特許第5989020号(P5989020)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989020
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】イオン生成装置
(51)【国際特許分類】
   H01T 23/00 20060101AFI20160825BHJP
   H01T 19/04 20060101ALI20160825BHJP
   H05F 3/04 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   H01T23/00
   H01T19/04
   H05F3/04 J
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-43341(P2014-43341)
(22)【出願日】2014年3月5日
(65)【公開番号】特開2015-170425(P2015-170425A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2015年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000106900
【氏名又は名称】シシド静電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 克幸
(72)【発明者】
【氏名】榎本 洋介
(72)【発明者】
【氏名】永田 秀海
【審査官】 出野 智之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/119283(WO,A1)
【文献】 特開2009−004177(JP,A)
【文献】 特表2010−534382(JP,A)
【文献】 特開2012−221761(JP,A)
【文献】 特表2013−519978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 23/00
H01T 19/04
H05F 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次巻き線および二次巻き線を有する巻き線トランスと、正極性の複数のパルス電圧から成る正極側パルス列と、負極性の複数のパルス電圧から成る負極側パルス列とのうち少なくともいずれかを出力して、前記一次巻き線に印加するパルス列出力回路と、該パルス列出力回路に制御信号を与える制御回路とを備え、一次巻き線への前記正極側及び負極側パルス列の印加に応じて、前記二次巻き線からパルス状の正極性の高電圧である正極パルス出力及びパルス状の負極性の高電圧である負極パルス出力のうち少なくともいずれかを出力する高圧電源を備えるイオン生成装置であって、
前記パルス列出力回路は、前記正極側パルス列の各パルス電圧のパルス幅と該正極側パルス列において互いに隣り合うパルス電圧同士の間の幅であるパルス休止幅とのうちの少なくともいずれか一方と、前記負極側パルス列の各パルス電圧のパルス幅と該負極側パルス列において互いに隣り合うパルス電圧同士の間の幅であるパルス休止幅とのうちの少なくともいずれか一方とを、前記制御回路から与えられる制御信号に応じて調整可能に構成され、
前記制御回路は、前記巻き線トランスの二次巻き線から出力される前記パルス状の高電圧の立ち上がり時に、該巻き線トランスの磁気飽和が抑制されると共に前記パルス状の高電圧の波形が調整されるように、前記制御信号により、前記パルス列出力回路から出力される前記パルス列の各パルス電圧の前記パルス幅と前記パルス休止幅とのうちの少なくともいずれか一方を制御し、かつ、複数の正極パルス出力、及び各正極パルス出力の波高値の25%〜50%の波高値を有しかつ各正極パルス出力の直前に発生する負極パルス出力からなる正極パルス出力群と、複数の負極パルス出力、及び各負極パルス出力の波高値の25%〜50%の波高値を有しかつ各負極パルス出力の直前に発生する正極パルス出力からなる負極パルス出力群とを、交互に前記二次巻き線から出力するように、前記一次巻き線に印加される前記パルス列出力回路の出力を制御することを特徴とするイオン生成装置
【請求項2】
請求項1記載のイオン生成装置において、
前記制御回路は、前記正極パルス出力群において、一の正極パルス出力の立ち上がり時から次の負極パルス出力の立ち上がり時までの間隔である正極側第1間隔の長さが、当該一の正極パルス出力の立ち上がり時から次の正極パルス出力の立ち上がり時までの間隔である正極側第2間隔の長さの6割以上となるように、かつ、前記負極パルス出力群において、一の負極パルス出力の立ち上がり時から次の正極パルス出力の立ち上がり時までの間隔である負極側第1間隔の長さが、当該一の負極パルス出力の立ち上がり時から次の負極パルス出力の立ち上がり時までの間隔である負極側第2間隔の長さの6割以上となるように、前記パルス列出力回路を制御するように構成されていることを特徴とするイオン生成装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻き線トランスに電圧を印加してパルス状の高電圧を発生する高圧電源及びイオン生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に開示されるように、交流又はパルス電圧印加型のコロナ放電方式の除電装置として用いられるイオン生成装置は、巻き線トランスに電圧を印加して高電圧を発生させる高圧電源を備えている。
【0003】
この種のイオン生成装置においては、高圧電源から出力された電圧をコロナ放電電極に印加することによって発生した空気イオンを、コロナ放電電極から除電対象物まで運搬して、除電対象物の除電を行う。
【0004】
空気イオンの運搬手段としては、送風による運搬が一般的であるが、除電対象物が送風によって飛散するため送風を行えない場合、あるいはクリーンルームのように送風量が制限される場合には、放電電極に印加された電圧により発生する電界を利用した空気イオンの運搬が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5002843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで放電電極への印加電圧の周波数が高いと、電界の極性の時間変動が大きいため、イオンを一方向(除電対象物の方向)に加速することができない。それ故、電界を利用して空気イオンを一方向に加速させるためには、電界の極性の時間変動を遅くする、すなわち電圧を低周波にすることが好ましい。
【0007】
しかしながら、電圧を低周波にするためには、巻き線トランスの鉄心内の磁束を増加させる必要があり、そのために鉄心の断面積を大きくすると、高圧電源及びそれを用いたイオン生成装置全体の大重量化、大型化が避けられない。
【0008】
高圧電源及びそれを用いたイオン生成装置全体の大重量化、大型化を避けるために、複数の高電圧の正極パルス出力からなる正極パルス出力群と、複数の高電圧の負極パルス出力からなる負極パルス出力群とを、それぞれ正極及び負極電圧波形として交互に出力することにより、二次巻き線から出力される電圧(放電電極に印加される電圧)のみかけの周波数を低下させることが考えられる。
【0009】
しかし、巻き線トランスから同一極性の高電圧パルスを短時間で多数出力させるため、巻き線トランスの一次側に同一極性の電流を流した場合、巻き線トランスのコアが磁気飽和してしまう。そうなると、巻き線トランスから出力される正極又は負極パルス出力の間隔が変動したり、当該パルス出力の発生後にリンギングが発生したりするおそれがある。
【0010】
このような磁気飽和を避けるには、各パルス出力の間に巻き線トランスの一次側に逆極性の電圧パルスを印加することが考えられる。しかし、この場合、逆極性の電圧に応じて巻き線トランスの二次側から出力される電圧パルスにより、その前に出力したパルス出力の印加によって放電電極に生成された空気イオンが引き戻され又は吸収されるため、空気イオンの移動の効率が低下するおそれがある。
【0011】
このような問題に鑑み、本発明は、高圧電源及びそれを用いたイオン生成装置をコンパクトに構成しながら、微風又は無風環境下でも効率よく空気イオンを移動させるができる高圧電源とそれを用いたイオン生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のイオン生成装置は、一次巻き線および二次巻き線を有する巻き線トランスと、正極性の複数のパルス電圧から成る正極側パルス列と、負極性の複数のパルス電圧から成る負極側パルス列とのうち少なくともいずれかを出力して、前記一次巻き線に印加するパルス列出力回路と、該パルス列出力回路に制御信号を与える制御回路とを備え、一次巻き線への前記正極側及び負極側パルス列の印加に応じて、前記二次巻き線からパルス状の正極性の高電圧である正極パルス出力及びパルス状の負極性の高電圧である負極パルス出力のうち少なくともいずれかを出力する高圧電源を備えるイオン生成装置であって、
前記パルス列出力回路は、前記正極側パルス列の各パルス電圧のパルス幅と該正極側パルス列において互いに隣り合うパルス電圧同士の間の幅であるパルス休止幅とのうちの少なくともいずれか一方と、前記負極側パルス列の各パルス電圧のパルス幅と該負極側パルス列において互いに隣り合うパルス電圧同士の間の幅であるパルス休止幅とのうちの少なくともいずれか一方とを、前記制御回路から与えられる制御信号に応じて調整可能に構成され、
前記制御回路は、前記巻き線トランスの二次巻き線から出力される前記パルス状の高電圧の立ち上がり時に、該巻き線トランスの磁気飽和が抑制されると共に前記パルス状の高電圧の波形が調整されるように、前記制御信号により、前記パルス列出力回路から出力される前記パルス列の各パルス電圧の前記パルス幅と前記パルス休止幅とのうちの少なくともいずれか一方を制御し、かつ、複数の正極パルス出力、及び各正極パルス出力の波高値の25%〜50%の波高値を有しかつ各正極パルス出力の直前に発生する負極パルス出力からなる正極パルス出力群と、複数の負極パルス出力、及び各負極パルス出力の波高値の25%〜50%の波高値を有しかつ各負極パルス出力の直前に発生する正極パルス出力からなる負極パルス出力群とを、交互に前記二次巻き線から出力するように、前記一次巻き線に印加される前記パルス列出力回路の出力を制御することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、巻き線トランスの二次巻き線から出力される高周波電圧パルス列を正極及び負極パルス出力群として、交互に出力することによって、出力電圧のみかけの周波数を低下させることができる。それによって、高圧電源をコンパクトに構成できる。
【0014】
更に、本発明によれば、前記正極パルス出力又は負極パルス出力(以下、「本パルス出力」という。)の波高値よりも低い波高値の負極パルス出力又は正極パルス出力(以下、「逆パルス出力」という。)を、一の本パルス出力(以下、「今回の本パルス出力」という。)の直前に出力する。このため、今回の本パルス出力の前回に出力された本パルス出力(以下、「前回の本パルス出力」という。)の出力後、逆パルス出力が出力されるまでの時間が長く確保される。この結果、前回の本パルス出力によって生じた空気イオンに対する逆パルス出力による引き戻し及び吸収が起こりにくくなる。
【0015】
したがって、本発明のイオン生成装置により、逆パルス出力による空気イオンの引き戻し又は吸収という移動阻害要因が解消されるので、微風又は無風環境下で効率のよい移動が可能な空気イオンが生成される。
【0016】
本発明のイオン生成装置において、
前記制御回路は、前記正極パルス出力群において、一の正極パルス出力の立ち上がり時から次の負極パルス出力の立ち上がり時までの間隔である正極側第1間隔の長さが、当該一の正極パルス出力の立ち上がり時から次の正極パルス出力の立ち上がり時までの間隔である正極側第2間隔の長さの6割以上となるように、かつ、前記負極パルス出力群において、一の負極パルス出力の立ち上がり時から次の正極パルス出力の立ち上がり時までの間隔である負極側第1間隔の長さが、当該一の負極パルス出力の立ち上がり時から次の負極パルス出力の立ち上がり時までの間隔である負極側第2間隔の長さの6割以上となるように、前記パルス列出力回路を制御するように構成されていることが好ましい。
【0017】
上記構成のイオン生成装置の高圧電源によれば、本パルス出力の出力後、逆パルス出力が出力されるまでの期間が十分に長く確保される。この結果、当該本パルス出力により生じた空気イオンが当該逆パルス出力によって引き戻されたり吸収されたりすることが軽減又は解消されるので、微風又は無風環境下でより効率のよい移動が可能な空気イオンが生成される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態の高圧電源及びイオン生成装置の回路構成の概略を示す図。
図2】一般的な巻き線トランスの二次巻き線に発生する電圧(高電圧)の特性を示すグラフ。
図3図1の高圧電源に備えた各スイッチ素子7〜10のオン・オフ制御とそれに応じて巻き線トランス5の二次巻き線5bに発生する電圧(高電圧)との関係を例示するグラフ。
図4】本実施形態のパルス出力群の電圧波形を示す図で、(a)は1周期程度のスパンを表した図、(b)は(a)の100ms付近のグラフ(破線で囲んだ部分)を拡大した図。
図5】デューティ比を変更した場合の除電時間の変化を示すグラフ。
図6】逆パルスの波高値を変更した場合の除電時間の変化を示すグラフで、(a)は正除電速度について示すグラフで、(b)は負除電速度について示すグラフ。
図7】本パルス出力の総数に占める正極本パルス出力の個数の割合とイオンバランスを示すグラフ。
図8】1周期あたりの本パルス出力の総数と除電時間との関係を示すグラフ。
図9】1周期あたりの本パルス出力の総数とイオンバランスの時間変動幅を示すグラフ。
図10】本実施形態によるイオン生成装置、逆パルスを出力しない方式のイオン生成装置、及び従来方式のイオン生成装置の除電時間を比較するグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の一実施形態の高圧電源3を搭載したイオン生成装置1の回路構成の概略を示す。なお、本実施形態の高圧電源3は、正極性のパルス状の高電圧(正極パルス出力)及び負極性のパルス状の高電圧(負極パルス出力)が交互に周期的に出力される交流高圧電源である。
【0021】
図1に示すように、イオン生成装置1は、放電電極2と、高圧電源3とを備えている。高圧電源3は、一次巻き線5a及び二次巻き線5bを有する巻き線トランス5と、この巻き線トランス5の一次巻き線5aに印加する複数のパルス電圧からなるパルス列を出力するパルス列出力回路6と、制御回路4とを備えている。
【0022】
巻き線トランス5の一次巻き線5a及び二次巻き線5bは、磁性材からなるコア(図示省略)に巻回されている。そして、二次巻き線5bの一端には、放電電極2が接続され、他端は接地されている。なお、放電電極2は針状のものであり、その先端が尖鋭に形成されている。また、放電電極2の先端部近傍には、接地された対向電極15が配置されている。
【0023】
補足すると、図1では放電電極2が1つだけ示されているが、複数の放電電極が二次巻き線5bの一端にケーブル等を介して接続されていてもよい。
【0024】
パルス列出力回路6は、所謂Hブリッジ型の回路であり、第1のスイッチ素子7及び第2のスイッチ素子8を直列に接続してなる第1の直列回路11と、第3のスイッチ素子9及び第4のスイッチ素子10を直列に接続してなる第2の直列回路12と、これらの直列回路11,12を並列に接続してなる並列回路13に直流電圧を印加する直流電源14とを備える。
【0025】
各スイッチ素子7〜10は、半導体スイッチ素子である。本実施形態では、第1及び第3のスイッチ素子7,9は、pチャネルFETにより構成され、第2及び第4のスイッチ素子8,10は、nチャネルFETにより構成されている。そして、各スイッチ素子7〜10は、それぞれの制御信号入力部であるゲートが制御回路4に接続され、該制御回路4から与えられる制御信号(オン・オフ信号)に応じて、各スイッチ素子7〜10のオン・オフ(ソース・ドレン間の導通・遮断)が制御されるようになっている。
【0026】
なお、各スイッチ素子7〜10を、スイッチングトランジスタにより構成してもよい。あるいは、FETとスイッチングトランジスタとを混在させてもよい。例えば、スイッチ素子7〜10のうちのスイッチ素子7,9をFETにより構成し、スイッチ素子8,10をスイッチングトランジスタにより構成してもよい。
【0027】
第1及び第2のスイッチ素子7,8を含む第1の直列回路11のスイッチ素子7側の一端(スイッチ素子7のソース)と、第3及び第4のスイッチ素子9,10を含む第2の直列回路12のスイッチ素子9側の一端(スイッチ素子9のソース)とが接続されると共に、第1の直列回路11のスイッチ素子8側の他端(スイッチ素子8のソース)と、第2の直列回路12のスイッチ素子10側の他端(スイッチ素子10のソース)とが接続されている。これにより、第1の直列回路11と第2の直列回路12とが並列に接続されて前記並列回路13が構成されている。
【0028】
そして、この並列回路13のスイッチ素子7,9側の一端が、直流電圧(例えば24V)を出力する直流電源14の正極に接続されている。また、並列回路13のスイッチ素子8,10側の他端は接地されている。なお、直流電源14の負極は接地されており、並列回路13のスイッチ素子8,10側の他端に導通している。これにより、直流電源14から並列回路13に直流電圧が印加されるようになっている。
【0029】
第1の直列回路11の両スイッチ素子7,8の間の箇所11aと、第2の直列回路12の両スイッチ素子9,10の間の箇所12aとが、パルス列出力回路6の一対の出力部11a,12aとなっており、この出力部11a,12aに、前記巻き線トランス5の一次巻き線5aの両端がそれぞれ接続されている。
【0030】
なお、本実施形態では、パルス列出力回路6の出力部11a,12aから巻き線トランス5の一次巻き線5aに印加させる電圧に関し、出力部11a側が出力部12a側に対して正の電位となる電圧の極性を正極性、出力部12a側が出力部11a側に対して正の電位となる電圧の極性を負極性の電圧と定義する。この場合、本実施形態では、一次巻き線5aに正極性の電圧が印加されたときに、二次巻き線5bに放電電極2側が正極性となる高電圧が発生し、一次巻き線5aに負極性の電圧が印加されたときに、二次巻き線5bに放電電極2側が負極性となる高電圧が発生するようになっている。
【0031】
制御回路4は、図示を省略するCPU、RAM、ROM、インターフェース回路などから構成されるものである。本実施形態では、制御回路4は、あらかじめROMに記憶保持されたプログラムや外部からあらかじめ入力されたデータなどに基づいて、各スイッチ素子7〜10のゲートにオン・オフ信号(矩形波信号)を出力し、そのオン・オフ信号により、各スイッチ素子7〜10のオン・オフ制御を行なう。
【0032】
次に、本実施形態の高圧電源3及びイオン生成装置1の動作について、図2図3を参照して説明する。
【0033】
まず、本実施形態の高圧電源3の動作について説明する。ここで、一般的な巻き線トランスの二次巻き線に発生するパルス状の高電圧の特性について、図2を参照して説明する。図2において、横軸は時間であり、縦軸は電圧を示している。また、図2中の実線は、正極性のパルス状の高電圧VP0の1周期の波形を示し、期間T0は、パルス状の高電圧VP0の1周期期間を示す。
【0034】
1周期の期間内において、一次巻き線5aにパルス電圧が印加されると、まず、立ち上がり期間T_upで、パルス状の高電圧VP0が立ち上がり、ピーク値P0に達する。このパルス状の高電圧の立ち上がり時(立ち上がり期間T_up)に印加されるパルス電圧を制御することで、巻き線トランス5のコアの磁束飽和を生じない範囲で所望の波高値が得られるように、出力されるパルス状の高電圧の波高値を制御できる。
【0035】
次に、立ち下がり期間T_downで、パルス状の高電圧VP0は、ピーク値P0に達した後に、出力が0[V]になり、さらに逆電圧が発生し、0[V]近傍に戻る。このピーク値P0に達した後(立ち下がり期間T_down)に印加するパルス電圧を制御することで、逆電圧の発生を抑制できる。次に、安定期間T_pauseで、パルス状の高電圧は0[V]近傍で安定し、休止期間となる。この休止期間(安定期間T_pause)に印加するパルス電圧を制御することで、各周期における残留磁束を除去できる。
【0036】
次に、高圧電源3の制御回路4による各スイッチ素子7〜10のオン・オフ制御を説明する。図3は、各スイッチ素子7〜10のオン・オフ制御とそれに応じて巻き線トランス5の二次巻き線5bに発生する電圧(高電圧)との関係を例示するグラフである。
【0037】
図3を参照して、制御回路4は、巻き線トランス5の二次巻き線5bに高電圧の正極パルス出力を発生させる場合には、図中の期間TPで例示する如く、第1のスイッチ素子7をオン、第2のスイッチ素子8及び第3のスイッチ素子9をオフにした状態で、第4のスイッチ素子10のオン・オフを比較的高速で繰り返す正極側パルス列出力制御を行う。
【0038】
このとき、第4のスイッチ素子10がオンとなっている状態でのみ、直流電源14の出力電圧とほぼ同等の大きさの電圧値を有し、且つ該第4のスイッチ素子10が連続的にオンとなっている時間(オン時間)とほぼ同等の幅を有する正極性のパルス電圧(矩形波状のパルス電圧)が出力部11a,12a間に発生し、これが、巻き線トランス5の一次巻き線5aに印加される。
【0039】
従って、図中の期間TPにおいて、第4のスイッチ素子10のオン・オフを繰り返すことにより、そのオン・オフ波形20と同じ波形の電圧、すなわち、複数の正極性のパルス電圧を時系列的に並べてなる正極側パルス列が出力部11a,12aから一次巻き線5aに印加される。このように、各スイッチ素子7〜10のオン・オフ制御により、正極側パルス列の各パルス電圧のパルス幅とパルス休止幅とのうちの少なくともいずれか一方が制御される。
【0040】
この場合、期間TP(以下、正極側パルス列出力期間TPという)内において、第4のスイッチ素子10をオンにするタイミング(正極側パルス列の各パルス電圧の発生タイミング)や、第4のスイッチ素子10のオン時間(正極側パルス列の各パルス電圧の幅)を適切に設定しておくことにより、巻き線トランス5の二次巻き線5bに、図3の最下段のグラフで示すように正極性のパルス状(凸型状)の高電圧VPを発生させることができる。
【0041】
より詳しくは、本実施形態では、正極側パルス列出力期間TPにおける第4のスイッチ素子10のオン・オフ波形20は、前半側オン・オフ波形20aと、後半側オン・オフ波形20bとから構成される。そして、正極側パルス列出力期間TPにおける正極側パルス列のうち、前半側オン・オフ波形20aに対応する部分(以下、正極側パルス列前半部という)は、高電圧の正極パルス出力VPの発生タイミングと、高電圧の正極パルス出力VPの波高値P(ピーク値)とを規定する機能を有する。
【0042】
すなわち、正極側パルス列前半部の開始タイミング(前半側オン・オフ波形20aの開始タイミング)が、高電圧の正極パルス出力VPの立ち上がりタイミングとなるので、該正極側パルス列前半部の開始タイミングを変化させることによって、図3に参照符号VP’を付して例示するように、高電圧の正極パルス出力の発生タイミングを変化させることができる。
【0043】
また、正極側パルス列前半部のいずれかのパルス電圧の幅を変化させ、該正極側パルス列の各パルス電圧の幅の総和(前半側オン・オフ波形20aにおけるトータルのオン時間)を変化させることによって、巻き線トランス5のコアの磁束飽和を生じない範囲で、図3に参照符号VP’’を付して例示するように、高電圧の正極パルス出力の波高値を変化させることができる。この場合、基本的には、正極側パルス列の各パルス電圧の幅の総和を長くするほど、高電圧の正極パルス出力の波高値が増加することとなる。この正極側パルス列前半部による制御が、図2の立ち上がり期間T_upにおける波高値制御に相当する。
【0044】
また、正極側パルス列のうち、後半側オン・オフ波形20bに対応する部分(以下「正極側パルス列後半部」という)は、高電圧の正極パルス出力VPがピーク値から0[V]まで低下した直後に、二次巻き線5bに負極性の逆電圧が発生するのを防止する機能を有する。すなわち、高電圧の正極パルス出力VPがピーク値から0[V]まで低下する過程や、0[V]の近傍付近で1つ、又は複数の正極性のパルス電圧を出力部11a,12aから一次巻き線5aに印加することによって、該二次巻き線5bに負極性の逆電圧が発生するのを防止することができる。この正極側パルス列後半部による制御が、図2の立ち下がり期間T_downにおける逆電圧制御に相当する。
【0045】
また、制御回路4は、巻き線トランス5の二次巻き線5bに高電圧の負極パルス出力を発生させる場合には、図中の期間TNで例示する如く、第3のスイッチ素子9をオン、第1のスイッチ素子7及び第4のスイッチ素子10をオフにした状態で、第2のスイッチ素子8のオン・オフを比較的高速で繰り返す負極側パルス列出力制御を実行する。
【0046】
このとき、第2のスイッチ素子8がオンとなっている状態でのみ、直流電源14の出力電圧とほぼ同等の大きさの電圧値を有し、且つ該第2のスイッチ素子8のオン時間とほぼ同等の幅を有する負極性のパルス電圧(矩形波状のパルス電圧)が出力部11a,12a間に発生し、これが、巻き線トランス5の一次巻き線5aに印加される。
【0047】
従って、図中の期間TNにおいて、第2のスイッチ素子8のオン・オフを繰り返すことにより、そのオン・オフ波形21と同等の波形の電圧、すなわち、複数の負極性のパルス電圧から成る負極側パルス列が出力部11a,12aから一次巻き線5aに印加される。このように、各スイッチ素子7〜10のオン・オフ制御により、負極側パルス列の各パルス電圧のパルス幅とパルス休止幅とのうちの少なくともいずれか一方が制御される。
【0048】
この場合、期間TN(以下、負極側パルス列出力期間TNという)内において、第2のスイッチ素子8をオンにするタイミング(負極側パルス列の各パルス電圧の発生タイミング)や、第2のスイッチ素子8のオン時間(負極側パルス列の各パルス電圧の幅)を適切に設定しておくことによって、巻き線トランス5の二次巻き線5bに、図3の最下段のグラフで示すように負極性のパルス状(凸型状)の高電圧VNを発生させることができる。
【0049】
より詳しくは、本実施形態では、正極側パルス列出力期間TPの場合と同様に、負極側パルス列出力期間TNにおける第2のスイッチ素子8のオン・オフ波形21は、前半側オン・オフ波形21aと、後半側オン・オフ波形21bとから構成される。そして、負極側パルス列出力期間TNにおける負極側パルス列のうち、前半側オン・オフ波形21aに対応する部分(以下「負極側パルス列前半部」という)は、高電圧の負極パルス出力VNの発生タイミングと、高電圧の負極パルス出力VNの波高値N(ピーク値)とを規定する機能を有する。
【0050】
すなわち、負極側パルス列前半部の開始タイミングが、高電圧の負極パルス出力VNの立ち上がりタイミングとなるので、該負極側パルス列前半部の開始タイミングを変化させることによって、図3に参照符号VN’を付して例示するように、高電圧の負極パルス出力の発生タイミングを変化させることができる。
【0051】
また、負極側パルス列前半部の1つ以上のパルス電圧の幅を変化させ、該負極側パルス列の各パルス電圧の幅の総和(前半側オン・オフ波形21aにおけるトータルのオン時間)を変化させることによって、巻き線トランス5のコアの磁束飽和を生じない範囲で、図3に参照符号VN’’を付して例示するように、高電圧の負極パルス出力の波高値を変化させることができる。この場合、基本的には、負極側パルス列の各パルス電圧の幅の総和を長くするほど、高電圧の負極パルス出力の波高値の大きさ(絶対値)が増加することとなる。
【0052】
また、負極側パルス列のうち、後半側オン・オフ波形21bに対応する部分(以下「負極側パルス列後半部」という)は、高電圧の負極パルス出力VNの大きさがピーク値から0[V]まで低下した直後に、二次巻き線5bに正極性の逆電圧が発生するのを防止する機能を有する。すなわち、高電圧の負極パルス出力VNの大きさがピーク値から0[V]まで低下する過程や、0[V]の近傍付近で1つ又は複数の負極性のパルス電圧を出力部11a,12aから一次巻き線5aに印加することによって、該二次巻き線5bに正極性の逆電圧が発生するのを防止することができる。
【0053】
このように、制御回路4からの制御信号により、印加されるパルス電圧を制御することで、高電圧の正極パルス出力VP及び高電圧の負極パルス出力VNのうちの少なくともいずれか一方の波高値を容易に制御することができる。
【0054】
なお、高電圧の正極パルス出力VP及び高電圧の負極パルス出力VNのうちの少なくともいずれか一方の波高値P,Nを制御する場合には、制御回路4に入力するスイッチオン・オフデータのうちの、前記正極側パルス列出力期間TPにおける第4のスイッチ素子10のオン・オフ波形20のパターン(ひいては正極側パルス列のパターン)、あるいは、前記負極側パルス列出力期間TNにおける第2のスイッチ素子8のオン・オフ波形21のパターン(ひいては負極側パルス列のパターン)を変化させる。これにより、波高値P又はNを変化させることができる。なお、これらのオン・オフ波形20,21のパターンを変化させる場合には、例えば、あらかじめ複数種類のスイッチオン・オフデータを用意しておき、それらのスイッチオン・オフデータのうちの1つを選択的に制御回路4に入力するようにすればよい。
【0055】
さらに、高圧電源3において、制御回路4は、図4(a)に示されるように、正極側パルス列出力制御を繰り返し実行することにより、連続する複数の高電圧の正極パルスを含む正極パルス出力群GPを二次巻き線5bから出力させる正極側パルス群出力制御と、負極側パルス列出力制御を繰り返し実行することにより、連続する複数の高電圧の負極パルス出力を含む負極パルス出力群GNを二次巻き線5bから出力させる負極側パルス群出力制御とを、互いに同一の周期(たとえば100ms間隔)で交互に実行する。これにより、正極側パルス出力群GPと負極側パルス出力群GNとが1度ずつ出力されるまでの期間が200msであるので、一つのパルス群を一つのパルスと見た場合のみかけの周波数は5Hzと低周波になる。
【0056】
図4(b)を参照して、正極側パルス群出力制御及び負極側パルス群出力制御をより詳しく説明する。
【0057】
制御回路4は、正極側パルス群制御において、正極側パルス列出力制御により二次巻き線5bから出力される前回の高電圧の正極本パルス出力PMV1と、正極パルス列出力制御の今回実行により二次巻き線5bから出力される今回の高電圧の正極本パルス出力PMV2との間に、当該正極本パルス出力PMV1、PMV2の波高値Pよりも低い波高値nの負極性の負極逆パルス出力NRVが二次巻き線5bから出力されるように、負極側パルス列出力制御を実行する。
【0058】
前回の正極本パルス出力PMV1の立ち上がりから、負極逆パルス出力NRV1の立ち上がりまでの間隔(正極側第1間隔PD1)の長さは、前回の正極本パルス出力PMV1の立ち上がりから、今回の正極本パルス出力PMV2の立ち上がりまでの間隔(正極側第2間隔PD2)の長さの6割以上に制御される。
【0059】
また、制御回路4は、負極側パルス群制御において、負極側パルス列出力制御により二次巻き線5bから出力される前回の負極本パルス出力NMV1と、負極パルス列出力制御の今回実行により二次巻き線5bから出力される今回の負極本パルス出力NMV2との間に、当該負極性本パルス出力NMV1、NMV2の波高値Nよりも低い波高値pの正極性の正極逆パルス出力PRVが二次巻き線5bから出力されるように、正極側パルス列出力制御を実行する。
【0060】
前回の負極本パルス出力NMV1の立ち上がりから、正極逆パルス出力PRV1の立ち上がりまでの間隔(負極側第1間隔ND1)の長さは、前回の負極本パルス出力NMV1の立ち上がりから、今回の負極本パルス出力NMV2の立ち上がりまでの間隔(負極側第2間隔ND2)の長さの6割以上に制御される。
【0061】
なお、以下、正極パルス出力群GP及び負極パルス出力群GPを総称してパルス群Gといい、正極本パルス出力PMV及び負極本パルス出力NMVを総称して本パルス出力MVといい、前回の正極本パルス出力PMV1及び前回の負極本パルス出力NMV1を総称して前回の本パルス出力MV1といい、今回の正極本パルス出力PMV2及び今回の負極本パルス出力NMV2を総称して今回の本パルス出力MV2といい、正極逆パルス出力PRV及び負極逆パルス出力NRVを総称して逆パルス出力RVといい、正極第1間隔PD1及び負極第1間隔ND1を総称して第1間隔D1といい、正極第2間隔PD2及び負極第2間隔ND2を総称して第2間隔D2という。
【0062】
次に、図5を参照しながら、第2間隔D2の長さに対する第1間隔D1の長さの比率(デューティ比)とイオン生成装置1の性能との関係について説明する。図5は、1つの正極パルス出力群GPで出力される正極本パルス出力PMVの数を50、1つの負極パルス出力群GNで出力される負極本パルス出力NMVの数を50とし、本パルス出力の波高値を8kVとして、無風の環境下で、デューティ比(横軸:単位%)を変更しながら、±1000Vに帯電させた150mmのチャージプレートモニタ(CPM)を除電対象物として、当該除電対象物を±100Vに除電するまでの除電時間(縦軸:単位s)を測定したグラフである。一点鎖線は、除電対象物が除電開始前の段階で正極性(+1000V)に帯電している場合のグラフで、二点鎖線は、除電対象物が除電開始前の段階で負極性(−1000V)に帯電している場合のグラフである。
【0063】
デューティ比は、次式で求められる。
【0064】
【0065】
なお、正極第1間隔PD1、正極第2間隔PD2、負極第1間隔ND1、負極第2間隔ND2の関係は、次のとおりである。
【0066】
【0067】
図5に示されるように、正除電、負除電いずれの場合でも、デューティ比又は大きくなるほど、除電時間は短くなる。これは、前回の本パルス出力MVの立ち上がりから、逆パルス出力RVの立ち上がりまでの間隔(第1間隔D1)が長く確保されることにより、逆パルス出力RVによる引き戻し又は吸収が起こりにくくなり、第1間隔D1が短い場合よりも、本パルス出力MVの印加によって生じた空気イオンが除電対象物に到達しやすくなるためと推察される。
【0068】
次に、図6(a)(b)を参照しながら、逆パルス出力RVの波高値の大きさと除電時間の関係について説明する。図6(a)(b)は、1つの正極パルス出力群GPで出力される正極本パルス出力PMVの数を50、1つの負極パルス出力群GNで出力される負極本パルス出力NMVの数を50として、無風の環境下で、本パルス出力MVの波高値を8kVに固定する一方、逆パルス出力RVの波高値(横軸:単位kV)を変更しながら、±1000Vに帯電させた150mmのチャージプレートモニタ(CPM)を除電対象物として、当該除電対象物を±100Vに除電するまでの除電時間(縦軸:単位s)を測定したグラフである。
【0069】
また、デューティ比が64%、84%、91%の場合について、それぞれ測定した。図6(a)は、除電対象物が除電開始前の段階で正極性(+1000V)に帯電している場合のグラフ、図6(b)は、除電対象物が除電開始前の段階で負極性(−1000V)に帯電している場合のグラフである。
【0070】
図6(a)(b)に示されるように、正除電、負除電いずれの場合でも、逆パルス出力RVの波高値が2〜4kV程度(本パルス出力MVの波高値の25%〜50%程度)の場合に除電時間が短くなる一方、逆パルス出力RVの波高値が4kV(本パルス出力MVの波高値の50%)を超えると除電時間が長くなる。これは、逆パルス出力RVの波高値が大きくなることにより、引き戻し又は吸収される空気イオンの割合が増加するためと推察される。特に、デューティ比が小さい(前回の本パルス出力MVの立ち上がり時からあまり時間がたってない)場合に、この傾向が顕著である。
【0071】
次に、図7を参照しながら、1周期(1回の正極パルス出力群GP及び1回の負極パルス出力群GNにより構成される周期)における本パルス出力MVの回数(正極本パルス出力PMV及び負極本パルス出力NMVの回数の総和)を100回としたとき、本パルス出力のうちの正極本パルス出力PMVが占める割合(図7横軸:単位%)とイオンバランス(図7縦軸:単位V)との関係について説明する。
【0072】
図7に示されるように、当該割合を変化させることで、イオンバランスが線形に変化する。図7においては、正極本パルス出力が約40%の場合、イオンバランスが取れた状態となる。
【0073】
次に、図8を参照しながら、1周期あたりの本パルス出力MVの回数を変化させたときの除電速度について説明する。図8は、1つの正極パルス出力群GPで出力される正極本パルス出力PMVの回数と、1つの負極パルス出力群GNで出力される負極本パルス出力NMVの回数とを等しくした状態で、無風の環境下、本パルス出力MVの回数(横軸:単位回、正極本パルス出力PMV及び負極本パルス出力NMVの回数の総和)を変更しながら、±1000Vに帯電させた150mmのチャージプレートモニタ(CPM)を除電対象物として、当該除電対象物を±100Vに除電するまでの除電時間(縦軸:単位s)を測定したグラフである。
【0074】
なお、1つの本パルス出力とその次の本パルス出力の間隔は3.84msである。一点鎖線は、除電対象物が除電開始前の段階で正極性(+1000V)に帯電している場合のグラフで、二点鎖線は、除電対象物が除電開始前の段階で負極性(−1000V)に帯電している場合のグラフである。
【0075】
図8からもわかるように、正帯電、負帯電いずれの場合にも、1周期あたりのパルス回数が増加するに伴い、除電時間は短くなる。おおよそ1周期における本パルス出力MVの回数が200回(パルス群Gを一つのパルスと見たときのみかけの周波数が約2.6Hz)以上において除電速度(除電時間)が安定する。
【0076】
本パルス出力MVの回数が200回になるまで除電時間が短くなる理由としては、本パルス出力MVの回数が200回以下である場合には、みかけの周波数が速いために空気イオンが十分に加速されないうちに逆極性のパルス群によって引き戻し又は吸収されてしまうことが原因であると推察される。
【0077】
一方、本パルス出力MVの回数が200回以上で除電時間が安定する理由は、200回程度で十分に除電対象物の空気イオンが除電されるためであると推察される。
【0078】
なお、除電時間の長短は、除電装置と除電対象物との距離等の条件によって変化するため、種々の条件と本パルス出力MVの回数との関係を表した所定のテーブル又は所定の換算式等を使用して、本パルス出力MVの回数が設定されることが好ましい。当該所定のテーブル又は換算式は、例えば実験などで求められる。
【0079】
次に図9を参照しながら、1周期あたりの本パルス出力MVの回数を変化させたときのイオンバランスについて説明する。図9は、1つの正極パルス出力群GPで出力される正極本パルス出力PMVの回数と、1つの負極パルス出力群GNで出力される負極本パルス出力NMVの回数とを等しくした状態で、無風の環境下、本パルス出力MVの回数(横軸:単位回、正極本パルス出力PMV及び負極本パルス出力NMVの回数の総和)を変更しながら、150mmのチャージプレートモニタ(CPM)を除電対象物として、±1000Vに帯電させた除電対象物を±100Vに除電するまでの除電対象物のイオンバランス(オフセット電圧)の時間変動幅(縦軸:単位V/s)を測定したグラフである。なお、1つの本パルス出力とその次の本パルス出力の間隔は3.84msである。
【0080】
図9からもわかるように、1周期あたりの本パルス出力MVの回数が増加すると、イオンバランスの時間変動幅が増加する一方、本パルス出力の回数が減少すると、イオンバランスの時間変動幅が減少することがわかる。この原因は、1周期あたりの本パルス出力MVの回数が多いほど、除電対象物に流入する空気イオンの極性の時間的ムラが増加し、1周期あたりの本パルス出力MVの回数が少ないほど、除電対象物に流入する空気イオンの極性の時間的ムラが減少することにあると推察される。
【0081】
この性質を利用して、制御回路4が、制御信号により、除電開始時には本パルス出力MVの回数を増加する一方(たとえば1周期あたり200回)、除電終了時(除電対象物の帯電状況が所定の電圧以下になった時)には本パルス出力MVの回数を減少させる(たとえば1周期あたり10回)ように、パルス列出力回路6を制御してもよい。
【0082】
この場合、制御回路4は、除電対象物の帯電状況を監視するための帯電センサの出力信号に基づいて、除電終了時か否かの判断をすることが好ましい。このような構成により、除電時間を短くしながら、除電終了時の逆帯電及び電位の変動を避けることができる。
【0083】
本実施形態の高圧電源3によれば、正極パルス出力群GP及び負極パルス出力群GNをそれぞれ1つのパルスとして、当該正極パルス出力群GP及び負極パルス出力群GNが交互に出力されることにより、巻き線トランス5の鉄心の断面積を大きくせずとも、二次巻き線5bから出力される電圧のみかけの周波数を低下させることができる。
【0084】
また、本実施形態によれば、当該正極パルス出力PMV又は負極パルス出力PMV(本パルス出力MV)の波高値P,Nよりも低い波高値p、nの負極パルス出力NRV又は正極パルス出力PRV(逆パルス出力RV)が出力されることにより、本パルス出力MVによって生じた残留磁束が除去される。
【0085】
また、本実施形態によれば、当該逆パルス出力RVは一の本パルス出力(今回の本パルス出力MV2)の直前に出力されるので、当該今回の本パルス出力MV2の前回に出力された本パルス出力(前回の本パルス出力MV1)の出力後、逆パルス出力RVが出力されるまでの時間が長く確保される。この結果、前回の本パルス出力MV1により生じた空気イオンに対する当該逆パルス出力RVによる引き戻し及び吸収が起こりにくくなる。
【0086】
以上の通り、本実施形態によれば、装置をコンパクトに構成しながら、正極パルス出力VP又は負極パルス出力VNから生じる空気イオンの移動阻害要因が効果的に排除されるので、微風又は無風環境下で効率のよい移動が可能な空気イオンが生成される。
【0087】
次に、本実施形態の高圧電源3を搭載したイオン生成装置1の作動について説明する。イオン生成装置1では、巻き線トランス5の二次巻き線5bから放電電極2に正極パルス出力VPが印加されている時に、放電電極2の先端部近傍で発生するコロナ放電によって、正極性の空気イオンが生成される。そして、その生成された正極性の空気イオンが放電電極2の先端部近傍から離れる方向に放出される。また、二次巻き線5bから放電電極2の負極パルス出力VNが印加されている時に、放電電極2の先端部近傍で発生するコロナ放電によって、負極性の空気イオンが生成される。そして、その生成された負極性の空気イオンが放電電極2の先端部近傍から離れる方向に放出される。
【0088】
除電対象物の帯電極性と逆極性の空気イオンによって中和されることにより、除電対象物が除電される。
【0089】
以上の通り、本実施形態のイオン生成装置1によれば、装置をコンパクトに構成しながらも、微風又は無風環境下での効率的な除電が可能となる。
【0090】
図10を参照して、より詳しく説明する。図10は、本実施形態と、逆パルスをしない方式と、パルス出力群を出力しない従来の方式(200Hz)とについて、無風の環境下で、150mmのチャージプレートモニタ(CPM)を除電対象物として、±1000Vに帯電させた除電対象物を±100Vに除電するまでの除電時間(縦軸:単位s)を比較したグラフである。
【0091】
図10に示されるように、本実施形態による除電は、従来と比べて6〜7倍程度早く、逆パルスを出力しない場合と比較して3倍程度早く完了する。このことからもわかるように、本実施形態によれば、従来と比較して、微風又は無風環境下での効率的な除電が可能となる。
【0092】
本実施形態のイオン生成装置1では、放電電極2を巻き線トランス5の二次巻き線5bの一端に直接的に接続したが、抵抗素子を介して二次巻き線5bに接続してもよく、あるいは、容量素子を介して放電電極2を二次巻き線5bに接続するようにしてもよい。
【0093】
また、本実施形態の高圧電源では、パルス列出力回路6としてHブリッジ型の回路を用いたが、これに代わりに、プッシュプル回路やハーフブリッジ回路等を使用することも可能である。
【符号の説明】
【0094】
1…イオン生成装置、2…放電電極、3…高圧電源、4…制御回路、5…巻き線トランス、6…パルス列出力回路、7〜10…スイッチ素子、11…第1の直列回路、12…第2の直列回路、13…並列回路、14…直流電源、PMV‥正極本パルス出力、NMV‥負極本パルス出力、PRV‥正極逆パルス出力、NRV‥負極逆パルス出力、GP‥正極パルス群、GN‥負極パルス群。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10