特許第5989222号(P5989222)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5989222共振システム、および、共振器の励振方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989222
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】共振システム、および、共振器の励振方法
(51)【国際特許分類】
   H01P 7/06 20060101AFI20160825BHJP
【FI】
   H01P7/06
【請求項の数】11
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-500779(P2015-500779)
(86)(22)【出願日】2012年3月21日
(65)【公表番号】特表2015-516724(P2015-516724A)
(43)【公表日】2015年6月11日
(86)【国際出願番号】EP2012054995
(87)【国際公開番号】WO2013139389
(87)【国際公開日】20130926
【審査請求日】2015年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】390039413
【氏名又は名称】シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー ハイト
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー ヒューズ
(72)【発明者】
【氏名】ジェニファー ズィアトル
【審査官】 岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04314209(US,A)
【文献】 特開平02−223226(JP,A)
【文献】 特開昭55−124285(JP,A)
【文献】 特開平06−338795(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/00−11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共振周波数(110)を有する共振器(510)の励振方法であって、
第1の期間(321,323,341,343)中に、前記共振周波数(110)から第1の周波数差(135,136)だけ偏差する第1の周波数(130,131)で、前記共振器(510)を励振し、
第2の期間(322,324,342,344)中、前記共振周波数(110)から第2の周波数差(125,126)だけ偏差する第2の周波数(120,121)で前記共振器(510)を励振し、
前記第1の周波数差(135,136)と前記第2の周波数差(125,126)とは異なる符号を有し、
前記第1の周波数差(135,136)の絶対値と前記第2の周波数差(125,126)の絶対値との差は、大きい方の絶対値の10%未満である、励振方法において、
前記共振器(510)の振動振幅(102)を低減させようとする場合、前記第1の周波数差(135,136)および前記第2の周波数差(125,126)を拡大する、
又は
前記共振器(510)の振動振幅(102)を増大させようとする場合、前記第1の周波数差(135,136)および前記第2の周波数差(125,126)を縮小する
ことを特徴とする励振方法。
【請求項2】
前記第1の期間(321,323,341,343)と前記第2の期間(322,324,342,344)とは繰り返し連続する、
請求項1記載の励振方法。
【請求項3】
前記第1の期間(321,323,341,343)と前記第2の期間(322,324,342,344)とは等しい長さを有する、
請求項1または2記載の励振方法。
【請求項4】
前記第1の期間(321,323,341,343)と前記第2の期間(322,324,342,344)とにおいて一定の励振振幅で前記共振器(510)を励振する、
請求項1から3までのいずれか1項記載の励振方法。
【請求項5】
別の期間(311,331)中に前記共振器(510)を前記共振周波数(110)で励振する、
請求項1から4までのいずれか1項記載の励振方法。
【請求項6】
前記第1の期間(321,323,341,343)中と、前記第2の期間(322,324,342,344)中と、前記別の期間(311,331)中とにおいて、一定の励振振幅で前記共振器(510)を励振する、
請求項5記載の励振方法。
【請求項7】
共振器(510)と、
前記共振器(510)の振動を励振するための励振装置(540)と
を有する共振システム(500)であって、
前記励振装置(540)は、請求項1から6までのいずれか1項記載の励振方法を実施するように構成されている
ことを特徴とする、共振システム(500)。
【請求項8】
前記振動は電磁振動である、
請求項7記載の共振システム(500)
【請求項9】
前記共振器(510)はRFキャビティである、
請求項8記載の共振システム(500)
【請求項10】
前記共振器(510)は、粒子加速器の共振器である、
請求項7から9までのいずれか1項記載の共振システム(500)
【請求項11】
前記励振装置(540)は固体スイッチを有する、
請求項7から10までのいずれか1項記載の共振システム(500)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載の共振器の共振方法、および、請求項9に記載の共振器と励振装置とを含む共振システムとに関する。
【0002】
共振器すなわち振動系には種々の態様があり、共振器はたとえば、内部にて電磁振動を励振させることができるRFキャビティとして形成することができる。このようなRFキャビティを粒子加速器において使用して、荷電粒子を加速させることが公知である。
【0003】
共振器振動を励振および維持するためには、外部から励振装置を用いて共振器へエネルギーを供給しなければならない。粒子加速器の、RFキャビティとして形成された共振器では、このエネルギー供給のために高周波源を用いる。従来は、共振器内に供給するエネルギー量を制御するためには、この高周波源の出力振幅を調整していた。しかし、特に励振のために固体スイッチを用いる場合、振幅変調を行えるようにするために必要な手間は著しく大きく、これは、公知の励振装置の効率低下の要因となっていた。
【0004】
本発明の課題は、共振器の励振方法を改善することである。前記課題は、請求項1に記載の特徴を有する方法により解決される。本発明はさらに、共振器および励振装置を備えた共振システムを改善することも課題とする。前記課題は、請求項9に記載の特徴を有する共振システムにより解決される。従属請求項に有利な実施形態が記載されている。
【0005】
共振周波数を有する共振器の本発明の励振方法では、第1の期間中に、当該共振周波数とは第1の周波数差だけ相違する第1の周波数で当該共振器を励振させる。第2の期間中には、前記共振周波数とは第2の周波数差だけ相違する第2の周波数で前記共振器を励振させる。前記第1の周波数差の符号と第2の周波数差の符号とは異なる。さらに、前記第1の周波数差の絶対値と前記第2の周波数差の絶対値との差は、大きい方の絶対値の10%未満である。つまり、前記第1の周波数と前記第2の周波数とは、共振周波数を中心として可能な限り対称的である。有利には、前記共振周波数とは異なる第1の周波数および第2の周波数で励振させることにより、前記共振器に供給するエネルギーを減少させる。前記第1の周波数の位置と前記第2の周波数の位置とが共振周波数を中心としてほぼ対称的であることにより、共振周波数とは異なる周波数で共振器を励振させることにより引き起こされる、共振器振動の位相シフトが平均化される。このようにして、前記方法は有利には、励振の振幅を変化させることなく、共振器へ供給されるパワーを制御することができる。このことにより、有利には技術的に大きな手間をかけることなく、前記方法を実用化することができる。
【0006】
本方法の有利な実施形態では、前記第1の期間と第2の期間とを順次繰り返す。その際に有利なのは、第1の期間および第2の期間の各期間を非常に短くすることである。これにより、前記第1の周波数および第2の周波数で共振器を励振することにより引き起こされる共振器振動の位相シフトが特に有効に平均化する。
【0007】
好適には、前記第1の期間と第2の第2の期間とは等しい長さを有する。このことによっても、共振器振動の位相シフトの特に有効な平均化が促進されるという利点が奏される。
【0008】
本方法の1つの有利な実施形態では、前記第1の期間中および第2の期間中に共振器を一定の励振振幅で励振させる。この実施形態では有利には、励振振幅を調整せずに本方法を実用化することができる。
【0009】
本方法の1つの実施形態では、さらに別の期間中に前記共振器を前記共振周波数で励振させる。このような実施形態により、前記別の期間中に前記共振器へ供給されるパワーを上昇できるという利点が奏される。
【0010】
有利には、前記第1の期間中と前記第2の期間中と前記別の期間中とおいて、共振器を一定の励振振幅で励振する。このような構成により、共振器を励振するために使用される励振装置が励振振幅を調整できるようにしなくてもよいという利点が奏される。
【0011】
本方法の有利な実施形態では、共振器の振動振幅を縮小させようとする場合、前記第1の周波数差および第2の周波数差を拡大させる。このことにより、励振振幅を変化させる必要なく、共振器振動のパワーを低下させることができるという利点が奏される。
【0012】
また、共振器の振動振幅を増大させようとする場合、前記第1の周波数差および第2の周波数差を縮小させる実施形態も有利である。このことによっても、励振振幅を変化させる必要なく、共振器振動のパワーを制御できるという利点が奏される。
【0013】
本発明の共振システムは、共振器と、当該共振器を励振するための励振装置とを有する。この励振装置は、上述の方法を実施するように構成されている。このような構成により、出力振幅が可変である励振装置を構成しなくてもよいという利点が奏される。このように出力振幅の可変性が不要となることにより、励振装置を簡単かつ高効率に構成できるという利点が奏される。
【0014】
前記共振システムの一実施形態では、前記共振器の振動は電磁振動である。このことによって有利には、前記共振システムを多くの技術的目的に使用することができる。
【0015】
前記共振システムの1つの有利な実施形態では、前記共振器はRFキャビティとして形成されている。有利には、RFキャビティは多くの技術的目的に用いることができる。
【0016】
前記共振システムの特に有利な実施形態では、前記共振器は粒子加速器の共振器である。このような構成により、有利には、共振システムの共振器を荷電粒子の加速に用いることができる。粒子加速器のエネルギー消費量は膨大であるから、上述のような共振システムで実施可能な、高効率の励振装置は、特に有利である。
【0017】
前記共振システムの1つの実施形態では、前記励振装置は固体スイッチを有する。固体スイッチを使用することにより、有利には、励振装置の構成をコンパクト、低コストかつ高エネルギー効率にすることができる。
【0018】
以下、図面を参照して、実施例について詳細に説明する。この説明内容を併せて参酌すれば、本発明の上述の特性、特徴および利点と、本発明を実現する態様とを、より明確に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】共振器の振幅‐周波数特性の一例を示す図である。
図2】共振器振動と外部励振との位相差を示すグラフ例である。
図3】共振器の励振の励振周波数の推移を示す図である。
図4】共振器振動の振幅の推移を示す図である。
図5】共振システムの概略図である。
【0020】
図1は、共振器の振幅‐周波数特性100をグラフで示す概略図である。基本的には、どの共振器も同等の振幅‐周波数特性を有する。ここでは、共振器はたとえばRFキャビティであり、このRFキャビティ内部で電磁振動を励振させることができる。
【0021】
図1のグラフの横軸上に励振周波数101を示している。この励振周波数101とは、共振器の共振器振動を外部から励振させるための周波数である。図1のグラフの縦軸上に振動振幅102を示している。この振動振幅102とは、共振器の共振器振動の振幅であり、よってこの共振器振動で蓄積されたエネルギーを表す尺度である。図1の振幅‐周波数特性100は、特定の励振周波数101で共振器を励振させたときに生じる共振器振動の振幅を示している。よって、図1の振幅‐周波数特性100は、外部励振によって当該外部励振の励振周波数101に依存して共振器へ供給されるエネルギーを示している。
【0022】
前記振幅‐周波数特性100は、共振器の共振周波数110で最大振幅140を示す。励振周波数101が共振器の共振周波数110より高い場合、または低い場合、共振器内で引き起こされる振幅は低下する。たとえば、共振周波数110より低い低域側の周波数120で励振された共振器振動は、低下した振幅150を示す。共振周波数110より高い高域側の周波数130でも、共振器振動の振幅150は低下する。共振周波数110から逸れたときの振幅‐周波数特性100の低下が急峻であるほど、共振器の品質は高い。低域側周波数120のときの振幅と高域側周波数130のときの振幅とは相違することも可能である。
【0023】
低域側周波数120と共振周波数110との差は第1の周波数差125であり、高域側周波数130と共振周波数110との差は第2の周波数差135である。第1の周波数差125の符号と第2の周波数差135の符号とは異なる。有利には、第1の周波数差125の絶対値と第2の周波数差135の絶対値とはほぼ等しい。その際には共振周波数110は、低域側周波数120と高域側周波数130との間の中心に来る。
【0024】
共振器を共振周波数110で励振すると、最大振幅140を示す共振器振動が生じる。このときに共振器へ供給されるエネルギーは最大となる。低域側周波数120または高域側周波数130で共振器を励振させると、低下した振幅150で共振器振動が生じる。したがって、このときに外部励振により共振器内へ供給されるエネルギーは少なくなる。よって、共振器を励振させる励振周波数101を変化させることにより、共振器へ供給されるエネルギーを変化させることができる。
【0025】
図2は、共振器の外部励振と、共振器内にて生じる共振器振動との位相差200をグラフで示す概略図である。ここでも、横軸に外部励振の励振周波数101を示しており、縦軸には、外部励振と共振器振動との間の位相差201を示している。
【0026】
共振器を共振周波数110で励振させると、外部励振と共振器振動との間に共振位相差210が生じる。この共振位相差210はたとえば、励振と共振器振動との間の90°の位相差である。共振周波数110から逸れると、励振と共振器振動との間の位相差201が変化する。たとえば、低域側周波数120で共振器を励振させると第1の位相差220が生じ、共振器を高域側周波数130で励振させると第2の位相差230が生じる。このことは通常望ましくない。望ましいのは、外部励振と共振器振動との間の位相差201が共振位相差210に維持されることである。
【0027】
しかし図1および2に示された実施例では、低域側周波数120と高域側周波数130とは、第1の位相差220と共振位相差210とが第1の位相差変化分225だけ相違し、第2の位相差230と共振位相差210とが第2の位相差変化分235だけ相違するように選択されている。その際には、第1の位相差変化分225の符号と第2の位相差変化分235の符号とは異なるが、両位相差変化分の絶対値はほぼ等しい。
【0028】
つまり、低域側周波数120および高域側周波数130は、低域側周波数120で励振させたときに生じる第1の位相差220と、高域側周波数130で励振させたときに生じる位相差230とが、共振位相差210を中心として可能な限り対称的になるように、すなわち、第1の位相差変化分225の絶対値と第2の位相差変化分235の絶対値とが可能な限り等しくなるように選択される。低域側周波数120で励振させたときと高域側周波数130で励振させたときとで、低下した振幅150が等しくなるか否かは、あまり重要ではない。低域側周波数120の場合に生じる振動振幅102が、高域側周波数130のときとは異なっても、問題は無い。
【0029】
高い品質を有する共振器を用いる場合には、低域側周波数120と高域側周波数130とが共振周波数110を中心としてほぼ対称的に位置するとき、すなわち、前記第1の周波数差125と第2の周波数差135とがほぼ等しい絶対値を有するときに、上記要求は満たされる。有利には、前記第1の周波数差125の絶対値と前記第2の周波数差135の絶対値との差は、大きい方の絶対値の10%未満である。特に有利なのは、第1の周波数差125の絶対値と第2の周波数差135の絶対値との差が、さらにより小さい割合であること、たとえば、大きい方の絶対値の5%または1%のみであることである。
【0030】
共振器を低域側周波数120と高域側周波数130とで交互に励振すると、それにより生じる位相差変化分225,235が相殺される。低域側周波数120による励振期間と高域側周波数130による励振期間とが迅速に連続するほど、上述の相殺はより良好に機能する。このことはたとえば、励振周波数にジッタを制御により印加することによって実現することができる。
【0031】
図3は、共振器の励振の振幅を変えることなく当該共振器のパワー制御を行うときの励振周波数推移300を示す概略図である。図3のグラフの横軸上に時間301を示しており、同グラフの縦軸上には、共振器を励振させるときの励振周波数101を示す。
【0032】
図4は、図3の励振周波数推移300で共振器を励振する間に生じる共振器振動の振動振幅の振幅推移400を示す概略的なグラフである。したがって、図4のグラフの横軸上にも時間301を示しており、同グラフの縦軸上には共振器振動の振動振幅102を示す。
【0033】
第1の時点310と、時間的に当該第1の時点310の次の第2の時点320との間の第1の期間311中に、共振器を共振周波数110で励振する。これにより、第1の時点310と第2の時点320との間に、共振器における共振器振動の振幅が最大振幅140となる。
【0034】
第2の時点320と第3の時点330との間では、共振器へ供給されるエネルギーを低減させる必要があり、こうするためには、第2の時点320と第3の時点330との間の時間を、第2の期間321と第3の期間322と第4の期間323と第5の期間324とに分ける。これら4つの期間321,322,323,324の各長さは、有利にはほぼ等しい。第2の期間321中および第4の期間323中において、共振器を高域側周波数130で励振し、第3の期間322中および第5の期間324中において、共振器を低域側周波数120で励振する。その結果、第2の時点320と第3の時点330との間に、共振器において、縮小した振幅150での共振器振動が生じる。したがって、第2の時点320と第3の時点330との間に共振器へ供給されるパワーは、第1の時点310と第2の時点320との間に供給されるパワーより小さくなる。第2の時点320と第3の時点330との間では常時、低域側周波数120と高域側周波数130とで交互に共振器を励振するので、このようにして生じる、励振と共振器振動との位相差変化分225,235は平均化される。このようにして、励振と共振器振動との位相差201は時間平均的に共振位相差210にとどまることになる。
【0035】
図3および図4の概略図では、第2の時点320と第3の時点330との間では、2つの期間321,323でのみ共振器を高域側周波数130で励振し、2つの期間322,324では低域側周波数120で当該共振器を励振する。しかし有利には、第2の時点320と第3の時点330との間の期間は、励振周波数101が異なる、格段により多くの個別期間に分割する。すなわち、低域側周波数120と高域側周波数130とが入れ替わる頻度を格段に多くする。
【0036】
第3の時点330と第4の時点340との間の第6の期間331中には再び、共振器を共振周波数110で励振する。このことにより、第3の時点330と第4の時点340との間の共振器振動は、再び最大振幅140となり、よって、第3の時点330と第4の時点340との間に共振器に供給されるパワーは再び最大となる。
【0037】
第4の時点340と第5の時点350との間において、共振器へ供給されるパワーを、第2の時点320と第3の時点330との間で低減させたときよりも大きく低減する必要があり、こうするためには、第4の時点340と第5の時点350との間において、第2の低域側周波数121と第2の高域側周波数131とで交互に共振器を励振する。第2の低域側周波数121と共振周波数110との差は第3の周波数差126であり、第2の高域側周波数131と、共振器の共振周波数110との差は第4の周波数差136である。
【0038】
第3の周波数差126の符号と第4の周波数差136の符号とは異なり、両周波数差126,136の絶対値はほぼ一致する。しかし、第3の周波数差126の絶対値は第1の周波数差125の絶対値より大きく、第4の周波数差136の絶対値は第2の周波数差135の絶対値より大きい。図1から、周波数差125,135より大きい周波数差126,136によって、第2の高域側周波数131および第2の低域側周波数121で励振したときに共振器へ供給されるパワーがさらに、低域側周波数120および高域側周波数130により共振器を励振する場合よりも低下しているのが明らかである。
【0039】
図3および図4の概略図では、第4の時点340と第5の時点350との間の期間が、第7の期間341と第8の期間342と第9の期間343と第10の期間344とに分かれているが、第4の時点340と第5の時点350との間の期間を、格段により多くの個別期間に分割することも可能である。第7の期間341中および第9の期間343中において、共振器を第2の高域側周波数131で励振し、第8の期間342中および第10の期間344中において、共振器を第2の低域側周波数121で励振する。その結果、第4の時点340と第5の時点350との間では、別の第2の低減した振幅151での振動が共振器に生じる。この第2の低減した振幅151は最大振幅140より小さく、かつ、前記低減した振幅150よりも小さい。したがって、第4の時点340と第5の時点350との間に共振器へ供給されるパワーは、第1の時点310と第4の時点340との間のどの期間に供給されるパワーよりも低い。
【0040】
第3の周波数差126と第4の周波数差136とはほぼ等しい絶対値を有することにより、つまり、第2の低域側周波数121と第2の高域側周波数131とは共振周波数110を中心としてほぼ対称的に位置することにより、第4の時点340と第5の時点350との間に第2の低域側周波数121および第2の高域側周波数131で共振器を励振することにより生じる、励振と共振器振動との位相差変化は、時間平均的に相殺される。
【0041】
したがって、図1〜4を参照して説明した方法により、共振器のパワー制御を行うことが可能になる。これらの方法では、共振器を励振する励振振幅を変化させなくてもよく、その代わりに、共振器を励振する周波数を変化させる。共振器を共振周波数で変化させると、共振器へ供給されるパワーは最大となり、共振周波数と異なる周波数で共振器を励振すると、共振器へ供給されるパワーは低下するが、励振と共振器振動との位相差も変化する。しかし、共振周波数を中心としてほぼ対称的である2つの異なる周波数を迅速に入れ替えながら共振器を励振すると、それにより生じる位相差は平均化される。これら2つの励振周波数と共振器の共振周波数との間隔が大きくなるほど、共振器へ供給されるパワーの低下は大きくなる。共振器の品質が高いほど、上述の方法はより良好に機能する。励振周波数にジッタを重畳することにより、当該励振周波数を変化させることができる。
【0042】
図5に、上述の方法を実施するのに適した共振システム500の一例を概略的に示す。この共振システム500はたとえば、荷電粒子を加速するための粒子加速器に設置される共振システムとすることができる。
【0043】
共振システム500は共振器510を含み、同図中の実施例では、共振器510はRFキャビティとして形成されている。図中の実施例では共振器510は、円筒形のいわゆるピルボックス共振器である。この円筒形の共振器510の周面は、金属製の共振器壁520により形成されている。
【0044】
この共振器510内において電磁振動を励振させることができる。こうするためには、共振器壁520は周縁上のスリット530を有し、このスリット530内に電気絶縁性材料が設けられている。このスリット530を跨ぐように励振装置540が配置されている。励振装置540は有利には固体スイッチを有する。前記励振装置540を用いて、前記共振器壁520の、スリット530によって相互に区切られた区域間に高周波の電流を誘導させることができ、これにより共振器510において共振器振動が励振される。
【0045】
励振装置540は、共振器510を上述の方法により励振するように構成されている。つまり励振装置540は、共振器510へ供給されるパワーを制御するために、共振器壁520のスリット530の両側に印加される電圧の周波数を変化させる。このとき、励振装置540の出力振幅は一定に保たれる。このことの利点は、固定的な増幅器チェーンを有するように励振装置540を構成することができ、この増幅器チェーンを可変としなくてもよいことである。こうすることによって有利には、励振装置540を簡単な構造とすることができる。このことによってさらに、高効率の励振装置540を実現できるという利点も奏される。
【0046】
有利な実施例により本発明を詳細に説明および図示したが、本発明は、開示した実施例に限定されることはない。当業者であれば、本発明の保護範囲を逸脱することなく、他の変更態様を導き出すことも可能である。
図1
図2
図3
図4
図5