(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
発電所または焼却設備のガス洗浄器に組み込むための、煙道ガス流から液滴を分離する分離システムであって、ガス流方向(7)で見て上流側の粗分離器(6,8)と、ガス流方向(7)で見て下流側の最終分離器(5)とを備えた分離システムにおいて、
ガス流方向(7)で前記粗分離器(6,8)と前記最終分離器(5)との間に、少なくとも1つの精密分離器(1,1′)が配置されており、当該精密分離器が、多板式分離器であり、
前記最終分離器(5)は、管式分離器として形成されており、
前記最終分離器(5)は、最後の分離段であり、
前記最終分離器(5)に対する洗浄装置が設けられていない、
ことを特徴とする、煙道ガス流から液滴を分離する分離システム。
前記最終分離器(5)は、ガス流方向(7)で相前後して続く少なくとも2つの管平面を有する管式分離器である、請求項1から3までのいずれか1項記載の分離システム。
少なくとも1つの洗浄装置(2,2′,2′′,2′′′)が設けられていて、該洗浄装置によって、前記粗分離器が、ガス洗浄器の運転時に清浄化されるようになっている、請求項1から8までのいずれか1項記載の分離システム。
少なくとも1つの洗浄装置(2,2′,2′′,2′′′)が設けられていて、該洗浄装置によって、前記粗分離器および前記精密分離器も、ガス洗浄器の運転時に清浄化されるようになっている、請求項1から8までのいずれか1項記載の分離システム。
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電所の煙道ガス脱硫部において使用するための液滴分離システムに関する。この分離器コンセプトは、一方ではヨーロッパや米国における新しいエミッション規制の要求に応えて、当該規制において要求された分離能力を提供することが望まれる。他方において、このコンセプトはスタックレイン(湿式煙突からの著しい液滴放出)の既知の問題を克服することが望まれる。さらに、この分離器コンセプトは、液滴分離器に(煙道ガス流れ方向で)続くコンポーネントの汚染を最小限に抑えることが望まれる。
【0002】
化石燃料を燃焼させる火力発電所からの煙道ガスは、主として、湿式洗浄法により脱硫される。硫黄含有の煙道ガスには、石灰乳(懸濁溶液)が噴霧され、煙道ガス中に存在するSO
2はこの懸濁溶液のスプレイ滴に結合され、次いで硫酸カルシウムの二水和物(石膏)に変換される。これらのスプレイ滴のうちの小さなスプレイ滴は、ガス流によって一緒に案内される。
【0003】
液滴分離システムの役目は、煙道ガス流中に同伴されてきたこれらの液滴を捕集して、洗浄循環路内に戻すことである。さもないと、後置された、つまり下流側に配置されたコンポーネント(熱交換器、煙道ガス通路、湿式ブロワ、煙突等)において焼付きが生じ、ひいては腐食や圧力損失増大が生じる。その結果は、発電所の出力減少(圧力損失増大は、高められた電流自己消費および場合によっては発電量の減少の原因となる)および保守コスト(腐食個所の補修および焼付きを除去するためのクリーニングコスト)である。
【0004】
ヨーロッパおよび米国において適用または計画された新しいエミッション規制は、さらに煙道ガス中の固形物含量の著しい低減を規定している(微細ダスト低減)。これらの新規の限界値は、煙道ガス脱硫における分離の抜本的な改善を強要している。ヨーロッパの幾つかの国々や地域は最近、微細ダストおよび固形物含量を3〜6mg/Nm
3にまで低減させることを要求している。
【0005】
さらに、米国および最近ではヨーロッパにおいても、多数の発電所が、いわゆる「湿式煙突(ウエットスタック)」を装備している。煙道ガスは再加熱なしに飽和されてスタックもしくは煙突内に導入され、煙突を通る途中で冷却されることに基づき液体を凝縮させ、そして「湿った」煙突を生ぜしめる。このような湿式煙突の多くに認められる問題は、大量の液滴が煙突から放出されることである。液滴は煙突のすぐ近くに降雨し、そして時には少し離れた場所にも降雨する。発電所の設備は汚染され、近くに設置された別の装置や建造物も汚染され、さらに人間や動物も煩わされる。これらの液滴はどちらかと云えば酸性であるので、この煙突雨、すなわちスタックレインは、当該設備の腐食や損傷を招き、自動車の塗装は破壊され、土壌は酸性化され、建物ファサードや屋根は腐食により損傷されることなどが起こる。
【0006】
スタックレインの被害や、微細ダストエミッションの問題は、伝統的に使用される2段式の液滴分離器(ミストエリミネータ)ではもはや十分ではないことを示している。液滴分離器の背後における残留含量中の固形物(微細ダスト、塩等)の量は、これらの限界値内で許容される値よりも高い。液滴放出(スタックレイン)は、大きな問題であり、近隣住民や環境保護団体との摩擦を生む要因となる。煙道ガス経路における焼付きや閉塞は、コストの原因となり、電流生産量を減少させる。
【0007】
背景技術
煙道ガス脱硫用の最新の液滴分離器は、現在、洗浄器ヘッド上部に、煙道ガス通路内への流出部の手前で取り付けられる。この液滴分離器は、鉛直方向上方へ向かって流れる煙道ガスによって負荷される。この配置構成は、コストならびに運転理由から、最良の配置構成である。
【0008】
液滴分離システムはこの場合、液滴ならびに乾燥した固形物成分をガス流から分離し、この場合、液滴分離システムは煙道ガス流を変向させる。このときに、液滴および乾燥した固形物は、遠心力にさらされる。液滴および乾燥した固形物は、煙道ガスの軌道に従うことができず、流れ抵抗に衝突して跳ね返る。これらの流れ抵抗が、煙道ガスの変向を生ぜしめる。これにより、液滴はこれらの「跳ね返し体(バッフル体)」において分離され、これによって煙道ガス流から除去される。分離された液体は、次いで重力により再び下方へ向かって洗浄循環路に逆流する。
【0009】
液滴分離器は慣用的には、複数の曲げられたプレート状の変向体から成るユニットから構成されている。曲げられかつ剛性的に懸吊されたこれらのプレート状の変向体は、複数の通路が形成されて、これらの通路を通って煙道ガスが流れるように構成される。この構成の目的は、一方では煙道ガスの強力な変向を生ぜしめ、他方では流れ抵抗による煙道ガス経路の「遮断」を最小限に抑えることである。これらのバッフル体または変向金属薄板は、一般に「多板(Lamellen)」と呼ばれ、分離器自体は、相応して「多板式分離器(Lamellenabscheider)」と呼ばれる。種々の製造業者の汎用の多板式分離器は、そのジオメトリ(幾何学的形状)、多板間隔および変向部ならびに構造(屋根型、フラット型または水平方向流過型)に基づいてのみ互いに異なっている。これらの多板式分離器は機能の点では基本的に同一である。
【0010】
液滴分離システムは、少なくとも2段式に設計されている。運転経験により、液滴を煙道ガスから確実に除去するためには、1段式の分離システムでは基本的に十分でないことが判っている。しかし、2段式の液滴分離器(粗分離器と精密分離器)も、固形物を有するまだかなりの量の液滴を煙道ガスと共に逃し、しかもこの量は、しばしば環境規制の要求、運転要件および湿式煙突の運転のためには多過ぎる。
【0011】
それゆえに、最近では多くの液滴分離器が3段式に構成される。このような3段式の配置構成では、実際の分離が、粗分離器と精密分離器とにより実施される。粗分離器は煙道ガスから液滴の質量を取り出し、部分的には90%を著しく上回る分離度を達成する。精密分離器は、一方では煙道ガスからさらに液滴を取り出し、粗分離器の洗浄から液滴を捕集し、なお、粗分離器の多板における液滴の跳ね返りの際に発生し得る二次液滴の大部分をも捕集する(反射液滴)。第3の分離器または「極精密分離器」は、3つの機能を具備している。
【0012】
1.微細液滴
極精密分離器は、粗分離器および精密分離器を通過することのできた超微細液滴を引き続き煙道ガスから濾別する。しかし、この超微細液滴の液体量および固形物量は極めて僅かである。したがって、この極精密分離はあまり重要ではない。
【0013】
2.故障
極精密分離器は、故障に基づき精密分離器を通り抜ける液滴を分離する。このような故障の原因は、通り抜けを招く粗分離器および精密分離器の汚染であるか、または最初の2つの分離器の性能を損なう局所的な速度ピークを生ぜしめる煙道ガス流の著しい不均一分配である。しかし、最新の煙道ガス脱硫設備においては、このような事態はむしろ希である。したがって、このような機能も、やはりあまり重要ではない。
【0014】
3.精密分離器の洗浄
極精密分離器は、精密分離器の洗浄時にこの精密分離器から引き出される洗浄液を分離する。精密分離器の洗浄が著しい液滴エミッションを生ぜしめることは、多くの測定から知られている。実験室での測定、たとえば発電所における保証測定は、液体量の60〜80%が精密分離器の洗浄中に精密分離器の下流側で放出されるという結果をもたらした。この洗浄滴の分離は、極精密分離器の主機能である。
【0015】
微細ダストエミッション/スタックレイン
微細ダストエミッションの問題は、ここ数年の間にかなり注目されており、多くの国では微細ダストエミッションに関する規制が厳格化された。その目的は、もちろん人間の健康の保護である。
【0016】
この議論の第2の理由としては、CO
2削減のための計画された設備が挙げられる。多くのCO
2分離技術は、煙道ガス中の極めて僅かな微細ダスト含量を要求する。これらの分離技術は、CO
2をパッケージおよび充填体の形でかつ結合剤を介して分離する方法である。煙道ガスからの固形物は、分離設備を汚染しかつ閉塞させ、それゆえに故障発生因子となる。
【0017】
さらに、湿式煙突からのスタックレインの問題により、微細ダストへの注目が集まっている。スタックもしくは煙突からの酸性雨は、煙突のすぐ周辺の地域における汚染や腐食損害をもたらし、そして近隣住民との相応する摩擦や紛争を招く。
【0018】
液滴分離器は、もちろん関心の中心である。なぜならば、液滴分離器は分離に対して、ひいては微細ダストエミッションの低減に対して責任ある役割を担っているからである。それゆえに、高い微細ダストエミッション、スタックレインおよびCO
2分離における問題は、当然、煙道ガス脱硫設備における液滴の「分離不良」に帰因される。
【0019】
スタックレインはこの場合、多くの発電所においては直接的な関心事である。スタックレインは、発電所の従業員、近隣住民および発電所近隣で働く人々にとってはすぐに気づくものであり、不都合な結果(汚染および腐食)も迅速に確認され得る。
【0020】
このスタックレインは、著しい固形物含量(石膏および石灰石)を有する大きな液滴から成っていて、酸性である(軽度の酸含量)。これらの液滴は、鏡面状の表面(自動車)の上ではすぐに認識可能である。急速に開始する腐食は、車両の塗装を腐食させ、庭、建物および設備における被害を招く。
【0021】
米国では、スタックレインは既に多くの訴訟や、発電所経営者と、近隣住民、環境保護団体および環境官庁との間での法的な紛争の対象となっている。
【0022】
すなわち、スタックレインにおける濃度は、純然たる液体容量によっても、液滴の大きさによっても、説明され得る。標準運転(洗浄なし)における液滴分離器をすり抜ける小さな液滴または煙突内での凝縮により生じる小さな液滴は、スタックレインとして目に付かない。なぜならば、このような液滴は通常、地上に到達する前に蒸発してしまうからである。煙突先端部と地上との距離は、このために十分な大きさに設定されている。さらに、洗浄時における液滴の量は、スタックレインが気づかれることを招く。個々の液滴は無視され、気づかれないかもしれない。
【0023】
スタックレインの問題は、ヨーロッパの旧式の発電所においては知られていない。なぜならば、再加熱がこの問題を回避したからである。しかし、これらの発電所においては、一見別と思われる問題が繰返し持ち上がった。すなわち、微細ダスト放出である。発電所は煙突における煙道ガス中のダスト含量を測定し、この場合、再三、ダスト放出におけるピークが生じ、このピークが監督官庁との軋轢を招いた。
【0024】
この微細ダスト問題は、米国の旧式の発電所におけるスタックレインまたは現在ではヨーロッパの最新の発電所におけるスタックレインと同様に説明され得る。ヨーロッパの旧式の発電所では、再加熱により、液滴が煙突の先端に到達する前に液滴がすべて蒸発することが配慮される。液滴の質量は、液滴が熱交換器の面に衝突しかつ蒸発することにより、熱交換器中ですぐに蒸発される。その他の液滴は熱交換器を通過する恐れがあるが、しかしその場合、これらの液滴は一方では著しく収縮され、他方では、もはや飽和されないガス中に存在するので、引き続き液体は温かい煙道ガスによって吸収され、かつ蒸発することができる。
【0025】
この蒸発の結果として、熱交換器面には、堆積物が形成する。これらの堆積物は熱交換器面から吹き払われなければならない。一方では、この吹き払いは、熱交換器をきれいに保つためには不十分である。すなわち、圧力損失の増大が生じ、それどころか時々、圧力損失に基づいた発電所の停止が生じる。他方において、吹き払われたダスト量は煙突を通じて環境へ廃棄される。スタックレインの場合と同様に、不都合な環境効果が与えられている。
【0026】
スタックレインの分析
微細ダスト量の分析の際に、スタックレインは、エミッションが特に良好に観察され得ると共に、エミッションの原因の分析が一層簡単に行われるという利点を有する。さらに、スタックレインは多くの発電所およびその近隣住民にとって、直接的な問題である。したがって、この不都合なスタックレイン効果へ関心が集中している。しかし、スタックレインに関して述べた事項は、別種の微細ダストエミッションにも云える。
【0027】
スタックレインの既知の原因は、分離不良および凝縮である。分離不良は、多くの液滴が液滴分離器をすり抜け、液体が煙突内に持ち込まれ、そしてスタックレインとして放出されることを意味する。別の液滴は凝縮により生じる。なぜならば、煙道ガスは煙突内で冷却され、飽和煙道ガスから凝縮滴が発生するからである。
【0028】
分離能力不良は、明らかにスタックレインの原因の1つとして挙げられる。発電所はさらに、スタックレインが液滴分離器の汚染と関連していることを認識することができた。汚染された液滴分離器は、増幅されたスタックレインをもたらす。この汚染は、構造上および運転上の多数の欠陥により生ぜしめられたものである。煙道ガス流の著しい不均一分配ならびに洗浄システムの一部の故障も、やはり局所的な汚染を生ぜしめる恐れがある。不都合に構成された液滴分離器の使用ならびに洗浄装置の誤った運転形式も、原因として知られている。
【0029】
汚染された液滴分離器は、極めて制限された範囲でしか機能しない。焼付き物および汚染物は、液滴のためのいわば「ジャンプ台」として作用する。すなわち、分離されたばかりの液滴は、再び煙道ガス中へ投げ戻され、引き続き飛翔するわけである。
【0030】
このような認識に基づいて、発電所は、「不良」の液滴分離器をシステマティックに改善し、オーバホールし、かつ組み替えた。これにより、これらの発電所はこの問題をかなり減少させることができた。
【0031】
液滴分離器の改善にもかかわらず、スタックレインは問題のままとなった。すなわち、この問題を完全に取り除くことはできなかった。
【0032】
このスタックレインの第2の原因としては、飽和煙道ガスからの液滴の凝縮が挙げられる。煙道ガスは煙突を通る途中で冷却される。この冷却が僅か1ケルビンよりも少ない場合でも、その効果は著しい。なぜならば、煙道ガスはほぼ完全に飽和されているからである。既に1Kの冷却により、1時間の経過中にかつ大きな煙道ガス容積においては、数トンの凝縮物の凝縮量が生ぜしめられる恐れがある。これによって、残留するスタックレインの原因は解明されかつ納得できるものであるように思われた。
【0033】
しかし、この「推測」の根拠が再度問われなければならない。凝縮は、観察されたスタックレイン効果の原因にはなり得ない。煙突中での短い通過時間(Reisezeit)は、大きな液滴を形成するためには不十分である。煙突中での10〜20秒間の通過時間および1Kよりも小さな温度差という条件では、極めて小さな極めて多くの凝縮核が形成されるが、しかし大きな液滴は形成されない。しかし、スタックレインは大きな液滴から成る。液滴は、一方では重力により地表に到達しなければならず(降雨)、他方では周辺空気中で再び蒸発しないくらいに大きくなければならない。冬期における冷たくて乾燥した空気も、夏期における暖かい周辺空気も、大きな液体量を吸収することができる。したがって、小さな液滴は既に5〜30分後には蒸発している。
【0034】
この事実を認識した上で、以下のような仮説が立てられた。すなわち、多くの液滴は煙突壁に沈着し、こうして大きな液滴になるまで溜まる。次いで、これらの液滴は煙道ガス流によって液体膜から剥離されて、大きな液滴として放出される。このような効果は実際に観察され得るが、しかし、時々煙突から降雨する大きな液滴・固形物量の説明としては不十分である。
【0035】
この場合、注目したい1つの重要な点は、スタックレインの高い固形物含量である。液滴は、たとえば自動車の屋根やラジエータフード(ボンネット)における平滑な面の上に、大きな白色のしみを残す。これらのしみは、明らかに石膏および石灰石である。煙道ガス中に存在する石膏および石灰石含量(微細ダスト)は、むしろ少量である。しかし、凝縮物は極めて僅かな固形物しか含有し得ない。なぜならば、凝縮物は、飽和煙道ガスおよび過飽和煙道ガスからの液体の凝縮分離により生じるからである。その場合、凝縮滴が、煙道ガスから高い固形物量を吸引しかつ吸収することは考えられない。つまり、推定された凝縮物量に対して相対的に、煙道ガス中の、液体中に結合されていない固形物は極めて僅かであり、また微細液滴中に結合された固形物も極めて少量である。したがって、スタックレインの高い固形物含量は、凝縮が決定的な要因ではないことを示唆している。
【0036】
すなわち、分離不良や凝縮の他に、煙突中へ液体(および固形物)を導きかつスタックレインを生ぜしめる原因となる第3の効果が存在するに違いない。液滴分離器の洗浄、特に精密分離器の洗浄が、スタックレインの決定的な原因として認識された。
【0037】
液滴分離器の洗浄
液滴分離器の洗浄と、微細ダストエミッションもしくはスタックレインとの間の関連性は、長い間、認識されていなかった。スタックレインおよび微細ダストエミッションは、「分離不良」として認識されかつ抑制すべく努力されてきた。このことはたびたび、実際に主要原因でもあったし、そして種々の手段により、かなりの改善(低減)を達成することができた。しかし、スタックレインはその後も、問題であり続けている。
【0038】
ところで、実験において、残ったスタックレインの強さが、液滴分離器の洗浄サイクルに関連し、しかも特に煙道ガス流の方向で見て最後の液滴分離器の洗浄に関連することが判った。この洗浄システムを遮断することにより、最初は強力だったスタックレインが、ほとんど感じられない程度にまで減少したことを確認することができた。
【0039】
この確認は、液滴分離器の下流側におけるすり抜け量の測定結果とも合致している。実験室測定においても、発電所における保証測定においても、煙道ガス流の方向で見て最後の液滴分離器の洗浄の間、洗浄なしの運転の場合よりも約100倍の液体量がすり抜けたことが確認された。
【0040】
さらに、洗浄中の液滴の大きさは、標準運転時よりも著しく大きくなることが判った。特に大きな液滴が連行された。洗浄すり抜け量は、煙突からの放出後に一方では地表に到達し、他方では地表で大きな液滴として感じられるために十分な大きさを有する液滴から成る。
【0041】
長い間、洗浄液は、ほぼ固形物不含のきれいな液体であると推測されていた。それゆえに、洗浄は、固形物で負荷された煙突液滴の原因から排除されると思われていた。しかし、洗浄液がきれいであるとは云えない。洗浄とは、バッフル体における付着部(固形物)を溶かして、バッフル体システムから除去するという目的を持っている。相応して、洗浄中に生じる液体膜は、高い固形物含量を含み、そして汚染時ではそれどころか極めて高い固形物含量を含む。それゆえに、この液体膜から剥離されかつ煙道ガスによって引き続き案内される二次液滴は、高い固形物含量を有することができ、理論的かつ実際的にはそれどころか、懸濁溶液の固形物含量よりも多い固形物含量を有する恐れがある。
【0042】
固形物含量はこの場合、明らかにバッフル体の汚染度に関連している。バッフル体が比較的きれいな場合には、バッフル体は洗浄時に比較的僅かな固形物しか放出しないが、バッフル体が著しく汚染されている場合には、洗浄時に高い固形物負荷量を放出する。すなわち、洗浄時における液滴放出の固形物負荷量は、運転および設備に関連している。
【0043】
工業的な発電所における一連の実験により、煙突への洗浄の作用が判明した。液滴分離器は、その機能を確保するために再生された。その場合、煙道ガス脱硫設備は一日、液滴分離器の洗浄なしで運転された。その後に、煙突は比較的乾燥し、もはやスタックレインは生じなかった。液滴分離器の洗浄が再び開始された後に、洗浄の再スタートから僅か約60秒後にはスタックレインが開始した。
【0044】
3段式の分離器−背景技術
これらの認識に基づき、最近の液滴分離システムは、第3の液滴分離器(極精密分離器)を備えて形成されるようになった。この第3の液滴分離器の役割は、第1に精密分離器の洗浄のすり抜け量を分離することである。
【0045】
これだけでも、微細ダストのすり抜け量は1/2以下にまで低減され得る。このような利点は、第3の液滴分離器が全く洗浄されないか、または極めて希にしか洗浄されないという理由で生じる。洗浄時の繰り越し、すなわちキャリオーバはもはや生じなくなる。
【0046】
この考えは、やはり十分に正しかった。希に行われる洗浄により、液滴分離器の背後で測定された液体量を著しく減少させることができるようになった。以前はまだ30〜50mg/Nm
3が、2段式の液滴分離器の分離能力に関する通常の限界値であったが、現在では10〜20mg/Nm
3から出発することができる。相応して、3段式の液滴分離器により、微細ダスト値の減少を得ることができた。
【0047】
しかし、このような設備の多くにおいても、運転問題が生じた。規則的な洗浄なしでは第3の液滴分離器は十分ではないことが判った。第3の液滴分離器は、運転サイクルの数ヶ月にわたって著しく汚れ、圧力損失の著しい増大を生ぜしめた。
【0048】
幾つかの設備では、それどころか、毎日の洗浄にもかかわらず、相変わらず第3の液滴分離器における多板の汚染進行が生じたことが確認された。1日の経過中に形成された汚れを再び多板から洗浄するためには、1日当たり1回の洗浄では明らかに不十分であった。個々の事例では、第3の液滴分離器の汚染が極めて激しかったので、この液滴分離器のエレメントがブロワによりその位置からブローされたか、または圧力損失が極めて著しかったので、既に数ヶ月後には、手作業により掃除するために発電所が停止した。この場合、第3の液滴分離器だけが汚染されていた。
【0049】
そして、もちろんスタックレインが観察された。たしかに、このスタックレインは、2つの液滴分離器を備えた設備におけるよりも著しく少なかったが、しかし工場においても、幾人かの近隣住民においても気付かれるのに十分であった。このスタックレインの原因は、一方ではまだ必要である洗浄であり、他方では汚染された分離器の不十分な機能であった。
【0050】
すなわち、結果は不満足なものであり、一方ではたしかにエミッション全体は減少された(有利である)が、他方では、残りのエミッションは、監督官庁および環境保護団体との摩擦を生むに違いない形で放出される。なぜならば、エミッション(スタックレイン)は測定器具なしでも検知可能であり、素人でも感じられたからである。スタックレインは自動車の平滑な面および植物に沈着し、そして白色の石膏成分に基づき、素人にとっても直ちに認識され得る。
【0051】
これによって、発電所の利益になるに違いないものとは反対のことが生じた。エミッションの低減により、規制や環境を満足させるだけでなく、世間での発電所のイメージをも改善しようとしたが、しかしスタックレインにより、それとは反対のことが生じた。エミッションをこのように低減させることは、湿式煙突への転換と相まって、素人にも感じられる、目に見える汚染を招く。摩擦や衝突は避けられない。
【0052】
すなわち、3段式の液滴分離器を用いた運転経験は、以下のように要約され得る:
1.エミッション低減
第3の液滴分離器の使用により、微細ダストのエミッションを著しく低減させることができる。
【0053】
2.極精密分離器の汚染
極精密分離器は、所定時間を越えると汚れ、圧力損失は増大する。運転形式に応じて、運転を所望の稼働時間(Reisezeit)にわたり確保することができない。
【0054】
3.極精密分離器の洗浄
極精密分離器の洗浄は、必ずしも汚染を防止するとは限らないが、しかし設備に、より長い稼働時間を可能にするために必要である。
【0055】
4.スタックレイン(煙突雨)
残念ながら回避することのできない極精密分離器の洗浄もしくは汚染により、湿式煙突ではスタックレインが生じる。これによって、環境庁や環境保護団体との摩擦は避けられない。
【0056】
3段式の液滴分離器のコンセプトは、たしかに従来汎用の分離器の改善策として評価され得るが、しかし本来の目的は達成されていない。3段式の液滴分離器の目的は、第3の液滴分離器の洗浄を完全に不要にすることであった。第1および第2の両液滴分離器は、極めて僅かな固形物量しか第3の液滴分離器へ到達せず、これにより第3の液滴分離器がもはや汚れなくなるように効果的に分離を行うことが望まれる。そうすれば、汚染が少ないことに基づき、洗浄システムの使用も、もはや必要でなくなる。
【0057】
しかし、この推測は、実際の運転においては残念ながら誤りであることが判明した。第3の液滴分離器が頻繁に洗浄されるか、あるいは著しい汚染が生じ、最終的には閉塞に至る。両事項ともに、スタックレインを発生させる。
【0058】
それゆえに最近では、液滴分離器を4段式の液滴分離器として構成することが考えられている。その場合、第4の液滴分離器は、それまで第3の液滴分離器に割り振られていた運転形式で運転されることが望まれる。第3の液滴分離器は、より頻繁に洗浄され、それゆえにきれいな状態に維持され、汚染の危険はもはや生じない。第4の液滴分離器は洗浄されないか、または極めて希にしか洗浄されないことが望まれる。このことは、第3の液滴分離器によって極めて多くの固形物が付加的に除去され、これにより第4の液滴分離器の汚染が極めて緩慢に進行するので、洗浄が極めて希にしか必要とならなくなることにより可能となることが望まれる。
【0059】
たしかに、第4の分離器段により状況の一層の改善がもたらされることを期待することができる。第4の液滴分離器における固形物含量は、第3の液滴分離器におけるよりも少なくなる。しかし、引き続き汚染が生じ、洗浄または汚染された分離器により高められた微細ダストエミッションまたはスタックレインが生ぜしめられることを前提としなければならない。
【0060】
液滴分離器のためのコンセプト
エミッション防止および運転安全性に関する、増大した要求に対応するための幾つかのコンセプトが知られている。
【0061】
特に有効な1つのコンセプトは、いわゆる「管式分離器(Rollenabscheider)」である。管式分離器は、押出し成形されかつ特に成形されたプロファイル(異形成形体)を使用する慣用の多板式分離器(Lamellenabscheider)とは異なり、跳ね返り体もしくはバッフル体として管セグメントを使用する。
【0062】
この管式分離器は、実際の運転においては、汚染や焼付きに対して特に耐性を有していることが判っている。それどころか、この管式分離器は、幾つかの設備では洗浄システムなしに運転され得る。それにもかかわらず、管式分離器は、なお許容可能な分離能力をもたらす。
【0063】
しかし、管式分離器はこれまで粗分離器としてしか使用されていない。精密分離器としての使用では、分離能力の点で多板式分離器の方がすぐれている。なぜならば、多板は小さな液滴をも効率良く分離するからである。
【0064】
このような特別な特性、すなわち洗浄システムなしでも耐汚染性を有し、かつ大きな液滴において有効であるという特性に基づき、管式分離器は関心を集めている。
【0065】
課題設定
第3の「極精密分離器」の不十分な運転形式を有する状況は、エミッションならびに公共イメージに関して不満足なものである。
【0066】
この経験は、将来的にはSO
2分離につなげようとしている、計画されたCO
2分離システムを考えると、引き続き問題となる。現在テスト中のシステムコンセプトの多くは、大きな接触面を用いて作業する化学・熱的なプロセスをベースとしている。このことは、煙道ガスの高い純度もしくは煙道ガスからの微細ダストおよび固形物成分の十分な除去を必要とする。さもないと、固形物は比較的短い時間で接触面を覆い、いつしか固定層の閉塞を招いてしまう。
【0067】
したがって、課題設定は、以下の3つの条件を満たす分離器構想を見いだすことでなければならない:
1.高い分離能力を永続的に保証する。
すなわち、汚染進行により、分離能力の減少が生じないようにする。
【0068】
2.洗浄キャリオーバ(洗浄からの繰り越し)を回避する。
慣用の設備においては液体キャリオーバ全体の60〜70%を占めていた洗浄キャリオーバは回避され、これにより微細ダストに関する清浄化能力が倍増される。
【0069】
3.圧力損失の増大が生じない。
焼付きの形成進行により生じる圧力損失増大が回避される。
【0070】
本発明は、新しいエミッション規制の要求に応え、かつ上で説明した誤効果(汚染された極精密分離器の結果としてのスタックレインまたは極精密分離器の洗浄によるスタックレイン)を回避する分離能力を保証することが望まれる。この場合、運転上の要求(通行可能性および保守可能性)を考慮することが重視される。特に、提案された配置構成は、前で挙げた3つの課題設定を満たすことが望まれる。
【0071】
発明
本発明による分離システムは、好ましくは3つまたは4つの分離器層を有し、この場合、煙道ガス方向で見て第1の分離器層(粗分離器)は、管式分離器または多板式分離器として設計されていてよい。
【0072】
第2の分離器層(精密分離器)は、好ましくは多板式分離器として設計されており、これにより、多板式分離器の一層高い出力(管式分離器に比べて)が利用される。
【0073】
4段式または多段式の設備の場合には、第3の(多段式の設備の場合には最後の段を除いた別の)分離器段が、同じく好ましくは多板式分離器として設計されており、これにより、小さな液滴において、多板式分離器の、より高い出力(管式分離器に比べて)が利用される。
【0074】
この場合、最後の分離器段を除いて、すべての分離器段も、両側の洗浄装置を備えている。このことは、管式分離器として形成された粗分離器においては必要とならない。
【0075】
最後の分離器段は、本発明によれば、先行の分離器段に比べて低い分離能力を有する分離器、好ましくは管式分離器として形成されている。
【0076】
この分離システムは、支配的な思想によれば、矛盾しているように見える。これまでは、分離能力が段毎に高められることが前提とされていた。各段が進むにつれて、分離多板の間隔は減じられ、これにより一層小さな液滴(多板間隔が小さくなる=限界液滴が小さくなる)が煙道ガス流から濾過された。
【0077】
ところが、本発明によれば、先行する分離器よりも低い分離能力の分離器、好ましくは管式分離器を、極精密分離器もしくは最後の分離段として使用することが提案される。管式分離器は、よく知られているように、小さな液滴においては多板式分離器に比べて性能の悪い分離器である。これによって、管式分離器を最後の分離器段として使用することは、最後の分離器は最良の分離能力を発揮しなければならないという支配的な(従来の)思想に対して矛盾している。
【0078】
本発明は、支配的な思想、つまり分離能力は段を追う毎に高められなければならない、という思想が行き詰まることを認識した。すなわち、支配的な思想は、固形物含有ガスにおいては、特定の分離能力を超えると、不可避である洗浄が、分離能力の向上によりエミッションが低減されるよりも大きなエミッションを生ぜしめることを認識しなかった。
【0079】
言い換えれば、最後の段における分離能力を向上させようとすると、分離器多板の間隔が極めて小さくさせられるので、このような分離器は極めて汚染し易く、頻繁に洗浄されなければならない。閉塞、そしてまた洗浄によって、かなりのキャリオーバが発生し、このようなキャリオーバは、高められた清浄化能力を有する分離器段が煙道ガスから濾別するよりも多くのエミッションを生ぜしめる。
【0080】
それゆえに、本発明の解決手段は、逆の方法をたどるものである。システム全体の特定の分離能力が超えられると、洗浄が、エミッションの、より大きな部分を生ぜしめ、汚染が別の部分を生ぜしめることが認識された。特に湿式煙突の場合には、このことは高いエミッションをもたらすだけでなく、不快な副次結果をも生ぜしめる(スタックレインとしての目に見えるエミッション)。
【0081】
それゆえに、本発明による分離システムの根底を成す課題は、最後の分離段が洗浄されなくて済むような解決手段を見いだすことである。解決手段としては、この課題が、より悪い分離能力を有する分離器により解決され得ることが判った。
【0082】
第2の課題は、洗浄を行わないにもかかわらず、圧力損失が著しく生ぜしめられ、そして汚染された多板がさらにエミッションを生ぜしめるような汚染が生じない解決手段を見いだすことである。
【0083】
管式分離器は、長時間の運転時でも洗浄なしに十分にきれいなままとなるか、または極めて僅かにしか汚れないことで知られている。そして、管の汚染は、分離能力にほとんど影響を及ぼさない。意想外にも、管式分離器は、多板式分離器に比べて低いその分離能力にもかかわらず、煙突手前または再加熱部手前の最後の分離段として好適であることが判明した。これに関する可能な説明は、以下の通りである:
前段に位置する分離器からの連行された洗浄滴を捕集しかつ分離することが、最後の分離器の主機能である。これらの洗浄滴は、むしろ「大きい」ないし「極めて大きい」液滴である。管式分離器は、特に大きな液滴において良好な分離特性を発揮する。管式分離器の弱点は、小さな液滴である。すなわち、最後の分離器としての管式分離器は、この使用目的のためには十分に適していて、かつ効率的である。
【0084】
意想外にも、前段に前置された分離段により発生された小さな液滴が分離されないという不都合は重要ではないことが判った。なぜならば、この管式分離器に到達する液体量において、これらの小さな液滴は明らかに比較的小さな部分しか有しないからである。すなわち、容量は比較的小さい。洗浄頻度に応じて、液体量の90〜99%は、前置された分離段の洗浄過程からのキャリオーバである。
【0085】
本発明による分離システムは、2つ、3つ、4つまたはそれ以上の分離段を持って形成され得る。好ましくは、分離システムは3つまたは4つの分離段を有する。しかし、2つだけの分離段または4つよりも多い分離段も考えられる。
【0086】
分離システムは、鉛直のガス流ならびに水平のガス流のために形成され得るが、分離段間で方向を変えるかまたは斜めに向けられているガス流のためにも形成され得る。粗分離器を鉛直のガス流(内部の分離器)内に組み込みかつ精密分離器を水平のガス流(別個のハウジング内の外部の分離器)内に組み込んだ設備が存在する。
【0087】
あらゆる種類の公知の分離器、たとえば管式分離器(水平方向または鉛直方向に流過される)、多板式分離器(水平方向に流過される)、ルーフ形またはフラット形の多板式分離器(鉛直方向で流過される)、ルーフ形またはフラット形の管式分離器(鉛直方向に流過される)またはバッフル体の別の構造を使用することができる。
【0088】
以下に、これらの種々異なる構成の可能な組み合わせのうちの幾つかを図面につき説明する。図面には、本発明による分離システムの実施形態が、概略的に図示されている。