特許第5988966号(P5988966)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5988966
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】配糖体の生体触媒による製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/44 20060101AFI20160825BHJP
【FI】
   C12P19/44ZNA
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-511620(P2013-511620)
(86)(22)【出願日】2011年5月19日
(65)【公表番号】特表2013-526290(P2013-526290A)
(43)【公表日】2013年6月24日
(86)【国際出願番号】EP2011058177
(87)【国際公開番号】WO2011144706
(87)【国際公開日】20111124
【審査請求日】2014年3月11日
(31)【優先権主張番号】1008573.6
(32)【優先日】2010年5月21日
(33)【優先権主張国】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512302038
【氏名又は名称】ウニフェルシテイト ヘント
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】トラン,ジャン ハイ
(72)【発明者】
【氏名】デスメット,トム
(72)【発明者】
【氏名】ゾエタート,ウィム
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−222507(JP,A)
【文献】 特開2004−222506(JP,A)
【文献】 Reichenbecher, M. et al.,Purification and Properties of a Cellobiose Phosphorylase (CepA) and a Cellodextrin Phosphorylase (CepB) from the Cellulolytic Thermophile Clostridium Stercorarium,European Journal of Biochemistry,1997年,Vol.247,262-267
【文献】 Kitaoka, M. et al.,Carbohydrate-Processing Phosphorolytic Enzymes,Trends in Glycoscience and Glycotechnology,2002年,Vol.14, No.75,pp.35-50
【文献】 SHETH K,PURIFICATION AND PROPERTIES OF BETA-1 4 OLIGOGLUCAN : ORTHOPHOSPHATE 以下備考,JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,1969年,V244 N2,P457-464,GLUCOSYLTRANSFERASE FROM CLOSTRIDIUM THERMOCELLUM
【文献】 Motomitsu Kitaoka,Synthetic Reaction of Celluvibrio gilvus Cellobiose Phosphorylase,J. Biochem.,1992年 7月,Vol.112, No.1,p.40-44
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロストリジウム ステルコラリウム(Clostridium stercorarium)由来のセロデキストリンホスホリラーゼをα−グルコース−1−ホスフェート及びアクセプターと接触させ、さらに
前記アクセプターをグリコシル化する
ことを有し、
前記アクセプターは、アルキルβ−グルコシド、アリールβ−グルコシドまたはオレオイルβ−グルコシドである、配糖体の製造方法。
【請求項2】
前記クロストリジウム ステルコラリウム(Clostridium stercorarium)由来のセロデキストリンホスホリラーゼは、配列番号:5の遺伝子によってコード化される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記セロデキストリンホスホリラーゼは、前記セロデキストリンホスホリラーゼのグリコシル化活性を少なくとも90%保持し、つのアミノ酸の欠失、置換若しくは付加、またはこれらの組み合わせを含む、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記セロデキストリンホスホリラーゼは、組換により発現するセロデキストリンホスホリラーゼである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記アルキルβ−グルコシドはメチルβ−グルコシド、エチルβ−グルコシド、ブチルβ−グルコシド、ペンチルβ−グルコシド、ヘキシルβ−グルコシド、ヘプチルβ−グルコシド、オクチルβ−グルコシド、ノニルβ−グルコシド、デシルβ−グルコシド、ウンデシルβ−グルコシドもしくはドデシルβ−グルコシドである、または前記アリールβ−グルコシドはp−ニトロフェニルβ−グルコシドである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記アルキルβ−グルコシドはメチル−、ヘキシル−またはオクチルβ−グルコシドである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記配糖体は、アルキルセロビオシド、アリールセロビオシド、セロビオ脂質(cellobiolipid)またはセロトリオ脂質(cellotriolipid)である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記セロビオ脂質(cellobiolipid)またはセロトリオ脂質(cellotriolipid)は、セロデキストリンホスホリラーゼを組換により発現する酵母細胞によって生産される、請求項4〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記酵母はカンジダ(Candida)属に属する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記α−グルコース−1−ホスフェートはα−ガラクトース−1−ホスフェートに置換される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記セロビオ脂質(cellobiolipid)はラクト脂質(lactolipid)に置換される、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、配糖体の生体触媒による製造方法に関する。特に、本発明は、クロストリジウム ステルコラリウム(Clostridium stercorarium)(CsCDP)由来のセロデキストリンホスホリラーゼ(CDP)を用いることによるアルキルセロビオシド、アリールセロビオシド、セロビオ脂質(cellobiolipid)、セロトリオ脂質(cellotriolipid)、グルコソホロ脂質(glucosophorolipid)及びセロビオソホロ脂質(cellobiosophorolipid)を製造する方法を開示する。本発明の方法は、工業的なグリコシル化方法に使用されるのに適し、古典的な化学的グリコシル化反応と比較して好適な特性を有する。さらに、本方法はまた、α−グルコース−1−ホスフェートの代わりにα−ガラクトース−1−ホスフェートをドナーとして使用するとラクト脂質(lactolipid)等の対応するラクトシドを製造するのにも使用できる。
【背景技術】
【0002】
背景技術
アルキルセロビオシド及びアリールセロビオシドは、発色基質またはセルラーゼの阻害剤としての用途がある。次に、セロビオセ脂質(cellobioselipid)は、洗浄剤の汚染物質を出さない(clean)生分解性の生物界面活性剤として使用される高価値の製品である。今日まで、これらの製品は、主に化学的または酵素的グリコシル化反応によって合成される。
【0003】
いくつかの化学的方法が配糖体の合成に関して記載されている。最も一般的な方法としては、Fisher法及びKoenigs−Knorr法がある。しかしながら、アルキルビオシドの合成へのFisher法の適用は、糖残基間の結合の同時アルコール分解のために困難であり(Koto et al., 2004)、Koenigs−Knorr法は、毒性のある中間体を含む複数工程のプロトコルから構成され、分離する必要のあるアノマー混合物を製造する(Koto et al., 2004)。ゆえに、古典的な化学的方法を用いた配糖体の製造は手間がかかり、収率が低く、毒性のある廃棄物を生成する。
【0004】
いくつかの公報に、配糖体の合成にグリコシルヒドロラーゼ(GH)を使用することが記載される(Basso et al., 2002; Gargouri et al., 2004)。これらの酵素は、比較的広範な特異性を有するため、酵素によるグリコシル化について実に興味深い触媒である。しかしながら、主な欠点としては、一般的な機能が炭化水素の分解(加水分解)であるため、合成反応には最適ではないことがある。水の存在は酵素活性を維持するためには必要である一方で、基質や産物の加水分解を引き起こすため、媒体の水和レベルを溶媒を用いて注意深く制御する必要がある(Basso et al, 2002)。その結果、グリコシダーゼが低水活性で失活するため、得られる収率が依然として制限されてしまう。
【0005】
または、グリコシルトランスフェラーゼがグリコシル化反応に使用できる。しかしながら、主な欠点として、これらの酵素がグリコシルドナーとして高価なヌクレオチド活性化炭化水素(nucleotide-activated carbohydrate)(例えば、UDP−グルコース)を必要とすることがある(Mendez & Salas, 2001; Fu et al., 2003)。その結果、この技術は、非常な高価な治療用タンパク質の標的とするグリコシル化のみに用途があると考えられる。ゆえに、グリコシル化反応に後者の酵素を使用する一般的な工業上の実現可能性は非常に低い。ゆえに、現在、低コストでかつ環境フットプリント(environmental footprint)の低いアルキルセロビオシド、アリールセロビオシド及びセロビオ脂質(cellobiolipid)等の配糖体をより効率的に製造する必要性が依然としてある。
【0006】
グリコシドホスホリラーゼ(GP)は、無機ホスフェートを用いた糖鎖の可逆的な分解を触媒し、これによりC1−リン酸化単糖及び鎖長が短い糖が生成する (Kitaoka et al., 2002)。この反応の可逆性により、GPはまたグリコシド結合の合成に使用できる。合成方向において、グルコース−1−ホスフェートをドナーとして使用し、水酸化化合物をアクセプターとして使用する。合成用途にGPを使用することは、限られた数のグループによってこれまで研究されてきた。ほとんどのグループは、希少な炭化水素の合成にGPを使用する。Kitao & Sekine (1992)は、アクセプターとしてキシリトールを用いてスクロースホスホリラーゼを使用して、これによりグルコシル−キシリトールを合成した。Aisaka et al. (2000) は、スクロースホスホリラーゼを用いてC−4の位置でスクロースのグルコシル基をL−フコースに転移して、α−D−グルコシル−L−フコースを合成した。Okada et al. (2003)は、サーモアナエロバクター ブロッキィ(Thermoanaerobacter brockii)由来のコージビオースホスホリラーゼを用いて5種の新規なオリゴ糖を合成したことを最近記載した。
【0007】
セロデキストリンホスホリラーゼは、セロオリゴ糖をα−グルコース−1−ホスフェート(Glc1P)及び鎖長が短いセロデキストリンに可逆的に加リン酸分解する反応を触媒するGPである(Kitaoka et al., 1992 and Kitaoka et al., 2002)。セロデキストリンホスホリラーゼは、インビボでのセルロース性バイオマスの分解にかかわりがある。これまで2つのCDPのみが記載されている:一つはクロストリジウム ステルコラリウム(Clostridium stercorarium)由来で、一つはクロストリジウム サーモセラム(Clostridium thermocellum)由来である。双方の酵素ともタンパク質レベルで22%一致しているのみである。クロストリジウム ステルコラリウム(C. stercorarium)由来の酵素では、セロ−オリゴ糖の加リン酸分解のみが報告されている(Reichenberger et al., 1997)。クロストリジウム サーモセラム(C. thermocellum)由来の酵素はより完全に特性が分かっている(Sheth 1969, Arai et al., 1994, Samain et al., 1995, Kawaguchi et al., and Sheth & Alexander, 1998)が、アルキル/アリールグルコシドまたは糖脂質を用いたグリコシル化反応は報告されていない。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、CsCDPが、アルキルβ−グルコシド、アルキルβ−ソホロシド、アリールβ−グルコシド、アリールβ−ソホロシド、糖脂質及びソホロ脂質に驚くべきほど高いアクセプター特異性を示すという知見を開示する。ゆえに、後者の酵素は、産物を生成するための古典的な化学的または酵素的なグリコシル化に関する問題を解消しつつ、例えば、アルキルセロビオシド、アリールセロビオシド、セロビオ脂質(cellobiolipid)、セロトリオ脂質(cellotriolipid)、グルコソホロ脂質(glucosophorolipid)及びセロビオソホロ脂質(cellobiosophorolipid)を合成するのに有用である。加えて、後者の酵素はまた、α−グルコース−1−ホスフェートの代わりにα−ガラクトース−1−ホスフェート(Gal1P)をドナーとして使用すると、ラクト脂質(lactolipid)などの対応するラクトシドを製造するのにも使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図面の簡単な説明
図1図1は、CDPによって触媒される反応を示す。
図2図2は、組換CsCDPの野生型の活性へのpHの効果を示す。反応を、45℃で、50mM MES緩衝液における50mM セロビオース及び30mM Glc1Pを用いて行った。
図3図3は、組換CsCDPの野生型の活性への温度の効果を示す。反応を、pH 6.5で、50mM MES緩衝液における50mM セロビオース及び30mM Glc1Pを用いて行った。
図4図4は、CsCDPの最も有益なアクセプターの構造を示す。
図5A図5は、CDPによる新規な糖脂質の製造を示す。(A)図5Aは、グルコースから糖脂質への転移によって、セロビオ−及びセロトリオ脂質が生成し、(B)図5Bは、ガラクトースの転移によって、ラクト脂質が生成する。(C)図5Cは、ソホロ脂質(sophorolipid)のグリコシル化によって、グルコ−及びセロビオソホロ脂質が生成する。
図5B図5は、CDPによる新規な糖脂質の製造を示す。(A)図5Aは、グルコースから糖脂質への転移によって、セロビオ−及びセロトリオ脂質が生成し、(B)図5Bは、ガラクトースの転移によって、ラクト脂質が生成する。(C)図5Cは、ソホロ脂質(sophorolipid)のグリコシル化によって、グルコ−及びセロビオソホロ脂質が生成する。
図5C図5は、CDPによる新規な糖脂質の製造を示す。(A)図5Aは、グルコースから糖脂質への転移によって、セロビオ−及びセロトリオ脂質が生成し、(B)図5Bは、ガラクトースの転移によって、ラクト脂質が生成する。(C)図5Cは、ソホロ脂質(sophorolipid)のグリコシル化によって、グルコ−及びセロビオソホロ脂質が生成する。
図6図6は、CDPによって生産される糖脂質の収率を示す。反応を、20mM アクセプター及びドナーとして30mM Glc1Pまたは100mM Glc1Pのいずれかを用いて、45℃及びpH 6.5で行った。Glc1Pと糖脂質(---)とのならびにGlc1Pとセロビオース(−)、糖脂質(−・・−)及びソホロ脂質(・・・)との反応。
図7A図7は、CDPによって生産される様々な糖脂質のクロマトグラムを示す。生成物の精製を、Glc1Pと糖脂質との(A)(図7A)、Glc1Pとソホロ脂質との(B)(図7B)、及びGlc1Pと糖脂質との(C)(図7C)反応後に行った。LC/MSによって得られた生成物の質量もまた示す。
図7B図7は、CDPによって生産される様々な糖脂質のクロマトグラムを示す。生成物の精製を、Glc1Pと糖脂質との(A)(図7A)、Glc1Pとソホロ脂質との(B)(図7B)、及びGlc1Pと糖脂質との(C)(図7C)反応後に行った。LC/MSによって得られた生成物の質量もまた示す。
図7C図7は、CDPによって生産される様々な糖脂質のクロマトグラムを示す。生成物の精製を、Glc1Pと糖脂質との(A)(図7A)、Glc1Pとソホロ脂質との(B)(図7B)、及びGlc1Pと糖脂質との(C)(図7C)反応後に行った。LC/MSによって得られた生成物の質量もまた示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の説明
本発明は、クロストリジウム ステルコラリウム(Clostridium stercorarium)由来のセロデキストリンホスホリラーゼ(CsCDP)が、アクセプターであるアルキルβ−グルコシド、アリールβ−グルコシド、アルキルβ−ソホロシド、アリールβ−ソホロシド、糖脂質及びソホロ脂質に対して、ならびにドナーであるガラクトース−1−ホスフェートに対して高い特異性を有するという驚くべき知見に関する。さらに、本発明は、上記CsCDPを用いることにより、以下に制限されないが、セロビオシド、セロビオ脂質(cellobiolipid)、セロトリオ脂質(cellotriolipid)、グルコソホロ脂質(glucosophorolipid)、セロビオソホロ脂質(cellobiosophorolipid)及びラクトシド(lactoside)等の対応するグルコシドを効率的に合成または製造することができることを示す。
【0011】
ゆえに、本発明は、まず第一に、
クロストリジウム ステルコラリウム(Clostridium stercorarium)由来のセロデキストリンホスホリラーゼをα−グルコース−1−ホスフェート及びアクセプターと接触させ、さらに
前記アクセプターをグリコシル化する
ことを有し、
前記アクセプターは、アルキルβ−グルコシド、アリールβ−グルコシド、アルキルβ−ソホロシド、アリールβ−ソホロシド、糖脂質またはソホロ脂質である、配糖体の製造方法に関する。
【0012】
本発明のクロストリジウム ステルコラリウム(Clostridium stercorarium)由来のセロデキストリンホスホリラーゼは、Reichenberger et al. (1997)によって記載されるようなCsCDPを指し、当該分野において既知の方法により得られる。さらに、特に本発明は、クロストリジウム ステルコラリウム(Clostridium stercorarium) DSM8532株由来のGenbank番号:U60580の遺伝子によってコード化されるCsCDPを指す。本発明はさらに、組換により発現するセロデキストリンホスホリラーゼであるCsCDPに関する。例えば、本発明のCsCDPをコード化する遺伝子は、適当なプライマーセットを用いるPCRによる等の当該分野において既知の手段によって増幅できる。増幅された遺伝子またはPCR産物は、次に、例えば、細菌である大腸菌(Escherichia coli)または酵母であるカンジダ アルビカンス(Candida albicans)等の当該分野において既知の適当な宿主生物に形質転換するのに使用できる、発現ベクター pTrc99a等の、適当な発現ベクター中にライゲートしてもよい。さらに、当該宿主生物によって生産される酵素を、抽出し、例えば、適当なライジング緩衝液(lysing buffer)を用いて細胞内CsSDPを抽出し、Ni−NTA gravity-flowカラムを用いてHis−標識CsCDPを精製する等の、当該分野において既知の方法によって精製してもよい。これについては、本発明はさらに、セロデキストリンホスホリラーゼのグリコシル化活性を最大5%、10%、20%、30%、40または50%消失させない、少なくとも1つの欠失、置換若しくは付加、またはこれらの組み合わせを含むCsCDPに関することは明らかである。一実施形態においては、本発明のCsCDPは、セロデキストリンホスホリラーゼのグリコシル化活性を最大50%消失させない、少なくとも1つの欠失、置換若しくは付加、またはこれらの組み合わせを含む。換言すると、本発明は、少なくとも1つの欠失、置換若しくは付加、またはこれらの組み合わせを含み、かつ野生型のセロデキストリンホスホリラーゼのグリコシル化活性の95%、90%、80%、70%、60%または50%を保持するCsCDPに関する。グリコシル化活性は、当業者に既知の方法によって測定できる。酵素活性に影響を及ぼさない付加の制限されない例としては、N−またはC−末端でのHis−標識(His-tag)の付加がある。
【0013】
本発明の方法は、本発明のCsCDPを、グルコース−1−ホスフェートまたはガラクトース−1−ホスフェート等の適当なドナー、及びアルキルβ−グルコシド、アリールβ−グルコシド、アルキルβ−ソホロシド、アリールβ−ソホロシド、糖脂質またはソホロ脂質等の適当なアクセプターと「接触させる」ことを有する。後者の「接触させる」ことは、本発明のセロビオシド、セロビオ脂質(cellobiolipid)、セロトリオ脂質(cellotriolipid)、グルコソホロ脂質(glucosophorolipid)、セロビオソホロ脂質(cellobiosophorolipid)及びラクトシド(latoside)を製造するために、6.5のpHを有する50mM MES緩衝液等の適当な緩衝液中で適当量の酵素、ドナー及びアクセプターを一緒に入れることによって行われうる、または特に本発明のCsCDPを組換により発現する、酵母等の、適当な宿主細胞内で、セロビオ脂質(cellobiolipid)、セロトリオ脂質(cellotriolipid)、グルコソホロ脂質(glucosophorolipid)及びセロビオソホロ脂質(cellobiosophorolipid)の製造に関して、行われうる。ゆえに、本発明は、セロデキストリンホスホリラーゼを組換により発現する酵母細胞によって、セロビオ脂質(cellobiolipid)、セロトリオ脂質(cellotriolipid)、グルコソホロ脂質(glucosophorolipid)またはセロビオソホロ脂質(cellobiosophorolipid)を生産する上記した方法に関する。上記酵母は、好ましくはカンジダ(Candida)属に属する。本発明の方法の酵素は、メチル−、エチル−、ブチル−、ペンチル−、ヘキシル−、ヘプチル−、オクチル−、ノニル−、デシル−、ウンデシル−及びドデシルβ−グルコシド等のアルキルβ−グルコシド、p−ニトロフェニルβ−グルコシド等のアリールグルコシド、オレオイルβ−グルコシド等の糖脂質、またはオレオイルβ−ソホロ脂質等のソホロ脂質に対して驚くべきほど高い活性を示す。したがって、本発明は、上記アルキルβ−グルコシドがメチルからドデシルβ−グルコシドである、上記アリールβ−グルコシドがp−ニトロフェニルβ−グルコシドである、上記糖脂質がオレオイルβ−グルコシドである、または上記ソホロ脂質はオレオイルβ−ソホロ脂質である、本発明に係る方法に関する。
【0014】
後者の方法は、好ましくは、上記アルキルβ−グルコシドがメチル−、ヘキシル−またはオクチルβ−グルコシドである、本発明に係る方法に関する。
【0015】
本発明の方法は、より詳細には、上記配糖体がアルキルセロビオシド、アリールセロビオシド、セロビオ脂質(cellobiolipid)、セロトリオ脂質(cellotriolipid)、グルコソホロ脂質(glucosophorolipid)またはセロビオソホロ脂質(cellobiosophorolipid)である配糖体の製造方法に関する。
【0016】
本発明はさらに、CsCDPがα−グルコース−1−ホスフェートの代わりのドナー基質としてα−ガラクトース−1−ホスフェートで活性があるという驚くべき知見に関するものであるため、本発明の方法はさらに、上記グルコース−1−ホスフェートがα−ガラクトース−1−ホスフェートに置換される、より詳細には、上記セロビオ脂質(cellobiolipid)が対応するラクト脂質(lactolipid)に置換される、方法に関する。
【0017】
ここで、本発明を下記実施例によって詳細に説明するが、本発明は下記実施例によって制限されない。
【0018】
実施例
材料および方法
試薬
セロビオースならびにメチル、ヘキシル及びオクチルβ−グルコシド(Carbosynth)以外の、すべてのプライマー(表1)及び化学物質は、Sigmaから購入した。糖脂質であるオレオイルβ−グルコシド及びソホロ脂質であるオレオイルβ−ソホロシドは、従来記載される(Saerens et al., 2009)のと同様にして製造した。酵素の配列は、AGOWA service facility(www.agowa.de)でチェックした。
【0019】
【表1】
【0020】
CsCDPのクローニングおよび発現
クロストリジウム ステルコラリウム(C. stercorarium) DSM8532のゲノムDNAを、the Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen (DSMZ)からオーダーメイドした。このCsCDP遺伝子(Genbank U60580)を、プライマー対1(表1)を用いて、PCRによって増幅した。次に、このPCR産物を発現ベクターpTrc99aにライゲートした。さらに、6個のヒスチジン残基を、プライマー対2(表1)を用いて、QuickChange XL II Site Directed Mutagenesis kit (Stratagene)によりN末端に導入した。
【0021】
この発現プラスミドを用いて、熱ショック処理によって、大腸菌(E. coli)宿主株BL21(Stratagene)に形質転換した。37℃でL培地(Luria Broth medium)中でA600が0.6に達したら、0.01mM IPTGによって発現を誘導した。4時間発現させた後、この大腸菌(E. coli)細胞を遠心によって集めた。
【0022】
細胞内CsCDPを、pH 8.0の50mM NaHPO、300mM NaCl及び1mg/mL リゾチームを含む溶菌バッファーによって凍結ペレットから抽出した。CsCDPを、Ni−NTA重力流カラム(Ni-NTA gravity-flow column (Qiagen)により未精製抽出物から精製した。次に、His−標識CsCDPを、50mM NaHPO、300mM NaCl及び250mM イミダゾールを含むバッファー(pH 8.0)を用いて溶出した後、Microcon YM−30(Millipore)により、除去し、50mM MESバッファー(pH 6.5)で置換した。酵素の純度を、標準物質としてGE Healthcare製のLMW−SDSマーカーキット(LMW-SDS Marker Kit)を用いて、SDS−PAGEによって確認した。
【0023】
アッセイ方法
Thermo Scientific製のBCAタンパク質アッセイキット(BCA Protein Assay kit)を用いて、タンパク質濃度を測定した。45℃で、30mM ドナー(Glc1P)または100mM ドナー(Gal1P)及び50mM アクセプターを含む50mM MESバッファー(pH 6.5)における5%の精製酵素(50μg/mL、最終濃度)を用いて、活性アッセイを行った。95℃で5分間、サンプルを失活させた後、オルソリン酸塩(P)の量をGawronski and Benson, 2004の方法によって測定した。動態研究においてK及びkcat値をHanes-Woolf plotによって算出した。
【0024】
結果
1.クロストリジウム ステルコラリウム(Clostridium stercorarium)由来のセロデキストリンホスホリラーゼの特性
本研究では、大腸菌(E. coli)でのCsCDPの異種発現を初めて達成した。His−標識した精製CsCDPは、22.4U/mgの比活性を有し、SDS−PAGEで約91kDaの単一のバンドを形成し、これは91.497kDaの理論上の分子量とよく一致する。配糖体合成の点での酵素活性の最適なpH及び温度は、それぞれ、約6.5及び約65℃であることが分かった(図2及び図3)が、これらは従来公開されている結果(Reichenbecher et al., 1997)に相当する。
【0025】
CsCDPの基質特異性を11種の異なるアクセプター分子を用いて試験した(表2)。最も興味深い結果を示す構造を図4に示す。酵素は、アリール及びアルキルβ−グルコシドならびに糖脂質に対して高い活性を示すことが分かった。確かに、p−ニトロフェニル(PNP)またはオクチル鎖及び特にオレオイルテイル(oleoyl tail)は、サブサイト+2(subsite +2)のグルコシル部分と同じくらい効率的に結合するようにみえる。α−グリコシド結合(α-glucosidic linkage)を有する2糖(マルトース、スクロース)は非常に低いアクセプターであるが、全く活性が検出されなかったアクセプターはラクトースのみであった。後者の分子は、グリコシド結合の結合点である、C4’−ヒドロキシル基の点でセロビオースとは異なるのみである。
【0026】
【表2】
【0027】
所定の分子に対する動態パラメーターを測定することによって、CsCDPの基質特異性をより詳細に試験した(表3)。通常、セロビオース及びGlc1P双方に対するCsCDPのK値は、クロストリジウム サーモセラム(C. thermocellum)由来のCDPの値(Sheth and Alexander 1969)よりかなり低い。驚くべきことに、この酵素はまた、α−グルコース−1−ホスフェート(Glc1P)の代わりのドナー基質としてのα−ガラクトース−1−ホスフェート(Gal1P)で活性があることが分かった。しかしながら、活性及び親和性双方が劇的に減少したので、この基質での有効性は約1000倍より低い。
【0028】
【表3】
【0029】
2.セロデキストリンホスホリラーゼを用いた糖脂質の生産
糖脂質がセロビオースよりCDPに対してより良好なアクセプターであることが分かったが、ソホロ脂質はセロビオースの約1/3の活性を発揮した(表4)。興味深いことに、ソホロ−及び糖脂質のグリコシル化によって形成された産物はCDPに対するアクセプターとしても作用し、これにより、さらなるグルコース部分を含む産物が形成されることが分かった(図5)(さらに参照)。残念なことに、中間化合物が精製形態で市販されていないため、この第二のグルコシル化工程の速度は測定できなった。しかしながら、Gal1Pをドナーとして用いる場合には、単一の産物のみが形成される。これは、CDPがアクセプターとしてのラクトースに対して不活性であるという知見と一致する(表2)。
【0030】
【表4】
【0031】
ホスホリラーゼは可逆反応を触媒するので、基質の完全変を達成するのは困難であり、約30〜70%の産物収率が平衡状態で一般的に得られる。CDPによって生産される新規な糖脂質の収率を測定するために、アクセプター基質の変換率を明らかに平衡になるまでモニターした。20mM セロビオースをアクセプターとして使用した場合には、最大10mMの無機リン酸塩がドナーGlc1Pから放出されたことから、変換率は約50%であることが示される(図6)。これに対して、グルコ−またはソホロ脂質を同様の濃度で使用したところ、それぞれ、最大27及び25mMのリン酸塩が生成した。確かに、グルコシル化産物が第二の反応のアクセプターとして作用でき、これによりグリコシルドナーをさらに消費できる(30mMの出発濃度)。さらに、産物は不溶性であり、反応混合物中に白色沈殿物を形成することが分かった。このような挙動は、ほとんどグリコシルドナーが利用できなくなるまで、反応を最後まで誘導する。これは、溶液形態であり続ける単一の産物のみを生成するので、Gal1Pをグリコシルドナーとして使用する(100mMの出発濃度)場合ではありえない。その結果、ガラクトシル化脂質ではたった50%の収率しか得られない(図6)。
【0032】
グルコシル化反応産物の沈殿物は、遠心によって簡単に回収できるため、その精製を非常に容易にした。ペレットを水及び酢酸エチルで洗浄することによって、それぞれ、少量のドナー及びアクセプターを除去できた。HLPCの分析によって、最初の及び次のグリコシル化反応の産物は3/2の割合で存在することが示された(表4)。糖脂質アクセプターを用いた反応の産物はセロビオ脂質(cellobiolipid)及びセロトリオ脂質(cellotriolipid)と称されたが、ソホロ脂質アクセプターを用いた反応の産物はグルコソホロ脂質(glucosophorolipid)及びセロビオソホロ脂質(cellobiosophorolipid)と呼ばれるであろう。グリコシル化の程度をMS−分析によって確認したところ、2個のグリコシル基の段階的付加が明らかに示された(図7)。ガラクトシル化産物の精製はややより複雑であり、2回の抽出工程を必要とした、まず、残りのアクセプター基質(糖脂質)を酢酸エチルで洗浄して除去した。デカンテーション後、溶液のpHを2まで下げて、産物を第2の抽出工程中溶媒相に移動させた。このようにして、水相中に残っているドナーから効率的に分離できた。クロマトグラムでは、1つの産物ピークのみが観察され(図7)、その分子量はラクト脂質(lactolipid)のものと完全に一致する。
【0033】
参考文献
【0034】
【化1】
【0035】
【化2】
【0036】
【化3】
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7A
図7B
図7C
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]