【実施例】
【0047】
以下の実施例で、本発明をさらに説明する。
【0048】
実施例1:初期ガラスコーティングしたカソード粉末の調製
この実施例では、サルフェート不純物を含有せず初期(すなわち熱処理されていない)ガラス質コーティングを有するカソード粉末の調製を説明する。コーティングされたLiMO
2前駆体として、一例のカソード材料LiMO
2(M=Ni
0.5Mn
0.3Co
0.2(または「532」化合物)および平均粒子径10μmを有する)を使用した。この前駆体は、混合金属水酸化物MOOHおよびLi
2CO
3のブレンドから調製し、Li:Mの比率は約1.05であった。空気中930℃で10時間の焼成を行った。NaOHおよびNH
4OH溶液を使用して金属硫酸塩溶液を沈殿させることで、MOOHを調製した。MOOHは、タップ密度が約1.8g/cm
3であった。このような混合金属水酸化物は、概して0.3〜0.6質量%の表面不純物を含有する。本LiMO
2前駆体は0.53質量%の硫酸塩を含有し、これはLi
2SO
4塩不純物の形態であった。Li
2SO
4による相互汚染のないガラス質コーティングの調査が望ましいため、LiMO
2前駆体を最初に水で洗浄し続いて乾燥させた。この処理によって大部分の硫黄が除去され、0.041質量%の低硫酸塩不純物となった。表1は、調製方法を示し、
図1は洗浄によって硫酸塩不純物を除去した後の前駆体のSEM顕微鏡写真を示している。
【0049】
【表1】
【0050】
ガラス質コーティングは、「スラリードーピング」と呼ばれる処理によって実現される。適切な量の溶解Li
2Si
5O
11を含有する適切な量の水(約300ml/kg)を、2kgの前駆体に加え、高粘度のスラリーを得た。1molのLiMO
2当たりそれぞれ0、0.03、0.1、および0.3mol%のLi
2Si
5O
11を含有する種々のサンプルを調製した。撹拌後、スラリーを空気中150℃で乾燥させた後、ふるい分けを行った。実際には、ふるい分け後にすべての乾燥粉末を回収し、そのためカソード粉末の最終シリケート含有量はほぼ目標値となる。乾燥中、ほとんどのLi
2Si
5O
11は、粒の間に細孔および間隙を含む粒子の表面上に、薄いガラス質膜として析出した。このようにして、(1)低硫酸塩不純物を有し、(2)ガラスの薄層でコーティングされた前駆体粉末を得た。
【0051】
実施例2:一連の最終試験サンプルの調製
一連の最終試験サンプルを、実施例1の初期ガラスコーティングされたカソード粉末サンプルを空気中で熱処理することで調製した。熱処理温度を200〜600℃で変動させ;処理時間を5時間とした。サンプル量は150gであった。可溶性塩基含有量をpH滴定によって測定した。コインセルを作製し、4.3〜3.0Vの第1サイクルの放電容量および不可逆容量を測定し、その後サンプルを、4.5〜3.0Vのサイクル、1Cレート(1C=180mA/g)でのサイクル3後の充電および放電という過酷な条件下で試験した。a)可逆容量およびb)サイクル安定性(%/100サイクルとしてのフェードレート)が重要である。表2は、得られた結果、すなわちLi
2Si
5O
11コーティング量および熱処理温度の関数としての性能の一覧である。
【0052】
【表2】
【0053】
明らかなように、400℃で最良の性能を実現した。すべての条件下で(0、0.03mol、0.1mol%、0.3mol%)、サイクル安定性(QirrおよびFの値)および可逆容量はその最適値であった。同時に、塩基含有量は依然として少なかった。本発明者らは、約300〜400℃で熱処理した後のLi
2Si
5O
11コーティングサンプルが、はるかに改善されたサイクル安定性(フェードレートFで示される)を示すことも観察している。
【0054】
異なる初期コーティングカソード粉末(球状であり、タップ密度がより高い)を用いて類似の実験を繰り返した。本発明者らは一貫して、約400℃の熱処理後に0.05〜0.5mol%のLi
2Si
5O
11コーティングサンプルに関して、はるかに改善されたサイクル安定性とともに、最大の容量および低可溶性塩基含有量を確認した。
【0055】
実施例3:中間洗浄を実施しない一連の最終試験サンプルの調製
一例の初期ガラスコーティングしたカソード生成物LiMO
2(M=Ni
0.5Mn
0.3Co
0.2)を実施例1に記載の様に調製した。但し、前駆体カソード粉末の調製に関して、異なる高密度のMOOHを使用した(タップ密度>2.0g/cm
3)。この実施例では中間洗浄を実施しなかった。前駆体サンプルの硫黄含有量は約0.4mol%であった。この実施例は、Li
2Si
5O
11ガラス質コーティングサンプルが、硫黄が存在する場合でさえも、高レートで良好なサイクル安定性を有し、改善された容量を示し、そして可溶性塩基含有量が減少したことを示す。
【0056】
カソード前駆体粉末を洗浄しなかったことを除いて、実施例1に記載のものと同様にL
i
2Si
5O
11コーティングを適用した。0.1および0.3mol%の2つのコーティング量のサンプルを調製した。過酷な試験のみを適用したことを除いて、そしてそのため容量および不可逆容量が4.5〜3.0Vで0.1Cのレートにおいて得られることを除いて、実施例1および2に記載されるものと同様にこれらのコーティングサンプルの熱処理および試験を行った。表3は得られた結果の一覧である:基準サンプル(コーティングに使用される前駆体、すなわち「コア」である)と比較すると、可溶性塩基含有量の大幅な減少を観察した。過酷な条件下でのサイクル安定性は、コーティングされていないサンプルとほぼ同等となった。0.1%コーティングサンプルは、熱処理後に、明らかに改善された第1サイクル容量を示した。全体的に最良の性能が、0.1mol%のコーティング量で400℃の加熱温度の後に得られた。
【0057】
【表3】
【0058】
実施例4:ガラス質コーティングの別の例
この実施例は、コーティングの別の例の実施形態が存在することを示すものである。この実施例では、実施例1の洗浄したカソード前駆体LiMO
2(M=Ni
0.5Mn
0.3Co
0.2)を使用した。溶解したLi
2Si
5O
11の代わりに他のリチウム化合物(湿式溶液中)を使用したことを除いて、実施例1と同じ方法でスラリードーピングを行った。スラリー乾燥に使用する溶液を、化学量論的に制御された量のLiOHを希釈酸溶液に溶解させて加えることで調製した:
− ホウ酸:H
3BO
3+LiOH→LiBO
2+2H
2O
− ポリリン酸:HPO
3+LiOH→LiPO
3+H
2O
乾燥させたLiPO
3溶液から得られるLiPO
3はガラスであり、Li受容体でもある:LiPO
3+2LiOH→Li
3PO
4+H
2O・LiBO
2、ホウ素を含有する場合もまたガラスを形成することができる。
【0059】
スラリーコーティングの後、サンプルを乾燥させ、空気中種々の温度で5時間焼成した。最終サンプルを、表面積、コインセル性能および可溶性塩基含有量に関して試験した。表4は、調製条件および得られた結果の一覧である。可溶性塩基含有量は、μmol/gカソードの単位であり、QDは、0.1Cにおける第1サイクル放電容量(mAh/g)
であり、Fは、100サイクルまで外挿した過酷なサイクル試験の50サイクル中のフェードレートである(以下のサイクル試験計画を参照)。表4は、実施例2の一部のデータも含む;但し0.1mol%のLi
2Si
5O
11のコーティングに関して。この表は、LiPO
3およびLiBO
2のコーティングが、種々の処理温度において、実施例2の結果と比較して大幅に低い改善をもたらすこと、一方Li
2Si
5O
11コーティングされたカソードは、400℃付近で非常に明確な最大容量および明確な最小サイクル安定性(エネルギーフェードレート)を示しており、同時に、基準よりも依然として低い塩基含有量を有することを示す。
【0060】
【表4】
【0061】
実施例5:より高いNi含有量のLi
2Si
5O
11をコーティングしたカソード
LiNMO中のNi含有量を増加させるとより高い容量が実現するが、同時に可溶性塩基含有量も増加し、これが一部の用途では大きな欠点となる。この実施例は、Li
2Si
5O
11コーティングは、M=Ni
0.6Mn
0.2Co
0.2の場合のLiMO
2材料の塩基含有量を大きく減少させることができることを示すものである。本発明者らはこの組成物を「622」と呼ぶ。この場合も、たとえばLi
2Si
5O
11コーティングされた材料で、本発明者らは約400℃の処理温度で明らかに最適な性能を確認した。実施例1〜3と同様に、Li
2Si
5O
11初期コーティングされるカソード材料を、洗浄した前駆体(硫酸塩非含有)および洗浄していない前駆体にスラリードーピングすることによ
って調製し、続いてこれを200〜500℃で熱処理した。
【0062】
「622」化合物は塩基含有量が高いため、コーティング含有量を1molのLiMO
2当たり0.15mol%のLi
2Si
5O
11に設定した。基準サンプルの典型的な塩基含有量は85〜110μmol/gである。この値と比較して、洗浄したLiNMOから得られるLi
2Si
5O
11コーティングされたカソードは40〜50μmol/gを有し、一方、洗浄していないLiNMOから得られるLi
2Si
5O
11コーティングされたカソードは約80μmol/gとなった。表5は、調製条件および得られた結果の一覧である。
図2は、Li
2Si
5O
11コーティングされたLiNi
0.6Mn
0.2Co
0.2O
2の処理温度の温度関数としての性質を示す:可溶性塩基含有量はμmol/gカソードの単位であり、Qは0.1Cにおける第1サイクル放電容量(mAh/g)であり、Fは、100サイクルまで外挿した過酷なサイクル試験の50サイクル中のフェードレートである。図中:○は洗浄していないサンプルであり、△は洗浄したサンプルである。本発明者らは400℃付近で明確に最適な性能を確認した。より低い温度およびより高い温度で、より低いサイクル安定性を確認した。洗浄していない前駆体から得られたLi
2Si
5O
11コーティングされたカソードでも、本発明者らは塩基含有量の明確な最小値を確認した。
【0063】
【表5】
【0064】
実施例6:XPSおよびSEM測定
この実施例では、中間温度(400℃)で電池性能の最適値(低塩基含有量、改善されたフェード性能)が存在することを裏付ける、0.3mol%のLi
2Si
5O
11をコ
ーティングし、200℃(EX6.1)、400℃(EX6.2)および600℃(EX6.3)で熱処理した、実施例2の3つのLiMO
2(M=Ni
0.5Mn
0.3Co
0.2)サンプルの、X線光電子分光法(XPS)および高解像度SEMを用いた調査を説明する。
【0065】
この実験は以下のことを立証するために設計された:
1)高すぎる温度(600℃)では、初期のLi−シリケートコーティングの構造変化を伴って塩基含有量が大きく増加する。
2)低すぎる温度(200℃)では、初期のLi−シリケートコーティングに構造変化は起こらない。
3)中間温度(400℃)では、シリケート層中へのLi(表面から生じる)の拡散が少量であり、Li拡散中に表面塩基が消費されるため、最適の電池に達する。
4)Li−シリケート層が連続被覆層を形成し、Li−シリケートが400℃で熱処理されると粒界が閉鎖される。
【0066】
XPSデータ
C、Si、およびLiのスペクトルの結果を表6にまとめる。
【0067】
【表6】
【0068】
表6の結論:
1.C 1s:
1.1.C−H、C−O、およびC=Oは、XPSで常に観察される典型的な汚染物質である。
1.2.289.7eVにおけるCO
3ピークは、Li
2CO
3表面塩基の存在に典型的なものである。上記実施例に記載したように、他の表面塩基(LiOHなど)も存在するが、それらはXPSを用いて同定することはできない。
1.3.200℃〜400℃でCO
3のわずかな減少。
1.4.400℃〜600℃でCO
3の大幅な増加。
【0069】
2.Si 2s:
2.1.200℃および400℃において、シリケートはLiの少ない形態中に存在する(154.1eV)。
2.2.400℃〜600℃で、Li豊富なシリケートへの転移が起こる(152.7eV)。
2.3.Li−シリケート層のLiの濃縮のため、400℃〜600℃でSiが大きく
減少。
【0070】
3.Li 1s:
3.1.200℃〜400℃で、シリケートコーティングにLiがわずかに拡散。
3.2.400℃〜600℃で、表面のシリケート層へ多量のLiが拡散。
【0071】
4.コーティング中のLi/Si比:
4.1.Li/Siは、最初はLi
2Si
5O
11(Li/Si=0.4)の値に等しい。
4.2.200℃〜400℃のどこかで、バルクから表面へのLiの拡散がゆっくりと始まり、それによってLi−シリケート層のLiの濃縮が起こる(Li/Si比は0.5まで増加)。
4.3.400℃を超えると、Li−シリケートコーティングは、バルクからのLiが非常に豊富になり、Li
2SiO
3を形成する(Li/Siは2.0まで増加)。
【0072】
Li−シリケートの連続被覆層の形成を、コーティングされていない材料と比較したNiおよびCoの信号の減少によって確認した(表7)。温度が上昇すると、Ni、Co、およびOの信号がさらに減少することによって分かるように、Li−シリケート層がより厚くなった。
【0073】
【表7】
【0074】
上記XPSデータは以下のモデルを支持する:
1.200℃において、Li−シリケートはLi
2Si
5O
11として存在し、表面塩基量はコーティングされていない生成物と同様である。
2.200℃〜400℃で、少量のLi(表面塩基から生じる)がシリケート層中に拡散し、それによってシリケート層のわずかな濃縮と表面塩基のわずかな減少がもたらされる。
3.400℃〜600℃では、多量のLiの拡散が続く。シリケートは非常にLi豊富となる。このLiに富む形態で、シリケートはCO
2吸着体として機能することができ、それによってLi
2CO
3を形成し、表面塩基が増加する。
【0075】
SEMデータ
SEMデータ(
図3.1、3.2、および3.3)は、すべての温度で、Li−シリケートコーティングが連続被覆層を形成していることを示す。200℃において、Li−シリケートの強固な凝集体が見られ、粒界は開放されている。より高温(400℃および600℃)では、凝集体は溶融したように見え、粒界は明らかに閉鎖している。
【0076】
実施例7:Li−Siコーティングしたカソードのフルセル試験
この実施例では、実際のフルセルに組み込まれた実施例のLi−Siコーティングしたカソード材料で、優れた結果が得られたことを示す。これらのセルは、約800mAhの容量を有する巻回パウチ型である。セル中で、0.1molのLi
2Si
5O
11をコーティングしたLiMO
2カソード材料(M=Ni
0.5Mn
0.3Co
0.2)の試験を行った。
【0077】
本実施例は、同じ混合MOOH(M=Ni
0.5Mn
0.3Co
0.2)から生じる以下のサンプルの結果を示す:
1)EX7.1:1.035のLi:M比を用いて実施例1の低密度MOOHから調製し、955℃で焼成した標準基準サンプル(中間洗浄なし)
2)EX7.2:600℃で5時間再焼成した洗浄基準サンプル
3)EX7.3:0.1molのLi
2Si
5O
11をコーティングし、400℃で5時間再焼成した洗浄サンプル
4)EX7.4:実施例3で使用したような高密度MOOHから調製した大量生産(MP)ラインのLiMO
2(M=Ni
0.5Mn
0.3Co
0.2)
5)EX7.5:0.1mol%のLi
2Si
5O
11をコーティングしたMPラインのLiMO
2(中間洗浄なし、400℃で熱処理)
【0078】
フルセル試験の結果を表8にまとめる。完全充電したセルをオーブンに入れ、90℃で1時間以内加熱し、そしてセルに直接取り付けた適切な厚さゲージで厚さを測定することによって、膨らみを測定した。膨らみは一般に選択した電解質によって決まり、ここで本発明者らは、少ない膨らみを得るようには最適化されていない標準的なEC/DEC電解質を使用した。
【0079】
【表8】
【0080】
結果は、0.1molのLi
2Si
5O
11をコーティングしたサンプルの高温性能が、双方の基準の性能よりもはるかに良好(少ない膨らみ、良好なサイクル安定性)を示した。室温でのサイクル安定性も同様により良好であった。他の性質(レート性能、容量、安全性)は同様であるか、またはわずかに優れていた。
【0081】
結果は中間洗浄が不要であることを示した。0.1mol%のLi
2Si
5O
11をコーティングしたサンプルEX7.5は、室温および45℃で最良のサイクル安定性を有し、最も少ない膨らみを示した。他の性質(レート性能、容量、安全性)は、基準と同様であるか、またはわずかに優れていた。
【0082】
実施例8:Li−Siコーティングしたカソードの作製方法
この実施例では、Li−Siコーティングしたカソード材料の作製方法の例を示す。本方法は大量生産規模に容易に拡大可能である。実施例1〜3では「スラリードーピング法」によって良好な性能を得ている。カソード前駆体粉末をLi
2Si
5O
11水溶液に浸漬し、比較的高粘度のスラリーを得た。このようにして、細孔中に十分溶液を浸透させ、100%表面被覆率を実現した。1kgの生成物には約300mlを使用した。続いてスラリーを乾燥させ、穏やかに粉砕して、ふるい分けした。但し、工業規模でのこのようなスラリーの乾燥には設備投資およびエネルギーを要し、したがってあまり安価とはならない。このため、スラリードーピングの代わりに、少量の水の使用でコーティングが適用可能かどうかを調査することが好ましい。
【0083】
市販のLiMO
2(M=Ni
0.5Mn
0.3Co
0.2)は大量生産ラインから得られる。1.7kgのLiMO
2粉末を加熱した5L反応器中に入れ、穏やかに攪拌しながら、より少量のより高濃度のLi
2Si
5O
11溶液を加えた。Li
2Si
5O
11の総量は、1molのLiMO
2当たり0.1mol%で固定した。理想的には、撹拌する粉末中に溶液を噴霧する。反応器を真空ポンプに接続し、80℃における連続撹拌中に粉末を乾燥させた。この方法は、大量生産レベルまで容易にスケールアップ可能である。
【0084】
より少量のより高濃度の溶液を加えることで、粉末の粘着性が低くなるため、処理が容易になることが観察された。ガラス溶液の表面被覆率が低下し、特に開放細孔中で低下したとき、溶液濃度の上限を得た。ガラス質溶液が優れた表面ぬれ性を有する場合にのみ、良好な結果が期待される。
【0085】
乾燥後、粉末を400℃で熱処理した。1.7kgのLiMO
2に対して400、300、200、および100mlの溶液を使用し、但し1molのLiMO
2当たり0.1mol%のLi
2Si
5O
11濃度を維持しながら(100mlの溶液は400mlのものと比べ4倍濃縮であることを意味する)、4種類のサンプルを調製した。最良の結果を100mlで得た。表9は、可逆容量および塩基含有量の結果の一覧である。大量生産の前駆体に関するスラリードーピング法を使用し、小規模にてあらかじめ調製した基準サンプルと結果を比較した。60ml/kgのLiMO
2溶液を使用した場合にのみ、基準と同様の結果を得た(1mAh/gの容量および2μmol/gの塩基の差は、実験のばらつきの範囲内である)。データは、より少量のより高濃度のガラス質溶液が優れた表面ぬれ性を得ることができ、そのため、高濃度のガラス溶液を少量使用することで大規模でのコーティング方法が容易に実施可能であることを明確に示した。優れたぬれ性は、溶液が溶解したガラス(乾燥後にガラスを形成する)であることに関連しており、結晶塩に関連するものではないと、本発明者らは推測している。
【0086】
【表9】
【0087】
実施例9:X線分析は、ガラス層のLi受容特性を裏付け
この実施例では、LiポリシリケートガラスのLi受容特性を示す。Li受容の特徴は、LiOHおよびLi
2CO
3を分解させるのに十分に強力であり、したがって、Liポリシリケートガラスは、Li含有表面塩基を分解させるのに十分に強力である。
【0088】
実験9A:
Li
2Si
5O
11液状ガラスを200℃で乾燥した。
図4は、X線回折分析の結果を示し、200℃で非晶質ガラスが得られることを示す。約23度における非常に広い単一ピークはSi系ガラスに典型的である。したがって、カソード材料を液状ガラスでコーティングすると、乾燥後にガラス質コーティングが得られる。本発明者らは、ガラス質コーティングが、カソード粉末表面を非常に良好に覆うと考えている。
【0089】
別の方法として、液状ガラスを400℃および600℃で乾燥した。これらの温度では、Li
2Si
5O
11は、Liに富む結晶Li
2SiO
3相と非晶質ガラス相とに不均化した。ほとんどすべての鋭いピークはLi
2SiO
3(PDF 01−070−0330、空間群Cmc21)に帰属される。24.85、23.8および37.6°における残りのいくつかのマイナーピークは、Li
2Si
2O
5に帰属することができる。ガラス相ピークの位置は、21.5度に向かって左に移動する。明らかなようにガラス相は2:5よりも小さいLi:Si比を有する。
【0090】
温度により、
(1)Li
2Si
5O
11コーティングと続く乾燥によって、ガラス質コーティングが得られる;
(2)Li
2Si
5O
11は、Li
2SiO
3と、Li受容体でもある低リチウムガラス質相とに不均化する;
(3)すべてのガラスがリチウムと反応しない限り、600℃においても、ガラス質コーティングが残存する、
(4)Li
2CO
3を形成するのに十分なCO
2を含有する空気中で乾燥を実施するにもかかわらずLi
2CO
3は形成されない
と結論づけることができる。
【0091】
実験9B:この実験は、Li
2Si
5O
11のLi受容特性が、Li
2CO
3を分解するのに十分に強力であることを示す。Li
2Si
5O
11液状ガラスを120℃で乾燥した。ガラスを粉砕し、Li
2CO
3と混合した(10gのガラスおよび4gのLi
2CO
3)。450℃においてLi
2CO
3はあまり反応性でなく、よって接触を向上させるために、ペレットをプレスし、空気中450℃で72時間焼成した。
【0092】
Li
2CO
3がLi
2Si
5O
11と完全に反応して、Li
2SiO
3を形成する(反応スキーム:Li
2Si
5O
11+4Li
2CO
3→5Li
2SiO
3+4CO
2)と仮定するには、約0.9:1のLi
2CO
3:ガラスの質量比が要求される。この実験では、本発明者らは1:2.5の質量比を使用し、これは大過剰のガラスが存在することを意味する。
図5は、X線回折分析の結果を示す:上のグラフは、混合物Li
2CO
3:ガラスのXRDパターンであり、下のグラフは、同じ混合物の450℃で72時間加熱した後のXRDパターンである。ガラス相が変化している(幅広の山がより小さな角度に向かって移動し、わずかに幅が狭くなる(12〜35から約10〜30))。Li
2CO
3相の回折ピーク、および広い山の強度(ガラス相)は明確に減少し、50%を超えるLi
2CO
3が分解され、ガラス相が部分的に消費されていることを示している。さらに、Li
2SiO
3ピークが(実験9Aよりも大きいLi
2SiO
3対ガラス相の強度比で)形成される。X線回折パターンは、Li
2Si
5O
11ガラスが、Li
2CO
3を分解するのに
十分に強力であるLi受容体であることを明確に証明している。450℃で過剰のLi
2Si
5O
11の場合、残存する(しかし変性した)ガラスおよびLi
2SiO
3を含有する相混合物が形成され、そこではLi
2SiO
3の一部がガラスによるLi
2CO
3の分解から生じる。XRD分析の結果は、実施例6のXPSによる観察(約400℃において、コーティング層は、初期のLi
2Si
5O
11と比較して、表面Li
2CO
3が分解されることによってLi含有量が増加する)と一致している。