(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5988985
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】内燃機関用カムシャフトの製造方法
(51)【国際特許分類】
F01L 1/04 20060101AFI20160825BHJP
F27B 9/12 20060101ALI20160825BHJP
C21D 9/30 20060101ALI20160825BHJP
B22F 7/08 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
F01L1/04 G
F27B9/12
C21D9/30 A
B22F7/08 E
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-536432(P2013-536432)
(86)(22)【出願日】2012年9月28日
(86)【国際出願番号】JP2012075109
(87)【国際公開番号】WO2013047761
(87)【国際公開日】20130404
【審査請求日】2015年7月21日
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2011/072597
(32)【優先日】2011年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390022806
【氏名又は名称】日本ピストンリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100083839
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 泰男
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】舩橋 隆
(72)【発明者】
【氏名】竹口 俊輔
【審査官】
永田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−271909(JP,A)
【文献】
特開昭62−124256(JP,A)
【文献】
特開平5−99572(JP,A)
【文献】
特開2002−277167(JP,A)
【文献】
特開平4−36438(JP,A)
【文献】
特開平11−350029(JP,A)
【文献】
特開平6−193708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/00−1/46,
F27B 9/00−9/40,
C21D 9/30,
B22F 7/08,
F16C 3/00−3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製パイプのシャフト本体に焼結材のカムピースを組み付けて形成されるカムシャフトを、加熱処理装置により焼結温度まで加熱する加熱処理工程と、
加熱処理されたカムシャフトを冷却処理装置により冷却する冷却処理工程とを備えた内燃機関用カムシャフトの製造方法において、
当該冷却処理工程では、冷却処理装置内の周囲に設けられた黒鉛板で全てを包囲された状態にカムシャフトを配置した後に、徐冷を行う第1段階冷却処理工程と、
当該冷却処理装置内に注入した冷却ガスをファンにより循環させて急冷を行う第2段階冷却処理工程との2段階の工程で冷却するようにし、
前記加熱処理工程では、焼結を行うに際し焼結温度が900℃〜1200℃として制御した温度で加熱し、
前記第1段階冷却処理工程では、700℃〜900℃の間を冷却速度10℃/分〜30℃/分の速さで冷却し、
前記第2段階冷却処理工程では、前記第1段階冷却処理工程終了後の温度から以下の温度領域を冷却速度30℃/分〜300℃/分の速さで冷却し、
かつ、前記冷却処理工程は、前記冷却処理装置の内部を加圧させた状態で行われることを特徴とする内燃機関用カムシャフトの製造方法。
【請求項2】
前記冷却処理工程では、前記内燃機関用カムシャフトを複数段に段積みされた載置用治具に複数積載した状態で冷却処理を行う請求項1に記載の内燃機関用カムシャフトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、内燃機関用カムシャフトの製造方法に関し、具体的には焼結合金粉末からなるカムロブと鋼製のシャフトとを拡散接合により形成されるカムシャフトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関用のカムシャフトには、鋳造により一体成形された鋳鉄カムシャフトや、焼結材のカムロブを鋼製シャフトに接合した焼結カムシャフト等が用いられている。ここで、鋳鉄カムシャフトは、比較的安価であるものの、軽量化が困難であったり、カム部を高い精度で形成することが困難である等の製造上の問題がある。更に、鋳鉄カムシャフトは、鋳造可能な材料しか用いることが出来ず、カム部を耐摩耗性に優れたものとすることが困難である。従って、鋳鉄カムシャフトの場合、耐ピッチング性や耐スカッフィング性等の摩耗特性が劣り、内燃機関の高性能化や軽量化に対応することが困難となっていた。これに対し、焼結カムシャフトは、カムに要求される性能に応じて合金成分を選択可能であり、また、シャフトを中空化することが出来る。そのため、焼結材のカムロブを鋼製シャフトに接合した焼結カムシャフトは、高い耐摩耗性を有し、高面圧、高負荷に耐えられる軽量のカムシャフトとして、高性能化や軽量化が求められる内燃機関に好適に用いることが出来る。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2001−271909号)には、焼結合金粉末からなるカムロブと、鋼材からなるシャフトとを拡散接合して形成される組立式カムシャフトに好適に用いられるシャフトおよび組立式カムシャフトの製造方法について開示されている。具体的には、特許文献1のカムシャフトは、高炭素クロム軸受鋼鋼材を球状化焼き鈍し処理し、その後引き抜き加工して所定の寸法に加工したシャフトと、焼結合金粉末を圧粉成形して所定の寸法の圧粉成形体に形成したカムロブとを作製し、当該カムロブを当該シャフトに組み付け、それらを拡散接合して製造されるものである。なお、特許文献1には、組立式カムシャフトの製造において、焼結炉を通過した後の冷却を、特にA
1変態点付近の冷却速度を10〜20℃/分として段階を経ることによって、微細な析出炭化物を含んだパーライト主体の基地組織とする旨開示している(段落0024参照のこと。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−271909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1には、カムシャフトの冷却工程において、当該カムシャフトの全周を均一に同じ速度で冷却する方法に関して何らの開示もされていない。仮に、カムシャフトの全周が均一に同じ速度で冷却されないとすれば、当該カムシャフトの部分部分で機械的特性にバラツキが生じて、品質の低下を招いてしまう。ちなみに、カムシャフトの製造に用いる焼結炉は、一般的に、カムシャフトの焼結を行う焼結装置と、焼結されたカムシャフトの冷却を行う冷却装置とを備えている。そして、これら焼結装置及び冷却装置では、処理効率上、カムシャフトを例えば水平横置きにして複数載置した載置プレートを複数段積み重ねた状態で治具に載置した状態で、順次搬送されて処理が施される。焼結カムシャフトを焼結温度以上の温度から冷却する場合には、冷却装置の冷却処理室内に冷却ガスを循環させて強制冷却を行うことが多いが、当該冷却ガスの循環速度を低下させても、カムシャフトの載置位置が内側と外側とにおいて冷却速度に個体差が生じてしまう。
【0006】
以上のことから、本件発明は、冷却装置内における載置位置によってカムシャフトの冷却速度に個体差が生じることがなく、カムシャフトの全周をほぼ均一に冷却し、耐ピッチング性や耐スカッフィング性等の摩耗特性の向上効果を安定して得られる内燃機関用カムシャフトの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者等は、鋭意研究を行った結果、カムシャフトの焼結後の冷却処理について所定の条件を満たすことで、上述した課題を解決するに到った。以下、本件発明に関して説明する。
【0008】
本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法は、鋼製パイプのシャフト本体に焼結材のカムピースを組み付けて形成されるカムシャフトを、加熱処理装置により焼結温度まで加熱する加熱処理工程と、加熱処理されたカムシャフトを冷却処理装置により冷却する冷却処理工程とを備えた内燃機関用カムシャフトの製造方法において、当該冷却処理工程では、冷却処理装置内の周囲に設けられた黒鉛板で包囲された状態にカムシャフトを配置した後に、徐冷を行う第1段階冷却処理工程と、当該冷却処理装置内に注入した冷却ガスを出来るにより循環させて急冷を行う第2段階冷却処理工程との2段階の工程で冷却するようにしたことを特徴とする。
【0009】
本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法において、前記加熱処理工程は、焼結を行うに際し焼結温度が900℃〜1200℃として制御した温度で加熱することが好ましい。
【0010】
本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法において、前記第1段階冷却処理工程は、700℃〜900℃の間を冷却速度10℃/分〜30℃/分の速さで冷却することが好ましい。
【0011】
本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法において、前記第2段階冷却処理工程は、前記第1段階冷却処理工程終了後の温度から以下の温度領域を冷却速度30℃/分〜300℃/分の速さで冷却することが好ましい。
【0012】
本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法において、前記冷却処理工程では、前記内燃機関用カムシャフトを複数段に段積みされた載置用治具に複数積載した状態で冷却処理を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法によれば、冷却装置内に配置された焼結カムシャフトの周囲を黒鉛板で包囲された状態で冷却処理を行うことで、耐ピッチング性や耐スカッフィング性等の摩耗特性の向上効果が安定して図られた内燃機関用カムシャフトを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法で用いる連続焼結炉を説明するために例示した正面図である。
【
図3】
図1の冷却装置を説明するための正面断面からの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法の好ましい実施の形態について、以下に図を用いて示しながら本件発明をより詳細に説明する。
【0016】
本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法: 鋼製パイプのシャフト本体に焼結材のカムピースを組み付けて形成されるカムシャフトを、加熱処理装置により焼結温度まで加熱する加熱処理工程と、加熱処理されたカムシャフトを冷却処理装置により冷却する冷却処理工程とを備えた内燃機関用カムシャフトの製造方法において、当該冷却処理工程では、冷却処理装置内の周囲に設けられた黒鉛板で包囲された状態にカムシャフトを配置した後に、徐冷を行う第1段階冷却処理工程と、当該冷却処理装置内に注入した冷却ガスをファンにより循環させて急冷を行う第2段階冷却処理工程との2段階の工程で冷却するようにしたことを特徴とするものである。
【0017】
図1は、本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法で用いる連続焼結炉を説明するための正面図である。また、
図2は、
図1のA−A’断面図である。また、
図3は、
図1の冷却装置を説明するための正面断面からの説明図である。本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法で用いる連続焼結炉1は、
図1に例示するように、真空待機室2、脱ワックスを行う予備加熱装置3、焼結を行う焼結装置4、冷却装置5とで構成することが出来る。
図1に示す連続焼結炉1は、処理前のカムシャフト搬入用の入口扉11と、処理後のカムシャフト搬出用の出口扉12とが、それぞれ開閉装置13及び14により昇降駆動されるようになつている。なお、図中15〜20に関しても、それぞれ開閉装置を示したものであり、各室を区画する各扉(不図示)の昇降駆動を行うものである。そして、連続焼結炉1の全長に亘って、カムシャフトWを搬送するための搬送用ロ−ラ21が設けられている。
【0018】
ここで、搬送ローラ21は、円柱形状を呈し、当該搬送ローラ21の軸が水平且つ前後方向に平行になるように入口扉11と出口扉12とを貫通して炉体内に配置される。このような搬送ローラ21が、同じ高さで、カムシャフトWを積載した治具Jの搬送方向長さよりも狭い間隔で複数並設される。また、搬送ローラ21は、それぞれ、ローラの軸を中心として回転自在に支持されている。そして、例えばモータ(不図示)を動力源としてチェーン(不図示)によって全てのローラが同じ方向に、同じ回転速度で回転する構成とすることが出来る。本件発明で用いる連続焼結炉1は、このような搬送ローラ21上にカムシャフトWを載置し、搬送ローラ21の回転によってカムシャフトWを徐々に前方に移動させながら、加熱処理や冷却処理を施す方式を採用したものである。
【0019】
以上をふまえ、以下に本件発明における加熱処理工程及び冷却処理工程について、具体的に説明していく。まず最初に、本件発明の実施の形態に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法における加熱処理工程に関して説明する。本件発明の加熱処理工程では、まず、カムシャフトWが連続焼結炉1の入口扉11のある搬入口を通り連続式焼結炉1の内部に搬入される。そして、搬入されたカムシャフトWは、搬送手段である搬送ローラ21の回転によって、予熱加熱室3内に搬入され、例えば500〜700℃まで加熱されて予め添加されているワックスを蒸発除去する。そして、予備加熱装置3での処理が行われたカムシャフトWは、焼結装置4内に搬入され、焼結温度である900〜1200℃まで加熱され焼結処理される。焼結処理が終了した後のカムシャフトWは、冷却装置5において冷却され、連続焼結炉1の出口扉12から搬出される。
【0020】
なお、本件発明の加熱処理工程で用いる、連続焼結炉1に備わる予備加熱装置3、及び焼結装置4は、カムシャフトWの上下左右の四面に熱源(不図示)が設けられる。本件発明の加熱処理工程で用いる連続焼結炉1は、ローラハース式を採用することで、隣接するローラの間から底面に配設した熱源の熱を直接的にカムシャフトWに伝えることが出来る。その結果、本件発明の加熱処理工程で用いる連続焼結炉1によれば、治具J上に積載された全てのカムシャフトWに対して均一に加熱処理を行うことが出来、焼結温度に対して±10℃の範囲で温度制御を行うことが可能となる。従って、本件発明の加熱処理工程で用いる連続焼結炉1は、例えば複数のカムシャフトを積載した台車を移動させて順次加熱処理を行う方式を採用したバッチ式焼結炉と同様に処理を行うことが可能でありながらも、焼結時間を短縮することが出来る。
【0021】
次に、本件発明の実施の形態に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法における冷却処理工程に関して説明する。
図2及び
図3に示すように、本件発明の冷却処理工程で用いる冷却装置5は、連続焼結炉1において加熱処理装置のカムシャフトW搬出口側に連続して配置されており、カムシャフトWを搬入する搬入扉59と、カムシャフトWを搬出する出口扉12とが開閉する構成を備え、これら扉を閉じることで冷却装置5内を密閉状態とすることが出来る構造を備えている。本件発明の冷却装置5は、その内部を加圧させた状態で冷却を行うことで、治具Jに積載された複数のカムシャフトW全てに対して均一に冷却処理を行うことが出来る。なお、本件発明で用いる冷却装置5は、治具Jに積載されたカムシャフトW全てを包囲するように黒鉛製の板51を設けた構造を備え、冷却処理時の黒鉛板51による断熱、及び放熱作用によってカムシャフトWの治具J上の載置位置に影響されずに個体差無く各カムシャフトを均一な速度で冷却することが出来る。
【0022】
本件発明の冷却処理工程で用いる冷却装置5は、上述したように、治具Jに積載されたカムシャフトW全てを包囲するように黒鉛製の板51を設けた状態で冷却処理を行う方式を採用している。ここで、黒鉛とは、黒鉛化という高温熱処理をされることにより出来るカーボンの塊をいう。黒鉛素材は、多孔質であり、内部に存在する空気が熱を吸収して断熱材として機能する他、黒鉛自身の熱伝導率が良い(熱伝導性が高い)性質により、放熱・冷却用の敷板等にも好適に用いることが出来る。すなわち、本件発明の冷却処理工程で用いる冷却装置5内でカムシャフトWを囲う黒鉛板51は、蓄熱体としても作用し、カムシャフトWの部分的な過冷却を防止出来ると共に、黒鉛板自身の昇温によりカムシャフトWからの熱放射を抑制することで、カムシャフトWの配置位置による温度差を小さくすることが出来る。この結果、本件発明の冷却処理工程で用いる冷却装置5によれば、冷却室52内におけるカムシャフトW全てに関して均一な速度で冷却を行うことが出来ることとなり、カムシャフトWの部分部分で機械的特性にばらつきが生じて製品品質の低下を招くこともない。ちなみに、黒鉛板は、多孔質で通気性を有することから、これらの効果を得ることが可能になると考えられ、この点に鑑みれば多孔質で熱伝導性に優れるセラミックス製の板等でも代用することが出来る。
【0023】
また、
図2に示すように、本件発明の冷却処理工程で用いる冷却装置5の内部には、ファン53が設けられ、ファン駆動装置Mに格納されているモータにより回転させられることで、図示せぬ冷却ガス導入口より導入される冷却ガスを冷却処理室52内に循環させることが出来る。また、本件発明の冷却処理工程で用いる冷却装置5では、冷媒導入管56から導入した冷媒を分配して熱交換させ、冷媒導出管57より導出させる熱交換器55を冷却処理室52内に設置することも出来る。本件発明の冷却処理工程で用いる冷却装置5は、このような構造とした場合、冷却処理室52内を循環する冷却ガスや空気が熱交換器55に接触する毎に冷やされて急冷処理を行うことが出来る。また、冷却処理室52内には、導入されてきた冷却ガスを効率良く対流循環させるための整流板58が設けられる。そして、ファン53は、冷却ガスを循環させる際の循環速度を変更することが出来る。例えば、ファン53は、冷却ガスを循環させない状態であるファン回転数0Hzの状態から、ファン回転数20Hz〜60Hzの状態の間で制御可能である。なお、
図2では、ファン53は、冷却ガスを側方より送るよう構成配置されているが、この位置に限定されるものではない。また、本件発明の冷却処理工程で用いる冷却ガスは、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等を加圧したものを用いることが出来る。
【0024】
本件発明の冷却処理工程で用いる冷却装置5は、上述したような方式を採用することで、カムシャフトに所望の機械的特性を付与させることが出来る。また、本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法は、冷却処理工程において二段階冷却方式を採用しており、耐ピッチング性や耐スカッフィング性等の摩耗特性に優れたパーライト主体の基地組織とするに際し、A
1変態点付近の温度の前後で当該カムシャフトの冷却速度を変えるようにしている。例えば、本件発明の冷却処理工程においては、A
1変態点付近の温度を通過する直前までをファンの回転数が20Hz〜30Hzとなるように設定して徐冷することで、温度分布の不均一が生じることによるカムシャフトの変形を抑制し、A
1変態点付近の温度を通過した後をファンの回転数が30Hz〜60Hzとなるように設定して急冷することでサイクル時間の短縮を図ることが出来る。
【0025】
また、本件発明の内燃機関用カムシャフトの製造方法において、加熱処理工程は、焼結を行うに際し焼結温度が900℃〜1200℃として制御した温度で加熱することが好ましい。
【0026】
本件発明の加熱処理工程において、焼結カムシャフトに施される焼結温度は、用いる焼結合金粉末の成分組成により若干異なるが、通常900℃〜1200℃の間の温度領域である。従って、本件発明の加熱処理工程で用いる焼結装置4は、その内部を真空状態として、装置内部に備わる各熱源に通電し、炉内の温度を900℃〜1200℃の間の所定の温度に保持することで、カムシャフトWは焼結される。ちなみに、焼結温度が900℃以下になると、金属粒子の拡散結合に時間を費やしたり又は拡散結合が不十分となるため、カムシャフトWの品質を安定させることが出来ない。そして、本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法では、ローラハース式連続炉を採用することで、上述したように、加熱処理工程においてカムシャフトWの上下左右の4面に熱源となる熱源を設けることが出来るため、カムシャフトWの載置位置に関係なく焼結温度に対して±10℃の範囲で温度制御を行うことが可能となる。従って、本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法によれば、焼結処理においてカムシャフトを構成するシャフトとカムロブとの拡散接合を適切に行うことが出来る。
【0027】
また、本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法において、第1段階冷却処理工程は、700℃〜900℃の間を冷却速度10℃/分〜30℃/分の速さで冷却することが好ましい。この冷却速度が10℃/分未満の場合には、冷却が緩やかになりすぎて、結晶組織がパーライト化し、強度が低下するため好ましくない。一方、この冷却速度が30℃/分を超えると、結晶組織内の残留オーステナイト量が過剰となり、靱性が低下する傾向にあるため好ましくない。
【0028】
本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法は、第1段階冷却処理工程において、700℃〜900℃の間を冷却速度10℃/分〜30℃/分の速さで冷却することで、カムシャフトの冷却による変形の発生を抑制することが出来る。そのため、本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法によれば、カムシャフトWを冷却処理した後に所定の寸法になるように機械加工等を行う必要がなく、製造コストを低減させることが出来ることとなる。なお、700℃〜900℃は、上述したA
1変態点付近の温度を含み、オーステナイト状態の鋼や鉄系焼結材を徐冷(冷却速度:約20℃/分)したときにパーライト組織に変化する温度領域である。また、本件発明の冷却処理工程で用いる冷却装置5は、上述したように、治具Jに積載したカムシャフトW全てを包囲するように黒鉛製の板51を設けた状態で冷却処理を行うため、従来の冷却処理のように、冷却装置内雰囲気を自然対流がほとんど作用しない状態で放冷する場合と異なり、短時間でカムシャフトを均一に冷却することが可能となる。従って、本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法によれば、短時間で耐ピッチング性や耐スカッフィング性等の摩耗特性に優れたカムシャフトを得ることが出来る。
【0029】
また、本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法において、第2段階冷却処理工程は、第1段階冷却処理工程終了後の温度から以下の温度領域を冷却速度30℃/分〜300℃/分の速さで冷却することが好ましい。
【0030】
本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法は、第2段階冷却処理工程において、冷却歪み発生の危険性が少ない600℃から以下の温度領域を冷却速度30℃/分〜300℃/分の速さで冷却することで、冷却処理時間を大幅に短縮することが出来る。本件発明の冷却処理工程で用いる冷却装置5は、上述したように、冷却効率の向上を図るべく、冷却処理室52内に熱交換器57を備えると共に、ファン52の回転速度を上げて冷却処理室52内の冷却ガスの循環速度を最大限とすることで、更なる冷却効率の向上を図ることも可能である。この場合においても、本件発明の冷却処理工程で用いる冷却装置5は、治具Jに積載したカムシャフトW全てを包囲するように黒鉛製の板51を設けた状態で冷却処理を行う方式を採用することで、全てのカムシャフトを均一の速度で冷却することが可能となる。なお、内燃機関用カムシャフトの場合、600℃から以下の温度領域を冷却速度30℃/分〜300℃/分の速さで、内燃機関用カムシャフトの温度が200℃に達するまで冷却し、その後は、放冷しても製品品質に何ら影響はなく、むしろ製造コストの削減となる。
【0031】
また、本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法において、冷却処理工程では、内燃機関用カムシャフトを複数段に段積みされた載置用治具に複数積載した状態で冷却処理を行うことが好ましい。
【0032】
本件発明の加熱処理工程及び冷却処理工程では、
図3に示すように、焼結カムシャフトの加熱処理及び冷却処理を、処理効率の向上が図れるよう、例えばカムシャフトWを水平横置きにして複数載置した載置プレートを複数段積み重ねた状態で一度に処理することが好ましい。但し、カムシャフトWは、複数同時に処理するに際し、載置される位置によって温度差が生じやすく、特に所望の機械的性質を得るために冷却処理においてカムシャフトWの全周を極力均一な速度で冷却することが必要とされる。しかし、上述したように、本件発明の冷却処理工程で用いる冷却装置5によれば、ローラハース式を採用することで、冷却処理時においても底面側に黒鉛板を配置出来るため、全てのカムシャフトWの冷却速度を個体差なく制御することが可能となる。
【0033】
以上のことから、本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法によれば、一度の処理で耐ピッチング性や耐スカッフィング性等の摩耗特性に優れたカムシャフトWを多数製造することが出来、製造コストの削減を図ることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上、本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法によれば、特に高い機械的強度を備えたカムシャフトを安定して提供することが出来る。その結果、本件発明の製造方法により作製されたカムシャフトは、シャフトの径を小さくしたり、中空タイプのシャフトにおいてはその肉厚を薄くすることが可能となり、優れた耐久性能を維持させたまま、その軽量化を達成することが出来る。また、本件発明に係るカムシャフトの製造方法によれば、加熱処理よりも比較的時間の要する冷却処理を短縮することが出来るため、効率良く各処理を進めることが出来る。言い換えれば、連続式焼結炉1は、本件発明に係る内燃機関用カムシャフトの製造方法を採用することで、各処理装置2〜5を順次移動するように搬送ローラ21によりカムシャフトWを移動(
図1に示す矢印方向)させる際に効率よくカムシャフトWを移動させることが出来るようになる。その結果、本件発明係る内燃機関用カムシャフトの製造方法によれば、製造コストの低減化を図ることが出来るため、高い品質と高い機械的強度が要求される、例えば内燃機関に用いられる他の摺動要素にも好適に採用することが可能となる。
【符号の説明】
【0035】
1 連続式焼結炉
2 待機室
3 予備加熱装置
4 焼結装置
5 冷却装置
21 搬送ローラ
11 入口扉
12 出口扉
51 黒鉛板
52 冷却処理室
53 ファン
54 集風誘導ダクト
55 熱交換器
56 冷媒導入管
57 冷媒導出管
58 整流板
59 搬入扉
J 治具
M ファン駆動用モータ装置
W カムシャフト