特許第5989261号(P5989261)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989261
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】パラ系アラミド繊維の乾式紡糸方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/80 20060101AFI20160825BHJP
【FI】
   D01F6/80 331
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-549255(P2015-549255)
(86)(22)【出願日】2013年12月19日
(65)【公表番号】特表2016-505728(P2016-505728A)
(43)【公表日】2016年2月25日
(86)【国際出願番号】KR2013011847
(87)【国際公開番号】WO2014104648
(87)【国際公開日】20140703
【審査請求日】2015年6月23日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0156804
(32)【優先日】2012年12月28日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515172751
【氏名又は名称】コーロン インダストリーズ インク
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】パク テ ハク
(72)【発明者】
【氏名】イ ブム フン
(72)【発明者】
【氏名】イ ジェ ユン
(72)【発明者】
【氏名】パク ヨン チョル
(72)【発明者】
【氏名】ロ キョン ファン
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−280115(JP,A)
【文献】 特公昭50−035941(JP,B1)
【文献】 特公昭50−013365(JP,B1)
【文献】 特開昭55−022052(JP,A)
【文献】 特開昭58−093722(JP,A)
【文献】 特表2011−508100(JP,A)
【文献】 特表2011−508101(JP,A)
【文献】 特表2011−508102(JP,A)
【文献】 特表2011−508103(JP,A)
【文献】 特開昭50−012322(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/097249(WO,A1)
【文献】 特開昭53−143726(JP,A)
【文献】 特開平10−053920(JP,A)
【文献】 特開平10−088421(JP,A)
【文献】 特表平07−509283(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2012−0066182(KR,A)
【文献】 特表2011−508098(JP,A)
【文献】 特許第4881381(JP,B2)
【文献】 韓国公開特許第10−2010−0001784(KR,A)
【文献】 特開平06−041298(JP,A)
【文献】 特表2011−517736(JP,A)
【文献】 特開平06−002216(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2009−0072480(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/60
D01F 6/80
D01D 1/00 − 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)下記構造式(I)で示される繰り返し単位を有するアラミド共重合体が有機溶媒に溶解されている重合溶液を、紡糸口金を通じて繊維状に紡糸する工程;
(ii)紡糸された繊維を不活性気体内に通過させながら、前記繊維中に残存する重合溶媒の一部を除去する工程;
(iii)不活性気体を通過した繊維を有機溶媒及び無機塩を含むコンディショニング溶液と接触させて、繊維中の残存水分率を10〜15%の範囲に維持させる工程;及び
(iv)コンディショニング溶液と接触した繊維を延伸、水洗、乾燥及び熱処理する工程;を含むことを特徴とするパラ系アラミド繊維の乾式紡糸方法:
【化1】

ここで、Rは−CN、−Cl、−SOH、または−CFであり、Ar及びArはそれぞれ独立に1ないし4個のベンゼン環を有する芳香族炭化水素である。
【請求項2】
前記コンディショニング溶液を前記不活性気体内に通過した繊維に噴射して接触させることを特徴とする請求項1に記載のパラ系アラミド繊維の乾式紡糸方法。
【請求項3】
前記コンディショニング溶液は5〜40重量%の有機溶媒と1〜10重量%の無機塩を含み、温度が30〜100℃であることを特徴とする請求項1に記載のパラ系アラミド繊維の乾式紡糸方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパラ系アラミド繊維の乾式紡糸方法に関するものであり、より詳細には、パラ系アラミド繊維を乾式紡糸方式で製造することで、溶媒を容易に回収することができ、繊維の強度及び弾性率を大きく向上させることができるパラ系アラミド繊維の乾式紡糸方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アラミドとして通称する芳香族ポリアミドは、ベンゼン環がアミド基(CONH)を通じて直線状に繋がれた構造を有するパラ系アラミドと、その構造を有しないメタ系アラミドとを含む。
【0003】
パラ系アラミドは高強度、高弾性、低収縮などの特性を有している。パラ系アラミドで製造した約5mmの太さを有する細い糸は、2トン重量の自動車を持ち上げるほどの非常に大きな強度を有しており、防弾用途で用いるだけでなく、宇宙航空分野の先端産業分野においても多様な用途で用いられている。
【0004】
パラ系アラミドは500℃以上の温度で黒く炭化するので、高耐熱性が要求される分野においても脚光を浴びている。
【0005】
パラ系アラミド繊維の製造方法は、本出願人が所有している特許文献1に詳細に記載されている。この特許文献1によれば、芳香族ジアミンを重合溶媒に溶解して混合溶液を準備し、これに芳香族二酸を添加してアラミド重合体を製造する。次に、アラミド重合体を硫酸溶媒に溶解してスピンドープを製造し、これを紡糸した後、凝固、水洗、及び乾燥工程を順に行うことで、最終的にアラミド繊維の製造が完了する。
【0006】
しかし、このような工程を通じてパラ系アラミド繊維を製造する場合、固体状態のパラ系アラミド重合体を製造した後、これを再び硫酸溶媒に溶解してスピンドープを製造して紡糸する。従って、製造工程が比較的複雑になり、人体に有害であり、且つ腐食により装置の耐久性が低下するなどの問題点がある。
【0007】
さらに、高い耐化学性を有するパラ系アラミド重合体を溶解するために用いるものであって、紡糸後には除去する硫酸溶媒は、環境汚染を生じるため、使用後に適切に処理しなければならない。しかし、このような廃硫酸の処理に要するコストのため、アラミド繊維の経済性が低下する。
【0008】
また、前述の従来技術においては、パラ系アラミド重合体を硫酸溶媒に溶解して製造した前記スピンドープを、紡糸口金(spinneret)を通じて繊維状に紡糸した後、紡糸された繊維をエアギャップ(air gap)に通過させた後、凝固槽(coagulant bath)内の凝固液に通過させる湿式紡糸方式でアラミド繊維を製造するそのため、有機溶媒を回収するために多くのエネルギーとコストとを必要とする問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国特許登録第10−0910537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述の問題を解決するためになされた本発明は、パラ系アラミド繊維の重合及び紡糸工程で用いる有機溶媒を容易で、且つ低コストで回収することが可能であり、紡糸工程中には濃硫酸を使用しないので、濃硫酸による装置の腐食や作業環境の悪化などの問題も防止することができ、繊維の強度及び弾性率を大きく向上することができるパラ系アラミド繊維の乾式紡糸方法を提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の目的を達成するために、本発明はアラミド重合体が有機溶媒に溶解されている重合溶液を、紡糸口金を通じて不活性気体内に紡糸し、紡糸された繊維中の有機溶媒の一部を除去した後、紡糸された繊維にコンディショニング溶液を接触させて、繊維中の残存水分率を10〜15%の範囲に維持させた後、延伸、水洗及び熱処理する工程を含む、乾式紡糸方式でパラ系アラミド繊維を製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は従来の湿式紡糸方式でパラ系アラミド繊維を製造する場合に比べて、溶媒回収のためのエネルギーの消耗及びコストを大きく節減することができる。
【0013】
また、本発明は紡糸工程中に濃硫酸溶媒を使用しないので、装置の腐食や作業環境の悪化などの従来の問題点を解決することができる。
【0014】
さらに、本発明は延伸前に繊維中の残存水分率を10〜15%に維持させた後、延伸及び熱処理するので、繊維の強度及び弾性率を大きく向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0016】
本発明に係るアラミド繊維の乾式紡糸方法は、(i)下記構造式(I)で示される繰り返し単位を有するアラミド共重合体が有機溶媒に溶解されている重合溶液を、紡糸口金を通じて繊維状に紡糸する工程;(ii)紡糸された繊維を不活性気体内に通過させながら、前記繊維中に残存する重合溶媒の一部を除去する工程;(iii)不活性気体を通過した繊維を有機溶媒及び無機塩を含むコンディショニング溶液と接触させて、繊維中の残存水分率を10〜15%の範囲に維持させる工程;及び(iv)コンディショニング溶液と接触した繊維を延伸、水洗、乾燥及び熱処理する工程;を含むことを特徴とするパラ系アラミド繊維の乾式紡糸方法である。
【0017】
具体的には、本発明によると、下記構造式(I)で示される繰り返し単位を有するパラ系アラミド共重合体が有機溶媒に溶解されている重合溶液を、紡糸口金を通じて繊維状に紡糸する
【化1】
【0018】
ここで、Rは−CN、−Cl、−SOH、または−CFであり、Ar及びArはそれぞれ独立に1ないし4個のベンゼン環を有する芳香族炭化水素である。
【0019】
前記重合溶液は後述する工程を経て製造することができる。
【0020】
[重合溶液の製造]
まず、有機溶媒に無機塩を溶解させる。
【0021】
ここで有機溶媒としては、アミド系有機溶媒、ウレア系有機溶媒、またはこれらの混合有機溶媒を用いることができる。その具体的な例としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ヘキサメチルリン酸アミド(HMPA)、N,N,N’,N’−テトラメチルウレア(TMU)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0022】
前記無機塩は芳香族ポリアミドの重合度を増加させるために添加するものであって、その具体的な例としては、CaCl、LiCl、NaCl、KCl、LiBr、またはKBrなどのようなハロゲン化アルカリ金属塩またはハロゲン化アルカリ土類金属塩が挙げられる。これらの無機塩は単独または2種以上の混合物として添加することができる。
【0023】
次に、パラ−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニル、2,6−ナフタレンジアミン、1,5−ナフタレンジアミン、及び4,4’−ジアミノベンズアニリドで構成されたグループから選択された非置換芳香族ジアミン(non−substituted aromatic diamine)を前記無機塩が添加された有機溶媒に溶解させる。これと同時に、芳香族ジアミンのベンゼン環の水素がCN、−Cl、−SOH、またはCFに置換されている置換芳香族ジアミン(substituted aromatic diamine)を前記無機塩が添加された有機溶媒に溶解させる。無機塩を含有する有機溶媒に溶解される置換芳香族ジアミンと非置換芳香族ジアミンのモル比は、9:1ないし1:9であることが好ましい。
【0024】
その後、前記有機溶媒に芳香族二酸ハロゲン化物(aromatic diacid halide)を少なくとも前記芳香族ジアミンと同一のモル量(molar amount)で添加して重合溶液を製造する。前記芳香族二酸ハロゲン化物は、二塩化テレフタロイル、4,4’−二塩化ベンゾイル、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロライドまたは1,5−ナフタレンジカルボン酸ジクロライドである。本発明の一実施形態によると、前記芳香族二酸ハロゲン化物は二塩化テレフタロイルである。
【0025】
続いて、紡糸された繊維を不活性気体内に通過させながら、前記繊維中に残存する重合溶媒の一部を除去する。
【0026】
次に、不活性気体を通過した繊維を有機溶媒及び無機塩を含むコンディショニング溶液と接触させて、繊維中の残存水分率を10〜15%の範囲に維持させる。
【0027】
前記コンディショニング溶液は5〜40重量%の有機溶媒と1〜10重量%の無機塩を含み、温度は30〜100℃であることが好ましい。
【0028】
この時、コンディショニング溶液は、紡糸された繊維に噴射して接触させることが好ましい。
【0029】
紡糸された繊維にコンディショニング溶液を接触させて繊維中の残存水分率を10〜15%の範囲に維持させることで、次の工程である延伸工程中に紡糸された繊維が切断することを效果的に防止すると共に、繊維の強度及び弾性率を向上する。
【0030】
繊維中の残存水分率が前記範囲を離脱すると、以後の延伸及び熱処理工程が完了しても繊維の強度及び弾性率を大きく向上することができなくなる。
【0031】
続いて、コンディショニング溶液と接触した繊維を延伸、水洗、乾燥及び熱処理を行って乾式紡糸方式でパラ系アラミド繊維を製造する。
【0032】
以下、実施例及び比較実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。ただし、下記の実施例は本発明の理解を助けるためのものであって、本発明は下記の実施例によってその権利範囲が限定されない。
【実施例】
【0033】
[実施例1]
3重量%のCaClを含むN−メチル−2−ピロリドン(NMP)の有機溶媒を窒素雰囲気下で反応器内に入れ、パラ−フェニレンジアミン(p−phenylenediamine)50モル%とシアノ−パラ−フェニレンジアミン(cyano−p−phenylenediamine)50モル%を前記反応器に入れて溶解して混合溶液を製造した。
【0034】
次に、前記混合溶液を入れた反応器に二塩化テレフタロイル(terephthaloyl dichloride)100モル%を添加してアラミド重合体を含む重合溶液を得た。
【0035】
続いて、アルカリ化合物であるCaOを前記重合溶液に添加することで、重合反応中に生成された塩酸を中和させると共に、真空下で生成される水を除去した。
【0036】
その後、アラミド重合体を含む重合溶液を加熱し、有機溶媒の量を調節して前記アラミド重合体の濃度を約16重量%に調節した。
【0037】
次に、前記重合溶液を、紡糸口金を通じて繊維状に紡糸した後、紡糸された繊維を不活性気体である窒素ガス内に通過させながら、前記繊維中に残存する重合溶媒の50%を蒸発、除去したその後、窒素ガスを通過した繊維に30重量%のN−メチル−2−ピロリドン有機溶媒と5重量%のCaCl無機塩を含み、温度が40℃の水溶性のコンディショニング溶液を噴射して窒素ガスを通過した繊維に接触させることで、繊維中の残存水分率を約13%に維持させた。続いて、コンディショニング溶液と接触した繊維を4.0の延伸比で延伸し、水洗、乾燥及び熱処理を行って、パラ系アラミド繊維を製造した。
【0038】
製造したパラ系アラミド繊維の強度及び弾性率を測定し、その結果を表2に示した。
【0039】
[実施例2ないし実施例4及び比較実施例1ないし比較実施例4]
コンディショニング溶液と接触させた後の繊維中の残存水分率と延伸比を表1に示したように変更したことを除いて、実施例1と同様の方法でパラ系アラミド繊維を製造した。
【0040】
製造したパラ系アラミド繊維の強度及び弾性率を測定し、その結果を表2に示した。
【0041】
[製造条件]
【表1】
【0042】
[物性評価結果]
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は強度及び弾性率が向上したパラ系アラミドを乾式紡糸方法で製造するのに利用可能である。