特許第5989214号(P5989214)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5989214アンモニア酸化触媒、およびそれを用いた排気ガス浄化装置並びに排気ガス浄化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989214
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】アンモニア酸化触媒、およびそれを用いた排気ガス浄化装置並びに排気ガス浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/78 20060101AFI20160825BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20160825BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20160825BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20160825BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20160825BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20160825BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   B01J29/78 AZAB
   F01N3/28 301D
   F01N3/28 301F
   F01N3/24 E
   F01N3/08 B
   F01N3/10 A
   B01D53/94 222
   B01D53/94 400
   B01D53/94 228
   B01J37/02 301L
【請求項の数】14
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-203431(P2015-203431)
(22)【出願日】2015年10月15日
(62)【分割の表示】特願2013-507280(P2013-507280)の分割
【原出願日】2012年2月24日
(65)【公開番号】特開2016-40038(P2016-40038A)
(43)【公開日】2016年3月24日
【審査請求日】2015年10月15日
(31)【優先権主張番号】特願2011-77186(P2011-77186)
(32)【優先日】2011年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228198
【氏名又は名称】エヌ・イーケムキャット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100185018
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 亜矢
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友章
(72)【発明者】
【氏名】岡島 利典
(72)【発明者】
【氏名】日原 隆志
(72)【発明者】
【氏名】永田 誠
【審査官】 延平 修一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−016462(JP,A)
【文献】 特開2006−289211(JP,A)
【文献】 特開平07−328437(JP,A)
【文献】 特開平07−328438(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00544282(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B01D 53/94
F01N 3/08
F01N 3/10
F01N 3/24
F01N 3/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希薄燃焼機関から排出される排気ガスに、窒素酸化物の還元剤として尿素またはアンモニアを添加し選択還元型触媒(SCR)により窒素酸化物を選択的に還元する際に、余剰のアンモニアを酸化除去するためのアンモニア酸化触媒(AMOX)において、
一体構造型担体の表面に、少なくともチタニア及びシリカを主成分とする複合酸化物(A)、アルミナ、又はアルミナ及びシリカからなる複合酸化物(B)のいずれかを含む無機母材に、貴金属元素を担持した触媒、及び複合酸化物(C)、又はゼオライト(D)を含む触媒層(下層)と、少なくともシリカ、酸化タングステン、セリア、及びジルコニアからなる複合酸化物(C)を含む触媒層(上層)を有する、少なくとも二層の触媒層を被覆してなり、複合酸化物(C)の組成が、シリカ:20重量%以下、酸化タングステン:1〜50重量%、セリア:1〜60重量%、及びジルコニア:30〜90重量%であることを特徴とするアンモニア酸化触媒。
【請求項2】
複合酸化物(A)の組成が、チタニア:60〜99重量%及びシリカ:1〜40重量%であることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア酸化触媒。
【請求項3】
複合酸化物(A)が、さらに、ジルコニア、又はアルミナを含み、その含有量が、30重量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアンモニア酸化触媒。
【請求項4】
複合酸化物(B)の組成が、アルミナ:70〜99.9重量%及びシリカ:0.1〜30重量%であることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア酸化触媒。
【請求項5】
複合酸化物(C)の組成が、シリカ:0.1〜5重量%、酸化タングステン:3〜30重量%、セリア:5〜40重量%、及びジルコニア:50〜90重量%であることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア酸化触媒。
【請求項6】
担持する貴金属元素が、白金であることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア酸化触媒。
【請求項7】
ゼオライト(D)が、少なくとも鉄を含み、その含有量がFe換算で0.1〜5重量%であることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア酸化触媒。
【請求項8】
複合酸化物(A)又は複合酸化物(B)を含む無機母材に担持される貴金属元素の含有量が、一体構造型担体の単位体積あたり0.01〜1.0g/Lであることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア酸化触媒。
【請求項9】
触媒層(下層)の複合酸化物(A)、アルミナ、又は複合酸化物(B)のいずれかを含む無機母材の被覆量が、一体構造型担体の単位体積あたり10〜60g/Lであることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア酸化触媒。
【請求項10】
触媒層(上層)の複合酸化物(C)の被覆量が、一体構造型担体の単位体積あたり10〜150g/Lであることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア酸化触媒。
【請求項11】
触媒層(下層)の複合酸化物(C)、又はゼオライト(D)の被覆量が、一体構造型担体の単位体積あたり2〜120g/Lであることを特徴とする請求項1に記載のアンモニア酸化触媒。
【請求項12】
排気ガス流路に、一酸化窒素、炭化水素の酸化機能を有する酸化触媒(DOC)と、パティキュレートマターを捕集し燃焼除去するフィルター(DPF)と、尿素水溶液もしくはアンモニア水溶液を供給する噴霧手段と、選択還元型触媒(SCR)と、請求項1〜11のいずれかに記載のアンモニア酸化触媒(AMOX)をこの順序で配置したことを特徴とする排気ガス浄化装置。
【請求項13】
選択還元型触媒(SCR)が、少なくとも鉄元素を含むゼオライト(D)と、シリカ、酸化タングステン、セリア、及びジルコニアからなる複合酸化物(C)を含む触媒層を一体構造型担体の表面に被覆してなることを特徴とする請求項12に記載の排気ガス浄化装置。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の排気ガス浄化装置を用いて、希薄燃焼機関から排出される排気ガスを酸化触媒(DOC)とフィルター(DPF)に通過させ、排気ガス中の炭化水素成分、一酸化炭素を浄化するとともに、一酸化窒素の多くを二酸化窒素に転化した後、尿素水溶液またはアンモニア水溶液を噴霧供給して、選択還元型触媒(SCR)を通過させて排気ガス中の窒素酸化物を還元し、余剰のアンモニアをアンモニア酸化触媒(AMOX)で酸化除去することを特徴とする排気ガス浄化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア酸化触媒、およびそれを用いた排気ガス浄化装置並びに排気ガス浄化方法に関し、より詳しくは、選択還元触媒に還元成分として尿素水やアンモニア水を噴霧供給することで、ボイラー、ガスタービン、またリーンバーン型ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等希薄燃焼機関から排気される窒素酸化物(NOやNO)を浄化する際に、高い空間速度(Space Velocity:SVともいう)下でも効果的にNOやNOxの副生およびアンモニアの漏出を抑制することができ、耐熱性に優れ圧力損失が小さく、かつ使用する貴金属量を低減可能なアンモニア酸化触媒、およびそれを用いた排気ガス浄化装置並びに排気ガス浄化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボイラー、リーンバーン型ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の希薄燃焼機関から排出される排気ガスには、その構造、種類に応じて、燃料や燃焼空気に由来した様々な有害物質が含まれる。このような有害物質には炭化水素(HC)、可溶性有機成分(Soluble Organic Fraction:SOFともいう)、煤(Soot)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)などがあり、これらは大気汚染防止法で規制されている。そして、それらの浄化方法として、排気ガスを触媒に接触させ、浄化する接触処理法が実用化されている。
【0003】
また、このような希薄燃焼機関では、燃料の種類や供給量に応じて燃焼に最適な量の空気を供給するなどの操作により燃焼温度を制御し、不完全燃焼物であるCOやTHCなどの有害物質の発生量を抑制することがあるが、一方で燃焼温度が高くなりNOxの生成を招く場合もある。このような状況は内燃機関でも同様であり、ディーゼル機関の場合は希薄燃焼によってエンジンを稼動する構造であることから、窒素酸化物が排出されやすい。中でも自動車に搭載されるディーゼルエンジンの場合、その稼動条件は常に変化することから、有害物質の発生を適切に抑制することは特に困難であった。
【0004】
このように排出される有害物質の浄化方法として、排ガス流路に触媒を設置する方法が広く検討されてきた。エンジンから排出される有害成分や排気ガス規制により使用する触媒は異なるが、主にSOF成分を浄化する目的の酸化触媒や未燃ガス成分を酸化浄化する目的の触媒、またそれらとフィルターを組み合わせ、煤成分を捕集・酸化浄化させる触媒システムなどが提案されてきた。これらの触媒には酸化反応を促進させる目的で主にPtやPdなどの貴金属が使用されている。ディーゼルエンジンはガソリンエンジンなどに比べると比較的排気量が大きく流出する排気ガス量が多いことから、十分な浄化性能を得る為には必然的に触媒の容積もガソリンエンジン用触媒などと比べると大きくなり、使用される貴金属量も多い。自動車からの排出ガス規制が先行していたガソリンエンジン用触媒も従来から貴金属成分を使用しており、ディーゼルエンジンの排出ガス規制の強化により、地球上の資源のなかでも比較的希少で高価な貴金属がますます使用される状況となった。
【0005】
加えてNOxの排出ガス規制に伴い、NOx浄化触媒としてNOx吸蔵触媒や選択還元触媒(Selective Catalytic Reduction:以下、SCRということがある)を用いた触媒システムも提案されてきた。
SCR触媒にはNOx浄化に用いる還元剤が数種知られているが、NH成分を還元剤として用いるSCRでは、主として次に示す反応式(1)〜(3)によって、NOxを最終的にNに還元する。
4NO+4NH+O→4N+6HO ・・・(1)
6NO+8NH→7N+12HO ・・・(2)
NO+NO+2NH→2N+3HO ・・・(3)
【0006】
このような反応機構を利用した脱硝触媒システムには、還元成分としてガス化したNHを用いても良い。しかし、NHはそれ自体、刺激臭があるなど有害性を有するため、NH成分として脱硝触媒の上流から尿素水を添加して、熱分解や加水分解によりNHを発生させ、還元剤として前記式の反応により脱硝性能を発現させる方式が提案されている。
【0007】
このように尿素の分解でNHを得る反応式は、以下のとおりである。
NH−CO−NH→NH+HNCO (尿素熱分解)
HNCO+HO→NH+CO (イソシアン酸加水分解)
NH−CO−NH+HO→2NH+CO (尿素加水分解)
【0008】
排気ガス中のNOxの浄化に際しては、供給されたNHが前記脱硝反応(1)〜(3)においてすべて消費されるのが理想的である。しかし実走行条件で過渡的な運転条件が想定されるディーゼルエンジン搭載車両でのNOx浄化においては、あらゆる走行条件にも効果的にNOx浄化できるように、反応消費分よりも過剰な還元剤を供給し意図的にSCR触媒表面上に吸着させたNHを用いることも想定されている。このようにNHがSCR触媒に吸着した状態で急加速されるなどにより排気ガス温度が急昇温すると、脱離したNHがNOx浄化反応には寄与せず、SCR触媒下流に漏出(以下、スリップ、またはNHスリップということがある)し、新たな環境汚染などの二次公害を引き起こす危険性が指摘されていた。
【0009】
このような問題の対策として、吸着NHを用いたNOx浄化を必要としない程度にSCRの容量を大きくする事も考えられるが、自動車用途では触媒の搭載容量や配置に制限があり、単純にSCRの触媒容量を増やすという対応は現実的な解決策とは言い難い。
【0010】
これ以外にも、SCR触媒だけでなくその他の触媒を加えた後処理システムとして様々な触媒技術が検討されてきた(特許文献1、特許文献4)。また、SCRからスリップしたNHを浄化するために、SCRの後段に白金(Pt)やパラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)などをアルミナなどの母材に担持したNH浄化触媒を設置して、スリップしたNHを下記反応式(4)のように酸化する浄化方法も検討されてきた。
2NH+3/2O→N+3HO ・・・(4)
【0011】
しかし、上記のNHを浄化する触媒では、触媒活性種として酸化性能が高い白金や、パラジウム、ロジウムなどの貴金属成分を用いることから、下記反応式(5)〜(7)のように、NHの酸化と同時に新たにNOやNO、NOなどのNOx成分の発生を引き起こす問題があった。
2NH+5/2O→2NO+3HO ・・・(5)
2NH+7/2O→2NO+3HO ・・・(6)
2NH+2O→NO+3HO ・・・(7)
【0012】
このようなNOxの発生を抑制するため、下層にNHの酸化分解活性を有する成分を配し、上層に脱硝成分を配した浄化触媒が提案されている(特許文献5)。これはNH酸化によりNHを浄化するのみならず、上述反応式(5)〜(7)のNH酸化によって生じるNOxを、酸化反応にまだ使用されていないスリップNHと反応させNOx浄化反応も担う触媒とも解釈できる。上層の脱硝成分としてはチタン、タングステン、モリブデン、又はバナジウムから選ばれる1種以上の酸化物を用いた排ガス浄化用触媒(特許文献2参照)や、上層にCe−Ti−SO−Zr系成分とFe−Si−Al酸化物系成分の混合系を用いたアンモニア酸化分解触媒(特許文献3参照)、上層にFeあるいはCe含有ゼオライトを用いた浄化触媒(特許文献6参照)も提案されている。これらのNH浄化を担う触媒にもNH酸化成分として貴金属が使用されている。
【0013】
ここまで述べたように年々排出ガス規制が厳しくなる中で、排ガス浄化触媒システムが車に搭載される比率が高くなり、希少で高価な貴金属を多量に使用する状況で貴金属価格が高騰してきた。一方で自動車排気ガス浄化触媒としてはあまりにも高価な触媒は車両価格が高くなる一因となるために現実的ではなく、より少ない貴金属使用量で十分な浄化性能が発揮される、より安価な活性成分による浄化技術が検討されている。
【0014】
例えば貴金属粒子と助触媒成分および基材で構成される触媒系において、シンタリングにより貴金属粒子と助触媒成分の接触面積が減少しないように、逆ミセル法を用いて触媒のミセル内部に貴金属塩と金属塩とを同時に存在した状態として複合微粒子を形成することにより、金属化合物の有する助触媒効果が発揮されるようにし、触媒活性が高く低コストの高耐熱性触媒を得る事ができると記載されている(特許文献7)。また例えば、自動車触媒における白金族元素の代替金属としてAuをもちいた排ガス触媒について多くの研究がなされている。例えば、高いCO酸化活性を有するAu触媒からなる排気ガス浄化触媒として、セリア含有量が40〜80重量%のセリア−ジルコニア固溶体からなる担体にAuを担持することなどが報告されている(特許文献8)。
【0015】
このような状況の中で、上述のNHを還元剤として用いるSCR触媒システムにおいて、スリップNHの浄化を目的とした触媒の貴金属使用量を低減でき、NOやNOxの発生を抑制する機能も有するスリップNH浄化触媒が求められていた。
特に、スリップNH浄化触媒は排気ガス浄化装置の最後尾で使用される関係で排気ガスの温度が配管内を通る間に低下し、スリップNH浄化触媒の触媒床温度が低くなってしまうので、より低温で高いNH浄化性能を発揮する触媒が切望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特表2004−524962号公報
【特許文献2】特開平10−5591号公報
【特許文献3】特開2005−238195号公報
【特許文献4】特表2002−502927号公報
【特許文献5】特開平07−328438号公報
【特許文献6】特願2008―279334号公報
【特許文献7】特開2005―185969号公報
【特許文献8】特開2008―296107号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、上記従来の課題に鑑み、選択還元触媒に還元成分として尿素水やアンモニア水を噴霧供給することで、ボイラー、ガスタービン、またリーンバーン型ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の希薄燃焼機関から排気される窒素酸化物(NOやNO)を浄化する際に、選択還元触媒からスリップしたアンモニアを高い空間速度(SV)下でも効果的にNOやNOxの副生を抑制しつつ酸化浄化することが可能なアンモニア酸化触媒(AMOX)において、耐熱性に優れ圧力損失が小さくかつ使用する貴金属量を低減可能なアンモニア酸化触媒、およびそれを用いた排気ガス浄化装置並びに排気ガス浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、このような上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、NH3成分を還元剤として用いてNOx成分を選択還元型触媒により浄化する際、選択還元型触媒の後段に、一体構造型担体の表面に、少なくともチタニア及びシリカを主成分とする複合酸化物(A)、又はアルミナ及びシリカからなる複合酸化物(B)を含む無機母材に、貴金属元素を担持した触媒、及び複合酸化物(C)、又はゼオライト(D)を含む触媒層(下層)と、少なくともシリカ、酸化タングステン、セリア、及びジルコニアからなる複合酸化物(C)を含む触媒層(上層)を有する、少なくとも二層の触媒層を被覆した触媒を配置することで、選択還元型触媒からのスリップNHを低貴金属担持量でも高貴金属担持量と同等レベルで酸化浄化が可能になることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、希薄燃焼機関から排出される排気ガスに、窒素酸化物の還元剤として尿素またはアンモニアを添加し選択還元型触媒(SCR)により窒素酸化物を選択的に還元する際に、余剰のアンモニアを酸化除去するためのアンモニア酸化触媒(AMOX)において、一体構造型担体の表面に、少なくともチタニア及びシリカを主成分とする複合酸化物(A)、アルミナ、又はアルミナ及びシリカからなる複合酸化物(B)のいずれかを含む無機母材に貴金属元素を担持した触媒、及び複合酸化物(C)、又はゼオライト(D)を含む触媒層(下層)と、少なくともシリカ、酸化タングステン、セリア、及びジルコニアからなる複合酸化物(C)を含む触媒層(上層)を有する、少なくとも二層の触媒層を被覆してなり、複合酸化物(C)の組成が、シリカ:20重量%以下、酸化タングステン:1〜50重量%、セリア:1〜60重量%、及びジルコニア:30〜90重量%であることを特徴とするアンモニア酸化触媒が提供される。
【0020】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、複合酸化物(A)の組成が、チタニア:60〜99重量%及びシリカ:1〜40重量%であることを特徴とするアンモニア酸化触媒が提供される。
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、複合酸化物(A)が、さらに、ジルコニア、又はアルミナを含み、その含有量が、30重量%以下であることを特徴とするアンモニア酸化触媒が提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、複合酸化物(B)の組成が、アルミナ:70〜99.9重量%及びシリカ:0.1〜30重量%であることを特徴とするアンモニア酸化触媒が提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第1の発明において、複合酸化物(C)の組成が、シリカ:0.1〜5重量%、酸化タングステン:3〜30重量%、セリア:5〜40重量%、及びジルコニア:50〜90重量%であることを特徴とするアンモニア酸化触媒が提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第1の発明において、担持される貴金属元素が白金であることを特徴とするアンモニア酸化触媒が提供される。
また、本発明の第7の発明によれば、第1の発明において、ゼオライト(D)が少なくとも鉄を含み、その含有量がFe換算で0.1〜5重量%であることを特徴とするアンモニア酸化触媒が提供される。
また、本発明の第8の発明によれば、第1の発明において、複合酸化物(A)又は複合酸化物(B)を含む無機母材に担持される貴金属元素の含有量が、一体構造型担体の単位体積あたり0.01〜1.0g/Lであることを特徴とするアンモニア酸化触媒が提供される。
【0021】
また、本発明の第9の発明によれば、第1の発明において、触媒層(下層)の複合酸化物(A)、アルミナ、又は複合酸化物(B)のいずれかを含む無機母材の被覆量が、一体構造型担体の単位体積あたり10〜60g/Lであることを特徴とするアンモニア酸化触媒が提供される。
また、本発明の第10の発明によれば、第1の発明において、触媒層(上層)の複合酸化物(C)の被覆量が、一体構造型担体の単位体積あたり10〜150g/Lであることを特徴とするアンモニア酸化触媒が提供される。
また、本発明の第11の発明によれば、第6の発明において、触媒層(下層)の複合酸化物(C)、又はゼオライト(D)の被覆量が、一体構造型担体の単位体積あたり2〜120g/Lであることを特徴とするアンモニア酸化触媒が提供される。
【0022】
また、本発明の第12の発明によれば、排気ガス流路に、一酸化窒素、炭化水素の酸化機能を有する酸化触媒(DOC)と、パティキュレートマターを捕集し燃焼除去するフィルター(DPF)と、尿素水溶液もしくはアンモニア水溶液を供給する噴霧手段と、選択還元型触媒(SCR)と、第1〜11のいずれかの発明のアンモニア酸化触媒(AMOX)をこの順序で配置したことを特徴とする排気ガス浄化装置が提供される。
さらに、本発明の第13の発明によれば、第12の発明において、選択還元型触媒(SCR)が、少なくとも鉄元素を含むゼオライト(D)と、シリカ、酸化タングステン、セリア、及びジルコニアからなる複合酸化物(C)を含む触媒層を一体構造型担体の表面に被覆してなることを特徴とする排気ガス浄化装置が提供される。
【0023】
一方、本発明の第14の発明によれば、第12又は13の発明の排気ガス浄化装置を用いて、希薄燃焼機関から排出される排気ガスを酸化触媒(DOC)とフィルター(DPF)に通過させ、排気ガス中の炭化水素成分、一酸化炭素を浄化するとともに、一酸化窒素の多くを二酸化窒素に転化した後、尿素水溶液またはアンモニア水溶液を噴霧供給して、選択還元型触媒(SCR)を通過させて排気ガス中の窒素酸化物を還元し、余剰のアンモニアをアンモニア酸化触媒(AMOX)で酸化除去することを特徴とする排気ガス浄化方法が提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明のアンモニア酸化触媒によれば、各種希薄燃焼機関から排出される排気ガス中のNOxに対して、還元剤としてNH成分を選択還元型触媒により、例えば130〜560℃という低温から高温にかけての広い温度範囲で処理した場合に、スリップしたNHを従来技術に比べて低貴金属担持量であっても高い効率で浄化し、かつNOの副生やNHの酸化に伴う新たなNOxの発生を抑制することができる。また、触媒成分として、バナジウム等有害な重金属が含まれないことから、安全性が高い。さらに、圧力損失も軽減できることから低燃費化・高出力化の要請にも応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明のアンモニア酸化触媒(実施例)又は従来のアンモニア酸化触媒(比較例)を用いた場合のアンモニア転化率を表すグラフである。
図2】本発明のアンモニア酸化触媒(実施例)又は従来のアンモニア酸化触媒(比較例)を用いた場合のNO排出濃度を表すグラフである。
図3】本発明のアンモニア酸化触媒(実施例)又は従来のアンモニア酸化触媒(比較例)を用いた場合のNOx排出濃度を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明のアンモニア酸化触媒、およびそれを用いた排気ガス浄化装置並びに排気ガス浄化方法について、主に自動車に使用されるディーゼルエンジンを例にして詳細に説明する。
【0027】
1.アンモニア酸化触媒(AMOX)
本発明のアンモニア酸化触媒(以下、本触媒ともいう)は、希薄燃焼機関から排出される排気ガスに、窒素酸化物の還元剤として尿素またはアンモニアを添加し選択還元型触媒(SCR)により窒素酸化物を選択的に還元する際に、余剰のアンモニアを酸化除去するためのアンモニア酸化触媒(AMOX)において、一体構造型担体の表面に、少なくともチタニア及びシリカを主成分とする複合酸化物(A)、アルミナ、又はアルミナ及びシリカからなる複合酸化物(B)のいずれかを含む無機母材に貴金属元素を担持した触媒、及び複合酸化物(C)、又はゼオライト(D)を含む触媒層(下層)と、少なくともシリカ、酸化タングステン、セリア、及びジルコニアからなる複合酸化物(C)を含む触媒層(上層)を有する、少なくとも二層の触媒層を被覆してなり、複合酸化物(C)の組成が、シリカ:20重量%以下、酸化タングステン:1〜50重量%、セリア:1〜60重量%、及びジルコニア:30〜90重量%であることを特徴とする。
【0028】
(1)下層触媒層
本発明のアンモニア酸化触媒において、下層触媒層は、少なくともチタニア及びシリカを主成分とする複合酸化物(A)、アルミナ、又はアルミナ及びシリカからなる複合酸化物(B)のいずれかを含む無機母材に貴金属元素を担持した触媒、及び複合酸化物(C)、又はゼオライト(D)を含んでおり、アンモニア酸化機能を有する。
【0029】
(1−1)貴金属成分
本発明において、貴金属成分とは、白金、パラジウム、又はロジウムから選ばれる一種以上の元素である。このうち白金は酸化活性が高く、優れたNH酸化性能を発揮するので、主要な貴金属成分として、下層触媒層に含有することが望ましい。ここで、主要な貴金属成分とは、本発明の触媒に使用される貴金属の総量に対して50重量%以上含有させる成分をいい、貴金属の全てが白金であっても良い。
この場合、貴金属の使用量は、本発明の下層触媒層成分を一体構造型担体上に被覆した場合、一体構造型担体の単位体積あたり、0.01〜1.0g/Lである事が好ましく、0.02〜0.5g/Lである事がより好ましい。0.01g/L未満では貴金属の活性を充分に利用できず、1.0g/Lを超えてもそれ以上の効果の向上が期待できない。
【0030】
下層触媒層を形成する触媒成分は、貴金属が特にPt、又はPdであると優れた酸化性能を発揮する。上記のとおりPtは優れた酸化性の触媒活性種であるから、その比表面積を高く維持することで活性面が増え、高い活性を発揮することができる。
そのため、本発明では、チタニア及びシリカを主成分とし、必要に応じ、ジルコニア、アルミナを加えた複合酸化物(A)、アルミナ、又はアルミナ及びシリカからなる複合酸化物(B)を含む無機母材に貴金属が担持されることが好ましい。これにより貴金属を高分散に担持することができ、また耐熱性が高いので貴金属成分が焼結し難くなり、使用時における貴金属の高分散を長期間維持しうる。
【0031】
(1−2)複合酸化物(A)
複合酸化物(A)は、比表面積値が高く、耐熱性にも優れたチタニア及びシリカを主成分として含む無機母材であり、白金などの貴金属成分を高分散に担持することができる。
複合酸化物(A)の組成は、チタニア:60〜99重量%及びシリカ:1〜40重量%であることが好ましい。複合酸化物(A)は、さらに、ジルコニア、アルミナの少なくとも一種以上を含み、複合酸化物(A)に占めるジルコニア、アルミナの少なくとも一つの割合が0〜30重量%であることがより好ましい。
すなわち、本発明では複合酸化物(A)としてチタニアとシリカを必須とし、30重量%以下のジルコニア、アルミナの少なくとも一つを含む複合酸化物、例えばチタニア−シリカ、チタニア−シリカ−ジルコニア、チタニア−シリカ−アルミナ、又はチタニア−シリカ−ジルコニア−アルミナなどの無機酸化物が使用できる。
このような無機酸化物(無機母材)は、貴金属成分の分散性の点からいえば、比表面積(BET法による、以下同様)が30m/g以上であることが好ましく、更に100m/g以上であるものがより好ましい。比表面積値が30m/g以上であれば貴金属を高分散状態で安定に担持させることができる。
【0032】
(1−3)アルミナ
アルミナは、α−アルミナを除きBET比表面積が高く、耐熱性にも優れているので白金などの貴金属成分を高分散に担持させる母材として非常に有用である。
さらに、アルミナは、末端が水酸基(−OH基)となったものの他、Oが露出したもの、HOが配位してOが形成されたもの、Alの配位不飽和によりAlが形成されたものなどが多数存在する。これらがそれぞれ特異的に高い電荷(+−)を帯びているため、触媒の活性点として機能し易い。その内、正(+)の電荷を帯びた表面の活性点は一般に「酸点」と呼ばれ、水酸基(−OH基)の水素にNHが吸着する。
アルミナの種類は、BET比表面積の低いα−アルミナを除く、γ−アルミナ、δ−アルミナ、θ−アルミナ、又はベーマイトのいずれかが好ましい。
【0033】
(1−4)複合酸化物(B)
本発明では、上記のようにアルミナ単独でも良いが、アルミナはNHを吸着するものの自体の酸性は弱い。一方、シリカ単独ではNHを物理吸着しかできない。しかし、アルミナにシリカを加えた複合酸化物(B)は、NHを強く吸着すると共に酸点の数も多いので、貴金属によるNHの酸化活性を促進することができる。
そのため、本発明では、BET比表面積が高く、耐熱性にも優れているアルミナ及びシリカからなる複合酸化物(B)に白金などの貴金属成分を担持して用いることが好ましい。複合酸化物(B)の組成は、特に制限されないが、アルミナ:70〜99.9重量%、シリカ:0.1〜30重量%であることが好ましく、アルミナ:75〜99重量%、シリカ:1〜25重量%であることがより好ましい。
【0034】
上記の無機母材に貴金属を担持させるには、塩化白金(IV)酸、亜硝酸ジアンミン白金(II)、水酸化白金酸アミン溶液、塩化白金酸、硝酸白金、ジニトロジアンミンパラジウム、硝酸パラジウム、塩化パラジウム、塩化ロジウム(III)、硝酸ロジウム(III)など金属塩との水溶液と、無機母材とを混合して乾燥、焼成を行う等、適宜公知の方法により行うことができる。
【0035】
下層触媒層中の複合酸化物(A)、アルミナ、又は複合酸化物(B)のいずれかを含む無機母材の含有量は、一体構造型担体の単位体積あたり10〜60g/Lであり、特に15〜50g/Lであることが望ましい。その理由は、複合酸化物(A)、アルミナ、又は複合酸化物(B)のいずれかを含む無機母材の量が多すぎると貴金属の分散度向上に寄与しない無駄な無機母材が増えることとなり、逆に少な過ぎるとNH酸化が促進されずNHスリップを起こす場合があるからである。
また、本発明の一体型触媒担体に被覆される下層には、上記無機母材である複合酸化物(A)、アルミナ、複合酸化物(B)とは別に、NOxの浄化機能を有する材料を有してもよい。NOxの浄化機能を有する材料としては、後述する複合酸化物(C)、遷移金属として鉄などをイオン交換したゼオライト(D)の他、チタニア、ジルコニア、酸化タングステン等の遷移金属酸化物、セリア、ランタン、プラセオジム、サマリウム、ガドリニウム、ネオジム等の希土類酸化物、酸化ガリウム、酸化スズ等の碑金属酸化物、またはこれらの複合酸化物等があげられる。
【0036】
(1−4)複合酸化物(C)
本発明において、複合酸化物(C)は、少なくともシリカ、酸化タングステン、セリア、及びジルコニアからなる複合酸化物(C)である。ここで、酸化タングステンとは、タングステンの酸化物のほか、タングステン元素単体で存在するものも含むものとする。
複合酸化物(C)の被覆量は、一体構造型担体の単位体積あたり0〜120g/Lであり、より好ましくは10〜100g/Lとする。
下層に複合酸化物(C)が存在することで、NHとNOxの反応が促進され、SCR機能が増大する。また、酸化タングステンやジルコニアが含まれていることで、NH吸着容量が多くなるので、下層触媒層で貴金属と接触できなかったNHのスリップを抑制する。逆に120g/Lよりも多いと、下層を構成するPt担持複合酸化物(A)に比べ相対量が増大するため、Ptへのガス拡散が悪化することがある。
【0037】
(1−5)ゼオライト(D)
本発明において、ゼオライト(D)は、例えば三次元の細孔構造を有するβ型、MFI型のゼオライトをはじめ、A、X、Y、MOR、CHA、SAPOなどのゼオライトが挙げられる。ゼオライト(D)の中でも好ましいのは、β型ゼオライト、又はMFI型のゼオライトである。
下層におけるゼオライト(D)の含有量は、2〜120g/Lであり、好ましくは5〜100g/Lである。ゼオライト(D)が存在することで、NHとNOxの反応が促進され、またNH吸着容量が大きくなるので貴金属と接触するNHが増え、NH酸化が促進されるが、120g/Lを超えると、下層を構成するPt担持複合酸化物(A)に比べ相対量が増大するため、Ptへのガス拡散が悪化することがある。
また、この下層にはアンモニア酸化機能を有する材料のほかに後述するNOxを浄化する機能を有する材料を含んでも良い。
【0038】
(2)上層触媒層
上層触媒層は、少なくともシリカ、酸化タングステン、セリア、及びジルコニアからなる複合酸化物(C)を必須成分とし、貴金属成分を含まずに構成される。複合酸化物(C)中の酸化タングステンとは、タングステンの酸化物のほか、タングステン元素単体で存在するものも含むものとする。
【0039】
(2−1)複合酸化物(C)
本触媒において、複合酸化物(C)は、シリカ:20重量%以下、酸化タングステン:1〜50重量%、セリア:1〜60重量%、及びジルコニア:30〜90重量%から構成され、より好ましくは、シリカ:0.1〜5重量%、酸化タングステン:3〜30重量%、セリア:5〜40重量%、及びシルコニア:50〜90重量%の組成となるようにする。
【0040】
複合酸化物(C)中の各成分の機能については、例えば次のように考えられる。
シリカは、各種金属酸化物と比較してBET比表面積の高いことで知られており、シリカとその他元素で構成される複合酸化物系でのBET比表面積を増加させることで、活性点数を増大させることができる。さらに、シリカは、直径2〜10nmのメソポーラスな孔を多数有する多孔質構造をとり、その孔にNHの酸化反応やNOx−NH反応などで生じたHOを取り込むことで、NHの酸化反応やNOx−NH反応などの反応平衡を生成物側にシフトさせることにより、それらの反応を促進する。
またセリアは、NOx吸着機能材料として知られており、本材料系においてもNOx吸着を促進することでNHとNOxのSCR反応を促進でき、ジルコニアは、その他成分を熱的に安定な状態で高分散させる為の分散保持材料として機能する。
一方、タングステンの酸化物は、酸性が強く、アルカリ成分である尿素やアンモニアの吸着力が大きいので、タングステンの酸化物を使用することで脱硝性能が高くなる。
【0041】
本触媒は、なかでもタングステン酸化物として、あるいはタングステン元素単体でも存在しうるタングステン(W)の役割が重要であり、セリウム(Ce)とWの界面がDeNOx反応を促進するような構造にすることが好ましい。これは、複合酸化物(C)を構成するSi/W/Ce/Zr材料の内、SiとZrを除いたW/Ce材料と、SiとCeを除いたW/Zr材料と、Siを抜いたW/Ce/Zr材料の4種類の材料粉末を用い、触媒化せず粉末のままでアンモニア−SCRのモデルガス浄化性能を評価すると、W/Ce材料とW/Zr材料の比較では、W/Zr材料よりもW/Ce材料のNOx浄化性能が高くなるからである。
この複合酸化物(C)は、上記の組成、構造になれば、製法によって特に限定されない。例えば、珪素、タングステン、セリウム、ジルコニウムを含む硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、塩化物等の形態を有する出発原料を一度に水溶液中に溶解させた後、混合し、pH調整等により沈殿物として沈降させるか蒸発乾固させるかして得られた固形物を焼成してもよいし、単一もしくは複数の金属塩に上記処理を行うことにより酸化物を形成させた後、残りの金属塩を一度にまたは逐次に担持してもよい。
一度にすべての元素を加えて製造するか、最初に核となる粉末を単数もしくは数種類の元素から製造した後、残りの元素を一度にまたは逐次に担持させることにより、各々の元素を最適な組成で含有する複合酸化物(C)を調製することができる。
【0042】
複合酸化物(C)の被覆量は、一体構造型担体の単位体積あたり10〜150g/Lが好ましく、15〜120g/Lがより好ましい。10g/Lよりも少ないと、NHとNOxの反応が低下し、SCR機能が不十分となり、またNH吸着容量が少なくなるので下層触媒層でPtと接触できなかったNHがスリップすることがある。逆に150g/Lよりも多いと、圧損上昇によるエンジンへの負荷が大きくなるので好ましくない。
【0043】
(2−2)ゼオライト(D)
上層触媒層は、複合酸化物(C)の他に、任意成分として、ゼオライト(D)を含むことができる。
本発明においてゼオライト(D)は、例えば三次元の細孔構造を有するβ型、MFI型のゼオライトをはじめ、A、X、Y、MOR、CHA、SAPOなどのゼオライトが挙げられる。中でも好ましいのは、β型ゼオライト、又はMFI型のゼオライトである。
【0044】
本触媒において好ましく使用されるβ型ゼオライトは、例えば、単位胞組成が下記の平均組成式で表され、かつ正方晶系の合成ゼオライトとして分類される。
m/x[AlSi(64−m)128]・pH
(式中、Mはカチオン種であり、xは前記Mの価数であり、mは0を越え64未満の数であり、pは0以上の数である)
このβ型ゼオライトは、比較的大きな径を有する一方向に整列した直線的細孔とこれに交わる曲線的細孔とからなる比較的複雑な3次元細孔構造を有し、イオン交換時のカチオンの拡散、およびNH等のガス分子の拡散が容易である。また、このような構造はモルデナイト、ホージャサイト等が一方向に整列した直線的な空孔のみを有するのに対して、特異な構造であり、このような複雑な空孔構造であるがゆえに、βゼオライトは、熱による構造破壊が生じ難く安定性が高く、自動車用触媒にとって有効な材料である。
【0045】
一般にゼオライトは、NHのような塩基性化合物が吸着できる酸点を有していることが必要であるが、そのSi/Al比に応じてその酸点の数が異なる。一般的にはSi/Al比が低いゼオライトは酸点の数が多いが、水蒸気共存での耐久において劣化度合いが大きく、逆にSi/Al比が高いゼオライトは耐熱性に優れている。本触媒において、ゼオライトの酸点にNHが吸着し、そこが活性点となってNOなどの窒素酸化物を還元除去するので、酸点が多い方(Si/Al比が低い方)が脱硝反応には有利である。Si/Al比に相当する指標として、成分分析によるSiOとAlのモル比(以下でSARと略記する)が一般的に使用される。上述のようにSARについては耐久性と活性がトレードオフの関係であるが、これらを考慮すると、ゼオライトのSARは15〜300が好ましく、17〜60がより好ましい。このような特性はβ型ゼオライト、そしてMFI型ゼオライトも同様に有している。
本触媒のゼオライト(D)には、鉄元素を含むゼオライトが主成分として含有されることが好ましい。通常、ゼオライトには固体酸点として、カチオンがカウンターイオンとして存在する。カチオンとしては、アンモニウムイオンやプロトンが一般的であるが、本触媒に使用されるβ型ゼオライトにはカチオン種として鉄元素が添加され、以下、本発明では「Fe−β」ということがある。
鉄元素でイオン交換されたβ型ゼオライトによって本発明の作用が向上する理由は定かではないが、ゼオライト表面においてNOをNOに酸化してNHとの反応活性を高め、ゼオライトの骨格構造が安定化され、耐熱性の向上に寄与していると考えられる。
ゼオライトに対するFeの添加量は、Fe換算で0.1〜5重量%が好ましく、0.5〜4.5重量%がより好ましい。鉄元素の量がFe換算で5重量%を超えると、活性な固体酸点の数が確保できなくなり活性が下がる。鉄元素の量がFe換算で0.1重量%未満では、充分なNOx浄化性能が得られず排気ガスの浄化性能が低下するので好ましくない。なお、イオン交換種として添加される鉄元素は、その全てがイオン交換されても良いが、その一部が酸化鉄の状態で存在していても良い。
【0046】
すなわち、鉄元素(以下、これを金属触媒成分ともいう)の担持の方法は、イオン交換でも含浸による方法でも構わない。本発明では、ゼオライトの少なくとも一部が、金属触媒成分によりイオン交換されていることが望ましい。適切にイオン交換されることにより、ゼオライトの骨格構造が安定化され、ゼオライトそのものの耐熱性が向上する。なお、金属触媒成分は、完全にイオン交換されなくてもよく、その一部が酸化物として存在しても良い。
ゼオライトへの鉄元素の担持方法については特に制限はない。このような鉄元素を添加したゼオライトは、主要なゼオライトメーカーから様々なグレードのものが購入でき、また、特開2005−502451号公報などに記載された要領で製造できる。一般的な担持方法としては、イオン交換法の他、鉄元素を含む硝酸塩、酢酸塩、塩化物等の水溶液に、ゼオライトを加えて含浸法で担持してもよいし、アルカリ等でpH調整することにより得られた沈殿物を乾燥・焼成してもよいし、上記鉄元素を含む硝酸塩、酢酸塩、塩化物等の水溶液にゼオライトを浸漬した後、蒸発乾固させてもよい。焼成温度は、300〜800℃が好ましく、400〜600℃がより好ましい。加熱手段については、電気炉やガス炉等の公知の加熱手段によって行う事ができる。
【0047】
本発明において好ましい三次元細孔構造を有するゼオライトとして、例えばMFI型ゼオライトもSCR成分として知られている。ここでMFI型ゼオライトのSi/Al比も上述したβ型ゼオライトと同様である。MFI型ゼオライトは、β型ゼオライト同様に鉄元素が含まれていることが好ましい。このうち、鉄元素が含まれるMFI型ゼオライトについては、以下「Fe−MFI」ということがある。
また、ゼオライト種としては上記のゼオライトに加え、他にA、X、Y、MOR、CHA、SAPO等様々なタイプのゼオライトの一種以上と組み合わせて使用してもよい。
本触媒を他のタイプのゼオライトと併用する場合には、全ゼオライト中、前記各種β型ゼオライト若しくはMFI型ゼオライトのトータルの比率が50〜100%であることが好ましい。
また、ゼオライトは、前記鉄元素の他に、他の遷移金属、希土類金属、また貴金属などを含んでいてもよい。具体的には、ニッケル、コバルト、ジルコニウム、銅などの遷移金属、セリウム、ランタン、プラセオジム、ネオジウムなどの希土類金属、などを挙げることができる。
また、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム等の貴金属やニオブ、タングステン、タンタル、セリア、セリウム・ジルコニウム複合酸化物、酸化ランタン、アルミナ、シリカ、ジルコニア、バナジアや、スズ、ガリウムなどアルカリ元素、アルカリ土類元素など一般に触媒材料として使用可能な材料を、本発明の目的を阻害しない範囲で適宜添加することができる。
【0048】
本発明においてゼオライト(D)は、全ゼオライト量に対してFe元素を含むゼオライトが50〜100重量%含まれる事が好ましく、60〜100重量%含まれる事がより好ましい。鉄元素を含まないゼオライトはSCRとしての活性も低いため、そのようなゼオライトの量が増える事は望ましくない。
ゼオライト(D)の含有量は、0〜150g/Lであり、より好ましくは5〜120g/Lである。ゼオライトが存在することで、NHとNOxの反応が促進され、またNH吸着容量が大きくなるのでPtなどの貴金属と接触するNHが増え、NH酸化が促進されるが、150g/Lを超えると、圧損上昇によるエンジンへの負荷が高くなり好ましくない。
【0049】
(3)一体構造型担体
本発明における一体構造型担体は、その種類によって特に制限されない。ハニカム構造型担体をはじめ、細い繊維状物を編んだシート状構造体、比較的太い繊維状物からなるフェルト様の不燃性構造体が使用できる。中でもハニカム構造型担体が好ましく、このようなハニカム構造型担体の表面に触媒成分を被覆したものを、以下、ハニカム構造型触媒ということがある。
【0050】
ハニカム構造型担体の種類は、特に限定されるものではなく、公知のハニカム構造型担体の中から選択可能である。このようなものには、フロースルー型担体や、DPF、CSFに用いられるウォールフロー型担体があるが、本発明では、本触媒が選択還元触媒(SCR)の後段にスリップNHの浄化のみを目的として使用されるので、フロースルー型担体が好ましい。
また、このようなハニカム構造体はその全体形状も任意であり、円柱型、四角柱型、六角柱型など、適用する排気系の構造に応じて適宜選択できる。さらに開口部の孔数についても処理すべき排気ガスの種類、ガス流量、圧力損失あるいは除去効率などを考慮して適正な孔数が決められるが、通常、ディーゼル自動車の排気ガス浄化用では、1平方インチ当たり10〜1500個程度、特に100〜900個であることが好ましい。1平方インチ当たりのセル密度が10個以上であれば、排気ガスと触媒の接触面積を確保でき、充分な排気ガスの浄化機能が得られ、1平方インチ当たりのセル密度が1500個以下であれば、著しい排気ガスの圧力損失が生じないので内燃機関の性能を損なう事がない。
また、下層については、本発明の触媒成分を、セラミックス等の浸透性の構造担体に被覆して使用する場合、下層の成分が構造担体に浸透し、下層の全て、またはその一部が構造担体と一体化していてもよい。また、構造担体を下層の成分で構成し、その上に上層の成分を被覆しても良い。なお、下層と構造担体の間に、触媒層の密着性の向上などを目的としてボトム層を設ける場合もあるが、この場合、ボトム層と下層の関係は、前記構造担体と下層の関係に同じである。
また、このようなハニカム構造型担体は、セルの壁の厚みを2〜12mil(ミリインチ)とすることが好ましく、4〜8milがより好ましい。また、ハニカム構造型担体の材質としては、ステンレス等の金属、コーディエライト等のセラミックスがある。
なお、本発明では、細い繊維状物を編んだシート状構造体、比較的太い繊維状物からなるフェルト様の不燃性構造体も使用できるが、これらハニカム構造担体とは異なる一体構造型担体は、背圧が高まる恐れはあるものの、触媒成分の担持量が大きく、また排気ガスとの接触面積が大きいので、他の構造型担体よりも処理能力が高くなる場合がある。
【0051】
本触媒の成分が上記フロースルー型ハニカム担体に被覆して使用される場合、その被覆量は、1平方インチ当たりの開口部の孔数200〜900個、セルの壁の厚みが4〜8milの担体において、上層は下層の50%以上の被覆量で、上層下層の合計の被覆量は単位体積あたり40g/L以上であることが好ましく50g/L以上であることがより好ましい。
なお、被覆量の上限は、生産コストが上昇したり、ハニカムの孔が目詰まりを起こしたりして、排気ガスの背圧が著しく上昇しない程度であれば特に限定されないが、前記フロースルー型ハニカム担体において、凡そ230g/L以下が望ましく、170g/L程度に留める事がより望ましい。使用する担体のセル密度にもよるが、現実的なセル密度のハニカム構造体を使用する場合には、230g/Lを超える量の触媒を担持すると背圧が上昇し、燃焼機関の性能を阻害する場合がある。
【0052】
本発明の触媒には、下層触媒層又は上層触媒層を構成する材料として、上記した材料の他、固体酸、あるいはバインダーなども混合して用いる事ができる。このような固体酸としてはWO/Zr、WO/Ti、SO/Zr、メタロシリケート等が挙げられ、バインダーとしては、アルミナ、シリカ、チタニア、シリカ−アルミナ、ジルコニア及びそれらのゾル・ゲル・溶液などを使用することが好ましい。
【0053】
各層の厚さは、特に制限されず、例えば1〜430μmであればよく、特に20〜250μmの範囲が好ましい。上層の厚さは、40〜250μm、下層の厚さは1〜180μmであることが望ましい。各層の厚みは不均一であっても差し支えないが、平均値が上記範囲内であることが好ましい。各層の厚みが薄すぎると触媒成分が不足し層としての機能を発揮しづらくなり、一方、各層の厚みが厚すぎると、ガス拡散性が低下し、物質移動が阻害されるので好ましくない。
【0054】
2.アンモニア酸化触媒の製造方法
本発明の触媒を調製するには、まず、下層触媒材料、上層触媒材料、一体構造型担体を用意する。触媒材料は必要に応じてバインダーや界面活性剤などの添加剤を、水または水に水溶性有機溶媒を加えた溶媒と混合してスラリー状混合物にしてから、一体構造型担体へ塗工した後、乾燥、焼成する事により製造される。なお、水または水に水溶性有機溶媒を加えた溶媒については以下「水系媒体」という。
すなわち、触媒材料と水系媒体とを所定の比率で混合してスラリー状混合物を得る。本発明においては、水系媒体は、スラリー中で各触媒成分が均一に分散できる量を用いれば良い。
【0055】
下層触媒材料は、少なくとも白金を含む貴金属触媒成分、少なくともチタニア及びシリカを主成分とする複合酸化物(A)、アルミナ、又はアルミナ及びシリカからなる複合酸化物(B)のいずれかを含む無機母材として含み、さらに複合酸化物(C)、又はゼオライト(D)を含んでいる。貴金属触媒成分は、予め無機母材に担持させておくこともできる。金属触媒成分と無機母材を水系媒体中で混合してスラリーを調製しておく。
【0056】
下層触媒材料を調製するにあたり、貴金属を、予め無機母材に担持させておく場合、適宜公知の方法を採用できるが、その一例を示すと以下のとおりである。
まず、貴金属成分の原料として硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩等の化合物、具体的には塩化白金(IV)酸、亜硝酸ジアンミン白金(II)、水酸化白金酸アミン溶液、塩化白金酸、硝酸白金、ジニトロジアンミンパラジウム、硝酸パラジウム、塩化パラジウム、塩化ロジウム(III)、硝酸ロジウム(III)として用意する。これらから貴金属成分原料を選択して水、有機溶媒に溶解する。
【0057】
次に、この貴金属成分原料の溶液を、水系媒体と共に無機母材と混合した後、50〜200℃で乾燥して溶媒を除去した後、300〜1200℃で焼成する。なお、上記成分以外に、酸素吸蔵放出材料、バインダー等として公知の触媒材料を配合してもよい。このような公知の触媒材料としては、セリウム−ジルコニウム系複合酸化物や、酸化セリウム、チタニア、ジルコニア、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、アルカリ金属材料、アルカリ土類金属材料、遷移金属材料、希土類金属材料、銀、銀塩等が挙げられ、必要に応じて分散剤、pH調整剤を合わせて使用することができる。
【0058】
次に、触媒組成物をスラリー状混合物として一体構造型担体に塗工し、触媒組成物を被覆する。塗工方法は、特に限定されないが、ウォッシュコート法が好ましい。塗工した後、乾燥、焼成を行う事により触媒組成物が担持された一体構造型触媒が得られる。なお、乾燥温度は、100〜300℃が好ましく、100〜200℃がより好ましい。また、焼成温度は、300〜700℃が好ましく、特に400〜600℃が好ましい。乾燥時間は0.5〜2時間、焼成時間は1〜3時間が好ましい。加熱手段については、電気炉やガス炉等の公知の加熱手段によって行う事ができる。
上記のようにして一体構造型担体へ下層触媒材料を塗工した後に乾燥、焼成し、次に、この層の上に上層触媒材料を塗工し、乾燥、焼成して本発明のアンモニア酸化触媒を調製する。上層触媒材料は、実質的にシリカ、酸化タングステン、セリア、及びジルコニアからなる複合酸化物(C)を含み、これとは別に、上層触媒原料としてゼオライトを必要により配合することができる。
このほか、ウォッシュコート法により下層触媒材料、上層触媒材料を2回続けて塗工した後に、一度で乾燥、焼成したり、あるいは、ウォッシュコート法により下層触媒材料を塗工した後に乾燥し、その上に二層目以降の材料を被覆した後乾燥し、一度に焼成してもよい。
【0059】
ハニカム型一体構造型担体に触媒組成物を被覆する場合、ハニカム形状が多角形であると、層の厚みはハニカムの部位により異なることがあるが、実質的に殆どの部位で上層、下層とも、1〜250μmの範囲であり、特に20〜250μmの範囲である事がより好ましい。
上層が薄すぎて5μm未満であると、先のガス拡散性が低下することがあり、トータルの層が厚すぎて430μmを超えると、通常使われるハニカム型一体構造型担体に本発明の触媒組成物を被覆した場合に、圧損上昇によるエンジンへの負荷が懸念される。特に好ましい厚さは、上層:40〜250μm、下層:1〜180μmである。
【0060】
3.排気ガス浄化触媒装置、それを用いた浄化方法
本発明では、排気ガス流路に、一酸化窒素、炭化水素の酸化機能を有する酸化触媒(DOC)と、パティキュレートマターを捕集し燃焼除去するフィルター(DPF)と、尿素水溶液もしくはアンモニア水溶液を供給する噴霧手段と、選択還元触媒(SCR)と、前記のアンモニア酸化触媒(AMOX)をこの順序で配置することで排気ガス浄化触媒装置が構成される。
【0061】
ディーゼルエンジンは、その構造上の特徴からガソリンエンジンと比べると比較的排気ガスの温度が低く、その温度は概ね室温〜700℃である。特に始動時や低負荷時には排気ガス温度が低い。しかし、排気ガスの温度が低い場合には触媒の温度も充分に上昇せず、浄化性能が充分に発揮されず、排気ガス中のNOxが充分に浄化されずに排出されやすい。
【0062】
排気ガス中のNOxの浄化においては、排気ガス中のNOとNOの比が1:1の状態でSCR触媒に接触させる事が望ましい。前述の脱硝反応式(3)の反応速度が最も速いためである。そのため、排気ガス流れに対し、本触媒の前段にNO酸化手段として、排気ガス中のHC、COを酸化する酸化触媒(DOC)や、排気ガス中に含まれる可燃性粒子成分を捕集するフィルター(DPF)を配置するのである。
酸化触媒としては、公知の白金、またはパラジウムのうち少なくとも一種が担持された活性アルミナを主成分とする触媒を用いることができる。なおその酸化触媒の担体としては、活性アルミナがLaを含むものを使用することもできる。さらにセリウムでイオン交換したβ型ゼオライトを含有する触媒を用いても良い。
【0063】
このようにDOCには、貴金属成分として白金成分またパラジウム成分を含むことが好ましく、この貴金属成分の量は金属換算で0.1〜4g/L含む事が好ましく、0.5〜3g/L含むことがより好ましい。貴金属成分が多すぎると高コストとなってしまい、少なすぎると好適なNO/NOx比にならない事がある。
また、この貴金属成分には金属換算で30〜100w%の白金を含む事が好ましく、50〜100w%の白金を含む事がより好ましい。ディーゼル自動車の燃料に使用される軽油には硫黄成分を含むものが少なくなく、このような硫黄成分を含む排気ガスにより、触媒成分中の貴金属が被毒してしまうことがあるが、パラジウムは硫黄被毒し易い傾向が知られており、これに対し白金は硫黄被毒し難い傾向が知られている。そのため、本発明に使用されるDOCには貴金属成分として白金を主成分として使用する事が好ましい。
【0064】
なお、DPFで捕集した可燃性粒子成分は、その後燃焼して除去され、DPF機能が再生される。DPFにおける煤の燃焼にはNOを使用する。NOによる煤の燃焼は酸素に比べて穏やかであり、燃焼熱によるDPFの破損を誘発し難い。DPFにはこの燃焼再生を促進する目的で酸化触媒を被覆したものがあり、CSFといわれている。本発明では特に断りの無い限り、DPFはCSFを包含するものとする。
これらDOC、DPFの後段には、尿素水溶液もしくはアンモニア水溶液を供給する噴霧手段とSCR触媒が配置される。本発明が適用される燃焼機関は、ディーゼルエンジンの場合、排気量1L程度の小型自動車から、排気量50Lを超えるような重機用(ヘビーデューティー)ディーゼルエンジンまであり、また、それらディーゼルエンジンから排出される排気ガス中のNOxは、その稼動状態、また燃焼制御の方法等により大きく異なる。そして、これらディーゼルエンジンから排出される排気ガス中のNOxを浄化するために使用されるSCR触媒も、1L程度から50Lを超えるディーゼルエンジン排気量の多様性にあわせて選定できる。
また、排気ガス中のNOxを浄化する手段として、SCRとは別にNOx吸蔵触媒を使用する場合があり、LNT(Lean NOx Trap)といわれる。LNTに吸蔵されたNOxは、排気ガス中の還元成分であるHCやCOを還元剤としてNOxを浄化するが、SCRはこのようなLNTと組み合わせても良い。
【0065】
本発明では、SCRとして、少なくとも鉄元素を含むゼオライトと、実質的にシリカ、酸化タングステン、セリア、及びジルコニアからなる複合酸化物を含む触媒層を一体構造型担体の表面に被覆してなる選択還元型触媒(SCR)を使用することが好ましい。複合酸化物としては、本触媒の成分である複合酸化物(C)のほか、この複合酸化物(C)からシリカが除去された材料も使用できる。このSCR触媒の成分であるゼオライトとしては次に記載するゼオライト(D)が好ましい。
【0066】
ゼオライト(D)は、全ゼオライト量に対してFe−βが20〜80重量%含まれる事が好ましく、30〜70重量%含まれる事がより好ましい。また、Fe−βとFe,Ce−βを混合して使用する場合、Fe−βとFe,Ce−βの割合は、全ゼオライト量に対してそれぞれ20〜50重量%が好ましく、20〜40重量%がより好ましい。鉄元素を添加したゼオライトは、主要なゼオライトメーカーから様々なグレードのものが購入でき、また、特開2005−502451号公報などに記載された要領で製造できる。また、ゼオライト(D)は、少なくとも鉄元素を含む脱硝成分であり、例えば三次元の細孔構造を有するβ型、MFI型のゼオライトをはじめ、A、X、Y、MORなどのゼオライトが挙げられる。
【0067】
また、複合酸化物(C)の組成は、前記と同じく、シリカ:20重量%以下、酸化タングステン:1〜50重量%、セリア:1〜60重量%、及びジルコニア:30〜90重量%であり、より好ましくは、シリカ:5重量%以下、酸化タングステン:3〜30重量%、セリア:5〜40重量%、及びジルコニア:50〜90重量%である。その被覆量は、触媒層の全体に対して、10〜80重量%とすることが好ましい。被覆量が、触媒層の全体に対して、10重量%未満では、脱硝性能が不十分となり、80重量%を超えるとゼオライト(D)との複合効果が期待できないためである。
また、還元剤が尿素である場合は、SCR触媒には、前記の脱硝成分であるゼオライト(D)、複合酸化物(C)に加え、尿素成分の加水分解成分として複合酸化物(E)を含有することが望ましい。複合酸化物(E)は、実質的にチタニア、シリカ、及びジルコニアからなる複合酸化物であることが好ましい。また、その組成が、チタニア:70〜95重量%、シリカ:1〜10重量%、及びジルコニア:5〜20重量%であることがより好ましい。
【0068】
また、触媒層を構成する脱硝成分(D)、複合酸化物(C)及び尿素加水分解成分(E)の被覆量が、200〜350g/Lであることが好ましく、220〜330g/Lがより好ましい。被覆量が少なすぎると、脱硝効果が充分に得られない場合があり、多すぎるとハニカムの孔が目詰まりを起こしたりして、排気ガスの背圧が著しく上昇し、エンジンの性能を低下させる恐れがある。
そして、ゼオライト(D)の被覆量が、触媒層の全体に対して、10〜80重量%であること、複合酸化物(C)の被覆量が、触媒層の全体に対して、10〜80重量%であること、複合酸化物(E)の被覆量が、触媒層の全体に対して、1〜30重量%であることが好ましい。
【0069】
また、SCR触媒は、一体構造型担体の上に一層構造で被覆してもよいが、二層構造以上になるように被覆し積層したものでもよい。一体構造型担体の表面に、少なくとも鉄元素を含むゼオライト(D)と、シリカ、酸化タングステン、セリア、及びジルコニアからなる複合酸化物(C)と、チタニア、シリカ、及びジルコニアからなる複合酸化物(D)を含む触媒層が上下二層に被覆されていることが好ましい。
そして、下層がゼオライト(D)50〜90重量%、複合酸化物(C)10〜40重量%、及び複合酸化物(E)1〜30重量%を含むこと、一方、上層がゼオライト(D)10〜40重量%、複合酸化物(C)50〜90重量%、及び複合酸化物(E)1〜30重量%を含むことがより好ましい。このように、下層でゼオライト(D)の比率を高め、上層では複合酸化物(B)の比率を高めることで、排気ガス中のNOxの浄化性能を向上させることができる。
特に、下層の被覆量が全体の20〜50重量%であり、上層の被覆量が全体の50〜80重量%であることが好ましい。このように下層の被覆量に対して、上層の被覆量を多くすることで、十分に高い脱硝性能をあげることができる。下層の被覆量が全体の30〜45重量%であり、上層の被覆量が全体の55〜70重量%であることがより好ましい。
【0070】
上記のSCR触媒は、優れた脱硝性能を有することから、従来よりもアンモニアを効率的に活用することができる。
本発明では、SCR触媒の後段に、NH浄化機能を有する本触媒が配置される。本触媒は、NH浄化性能に優れることから、排気ガス流れに対し、SCR触媒からスリップしてくるNHを効率的に酸化することができる。
【0071】
NHスリップは、例えば、NHがSCR触媒に吸着した状態で急加速されるなどにより排気ガス温度が急昇温すると、脱離したNHがSCR触媒でのNOx浄化反応には寄与しないため発生する。こういった使用条件ではSCR触媒下流に設置されるアンモニア酸化触媒も比較的温度が低い状態であるが、本発明のアンモニア酸化触媒(AMOX)は少ない貴金属量でも効果的にNHを酸化浄化できる。
【0072】
またNH酸化浄化と同時に、本発明のアンモニア酸化触媒(AMOX)は上層にSCR機能を有する触媒成分があるのでNOx排出を抑制できる。すなわち、スリップしたNHがアンモニア酸化触媒(AMOX)に流入し、一部は上層に吸着保持され、また一部は上層を通過して下層に届く。下層に届いたNHは貴金属成分(Pt)によってNOやNO、NOなどのNOx成分に酸化され、これらNOxが上層に移行して、上層に吸着保持されたNHと反応し、NとHOとして排出される。下層に任意で含まれるSCR機能を有する触媒成分にも、下層に届いたNHが吸着保持され、同じくNH酸化により生成したNOxがこれらと反応しNとHOとして排出される。
【0073】
さらに、そもそも本発明のアンモニア酸化触媒(AMOX)に流入するNHは上層にSCR機能を有する触媒成分があるので、前述したようにSCR反応に利用される為、酸化反応で消費されるNHは、入手したNHよりも少ない。その結果、NHの酸化反応で副生するNOも抑制できる。
【0074】
また、自動車用ディーゼルエンジンから排出される排気ガスの温度は広範囲にわたるが、これを概ね300℃以下を低温域として、また概ね300℃以上を高温域として分けた場合、本発明のNH酸化触媒は、低温域ではNHの酸化浄化活性に優れ、かつNOの副生を抑制し、またNH酸化浄化活性がほぼ100%に達する高温域では上述の触媒構造によりNOxの排出を抑制することができる。
なお、本発明のアンモニア酸化触媒(AMOX)を用いた浄化装置や浄化方法は、上述の組合せ、すなわちDOC+DPF+噴霧装置+SCR+AMOXの態様に限定されるものではない。アンモニアが流入する条件であれば本発明のアンモニア酸化触媒(AMOX)を利用できる。
例えば、特許文献6(特開2008−279334)に記載のSROCとしての実施形態も、本発明のアンモニア酸化触媒(AMOX)を用いた浄化装置や浄化方法の1つである。
【実施例】
【0075】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴を一層明確にする。なお、本発明は、これら実施例の態様に限定されるものではない。なお、本実施例、並びに比較例に使用する触媒は次に示す方法によって調製した。
【0076】
[参考例1]
AMOX(1)の製造
=下層(NH酸化機能を有する触媒層;)=
複合酸化物(A)の1種であるチタニア粉末A(87重量%TiO/10重量%ZrO/3重量%SiO)とチタニア粉末B(85重量%TiO/10重量%SiO/5重量%Al)を重量比で19:9の割合で予め混合させてチタニア混合粉末Cを得て、貴金属担持用の母材とした。次に、このチタニア混合粉末Cに、貴金属成分原料としての塩化白金水溶液を含浸担持させてPt担持チタニア混合粉末C(Pt換算0.356重量%、最終的な触媒の担体体積あたりのPt担持量0.1g/Lに相当)を得た。
得られたPt担持チタニア混合粉末C(281g)とバインダー(20g)と水をボールミルに投入し、所定の粒径となるまでミリングして、NH酸化触媒層用スラリーAを得た。
続いて、このスラリーAに一体型構造担体、すなわちハニカムフロースルー型コージェライト担体(300セル5ミル、φ25.4mm×24mm長さ)を浸漬させ、単位体積あたりの触媒担持量が30.1g/Lとなるようにウォッシュコート法で塗布した。その後、150℃で1時間乾燥させ、大気雰囲気下、500℃で2時間焼成して下層塗布済み触媒Aを得た。
=上層(SCR機能層)=
複合酸化物(C)(1重量%SiO/10重量%WO/23重量%CeO/66重量%ZrO)750gと、Feイオン交換ゼオライト(Feイオン交換量;2.2重量%Fe換算、BEA型、SAR=26)250gと、バインダー40gを水とともにボールミルに投入し、所定の粒径となるまでミリングして、SCR機能層用スラリーBを得た。
続いて、このスラリーBに前記の下層塗布済み触媒Aを浸漬させ、単位体積あたりの触媒担持量が104g/Lとなるようにウォッシュコート法で塗布した。その後、150℃で1時間乾燥させ、大気雰囲気下、500℃で2時間焼成して、表1に示すAMOX(1)を得た。
その後、得られたNH酸化触媒を用いて、以下の触媒性能評価を実施した。
【0077】
<触媒のエージング>
触媒の性能評価に先立ち意図的に触媒性能を劣化させるために、650℃で100時間熱処理を実施した。処理には雰囲気炉を用いて、10vol%の水を含む加湿空気を流通させながら処理を行った。
<触媒性能評価>(NOx・NH−スリップ評価)
次項記載の測定条件のもと、触媒入口出口のNH、NO、NO、NOのガス濃度を計測し、NH転化率、NOx排出濃度、NO排出濃度の3つの指標でAMOX(1)の触媒性能を評価した。その結果を図1〜3に示した。
なお、ガス計測は所定温度に到達し所定濃度ガス流通開始後20分経過した後に、各種ガス成分の濃度が安定した状態で測定した。
なおNH転化率、NOx排出濃度は次の算出式に基づき計算した。
(NH転化率)[%] ={(入口NH濃度)−(出口NH濃度)}/(入口NH濃度)
×100
(NOx排出濃度)[ppm] =(出口NO濃度)+(出口NO濃度)
【0078】
<測定条件>
・評価装置;モデルガス試験装置(菱明技研製)
・定量分析装置;FTIR(サーモエレクトロン製NEXUS−670、2mガスセル)
・触媒サイズ;φ25.4mm×24mm、300セル/5ミル、12.2mL/個
・空間速度;100,000/h
・全ガス流量;20.3L/min
・モデルガス組成(表2参照)
【0079】
[参考例2]
AMOX(2)の製造
Pt担持チタニア粉末の貴金属濃度を変更し、最終的な触媒の単位体積あたりのPt担持量を0.03g/Lとして、ボールミルに投入するPt担持チタニア粉末量を280.3gとして、下層の単位体積あたりの触媒担持量が30.03g/Lとなるように変更する以外は参考例1に記載の方法と同様にして、表1に示すAMOX(2)を得た。この触媒性能の評価結果を図1〜3に示す。
【0080】
[参考例3]
AMOX(3)の製造
上層用スラリーを得る為にボールミルに投入する複合酸化物(C)(1重量%SiO/10重量%WO/23重量%CeO/66重量%ZrO)を500g、Feイオン交換ゼオライト(Feイオン交換量;2.2重量%Fe換算、BEA型、SAR=26)を500gとした以外は参考例1に記載の方法と同様にして、表1に示すAMOX(3)を得た。この触媒性能の評価結果を図1〜3に示す。
【0081】
[参考例4]
AMOX(4)の製造
上層用スラリーを得る為にボールミルに投入する複合酸化物(C)(1重量%SiO/10重量%WO/23重量%CeO/66重量%ZrO)を250g、Feイオン交換ゼオライト(Feイオン交換量;2.2重量%Fe換算、BEA型、SAR=26)を750gとした以外は参考例1に記載の方法と同様にして、表1に示すAMOX(4)を得た。この触媒性能の評価結果を図1〜3に示す。
【0082】
[参考例5]
AMOX(5)の製造
上層用スラリーを得る為にボールミルに投入する複合酸化物(C)(1重量%SiO/10重量%WO/23重量%CeO/66重量%ZrO)を850g、Feイオン交換ゼオライト(Feイオン交換量;2.2重量%Fe換算、BEA型、SAR=26)を150gとした以外は参考例1に記載の方法と同様にして、表1に示すAMOX(5)を得た。この触媒性能の評価結果を図1〜3に示す。
【0083】
[参考例6]
AMOX(6)の製造
上層用スラリーを得る為にボールミルに投入する複合酸化物(C)(1重量%SiO/10重量%WO/23重量%CeO/66重量%ZrO)を950g、Feイオン交換ゼオライト(Feイオン交換量;2.2重量%Fe換算、BEA型、SAR=26)を50gとした以外は参考例1に記載の方法と同様にして、表1に示すAMOX(6)を得た。この触媒性能の評価結果を図1〜3に示す。
【0084】
[参考例7]
AMOX(7)の製造
Pt担持チタニア粉末の貴金属濃度を変更し、最終的な触媒の単位体積あたりのPt担持量を0.05g/Lとして、ボールミルに投入するPt担持チタニア粉末量を280.5gとして、下層の単位体積あたりの触媒担持量が30.05g/Lとなるように変更する以外は参考例5に記載の方法と同様にして、表1に示すAMOX(7)を得た。この触媒性能の評価結果を図1〜3に示す。
【0085】
[参考例8]
AMOX(8)の製造
=下層(NH酸化機能を有する触媒層;)=
複合酸化物(A)の一種であるチタニア粉末A(87重量%TiO/10重量%ZrO/3重量%SiO)に塩化白金水溶液を含浸担持させてPt担持チタニア粉末(Pt換算0.332重量%、最終的な触媒の担体体積あたりのPt担持量0.1g/Lに相当)を得た。得られたPt担持チタニア粉末と水をボールミルに投入し、所定の粒径となるまでミリングして、NH酸化触媒層用スラリーCを得た。
続いて、このスラリーCに一体型構造担体、すなわちハニカムフロースルー型コージェライト担体(300セル5ミル、φ25.4mm×24mm長さ)を浸漬させ、単位体積あたりの触媒担持量が30.1g/Lとなるようにウォッシュコート法で塗布した。その後、150℃で1時間乾燥させ、大気雰囲気下、500℃で2時間焼成して下層塗布済み触媒Bを得た。
=上層(SCR機能層)=
複合酸化物(C)(1重量%SiO/10重量%WO/23重量%CeO/66重量%ZrO)1000gとバインダー120gを水とともにボールミルに投入し、所定の粒径となるまでミリングして、SCR機能層用スラリーDを得た。
続いて、このスラリーDに前記の下層塗布済み触媒Bを浸漬させ、単位体積あたりの触媒担持量が112g/Lとなるようにウォッシュコート法で塗布した。その後、150℃で1時間乾燥させ、大気雰囲気下、500℃で2時間焼成して、表1に示すAMOX(8)を得た。この触媒性能の評価結果を図1〜3に示す。
【0086】
[参考例9]
AMOX(9)の製造
複合酸化物(A)の一種であるチタニア粉末A(87重量%TiO/10重量%ZrO/3重量%SiO)の代わりに、チタニア粉末D(97重量%TiO/3重量%SiO)を用いた以外は参考例8に記載の方法と同様にして、表1に示すAMOX(9)を得た。この触媒性能の評価結果を図1〜3に示す。
【0087】
[参考例10]
AMOX(10)の製造
チタニア粉末A(87重量%TiO/10重量%ZrO/3重量%SiO)の代わりに、複合酸化物(B)粉末(98.5重量%Al/1.5重量%SiO)を用いた以外は参考例8に記載の方法と同様にして、表1に示すAMOX(10)を得た。この触媒性能の評価結果を図1〜3に示す。
【0088】
[参考例11]
AMOX(11)の製造
参考例8の下層スラリーCをウォッシュコート法で塗布後、参考例1の上層スラリーBをウォッシュコート法で塗布することにより、表1に示すAMOX(11)を得た。この触媒性能の評価結果を図1〜3に示す。
【0089】
[実施例1]
AMOX(12)の製造
=下層(NH酸化機能を有する触媒層;)=
複合酸化物(A)の1種であるチタニア粉末A(87重量%TiO/10重量%ZrO/3重量%SiO)に貴金属成分原料としての塩化白金水溶液を含浸担持させてPt担持チタニア混合粉末C(Pt換算0.398重量%、最終的な触媒の担体体積あたりのPt担持量0.1g/Lに相当)を得た。
得られたPt担持チタニア粉末A(251g)とFeイオン交換ゼオライト(Feイオン交換量;2.2重量%Fe換算、BEA型、SAR=26)50gとバインダー(30g)と水をボールミルに投入し、所定の粒径となるまでミリングして、NH酸化触媒層用スラリーEを得た。
続いて、このスラリーEに一体型構造担体、すなわちハニカムフロースルー型コージェライト担体(300セル5ミル、φ25.4mm×24mm長さ)を浸漬させ、単位体積あたりの触媒担持量が33.1g/Lとなるようにウォッシュコート法で塗布した。その後、150℃で1時間乾燥させ、大気雰囲気下、500℃で2時間焼成して下層塗布済み触媒Cを得た。
この下層塗布済み触媒Cを使って上層は参考例1と同様にしてウォッシュコート法で塗布し、表1に示すAMOX(12)を得た。この触媒性能の評価結果を図1〜3に示す。
【0090】
[実施例2]
AMOX(13)の製造
=下層(NH酸化機能を有する触媒層;)=
複合酸化物(A)の1種であるチタニア粉末A(87重量%TiO/10重量%ZrO/3重量%SiO)に貴金属成分原料としての塩化白金水溶液を含浸担持させてPt担持チタニア混合粉末C(Pt換算0.498重量%、最終的な触媒の担体体積あたりのPt担持量0.1g/Lに相当)を得た。
得られたPt担持チタニア粉末A(201g)と複合酸化物(C)(1重量%SiO/10重量%WO/23重量%CeO/66重量%ZrO)100gとバインダー(30g)と水をボールミルに投入し、所定の粒径となるまでミリングして、NH酸化触媒層用スラリーFを得た。
続いて、このスラリーFに一体型構造担体、すなわちハニカムフロースルー型コージェライト担体(300セル5ミル、φ25.4mm×24mm長さ)を浸漬させ、単位体積あたりの触媒担持量が33.1g/Lとなるようにウォッシュコート法で塗布した。その後、150℃で1時間乾燥させ、大気雰囲気下、500℃で2時間焼成して下層塗布済み触媒Dを得た。
この下層塗布済み触媒Dを使って上層は参考例1と同様にしてウォッシュコート法で塗布し、表1に示すAMOX(13)を得た。この触媒性能の評価結果を図1〜3に示す。
【0091】
[実施例3]
AMOX(14)の製造
=下層(NH酸化機能を有する触媒層;)=
チタニア粉末D(97重量%TiO/3重量%SiO)に塩化白金水溶液を含浸担持させてPt担持チタニア粉末(Pt換算1.316重量%、最終的な触媒の担体体積あたりのPt担持量0.4g/Lに相当)を得た。得られたPt担持チタニア粉末304g、複合酸化物(C)(1重量%SiO/10重量%WO/23重量%CeO/66重量%ZrO)300gとバインダー30gを水とともにボールミルに投入し、所定の粒径となるまでミリングして、NH酸化触媒層用スラリーGを得た。
続いて、このスラリーGに一体型構造担体、すなわちハニカムフロースルー型コージェライト担体(300セル5ミル、φ25.4mm×24mm長さ)を浸漬させ、単位体積あたりの触媒担持量が63.4g/Lとなるようにウォッシュコート法で塗布した。その後、150℃で1時間乾燥させ、大気雰囲気下、500℃で2時間焼成して下層塗布済み触媒Eを得た。
=上層(SCR機能層)=
複合酸化物(C)(1重量%SiO/10重量%WO/23重量%CeO/66重量%ZrO)900g、Feイオン交換ゼオライト(Feイオン交換量;2.2重量%Fe換算、BEA型、SAR=26)300gとバインダー40gを水とともにボールミルに投入し、所定の粒径となるまでミリングして、SCR機能層用スラリーHを得た。
続いて、このスラリーHに前記の下層塗布済み触媒Eを浸漬させ、単位体積あたりの触媒担持量が124g/Lとなるようにウォッシュコート法で塗布した。その後、150℃で1時間乾燥させ、大気雰囲気下、500℃で2時間焼成して、表1に示すAMOX(14)を得た。この触媒性能の評価結果を図1〜3に示す。
【0092】
[実施例4]
AMOX(15)の製造
下層のPt担持チタニア粉末の貴金属濃度を変更し最終的な触媒の単位体積あたりのPt担持量を0.03g/Lとしてボールミルに投入するPt担持チタニア粉末量を250.3gに変更し、下層用スラリーに加えるFeイオン交換ゼオライト(Feイオン交換量;2.2重量%Fe換算、BEA型、SAR=26)を20gとして、下層の単位体積あたりの触媒担持量が30.03g/Lとなるように変更とする以外は実施例1に記載の方法と同様にして、表1に示すAMOX(15)を得た。この触媒性能の評価結果を図1〜3に示す。
【0093】
[参考例12]
AMOX(16)の製造
チタニア粉末A(87重量%TiO/10重量%ZrO/3重量%SiO)の代わりに、アルミナ粉末(100重量%Al)を用いた以外は参考例11に記載の方法と同様にして、表1に示すAMOX(16)を得た。この触媒性能の評価結果を図1〜3に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
[比較例1]
上記のアンモニア酸化触媒AMOX(1)に代えて、下記の方法で調製したアンモニア酸化触媒AMOX(17)を用い、参考例1と同様にモデルガス試験装置に設置し、触媒性能を評価した。この触媒性能の評価結果を図1〜3に示す。
NH酸化触媒AMOX(17)の製造
=下層(NH酸化機能を有する触媒層)=
貴金属成分原料としての塩化白金水溶液を、母材としてのチタニア粉末E(90重量%TiO/10重量%SiO、BET値:100m/g)に含浸担持させPt担持チタニア粉末(Pt換算2.22重量%、最終的な触媒の担体体積あたりのPt担持量1.0g/Lに相当)を得た。
得られたPt担持チタニア粉末450gと、鉄元素でイオン交換したβ型ゼオライト{Feイオン交換量;1.76重量%(Fe換算)、SAR=28}100gと、鉄元素でイオン交換したMFI型ゼオライト{Feイオン交換量;1.35重量%(Fe換算)、SAR=23}200gと、バインダー100gを水と一緒にボールミルに投入し、所定の粒径となるまでミリングして、NH酸化触媒層用スラリーIを得た。
続いて、このスラリーIを一体型構造担体、すなわちハニカムフロースルー型コージェライト担体(300セル/5ミル、φ25.4mm×24mm長さ)に浸漬させ、単位体積あたりの触媒担持量が85g/Lとなるようにウォッシュコート法で塗布した。その後、150℃で1時間乾燥させ、大気雰囲気下、500℃で2時間焼成して下層塗布済み触媒Fを得た。このようにして得た下層塗布済み触媒Fには単位体積あたりPtが1.0g/L担持されることとなる。
=上層(SCR層)=
鉄元素でイオン交換したβ型ゼオライト{Feイオン交換量;1.76重量%(Fe換算)、SAR=28}400gと、鉄元素でイオン交換したMFI型ゼオライト{Feイオン交換量;1.35重量%(Fe換算)、SAR=23}600gと、酸化セリウム(BET値:150m/g)20gと、バインダー100gを水とともにボールミルに投入し所定の粒径となるまでミリングして、SCR機能層塗布用スラリーJを得た。
続いて、このスラリーJに下層塗布済み触媒Fを浸漬させ、単位体積あたりの触媒担持量が112g/Lとなるようにウォッシュコート法で塗布した。その後、150℃で1時間乾燥させ、大気雰囲気下、500℃で2時間焼成して表1に示す比較用のAMOX(17)を得た。
【0097】
[比較例2]
Pt担持チタニア粉末の貴金属濃度を変更し、最終的な触媒の単位体積あたりのPt担持量を0.7g/Lとしボールミルに投入するPt担持チタニア粉末量を447gに変更する以外は、比較例1に記載の方法と同様にして、表1に示す比較用のAMOX(18)を得た。同様にモデルガス試験装置に設置し、触媒性能を評価した。この触媒性能の評価結果を図1〜3に示す。
【0098】
[比較例3]
Pt担持チタニア粉末の貴金属濃度を変更し、最終的な触媒の単位体積あたりのPt担持量を0.5g/Lとしボールミルに投入するPt担持チタニア粉末量を445gに変更する以外は、比較例1に記載の方法と同様にして、表1に示す比較用のAMOX(19)を得た。同様にモデルガス試験装置に設置し、触媒性能を評価した。この触媒性能の評価結果を図1〜3に示す。
【0099】
[比較例4]
Pt担持チタニア粉末の貴金属濃度を変更し、最終的な触媒の単位体積あたりのPt担持量を0.1g/Lとしボールミルに投入するPt担持チタニア粉末量を441gに変更する以外は、比較例1に記載の方法と同様にして、表1に示す比較用のAMOX(20)を得た。同様にモデルガス試験装置に設置し、触媒性能を評価した。この触媒性能の評価結果を図1〜3に示す。
【0100】
[評価]
図1に示すとおり、参考例1〜12、実施例1〜4では、アンモニア酸化触媒AMOX(1)〜(16)が本発明の触媒成分として特定の複合酸化物を含んでいるために、比較例1のアンモニア酸化触媒(17)に比べ、Pt量が少ないにもかかわらず図1に示すとおり、特に低温(230℃)でのNH転化率が優れていることがわかる。また、図2に示すとおり、他の評価温度と比べて排出濃度が高い260℃でのNOの排出濃度を比較した時に、参考例1〜12、実施例1〜4は比較例1のアンモニア酸化触媒(17)よりも低く抑えられている。また、図3に有害成分であるNOxの副生状況を示すとおり、ガス組成としてNOxを含む400℃の評価結果では、90%以上の十分高いNH転化率が得られているにもかかわらず、触媒に流入するガス中のNOx濃度300ppmよりも触媒から流出し計測されたNOx濃度の方が低いことがわかる。これは参考例1〜12、実施例1〜4のアンモニア酸化触媒AMOX(1)〜(16)がNOx排出を抑制していることを示す。スリップしたNHを従来技術に比べて低貴金属担持量であっても高い効率で浄化し、かつNOの副生やNHの酸化に伴う新たなNOxの発生を抑制していることが確認できる。
以上の結果より、本発明の触媒成分として特定の複合酸化物を含むアンモニア酸化触媒は従来のアンモニア酸化触媒に比べ、NOやNOxの副生抑制能力を有しつつ、Ptの使用量を低減した上で、NHの浄化性能を向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、ディーゼルエンジンなど自動車から排気される窒素酸化物の除去技術、スリップNHの浄化に対しても広く適用可能である。また、使用される燃料は、軽油の他、ガソリン、重油をはじめ、アルコール等のバイオ燃料、またバイオ燃料と軽油、バイオ燃料とガソリンの混合燃料を使用した燃焼機関から排出された排気ガスに対しても適用できる。さらに、本発明は、可燃性粒子成分が堆積したフィルターの再生を伴う排気ガス浄化触媒装置に適用しても効果が発揮される。

図1
図2
図3