特許第5988981号(P5988981)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5988981植物の育成方法ならびにそれに用いる育成容器および育成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5988981
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】植物の育成方法ならびにそれに用いる育成容器および育成装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 27/00 20060101AFI20160825BHJP
   A01G 9/02 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   A01G27/00 502H
   A01G9/02 F
【請求項の数】14
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-531359(P2013-531359)
(86)(22)【出願日】2012年8月29日
(86)【国際出願番号】JP2012071841
(87)【国際公開番号】WO2013031832
(87)【国際公開日】20130307
【審査請求日】2014年2月17日
(31)【優先権主張番号】特願2011-188973(P2011-188973)
(32)【優先日】2011年8月31日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100126789
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 裕子
(72)【発明者】
【氏名】西浦 芳史
(72)【発明者】
【氏名】坪井 正行
【審査官】 田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−001242(JP,A)
【文献】 実開昭62−001563(JP,U)
【文献】 実開昭62−102344(JP,U)
【文献】 実開昭51−106758(JP,U)
【文献】 実開平02−039645(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 1/00
A01G 27/00
A01G 9/00−9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地に植栽する植物の育成方法であって、培地の側方からのみ植物に水を供給し、培地下部よりも培地上部により多量の水を供給することを特徴とする育成方法であって、水の供給が培地の側方に配置されている複数の孔を通してされ、該孔の数または面積が培地の下部よりも上部において大きいことを特徴とする育成方法
【請求項2】
培地が土壌、培養土および砂から選択される請求項1記載の育成方法。
【請求項3】
植物が根菜類、果菜類または葉茎類である請求項1または2記載の育成方法。
【請求項4】
根菜類、果菜類または葉茎類がダイコン、カブ、ニンジン、ゴボウ、サツマイモ、ヤマイモ、ジネンジョ、ジャガイモ、サトイモ、レンコン、クワイ、チョロギ、オニユリ、ヤマユリ、カンゾウ、ショウガ、ウコン、エシャロット、ニンニク、ワサビ、ラッキョ、タケノコ、タマネギ、ナス、トマト、フルーツトマト、シシトウガラシ、ピーマン、コモンセージ、スイカ、キャベツ、サンチュ、ネギおよびブロッコリーよりなる群から選択される請求項3記載の育成方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の育成方法に用いる容器であって、培地収容部を形成する側部(1)および底部(4)からなり、側部(1)の内側に給水手段(2)が配され、給水手段(2)の内側に、培地の下部よりも上部により多量の水分を供給する給水制限手段(7)が配された植物育成容器。
【請求項6】
給水手段(2)が高浸潤性材料からなる請求項5記載の植物育成容器。
【請求項7】
底部(4)が側部下端よりも上方に位置し、底部が排水手段を含む請求項5または6記載の植物育成容器。
【請求項8】
請求項1記載の育成方法に用いる容器であって、培地収容部を形成する側部(1)および底部(4)、側部(1)の内側の給水手段(2)、給水手段(2)の内側の給水制限手段(7)ならびに給水制限手段に設けられた孔(8)からなり、該孔(8)の数または面積が容器の下部よりも上部において大きいことを特徴とする植物育成容器。
【請求項9】
請求項5ないし8のいずれか1項に記載の植物育成容器と、貯水部(6)とを含む植物育成装置であって、給水手段(2)の一端が貯水部と連結して配された植物育成装置。
【請求項10】
貯水部(6)が植物育成容器の下方に位置する請求項9記載の植物育成装置。
【請求項11】
貯水部(6)が植物育成容器の側方に位置する請求項9記載の植物育成装置。
【請求項12】
貯水部(6)が植物育成容器の上方に位置する請求項9記載の植物育成装置。
【請求項13】
貯水部(6)が上下に昇降可能である請求項11または12記載の植物育成装置。
【請求項14】
請求項9ないし13のいずれか1に記載の植物育成装置の貯水部(6)に水(5)を供給し、水を給水手段(2)を介して培地(3)の側方からのみ植物に供給することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の育成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物の育成方法に関する。詳細には、本発明は、側面灌水による植物の育成方法、ならびに側面灌水用の育成容器および育成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の生育にとって水は必須の要素である。植物は水とともに養分などを主に根から摂取することにより生育する。土壌中では空気(気相)と水(液相)と土壌(培地)(固相)からなる土壌内(培地内)環境が成立し、植物の生育には各相が1/3づつの体積比で均一に存在することが理想的とされる。
【0003】
土壌中の水は灌水によって供給される。植物の灌水には上面灌水、底面灌水および点滴灌水などの方法が一般的に知られているが、いずれの方法によっても育成容器中の水分率に偏りが生じやすく、重力下で水による土壌(培地)の締め固めが生じ、土壌粒子の間隙が減少することによって通気性や排水性が低下する。その結果、土壌内環境が悪化し、植物の生育が抑制されるとともに、根腐れなどの疾病が発生しやすくなる。
特に、根菜類などの作物を良好に育成するためには、地中深くまで好適な培地内環境を確立および維持する必要がある。
また、底面灌水による植物栽培においては一定の培地レベルまでしか水が吸い上げられないため、地下部の垂直方向の伸長度合いが大きい植物については、栽培初期には培地上部に水が供給されにくい一方、一定段階まで生育すると水に浸漬するような状態となり、栽培の全期間にわたる良好な土壌内環境が成立しないという問題がある。
【0004】
他方、水耕栽培は土壌を使わない育成方法であり、培地の締め固めなどの問題は生じないが、一部の植物のみで実用化されているものの多くの植物の水耕栽培は困難とされている。
したがって、多くの植物の栽培が可能な土壌栽培において、理想的な培地内環境を確立および維持することにより植物の育成を促進することの要望が存在する。
【0005】
植物の灌水方法に関連する多数の出願がなされている。
特許文献1には、プラスチック製の植木鉢が有する長所と通気性および水分発散性とを併せもつ、一定の空孔径および空孔率を有する多孔質プラスチック材料からなる植物育成容器が開示されている。
特許文献2には、鉢内の水分量を一定に保つ、導水部材の両端を水に浸し、導水部材の中央部を植木鉢内部に導く植木鉢の灌水方法が開示されている。
特許文献3には、長期間水遣りが不要な水分誘導体を用いる植木鉢が開示されている。
しかしながら、いずれの発明も、培地の側方からのみ植物に水を供給する育成方法については全く示唆されておらず、側方灌水を行うことによる本発明の効果についても全く示唆されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実公平7−48043号公報
【特許文献2】特開平2−174616号公報
【特許文献3】実用新案第3144816
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、良好な培地内環境を確立および維持することにより植物の生育を促進し得る植物の育成方法を提供すること、および、かかる育成方法を容易かつ効果的に行うことができる植物育成容器および植物育成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、植物地下部の側方から水を徐々に供給することによって、育成容器内の水分率の偏りを小さくし、また、培地の締め固めを抑制することができ、その結果として植物の生育を促進し、植え替えや収穫時に培地から植物を容易に取り出すことができ、根腐れなどの疾病の発生を抑制し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は
[1] 培地に植栽する植物の育成方法であって、培地の側方からのみ植物に水を供給することを特徴とする育成方法;
[2] 培地が土壌、培養土および砂から選択される前記[1]記載の育成方法;
[3] 植物が根菜類、果菜類または葉茎類である前記[1]または[2]記載の育成方法;
[4] 根菜類、果菜類または葉茎類がダイコン、カブ、ニンジン、ゴボウ、サツマイモ、ヤマイモ、ジネンジョ、ジャガイモ、サトイモ、レンコン、クワイ、チョロギ、オニユリ、ヤマユリ、カンゾウ、ショウガ、ウコン、エシャロット、ニンニク、ワサビ、ラッキョ、タケノコ、タマネギ、ナス、トマト、フルーツトマト、シシトウガラシ、ピーマン、コモンセージ、スイカ、キャベツ、サンチュ、ネギおよびブロッコリーよりなる群から選択される前記[3]記載の育成方法;
[5] 培地下部よりも培地上部により多量の水を供給することを特徴とする前記[1]ないし[4]のいずれか1に記載の育成方法。
[6] 前記[1]ないし[4]のいずれか1に記載の育成方法に用いる容器であって、培地収容部を形成する側部(1)および底部(4)からなり、側部(1)の内側に給水手段(2)が配された植物育成容器;
[7] 給水手段(2)が高浸潤性材料からなる前記[6]記載の植物育成容器;
[8] 底部(4)が側部下端よりも上方に位置し、底部が排水手段を含む前記[6]または[7]記載の植物育成容器;
[9] 前記[5]記載の育成方法に用いる容器であって、培地収容部を形成する側部(1)および底部(4)、側部(1)の内側の給水手段(2)ならびに給水手段(2)の内側の給水制限手段(7)からなる植物育成容器。
[10] 前記[6]ないし[9]のいずれか1に記載の植物育成容器と、貯水部(6)とを含む植物育成装置であって、給水手段(2)の一端が貯水部と連結して配された植物育成装置;
[11] 貯水部(6)が植物育成容器の下方に位置する前記[10]記載の植物育成装置;
[12] 貯水部(6)が植物育成容器の側方に位置する前記[10]記載の植物育成装置;
[13] 貯水部(6)が植物育成容器の上方に位置する前記[10]記載の植物育成装置;
[14] 貯水部(6)が上下に昇降可能である前記[12]または[13]記載の植物育成装置;
[15] 前記[10]ないし[14]のいずれか1に記載の植物育成装置の貯水部(6)に水(5)を供給し、水を給水手段(2)を介して培地(3)の側方からのみ植物に供給することを特徴とする前記[1]ないし[4]のいずれか1に記載の育成方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の前記[1]に係る植物育成方法によれば、上面灌水、底面灌水または点滴灌水を行う植物の育成方法と比較して、培地中の含水率に偏りが生じにくく、培地の締め固めが生じにくくなる。その結果、好適な培地内環境が確立および維持されて植物の生育が促進されるとともに、植え替えや収穫時に植物を容易に取り出すことができ、根腐れなどの疾病の発生が抑制される。また、底面灌水と比較すると、特に地下部の垂直方向の伸長度合いが大きい植物の栽培においても栽培の全期間にわたって好適な給水を行うことができる。
本発明の前記[2]に係る植物育成方法によれば、培地として最も一般的に使用される土壌、培養土または砂において上記[1]の方法による効果が奏され、広範囲の植物育成方法の実施に適用することができる。
本発明の前記[3]および[4]に係る植物育成方法によれば、特に地下部分を収穫する根菜類や、果菜類または葉茎類において上記[1]または[2]の方法による効果が奏され、また、特に好適な培地内環境の確立が困難な地下深くまで伸長する根菜類についても同様の効果が奏される。
【0011】
本発明の前記[5]に係る植物育成容器によれば、前記[1]の方法を簡便かつ容易に行うことができて、かかる育成方法による効果を良好に奏することができる。
本発明の前記[6]に係る植物育成容器によれば、前記[5]の容器による効果に加えて、水を側方から必要量だけ徐々に供給することができ、培地含水率をさらに均一にすることができ、また、水の消費を抑制することができる。
本発明の前記[7]に係る植物育成容器によれば、培地内に過剰な水が存在する場合にもすみやかに外部に排出して容器内の含水率を均一にし、疾病の発生を抑制することができる。また、培地の下方からも空気を供給してより良好な培地内環境を確立および維持できる。
本発明の前記[8]に係る植物育成容器によれば、重力の影響下で水分が偏在しがちな培地下部への水分供給を少なくするとともに、水分が不足しがちな培地上部への水分供給を多くすることにより、容器内の含水率をさらに均一にすることができ、それによって、前記[5]による効果をさらに高めることができる。
【0012】
本発明の前記[9]ないし[12]に係る植物育成装置によれば、貯水部に水を供給するのみで自動的に水を培地の側方から供給することができ、前記[1]の方法による効果が奏される。
本発明の前記[13]に係る植物育成装置によれば、貯水部を上下に昇降することにより、培地に供給される水量を容易に調整することができる。
本発明の前記[14]に係る植物の育成方法によれば、前記[9]ないし[13]のいずれか1に記載の植物育成装置を用いて簡便かつ容易に植物を育成することができ、また、前記[1]の方法による効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】上面灌水または点滴灌水(A)および側面灌水(B)による培地中の水の移動を模式的に表す縦断断面図である。
図2A】本発明の植物育成容器および植物育成装置の一態様を模式的に表す縦断断面図である。
図2B】本発明の植物育成容器および植物育成装置の上部を模式的に表す一部斜視図である。
図3】本発明の植物育成容器および植物育成装置の別の態様を模式的に表す縦断断面図である。
図4】マイクロファイバー布を用いた本発明の側面灌水による培地内の水分量の分布を表すグラフである。
図5】ジフィーポットを用いた本発明の側面灌水による培地内の水分量の分布を表すグラフである。
図6】種々の高浸潤性材を用いた本発明の側面灌水による培地内の水分量の分布を表すグラフである。
図7】種々の培地および灌水方法を用いて育成したハツカダイコンの屋内における生育を表すグラフである。
図8】種々の培地および灌水方法を用いて育成したハツカダイコンの屋外における生育を表すグラフである。
図9】本発明の植物育成容器および植物育成装置の一態様を模式的に表す縦断断面図である。
図10】本発明の植物育成容器および植物育成装置の一態様を模式的に表す縦断断面図である。
図11】給水制限手段を用いた場合の培地中の局所含水率を表すグラフである。
【符号の説明】
【0014】
1 側部
2 給水手段
3 培地
4 底部
5 水
6 貯水部
7 給水制限手段
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の植物の育成方法を図1に参照して説明する。
本発明の育成方法は、通常行われる土壌などの培地に植栽する植物の育成方法であって、培地の側方からのみ植物に水を供給することを特徴とする。すなわち、従来行われている上面灌水や点滴灌水(図1(A))、または底面灌水と異なり、培地の水平方向からのみ灌水することを特徴とする(図1(B))。培地の水平方向からのみ灌水することにより、上面灌水、点滴灌水または底面灌水のように培地中の水分率が不均一となって、培地の一部分が乾燥したり過剰な水で浸潤することなく、効率的な水の利用が可能となる。また、上面灌水や点滴灌水のように供給した水の全てが重力の影響下で培地の上面から下方に移動する(図1(A))ことがなく、培地の側方から供給した水の一部しか下方に移動しないため(図1(B))、培地の締め固めが生じにくい。また、培地の締め固めが生じにくくなることから、好適な土壌内環境が確立および維持されて植物の生育を促進することができる。また、植え替えや収穫時に培地から植物を容易に取り出すことができ、植物を傷めにくい。さらに、底面灌水のように培地底部に過剰な水が常に存在しないため、根腐れなどの植物の疾病が発生しにくい。さらに、底面灌水と比較すると、特に地下部の垂直方向の伸長度合いが大きい植物の栽培においても栽培の全期間にわたって好適な給水を行うことができる。
【0016】
本発明の育成方法に用いる培地は、灌水する植物の栽培に通常用いられているものであれば特に限定されるものではないが、土壌、培養土、砂、礫、ピーナッツ、ヤシ、籾などの植物殻やそれらの燻炭物、パーライト、ゼオライト、バーミキュライト、ロックウール、木材のチップ、破砕物、おがくず、ガラスビーズ、陶磁器、その他、合成樹脂及び合成繊維の固形物や発泡体からなる人工的培地、繊維系の培地などが挙げられる。なかでも、土壌、培養土、砂は、植物の育成を促進することができ、上面灌水や底面灌水した場合よりも生育が促進されるため好ましい。
本発明の育成方法に用いる植物は、土壌などの培地に植栽する植物であれば特に限定されるものではないが、本発明の育成方法は地下深くまで好適な培地内環境を確立および維持できることから、地下深くまで伸長する根菜類、例えば、ダイコン、カブ、ニンジン、ゴボウ、サツマイモ、ヤマイモ、ジネンジョ、ジャガイモ、サトイモ、レンコン、クワイ、チョロギ、オニユリ、ヤマユリ、カンゾウ、ショウガ、ウコン、エシャロット、ニンニク、ワサビ、ラッキョ、タケノコまたはタマネギなどが好ましい。
また、本発明の育成方法は果菜類または葉茎類の生育も促進できることから、例えば、ナス、トマト、フルーツトマト、シシトウガラシ、ピーマン、コモンセージ、スイカ、キャベツ、サンチュ、ネギおよびブロッコリーなども好ましい。
【0017】
本発明の植物育成容器および植物育成装置を図2および図3に参照しつつ説明する。
本発明の植物育成容器は、培地収容部を形成する側部(1)および底部(4)からなり、側部の内側に給水手段(2)が配されていることを特徴とする。容器の側部(1)と給水手段(2)は約50:1〜約1:5の体積比を有する。あるいは、別の態様において、側部は給水手段をかねるものであってもよい。側部(1)および底部(4)は、収容する培地(3)および図示しない植物を支持し得る同一または異なる材料からなり、これらの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのプラスチック、陶磁器、木材などが挙げられる。あるいは、側部および底部は一体成形された容器であってもよい。
【0018】
給水手段(2)は収容する培地と直接的または間接的に接して、一定量の水を徐々に培地に供給する。この給水手段は、浸潤性のある材料からなるものであれば特に限定されるものはないが、例えば、ペーパータオル、キッチンペーパー、紙ウェスなどの加工紙、和紙、タオルなどの布地、不織布、ウレタンスポンジ、ポリエチレンフォームなど、特に親水性プラスチック、ガラス発泡体などの高浸潤性材料からなるものが好ましい。なお、培地に供給された水は、培地内の固相以外の部分に毛管現象によって主に側方に浸潤する。
また、給水手段をかねる側部を有する容器としては、培地および植物を支持でき、かつ、浸潤性であるジフィーポット、親水性プラスチックなどの材料からなる容器とすることができる。
【0019】
さらに容器の底部(4)は、好ましくは排水手段(図示せず)を有し、側部(1)の下端よりも上方に位置することにより容器の底部(4)が底上げされていることが好ましい。容器底部の排水手段は、容器内部に過剰な水が存在する場合はそれを排出するように作用し、底部が底上げされていることにより排出した水は再度容器に浸入しない。また、培地の上部に加えて底部側の培地も外気と接することにより、培地の全体にわたって空気が供給され、より好適な環境を確立および維持することができる。
排水手段は、例えば、底部に設けられた単数または複数の孔とすることができる。
【0020】
本発明は、もう1つの態様において、前記の植物育成容器と貯水部とを含む植物育成装置を提供する。
本発明の植物育成装置における貯水部(6)は水を貯留する部分であり、前記した給水手段(2)の一端は貯水部に連結して配されており、貯水部の水は給水手段(2)内を移動して培地の側方まで移動し、そこで培地に放出されて、図示しない栽培植物の地下部に側方から供給される。
貯水部(6)は植物育成容器の下方(図2A)、側方(図3)または上方に位置することができ、水はその位置から給水手段(2)を介して培地の側方まで移動する。
あるいは、貯水部(6)は、上下方向に昇降可能に配することもできる。上下方向に昇降が可能なことにより、植物の生育段階に応じた量の灌水を容易に調整することができる。
【0021】
また、本発明の植物育成容器には、給水手段(2)と培地(3)との間に給水制限手段(7)を設けて、培地(3)に供給される水分量を垂直方向で調整することができる。水分制限手段としては、例えば、セロハン製の有孔フィルムなどが好ましい。
給水手段(2)から供給される水は、有孔フィルムの孔(8)があいた部分のみから培地(3)に供給される。
給水手段から培地に供給された水分は毛管現象によって主に側方に浸潤するが、時間の経過とともに重力の影響で下方に移動し、偏在する。したがって、側方灌水において、培地下部よりも培地上部により多量の水を供給することができれば、培地上部と下部の含水率の差をさらに小さくし、培地内の水分率をより均一にすることができる。
本発明の植物育成容器の給水制限手段は培地の下部よりも上部により多量の水分を供給するためのものであり、例えば、下部には無孔のフィルムを配しつつ上部に有孔フィルムを配し、または下部の孔よりも上部の孔の数または面積を大きくすることによりこのことが達成される(図9および図10)。
【0022】
以下、実施例および比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
培地内水分分布の測定実験
底部にスノコを配した側面灌水型の容器を用いて、水分を吸収した側面から培地に水を行き渡らせ、なおかつ培地中の水分をできるだけ均一に保つことができる素材を調べた。
【0024】
実験1
方法
1.側部に市販のタオルを配し、底部としてスノコを配した容器(直径11cm、高さ26cm、底上げ5cm)に培地(ピートモス系土壌)を入れ、一方はそのままの状態で(A)、他方は灌水前に上面灌水を1回行ってから(B)、容器の底部に水が接触しないように容器側部の一部を浸水させて側面灌水を行った。
2.灌水開始4日後に灌水を終了し、培地を垂直方向に3cmの厚さで層に区切り、それぞれの重量を計測した。
3.つぎに、培地を層ごとに封筒に入れ、80℃で絶乾状態にした後に、その重量を測定した。
4.上記2および3の工程で測定した培地重量の差から、各層に含まれていた水分量を求めた。その結果を図4のグラフに示す。グラフの横軸はそれぞれ培地上面からI:0〜3cm、II:3〜6cm、III:6〜9cm、IV:9〜12cm、V:12〜15cm、VI:15〜18cm、VII:18〜21cmの深さの層を示す。
【0025】
結果
測定の結果、側部はしっかりと上端まで水を吸収していることが判明した。一方、図4から、AおよびBいずれの培地においても水分勾配が大きいことが判明した。特に、容器の底部に近い部分の培地は水浸しに近い状態で、上方にいくにつれて培地には水が行き届いておらず、ほぼ乾燥している状態であった。また、全体的にBの水分量の方がAの水分量よりも多いことが示されたが、このBの水分のかなりの量が側面灌水前の上面灌水の水に由来するものと考えられ、側面灌水による水ではないものと考えられた。
【0026】
実験2
方法
1.ジフィーポット(株式会社 サカタのタネ)の外側をスノコで補強し、底部としてスノコを配した容器(直径10cm、高さ12cm、底上げ3cm)に培地(ピートモス系土壌)を入れ、一方はそのままの状態で(A)、他方は灌水前に上面灌水を1回行ってから(B)、培地の底部に水がとどかないように容器側部の一部を浸水させて側面灌水を行った。
2.灌水開始4日後に灌水を終了し、培地上面から垂直方向に2cm、2cm、2cmおよび1cmの厚さで層に区切り、それぞれの重量を計測した。
3.つぎに、培地を層ごとに封筒に入れ、80℃で絶乾状態にした後に、その重量を測定した。
4.上記2および3の工程で測定した培地重量の差から、各層に含まれていた水分量を求めた。なお、2つの容器はどちらも同じ条件で実験を行った。その結果を図5のグラフに示す。グラフの横軸はそれぞれ培地上面からI:0〜2cm、II:2〜4cm、III:4〜6cm、IV:6〜7cmの深さの層である。
【0027】
結果
図5からはIVの水分量が急に減少しているように見えるがこの層は他の層よりも1cm厚さが小さく、その他の層と同じように2cmに換算すると、実験1で得られた結果よりも水分勾配がはるかに小さいことが示された。また、ジフィーポットの側面はしっかりと上端まで水分を吸収しており、培地にも上面までしっかりと水分が行き届いていた。
【0028】
実験3
方法
1.キッチンペーパー1枚をスノコで挟んで製作した容器(A)およびキッチンペーパー3枚をスノコで挟んで製作した容器(B)(いずれの容器も直径16cm、高さ25cm、底上げ6.8cm)に培地(ピートモス系土壌)を入れ、ジフィーポット(株式会社 サカタのタネ)の外側をスノコで補強し、底部としてスノコを配した容器(C)および親水性ウレタン発泡体シートの外側をスノコで補強した容器(D)(いずれの容器も直径16cm、高さ25cm、底上げ6.8cm)に培地(花ちゃん培養土、(株)花ごころ)を入れ、容器の底部に水がとどかないように容器側部の一部を浸水させて側面灌水を行った。
2.AおよびBの容器は灌水開始4日後に、Cの容器は灌水開始7日後に、Dの容器は灌水開始6日後に灌水を終了し、培地を垂直方向に1cmごとの厚さで層に区切り、それぞれの重量を計測した。
3.つぎに、培地を層ごとに封筒に入れ、80℃で絶乾状態にした後に、その重量を測定した。
4.上記2および3の工程で測定した培地重量の差から、各層に含まれていた水分量を求めた。その結果を図6のグラフに示す。グラフの横軸はそれぞれ培地上面からI:〜1cm、II:1〜2cm、III:2〜3cm、IV:3〜4cm、V:4〜5cm、VI:5〜6cm、VII:6〜7cm、VIII:7〜8cm、IX:8〜9cm、X:9〜10cm、XI:10〜11cm、XII:11〜12cm、XIII:12〜13cmの深さの層である。
【0029】
結果
図6を見ると、いずれの容器も底部に近づくにつれて水分量が多くなることが示された。水分量だけに着目すると、AとBの容器の培地の水分量が多いが、水分勾配が大きいことが示された。特に下部に水分が多いと、植物の根腐れを起こす恐れがあるため避けなければならない。今回の実験により、CとDの容器では水分勾配がある程度一定近くになることが示されたが、Cの容器を用いて以後の実験を進めることとした。
【実施例2】
【0030】
種々の灌水方法による植物の屋内育成実験
方法
1.ジフィーポット(底部直径、70mm、上部直径100mm、深さ75mm)を準備し、側面灌水用の容器として、底部を除去し、底部端から15mmの位置にプラスチック製円形メッシュを嵌め込んで容器底部とした。上面灌水および底面灌水用の容器としては、ジフィーポットをそのまま用いた。
2.それぞれの容器に、砂系培養土(2mm以下に篩い分けしたもの)、ピートモス系土壌、市販の培養土(花ちゃん培養土、(株)花ごころ)をそれぞれ同じ重量で入れ、各容器にハツカダイコンを播種し、全ての培地が湿気を有するように等量の水分を噴霧した。
3.上面灌水では、培地表面に給水チューブの先端を固定し、1日1回(午前10時)、水25ml(約5ml/min)を自動灌水した。側面灌水および底面灌水では、それぞれの容器を置いたトレイに液体肥料を入れ、深さが約1cm程度になるように自動給水を行った。
4.植物は、室内温度24℃、湿度60%、蛍光灯照明下(18時間)で生育させた。
5.播種後21日目に植物を取り出し、植物の生重量および実太さの計測を行った。その結果を図7に示す。
【0031】
いずれの培地を用いた場合においても、側面灌水を行ったハツカダイコンは生重量および実太さが最大となった。
【実施例3】
【0032】
種々の灌水方法による植物の屋外育成実験
方法
1.側面灌水用の容器として、ジフィーポット(底部直径、70mm、上部直径100mm、深さ75mm)を準備し、2つのジフィーポットの底部を除去し、プラスチック製円形メッシュを挟み、2つのジフィーポットの底部を合わせて固定した。上面灌水および底面灌水用の容器としては、さらに側面からの給水を排除する目的で、底を除去したプラスチック製コップをジフィーポットの内側に重ねて用いた。すなわち、底面灌水では培地と給水容器の底面のみが接触するように側面を保護し、側面灌水では培地と給水容器の側面のみが接触するように底面を保護し、上面灌水では上面のみ開放し、側面と底面を保護した。
2.それぞれの容器に、砂系培養土、ピートモス系土壌、市販の培養土(花ちゃん培養土、(株)花ごころ)をそれぞれ同じ重量で入れ、各容器にハツカダイコンを播種し、全ての培地が湿気を有するように等量の水分を噴霧した。
3.灌水方法ごとに個別のトレイを準備し、容器をトレイに設置した。上面灌水では培地表面から1日1回散水し、底面灌水では水面が容器底面より約1cm高い位置になるようにトレイに水を入れた。また、側面灌水では水面が容器底部(プラスチック製メッシュ)より約1cm低い位置になるようにトレイに水を入れ、水面を一定に保った。
4.植物は、屋外ビニールハウス内に設置し、自然環境下で生育させた。
5.播種後21日目に植物を取り出し、植物の生重量の計測を行った。その結果を図8に示す。
【0033】
いずれの培地を用いた場合においても、側面灌水を行ったハツカダイコンは生重量が最大となった。また、屋外の育成においても屋内と同様の側面灌水による植物の生育促進効果が示された。
【実施例4】
【0034】
側面灌水による植物の育成実験
方法
1.プラスチックメッシュの内側に浸潤性ウレタンスポンジを重ねて円筒形(直径130mm、高さ200mm)にし、円筒形の一端から35mmの位置に針金を十字に通して円形メッシュを固定して側面灌水用の容器を製作した。
2.その容器に、培養土(花ちゃん培養土、(株)花ごころ)を入れ、カラミダイコン(京美人)を播種した。
3.容器を設置したトレイに液体肥料を入れ、トレイの深さが約1cm程度になるように自動給水を行って側面灌水による植物の育成を行った。なお、播種直後にも上面からの灌水は行わなかった。
4.カラミダイコンは、室内温度24℃、湿度60%、蛍光灯照明下(18時間/6時間の明暗サイクル)で生育させた。
5.播種後58日目にカラミダイコンを収穫し、計測を行った。
【0035】
結果
根腐れなどの疾病を発生することなく、生重量43.2g、実太さ35mm、葉丈190mm、葉幅50mmのカラミダイコンが得られた。収穫時は培養土の締め固めが発生しておらず、カラミダイコンを土壌から容易に引き抜くことができた。
【実施例5】
【0036】
各種灌水による植物の育成実験
培地として市販の培養土(花ちゃん培養土、(株)花ごころ)のみを用いる以外は実施例2と同一の方法を用いて、キュウリ、サニーレタス、サンチュ、ピーマン、フルーツトマト、シシトウガラシ、スイカ、キャベツ、ブロッコリ、長ナス、ホウレンソウ、ミニキャラット、パセリ、ワサビ、コモンセージ、ネギの苗を植えるか種を播き、屋外ビニールハウス内に設置し、上面灌水、側面灌水または底面灌水しつつ自然環境下で生育させた。一定の期間に生育した植物を取り出し、植物の乾燥重量および生重量の計測を行った。その結果を表1および表2に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
結果
サニーレタスを除くすべての植物において、乾燥重量または生重量が上面灌水よりも側面灌水で生育した植物で上回った。また、サンチュ、ピーマン、フルーツトマト、シシトウ、スイカ、キャベツ、ブロッコリー、長ナス、ホウレンソウ、ミニキャロット、ワサビ、コモンセージおよびネギにおいては、側面灌水による育成により最大の乾燥重量または生重量となった。また、これらの植物の収穫時は培養土の締め固めが発生しておらず、培養土から容易に引き抜くことができた。
【0040】
上面灌水および側面灌水による植物の育成実験
培地として市販の培養土(花ちゃん培養土、(株)花ごころ)のみを用いる以外は実施例2と同一の方法を用いて、トマト(N=3)、サツマイモ(N=3)およびナス(N=3)の苗を植えるか種を播き、屋外ビニールハウス内に設置し、上面灌水または側面灌水しつつ自然環境下で生育させた。一定の期間に生育した植物を取り出し、植物の乾燥重量および生重量の計測を行った。その結果を表3に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
結果
実験したすべての植物において、生重量および乾燥重量が上面灌水よりも側面灌水で生育した植物で上回った。特にトマトにおいては、側面灌水により上面灌水と比較して生重量で約2倍、果実重量で約4倍の生育促進が認められた。
【0043】
培地垂直方向における水分勾配の均一化
1.実験目的
側面灌水における培地の垂直方向に対する水分勾配をさらに均一化することを目的として、給水手段と培地との間に水分の透過を制御する給水制限手段(有孔セロハン)を配することにより、水分が過剰になりがちな培地の下部と給水手段との接触面積の制限を試みる。
【0044】
2.実験材料および方法
培地:ピートモス系培地(花ちゃん培養土、(株)花ごころ)を用い、比重は水分調整により600g/Lに設定した。
鉢:
底面灌水
寸法仕様、直径160mm、高さ250mmの円筒形の鉢を用い、底上げ68mmとした。
側面灌水(給水制限なし)
寸法仕様、直径160mm、高さ250mmの円筒形の鉢を用い、底上げ68mmとしたうえで給水手段として3枚のキッチンペーパーを用いた。
給水制限A
寸法仕様、直径160mm、高さ250mmの円筒形の鉢を用い、底上げ68mmとしたうえで給水手段として3枚のキッチンペーパーを用いた。
水分が過剰になりがちな培地の下部と給水手段との接触面積を制限するために、培地と給水手段との間に鉢底位置から70mm上の範囲まで有孔セロハン(穴径5.5mm、横35穴、縦5穴)を配し、培地下部の給水手段からの給水を制限した。
給水制限B
給水制限Aと同一寸法仕様の鉢およびキッチンペーパーを用い、もう一つの態様の給水制限手段として、培地と給水手段との間に鉢底位置から55mm上の範囲まで無孔セロハンを配し、さらにその上部55mmの範囲まで有孔セロハン(穴径5.5mm、横35穴、縦5穴)を配し、給水制限Aよりもさらに培地下部への給水手段からの給水を制限した。
(i)底面灌水
試料数:4個体
水位:80mm(鉢底位置より12mm上)
給水手段および給水制限手段は使用せずに、鉢底から給水させた。
(ii)側面灌水(給水制限なし)
試料数:4個体
水位:50mm(鉢底位置より18mm下)
側面素材:給水手段として3枚のキッチンペーパーを用いて、給水手段から培地に給水した。
(iii)給水制限A
試料数:4個体
水位:50mm(鉢底位置より18mm下)
側面素材:鉢底から5cmの範囲の側面内側に有孔セロハン(穴経5.5mm、75穴)を貼り、給水手段から培地への給水を制限した。
(iv)給水制限B
試料数:4個体
水位:50mm(鉢底位置より18mm下)
側面素材:培地下部には無孔セロハンを配することにより、試験区Aよりさらに給水手段と培地の接触面積を制限した。具体的には、鉢底から5cmの範囲の側面内側に無孔セロハン、そこからさらに5cmの範囲に有孔セロハンを配することにより、給水手段から培地に供給される水分を制限した。
【0045】
実験手順
(i)各鉢に培地を1500gずつ入れ、側面灌水を開始した。
(ii)灌水開始後、5分ごとに鉢を含めた全体の重量を測定し、開始後15分後からは15分ごとに重量を測定した。この操作を飽和まで続けた。
(iii)飽和後、灌水を終了し、培地の沈下量を計測した。そして、培地を最上部から10mmごとの層に区切り、その培地重量を測定した。
(iv)層ごとの乾物重を測定した。
(v)手順(iii)と(iv)との重量の差から、層ごとの培地水分量を算出した。
【0046】
3.結果および考察
培地の層ごとに算出した培地含水率の結果を図11に示す。
図に示されるように、どの育成容器においても培地下部から上部にかけて培地含水率は徐々に低下(近似線の傾きはマイナス)し培地は沈下するが、灌水方法により以下のような差異があった。
【0047】
【表4】

表に示す近似線の傾きは、培地下部から上部にかけての垂直方向の含水率の減少度合いを示し、値の絶対値が大きいほど垂直方向の含水率の変化が大きいことを示す。
また、相関係数は、垂直方向の含水率の直線性を示し、値が大きいほど含水率が直線的に変化し、バラツキが小さいことを示す。
表に示されるように、側面灌水は底面灌水と比較して培地垂直方向の含水率の変化が小さく、灌水した培地上部にも保持されている。また、側面灌水では、培地上部に保持されて、培地下部へ移動する水分量が少ないことに起因して培地の沈下量が非常に小さくなり、給水制限手段を設けた場合にはさらに沈下量が小さくなり、培地の締め固めが抑制されることが判明した。また、上面灌水と比較しても、底面灌水と同様に、側面灌水では、培地の沈下量が小さくなり、培地の締め固めが抑制されることが判明した(データは示さず)。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の植物の育成方法、育成容器および育成装置は、農業分野および園芸分野における植物の育成に好適に適用し得る。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11