3が豚肉塊Pの内部に浸透するようになる。このような結果、煮豚のしっとりとした食感(ジューシーな食感)を保ったまま、調味液を豚肉塊の内部にまで浸透させることができる。また、加熱した調味液W3に豚肉塊を浸漬させて煮込み、煮込んだ後の豚肉塊Pは、放冷部7に搬送され、表面部分(表層)の水分が蒸発し調味液は豚肉塊の内部にさらに浸透されやすくなる。
【0065】
このような効果を期待することができる豚肉塊の加熱温度および加熱時間は、90℃〜103℃(例えば98℃)、25分〜35分(例えば30分)である。ここで、加熱温度が90℃未満または加熱時間が25分未満である場合もしくは、加熱温度が103℃超えるまたは加熱時間35分超える場合には、煮豚の味に多少影響が出る。
【0066】
次に、ステップ6および7で、煮込み工程後の豚肉塊を冷凍冷却する(冷凍冷却工程)。具体的には、まずステップ6の第1の冷凍冷却工程で、煮込み工程後の豚肉塊を冷却し、ステップ7の第2の冷凍冷却工程で、第1の冷凍冷却工程よりもさらに低い温度で冷却する。なお、これらのステップでは、摂氏零度未満の温度で豚肉塊Pを冷却するが、豚肉塊Pを冷凍するまで至らない。
【0067】
この結果、煮込み槽6から放冷部7を介して搬送された豚肉塊Pを、第1の冷凍冷却部83内で第2の冷凍冷却部84内よりも高い温度で煮込み工程後の豚肉塊を冷却するので、豚肉塊Pの表面部分から内部(中心部分)に向かって、調味液W3が浸透する速度に応じて、豚肉塊の表面から内部に向かって豚肉塊Pを冷却することができる。さらに、第2の冷凍冷却部84で豚肉塊Pの冷却を行うことにより、豚肉塊Pの内部まで均一に冷却することができる。
【0068】
このような効果を期待することができる、第1の冷凍冷却工程における豚肉塊の冷却温度および冷却時間は、0℃〜−10℃(例えば−5℃)、25分〜35分(例えば30分)である。
【0069】
第2の冷凍冷却工程における豚肉塊の冷却温度および冷却時間は、−30℃〜−35℃(例えば−35℃)、25分〜35分(例えば30分)である。これら一連の工程を経てた後、豚肉塊Pは、煮豚として計量、包装され、箱詰めされる。このようにして、煮豚の原料投入から加熱処理、調味液の浸漬に至る一連の工程を自動化することで、省力化を図り、製造コストも削減することができる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0071】
例えば、本実施形態では、第1のボイル工程、第1のシャワー冷却工程、第2のボイル工程、および第2のシャワー冷却工程を実施したがが、さらに、煮込み工程前に、第3のボイル工程、第3のシャワー冷却工程等、ボイル工程とシャワー冷却工程を複数回行ってもよい。
【符号の説明】
【0072】
1:製造装置(煮豚の製造装置)、2:第1のボイル槽、3:第1のシャワー冷却部、4:第2のボイル槽、5:第2のシャワー冷却部、6:煮込み槽、7:放冷部、8:冷凍冷却部、21:槽本体、21a:パドル(突出部)、22:加熱部、25:搬送部、31:冷却ヘッダー管、35:搬送部、41:槽本体、41a:パドル(突出部)、42:加熱部、45:搬送部、51:冷却ヘッダー管、55A:搬送部、55B:煮込み搬送部、61:槽本体、61a:パドル(突出部)、62:加熱部、65:搬送部、68:サブタンク、68a:排出管、68b:循環ポンプ、68c:供給管、75:搬送部、81:冷凍冷却室、83:第1の冷凍冷却部、84:第2の冷凍冷却部、85:搬送部、P:豚肉塊、W1,W2:湯、W3:調味液
図1
図2