特許第5989084号(P5989084)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989084
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】水崩壊性複合繊維およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/14 20060101AFI20160825BHJP
   D01F 8/10 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   D01F8/14 B
   D01F8/10 C
【請求項の数】12
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-502169(P2014-502169)
(86)(22)【出願日】2013年2月21日
(86)【国際出願番号】JP2013054399
(87)【国際公開番号】WO2013129240
(87)【国際公開日】20130906
【審査請求日】2015年11月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-45707(P2012-45707)
(32)【優先日】2012年3月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三枝 孝拓
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/090657(WO,A1)
【文献】 特開2000−265333(JP,A)
【文献】 特表2002−535500(JP,A)
【文献】 特開平10−226924(JP,A)
【文献】 特開昭52−084889(JP,A)
【文献】 特表2002−500065(JP,A)
【文献】 特開2004−250853(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/070064(WO,A1)
【文献】 特開2007−119928(JP,A)
【文献】 特許第3694118(JP,B2)
【文献】 特開平09−157954(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/087813(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/038537(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00 − 8/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグリコール酸樹脂を含む相と、80℃の純水に7日間浸漬した後の質量減少率が25%以上であり且つガラス転移温度Tgが25℃以上であるその他の樹脂を含む相とを備えており、
前記2相がそれぞれ長さ方向に連続しており、
前記ポリグリコール酸樹脂を含む相により構成されている領域が面積比で50%以下である側面と、前記ポリグリコール酸樹脂を含む相により構成されている領域が面積比で50%以上である断面と、
を有する水崩壊性複合繊維。
【請求項2】
前記水崩壊性複合繊維が、芯鞘型、多芯型、サイドバイサイド型、多分割型、多層型および放射型のうちの少なくとも1種の構造を有するものある、請求項1に記載の水崩壊性複合繊維。
【請求項3】
前記その他の樹脂が、ポリ−L−乳酸、ポリ−DL−乳酸、ポリビニルアルコールおよびポリ(エチレンテレフタレート/サクシネート)からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の水崩壊性複合繊維。
【請求項4】
未延伸のものである請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の水崩壊性複合繊維。
【請求項5】
延伸されたものである請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の水崩壊性複合繊維。
【請求項6】
単糸繊度が10デニール以下である、請求項5に記載の水崩壊性複合繊維。
【請求項7】
請求項5または6に記載の水崩壊性複合繊維を切断して得られる水崩壊性複合繊維カットファイバー。
【請求項8】
石油、ガス掘削時の添加剤として使用する請求項に記載の水崩壊性複合繊維カットファイバー。
【請求項9】
ポリグリコール酸樹脂と、80℃の純水に7日間浸漬した後の質量減少率が25%以上であり且つガラス転移温度が25℃以上であるその他の樹脂とを、それぞれ溶融した状態で連続的に複合繊維用紡糸口金から吐出させて、繊維状の複合物を形成し、
該繊維状の複合物を冷却して、前記ポリグリコール酸樹脂を含む相と前記その他の樹脂を含む相とを備えており且つ該ポリグリコール酸樹脂を含む相により構成されている領域が面積比で50%以下である側面と該ポリグリコール酸樹脂を含む相により構成されている領域が面積比で50%以上である断面とを有する未延伸糸を得る、水崩壊性複合繊維の製造方法。
【請求項10】
前記繊維状の複合物を冷却する前に、紡糸口金から吐出させて形成した繊維状の複合物を、吐出させてから0.0012秒以上の間、110.5℃以上ポリグリコール酸樹脂の融点以下の温度雰囲気中に保持する、請求項に記載の水崩壊性複合繊維の製造方法。
【請求項11】
請求項または1に記載の製造方法により得られた未延伸糸を保管した後、該未延伸糸を延伸して、前記ポリグリコール酸樹脂を含む相と前記その他の樹脂を含む相とを備えており且つ該ポリグリコール酸樹脂を含む相により構成されている領域が面積比で50%以下である側面と該ポリグリコール酸樹脂を含む相により構成されている領域が面積比で50%以上である断面とを有する延伸糸を得る、水崩壊性複合繊維の製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載の製造方法により得られる延伸糸を切断して水崩壊性複合繊維カットファイバーを得る、水崩壊性複合繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水崩壊性複合繊維およびその製造方法に関し、より詳しくは、ポリグリコール酸樹脂を含有する水崩壊性複合繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリグリコール酸樹脂からなる延伸糸は、機械強度に優れており、且つ生分解性や生体吸収性を有するため、従来から医療分野などにおける手術用縫合糸として使用されている。また、ポリグリコール酸樹脂は、高温環境下のみならず低温環境下においても速い加水分解性を示すことから、ポリグリコール酸樹脂からなる繊維を石油掘削用途などに適用することも検討されている。
【0003】
従来のポリグリコール酸樹脂からなる延伸糸は、直接紡糸延伸法(Spinning Drawn Yarn(SDY法))により製造されるか、溶融状態のポリグリコール酸樹脂を紡糸口金から吐出させた後、急冷することによって未延伸糸を作製し、次いで、延伸する製造法によって製造されていた。大量生産においては後者が効率的であるが、作業環境温度や保管時の温湿度が高い場合に、ポリグリコール酸未延伸糸が膠着し、延伸時に解じょ性が悪化して延伸できないといった問題があった。
【0004】
また、このようなポリグリコール酸樹脂を用いた生分解性複合繊維として、特開2000−265333号公報(特許文献1)には、ポリグリコール酸樹脂からなる芯部とポリ(3−ヒドロキシ酪酸)類または二塩基酸とジオールとからなる脂肪族ポリエステルからなる鞘部とを備える生分解性複合繊維が開示されている。この生分解性複合繊維は、ポリグリコール酸樹脂の繊維の速い加水分解性を適度な速さに抑制するものであり、高温環境下のみならず低温環境下においても速い加水分解性が要求される石油掘削などの用途には不向きであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−265333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さらに、特許文献1に記載の生分解性複合繊維は、未延伸糸の保管時の性状が変化しやすいことから生産性が悪いという問題があった。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、高い強度を有し、高温のみならず低温においても加水分解速度が速く且つ未延伸糸の解じょ性に優れた水崩壊性の複合繊維およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリグリコール酸樹脂を含む相と加水分解速度が速いその他の樹脂を含む相とを備えている水崩壊性複合繊維において、前記その他の樹脂が所定のガラス転移温度を有しており、且つ、側面はポリグリコール酸樹脂を含む相により構成されている領域が少なく、断面はポリグリコール酸樹脂を含む相により構成されている領域が多いという繊維構造を形成することによって、未延伸糸は優れた解じょ性を示し、延伸糸は高い強度を有し且つ高温(例えば、60℃以上)のみならず低温(例えば、60℃未満)においても加水分解速度が速い水崩壊性複合繊維が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の水崩壊性複合繊維は、ポリグリコール酸樹脂を含む相と、80℃の純水に7日間浸漬した後の質量減少率が25%以上であり且つガラス転移温度Tgが25℃以上であるその他の樹脂を含む相とを備えており、
前記2相がそれぞれ長さ方向に連続しており、
前記ポリグリコール酸樹脂を含む相により構成されている領域が面積比で50%以下である側面と、前記ポリグリコール酸樹脂を含む相により構成されている領域が面積比で50%以上である断面と、
を有する、未延伸のものまたは延伸されたものである。
【0010】
このような水崩壊性複合繊維において、繊維構造としては、芯鞘型、多芯型、サイドバイサイド型、多分割型、多層型および放射型のうちの少なくとも1種が好ましく、前記その他の樹脂としては、ポリ−L−乳酸、ポリ−DL−乳酸、ポリビニルアルコールおよびポリ(エチレンテレフタレート/サクシネート)からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、単糸繊度としては10デニール以下が好ましい。
【0011】
また、本発明の水崩壊性複合繊維から前記ポリグリコール酸樹脂および前記その他の樹脂のうちのいずれか一方を除去することによって、中空繊維、極細繊維などの様々な構造の繊維を得ることができ、また、本発明の水崩壊性複合繊維を切断することによって水崩壊性複合繊維カットファイバーを得ることもできる。この水崩壊性複合繊維カットファイバーは、石油、ガス掘削時の添加剤として好適に使用することができる。
【0012】
本発明の水崩壊性複合繊維の製造方法は、ポリグリコール酸樹脂と、80℃の純水に7日間浸漬した後の質量減少率が25%以上であり且つガラス転移温度が25℃以上であるその他の樹脂とを、それぞれ溶融した状態で連続的に複合繊維用紡糸口金から吐出させて、繊維状の複合物を形成し、
該繊維状の複合物を冷却して、前記ポリグリコール酸樹脂を含む相と前記その他の樹脂を含む相とを備えており且つ該ポリグリコール酸樹脂を含む相により構成されている領域が面積比で50%以下である側面と該ポリグリコール酸樹脂を含む相により構成されている領域が面積比で50%以上である断面とを有する未延伸糸を得る方法である。
【0013】
また、本発明の水崩壊性複合繊維の製造方法においては、得られた未延伸糸を保管した後、該未延伸糸を延伸して、前記ポリグリコール酸樹脂を含む相と前記その他の樹脂を含む相とを備えており且つ該ポリグリコール酸樹脂を含む相により構成されている領域が面積比で50%以下である側面と該ポリグリコール酸樹脂を含む相により構成されている領域が面積比で50%以上である断面とを有する延伸糸を得ることが可能となる。
【0014】
さらに、本発明の水崩壊性複合繊維の製造方法においては、前記繊維状の複合物を冷却することによって未延伸糸が得られるが、前記繊維上の複合物を冷却する前に、紡糸口金から吐出させて形成した繊維状の複合物を、吐出させてから0.0012秒以上の間、110.5℃以上ポリグリコール酸樹脂の融点以下の温度雰囲気中に保持することがより好ましい。
【0015】
なお、本発明において、未延伸糸の「解じょ」とは、未延伸糸を延伸できるように解くことを意味し、具体的には、ボビンなどに巻き取られたり、ケンスに収納された未延伸糸を、延伸できる単位(例えば、1本ずつ)に解くことを意味する。また、本発明においては、前記未延伸糸、前記延伸糸、および前記カットファイバーをまとめて「水崩壊性複合繊維」ともいう。
【0016】
また、本発明の水崩壊性複合繊維の未延伸糸が膠着しにくくなる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、ポリグリコール酸樹脂の未延伸糸は紡糸時の油剤塗布時や保管時に吸水する。この吸水したポリグリコール酸樹脂の未延伸糸のTgは保管時に経時的に低下する傾向にあり、その傾向は保管温度が高くなるにつれて大きくなる。そして、Tgが保管温度付近まで低下した未延伸糸は表面性や形状などが変化しやすく、単糸同士が膠着すると推察される。
【0017】
一方、本発明にかかるその他の樹脂は、ポリグリコール酸樹脂に比べて、紡糸時や保管時の吸水による影響がTgの経時的な変化に作用しにくいと推察される。さらに、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリ(エチレンテレフタレート/サクシネート)は、ポリグリコール酸樹脂より高いTgを有しているため、ポリグリコール酸樹脂の未延伸糸が膠着する温度で保管しても膠着が起こりにくいと推察される。
【0018】
したがって、本発明の水崩壊性複合繊維においては、このような吸水による影響が低く、Tgがポリグリコール酸より高い樹脂によって側面の多くの領域が構成されているため、その機能がポリグリコール酸樹脂のTgに十分に作用し、ポリグリコール酸樹脂のTgの経時的な低下が抑制され、その結果、未延伸糸の表面性や形状などの変化が抑制されて膠着が起こりにくくなると推察される。
【0019】
これに対して、ポリヒドロキシブチレート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトンなどの多くの生分解性樹脂は、Tgがポリグリコール酸樹脂より著しく低いため、ポリグリコール酸樹脂よりも、未延伸糸は性状が変化しやすいと推察される。このため、ポリヒドロキシブチレートなどのTgが低い生分解性樹脂とポリグリコール酸樹脂との複合繊維を形成しても、未延伸糸の膠着は改善しないと推察される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高い強度を有し、高温のみならず低温においても加水分解速度が速く且つ未延伸糸の解じょ性に優れた水崩壊性の複合繊維を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A】本発明の同心芯鞘型の水崩壊性複合繊維の構造の好適な一実施態様を示す模式図である。
図1B】本発明の偏心芯鞘型の水崩壊性複合繊維の構造の好適な一実施態様を示す模式図である。
図1C】本発明の多芯型の水崩壊性複合繊維の構造の好適な一実施態様を示す模式図である。
図1D】本発明のサイドバイサイド型の水崩壊性複合繊維の構造の好適な一実施態様を示す模式図である。
図1E】本発明の多分割型の水崩壊性複合繊維の構造の好適な一実施態様を示す模式図である。
図1F】本発明の多層型の水崩壊性複合繊維の構造の好適な一実施態様を示す模式図である。
図1G】本発明の放射型の水崩壊性複合繊維の構造の好適な一実施態様を示す模式図である。
図2】実施例および比較例で使用した溶融紡糸装置を示す概略図である。
図3】実施例および比較例で使用した延伸装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0023】
本発明の水崩壊性複合繊維は、ポリグリコール酸樹脂を含む相と、加水分解速度が速く且つ所定のガラス転移温度を有するその他の樹脂を含む相とを備えるものである。先ず、本発明に用いられるポリグリコール酸樹脂および前記その他の樹脂について説明する。
【0024】
(ポリグリコール酸樹脂)
本発明に用いられるポリグリコール酸樹脂(以下、「PGA樹脂」と略す。)は、下記式(1):
−[O−CH−C(=O)]− (1)
で表されるグリコール酸繰り返し単位のみからなるグリコール酸の単独重合体(グリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリドの開環重合体を含む。)である。
【0025】
このようなPGA単独重合体は、グリコール酸の脱水重縮合、グリコール酸アルキルエステルの脱アルコール重縮合、グリコリドの開環重合などにより合成することができ、中でも、グリコリドの開環重合により合成することが好ましい。なお、このような開環重合は塊状重合および溶液重合のいずれでも行うことができる。
【0026】
前記PGA樹脂をグリコリドの開環重合によって製造する場合に使用する触媒としては、ハロゲン化スズ、有機カルボン酸スズなどのスズ系化合物;アルコキシチタネートなどのチタン系化合物;アルコキシアルミニウムなどのアルミニウム系化合物;ジルコニウムアセチルアセトンなどのジルコニウム系化合物;ハロゲン化アンチモン、酸化アンチモンなどのアンチモン系化合物といった公知の開環重合触媒が挙げられる。
【0027】
前記PGA樹脂は従来公知の重合方法により製造することができるが、その重合温度としては、120〜300℃が好ましく、130〜250℃がより好ましく、140〜220℃が特に好ましい。重合温度が前記下限未満になると重合が十分に進行しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると生成した樹脂が熱分解する傾向にある。
【0028】
また、前記PGA樹脂の重合時間としては、2分間〜50時間が好ましく、3分間〜30時間がより好ましく、5分間〜18時間が特に好ましい。重合時間が前記下限未満になると重合が十分に進行しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると生成した樹脂が着色する傾向にある。
【0029】
このようなPGA樹脂の重量平均分子量としては、5万〜80万が好ましく、8万〜50万がより好ましい。PGA樹脂の重量平均分子量が前記下限未満になると、得られる複合繊維の機械的強度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、溶融状態のPGA樹脂を吐出させることが困難となる傾向にある。なお、前記重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定したポリメチルメタクリレート換算値である。
【0030】
また、前記PGA樹脂の溶融粘度(温度:240℃、剪断速度:122sec−1)としては、1〜10000Pa・sが好ましく、100〜6000Pa・sがより好ましく、300〜4000Pa・sが特に好ましい。溶融粘度が前記下限未満になると、紡糸性が低下し、部分的に糸切れする傾向にあり、他方、前記上限を超えると、溶融状態のPGA樹脂を吐出させることが困難となる傾向にある。
【0031】
本発明においては、このようなPGA樹脂を単独で使用してもよいし、必要に応じて熱安定剤、末端封止剤、可塑剤、紫外線吸収剤などの各種添加剤や他の熱可塑性樹脂を添加してもよい。
【0032】
(その他の樹脂)
本発明に用いられるその他の樹脂は、ポリグリコール酸樹脂以外の樹脂であって、80℃の純水に7日間浸漬した後の質量減少率が25%以上であり且つガラス転移温度Tgが25℃以上の樹脂である。
【0033】
本発明において、前記質量減少率が25%未満になると、得られる複合繊維の加水分解速度が遅くなる。したがって、複合繊維の加水分解速度がより速くなるという観点から、前記質量減少率としては、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。なお、本発明に用いられるその他の樹脂は、前記の条件ですべて加水分解されてもよく、この場合の質量減少率は100%である。
【0034】
また、前記その他の樹脂のガラス転移温度が25℃未満になると、得られる未延伸糸の取り扱いが困難になり、主に保管中に膠着が発生し、解じょ性が低下する。また、本発明の複合繊維において未延伸糸がより確実に優れた解じょ性を示すという観点から、前記その他の樹脂のガラス転移温度としては、45℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、55℃以上が特に好ましい。なお、前記その他の樹脂のガラス転移温度の上限としては特に制限はないが、ポリグリコール酸を含む複合繊維を延伸する観点から、150℃以下が好ましい。
【0035】
このような加水分解速度が速く且つ所定のガラス転移温度を有するその他の樹脂としては、ポリ−L−乳酸(L−乳酸の単独重合体(L−乳酸の2分子間環状エステルであるL−ラクチドの開環重合体を含む)。以下、「PLLA樹脂」と略す。)、ポリ−DL−乳酸(D−乳酸とL−乳酸の共重合体(D−乳酸とL−乳酸の2分子間環状エステルであるD/L−ラクチドの開環重合体を含む)。以下、「PDLLA樹脂」と略す。)、ポリ(L−乳酸−co−ε−カプロラクトン)(L−乳酸とε−カプロラクトンとの共重合体。以下、「PLLC」と略す。)、ポリビニルアルコール(以下、「PVA樹脂」と略す。)、ポリ(エチレンテレフタレート/サクシネート)(エチレングリコールとテレフタル酸とコハク酸との共重合体。以下、「PETS」と略す。)などが挙げられる。
【0036】
前記その他の樹脂の重量平均分子量としては特に制限はなく、樹脂の種類に応じて適宜設定されるものであるが、例えば、紡糸性の観点から、PLLA樹脂の場合には、7万〜50万が好ましい。なお、前記重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定したポリメチルメタクリレート換算値である。
【0037】
また、前記その他の樹脂の溶融粘度は特に制限はなく、樹脂の種類に応じて適宜設定されるものであるが、1〜10000Pa・sが好ましく、100〜6000Pa・sがより好ましく、300〜4000Pa・sが好ましい。
【0038】
<水崩壊性複合繊維>
次に、本発明の水崩壊性複合繊維について説明する。本発明の水崩壊性複合繊維は、PGA樹脂を含む相(以下、「PGA樹脂相」という。)と前記その他の樹脂を含む相(以下、「その他の樹脂相」という。)とを備えており、これら2相が繊維の長さ方向に連続しており、PGA樹脂相により構成されている領域が面積比で50%以下である側面とPGA樹脂相により構成されている領域が面積比で50%以上である断面とを有する未延伸糸または延伸糸である。
【0039】
本発明の水崩壊性複合繊維の側面において、PGA樹脂相により構成されている領域は面積比で50%以下である。側面においてPGA樹脂相により構成されている領域の面積比が50%を超えると、未延伸糸は膠着しやすく、保管後の解じょ性、特に、高温高湿(例えば、温度40℃、相対湿度80%RH)下での保管後の解じょ性が低下する。したがって、未延伸糸の解じょ性が向上するという観点から、側面におけるPGA樹脂相により構成されている領域の面積比としては、40%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、15%以下がさらに好ましく、10%以下が特に好ましい。また、PGA樹脂相により構成されている領域は、本発明の水崩壊性複合繊維の側面に露出していないことが特に好ましいため、その面積比の下限としては0%以上が特に好ましい。
【0040】
一方、本発明の水崩壊性複合繊維の断面において、PGA樹脂相により構成されている領域は面積比で50%以上である。断面においてPGA樹脂相により構成されている領域の面積比が50%未満になると、PGA樹脂の特性が十分に発現せず、繊維の強度が低下する。また、前記その他の樹脂の割合が多くなると、前記その他の樹脂の前記質量減少率が前記範囲内であってもPGA樹脂に比べて低い場合には、複合繊維の加水分解速度が低下する。一方、前記その他の樹脂の前記質量減少率がPGA樹脂に比べて高い場合には、複合繊維の加水分解速度は低下しないため問題にならない。したがって、複合繊維の強度が高く、加水分解速度がさらに速くなるという観点から、断面におけるPGA樹脂相により構成されている領域の面積比としては、55%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましく、99%以上が最も好ましい。なお、断面におけるPGA樹脂相により構成されている領域の面積比の上限としては特に制限はないが、99.5%以下が好ましい。
【0041】
このように、本発明の水崩壊性複合繊維は、PGA樹脂と加水分解速度が速く且つ所定のガラス転移温度を有するその他の樹脂とによって特定の繊維構造が形成されているため、未延伸糸が膠着しにくく、保管後の解じょ性、特に、高温高湿(例えば、温度40℃、相対湿度80%RH)下での保管後の解じょ性に優れており、ボビンなどに巻き取って保管したり、ケンスに収納して保管したりしても、延伸糸を製造する際には、容易に解じょすることができる。したがって、未延伸糸を大量に生産して保管することができ、さらに安定して供給することが可能であるため、延伸糸の生産調整が可能となる。また、低温保管の必要がないため、延伸糸生産における生産コスト(保管コスト)の削減を図ることが可能となる。
【0042】
本発明の水崩壊性複合繊維の具体的な繊維構造としては、例えば、同心芯鞘型構造(図1A参照)、偏心芯鞘型構造(図1B参照)、多芯型構造(図1C参照)、サイドバイサイド型構造(図1D参照)、多分割型構造(図1E参照)、多層型構造(図1F参照)、放射型構造(図1G参照)、およびこれらの2種以上が複合した構造などが挙げられる。なお、図1A〜1G中、左図は複合繊維の断面、右図は側面の模式図である。また、図1A〜1G中のAはPGA樹脂相を表し、Bは前記その他の樹脂相を表す。これらの繊維構造のうち、未延伸糸の解じょ性が優れており、延伸糸の強度が高く、高温のみならず低温においても加水分解速度が速いという観点から、同心芯鞘型構造、偏心芯鞘型構造、多芯型構造が好ましい。
【0043】
このような本発明の水崩壊性複合繊維のうち、未延伸糸については、保管後の引張伸度は150%以上であることが好ましく、250%以上であることがより好ましい。引張伸度が前記下限未満になると、低単糸繊度で高伸度の延伸糸が得られにくい傾向にある。
【0044】
また、前記未延伸糸が引張伸度が高いものであり、比較的高い延伸倍率で延伸することが可能であるため、これを延伸してなる延伸糸は、単糸繊度が10デニール以下(好ましくは、5デニール以下)と低く、引張強度が5.0gf/デニール以上(好ましくは6.0gf/デニール以上、より好ましくは7.0gf/デニール以上)と高く、引張伸度が20%以上(好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上)と高いものとなる傾向にある。このような低い単糸繊度で高強度且つ高伸度の水崩壊性複合繊維を用いることによって、高強度、高伸度、易水崩壊性を有する、新たな繊維製品の設計が可能となる。なお、単糸繊度の下限としては特に制限はないが、1デニール以上が好ましい。
【0045】
<水崩壊性複合繊維の製造方法>
次に、図面を参照しながら、本発明の水崩壊性複合繊維の製造方法の好適な実施形態について説明するが、本発明の水崩壊性複合繊維の製造方法は前記図面に限定されるものではない。なお、以下の説明および図面中、同一または相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0046】
本発明の水崩壊性複合繊維の製造方法においては、先ず、溶融状態のPGA樹脂および溶融状態の前記その他の樹脂を複合繊維用紡糸口金から連続的に吐出させて、繊維状の複合物を形成する(吐出工程)。このとき、得られた繊維状の複合物を、必要に応じて、吐出させてから所定時間、所定の温度雰囲気中に保持してもよい(保温工程)。その後、この繊維状の複合物を冷却して未延伸糸を得る(冷却工程)。また、本発明の水崩壊性複合繊維の製造方法においては、この未延伸糸を大量生産して保管し(保管工程)、必要に応じて延伸処理を施して延伸糸を得る(延伸工程)ことも可能である。
【0047】
溶融状態のPGA樹脂および前記その他の樹脂は、押出機などを用いて溶融混練することによって調製することができる。例えば、図2に示す溶融紡糸装置を用いて未延伸糸を製造する場合、ペレット状などのPGA樹脂および前記その他の樹脂を原料ホッパー1aおよび1bから押出機2aおよび2bにそれぞれ独立に投入してPGA樹脂および前記その他の樹脂を溶融混練する。
【0048】
PGA樹脂の溶融温度としては、200〜300℃が好ましく、210〜270℃がより好ましい。PGA樹脂の溶融温度が前記下限未満になると、PGA樹脂の流動性が低下し、PGA樹脂が紡糸口金から吐出されず、繊維状の複合物の形成が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、PGA樹脂が着色したり、熱分解したりする傾向にある。
【0049】
また、前記その他の樹脂の溶融温度としては特に制限はなく、樹脂の種類に応じて適宜設定されるものであるが、例えば、PLLA樹脂(Nature Works社製 4032D)を用いた場合、PLLA樹脂の熱分解性の観点から、170〜280℃が好ましく、210〜240℃がより好ましい。
【0050】
このような溶融混練においては、押出機以外にも撹拌機や連続混練機などを用いることができるが、短時間での処理が可能であり、その後の吐出工程への円滑な移行が可能であるという観点から押出機を用いることが好ましい。
【0051】
(吐出工程)
本発明にかかる吐出工程においては、上記のようにして調製した溶融状態のPGA樹脂および前記その他の樹脂を、溶融状態のPGA樹脂を含む相(以下、「溶融PGA樹脂相」という。)と溶融状態の前記その他の樹脂を含む相(以下、「溶融その他の樹脂相」という。)とを備えており且つ溶融PGA樹脂相により構成されている領域が面積比で50%以下(好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは15%以下、特に好ましくは10%以下)である側面と溶融PGA樹脂相により構成されている領域が面積比で50%以上(好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上、最も好ましくは99%以上)である断面とを有する繊維状の複合物が形成されるように、溶融特性などの樹脂物性に応じて吐出速度などの操作条件を適宜設定して複合繊維用紡糸口金から吐出させる。例えば、図2に示す溶融紡糸装置においては、溶融状態のPGA樹脂を押出機2aからギアポンプ3aを用いて定量しながら紡糸口金4に移送し、また、溶融状態の前記その他の樹脂を押出機2bからギアポンプ3bを用いて定量しながら紡糸口金4に移送し、紡糸口金4の穴からPGA樹脂と前記その他の樹脂とを非相溶状態で吐出させ、前記断面と前記側面とを有する繊維状の複合物を形成させる。
【0052】
紡糸口金4としては、前記断面と前記側面とを有する繊維状の複合物を形成できるものであれば、従来公知の複合繊維用紡糸口金を使用することができる。例えば、1つの穴について溶融状態のPGA樹脂が吐出される領域が面積比で50%以上(好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上、最も好ましくは99%以上)を占めるものであれば、同心芯鞘型、偏心芯鞘型、多芯型、サイドバイサイド型、多分割型、多層型、放射型、およびこれらの2種以上の複合型などの複合繊維用紡糸口金を使用することができる。また、本発明においては、このような複合繊維用紡糸口金の穴数、穴径は特に制限されない。
【0053】
溶融状態のPGA樹脂および前記その他の樹脂の吐出温度、すなわち、溶融状態の複合物の吐出温度(紡糸口金温度)としては、210〜280℃が好ましく、235〜268℃がより好ましい。吐出温度が前記下限未満になると、PGA樹脂の流動性が低下し、これらの樹脂が紡糸口金から吐出されず、前記繊維状の複合物の形成が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、熱分解しやすい傾向にある。
【0054】
(保温工程)
本発明の水崩壊性複合繊維の製造方法においては、必要に応じて、前記繊維状の複合物を、吐出させてから0.0012秒以上(より好ましくは、0.0015秒以上)の間、110.5℃以上PGA樹脂の融点以下の温度雰囲気中に保持することが好ましい。これにより、延伸糸の単糸繊度が低くなり、引張強度がさらに高い複合繊維が得られる傾向にある。一方、紡糸口金から吐出された繊維状の複合物が吐出後直ぐにPGA樹脂の融点を超える温度雰囲気中に保持された場合には、繊維状の複合物が引き取られるまでの間に部分的に糸切れしやすく、生産性に欠ける傾向にある。また、保持時間の上限としては特に制限はないが、曳糸性の観点から、0.9秒以下が好ましく、0.09秒以下がより好ましい。
【0055】
保持方法としては特に制限はないが、通常、前記繊維状の複合物を、所定の時間をかけて前記温度雰囲気中を通過させることによって保持することができる。本発明にかかる温度雰囲気の形成方法としては、繊維状の複合物が紡糸口金から吐出した後、直ぐに前記温度雰囲気中に保持される限りにおいて特に制限はなく、加熱機能を有している保温筒(以下、「加熱マントル」と表記する。)を用いて形成することができる。例えば、図2に示す溶融紡糸装置においては、紡糸口金4の直下(吐出口)に加熱マントル5を装着し、必要に応じて加熱マントル内を加熱して本発明にかかる温度雰囲気を形成させる。また、前記保持時間は、この加熱マントルの長さを変更したり、加熱マントルの設定温度を変更したりして本発明にかかる温度雰囲気の領域(特に、繊維状複合物の移送方向の長さ)を変更したり、樹脂の吐出量や紡糸速度(引取速度)を変更することによって調整することができる。
【0056】
本発明にかかる温度雰囲気においては、温度は必ずしも一定である必要はなく、温度分布が存在していてもよい。例えば、図2に示す溶融紡糸装置において、加熱マントル内に、110.5℃以上PGA樹脂の融点以下の温度雰囲気が形成されていれば、加熱マントル内には温度分布が存在していてもよい。このような加熱マントル内の温度(温度分布)は赤外線レーザー温度計などを用いて測定することができ、これにより、本発明にかかる温度雰囲気が加熱マントル内に形成されていることが確認できる。
【0057】
このような本発明にかかる温度雰囲気の形成方法の一例としては、加熱マントル内の最高温度がPGA樹脂の融点以下であり且つ加熱マントルの出口付近の温度が110.5℃以上となるように加熱マントル内を加熱する方法が挙げられる。なお、本発明の水崩壊性複合繊維の製造方法においては、加熱マントルの出口付近の温度を必ずしも110.5℃以上とする必要はなく、繊維状の複合物を本発明にかかる温度雰囲気に所定の時間保持できる限り、加熱マントルの出口付近の温度が100℃以下となっていてもよい。
【0058】
加熱マントルの設定温度としては、本発明にかかる温度雰囲気が形成される限り、特に制限はないが、例えば、加熱マントルの温度を100℃に設定すると、繊維状の複合物の移送方向に温度が低下する温度分布が形成されるため、紡糸口金出口から加熱マントルの出口付近までの間に、110.5℃以上の温度雰囲気を形成することができない。このため、通常、加熱マントルの温度は110℃以上(より好ましくは120℃以上)に設定することが好ましい。
【0059】
本発明にかかる保温工程においては、通常、前記吐出工程で形成された繊維状の複合物を引き取りながら、本発明にかかる温度雰囲気中に保持する。繊維状の複合物の引取速度(紡糸速度)としては特に制限はないが、未延伸糸を構成する単糸(以下、「未延伸単糸」という。)の単位長さ当たりの質量が6×10−4g/m以上(より好ましくは13×10−4g/m以上)となるような引取速度で、前記繊維状の複合物を引き取ることが特に好ましい。これにより、引張強度がさらに高い複合繊維が得られる傾向にある。なお、未延伸単糸の単位長さ当たりの質量は、紡糸口金の穴径、紡糸口金の1穴当たりの吐出量などによっても変化するため、これらを勘案して所望の未延伸単糸の単位長さ当たりの質量となるように引取速度を設定する。
【0060】
(冷却工程)
次に、得られた繊維状の複合物を冷却して、PGA樹脂相と前記その他の樹脂相とを備えており且つPGA樹脂相により構成されている領域が面積比で50%以下(好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは15%以下、特に好ましくは10%以下)である側面とPGA樹脂相により構成されている領域が面積比で50%以上(好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上、最も好ましくは99%以上)である断面とを有する未延伸糸を得る。通常、この冷却処理は、前記繊維状の複合物を引き取りながら行われる。また、繊維状の複合物の冷却方法としては特に制限はないが、簡便な点で空冷が好ましい。
【0061】
この冷却工程においては、未延伸単糸の単位長さ当たりの質量が6×10−4g/m以上(より好ましくは13×10−4g/m以上)となるように、繊維状の複合物を引き取ることが特に好ましい。これにより、引張強度がさらに高い複合繊維が得られる傾向にある。
【0062】
このようにして冷却された未延伸糸は、未延伸糸の解じょ性をより向上させるために必要に応じて繊維用油剤を塗布した後、ローラーなどで引き取ってボビンなどに巻き取られたり、ケンスに収納される。例えば、図2に示す溶融紡糸装置においては、油剤塗布装置6において繊維用油剤を塗布した後、引き取りローラー7〜13で引き取って未延伸糸用ボビン14に巻き取る。
【0063】
(保管工程)
本発明の水崩壊性複合繊維は、未延伸糸の解じょ性に優れているため、ボビンなどに巻き取ったり、ケンスに収納して保管することが可能である。これにより、未延伸糸を大量に生産して保管することができ、さらに安定して供給することが可能であるため、延伸糸の生産調整が可能となる。
【0064】
保管温度としては特に制限はないが、25〜40℃において安定して未延伸糸を保管することが可能となる。前記下限未満の温度で保管する場合には冷却装置が必要となるため、経済的には好ましくない。すなわち、本発明の水崩壊性複合繊維の製造方法においては、低温保管の必要がないため、延伸糸生産における生産コスト(保管コスト)の削減を図ることが可能となる。他方、前記上限を超える温度で保管すると、未延伸糸のPGA樹脂のTgの経時的な低下が短時間で発生し、PGA樹脂が複合繊維の側面に露出している場合には、系未延伸糸の膠着が発生する場合があるので好ましくない。
【0065】
本発明の水崩壊性複合繊維の製造方法における保管時間としては特に制限はないが、例えば、温度30℃、相対湿度80%RHの環境下においても24時間以上保管することが可能である。
【0066】
(延伸工程)
本発明の水崩壊性複合繊維においては、未延伸糸の解じょ性が優れているため、上記のようにボビンなどに巻き取ったり、ケンスに収納して保管している未延伸糸を、解じょしながら引き出した後、延伸することが可能である。これにより、PGA樹脂相と前記その他の樹脂相とを備えており且つPGA樹脂相により構成されている領域が面積比で50%以下(好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは15%以下、特に好ましくは10%以下)である側面とPGA樹脂相により構成されている領域が面積比で50%以上(好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上、最も好ましくは99%以上)である断面とを有する延伸糸を得ることができる。
【0067】
本発明の水崩壊性複合繊維の製造方法においては、延伸温度および延伸倍率は特に制限されず、所望の複合繊維の物性などに応じて適宜設定することができるが、例えば、延伸温度としては40〜120℃が好ましく、延伸倍率としては2.0〜6.0が好ましい。また、延伸方法としては特に制限はなく、従来公知の繊維の延伸方法を採用することができる。例えば、図3に示す延伸装置を用いて未延伸糸を延伸する場合においては、ボビン14からフィードローラー21を介して未延伸糸を引き出し、ローラー22〜23を用いて未延伸糸を延伸して、得られた延伸糸をボビン25に巻き取る。
【0068】
このようにして得られた延伸糸は、そのまま長繊維として使用してもよいし、切断してカットファイバーにすることもできる。切断方法としては特に制限はなく、公知のカットファイバーの製造方法で用いられる切断方法を採用することができる。
【0069】
また、本発明の水崩壊性複合繊維(特に、延伸糸)中のPGA樹脂および前記その他の樹脂のいずれか一方を除去することによって、複合繊維の構造に応じて様々な構造の繊維を得ることもでき、これを切断してカットファイバーにすることもできる。例えば、同心芯鞘型(図1A)、偏心芯鞘型(図1B)および多芯型(図1C)の水崩壊性複合繊維からは、PGA樹脂を除去することによって中空繊維を得ることができる。一方、前記その他の樹脂を除去することによって、本発明の水崩壊性複合繊維よりも繊維径が小さいPGA樹脂単繊維を得ることができる。また、サイドバイサイド型(図1D)の水崩壊性複合繊維からは断面が半円のPGA樹脂または前記その他の樹脂の単繊維を、多分割型(図1E)の水崩壊性複合繊維からは断面が扇型のPGA樹脂または前記その他の樹脂の単繊維を、多層型(図1F)の水崩壊性複合繊維からは断面が扁平状のPGA樹脂または前記その他の樹脂の単繊維を、放射型(図1G)の水崩壊性複合繊維からは、前記その他の樹脂を除去することによって、断面が放射状のPGA樹脂単繊維を得ることができる。
【0070】
本発明の水崩壊性複合繊維から樹脂を除去する方法としては、PGA樹脂相と前記その他の樹脂層とを剥離により分離する方法、PGA樹脂および前記その他の樹脂の一方に対して良溶媒、他方に対して貧溶媒となる溶媒に水崩壊性複合繊維を浸漬して一方の樹脂を溶解させる方法などが挙げられる。溶解法に用いる溶媒としては特に制限はない。
【実施例】
【0071】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、樹脂の物性ならびに未延伸糸及び延伸糸の特性は以下の方法により測定した。
【0072】
<ガラス転移温度>
樹脂ペレット(径3mmφ×長さ3mm)をニッパーで適当な大きさにカットして10mgを容量160μlのアルミパンに秤量し、これを示差走査熱量測定装置(メトラー・トレド(株)製「DSC−15」)に装着して、−50℃から280℃まで20℃/分で加熱し、得られたDSC曲線からガラス転移温度Tg(単位:℃)を算出した。その結果を表1に示す。
【0073】
<質量減少率>
樹脂ペレット(径3mmφ×長さ3mm)2gを純水100mlに浸漬し、80℃で7日間保持した。保持後の樹脂ペレットの質量を測定し、80℃の純水に7日間浸漬した後の質量減少率を求めた。その結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
<解じょ性>
未延伸糸を巻きつけたボビンを図3に示す延伸装置に装着し、未延伸糸を解じょしてボビン14からフィードローラー21を介して温度65℃、周速100m/分の第1加熱ローラー22で引き出し、第2〜第3加熱ローラー23〜24を介してボビン25に巻き取った。このときの未延伸糸の解じょ性を以下の基準で判定した。
A:糸切れは観察されず、解じょ性は均一且つ良好であった。
B:糸切れは観察されなかったが、糸同士が密着し、解じょ性に部分的なムラがあった。
C:糸切れが多発し、未延伸糸を解じょして延伸することは困難であった。
【0076】
<単糸繊度>
未延伸糸90mを枠周1mの巻返し機にかせ上げし、絶乾質量Mを測定し、次式により単糸繊度を算出した。
単糸繊度(デニール)=100×M/H
ここで、Mは延伸糸の絶乾質量(g)、Hは紡糸口金の穴数(=24穴)を示す。
【0077】
<引張強度および引張伸度>
タイヤコード用引っ掛けチャックを備えた精密万能試験機((株)島津製作所製「オートグラフ」)に、長さ150mmの未延伸糸または長さ250mmの延伸糸を装着し、クロスヘッド速度250mm/分で引張試験を行い、糸が破断したときの強度および伸度を測定した。この測定を5本の延伸糸について行い、その平均値を引張強度および引張伸度とした。なお、測定環境は温度23℃、相対湿度50%RHに管理した。
【0078】
<水崩壊性>
延伸糸2gを純水100mlに浸漬し、40℃または80℃で3日間保持した。保持後の延伸糸の質量を測定し、40℃または80℃の純水に3日間浸漬した後の質量減少率を求めた。
【0079】
(実施例1)
<PGA/PLLA複合未延伸糸の製造>
図2に示す溶融紡糸装置を用いて、PGA/PLLA複合未延伸糸を作製した。前記溶融紡糸装置の複合繊維用紡糸口金4の直下には、長さ150mm、内径100mmの温度制御可能な加熱マントル5を装着した。なお、以下の説明および図面中、同一または相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0080】
先ず、ペレット状のPGA樹脂((株)クレハ製、重量平均分子量:20万、メルトフローレート(MFR、温度240℃):10g/10分、ガラス転移温度:43℃、融点:220℃、サイズ:径3mmφ×長さ3mm)を、原料ホッパー1aから一軸押出機2a((株)プラ技研製、シリンダー径:30mmφ、L/D=24)に投入し、210〜250℃で溶融させた。なお、前記押出機2aのシリンダー温度は215〜250℃、アダプタ温度、ギアポンプ温度およびスピンパック温度は250℃に設定した。
【0081】
一方、ペレット状のPLLA樹脂(Nature Works社製「4032D」、メルトフローレート(MFR、温度240℃):10〜30g/10分、ガラス転移温度:57℃、融点:160〜170℃)を、原料ホッパー1bから一軸押出機2b((株)プラ技研製、シリンダー径:25mmφ、L/D=24)に投入し、170〜250℃で溶融させた。なお、前記押出機2bのシリンダー温度は170〜200℃、アダプタ温度およびギアポンプ温度は200℃、スピンパック温度は250℃に設定した。
【0082】
これらの溶融PGA樹脂および溶融PLLA樹脂をそれぞれギアポンプ3aおよび3bを用いて紡糸口金4(複合繊維用芯鞘型、吐出口断面の芯部と鞘部の面積比:芯部/鞘部=90/10、孔径:0.40mm、24穴、温度:250℃)に複合繊維の芯部がPGA樹脂相、鞘部がPLLA樹脂相となるように連続的に供給し、紡糸口金4から吐出させて繊維状のPGA/PLLA複合物を形成した後、120℃に設定した加熱マントル5中を通過させた。その後、繊維状のPGA/PLLA複合物を空冷し、得られたPGA/PLLA複合未延伸糸に繊維用油剤(GOULSTON社製「Lurol」)を塗布し、周速1000m/分の第1引き取りローラー7で引き取り、第2〜第7引き取りローラー8〜13を介して芯鞘型PGA/PLLA複合未延伸糸(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLA樹脂)を5000mごとにボビン14に巻き取った。
【0083】
<PGA/PLLA複合未延伸糸の保管とその評価>
PGA/PLLA複合未延伸糸を巻きつけたボビンを恒温恒湿槽(ISUZU(株)製「HPAV−120−20」)に入れ、温度23℃、相対湿度50%RHの雰囲気下または温度40℃、相対湿度80%RHの雰囲気下にそれぞれ24時間保管した。保管後のPGA/PLLA複合未延伸糸の解じょ性および引張伸度を前記方法に従って評価した。その結果を表2に示す。
【0084】
<PGA/PLLA複合延伸糸の製造とその評価>
保管後のPGA/PLLA複合未延伸糸を巻きつけたボビンを図3に示す延伸装置に装着し、このPGA/PLLA複合未延伸糸を解じょしてボビン14からフィードローラー21を介して第1加熱ローラー22および第2加熱ローラー23を用いて延伸し、第3加熱ローラー24を介して芯鞘型PGA/PLLA複合延伸糸(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLA樹脂)をボビン25に巻き取った。なお、延伸温度は65℃に設定し、延伸倍率は、第1および第2の加熱ローラーの周速を調整して、4.5倍に設定した。得られたPGA/PLLA複合延伸糸の単糸繊度、引張強度、引張伸度および質量減少率を前記評価方法に従って測定した。これらの結果を表2に示す。
【0085】
<保持時間の算出>
実施例および比較例において、紡糸口金出口から110.5℃以上の地点Pまでの最長距離を「有効加熱マントル長」と定義し、以下のようにして求めた。すなわち、先ず、120℃に設定した加熱マントル内の樹脂吐出中の温度分布を、赤外線レーザー温度計を用いて樹脂の吐出方向について測定した。その結果、紡糸口金出口からの距離が10mm、60mm、120mmの地点でそれぞれ200℃、170℃、130℃であった。次に、この温度分布に基づいて、吐出方向において、加熱マントル内の110.5℃以上の地点のうち、紡糸口金出口から最も離れた地点Pを決定した。そして、紡糸口金出口と前記地点Pとの間の距離を求め、これを「有効加熱マントル長」とした。実施例1における有効加熱マントル長は150mmであった。
【0086】
第1引き取りローラーの周速(1000m/分)を紡糸速度として、前記有効加熱マントル長に基づいて、繊維状のPGA樹脂が紡糸口金から吐出してから110.5℃以上PGA樹脂の融点以下の温度雰囲気中に保持されていた時間(秒)を算出した。その結果を表2に示す。
【0087】
<紡糸時間の算出>
紡糸口金出口からボビンまでの距離(2m)と紡糸速度から、紡糸時間(秒)を算出した。その結果を表2に示す。
【0088】
(実施例2)
紡糸口金4として、吐出口断面の芯部と鞘部の面積比が芯部/鞘部=70/30である芯鞘型の複合繊維用紡糸口金(孔径:0.40mm、24穴)を用いた以外は、実施例1と同様に芯鞘型PGA/PLLA複合未延伸糸(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLA樹脂)を作製して2つの条件下で保管し、さらに、延伸倍率を4.0倍に変更した以外は、実施例1と同様にして芯鞘型PGA/PLLA複合延伸糸(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLA樹脂)を作製した。保管後のPGA/PLLA複合未延伸糸の解じょ性および引張伸度、ならびにPGA/PLLA複合延伸糸の単糸繊度、引張強度、引張伸度および質量減少率を前記方法に従って評価した。これらの結果を表2に示す。
【0089】
(実施例3)
紡糸口金4として、吐出口断面の芯部と鞘部の面積比が芯部/鞘部=60/40である芯鞘型の複合繊維用紡糸口金(孔径:0.40mm、24穴)を用いた以外は、実施例1と同様に芯鞘型PGA/PLLA複合未延伸糸(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLA樹脂)を作製して2つの条件下で保管し、さらに、延伸倍率を3.7倍に変更した以外は、実施例1と同様にして芯鞘型PGA/PLLA複合延伸糸(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLA樹脂)を作製した。保管後のPGA/PLLA複合未延伸糸の解じょ性および引張伸度、ならびにPGA/PLLA複合延伸糸の単糸繊度、引張強度、引張伸度および質量減少率を前記方法に従って評価した。これらの結果を表2に示す。
【0090】
(実施例4)
紡糸口金4として、吐出口断面の芯部と鞘部の面積比が芯部/鞘部=50/50である芯鞘型の複合繊維用紡糸口金(孔径:0.40mm、24穴)を用いた以外は、実施例1と同様に芯鞘型PGA/PLLA複合未延伸糸(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLA樹脂)を作製して2つの条件下で保管し、さらに、延伸倍率を3.5倍に変更した以外は、実施例1と同様にして芯鞘型PGA/PLLA複合延伸糸(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLA樹脂)を作製した。保管後のPGA/PLLA複合未延伸糸の解じょ性および引張伸度、ならびにPGA/PLLA複合延伸糸の単糸繊度、引張強度、引張伸度および質量減少率を前記方法に従って評価した。これらの結果を表2に示す。
【0091】
(実施例5)
加熱マントルを装着しなかった以外は実施例1と同様にしてPGA/PLLA複合未延伸糸(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLA樹脂)を作製して2つの条件下で保管し、さらに、延伸倍率を3.5倍に変更した以外は実施例1と同様にしてPGA/PLLA複合延伸糸(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLA樹脂)を作製した。保管後のPGA/PLLA複合未延伸糸の解じょ性および引張伸度、ならびにPGA/PLLA複合延伸糸の単糸繊度、引張強度、引張伸度および質量減少率を前記方法に従って評価した。これらの結果を表2に示す。
【0092】
なお、加熱マントルを装着していないため、紡糸口金出口付近の雰囲気温度は室温(23℃)である。したがって、繊維状のPGA/PLLA複合物が所定の温度雰囲気中に保持されていた時間は0秒とした。また、実施例1と同様にして、紡糸時間を算出した。これらの結果を表2に示す。
【0093】
(実施例6)
紡糸口金4として、吐出口断面の芯部と鞘部の面積比が芯部/鞘部=90/10である芯鞘型の複合繊維用紡糸口金(孔径:0.40mm、24穴)を用い、紡糸速度を1200m/分に変更した以外は、実施例5と同様にしてPGA/PLLA複合未延伸糸(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLA樹脂)を作製した。作製したPGA/PLLA複合未延伸糸は、複合繊維の側面においては面積比で20%のPGA樹脂相が露出しており、これを2つの条件下で保管した。さらに、延伸倍率を4.0倍に変更した以外は実施例5と同様にしてPGA/PLLA複合延伸糸(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLA樹脂)を作製した。保管後のPGA/PLLA複合未延伸糸の解じょ性および引張伸度、ならびにPGA/PLLA複合延伸糸の単糸繊度、引張強度、引張伸度および質量減少率を前記方法に従って評価した。これらの結果を表2に示す。
【0094】
(実施例7)
紡糸口金4として、吐出口断面の芯部と鞘部の面積比が芯部/鞘部=90/10である芯鞘型の複合繊維用紡糸口金(孔径:0.40mm、24穴)を用い、紡糸速度を1500m/分に変更した以外は、実施例5と同様にしてPGA/PLLA複合未延伸糸(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLA樹脂)を作製した。作製したPGA/PLLA複合未延伸糸は、複合繊維の側面においては面積比で40%のPGA樹脂相が露出しており、これを2つの条件下で保管した。さらに、延伸倍率を3.7倍に変更した以外は実施例5と同様にしてPGA/PLLA複合延伸糸(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLA樹脂)を作製した。保管後のPGA/PLLA複合未延伸糸の解じょ性および引張伸度、ならびにPGA/PLLA複合延伸糸の単糸繊度、引張強度、引張伸度および質量減少率を前記方法に従って評価した。これらの結果を表2に示す。
【0095】
(実施例8)
鞘部を構成する樹脂をポリ(L−乳酸−co−ε−カプロラクトン)(PLLC)に変更し、実施例5と同様にしてPGA/PLLC複合未延伸糸(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLC樹脂)を作製して2つの条件下で保管し、さらに、延伸倍率を3.7倍に変更した以外は実施例5と同様にしてPGA/PLLC複合延伸糸(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLC樹脂)を作製した。保管後のPGA/PLLC複合未延伸糸の解じょ性および引張伸度、ならびにPGA/PLLC複合延伸糸の単糸繊度、引張強度、引張伸度および質量減少率を前記方法に従って評価した。なお、得られたPGA/PLLC複合延伸糸において、PLLC樹脂相の一部が剥離していたため、複合繊維の側面においては面積比で2%のPGA樹脂相が露出していた。これらの結果を表2に示す。
【0096】
(比較例1)
紡糸口金4として単繊維用紡糸口金(孔径:0.40mm、24穴)を用い、加熱マントルを装着しなかった以外は、実施例1と同様にPGA樹脂未延伸糸を作製して2つの条件下で保管した。保管時に未延伸糸が膠着したため、延伸糸を得ることはできなかった。これらの結果を表3に示す。
【0097】
なお、加熱マントルを装着していないため、紡糸口金出口付近の雰囲気温度は室温(23℃)である。したがって、繊維状のPGA樹脂が所定の温度雰囲気中に保持されていた時間は0秒とした。また、実施例1と同様にして、紡糸時間を算出した。これらの結果を表3に示す。
【0098】
(比較例2)
紡糸口金4として単繊維用紡糸口金(孔径:0.40mm、24穴)を用い、この紡糸口金4に溶融PLLA樹脂のみを連続的に供給した以外は、実施例1と同様にPLLA樹脂未延伸糸を作製して2つの条件下で保管し、さらに、延伸倍率を3.0倍に変更した以外は、実施例1と同様にしてPLLA樹脂延伸糸を作製した。保管後のPLLA樹脂未延伸糸の解じょ性および引張伸度、ならびにPLLA樹脂延伸糸の単糸繊度、引張強度、引張伸度および質量減少率を前記方法に従って評価した。これらの結果を表3に示す。
【0099】
(比較例3)
紡糸口金4として、吐出口断面の芯部と鞘部の面積比が芯部/鞘部=10/90である芯鞘型の複合繊維用紡糸口金(孔径:0.40mm、24穴)を用いた以外は、実施例1と同様にPGA/PLLA複合未延伸糸(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLA樹脂)を作製して2つの条件下で保管し、さらに、延伸倍率を3.3倍に変更した以外は、実施例1と同様にしてPGA/PLLA複合延伸糸(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLA樹脂)を作製した。保管後のPGA/PLLA複合未延伸糸の解じょ性および引張伸度、ならびにPGA/PLLA複合延伸糸の単糸繊度、引張強度、引張伸度および質量減少率を前記方法に従って評価した。これらの結果を表3に示す。
【0100】
(比較例4)
紡糸口金4として、吐出口断面の芯部と鞘部の面積比が芯部/鞘部=20/80である芯鞘型の複合繊維用紡糸口金(孔径:0.40mm、24穴)を用いた以外は、実施例1と同様にPGA/PLLA複合未延伸糸(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLA樹脂)を作製して2つの条件下で保管し、さらに、延伸倍率を3.0倍に変更した以外は、実施例1と同様にしてPGA/PLLA複合延伸糸(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLA樹脂)を作製した。保管後のPGA/PLLA複合未延伸糸の解じょ性および引張伸度、ならびにPGA/PLLA複合延伸糸の単糸繊度、引張強度、引張伸度および質量減少率を前記方法に従って評価した。これらの結果を表3に示す。
【0101】
(比較例5)
紡糸口金4として、吐出口断面の芯部と鞘部の面積比が芯部/鞘部=40/60である芯鞘型の複合繊維用紡糸口金(孔径:0.40mm、24穴)を用いた以外は、実施例1と同様にPGA/PLLA複合未延伸糸(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLA樹脂)を作製して2つの条件下で保管し、さらに、延伸倍率を3.5倍に変更した以外は、実施例1と同様にしてPGA/PLLA複合延伸糸(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLA樹脂)を作製した。保管後のPGA/PLLA複合未延伸糸の解じょ性および引張伸度、ならびにPGA/PLLA複合延伸糸の単糸繊度、引張強度、引張伸度および質量減少率を前記方法に従って評価した。これらの結果を表3に示す。
【0102】
(比較例6)
紡糸口金4として、吐出口断面の芯部と鞘部の面積比が芯部/鞘部=90/10である芯鞘型の複合繊維用紡糸口金(孔径:0.40mm、24穴)を用い、紡糸速度を2000m/分に変更した以外は、実施例5と同様にしてPGA/PLLA複合未延伸糸(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLA樹脂)を作製した。作製したPGA/PLLA複合未延伸糸は、複合繊維の側面においては面積比で55%のPGA樹脂相が露出しており、これを2つの条件下で保管した。保管時に未延伸糸が膠着したため、延伸糸を得ることはできなかった。これらの結果を表3に示す。
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
表2に示した結果から明らかなように、PGA樹脂により構成されている領域が面積比で50%以上の断面と面積比で50%以下の側面を有する本発明の芯鞘型複合繊維(芯部:PGA樹脂、鞘部:PLLA樹脂)においては、いずれの保管条件であっても、未延伸糸を解じょした場合に膠着が発生せず、未延伸糸は解じょ性に優れていることが確認された。また、延伸糸は、高温のみならず低温においても水崩壊性に優れており、引張強度および引張伸度も比較的高いものであることがわかった。
【0106】
一方、表3に示した結果から明らかなように、芯部がPGA樹脂、鞘部がPLLA樹脂の芯鞘型複合繊維であっても、繊維の断面のうち、PGA樹脂により構成されている領域が面積比で50%未満の場合(比較例3〜5)には、未延伸糸は解じょ性は優れているものの、延伸糸は水崩壊性に劣るものであった。また、PGA樹脂のみにより形成されている繊維(比較例1)ならびに、繊維の断面のうち、PGA樹脂により構成されている領域が面積比で90%であっても、繊維の側面のうち、PGA樹脂により構成されている領域が面積比で50%を超える場合(比較例6)においては、未延伸糸は解じょ性に劣るものであり、特に、高温高湿下で保管した未延伸糸から延伸糸を安定して製造することは困難であった。さらに、PLLA樹脂のみにより形成されている繊維(比較例2)においては、未延伸糸は解じょ性は優れているものの、延伸糸は引張強度が低く、水崩壊性も劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
以上説明したように、本発明によれば、解じょ性に優れた水崩壊性複合未延伸糸を得ることが可能となる。したがって、本発明の未延伸の水崩壊性複合繊維は、ボビンなどに巻き取った状態やケンスに収納した状態での保管が可能であり、しかも、高温高湿下に曝されても解じょ性に優れるため、水崩壊性複合延伸糸の大量生産に好適に用いることが可能である。また、得られる水崩壊性複合延伸糸は、高い強度を有し、高温のみならず低温においても加水分解速度が速いため、工業分野などで用いる特殊機能繊維として有用である。
【0108】
また、本発明の水崩壊性複合繊維カットファイバーは、生産性向上、掘削コスト削減、地層へのダメージ軽減、環境負荷低減の観点から、石油、ガス掘削分野への応用が有用である。例えば、浸透率が低い地層の掘削において生産性を向上させるための添加剤として有用である。シェールガスやシェールオイルの掘削における掘削工法のひとつに水圧破砕法が挙げられるが、この水圧破砕時に砂粒などの破砕支持材を効率的に輸送するための補助材や水圧破砕時に砂粒などの破砕支持材を含む流体の還流を効率的に行うための補助材として有用である。
【0109】
さらには、石油、ガス掘削で一般的に行われる塩酸などを用いた酸処理において、地層を均一に処理するための補助材として有用である。具体的には、水崩壊性複合繊維カットファイバーを用いることで流体が流れやすい地層を目止めし、流体を流したい箇所に調整することが可能になり、且つ生産時には分解しているため、生産性を妨げないことを意味する。このような目止め機能は地層中、特に、石油やガスが取得できる生産層において自発的に作製した穿孔を一時的に目止めし生産物の回収効率を向上することにも応用できる。
【0110】
その他の関連用途としては、掘削中に形成するケーク層を水崩壊性複合繊維で形成することで自己分解を利用しスクリーンの目詰まりを防止する用途や、掘削泥水に水崩壊性複合繊維カットファイバーを添加しておくことで浸透性の高い地層や自然孔への逸水、逸泥を防止する用途においても有用である。この掘削泥水中に添加し使用する用途では、分解後に放出される酸の徐放効果により泥水の粘度を低下させ流動性を高めるという効果もある。さらに、掘削泥水中に水崩壊性複合繊維を添加することで、使用する水や砂粒などの使用量を削減でき、掘削コストを低減できる。これらすべての用途において、水崩壊性複合繊維カットファイバーは自己分解性を有しているため、地層へ与えるダメージはないという利点がある。
【符号の説明】
【0111】
A:PGA樹脂相、B:その他の樹脂相、1a,1b:原料ホッパー、2a,2b:押出機、3a,3b:ギアポンプ、4:紡糸口金(紡糸ノズル)、5:加熱マントル、6:油剤塗布装置、7〜13:第1〜第7引き取りローラー、14:未延伸糸用ボビン、21:フィードローラー、22:第1加熱ローラー、23:第2加熱ローラー、24:第3加熱ローラー、15:延伸糸用ボビン。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図2
図3