(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5989302
(24)【登録日】2016年8月19日
(45)【発行日】2016年9月7日
(54)【発明の名称】発電システム
(51)【国際特許分類】
H01L 35/30 20060101AFI20160825BHJP
H02N 11/00 20060101ALI20160825BHJP
F24H 1/00 20060101ALI20160825BHJP
【FI】
H01L35/30
H02N11/00 A
F24H1/00 602F
【請求項の数】15
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2011-24119(P2011-24119)
(22)【出願日】2011年2月7日
(65)【公開番号】特開2012-164815(P2012-164815A)
(43)【公開日】2012年8月30日
【審査請求日】2014年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】501180263
【氏名又は名称】サイエンスパーク株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510135119
【氏名又は名称】ZENTA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【識別番号】100106770
【弁理士】
【氏名又は名称】円城寺 貞夫
(74)【代理人】
【識別番号】100139789
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 光信
(72)【発明者】
【氏名】武藤 佳恭
(72)【発明者】
【氏名】小路 幸市郎
(72)【発明者】
【氏名】谷口 敬太
【審査官】
安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−341700(JP,A)
【文献】
特開2008−143432(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 35/30
H02N 11/00
F24H 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度差により熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電変換素子(9)と、
前記熱電変換素子を挟んで張り合わされ、且つ高温側流体(7)に設置される第1ヒートパイプ(10)と、
前記熱電変換素子を挟んで張り合わされ、且つ前記第1ヒートパイプに対峙し低温側流体(8)に設置される第2ヒートパイプ(11)と、
前記熱電変換素子を前記第1ヒートパイプと前記第2ヒートパイプに保持する保持体(12)と、
前記第1ヒートパイプの浸される前記高温側流体と前記第2ヒートパイプの浸される前記低温側流体とを遮断する隔壁体(15)と
からなる発電システムであって、
前記高温側流体(7)と前記低温側流体(8)は、温度の異なる同一温水であり、
前記低温側流体は、前記高温側流体の水位より相対的に低い水位に配置され、自然流で高温側から低温側に流れる流体であることを特徴とする発電システム。
【請求項2】
請求項1に記載された発電システムにおいて、前記第2ヒートパイプには外周に複数のフィン(19)を設けた構成のものであることを特徴とする発電システム。
【請求項3】
請求項1に記載された発電システムにおいて、前記高温側流体と前記低温側流体との間に放熱のための放熱流体域(14)を構成していることを特徴とする発電システム。
【請求項4】
請求項1に記載された発電システムにおいて、前記熱電変換素子はゼーベック素子(9)であることを特徴とする発電システム。
【請求項5】
請求項1に記載された発電システムにおいて、前記保持体(12)は、銅製であることを特徴とする発電システム。
【請求項6】
請求項1に記載された発電システムにおいて、前記隔壁体(15)は断熱性を有するものであることを特徴とする発電システム。
【請求項7】
請求項1に記載された発電システムにおいて、前記高温側流体の流路に高温の温水の流れを堰きとめる隔壁(16)を設けた構成を特徴とする発電システム。
【請求項8】
請求項1に記載された発電システムにおいて、前記第1ヒートパイプは、外周が断熱材(13)で被覆構成されていることを特徴とする発電システム。
【請求項9】
請求項1に記載された発電システムにおいて、前記第1ヒートパイプ(21)及び前記第2ヒートパイプ(22)は、各々重層構成になっていることを特徴とする発電システム。
【請求項10】
請求項1に記載された発電システムにおいて、前記第2ヒートパイプ(32)は、外気側に複数のフィン(33)を有して設けられていることを特徴とする発電システム。
【請求項11】
請求項1に記載された発電システムにおいて、
前記高温側流体と前記低温側流体の中間流路域に地中(40)に埋設する第3ヒートパイプ(41)を設けたことを特徴とする発電システム。
【請求項12】
請求項1に記載された発電システムにおいて、前記第1ヒートパイプ及び前記第2ヒートパイプを含むユニット構成の発電ユニット(1)を多段に直列配置した構成の発電ユニット(42)であることを特徴とする発電システム。
【請求項13】
請求項1に記載された発電システムにおいて、前記第1ヒートパイプ及び前記第2ヒートパイプは、中間部が曲部を有して端部が外方へ張り出し温水に浸る構成のものであることを特徴とする発電システム。
【請求項14】
請求項3に記載された発電システムにおいて、
前記放熱流体域(14)に、前記熱電変換素子を挟持し高温側を前記放熱流体域に浮遊状態で浸し低温側は外気側にフィンを有するヒートシンクで構成される第2発電ユニット(51)を設けたことを特徴とする発電システム。
【請求項15】
請求項3に記載された発電システムにおいて、前記放熱流体域(14)に、前記高温側流体を放熱冷却させる放熱装置(60)を設け、放熱冷却された温水を前記低温側流体とする構成にしたことを特徴とする発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温泉等の排熱エネルギーの温度差を利用して電気エネルギーに変換する発電システムに関する。更に詳しくは、特に温泉等で排出される高温の温泉エネルギーを利用し、熱電変換素子を使用して温泉の温度差で排熱エネルギーを電気エネルギーに変換する発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年環境問題の観点から、自然エネルギーを有効に利用することが求められており、そのための要素技術、装置、システムが種々開発されている。この自然エネルギーの有効利用においては、風力、太陽光等のエネルギーを直接利用する発電ユニットが既に開発され多くの分野で使用され広く実施されている。又、地熱、熱水或いは潮流等を利用した発電ユニットも知られている。
【0003】
又、出力の規模は小さいが、排熱エネルギーを電気エネルギーに変換する装置も開発されている。これら規模の小さい装置には、熱電効果を大きくする熱電変換装置として、トムソン効果を伴うもの、ペルチェ効果を伴うもの、ゼーベック効果を伴うものが知られている。この中で特にゼーベック効果を伴う熱電変換素子を組み込んだ装置が注目されている。ゼーベック効果とは、物体の温度差を電圧に変換させる現象の効果をいう。これは熱エネルギーの高温部と低温部の間にゼーベック素子即ち、p型熱電材料とn型熱電材料を交互に配置して構成される素子に、熱エネルギーの温度差が生じたときに電子が活性化され、n型熱電材料は高温側、p型熱電材料は低温側へ拡散し電流が流れ、電気エネルギーに変換される現象をいう。
【0004】
これにより構成される熱電変換装置は、モータ、ポンプ等の回転稼動部がなく、少量のエネルギーにも対応し熱から直接電気が得られる利点がある。このため特に規模の小さい排熱の利用に効果がある。又、熱交換装置として、ヒートパイプが使用されている場合もあるが、ヒートパイプそのものは公知である。これらゼーベック素子、ヒートパイプは前述のとおり公知の技術であり、又、熱電変換素子の片面にヒートパイプを取り付け一体化させたユニット構成のものも知られている。また高温側に温泉を利用し温度差を生じさせ発電することも知られている。
【0005】
規模の小さい発電ユニットとして公開されている技術は、例えば、ヒートパイプを使用するものではないが、電気絶縁体間にN型半導体とP型半導体を有する電極体が設けられ、一方の電気絶縁体に冷水部が設けられ他方の電気絶縁体に温泉等の温水部が設けられるようにした発電ユニットが知られている(例えば、特許文献1参照)。又、ヒートパイプを使用する例として、ヒートパイプの蒸発部に熱電変換素子を張り合わせ、ヒートパイプの凝縮部を低温流体流路中に配置し、ヒートパイプの蒸発部を加温流体流路中に配置し発電する発電ユニットが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
更に、熱電モジュールの低温側が銅製の冷却板と基端が冷却板に挿入され、先端が外方へ突出した低温側のヒートパイプの先端部に冷却フィンを設けた構成の発電ユニットが知られている(例えば特許文献3参照)。更に、温度調整の可能な熱電モジュールを温泉等に設置し発電させる発電ユニットも知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−34273号公報
【特許文献2】特開平11−225491号公報
【特許文献3】特開2010−147236号公報
【特許文献4】特開2007−305993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上記載した従来の装置は、自然エネルギーや排熱を利用する技術として提案されているものであるが、ほとんどは設置する装置にコストを要し、かつ発電効率も悪く、まだ改善の余地があるものである。特に、規模の小さい発電でよい場合、例えば必要とする電力が家屋周辺への電気供給のみでよい場合、或いは災害時の緊急を要する場合の臨時的な電気供給等の場合に使用する発電ユニットは、大きい設備を必要とせず低コストでメンテナンスが容易で安全なものが望まれている。
【0009】
例えば、従来の温泉熱を利用する温度差発電では、温水と冷水をそれぞれパイプに流し込み、複数のゼーベック素子を温水パイプと冷水パイプ間に挟んで装着しているものがある。この構成は発電量を増やすためにはゼーベック素子の接触表面積を大きくするためにパイプの長さを長くするなどで、発電ユニットが比較的大きくなる傾向があった。又パイプ方式では、実行温度差が実際の温度差の6割程度しか利用されていないことが実証され熱の有効利用の面では不十分である。
【0010】
更に、前述の特許技術においてのヒートパイプの使用は限定されたものであり必ずしも有効な活用とはいえない。温泉利用について公開されている内容は単に利用することのみの技術内容であり、利用方法の具体的構成について提案されているものはない。特に小規模の発電ユニットとしては、企業レベルでなく個人レベルにおいても容易に設置できる装置であることが理想である。
【0011】
特に、温泉地においては、源泉の汲み上げられた直後の温泉温度が100℃前後であり、入浴のための温度としては高温の場合が多い。実情はこれを冷やして40℃前後にして実用に供している。この温度差は大きく、現状は放熱または冷水を加えて適温にしており、温度差に伴う熱利用は本格的には行われていない。熱電変換素子を使用して発電を行うことは非常に有効であり、最近モジュールとして種々その装置は開発されているが、現場において実用に供されているものは少ない。設置するためには、高い設備費を要しない形態で容易に設置できる低コストの発電ユニットが望まれている。
【0012】
本発明はこのような技術背景のもとに創案されたもので、次の目的を達成するものである。本発明の目的は、配管工事等のコストの高い設備を必要とすることなく、低コストで構成される発電システムの提供にある。本発明の他の目的は、特に温泉の排熱、余剰温泉等の自然排熱を適温に下げるまでの排熱等をそのままの形態で利用し、且つメンテナンスを容易にした発電システムの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前記目的を達成するために次の手段をとる。
本発明1の発電システムは、
温度差により熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電変換素子(9)と、
前記熱電変換素子を挟んで張り合わされ、且つ高温側流体(7)に設置される第1ヒートパイプ(10)と、
前記熱電変換素子を挟んで張り合わされ、且つ前記第1ヒートパイプに対峙し低温側流体(8)に設置される第2ヒートパイプ(11)と、
前記熱電変換素子を前記第1ヒートパイプと前記第2ヒートパイプに保持する保持体(12)と、
前記第1ヒートパイプの浸される前記高温側流体と前記第2ヒートパイプの浸される前記低温側流体とを遮断する隔壁体(15)と
からなる発電システムであって、
前記高温側流体(7)と前記低温側流体(8)は、温度の異なる同一温水であり、
前記低温側流体は、前記高温側流体の水位より相対的に低い水位に配置され、自然流で高温側から低温側に流れる流体であることを特徴とする。
【0014】
本発明2の発電システムは、本発明1の発電システムにおいて、前記第2ヒートパイプには外周に複数のフィン(19)を設けた構成のものであることを特徴とする。
【0015】
本発明
3の発電システムは、本発明1の発電システムにおいて、前記高温側流体と
前記低温側流体との間に放熱のための放熱流体域(14)を構成していることを特徴とする。
本発明
4の発電システムは、本発明1において、前記熱電変換素子はゼーベック素子(9)であることを特徴とする。
【0016】
本発明
5の発電システムは、本発明1において、前記保持体(12)は、銅製であることを特徴とする。
本発明
6の発電システムは、本発明1において、前記隔壁体(15)は断熱性を有する構成のものであることを特徴とする。
【0017】
本発明
7の発電システムは、本明発明1において、前記高温側流体の流路に高温の温水の流れを堰きとめる隔壁(16)を設けた構成を特徴とする。
本発明
8の発電システムは、本発明1において、前記第1ヒートパイプは、外周が断熱材(13)で被覆されていることを特徴とする。
【0018】
本発明9の発電システムは、本発明1において、前記第1ヒートパイプ(21)及び
前記第2ヒートパイプ(22)は、各々重層に構成になっていることを特徴とする。
【0019】
本発明
10の発電システムは、本発明1において、前記第2ヒートパイプ(32)は、外気側に複数のフィン(33)を有して設けられていることを特徴とする。
【0020】
本発明11の発電システムは、本発明1において、前記高温側流体と前記低温側流体の中間流路域に地中(40)に埋設する第3ヒートパイプ(41)を設けたことを特徴とする。
本発明12の発電システムは、本発明1において、前記第1ヒートパイプ及び
前記第2ヒートパイプを含むユニット構成の発電ユニット(1)を多段に直列配置した構成の発電ユニット(42)であることを特徴とする。
【0021】
本発明13の発電システムは、本発明1において、前記第1ヒートパイプ及び
前記第2ヒートパイプは、中間部が曲部を有して端部が外方へ張り出し温泉に浸る構成のものであることを特徴とする。
本発明14の発電システムは、本発明3において、前記放熱流体域(14)に、
前記熱電変換素子を挟持し高温側を前記放熱流体域に浮遊状態で浸し、低温側は外気側にフィンを有するヒートシンクで構成される発電ユニット(51)を設けたことを特徴とする。
【0022】
本発明
15の発電システムは、本発明
3において、前記放熱流体域(14)に、前記高温側流体を放熱冷却させる放熱装置(60)を設け、放熱冷却された温泉を前記低温側流体とする構成にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の発電システムは、温泉等で発生する未使用の熱をヒートパイプにより取り出すコンパクトな形態にしたことで、配管工事等のコストの高い設備等を必要とせずに低コストで構成されることとなった。特に、温泉においてはその排熱、余剰温泉等の自然排熱、適温に下げるまでの排熱等をそのままの形態で利用でき、温泉地の旅館、一般家庭でも設置が可能で、しかもメンテナンスの容易な構成のものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の発電システムの原理を示す構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の発電システムを温泉に適用した実施の形態の構成図である。
【
図3】
図3は、本発明の発電システムのを温泉に適用したときの実施の形態の平面で表した説明図である。
【
図5】
図5は、ゼーベック素子とヒートパイプの取り付け構成を示す平面図である。
【
図6】
図6は、ゼーベック素子とヒートパイプの取り付け構成を示す側面図である。
【
図7】
図7は、第2ヒートパイプにフィンを設けた例を示す側面図である。
【
図8】
図8は、2つのヒートパイプの外周に断熱材を被覆させた状態を示す側面図である。
【
図9】
図9は、ヒートパイプの取り付け構成を2列にした場合を示す平面図である。
【
図10】
図10は、ヒートパイプの取り付け構成を2列にした場合を示す側面図である。
【
図11】
図11は、低温側のヒートパイプを外気で冷やす構成を示した場合の側面図である。
【
図12】
図12は、温泉の流路途中の地中に第3ヒートパイプを設置した構成を部分断面図で示す説明図である。
【
図13】
図13は、発電ユニットを複数直列に配置した構成を示す説明図である。
【
図14】
図14は、放冷のための中間域に断熱材で水面を覆い、これに複数の発電ユニットを設置した例である。
【
図15】
図15は、発電ユニットを経て流れる高温の温泉と低温の温泉の中間に放熱装置を設けた例を、模式的に断面で示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明のディップ型ヒートパイプ温度差発電ユニット1の基本的な構成図である。本発明におけるディップ型とは、装置の一部であるヒートパイプ2、3を温水4と冷水5に浸けるだけで、熱電変換素子6により、熱エネルギーを電気変換する温度差発電ユニットをいう。
図2に温泉に適用した本実施の形態におけるディップ型ヒートパイプ温度差発電ユニット(以下「発電ユニット1」という)の構成図を示す。高温熱媒体の温水7と低温熱媒体の冷水8を温泉とし、熱電変換素子をゼーベック素子9とし、これを2つのヒートパイプ10,11で挟む構成の発電ユニット1を温泉に浸して発電する発電システムとしたものである。
【0026】
発電ユニット1は、ゼーベック素子9と、高温側ヒートパイプである第1ヒートパイプ10と低温側ヒートパイプである第2ヒートパイプ11とを、保持体12で挟み結合したものである。またこの発電ユニット1は外周を、即ち2つのヒートパイプ10,11外周を断熱材13で被覆し熱の発散を防止している。この断熱材13は発電ユニット1の保護の機能も有している。
【0027】
先ず、基本的な内容を説明する。ゼーベック効果とは、前述のように異種の導体に温度差ΔTを与え接触させたときに、導体の両端に電位差ΔVが生じる現象をいう。金属の場合では、熱拡散により電子が低温側に、金属イオンが高温側に移動する。イオンと電子がある程度移動すると、その間に電界が発生する。熱拡散による力と電子が電界から受ける力とが釣り合ったとき、電荷の移動が停止し電位差が生じる。
発電ユニット1において、ゼーベック素子一枚当たりの発電量Pは、
P=V
2/4Ri=S
2ΔT
2/4Ri (1)
で表される。
【0028】
Vはゼーベック素子9の起電圧、Sはゼーベック係数、Riはゼーベック素子の内部抵抗である。ゼーベック素子9の起電圧Vはゼーベック係数Sと温度差ΔTに比例する。即ち発電量Pは温度差の2乗に比例する。従って、発電量Pは温度差を高めると大きくなることは自明である。本実施例を温泉に適用したのは、例えば次の事例に基づいている。
【0029】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構による成果報告書「温排水パイプに装着可能な熱電発電モジュール研究の可能性調査」(平成20年3月)によると、草津温泉の高温源95度、低温源10度であるにも関わらず従来の構成の発電ユニットでの実行温度差は50度ということであり、温度低下が大きい。この温度低下は、50/85=0.6であり、実際の温度差に対し6割しか利用していないことを意味する。熱電発電モジュールの発電効率、及び発電容量を大きくするには、この実行温度差をいかに大きくするかが課題となる。
【0030】
本発明は実際の温度差に近づけるようにするもので、特にヒートパイプの構成を特徴とする発電ユニットとしたものである。この構成で、実際の温度差を適用すると、発電量Pは温度差の2乗に比例することから、発電性能は理論値が従来比で略3倍に向上することになる。次に、
図2に基づく発電ユニット1の具体的な構成について説明する。尚、ゼーベック素子9は公知の熱電変換素子であるので、詳細の構造、機能の説明は省略する。
図3は発電ユニット1を含むシステムを平面的に表した説明図である。
【0031】
図4は、
図3のA−A断面図である。これらの図に示したシステムは、温泉に適用した形態で示している。温泉は、一般的には温度が季節、時間を問わず常に一定で、且つ絶えず流出している熱媒体であるので、安定した電力供給が可能である。高温の温泉7は供給口Xから取り込まれ、発電ユニット1を介して矢印のように循環して流れ、冷却された低温の温泉8となり排出口Yから排出される。この流れている温泉流路の中間域14は池となっていて温泉の放熱のための池、又は貯水池となっている。又、この中間域14は池としているが、高温の温泉7が発電ユニット1を通過し、低温の温泉8となって再び発電ユニット1を通過するまでの全ての領域に亘っている領域でもある。
【0032】
この中間域14を通して放熱されることで、高温の温泉7は低温の温泉8となる。又、高温の温泉7と低温の温泉8との間には、遮断壁15が設けられている。この遮断壁15はコンクリート製(又は断熱材)であるが断熱構造となっていて、高温の温泉7と低温の温泉8とが混合することを防止し遮断している。又、高温の温泉7の流域には、発電ユニット1が設置されている近傍の流路を横切って堰となる隔壁16が設けられている。高温の温泉7は流れ量が多くなると、この隔壁16から溢れて流れることになる。
【0033】
この堰16の上部は、発電ユニット1のヒートパイプ下部が常に一定位置で温泉に浸れるように高さが設定されている。このため、この堰16を設けることにより、高温の温泉7の水平位置は一定であるので、高温の温泉7の供給量の多少に関わらず、安定した温度を保つことができる。低温の温泉の排出口Y側にも堰17が設けられていて、低温の温泉8も一定量の流量を超えると、この堰17の上部からオーバーフローして排出される。なお、堰16及び17を中央にV字状の切り欠きが形成されている直角三角堰を用いると、流量が多少可変しても、水位の高さを自動的に一定にすることができる。
【0034】
この結果、低温の温泉8の温度も安定状態を保つことができる。発電ユニット1は高温の温泉7の供給口X側近傍に、且つ冷却された低温の温泉8の排出口Y側近傍に設置されている。高温の温泉7は、供給口Xの上部から断熱材が巻かれた管等により高温の温泉7域に供給される。又、冷却された低温の温泉8は、前述のように堰17を構成した排出口Yからあふれる状態で排出される。発電ユニット1は、高温の温泉7の最も高温とする部位で、且つ低温の温泉8の最も低温とする部位に設置されている。
【0035】
発電ユニット1は、ゼーベック素子9を2つのヒートパイプ10、11で挟んで固定した構成になっていて、この2つのヒートパイプ10、11の各々の一方の端部10a、11aがゼーベック素子9側に設置され、他方の端部10b,11bが温泉に浸る構成になっている。ゼーベック素子9は、銅製の保持体12を介して2つのヒートパイプ10、11に各々接続されている。即ち、第1ヒートパイプ10は中間部が屈曲形状で外方に開き、上部はゼーベック素子9に相対し取り付けられ、第1ヒートパイプ10の下部10bは高温の温泉7に浸っている。
【0036】
他方、第2ヒートパイプ11も同様構成で、上部がゼーベック素子9に相対して取り付けられ、第2ヒートパイプ11の下部は低温の温泉8に浸っている。ゼーベック素子9の下部に前述の遮断壁15が設けられ、温泉を高温側と低温側とに二分している。又、この温泉は高温側から低温側に自然流で流れる構成であり、発電ユニット1の下部に設置した2つのヒートパイプ10、11の浸る温泉の水位は相互に段差を形成している。即ち、この水位は、高温の温泉7の水位が低温の温泉8の水位に対して高く設定される。このため温泉はポンプ等の駆動機構を必要とすることなく流れる。
【0037】
図示していないが、ゼーベック素子9は複数有して構成され、その側面は外部と断熱体を介して保護されていて、表面と裏面が受熱面となっている。又、このゼーベック素子9を含め2つのヒートパイプ10、11の外周は全体に断熱材13(
図4参照)で被覆されており、熱の発散を防止している。
図5、
図6はゼーベック素子9と2つのヒートパイプ10、11の取り付け構成図であり、
図5は平面断面図で
図6はその側面図である。
【0038】
図5及び6に示すようにゼーベック素子9は、この両面に2つのヒートパイプ10、11を保持体12で保持し挟持されている。保持体12は、熱伝導性に優れた銅製で作られており、2つのヒートパイプ10、11の熱を効率的にゼーベック素子9に伝達している。保持体12は、それぞれ分割された2つの挟持部材12a、及び2つの蓋部材12bで構成されている。挟持部材12aの一側面は、ゼーベック素子9に接し、他の側面は、断面形状が半円形の複数の凹部が並列して形成されている。
【0039】
同様に、蓋部材12bの一側面には、断面形状が半円形の複数の凹部が並列して形成されている。挟持部材12aの凹部と蓋部材12bの凹部に、ヒートパイプ10、11の上端10a、11bがそれぞれ挿入され、これらは熱伝導性の高いロウ材によりロウ付けにより固定されている。ただし、このロウ付けは、腐食防止、温泉成分等の異物の侵入防止等から好ましいが、必ず必要なものではない。更に、二つの挟持部材12aの両端部は、ボルト18で締結し一体化させて、ゼーベック素子9に圧着させている。保持体を固定するボルト18は、断熱性のあるものが望ましい。この圧着面には、密着性を向上させるために熱伝導性グリス等を介在させている。第1ヒートパイプ10は、高温の温泉熱をゼーベック素子9側にもたらし(熱フラックス)、第2ヒートパイプ11は、低温の温泉熱をゼーベック素子9にもたらしている(熱フラックス)。
【0040】
これはヒートパイプのもつ蒸発、凝縮の機能によっている。従って、第1ヒートパイプ10及び第2ヒートパイプ11は、ゼーベック素子9の取り付け位置が熱媒体の位置と離れていても、これらのヒートパイプを使用することにより、温泉熱を直接ゼーベック素子9に大量の熱を効率的に伝達することが可能な要素である。ゼーベック素子9において、このヒートパイプでもたらされる温泉熱の温度差を直接電圧に変換する。
【0041】
温泉の高温側と低温側は、断熱材である遮断壁15によって遮断されているので、高温の温泉7と低温の温泉8とは混合することなく各々の温度は維持される。このような構成にすることで、発電ユニット1の設置が容易なシステムとすることができる。結果的に少量の熱エネルギーであっても、ヒートパイプの使用で効率よく電気に変換でき必要とする電力量が得られる。このシステムのメンテナンスは、発電ユニット1に駆動源等の稼動部がないので、定期的にシステム周辺を清掃するのみでよい。特に、外部に露出しているヒートパイプ部分の清掃を集中的に施せばよい。この清掃は専門的なものではなく容易な作業である。
【0042】
[他の実施の形態]
これまで本発明の基本的な実施の形態の説明を行ったが、次に他の実施の形態について説明する。
図7に示すものは部分断面図であるが、冷却側である第2ヒートパイプ11に複数のフィン19を設けた例である。フィン19を設けることにより、ヒートパイプの凝縮、蒸発の機能を促進させ、第2ヒートパイプ11を効果的に低温化させることができる。
図8に示すものは、2つのヒートパイプの外周に隙間無く断熱材13を密着させ被覆した構成を示している。
【0043】
発電ユニット1全体を単なるカバー程度でなく完全に断熱材を施す構成にすることにより、熱を一層発散させず保持させることができる。この断熱材13を施す方法は、例えば建築関係で行っている方法であってもよい。即ち、発電ユニット1の形状は、凹凸部が多く複雑になるので、断熱材13をガン等で吹き付ける方法により、隙間まで満遍なく断熱材を付着形成する方法であってもよい。二点鎖線はカバーを示す。
【0044】
図9は、ヒートパイプを複数列で重層にした場合の発電ユニットのゼーベック素子9とヒートパイプの取り付け構成20を部分的に示す平面断面図で、
図10は同構成の側面図である。この構造は、ヒートパイプを単列に配置した構成に比し、前述したものと同様に熱をより移動させるための構造として効果的である。2つのヒートパイプ構成を各々2列にし、第1ヒートパイプ21、第2ヒートパイプ22とし、ゼーベック素子9を二つの保持体23で挟み、この保持体23をボルト24で各々締結した構成の側面図である。
【0045】
1個の保持体23は、一つの挟持部材23a、及び二つの蓋部材23bで構成されている。挟持部材23aの両側面には、断面形状が半円形の複数の凹部が並列して形成されている。また、同様に、二つの蓋部材23bの一側面にも断面形状が半円形の複数の凹部が並列して形成されている。2列の第1ヒートパイプ21の上端は、挟持部材23a及び蓋部材23bの凹部に挿入され、挟まれて固定される。このとき、第1ヒートパイプ21、挟持部材23a及び蓋部材23bとは、ボルト18で相互に固定されているが、ロウ付けを併用したものが熱伝達効率の向上、及び接合表面の劣化防止の観点から好ましい。
【0046】
同様の固定構造で、2列の第1ヒートパイプ22の上端は、一つの挟持部材23a及び2個の蓋部材23bの凹部に挿入され、挟まれて固定されている。二つの保持体23の挟持部材23aは、ボルト24で相互に連結されて、ゼーベック素子9を挟む。なお、ヒートパイプの配列は、3列以上を配列したものであってもよい。
図11に示すものは、高温側ヒートパイプのみ温泉に浸し、低温側ヒートパイプを温泉に浸さず外気で空冷させる構成の発電ユニット30の例である。
【0047】
この場合の低温側の熱媒体は外気となり、この部分は前述の場合と異なる例である。この場合は、ゼーベック素子9の取り付け位置を温泉の水位と平行にする。これにより高温側の第1ヒートパイプ31の上部31aの中心線は、ゼーベック素子9の面と平行になるが、端部31bは折り曲げた形状で下方向に延在し、下部の高温の温泉7に浸る。第1ヒートパイプ31の端部31bの中心線は、ゼーベック素子9の面に垂直方向である。同様に、低温側の第2ヒートパイプ32の下部32aの中心線は、ゼーベック素子9の面と平行になる。第2ヒートパイプ32の上部32bは、折り曲げられた形状で上方に直状、即ちゼーベック素子9の面と垂直方向に張り出している。
【0048】
図5で示したものと同様に、この第2ヒートパイプ32の外周に複数のフィン33を設ける。第1ヒートパイプ31、第2ヒートパイプ32の各々の端部31a,32aは、保持体34により結合される。又、ゼーベック9を挟んだ部位の第1ヒートパイプ31と第2ヒートパイプ32との間には、前述の遮断壁に相当する断熱材である仕切板35を配置し、高温の温泉の熱が第2ヒートパイプ32側に影響を及ぼさないようにする。この例は、外気の温度が低温の温泉熱より低い温度で維持される場合に効果的である。尚、第2ヒートパイプ32とフィン33の設置形状は、図の構成のような水平に限定されることはなく、向きが異なる方向の形状であってもよい。
【0049】
図12は、循環する温泉の流路途中の地中40に第3ヒートパイプ41を埋め込んだものである。地中40の低温域と温泉とで熱交換を行い、高温の温泉7の温度を下げるようにした構成例である。地中40の温度は温泉熱より低い温度で一定であるので、特に夏の気温が高い地域に設置すると温度差が大きいので効果的である。
図13は、発電ユニット1を1つのユニット単位とし、複数直列に配置した構成の発電ユニット42である。
【0050】
高温の温泉流域には前述同様に各ユニット毎に温泉が滞留できるように複数の堰43を設ける。これにより、供給口Xから供給された高温の温泉7は、多段で滞留しながら温度を一定に保ち流れることになる。高温の温泉7域を流れた温泉は、前述のとおり中間域14を経て低温の温泉となり排出口Yから排出される。なお、高温の温泉7を流れる上下の温度を均一にするために、堰43から流れる温泉7の流れを堰43の上部、又は下部から交互に流れるように堰43の上下位置を配置したものが良い。これにより、滞留によって生じる温泉7の低温化を防ぐことができる。
【0051】
図11に示した発電ユニット30は、高温側ヒートパイプのみを温泉に浸し、低温側ヒートパイプを温泉に浸さず外気で空冷させるものである。
図14に示すものは、この発電ユニット30の他の使用方法を示したものである。本例の発電ユニット51は、水面に断熱材50を浮かべて、この断熱材50に複数の発電ユニット30を設置した例である。即ち、
図3に示した温泉熱を利用した発電システムにおいて、冷却のための池のような中間域14に設置するものであり、この中間域14を断熱効果のある断熱材50で水面を覆う。この断熱材50に前述のように複数の発電ユニット30を設置して浮遊状態にし、温泉水が空気で放熱冷却されると共に、この発電ユニット30でも同時に発電を行うものである。この方法は、上流で発電した後の湯であるので温泉の温度は低下しているので発電効率は落ちるが、発電ユニット1を通過した温泉であっても温泉の温度は外気より高いので、温泉水の冷却と共に、外気との間で発電を行うことができる。
【0052】
冬期においては、温泉熱の変動に比し大気温度が低いので、その温度差は大きい。中間域14の温泉熱は大気に比べると高いので、この中間域14の温泉も放熱のみならず有効に発電エネルギーとして利用できる。又、発電ユニット51は浮遊させる構成になっているので温泉水位の高さ方向の変動に対応できる。従って、発電ユニット1に加わる形で、2系列の発電ユニット1,51を設ける本例の発電システムにすることにより、安定的により多くの発電力が得られる。複数ユニットを設置することでその効果は大きくなる。
【0053】
図15は、発電ユニット1を経て流れる高温の温泉61と低温の温泉62の中間に放熱装置60を設けた例を模式的に断面で示した説明図である。この例の場合は、高温の温泉61と低温の温泉62との間で、流れの高低差がある場合に有効である。即ち、この高低差のある落差部分に放熱装置60を設け、高温の温泉61をこの放熱装置60を通過させ放熱させて低温の温泉62とするものである。この発電ユニット1は、設置する敷地が狭いときに最適である。
【0054】
この放熱装置60は、例えば大気に露出する波状の板63のようなもので構成され、高温の温泉61をこの板63の表面に矢印で示すように自由落下で流れる構成としたものである。大気は温泉より温度は低いので、温泉は板63を通過する過程で大気によって放熱冷却される。冷却された温泉は矢印で示すように低温の温泉62として放流される。波状にした板63は表面積が大きいので冷却効果は大きい。
【0055】
この例の場合は低温の温泉62側のゼーベック素子9に接続するヒートパイプ64が長くなるので、このヒートパイプ64周囲に断熱材65を取り付けて熱放散を防いでいる。又、高温の温泉61と低温の温泉62との間には、前述同様に温泉熱が伝播しないように断熱性の遮断壁66を設けられている。このような構成にすることで、高温の温泉温度と低温の温泉温度の差を大きくすることができ、発電の高効率化を促進することができる。
【0056】
以上他の実施の形態について、主に発電ユニットの構成について説明したが、発電ユニット以外のシステム構成については、前述の説明の内容に準じて構成され、本発明のシステムとしている。又、低温側は、低温の温泉として説明したが、低温側の熱媒体は河川あるいは地下水からの流水を引き込んだ構成のものであってもよい。この場合は、安定的に冷水が得られることが必要で、設置場所が限定される条件はあるが、同様の熱電効果が得られる。
【0057】
以上の実施の形態において、主に低温側のヒートパイプにフィンを設けた例を説明した。しかしながら、高温側のヒートパイプにフィンを設けたものであっても良い。ただし、低温側のヒートパイプ、又は高温側のヒートパイプであっても、流体の流れを悪くするようなフィンの配置は熱移動を妨げるので好ましくなく、可能な限り流体の流れを妨げる構造は好ましくはない。以上、本発明の実施の形態について種々説明したが、本発明はこの形態に限定されることはなく、本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内での変更が可能なことはいうまでもない。本システムは、温泉以外に例えば車両等の排熱や家庭で生じる排熱等を熱媒体として適用できることはいうまでもない。
【実施例】
【0058】
卓上の実験例として次のような結果を得た。
温泉地:温水
ゼーベック素子:4cm×4cm 1枚(内部抵抗1.67Ω)
温度差:温水98℃、冷水5℃
ヒートパイプ:材質は銅、直径8mm、長さ250mm、流体は蒸留水、5本
発生電力:5.14w
【符号の説明】
【0059】
1,30…発電ユニット
7…高温の温泉
8…低温の温泉
9…ゼーベック素子
10…第1ヒートパイプ
11…第2ヒートパイプ
12…保持体
13…断熱材
14…中間域
15…遮断壁
16、17…堰