特許第5989250号(P5989250)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5989250MGLUR5受容体活性のモジュレーターとしてのエチニル誘導体
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  • 特許5989250-MGLUR5受容体活性のモジュレーターとしてのエチニル誘導体 図000025
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989250
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】MGLUR5受容体活性のモジュレーターとしてのエチニル誘導体
(51)【国際特許分類】
   C07D 213/81 20060101AFI20160825BHJP
   C07D 413/06 20060101ALI20160825BHJP
   A61K 31/5377 20060101ALI20160825BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20160825BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20160825BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20160825BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20160825BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20160825BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
   C07D213/81CSP
   C07D413/06
   A61K31/5377
   A61P1/00
   A61P25/00
   A61P25/04
   A61P25/14
   A61P25/16
   A61P43/00 111
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-535066(P2015-535066)
(86)(22)【出願日】2013年10月15日
(65)【公表番号】特表2015-531392(P2015-531392A)
(43)【公表日】2015年11月2日
(86)【国際出願番号】EP2013071500
(87)【国際公開番号】WO2014060398
(87)【国際公開日】20140424
【審査請求日】2015年4月1日
(31)【優先権主張番号】12188940.6
(32)【優先日】2012年10月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ヤーシュケ,ゲオルク
(72)【発明者】
【氏名】リンデマン,ローター
(72)【発明者】
【氏名】リッチ,アントーニオ
(72)【発明者】
【氏名】リュエル,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】シュタードラー,ハインツ
(72)【発明者】
【氏名】フィエイラ,エリック
【審査官】 山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/051201(WO,A1)
【文献】 特表2001−509504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 213/81
C07D 239/28
C07D 401/00−401/14
C07D 403/00−403/14
C07D 413/00−413/14
A61K 31/5377
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
【化17】

[式中、
YはN又はCHであり;
はフルオロ又はクロロであり;
は水素又はメチルである]
で示される化合物もしくは薬学的に許容しうる酸付加塩、ラセミ混合物、又はその対応する鏡像異性体及び/もしくは光学異性体及び/もしくは立体異性体。
【請求項2】
YがNである、請求項1に記載の式Iで示される化合物。
【請求項3】
前記化合物が、
(3,3−ジメチル−モルホリン−4−イル)−[5−(3−クロロ−フェニルエチニル)−ピリミジン−2−イル]−メタノン
である、請求項2に記載の式Iで示される化合物。
【請求項4】
YがCHである、請求項1に記載の式Iで示される化合物。
【請求項5】
前記化合物が、
(3,3−ジメチル−モルホリン−4−イル)−[5−(3−フルオロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−メタノン、
[5−(3−クロロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−モルホリン−4−イル−メタノン、又は
(3,3−ジメチル−モルホリン−4−イル)−[5−(3−クロロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−メタノン
である、請求項4に記載の式Iで示される化合物。
【請求項6】
治療上有効な物質としての使用のための、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
請求項1に記載の式Iで示される化合物の調製のための方法であって、以下の変形法:

【化18】

で示される化合物と、式
【化19】

で示される化合物を反応させ、式I
【化20】

[式中、置換基は請求項1に記載される]で示される化合物を生成することを含む、方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物及び治療上有効な担体を含む、医薬組成物。
【請求項9】
不安及び疼痛、うつ病、脆弱X症候群、自閉性障害、パーキンソン病、ならびに胃食道逆流疾患(GERD)の処置のための、請求項に記載の医薬組成物
【請求項10】
不安及び疼痛、うつ病、脆弱X症候群、自閉性障害、パーキンソン病、ならびに胃食道逆流疾患(GERD)を処置するための薬品の製造のための、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項11】
不安及び疼痛、うつ病、脆弱X症候群、自閉性障害、パーキンソン病、ならびに胃食道逆流疾患(GERD)の処置のための、請求項1〜5のいずれか一項に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、式I
【化1】

[式中、
YはN又はCHであり;
はフルオロ又はクロロであり;
は水素又はメチルである]
で示されるエチニル誘導体もしくは薬学的に許容しうる酸付加塩、ラセミ混合物、又はその対応する鏡像異性体及び/もしくは光学異性体及び/もしくはその立体異性体に関する。
【0002】
驚くべきことに、ここで、一般式Iで示される化合物が代謝型グルタミン酸受容体アンタゴニスト(NAM=ネガティブアロステリックモジュレーター)であることが見出された。式Iで示される化合物は有効な治療的性質を有することにより識別される。これらの化合物は、mGluR5受容体介在性疾患の処置又は予防で使用することができる。
【0003】
中枢神経系(CNS)では、刺激の伝達は、刺激の伝達は、ニューロンにより放出される神経伝達物質と、神経受容体との相互作用によって行われる。
【0004】
グルタミン酸は、脳内の主要な興奮性神経伝達物質であり、様々な中枢神経系(CNS)機能において特有の役割を担っている。グルタミン酸依存性刺激受容体は2つの主要なグループに分類される。第1の主要なグループ、すなわちイオンチャネル型受容体は、リガンド制御イオンチャネルを形成する。代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)は、第2の主要なグループに属し、更にGタンパク質共役受容体の一族に属している。
【0005】
現在、これらのmGluRの8類の異なるメンバーが知られており、その中には更にサブタイプを有するものもある。これらの8類の受容体は、それらの配列相同性、シグナル伝達機構及びアゴニスト選択性により、3つのサブグループに細分することができる。すなわち、mGluR1及びmGluR5はグループIに属し、mGluR2及びmGluR3はグループIIに属し、mGluR4、mGluR6、mGluR7及びmGluR8はグループIIIに属する。
【0006】
代謝型グルタミン酸受容体のネガティブアロステリックモジュレーターは、第1のグループに属し、急性及び/又は慢性の神経疾患、例えば、パーキンソン病、脆弱X症候群、自閉性障害、認知障害及び記憶障害、ならびに慢性及び急性の疼痛及び胃食道逆流疾患(GERD)の処置又は予防に用いることができる。
【0007】
これに関連して、他の処置可能な症状は、バイパス手術もしくは移植による脳機能障害、脳への血液供給不足、脊髄損傷、頭部損傷、妊娠による低酸素症、心拍停止及び低血糖である。さらに処置可能な症状は、虚血、ハンチントン舞踏病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、AIDSによる認知症、眼損傷、網膜症、特発性パーキンソン症候群又は薬品によるパーキンソン症候群、ならびにグルタミン酸欠乏機能に至る症状、例えば筋痙攣、痙攣、片頭痛、尿失禁、ニコチン中毒、アヘン中毒、不安、嘔吐、運動障害(dyskinesia)、及びうつ病である。
【0008】
mGluR5が完全に又は部分的に介在する疾患は、例えば、神経系の急性、外傷性 及び慢性の変性過程、例えばアルツハイマー病、老人性認知症、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、筋萎縮性側索硬化症及び多発性硬化症、精神疾患、例えば統合失調症及び不安、うつ病、疼痛、ならびに薬物依存症である(Expert Opin. Ther. Patents (2002), 12, (12))。
【0009】
選択的mGluR5アンタゴニストは、mGluR5受容体活性化の低下が望まれる疾患、例えば、不安及び疼痛、うつ病、脆弱X症候群、自閉性障害、パーキンソン病、ならびに胃食道逆流疾患(GERD)の処置に特に有用である。
【0010】
本発明の目的は、式Iで示される化合物及びそれらの薬学的に許容しうる塩、薬学的に活性な物質としての上記化合物及びそれらの製造である。本発明のさらなる目的は、本発明による化合物に基づく薬品及びそれらの製造、ならびにmGluR5受容体(NAM)介在性疾患(不安及び疼痛、うつ病、脆弱X症候群、自閉性障害、パーキンソン病、及び胃食道逆流疾患(GERD))の抑制又は予防での上記化合物の使用、ならびにそれぞれ対応する薬品の製造のための上記化合物の使用である。
【0011】
本発明の一実施形態は、式I[式中、YはNである]で示される化合物である。
【0012】
本化合物は、(3,3−ジメチル−モルホリン−4−イル)−[5−(3−クロロ−フェニルエチニル)−ピリミジン−2−イル]−メタノンである。
【0013】
本発明のさらなる一実施形態は、式I[式中、YはCHである]で示される化合物である。
【0014】
これらの化合物は、
(3,3−ジメチル−モルホリン−4−イル)−[5−(3−フルオロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−メタノン、
[5−(3−クロロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−モルホリン−4−イル−メタノン、又は
(3,3−ジメチル−モルホリン−4−イル)−[5−(3−クロロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−メタノン
である。
【0015】
本発明の特定の実施形態は、次の化合物からなる:
(3,3−ジメチル−モルホリン−4−イル)−[5−(3−クロロ−フェニルエチニル)−ピリミジン−2−イル]−メタノン、
(3,3−ジメチル−モルホリン−4−イル)−[5−(3−フルオロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−メタノン、
[5−(3−クロロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−モルホリン−4−イル−メタノン、又は
(3,3−ジメチル−モルホリン−4−イル)−[5−(3−クロロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−メタノン。
【0016】
本発明の化合物に類似した化合物は、一般的に、mGluR5受容体のポジティブアロステリックモジュレーターと述べられてきた。驚くべきことに、ポジティブアロステリックモジュレーターと比較した場合、完全に反対の薬理学を有する非常に有効なmGluR5アンタゴニストが、mGluR5ポジティブアロステリックモジュレーターの代わりに得られたことが分かった。
【0017】
ポジティブアロステリックモジュレーターとネガティブアロステリックモジュレーターの主な違いを図1で確認することができる。mGluR5ポジティブアロステリックモジュレーター(PAM)は、一定濃度のグルタミン酸の存在下で、受容体活性(Ca2+動員)の増加を導くが、アロステリックアンタゴニスト(ネガティブアロステリックモジュレーター、NAM)は受容体活性化の低下を導く。図1は、同じ条件下のNAMとPAMの一般的挙動を示している。図1の受容体に対する親和性は、PAMの場合、約10−7M、NAMの場合、10−7Mから10−8Mの間である。これらの値は、放射性リガンド(=MPEP)を置換する結合アッセイ法(binding assay)を使用して測定することができる(アッセイ法の説明を参照のこと)。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】mGluR5ポジティブアロステリックモジュレーター(PAM)とmGluR5アンタゴニスト(ネガティブアロステリックモジュレーター=NAM)の比較。
【0019】
化合物によって対処できる症状は同じではない。mGluR5−NAMは、過剰な受容体活性の低下が望まれる症状、例えば、不安及び疼痛、うつ病、脆弱X症候群、自閉性障害、パーキンソン病、ならびに胃食道逆流疾患(GERD)に有効である。一方、mGluR5PAMは、低下した受容体活性の正常化が望まれる症状、例えば、精神疾患、癲癇、統合失調症、アルツハイマー病及び関連した認知障害、ならびに結節性硬化に有用である。
【0020】
この違いは、例えば、「ラットVogel型コンフリクト飲水試験(rat Vogel conflict drinking test)」などの不安動物モデルで実際に示すことができ、ここでは、本発明の化合物は抗不安活性を示すが、mGluR−PAMはこの動物モデルでは活性を示さない。
【0021】
生物学的アッセイ及びデータ:
細胞内Ca2+動員アッセイ
ヒトmGlu5a受容体をコードするcDNAを安定にトランスフェクションしたモノクローナルHEK−293細胞株を生成した。mGlu5ポジティブアロステリックモジュレーター(PAM)を用いた試験については、低受容体発現レベル及び低恒常的受容体活性を有する細胞株を選択することで、アゴニスト活性対PAM活性の差別化を可能にした。細胞は、標準プロトコル(Freshney, 2000)に従い、1mMグルタミン、10%(vol/vol)加熱不活性化子ウシ血清、ペニシリン/ストレプトマイシン、50μg/mLハイグロマイシン及び15μg/mLブラストサイジンを補充した、高グルコースのダルベッコ変法イーグル培地で培養した(細胞培養試薬及び抗生物質は全てInvitrogen(Basel, Switzerland)製である)。
【0022】
実験の約24時間前、ポリ−D−リシンでコーティングしたブラック/クリア底の96ウェルプレートに、5×10細胞/ウェルを播種した。ローディングバッファー(1×HBSS、20mM HEPES)中の2.5μM Fluo-4AMを、37℃で1時間、細胞に負荷し、ローディングバッファーで5回洗浄した。細胞をFunctional Drug Screening System 7000 (Hamamatsu, Paris, France)に移し、試験化合物の11種類の半対数段階希釈液を37℃で加え、オンラインで蛍光の記録を取りながら、細胞を10〜30分間インキュベーションした。このプレインキュベーション工程の後、オンラインで蛍光の記録を取りながら、アゴニストのL−グルタミン酸をEC20に相当する濃度(典型的には、約80μM)で細胞に加えた。細胞の応答性の毎日の変化を説明するために、グルタミン酸の総用量反応曲線の記録によって各実験の直前にグルタミン酸のEC20を求めた。
【0023】
応答は、蛍光増加ピークから基底値(すなわち、L−グルタミン酸の添加なしの蛍光)を差し引いたものとして測定し、L−グルタミン酸の飽和濃度で得られた最大刺激効果に対して正規化した。グラフは、Levenburg Marquardtアルゴリズムを使用してデータを反復的にプロットする曲線あてはめプログラム(curve fitting program)であるXLfitを用いて最大刺激%でプロットした。使用した単一部位競合分析式(single site competition analysis equation)は、y=A+((B−A)/(1+((x/C)D)))[式中、yは、最大刺激効果%であり、Aは、最小yであり、Bは、最大yであり、Cは、EC50であり、xは、競合化合物の濃度のlog10であり、そしてDは、曲線の傾き(ヒル係数)である]であった。これらの曲線から、EC50(最大刺激の半分が得られた濃度)、ヒル係数、及びL−グルタミン酸の飽和濃度で得られた最大刺激効果の最大応答(%)を計算した。
【0024】
PAM試験化合物を用いたプレインキュベーションの間(すなわち、EC20濃度のL−グルタミン酸の適用前)に得られたポジティブシグナルはアゴニスト活性を示しており、このシグナルの非存在は、アゴニスト活性がないことを表していた。EC20濃度のL−グルタミン酸の添加後に観察されたシグナルの低下は、試験化合物の阻害活性を示していた。
【0025】
以下の実施例のリストに、EC50値が100nM以下である全化合物の対応する結果を示す。
【0026】
【表1】
【0027】
MPEP結合アッセイ法:
結合実験については、Schlaeger及びChristensen[Cytotechnology 15:1-13 (1998)]によって記載された手法を用いて、ヒトmGlu5a受容体をコードするcDNAを、EBNA細胞に一時的にトランスフェクションした。細胞膜ホモジェネートをアッセイ当日まで−80℃で保存した。アッセイ当日、その細胞膜ホモジェネートを解凍し、pH7.4の結合バッファー(15mM Tris−HCl、120mM NaCl、100mM KCl、25mM CaCl、25mM MgCl)に再懸濁し、ポリトロナイズ(polytronise)し、最終アッセイ濃度を1ウェル当たり20μgのタンパク質とした。
【0028】
これらの膜(総容積200μL)に12種類の濃度(0.04〜100nM)の[H]MPEPを4℃で1時間加えることにより、飽和等温線を求めた。一定濃度の[H]MPEP(2nM)で競合実験を行い、11種類の濃度(0.3〜10,000nM)を用いて、試験化合物のIC50値を評価した。インキュベーションは、4℃で1時間行った。
【0029】
インキュベーションの最後に、Filtermate 96ハーベスター(Packard BioScience)を用いて、ユニフィルター(洗浄バッファー中の0.1%PEI中で1時間プレインキュベーションしたGF/Cフィルターを貼り付けた96ウェルホワイトマイクロプレート、Packard BioScience, Meriden, CT)で膜を濾過し、冷却した50mM Tris−HClバッファー(pH7.4)で3回洗浄した。10μM MPEPの存在下で、非特異的結合を測定した。フィルター上の放射能は、45μLのmicroscint 40(Canberra Packard S.A., Zurich, Switzerland)を加えて20分間振盪した後、クエンチング補正を行い、PackardのTop-countマイクロプレートシンチレーションカウンターで計測した(3分間)。
【0030】
本発明の化合物と対照化合物1及び2の比較
以下の表から分かるように、本発明の化合物(NAM)は、構造上類似した対照化合物1及び2(PAM)と比較して、明らかに異なるプロファイルを示す。
【0031】
【表2】
【0032】
式Iで示される化合物は、下記の方法、実施例で示される方法、又は類似の方法により製造することができる。個々の反応工程に適した反応条件は当業者に公知である。しかしながら、反応順序はスキームで示したものに限定されず、出発物質及びそれらの各反応性によって、反応工程の順序は自由に変更することができる。出発物質は、市販のものでも、下記の方法と類似した方法、本明細書で引用された参考文献もしくは実施例に記載の方法、又は当該技術分野において公知の方法によって調製してもよい。
【0033】
式Iで示される本化合物及びそれらの薬学的に許容しうる塩は、当該技術分野において公知の方法、例えば下記の変形法によって調製されてもよく、その方法は、

【化2】

で示される化合物と、式
【化3】

で示される化合物を反応させ、式I
【化4】

[式中、置換基は上述したものである]で示される化合物を生成することを含む。
【0034】
式Iで示される化合物の調製は、スキーム1及び実施例1〜4でさらにより詳細に記載される。
【0035】
【化5】
【0036】
式Iで示されるエチニル−ピリジン化合物又はエチニル−ピリミジン化合物は、例えば、5−ブロモ−ピリジン−2−カルボン酸メチルエステルもしくは5−ブロモ−ピリミジン−2−カルボン酸メチルエステル1と、適切に置換されたアリールアセチレン2との薗頭カップリングの後、LiOHなどの塩基でけん化することにより、対応する酸3を生成するか、又は5−ブロモ−ピリジン−2−カルボン酸もしくは5−ブロモ−ピリミジン−2−カルボン酸1と、適切に置換されたアリールアセチレン2との薗頭カップリングにより直接対応する酸3を生成することで得ることができる。ジオキサンなどの溶媒中、ヒューニッヒ塩基などの塩基とTBTUなどのペプチドカップリング試薬の存在下で、対応する酸3と対応するモルホリン誘導体4を反応させるか、又はジクロロメタンなどの溶媒中の塩化オキサリルとDMF(触媒)を用いて対応する酸塩化物をその場で調製し、その後ピリジンなどの塩基の存在下で対応するモルホリン誘導体4と反応させることにより、一般式Iで示される所望のエチニル化合物が生成される(スキーム1)。
【0037】
式Iで示される化合物の薬学的に許容しうる塩は、塩に変換される化合物の性質を考慮にした自体公知の方法に従って容易に製造することができる。無機酸又は有機酸、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸又はクエン酸、ギ酸、フマル酸、マレイン酸、酢酸、コハク酸、酒石酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などが、式Iで示される塩基性化合物の薬学的に許容しうる塩の形成に好適である。例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属、塩基性アミン又は塩基性アミノ酸を含む化合物が、酸性化合物の薬学的に許容しうる塩の形成に好適である。
【0038】
さらに、本発明はまた、mGluR5受容体介在性疾患、例えば、不安及び疼痛、うつ病、脆弱X症候群、自閉性障害、パーキンソン病、ならびに胃食道逆流疾患(GERD)の処置及び予防のための、1種以上の本発明の化合物及び薬学的に許容しうる賦形剤を含有する薬品にも関する。
【0039】
本発明はまた、上記で概説したmGluR5受容体介在性疾患の処置及び予防のための薬品を製造するための、本発明による化合物及びその薬学的に許容しうる塩の使用にも関する。
【0040】
化合物の薬理活性は、次の方法を用いて検査した。すなわち、ラットmGlu5a受容体をコードするcDNAを、E. -J. Schlaeger及びK. Christensen(Cytotechnology 1998, 15, 1-13)によって記載された手法を用いて、EBNA細胞に一時的にトランスフェクションした。Fluo 3-AM(FLUKAから入手可能、最終濃度0.5μM)と共にmGlu5aトランスフェクションEBNA細胞を37℃で1時間インキュベーションし、アッセイ用バッファー(Hank's塩及び20mM HEPESが補充されたDMEM)で4回洗浄した後、細胞に[Ca2+]i測定を行った。[Ca2+]i測定は、蛍光イメージングプレートリーダ(FLIPR, Molecular Devices Corporation, La Jolla, CA, USA)を用いて行った。化合物をアンタゴニストとして評価する際には、それらの化合物は、アゴニストとしてグルタミン酸10μMに対して試験した。
【0041】
反復的非線形曲線あてはめソフトウェアOrigin(Microcal Software Inc., Northampton, MA, USA)を用いて、阻害(アンタゴニスト)曲線を4パラメータロジスティック方程式にあてはめ、IC50及びヒル係数を求めた。
【0042】
試験化合物のKi値を求める。Ki値は、以下の式により定義される。
【0043】
【数1】
【0044】
上記式中、IC50値は、化合物の効果の50%が拮抗される試験化合物の濃度(μM)である。[L]は濃度であり、EC50値は、約50%の刺激をもたらす化合物の濃度(μM)である。
【0045】
本発明の化合物はmGluR5a受容体アンタゴニストである。アッセイで測定される式Iで示される化合物の活性は、Ki<100μMの範囲内である。
【0046】
式Iで示される化合物及びその薬学的に許容しうる塩は、例えば医薬調製剤の形態で、薬品として使用することができる。医薬調製剤は、例えば、錠剤、コーティング錠、糖衣錠、硬質及び軟質のゼラチンカプセル剤、液剤、乳剤又は懸濁剤の形態で、経口投与することができる。しかしながら、例えば坐剤の形態で直腸内に投与することも、又は、例えば注射液の形態で非経口的に投与することもできる。
【0047】
式Iで示される化合物及びその薬学的に許容しうる塩は、医薬調製剤を製造するための薬学的に不活性な無機又は有機の担体で加工することができる。ラクトース、コーンスターチ又はその誘導体、タルク、ステアリン酸又はその塩などは、例えば、錠剤、コーティング錠、糖衣錠、及び硬質ゼラチンカプセル剤用のそのような担体として使用することができる。軟質ゼラチンカプセル剤に好適な担体は、例えば、植物油、蝋、脂肪、半固体及び液体のポリオールなどである。しかしながら、軟質ゼラチンカプセル剤の場合、活性物質の性質によって、通常、担体は必要ではない。液剤及びシロップ剤の製造に好適な担体は、例えば、水、ポリオール、スクロース、転化糖、及びグルコースなどである。式Iで示される化合物の水溶性塩の注射用水溶液には、アルコール、ポリオール、グリセロール及び植物油などのアジュバントを使用することができるが、一般に必要ではない。坐剤に好適な担体は、例えば、天然油又は硬化油、蝋、脂肪、半液体又は液体のポリオールなどである。
【0048】
さらに、医薬調製剤は、防腐剤、可溶化剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、甘味剤、着色剤、着香剤、浸透圧を変えるための塩、緩衝剤、マスキング剤又は酸化防止剤を含有することができる。医薬調製剤はまた、さらに別の治療上有効な物質を含むこともできる。
【0049】
既に述べたように、式Iで示される化合物又はその薬学的に許容しうる塩及び治療上不活性な賦形剤を含有する薬品も本発明の目的であり、同様に、そのような薬品を製造する方法も本発明の目的であり、ここで、上記方法は、1種以上の式Iで示される化合物又はその薬学的に許容しうる塩と、必要に応じて、1種以上の他の治療上有効な物質を合わせて、1種以上の治療上不活性な担体と一緒にガレヌス製剤(galenical dosage form)とすることを含む。
【0050】
投与量は、広い範囲内で変更することができるが、当然のことながら、それぞれの特定の場合における個々の要件に合わせる。一般に、経口投与又は非経口投与での有効な投与量は1日当たり0.01〜20mg/kgであり、1日当たり0.1〜10mg/kgの投与量が上記の症状全てに好ましい。従って、体重70kgの成人に対する1日の投与量は、1日当たり0.7〜1400mg、好ましくは、1日当たり7〜700mgである。
【0051】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するためのものである。
【0052】
実施例1
(3,3−ジメチル−モルホリン−4−イル)−[5−(3−フルオロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−メタノン
【0053】
【化6】
【0054】
工程1:5−(3−フルオロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−カルボン酸メチルエステル
【0055】
【化7】
【0056】
ビス−(トリフェニルホスフィン)−パラジウム(II)ジクロリド(406mg、580μmol、0.05当量)を25ml DMFに溶解した。5−ブロモ−ピリジン−2−カルボン酸メチルエステル(2.5g、11.6mmol)及び3−フルオロフェニルアセチレン(2.22g、18.5mmol、1.6当量)を室温で加えた。トリエチルアミン(3.5g、4.84ml、34.7mmol、3当量)、トリフェニルホスフィン(91mg、347μmol、0.03当量)及びヨウ化銅(I)(66mg、347μmol、0.03当量)を加え、混合物を80℃で20時間撹拌した。反応混合物を冷却し、Isolute(登録商標)吸着剤を用いて乾燥するまで蒸発させた。粗生成物は、酢酸エチル:ヘプタン勾配を0:100〜80:20として溶離するシリカゲル(70g)のフラッシュクロマトグラフィーによって精製した。所望の5−(3−フルオロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−カルボン酸メチルエステル(1.95g、収率66%)が淡黄色の固体として得られた(MS: m/e = 256.3 (M+H+))。
【0057】
工程2:5−(3−フルオロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−カルボン酸
【0058】
【化8】
【0059】
5−(3−フルオロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−カルボン酸メチルエステル(実施例1、工程1)(1.9g、7.44mmol)をTHF(30ml)及び水(30ml)に溶解し、LiOH(357mg、24.9mmol、2当量)を室温で加えた。混合物を室温で16時間撹拌した。反応混合液を4N HClでpH2.5になるように酸性化し、THFを蒸発させて黄色の懸濁液を生成した。懸濁液を0〜5℃まで冷却し、濾過した。結晶を冷水で洗浄し、乾燥するまで蒸発させた。所望の5−(3−フルオロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−カルボン酸(1.71g、収率95%)が淡黄色の固体として得られた(MS: m/e = 239.9 (M+H+))。
【0060】
工程3:(3,3−ジメチル−モルホリン−4−イル)−[5−(3−フルオロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−メタノン
【0061】
【化9】
【0062】
5−(3−フルオロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−カルボン酸(実施例1、工程2)(50mg、0.21mmol)をDMF(0.5ml)に溶解し、ヒューニッヒ塩基(44μl、0.31mmol、1.2当量)、3,3−ジメチルモルホリン(36mg、0.25mmol、1.5当量)及びTBTU(73mg、0.23mmol、1.1当量)を室温で加えた。混合物を室温で16時間撹拌した。反応混合物を蒸発させ、飽和NaHCO溶液で抽出し、少量のジクロロメタンで2回抽出した。粗生成物は、シリカゲルカラムにジクロロメタン層を直接投入し、酢酸エチル:ヘプタン勾配を0:100〜80:20として溶離するフラッシュクロマトグラフィーにより精製した。所望の(3,3−ジメチル−モルホリン−4−イル)−[5−(3−フルオロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−メタノン(61mg、収率87%)が淡黄色の油として得られた(MS: m/e = 339.2 (M+H+))。
【0063】
実施例2
[5−(3−クロロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−モルホリン−4−イル−メタノン
【0064】
【化10】
【0065】
工程1:5−(3−クロロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−カルボン酸
【0066】
【化11】
【0067】
標記化合物は、実施例1の工程1に記載のものと類似した化学を用いて、5−ブロモ−ピリジン−2−カルボン酸及び3−クロロフェニルアセチレンから白色固体として得られた(MS: m/e = 258.4/260.4 (M+H+))。
【0068】
工程2:[5−(3−クロロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−モルホリン−4−イル−メタノン
【0069】
【化12】
【0070】
標記化合物は、実施例1の工程3に記載のものと類似した化学を用いて、5−(3−クロロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−カルボン酸(実施例2、工程1)及びモルホリンから白色固体として得られた(MS: m/e = 327.5/329.5 (M+H+))。
【0071】
実施例3
(3,3−ジメチル−モルホリン−4−イル)−[5−(3−クロロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−イル]−メタノン
【0072】
【化13】
【0073】
標記化合物は、実施例1の工程3に記載のものと類似した化学を用いて、5−(3−クロロ−フェニルエチニル)−ピリジン−2−カルボン酸(実施例2、工程1)及び3,3−ジメチルモルホリンから白色固体として得られた(MS: m/e = 355.5/357.5 (M+H+))。
【0074】
実施例4
(3,3−ジメチル−モルホリン−4−イル)−[5−(3−クロロ−フェニルエチニル)−ピリミジン−2−イル]−メタノン
【0075】
【化14】
【0076】
工程1:5−(3−クロロ−フェニルエチニル)−ピリミジン−2−カルボン酸
【0077】
【化15】
【0078】
標記化合物は、実施例1の工程1に記載のものと類似した化学を用いて、5−ブロモ−ピリミジン−2−カルボン酸及び3−クロロフェニルアセチレンから白色固体として得られた(MS: m/e = 259.4/261.4 (M+H+))。
【0079】
工程2:(3,3−ジメチル−モルホリン−4−イル)−[5−(3−クロロ−フェニルエチニル)−ピリミジン−2−イル]−メタノン
【0080】
【化16】
【0081】
5−(3−クロロ−フェニルエチニル)−ピリミジン−2−カルボン酸(実施例4、工程1)(100mg、0.39mmol)をジクロロメタン(1ml)及びDMF(10μl)に溶解した。塩化オキサリル(51μl、0.59mmol、1.5当量)を室温で滴下し、混合物を還流下で1時間撹拌した。その後、反応混合物を、THF(2ml)中のジイソプロピルエチルアミン(235μl、1.34mmol、3.3当量)と3,3−ジメチルモルホリン(46mg、0.40mmol、1当量))の混合物に加えた。混合物を室温で16時間撹拌し、乾燥するまでIsolute(登録商標)吸着剤の存在下で蒸発させた。粗生成物は、20gのシリカゲルカラムを用いて、ヘプタン:酢酸エチルを100:0→0:100として溶離するフラッシュクロマトグラフィーにより精製した。所望の(3,3−ジメチル−モルホリン−4−イル)−[5−(3−クロロ−フェニルエチニル)−ピリミジン−2−イル]−メタノン(120mg、収率94%)が白色固体として得られた(MS: m/e = 356.6/358.6 (M+H+))。
図1