特許第5989035号(P5989035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989035
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】シャトルコック
(51)【国際特許分類】
   A63B 67/187 20160101AFI20160825BHJP
【FI】
   A63B67/187
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-118513(P2014-118513)
(22)【出願日】2014年6月9日
(65)【公開番号】特開2015-231407(P2015-231407A)
(43)【公開日】2015年12月24日
【審査請求日】2015年4月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005935
【氏名又は名称】美津濃株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 聡
【審査官】 吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−205842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 67/187
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャトルコックであって、
半球体状のベース体と、
前記ベース体に接続されている複数の人工羽根とを備え、
前記人工羽根は、羽部と、前記羽部に接続された軸とを含み、
前記羽部の表面は、前記シャトルコックの内側を向いている第1の主面と、前記第1の主面の反対側に位置し前記シャトルコックの外側を向いている第2の主面とを有しており、
前記表面の少なくとも前記羽部の積層順が入れ替わった場合に接触する前記表面の領域に、潤滑層が表出しており、
前記潤滑層は、
一方の主面が平坦面上に固定され、全面に渡って前記潤滑層が形成された他方の主面が上方に向いている第1の人工羽根と、一方の主面が200gの錘の下面に固定され、全面に渡って前記潤滑層が形成された他方の主面が下方に向いている第2の人工羽根とが、前記他方の主面同士が重なり、かつ前記第1の人工羽根と前記第2の人工羽根の前記軸が逆方向に向くように配置され、前記軸の延在方向に沿う方向に前記錘をばねばかりで引張速度10mm/秒で引っ張った時の前記錘の移動開始荷重が40g以下となる摺動性を有している、シャトルコック。
【請求項2】
前記潤滑層は前記第2の主面に表出している、請求項1に記載のシャトルコック。
【請求項3】
前記軸の延在方向に対し垂直な方向において、前記羽部は前記第1の主面側に向かって凸状に形成されている、請求項1または請求項2に記載のシャトルコック。
【請求項4】
前記軸の延在方向において、前記軸は前記シャトルコックの内側に向かって凸状に形成されている、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のシャトルコック。
【請求項5】
前記羽部は、前記第1の主面を有する第1層と、前記第1層および前記潤滑層に接続されている第2層とを含み、
前記第1層の厚みは、前記第2層の厚みよりも厚い、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のシャトルコック。
【請求項6】
前記第2層を構成する材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、およびポリエチレンテレフタラートからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項5に記載のシャトルコック。
【請求項7】
前記潤滑層を構成する材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、およびポリエチレンテレフタラートからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のシャトルコック。
【請求項8】
前記潤滑層の厚みは、2μm以上30μm以下である、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載のシャトルコック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャトルコックに関し、特に人工羽根を備えるシャトルコックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バドミントン用シャトルコックとして、その羽根に水鳥の羽根を用いたもの(天然シャトルコック)と、ナイロン樹脂などにより人工的に製造された羽部と軸とからなる羽根(人工羽根)を用いたもの(人工シャトルコック)とが知られている。そして、天然シャトルコックは、そのような天然の羽根について一定の品質のものを入手することに手間が掛かることから、人工の羽根を用いたシャトルコックより高価である。また、近年水鳥の羽根の供給国の食糧事情の変化や、鳥インフルエンザの流行に起因する水鳥の大量処分などにより、水鳥の羽根の供給量が激減しており、天然シャトルコックはますます高価なものとなってきている。そのため、安価で安定した品質の人工羽根を用いたシャトルコックが提案されている。
【0003】
本願発明者の過去の実験によれば、従来のシャトルコック用人工羽根を用いた人工シャトルコックでは、実際に使用すると人工羽根の強度が天然の羽根に比べて低いことから、人工羽根の羽本体部が交錯する(人工羽根の積層状態(配置)が局所的に入替わる)ことがあった。このような交錯が発生すると、ラケットで打撃されたシャトルコックが正常に回転しなくなり、その飛翔特性が極端に悪化することになっていた。このような羽本体部の交錯などによる飛翔特性の悪化は、天然シャトルコックに比べて上述した人工シャトルコックにおいて特に顕著であった。
【0004】
そこで、本願発明者は、特開2012−205842号公報(特許文献1)において、飛翔特性の劣化を抑制するとともに高い耐久性を備えるシャトルコックを提案している。このようなシャトルコックでは、積層した羽部の間を中糸が通っているため、羽部の積層順がシャトルコックの使用中に入替わる(たとえばラケットによる打撃の衝撃によって羽部の積層順番が入替わる)といった問題の発生を抑制することができ、優れた耐久性を示している。
【0005】
また、このような中糸の質量は、約0.02gとなる。この程度の質量であれば、シャトルコック1の重心位置に若干の影響はあるものの、飛翔特性にはほとんど影響がないと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−205842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、中糸を無くすことができれば、中糸によるシャトルコックの重心位置へのわずかな影響をも抑制できる。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものである。本発明の主たる目的は、中糸を用いること無く、羽根の積層順がシャトルコックの使用中に入れ替わることを抑制することができる、シャトルコックを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るシャトルコックは、半球体状のベース体と、ベース体に接続されている複数の人工羽根とを備え、人工羽根は、羽部と、羽部に接続された軸とを含み、羽部の表面は、シャトルコックの内側を向いている第1の主面と、第1の主面の反対側に位置しシャトルコックの外側を向いている第2の主面とを有しており、表面の少なくとも羽部の積層順が入れ替わった場合に接触する表面の領域に、潤滑層が表出している。潤滑層は、一方の主面が平坦面上に固定され、全面に渡って潤滑層が形成された他方の主面が上方に向いている第1の人工羽根と、一方の主面が200gの錘の下面に固定され、全面に渡って潤滑層が形成された他の主面が下方に向いている第2の人工羽根とが、他方の主面同士が重なり、かつ第1の人工羽根と第2の人工羽根の軸が逆方向に向くように配置され、軸の延在方向に沿う方向に錘をばねばかりで引張速度10mm/秒で引っ張った時の錘の移動開始荷重が40g以下となる摺動性を有している。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、中糸を用いること無く、羽根の積層順がシャトルコックの使用中に入れ替わることを抑制することができる、シャトルコックを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施の形態に係るシャトルコックを説明するための図である。
図2図1中の線分II−IIから見た断面図である。
図3】本実施の形態に係るシャトルコックを説明するための上面図である。
図4】本実施の形態に係るシャトルコックの人工羽根を説明するための図である。
図5図4中の線分V−Vから見た断面図である。
図6図4中の線分VI−VIから見た断面図である。
図7】本実施の形態に係るシャトルコックの人工羽根の軸を説明するための図である。
図8】本実施の形態に係るシャトルコックにおける隣り合う人工羽根の位置関係を説明するための図である。
図9】本実施の形態に係るシャトルコックの人工羽根を変形例を説明するための図である。
図10】本実施の形態における潤滑層の摺動性を説明するための図である。
図11】本実施の形態における羽部の反りを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0013】
図1図3を参照して、本実施の形態に係るシャトルコック1は、半球状のベース体2と、ベース体2と接続されている複数の人工羽根3と、複数の人工羽根3を互いに固定するための固定用の紐状部材(かがり糸)14とからなる。人工羽根3の羽部5の表面の少なくとも一部には潤滑層9が形成されている。
【0014】
図2を参照して、ベース体2の固定用表面部の平面形状は円形状である。ベース体2の
固定用表面部には、その外周に沿って円環状に複数の挿入孔が形成されている。ベース体2の固定用表面部における各挿入孔の平面形状は、後述する人工羽根3の軸7を嵌め合わせることができる任意の形状として設けられており、たとえば長方形状である。ベース体2の各挿入孔の長軸方向と、当該各挿入孔が形成する円環の中心12から挿入孔の中心を通るようにベース体2の固定用表面部上に延びる半径方向Dとが成す角度θ1は、±5度以下であり、好ましくは0度(ベース体の半径方向Dと挿入孔の長軸方向とが平行)である。
【0015】
図4を参照して、人工羽根3は、羽部5と、当該羽部5に接続されている軸7とを有している。ベース体2の各挿入孔にはそれぞれ人工羽根3の軸7の根元部が差し込まれており、これにより複数(たとえば15枚)の人工羽根3は、ベース体2の固定用表面部において、当該固定用表面部の外周部に沿って中心12を囲うように円環状に配置されている。このとき、ベース体2に接続されている人工羽根3のうちの隣り合う人工羽根3は、その羽部5同士が部分的に重なるように配置されており、このようにしてベース体2と人工羽根3とが接続されてシャトルコック1は構成されている。図2を参照して、軸7の延在方向(詳細は後述する)に垂直な断面の形状は長方形状を有している。軸7の当該断面の長軸Lはベース体2の中心12から延びる半径方向Dに沿うように設けられている。
【0016】
図5を参照して、羽部5は、第1の主面(主表面5A)と、第1の主面と反対側に位置する第2の主面(主表面5B)とを有している。主表面5Aはシャトルコック1の内側を向いているのに対し、主表面5Bはシャトルコック1の外側を向いている。主表面5Aおよび主表面5Bは、羽部5において相対的に大きな面積を有する面である。上述のように、隣り合う人工羽根3はその羽部5同士が部分的に重なっているが、隣り合う人工羽根3のうちの一方の人工羽根3の主表面5Aの一部と他方の人工羽根3の主表面5Bの一部とが対向するように配置されている。また、羽部5は、軸7の延在方向に対して垂直な方向において、主表面5Aおよび主表面5Bと交差あるいは直交している2つの端面5Eを有している。
【0017】
羽部5は、主表面5Aを有する第1層としての軸固定層91と、第2層としての発泡体層92と、発泡体層92上に形成され、主表面5Bを構成する潤滑層9と、これらの発泡体層92および軸固定層91を互いに固定するための接着層93、94とを有している。このとき、軸固定層91、発泡体層92および接着層93,94は、軸7の固着軸部10を挟むように積層されている。言い換えると、軸固定層91、発泡体層92および接着層93,94は、軸7の固着軸部10の周囲を隙間無く覆うように貼り合わされている。なお、端面5Eは、軸固定層91の端面91Eや発泡体層92の端面92Eを含んでいる。
【0018】
羽部5の端面5Eおよびその近傍の領域では、軸固定層91と発泡体層92とは接着層93および接着層94を介して接着されている。また、羽部5の2つの端面5Eの間に位置する領域においては、軸固定層91と発泡体層92とは軸7の固着軸部10を挟むように積層されている。言い換えると、固着軸部10は、その全周囲が接着層93または接着層94と接着されており、接着層93,94を介して軸固定層91および発泡体層92と接続されている。羽部5において、固着軸部10と接着層93,94とが接着されている領域は、端面5E間の中心上に配置されていてもよいし、当該中心から一方の端面5E側に片寄って配置されていてもよい。
【0019】
シャトルコック1の外側に向いている羽部5の主表面5Bには、全面に渡って潤滑層9が形成されている。一方、羽部5の主表面5Aには、全面に渡って潤滑層9が形成されていない。つまり、隣り合う人工羽根3のうちの一方の人工羽根3の主表面5Aを構成している軸固定層91の一部は、他方の人工羽根3の主表面5Bを構成している潤滑層9の一部と対向するように配置されている。潤滑層9では、主表面5Bとして表出している面が摺動性を有している。潤滑層9の主表面5Bにおける摺動性は、軸固定層91の主表面5Aにおける摺動性よりも高い。なお、潤滑層9の摺動性についての詳細は後述する。
【0020】
潤滑層9は、主表面5B側において発泡体層92と隙間無く接続されている。たとえば、このとき潤滑層9と発泡体層92とは接着層などを介さずに接続されていてもよい。潤滑層9を構成する材料はたとえば発泡体層92を構成する材料と同一であり、潤滑層9と発泡体層92とはたとえば熱融着などにより接着されている。
【0021】
潤滑層9の厚み(主表面5Bに垂直な方向における幅)は、2μm以上30μm以下であればよく、好ましくは5μm以上15μm以下であり、より好ましくは8μm以上12μm以下である。つまり、潤滑層9の厚みは、軸固定層91や発泡体層92の厚みよりも薄い。
【0022】
軸固定層91、発泡体層92および潤滑層9を構成する材料は、樹脂の発泡体、より具体的にはたとえばポリエチレンフォーム(ポリエチレンの発泡体)とすることができる。また、軸固定層91についても、同様に樹脂発泡体を用いることができる。また、軸固定層91を構成する材料としては、たとえばポリエチレンフォーム以外に、樹脂などからなるフィルム、あるいは不織布など任意の材料を用いることができる。
【0023】
接着層93,94を構成する材料は、軸固定層91、発泡体層92、および固着軸部10に対して粘着性を発揮することができる限りにおいて任意の材料とすることができるが、たとえば両面テープである。
【0024】
図5に示すように、羽部5は、軸7の延在方向に対し垂直な方向において、主表面5A側に向かって凸状に形成されているのが好ましい。異なる観点からいえば、人工羽根3をベース体2の中心12側から見たときに、1つの羽部5の軸7(図4に示す固着軸部10)に対して左側に位置する領域5Lと、軸7に対して右側に位置する領域5Rとは、これらが成す角度θ4が180度よりも小さくなるように形成されているのが好ましい。ここで、角度θ4は、領域5Rにおける主表面5Aと端面5Eとの交点5EAと軸7の中心とを結ぶ線と、領域5Lにおける主表面5Aと端面5Eとの交点5EAと軸7の中心とを結ぶ線とが成す角度をいう。主表面5Aおよび主表面5Bは、軸7の延在方向に対し垂直な方向において成す線分が、それぞれ直線または1以下の曲率の曲線であって変曲点を持たないように形成されているのが好ましい。
【0025】
つまり、主表面5Aおよび主表面5Bは、単一平面からなるのではなく、単一の曲面あるいは少なくとも2つの平面が互いに所定の角度で交差している屈曲面として形成されている。このとき、羽部5において、軸固定層91および発泡体層92が固着軸部10と接着層93,94を介して接続されている領域が、その左右に位置する領域5L,5R(接着層93と接着層94とが互いに接着されている領域)よりも、主表面5A側に突出しているように形成されているのが好ましい。このとき、隣り合う人工羽根3のうちの一方の人工羽根3の領域5Lの主表面5Aが、他方の人工羽根3の領域5Rの主表面5Bの外周側に位置してこれと部分的に重なるように配置されていてもよい。
【0026】
羽部5は、軸7(固着軸部10)に対して左側に位置する領域5Lおよび右側に位置する領域5Rの主表面5A,5B上の面積が同等(軸7に対して左右対称)に設けられていてもよいし、図4に示すように主表面5A,5B上において領域5Lと領域5Rとのうちの一方が他方よりも大面積(軸7に対して左右非対称)となるように設けられていてもよい。この場合、図8を参照して、たとえば1つの羽部5の領域5Lが領域5Rよりも外周側に位置し、隣り合う人工羽根3の一方の羽部5の領域5Lが他方の羽部5の領域5Rの外周側に位置してこれと部分的に重なるように配置されている場合には、領域5Lが領域5Rよりも大面積となるように設けられているのが好ましい。逆に、1つの羽部5の領域5Rが領域5Lよりも外周側に位置し、隣り合う人工羽根3の一方の羽部5の領域5Rが他方の羽部5の領域5Lの外周側に位置してこれと部分的に重なるように配置されている場合には、領域5Rが領域5Lよりも大面積となるように設けられているのが好ましい。つまり、領域5Rと領域5Lとでより外周側に位置する方が相対的に大きな面積を有するようにしてもよい。
【0027】
このようにすれば、シャトルコック1の空気抵抗を大きくすることができ、減速性を高めて天然シャトルコックと同等程度の飛翔特性を実現することができる。実際に、風洞実験でもシャトルコック1の浮力が増すことが確認されている。また、羽部5の領域5Rと領域5Lとをいずれも大きく設けた場合には、羽部5を構成する材料が十分に軽い場合を除いてシャトルコック1の質量が増してしまう。また、シャトルコック1の外周側に位置する領域が内周側に位置する領域と比べて小さい場合には、シャトルコック1が飛翔する際の回転数がたとえば600rpm以上700rmp以下と高くなりすぎて飛翔特性が安定しないという問題が生じる。
【0028】
軸7は、羽部5から突出するように配置された羽軸部8と、羽部5に接続された固着軸部10とからなる。羽軸部8と固着軸部10とは同一線状に延びるように配置され、1つの連続した軸7を構成している。軸7の延在方向に垂直な断面の形状はたとえば長方形状であり、上述のようにベース体2に設けられた長方形状の貫通孔と嵌め合わせることができる。軸7の当該断面は、長さW1である長辺と、長さW1よりも短い長さW2である短辺とを有しており、軸7の当該断面における断面2次モーメントの最大値を与える対称軸(中立軸N)と、中立軸Nに直交して断面2次モーメントの最小値を与える対称軸(長軸L)とを有している。図5に示す軸7では、中立軸Nは長辺の垂直2等分線上に延び、長軸Lは短辺の垂直2等分線上に延びている。
【0029】
図4(b)、図6および図7を参照して、軸7は、軸7の延在方向において、羽部5の主表面5A側に向かって凸状に形成されているのが好ましい。言い換えると、軸7は、シャトルコック1における外側に向かって反った状態となるように設けられていてもよい。
【0030】
ここで、軸7の延在する方向は、以下のように規定する。すなわち、図7を参照して、軸7の断面形状における幅方向の面側から見た側面において、先端側の上端角部aと下端角部bとを結ぶ線分abの中点を点eとする。また、図7の軸7における上部表面の曲面を、軸7の根元側に延長した曲線(上部曲線)と、軸7における下部表面の曲面を、軸7
の根元側に延長した曲線(下部曲線)とを考える。そして、上記線分abと平行な線分(根元側線分)を、軸7の根元側において考える。そして、当該根元側線分と上部曲線との交点を点c、下部曲線との交点を点dとする。さらに、線分cdの中央(中点)を点fとする。そして、根元側線分の位置は、上記点eと点fとの間の距離が軸7の設計長さとなるように決定される。図7では、軸7の根元側は端部に行くほど側面の高さが小さくなる楔型の形状となっており、当該楔形の先端角部が上記点fに一致している。そして、この点eと点fとを結ぶ直線を軸7の延在方向と規定する。
【0031】
人工羽根3は、上述のように軸7がベース体2の挿入孔に挿入されることによりベース体2に接続固定されている。つまり、図2(b)を参照して、人工羽根3がベース体2に接続固定されている状態において、軸7の長軸Lとベース体2の半径方向Dとが成す角度θ1はたとえば±5度以下であり、好ましくは0度(長軸Lと半径方向Dとが平行)である。つまり、軸7の中立軸Nとベース体2の半径方向Dに垂直な接線方向Tとが成す角度
θ1がたとえば±5度以下であり、好ましくは0度である。異なる観点から言えば、中立軸Nとベース体2の半径方向Dとが成す角度θ2は、85度以上95度以下であり、好ましくは90度(中立軸Nと半径方向Dとが直交)である。
【0032】
主表面5A,5Bは、軸7の中立軸Nに対して角度θ3だけ傾いているように、固着軸部10と接続固定されている。ここで、角度θ3は、主表面5Aと両端面5Eの交点5EAを結ぶ線と中立軸Nがなす角度、または主表面5Bと両端面5Eの交点を結ぶ線と中立軸Nがなす角度をいう。
【0033】
角度θ3は、たとえば15度以上45度以下であり、好ましくは20度以上40度以下であり、より好ましくは25度以上35度以下である。異なる観点から言えば、上述のように、羽軸部8を下にしたときに、羽部5において固着軸部10に対して右側に位置する領域5Rが軸7よりも前方に突出するように設けられており、羽部5において固着軸部10に対して左側に位置する領域5Lが軸7よりも後方に突出するように設けられている。この場合、図4(a)を参照して、軸7の延在方向に垂直な断面における短辺を含む側面8bを平面視したときには、羽部5において主表面5A,5Bと交わり相対的に小さい面積を有する側面が主表面5Aと同時に確認される。一方、図4(b)を参照して、羽部5の主表面5Aを平面視したときには、軸7の延在方向に垂直な断面における長辺を含む側面8aが側面8bと同時に確認される。
【0034】
軸7を構成する材料は、たとえば一軸延伸ポリエチレンテレフタレート(超延伸材)である。他に軸7を構成する材料としては、ナイロンを用いることができ、好ましくはナイロン12、ナイロン11、ナイロン10、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン1010などを用いることができる。繊維強化のために、ナイロンにチタン酸カリウムウィスカー、ガラスなどを添加したものを用いることもできる。また、軸7を構成する材料として、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレンなども用いることができる。
【0035】
軸7を構成する材料の比重は1.5以下であることが好ましく、1.4以下であることがより好ましい。また軸7の材料の曲げ弾性率は2000MPa以上10000MPa以下が好ましい。なお、シャトルコック1の飛行特性に影響が無いような比重(質量)と曲げ弾性(軸変形)であれば上記数値範囲に限られない。
【0036】
軸7は、その断面形状における外周の幅方向の面の長さW1(図2(b)参照)が、根元部(ベース体2に接続される側の端部)から先端側に向けて徐々に小さくなっていてもよい。軸7の断面形状における外周の厚み方向の面の長さW2(図2(b)参照)は、軸7の全長にわたって一定であってもよい。また、軸7は、軸7の延在方向において、シャトルコック1の内側に向かって凸状に形成されている。言い換えると、図6図7を参照して、軸7は側面(図4(a)中の側面8a)側から見たときに一方に反ったような形状となっている。シャトルコック1においては、ベース体2から離れるにしたがって円環状に配置された人工羽根3の間の距離が徐々に広くなるように(シャトルコック1の外側に軸7が広がるように)、軸7の反りの方向(軸7が反ることで形成する凸形状の突出方向)がシャトルコック1の内周側に向くように、人工羽根3はベース体2と接続されている。
【0037】
軸7の設計長さ(図7の線分efの長さ)は、76mm以上79mm以下とすることができる。これは、財団法人日本バドミントン協会の競技規則により、羽根の長さは、先端から台の上まで(ベース体の固定用表面まで)、62mmから70mmの範囲の同じ長さでなければならない、と規定されていることに起因する。たとえば、羽根の先端から台の上まで63mm以上65mmとし、軸7の根元部においてベース体2の挿入孔に挿入される部分(埋設部)の長さを13mm以上14mm以下と考えると、上記のように軸7の設計長さは76mm以上79mm以下となる。
【0038】
図7に示した軸7における曲面(羽軸部8の側面8b)の曲率半径は、長軸Lがベース体2の半径方向Dと成す角度θ1(図2参照)を考慮して設計されるが、600mm以下とすることができ、好ましくは450mm以下とすることができる。このような設計によりシャトルコック1が飛びすぎることを防ぐことができ、天然シャトルコックの飛翔特性と乖離することを防ぐことができる。なお、軸7の上記曲面は、シャトルコック1内周側を向いた曲面と外周側を向いた曲面とを含むが、これらの曲率半径は互いに異なる値としてもよいし同じ値としてもよい。
【0039】
次に、本実施の形態に係る人工羽根3の製造方法について説明する。まず、人工羽根3を構成する各部材を準備する。具体的には、軸7、軸固定層91、発泡体層92、接着層93,94、および潤滑層9を準備する。
【0040】
軸固定層91、発泡体層92、および接着層93,94は、いずれも単一の平面状として形成されていればよい。軸7は、たとえば、軸7を構成する材料(たとえば樹脂材料)をシート状に成形した原料成形体を準備してこれを一軸延伸させた後、所定の形状に切り出すことにより形成し得る。シート状に成形した原料成形体を得る方法は、従来周知の任意の方法を用いることができるが、たとえば押出成形方法などである。また、一軸延伸させる方法は、従来周知の任意の方法を用いることができるが、たとえば引抜延伸法である。
【0041】
次に、発泡体層92と潤滑層9とを接続する。具体的には、発泡体層92の一方の面に潤滑層9を熱融着させる。熱溶着させる方法は、従来周知の任意の方法を用いることができる。このときの加熱温度は、発泡体層92および潤滑層9が溶融する任意の温度とすればよい。また、発泡体層92と潤滑層9との間に圧力を印加する場合には、任意の圧力とすればよい。これにより、接着層などを介さずに発泡体層92と潤滑層9とを隙間無く融着させることができる。
【0042】
次に、準備した各部材を貼り合わせる。具体的には、発泡体層92となるべきシート状部材において、潤滑層9が接続されていない側の表面上に接着層93となるべき両面テープを貼付する。そして、当該両面テープの上に軸7の固着軸部10を配置する。さらに、その上から、固着軸部10に対向する面に接着層94となるべき両面テープが貼付された軸固定層91となるべきシート状部材を積層配置して貼り合わせる。この結果、軸7の固着軸部10を、発泡体層92となるべきシート状部材と軸固定層91となるべきシート状部材とで挟んで固定された人工羽根3を得ることができる。
【0043】
このようにして得られた人工羽根3は、従来の周知の方法によりベース体2に組み立てられて、シャトルコック1を得ることができる。たとえば、上記のようにして得られた人工羽根3を、ベース体2に複数設けられている挿入孔に挿入して接着剤により接着させる。その後、ベース体2に取り付けられた複数の人工羽根3の軸7にかがり糸14を巻き回してもよい。このとき、たとえば軸7とかがり糸14とを接着剤により接着させてもよい。
【0044】
シャトルコック1の製造方法においては、接着剤を固化するために加熱工程が実施される。このときの加熱温度は、たとえば60℃以上90℃以下である。これにより、軸固定層91、発泡体層92、接着層93,94を構成する各材料は体積膨張(寸法変化)する。このとき、軸固定層91および発泡体層92は厚みの厚い方が高い引張伸び率を有しているため、相対的に厚みの厚い軸固定層91は当該厚みに対して垂直な方向(主表面5Aや主表面5Bに沿った方向)において、発泡体層92と比べて伸長しやすい。このため、加熱工程前には軸固定層91と発泡体層92とが主表面5Aに沿った方向において同一の幅として形成されていても、加熱工程により軸固定層91は発泡体層92よりも伸長するため、羽部5は主表面5A側に向かって凸状に形成されることになる。さらに、潤滑層9は、発泡体層92と比べて熱収縮率が高い材料で構成されているため、発泡体層92よりも寸法変化が小さい。そのため、羽部5はより主表面5A側に向かって凸状に形成されることになる。
【0045】
次に、本実施の形態に係るシャトルコック1の作用効果について説明する。シャトルコック1は、半球体状のベース体2と、ベース体2に接続されている複数の人工羽根3とを備えるシャトルコック1であって、人工羽根3は、羽部5と、羽部5に接続された軸7とを含み、羽部5の表面は、シャトルコック1の内側を向いている第1の主面(主表面5A)と、第1の主面(主表面5A)の反対側に位置しシャトルコック1の外側を向いている第2の主面(主表面5B)とを有しており、表面の少なくとも一部には潤滑層9が表出している。
【0046】
このようにすれば、隣り合う人工羽根3において一方の人工羽根3の羽部5と他方の人工羽根3の羽部5との間の積層順がシャトルコック1の使用中に入れ替わった場合にも、少なくとも一方の表面に高い摺動性を有する潤滑層9が形成されているため、当該2つの羽部5が相対的に摺動しやすい。この結果、隣り合う人工羽根3における羽部5の積層順の入れ替わりを容易に解消することができる。これにより、人工羽根3の積層順がシャトルコックの使用中に入れ替わることにより、使用を中断しなければならない事態が生じることを抑制することができる。このようなシャトルコック1は、人工羽根3の羽部5の積層順の入れ替わりを防止するために採用されていた中糸を用いる必要がない。
【0047】
特に、本実施の形態において、潤滑層9は主表面5Bの全面に渡って形成されている。そのため、隣り合う人工羽根3において一方の人工羽根3の羽部5と他方の人工羽根3の羽部5との間の積層順がシャトルコック1の使用中に入れ替わった変形状態にも、定常状態と同様に、少なくともいずれかの潤滑層9が主表面5Aを構成している軸固定層91と接触している積層構造を成していることなる。このような変形状態では、一般的に羽部5が変形状態にあることによって羽部5や軸7に生じている応力によって、隣り合う羽部5の一方の主表面5Aと他方の主表面5Bとが接触する。このとき、両主表面5A,5Bがいずれも摺動性を有していない従来のシャトルコックでは、当該変形状態にある2つの羽部5には互いに接触していることにより所定の大きさの摩擦力が生じる。そのため、当該変形状態の解消には当該摩擦力を上回る力が当該摩擦力を打ち消す方向に付与されなければならず、このような変形状態を解消して、通常の状態に回復することは困難である。これに対し、本実施の形態に係るシャトルコック1は、主表面5Bが潤滑層9で構成されているため、当該変形状態にある2つの羽部5の間には接触によっても大きな摩擦力が生じることがない。そのため、たとえば微小な力を受けることによりこのような変形状態を容易に解消して、シャトルコック1を通常の状態に回復することができる。
【0048】
また、軸7の延在方向に対し垂直な方向において、羽部5は主表面5A側に向かって凸状に形成されている。異なる観点からいえば、人工羽根3をベース体2の中心12側から見たときに1つの羽部5の軸7(図4に示す固着軸部10)に対して左側に位置する領域5Lと、軸7に対して右側に位置する領域5Rとは、これらが成す角度が180度よりも小さくなるように形成されている。このようにすれば、通常状態にあるシャトルコック1における隣り合う人工羽根3間において、一方の羽部5の主表面5Aと他方の羽部5の端面5Eとの距離D1を、羽部5が主表面5A側に向かって凸状に形成されていない場合と比べて短く設けることができる。さらにこれは、一方の端面5Eと他方の端面5Eとの距離D2を所定の長さ以上に保ちながら短くすることなく実現することができる。これにより、シャトルコック1がラケットなどによる打撃時において大きな力を受けた場合にも、一方の羽部5の端面5Eは他方の羽部5の主表面5Aとは接触するものの、当該他方の羽部5の端面5Eを乗り越えて積層順が容易に入れ替わることを抑制することができる。
【0049】
また、羽部5は、主表面5Aを有する第1層(軸固定層91)と、第1層(軸固定層91)および潤滑層9に接続されている第2層(発泡体層92)とを含み、第1層(軸固定層91)の厚みは、第2層(発泡体層92)の厚みよりも厚い。そのため、シャトルコック1の製造方法において人工羽根3を形成した後に実施される加熱工程により、発泡体層92と比べて相対的に厚みの厚い軸固定層91は当該厚みに対して垂直な方向(主表面5Aや主表面5Bに沿った方向)において伸長しやすい。このため、加熱工程前において、軸固定層91および発泡体層92が軸7(固着軸部10)の周囲に沿って隙間無く貼り合わされており、かつ軸固定層91および発泡体層92が主表面5Aに沿った方向において同一の幅として形成されていても、加熱工程によって軸固定層91は発泡体層92よりも伸長するため、羽部5は主表面5A側に向かって凸状に形成されることになる。つまり、羽部5を構成する軸固定層91および発泡体層92間で厚みに差を設けておくことにより、主表面5A側に凸状に反った羽部5を有するシャトルコック1を得ることができる。
【0050】
第2層(発泡体層92)を構成する材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、およびポリエチレンテレフタラートからなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。また、潤滑層9を構成する材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、およびポリエチレンテレフタラートからなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。このようにすれば、熱融着などの方法により、容易に発泡体層92と潤滑層9とを接着層などを用いることなく接続させることができる。接着層を用いる場合には、潤滑層9に加えて接着層の質量が人工羽根3の上方に位置する羽部5に付加されるため、シャトルコック1の重心位置が上方に移動して飛翔特性が変化してしまうおそれがある。これに対し、熱融着により発泡体層92と潤滑層9とを接続することにより、潤滑層9のみの質量増加に抑えることができ、シャトルコック1の重心位置の変化を抑えることができる。
【0051】
潤滑層9の厚みは、2μm以上30μm以下である。このようにすれば、シャトルコック1の飛翔特性や耐久性などに影響を与えることなく、中糸を用いずに羽部5の積層順がシャトルコック1の使用中に入れ替わることが抑制されたシャトルコック1を得ることができる。具体的には、潤滑層9の厚みが2μm未満である場合には、シャトルコック1の使用に際して潤滑層9の強度が不十分となる。一方、潤滑層9の厚みが30μmを超える場合には、潤滑層9の質量が大きくなるためシャトルコック1の重心位置は中糸を用いていた場合と比べて上方に移動する。そのため、シャトルコック1の飛翔特性に影響を与えるおそれがある。
【0052】
本実施の形態において、潤滑層9は主表面5B上にのみ表出しているがこれに限られるのではなく、主表面5A上にのみ表出しているように形成されていてもよい。つまり、潤滑層9は軸固定層91と接続されていてもよい。また、潤滑層9は、主表面5Aおよび主表面5Bの全面に渡って形成されていてもよい。あるいは、図9を参照して、隣り合う人工羽根3において一方の羽部5の主表面5Aと他方の羽部5の主表面5Bにおいて、互いに重なり合う領域の少なくとも一方にのみ潤滑層9が形成されていてもよい。このようにしても、本実施の形態に係るシャトルコック1と同様の効果を奏することができる。なお、図5および図6に示す羽部5ではシャトルコック1を構成した場合において発泡体層92が軸固定層91に対して外周側に位置しているが、発泡体層92が軸固定層91に対して内周側に位置するように構成されていてもよい。つまり、潤滑層9は、たとえば軸固定層91と接続されているとともに、主表面5B上に表出するように形成されていてもよい。
【0053】
なお、本実施の形態においては羽部5が軸7の中立軸Nに対して角度θ3だけ傾いて形成されているが(角度θ3が0度超えの所定の角度を有しているが)、これに限られるものではなく、角度θ3が0度であってもよい。このようにしても、羽部5の主表面5Bが潤滑層9で構成されているため、上述のような変形状態にある2つの羽部5の間には接触によっても大きな摩擦力が生じることがない。そのため、たとえば微小な力を受けることによりこのような変形状態を容易に解消して、シャトルコック1を通常の状態に回復することができる。また、軸7の延在方向に対し垂直な方向において、羽部5は主表面5A側に向かって凸状に形成されていれば、羽部5が主表面5A側に向かって凸状に形成されていない場合と比べて、通常状態にあるシャトルコック1における隣り合う人工羽根3間において一方の羽部5の主表面5Aと他方の羽部5の端面5Eとの距離D1を、短く設けることができる。これにより、シャトルコック1がラケットなどによる打撃時において大きな力を受けた場合にも、一方の羽部5の端面5Eは他方の羽部5の主表面5Aとは容易に接触するが、当該他方の羽部5の端面5Eを乗り越えて積層順が容易に入れ替わることを抑制することができる。
【0054】
また、羽部5の主表面5Aまたは主表面5Bにおいて、隣り合う人工羽根3の羽部5と通常状態では接触することはないが変形状態時において接触する領域にのみ潤滑層9が形成されていてもよい。このようにしても、当該変形状態にある2つの羽部5の間には接触によっても大きな摩擦力が生じることがないため、当該変形状態を容易に解消して、シャトルコック1を通常の状態に回復することができる。
【0055】
また、人工羽根3は、羽軸部8を下にしたときに、羽部5において固着軸部10に対して左側に位置する領域5Lが軸7よりも前方に突出するように設けられており、羽部5において固着軸部10に対して右側に位置する領域5Rが軸7よりも後方に突出するように設けられていてもよい。このような人工羽根3を備えるシャトルコック1は、隣り合う人工羽根3の一方の羽部5の領域5Lが他方の羽部5の領域5Rの内周側に位置してこれと部分的に重なるように配置されていてもよい。すわなち、隣り合う人工羽根3の一方の羽部5の主表面5Bの領域5Lと、他方の羽部5の主表面5Aの領域5Rとが対向するように配置されていてもよい。このようなシャトルコック1も、本実施の形態に係るシャトルコック1と同様の効果を奏することができる。
【0056】
次に、本実施の形態において、潤滑層9における摺動性について説明する。図10を参照して、潤滑層9の摺動性は、バネばかりを用いて2つの人工羽根3を摺動させるときの移動開始荷重を用いて評価することができる。図10(a)は潤滑層9の摺動性を評価する方法を説明するための上面図であり、図10(b)はその側面図である。
【0057】
具体的には、まず主表面5Bの全面に渡って潤滑層9が形成されている人工羽根3を2つ準備する。第1の人工羽根3の主表面5Aを台座110の平坦面110A上に両面テープ111などを介して固定する。これにより、当該第1の人工羽根3において潤滑層9が表出している主表面5Bが上方に向いている状態となる。第2の人工羽根3は、潤滑層9が表出している主表面5Bが下方に向いている状態で、当該主表面5Bが第1の人工羽根3の主表面5B上に重なるように配置する。このとき、第2の人工羽根3は、主表面5Aが錘120の下面に両面テープ111などを介して固定されている。また、第1の人工羽根3の軸7と第2の人工羽根3の軸7とは互いに逆方向に向くように配置されており、かつ、当該方向がバネばかりで後述する錘120を引っ張る方向と沿うように配置される。錘120の質量は、たとえば200gである。
【0058】
このように配置された錘120にバネばかりを接続して、2つの人工羽根3の軸7の延在方向に沿う方向Rにバネばかりで錘120を引っ張る。このときの引張速度を10mm/秒としたときの移動開始荷重を測定する。本実施の形態においては、この移動開始荷重が40g以下である場合に、摺動性を有すると定義する。つまり、潤滑層9の摺動性は、潤滑層9が互いに対向するように配置された2つの人工羽根3に対し、所定の荷重を加えながら摺動させるときの移動開始荷重が40g以下である場合をいう。
【0059】
<実施例>
本実施の形態に係る試料1〜試料3の人工羽根3と、比較例としての試料4の人工羽根について、摺動性を評価した。なお試料1〜試料4の人工羽根は、潤滑層9の構成以外は同一の構成を備えている。
【0060】
試料1は、構成材料がポリエチレンであって厚みが8μmの潤滑層9が主表面5B上に形成されている人工羽根3として準備した。試料2は、構成材料がポリエチレンであって厚みが10μmの潤滑層9が主表面5B上に形成されている人工羽根3として準備した。試料3は、構成材料がポリエチレンであって厚みが12μmの潤滑層9が主表面5B上に形成されている人工羽根3として準備した。試料4は、構成材料がポリプロブレンであって厚みが10μmの層が主表面5B上に形成されている人工羽根として準備した。
【0061】
試料1〜試料4の羽部5の主表面5Bの摺動性を、図10に示すバネばかりを用いて評価した。つまり、上記試料1〜試料4の人工羽根3をそれぞれ2組ずつ準備し、一方を台座110に両面テープ111を介して固定し、他方を錘120の下面に両面テープ111を介して固定した。
【0062】
結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
試料1は移動開始荷重が25gと小さく、高い摺動性を有していた。試料2の移動開始荷重は30gであり、試料3の移動開始荷重は40gであった。一方、試料4は移動開始荷重が50gと大きかった。シャトルコック1において人工羽根3が交錯したときに元の状態への復帰のし易さの程度(人工羽根3の交錯修正特性)は、試料1が最も高く、試料2および試料3も十分に高かった。試料1〜試料3の人工羽根3の摺動性は、使用中に互いに瞬間的に交錯した場合にも、これを修正して元の状態に容易に復帰することができる程度であった。このような試料1〜試料3の人工羽根3は、中糸を用いること無く、羽部5の積層順がシャトルコックの使用中に入れ替わることを抑制することができる。一方、試料4の摺動性は使用中に互いに瞬間的に交錯した場合にも、これを修正して元の状態に容易に復帰することができる程度ではなかった。
【0065】
次に、本実施の形態において、羽部5の反りについて説明する。図11を参照して、羽部5の反りは、軸7の延在方向に垂直な人工羽根3の断面画像を取得して画像処理を行い評価することができる。なお、図11では、軸7に対して左右対称に設けられている羽部5を有する人工羽根3を例に示しているが、軸7に対して左右非対称に設けられている羽部5を有する人工羽根3についても同様である。
【0066】
具体的には、軸7の延在方向に垂直な方向において羽部5が最大幅を示す部分で人工羽根3を当該垂直な方向に沿って切断する。これにより形成された人工羽根3の切断面を、軸7の延在方向から写真撮影する。図11(a)を参照して、得られた画像を処理し、羽部5の両端面5E上であって、かつ主表面5B上にある点a,bと、軸7に近接している領域の点cまたは点dを抽出する。次に、点cまたは点dから点aと点bとを結ぶ直線に対して下した垂線の長さL1が0mm以上である場合を、羽部5が反っていると定義する。
【0067】
または、図11(b)を参照して、得られた画像を処理し、羽部5の両端面5E上であって、かつ主表面5A上にある点e,fと、軸7に近接している領域の点gまたは点hを抽出する。次に、任意の直線に対して点eまたは点fから下した垂線の長さL2またはL4の少なくともいずれか長い方が、当該直線に対して点gまたは点hから下した垂線の長さL3よりも長い場合を、羽部5が反っていると定義してもよい。
【0068】
今回開示された実施の形態および実験例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、人工羽根を備えたシャトルコックに特に有利に適用される。
【符号の説明】
【0070】
1 シャトルコック、2 ベース体、3 人工羽根、5 羽部、5A 第1の面(主表面)、5B 第2の面(主表面)、5E,91E,92E 端面、5L,5R 領域、7 軸、8 羽軸部、8a,8b 側面、9 潤滑層、10 固着軸部、12 中心、14 かがり糸、91 軸固定層、92 発泡体層、93,94 接着層、110 台座、110A 平坦面、111 両面テープ、120 錘。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11