特許第5988977号(P5988977)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5988977
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】半導体素子用放熱部品
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/373 20060101AFI20160825BHJP
   B22D 18/02 20060101ALI20160825BHJP
   C22C 26/00 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   H01L23/36 M
   B22D18/02 K
   C22C26/00
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-525676(P2013-525676)
(86)(22)【出願日】2012年7月17日
(86)【国際出願番号】JP2012068130
(87)【国際公開番号】WO2013015158
(87)【国際公開日】20130131
【審査請求日】2015年5月11日
(31)【優先権主張番号】特願2011-165009(P2011-165009)
(32)【優先日】2011年7月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(72)【発明者】
【氏名】広津留 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】塚本 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】石原 庸介
【審査官】 原田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/007974(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/007922(WO,A1)
【文献】 特開2004−200346(JP,A)
【文献】 特開2007−247058(JP,A)
【文献】 特開2008−258511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/373
B22D 18/02
C22C 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイヤモンド粒子を40体積%〜70体積%含有し、残部がアルミニウムを主成分とする金属からなり、厚みが0.4〜6mmである板状体の両面に、アルミニウムを主成分とする金属又はアルミニウム−セラミック系複合材料からなる被覆層を被覆して、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体を形成し、
前記アルミニウム−ダイヤモンド系複合体の少なくとも両主面に、主面側から順に(1)膜厚が0.1〜1μmのアモルファスのNi合金層、(2)膜厚が1〜5μmのNi層、(3)膜厚が0.05〜4μmのAu層を形成してなり、ここで、Ni合金層とNi層の比率(Ni合金層厚/Ni層厚)が0.3以下であることを特徴とする半導体素子用放熱部品。
【請求項2】
前記被覆層が、アルミニウムを主成分とする金属を80体積%以上含有する膜厚0.03〜0.2mmの金属層である請求項1に記載の放熱部品。
【請求項3】
前記被覆層が、板状体側から、膜厚0.05〜0.2mmのアルミニウム−セラミックス系複合体層と、膜厚0.1〜2μmのアルミニウムを主成分とする金属層とを含む層である請求項1に記載の放熱部品。
【請求項4】
前記被覆層が、膜厚0.05〜0.2mmのアルミニウムを主成分とする金属を80体積%以上含有するアルミニウム−セラミックス繊維複合体層である請求項1に記載の放熱部品。
【請求項5】
半導体素子が、GaN、GaAsまたはSiCからなる半導体レーザー素子または高周波素子であることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の放熱部品。
【請求項6】
アルミニウム−ダイヤモンド系複合体が、400W/mK以上の25℃での熱伝導率、5×10−6〜10×10−6/Kの25℃から150℃の線熱膨張係数を有することを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の放熱部品。
【請求項7】
アルミニウム−ダイヤモンド系複合体が、ダイヤモンド粒子が、その表面に化学的に結合したβ型炭化珪素の層の存在により特徴づけられるアルミニウム−ダイヤモンド系複合体であることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の放熱部品。
【請求項8】
Ni合金層、Ni層、Au層がめっき処理により形成され、かつ、下地のNi合金層が亜鉛置換を前処理とする無電解めっき処理により形成され、めっき膜のピール強度が5kg/cm以上であることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の放熱部品の製造方法。
【請求項9】
アルミニウム−ダイヤモンド系複合体が溶湯鍛造法により製造されることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の放熱部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子用放熱部品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、光通信等に用いられる半導体レーザー素子や高周波素子等の半導体素子では、同素子から発生する熱を如何に効率的に逃がすかが、動作不良等を防止する為に非常に重要である。近年、半導体素子の技術の進歩に伴い、素子の高出力化、高速化、高集積化が進み、ますます、その放熱に対する要求は厳しくなってきている。この為、一般には、ヒートシンク等の放熱部品に対しても、高い熱伝導率が要求され、熱伝導率が390W/mKと高い銅(Cu)が用いられている。
【0003】
一方、個々の半導体素子は、高出力化に伴いその寸法が大きくなってきており、半導体素子と放熱に用いるヒートシンクとの熱膨張のミスマッチの問題が顕在化してきた。これらの問題を解決する為には、高熱伝導という特性と半導体素子との熱膨張率のマッチングを両立するヒートシンク材料の開発が求められている。このような材料として、金属とセラミックスの複合体、例えばアルミニウム(Al)と炭化珪素(SiC)の複合体が提案されている。(特許文献1)
【0004】
しかしながら、Al−SiC系の複合体においては、如何に条件を適正化しても熱伝導率は300W/mK以下であるため、銅の熱伝導率以上の更に高い熱伝導率を有するヒートシンク材料の開発が求められている。このような材料として、ダイヤモンドの持つ高い熱伝導率と金属の持つ大きな熱膨張率とを組み合わせて、高熱伝導率で且つ熱膨張係数が半導体素子材料に近い、金属−ダイヤモンド複合体が提案されている。(特許文献2)
【0005】
また、特許文献3では、ダイヤモンド粒子の表面にβ型のSiC層を形成することで、複合化時に形成される低熱伝導率の金属炭化物の生成を抑えると共に、溶融金属との濡れ性を改善して、得られる金属−ダイヤモンド複合体の熱伝導率を改善している。
【0006】
更に、ダイヤモンドは非常に硬い材料である為、金属と複合化して得られる金属−ダイヤモンド複合体も同様に非常に硬く、難加工性材料である。このため、金属−ダイヤモンド複合体は、通常のダイヤモンド工具では、殆ど加工することが出来ず、小型で種々の形状が存在するヒートシンクとして、金属−ダイヤモンド複合体を使用するには、如何に低コストで形状加工を行うかが課題である。この様な課題に対して、レーザー加工、ウォータージェット加工が検討され、更には、金属−セラミックス複合体は、通電が可能であるため、放電加工による加工方法も検討されている。
【0007】
ところで、半導体素子用の放熱部品では、素子との接合の為、放熱部品表面には、めっき等による金属層を付加する必要がある。通常の半導体素子の場合、はんだによる接合が中心であり、接合温度も300℃以下であるため、表面にNi−P合金等のめっき処理による金属層が設けられている。しかしながら、ヒートシンク用材料の使用形態としては、通常、半導体素子の発熱を効率よく放熱する為に、半導体素子に対してヒートシンクがロウ材等で接合される形で接触配置されている。この為、接合面に金めっきを付加した多層めっき等が用いられている。さらに、このような用途では、接合温度の上昇、実使用時の温度負荷の増加に伴い、従来のNi−P合金等の合金めっきでは、アモルファス金属が結晶化し、その際の体積変化によりマイクロクラックが発生し、その後の温度負荷でクラックが伸展するといった課題がある。
【0008】
さらに、半導体素子に対してヒートシンクがロウ材等で接合される場合、接合界面の面精度が放熱に対して重要である。従来の金属−ダイヤモンド複合体の場合、接合面にダイヤモンド粒子が露出していため、接合面の面粗さが粗く、その結果、接触界面の熱抵抗が増大して好ましくない。このため、ヒートシンク用材料に求められる特性として、表面の面粗さを如何に小さくするかといった課題もある。
【0009】
【特許文献1】特開平9−157773号公報
【特許文献2】特開2000−303126号公報
【特許文献3】特表2007−518875号公報
【発明の概要】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、高い熱伝導率と半導体素子に近い熱膨張率を兼ね備え、さらには、半導体素子のヒートシンク等として使用するのに好適なように、表面の面粗さ平面度を改善し、且つ高負荷での実使用においても、表面金属層部分にクラック等の発生のない半導体素子用放熱部品を提供することを目的とする。
【0011】
即ち、本発明は、ダイヤモンド粒子を40体積%〜70体積%含有し、残部がアルミニウムを主成分とする金属からなり、厚みが0.4〜6mmである板状体の両面に、アルミニウムを主成分とする金属又はアルミニウム−セラミック系複合材料からなる被覆層を被覆して、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体を形成し、前記アルミニウム−ダイヤモンド系複合体の少なくとも両主面に、主面側から順に(1)膜厚が0.1〜1μmのアモルファスのNi合金層、(2)膜厚が1〜5μmのNi層、(3)膜厚が0.05〜4μmのAu層を形成してなり、ここで、Ni合金層とNi層の比率(Ni合金層厚/Ni層厚)が0.3以下であることを特徴とする半導体素子用放熱部品を提供する。
【0012】
一態様では、前記被覆層は、アルミニウムを主成分とする金属を80体積%以上含有する膜厚0.03〜0.2mmの金属層であり、他の態様では、前記被覆層は、板状体側から、膜厚0.05〜0.2mmのアルミニウム−セラミックス系複合体層と、膜厚0.1〜2μmのアルミニウムを主成分とする金属層とを含む層である。また別の態様では、被覆層は、膜厚0.05〜0.2mmのアルミニウムを主成分とする金属を80体積%以上含有するアルミニウム−セラミックス繊維複合体層である。
【0013】
他の態様では、上記において、Ni合金層、Ni層、Au層がめっき処理により形成され、且つ、下地のNi合金層が亜鉛置換を前処理とする無電解めっき処理により形成され、めっき膜のピール強度が5kg/cm以上であり、また一態様では、半導体素子は、GaN、GaAsまたはSiCからなる半導体レーザー素子または高周波素子である。
【0014】
さらにまた、本発明の他の態様では、本発明に係る放熱部品におけるアルミニウム−ダイヤモンド系複合体は、溶湯鍛造法により製造され、及び/又は25℃での熱伝導率が400W/mK以上、温度25℃から150℃の線熱膨張係数が5×10−6〜10×10−6/Kである。
【0015】
加えてまた、本発明の別の態様では、本発明に係る放熱部品におけるアルミニウム−ダイヤモンド系複合体は、ダイヤモンド粒子が、その表面に化学的に結合したβ型炭化珪素の層の存在により特徴づけられるアルミニウム−ダイヤモンド系複合体である。
【0016】
上記構成からなる半導体素子用放熱部品は、そのアルミニウム−ダイヤモンド系複合体が高熱伝導かつ半導体素子に近い熱膨張率を有し、さらには、表面金属層を特定の層構造としたので、高負荷での実使用においても、表面金属層部分にクラック等の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態1に係る半導体素子用放熱部品の構造を示す概略断面図である。
図2図1の半導体素子用放熱部品を構成するアルミニウム−セラミック系複合体の複合化部を製造する際の一工程を説明するための概略断面図である。
図3】本発明の実施形態2に係る半導体素子用放熱部品の構造を示す概略断面図である。
図4図3の半導体素子用放熱部品を構成するアルミニウム−セラミック系複合体の複合化部を製造する際の一工程を説明するための概略断面図である。
図5】本発明の実施形態3に係る半導体素子用放熱部品の構造を示す概略断面図である。
図6図5の半導体素子用放熱部品を構成するアルミニウム−セラミック系複合体の複合化部を製造する際の一工程を説明するための概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[用語の説明]
本明細書及び特許請求の範囲において使用される用語及び符号は、当業者が通常理解するところの意味を有するものである。特に、本明細書において、「〜」という記号は「以上」及び「以下」を意味する。よって、例えば「A〜B」というのは、A以上でありB以下であるという意味である。
【0019】
また、本明細書において、板状体について「両面」又は「両主面」とは、板状体の対向する二面を意味し、「側面部」とは、該両面と略垂直をなす面を意味する。よって、平板状に形成されたアルミニウム−ダイヤモンド系複合体について「両面」又は「両主面」とは、複合体の上下両方の面を意味し、「側面部」とは、上記両面とは略垂直の部分を意味する。
【0020】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係る半導体素子用放熱部品の実施形態を説明する。
【0021】
<実施形態1>
図1に示すように、本発明の実施形態1に係る半導体素子用放熱部品は、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体1と表面金属層2から構成される。アルミニウム−ダイヤモンド系複合体1は、ダイヤモンド粒子とアルミニウムを主成分とする金属とを含むアルミニウム−ダイヤモンド系複合材料からなる平板状の複合化部3と、複合化部3の両面に設けられた被覆層4とからなる。アルミニウム−ダイヤモンド系複合材料は、ダイヤモンド粒子の含有量が、該アルミニウム−ダイヤモンド系複合材料全体の40体積%〜70体積%である。被覆層4は、アルミニウムを含有する金属を含む材料からなり、表面金属層2は、アモルファスのNi合金層5、Ni層6及びAu層7からなる。
【0022】
このような構成の半導体素子用放熱部品は、高熱伝導かつ半導体素子に近い熱膨張率を有し、さらには、高負荷での実使用においても、表面金属層部分にクラック等の発生を抑制できるという効果を奏する。
【0023】
以下、実施形態1に係る半導体素子用放熱部品について、その構成を製造方法と共に詳細に説明する。
【0024】
[アルミニウム−ダイヤモンド系複合体]
一般に、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体の製法は、大別すると含浸法と粉末冶金法の2種がある。このうち、熱伝導率等の特性面から、実際に商品化されているのは、含浸法によるものが多い。含浸法にも種々の製法が有り、常圧で行う方法と、高圧下で行う高圧鍛造法がある。高圧鍛造法には、溶湯鍛造法とダイキャスト法がある。本発明に好適な方法は、高圧下で含浸を行う高圧鍛造法であり、熱伝導率等の特性に優れた緻密な複合体を得るには溶湯鍛造法が好ましい。溶湯鍛造法とは、一般的に、高圧容器内に、ダイヤモンド等の粉末又は成形体を装填し、これにアルミニウム合金等の溶湯を高温、高圧下で含浸させて複合材料を得る方法である。
【0025】
(ダイヤモンド粉末)
原料であるダイヤモンド粉末は、天然ダイヤモンド粉末もしくは人造ダイヤモンド粉末のいずれも使用することができる。また、ダイヤモンド粉末には、必要に応じて、例えばシリカ等の結合材を添加してもよく、結合材を添加することにより、成形体を形成することができる。
【0026】
上記ダイヤモンド粉末の粒度に関しては、熱伝導率の点から、平均粒子径が50μm以上の粉末が好ましく、更に好ましくは、平均粒子径が100μm以上である。ダイヤモンド粒子の粒子径の上限に関しては、得られる複合体の厚み以下であれば、特性上の制限はないが、500μm以下であれば、安定したコストで複合体を得ることができるので好ましい。また、ダイヤモンド粒子の充填率を上げるため、平均粒子径が100μm以上のダイヤモンド粉末60体積%〜80体積%と、平均粒子径が30μm以下のダイヤモンド粉末20体積%〜40体積%を粒度配合して用いることが、更に好ましい。
【0027】
そして、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体中のダイヤモンド粒子の含有量は、40体積%以上70体積%以下が好ましい。ダイヤモンド粒子の含有量が40体積%以上であれば、得られるアルミニウム−ダイヤモンド系複合体の熱伝導率を十分に確保できる。また、充填性の面より、ダイヤモンド粒子の含有量が70体積%以下であることが好ましい。70体積%以下であれば、ダイヤモンド粒子の形状を球形等に加工する必要がなく、安定したコストでアルミニウム−ダイヤモンド系複合体を得ることができる。
【0028】
溶湯鍛造法によって得られる複合体は、適切な条件であれば溶湯が粉末同士の空隙間に行き渡るので、充填体積に対する粉末の体積の割合が、得られる複合体全体の体積に対する粉末材料の体積(粒子の含有量)とほぼ等しくなる。
【0029】
更に、上記ダイヤモンド粒子の表面にβ型炭化珪素の層を形成したダイヤモンド粉末を使用することにより、複合化時に形成される低熱伝導率の金属炭化物(Al)の生成を抑えることができ、且つ、溶湯アルミニウムとの濡れ性を改善することができる。その結果、得られるアルミニウム−ダイヤモンド系複合体の熱伝導率が向上する。
【0030】
溶湯鍛造が施されて複合体とされる前の状態の構造体を図2に示す。この図から分かるように、溶湯鍛造の準備として、離型剤を塗布した緻密な一対の離型板9を、上下に対向して配設し、その間にダイヤモンド粉末10を充填した後、アルミニウム合金が含浸し得る多孔質体からなる型材8を、ダイヤモンド粉末10が充填された離型板9を側方から挟持するように側面部に当接させて配し、場合によっては上下から離型板9に当接させて金属板11を更に配して、溶湯鍛造のための構造体とする。この構造体にアルミニウム合金等の溶湯が充填されると、溶湯は、多孔質体からなる型材8を通ってダイヤモンド粉末10が充填されている部分に到達し、ダイヤモンド粉末10とアルミニウム合金の複合体が形成される。
【0031】
(多孔質体からなる型材)
ここで、溶湯鍛造法にてアルミニウム合金が含浸し得る多孔質体からなる型材8の材料としては、溶湯鍛造法にてアルミニウム合金が含浸できる多孔質体であれば特に制約はない。しかし、該多孔質体としては、耐熱性に優れ、安定した溶湯の供給が行える、黒鉛、窒化ホウ素、アルミナ繊維等の多孔質体等が好ましく用いられる。
【0032】
(離型板)
更に、緻密な離型板9としては、ステンレス板やセラミックス板を使用することができ、溶湯鍛造法にてアルミニウム合金が含浸されない緻密体であれば特に制限はない。また、離型板に塗布する離型剤については、耐熱性に優れる、黒鉛、窒化ホウ素、アルミナ等の離型剤が好ましく使用できる。さらには、離型板の表面をアルミナゾル等によりコーティングした後、上記離型剤を塗布することにより、より安定した離型が行える離型板を得ることができる。
【0033】
本実施形態においては、複合化後に、両面に配置した離型板9を剥がすが、このような特有の構成により、非常に平滑な表面を有するアルミニウム−ダイヤモンド系複合体を得ることができる。
【0034】
尚、上記金属板11は任意であるが、これを設けると、溶湯を均一に含浸させることができ、また、含浸処理後のアルミニウム−ダイヤモンド系複合体の取り出し等の操作が容易に行えるようになる。また、後述するように、複数枚の構造体を積層してブロックとする場合には、金属板11を設ける。
【0035】
(アルミニウム合金)
本実施形態に係るアルミニウム−ダイヤモンド系複合体中のアルミニウム合金(アルミニウムを主成分とする金属)は、含浸時にダイヤモンド粉末の空隙中(ダイヤモンド粒子間)に十分に浸透させるために、なるべく融点が低いことが好ましい。このようなアルミニウム合金として、例えばシリコンを5〜25質量%含有したアルミニウム合金が挙げられる。シリコンを5〜25質量%含有したアルミニウム合金を用いることにより、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体の緻密化が促進されるという効果を得ることができる。
【0036】
更に、上記アルミニウム合金にマグネシウムを含有させることにより、ダイヤモンド粒子及びセラミックス粒子と金属部分との結合がより強固になるので好ましい。アルミニウム合金中のアルミニウム、シリコン、マグネシウム以外の金属成分に関しては、アルミニウム合金の特性が極端に変化しない範囲であれば特に制限はなく、例えば、銅等が含まれていても良い。
【0037】
本実施形態に係るアルミニウム−ダイヤモンド系複合体は、複合化時のダイヤモンド粉末の充填量により厚みを調整することができ、その厚みは0.4〜6mmが好ましい。該厚みが0.4mm未満の場合、ヒートシンク等として用いるのに十分な強度が得られず、好ましくない。該厚みが6mmを超える場合、材料自体が高価となると共に、本発明の高熱伝導という効果が十分に得られなくなり、好ましくない。
【0038】
(溶湯鍛造工程)
得られた構造体は、複数枚を更に積層してブロックとし、このブロックを600〜750℃程度で加熱する。そして、該ブロックを高圧容器内に1個または2個以上配置し、ブロックの温度低下を防ぐために出来るだけ速やかに、融点以上に加熱したアルミニウム合金の溶湯を給湯して20MPa以上の圧力で加圧する。
【0039】
ここで、ブロックの加熱温度は、600℃以上であれば、アルミニウム合金の複合化が安定し、十分な熱伝導率を有するアルミニウム−ダイヤモンド系複合体を得ることができる。また、加熱温度が750℃以下であれば、アルミニウム合金との複合化時に、ダイヤモンド粉末表面のアルミニウムカーバイド(Al)の生成を抑制でき、十分な熱伝導率を有するアルミニウム−ダイヤモンド系複合体を得ることができる。
【0040】
また、含浸時の圧力に関しては、20MPa以上であればアルミニウム合金の複合化が安定し、十分な熱伝導率を有するアルミニウム−ダイヤモンド系複合体を得ることができる。さらに好ましくは、含浸圧力は、50MPa以上である。50MPa以上であれば、より安定した熱伝導率特性を有するアルミニウム−ダイヤモンド系複合体を得ることができる。
【0041】
(アニール処理)
上記操作により得られたアルミニウム−ダイヤモンド系成形体には、アニール処理を行ってもよい。アニール処理を行うことにより、上記アルミニウム−ダイヤモンド系成形体内の歪みが除去され、より安定した熱伝導率特性を有するアルミニウム−ダイヤモンド系複合体を得ることができる。
【0042】
得られたアルミニウム−ダイヤモンド系成形体の表面に影響を与えずに、成形体中の歪みのみを除去するには、上記アニール処理は、温度400℃〜550℃の条件で10分間以上行うことが好ましい。
【0043】
(加工方法)
次に、本実施形態に係るアルミニウム−ダイヤモンド系複合体の加工方法の例を説明する。上記アルミニウム−ダイヤモンド系複合体は、非常に硬い難加工性材料である。このため、通常のダイヤモンド工具等を用いた加工も可能ではあるが、工具の耐久性や加工コストの面から、ウォータージェット加工、レーザー加工又は放電加工によって加工するのが好ましい。
【0044】
(被覆層)
本実施形態に係る半導体素子用放熱部品のアルミニウム−ダイヤモンド系複合体1は、図1に示されるように、複合化部3の両面がアルミニウムを主成分とする金属(アルミニウム合金)を含む材料からなる被覆層4で被覆されている。
【0045】
被覆層4の形成方法は、任意である。例えば、溶湯鍛造工程において、離型板9間にダイヤモンド粉末を充填する際に、アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔を離型板9側に介在させておき、この状態でアルミニウム合金を用いて溶湯鍛造を施すことにより、アルミニウム箔等が融解して複合体の表面にアルミニウム合金の被覆層が形成される。別法では、例えばダイヤモンド粉末10を予め成形体とし、それを離型板9に充填する際、離型板9とダイヤモンド粉末10の成形体との間に適切な間隙が生じるように構成しておき、溶湯鍛造により空隙に溶湯が浸入して溶湯成分からなる被覆層4を形成することができる。また、これらの方法を併せて行ってもよい。
【0046】
ここで、上記被覆層4は、主にアルミニウムを主成分とする金属を含む材料からなるが、アルミニウムを主成分とする金属以外の物質が含まれていてもよい。即ち、上記ダイヤモンド粒子や他の不純物等が含まれていてもよい。
【0047】
しかし、ダイヤモンド粒子は、被覆層4の表面から0.01mmの部分には存在しないことが好ましい。このような構成により、通常の金属加工で採用される加工方法が採用でき、研磨傷をつけることなく、被覆層4を平滑にすることができる。
【0048】
また、上記被覆層4は、アルミニウムを主成分とする金属を80体積%以上含有していることが好ましい。アルミニウムを主成分とする金属の含有量が80体積%以上であれば、通常の金属加工で採用される加工方法が採用でき、被覆層4の研磨を行える。更には、アルミニウムを主成分とする金属の含有量が90体積%以上であることが好ましい。アルミニウムを主成分とする金属の含有量が90体積%以上であれば、表面の研磨時に、内部の不純物等が脱離して研磨傷をつけることがない。
【0049】
また、上記被覆層4の厚みは、平均厚みで0.03mm以上0.2mm以下が好ましい。上記被覆層4の平均厚みが0.03mm以上であれば、その後の処理において、ダイヤモンド粒子が露出してしまうことがなく、目標とする面精度及びめっき性を得ることが容易となる。また、被覆層4の平均厚みが0.2mm以下であれば、得られるアルミニウム−ダイヤモンド系複合体1に占める複合化部3の十分な厚みが得られ、十分な熱伝導率を確保することができる。
【0050】
また、両面の被覆層4の平均厚みの合計が、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体1の厚みの20%以下であることが好ましく、更に好ましくは10%以下である。両面の表面の被覆層3の平均厚みの合計が、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体1の厚みの20%以下であれば、面精度及びめっき性に加え、十分な熱伝導率を得ることができる。
【0051】
(被覆層の加工)
本実施形態に係るアルミニウム−ダイヤモンド系複合体は、両面がアルミニウムを主成分とする金属を含む材料からなる被覆層4で被覆された構造を有しているため、この被覆層4を加工(研磨)することにより、表面精度(表面粗さ:Ra)を調整することができる。この被覆層4の加工は、通常の金属加工で採用される加工方法が採用でき、例えばバフ研磨機等を用いて研磨を行い、表面粗さ(Ra)を1μm以下とすることができる。
【0052】
更に、この被覆層4を加工することで、表面層の平均厚みを調整することもできる。本実施形態に係るアルミニウム−ダイヤモンド系複合体は、ヒートシンク等の放熱部品として使用する場合、接合面の熱抵抗を考慮すると、表面粗さが小さい平滑な面であることが好ましく、その表面粗さ(Ra)は1μm以下が好ましく、更に好ましくは、0.5μm以下である。表面粗さが1μm以下であることにより、接合層の厚みを均一にすることができ、より高い放熱性を得ることができる。
【0053】
また、上記被覆層4の平面度についても、50mm×50mmサイズに換算して、30μm以下であることが好ましく、更に好ましくは10μm以下である。該平面度が30μm以下であることにより、接合層の厚みを均一にすることができ、より高い放熱性を得ることができる。
【0054】
[表面金属層]
本実施形態に係る半導体素子用放熱部品は、半導体素子のヒートシンクとして用いる場合、半導体素子とロウ付けにより接合して用いられることが多い。よって、図1に示されるように、その接合表面には、表面金属層2が設けられる。表面金属層2の形成方法としては、めっき法、蒸着法、スパッタリング法等の方法を採用することができる。処理費用の面からは、めっき処理が好ましく、以下、めっき処理について説明する。
【0055】
めっき処理の方法は特に限定されず、無電解めっき処理、電気めっき処理法のいずれでもよい。アルミニウムへのめっき処理の場合、アルミニウムとの密着性に優れるNi合金めっきを下地めっき処理として施すことが好ましい。この場合のNi合金めっきは、Niとリン(P)を5〜15重量%含有する合金めっきが一般的であり、無電解めっき処理により行うことができる。得られるNi合金めっきはアモルファスであり、膜厚は0.1〜2μmである。Ni合金めっきの膜厚が0.1μm未満では、めっき膜のピンホール(めっき未着部分)が発生し好ましくない。2μmを超えると、本発明のような用途では、接合温度の上昇、実使用時の温度負荷の増加に伴い、アモルファスのNi合金めっきが結晶化し、その際の体積変化によりマイクロクラックが発生し、その後の温度負荷でクラックが伸展するといった問題があり好ましくない。
【0056】
さらに、アルミニウムにNi合金めっきを施す際には、亜鉛置換等の前処理が必要であり、めっき密着性に優れる亜鉛置換を施すことが好ましい。Ni合金めっきの密着性に関しては、ピール強度が5kgf/cm以上であることが好ましく、さらに好ましくは8kgf/cm以上である。ピール強度が5kgf/cm未満では、半導体素子の放熱部品として用いる場合、実使用時の温度負荷により、めっき層が剥離する問題が発生することがあり好ましくない。
【0057】
次に、Ni合金めっきの表面に、膜厚が1〜5μmの結晶質のNiめっきを施す。めっき法は、電気めっき処理法が好ましいが、結晶質のNiめっき膜が得られるのであれば、無電解めっき処理法を適用することもできる。Niめっきの膜厚が1μm未満では、めっき膜のピンホール(めっき未着部分)が発生し好ましくない。5μmを超えると、めっき膜中に発生する残留応力が増加し、本発明のような用途では、実使用時の温度負荷により、めっき膜の剥離やクラック発生の問題があり好ましくない。
【0058】
さらに、本発明のような高出力の半導体素子の放熱部品として用いる用途では、接合温度の上昇、実使用時の温度負荷の増加に伴い、アモルファスのNi合金めっきが結晶化し、その際の体積変化によりマイクロクラックが発生し、その後の温度負荷でクラックが伸展するといった問題がある。また、Ni合金めっき層には圧縮応力が、Niめっき層には引張応力が残留するため、Ni合金めっき厚とNiめっき厚を適正化することで信頼性を向上させることができる。具体的には、Ni合金層とNi層の比率(Ni合金層厚/Ni層厚)が0.3以下であることが好ましく、さらに好ましくは、0.2以下である。Ni合金層とNi層の比率が0.3を超えると、本用途では、接合温度の上昇、実使用時の温度負荷の増加に伴い、表面金属層にクラックが発生する問題があり好ましくない。
【0059】
また、本発明では、高温でのロウ材接合を行うため、最表面に電気めっき処理法又は無電解めっき処理法で、膜厚が0.05〜4μmのAuめっきを施す。めっき膜厚が0.05μm未満では、接合が不十分となり好ましくない。上限に関しては、特性上の制約はないが、Auめっきは非常に高価であり、4μm以下であることが好ましい。
【0060】
また、本実施形態に係るアルミニウム−ダイヤモンド系複合体は、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体の温度が25℃のときの熱伝導率が400W/mK以上であり、25℃から150℃における熱膨張係数が5〜10×10−6/Kであることが好ましい。
【0061】
25℃での熱伝導率が400W/mK以上であり、25℃から150℃の熱膨張係数が5〜10×10−6/Kであれば、高熱伝導率かつ半導体素子と同等レベルの低膨張率となる。そのため、ヒートシンク等の放熱部品として用いた場合、放熱特性に優れ、また、温度変化を受けても半導体素子と放熱部品との熱膨張率の差が小さいため、半導体素子の破壊を抑制できる。その結果、高信頼性の放熱部品として好ましく用いられる。
【0062】
[半導体素子用放熱部品]
本発明のアルミニウム−ダイヤモンド系複合体を用いた半導体素子用放熱部品は、高熱伝導率かつ半導体素子と同等レベルの低熱膨張率であり、GaN、GaAs、SiC等の高出力が要求される半導体レーザー素子又は高周波素子の放熱部品として好適である。特に、高周波素子であるGaN−HEMT素子、GaAs−HEMT素子の放熱部品として好適である。
【0063】
<実施形態2>
本発明の実施形態2に係る半導体素子用放熱部品は、図3に示すように、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体12と表面金属層13から構成される。アルミニウム−ダイヤモンド系複合体12は、ダイヤモンド粒子とアルミニウムを主成分とする金属とを含むアルミニウム−ダイヤモンド系複合材料からなる平板状の複合化部14と、複合化部14の両面に設けられた二層の被覆層15,16からなる。アルミニウム−ダイヤモンド系複合材料は、ダイヤモンド粒子の含有量が、該アルミニウム−ダイヤモンド系複合材料全体の40体積%〜70体積%である。被覆層15,16は、複合化部14側の被覆層15がアルミニウム−セラミックス系複合体からなり、他側の被覆層16がアルミニウムを主成分とする金属層からなる。表面金属層13は、アモルファスのNi合金層17、Ni層18及びAu層19からなる。
【0064】
このような構成の半導体素子用放熱部品においても、高熱伝導かつ半導体素子に近い熱膨張率を有し、さらには、高負荷での実使用においても、表面金属層部分にクラック等の発生を抑制できるという効果を奏する。
【0065】
このように、実施形態2に係る半導体素子用放熱部品は、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体12の被覆層が、複合化部14側のアルミニウム−セラミックス系複合体からなる被覆層15と、他側のアルミニウムを主成分とする金属層からなる被覆層16とから構成されている点が、実施形態1における構成と異なる。以下、その異なる構成の部分を中心に、その製造方法と共に詳細に説明するが、説明を行っていない部分については、実施形態1と同様である。
【0066】
[アルミニウム−ダイヤモンド系複合体]
本実施形態においては、アルミニウム−ダイヤモンド系複合材料からなる平板状の複合化部14と、複合化部14に被覆されたアルミニウム−セラミックス系複合体からなる被覆層15を含む部分を先ず製造する。すなわち、図4に示すように、アルミニウム合金が含浸し得る多孔質体からなる型材20、セラミックス多孔体21、離型剤を塗布した緻密な離型板22及びダイヤモンド粉末23を配置して溶湯鍛造用の構造体とし、溶湯鍛造によりアルミニウム合金を複合化した後、複合化後のアルミニウム−ダイヤモンド系複合体の外面部に存在するアルミニウム−セラミックス系複合体を研削加工し、複合化部14の両面が厚み0.05〜0.2mmのアルミニウム−セラミックス系複合体からなる被覆層15で被覆されている構造体を作製する。次に、この構造体を、ウォータージェット加工機やレーザー加工機により加工を行った後、その表面に厚みが0.05〜2.0μmの被覆層16を形成する。
【0067】
(セラミックス多孔体)
セラミックス多孔体21は、溶湯鍛造法にてアルミニウム合金が含浸し得る多孔質で、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウムの少なくとも1種以上を含有する多孔体であるが、得られるアルミニウム−セラミックス系複合体の熱伝導率の点から炭化珪素がより好ましい。セラミックス多孔体の気孔率は、溶湯鍛造法にてアルミニウム合金が含浸し得る気孔が必要であり、20〜60体積%である。一方、アルミニウム−セラミックス系複合体中のセラミックス含有量は、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体とアルミニウム−セラミックス系複合体の熱膨張率差が小さくなるべく調整することが好ましい。アルミニウム−ダイヤモンド系複合体とアルミニウム−セラミックス系複合体の熱膨張率差が大きい場合、その後の加工工程で、反り等が発生し、好ましくない。
【0068】
(加工方法)
上述のように、複合化後、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体の外面部に存在するアルミニウム−セラミックス系複合体を研削加工し、複合化部14の両面が厚み0.05〜0.2mmのアルミニウム−セラミックス系複合体からなる被覆層15で被覆されている構造体を作製するが、その研削加工には、ダイヤモンド工具、ダイヤモンド砥粒等を用いる。さらに、穴部の加工等、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体自体を加工する場合は、例えばウォータージェット加工機、レーザー加工機、放電加工機による。
【0069】
(被覆層)
本実施形態に係るアルミニウム−ダイヤモンド系複合体では、複合化部14の両面が、厚みが0.05〜0.2mmのアルミニウム−セラミックス系複合体からなる被覆層15で被覆され、この被覆層15は、上述のように、溶湯鍛造により、複合化部14と共に形成されるが、別法として、アルミニウム−セラミックス系複合体のみを事前に作製したのち、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体を作製する工程で複合化部14と接合して、図3のアルミニウム−ダイヤモンド系複合体12を作製することもできる。
【0070】
また、上記アルミニウム−セラミックス系複合体からなる被覆層15の厚みは、0.05mm以上0.2mm以下が好ましい。被覆層15の厚みが0.05mm以上であれば、目標とする面精度(表面粗さ)を得ることが容易となる。また、被覆層15の平均厚みが0.2mm以下であれば、得られるアルミニウム−ダイヤモンド系複合体12の厚みにもよるが、複合体12に占める複合化部14の十分な厚みが得られ、十分な熱伝導率を確保することができる。
【0071】
本実施形態に係るアルミニウム−ダイヤモンド系複合体12は、両面がアルミニウム−セラミックス系複合体からなる被覆層15で被覆された構造を有しているため、この被覆層15を加工(研磨)することにより、表面精度(表面粗さ:Ra)、平面度を調整することができる。この加工は、ダイヤモンド砥粒や砥石を用いた加工方法が採用でき、例えば研削盤等により研削加工を行った後、バフ研磨機等を用いて研磨を行い、表面粗さ(Ra)を1μm以下とすることができる。更に、この被覆層15を加工することで、表面層の平均厚みを調整することもできる。
【0072】
更に、本実施形態2では、めっき密着性を改善すべく、被覆層15が表面に形成されたアルミニウム−ダイヤモンド系複合体12の表面を洗浄後、表面に厚みが0.05〜2.0μmのアルミニウムを主成分とする金属からなる更なる被覆層16を形成する。この被覆層16の厚みが0.05μm未満では、被覆層未着部分が発生したり、または、めっきの前処理等で被覆層が反応し、ピンホールの発生により、未めっき部分が生じ、耐薬品性が低下して、好ましくない。一方、被覆層厚みが2.0μmを超えると、被覆層16と複合体の線熱膨張係数が異なる為、両材料の熱膨張差による応力の発生、剥離の発生があり、好ましくない。被覆層16の厚みに関しては、より好ましくは0.3〜0.6μmである。
【0073】
被覆層16は、蒸着法又は、スパッタリング法により、厚み0.05〜2.0μmに形成する。被覆層16を構成するアルミニウム合金としては、純アルミニウムまたはアルミニウムを70質量%以上含有するアルミニウム合金である。アルミニウムの含有量が70質量%未満では、ジンケート処理による十分な密着のあるNiめっきが行えなくなるため好ましくない。アルミニウム合金中のアルミニウム、シリコン以外の金属成分に関しては、極端に特性が変化しない範囲であれば特に制限はなく、例えばマグネシウム、銅等が含まれていても良い。
【0074】
また、本発明では、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体12の表面のアルミニウム−セラミックス系複合体からなる被覆層15とアルミニウム合金等の被覆層16との密着性を向上させるため、窒素、アルゴン、水素、ヘリウム又は真空雰囲気中で、温度460〜650℃で1分間以上加熱処理を行うのが好ましい。酸化性雰囲気下で処理を行うと、表面に酸化膜が形成され、その後のめっき不良が生じるため、好ましくない。温度は好ましくは、480〜570℃である。温度が460℃以下では、被覆層15と被覆層16の密着が悪くなってしまい、650℃以上では、金属の被覆層16が溶解し、表面粗さが悪化してしまい、好ましくない。
【0075】
<実施形態3>
次に、実施形態3に係る半導体素子用放熱部品について説明する。図5に示されるように、実施形態3に係る放熱部品は、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体24と表面金属層25から構成される。アルミニウム−ダイヤモンド系複合体24は、アルミニウム−ダイヤモンド系複合材料からなる平板状の複合化部26と、複合化部26の両面に設けられた被覆層27とからなる。被覆層27は、アルミニウム−セラミックス繊維複合材からなり、表面金属層25は、アモルファスのNi合金層28、Ni層29及びAu層30からなる。
【0076】
本実施形態3に係る放熱部品は、図6に示されるように、溶湯鍛造工程において、離型剤を塗布した緻密な離型板33と離型板33間に充填されるダイヤモンド粉末34との間に、セラミック繊維32を配した上で、溶湯鍛造によりアルミニウム合金を複合化することにより、複合化部26の両面にルミニウム−セラミックス繊維複合体からなる被覆層27が形成されたアルミニウム−ダイヤモンド系複合体24が得られる。
【0077】
[アルミニウム−セラミックス繊維複合体からなる被覆層]
上記アルミニウム−セラミックス繊維複合体からなる被覆層27は、めっき性及び面精度の関係より、アルミニウム合金以外の含有量は20体積%未満が好ましい。アルミニウム合金以外の含有量が20体積%未満であれば、被覆層27を容易に加工できるという効果を得ることができる。
【0078】
また、セラミックス繊維としては、特に限定されないが、耐熱性の面から、アルミナ繊維、シリカ繊維、ムライト繊維、黒鉛繊維等のセラミックス繊維が好ましく使用できる。そして、セラミックス繊維の含有量(Vf)は、上記アルミニウム−セラミックス繊維複合体の特性面より、10体積%以下が好ましく、積層して圧縮した際にVfが20体積%未満となることが好ましい。
【0079】
また、上記セラミックス繊維の厚さは、0.5mm以下が好ましい。0.5mm以下であれば、上記表面層の厚さを適切にすることができ、十分な熱伝導率を有するアルミニウム−ダイヤモンド系複合体を得ることができる。
【0080】
尚、実施形態3については、被覆層を金属層の代わりにアルミニウムーセラミックス繊維複合体からなる層としたこと以外は、実施形態1と同様である。
【0081】
<作用効果>
以下、上記実施形態に係る半導体素子用放熱部品の作用効果について説明する。
【0082】
上記実施形態に係る半導体素子用放熱部品は、アルミニウム−ダイヤモンド系複合材料からなる板状の複合化部(3;14;26)の両面に被覆層(4;15,16;27)を被覆形成して、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体(1;12;24)を形成し、該アルミニウム−ダイヤモンド系複合体(1;12;24)の両主面に、主面側から順にアモルファスのNi合金層(5;17;28)、Ni層(6;18;29)、Au層(7;19;30)を形成してなる表面金属層(2;13;25)を設けたもので、ここで、被覆層は、アルミニウムを主成分とする金属層(被覆層4;実施形態1)、アルミニウム−セラミックス系複合体層(被覆層15)と金属層(被覆層16)(実施形態2)、又はアルミニウム−セラミックス繊維複合体層(被覆層27;実施形態3)からなる。
【0083】
上記構成からなる半導体素子用放熱部品は、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体が高熱伝導かつ半導体素子に近い熱膨張率を有し、さらには、表面金属層により、表面のめっき性が向上され、表面の面粗さ、平面度が小さいため、半導体素子の放熱用ヒートシンク等の放熱部品として好ましく用いられる。
【0084】
さらに、上記被覆層4の厚さが0.03〜0.2mm、上記被覆層15の厚さが0.05〜0.2mm、上記被覆層27の厚さが0.05〜0.2mmであると、目標とする面精度を得ることが容易となり、また、十分な熱伝導率を確保することができる。
【0085】
また、上記被覆層(4;16;27)の表面粗さ(Ra)が、1μm以下であると、接合層の厚みを均一にすることができ、より高い放熱性を得ることができる。
【0086】
また、上記平板状のアルミニウム−ダイヤモンド系複合体(1;12;24)の厚みが0.4〜6mmであると、ヒートシンク等の放熱部品として用いるに十分な強度及び放熱特性を有するという効果を得ることができる。
【0087】
また、上記アルミニウム−ダイヤモンド系複合体の温度が25℃のときの熱伝導率が400W/mK以上であり、上記アルミニウム−ダイヤモンド系複合体の温度が25℃から150℃における熱膨張係数が5〜10×10−6/Kであってもよい。このようにすれば、ヒートシンク等の放熱部品として用いた場合、放熱特性に優れ、また、温度変化を受けても半導体素子と放熱部品との熱膨張率の差が小さいため、半導体素子の破壊を抑制できるという効果を得ることができる。
【0088】
また、上記アルミニウム−ダイヤモンド系複合体(1;12;24)の少なくとも両主面に、主面側から順にアモルファスのNi合金層(5;17;28)、Ni層(6;18;29)、Au層(7;19;30)を形成してなる表面金属層(2;13;25)を設け、Ni合金層とNi層の比率(Ni合金層厚/Ni層厚)が0.3以下であるようにしたので、ロウ材等による接合が可能となる。このようにすれば、高出力の半導体素子と接合して用いる放熱部品等として使用する際に、高い放熱特性と共に、高負荷での実使用においても、表面金属層部分にクラック等の発生を抑制できる高信頼性を確保することができる。
【0089】
また、上記アルミニウム−ダイヤモンド系複合体(1;12;24)は、溶湯鍛造法により製造すれば、熱伝導率等の特性に優れた緻密な複合体を得ることができる。
【0090】
上記構成からなる半導体素子用放熱部品は、高出力の半導体素子と接合して用いる放熱部品等として使用する際に、高い放熱特性と共に、高負荷での実使用においても、表面金属層部分にクラック等の発生を抑制できる高信頼性を確保することができ、GaN、GaAs、SiC等の半導体レーザーまたは高周波素子用の放熱部品として好適である。
【0091】
以上、本発明に係る半導体素子用放熱部品及びその製造方法について、実施形態を挙げて説明し、また以下に実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施形態、実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0092】
[実施例1〜4]
市販されている高純度のダイヤモンド粉末A(平均粒子径:180μm)、高純度のダイヤモンド粉末B(平均粒子径:20μm)、高純度のダイヤモンド粉末C(平均粒子径:2μm)及びアルミニウム粉末(平均粒子径:30μm)を表1に示す配合比で混合した。
【0093】
【表1】
【0094】
次に、40×40×2mmtのステンレス板(SUS430材)に、アルミナゾルをコーティングして350℃で30分間焼き付け処理を行った後、黒鉛系離型剤を表面に塗布して離型板(図2の離型板9)を作製した。そして、60×60×8mmtの外形で、中央部に40×40×8mmtの穴を有する気孔率20%の等方性黒鉛治具(図2の型材8)に、表1の各ダイヤモンド粉末を上下に30μm厚の純アルミニウム箔を配し離型板9で両面を挟む様に充填して構造体とした。
【0095】
上記構造体を、60×60×1mmtの黒鉛系離型剤を塗布したステンレス板(図2の金属板11)を挟んで複数個積層し、両側に厚さ12mmの鉄板を配置して、M10のボルト6本で連結して面方向の締め付けトルクが10Nmとなるようにトルクレンチで締め付けて一つのブロックとした。
【0096】
次に、得られたブロックを、電気炉で温度650℃に予備加熱した後、あらかじめ加熱しておいた内径300mmのプレス型内に収め、シリコンを12質量%、マグネシウムを1質量%含有する温度800℃のアルミニウム合金の溶湯を注ぎ、100MPaの圧力で20分間加圧してダイヤモンド粉末にアルミニウム合金を含浸させた。そして、室温まで冷却した後、湿式バンドソーにて離型板の形状に沿って切断し、挟んだステンレス板をはがした。その後、含浸時の歪み除去のために530℃の温度で3時間アニール処理を行い、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体を得た。
【0097】
得られたアルミニウム−ダイヤモンド系複合体は、両面を#600の研磨紙で研磨した後、バフ研磨を行った。
【0098】
続いて、ウォータージェット加工機(スギノマシン製アブレッシブ・ジェットカッタNC)により、圧力250MPa、加工速度50mm/minの条件で、研磨砥粒として粒度100μmのガーネットを使用して、25×25×2mmtの形状に加工してアルミニウム−ダイヤモンド系複合体とした。
【0099】
得られたアルミニウム−ダイヤモンド系複合体の断面を、工場顕微鏡で観察し両面の被覆層(図1の被覆層4)の平均厚みを測定した。また、表面粗さ計による表面粗さ(Ra)及び3次元輪郭形状測定による平面度を測定した。その結果を表2に示す。
【0100】
また、ウォータージェット加工により熱膨張係数測定用試験体(3×2×10mm)、熱伝導率測定用試験体(25×25×2mmt)を作製した。それぞれの試験片を用いて、温度25℃〜150℃の熱膨張係数を熱膨張計(セイコー電子工業社製;TMA300)で、25℃での熱伝導率をレーザーフラッシュ法(理学電機社製;LF/TCM−8510B)で測定した。その結果を表2に示す。
【0101】
また、実施例1のアルミニウム−ダイヤモンド系複合体の密度をアルキメデス法により測定した結果、3.21g/cmであった。更に、実施例1について、曲げ強度試験体(3×2×40mm)を作製し、曲げ強度試験機にて3点曲げ強度を測定した結果、320MPaであった。
【0102】
【表2】
【0103】
また、上記のアルミニウム−ダイヤモンド系複合体を超音波洗浄した後、Zn触媒による前処理後に、無電解Ni―P、電気Ni、電気Auめっきを行い、実施例1〜4に係るアルミニウム−ダイヤモンド系複合体の表面に5μm厚(Ni−P:0.3μm+Ni:2.7μm+Au:2.0μm)のめっき層(図1の金属表面層2)を形成した。得られためっき品について、JIS Z3197に準じて半田ぬれ広がり率の測定を行った結果、全てのめっき品で、半田ぬれ広がり率は80%以上であった。また、得られためっき品のピール強度を測定した結果、全てのめっき品で10kgf/cm以上であった。更に、得られためっき品は、大気雰囲気下、温度400℃で10分間の加熱処理を行った後、大気雰囲気下で温度−55℃で30分間保持と温度175℃で30分間保持のヒートサイクル試験を1000回行った結果、全てのめっき品で、めっき膜の剥離、クラックの発生等の異常は認められなかった。
【0104】
表2に示されるように、実施例1〜4に係るアルミニウム−ダイヤモンド系複合体は、表面粗さが0.19〜0.25μmと非常に平滑であり、高熱伝導率及び半導体素子に近い熱膨張係数を有している。
【0105】
[実施例5]
ダイヤモンド粉末A(平均粒子径:190μm)35g、ダイヤモンド粉末B(平均粒子径:20μm)15g、シリカ粉末(平均粒子径:5μm)16g、珪素粉末(平均粒子径:10μm):16gを混合した後、炭化珪素製のるつぼに充填し、アルゴン雰囲気下、温度1450℃で3時間加熱処理を行い、ダイヤモンド粉末表面にβ型炭化珪素の層を形成したダイヤモンド粉末を作製した。
【0106】
ダイヤモンド粉末として、表面にβ型炭化珪素の層を形成したダイヤモンド粉末を使用した以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体を作製した。
【0107】
得られたアルミニウム−ダイヤモンド系複合体は、実施例1と同様の研磨、加工を行い、25×25×2mmtの形状に加工してアルミニウム−ダイヤモンド系複合体とし、該アルミニウム−ダイヤモンド系複合体の断面を工場顕微鏡で観察し両面の被覆層(図1の被覆層4)の平均厚みを測定した結果、被覆層の平均厚みは、0.05mmであった。また、表面粗さ計で測定した表面粗さ(Ra)は、0.21μm、3次元形状測定機により測定した平面度は、7μmであった。
【0108】
更に、実施例5のアルミニウム−ダイヤモンド系成形体は、実施例1と同様の特性評価を実施し、その密度は、3.20g/cm、温度25℃〜150℃の熱膨張係数は、7.2×10−6/K、温度25℃での熱伝導率は、650W/mK、3点曲げ強度は340MPaであった。
【0109】
また、実施例1と同様にして、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体の表面に5μm厚(Ni−P:0.3μm+Ni:2.7μm+Au:2.0μm)のめっき層(図1の金属表面層2)を形成した。得られためっき品について、ピール強度を測定した結果、12kgf/cmであった。更に、得られためっき品は、大気雰囲気下、温度400℃で10分間の加熱処理を行った後、大気雰囲気下で温度−55℃で30分間保持と温度175℃で30分間保持のヒートサイクル試験を1000回行った結果、めっき膜の剥離、クラックの発生等の異常は認められなかった。
【0110】
実施例5では、表面にβ型炭化珪素の層を形成したダイヤモンド粉末を使用している。これにより、650W/mKという高い熱伝導率及び半導体素子に近い熱膨張係数を有している。
【0111】
[実施例6〜9]
実施例1にて、ダイヤモンド粉末の充填量を変更し、板厚を実施例6:0.4mm、実施例7:6.0mmとし、積層時にダイヤモンド粉末の上下に実施例8:15μm厚、実施例9:200μm厚の純アルミニウム箔を配して構造体とした以外は、実施例1と同様にして、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体を作製した。
【0112】
得られたアルミニウム−ダイヤモンド系複合体は、実施例1と同様の研磨、加工を行い、25×25×2mmtの形状に加工してアルミニウム−ダイヤモンド系複合体とし、該アルミニウム−ダイヤモンド系複合体の断面を工場顕微鏡で観察し両面の被覆層(図1の被覆層4)の平均厚み、表面粗さ計で測定した表面粗さ(Ra)、3次元形状測定機により測定した平面度の結果を表3に示す。
【0113】
また、得られたアルミニウム−ダイヤモンド系複合体は、実施例1と同様の特性評価を実施し、その結果を表3に示す。
【0114】
【表3】
【0115】
更に、実施例1と同様にして、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体の表面に5μm厚(Ni−P:0.3μm+Ni:2.7μm+Au:2.0μm)のめっき層(図1の表面金属層2)を形成した。得られためっき品について、ピール強度の測定、大気雰囲気下で温度−55℃で30分間保持と温度175℃で30分間保持のヒートサイクル試験を1000回行った後、めっき膜の観察を行った。その結果を表4に示す。
【0116】
【表4】
【0117】
[実施例10〜15、比較例1〜3]
実施例1で作製した、めっき前のアルミニウム−ダイヤモンド系複合体を超音波洗浄した後、表5に示す条件にてアルミニウム−ダイヤモンド系複合体表面にめっき層(図1の表面金属層2)を形成した。得られためっき品は、ピール強度の測定、大気雰囲気下で温度−55℃で30分間保持と温度175℃で30分間保持のヒートサイクル試験を1000回行った後、めっき膜の観察を行った。その結果を表6に示す。
【0118】
[表5]
【0119】
【表6】
【0120】
実施例10〜15では、複合体表面に適切な表面金属層を形成することにより、十分なめっき密着性を確保すると共に、高負荷での実使用を想定したヒートサイクル試験後も、表面金属層部分にクラック等の発生が抑制できている。
【0121】
[実施例16〜19、比較例4]
市販されている高純度のダイヤモンド粉末A(平均粒子径:180μm)70重量%、高純度のダイヤモンド粉末B(平均粒子径:20μm)30重量%の配合比で混合した。
【0122】
次に、60×60×8mmtの外形で、中央部に40×40×8mmtの穴を有する気孔率20%の等方性黒鉛治具(図4の型材20)に、ダイヤモンド粉末を40×40×3.1mmtの気孔率35%の炭化珪素質多孔体(図4のセラミック多孔体21)で両面を挟む様に充填して構造体とした。
【0123】
上記構造体を、60×60×1mmtの黒鉛系離型剤を塗布した離型板(図4の離型板22)を挟んで複数個積層し、両側に厚さ12mmの鉄板を配置して、M10のボルト6本で連結して面方向の締め付けトルクが10Nmとなるようにトルクレンチで締め付けて一つのブロックとした。
【0124】
次に、得られたブロックを、電気炉で温度650℃に予備加熱した後、あらかじめ加熱しておいた内径300mmのプレス型内に収め、シリコンを12質量%、マグネシウムを1質量%含有する温度800℃のアルミニウム合金の溶湯を注ぎ、100MPaの圧力で20分間加圧してダイヤモンド粉末にアルミニウム合金を含浸させた。そして、室温まで冷却した後、湿式バンドソーにて離型板の形状に沿って切断し、挟んだ離型板をはがした。その後、含浸時の歪み除去のために530℃の温度で3時間アニール処理を行い、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体を得た。
【0125】
得られたアルミニウム−ダイヤモンド系複合体は、両面を平面研削盤で#230のダイヤモンド砥石を用いて表5の板厚まで研削加工した後、バフ研磨を行った。なお、実施例19は、両面を#230のダイヤモンド砥石で研削加工したのみで、バフ研磨は行わなかった。
【0126】
続いて、レーザー加工機により、加工速度50mm/minの条件で、25×25mmの形状に加工してアルミニウム−ダイヤモンド系複合体とした。
【0127】
得られたアルミニウム−ダイヤモンド系複合体の断面を、工場顕微鏡で観察し両面の被覆層(図3のアルミニウム−セラミック系複合体からなる被覆層15)の平均厚みを測定した。また、表面粗さ計による表面粗さ(Ra)及び3次元輪郭形状測定による平面度を測定した。その結果を表7に示す。
【0128】
また、レーザー加工により熱膨張係数測定用試験体(3×2×10mm)、熱伝導率測定用試験体(25×25×2mmt)を作製した。それぞれの試験片を用いて、密度(アルキメデス法)、温度25℃〜150℃の熱膨張係数を熱膨張計(セイコー電子工業社製;TMA300)で、25℃での熱伝導率をレーザーフラッシュ法(理学電機社製;LF/TCM−8510B)で測定した。その結果を表7に示す。
【0129】
【表7】
【0130】
更に、上記のアルミニウム−ダイヤモンド系複合体を超音波洗浄した後、蒸着法により複合体の表面に0.5μm厚のアルミニウム層(図3の被覆層16)を形成し、窒素雰囲気下、温度500℃で30分間加熱処理を行った。比較例4は、上記のアルミニウム層を形成しなかった。次に、表面にアルミニウム層を形成させたアルミニウム−ダイヤモンド系複合体に、実施例1同様にしてめっき層(図3の表面金属層14)を形成した。得られためっき品は、ピール強度の測定、大気雰囲気下で温度−55℃で30分間保持と温度175℃で30分間保持のヒートサイクル試験を1000回行った後、めっき膜の観察を行った。その結果を表8に示す。
【0131】
【表8】
【0132】
実施例16〜19に係るアルミニウム−ダイヤモンド系複合体は、高熱伝導率及び半導体素子に近い熱膨張係数を有し、複合体表面に適切な表面金属層を形成することにより、十分なめっき密着性を確保すると共に、高負荷での実使用を想定したヒートサイクル試験後も、表面金属層部分にクラック等の発生が抑制できている。
【0133】
[実施例20〜25]
実施例1と同様のダイヤモンド粉末を用い、積層時にダイヤモンド粉末の上下に純アルミニウム箔に替えて表9に示すセラミックス繊維(図6のセラミック繊維32)を配して構造体とした。
【0134】
【表9】
【0135】
上記構造体を、60×60×1mmtの黒鉛系離型剤を塗布した離型板(図6の離型板33)を挟んで複数個積層し、両側に厚さ12mmの鉄板を配置して、M10のボルト6本で連結して面方向の締め付けトルクが10Nmとなるようにトルクレンチで締め付けて一つのブロックとした。
【0136】
次に、得られたブロックを、電気炉で温度700℃に予備加熱した後、あらかじめ加熱しておいた内径300mmのプレス型内に収め、マグネシウムを1質量%含有する温度850℃のアルミニウム合金の溶湯を注ぎ、100MPaの圧力で20分間加圧してダイヤモンド粉末にアルミニウム合金を含浸させた。そして、室温まで冷却した後、湿式バンドソーにて離型板の形状に沿って切断し、挟んだ離型板をはがした。その後、含浸時の歪み除去のために530℃の温度で3時間アニール処理を行い、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体を得た。
【0137】
得られたアルミニウム−ダイヤモンド系複合体は、実施例1と同様の研磨、加工を行い、25×25×2mmtの形状に加工してアルミニウム−ダイヤモンド系複合体とし、該アルミニウム−ダイヤモンド系複合体の断面を工場顕微鏡で観察し両面の被覆層(図5のアルミニウム−セラミックス繊維複合体層からなる被覆層27)の平均厚み、表面粗さ計で測定した表面粗さ(Ra)、3次元形状測定機により測定した平面度の結果を表10に示す。
【0138】
また、得られたアルミニウム−ダイヤモンド系複合体は、実施例1と同様の特性評価を実施し、その結果を表10に示す。
【0139】
【表10】
【0140】
更に、実施例1と同様にして、アルミニウム−ダイヤモンド系複合体の表面に5μm厚(Ni−P:0.3μm+Ni:2.7μm+Au:2.0μm)のめっき層(図5の表面金属層25)を形成した。得られためっき品について、ピール強度の測定、大気雰囲気下で温度−55℃で30分間保持と温度175℃で30分間保持のヒートサイクル試験を1000回行った後、めっき膜の観察を行った。その結果を表11に示す。
【0141】
【表11】
【0142】
実施例20〜25に係るアルミニウム−ダイヤモンド系複合体は、高熱伝導率及び半導体素子に近い熱膨張係数を有し、複合体表面に適切な表面金属層を形成することにより、十分なめっき密着性を確保すると共に、高負荷での実使用を想定したヒートサイクル試験後も、表面金属層部分にクラック等の発生が抑制できている。
【符号の説明】
【0143】
1 アルミニウム−ダイヤモンド系複合体
2 表面金属層
3 複合化部
4 被覆層
5 Ni合金層
6 Ni層
7 Au層
8 多孔質体からなる型材
9 離型剤を塗布した離型板
10 ダイヤモンド粉末
11 金属板
12 アルミニウム−ダイヤモンド系複合体
13 表面金属層
14 複合化部
15 被覆層(アルミニウム−セラミックス系複合体)
16 被覆層(金属層)
17 Ni合金層
18 Ni層
19 Au層
20 多孔質体からなる型材
21 セラミックス多孔体
22 離型剤を塗布した離型板
23 ダイヤモンド粉末
24 アルミニウム−ダイヤモンド系複合体
25 表面金属層
26 複合化部
27 被覆層(アルミニウム−セラミックス繊維複合体層)
28 Ni合金層
29 Ni層
30 Au層
31 多孔質体からなる型材
32 セラミックス繊維
33 離型剤を塗布した離型板
34 ダイヤモンド粉末
35 金属板
図1
図2
図3
図4
図5
図6