【実施例】
【0015】
図1、
図2および
図3は、本発明の一実施例である足踏み式パーキングブレーキ操作装置10を示す左側面図、正面図および右側面図である。また、
図4は、その足踏み式パーキングブレーキ操作装置10の構成を説明するために左ブラケット14を除去して車両側方(左側)から見た図である。
【0016】
足踏み式パーキングブレーキ操作装置10は、車両の運転席前方において車体12に位置固定に配設される一対の左ブラケット14および右ブラケット16に、支持軸18により回動軸心Sまわりに回動可能に配設された操作ペダル20を備えている。左ブラケット14および右ブラケット16は、車体12に固定される基板部14aおよび16aと、その基板部14aおよび16aから直角に曲げられて相対向する側板部14bおよび16bとを備え、上記操作ペダル20の基端部がそれら一対の側板部14bおよび16bにより支持軸18まわりに回動可能に支持されている。操作ペダル20の先端部すなわち下端部にはペダルパッド22が設けられており、そのペダルパッド22が運転者によって踏込み操作されると、操作ペダル20は支持軸18まわりに回動させられ、パーキングブレーキケーブル24に張力を発生させて図示しない車輪に配設された図示しないパーキングブレーキ装置を作動させる。
【0017】
操作ペダル20の上部前方には、回動軸心Sを中心とする円弧形状に沿って多数の鋸歯26を有するラチェット28が取り付けられており、回動軸心Sと平行なポールピン30を介してブラケットに回転可能に配設されたポール32の噛合歯34と噛み合わされることにより、操作ペダル20の原位置側への戻り回動が阻止されてパーキングブレーキの作動状態が維持される。ポール32は、ポール32およびブラケットに掛け止められた捩りコイルスプリング36によってポールピン30の右まわり方向へ回動するように付勢されており、噛合歯34がラチェット28の鋸歯26と噛み合わされる。
【0018】
ラチェット28の鋸歯26は、回動軸心Sまわりにおいて操作ペダル20の踏込み操作時の回動方向Aと逆方向へ向かうほど高くなる傾斜歯で、捩りコイルスプリング
36によって付勢されているポール32は、その付勢力に抗して揺動しながら鋸歯26を乗り越えることができる。そして、操作ペダル20に対する踏込み操作力が解除されると、操作ペダル20はパーキングブレーキケーブル24の張力に従って戻り回動させられるとともに、三角形状の噛合歯34はラチェット28の歯溝内に進入し、鋸歯26のロック面〜歯底面に当接させられて操作ペダル20のそれ以上の戻り回動が阻止され、これによりパーキングブレーキの作動状態が維持される。ラチェット28およびポール32は何れも金属材料製で、ロック面およびそのロック面に対面する噛合歯34の側端面は、直線状を成す平坦面で互いに略密着させられるとともに、歯底面および噛合歯
34の先端面は何れも側面視において曲率が略等しい円弧形状を成す円筒面で互いに略密着させられ、ロック状態すなわちパーキングブレーキの作動状態が安定して維持される。
【0019】
ポールピン30はポール32に設けられた長穴42内を挿通させられており、ポール32の噛合歯34がラチェット28の鋸歯26と噛み合わされると、パーキングブレーキケーブル24の張力によりポール32の回転中心が変化するとともに、捩りコイルスプリング36による付勢方向が逆転する。これにより、再度操作ペダル20が踏まれてラチェット28との噛合が解除されると、ポール32は捩りコイルスプリング36の付勢力に従ってポールピン30の左まわりに回動させられ、ラチェット28との噛合が不能となる。操作ペダル20は、両端部すなわち一対の端部44aおよび44bが操作ペダル20の基端部と左ブラケット14の側板部14bとにそれぞれ掛け止められ、それら端部44aおよび44bの間の巻回部44cが支持軸18まわりすなわち回動軸心Sまわりに巻回されたリターンスプリング44によって回動軸心Sまわりに元位置へ向かって回動するように付勢されており、このリターンスプリング44の付勢力およびパーキングブレーキケーブル24の張力に従って
図1乃至
図4に示す原位置まで戻り回動させられる。操作ペダル20の原位置は、ブラケットの側板部に取り付けられたストッパ46により規定されるとともに、操作ペダル20が原位置まで戻り回動させられる際に、その操作ペダル20に一体に設けられた戻し当接部48がポール32と当接させられることにより、そのポール32がポールピン30まわりに回動させられ、回転中心が初期位置へ復帰させられるとともに、捩りコイルスプリング36による付勢方向が右まわり方向に戻される。
【0020】
図5、
図6、
図7は、リターンスプリング44の装着後の形状を示す平面図、左側面図、および正面図である。リターンスプリング44の装着前は端部44aが
図6の破線に示す位置となる。リターンスプリング44は、操作ペダル20の基端部と左ブラケット14の側板部14bとにそれぞれ掛け止められた一対の端部44aおよび44bと、それら端部44aおよび44bの間で回動軸心Sまわりにすなわち支持軸18まわりに巻回された巻回部44cとを備え、巻回部44cはその回動軸心と共通の軸心を有している。操作ペダル20は、1枚の鋼板から長手状に且つ長手方向に交差する断面がコの字状に曲成されたプレス部品であり、操作ペダル20の基端部の回動軸心Sに直交し且つ回動軸心S方向の厚み寸法の中立面Cが、回動軸心S方向において、リターンスプリング44の巻回部44cを通過するように位置させられている。
【0021】
図8、
図9、
図10は、リターンスプリング44の装着状態を説明する、左ブラケット14を取り除いて示す斜視図、右ブラケット16を取り除いて示す斜視図、および、拡大して示す正面図である。左ブラケット14の側板部14bに掛け止められるリターンスプリング44の端部44aは、巻回部44cからその接線方向に延びる直線部Taと回動軸心Sと平行となるようにその直線部Taに対して直角に曲成された掛止部Faとを備え、その掛止部Faが左ブラケット14の側板部14bに貫通して形成された掛止穴14c内に掛け止められている。
【0022】
操作ペダル20の基端部に掛け止められるリターンスプリング44の端部44bは、巻回部44cの接線方向に延びる直線部Kbと、折曲点MPにおいて操作ペダル20の中立面Cに対して所定の折曲角θだけ左ブラケット14側となるようにすなわち操作ペダル20の中立面C側となるように巻回部44cから折り曲げられた長さLbの直線状の折曲部Tbと、その折曲部Tbに対して直角に曲成されたオフセット部Sbと、そのオフセット部Sbに対して直角に曲成された掛止部Fbとを備え、その掛止部Fbが操作ペダル20の基端部のうちに回動軸心S方向の右ブラケット16側に貫通して形成された掛止穴20a内に掛け止められている。この折曲部Tb、掛止部Fbと、その掛止部Fbが掛け止められる掛止穴20aは
図4の左右(水平)方向である車両前後方向において、支持軸18の軸心Sとペダルパッド22との間に位置させられていて、折曲部Tbの弾性復帰力が軸心Sとペダルパッド22との間に左ブラケット14側へ向かう方向へ作用させられるようになっている。また、上記折曲部Tbの長さLbは、横ガタ抑制と組付性とのバランスを考慮して25mm程度に設定されている。25mm程度より小さいと組付性が低下し、25mm程度より大きいと横ガタ抑制効果が低下する傾向となる。
【0023】
上記のように、リターンスプリング44の端部44bの折曲部Tbが、折曲点MPにおいて、巻回部44cの接線方向に延び且つ操作ペダル20の中立面Cに対して所定の折曲角θだけ左ブラケット14側となるようにすなわち操作ペダル20の中立面C側となるように巻回部44cから折り曲げられている。このため、その端部44bの掛止部Fbが、
図10に示すように、操作ペダル20の中立面Cに対して平行になる側へ変形させつつ操作ペダル20の基端部に貫通して形成された掛止穴20a内に係合させられると、
図10に示すように、その折曲部Tbの弾性復帰力により
図10の正面図において回動軸心Sと中立面Cとの交点Pまわりの時計まわりのモーメントMが発生する。このモーメントMにより、リターンスプリング44の全体が捻じれるように巻回部44cの中立面C’が装着前の中立面Cに対して傾斜させられ、操作ペダル20のペダルパッド22の踏面が左ブラケット14側すなわち車両の左側へ傾く方向に傾斜させられる。これにより、
図8の巻回部接触部位R16においては、リターンスプリング44の巻回部44cと右ブラケット16の側板部16bとが押圧状態で接触させられ、
図8の折曲点接触部位Rbにおいては、リターンスプリング44の右ブラケット16側の端部44bの折曲点MPと右ブラケット16の側板部16bとが押圧状態で接触させられる。また、
図9の巻回部接触部位R14においては、リターンスプリング44の巻回部44cと左ブラケット14の側板部14bとが押圧状態で接触させられる。このような与圧により、操作ペダル20のペダルパッド22の横方向のガタすなわち左右のガタが好適に解消される。
【0024】
本発明者等は、線径がφ3.8mmのピアノ線(JISG3522)を用い、巻回部44cの捲き径(コイルの内径)がφ66.2mmとなるように巻回し、
図11に示すリターンスプリングの試験品1、および
図12に示すリターンスプリングの試験品2、および試験品3を作成した。この試験品1は、折曲点MPにおいて折り曲げられておらず、直線部Kbと折曲部Tbとが一直線上に位置する以外は、リターンスプリング44と同様のものである。また、試験品2および試験品3は、前述の実施例とは逆に、折曲部Tbが右ブラケット16側へ折り曲げられてその折曲部Tbの操作ペダル20の中立面Cに対する折曲角θが15°および25°を成している以外は、リターンスプリング44と同様のものである。そして、そのような試験品1、試験品2および試験品3を用いて、ペダルパッド22の横方向のガタ(横ガタ)を以下の試験条件を用いて測定した。
【0025】
(横ガタ試験条件)
測定装置:ロードセル、変位計、デジタル指示計、デジタルオシロレコーダー
測定方法:(1)試験品を剛体治具に組み付ける。(パーキングブレーキケーブルは外されている)
(2)上記測定装置において、無負荷時を変位0点とし、ペダルパッドへ車両左右方向に±4.9Nの負荷を加え、得られたF−S線図より総変化量を求めることで横ガタ(mm)を測定した。
【0026】
上記の横ガタ試験によれば、試験品1では6.8mmの横ガタが測定された。また、試験品2および3では、6.4mmおよび6.7mmの横ガタが測定された。それらの横ガタ値は、予め設定された品質基準値3mmを越えており、不合格の判定となった。
【0027】
次いで、本発明者等は、上記試験品1、2、3と同じ材質および線径の線材で、同じ捲径を用いて、前述の実施例の
図5乃至
図7等に示すリターンスプリング44と同様の構成であるが、折曲点MPにおける折曲角θが、20°、21°、22°、23°、24°、25°である6種類の試験品4乃至試験品9を作成した。そして、それら6種類の試験品4乃至試験品9について、上記と同様の横ガタ試験を行なった。
図13は、本発明者等が行なった実験結果を示している。これから明らかなように、上記折曲点MPにおける(折曲部Tbの操作ペダル20の中立面Cに対する)折曲角θは、21°を越えると、横ガタが予め設定された品質基準値3mm以下となり、好適な結果が得られた。
【0028】
上述のように、本実施例の足踏み式パーキングブレーキ操作装置10においては、回動軸心Sまわりにコイル状に巻回されたリターンスプリング44の操作ペダル20側の端部44bは、装着状態において、その操作ペダル20を左ブラケット14の側板部14b(側板の一方)側ヘ付勢するように曲げ成形されているため、コイル状に巻回されたリターンスプリング44は
図10に示すように全体が捻じれるように傾いて配置され、操作ペダル20はそのペダルパッド22の踏面が上記左ブラケット14の側板部14b側へ向かう方向のモーメントMを受ける。これにより、リターンスプリング44の操作ペダル20側の端部を左ブラケット14の側板部14b側ヘ付勢するように曲げ成形するという簡単な構成で、そのモーメントMにより操作ペダル20の横方向のガタが好適に抑制される。
【0029】
また、本実施例の足踏み式パーキングブレーキ操作装置10によれば、リターンスプリング44の操作ペダル20側の端部44bは、巻回部44cからその接線方向に突き出し且つ左ブラケット14の側板部14b(側板の一方)に接近する側へ所定の折曲角θを成す角度で折り曲げられている。このため、コイル状に巻回されたリターンスプリング44は全体が捻じれるように傾いて配置され、操作ペダル20はそのペダルパッド22の踏面が左ブラケット14の側板部14bへ向かう方向のモーメントMを受けるので、操作ペダル20の横方向のガタが好適に抑制される。
【0030】
また、本実施例の足踏み式パーキングブレーキ操作装置10によれば、操作ペダル20の基端部は、巻回部44cの径方向においてその巻回部44cと重なる回動軸心S方向の厚み寸法を有するとともに、リターンスプリング44の操作ペダル20側の端部44bが掛止される掛止穴20aをその厚み方向の中央である中立面Cよりも右ブラケット16の側板部16b(側板の他方)側に有しており、リターンスプリング44の操作ペダル20側の端部44bは、その操作ペダル20の中立面C側へ折れ曲がるように成形されていている。このため、コイル状に巻回されたリターンスプリング44は全体が捻じれるように傾いて配置され、操作ペダル20はそのペダルパッド22の踏面が左ブラケット14の側板部14bへ向かう方向のモーメントMを受けるので、操作ペダル20の横方向のガタが好適に抑制される。
【0031】
また、本実施例の足踏み式パーキングブレーキ操作装置10によれば、操作ペダル20の基端部に設けられてリターンスプリング44の操作ペダル20側の端部44bが掛け止められる掛止穴20aは、
図4の左右(水平)方向である車両の前後方向において、回動軸心Sと前記操作ペダル20のペダルパッド22との間に位置している。このようにすれば、コイル状に巻回されたリターンスプリング44は全体が捻じれるように傾いて配置され、操作ペダル20はそのペダルパッド22の踏面が左ブラケット14の側板部14b(側板の一方)へ向かう方向のモーメントMを受けるので、操作ペダル20の横方向のガタが好適に抑制される。
【0032】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0033】
たとえば、前述の実施例においては、1対の左ブラケット14および右ブラケット16が別体の部品として用いられていたが、それら左ブラケット14および右ブラケット16は、相互に一体の部品であってもよい。要するに、左側板部14
bおよび右側板部16
bを備えるブラケットであればよい。
【0034】
また、前述の実施例のリターンスプリング44は、その端部44bが車両の前後方向において回動軸心Sと操作ペダル20のペダルパッド22との間を左ブラケット14側に付勢することでモーメントMを発生させるものであったが、そのモーメントMを発生させるものであれば、他の形状であってもよい。たとえば、リターンスプリング44の左ブラケット14側の端部44aを、回動軸心Sに対して右ブラケット16側の端部44bとは反対方向に突き出すとともに、巻回部44cが左ブラケット14側へ向かう方向の付勢力を発生させるように、前述の実施例の端部44bの折曲部Tbと同様の折曲部が形成されるようにその端部44aに曲げ成形を施してもよい。このようにしても、リターンスプリング44が
図10に示すものとは反対に捻じれた状態で装着されるとともに前記のモーメントMとは反対方向のモーメントを発生させ、操作ペダル20のペダルパッド22を右ブラ
ケット16側へ付勢するので、操作ペダル20のペダルパッド22における横ガタが好適に抑制される。
【0035】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。