特許第5989034号(P5989034)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5989034車両におけるレーン割り付けについての方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989034
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】車両におけるレーン割り付けについての方法
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20160825BHJP
   B60W 30/10 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   G08G1/16 C
   B60W30/10
【請求項の数】17
【外国語出願】
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-116386(P2014-116386)
(22)【出願日】2014年6月5日
(65)【公開番号】特開2015-22759(P2015-22759A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2014年7月30日
(31)【優先権主張番号】13176640.4
(32)【優先日】2013年7月16日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503113186
【氏名又は名称】ホンダ リサーチ インスティテュート ヨーロッパ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Honda Research Institute Europe GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】110000246
【氏名又は名称】特許業務法人OFH特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ニル アイネッケ
(72)【発明者】
【氏名】スベン レブハン
【審査官】 柳幸 憲子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−026143(JP,A)
【文献】 特開2012−089087(JP,A)
【文献】 特開2013−168016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 − 99/00
B60W 10/00 − 10/30
30/00 − 50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータにより実行される、車両におけるレーン割り付けの方法であって、
前記コンピュータの演算部が、当該コンピュータの入力部を介して前記車両に備えられたセンサから取得したセンサデータに基づいて、それぞれが一つの移動物体(120、122、124)についての時系列の位置を表す一つ又は複数の軌跡を算出するステップ(304)と、
前記演算部が、自車両を含む検出された物体のペア間の関係(562、564、566)を表す関係グラフを構築するステップであって、一の物体の現在の深さ位置において他の物体の軌跡が当該他の物体の位置履歴に基づいて定義されるときは、当該一の物体は当該他の物体と関係を有するものとされるステップと、
前記演算部が、前記関係グラフにおいて一つ又は複数の前記移動物体及び前記車両(110)のうちから一の第1の物体を選択するステップ(308)であって、第1のレーン割り付けは前記第1の物体に割り付けられているレーン(104、106)を示すものであるステップと、
前記演算部が、一つ又は複数の前記移動物体から、前記関係グラフにおいて前記第1の物体と関係を有するものとして表現されている一の第2の物体を選択するステップ(310)と、
前記演算部が、前記第1の物体の現在位置と前記第2の物体の軌跡との間の距離を算出するステップ(312)と、
前記演算部が、前記距離を予め定められた閾値と比較するステップ(314)と、
前記演算部が、前記第1のレーン割り付けと前記比較の結果とに基づき、前記第2の物体が割り付けられたレーンを示す第2のレーン割り付けを、前記コンピュータの出力部を介して出力するステップ(316)と、
を有する方法。
【請求項2】
前記演算部が、前記入力部を介して、前記車両(110)の測距システム(202)により検出された、及び又はCar2X環境により与えられた、一つ又は複数の物体位置を表す物体データを受け取るステップ(302)を更に備える、請求項1に記載の方法
【請求項3】
前記距離を算出するステップ(312)は、前記第1の物体の現在位置と前記第2の物体の軌跡との間の横方向距離及びユークリッド距離の少なくとも一つを算出することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記予め定められた閾値は、レーン幅及び車両幅の少なくとも一つを表すものである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第2のレーン割り付けは、前記算出された距離が前記閾値より小さいときは、前記第1のレーン割り付けにより示されたものと同じレーンを示すように出力される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記演算部が、前記算出された距離が前記閾値より大きいときに、前記車両に対する相対的な前記第2の物体の横方向位置を算出するステップと、前記演算部が、前記車両が割り付けられたレーンの左側又は右側のレーンを示す前記第2のレーン割り付けを前記出力部を介して出力するステップと、
を更に有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
レーン割り付けは、一のレーンの他のレーンに対する相対的な位置に基づいて当該一のレーンを示すものである、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
レーン割り付け処理は、前記関係グラフに沿って伝搬し、相対的なレーン割り付けが一の物体から他の物体へと伝搬することを含むものである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記演算部が、前記第1の物体の、前記車両からの現在の前方距離を算出するステップと、
前記演算部が、前記算出された現在の前方距離において利用可能な軌跡を特定するステップと、
を更に備え、
前記第2の物体を選択するステップ(310)は、前記特定された利用可能な軌跡に関連付けられている一の物体を選択することを含む、
請求項1又は6に記載の方法。
【請求項10】
前記演算部が、移動物体のペア(複数)間の関係(562、564、566)を表す前記関係グラフを構築するステップであって、当該ステップは当該関係グラフを構築する際に考慮すべき軌跡(552、554、556)を特定することを含み、第2の物体の軌跡と第1の物体の軌跡との間の距離が予め定められた閾値より小さいときは当該第2の物体の軌跡を考慮すべきものとし、当該軌跡を考慮すべきときは前記第1及び第2の物体間の関係(562、564、566)が定義されるステップと、
前記演算部が、前記算出された関係グラフに沿ってレーン割り付けを伝搬させるステップであって、互いに対し関係を有する移動物体のペア(複数)間の距離(d_1、d_2、d_3)を算出することと、移動物体のペアの第1の物体についてのレーン割り付けと移動物体の当該ペアについての前記算出された距離とに従って移動物体の当該ペアの第2の物体にレーンを割り付けることにより、前記移動物体についてのレーン割り付けを推定することとを含むステップと、
をさらに有する、
請求項1、6、又は9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
第1の物体の現在位置において第1の物体の走行方向に対し垂直に引いた線が第2の物体の軌跡と交差するときは、前記関係グラフの構築に際し軌跡が考慮すべきものとされる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記演算部が、一つの同じ物体についての複数のレーン割り付けを比較するステップと、
前記演算部が、競合するレーン割り付けを示す前記比較に基づき、競合解決処理を選択的に実行するステップ(322)と、
を更に有する、請求項1、6、9、又は10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記一つ又は複数の移動物体から一つの第2の物体を選択する前記ステップ(310)は、前記一つ又は複数の移動物体及び前記車両のうちのそれぞれについての利用可能な軌跡を有する物体(複数)を表す関係リストを算出することを含み、
前記競合解決処理(322)は、
前記演算部が、競合するレーン割り付けを持つ前記物体、及び当該競合するレーン割り付けを持つ当該物体と関係を有している物体のうちの一つの物体を、前記関係リストから削除することにより、修正された関係リストを生成するステップと、
前記演算部が、前記修正された関係リストに基づいて、前記レーン割り付けを再度算出するステップと、
を有する、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
最も少ない数の関係を持つ関係を有している物体を、前記関係リストから削除する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
コンピューティングデバイス上で実行されたときに請求項1ないし14のいずれか一項に記載の方法を実施することとなるプログラムコード部分を含むコンピュータプログラム。
【請求項16】
車両において運転者を支援するシステム(130)であって、
それぞれが一つの移動物体についての時系列の位置を表す一つ又は複数の軌跡を出力するよう適合されたコンポーネント(204)と、
自車両を含む検出された物体のペア間の関係(562、564、566)を表す関係グラフを構築するよう適合されたコンポーネント(208)であって、一の物体の現在の深さ位置において他の物体の軌跡が当該他の物体の位置履歴に基づいて定義されるときは、当該一の物体は当該他の物体と関係を有するものとするコンポーネントと、
前記関係グラフにおいて一つ又は複数の前記移動物体及び前記車両(110)のうちから一の第1の物体を選択するよう適合されたコンポーネント(214)であって、第1のレーン割り付けは前記第1の物体に割り付けられているレーンを示すものであるコンポーネントと、
前記一つ又は複数の移動物体から、前記関係グラフにおいて前記第1の物体と関係を有するものとして表現されている一の第2の物体を選択するよう適合されたコンポーネント(216)と、
前記第1の物体の現在位置と前記第2の物体の軌跡との間の距離を算出するよう適合されたコンポーネント(220)と、
前記距離を予め定められた閾値と比較するよう適合されたコンポーネント(222)と、
前記第1のレーン割り付けと前記比較の結果とに基づき、前記第2の物体が割り付けられたレーンを示す第2のレーン割り付けを出力するよう適合されたコンポーネント(2226)と、
を有するシステム。
【請求項17】
請求項16に記載のシステム(130)を備える車両(110)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両において運転者を支援するための方法に関し、特に、車両周辺を移動する物体に道路上のレーンを割り付ける方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、車両乗員の快適さや安全を増進することを目的とする種々の運転支援システムが利用可能である。運転あるいは操縦に関するシステムは、超音波システムなどの短距離用の能動システムや、レーダ、ライダ(lidar)などの長距離用の能動システム、あるいはカメラなどの赤外線受動システムといったセンシング装置をベースとするか、及び/又は、車車間通信及び又は車両と路側ユニットとの間の通信を含むCar2X通信を利用し得る。これらの通信は、モバイルネットワーク通信や、無線LANなどのその他の無線ネットワーク通信をベースとし得る。
【0003】
運転あるいは操縦に関する機能は、距離センシングや受動的な又は能動的な駐車支援をはじめ、高性能な「先進運転支援システム」(Advanced Driver Assistant Systems、ADAS)に至るまで、多岐に及ぶ。ADASは、例えば、「インテリジェント・アダプティブ・クルーズコントロール」(Intelligent Adaptive Cruise Control、IACC)などのクルーズコントロール機能を提供する。このクルーズコントロール機能には、自車両の前方又は後方を移動する他車両又は物体の検出や、隣接する物体の将来におけるレーン変更等の振る舞いを予測する機能をも含み得る。また、ADAS機能は、衝突緩和や緊急ブレーキ等に関連するものや、レーン変更支援を含むものとなり得る。レーン変更支援では、その第1段階において、利用可能なレーンが一つ以上在るか否か、在るならばその数はいくつか、を判断できることが必要となる。
【0004】
ADAS機能の多くは、その前に検出された物体又は道路利用者(road user)を、複数あるレーンのうちの一つに割り付けることに依拠している。クルーズコントロール、衝突回避/緩和、あるいは緊急ブレーキングなどのシステムでは、物体をレーンに正しく割り付けることが極めて重要である。当該システムの動作は、検出された物体のレーンに依存しており、例えばそれが自車両のレーンであるか否かに依存しているためである。
【0005】
レーン割り付けについての従来のアプローチは、レーン位置情報を用いて車両(複数)を異なるレーンに割り付けるものである。レーン割り付けは、例えばカメラその他の画像データを用いたレーンマーキング検出の後に行われる。当該画像データから、レーンマーキングラインが抽出される。その後に、例えばレーダにより検出された他の道路利用者の位置が、画像領域にマップされ、抽出されたレーンマーキング位置と比較されて、これら利用者に対しレーンが割り付けられる。
【0006】
より具体的には、道路コース(道路の道筋、road course)が検出され、その道路利用者の現在の位置とその道路利用者の距離における道路の「位置」とに応じてレーンオフセットが算出される。このアプローチでは、(1)レーン位置情報と(2)道路利用者(単数又は複数)の位置情報とを、個別に検出又は特定することが必要となる。レーン位置情報は、画像データを出力するカメラから収集することができ、次に分析が行われて、例えば白及び又はその他の色のレーンマーキングのラインを検出することによりレーン(単数又は複数)が特定される。物体位置(単数又は複数)は、レーダ、ライダ、及び又はCar2Xにより個別に特定することができる。データの処理は、道路位置/レーンへの物体位置のマッピングを含むものとすることができる。このマッピングには、物体位置における道路位置を特定することが含まれる。最終的に、物体からレーンへのレーン割り付けは、車両支援の他の機能に出力されるか、及び又は運転者に出力される。
【0007】
特許文献1には、カメラ画像をベースとする車両用のレーン認識装置が記載されている。
【0008】
特許文献2には、交通レーンの推移(traffic lane evolution)を示すデータを算出するための装置が記載されている。カメラベースのレーン認識システムの情報が、自車両前方の他の道路利用者に関するレーダベースの位置データと組み合わされ、道路の道筋(course)が推定される。その後に、自車レーン(即ち、自車両のレーン)に対する他車両の位置が特定される。
【0009】
上述のシステムは、例えば道路検出のための少なくとも一つのカメラと物体検出のための少なくとも一つのレーダというように種々のセンサシステムを必要とするため、高価である。コストを制限するためには、簡易なカメラや簡易なレーダシステムに基づいて動作できる程度にデータ処理がロバストであることが必要となる。しかしながら、カメラベースの道路コース/レーンの推定は、例えば霧、雨、暗がり等に起因する視界不良な状況により、誤差を生じやすいものとなる。レーダの検出精度は、例えば横方向位置推定における雑音により制限され、実現可能精度を制限するような態様で種々の誤差要因が重なり合う。また、これらの方法の適用範囲は、通常、物体検出範囲よりもかなり狭いものとなり得るカメラの限られた視野によって制限されることにも注意する必要がある。したがって、これらのレーン割り付けの方法を改善することについての一般的なニーズが存在する。
【0010】
非特許文献1には、カルマンフィルタを用いてビデオデータとレーダデータとを組み合わせることによりレーン検出を改善することが記載されている。レーダデータから、道路境界に静止している対象物(例えば、草むら、ガードレール、道路ポスト)が抽出される。ビデオデータとレーダデータとを融合することにより、特に(例えば霧に起因する)視界不良な状況において、より高い精度を実現することが可能となる。
【0011】
レーン割り付けについての他の既知のアプローチは、レーダデータのみを用いて道路利用者を自車レーン(即ち、自車両と同じレーン)に割り付けるものである。このようなシステムは、検出された物体の位置及び速度といった利用可能なレーダデータを用いて、静止した対象物を特定し、当該特定した静止対象物に基づいて道路コースを推定する。例えば自車両の操舵角から抽出される少なくとも簡易なレーンモデルが必要とされる。しかしながら、そのような簡易なモデルは、特に道路がカーブから直線に変化するときには、うまく機能しない傾向がある。より高度なモデルでは、多くのレーンを特定すべく、マップデータが利用可能であることを必要とし得る。
【0012】
非特許文献2には、レーダ情報のみを用いて道路コースとレーンの関連付けとを推定する確率的な方法が記載されている。最初に、静止した対象物が抽出されて、道路の境界とその形状が推定される。その後に、道路上の動的な障害物(複数)が分析され、そのそれぞれがレーンに割り付けられる。これを行うため、存在するレーンの数を取得する際にマップデータが必要となる。その後に、道路利用者のそれぞれについて、各レーンについての確率が算出される。この確率は、道路利用者が特定のレーン上に存在する尤もらしさを示すものである。これらの確率の算出には、レーダからの位置、速度、進行方向、ヨーレート等の情報が用いられる。
【0013】
特許文献3は、アダプティブ・クルーズコントロール(Adaptive Cruise Control、ACC)の分野における手法を開示している。この方法は、レーダデータのみを用いて自車レーン上の先行車両を検出することに関するものである。自車両の前方に車両が走行しているか否かを判断するため、他車両の位置が、ある特定の時点で記憶される。これに続く時間ステップ(複数)において、自車両の現在位置と上記他車両の位置との距離が評価される。記憶されている他車両の位置と自車両との間の距離が所与の閾値未満であると、当該他車両は自車両と同じレーン上にある、すなわち、当該他車両は自車レーン上の先行車であるものとして分類される。先行車の変化の検出を加速すべく、この方法の複数のインスタンスを並行して実行するものとすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1193661(A1)号明細書
【特許文献2】独国特許第19749086(C1)号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第102010023196(A1)号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Meis et al., "A New Method for Robust Far-distance Road Course Estimation in Advanced Driver Assistance Systems", 13th International IEEE Conference on Intelligent Transportation Systems (ITSC), 19-22 September 2010, Funchal, p. 1357 - 1362, ISBN: 978-1-4244-7657-2
【非特許文献2】Adam, C. et al., "Probabilistic Road Estimation and Lane Association Using Radar Detections", Proceedings of the 14th International Conference on Information Fusion, 5-8 July 2011, Chicago, Illinois, USA, p. 1 - 8, ISBN: 978-1-4577-0267-9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
センサ入力としてレーダのみを用いる上述のアプローチは、多くのレーンを示したマップデータのような付加的で複雑なデータを必要とするか、そうでなければ、車両が自車レーン内の先行車であるものと判断することのみが可能である。しかしながら、そのような入力は、多くのADAS機能にとっては不十分なものであり、したがってその適用範囲は限られたもののみとなる。
【0017】
霧、雨、暗がりなどの幅広い条件にわたって信頼性の高い動作を行い、且つ種々のADAS機能についての広範な適用範囲を持つレーン割り付けに関する、費用効果の高い手法についてのニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記のニーズは、車両におけるレーン割り付けの方法により満たされる。この方法は、それぞれが一つの移動物体についての時系列の位置を表す一つ又は複数の軌跡を出力するステップと、一つ又は複数の前記移動物体及び前記車両のうちから一の第1の物体を選択するステップであって、第1のレーン割り付けは前記第1の物体が割り付けられたレーンを示すものであるステップと、一つ又は複数の前記移動物体から一の第2の物体を選択するステップと、前記第1の物体の現在位置と前記第2の物体の軌跡との間の距離を算出するステップと、前記距離を予め定められた閾値と比較するステップと、前記第1のレーン割り付けと前記比較の結果とに基づき、前記第2の物体が割り付けられたレーンを示す第2のレーン割り付けを出力するステップと、を備える。
【0019】
車両(自車両)は、自動車、トラック、若しくはバス、又は一般に、道路、高速自動車道等を走行することが意図された何等かの物体であるものとすることができる。当該何等かの物体には、運転者により走行が行われる有人車両や、ロボット車両などの自動走行車両も含まれる。同様に、移動物体には、任意の種類の車両、自動車、トラック、バス、オートバイ/自転車が含まれ、路面電車、歩行者、及び馬などの動物も含まれる。
【0020】
移動物体の軌跡は、測定又はセンシングの頻度(又はこれより少ない頻度)に従って更新されるものとすることができる。通常は、更新頻度は1−10ヘルツの範囲とすることができる。レーン割り付けは、これと同じか又はより少ない頻度で更新されるものとすることができる。軌跡は、移動物体についての、例えば数秒間(例えば5秒間)に亘って測定又は検出された位置(複数)を表すものとすることができる。
【0021】
本方法の実施形態は、さらに、車両の測距システムなどのセンサ装置により検出された、及び又はCar2X環境により与えられた、一つ又は複数の物体位置を表す物体データを受け取るステップを含むものとすることができる。前記測距システムは、例えばレーダシステム及びライダシステムの少なくとも一つを含む能動型の又は受動型の長距離システムなどの、長距離システムとすることができる。
【0022】
Car2X環境に接続するため、前記車両は、アンテナ、モバイル通信受信器等の無線通信装置を備えるものとすることができる。
【0023】
本方法は、検出された物体が移動物体であるか静止物体であるかを評価するステップを更に含むものとすることができる。そのような評価は、例えば、車両のセンサ装置により提供される物体関連データに含まれた速度データに基づくものとすることができる。
【0024】
本方法の実施形態(複数)は、さらに、カメラの画像データに基づいて、一つ又は複数のレーン割り付けを算出するステップを含むものとすることができる。これらの実施形態のいくつかは、さらに、車両に関連付けられたカメラから道路レーン形状を示すデータを受け取るステップを含むものとすることができる。
【0025】
前記第1の物体の現在位置と前記第2の物体の軌跡との間の距離を算出するステップは、前記第1の物体の現在位置と前記第2の物体の軌跡との間の、横方向距離及びユークリッド距離の少なくとも一つを算出することを含むものとすることができる。
【0026】
前記予め定められた閾値は、レーン幅と車両幅の少なくとも一つを表すものとすることができる。上記レーン幅は、例えば一つ又は複数の異なる種類の道路についての、例えば法的規制に従って定義される幅とすることができる。また、上記車両幅は、例えば平均的な車両幅(例えば、自動車又はトラックの平均幅)とすることができる。製造時及び又は検査時に、これらに相当するデータが、レーン割り付けのためのシステムに与えられるものとすることができる。
【0027】
本方法の実施形態によると、第2のレーン割り付けは、上記算出された距離が上記閾値よりも小さいときには、第1のレーン割り付けにより示されたものと同じレーンを示すように出力されるものとすることができる。これに加えて又はこれに代えて、本方法は、さらに、上記算出された距離が上記閾値を超えるときに、第2の物体の前記車両に対する相対的な横方向位置を算出するステップと、当該車両が割り付けられたレーンの左側又は右側のレーンを示す第2のレーン割り付けを出力するステップと、を有するものとすることができる。
【0028】
レーン割り付けは、一のレーンを、当該一のレーンの他のレーンに対する相対的な位置に基づいて示すものとすることができる。種々の実施形態によると、相対的なレーン割り付けは、(自)車両についてのレーン割り付けに基づくものとすることができる。例えば、レーン割り付けは、自車両の左側又は右側の一つ又は二つの位置のレーンを示すものとすることができる。
【0029】
本方法の実施形態は、さらに、前記車両から見た前記第1の物体の、深さ、すなわちz方向距離などの、現在の前方距離を算出するステップと、前記算出された前方距離において又は当該前方距離について利用可能な軌跡を特定するステップと、を有するものとすることができる。一般に、軌跡は、第1の物体の現在位置と当該軌跡との間の距離を算出できるときは、当該第1の物体の現在位置に関して「利用可能な軌跡」であるものと判断され得る。例えば、前記距離が(x,z)座標系におけるユークリッド距離として算出される場合には、前記軌跡は、必ずしも前記第1の物体の現在の前方距離(z値)にまで逆方向に達している必要はなく、当該軌跡の端部のz値(その位置履歴における最も古い位置)は、当該第1の物体のz値よりも大きな値となり得る。
【0030】
前記第2の物体を選択するステップは、前記算出された利用可能な軌跡の一つに関連する物体を選択することを含むものとすることができる。種々の実施形態は、一つ又は複数の移動物体及び車両のそれぞれについて、利用可能な軌跡を有する物体(複数)を示す関係リストを算出するステップを含むことができる。
【0031】
種々の実施形態によると、本発明に従う方法は、さらに、移動物体のペア(複数)間の関係を表す関係グラフを構築するステップであって、当該ステップは当該関係グラフを構築する際に考慮すべき軌跡を決定することを含み、第2の物体の軌跡と第1の物体の軌跡との間の距離が予め定められた閾値より小さいときは当該第2の物体の軌跡を考慮すべきものとし、当該軌跡を考慮すべきときは第1及び第2の物体間に関係があるものとして定義されるステップと、前記算出された関係グラフに沿ってレーン割り付けを伝搬させるステップであって、互いに対し関係を有する移動物体のペア(複数)間の距離(d_1、d_2、d_3)を算出することと、移動物体のペアの第1の物体についてのレーン割り付けと移動物体の当該ペアについて算出された距離とに従って移動物体の当該ペアの第2の物体にレーンを割り付けることにより、前記移動物体についてのレーン割り付けを推定することとを含むステップと、を有するものとすることができる。
【0032】
これらの実施形態のいくつかによると、第1の物体の現在位置において第1の物体の走行方向に対し垂直に引いた線が第2の物体の軌跡と交差するときは、前記関係グラフを構築する際には軌跡を考慮しなければならない。
【0033】
本方法は、さらに、一つの同じ物体についての複数のレーン割り付けを比較するステップと、競合するレーン割り付けを示す当該比較の結果に基づいて、修正プロセス又は競合解決プロセスを選択的に実行するステップと、を含むものとすることができる。前記競合解決プロセスは、競合するレーン割り付けを持つ物体及び当該競合するレーン割り付けを持つ物体に関係を有している物体(複数)のうちの一の物体を、関係リストから除去することにより、修正された関係リストを出力するステップと、当該修正された関係リストに基づいてレーン割り付けを再度算出するステップと、を有するものとすることができる。いくつかの実施形態によると、最も少ない数の関係を持つ関連する物体を、関係リストから除去するものとすることができる。
【0034】
一連の第1の物体に関して、自車両を含む検出された移動物体のリストについての繰り返し処理を行う際には、第1及び又は第2の物体は、深さ優先探索(depth-first-search)又は幅優先探索(breath-first-search)により選択されるものとすることができる。
【0035】
本方法は、利用可能なレーンの総数又は検出された物体が占めるレーンの数の算出を、副産物として含むことができる。レーンの総数は、車両の運転者に示されるものとすることができ、例えば、道路のレーン(複数)が、ディスプレイ上に模式的に示されるものとすることができる。
【0036】
前述のニーズは、さらに、コンピュータプログラム製品により満たされる。当該コンピュータプログラム製品は、例えば車両に備える一つまた複数の電子処理モジュールなどのコンピューティング・デバイスにより実行されたときに、上述において概説され又は本明細書のいずれかに示された方法又は当該方法の態様のいずれか一つに従う方法を実施することとなるプログラムコード部分を含む。本コンピュータプログラム製品は、コンピューティング・デバイス内に設けられた又は当該デバイスに関連付けられた永久的な又は書き換え可能なメモリや、取り出し可能なCD−ROM、DVD、又はUSBスティックなどの、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に保存されているものとすることができる。これに加えて又はこれに代えて、本コンピュータプログラム製品は、例えばインターネットなどのデータネットワーク、又は電話回線若しくは無線リンクなどの通信ラインを介した、コンピューティング・デバイスへのダウンロード用に提供されるものとすることができる。
【0037】
また、前述のニーズは、車両内において運転者を支援するためのシステムにより満たされる。当該システムは、ソフトウェア、ファームウェア、及び又はハードウェアを備えて本発明に従うレーン割り付けを実行する。本システムは、それぞれが移動物体の時系列位置を表す一つ又は複数の軌跡を出力するよう適合されたコンポーネントと、一つ又は複数の前記移動物体及び車両のうちから一の第1の物体を選択するよう適合されたコンポーネントであって、第1のレーン割り付けは前記第1の物体が割り付けられたレーンを示すものであるコンポーネントと、一つ又は複数の前記移動物体のうちから一の第2の物体を選択するよう適合されたコンポーネントと、前記第1の物体の現在位置と前記第2の物体の軌跡との間の距離を算出するよう適合されたコンポーネントと、前記距離を予め定められた閾値と比較するよう適合されたコンポーネントと、前記第1のレーン割り付けと前記比較の結果に基づき、前記第2の物体が割り付けられたレーンを示す第2のレーン割り付けを出力するよう適合されたコンポーネントと、を備える。
【0038】
前述のニーズは、また、上述において概説され又は本明細書のいずれかに記載されたシステムを備える車両によって満たされる。
【0039】
一の態様によると、本発明は、レーダやライダ等の長距離システム及び又はCar2X環境により与えられる位置データのみに基づいて道路利用者についてのレーン割り付けを行う手法を含むものとして理解され得る。これを行うため、少なくとも一つの道路利用者の移動軌跡が算出される。すなわち、本発明のこの態様によると、現在位置のデータが用いられるだけでなく、過去(例えば過去5秒間)の位置データ(位置履歴)も使用される。その後、これらの軌跡を用いて、道路利用者がレーンに割り付けられる。例えば、所与の時点に関し、一の移動物体について、考慮対象である物体(自車両とすることができる)の深さ位置において他の移動物体の軌跡が利用可能であれば、当該一の移動物体の現在位置を当該他の移動物体(複数)の軌跡と比較し、そのような比較の一つ又は複数の結果に応じて、レーン割り付けを行う。
【0040】
本発明は、レーダやライダにより与えられるような測距データのみに基づいてレーン割り付けを行う手法を提供する。カメラ画像により与えられるような、レーン検出のための個別のデータソースは、必ずしも必要ではない。したがって、道路コースやレーン推定のための専用の算出処理を行うことなく、レーン割り付けを行うことができる。レーンの数の推定は、本発明においては副産物として出力され得る。
【0041】
道路コースを専門に又は個別に推定することは必ずしも必要ではないため、カメラやこれと同様の撮像システムは必要なく、本発明は、カメラその他の撮像システムを備えない車両に適用することが可能である。したがって、本発明の方法は、霧、雨、暗がり等の、従来のレーン割り付け方法では処理結果の品質が低下してしまうような気候条件にも影響を受けない。本発明は、レーダ等の比較的長距離の測距システムのデータにのみ依存するので、その処理結果は、信頼度がより高く、自車両の前方及び又は後方に向かってより遠くにまで及ぶものとなり得る。
【0042】
同時に、本発明は、自車両前方を移動する一の物体及び又は自車レーンについてのレーン割り付けを行うだけでなく、検出された任意の移動物体、及び自車レーンの左右にある複数のレーンについてのレーン割り付けも行うことができるので、「インテリジェント・アダプティブ・クルーズコントロール」(Intelligent Adaptive Cruise Control、IACC)などの多くの走行支援機能に広く適用することができる。例えば、左右のレーンへの割り付けは、レーン変更支援システムにおいて重要である。
【0043】
本発明のシステムは、カメラからの入力を全く用いないものとすることができるが、例えば撮像システムを備える車両においては、本発明に従う支援機能は他のレーン割り付け機能の代用又は補足として提供され得る。すなわち、本支援機能は、アドオン(add-on)の又は補足的な機能として実施されるものとすることができ、例えば霧、雨、雪、氷結、又は夜間などの、視界が制限される状況において、あるいは、その他のレーンマーキングが見えないような状況、例えば建設現場において白色マーキングに代えて黄色マーキングが用いられている場合において、又は汚れた道路若しくは街路などにおいて、例えば他のレーン割り付け機能の信頼性を向上させるために起動され得る。本発明の方法は、例えば撮像システムの雑音レベルが所定の閾値を超えて検出されたような場合に、運転者のマニュアル操作により又は自動的に、起動又は追加されるものとすることができる。
【0044】
本発明の方法の実施形態は、検出された移動物体の数を所与の閾値数と比較するステップと、レーン割り付け処理を選択的にアクティブ又は非アクティブにするステップと、を含み得る。例えば所与の閾値数が2であった場合には、本方法は、2を超える数の移動物体が検出された場合にのみ起動されるものとすることができる。これにより、本手法の実施形態の適用範囲を、信頼性のあるレーン割り付けが可能な交通状況であって且つ又は少しでもレーン割り付けが必要とされるような交通状況に限ることができる。
【0045】
本発明の態様(複数)は、自車両を含む検出された物体の位置及び又は位置履歴を、自車両と比較するだけでなく互いに比較することを含む。例えば、本発明は、自車両を含む検出された物体のペア(複数)間の関係を表す関係グラフを構築する態様を含む。当該態様では、第1の物体の現在位置の深さ(すなわち、自車両の前方又はz方向)において第2の物体の位置履歴に基づき当該第2の物体の軌跡が定義される場合には、当該第1の物体は当該第2の物体と関係を有するものとして定義される。この場合、第1と第2の物体の横方向の変位が算出され、その結果として当該2つの物体の少なくとも相対的なレーン割り付けが決定され得る。最終的には、自車両の直前にある移動物体に関する自車レーンの割り付けだけでなく、全般的なレーン割り付けも決定され得る。具体的な例として、本発明によれば、自車両の前方又は後方にある複数の車両が、例えば自車両前方にある最大3つまでの車両を検出することのできるレーダシステムに基づいて、自車レーンに割り付けられ得る。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】自車両とその他の移動物体とが存在する道路上の、第1の例示的な交通状況を模式的に示す図である。
図2図1に示す自車両の、ECUの機能コンポーネントを示す図である。
図3A図2に示すECUの動作を示すフロー図である。
図3B図3Aに示すフロー図の続きを示す図である。
図4A図2に示すECUで用いられている例示的な座標システムにより図1の交通状況を表した図である。
図4B図4Aの状況に基づいて、本発明の一態様を模式的に示した図である。
図5A】第2の例示的な交通状況についての、本発明に従う関係グラフを示す図である。
図5B】第3の例示的な交通状況についての、本発明に従う関係グラフを示す図である。
図6】第4の例示的な交通状況についての、本発明に従う関係グラフを示す図である。
図7】第5の例示的な交通状況についての、本発明に従う関係グラフを示す図である。
図8】第5の交通状況についての、本発明に従う4つの中間的な関係グラフを示す図である。
図9】第5の例示的な交通状況についての、本発明に従う解決された競合を含んだ最終的な解決グラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下では、図に示された例示的な実施形態を参照しつつ、本発明について更に説明する。
【0048】
図1は、道路102上の交通状況100を示す図であり、以下において、本発明の態様を説明するための参照として用いられる。道路102は、自車両110の進行方向108に存在する2つのレーン104、106を有し、対向交通用に確保されたものであり得る更なるレーン112、114を備え得る。これらのレーンは、連続線116と破線118で示された区画線により区切られている。自車両110の前方には、移動物体(この例では、他の自動車又は車両)120、122、124で表された他の交通が存在する。自車両110の後方にも他の交通が存在し得るが、純粋に簡略化のため図1では省略されている。対向交通は、車両126により例示的に表されている。道路100の近傍にある一つ又は複数の静止物体128は、樹、壁や建物、駐車中の車両、道路ポスト等を含み得る。
【0049】
自車両110は、ECU(電子制御ユニット、Electronic Control Unit)130を備える。ECUは、ファームウェア及び又はソフトウェアが組み込まれて車両110の運転者に対する一つ又は複数の運転支援を提供する車両110に搭載された一つ又は複数のハードウェアユニットの形態で実現され得る。ここでは、レーン割り付け機能、即ち検出された移動物体120及び124をレーン104(車両110のレーン)に割り付け、検出された移動物体122をレーン106(自車両の右側のレーン)に割り付ける機能を必要とする少なくとも一つのADAS機能が組み込まれるものとする。
【0050】
図2は、図1のECU130の機能コンポーネントを示す図である。簡単のため、図2には本発明の説明に関連する機能ブロックのみを示している。ECU130の動作を、図3A、3Bのフロー図を参照しつつ説明する。概して、ECU130の動作300は、車両110の環境において検出された移動物体についてのレーン割り付けの生成又は更新に関連して説明される。
【0051】
ステップ302において、ECU130の軌道コンポーネント204は、車両110のレーダシステム202により検出された一つ又は複数の物体位置を示す物体データを受け取る。車両110は種々のセンサ回路を備え得るが、データはECU130へ、具体的にはレーザシステム202により検出された物体の軌跡を出力するよう適合されたコンポーネント204へ提供されるので、図2にはレーダ202のみを図示している。各軌跡は、一の移動物体の時系列の位置(複数)を表し得る。すなわち、コンポーネント204は、レーダ202から一定の時間間隔、例えば1〜10Hzでデータを受信するよう動作する。コンポーネント204は、当該データを分析して、図1の物体120、122、124、及び128などの物体を検出することができる。
【0052】
コンポーネント204は、軌跡を生成し又は更新する前に、例えばレーダ202により与えられた速度データに基づいて、移動物体120〜124から静止物体128を区別する。概して、速度データは、レーダなどの測距デバイスの場合には自車両に対する相対的な測定値として処理され、Car2X環境の場合にはグローバルな座標系における測定値として処理される。
【0053】
ステップ304において、コンポーネント204は、検出された移動物体についての軌跡を出力する。このステップは、コンポーネント204が、関連する記憶エリア206内において各移動物体についての対応するデータレコードを生成し、連続的に更新し、及び、例えば周期的に、上書きすることを含み得る。そのようなデータレコードは、例えば、検出された移動物体の識別子と、関連するタイムスタンプの数とを含むものとすることができる。各タイムスタンプは順番に、自車両基準の座標系におけるx座標及びz座標などの位置データ、速度、及び、(利用可能な場合は)以前のレーン割り付けに対応する相対的又は絶対的なレーン識別子、を持つ。しかしながら、以下では解りやすいように、レーン割り付けは個別に記憶されるものとして説明する。
【0054】
軌跡コンポーネント204は、例えばコンポーネント204がレーダ202からデータを受け取る時間ポイントに対応した一定の時間間隔で、リレーションコンポーネント208にトリガ207を与える。トリガ207は、例えばECU130の計算負荷を(一時的に)制限すべく、より低い頻度で発生するものとすることができる。コンポーネント208は、一つ又は複数の移動物体120、122、124、及び車両110のそれぞれについて、利用可能な軌跡を有する物体を示すべく、後で詳述するようにステップ306において関係リスト(関係グラフ)を算出するために備えられている。関係リストは、ECU130に関連付けられた記憶コンポーネント210に記憶される。
【0055】
ECU130の動作の詳細説明を続ける前に、記憶装置206、210に特定の時点で出される軌跡及び関係リストの一般的な役割及び目的を、図4A図4B、及び図5に図示した高度な例を参照しつつ説明する。
【0056】
図4Aは、図1の交通状況を模式的に示した図である。黒い点で示された移動物体120、122、124の位置は、黒い三角形により示された自車両110のレーダにより検出された位置を俯瞰図、すなわちx−zプロットに示したものである。当業者により理解されるように、この俯瞰図において座標zは、車両110の進行方向に沿った深さ、即ち前方距離を示し、座標xは、当該進行方向に対し垂直に延びる横方向座標を示している。破線は、自車両110に対し距離ゼロの位置を示している。検出された3つの移動物体の位置のみに基づいて、検出されたこれら3つの道路利用者を一つ又は複数のレーンに割りつけることは、明らかに困難である。一般に、僅かな数の物体についての位置情報等、ほんの僅かな情報のみに基づいて信頼性のあるレーン割り付けを行うことは困難である。
【0057】
図4Bも、図1の例示的な交通状況を示すものであるが、交通参加者(複数)が時間経過に沿って追跡されており、検出された各物体についての対応する軌跡が、過去の測定点(複数)から生成されている。すなわち、検出された移動物体の位置に加えて、過去の時間ステップ(複数)においてこれらの物体について検出された位置(複数)から、これら物体の軌跡も生成されている。
【0058】
検出された物体についての時間追跡は、例えば自車両110の測距デバイス202又はECU130(例えば、軌跡算出コンポーネント204)により割り当てられた物体識別子を用いて行われるものとすることができる。すなわち、検出された物体は、図4Bにおいては、参照符号120、122、124に代えて、例示的に示されたid番号id1、id2、及びid3により、それぞれ参照される。
【0059】
物体id1、id2、id3の軌跡は、後方に向かって深さ0(すなわち自車両110の現在位置)まで延在するように示されている。一般に、軌跡は、正のz座標値(例えば新たに検出された物体の場合)、又は負のz座標値(すなわち自車両の後方)で終端するものとなり得る。
【0060】
一般に、軌跡は、数秒から1分までの時間範囲に亘り、検出された物体の位置データ及び又はその他のデータを集めたものである。この時間範囲は、検出範囲、現在検出/追跡されている物体の数、相対的又は絶対的な速度等に依存する。通常の状況においては、軌跡は過去5秒間に亘って延びたものとなり得る。
【0061】
検出された移動物体の現在位置に加えて位置履歴(すなわち、軌跡)を用いることにより、推論手法を用いて異なる検出物体の異なるレーンへの信頼性の高い割り付けを行うことができる。例えば、図4Bに示すデータから、道路利用者id1とid2が自車両110と同じレーン上に存在し、道路利用者id3が自車両110の右側のレーンを走行していることは明らかである。これは、自車両の右側にレーンが実際に存在しているというレーン検出をも暗に含むということを意味する。このような右側レーンの存在は、図4Aの現在位置データのみからは推測され得ないものである。
【0062】
上述したレーン割り付けとレーン検出とが、付加的な道路形状やレーンについての情報を用いることなく、図4Bに示す現在位置及び位置履歴から推測され得るものであることに注意すべきである。
【0063】
以下では、図4Bを参照して説明した事項の、一般的な又は高度の例示的な技術的実施形態を、図5Aを参照して説明する。図5Aは、レーダ検知の例(図示左側)と、レーン割り付けの推測がどのように行われ得るか(図示右側に記載した関係グラフ)、とを示している。説明のため、交通状況は図1に示したものとは異なるものとする。
【0064】
自車両id:0とその他の検出された道路利用者id:410、500、502、及び506との間の関係と、それらの軌跡とが、関係グラフとして示されている。当該関係グラフでは、道路利用者がノードを構成し、互いに関係を有する道路利用者がリンクにより接続されている。道路利用者/物体「A」の現在位置のz値のレベルが、他の道路利用者/物体「B」の軌跡と交差しているときは、道路利用者「A」は、道路利用者「B」と関係を持つものとして定義される。換言すれば、2つの道路利用者は、一方の物体が、他方の物体の過去に既に存在していた深さ位置に存在する場合、即ち、例えば自車両の測距システムにより過去において他方の物体が既に検出されていた深さ位置に存在する場合には、互いに関係を有している。単なる横方向距離(即ちx方向距離)を算出することに代えて、一の物体の現在位置と他の物体の軌跡との間の、他の何らかの(最小)距離(例えば、ユークリッド距離)を算出するものとしてもよい。
【0065】
図5Aに記載した具体的な例示的状況を参照すると、id:410を持つ道路利用者が、現在、25メートル(m)の深さに存在している。したがって、id:500とid:502の軌跡が25mの深さまで逆方向に達していることから、道路利用者id:410は、道路利用者500及び502と関係を有していることとなる。これに対し、検出された移動物体506の軌跡は深さ45mまでにしか達していないので、id:506の道路利用者は、利用者410とは関係を有していないこととなる。これらの関係性は、グラフ構造に表現され又は反映される。すなわち、ノード410からノード500及びノード502へのリンクは存在し、ノード410からノード506へのリンクは存在しない。
【0066】
図5Aの図示左側に示すグラフが構築されると、レーン割り付けのための推論の実行が可能となる。割り付けられたレーンが、図5Aの関係グラフ内の各ノードの、上部右のボックス内に示されている。この推論プロセスは、自車両id:0から開始されるものとすることができるが、他の任意の開始点を用いるものとしてもよい。まず、自車両0が、レーン0に任意に割り付けられる。次に、グラフ内の全てのリンク、すなわち関係について、関係を有する(すなわち、リンクで接続された)2つの物体(すなわち、道路利用者)の間のx方向距離(又はこれに代えて、ユークリッド距離などのその他の距離計測値)、すなわち、一の道路利用者の現在位置と他の道路利用者の軌跡との間の距離が算出される。これらの距離は、図5Aのレーダプロット(図示左側)内に、両端矢印線で示されている。
【0067】
上記のように算出された距離が所定の閾値より小さいときは、関係を持つ当該2つの道路利用者は、一つの同じレーン上に存在するものとされる。例えば、道路利用者500の軌跡は、z=0にある自車両0の現在位置に対し僅かなx方向距離にある。したがって、id:500の道路利用者は、自車両0と同じレーン上にあるものと判断される、すなわち、両者がレーン0に割り付けられることとなる(図5Aの図示右側の図を参照)。これに対し、道路利用者410の軌跡は、z=0における自車両の現在位置において、当該自車両に対し大きなx方向距離にあり、物体410は他のレーン上にあるものと判断される。具体的には、道路利用者410は、自車両0の右側に位置している。したがって、物体410は、レーン0の右側のレーン、すなわちレーン1に割り付けられる(予め、自車レーン=0、自車レーンの右側レーン=1、自車レーンの左側レーン=−1と定められているものとする)。
【0068】
上記に概説した推論では、全てのノード(道路利用者、検出された移動物体)にレーンラベル(レーン識別子又はレーンインデックス)が割り付けられるまで、関係グラフの全てのノード及び関係がスキャンされるものとすることができる。具体的には、そのようなスキャンは、深さ優先探索又は幅優先探索などの手法に従うものとすることができる。
【0069】
図5Bは、レーン割り付けを推論する際の移動物体間の関係の特定及び利用をより具体的に説明するための、他の例示的なシナリオを示す図である。
【0070】
自車両ID:0の(x,z)座標系において、破線542、544、546、548は、自車両(z=0にあるものとする)と、ID:502、600、及び500を持つ検出された移動物体と、についてのそれぞれの前方距離を示している。物体502、600、及び500についてのそれぞれの軌跡552、554、及び556が、自車両の支援システム内において表現されているものとする。自車両とこれらの検出された物体との間の関係を表す関係グラフが、矢印562、564、及び566で示されている。
【0071】
関係グラフの算出に際し、自車両を含む全ての物体についてループ処理が実行される。考慮中の各物体について、システム内に記憶されたどの軌跡が関係のあるものかが判断される。考慮中の物体の現在の前方距離(自車両の場合は、現在の前方距離はz=0である)において利用可能な軌跡は、関係のあるものと判断され得る。図5Bにおいては、考慮中の物体についての水平な破線(z値一定)と交差する軌跡は、関係のあるものと見なされ得る。特定の軌跡が交差する場合、考慮中の物体は、その軌跡が割り付けられている移動物体が過去に存在していたポイント(より正確には、進行方向に対し垂直なライン位置)を、現在通過中であるということである。
【0072】
図5Bに示す具体的な例を参照すると、ID:0のz値ライン542は物体502の軌跡552と交差しているので、自車両ID:0は、現在、ID:502が過去に存在していたポイントにある。しかしながら、自車両ID:0は、ID:500又はID:600のいずれとも交差しない。したがって、自車両ID:0は、関係グラフにおいては、ID502と関係562を持つように表され、他の2つの物体との更なる関係は何も記憶されない。さらに、ID:502は、ID:600と関係564を有し、ID:600はID:500と関係566を有する。
【0073】
関係グラフが決定されると、当該グラフに表された関係に沿って、レーン割り付け処理が伝搬していくものとすることができる。具体的には、ID:0とID:502と間に関係が存在するので、距離d_1が算出される。距離d_1は閾値(例えば、レーン幅)よりも大きいと判断されるので、ID:502にレーン識別子「1」を割り付けるべきものと結論付けられる。この割り付けは、自車両に識別子「0」を割り付けた初期の(任意の)レーン割り付けに対する相対的な割り付けである。ID:500又はID:600についての距離計算は行われない。グラフ内では、これらの物体の一方又は双方に対し自車両が関係を有さないことが表されているためである。関係グラフに沿って更に処理を伝搬させることにより、距離d_2の算出に基づいて、ID:600にレーン識別子「−1」が割り付けられ、距離d_3の算出に基づいて、ID:500にレーン識別子「0」が割り付けられる。
【0074】
図5Bの簡単な例は、検出された移動物体に対する矛盾のないレーン割り付けパターンを実現する具体的な方法を説明するものである。関係グラフに表された関係(複数)に基づき、処理の伝搬経路は、自車両についての任意の初期レーン割り付けから開始して、当該グラフに従って進む。この伝搬経路に沿って、レーン割り付けも伝搬する。すなわち、考慮対象である第1の物体のレーン割り付けは、当該第1の物体のz方向距離と交差する軌跡を持つ第2の物体に伝搬される。ここで、第2の物体のレーン割り付けは、第1の物体と、これと交差する軌跡との間の距離の算出結果により更新された第1の物体のレーン割り付けである。
【0075】
図2及び図3を再度参照し、自車両110のECU130についての具体的な機能ブロック及びそれらの動作に戻ると、関係決定コンポーネント208は、図1に示す現在の交通状況について、図5の図示右側に示す関係リストと同様の関係リストを算出するよう動作し得る。すなわち、コンポーネント208は、物体120、122、124、及び自車両110の間の関係を特定し、生成した又は更新した現在の関係リストを記憶装置210に記憶する。
【0076】
次に、コンポーネント208は、機能ループコンポーネント212にトリガを与える。コンポーネント212は、定められたアルゴリズム、例えば深さ優先探索手法又は幅優先探索手法に従って、記憶されている関係グラフのノード及びリンクに沿って動作するように設けられている。このような手法は当業者にとり公知のものであるので、この点についての更なる詳細は省略する。しかしながら、コンポーネント212により実行されるスキャンについての、いくつかの具体的な態様を参照しつつ、図2に示す機能コンポーネント214及び216について説明する。
【0077】
コンポーネント214は、ステップ308において、記憶装置206及び210内に示された一つ又は複数の検出された移動物体120、122、及び124、並びに自車両110の中から一の第1の物体を選択するよう適合されている。コンポーネント216は、ステップ310において、コンポーネント206及び210内に示された一つ又は複数の移動物体の中から第2の物体を選択するよう適合されている。ここで、第2の物体は、コンポーネント214により現在選択されている第1の物体とは異なる。
【0078】
機能計算コンポーネント220及び222が設けられている。距離コンポーネント220は、ステップ312において、コンポーネント214により現在選択されている第1の物体の現在位置と、コンポーネント216により現在選択されている第2の物体の軌跡との間の距離を算出するよう適合されている。識別コンポーネント222は、特に、ステップ314において、コンポーネント220により算出された距離を、更なる記憶コンポーネント224に記憶されている予め定められた閾値と比較するよう適合されている。記憶コンポーネント224は、ECU130に関連付けられており、車両110の製造時に与えられ、及び又は検査持にサービス作業員により更新された、種々の固定的な、永久的な、及び又は半永久的なデータを出力し得る。
【0079】
説明のため、記憶されている物体の一つ又は自車両に対し割り付けられたレーンを示すレーン割り付けは、図2に示す個別の記憶コンポーネント218に記憶されるものとして記載している。実際には、そのようなレーン割り付けは、軌跡データと関連付けて記憶装置206に記憶されるか(軌跡データもまた、物体や識別子に従って構造化され得る)、及び又は関係グラフデータと関連付けて記憶装置210に記憶され得る。一の実施形態では、記憶装置210の関係リストは、また、記憶装置206に記憶されているデータレコード及びレーン割り付けと合わせて記憶されるものとすることができる。いずれの場合も、すなわち、図2の実施形態に示すような十分な記憶装置を用いる場合も、レーン割り付けは、検出された物体及び自車両のidに関連付けて記憶されることが必要である。
【0080】
割り付けコンポーネント226は、ループ処理コンポーネント212により与えられる結果に基づきレーン割り付けを出力する(ステップ316)、すなわち生成又は更新するよう適合されている。各割り付けは、物体idとレーンラベルとの関連付け(データペア)で構成される。したがって、コンポーネント226は、割り付け記憶装置218にアクセスして、記憶装置218から読み出した現在選択されている第1の物体についての既存のレーン割り付けに対する相対的な、現在選択されている第2の物体についての新しい又は更新されたレーン割り付けを出力する。例えば、算出された距離が閾値より小さい場合には、読み出したレーン割り付けにより示されたものと同じレーンが、第2の物体に割り付けられる。算出された距離が閾値より大きい場合には、現在選択されている第2の物体の横方向位置が、自車両に対し相対的に算出される。そして、新しい又は更新されたレーン割り付けは、自車両が割り付けられているレーンの左側又は右側のレーンを示すものとなる。
【0081】
一般に、ここに示す相対的なレーン割り付け処理は、予め定義されたレーンラベルを自車両のレーンに割り付けることから開始する。例えば、自車両のレーン割り付けは、開始点として規定されるか、又はid「0」を持つ自車両にレーンラベル「0」を常に割り付けるように規定され得る。
【0082】
コンポーネント226は、新しい又は更新されたレーン割り付けを記憶装置218に記憶し、ループ処理コンポーネント212に制御を戻す。第2の物体を更にスキャンしなければならない場合(判断318)、コンポーネント216が起動される。また、第1の物体を更にスキャンしなければならない場合は(判断320)、コンポーネント214が起動される。一般に、スキャンすべき第1の物体(複数)は、自車両を含む記憶装置210に現在記憶されている関係グラフの全てのノードを含む。第1の物体のそれぞれに対する、スキャンされループ処理されるべき第2の物体(複数)は、記憶装置210内の関係グラフに表された、当該第1の物体に対し関係を有する検出された物体(複数)を含む。
【0083】
記憶装置210に記憶されている関係グラフ全体のスキャンが完了すると、競合解決コンポーネント228に制御が渡される。このコンポーネントの動作の詳細を説明する前に、図6〜9を参照して、関係グラフに対する最初の一回のスキャンによって生成されるレーン割り付けセットに適用され得る、修正に関する高度な考察を示す。
【0084】
一般に、複数レーン割り付け(multiple lane assignments)とは、検出された一つの同じ移動物体(すなわち物体id)に関して生成されるものと理解される。一般に、物体は、他の複数の物体と関係を持つためである。例えば、図5では、物体410は、物体500及び502と関係を有している。これらの物体の軌跡は、物体410の現在の深さと交差するからである。したがって、2つのレーン割り付けが生成されることとなり、そのいずれもが矛盾なく、物体500と502のレーンの右側にある一のレーンを物体410に割り付けるものとなる。
【0085】
しかしながら、例えば自車両が記憶している物体の軌跡によって少なくとも部分的にカバーされる時間スパン内に、当該物体である道路利用者がレーン変更を行ったような場合には、レーン割り付けに矛盾が生じ得る。レーン変更が完全に行われた場合には、軌跡は2つ(又はそれ以上)のレーンに接触し得る。レーン変更の途中である場合、すなわちレーン変更動作の一部分のみが軌跡として表現されているような場合には、レーン変更途中の物体についての矛盾のないレーン割り付けを行えない場合がある。
【0086】
図6は、このような場合についての例示的な状況を示している。記載方法は図5と同じであり、図6の図示左側には、種々の検出された物体(複数)の位置及び位置履歴(軌跡)についてのレーダ出力のプロットが表されており、図示右側には、図示左側に示された状況から生成され得る、対応する関係グラフが示されている。
【0087】
図6は、道路利用者502が左側レーン(例えばレーン0、すなわち、自車両0の自車レーン)から右側レーン(例えばレーン1、すなわち、レーン0の右側のレーン)へ移動する状況に関するものである。具体的には、id502の軌跡は、過去においてレーン0に割り付けられており、レーン1へ移動しようとしていることから、現時点においてはレーン1に割り付けられ得る。
【0088】
結果として、物体502についての物体410及び500との関係に基づくレーン割り付けは、当該物体502に対しレーン0を割り付けるものとなり、物体502についての物体506との関係に基づくレーン割り付けは、物体502にレーン1を割り付けるものとなる。このような競合する割り付けが発生する原因は、道路利用者502が今まさに道路利用者506と同じレーン上に乗ろうとしているが、当該道路利用者502は、以前は道路利用者410の左側に存在していたものであり、その道路利用者410と道路利用者506とが現在は同じレーン上に存在している、という点にある。その結果生ずる競合する割り付けが、図6の図示右側の関係グラフ内の、物体502の部分に示されている。
【0089】
図6に示すような矛盾あるいは競合を解決するものとして、種々のアプローチを考えることができる。以下に示す実施形態は、2つのステップで構成されている。第1は、競合の原因となり得る全てのノードを特定することである。第2は、以下に示すように、適切な競合処理を適用することである。
【0090】
競合する割り付けは、レーン変更の際にしばしば発生するが、このことは、レーン変更が競合する割り付けを持つノード(物体)によって実行されていること又は実行されたことを必ずしも意味しない。実際に、競合するノード自身のほかに、当該競合するノードに関係を有する全てのノード(即ち、競合するノードへの経路が存在するノード)のうちの一つ又は複数のノードが、その競合の原因となり得る。
【0091】
図7には、図示左側に、図6の状況よりも複雑な例示的状況が示されている。以下、これを参照して説明する。競合するレーン割り付けが、ノード602について検出されているとする。図7の図示右側には、ノード602へのパスを有さないことから当該競合の原因とはなり得ないノードが、関係グラフ内において破線で示されている。この条件は、ノード598及び599について成り立つ。
【0092】
他のノード0、601、609、610、及び602は、競合するノード602と直接又は間接の関係を有するので、これらのノードの一つ又は複数が、当該競合の原因であり得る。
【0093】
相対的なレーン割り付けの基準としてノード0(自車両)が用いられる場合には、ノード0は競合の原因とはなり得ない。しかしながら、例えば、自車両の現在位置より後方まで軌跡が延び得るような実施形態、すなわち、軌跡が、前述した図と同様のx―zプロットにおいて自車両より下側の負のz値領域まで延びている場合には、ノード0を考慮しなければならないこととなる。
【0094】
図7の関係グラフにおいて競合を解決し、且つ競合の原因であるノードを特定するために、可能性のある競合ノードのそれぞれについて、当該可能性のある競合ノードを削除した新しいグラフを生成することができる。
【0095】
図8は、図7に示すグラフの例から、可能性のある競合ノード602、601、609、及び610の一つをそれぞれ削除して得られるグラフを示している。
【0096】
図8の図示上部右のグラフによると、関係グラフからノード601を除いたときには、競合は存在し続ける。ノード601を除いても競合が残るので、ノードすなわち物体601は、当該競合の原因にはなり得ないものと判断される。
【0097】
図8の他のグラフは、ノード609、610、及び602のいずれか一つを削除することで競合が消滅すること、すなわち、これらのノードの一つがこの競合の原因であることを示している。
【0098】
この時点では、この競合の原因であるノード即ち物体を特定するためには、本システムへの入力として、付加的な情報又は合理的な仮定のいずれかが必要となる。情報は、例えばカメラのようなレーン検出デバイスにより与えられるものとすることができる。他のアプローチとして、付加的な情報を、測距システム、望ましくは検出された物体に関するデータを出力するシステムから収集するものとすることができる。例えば、付加的なレーン形状又は道路コースの情報が、レーダシステムにより検出されて静的物体及び動的(移動)物体として分類された物体(複数)から抽出されるものとすることができる。
【0099】
システムに対し、一つ又は複数の適切な仮定が、付加的に又は代替的に与えられるものとすることができる。一例として、競合の原因である可能性のある複数のノードの中から、グラフにおいて最も少ない数の接続(関係)を有するノードを競合解決ノードとして選択することができる。このアプローチの根拠は、当該選択されたノードについては、その相対的な位置に関して利用可能な情報が最も少ない、すなわち、相対的なレーン割り付けにおける誤り発生の確率が当該ノードにおいて最も高いから、と考えることができる。
【0100】
図7及び図8の例では、ノード609は4つ、ノード602は3つ、ノード610は2つの関係を有している。したがって、上述の仮定に従い、ノード610を関係グラフから除くものとすることができる。したがって、図8の図示右下部に示すグラフが、さらなる判断の基礎をなすこととなる。
【0101】
図9は、競合解決処理の結果を示す図である。ノード610は、グラフから除去され、いかなるレーン割り付けも持たない状態となる。一方、他のノード即ち物体についてのレーン割り付けが、ノード610を参照することなく決定される。したがって、ノード610を除く全てのノードについて、レーン割り付けの矛盾のないセットが決定され得る。
【0102】
レーン割り付けにおける矛盾又は競合を解決するための他の又は更なる仮定を、例えばレーン割り付けに依拠する運転支援機能に応じて設ける又は適用することができる。例えば、レーン変更が滅多に起こらないことが予想される状況においては、システムは、次の数秒間のうちに競合が解決され消滅するのを単に待機するという決定を行うものとすることができる。そのような単純なアプローチは、時間制限の厳しくない(タイムクリティカル(time-critical)でない)レーン変更支援のような快適性機能用としては十分に望ましいものであり得る。
【0103】
他の例では、競合の原因である可能性のある複数のノードの中から、競合が発生しているノードに対し深さ方向(例えば、z方向距離、前方距離)において最も近いノード(単数又は複数)をグラフ内に残し、当該競合が発生しているノードに対し最も大きなz方向距離を持つ当該競合の原因である可能性のあるノードをグラフから除去する。これは、より長い時間スケールにわたって仮定された関係に基づいた判断は信頼性が低く、短時間の関係に基づく判断はより信頼性が高いと考えられることによる。
【0104】
競合解決のため種々の異なる仮定を適用したり、及び又は競合するレーン割り付けについての信頼性の高い判断が行えるように複合的な仮定を適用するものとすることができる。複数の競合が発生している場合、当該競合が関係グラフから除去されるまで、上述した処理の一つ又は複数を複数回にわたって適用するものとすることができる。グラフから削除されたノード即ち物体は、レーン割り付けを持たず、残っているすべてのノードは矛盾のないレーン割り付けを持つこととなる。
【0105】
図2のECU103に戻り、競合解決コンポーネント228は、ステップ322において、記憶装置218に記憶されている現在のレーン割り付け(複数)にける一つ又は複数の競合を検出し及び解決するよう動作する。このため、コンポーネント228は、一の同じ物体識別子について与えられた複数のレーン割り付けが記憶装置218内に存在すれば、これらを比較するよう適合されている。この比較の結果に基づいて、レーン割り付けが競合している場合には、このコンポーネントは、上記において例示的に説明したような競合解決プロセスを実行する。
【0106】
プロセス300は、検出された移動物体の最大数について矛盾のないレーン割り付けのセットが得られたときに終了する(324)。対応するデータは、図2において矢印230で示すように、ECU130又は車両110の他のコンポーネントで利用可能となるようにされる。例えば、レーン割り付けと検出されたレーンの総数とを含むデータが、一つ又は複数のADAS機能に示され、及び又は、例えば自車両のディスプレイへの出力用に提供され得る。データは、例えばCar2X環境に基づいて、近くに存在する他の移動物体にも提供され得る。このようなデータの提供は、信頼性のある処理結果の生成に貢献し得る。
【0107】
上述した例では、レーン割り付けは、自車両の前、すなわち自車両の前方(進行方向)において検出された移動物体について実行されるが、本発明の実施形態は、これに加えて又はこれに代えて、自車両の背後、すなわち、自車両の後方(進行方向に対し逆方向)における交通についてのレーン割り付けにも適用することができる。例えば、軌跡(位置履歴)は、検出された移動物体の以前の位置を自車両が通過する場合にも、連続的に追跡されるものとすることができる。
【0108】
軌跡は、自車両の背後の全体において構築されるものとすることもできる。現在位置と軌跡との間の距離は、自車両の後方においても算出され得る。対応するレーン割り付けは、レーン変更支援、ブレーキ操作支援、クルーズコントロールなどの機能において有用であり得る。
【0109】
本発明の方法はレーンマーキングに依存しないので、マーキングが曖昧な場所やマーキングが不明瞭な場所、例えば道路建設現場や、雪や氷のためマーキングがはっきりしないときでも、レーン割り付けを実行することができる。
【0110】
本発明を、その好ましい実施形態に関連付けて説明したが、本説明は、制限を設けることを意図したものではなく、単に例示的な説明を行うことを目的としたものである。特に、上記において個別に説明した特徴の種々の組み合わせが有用又は適切であることは、当業者にとり明らかである。すなわち、本発明が添付の請求項の範囲によってのみ限定されることが意図されている。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9