(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989094
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】多相接触及び単相接触のための装置
(51)【国際特許分類】
B01J 19/18 20060101AFI20160825BHJP
B04B 5/12 20060101ALI20160825BHJP
B01J 23/89 20060101ALN20160825BHJP
【FI】
B01J19/18
B04B5/12
!B01J23/89 M
【請求項の数】18
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-508765(P2014-508765)
(86)(22)【出願日】2012年4月30日
(65)【公表番号】特表2014-522295(P2014-522295A)
(43)【公表日】2014年9月4日
(86)【国際出願番号】EP2012057934
(87)【国際公開番号】WO2012150226
(87)【国際公開日】20121108
【審査請求日】2015年3月12日
(31)【優先権主張番号】61/518,177
(32)【優先日】2011年5月2日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513273694
【氏名又は名称】テクニッシュ ウニバルシテイト アイントホーフェン
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(74)【復代理人】
【識別番号】100135345
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 政彦
(74)【復代理人】
【識別番号】100142457
【弁理士】
【氏名又は名称】立川 幸男
(74)【復代理人】
【識別番号】100158816
【弁理士】
【氏名又は名称】高尾 智満
(74)【復代理人】
【識別番号】100162444
【弁理士】
【氏名又は名称】勝見 陽介
(72)【発明者】
【氏名】ファン デル シャーフ、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】フィッシェル、フランス
(72)【発明者】
【氏名】ビンドラバン、ディプナレイン
(72)【発明者】
【氏名】スハウテン、ヤコブ・シー
【審査官】
宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭38−023922(JP,B1)
【文献】
特公昭49−009310(JP,B1)
【文献】
特開昭54−038272(JP,A)
【文献】
特公昭42−002568(JP,B1)
【文献】
特開昭54−029876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 10/00−12/02
B01J 14/00−19/32
B04B 5/12
B01F 9/08
B01F 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多相接触装置であって、
a.円盤状空洞部、第1の入口ポート及び第1の出口ポートを有する中空の第1の回転可能なディスクと、
b.前記第1の回転可能なディスクの前記円盤状空洞部内において前記第1の回転可能なディスクの回転軸に対して同軸的に配置され、かつ、チャネルをなす空洞部、第2の入口ポート及び第2の出口ポートを有する第2の回転可能なディスクであって、前記第1の回転可能なディスクとは独立に回転可能であり、前記第1の回転可能なディスクに対して同一方向または逆方向に回転し、かつ前記第1の回転可能なディスクと、同一の速度または異なる速度で回転する、該第2の回転可能なディスクとによって構成される接触ステージを含み、
前記接触ステージで、被分離物質の遠心分離及び向流物質移動を統合的に行うように構成したことを特徴とする多相接触装置。
【請求項2】
前記第1及び第2の回転可能なディスクが、同軸回転するように構成されかつ軸方向において互いから0.05mmの離間距離を隔てて配置されていることを特徴とする請求項1に記載の多相接触装置。
【請求項3】
前記第1及び第2の回転可能なディスクを5000rpm以下の速度で回転させるように構成したことを特徴とする請求項1に記載の多相接触装置。
【請求項4】
前記接触ステージが2段以上積層されており、前記被分離物質が前記第1の入口ポート、前記第2の入口ポート、前記第1の出口ポート、及び前記第2の出口ポートを通って前記積層された接触ステージ間を移動可能に構成したことを特徴とする請求項1に記載の多相接触装置。
【請求項5】
前記第1及び第2の回転可能なディスクが、回転時に前記被分離物質に遠心力を作用させるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の多相接触装置。
【請求項6】
前記第1の回転可能なディスクが、ガス入口ポートを有することを特徴とする請求項1に記載の多相接触装置。
【請求項7】
前記第2の回転可能なディスク内に形成された前記チャネルが、前記被分離物質の相対的に軽い相を前記回転軸に向かって移動させかつ相対的に重い相を半径方向外向きに移動させることによって前記相対的に重い相から前記相対的に軽い相を分離するように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の多相接触装置。
【請求項8】
前記ディスクの回転速度が、前記被分離物質の特性、前記ディスクの半径及び前記ディスクの間隔に応じて決定されるように構成したことを特徴とする請求項1に記載の多相接触装置。
【請求項9】
前記第1の回転可能なディスクが、伝熱チャネルを有することを特徴とする請求項1に記載の多相接触装置。
【請求項10】
前記第1及び第2の回転可能なディスク間に堰が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の多相接触装置。
【請求項11】
前記第2の回転可能なディスクが、互いに対向配置されかつ前記チャネルを形成する壁を介して互いに隔てられた1対の円盤状プレートを含むことを特徴とする請求項1に記載の多相接触装置。
【請求項12】
前記1対の円盤状プレートが、互いから0.05mmの離間距離を隔てて配置されていることを特徴とする請求項11に記載の多相接触装置。
【請求項13】
前記1対の円盤状プレートが、互いに同じかまたは異なる径を有することを特徴とする請求項11に記載の多相接触装置。
【請求項14】
前記チャネルが、半径方向外向きに延在する線形または非線形形状をなすことを特徴とする請求項1に記載の多相接触装置。
【請求項15】
前記第1の回転可能なディスクが、熱注入ポートを有することを特徴とする請求項1に記載の多相接触装置。
【請求項16】
前記第1の回転可能なディスクが第1の電荷極性を有し、
前記第2の回転可能なディスクが、前記第1の電荷極性とは反対の第2の電荷極性を有することを特徴とする請求項1に記載の多相接触装置。
【請求項17】
i)前記第1のディスクの表面、ii)前記第2のディスクの表面、またはその両方が、触媒を含むことを特徴とする請求項1に記載の多相接触装置。
【請求項18】
前記ディスク表面が、マイクロ構造体を含むことを特徴とする請求項17に記載の多相接触装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体として化学多相プロセスに関し、詳細には、遠心分離と向流物質移動を統合した向流多相接触のための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化学工業においては、全工業プロセスの80〜90%が多相接触(multiphase contacting)に関与している。これらのプロセスの主たる部分は、アフィニティー(親和性)の差に基づく分離に見られる。これは、未処理資源(原材料)及び生成物の流れから不純物を除去する(精製する)ための重要な方法である。そのような方法の例は、蒸留(気液相)、結晶化(液固相、固液固相、気液固相)及び非混和性液での抽出(液液)や固体吸着剤での抽出(液固)である。上記の例に挙げたプロセスにおいては、括弧内に示したように通常2相以上の集合相(気、液、固またはその混相)が存在し、これらの相は向流接触させられる。向流流れは、関連する相間の密度差及び重力加速度により達成される。相の向流接触は、プロセス効率に極めて重要である。多相プロセスの別の重要な要素は多相反応器であり、これは通常、反応物または生成物が難溶性かつ多くの場合に高反応性のガスであるときに用いられる。生成物が抑制されているかまたは平衡が成立している多相反応の場合、相の向流接触はプロセス効率に不可欠である。多相反応の残りの部分は、ほぼ同じように効率的に、並流で起こさせることができる。全ての分離プロセス及び多相反応の大部分では、物質移動速度がプロセス効率及びプロセス設計を決定する。充填塔や段塔など従来の装置では、物質移動速度が遅いので、装置の大型化を招き、高さは10〜100メートル、直径は数メートルにもなっていた。
【0003】
物質移動速度の増加は、直接的に、装置の小型化、材料効率の向上及びエネルギー消費の節減をもたらし、結果的に、操業コスト及び投資コストの低減につながる。より高機能の装置、例えばCINC社やルスレ・ロバテル社(Rousselet-Robatel)製の装置などでは、先ず2相を激しく混合し、その後、遠心分離させることによって、物質移動が促進される。激しく混合するステップにおいては通常、微細分散化によって物質移動が促進され、相平衡状態に近づくことになる。ほとんどの抽出には、いくつか(10〜100)の平衡ステップが望ましい。従って、遠心分離後に、これらの相は向流で次のステージ(段)へポンピングされる。ここで、CINCプロセスは本質的にはユニットの繰り返しである。多段プロセスでは、ステージ数の増加とともにサイズが急激に大きくなる。さらに、遠心分離ユニットは混合ステージよりも大きい。ルスレ・ロバテル社製の装置では、激しく混合するステップはないがより小さな遠心段を有する同様のシステムが単一の軸に統合されている。別の例では、ラムショー(Ramshaw)の分離装置において、アルファ・ラバル社(Alfa Laval)製のシステムと同様に、単段において気液を非常に効率的に接触させるための、大きな表面積を有する、薄膜を生成するための回転ディスクと、ペアリングチューブにより段間で向流接触を実現させるための重力とが用いられていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、効率的かつコンパクトな向流式の多相接触及び単相接触装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
当分野におけるニーズに応えるため、本発明は、多相接触装置を提供する。該多相接触装置は、a.円盤状空洞部、
第1の入口ポート及び
第1の出口ポートを有する中空の第1の回転可能なディスクと、b.第1の回転可能なディスクの円盤状空洞部内において第1の回転可能なディスク
の回転軸に対して同軸的に配置され、かつ、チャネルをなす空洞部、
第2の入口ポート及び
第2の出口ポートを有する、
第1の回転可能なディスクとは独立に回転可能な第2の回転可能なディスクとによって構成される接触ステージを含み、該接触ステージでは、被分離物質の遠心分離及び向流物質移動が統合的に行われる。
【0006】
本発明の一態様では、第1及び第2の回転可能なディスクは、同軸回転するように構成されかつ軸方向において互いから0.05mmの離間距離を隔てて配置されている。
【0007】
本発明の別の態様によれば、第1及び第2の回転可能なディスクは、5000rpm以下の速度で回転する。
【0008】
本発明のさらなる態様では、第1及び第2の回転可能なディスクは、互いに同一方向または逆方向に回転する。
【0009】
本発明のさらに別の態様では、第1の回転可能なディスクは第1の速度で回転し、第2の回転可能なディスクは第2の速度で回転する。
【0010】
本発明の一態様によれば、接触ステージは2段以上積層されており、被分離物質は、
第1の入口ポート
、第2の入口ポート、第1の出口ポート、及び
第2の出口ポートを通って積層された接触ステージ間を移動可能である。
【0011】
本発明のさらなる態様では、第1及び第2の回転可能なディスクは、回転時に被分離物質に遠心力を作用させるように接触装置内に配置されている。
【0012】
本発明の別の態様では、第1の回転可能なディスクはガス入口ポートを有する。
【0013】
本発明のさらに別の態様では、第2の回転可能なディスク内に形成されたチャネルは、被分離物質の相対的に軽い相を回転軸に向かって移動させかつ相対的に重い相を半径方向外向きに移動させることによって相対的に重い相から相対的に軽い相を分離するように配置されている。
【0014】
本発明の別の態様によれば、回転速度は、被分離物質の特性、ディスクの半径及びディスクの間隔に応じて決められる。
【0015】
本発明のさらなる態様では、第1の回転可能なディスクは伝熱チャネルを含む。
【0016】
本発明のさらに別の態様では、第1及び第2の回転可能なディスク間に
堰が配置される。
【0017】
本発明の一態様によれば、第2の回転可能なディスクは、互いに対向配置されかつチャネルを形成する壁を介して互いに隔てられた1対の円盤状プレート(板)を含む。一態様では、1対の円盤状プレートは、互いから0.05mmの離間距離を隔てて配置される。さらに、1対の円盤状プレートは、互いに同じかまたは異なる径を有する。
【0018】
本発明の一態様によれば、チャネルは、半径方向外向きに延在する線形または非線形形状をなす。
【0019】
本発明のさらに別の態様では、第1の回転可能なディスクは熱注入ポートを有する。
【0020】
本発明のさらなる態様では、第1の回転可能なディスクは第1の電荷極性を有し、第2の回転可能なディスクは第1の電荷極性とは反対の第2の電荷極性を有する。
【0021】
本発明のさらなる態様では、第1のディスクの表面及び/または第2のディスクの表面は触媒を含む。一態様では、ディスク表面はマイクロ構造体を含む。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】(a)及び(b)からなり、本発明の一実施形態に従う、軸に装着されていない状態の中空ポンピングディスクをコンピュータレンダリングしたものを示す。
【
図2】本発明の一実施形態に従う、軸に装着されていない状態の中空ポンピングディスクの写真を示す。
【
図3】本発明の一実施形態に従う単一の接触ステージ(単段)を示す。
【
図4】本発明の一実施形態に従う複数の接触ステージ(多段)を示す。
【
図5a】本発明の一実施形態に従う3次元の単段式接触器の構造図を示す。
【
図5b】本発明の一実施形態に従う3次元の単段式接触器の構造図を示す。
【
図6a】本発明の一実施形態に従う単段式接触器を示す
図5a及び
図5bのy−z平面の断面図である。
【
図6b】本発明の一実施形態に従う単段式接触器を示す
図5a及び
図5bのy−z平面の断面図である。
【
図7】A〜Fからなり、A〜Dは、本発明の一実施形態に従って、重相(水、灰色)と軽相(ヘプタン、白色)からなる2相流において、ディスク回転速度が50〜300rpmであるときの、ディスクの中心に向かう軽相のらせん流を示す。E〜Fは、本発明の一実施形態に従って、回転速度が500rpmを超えるときの、水中に乳化させたヘプタンの乳化流(emulsified flow)を示す。
【
図8】本発明の一実施形態に従って、任意選択のガス注入口を備えた単段式回転ディスク型スラリー反応器を示す。
【
図9】本発明の一実施形態に従って、任意選択のガス注入口を備えた多段式回転ディスク型スラリー反応器を示す。
【
図10】本発明の一実施形態に従って、ロータステータ回転ディスク反応器内における液−液物質移動速度を示す。
【
図11】本発明の一実施形態に従って、伝熱を可能にする冷却または加熱用の液体が流れるチャネルを有するステータを示す。
【
図12】(a)及び(b)からなり、本発明の一実施形態に従って、互いに等しいかまたは異なる径を有する上板及び下板を備えた2つの異なるポンピングディスク構成を示す。
【
図13】本発明の一実施形態に従って、ロータの内側における液体の気化とロータの外側における気化蒸気の凝縮との間の効率的な伝熱のために、内側ロータの両側で高い熱伝達率が適用される多段式蒸発装置を示す。
【
図14】本発明の一実施形態に従って、表面にミクロレベルの柱状体を含むディスク上に堆積させた触媒を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態は、互いから狭い間隔を隔てて配置された2つ以上の回転ディスクを有する向流式多相接触装置を含む。ここで、狭い間隔とは、好適には5mm以下の間隔、より好適には2mm以下の間隔、場合によりさらに好適には0.05mmの間隔であり、各ディスクは個々に5000rpm以下の回転速度を有し、各ディスクは、他のディスクに対して個々に同一方向または逆方向に回転する。
隣接する回転ディスクの間に、例えば開口を有するディスクである堰が配置されてもよい(図5b、図6b参照)。2つ以上のディスクの集合体は、接触ステージを構成する。ディスクの回転により生じる遠心力によって、1つのステージで相分離が行われ、軽相は回転軸に向かって移動し、重相は半径方向外向きに移動する。これらのディスクの配置は、軽相と重相の向流接触が当該ステージのみならずステージ間でも生じるようになされる。この目的を達成するために、中空ディスク(
図1の(b)(底面図)及び(a)(上面図)を参照)が用いられ、この中空ディスクにより、軽相は、或る接触ステージの回転軸の中心部から次の接触ステージ(軽相の下流側に位置するステージ)におけるディスクの外側へポンピングされる(
図3ないし
図6bの機械図を参照)。これに対して、重相は、圧力差及び連続性によって、軸方向に前の接触ステージ(重相の下流側に位置するステージ)へ流れる。回転ディスク間の小さな間隔及び回転速度差により、0〜300rpmという低回転速度においても高い物質移動性が得られる。このことは、n−ヘプタンと安息香酸の混合物を水と接触させて安息香酸を抽出する場合において既に実証されている。低回転速度では、軽相のらせん流が形成される。300rpmを超える高回転速度においてのみ、水中にn−ヘプタンの小液滴が分散された分散流が形成される。これらの液滴はまた、らせん運動で中心へ移動する。観察された流動様式を
図7のA〜Fに示す。色が濃い部分は水相を示し、色が薄い部分はn−ヘプタン相を示している。分散流は、らせん流に比べて、2液間の接触面積及びシステム内の乱流が大きいので、物質移動性が高い。全物質移動係数を
図10に示す。物質移動の視点から見ると、高回転速度にすることが魅力的であるように思える。しかし、高回転速度での水相からのn−ヘプタンの小液滴の分離は、低回転速度での水相からのn−ヘプタンの大きならせん渦構造の分離よりも困難である。相分離が不完全であると、抽出効率が大きく低下する。また、小液滴が存在する場合に高回転速度で回転ディスクを回転させると、システム内の乱流によってより多くのバックミキシングが生じ、向流接触が部分的に失われる。従って、ディスクの回転速度の差は小さい方が好ましい。最適な回転速度は、高い物質移動性、向流栓流挙動の維持及びエネルギー消費の観点から、流体の特性、ディスクの半径及びディスクの間隔に応じて決められる。
【0024】
本発明では、向流接触及び遠心分離を組み合わせることで、抽出効率が、遠心分離器よりも少なくとも10倍増加し、従来の装置よりも10〜100倍増加することが分かった。
【0025】
本発明のさらなる利点は、被分離物質が気体(ガス)である場合には、分散相の体積分率が10倍小さいことである。これにより、本発明の一実施形態は、反応過程における有害/爆発性ガス混合物の安全な使用に適したものになる。気体量を小さくすることによって大きな事故の衝撃を大幅に軽減することができ、ディスク間隔を狭くすることによって気体混合物の爆発が阻止される。
【0026】
反応器の重要かつ必須の機能は、効率的に熱を加えたり除去したりできることである。本発明の場合、ロータ(回転子)とステータ(固定子)との間を流れる流体からの熱伝達率は、従来の装置における熱伝達率に比べて非常に高く、20〜100kW/m
2/sの範囲内で、最大で100倍近く高くなることもある。ステータは、冷却用伝熱液体を流すための複数のチャネルを有し得る。そのようなチャネルを
図11に示す。なお、チャネルと伝熱流体との熱伝達率は、慣用的な低熱伝達率が用いられ、伝熱が低く抑えられている。必要があれば、伝熱流体側にロータを設けることによって、熱伝達率をさらに高めることができる。この構成を用いて、溶剤、例えば、水、トルエン、トリクロロエチレンまたは揮発性生成物を、プロセス流から非常にエネルギー効率よく除去することができる(
図13を参照)。本発明の装置では、内側(または外側)をプロセス流が流れ、外側(または内側)から熱が加えられて、液体は熱せられて気化し始める(蒸気になる)。この蒸気及び液体は、出口に向かって同じ向きに流れる(並流)。出口では、遠心力によってプロセス流から蒸気が分離され、精製された(純粋な)液体が得られる。蒸気は、より高い圧力及び温度において過飽和状態になるまで断熱圧縮され、外側(または内側)へ向流で供給される。蒸気相は、凝縮を開始するので、蒸気が完全に凝縮されるまでより高温の気化の潜熱を与えることになる。高温の凝縮蒸気の熱はさらに、上記プロセス流の加熱に用いられる。一実施形態では、内側の流れが上向きでかつ外側の流れが下向きであることが望ましく、場合によっては不可欠ですらある。流れの向きを逆にすると、液相はロータと連続的に接触することができず、加速が不安定になる。その結果、モータに加えられるトルクが大きく変動するため、機械的な故障が即発生する。本発明の一実施形態によれば、精製された液体の熱を任意選択で上記プロセス流の加熱に用いることもできる。このようにして、気化の潜熱及び顕熱はほぼ完全に回収される。本発明の装置における電力消費は、本発明の装置の軸を駆動するモータによる電力消費と、圧縮機による電力消費だけである(500〜1500W以下)。本発明のプロセスは、最高許容圧力及び温度において最も効率的に作動させることができる。本発明の装置の容積は小さい(
図13の装置の容積は10
−4m
3以下である)ので、圧力を高くした場合でも、装置のコストは、従来の装置において予期されるほどには上昇しない。
【0027】
本発明は、スラリー反応器として適用することもできる。ここで、スラリーとは、反応物と、分散されかつ反応を不均一に触媒する粒子とを含んでなる流体である。回転ディスク型スラリー反応器の概略図を
図8及び
図9に示す。単一ステージ(単段)構成においては、2つのステータディスク間に空洞部が形成されており、そこで中空ディスクが高速回転している。回転ディスクとステータの間隔は、通常1mmである。中空ディスクの中空間隔も1mmである。空洞部内の液体には触媒粒子が含まれている。この液体は十分に混合されており、粒子の著しい分離は見られない(単一粒子及び液液システムを用いた実験に基づく)。軸近傍において上部及び/または下部から液体反応物が供給される。スラリー中では不均一触媒反応が生じる。液体は、中空ディスクを通過して反応器から出ていく。触媒粒子は、遠心力によりスラリーから効果的に分離される。斯くして、触媒粒子はシステム内に残る。
【0028】
本発明のさらなる実施形態によれば、反応物として、または生成物を取り出すために、気体(ガス)が供給される。単一の回転軸に複数の回転ディスクを装着した構成の場合、栓流挙動を模倣することとなるスラリーステップを数回繰り返す。栓流挙動は、連続反応の場合、より高い変換及びより高い選択性を与える。互いに隣接するステージ間のシールは、気泡である。各ステージにおいて、任意選択で気体を加えることができる。任意選択でより軽い液体を加えて、ガス(気泡)シールをより軽い液体のシールにしてもよい。本発明のさらなる実施形態の多段式回転ディスク型スラリー反応器を
図9に示す。本発明の効果は絶大である。回転ディスクの回転速度を2000rpm、ディスク径を13cmにした場合、2nmという極小径のスラリー触媒を用いることができる。触媒粒子を体積比で10パーセント含む様々な触媒システムの特性の概略を表1に示す。
【表1】
【0029】
通常、2×10
−6〜50×10
−6mの炭素またはアルミナからなる触媒支持粒子上に、2〜20nmの貴金属触媒粒子が支持されている。通常、反応は高速であり、拡散が制約されることを防ぐために小さな支持粒子を必要とする。回転ディスク型スラリー反応器では、貴金属粒子は液体内を自由に移動しかつ良好なアクセス性(accessibility)を有する。物質移動係数は、従来の触媒のものよりも100万倍〜1億倍大きく、超高速反応に理想的である。本発明によれば、上記したように高い熱伝達率を達成することができるので、超高速反応の場合に通常生じる高い反応熱を本発明の装置内で効率的に除去することができる。
【0030】
本発明は、マイクロスケールでの混合に敏感であるプロセス、例えば、結晶化、重合並びに逐次及び/または同時競争反応のための反応器として用いることができる。望ましい反応生成物の結晶サイズ分布、分子量及び/または選択性並びに収率は、このスケールにおける混合強度の影響を受ける。回転速度を毎分2000回転(rpm)以下にし、間隔距離を0.5mmにすることにより、10
−3〜10
−6秒間の範囲内のマイクロ混合時間を実現させた。この場合、より短い10
−7秒間の混合時間も実現可能であるが、既知の反応システムでそのような短い混合時間が要求されることはめったにない。
【0031】
本発明のさらなる実施形態では、遠心分離と向流物質移動のステップを統合的に行う向流式多相接触装置が提供される。この統合により、プロセス効率を増大させることができ、また、プロセスのための装置を小型化し、従来の装置の10分の1ないし100分の1に、既存の遠心分離器の2分の1ないし50分の1にすることができる。本発明の一実施形態によれば、代表的なマイクロ混合時間は10
−3〜10
−6秒間である。装置を小型化することにより、極端な温度及び圧力において安全にかつコスト効率よくプロセスを実行することができる。過剰な装置コストを必要とすることなく、別の材料、被覆(コーティング)及び物質の生成/構成プロセスを用いることができる。
【0032】
ここまで、いくつかの例示的な実施形態に従って本発明の説明をしてきたが、それらは制限的なものではなく、全ての態様において例示を目的としたものである。それゆえ、本発明は、詳細な実施において多くの変形形態が可能であり、そのような変形形態は、本明細書に記載の説明から当業者が導き出すことができるものである。例えば、
図3に示した本発明の実施形態は、気相、液相及び/または固相、あるいはその任意の組合せからなる2以上の相を含むことができ、これらは、回転速度が異なるかまたは等しい2つの回転ディスク間で向流接触させられる。
図3に示されている実施形態のさらなる態様では、少なくとも一方のディスクは、ポンピングディスクとして働き、
図12の(a)及び(b)に示した実施形態の構成に従って入口及び出口を含んで構成され、かつ、2つのディスクの直径は互いに等しいかまたは異なっている。さらなる変形形態は、複数のステージを含み、そのうちの1つのステージは上記したポンピングディスク装置に相当し、2つ以上の流体が当該1つのステージにおいて向流接触させられかつステージからステージへ向流で流れるように構成されている。これらの変形形態では、1つ以上のディスクの表面上に触媒が堆積されるが、該表面は、より多くの触媒を堆積させかつ/または物質移動を促進させるために、
図14に示したように、ミクロレベルで直径1〜5μm、長さ50μm以下の柱状体が複数形成された構造を有することができる。互いに速度の異なるディスクまたはポンピングディスクの実施形態に加えて、軽い固相及び重い固相が形成され、互いに逆方向に回転ディスクの中心及び外端へそれぞれ移動する。あるいは、気相及び固相が形成され、互いに逆方向に回転ディスクの中心及び外端へそれぞれ移動する。さらなる変形形態には、
図9に示したように、電気化学反応を行う目的で、カソードをなす複数のディスク及びアノードをなす複数のディスクが含まれる。
【0033】
全てのそのような変形形態は、以下の特許請求の範囲及びその法的等価物によって定義される本発明の範囲及び趣旨に含まれるものと考えられる。