特許第5989266号(P5989266)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989266
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】2室型低圧鋳造用溶湯保持炉
(51)【国際特許分類】
   B22D 18/04 20060101AFI20160825BHJP
【FI】
   B22D18/04 U
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-559354(P2015-559354)
(86)(22)【出願日】2014年7月17日
(86)【国際出願番号】JP2014068987
(87)【国際公開番号】WO2016009522
(87)【国際公開日】20160121
【審査請求日】2016年1月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391003727
【氏名又は名称】株式会社トウネツ
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】望月 城也太
【審査官】 田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−188476(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0169435(US,A1)
【文献】 特表2011−502787(JP,A)
【文献】 特開2007−313547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に溶湯保持室及び加圧室を区画し、不定形耐火物にて形成された溶湯収納容器と、
前記溶湯収納容器の外周の断熱及び/若しくは耐火層を介して底面及び側面及び上面にて被覆する鋼材製の被覆板と、
前記溶湯保持室と前記加圧室との間の溶湯流路口と、
前記溶湯流路口を開閉する昇降式遮断弁と、
前記溶湯保持室の内部及び前記加圧室の内部に夫々設置されたチューブヒータとを具備しており、
前記加圧室は、互いに底部で連通する加圧部と出湯部とを備え、
前記加圧部及び前記出湯部の内面に、夫々、非通気性の又は幾分の通気性を有する材料で成形された耐熱性一体焼成物である加圧管及び出湯管が装着され、
前記溶湯収納容器の前記加圧部以外の部位においては定湯面位置より上方に位置する通気部を介して大気開放されており、これにより、加圧気体が前記加圧管から前記溶湯収納容器を構成する材質内へ侵入した場合においても、上記通気部より加圧気体を炉外へ解放することにより、気体の溶湯中への放出及び気泡の発生を防止することを特徴とする2室型低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項2】
請求項1に記載の発明において、
前記通気部は、前記加圧室側における前記被覆板の側面部に設けられることを特徴とする2室型低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の発明において、
前記被覆板における前記溶湯収納容器の側面被覆部に対し、前記被覆板における上面被覆部は適宜の間隔を置いて固定部を備え、
前記固定部間における前記側面被覆部と前記上面被覆部との対向面間の隙間が前記通気部となることを特徴とする2室型低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項4】
請求項3に記載の発明において、
前記固定部はねじ締結部であることを特徴とする2室型低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項5】
請求項3に記載の発明において、
前記固定部はタップ溶接部であることを特徴とする2室型低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項6】
請求項1に記載の発明において、
前記被覆板は定湯面位置より上方において前記通気部となる孔型形成部材を設置していることを特徴とする2室型低圧鋳造用溶湯保持炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばアルミニウム合金等の鋳物製品を低圧鋳造方法により製造するのに好適な2室型低圧鋳造用溶湯保持炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内部に溶湯保持室及び加圧室を区画し、不定形耐火物にて形成された溶湯収納容器と、その外周の断熱及び/若しくは耐火層を介して底面及び側面及び上面にて被覆する鋼材製の被覆板と、溶湯保持室と加圧室との間の溶湯流路口と、溶湯流路口を開閉する昇降式遮断弁と、溶湯保持室の内部及び加圧室の内部に夫々設置されたチューブヒータとを具備しており、前記加圧室は、互いに底部で連通する加圧部と出湯部とを備え、前記加圧部及び前記出湯部の内面に、夫々、ファインセラミックス等で成形された非通気性の耐熱性一体焼成物である加圧管及び出湯管が装着された2室型低圧鋳造用溶湯保持炉が公知である(本出願人と同一人による特許文献1参照)。そして、溶湯収納容器を構成する不定形耐火物は通気性であるが、非通気性の加圧管が加圧室の湯面上方空間を完全密閉構造化し、溶湯の溶湯収納容器側への浸出の対策としていた。
【0003】
加圧管及び出湯管を幾分の通気性をもった素材による耐熱性一体焼成物とするのは以前より採用されてはいたが、この場合、加圧管及び出湯管がごく僅かとはいえ通気性を帯びているため加圧気体が加圧管より溶湯収納容器を構成する材質内へ侵入し、これが一定時間そこに保持された後溶湯中へ再放出され溶湯中の気泡生成、延いては製品欠陥の誘因となっていたので、特許文献1の技術では素材としては非常に高価とはなるがファインセラミックス等の採用により非通気性とすることで、加圧管からの加圧気体の溶湯収納容器を構成する材質内への侵入及びその再放出に伴う溶湯中の気泡生成を防止しようと意図したものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4519806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の加圧管及び出湯管にファインセラミックス等の非通気性部材を用い湯面より上方の加圧室を完全密閉構造化したとしても、メンテナンス等の際の物理的な衝撃及び温度変化による膨張・収縮やその他の原因により加圧管に罅(ひび)や亀裂等が入ると加圧管の非通気性が失われ、加圧時に、加圧気体が加圧管より溶湯収納容器を構成する材質内へ侵入する事態を惹起し、それにより溶湯収納容器を構成する材質内へ入り込んだ気体が暫時保持された後溶湯中へ放出されるため、それが溶湯中の気泡生成の誘因となっていた。そして溶湯中に発生した気泡は鋳造品におけるボイド等の製品欠陥の原因となり得ていた。
【0006】
また、加圧管及び出湯管の素材としてファインセラミックスのような非通気性を持たせずせずアルミナ等を主成分にしたものはその周囲の溶湯収納容器を構成する不定形耐火物程ではないがごく僅かとはいえ通気性があるので最初から加圧管からの加圧気体の溶湯収納容器の多孔質素材部分への加圧気体の浸出・保持が起こり得、溶湯収納容器より溶湯中への放出によるボイド等の製品欠陥の原因となっていた。
【0007】
本発明は以上の問題点に鑑みてなされたものであり、加圧管より加圧気体が溶湯収納容器を構成する材質内に侵入した場合において、加圧気体を溶湯収納容器中から炉外へ解放させるようにすることにより、加圧気体の溶湯中への放出及び気泡の発生を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の2室型低圧鋳造用溶湯保持炉は、内部に溶湯保持室及び加圧室を区画し、不定形耐火物にて形成された溶湯収納容器と、その外周の断熱及び/もしくは耐火層を介して底面及び側面及び上面にて被覆する鋼材製の被覆板と、溶湯保持室と加圧室との間の溶湯流路口と、溶湯流路口を開閉する昇降式遮断弁と、溶湯保持室の内部及び加圧室の内部に夫々設置されたチューブヒータとを具備しており、前記加圧室は、互いに底部で連通する加圧部と出湯部とを備え、前記加圧部及び前記出湯部の内面に、夫々、非通気性の又は幾分の通気性を有する材料で成形された耐熱性一体焼成物である加圧管及び出湯管が装着され、溶湯収納容器の残余の部位においては定湯面位置より上方に位置する通気部を介して大気開放されており、そのため、加圧気体が加圧室の出湯管及び加圧管以外の内壁より溶湯収納容器を構成する材質内へ侵入した場合においても、通気部から加圧気体が炉外へ解放され、加圧気体の溶湯中への放出及び気泡の発生を防止することができる。
【0009】
被覆板における溶湯収納容器の側面被覆部に対し、出湯部の上面被覆部を適宜の間隔でボルト等によりねじ止めし、側面被覆部と上面被覆部との間の隙間に通気部を構成することができる。このような通気部は加圧室側における被覆板の側面部位に設置されることが好ましい。ねじ止めの代替手段として、被覆板における溶湯収納容器の側面被覆部に対し、出湯部の上面の被覆部をタップ溶接することにより、非溶接部における被覆板間の隙間に通気部を構成することができる。これとは別に、被覆板を定湯面位置より上方においてソケット等を設けることなどで開口部を穿設形成し、これにより通気を行うようにすることも可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加圧管及び出湯管以外の溶湯収納容器の部位においては、通気性の溶湯収納容器及びその外周の断熱及び/若しくは耐火層の通気性及び通気部を介して大気と通じているため、非通気性の耐熱性一体焼成物である加圧管に罅や亀裂等が入り非通気性が失われてしまった場合、若しくは非通気性のファインセラミックスの代わりに幾分の通気性を有する耐熱性一体焼成物を加圧管として用いた場合に、加圧管から不定形耐火物内へ加圧気体が漏洩したとしても、通気部より加圧気体を炉外へ解放することが可能となる。よって、加圧室の加圧管より加圧気体が溶湯収納容器を構成する材質内へ侵入したとすると生じ得る、気体の溶湯中への放出及び溶湯中の気泡の発生がなくなり、製品欠陥の一因を排除することができる。また、通気部を定湯面位置より上方に設置しているため、溶湯収納容器及びその外周の断熱及び/若しくは耐火層の幾分の通気性にかかわらずロングスパンでの溶湯の外部への進出は外周の鋼材製の被覆板(鉄皮)により阻止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る2室低圧鋳造用溶湯保持炉の断面図。
図2図1の2室低圧鋳造用溶湯保持炉の上面図。
図3図1の矢印III方向よりみた部分的側面図。
図4】本発明の別の実施形態に係る2室低圧鋳造用溶湯保持炉の断面図。
図5図4の矢印V方向より見た部分的側面図。
図6】本発明に係る更に別の実施形態の2室低圧鋳造用溶湯保持炉の要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明すると、図1及び図2において、10は、本発明にかかる2室型低圧鋳造用溶湯保持炉(以下、単に溶湯保持炉)の全体を示す。溶湯保持炉10は溶湯収納容器12を備えており、溶湯収納容器12は不定形耐火物より成形される。この実施形態においては、溶湯収納容器12の素材となる不定形耐火物は例えば粉状のアルミナを主体とするものであり、粉状のアルミナは水と混練され、所定形状に成形し(鋳込み)、養生・乾燥することにより成形される。
【0013】
溶湯収納容器12の外側は順に耐火層14及び耐火層16が位置しており、その外側における底面及び側面更には上面の一部は鉄皮18(本発明における鋼材製被覆板における溶湯収納容器の側面及び上面被覆板部)により強固に被覆されている。耐火層14はアルミナやその他の耐火物を素材とし、適宜の割合で水と混練し、型成形・乾燥により成形することができる。また、断熱層16については、耐火性の布帛を張り付けて構成することができる。
【0014】
溶湯収納容器12の内部空間は溶湯保持室20と加圧室22とに区画されている。溶湯保持室20の上部開口は、保持室蓋24が載置されており、この保持室蓋24の一部が溶湯補給口を開閉可能に覆う補給口蓋26になっている。保持室蓋24には、溶湯保持室20内の溶湯の上限湯面レベルL1を検出するレベルセンサ28が吊り下げ支持されている。また、溶湯保持室20は、側壁部に2つのチューブヒータ30と温度センサ32とを備えている。これにより、溶湯保持室20は、内部に貯えた溶湯を一定温度範囲内に保持できるようになっている。なお、溶湯保持室20内の下限湯面レベルが一定鎖線L2で示されている。
【0015】
昇降式遮断弁34は溶湯保持室20内を上下に延びており、昇降式遮断弁34の下端は溶湯保持室20と加圧室22との間の溶湯流路口36を臨むように位置し、昇降式遮断弁34により溶湯流路口36を開閉することができる。即ち、溶湯流路口36に弁座38が固着され、昇降式遮断弁34が弁座38に着座したとき、溶湯保持室20から加圧室22への溶湯の流入が阻止され、昇降式遮断弁34が弁座38からリフトしたとき、溶湯保持室20から加圧室22への溶湯の流入が許容される。昇降式遮断弁34は上端が保持室蓋24を介して外部に突出しており、昇降式遮断弁34の上記開閉動作の制御のための空圧等による昇降駆動機構40に連結される。
【0016】
加圧室22は、溶湯流路口36に通じる下部流通路42を介して互いに底部で連通する加圧部44と出湯部46とを備えている。加圧室22内の溶湯温度を維持するためのチューブヒータ43は一端43-1が炉壁側に固定され、他端は下部流通路42内を片持延出している。出湯部46は図2では一個として図示されているが、出湯部46を複数設け、共通の加圧部44から溶湯を供給するようにしても良い。
【0017】
加圧部44と出湯部46は、溶湯収納容器12の内表面を被覆するための管状部材48, 50(以下、夫々、加圧管、出湯管)を備えている。この実施形態にあっては加圧管48、出湯管50は粉状若しくは粒状のファインセラミックス(例えば窒化珪素)を水と混練し、型成形後一体焼成(焼結)することにより構成されている。そのためこの実施形態にあっては加圧管48、出湯管50は非通気性である。加圧部44、出湯部46における溶湯収納容器12の内周面に、筒状凹部44A, 46Aが切削形成され、この筒状凹部44A, 46Aに加圧管48、出湯管50がシール材を介して面一となるように嵌合密着される構造となっている。また、後述実施形態のように加圧管48、出湯管50に幾分の通気性(溶湯収納容器12程自由な気体流通はできないがごく小量の気体流通性は残存)を持たせる構成も本発明から排除しない。
【0018】
加圧管48は上端フランジ部48-1が鉄皮18の天井部分18-1と全周にて係合されかつ開口部は密閉蓋52により全周にて密閉されている。即ち、密閉蓋52は外周にフランジ部52-1を形成しており、ボルト53(六角孔付きボルト等)が上方よりフランジ部52-1に挿入され、ボルト53の先端が鉄皮18の天井部分18-1に螺合される。図2に示すようにボルト53は密閉蓋52の全周に沿って適宜の間隔で設けられる。鉄皮18の天井部分18-1とフランジ部48-1及びフランジ部48-1と密閉蓋52との境界面には密閉のためシールが貼着される。ボルト53の締結(ねじ止め)により加圧管48の上端フランジ部48-1は密閉蓋52のフランジ部52-1と鉄皮18の天井部分18-1との間にシールを介して狭着される。そのため、加圧管48がファインセラミックスからなる非通気性のものであることと相俟って、加圧管48より上方の部位において加圧部44は完全密閉構造を呈することになる。密閉蓋52に加圧気体用流路54(図示しない加圧気体源に接続される)が設けられるとともに、一対のレベルセンサ56が設けられ、レベルセンサ56の検出端は垂直に片持状に加圧部44の内部空洞まで延出している。このレベルセンサ56によって、加圧部44内での定湯面レベルL3が検出されるようになっている。この定湯面レベルL3は、溶湯保持室20の下限湯面レベルL2と同じ高さに設定されている。
【0019】
出湯部46における炉の上壁面には、鋼材製の天井板58(鉄皮18の天井部分18-1とで本発明における被覆板における溶湯収納容器の上面被覆部となる)が設けられる。天井板58は中央にボス部58-1を形成しており、ボス部58-1に出湯管50が挿通されており、出湯管50はボス部58-1から幾分突出されるようにされ、ダイベース(想像線60にて示す)は環状シール部材59を介して天井板58に連結される。出湯部46における液面L5はダイへ出湯準備完了時の溶湯液面を示し、液面L6はダイへの出湯完了後の溶湯液面を示す。出湯管50は液面L6の下方まで延出位置している。下部ダイベース60上には、図示しない金型が固定される。金型は、内部に鋳物に対応したキャビティを有するとともに、キャビティを出湯部46に連通させる通湯路を有している。加圧部44において、金型への溶湯充填時には、加圧気体用流路54から導入された加圧気体によって溶湯面に圧力を作用させて溶湯を押し出すことで溶湯面が定湯面レベルL5から湯面レベルL6まで低下するが、出湯管50の下端は湯面レベルL6以下の位置としてある。
【0020】
天井板58は出湯部46の上面において溶湯収納容器12及び耐火層14更には断熱層16を被覆する被覆板として機能するが、ダイ接続のためにも機能するため必要な強度の確保のため鉄皮18と同一鋼材よりなるが相当に肉厚となっている。即ち、天井板58は一方で鉄皮18の側壁部18-2まで延びており、他方で、加圧部44の上面をカバーする鉄皮18の天井部分18-1から鉛直下方に延びてくる側壁部18-3まで延びている。
【0021】
溶湯保持炉1による給湯について簡単に説明すると、まず、遮断弁34を上昇させて溶湯流路口36を開いた状態で、補給口蓋26を開いて溶湯保持室20に溶湯を供給する。溶湯保持室20に供給された溶湯は、溶湯流路口36を介して加圧室22に流入して貯留されてゆき、やがて加圧部44において溶湯面が定湯面レベルL3に達したことがレベルセンサ56で検出されると、遮断弁34を下降させて溶湯流路口36を閉じる。このとき、出湯部46における溶湯もまた、前記定湯面レベルL3と同一高さの定湯面レベルL5になっている。さらに、溶湯保持室20への溶湯供給を継続して、溶湯面が上限湯面レベルL1に達したことがレベルセンサ28で検出されると、溶湯の供給を停止して補給口蓋26を閉じる。これにより、鋳造工程の準備が完了する。次に、鋳造工程では、加圧気体用流路54から加圧湯気体(例えば乾燥空気、N2ガス、Arガス等)を加圧部44内に供給して、溶湯面に例えば0.2〜0.5気圧程度の圧力を作用させて出湯部46の溶湯を押し上げ、これにより出湯部46の溶湯が金型のキャビティ内に充填される。このとき、加圧部44の溶湯面が定湯面レベルL3から溶湯レベルL7まで降下する。金型への溶湯充填完了から所定時間経過した後に、加圧気体用流路54を介して加圧部44内を大気圧解放する。これにより、出湯部46では溶湯の戻りが生じるが、溶湯収納容器12の溶湯は1回の鋳造作業に要した分だけ減少しているため、出湯部46及び加圧部44の各溶湯面は各定湯面レベルL5, L3よりも低い各湯面レベルL6, L4となる。その後、遮断弁34を上昇させて溶湯流路口36を開くと、溶湯保持室20と加圧室22との湯面レベルの高低差により、溶湯保持室20の溶湯が加圧室22に流入する。そして、加圧部44の湯面レベルが上昇して定湯面レベルL3に達したことをレベルセンサ56で検出すると、遮断弁34を下降させて溶湯流路口36を閉じる。このとき、出湯部46での溶湯面は、加圧部44の定湯面レベルL3と同一の高さの定湯面レベルL5になっている。これにより、次の鋳造工程の準備が完了する。上述したような鋳造工程を繰り返し行うことで、溶湯保持室20内の溶湯が順次段階的に減少してゆき、溶湯流路口36を開いても加圧部44の溶湯面が定湯面レベルL3にまで上昇しなくなると、レベルセンサ56で定湯面レベルL3を検出できなくなることで、溶湯の補給時期が来たことを判断でき、溶湯補給蓋26を開いて溶湯保持室20に溶湯が自動または人手で補給される。
【0022】
以上の実施形態において、加圧管48より上方の部位において加圧部44は上述のように完全密閉構造をなすが、残余の部位は密閉になっていない。即ち、溶湯収納容器12は耐火層14及び断熱層16を介して鉄皮18によって底壁及び側面部分においては完全被覆されている。しかしながら、鉄皮18の天井部分18-1と側壁部分18-2, 18-3とは完全密閉ではない。即ち、図1及び図2に示すように、鉄皮18の天井部分18-1は同側壁部18-2, 18-3の上端18-2’, 18-3’に対しボルト(六角孔付ボルト等)62によって適宜な間隔で止められているだけであり、また、出湯部46の周囲において溶湯収納容器12の上面を被覆する天井板58についても天井部分18-1は側壁部分18-2に対して完全密閉ではなく、ボルト(六角孔付ボルト等)64によって適宜な間隔で止められているだけである(図2参照)。そのため、鉄皮18の側壁部18-2, 18-3の上端18-2’, 18-3’に対して鉄皮18の天井部分18-1も天井板58も対向面間では狭隘ではあるが隙間66, 67(図1及び図2)を残している。鉄皮18の側壁部18-2の上端18-2’と天井板58との間の隙間66が図3により明瞭に示されている。これらの隙間66, 67は通気部となって、通気性の炉材、即ち、溶湯収納容器12及び耐火層14更には断熱層16を外気に通気させる。本発明において通気部を構成する隙間66, 67は加圧室22側における被覆板の側面部分(鉄皮18)の略全体に分布するように設置しているため(図1及び2参照)、加圧管48から溶湯収納容器12への浸出気体の炉外への効率的排出のため好都合となっている。このような通気構造は加圧管48における加圧気体が溶湯収納容器12を構成する濾材中に浸出保持された場合に加圧気体が溶湯中に再放出され気泡となってボイド等の製品欠陥となることを防止する。即ち、本実施形態において加圧管48はセラミックス素材による非通気性のものであり、加圧管48における加圧気体の濾材側への浸出は本来は起こり得ないが、メンテナンス等の際の物理的な衝撃及び温度変化による膨張・収縮の原因で非通気性のファインセラミックスで形成された耐熱性一体焼成物である加圧管48に罅や亀裂等が入り非通気性が失われてしまった場合、加圧気体が加圧室22の加圧管48より溶湯収納容器12内へ侵入し、溶湯収納容器12に入り込んだ気体が一定時間保持された後溶湯中へ放出され、それにより溶湯中に気泡が発生するという問題が生じていた。本実施形態においては、加圧管48に罅や亀裂等の原因に由来する非通気性喪失による加圧管48から溶湯収納容器12への気体の浸出という事態に対して、鉄皮18の天井部分が同側壁部の上端においてボルト締めにて適宜な間隔で止められることにより形成された通気用隙間66, 67から進出気体を炉外へ解放することが可能な構造となっている。その結果、加圧気体が、加圧室内壁より溶湯収納容器12内へ放出されたとすると生じ得る、気体の溶湯中への漏洩及び溶湯中の気泡の発生がなくなる。本実施形態では溶湯収納容器12内に入り込んだ加圧気体はボルト締めによる隙間にて形成された通気用隙間66, 67より解放され、溶湯収納容器12に侵入した加圧気体が溶湯中へ放出されることはなく気泡の発生が生じなくなるため、製品欠陥の一因を排除することができる。
【0023】
さらに、天井板58の鉄皮側壁面18-2に対する隙間66は定湯面L5より上に位置しているため、長時間のスパンで溶湯が通気性の溶湯保持室20及び耐火層14更には断熱層16を介して外に浸出することの対策となっている。また、出湯部46における出湯時には溶湯の流れは勿論定湯面L5をクロスするが、炉材の通気性を原因とする溶湯の浸出は極めて緩慢であるため、出湯部46における出湯時のような短時間のスパンでは隙間66の存在は溶湯の浸出の原因とならない。
【0024】
以上の実施形態においては、鉄皮18の側壁部18-2に対して鉄皮18の天井部分18-1及び天井板58をボルト62, 64によって締結することにより対向面間に狭隘な隙間を残すようにして加圧部44以外の溶湯収納容器12の部分を外気に通気させているが、第2の実施形態としてボルト代替としてタップ溶接することも可能である。図4はこの第2の実施形態における全体図であり、図1におけるボルト62, 64の代わりに、鉄皮18の側壁部18-2に対して鉄皮18の天井部分18-1及び天井板58は夫々溶接部68, 70によって固定される。この溶接は一定の間隔を置いて行われる所謂タップ溶接であり、鉄皮18の側壁部18-2の上端に対する天井板58のタップ溶接部70が図5に示されており、タップ溶接部70間において天井板58と鉄皮側壁面18-2との間に狭隘な隙間72が残され、これが通気部となる。図示しないが、鉄皮18における天井部分18-1と側壁部分18-3との間にもタップ溶接部68間における非溶接部に通気部を構成する同様な隙間が残される。即ち、通気部を構成する隙間72は加圧室22側における被覆板(鉄皮18及び天井板58)の側面部分の広範囲にわたって位置しているため、この実施形態でも加圧管48から溶湯収納容器12への浸出気体の炉外への効率的排出を行うことができる。通気部は第1の実施形態と同様に罅や亀裂などの発生により加圧管48から加圧気体が溶湯収納容器12内へ漏洩した際、通気部から気体が炉外へ解放されるため、加圧気体が溶湯中に放出し気泡が発生することを防止することができる。
【0025】
図6は第3の実施形態を要部にて部分的に示し、第2の実施形態と同様に鉄皮18の側壁部18-2に対して鉄皮18の天井部分18-1及び天井板58は溶接構造であるが、この溶接は全周溶接であり、通気のため、定湯面L5(L3)より上方において鉄皮の側壁18-2にソケット74(孔形成部材)を設けている。ソケット74によって溶湯保持室20における加圧部44以外の部位を定湯面L5(L3)より上方において炉材の通気性下で大気開通させることができ、第1の実施形態及び第2の実施形態と同様にソケット74は加圧管48から加圧気体が溶湯収納容器12内へ漏洩した際、通気部から気体が炉外へ解放するように働き、加圧気体が溶湯中に放出し気泡が発生することを防止することができる。ソケット74についても第1,第2の実施形態の隙間66, 72に準じ、加圧室22側の被覆板側面部分(鉄皮18)に広く分布するように設け、効率的な加圧気体の炉外への排出を行うことができる。
【0026】
以上説明の本発明の第1〜第3の実施形態は加圧管48、出湯管50をファインセラミックスを素材に構成した場合であったが、第4の実施形態として加圧管48、出湯管50をアルミナ、シリカ、カーボン等から成る耐火粉を水と混練し、型成形後一体焼成(焼結)することにより、加圧管48、出湯管50に幾分の通気性を持たせることも本発明に包含される。即ち、この場合は完全密封構造ではそもそもないことから、加圧気体の加圧管48からの濾材多孔質部分への浸出は最初から起こりうるが、加圧管48、出湯管50を非通気性とする第1〜第3の実施形態について説明したと同様の構造の通気部(隙間66, 67, 72やソケット74)を設置することで加圧管48から溶湯収納容器12への気体の浸出があっても、これを通気部を介して炉外へ解放することができ、製品欠陥の発生を未然に防止することができる。
【符号の説明】
【0027】
12…溶湯収納容器
20…溶湯保持室
22…加圧室
24…保持室蓋
26…補給口蓋
28…レベルセンサ
30…チューブヒータ
34…遮断弁
36…溶湯流路口
42…下部流通路
46…出湯部
48…加圧管
50…出湯管
52…密閉蓋
54…加圧気体用流路
56…レベルセンサ
58…天井板
60…下部ダイベース
62,64…ボルト
66,67,72…通気用隙間
74…通気用ソケット
図1
図2
図3
図4
図5
図6